IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

特許7102712光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品
<>
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図1
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図2
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図3
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図4
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図5
  • 特許-光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20220712BHJP
   G02B 6/36 20060101ALI20220712BHJP
   G02B 6/30 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G02B6/12 351
G02B6/36 301
G02B6/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017226521
(22)【出願日】2017-11-27
(65)【公開番号】P2019095683
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】兼田 幹也
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-189525(JP,A)
【文献】特開平11-119042(JP,A)
【文献】特開平08-262245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0286580(US,A1)
【文献】特開2016-102883(JP,A)
【文献】特開2006-091785(JP,A)
【文献】特開2002-006160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
JSTplus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に設けられたパターン状の複数のコア部と、
前記コア部上に設けられた上部クラッド層と、を備えており、
前記コア部中に屈折率が異なる光減衰部を備え、前記コア部は、スリット状の前記光減衰部を複数個含む、光減衰部付き光導波路フィルムであって、
下記の測定条件に従って求められる、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく減衰量比を表すX/Yが、0.55以上0.70以下であり、かつ、減衰量Xが、1.2dB以上9.0dB以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
(測定条件)
社団法人 日本電子回路工業会が規定した「高分子光導波路の試験方法(JPCA-PE02-05-01S-2008)」の4.6.1挿入損失の測定方法に準拠して、第1光源を用いて、850nmの光を50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバAを経由して前記コア部の一端から第1光信号を入力し、前記コア部の他端から前記第1光信号を出力したときの光を50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバBで受光して光の強度を測定し、出力光パワー/入力光パワーの対数から前記第1光信号の減衰量(X)を算出する。
続いて、前記第1光信号の減衰量の算出と同様にして、前記第1光源よりも斜め成分が多い第2光源を用いて、前記光ファイバAを経由して前記コア部の一端から第2光信号を入力し、前記コア部の前記他端から前記第2光信号を出力したときの光を前記光ファイバBで受光して光の強度を測定し、出力光パワー/入力光パワーの対数から前記第2光信号の減衰量(Y)を算出する。
その後、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく上記減衰量比をX/Yから算出する。
なお、前記第1光源は、前記光ファイバAより放射された放射角度が6°の光源とし、前記第2光源は、前記光ファイバAより放射された放射角度が13°の光源とする。
かかる光源の放射角度は、FFP(Far Field Pattern:ファーフィールドパターン)測定装置を用い、ファイバ端面からの出射角度の強度分布を、中心から出射角度拡がり方向(N.A.)に向かって積分した値(Encircled Angular Flux)を取得し、強度分布の積算値が1に対応する出射角度とする。
【請求項2】
請求項1に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記光減衰部は、前記コア部が互いに交差しない非交差領域に形成されている、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
同一のスリット幅を有するスリット状の前記光減衰部において、スリット幅(D)、個数(i)、屈折率(N)としたとき、前記光減衰部における光路長を表すi×D×Nが、1.30mm以上16.40mm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記コア部の長手方向に対して直交する方向における断面視において、前記コア部はテーパー形状を有しており、前記コア部の上端幅をWaとし、前記コア部の下端幅をWbとしたとき、Wa/Wbが1超え1.1以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記光減衰部は、前記コア部の側面に形成された側面クラッド部と同一部材で構成されるか、前記側面クラッド部と同一の屈折率を有する、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記コア部の長手方向に対して長尺状である、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部クラッド層の下面側に設けられた下部基材層と、
前記上部クラッド層の上面側に設けられた上部基材層と、をさらに備えており、
前記下部基材層および前記上部基材層は、ポリイミド層で構成されている、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項8】
請求項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部基材層の膜厚は、前記上部基材層の膜厚と同じである、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項9】
請求項またはに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部基材層の弾性率は、前記上部基材層の弾性率と相違する、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
当該光導波路フィルムの膜厚は、50μm以上300μm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記上部クラッド層および/又は前記下部クラッド層の膜厚は、1μm以上50μm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
【請求項12】
光コネクタが装着した請求項1から11のいずれか1項に記載の光減衰部付き光導波路フィルムを備える、光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光減衰部付き光導波路フィルムおよび光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで減衰器付き光導波路について様々な検討がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、シリカ製の導波路コアの近傍のクラッド部に光吸収性金属層を形成することにより、導波路コアを伝播する光信号を減衰する技術が記載されている(段落0017、図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-509614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討した結果、特許文献1に記載の減衰器付き光導波路においては、減衰量の増大と減衰量のバラツキの低減の両立の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は更に検討したところ、光導波路フィルム中のコア部中に屈折率が異なる光減衰部を形成することにより、コア部を通過する光信号の減衰量が増大することを見出した。しかしながら、屈折率が異なる光減衰部を用いた場合、複数のコア部間において減衰量のバラツキが増大することが判明した。
さらに検討を進めた結果、屈折率が互いに異なる光減衰部とコア部との間の境界部の数を適切に制御することにより、減衰量を増大させつつも、コア部間における減衰量のバラツキを低減できることが見出された。
このような知見に基づいてさらに検討した結果、斜め成分の光が少ない第1光源を用いたときの減衰量をXとし、斜め成分の光が多い第2光源を用いたときの減衰量をYとし、こられの減衰量比であるX/Yを指標として採用することにより、入射光の光路に存在する境界部の数に対して安定的に相関関係を示す値が得られることが分かった。そして、X/Yの下限値を所定値以上とすることにより、減衰量を増大させることができ、X/Yの上限値を所定値以下とすることにより、コア部間における減衰量のバラツキを低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に設けられたパターン状の複数のコア部と、
前記コア部上に設けられた上部クラッド層と、を備えており、
前記コア部中に屈折率が異なる光減衰部を備え、前記コア部は、スリット状の前記光減衰部を複数個含む、光減衰部付き光導波路フィルムであって、
下記の測定条件に従って求められる、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく減衰量比を表すX/Yが、0.55以上0.70以下であり、かつ、減衰量Xが、1.2dB以上9.0dB以下である、光減衰部付き光導波路フィルムが提供される。
(測定条件)
社団法人 日本電子回路工業会が規定した「高分子光導波路の試験方法(JPCA-PE02-05-01S-2008)」の4.6.1挿入損失の測定方法に準拠して、第1光源を用いて、850nmの光を50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバAを経由して前記コア部の一端から第1光信号を入力し、前記コア部の他端から前記第1光信号を出力したときの光を50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバBで受光して光の強度を測定し、出力光パワー/入力光パワーの対数から前記第1光信号の減衰量(X)を算出する。
続いて、前記第1光信号の減衰量の算出と同様にして、前記第1光源よりも斜め成分が多い第2光源を用いて、前記光ファイバAを経由して前記コア部の一端から第2光信号を入力し、前記コア部の前記他端から前記第2光信号を出力したときの光を前記光ファイバBで受光して光の強度を測定し、出力光パワー/入力光パワーの対数から前記第2光信号の減衰量(Y)を算出する。
その後、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく上記減衰量比をX/Yから算出する。
なお、前記第1光源は、前記光ファイバAより放射された放射角度が6°の光源とし、前記第2光源は、前記光ファイバAより放射された放射角度が13°の光源とする。
かかる光源の放射角度は、FFP(Far Field Pattern:ファーフィールドパターン)測定装置を用い、ファイバ端面からの出射角度の強度分布を、中心から出射角度拡がり方向(N.A.)に向かって積分した値(Encircled Angular Flux)を取得し、強度分布の積算値が1に対応する出射角度とする。
【0007】
また本発明によれば、光コネクタが装着した上記光減衰部付き光導波路フィルムを備える、光学部品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減衰量の増大と減衰量のバラツキの低減を実現できる光減衰部付き光導波路フィルムおよびそれを用いた光学部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】光減衰部付き光導波路フィルムを模式的に表す断面図である。
図2図1のA-A箇所で垂直に切断した断面の模式図である。
図3】光減衰部付き光導波路フィルムの減衰量を測定する方法を説明するための図である。
図4】光減衰部の変形例を模式的に示す断面図である。
図5】光減衰部付き光導波路フィルムの変形例を模式的に示す断面図である。
図6】フォトマスクを模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0011】
本実施形態の光減衰部付き光導波路フィルムの概要を説明する。
図1は、光減衰部付き光導波路フィルムを模式的に表す断面図であり、図2は、図1のA-A箇所で垂直に切断した断面の模式図である。図3は、光減衰部付き光導波路フィルムの減衰量を測定する方法を説明するための図である。
【0012】
本実施形態の光減衰部付き光導波路フィルム(以下、単に「光導波路フィルム」と呼称する。)は、下部クラッド層130と、下部クラッド層130上に設けられたパターン状の複数のコア部112と、コア部112上に設けられた上部クラッド層120と、を備えるものである。この光導波路フィルム100は、コア部112中に屈折率が異なる光減衰部200を備えるものである。この光導波路フィルム100における、光の斜め成分が異なる2つの光源を用いた測定方法で測定した減衰量比を表すX/Yは0.55以上0.70以下とすることができる。
【0013】
本発明者の知見によれば、光導波路フィルム100のコア部112中に屈折率が異なる光減衰部200を形成することにより、コア部112を通過する光信号の減衰量が増大することができる。
【0014】
コア部112は、図3に示すように、屈折率nを有する領域1と、屈折率nとは異なる屈折率nを有する領域2(光減衰部200)とを備えることができる。つまり、コア部112は、屈折率が変化する部分(境界部)を含むことができる(領域1と領域2の境界部が「屈折率が変化する部分」に該当する)。なお、以下の説明において、領域1と領域2の境界部を、単に「境界部」とも記載する。
【0015】
コア部112が、屈折率が変化する部分(光減衰部200)を含むことにより、コア部112に入射された光は減衰される。具体的には、コア部112の一端103に入射された光の一部は、境界部で、反射したり、散乱したりする。つまり、入射光の一部は、直進せずに入射方向とは異なる方向に進む。これにより、コア部112の他端105から出力される光の強度は減衰することとなる。
【0016】
「境界部での反射」については、光学の理論に基づき、より定量的に説明することができる。
例えば、光線が屈折率nの物質から屈折率nの物質に垂直入射する場合、その表面反射率Rrefは、理論上、以下の式で与えられる。
ref={(n-n)/(n+n)}
この式によれば、入射光のうち、Rrefに対応する割合は、直進せず、入射とは反対方向に反射される。つまり、伝送される光の強度は、Rrefに対応する割合だけ減衰することとなる。
【0017】
このような光学理論に基づき光路における「境界部」の数を多くすることにより、コア部112中の通過する光の減衰量を増大させる試みを実施した。しかしながら、光の減衰量は増加するものの、一方で複数のコア部112間における減衰量のバラツキが増大することが判明した。
【0018】
このような事情を踏まえて本発明者が鋭意検討した結果、光路に存在する境界部の数を適切に制御することにより、減衰量を増大させつつも、コア部112間における減衰量のバラツキを低減できることが見出された。
【0019】
このような知見に基づいてさらに検討した結果、光の斜め成分が異なる2つの光源の減衰量を比較した減衰量比は、スリット構造やテーパー構造を有する光減衰部200(領域2)とコア部112(領域1)との間の境界部の数に対して安定的に相関関係を示すことが分かった。そして、斜め成分の光が少ない第1光源を用いたときの減衰量をXとし、斜め成分の光が多い第2光源を用いたときの減衰量をYとし、こられの減衰量比であるX/Yを指標にしたとき、X/Yの下限値を指標とすることにより、指標X/Yの下限値を所定値以上とすることにより、コア部112中の入射光の減衰量を増大させつつも、指標X/Yの上限値を所定値以下とすることにより、コア部112間における減衰量のバラツキを低減できることが見出された。
【0020】
光の斜め成分が異なる2つの光源を用いた測定方法は、次の通りである。
まず、第1光源を用いて、コア部112の一端103から第1光信号(信号光300)を入力し、コア部112の他端105から第1光信号を出力したときの第1光信号の減衰量(X)を測定する。続いて、当該第1光源よりも斜め成分が多い第2光源を用いて、コア部112の一端103から第2光信号(信号光310)を入力し、コア部112の他端105から第2光信号を出力したときの第2光信号の減衰量(Y)を算出する。その後、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく上記減衰量比をX/Yから算出する。
【0021】
具体的な減衰量の測定は、図3に示すように、光源を備える光出力部320から信号光300、310(入力光)を出力し、光減衰部200を有するコア部112を通過した後の信号光300、310(出力光)の信号強度を光検出部330で検出する。そして、出力光パワー/入力光パワーの対数から「減衰量(dB)」を算出する。
【0022】
上記の測定方法において、光源として光の斜め成分が異なる2種の光源、すなわち、斜め成分が相対的に少ない第1光源、斜め成分が相対的に多い第2光源を用いる。例えば、所定の放射角を有する第2光源と、第1光源の放射角よりも大きい放射角を有する第2光源を使用できる。それぞれの放射角は適当に選択され得るが、例えば、第2光源の放射角は13°以下であり、第1光源の放射角は6°以下とする。これらの放射角の比が2程度とすることにより、減衰量比を安定的に取得可能である。
【0023】
光源の放射角は、例えば、FFP(Far Field Pattern:ファーフィールドパターン)測定装置を用い、ファイバ端面からの出射角度の強度分布を、中心から出射角度拡がり方向(N.A.)に向かって積分した値(Encircled Angular Flux)を取得する。強度分布の積算値が1に対応する出射角度を、光源の放射角とした。
【0024】
また、コア部112間の減衰量のバラツキの指標として、減衰量(X)の標準偏差を活用できる。減衰量(X)の標準偏差は、例えば、光減衰部200を有する6本のコア部112のそれぞれに、第1光源を用いて減衰量(X)を測定し、その6本の減衰量(X)の標準偏差とする。
【0025】
本実施形態において、減衰量比X/Yの下限値は、例えば、0.55以上であり、好ましくは0.56以上であり、より好ましくは0.57以上である。これにより、光導波路フィルム100の減衰量を増大できる。一方、減衰量比X/Yの上限値は、例えば、0.70以下であり、好ましくは0.69以下であり、より好ましくは0.68以下である。これにより、複数のコア部112間の減衰量のバラツキを抑制できる。
【0026】
本実施形態では、たとえば光導波路フィルム100の構成材料、光導波路フィルム100の作り方等を適切に選択することにより、上記減衰量比X/Yを制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、スリット形状などの光減衰部200の形状、個数、光路長等を調整すること等が、上記減衰量比X/Yを所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0027】
また本実施形態において、上記の第1光源を用いて、コア部112の一端103から光信号(信号光300)を入力し、コア部112の他端105から光信号(信号光300)を出力したときの光信号の減衰量(X)は、例えば、1.2dB以上9.0dB以下であり、好ましくは1.3dB以上であり、さらに好ましくは1.5dB以上である。これにより、減衰機能が十分に発揮する光導波路フィルム100を実現できる。
【0028】
本実施形態によれば、比較的大きな減衰量が得られつつも、その減衰量のバラツキを低減できる光減衰部付き光導波路フィルムを実現することができる。
【0029】
次に、本実施形態の光減衰部付き光導波路フィルム(光導波路フィルム100)を詳細に説明する。
【0030】
光導波路フィルム100は、たとえば樹脂製の光導波路フィルムである。光導波路フィルム100は、複数の樹脂層が積層した構造を有する。たとえば、光導波路フィルム100は板状、すなわちシート状をしており、光導波路フィルム100においてクラッド層(下部クラッド層130)、コア層(コア層110)、クラッド層(上部クラッド層120)が厚さ方向にこの順に積層されている。板状の光導波路フィルム100は、互いに平行な二つの主面(表面14、裏面12)を有する。
本明細書では、光導波路フィルム100の主面以外の周囲の面を「側面」と呼ぶ。光導波路フィルム100の側面は、たとえば主面に略垂直である。
【0031】
本実施形態の光導波路フィルム100は、図1に示すように、下部クラッド層130と、下部クラッド層130上に設けられたコア層110、コア層110上に設けられた上部クラッド層とを備えるものである。コア層110は、短手方向に対して、複数のコア部112と、その両側面に設けられたクラッド部114を有するものである。
【0032】
コア部112中の領域1の屈折率nは、通常、下部クラッド層130、上部クラッド層120およびクラッド部114(側面クラッド部)の屈折率よりも大きいことが好ましい。これにより、コア部112と、下部クラッド層130、上部クラッド層120およびクラッド部114との界面で光が全反射し、光が適切に伝送される。
【0033】
光導波路フィルム100の平面形状は特に限定されず、用途等に応じて設計され得る。
光導波路フィルム100は、図2に示すように、光導波路フィルム100の主面の垂直方向から見たとき、コア層110中に複数のコア部112がパターン状に形成されており、当該コア部112の延在方向、すなわち長手方向に対して長尺状である。長尺状の矩形形状を有する光導波路フィルム100の、一端103および他端105のそれぞれに、光が入出力可能な入出射部として入出射側面(導波路端面101)が形成される。
【0034】
光導波路フィルム100は、図2に示すように、隣接する2つのコア部112の間に、1または2以上の複数のダミーコア部116を備え得る。このダミーコア部116は、図1に示すように、コア部112と同じコア層110の層内に形成される。ダミーコア部116は、コア部112と同一材料で構成され、領域1を有し得る。
【0035】
光導波路フィルム100は、図2、3に示すように、コア部112(屈折率nを有する領域1)中に光減衰部200(屈折率nを有する領域2)を有するものである。光減衰部200は、コア部112中に形成され、ダミーコア部116中には形成されない。
複数のコア部112を有する場合、それぞれの全てに光減衰部200が形成されることが好ましい。それぞれの光減衰部200は、互いに同一または異なってもよい。
【0036】
光減衰部200は、図2に示すように、光導波路フィルム100の主面に対して垂直方向(積層方向)から見たとき、コア部112が互いに交差しない非交差領域に形成される。これにより、コア部112間における減衰量のバラツキを低減できる。
【0037】
光減衰部200は、図3に示すようなスリット構造を備え得る。スリット構造を有する光減衰部200が形成されたコア部112は、スリット状の光減衰部200a~200eを複数個含むものである。スリット状の光減衰部200の個数を適切に制御することにより、光の減衰量を増加させつつも、そのバラツキを低減できる。
【0038】
スリット状の光減衰部200は、スリット幅(D)、個数(i)、屈折率(N)を有するものであり、これら積値(i×D×N)で表される所定の光路長を有するものである。
この光路長(i×D×N)の下限値は、例えば、1.30mm以上であり、好ましくは1.5mm以上であり、より好ましくは2.0mm以上である。これにより、光導波路フィルム100の減衰量を増加できる。一方、光路長(i×D×N)の上限値は、16.40mm以下であり、好ましくは16.0mm以下であり、より好ましくは15.5mm以下である。これにより、コア部112間の減衰量のバラツキを抑制できる。
【0039】
スリット状の光減衰部200における光路長について図3を用いて説明する。
スリット幅(D)は、光減衰部200a~200eのぞれぞれの、長手方向の厚みである。スリット幅(D)は、光路長(i×D×N)の上記数値範囲を満たすように選択されるが、例えば、1μm~20μm、好ましくは5μm~15μmとする(以下、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す)。
スリット幅(D)は、複数の光減衰部(光減衰部200a~200e)の各々において同一でも異なってもよいが、減衰量のバラツキ低減の観点から、同一が好ましい。
【0040】
個数(i)は、光減衰部200の個数(領域1で長手方向が分断された領域2の個数)、であり、スリット数である。図3には、光減衰部200a~200eの5個のスリットが示されているが、これは説明のために模式的に示すものであり、これに限定されるものではない。
個数(i)は、光路長(i×D×N)の上記数値範囲を満たすように選択されるが、例えば、20個~2000個、好ましくは50個~1500個、より好ましくは100個~1000個である。
【0041】
屈折率(N)は、領域2中の屈折率nを意味する。ここで、「屈折率」とは、光導波路フィルム100で入力される光の波長850nmにおける屈折率のことを意味する。
屈折率(N)は、光路長(i×D×N)の上記数値範囲を満たすように選択されるが、例えば、1.3~1.7、好ましくは1.4~1.6である。
【0042】
本実施形態において、コア部112の屈折率nと光減衰部200の屈折率nとの差の絶対値は、典型的には0.01~1、好ましくは0.01~0.5である。これら数値範囲とすることで、十分な光減衰が期待できる。なお、屈折率nと屈折率nの大小関係は、通常、n>nである。
【0043】
言い方を変えると、屈折率nと屈折率nが「異なる」とは、光導波路フィルム100で入力される光の波長において、領域1の屈折率と領域2の屈折率が異なることを意味する。本実施形態の光導波路フィルム100は、典型的には、波長400~1700nmの光において、上記の屈折率の値を満たすように設計することができる。
【0044】
光減衰部200は、図1に示すクラッド部114(側面クラッド部)と同一部材で構成されてもよく、そのクラッド部114と同一の屈折率を有してもよい。すなわち、光減衰部200は、クラッド部114と同じ工程で形成することができる。これにより、光導波路フィルム100の製造安定性を高められる。
【0045】
スリット状の光減衰部200は、図3に示すように、コア部112の長手方向に対して直交する方向に形成されていて、図1のA-A箇所の断面視における断面形状が直方体形状である。スリット状の光減衰部200は、コア部112を通過する光軸OAに対して、図3に示すように直交する直方形状を有することが好ましい。このスリット状の光減衰部200の断面形状は、これに限定されず、台形形状でも、平行四辺形形状でもよい。
【0046】
コア部112は、図1に示すように、コア部112の長手方向に対して直交する方向(短手方向、積層方向)における断面視において、テーパー形状を有し得る。テーパー形状のコア部112の上端幅をWaとし、コア部112の下端幅をWbとしたとき、Wa/Wbは、例えば、1超え1.1以下とすることができる。
【0047】
スリット状の光減衰部200の間に形成されるコア部112の領域1の幅(スリット間隔W)は、例えば、スリット幅(D)に対して2倍~10倍、好ましくは3倍~8倍、より好ましくは4倍~6倍とできる。また、コア部112中のスリット間隔Wは、互いに異なってもよいが、全て同一が好ましい。
【0048】
本実施形態において、光減衰部200は、図3のようなスリット構造の他に、図4(a)のようなテーパー構造202、図4(b)のようなテーパー構造206を有していてもよい。テーパー構造202は、光が入射される一端103から見て、光軸OAに対して傾斜した傾斜領域と、それに連続して形成された非傾斜領域204を有し得る。一方、テーパー構造206は、光軸OAに向かって一部が突出した構造を有し得る。
【0049】
光導波路フィルム100は、長尺状の樹脂フィルムであり、それ自体単独で自立した自立フィルムとなり得る。光導波路フィルム100は、靱性を有しており、曲げた状態でも曲げていない状態でも使用することができる。
【0050】
光導波路フィルム100変形例としては、光導波路フィルム100の主面に垂直な方向から見て、他の部分の横幅よりも幅広な幅広部が他端105に形成され得る。この幅広部の主面の少なくとも1つに、入出射部として溝部が形成される。この溝部は、コア部112を通過する光信号の光路変換を行うミラーとして機能する。
【0051】
他の変形例の光導波路フィルム100は、1つの一端103から他端105に向かって複数に分岐した分岐構造(二叉形状、三つ叉形状等)を有していてもよい。
【0052】
光導波路フィルム100の変形例としては、単層のコア層を有してもよいが、クラッド層を介在させて複数のコア層が積層した構造を有してもよい。
【0053】
本実施形態のコア層110中のコア部112は、公知のコア層形成用樹脂組成物で構成されていてもよい。また、上部クラッド層120、下部クラッド層130は、それぞれ、同種または異種の、公知のクラッド層形成用樹脂組成物で構成されていてもよい。
【0054】
本実施形態の光導波路フィルム100の変形例は、その表面に基材層が形成され得る。具体的には、図5に示すように、光導波路フィルム100は、下部クラッド層130の下面側に設けられた下部基材層150と、上部クラッド層120の上面側に設けられた上部基材層140と、をさらに備えることができる。
【0055】
基材層(上部基材層140、下部基材層150)の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォン等が挙げられる。基材層としては、これらの構成材料からなるフィルムを用いることができる。
【0056】
上部基材層140および下部基材層150は、同種の材料で構成されていてもよい。例えば、上部基材層140および下部基材層150は、ポリイミドを含むポリイミド層で構成されていてもよい。
【0057】
上部基材層140および下部基材層150の膜厚の下限値は、それぞれ、例えば、5μm以上でもよく、好ましくは10μm以上である。一方で、上部基材層140および下部基材層150の膜厚の上限値は、それぞれ、例えば、50μm以下でもよく、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下である。
本実施形態において、下部基材層150の膜厚は、上部基材層140の膜厚と同じであってもよい。
【0058】
上部基材層140および下部基材層150の弾性率の下限値は、それぞれ、例えば、1GPa以上でもよく、好ましくは2GPa以上であり、より好ましくは3GPa以上である。一方で、上部基材層140および下部基材層150の弾性率の上限値は、それぞれ、例えば、12GPa以下でもよく、好ましくは11GPa以下であり、より好ましくは10GPa以下である。
下部基材層150の弾性率は、上部基材層140の弾性率と相違してもよい。なお、本実施形態において、上記弾性率は、引張り弾性率とする。
【0059】
上部クラッド層120および下部クラッド層130の膜厚の下限値は、それぞれ、例えば、1μm以上でもよく、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。一方で、上部クラッド層120および下部クラッド層130の膜厚の上限値は、それぞれ、例えば、50μm以下でもよく、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。なお、上部クラッド層120の膜厚としては、例えば、コア部112上における上部クラッド層120の膜厚としてもよい。
【0060】
光導波路フィルム100の全体の膜厚の下限値は、例えば、50μm以上でもよく、好ましくは60μm以上であり、より好ましくは70μm以上である。一方、光導波路フィルム100の全体の膜厚の上限値は、例えば、300μm以下でもよく、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下である。
【0061】
本実施形態の光学部品は、光コネクタ、少なくとも片方の端部または全ての端部に装着された光導波路フィルム100(光減衰部付き光導波路フィルム)を有するものである。このような光学部品を用いることにより、安定した光学特性を実現できる。
【0062】
光コネクタは、例えば、MTコネクタ、MPOコネクタ、MPXコネクタ、PMTコネクタ、PTコネクタ、またはこれらに互換性を有するコネクタ等を用いることができる。光コネクタには、ガイド穴が形成されてもよい。光コネクタが他のコネクタ等と接続される際に、ガイド穴にガイドピンが挿入されることで接続対象との正確な位置あわせがされる。
【0063】
光コネクタは、光導波路フィルム100に対して公知の手法で固定される。例えば、光コネクタの開口部に光導波路フィルム100の一端103を挿入した状態でこれらを固定する。具体的には、光硬化性接着剤、熱硬化性接着剤および嫌気性接着剤など各種接着剤により化学的手段で接合してもよいし、光コネクタの開口部の内壁で押圧することにより物理的手段で接合してもよい。
【0064】
次に光減衰部付き光導波路フィルム(光導波路フィルム100)の製造方法について説明する。
光減衰部付き光導波路フィルムは、公知の光導波路フィルムの製造で知られている材料やプロセスを適宜適用または応用する等により製造することができる。
【0065】
公知の光導波路フィルムの製造方法としては、リアクティブイオンエッチング法、複製法、直接露光法、フォトリソグラフィ法、フォトアドレス法などが知られており、本実施形態の光減衰部付き光導波路フィルム(光導波路フィルム100)を製造するにあたっては、これらのいずれかの方法を適用または応用してもよいし、また、これら以外の方法を用いてもよい。しかし、これらの方法の中でも、特にフォトアドレス法を適用また応用することが好ましい。
より具体的には、本実施形態の光導波路フィルム100は、例えば以下の方法で製造することができる。
【0066】
まず、下部クラッド層130の上面に接するように、コア層110を形成する。
また、コア層110は、コア層110を形成するためのワニスを下部クラッド層130の上面に塗布し、そのワニスを硬化(固化)することで形成することができる。
コア層110や下部クラッド層130を構成する材料は、典型的には、ポリマー(例えばポリノルボルネン系のポリマー)、モノマー、当該モノマーの反応(例えば、重合反応または架橋反応)を開始させる触媒前駆体、当該触媒前駆体の活性化温度(モノマーに反応を生じさせる温度)を低下させる助触媒、などを適宜含むものである。
【0067】
続いて、露光工程を行う。すなわち、フォトマスクを用い、コア層110の特定の部分に選択的に光照射を行う。フォトマスク400の一例として、図6(模式上面図)に示すものを用いることができる。図6のフォトマスク400は、コア部パターン410、光減衰部パターン420、側面クラッド部パターン430、ダミーコア部パターン440を備える。コア部パターン410は、光導波路フィルム100のコア層110中におけるコア部112に対応し、光減衰部パターン420は、光減衰部200に対応し、側面クラッド部パターン430は、クラッド部114に対応し、ダミーコア部パターン440は、ダミーコア部116に対応する。フォトマスク400において、コア部パターン410およびダミーコア部116は照射光を透過しないマスク領域であり、光減衰部パターン420および側面クラッド部パターン430は照射光を透過する開口領域(開口部)で構成され得る。光減衰部パターン420の形状は、光減衰部200の形状に応じて適宜設計される。
なお、ここでの「光照射」とは、可視光、紫外光、赤外光、X線、レーザ光等に限らず、電子線などであってもよい。
コア層110に含まれる助触媒は、光照射により、反応(結合)または分解して、カチオン(プロトンまたは他の陽イオン)と、弱配位アニオン(WCA)と、を遊離(発生)する。これらのカチオンまたは弱配位アニオンは、触媒前駆体の分子構造に変化(分解)を生じさせ、触媒前駆体の活性化温度を低下させる。
【0068】
特に、本実施形態の光導波路フィルム100の製造においては、フォトマスク400に、領域1および領域2に対応するパターン(コア部パターン410、光減衰部パターン420、側面クラッド部パターン430およびダミーコア部パターン440等)を設けておく。こうすることで、比較的簡単に、最終的に領域1および領域2を含むコア部112を備えた光導波路フィルム100を得ることができる。なお、クラッド部114は、領域2のみに対応するマスクパターンを介して形成され、ダミーコア部116は、領域1のみに対応するマスクパターンを介して形成される。
【0069】
次に、コア層110を加熱する。コア層110の加熱によって触媒前駆体が活性化してモノマーの反応(例えば、重合反応または架橋反応)を開始させる。モノマーの反応が進行すると、光が照射された領域内のモノマー濃度が徐々に低下するとともに、モノマーとポリマーとの反応物の濃度が徐々に上昇する。この結果、光が照射された領域内の屈折率は小さくなる(当該反応物の寄与が大きくなるため)。一方、光が照射されなかった領域では、当該領域から光が照射された領域にモノマーが拡散することにより、モノマー濃度が徐々に低下する。この結果、光が照射されなかった領域の屈折率は大きくなる(ポリマーの寄与が大きくなるため)。
【0070】
このようにして、光が照射された領域が、クラッド部114(側面クラッド部)およびコア部112中の領域2(光減衰部200)となる。一方、光が照射されなかった領域は、コア部112中の領域1となる。
このような製造方法(フォトアドレス法の適用また応用)によれば、本実施形態の光導波路フィルム100は、製造が比較的簡便であるというメリットが期待できる。つまり、コア部112中に屈折率が異なる部分を設ける別途のプロセスを設けずとも、コア部112の形成と同時に、そのコア部112の中に屈折率が異なる部分を設けることができるから、製造が簡便と言える。
【0071】
上記の加熱、そして放冷の後、コア層110(光照射および加熱によりコア部112およびクラッド部114が形成されている)の上に上部クラッド層120を形成する。上部クラッド層120を構成する材料としては、下部クラッド層130と同様のものが挙げられる。
以上のようにして光導波路フィルム100を製造することができる。
【0072】
上記の製造方法に適用可能な材料、プロセス等については、特開2013-210597号公報の0193段落以降の記載なども参考とされたい。
【0073】
なお、上記の方法(フォトアドレス法)で光導波路フィルム100を製造する場合、領域1と領域2の間で、屈折率は不連続には変化せず、連続的に変化すると考えられる。
この理由はいくつか考えられる。例えば、前述のように、屈折率変化は、光が照射されなかった領域から光が照射された領域へのモノマーの「拡散」が関係しているところ、拡散には「勾配」があるため、コア層110中でのモノマー量は連続的に変化することが理由として考えられる。また、光の回折現象により、フォトマスク100で遮光されている部分にも若干の光が照射されることも、屈折率が連続的に変化する理由の1つと考えられる。
【0074】
領域1と領域2の間で、屈折率が連続的に変化する場合、屈折率nおよびnは、領域1と領域2それぞれにおいて、他の領域から十分離れており、屈折率が略一定となっている部分の屈折率と定義することができる。また、領域1と領域2の境界部は、屈折率が(n+n)/2となる部分と定義することができる。
【0075】
一方、フォトアドレス法以外の製造方法、例えば、リアクティブイオンエッチング法、複製法、直接露光法、フォトリソグラフィ法などで、本実施形態の光導波路フィルム100を製造した場合には、通常、領域1と領域2の間で、屈折率は不連続に変化するものと考えられる。
【0076】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 下部クラッド層と、
前記下部クラッド層上に設けられたパターン状の複数のコア部と、
前記コア部上に設けられた上部クラッド層と、を備えており、
前記コア部中に屈折率が異なる光減衰部を備える、光減衰部付き光導波路フィルムであって、
光の斜め成分が異なる2つの光源に基づいて下記の条件で測定した減衰量比を表すX/Yが、0.55以上0.70以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
(測定条件)
第1光源を用いて、前記コア部の一端から第1光信号を入力し、前記コア部の他端から前記第1光信号を出力したときの前記第1光信号の減衰量(X)を測定する。
続いて、前記第1光源よりも斜め成分が多い第2光源を用いて、前記コア部の一端から第2光信号を入力し、前記コア部の前記他端から前記第2光信号を出力したときの前記第2光信号の減衰量(Y)を算出する。
その後、光の斜め成分が異なる2つの光源に基づく上記減衰量比をX/Yから算出する。
2. 1.に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記光減衰部は、前記コア部が互いに交差しない非交差領域に形成されている、光減衰部付き光導波路フィルム。
3. 1.または2.に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記コア部は、スリット状の前記光減衰部を複数個含む、光減衰部付き光導波路フィルム。
4. 3.に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
同一のスリット幅を有するスリット状の前記光減衰部において、スリット幅(D)、個数(i)、屈折率(N)としたとき、前記光減衰部における光路長を表すi×D×Nが、1.30mm以上16.40mm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
5. 1.から4.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記コア部の長手方向に対して直交する方向における断面視において、前記コア部はテーパー形状を有しており、前記コア部の上端幅をWaとし、前記コア部の下端幅をWbとしたとき、Wa/Wbが1超え1.1以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
6. 1.から5.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記光減衰部は、前記コア部の側面に形成された側面クラッド部と同一部材で構成されるか、前記側面クラッド部と同一の屈折率を有する、光減衰部付き光導波路フィルム。
7. 1.から6.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記第1光源を用いて、前記コア部の一端から前記第1光信号を入力し、前記コア部の他端から前記第1光信号を出力したときの前記光信号の前記減衰量を表すXが、1.2dB以上9.0dB以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
8. 1.から7.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記コア部の長手方向に対して長尺状である、光減衰部付き光導波路フィルム。
9. 1.から8.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部クラッド層の下面側に設けられた下部基材層と、
前記上部クラッド層の上面側に設けられた上部基材層と、をさらに備えており、
前記下部基材層および前記上部基材層は、ポリイミド層で構成されている、光減衰部付き光導波路フィルム。
10. 9.に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部基材層の膜厚は、前記上部基材層の膜厚と同じである、光減衰部付き光導波路フィルム。
11. 9.または10.に記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記下部基材層の弾性率は、前記上部基材層の弾性率と相違する、光減衰部付き光導波路フィルム。
12. 1.から11.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
当該光導波路フィルムの膜厚は、50μm以上300μm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
13. 1.から12.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムであって、
前記上部クラッド層および/又は前記下部クラッド層の膜厚は、1μm以上50μm以下である、光減衰部付き光導波路フィルム。
14. 光コネクタが装着した1.から13.のいずれか1つに記載の光減衰部付き光導波路フィルムを備える、光学部品。
【実施例
【0077】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0078】
<光減衰部付き光導波路フィルムの作成>
(1)離脱性基を有するポリオレフィン系樹脂の合成
水分及び酸素濃度がいずれも1ppm以下に制御され、乾燥窒素で満たされたグローブボックス中において、ヘキシルノルボルネン(HxNB)7.2g(40.1mmol)、ジフェニルメチルノルボルネンメトキシシラン12.9g(40.1mmol)を500mLバイアル瓶に計量し、脱水トルエン60gと酢酸エチル11gを加え、シリコン製のシーラーを被せて上部を密栓した。
【0079】
次に、100mLバイアルビン中にNi触媒1.56g(3.2mmol)と脱水トルエン10mLを計量し、スターラーチップを入れて密栓し、触媒を十分に撹拌して完全に溶解させた。このNi触媒溶液1mLをシリンジで正確に計量し、上記2種のノルボルネンを溶解させたバイアル瓶中に定量的に注入して室温で1時間撹拌したところ、著しい粘度上昇が確認された。この時点で栓を抜き、テトラヒドロフラン(THF)60gを加えて撹拌を行い、反応溶液を得た。
【0080】
100mLビーカーに無水酢酸9.5g、過酸化水素水18g(濃度30%)、イオン交換水30gを加えて撹拌し、その場で過酢酸水溶液を調製した。次に、この水溶液全量を上記反応溶液に加えて12時間撹拌してNiの還元処理を行った。
【0081】
次に、処理の完了した反応溶液を分液ロートに移し替え、下部の水層を除去した後、イソプロピルアルコールの30%水溶液を100mL加えて激しく撹拌を行った。静置して完全に二層分離が行われた後に水層を除去した。この水洗プロセスを合計で3回繰り返した後、油層を大過剰のアセトン中に滴下して生成したポリマーを再沈殿させ、ろ過によりろ液と分別した後、60℃に設定した真空乾燥機中で12時間加熱乾燥を行うことにより、ポリマー#1を得た。
【0082】
ポリマー#1の分子量分布は、GPC測定した結果、Mw=10万、Mn=4万であった。また、ポリマー#1中の各構造単位のモル比は、NMR測定による同定の結果、ヘキシルノルボルネン構造単位が50mol%、ジフェニルメチルノルボルネンメトキシシラン構造単位が50mol%であった。
【0083】
(2)コア層形成用組成物の製造
精製した上記ポリマー#1の10gを100mLのガラス容器に秤量し、これにメシチレン40g、酸化防止剤Irganox1076(BASF社製)0.01g、シクロヘキシルオキセタンモノマー(東亜合成製 CHOX、CAS#483303-25-9、分子量186、沸点125℃/1.33kPa)2g、重合開始剤(光酸発生剤)「RhodorsilPhotoinitiator 2074」(Rhodia社製、CAS# 178233-72-2)(0.0125g、酢酸エチル0.1mL中)を加えて均一に溶解させた後、0.2μmのPTFEフィルターによりろ過を行い、清浄なコア層形成用組成物を得た。
【0084】
(3)クラッド層の作製
環状オレフィン系樹脂を含むノルボルネン系樹脂組成物(プロメラス社製Avatrel2590の20重量%2-ヘプタノン溶液、10g)に、2-ウンデシルメチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、品番C11Z)(0.06g)を添加して混合し、クラッド層形成用塗布液を得た。このクラッド層形成用塗布液を、2枚のポリイミドフィルムの上にドクターブレードでそれぞれ均一に塗布した後、45℃の乾燥機において15分間乾燥させた。溶剤を完全に除去した後、乾燥機中160℃で2時間加熱して塗膜を硬化させ、光導波路形成用フィルム(クラッド層および基材層)を2枚形成した。
【0085】
(4)コア層の作製
離型処理PETフィルム上にコア層形成用組成物を、ドクターブレードにより均一に塗布した後、40℃の乾燥機に5分間投入した。溶媒を完全に除去して被膜とした後、得られた被膜上に、図6に示すようなフォトマスク400を圧着した。本実施例で使用したフォトマスク400では、図6に示す通りコア部パターン410の本数が3本ではなく6本とした。具体的には、本実施例のフォトマスク400には、光減衰部パターン420を有する直線状の減衰コアパターン(コア部パターン410)がPt1:250μmピッチで6本形成されており、減衰コアパターン(コア部パターン410)以外は減衰部を有さない直線コアパターン(ダミーコア部パターン440)がPt2:62.5μmで側面クラッド部パターン430を介して3本形成されている(光減衰部パターン420、側面クラッド部パターン430が開口部であり、その他は照射光を透過しないマスク領域である)。光減衰部パターン420はスリット構造を有しており、各スリットの、スリット幅D、スリット間隔Wは同一の厚みであり、スリット形状はすべて同一とした。各実施例・各比較例のスリット数を下記表1に示す。
そして、フォトマスク400上から平行露光機により紫外線を照射した。なお、紫外線の積算光量は1300mJ/cmとした。
【0086】
次いで、フォトマスク400を取り去り、150℃のオーブンに30分間投入した。オーブンから取り出すと、被膜には断面が矩形状をなす鮮明な導波路パターン(複数のコア部)が現れているのが確認された。得られたコア層の厚さは40μmであった。
【0087】
(5)光導波路フィルムの作製
ステンレス製の板上にて、基材層、クラッド層、コア層、クラッド層、基材層の順にラミネータで積層し、積層体を得た。得られた積層体を160℃、2時間の条件で熱処理し、光導波路シートを得た。得られた積層体の厚さは100μmであった。
【0088】
(6)光導波路試験片の作製
ダイシングテープUHP-110AT(デンカ社製)に光導波路シートを貼りつけ、ダイサーを用いて光導波路シートをカットした。その後ダイシングテープから光導波路フィルムを剥離するために積算光量は500mJ/cmの紫外線照射を実施し、光導波路フィルムをダイシングテープから剥離し、長さ40mmの光導波路試験片(光導波路フィルム)を得た。得られた光導波路フィルムは、端から順番に、No.1~No.6の光減衰部を有するコア部を6本、隣接コア部の間に側面クラッド部を介して形成されたダミーコア部を3本、備えるものである。
【0089】
【表1】
【0090】
得られた光減衰部付き光導波路フィルムについて次のような評価項目に基づいて評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0091】
(光減衰部における光路長)
測長顕微鏡を用いて、光減衰部のスリット幅(D)を測定し、個数(i)をカウントした。
コア層の露光部および未露光部の光導波路フィルムの屈折率を、波長850nmの光を照射し、プリズムカプラで測定した。得られた露光部の屈折率を光減衰部の屈折率(N)とした。スリット幅(D)は、0.01mm、個数(i)は表1に示すスリット数と同じであり、屈折率(N)は1.524であった。そして、光減衰部における光路長(mm)を、式:個数(i)×スリット幅(D)×屈折率(N)から算出した。
【0092】
(減衰量)
社団法人 日本電子回路工業会が規定した「高分子光導波路の試験方法(JPCA-PE02-05-01S-2008)」の4.6.1挿入損失の測定方法に準拠し、850nmの光を50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバAを経由し、各実施例および各比較例で得られた光導波路フィルムにおけるコア部に導入し、50μm径のグレーデッドインデックス型光ファイバBで受光して光の強度を測定し、光導波路フィルムにおけるコア部の挿入損失を算出した。
測定に使用した2つの光源は、以下のものを使用した。
・第1の光源:光ファイバAより放射された放射角度が6°(最大5.71)以下の光源、
・第2の光源:光ファイバAより放射された放射角度が13°(最大12.17)以下の光源
第1の光源および第2の光源の放射角度は、FFP(Far Field Pattern:ファーフィールドパターン)測定装置を使用して測定した。
減衰量は、(中央部における)No.3の減衰部を有するコア部における挿入損失A3とし、No.3のコア部の両側に3本ずつ形成された合計6本の減衰部を有さないダミーコア部における平均挿入損失Bとしたとき、これらの差分「平均挿入損失B-挿入損失A3」(dB)とした。
そして、第1の光源を用いて測定された減衰量を「減衰量X」とし、第2の光源を用いて測定された減衰量を「減衰量Y」とした。
【0093】
(減衰性)
得られた「減衰量X」について、以下の基準に従い、減衰性を評価した。評価結果を表1に示す。
○:減衰量Xが1.20dB以上
×:減衰量Xが1.20dB未満
【0094】
(減衰量のバラツキ)
No.1~6の光減衰部を有するコア部(6本)のそれぞれに、1本ずつ第1光源を用いて光を照射し、上記の減衰量の測定方法と同様にして「減衰量X」を測定した。得られた6本のコア部における減衰量Xにおいて標準偏差σを算出した。
得られた「減衰量Xの標準偏差σ」について、以下の基準に従い、減衰量のバラツキを評価した。評価結果を表1に示す。
○:標準偏差σが0.35以下
×:標準偏差σが0.35超え
【符号の説明】
【0095】
1 領域
2 領域
12 裏面
14 表面
100 光導波路フィルム
101 導波路端面
103 一端
105 他端
110 コア層
112 コア部
114 クラッド部
116 ダミーコア部
120 上部クラッド層
130 下部クラッド層
140 上部基材層
150 下部基材層
200、200a~e 光減衰部
202 テーパー構造
204 非傾斜領域
206 テーパー構造
300 信号光
310 信号光
320 光出力部
330 光検出部
400 フォトマスク
410 コア部パターン
420 光減衰部パターン
430 側面クラッド部パターン
440 ダミーコア部パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6