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▶ 池田食研株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】塩味増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220712BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20220712BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220712BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/40
A23L2/00 B
A23L2/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018127867
(22)【出願日】2018-06-18
(65)【公開番号】P2019216697
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-259058(JP,A)
【文献】特開平07-285820(JP,A)
【文献】特開2015-127320(JP,A)
【文献】米国特許第05948460(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
塩化ナトリウムと請求項1~4の何れか1項に記載の塩味増強剤とを含む、減塩用代用塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味増強剤及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は、塩味を付与する調味料として種々の飲食物に用いられているが、高血圧症等の関係上、摂取量の低減が求められている。一方で、食塩を減らした場合、塩味が薄くなることで食事の美味しさが損なわれ、味付けとして満足感が得にくいため、実質的に食塩を減らしつつ、塩味は落とさない素材が求められていた。
【0003】
これまでに各種素材による塩味増強剤が開発されており、例えば、コショウ、ショウガ、クローブ及びシナモンの各香辛料抽出物の混合物を特定の割合で含有することを特徴とする塩味増強剤(特許文献1)や、サンショウの超臨界又は亜臨界二酸化炭素抽出物及び溶媒抽出物から選ばれるサンショウ抽出物並びにフタライド類を有効成分として含有する塩味含有飲食品の塩味増強剤(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5872187号公報
【文献】特許第5733737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、食塩含有量以上に塩味を感じさせることができ、実質的に食塩を減らすことができる素材として、塩味増強効果を有し、安価で汎用性の高い、塩味増強剤を提供するものである。さらに、塩味増強剤を含む飲食物を提供し、減塩用代用塩を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、ポリゴジアールが塩味増強効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]ポリゴジアールを有効成分とする、塩味増強剤。
[2]ポリゴジアールを含む乳化物を含有する、[1]記載の塩味増強剤。
[3]水溶性高分子を含有する、[1]又は[2]に記載の塩味増強剤。
[4]食塩1gに対し、ポリゴジアールを0.1μg~50μg用いることを特徴とする、[1]~[3]の何れかに記載の塩味増強剤。
[5][1]~[4]の何れかに記載の塩味増強剤を含む、飲食物。
[6]塩化ナトリウムと[1]~[4]の何れかに記載の塩味増強剤とを含む、減塩用代用塩。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩味増強剤は、塩味増強効果を有し、食塩含有量以上の塩味を感じさせることができるため、実質的に食塩を減らしつつ、飲食物の塩味は落とさない素材として、飲食物中の食塩を減らすことが可能になった。また、安価で汎用性が高く、安全で、さらに味や風味への影響がほとんどないため、広く飲食物への利用が可能である。さらに該塩味増強剤を用いることで、安く、簡便に減塩用代用塩を製造することができる。該塩味増強剤及び減塩用代用塩を用いることで、飲食物中の実質的な食塩量を減らしつつ、塩味は落とさないため、食事の美味しさが損なわれることなく、減塩しても満足感が得られる味付けが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塩味増強剤は、ポリゴジアールを有効成分として含有する。本発明に用いるポリゴジアールは、特に限定されないが、タスマニアペッパー(Tasmannia lanceolata)、ヤナギタデ(Persicaria hydropiper)、ホロピト(Pseudowintera colorata)等の葉等から抽出することにより得られ、その他のポリゴジアールを含む植物から抽出してもよい。抽出は、ポリゴジアールが抽出できれば特に限定されず、常法により抽出することができ、精製してもよく、ポリゴジアールを含有する市販の抽出物を利用できる。
【0010】
本発明の塩味増強剤は、ポリゴジアールを有効成分として含んでいればよいが、ポリゴジアールを乳化させた乳化物として含有するのが好ましく、ポリゴジアール、油脂及び乳化剤を乳化処理した乳化物を含有するのがより好ましい。
【0011】
油脂は、食用であれば特に限定されず、大豆油、ゴマ油、落花生油、トウモロコシ油、菜種油、米油、ヤシ油、パーム油等の植物性油脂、豚脂、鶏油、牛脂、魚油、バター等の動物性油脂、硬化油等が例示でき、二種類以上の油を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
乳化剤は、乳化作用を有していれば特に限定されないが、水溶性高分子が好ましく、平均分子量1万以上の水溶性高分子がより好ましく、平均分子量5万以上がさらに好ましく、例えば、アラビアガム、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム等の多糖類等が例示でき、2種類以上の乳化剤を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
乳化処理は、一般的な乳化方法で行うことができ、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機、ホモミキサー、ホモディスパー等の乳化装置を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。また、乳化処理時に流動性があれば特に限定されないが、乳化処理前に加熱工程を含むのが好ましく、例えば40~100℃、50~80℃等の加熱が例示できる。
【0014】
本発明の塩味増強剤は、塩味を有する各種飲食物に添加して使用することができる。飲食物は特に制限されないが、例えばハンバーグ、シチュー等の調理加工食品類、醤油、味噌、だし、ソース等の調味料、昆布茶、トマトジュース、野菜ジュース等の飲料等が例示できる。飲食物への該塩味増強剤の添加量としては、塩味増強効果を示せれば特に限定されないが、飲食物中の食塩1gに対し、ポリゴジアールを0.1μg~80μg用いるのが好ましく、より好ましくは0.5μg~50μg、さらに好ましくは1.0μg~20μg用いるのが好ましい。各種飲食物に添加することで、食塩含有量以上の塩味を感じることができるため、飲食物中の食塩を減らすことが可能になる。
【0015】
また、食塩と該塩味増強剤とを混合することで、減塩用代用塩を製造することができる。食塩1gに対し、ポリゴジアールを0.1μg~50μg用いるのが好ましく、より好ましくは0.5μg~30μg、さらに好ましくは1.0μg~20μg用いるのが好ましい。該減塩用代用塩を通常の食塩に全量又は一部代用することで、飲食物中の食塩の量を減らしつつ、塩味は落とさないため、食事の美味しさが損なわれることなく、減塩しても満足感が得られる味付けが可能になる。
【0016】
本発明の塩味増強剤及び減塩用代用塩は、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥若しくは凍結乾燥、又はそれらの組み合わせ等により、濃縮品や乾燥品とすることができる。
【実施例
【0017】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0018】
(ポリゴジアール濃度の検討)
[試験例1]
水道水225gにアラビアガム(インスタントガムAA、Nexira社製)60gを加えて70℃で撹拌溶解させ、予めタスマニアマウンテンペッパー(CANA株式会社製、ポリゴジアール濃度:16%(w/w))3gと食用油脂(サンクリスタル(登録商標)、日清オイリオグループ株式会社製)12gとを90℃で加熱溶解した混合物を投入した後、高圧ホモジナイザー(LAB-1000、SMT株式会社製)を用いて70℃で乳化処理(40MPa、2Pass)することでポリゴジアール含有乳化物290g(ポリゴジアール濃度:1,600ppm)を得た。
【0019】
水道水67.5gに食塩22.5gと前記ポリゴジアール含有乳化物0.005(実施例1-1)、0.05g(実施例1-2)、0.1g(実施例1-3)、0.5g(実施例1-4)又は5g(比較例1)とを加えて70℃で撹拌溶解させ、スプレードライヤー(ADL311、ヤマト科学株式会社製)を用いて噴霧乾燥することで、ポリゴジアール含有食塩粉末各20g(実施品1-1~1-4、及び比較品1)を得た。得られた各食塩粉末中の食塩1gに対するポリゴジアールの量(μg)及び食塩粉末中のポリゴジアール濃度(ppm)を表1に示した。
【0020】
[比較例2]
水道水225gにアラビアガム(インスタントガムAA)60gを加えて70℃で撹拌溶解させ、次いで、食用油脂(サンクリスタル(登録商標))15gを投入した後、高圧ホモジナイザー(LAB-1000)を用いて70℃で乳化処理(40MPa、2Pass)することで、乳化物290gを得た。
【0021】
水道水67.5gに食塩22.5gと前記乳化物0.5gとを加えて70℃で撹拌溶解させ、スプレードライヤー(ADL311)を用いて噴霧乾燥することで、食塩粉末20g(比較品2)を得た。
【0022】
[評価試験1]
実施品1-1~1-4、比較品1及び2を試料として、習熟した4名のパネラーにより、塩味強度及び辛味の官能評価を行い、結果を表1に示した。塩味強度の評価は、比較品2と比較して、相対的に感じる塩味強度を三段階で評価し、塩味強度が「同等」であるものを1、「強い」ものを2、「極めて強い」ものを3として、4名の平均値を算出した。辛味は、辛味の有無で評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
評価試験1より、実施品1-1~1-4は何れも塩味強度が強くなると共に、ポリゴジアール由来の辛味が無かったのに対し、比較品1は塩味強度は強くなっていたが、ポリゴジアール由来の辛味が有ることが分かった。
【0025】
よって、食塩1gに対し、ポリゴジアールを0.1μg以上添加することで塩味増強効果がみられるが、ポリゴジアール添加量が多くなり過ぎると辛味が感じられ、塩味増強効果も低下するため、食塩1gに対し、ポリゴジアールが0.1~80μg程度が好ましいことが分かった。