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  • 特許-超音波探傷装置の探傷範囲決定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】超音波探傷装置の探傷範囲決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/38 20060101AFI20220712BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01N29/38
G01N29/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017244564
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019113320
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】樹神 啓司
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-257363(JP,A)
【文献】特開平03-257362(JP,A)
【文献】特開2009-174999(JP,A)
【文献】特開昭60-082855(JP,A)
【文献】特開2003-121426(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0232386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G01B 17/00 - G01B 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波振動子を設けたフェーズドアレイ式の超音波探傷装置において、前記複数の超音波振動子から選択されて発振させられ探傷用の超音波ビームを生成している複数超音波振動子のうち被探傷物の断面形状の影響を受けない一つの超音波振動子で得られる前記被探傷物からの底面エコー信号を基準として探傷信号の探傷範囲を決定するようにし、かつ基準とする前記底面エコー信号は、前記超音波振動子で得られる底面エコー信号の波形の半値全幅を基準として、当該半値全幅部分の時間幅dとこの部分からの波形ピーク高さhがh/d>1の関係を満たすものである超音波探傷装置の探傷範囲決定方法。
【請求項2】
前記一つの超音波振動子は、被探傷物の湾曲断面コーナ部からの反射の影響を受けない位置にあるものである請求項1に記載の超音波探傷装置の探傷範囲決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷装置の探傷範囲決定方法に関し、特にフェーズドアレイ式の超音波探傷装置において各超音波振動子の反射波中の探傷範囲を正確に決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェーズドアレイ式の超音波探傷装置は複数の超音波振動子(以下、単に振動子という)の備えて、各振動子の発振タイミングを適当に制御することによって被探傷物内で収束する超音波ビームを形成するとともにその収束点や収束方向を自在に変更できるもので、各振動子に戻る反射波信号を合成することによって被探傷物内の疵の位置や形状を確実に検出することができる。
【0003】
なお、特許文献1には、フェーズドアレイ式超音波探傷装置において、探傷プローブの中央から被探傷物の各位置での距離に応じて反射波信号の波形に補正倍率を乗じることによって、被探傷物中の超音波減衰に伴う信号低下を良好に補償して確実な探傷を行うようにしたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-3452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フェーズドアレイ式超音波探傷装置において、各振動子で得られた反射波信号を合成した探傷信号の探傷範囲は、被探傷物からの底面エコー信号を基準に決定している。しかし、被探傷物のコーナ部が湾曲している等の場合にはこの部分からの底面エコー信号の形状が大きく変化するため探傷信号の探傷範囲が大きくずれて探傷範囲外となった疵を見落とすという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、被探傷物の形状の影響を受けることなく確実な探傷を行うことができる超音波探傷装置の探傷範囲決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本第1発明では、複数の超音波振動子(2A~2C)を設けたフェーズドアレイ式の超音波探傷装置において、前記複数の超音波振動子から選択されて発振させられ探傷用の超音波ビームを生成している複数超音波振動子(2A~2C)のうち被探傷物の断面形状の影響を受けない一つの超音波振動子(2B)で得られる前記被探傷物(3)からの底面エコー信号(22)を基準として探傷信号(2d)の探傷範囲(Ta)を決定するようにし、かつ基準とする前記底面エコー信号(22)は、前記超音波振動子(2A~2C)で得られる底面エコー信号(22)の波形のうち、その半値全幅を基準として、この部分の時間幅dとこの部分からの波形ピーク高さhがh/d>1の関係を満たすものである
【0008】
本第1発明において、被探傷物の断面形状の影響を受けると探傷信号の探傷範囲が本来の位置からずれて、本来検出させるべき疵が検出されない。そこで、被探傷物の断面形状の影響を受けない超音波振動子で得られる底面エコー信号を基準として探傷範囲を決定しているから、探傷範囲のずれを最小限に抑えることができ、疵の見逃しが大幅に低減される。
【0010】
本第2発明では、前記一つの超音波振動子(2B)は、被探傷物(3)の湾曲断面コーナ部(31)からの反射の影響を受けない位置にあるものである。
本第2発明においては、湾曲断面コーナ部を有する角鋼材等の疵の見逃しを大幅に低減することができる。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の超音波探傷装置の探傷範囲決定方法によれば、被探傷物の形状の影響を受けることなく確実な探傷を行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】理想形状の被探傷物の探傷を行うフェーズドアレイ式超音波探傷装置の概略構成を示す図である。
図2】理想形状の被探傷物の探傷を行った場合の各信号の時間変化を示す図である。
図3】湾曲するコーナ部を有する被探傷物の探傷を行うフェーズドアレイ式超音波探傷装置の概略構成を示す図である。
図4】湾曲するコーナ部を有する被探傷物の探傷を行った場合の各信号の時間変化を示す図である。
図5】本発明の一実施形態を示す、被探傷物の探傷を行った場合の各信号の時間変化を示す図である。
図6】基準となる底面エコー信号の選択を説明する、各信号の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
図1にはフェーズドアレイ式超音波探傷装置(以下、単に探傷装置という)による被探傷物の探傷方法を示す。探傷装置1は複数の超音波振動子(以下、単に振動子という)2A~2Cを備えている。なお、図1では理解を容易にするために中央の振動子2Bとその両側の二つの振動子2A,2Cのみを描いてあるが、実際にはもっと多くの振動子が設けられる。各振動子2A~2Cの発振タイミングを中央のもので相対的に遅く、その両側のもので相対的に早くすると、これら振動子2A~2Cから被探傷物3内に送出される超音波の波面が合成されて被探傷物3内の所定位置へ向けて収束する超音波ビーム4が生成される。そして、各振動子2A~2Cに戻る反射波信号を合成して探傷信号を得、その探傷範囲内に現れる疵エコー信号が加算増幅されて良好なS/N比で疵の検出を行うことができる。
【0016】
図2(1)~(3)には各振動子2A~2Cで受信される反射波信号2a~2cを示し、図中21は表面エコー信号、22は底面エコー信号である。被探傷物3が図1に示すようなほぼ直角のコーナ部31を有する理想的な四角断面であれば、各反射波信号2a~2cの底面エコー信号22は急峻な立ち上がりを有する同様の形状になるため、合成された探傷信号2d(図2(4))の底面エコー信号22も急峻な形状になる。そして、この急峻な底面エコー信号22が一定の大きさに達した時点tsを基準にしてこれから一定時間Td離れた一定の時間範囲Taを疵検出用のゲートである探傷範囲としている。
【0017】
ところが、図3に示すように被探傷物3が湾曲するコーナ部31を有する四角断面である場合には、各反射波信号2a~2c中の底面エコー信号22は、コーナ部31の影響を受けない中央の振動子2Bでは、被探傷物3が理想的な四角断面である場合と同様の急峻な形状を有するが(図4(2))、両側の振動子では2A,2Cでは、湾曲するコーナ部31でエコーが早く生じることによって図4(1),(3)に示すように底面エコー信号22が急峻なものにならず、緩やかに傾斜する幅広の形状になる。
【0018】
このため、合成された探傷信号2d(図4(4))の底面エコー信号22は幅広の形状になって、当該底面エコー信号22が一定の大きさに達する時点tsが、被探傷物が理想的な四角断面である場合(図2(4)参照)から大きくずれるために、ずれた時間tsを基準にした探傷範囲Taも本来の位置から大きくずれてしまう。そのため、探傷範囲Ta外となった領域にある、本来検出されるべき疵が見落とされてしまう。
【0019】
そこで、本実施形態では、図5に示すように、コーナ部31からの反射の影響を受けない中央の振動子2Bで得られる受信信号2b(図5(2))の急峻な底面エコー信号22を基準に探傷信号2dにおける探傷範囲Taを設定する(図5)。これにより、探傷範囲Taのずれを最小限に抑えることができ、この結果、本来検出されるべき疵を見落とすことが大幅に低減される。
【0020】
ここで、探傷範囲Taを設定するに当たり、受信信号2a~2cから、基準となる底面エコー信号22を選択する方法としては、図6に示すように、各振動子2A~2Cで得られる受信信号2a~2cの、各底面エコー信号22の波形の半値全幅を基準として、この部分の時間幅dとこの部分からの波形のピーク高さhとの関係において、h/d>1・・・(1)の関係を満たす底面エコー信号22を選択する。そして、当該底面エコー信号22を基準にして探傷信号2dの探傷範囲Taを設定する。
具体的には、図5において、受信信号2bの底面エコー信号22は(1)式を満たすが、受信信号2a,2cの底面エコー信号22は(1)式を満たさない事から、受信信号2bの底面エコー信号22が探傷信号2dの探傷範囲Taを決める基準として選択される。
【0021】
なお、上記実施形態では、被探傷物を四角断面のものとしたが、これに限られるものではない。この場合、探傷範囲がずれる原因はコーナ部からの反射によるものには限られない。
【符号の説明】
【0022】
2A,2B,2C…超音波振動子、2d…探傷信号、21…表面エコー信号、22…底面エコー信号、3…被探傷物、31…コーナ部、Ta…探傷範囲。
図1
図2
図3
図4
図5
図6