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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】土壌の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20220712BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20220712BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
B01J20/02 A
B01J20/34 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017236082
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019098311
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】緒方 浩基
(72)【発明者】
【氏名】西川 直仁
(72)【発明者】
【氏名】高田 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】山崎 啓三
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056482(JP,A)
【文献】特開2002-254071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0375302(US,A1)
【文献】特開2015-110203(JP,A)
【文献】特開2004-211088(JP,A)
【文献】特開2013-107943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B01J 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロトルエン化合物を含有する土壌の浄化方法であって、前記土壌に鉄粉を添加した後、前記ニトロトルエン化合物を吸着した鉄粉を磁石によって誘引付着させることによって回収し
回収した前記鉄粉に吸着したニトロトルエン化合物を分解処理によって除去し、前記除去された鉄粉を再利用することを特徴とする、土壌の浄化方法。
【請求項2】
さらに前記土壌がヒ素を含む重金属類を含有する、請求項1記載の土壌の浄化方法。
【請求項3】
回収した前記鉄粉に吸着したヒ素化合物を分解処理によって除去し、前記除去された鉄粉を再利用することを特徴とする、請求項2記載の土壌の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な土壌の浄化方法であって、さらに具体的には、ニトロトルエン化合物を含有する土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌中に存在する汚染物質の多くは、人工的に製造された有機化合物や重金属化合物であって、発がん性、変異原性、爆発性といった、生物環境に悪影響を及ぼすものである。
【0003】
有機汚染物質で汚染された土壌を浄化する方法として、たとえば特許文献1には、微生物を用いて有機汚染物質を分解する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-77571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、軍事基地や工事現場(基地跡、現場跡を含む)等の土壌中には、たとえばトリニトロトルエン(TNT)やジニトロトルエン(DNT)に代表されるニトロトルエン化合物のような、有機汚染物質が含有されている場合がある。
【0006】
このような有機汚染物質は、生分解性が低いため、特許文献1の方法では分解できない。従って、長期にわたって環境に悪影響を及ぼすおそれがある。くわえて、ニトロトルエン化合物は、周知の通り爆発性を有する化合物であり、徹底的な除去が要求される。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ニトロトルエン化合物で汚染された土壌の、簡便かつ効率的な浄化方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の目的を達成するため、鋭意検討の結果、本発明にかかる浄化方法に想到した。
【0009】
すなわち本発明は、ニトロトルエン化合物を含有する土壌の浄化方法であって、前記土壌に鉄粉を添加した後、前記ニトロトルエン化合物を吸着した鉄粉を回収してなることを特徴とする、土壌の浄化方法に関する。また本発明は、前記土壌がさらにヒ素化合物等の重金属類を有する(汚染されている)場合においても、効率的に浄化することができる。
【0010】
また、回収した前記鉄粉に、吸着したニトロトルエン化合物を酸化分解処理によって除去することによって、前記除去された鉄粉を本発明の土壌の浄化方法に再利用することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる土壌の浄化方法により、爆発性を有するニトロトルエン化合物で汚染された土壌を、簡便且つ効率的に浄化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の形態について説明するが、本発明の範囲は、実施例を含めた当該記載に限定されるものではない。なお、本願において、「%」は、特にことわりのない限り、重量%を意味する。
【0013】
<汚染物質>
土壌の汚染物質としては、無機物質としてはヒ素、カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、銅といった重金属、有機物質としてはニトロトルエン化合物、有機リン化合物、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロメタン、クロロエチレン、1,2-ジクロロエタン等の塩素化合物、ベンゼン、および1,4-ジオキサンなどが挙げられる。
【0014】
<土壌>
本発明にかかる土壌浄化方法は、上記の汚染物質のうち、ニトロトルエン化合物で汚染された土壌に対して好適に用いられる。くわえて、後述するように、ニトロトルエン化合物と共に、ヒ素化合物等の重金属類で汚染された土壌についても効率的に浄化できるという利点もある。
【0015】
また、粘性土壌に染み込んだ汚染物質は除去しづらいが、本発明にかかる土壌浄化方法は、このような粘性土壌に対しても使用することが可能である。「粘性土壌」の具体的な定義の一例としては、透水係数が10-6m/sec以下の土壌が挙げられる。
【0016】
<ニトロトルエン化合物>
ニトロトルエン化合物は、各種異性体を含むトリニトロトルエン(TNT)、ジニトロトルエン(DNT)などが代表的なものとして存在するが、他にも各種モノニトロトルエン、テトラニトロトルエン、ペンタニトロトルエンなどで爆発性を有するニトロトルエン化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0017】
<鉄粉>
本発明においては、土壌中のニトロトルエン化合物を除去するために鉄粉が用いられる。鉄粉を、ニトロトルエン化合物で汚染された土壌に添加した場合、鉄粉表面に存在する孔にニトロトルエン化合物が吸着する。
【0018】
用いられる鉄粉については、通常市販されている鉄粉で差支えないが、好ましい物性としては、ヒ素などの重金属も併せて吸着させる必要がある場合は、2価鉄イオンを長期間供給できるものが好ましい。
【0019】
鉄粉の添加量については、土壌の種類、粘度、ニトロトルエン化合物およびヒ素などの汚染物質の量その他の条件によって当業者が適宜調整することができるが、実施の一例としては、土壌100重量部に対して6重量部程度添加される。
【0020】
なお、ニトロトルエン化合物は水に溶けにくいので、固体のまま鉄粉の表面に吸着しやすい。また、鉄粉は、ヒ素等の重金属類についても吸着する。更に、前記重金属類とニトロトルエン化合物とは互いに鉄粉への吸着に際して競合することがない。従って、本発明に係る土壌の浄化方法を用いることにより、ニトロトルエン化合物のみならず、ニトロトルエン化合物と前記重金属類との両方によって汚染された土壌についても効率的に浄化することができるという利点もある。
【0021】
前記重金属類としては、ヒ素、鉛、6価クロムが挙げられる。
【0022】
<汚染物質の除去>
ニトロトルエン化合物やヒ素等の重金属類の汚染物質を吸着した鉄粉を、土壌から分離回収することにより、汚染土壌中の、容易に分解することができないニトロトルエン化合物を除去することができる。
【0023】
前記鉄粉の回収方法としては、磁石によって誘引付着させることによって回収する方法や、鉄粉と土壌粒子との比重差を利用して遠心分離により回収する方法等が挙げられる。
【0024】
回収後の前記鉄粉は、過酸化水素水等を用いて分解を行うことによって、前記鉄粉に吸着したニトロトルエン化合物やヒ素等の重金属類を無害化し、除去することができる。そのようにして再生された鉄粉を、再び同じ方法で汚染土壌中に投入し、本発明の浄化方法に用いることが可能である。
【0025】
本発明にかかる土壌の浄化方法に関し、鉄粉以外にも、浄化性能を損なわない範囲で、鉄粉の吸着効率を向上させたり、前記鉄粉を分離回収しやすくしたりするための、各種溶媒、界面活性剤などを添加することができる。
【実施例
【0026】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
<ニトロトルエン化合物で汚染された模擬汚染土の作成>
山砂(長野県産)、珪砂8号(日光珪砂)を用いて、表1に示すような各試験区を作成した。TNT(2,4,6-トリニトロトルエン)、およびDNT(2,4-ジニトロトルエンと2,6-ジニトロトルエンとの重量比1:1混合物)を、砂1kg(乾燥重量)に対して50mgになるように添加した。
【0028】
<ニトロトルエン化合物とヒ素との両方で汚染された模擬汚染土の作成>
前記山砂および珪砂8号を用いて、表4に示すような各試験区を作成した。TNT(2,4,6-トリニトロトルエン)を、砂1kg(乾燥重量)に対して50mgに、ヒ素を、砂1kg(乾燥重量)に対して4mgになるように添加した。
【0029】
ガラス容器に、模擬汚染土50gを添加し、溶媒としてのアセトニトリル、水道水、および鉄粉を、表1および2で示す割合で添加した。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
<鉄粉を添加しない模擬汚染土の場合>
TNT、DNT、およびヒ素に汚染された模擬汚染土について、水道水100mLを加え、4時間振とうした後、上澄み液について前記TNT、DNT、およびヒ素の溶出量を測定した(表3-5中の「鉄粉無添加の場合のTNT(DNT)(ヒ素)溶出量」)。
【0033】
<鉄粉を添加した模擬汚染土の場合>
TNT、DNT、およびヒ素に汚染された模擬汚染土について、水道水100mLを加え、1時間振とうした後、上澄み液について前記TNT、DNT、およびヒ素の溶出量を測定した(表3-5中の「鉄粉添加後のTNT(DNT)(ヒ素)溶出量」)。
【0034】
次に、磁石により鉄粉を回収した後、模擬汚染土の遠心分離を行った後、上澄み液を廃棄し、風乾して浄化土を得た。この浄化土について、水道水100mLを加え、4時間振とうした後、上澄み液について前記TNTやDNTの溶出量を測定した(表3-5中の「鉄粉回収後のTNT(DNT)(ヒ素)溶出量」)。
【0035】
ここで、2,4-ジニトロトルエンと2,6-ジニトロトルエンとの分離定量方法としては、キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフ質量分析法を用いた。前記ガスクロマトグラフ質量分析計、およびその分析条件は以下の通りである。
【0036】
使用機器 : GCMS2010 Ultra(島津製作所社製)
カラム : ZB-5ms 30m×0.25mm I.D.(0.25μm) Zebron社製
昇温条件 : 50℃(1分)-10℃/分-200℃(0分)-20℃/分-250℃(3分)
注入方法 : スプリットレス注入法(1分)
注入口温度 : 270℃
キャリアーガス流量 : 線速度一定モード 55cm/分
イオン化法 : EI
【0037】
溶出量の結果を表3-5に示す。なお、トルエン化合物のみで汚染された系については、再現性を担保するため、同様の実験を二度行っている(表中の「1st」、「2nd」)。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
前記実施例の結果から、TNTおよび各種DNT等のニトロトルエン化合物に汚染された土壌が、鉄粉によってほぼ完全に吸着され、浄化されていることがわかる。さらに、ニトロトルエン化合物のみならず、ニトロトルエン化合物と重金属であるヒ素との両方によって汚染された土壌についても、同様の優れた吸着、浄化効果を示していることがわかる。
【0042】
<ニトロトルエン化合物等吸着鉄粉の無害化>
DNT(2,6-ジニトロトルエン)水溶液(1000mg/L)50mLに鉄粉(5g)を浸漬した後に、前記鉄粉を回収し、一つのグループ(対照区)はそのまま50mLの脱イオン水を添加して溶出試験を実施した。もう一つのグループ(酸化分解試験区)はさらに濃度10%の過酸化水素水50mLを添加し、鉄粉に吸着した前記DNTを酸化分解した後に、この鉄粉を回収し、50mLの脱イオン水を添加して溶出試験を実施した。この結果を表6に示す。
【0043】
【表6】
【0044】
前記実施例の結果から、一度ニトロトルエン化合物等の汚染物質を吸着させた鉄粉についても、酸化分解することによって無害化され、再び汚染土壌の浄化に用いることができることがわかる。