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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】打具のグリップのフィッティング方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20220712BHJP
   A63B 69/36 20060101ALI20220712BHJP
   A63B 60/42 20150101ALI20220712BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20220712BHJP
【FI】
A63B53/00 B
A63B69/36 541P
A63B69/36 541W
A63B60/42
A63B102:32
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2017175235
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2019050864
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑斗
【審査官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-023690(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132885(WO,A1)
【文献】特開2009-226216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 51/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング方法であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
を含み、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記打具における回転中心を算出するステップ
を含む、
フィッティング方法。
【請求項2】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング方法であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
を含み、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときに前記グリップを把持する把持力の強さを算出するステップを含む、
フィッティング方法。
【請求項3】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング方法であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
を含み、
前記計測データを取得するステップは、
前記計測機器に含まれる第1計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップと、
前記計測機器に含まれる前記第1計測機器とは別の第2計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップと
を含み、
前記第1計測データと前記第2計測データとは、同じスイング動作に対する前記打具の挙動を計測したデータであり、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記第1計測データに基づいて、前記プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って、前記打具の変形を解析するステップと、
前記打具の変形の解析に基づいて、前記打具のスイング中の所定のタイミングにおける前記打具に含まれる所定の部位の挙動を第1結果値として導出するステップと、
前記第2計測データに基づいて、前記所定のタイミングにおける、前記所定の部位の挙動を第2結果値として導出するステップと、
前記第1結果値が前記第2結果値に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップとを含む、
フィッティング方法。
【請求項4】
前記適正グリップ属性及び前記適正グリップ属性に合致するグリップの少なくとも一方を、前記プレイヤーに提案するステップ
をさらに含む、
請求項1から3のいずれかに記載のフィッティング方法。
【請求項5】
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記打具における回転中心を算出するステップ
を含む、
請求項2又は3に記載のフィッティング方法。
【請求項6】
前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記グリップの把持位置を決定するステップ
をさらに含み、
前記適正グリップ属性を決定するステップは、
前記回転中心の位置と前記把持位置との離間距離を決定し、前記離間距離に基づいて、前記適正グリップ属性を決定するステップ
である、請求項1又は5に記載のフィッティング方法。
【請求項7】
前記回転中心を算出するステップは、
前記計測データに含まれるデータであって、前記プレイヤーがワッグル動作を行ったときのデータ、及び、前記プレイヤーが前記打具に並進運動を与えず、回転運動のみを与えることを意図して前記打具を操作したときのデータの少なくとも一方のデータに基づいて、前記打具において動きが最小化される位置を前記回転中心として算出するステップを含む、
請求項1又は5又は6に記載のフィッティング方法。
【請求項8】
前記把持力の強さを算出するステップは、
前記計測データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを算出するステップである、
請求項2に記載のフィッティング方法。
【請求項9】
前記計測データを取得するステップは、
前記計測機器に含まれる第1計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップと、
前記計測機器に含まれる前記第1計測機器とは別の第2計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップと
を含み、
前記第1計測データと前記第2計測データとは、同じスイング動作に対する前記打具の挙動を計測したデータであり、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記第1計測データに基づいて、前記プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って、前記打具の変形を解析するステップと、
前記打具の変形の解析に基づいて、前記打具のスイング中の所定のタイミングにおける前記打具に含まれる所定の部位の挙動を第1結果値として導出するステップと、
前記第2計測データに基づいて、前記所定のタイミングにおける、前記所定の部位の挙動を第2結果値として導出するステップと、
前記第1結果値が前記第2結果値に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップと
を含む、請求項1又は2に記載のフィッティング方法。
【請求項10】
前記所定の部位の挙動には、前記所定の部位の速度、角度及び進行方向の少なくとも1つが含まれる、
請求項3又は9に記載のフィッティング方法
【請求項11】
前記適正グリップ属性には、前記プレイヤーに適した前記グリップの重量、太さ、硬さ、材質及び長さの少なくとも1つが含まれる、
請求項1から10のいずれかに記載のフィッティング方法。
【請求項12】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項1から11のいずれかに記載のフィッティング方法。
【請求項13】
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに前記グリップの把持方法を提案するステップ
をさらに含む、
請求項1から12のいずれかに記載のフィッティング方法。
【請求項14】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング装置であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定する特性決定部と、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定する属性決定部と
を備え、
前記特性決定部は、前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記打具における回転中心を算出する、
フィッティング装置。
【請求項15】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング装置であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定する特性決定部と、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定する属性決定部と
を備え、
前記特性決定部は、前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときに前記グリップを把持する把持力の強さを算出する、
フィッティング装置。
【請求項16】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング装置であって、
第1計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第1計測データと、前記第1計測機器とは別の第2計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第2計測データとを取得する取得部と、
前記第1計測データ及び前記第2計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定する特性決定部と、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定する属性決定部と
を備え、
前記第1計測データと前記第2計測データとは、同じスイング動作に対する前記打具の挙動を計測したデータであり、
前記特性決定部は、
前記第1計測データに基づいて、前記プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って、前記打具の変形を解析し、
前記打具の変形の解析に基づいて、前記打具のスイング中の所定のタイミングにおける前記打具に含まれる所定の部位の挙動を第1結果値として導出し、
前記第2計測データに基づいて、前記所定のタイミングにおける、前記所定の部位の挙動を第2結果値として導出し、
前記第1結果値が前記第2結果値に整合するように、前記解析パラメータを決定する、フィッティング装置。
【請求項17】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング装置であって、
計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定する特性決定部と、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定する属性決定部と、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに提案すべき前記グリップの把持方法を決定する方法提案部と、
を備える、フィッティング装置。
【請求項18】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティングプログラムであって、
前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記打具における回転中心を算出するステップ
を含む、
フィッティングプログラム。
【請求項19】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティングプログラムであって、
前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときに前記グリップを把持する把持力の強さを算出するステップを含む、
フィッティングプログラム。
【請求項20】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティングプログラムであって、
前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を、計測機器により計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記計測データを取得するステップは、
前記計測機器に含まれる第1計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップと、
前記計測機器に含まれる前記第1計測機器とは別の第2計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップと
を含み、
前記第1計測データと前記第2計測データとは、同じスイング動作に対する前記打具の挙動を計測したデータであり、
前記プレイヤー特性を決定するステップは、
前記第1計測データに基づいて、前記プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って、前記打具の変形を解析するステップと、
前記打具の変形の解析に基づいて、前記打具のスイング中の所定のタイミングにおける前記打具に含まれる所定の部位の挙動を第1結果値として導出するステップと、
前記第2計測データに基づいて、前記所定のタイミングにおける、前記所定の部位の挙動を第2結果値として導出するステップと、
前記第1結果値が前記第2結果値に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップとを含む、
フィッティングプログラム。
【請求項21】
プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティングプログラムであって、
前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップと、
前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに提案すべき前記グリップの把持方法を決定するステップと
をコンピュータに実行させる、
フィッティングプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング方法、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プレイヤーが打具をスイングしたときの打具の挙動を計測した計測データに基づいて、プレイヤーにゴルフクラブをフィッティングする方法が知られている。例えば、特許文献1,2は、ゴルファーに適したシャフトを選択する方法を開示しており、特許文献3は、ゴルファーに適したヘッドを選択する方法を開示しており、特許文献4は、ゴルファーに適したヘッドとシャフトとの組み合わせを選択する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-212862号公報
【文献】特開2013-226375号公報
【文献】特開2012-95850号公報
【文献】特開2010-155074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルフクラブのフィッティングを行うに当たり、これまで主に注目されてきたのは、ゴルファーに適したヘッド及びシャフトを選択することである。これに対し、グリップは、ヘッド及びシャフトに比べて一般に軽量であることもあり、ゴルフクラブのフィッティングにおいて余り考慮されてこなかった。しかし、ゴルフスイングの良否は、グリップの属性にも依存し得る。また、近年、重量、材質、硬さ、太さ、長さ等に関し、多種多様なグリップが開発されており、このような多種多様なグリップの中からプレイヤーが自身に適したグリップを選択することは、困難を極める。かといって、例えば、価格やプレイヤーの好みだけを考慮して闇雲にグリップを選択することは適切でない。やはりグリップを選択するに当たっては、良好なゴルフスイングを得る観点から、プレイヤーが打具をスイングするときの特性(以下、プレイヤー特性ということがある)が考慮されるべきである。
【0005】
本発明は、プレイヤー特性を考慮しながら、プレイヤーに適したグリップを決定することができるフィッティング方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るフィッティング方法は、プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング方法であって、以下のステップを含む。
(1)計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップ。
(3)前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップ。
【0007】
第2観点に係るフィッティング方法は、第1観点に係るフィッティング方法であって、以下のステップをさらに含む。
(4)前記適正グリップ属性及び前記適正グリップ属性に合致するグリップの少なくとも一方を、前記プレイヤーに提案するステップ。
【0008】
第3観点に係るフィッティング方法は、第1観点又は第2観点に係るフィッティング方法であって、上記(2)のステップは、以下のステップを含む。
(2-1)前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記打具における回転中心を算出するステップ。
【0009】
第4観点に係るフィッティング方法は、第3観点に係るフィッティング方法であって、以下のステップをさらに含む。
(5)前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの前記グリップの把持位置を決定するステップ。
また、上記(3)のステップは、以下のステップを含む。
(3-1)前記回転中心の位置と前記把持位置との離間距離を決定し、前記離間距離に基づいて、前記適正グリップ属性を決定するステップ。
【0010】
第5観点に係るフィッティング方法は、第3観点又は第4観点に係るフィッティング方法であって、上記(2-1)のステップは、以下のステップを含む。
(2-1-1)前記計測データに含まれるデータであって、前記プレイヤーがワッグル動作を行ったときのデータ、及び、前記プレイヤーが前記打具に並進運動を与えず、回転運動のみを与えることを意図して前記打具を操作したときのデータの少なくとも一方のデータに基づいて、前記打具において動きが最小化される位置を前記回転中心として算出するステップ。
【0011】
第6観点に係るフィッティング方法は、第1観点から第5観点のいずれかに係るフィッティング方法であって、上記(2)のステップは、以下のステップを含む。
(2-2)前記計測データに基づいて、前記プレイヤー特性として、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときに前記グリップを把持する把持力の強さを算出するステップ。
【0012】
第7観点に係るフィッティング方法は、第6観点に係るフィッティング方法であって、上記(2-2)のステップは、以下のステップを含む。
(2-2-1)前記計測データに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定し、前記所定の周波数成分の大きさに応じて、前記把持力の強さを算出するステップ。
【0013】
第8観点に係るフィッティング方法は、第1観点から第4観点及び第6観点のいずれかに係るフィッティング方法であって、上記(1)のステップは、以下のステップを含む。
(1-1)前記計測機器に含まれる第1計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第1計測データを取得するステップ。
(1-2)前記計測機器に含まれる第2計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した第2計測データを取得するステップ。
また、上記(2)のステップは、以下のステップを含む、
(2-3)前記第1計測データに基づいて、前記プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って、前記打具の変形を解析するステップ。
(2-4)前記第2計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングした結果を表す、前記打具の所定の挙動についての結果値を特定するステップ。
(2-5)前記打具の変形の解析結果が前記結果値に整合するように、前記解析パラメータを決定するステップ。
【0014】
第9観点に係るフィッティング方法は、第8観点に係るフィッティング方法であって、前記所定の挙動には、前記打具に含まれる所定の部位の速度、角度及び進行方向の少なくとも1つが含まれる。
【0015】
第10観点に係るフィッティング方法は、第1観点から第9観点のいずれかに係るフィッティング方法であって、前記適正グリップ属性には、前記プレイヤーに適した前記グリップの重量、太さ、硬さ、材質及び長さの少なくとも1つが含まれる。
【0016】
第11観点に係るフィッティング方法は、第1観点から第10観点のいずれかに係るフィッティング方法であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0017】
第12観点に係るフィッティング方法は、第1観点から第11観点のいずれかに係るフィッティング方法であって、以下のステップをさらに含む。
(6)前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに前記グリップの把持方法を提案するステップ。
【0018】
第13観点に係るフィッティング装置は、プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティング装置であって、取得部と、特性決定部と、属性決定部とを備える。前記取得部は、計測機器を使用して、前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得する。前記特性決定部は、前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定する。前記属性決定部は、前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定する。
【0019】
第14観点に係るフィッティングプログラムは、プレイヤーに打具のグリップをフィッティングするフィッティングプログラムであって、以下のステップをコンピュータに実行させる。
(1)前記プレイヤーが前記打具をスイングしたときの前記打具の挙動を計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記プレイヤーが前記打具をスイングするときの特性であるプレイヤー特性を決定するステップ。
(3)前記プレイヤー特性に基づいて、前記プレイヤーに適した前記グリップの属性である適正グリップ属性を決定するステップ。
【発明の効果】
【0020】
プレイヤー特性を考慮しながら、プレイヤーに適したグリップを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係るフィッティング装置を含むフィッティングシステムの全体構成を示す図。
図2】フィッティングシステムの機能ブロック図。
図3】ゴルフクラブの斜視図。
図4】(A)アドレス状態を示す図。(B)トップ状態を示す図。(C)インパクト状態を示す図。(D)フィニッシュ状態を示す図。
図5】ワッグル動作時のゴルフクラブの運動を説明する図。
図6A】把持力の強いゴルファーによるゴルフスイング時の角速度のグラフ。
図6B】把持力の弱いゴルファーによるゴルフスイング時の角速度のグラフ。
図7A図6Aの角速度の周波数スペクトルのグラフ。
図7B図6Bの角速度の周波数スペクトルのグラフ。
図8A】あるゴルファーにゴルフクラブを意図的に強く把持させてスイングさせた時の角速度の周波数スペクトルのグラフ。
図8B図8Aと同じゴルファーにゴルフクラブを意図的に弱く把持させてスイングさせた時の角速度の周波数スペクトルのグラフ。
図9】第1実施形態に係るフィッティング方法の流れを示すフローチャート。
図10】回転中心に基づく補正前及び補正後の計測データから算出されたグリップエンドの軌跡のグラフ。
図11】第2実施形態に係るフィッティング装置を含むフィッティングシステムの側面図。
図12】フィッティングシステムの正面図。
図13】フィッティングシステムの平面図。
図14】フィッティングシステムの構成を示す機能ブロック図。
図15】ヘッドに取り付けられたマーカーの位置を示す図。
図16】第2実施形態に係るフィッティング方法の流れを示すフローチャート。
図17】有限要素法に従うシャフトの変形の解析モデルを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の幾つかの実施形態に係るフィッティング装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0023】
<1.第1実施形態>
<1-1.フィッティングシステムの概要>
図1及び図2に、第1実施形態に係るフィッティング装置1を含むフィッティングシステム100の全体構成図を示す。フィッティングシステム100は、ゴルファー7にゴルフクラブ5のグリップ51をフィッティングするのを支援するように構成されている。フィッティング装置1は、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングしたときのゴルフクラブ5の挙動を計測した計測データに基づいて、プレイヤー特性を決定する。プレイヤー特性とは、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときの特性である。そして、こうして決定されたプレイヤー特性を考慮して、ゴルファー7に適したグリップ51の属性(以下、適正グリップ属性ということがある)及びこれに合致するグリップ51に関する情報が決定され、これらの情報がユーザに提供される。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファー7自身やそのインストラクター、そのフィッティングを行うフィッター等、フィッティングの結果を必要とする者の総称である。ゴルフクラブ5の挙動の計測は、計測機器2により行われ、計測機器2は、フィッティング装置1とともにフィッティングシステム100を構成する。以下、フィッティングシステム100の各部の構成を説明した後、フィッティングシステム100によるフィッティング方法について説明する。
【0024】
<1-2.各部の詳細>
<1-2-1.計測機器>
本実施形態に係る計測機器2は、慣性センサユニットから構成される(以下、慣性センサユニットにも、参照符号2を付す)。慣性センサユニット2は、図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられており、グリップエンド51aの挙動を計測する。図3に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト52と、シャフト52の一端に設けられたヘッド53と、シャフト52の他端に設けられたグリップ51とから構成される。慣性センサユニット2は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。
【0025】
図2に示すように、本実施形態に係る慣性センサユニット2には、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43が搭載されている。また、慣性センサユニット2には、これらのセンサ41~43から出力される計測データを、通信線17を介してフィッティング装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置40も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置40は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にフィッティング装置1に接続するようにしてもよい。
【0026】
加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43はそれぞれ、xyz局所座標系における加速度、角速度及び地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップエンド51aの加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップエンド51aの角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ43は、グリップエンド51aにおけるx軸、y軸及びz軸方向の地磁気mx,my,mzを計測する。これらの加速度、角速度及び地磁気に関する計測データは、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。
【0027】
xyz局所座標系は、図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース-バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ-ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。xyz局所座標系の原点は、グリップエンド51aである。
【0028】
ゴルフスイングは、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、図4(A)に示すとおり、ヘッド53をボール近くに配置した静止状態を意味し、トップとは、図4(B)に示すとおり、アドレスからゴルフクラブ5をテイクバックし、最もヘッド53が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、図4(C)に示すとおり、トップからゴルフクラブ5が振り下ろされ、ヘッド53がボールと衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、図4(D)に示すとおり、インパクト後、ゴルフクラブ5を前方へ振り抜いた状態を意味する。また、一般に、アドレスの前には、ゴルファー7はワッグル動作を行う。ワッグル動作とは、ゴルファー7がアドレスの位置を決定するために、手71でグリップ51を把持した位置の近傍を中心としてヘッド53を回転させるかの如く、ゴルフクラブ5を左右に揺らす動きを言う(図5参照)。本実施形態の説明では、特に断らない限り、ゴルフスイングにはワッグル動作が含まれるものとする。
【0029】
本実施形態では、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43からの計測データは、通信装置40を介してリアルタイムにフィッティング装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサユニット2内の記憶装置に計測データを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、フィッティング装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0030】
<1-2-2.フィッティング装置>
フィッティング装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。図2に示すとおり、フィッティング装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体30から、或いはインターネット等の通信回線を介して、フィッティングプログラム6を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。フィッティングプログラム6は、計測機器2から送られてくる計測データに基づいて、ゴルファー7に適したグリップ51を選択するのを支援するためのソフトウェアであり、フィッティング装置1に後述する動作を実行させる。
【0031】
フィッティング装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析結果等をユーザに対し表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、フィッティング装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0032】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、フィッティングプログラム6が格納されている他、計測機器2から送られてくる計測データが保存される。また、記憶部13内には、グリップデータベース60が格納されている。グリップデータベース60には、多種類のグリップ51に関する情報が格納されており、より具体的には、グリップ51の識別情報(メーカー及び型番等)に関連付けて、グリップ51の属性を表す属性情報が格納されている。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のフィッティングプログラム6を読み出して実行することにより、仮想的に取得部14a、特性決定部14b、属性決定部14c、フィッティング部14d、方法提案部14e及び表示制御部14fとして動作する。各部14a~14fの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測機器2等の外部のデバイスとの間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0033】
<1-3.グリップのフィッティング方法>
以下、ゴルファー7にグリップ51をフィッティングするフィッティング方法について説明する。本実施形態に係るフィッティング方法では、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときの特性であるプレイヤー特性が考慮される。プレイヤー特性は、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングしたときのゴルフクラブ5の挙動を計測した計測データに基づいて決定される。本実施形態では、プレイヤー特性として、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときのゴルフクラブ5における回転中心C、及びゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときにグリップ51を把持する把持力の強さが算出される。以下では、把持力の強さを算出するアルゴリズムについて先に説明した後、フィッティング方法の流れについて説明する。
【0034】
<1-3-1.把持力の強さを判定するアルゴリズム>
本発明者らは、以下に説明する実験を行い、プレイヤーが打具をスイングしたときの打具の挙動を表す時系列データに基づいて、プレイヤーが打具のグリップを把持する把持力の強さを決定することが可能であるという知見を得た。
【0035】
本実験では、ゴルファーにゴルフスイングを行わせた。このとき、上述したゴルフクラブ5のような、グリップエンドに慣性センサユニットが取り付けられたゴルフクラブが使用された。図6Aに、把持力の強いゴルファー(以下、強力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。また、図6Bに、強力ゴルファーよりも把持力の弱いゴルファー(以下、弱力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。ここでの把持力の強弱は、目視により判断された。図6A及び図6Bの横軸のゼロは、インパクトのタイミングを表している。
【0036】
本発明者らは、強力ゴルファー及び弱力ゴルファーによるゴルフスイング時のゴルフクラブの挙動を表す時系列データを多数蓄積してゆく中で、このようなデータには、ゴルファーの把持力の強弱に応じて特有の波形が出現することを発見した。より具体的には、図6Aに示すように、強力ゴルファーによりスイングされたゴルフクラブの挙動を表す波形は比較的滑らかであるのに対し、弱力ゴルファーによる同様の波形には小刻みの山が観測された。すなわち、弱力ゴルファーの波形には、強力ゴルファーの波形よりも高周波成分が多く含まれるという知見を得た。
【0037】
以上の知見をより正確に確認するべく、周波数分析を行った。図7A及び図7Bは、それぞれ図6A及び図6Bの時系列データをバンドパスフィルタ(5~20Hzの帯域を抽出するもの)に通した後、周波数解析した周波数スペクトルのグラフである。同図によると、弱力ゴルファーの周波数スペクトルには7~10Hz付近にピークが出現するが、強力ゴルファーの周波数スペクトルにはそのようなピークは出現しない。
【0038】
以上の実験から、スイング時のゴルフクラブの挙動を表す時系列データに含まれる周波数成分の大きさは、ゴルフクラブを把持する把持力の強さに応じて変化することが分かった。従って、スイング時のゴルフクラブの挙動を表す時系列データを取得し、これに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定すれば、把持力の強さを判定することができるという知見を得た。これは、ゴルファーの把持力の強さに応じて、打具の振動の特性が変化するからと考えられる。
【0039】
なお、図8A及び図8Bは、同一ゴルファーに意図的に把持力を変化させてゴルフスイングを行わせたときの結果を示しており、図8Aが意図的に強く把持させた場合を、図8Bが意図的に弱く把持させた場合を示している。この実験の場合も、把持力が弱い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、7~10Hz付近に大きなピークが存在するが、把持力が強い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、同様の大きなピークは存在しない。よって、以上の知見の確からしさがさらに確認された。
【0040】
また、図6A及び図6Bに戻ると、主としてインパクト-2秒からインパクト-0.5秒の期間に高周波成分が確認される。この期間は、アドレスからトップまでのバックスイングの期間に相当する。すなわち、バックスイング中のようにゴルフフクラブを振り上げるときは、トップ以後のゴルフクラブを振り下ろすときに比べて、比較的ゆっくりとゴルフクラブが運動しているため、ゴルファーの把持力が小さいことの影響がより顕著に表れるためと考えられる。また、動きが速いときには、把持力が大きくなり易くなるため、ゆっくりの挙動の方が、ゴルファー間の差分が出やすい。よって、打具の動きが比較的ゆっくりとなる期間のデータに注目すれば、より正確な解析が可能になると考えられる。
【0041】
<1-3-2.フィッティング方法の流れ>
グリップ51のフィッティング方法は、図9に示すフローチャートに従って進行する。まず、ステップS1では、ゴルファー7により上述の慣性センサユニット2付きゴルフクラブ5がスイングされ、ゴルファー7が把持しているゴルフクラブ5に回転を含む運動が与えられる。このとき、ゴルフクラブ5の挙動が計測機器2により計測される。より具体的には、慣性センサユニット2により、グリップエンド51aのxyz局所座標系における3軸方向の加速度ax,ay,az、角速度ωx,ωy,ωz及び地磁気mx,my,m zに関する計測データが取得され、通信装置40を介してフィッティング装置1に送信される。一方、フィッティング装置1側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともワッグル動作の期間、及びその後のアドレスからフィニッシュまでの期間の計測データが収集される。
【0042】
続くステップS2では、特性決定部14bが、記憶部13内に格納されている計測データに基づいて、アドレス、トップ及びインパクトの時刻を導出する。なお、以上のような計測データに基づくアドレス、トップ及びインパクトの時刻の算出のアルゴリズムとしては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
ステップS2の後、ステップS11~S14とステップS21~S25とが並列に実行される。ただし、これらのステップS11~S14とステップS21~S25とは、順に実行されてもよく、実行の順序は特に問わない。ステップS11~S14とステップS21~S25とはいずれも、ゴルファー7に適したグリップ51の属性である適正グリップ属性を決定するステップである。ステップS11~S14では、プレイヤー特性としての回転中心Cが算出され、これに基づいてグリップの太さ及び重さに関する適正グリップ属性が決定される。一方、S21~S25では、プレイヤー特性としての把持力の強さが算出され、これに基づいてグリップの材質及び硬さに関する適正グリップ属性が決定される。
【0044】
まず、ステップS11~S14について説明する。ステップS11では、特性決定部14bは、ステップS2により導出されたアドレスの時刻を参照して、記憶部13内に格納されている計測データの中から、アドレスの前に行われるワッグル動作時の計測データ(以下、ワッグルデータという)を抽出する。ワッグルデータは、ゴルファー7がワッグル動作を行っているときにゴルフクラブ5に与えられる運動を表すデータである。
【0045】
ステップS12では、特性決定部14bは、ワッグルデータに基づいて、スイング中のゴルフクラブ5における回転中心Cを算出する。このゴルフクラブ5における回転中心Cの位置は、ゴルファー7に特有であり、プレイヤー特性を表すことになる。以下、図5を参照しつつ、回転中心Cを算出するアルゴリズムについて説明する。
【0046】
ゴルフスイング時、ゴルファー7は手71でグリップ51を把持して、ゴルフクラブ5に回転を含む運動を与える。図5に示すとおり、ワッグル動作時のゴルフクラブ5の運動は、主として回転中心C周りの回転運動となり、並進成分は殆ど発生しない。そのため、ワッグル動作中、ゴルフクラブ5の動きは、回転中心Cにおいて最小化される。従って、本実施形態では、ゴルフクラブ5において動きが最小化される位置、より具体的には、ゴルフクラブ5において加速度の大きさがゼロとなる位置が、回転中心Cの位置として算出される。
【0047】
ここで、xyz局所座標系におけるゴルフクラブ5上の任意の点の座標をdと表す。なお、xyz局所座標系のz軸は、ゴルフクラブ5の長手方向に沿って定義されるため、d=(0,0,dz)と表すことができる。また、dは、xyz局所座標系の原点であるグリップエンド51aに対する相対位置を表しており、そのz成分のdzの大きさは、グリップエンド51aからの距離を表している。このとき、ゴルフクラブ5上の座標dの点の加速度は、以下の式に従って表される。ただし、as=(ax,ay,az)、ωs=(ωx,ωy,ωz)であり、[G]は、xyz局所座標系から慣性座標系への座標変換行列である。また、チルダは、テンソルを表す。
【数1】
【0048】
そして、数1の加速度の大きさが最小化される、すなわち、ゼロとなるのは、以下の式が成り立つときである。
【数2】
【0049】
特性決定部14bは、数2の式に、ワッグルデータに含まれる加速度as及び角速度ωsの値を代入することにより、回転中心Cの位置を表すdを算出する。なお、dは、1つのタイミングにおける加速度as及び角速度ωsのデータセットがあれば算出可能である。しかしながら、本実施形態では、精度を向上させる観点から、ワッグル動作中の複数のタイミングでの加速度as及び角速度ωsのデータセットに対しdを算出し、これらが平均される。或いは、数2の左辺の式をワッグル動作の期間で積分し、これが0となるようなdを算出してもよい。
【0050】
ゴルフスイングは、並進運動及び回転運動が複雑に組み合わされて構成される。本実施形態では、並進運動の影響が小さく、主として回転運動を含む運動時のデータに着目することにより、並進運動及び回転運動を分離し、回転運動の回転中心Cを精度よく導出することができる。
【0051】
図10は、上記アルゴリズムにより回転中心Cが適切に算出できていることを確認するために、本発明者らが実際に行ったシミュレーションにより導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。本シミュレーションでは、ゴルファーに慣性センサユニット付きのゴルフクラブをスイングさせ、グリップエンドにおける加速度as及び角速度ωsの計測データを取得した。そして、上記アルゴリズムに従って、ワッグル動作時の加速度as及び角速度ωsの計測データから回転中心Cを算出し、算出された回転中心Cに基づいて、アドレスからフィニッシュまでの加速度ax,ay,azの計測データを補正した。慣性センサユニットにより計測されるグリップエンドにおける加速度ax,ay,azには、慣性センサユニットの位置が回転中心Cから距離dzだけオフセットしているため、回転中心C周りの回転成分が含まれる。この回転成分は、回転中心C周りの回転に伴って慣性センサユニットの位置に発生する角速度及び角加速度の影響による加速度である。そこで、回転中心Cに基づいてこの回転成分(数2の左辺の第2項)を算出し、これをasから除去することにより、グリップエンドにおける補正後の加速度as’=(ax’,ay’,az’)のデータを算出した。
【数3】
【0052】
図10に示すゴルフスイング中のグリップエンドの軌跡は、xyz局所座標系での加速度as,as’の時系列データを慣性座標系での値に変換した後、変換後の加速度の時系列データを2回積分することにより算出した。図10中の「補正前」のグラフは、回転中心Cに基づく加速度asの補正を行わずに、加速度as及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフであり、「補正後」のグラフは、回転中心Cに基づく加速度asの補正を行い、補正後の加速度as’及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。なお、補正後のグラフを算出するに当たり、回転中心Cを計算したところ、dz=19.15cmとなった。これらのグラフを比較すると分かるように、補正前のグラフはギザギザしており、同グラフには角速度及び角加速度によるものと思われるノイズが確認されるが、補正後のグラフからはこのようなノイズが除去されていることが分かる。よって、この結果からは、上記アルゴリズムにより回転中心Cが適切に算出できていることが確認された。
【0053】
続くステップS13では、属性決定部14cが、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときのグリップ51の把持位置を決定する。本実施形態では、ユーザに、目視によりステップS1で計測されたゴルフスイング時のグリップ51の実際の把持位置を確認させ、これを入力部12を介して入力させる。属性決定部14cは、表示部11上に適当な画面を表示させ、この画面上でユーザからグリップ51の把持位置の入力を受け付け、この入力に基づいて把持位置を決定する。なお、実際の把持位置の決定の方法はこれに限られず、例えば、グリップ51内に感圧センサを組み込んでおき、感圧センサの出力値から実際の把持位置を決定してもよい。別の例を挙げると、ゴルファー7によるスイングの様子をカメラにより撮影し、カメラから得られる画像データに基づいて実際の把持位置を決定してもよい。
【0054】
続くステップS14では、属性決定部14cは、ステップS12の回転中心Cの位置とステップS13の実際の把持位置との離間距離を決定し、この離間距離に基づいて、グリップ51の太さ及び重さに関する適正グリップ属性を決定する。具体的には、回転中心Cの位置と実際の把持位置とが近い場合には、ゴルファー7は、手首の回転主体のスイングをしていると考えられる。従って、スイング中に手首を返しやすいタイプのゴルファー7であると判断されるため、そのようなゴルファー7には、太く、重いグリップ51が適していると言える。一方、回転中心Cの位置と実際の把持位置とが遠い場合には、ゴルファー7は、手首を余り使わずに、身体全体でスイングをしていると考えられる。従って、スイング中に手首を返しにくいタイプのゴルファー7であると判断されるため、そのようなゴルファー7には、細く、軽いグリップ51が適していると言える。
【0055】
以上より、ステップS14では、属性決定部14cは、回転中心Cの位置と実際の把持位置との離間距離が所定値よりも小さいかどうかを判断し、所定値よりも小さいと判断された場合には、太さに関する適正グリップ属性を「太い」と決定し、重さに関する適正グリップ属性を「重い」と決定する。一方、離間距離が所定値よりも大きいと判断された場合には、太さに関する適正グリップ属性を「細い」と決定し、重さに関する適正グリップ属性を「軽い」と決定する。なお、適正グリップ属性は、このように定性的な値で表されるのではなく、定量的な値(値の範囲を含む)で表すこともできる。また、適正グリップ属性は、2段階に限らず、例えば、「大」「中」「小」のように、3段階以上の値で表すこともできる。
【0056】
次に、ステップS21~S25について説明する。ステップS21では、特性決定部14bは、記憶部13内に格納されている計測データ(本実施形態では、ωzの計測データ)に、所定の周波数成分のみを通過させるバンドパスフィルタを適用する。ここでいう所定の周波数成分とは、ゴルファー7の把持力の強さに関する特徴が顕著に出現する所定の周波数帯域における波の成分であり、本実施形態では、把持力が弱い場合の特徴が顕著に現れる5~20Hzの帯域における波の成分である。なお、参考のため、図6Bには、5~20Hzの周波数成分を通過させるバンドパスフィルタの適用後の波形が破線で示されている。
【0057】
続くステップS22では、特性決定部14bは、ステップS21のバンドパスフィルタの通過後の計測データ(本実施形態では、ωzの計測データ)から、バックスイング時のゴルフクラブ5(より正確には、グリップエンド51a)の挙動を表す時系列データを抽出する。上述した実験の結果から分かるように、ゴルファー7の把持力の弱い場合には、バックスイング時の時系列データに高周波成分の波形が顕著に出現する。従って、ステップS22においてバックスイング時の時系列データを切り出すことにより、以後の分析において把持力の強さをより正確に判定することができる。なお、バックスイングとは、アドレスからトップまでの動きを言うが、バックスイング時の時系列データとしては、アドレスの少し前又は少し後からトップの少し前又は少し後までの時系列データが抽出されてもよい。なお、ステップS21とステップS22の実行順を反対にする、すなわち、バックスイング時の計測データを抽出した後、バンドパスフィルタに通すこともできる。
【0058】
続くステップS23では、特性決定部14bは、ステップS22で抽出された時系列データを周波数解析する。より具体的には、ステップS22で抽出された時系列データを高速フーリエ変換し、周波数スペクトルを導出する。そして、この周波数スペクトルを積分することにより、ステップS22で抽出された時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさDを特定する。なお、ステップS21を経ていることにより、ここでの積分値は、ステップS21でいう所定の周波数帯域における波の成分の大きさを表す値となる。
【0059】
続くステップS24では、特性決定部14bは、ステップS23で特定された所定の周波数成分の大きさDに応じて、ゴルファー7の把持力の強さを算出する。より具体的には、ステップS23でいう所定の周波数帯域は、把持力の強弱の差が顕著に現れる傾向にある7~10Hzを含むため、大きさD(積分値)は、把持力の強弱を的確に表すことができる。従って、特性決定部14bは、所定の周波数成分の大きさDを所定の閾値と比較し、Dが所定の閾値以下であれば、把持力を「強い」と決定し、所定の閾値よりも大きければ、把持力を「弱い」と決定する。ここで使用される閾値は、多数の実験を通して予め定められ、記憶部13内に格納されているものとする。なお、把持力の強さは、このように定性的な値で表されるのではなく、定量的な値(値の範囲を含む)で表すこともできる。また、把持力の強さは、2段階ではなく、例えば、「レベル1」「レベル2」「レベル3」のように、3段階以上の値で表すこともできる。
【0060】
続くステップS25では、属性決定部14cは、ステップS24で決定された把持力の強さに基づいて、グリップ51の硬さ及び材質に関する適正グリップ属性を決定する。具体的には、グリップ51を強く握っているということは、ゴルファー7はグリップ51が手から滑りそうに感じている可能性が高く、そのようなゴルファー7には、柔らかく、摩擦係数が高くて滑りにくいグリップ51が適していると言える。このようなグリップ51の例としては、NR(天然ゴム)やEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)を多く含む材質のものが挙げられる。一方、グリップ51を弱く握っているということは、ゴルファー7はグリップ51を柔らかいと感じており、場合によっては自身の把持力が弱いことに気が付いていない可能性が高い。よって、そのようなゴルファー7には、特に練習用のゴルフクラブ5の場合には、ゴルファー7がグリップ51を強く握るように、硬く、摩擦係数が低くて滑り易いグリップ51が適していると言える。このようなグリップ51の例としては、NBR(ニトリルゴム)を多く含む材質のものが挙げられる。
【0061】
以上より、ステップS25では、属性決定部14cは、ステップS24で決定された把持力が強いと判断される場合には、硬さに関する適正グリップ属性を「柔」と決定し、材質に関する適正グリップ属性を「滑りにくい材質」「NR」「EPDM」等と決定する。一方、把持力が弱いと判断される場合には、硬さに関する適正グリップ属性を「硬」と決定し、材質に関する適正グリップ属性を「滑り易い材質」「NBR」等と決定する。なお、適正グリップ属性は、定量的な値(値の範囲を含む)で表すこともできるし、例えば、「レベル1」「レベル2」「レベル3」のように、3段階以上の値で表すことができる。
【0062】
ステップS14,S25が終了すると、ステップS3が実行される。ステップS3では、フィッティング部14dは、グリップデータベース60を参照し、ステップS14,S25で決定された適正グリップ属性に合致するグリップ51を決定する。より具体的には、フィッティング部14dは、適正グリップ属性と、グリップデータベース60内に格納されているグリップ51の属性情報とを照合し、両者が一致するグリップ51に関する情報(識別情報を含む)を抽出する。上記のとおり、本実施形態では、適正グリップ属性は、複数の項目(太さ、重量、硬さ、材質)に関し決定されているが、ここでいう「一致する」場合とは、好ましくは、全項目について属性の値が一致する場合を意味する。しかしながら、少なくとも一部の項目について属性の値が一致するグリップ51に関する情報を抽出するように構成することもできる。また、属性の値が完全に同一でなくとも、近いものどうし(例えば、「レベル1」と「レベル2」、「レベル2」と「レベル3」等)については、一致すると判断することもできる。
【0063】
続くステップS4では、方法提案部14eは、プレイヤー特性に基づいて、ゴルファー7に提案すべきグリップ51の把持方法を決定する。本実施形態では、方法提案部14eは、ステップS12の回転中心Cの位置とステップS13の実際の把持位置との関係が問題のある所定の関係を満たす場合(例えば、回転中心Cが実際の把持位置から離れすぎている場合)には、提案すべき把持方法として、これが改善されるような把持位置を指示する情報(例えば、現在よりもXXcmだけグリップエンド51a側を把持する、現在よりもYYcmだけヘッド53側を把持する等)を決定する。また、方法提案部14eは、ステップS23の所定の周波数成分の大きさDに応じて、把持力の強さが所定の問題のある条件を満たすと判断される場合(例えば、把持力が強すぎる、又は弱すぎる場合)、提案すべき把持方法として、これが改善されるような把持力の強さを指示する情報(例えば、現在よりも少し弱く握るようにする、現在よりも少し強く握るようにする等)を決定する。なお、所定の周波数成分の大きさDは、プレイヤー特性である把持力の強さを表すため、この大きさDも、プレイヤー特性であると言える。
【0064】
続くステップS5では、表示制御部14fは、以上のフィッティングの結果を表示部11上に表示する。本実施形態では、フィッティングの結果として、ステップS14,S25で決定された適正グリップ属性、及びステップS3で決定されたこれに合致するグリップ51に関する情報(識別情報を含む)が表示される。また、ステップS4で決定されたグリップ51の把持方法も表示される。その他、参考情報として、ステップS12で決定された回転中心Cの位置、ステップS14で決定された回転中心Cの位置と実際の把持位置との離間距離、ステップS24で決定された把持力の強さ等も表示される。一方、ユーザは、これらの情報を参考にして、ゴルファー7に適したグリップ51を選択することができる。
【0065】
<2.第2実施形態>
<2-1.フィッティングシステムの概要>
図11図14に、第2実施形態に係るフィッティング装置101を含むフィッティングシステム200の全体構成図を示す。フィッティングシステム200は、第1実施形態に係るフィッティングシステム100と多くの点で共通するため、ここでは、同じ要素には同じ参照符号を付して、説明を省略する。以下では、両実施形態の相違点を中心として説明を行う。
【0066】
フィッティング装置101も、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングしたときの計測データに基づいてプレイヤー特性を決定し、プレイヤー特性に基づいて適正グリップ属性及びこれに合致するグリップ51に関する情報を決定する。ただし、第1実施形態と異なり、ゴルフクラブ5の挙動は、第1計測機器MD1及び第2計測機器MD2により計測される。第1計測機器MD1及び第2計測機器MD2は、フィッティング装置101とともにフィッティングシステム200を構成する。
【0067】
また、第2実施形態でも、プレイヤー特性として、スイング中のゴルフクラブ5における回転中心C、及びゴルファー7がグリップ51を把持する把持力の強さが算出される。ただし、算出のアルゴリズムは、第1実施形態と異なる。具体的には、ゴルフクラブ5の特にシャフト52の部分は、スイング中に変形する性質を有している。フィッティング装置101は、第1計測機器MD1により計測される計測データ(第1計測データ)に基づいて、スイング中のゴルフクラブ5のシャフト52の変形を解析する。このとき、シャフト52の変形は、プレイヤー特性を解析パラメータとするモデルに従って解析される。また、フィッティング装置101は、第2計測機器MD2により計測される計測データ(第2計測データ)に基づいて、スイングの結果を表す、ゴルフクラブ5の所定の挙動についての結果値を特定する。ここでいう所定の挙動とは、例えば、ゴルフクラブ5に含まれる所定の部位(本実施形態では、ヘッド53)の位置、速度、角度及び進行方向等である。続いて、第1計測データに基づくシャフト52の変形の解析結果が、第2計測データに基づくゴルフクラブ5の所定の挙動についての結果値に整合するように、上述の解析パラメータであるプレイヤー特性が最適化により決定される。以下、第1計測機器MD1及び第2計測機器MD2の構成について説明した後、本実施形態に係るフィッティング方法の流れについて説明する。
【0068】
<2-2.第1計測機器>
第1計測機器MD1は、第1実施形態と同様の慣性センサユニット2と、2台構成の距離画像センサ102A,102Bとから構成される。距離画像センサ102A,102Bは、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングする様子を二次元画像として撮影するとともに、被写体までの距離を測定する測距機能を有するカメラである。従って、距離画像センサ102A,102Bは、二次元画像とともに、深度画像を出力することができる。なお、ここでいう二次元画像とは、撮影空間の像をカメラの光軸に直交する平面内へ投影した画像である。また、深度画像とは、カメラの光軸方向の被写体の奥行きのデータを、二次元画像と略同じ撮像範囲内の画素に割り当てた画像である。本実施形態では、図11に示すとおり、1台目の距離画像センサ102Aは、ゴルフスイングをゴルファー7の正面側から撮影すべく、ゴルファー7の前方に設置される。一方、2台目の距離画像センサ102Bは、ゴルフスイングを距離画像センサ102Aとは異なる方向から撮影すべく、具体的には、ゴルファー7を右側から撮影すべく、ゴルファー7の右側に設置される。
【0069】
図14に示すとおり、両距離画像センサ102A,102Bは同様の構成を有する。よって、以下では、簡単のため、距離画像センサ102Aの構成について説明するが、距離画像センサ102Bについても同様であるものとする。なお、フィッティング装置101は、複数台のコンピュータから構成されていてもよく、例えば、距離画像センサ102A,102Bが異なるコンピュータに接続されていてもよい。
【0070】
距離画像センサ102Aは、二次元画像を赤外線画像(以下、IR画像という)として撮影する。また、深度画像は、赤外線を用いたタイムオブフライト方式やドットパターン投影方式等の方法により得られる。従って、図11に示すように、距離画像センサ102Aは、赤外線を前方に向けて発光するIR発光部21と、IR発光部21から照射され、被写体に反射して戻ってきた赤外線を受光するIR受光部22とを有する。本実施形態では、IR発光部21及びIR受光部22は、同じ筐体20内に収容され、筐体20の前方に配置されている。
【0071】
距離画像センサ102Aには、距離画像センサ102Aの動作全体を制御するCPU23の他、撮影されたIR画像及び深度画像の画像データ(第1計測データ)を少なくとも一時的に記憶するメモリ24が搭載されている。距離画像センサ102Aの動作を制御する制御プログラムは、メモリ24内に格納されている。また、距離画像センサ102Aには、通信部25も内蔵されており、当該通信部25は、撮影された画像データを、有線又は無線の通信線17を介して、フィッティング装置101等の外部のデバイスへと出力することができる。本実施形態では、CPU23及びメモリ24も、筐体20内に収納されている。なお、フィッティング装置101への画像データの受け渡しは、必ずしも通信部25を介して行う必要はない。例えば、メモリ24が着脱式であれば、これをフィッティング装置101のリーダーに挿入する等して、フィッティング装置101で画像データを読み出すことができる。
【0072】
本実施形態では、以上のとおり、距離画像センサ102Aにより赤外線撮影が行われる。従って、図示されないが、距離画像センサ102A,102Bによるグリップエンド51aの挙動の計測が容易となるように、グリップエンド51aには、赤外線を効率的に反射する反射シートがマーカーとして貼付されている。また、シャフト52にも、同様の赤外線の反射シートがマーカーとして貼付されている。
【0073】
<2-3.第2計測機器>
第2計測機器MD2の詳細な構成は、図12及び図13に示される。なお、図11では、第2計測機器MD2が省略されているが、反対に図12及び図13では、第1計測機器MD1が省略されている。第2計測機器MD2は、複数台のカメラ3A~3Hを備える高性能撮影システムであり、これらのカメラ3A~3Hにより、様々な方向からスイング中のヘッド53の挙動を計測した画像データ(第2計測データ)が撮影される。カメラ3A~3Hは、ストロボ式である。従って、第2計測機器MD2は、カメラ3A~3Hの撮影範囲を照射するストロボ4A~4Hをさらに備えるとともに、カメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hの作動のタイミングを決定するトリガー装置8も備える。
【0074】
カメラ3A~3Hは、インパクト付近でのヘッド53の近傍の様子を撮影する。すなわち、インパクト付近のヘッド53の挙動が、複数台のカメラ3A~3Hにより複数の方向から撮影される。そのため、複数台のカメラ3A~3Hから出力される複数系列の画像データにより、ヘッド53の挙動が三次元的に捉えられる。フィッティング装置101は、これらの画像データを画像処理することにより、ゴルフスイングの結果としてのヘッド53の挙動を高精度に算出することができる。本実施形態では、ヘッド53の挙動として、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、ブロー角及び軌道角が算出される。
【0075】
カメラ3A~3Hは、天井に吊り下げられる等、ゴルファー7の頭上に配置される。このうち、カメラ3A~3Dは、ゴルファー7の直上近傍に配置され、カメラ3E~3Hは、ゴルファー7を基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。カメラ3A~3Hは、有線又は無線の通信線18を介してフィッティング装置101に接続されている。カメラ3A~3Hにより撮影された画像データは、フィッティング装置101にリアルタイムに送信される。なお、カメラ3A~3Hに内蔵される記憶装置内に画像データを保存しておき、後に記憶装置からフィッティング装置101に受け渡すこともできる。
【0076】
ストロボ4A~4Hは、カメラ3A~3Hの撮影を補助する発光装置である。ストロボ4A~4Hも、天井に吊り下げられる等、ゴルファー7の頭上に配置される。このうち、ストロボ4A~4Eは、ゴルファー7の直上近傍に配置され、ストロボ4F~4Hは、ゴルファー7を基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。ストロボ4A~4Hは、カメラ3A~3Hに同期して作動する。
【0077】
図15に示すように、ヘッド53には、複数のマーカーM1~M5が取り付けられている。マーカーM1~M5は、ストロボ4A~4Hから照射される光を効率的に反射し、カメラ3A~3HにおいてマーカーM1~M5の位置、ひいてはヘッド53の挙動を捉え易くするために貼付される。マーカーM1~M4は、ヘッド53においてボール55を打撃するフェース面53aに取り付けられており、好ましくは、フェース面53aでのボール55の打撃の妨げとならないよう、フェース面53a上における中央付近の領域を避けて貼付される。マーカーM5は、ヘッド53のトップ面においてフェース面53aの上縁中央付近に沿って細長く延びるように取り付けられている。なお、ここでのマーカーM1~M5の貼付位置は、例示である。
【0078】
トリガー装置8は、複数組のタイミングセンサと、タイミング制御装置9とを備える。より具体的には、投光器6A~6Cは、それぞれ受光器7A~7Cと組を為し、タイミングセンサを構成している。投光器6A~6C及び受光器7A~7Cは、ゴルファー7の足元付近に配置される。タイミング制御装置9は、投光器6A~6C、受光器7A~7C、カメラ3A~3H、ストロボ4A~4H及びフィッティング装置101に接続されている。
【0079】
組を構成する投光器及び受光器は、X軸に概ね平行な直線上に配置されており、互いに対向している(図13参照)。スイング中、投光器6A~6Cは、それぞれ常時受光器7A~7Cに向けて光を照射しており、受光器7A~7Cがこれを受光する。しかしながら、ゴルフクラブ5が投光器6A~6Cと受光器7A~7Cとの間を通過するタイミングでは、投光器6A~6Cからの光がゴルフクラブ5により遮断されるため、受光器7A~7Cはこれを受光することができない。受光器7A~7Cは各々、このタイミングを検出し、このタイミングに基づいて、タイミング制御装置9がカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hを作動させるタイミングを生成する。タイミング制御装置9により生成されたタイミングの信号は、タイミング制御装置9からカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hに送信される。これを受けて、これらのカメラ3A~3H及びストロボ4A~4Hは、撮影及び発光を行う。
【0080】
<2-4.グリップのフィッティング方法>
以下、図16を参照しつつ、第2実施形態に係るグリップ51のフィッティング方法について説明する。ここでも、第1実施形態と同様に、プレイヤー特性が考慮される。
【0081】
まず、ゴルファー7により、上述の慣性センサユニット2付きゴルフクラブ5がスイングされる。ステップS31では、このとき、第1計測機器MD1に含まれる慣性センサユニット2により、ゴルフスイング中の加速度ax,ay,az、角速度ωx,ωy,ωz及び地磁気mx,my,mzのセンサデータ(第1計測データ)が検出される。これらのセンサデータは、慣性センサユニット2の通信装置40を介してフィッティング装置101に送信される。一方、フィッティング装置101側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスの少し前からフィニッシュまでの区間を含む、スイング中の各時刻における時系列のセンサデータが収集される。
【0082】
ステップS32では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第1計測機器MD1に含まれる距離画像センサ102A,102Bにより撮影される。すなわち、距離画像センサ102A,102Bにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第1計測データ)が検出される。ステップS32は、ステップS31と並行して、ステップS31と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、距離画像センサ102A,102Bの通信部25を介してフィッティング装置101に送信される。一方、フィッティング装置101側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスの少し前からフィニッシュまでの区間を含む、スイング中の各時刻での時系列の画像データが収集される。
【0083】
また、ステップS33では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第2計測機器MD2により撮影される。すなわち、カメラ3A~3Hにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第2計測データ)が検出される。ステップS33は、ステップS31,S32と並行して、ステップS31,S32と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、カメラ3A~3Hからフィッティング装置101に送信される。一方、フィッティング装置101側では、取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスの少し前からフィニッシュまでの区間を含む、スイング中の各時刻における時系列の画像データが収集される。
【0084】
続くステップS34~S41では、プレイヤー特性が決定される。ここでいうプレイヤー特性とは、第1実施形態と同様に、スイング中のゴルフクラブ5における回転中心C、及びゴルファー7がグリップ51を把持する把持力の強さである。
【0085】
まず、ステップS34では、特性決定部14bは、スイング中の各時刻における第1計測データを補正する。この補正は、スイング中のゴルフクラブ5における回転中心Cを考慮することにより行われる。具体的には、ステップS34では、特性決定部14bは、特定の回転中心Cの値を設定し、この回転中心Cに基づいて、ステップS31で取得されたセンサデータを補正する。なお、図16に示すとおり、ステップS34~S39は、最終的にゴルファー7に特有の回転中心Cが決定される(ステップS41)まで繰り返し実行され、これにより回転中心Cの最適解が決定される。そのため、ステップS34では、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、回転中心Cの値が適宜選択される。最初のステップS34で設定される回転中心Cの値(初期値)は、補正前のセンサデータから推定されてもよいし、所定の値(回転中心Cがグリップエンド51aに一致することを意味する0とする場合が含まれる)としてもよい。
【0086】
本実施形態においてステップS34の補正の対象となる第1計測データは、スイング中の各時刻における加速度ax,ay,azのセンサデータである。慣性センサユニット2により計測されるグリップエンド51aにおける加速度ax,ay,azには、慣性センサユニット2の位置が回転中心Cから距離dzだけオフセットしているため、回転中心C周りの回転成分が含まれる。この回転成分は、回転中心C周りの回転に伴って慣性センサユニット2の位置に発生する角速度及び角加速度の影響により生じる。特性決定部14bは、数3の式に従って、この回転成分をasから除去することにより、グリップエンド51aにおける補正後の加速度as’のセンサデータを導出する。
【0087】
続くステップS35では、ステップS34で補正された時系列のセンサデータと、ステップS32で取得された時系列の画像データとの時刻合わせが行われる。言い換えると、特性決定部14bが、センサデータ(特に断らない限り、最新の補正後のセンサデータを意味する。以下同様)と画像データとを同期させる。具体的には、まず、特性決定部14bは、センサデータに基づいて、アドレス、トップ及びインパクトの時刻を導出する。これらの時刻の導出方法としては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0088】
続いて、特性決定部14bは、センサデータに基づいて、スイング中の各時刻における姿勢行列Nを導出する。今、姿勢行列Nを以下の式で表す。姿勢行列Nは、xyz局所座標系の値をXYZ慣性座標系の値に変換するための行列である。XYZ慣性座標系は、図11図13に示される3軸直交座標系である。Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファー7の背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボール55の打球地点から目標地点に向かう方向である。
【数4】
【0089】
姿勢行列Nの9つの成分の意味は、以下のとおりである。
成分a:慣性座標系のX軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分b:慣性座標系のY軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分c:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分d:慣性座標系のX軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分e:慣性座標系のY軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分f:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分g:慣性座標系のX軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分h:慣性座標系のY軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分i:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
ここで、ベクトル(a,b,c)は、x軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(d,e,f)は、y軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(g,h,i)は、z軸方向の単位ベクトルを表している。
【0090】
なお、慣性センサユニットから出力されるセンサデータに基づいて、姿勢行列Nを算出する方法としては、様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略する。必要であれば、同出願人らによる特開2016-2429号公報や特開2016-2430号公報等に記載の方法に従うことができる。
【0091】
続いて、特性決定部14bは、距離画像センサ102Aに由来するスイング中の各時刻における画像データ(以下、正面画像データという)を画像処理することにより、各時刻の直線状のシャフト52の像を検出し、時系列のシャフト52の向きの向きを特定する。また、スイング中の各時刻における姿勢行列Nから特定される、z軸の方向を表すベクトル(g,h,i)に基づいて、シャフト52の向きを特定する。そして、特性決定部14bは、センサデータ由来の時系列のシャフト52の向きと、正面画像データ由来の時系列のシャフト52の向きとの一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。
【0092】
続いて、正面画像データと、距離画像センサ102Bにより右側から撮影された画像データ(以下、右側画像データという)との同期が取られる。具体的には、特性決定部14bは、正面画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。同様に、特性決定部14bは、右側画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。
【0093】
続いて、特性決定部14bは、正面画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標と、右側画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標との一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。以上により、正面画像データを介して、右側画像データとセンサデータも時刻合わせされる。
【0094】
続くステップS36では、特性決定部14bが、スイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢を導出する。グリップ51の姿勢は、地面に対して固定されているXYZ慣性座標系の中での上述したxyz局所座標系の向きにより表すことができる。従って、本実施形態では、グリップ51の姿勢として、XYZ慣性座標系をxyz局所座標系に変換するための姿勢行列であるNT(右肩のTは転置行列を表す)が導出される。
【0095】
ステップS35の説明の中で述べたとおり、姿勢行列NTはセンサデータのみからでも算出可能であるが、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、ステップS32で取得された画像データも参照して、姿勢行列NTが算出される。すなわち、ステップS31で取得されたセンサデータも、ステップS32で取得された画像データも、ゴルフクラブ5の同じ動作を捉えたものである。よって、ステップS31のセンサデータ及びステップS32の画像データを用いて、姿勢行列NTを含む所定の目的関数を定義し、これを最小化又は最大化するような最適解として、姿勢行列NTを導出することができる。
【0096】
続くステップS37では、特性決定部14bが、スイング中の各時刻におけるxyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の加速度、並びにxyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の角速度及び角加速度を算出する。具体的には、xyz局所座標系におけるグリップ51の加速度は、センサデータに含まれる加速度の値から重力成分をキャンセルすることにより導出される。xyz局所座標系におけるグリップ51の角速度は、センサデータに含まれる角速度の値に一致する。xyz局所座標系におけるグリップ51の角加速度は、センサデータに含まれる角速度の値を微分することにより算出される。
【0097】
以上のとおり、センサデータのみからでも、xyz局所座標系におけるグリップ51の加速度、角速度及び角加速度の値を算出可能である。ただし、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、姿勢行列NTの場合と同様に、ステップS32で取得された画像データも参照して、グリップ51の加速度、角速度及び角加速度の値が最適化される。
【0098】
続くステップS38では、特性決定部14bは、スイング中の各時刻におけるシャフト52の変形を解析する。本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルは、有限要素法に従うモデルである。グリップ51及びシャフト52は多段円筒梁要素と仮定され、ヘッド53は剛体と仮定される。図17に示すように、グリップ51及びシャフト52は、それぞれ長手方向に沿って複数の微小な要素に分割される。本実施形態では、グリップ51と、シャフト52において最もグリップ51近傍の要素とは、物理領域とされ、残りの領域は、弾性変形領域とされる。
【0099】
また、グリップ51は、ゴルファー7に把持されるが、固定端のように硬く把持されるのではなく、柔軟な手の動きを伴って移動するように把持される。従って、本解析モデルでは、このような柔軟な把持条件を表現するために、図17に示すように、グリップ51をバネモデルでモデル化して、シャフト52の変形が解析される。バネモデルにおいて、以上の把持条件は、グリップ51に対応する要素のバネ定数で表現される。バネ定数は、ゴルファー7がグリップ51を把持する把持力の強さを表すため、本実施形態では、このバネ定数が把持力の強さとして考慮される。また、一般的に、把持力の強さは、スイング期間中において一定ではなく、アドレスからトップまでは比較的小さく、トップ以降のダウンスイング中は比較的大きい。そのため、本バネモデルでは、バネ定数は、アドレスからトップまでは一定値であり、トップからインパクトまでは線形的に上昇するものと仮定される。よって、本バネモデルにおいて、バネ定数は、アドレス時(より詳細には、アドレスからトップまで)のx、y及びz方向の成分kax,kay,kazと、インパクト時のx、y及びz方向の成分kix,kiy,kizとにより表される。バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizは、本解析モデルの解析パラメータとなる。
【0100】
ステップS38では、特性決定部14bは、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを設定し、このバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。なお、上述したとおり、ステップS38は、ゴルファー7の把持力の強さ、すなわちバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの最適解が決定される(ステップS41)まで繰り返し実行される。従って、ステップS38は、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値が適宜選択される。最初のステップS38で設定されるバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値(初期値)は、センサデータから推定されてもよいし、所定の値としてもよい。さらに、特性決定部14bは、グリップ51の挙動を表すパラメータとして、ステップS36,S37で算出されたスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢、並びにxyz局所座標系におけるグリップ51の加速度、角速度及び角加速度を、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。これにより、グリップ51及びシャフト52の各要素の変形量が算出される。
【0101】
なお、本実施形態に係るシャフト52の変形の解析モデルの基本的な考え方は、以下の文献Aにも示されている。従って、本解析モデルは、文献Aを参照することで、より詳細に理解することができる。
文献A:松本賢太,他5名,「クラブヘッドの慣性がシャフト挙動に及ぼす影響」,スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2015講演論文集,B-34(USB memory),2015年10月
【0102】
続くステップS39では、特性決定部14bは、ステップS38で算出されたグリップ51及びシャフト52の各要素の変形量に基づいて、スイングの結果を表すゴルフクラブ5の所定の挙動についての結果値(以下、第1結果値という)を特定する。本実施形態での第1結果値は、ヘッド53の挙動に関するものであり、より具体的には、インパクト直前のヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimである。
【0103】
ステップS39の実行時においては、これまでのステップにより、スイング中の各時刻におけるゴルフクラブ5の各要素の変形量等が導出されている。従って、特性決定部14bは、この情報に基づいて、スイング中の各時刻におけるシャフト52上の最もヘッド53側の要素(以下、最終要素という)の挙動を導出する。そして、この最終要素の挙動、並びにヘッド53の形状のデータから、スイング中の各時刻におけるヘッド53の様々な注目点(ヘッド53の重心を含む)の位置を算出する。ヘッド53の形状のデータとは、例えば、ヘッド53の設計時のCADデータであり、記憶部13内に予め記憶されているものとする。そして、特性決定部14bは、これらの時系列のヘッド53の様々な注目点の位置に基づいて、上述したようなヘッド53の挙動を導出する。
【0104】
また、ステップS34~S39と並行して、ステップS40が実行される。ステップS40では、特性決定部14bは、ステップS33で取得された第2計測機器MD2からの第2計測データに基づいて、ステップS39と同様の、スイングの結果を表すゴルフクラブ5の所定の挙動についての結果値(以下、第2結果値という)を特定する。すなわち、ここでは、第2結果値として、高精度の第2計測機器MD2の計測結果に由来する、インパクト直前のヘッド速度HSMot、フェース角FAMot、ブロー角BAMot及び軌道角PATHMotが特定される。具体的には、ステップS33で取得されたスイング中の各時刻における画像データを画像処理することにより、マーカーM1~M5の像を検出し、検出されたマーカーM1~M5の像の位置及び向きに基づいて、第2結果値が算出される。
【0105】
続くステップS41では、特性決定部14bは、第1結果値及び第2結果値に基づいて、回転中心C及び把持力の強さに関する解析パラメータを決定する。本実施形態では、第1結果値が、第2結果値に一致する又は近付くように解析パラメータを最適化することにより、解析パラメータの最適解が特定される。つまり、高精度の解析性能を有する第2計測機器MD2の計測結果である第2結果値は、極めて真値に近く、第1結果値をこれに一致させる又は近付けることにより、回転中心C及び把持力の強さの最適解を取得することができる。
【0106】
具体的には、特性決定部14bは、以下の目的関数Jを定義し、目的関数Jが最小化されるような回転中心C及び把持力の強さを、それぞれの最適解として決定する。そのために、特性決定部14bは、直前のステップS39により算出された第1結果値と、ステップS40により算出された第2結果値とを以下の式に代入し、これらの値が0に近い所定の範囲内の値に収束する(以下、終了条件)かどうかを判断する。終了条件が満たされない場合には、ステップS34に戻る。一方、終了条件が満たされる場合には、最適化の処理を終了し、最新の回転中心C及び把持力の強さをプレイヤー特性として決定する。
【数5】
【0107】
プレイヤー特性である回転中心C及び把持力の強さが決定された後のステップは、第1実施形態と同様である。すなわち、ステップS13,S14,S25が実行され、適正グリップ属性が決定されるとともに、ステップS3が実行され、適正グリップ属性に合致するグリップ51が決定される。さらにその後、ゴルファー7に提案すべきグリップ51の把持方法が決定され(ステップS4)、様々なフィッティングの結果が出力される(ステップS5)。
【0108】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0109】
<3-1>
第1及び第2実施形態では、ゴルフクラブ5のグリップ51のフィッティングが行われたが、上述のアルゴリズムは、テニスラケットやベースボールバット等、その他のスポーツ用の打具のグリップのフィッティングにも適用することもできるし、非スポーツ用途の打具のグリップのフィッティングにも適用することができる。
<3-2>
計測機器2,MD1により挙動が計測される対象は、グリップエンド51aに限られず、例えば、グリップ51の他の部位であってもよいし、シャフト52であってもよい。
【0110】
<3-3>
第1実施形態では、慣性センサユニット2により、回転中心Cを算出するための計測データ(以下、第1解析データという)が取得された。しかしながら、この例に限られず、例えば、計測機器2を1台又は複数台のカメラ(距離画像センサであってもよい)により構成し、このようなカメラにより打具の挙動を撮影してもよい。この場合、取得部14aは、計測機器2から出力される時系列の画像データ(すなわち、動画データ)を画像処理することにより、第1解析データとして、例えばグリップエンド51aの位置、速度、加速度、角速度、角加速度等のデータを取得することができる。また、慣性センサユニット2とカメラとを組み合わせることにより、第1解析データを取得することもできる。
【0111】
<3-4>
第1実施形態では、第1解析データは、ワッグルデータとされたが、これに限られない。例えば、ゴルファー7にゴルフクラブ5を把持させ、並進運動を与えず、回転運動のみを与えることを意識させながらゴルフクラブをスイングさせる。このときの計測データは、第1解析データとして好ましく使用することができる。
<3-5>
第1実施形態では、慣性センサユニット2により、ゴルファー7の把持力の強さを解析するための計測データ(以下、第2解析データという)が取得された。しかしながら、この例に限られず、例えば、計測機器2を1台又は複数台のカメラ(距離画像センサであってもよい)により構成し、このようなカメラにより打具の挙動を撮影してもよい。この場合、取得部14aは、計測機器2から出力される時系列の画像データ(すなわち、動画データ)を画像処理することにより、第2解析データとして、例えばグリップエンド51aの位置、加速度、角速度等のデータを取得することができる。また、慣性センサユニット2とカメラとを組み合わせることにより、第2解析データを取得することもできる。
【0112】
また、角速度ωzに代えて又は加えて、角速度ωx,ωyや加速度ax,ay,az、地磁気mx,my,mz等のデータを第2解析データとすることもできる。
【0113】
<3-6>
第1実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数スペクトルを所定の周波数帯域において積分することにより特定された。しかしながら、所定の周波数成分の大きさDを、所定の周波数帯におけるスペクトルパワーの最大値としてもよいし、特定の周波数のスペクトルパワーの値としてもよい。
【0114】
また、これに代えて又は加えて、第1実施形態では、第2解析データをバンドパスフィルタに通すことにより、所定の周波数成分の大きさDが特定された。しかしながら、バンドパスフィルタに通すことなく第2解析データを周波数解析した後、その結果から所定の周波数成分の大きさDを特定してもよい。
【0115】
<3-7>
第1実施形態では、所定の周波数成分の大きさDが、周波数解析を行うことにより特定された。しかしながら、注目している所定の周波数成分又は所定の周波数成分以外の成分を通過させるバンドパスフィルタに第2解析データを通した後、これを元の第2解析データの波と比較し、元の波とバンドパスフィルタ通過後の波の変化の度合いを、所定の周波数成分の大きさDとすることもできる。
【0116】
<3-8>
第1及び第2実施形態に係る適正グリップ属性は、グリップ51の重量、太さ、材質及び硬さに関するものであったが、これは例示である。例えば、ゴルファー7に適したグリップ51の長さ等の属性を、適正グリップ属性として決定してもよい。
【0117】
<3-9>
ステップS5において、適正グリップ属性を出力せずに、これに合致するグリップに関する情報のみを出力してもよい。或いは、適正グリップ属性は出力するが、ステップS3を省略し、適正グリップ属性に合致するグリップに関する情報は出力しないようにしてもよい。
【0118】
<3-10>
第1及び第2実施形態に係るフィッティング方法に含まれる各ステップの一部は、フィッティング装置1により実行されるのではなく、人により実行されてもよい。例えば、ステップS13,S14,S24,S25,S3,S4の全部又は一部を人により実行することができる。
<3-11>
第1計測機器MD1及び第2計測機器MD2の上述した構成は例示であり、様々に構成することができる。例えば、第1計測機器MD1は、1台の距離画像センサと慣性センサユニット2のみから構成することもできるし、慣性センサユニット2のみから構成することもできるし、1又は複数台の距離画像センサのみから構成することもできる。
【0119】
また、第2計測機器MD2は、複数台のカメラからなる高性能のモーションキャプチャシステムとすることもできる。ただし、第2計測機器MD2からの第2計測データは、第1計測機器MD1よりも高精度にゴルフクラブ5の挙動を計測できる装置であることが好ましい。
【0120】
<3-12>
ステップS39,S40等で特定されるゴルフクラブ5の所定の挙動は、上述したヘッド速度、フェース角、ブロー角及び軌道角の例に限らず、ヘッド53のその他の様々な挙動が特定されてもよいし、ヘッド53以外の様々な部位の様々な挙動が特定されてもよい。また、プレイヤー特性を決定するために使用される所定の挙動は、複数である必要はなく、1つであってもよい。例えば、第1計測データに基づくヘッド速度のみが第2計測データに基づく同指標に整合するように、プレイヤー特性を決定することができる。
【0121】
<3-13>
上記実施形態では、プレイヤー特性として、回転中心C及び把持力の強さが使用されたが、これらの一方のみを使用することもできる。また、プレイヤー特性として、回転中心Cや把持力の強さの他にも、ゴルファー7がゴルフクラブ5をスイングするときの様々な特性をプレイヤー特性として使用することができる。
【符号の説明】
【0122】
100,200 フィッティングシステム
1,101 フィッティング装置
14a 取得部
14b 特性決定部
14c 属性決定部
14d フィッティング部
14e 方法提案部
14f 表示制御部
5 ゴルフクラブ(打具)
51 グリップ
51a グリップエンド
6 フィッティングプログラム
7 ゴルファー(プレイヤー)
C 回転中心
2 計測機器(慣性センサユニット)
MD1 計測機器
102A,102B 距離画像センサ
MD2 計測機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17