(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具および眼内レンズ挿入システム
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2018001425
(22)【出願日】2018-01-09
【審査請求日】2020-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】菱田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】長坂 信司
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094406(JP,A)
【文献】特表2002-502666(JP,A)
【文献】特表2003-534070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前記眼内レンズは、
円盤形状の光学部と、
前記光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする1つまたは複数の支持部と、
を備え、
前記眼内レンズ挿入器具は、
前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で前記眼内レンズが設置される設置部と、
前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、
前記設置部よりも前方に設けられ、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で前記眼内レンズを前記挿入口から排出するノズルと、
前記設置部に設置された前記眼内レンズおよび器具本体のうちの少なくとも一部を冷却する冷却部と、
を備え
、
前記眼内レンズの前記1つまたは複数の支持部には、前記眼内レンズが前記設置部に設置された状態で、前記光学部から前記眼内レンズ挿入器具の後方に向けて湾曲して延び出す前記支持部である後方支持部が含まれており、
前記押出部材は、前記後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、前記後方支持部を前記光学部のレンズ面上に折り畳み、
前記冷却部は、前記眼内レンズの前部よりも後部を重点的に冷却することで、前記後方支持部に不適切な屈曲が生じることを抑制することを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
請求項
1に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記冷却部は、
前記設置部に設置された前記眼内レンズの少なくとも一部を冷却するレンズ冷却部を含み、
前記眼内レンズ挿入器具の前後方向において、前記レンズ冷却部の前端部が、前記設置部に設置される前記眼内レンズのうち、前記光学部の中心、または前記光学部の中心から前記後方支持部の後端部までの間に位置することを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを患者眼の眼内に挿入するために用いられる眼内レンズ挿入システムであって、
前記眼内レンズは、
円盤形状の光学部と、
前記光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする1つまたは複数の支持部と、
を備え、
前記眼内レンズ挿入システムは、
内部の通路を通じて前端部の挿入口から前記眼内レンズを患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具と、
冷却装置と、
を備え、
前記眼内レンズ挿入器具は、
前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で前記眼内レンズが設置される設置部と、
前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、
前記設置部よりも前方に設けられ、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で前記眼内レンズを前記挿入口から排出するノズルと、
を備え、
前記眼内レンズの前記1つまたは複数の支持部には、前記眼内レンズが前記設置部に設置された状態で、前記光学部から前記眼内レンズ挿入器具の後方に向けて湾曲して延び出す前記支持部である後方支持部が含まれており、
前記眼内レンズ挿入器具の前記押出部材は、前記後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、前記後方支持部を前記光学部のレンズ面上に折り畳み、
前記冷却装置は、前記設置部に設置された前記眼内レンズ
の前部よりも後部を重点的に冷却する
ことで、前記後方支持部に不適切な屈曲が生じることを抑制することを特徴とする眼内レンズ挿入システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の眼内レンズ挿入システムであって、
前記冷却装置は、
前記眼内レンズ挿入器具が前記冷却装置に設置された状態で、前記眼内レンズ挿入器具の前記設置部に設置された前記眼内レンズの少なくとも一部を冷却するレンズ冷却部を含み、
前記眼内レンズ挿入器具の前後方向において、前記レンズ冷却部の前端部が、前記設置部に設置される前記眼内レンズのうち、前記光学部の中心、または前記光学部の中心から前記後方支持部の後端部までの間に位置することを特徴とする眼内レンズ挿入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、摘出された水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が用いられている。また、眼の屈折力を矯正するために、水晶体よりも前側に眼内レンズが挿入される場合もある。眼内レンズの眼内への挿入には、インジェクターと呼ばれる眼内レンズ挿入器具が用いられる場合がある。
【0003】
眼内レンズには、円盤形状の光学部から外側に向けて延びる一対の支持部(前方支持部および後方支持部)を備えたものがある。前方支持部および後方支持部の各々の先端は、自由端となっている。眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズの前方支持部および後方支持部を変形させて光学部上に位置させた状態(所謂「タッキング」が行われた状態)で、眼内レンズを折り畳む場合がある。タッキングを行うことで、例えば、支持部の破損等が生じる可能性が低下する。
【0004】
例えば、特許文献1に記載の眼内レンズ挿入器具では、プランジャーによって後方支持部が押されることで、後方支持部のタッキングが行われる。また、プランジャーによって眼内レンズ全体が前方に押し出されることで、前方支持部が挿入部の内壁に接触して前方支持部のタッキングが行われると共に、眼内レンズ全体が小さく折り畳まれる。その後、眼内レンズは挿入口から眼内に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タッキングが行われる過程において、支持部に不適切な屈曲が生じる場合がある。この場合、タッキングが良好に行われない可能性が増加する。
【0007】
本開示の典型的な目的は、より精度良く支持部のタッキングを行うことが可能な眼内レンズ挿入器具および眼内レンズ挿入システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具は、樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、前記眼内レンズは、円盤形状の光学部と、前記光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする1つまたは複数の支持部と、を備え、前記眼内レンズ挿入器具は、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で前記眼内レンズが設置される設置部と、前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、前記設置部よりも前方に設けられ、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で前記眼内レンズを前記挿入口から排出するノズルと、前記設置部に設置された前記眼内レンズおよび器具本体のうちの少なくとも一部を冷却する冷却部と、を備え、前記眼内レンズの前記1つまたは複数の支持部には、前記眼内レンズが前記設置部に設置された状態で、前記光学部から前記眼内レンズ挿入器具の後方に向けて湾曲して延び出す前記支持部である後方支持部が含まれており、前記押出部材は、前記後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、前記後方支持部を前記光学部のレンズ面上に折り畳み、前記冷却部は、前記眼内レンズの前部よりも後部を重点的に冷却することで、前記後方支持部に不適切な屈曲が生じることを抑制する。
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入システムは、樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを患者眼の眼内に挿入するために用いられる眼内レンズ挿入システムであって、前記眼内レンズは、円盤形状の光学部と、前記光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする1つまたは複数の支持部と、を備え、前記眼内レンズ挿入システムは、内部の通路を通じて前端部の挿入口から前記眼内レンズを患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具と、冷却装置と、を備え、前記眼内レンズ挿入器具は、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で前記眼内レンズが設置される設置部と、前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、前記設置部よりも前方に設けられ、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に前記挿入口を有し、前記支持部が前記光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で前記眼内レンズを前記挿入口から排出するノズルと、を備え、前記眼内レンズの前記1つまたは複数の支持部には、前記眼内レンズが前記設置部に設置された状態で、前記光学部から前記眼内レンズ挿入器具の後方に向けて湾曲して延び出す前記支持部である後方支持部が含まれており、前記眼内レンズ挿入器具の前記押出部材は、前記後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、前記後方支持部を前記光学部のレンズ面上に折り畳み、前記冷却装置は、前記設置部に設置された前記眼内レンズの前部よりも後部を重点的に冷却することで、前記後方支持部に不適切な屈曲が生じることを抑制する。
【0010】
本開示における眼内レンズ挿入器具および眼内レンズ挿入システムによると、より精度良く支持部のタッキングが行われる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】眼内レンズ挿入器具100を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】プランジャー300を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図4】眼内レンズ1が設置された状態の、眼内レンズ挿入器具100の設置部130の平面図である。
【
図5】眼内レンズ1の移動および変形が適切に行われた状態を示す概略説明図である。
【
図6】眼内レンズ1の後方支持部3Bのタッキングが正常に行われない状態の一例を示す図である。
【
図7】眼内レンズ挿入システム400の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示で例示する眼内レンズ挿入器具は、樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入する。眼内レンズは、光学部と、1つまたは複数の支持部を備える。光学部の形状は円盤形状である。支持部は、光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする。眼内レンズ挿入器具は、設置部、押出部材、ノズル、および冷却部を備える。設置部には、支持部が光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で眼内レンズが設置される。押出部材は、通路の軸に沿って通路内を前方に移動することで、眼内レンズを前方に押し出す。ノズルは、設置部よりも前方に設けられており、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に挿入口を有する。ノズルは、支持部が光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で、眼内レンズを挿入口から排出する。冷却部は、内部に設置された眼内レンズおよび器具本体のうちの少なくとも一部を冷却する。
【0013】
樹脂材料によって成形された眼内レンズは、温度を下げると硬化する。本開示における眼内レンズ挿入器具は、設置部に設置された眼内レンズを冷却部によって冷却した状態で、支持部のタッキングを行うことができる。従って、タッキングを行う際に、眼内レンズの素材が冷却されて硬化しているので、支持部に不適切な屈曲が生じにくい。よって、支持部のタッキングがより精度良く行われる。
【0014】
眼内レンズの支持部の1つは後方支持部であってもよい。後方支持部は、眼内レンズが設置部に設置された状態で、光学部から眼内レンズ挿入器具の後方に向けて湾曲して延び出す。押出部材は、後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、後方支持部を光学部のレンズ面上に折り畳んでもよい。この場合、押出部材を前方に押し出す動作によって、後方支持部のタッキングと眼内レンズの眼内への挿入が共に行われる。従って、簡易な動作で適切に眼内レンズが眼内に挿入される。また、一般的には、後方支持部の一部が押されてタッキングが行われる場合、後方支持部に不適切な屈曲が生じやすい。しかし、本開示の眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズの素材を冷却して硬化させた状態で、後方支持部のタッキングを行うことができる。よって、後方支持部のタッキングと眼内レンズの眼内への挿入が、簡易な動作で適切に行われる。
【0015】
ただし、眼内レンズ挿入器具によって後方支持部のタッキングを行うための具体的な方法を変更することも可能である。例えば、眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズが押出部材によって前方に押される前に、少なくともいずれかの支持部のタッキングを予め実行する構成を備えていてもよい。このような場合でも、支持部に不適切な屈曲が生じる可能性は、冷却部によって低下する。
【0016】
冷却部は、レンズ冷却部を含んでいてもよい。レンズ冷却部は、設置部に設置された眼内レンズの少なくとも一部を冷却する。眼内レンズ挿入器具の前後方向において、レンズ冷却部の前端部が、設置部に設置される眼内レンズのうち、光学部の中心、または光学部の中心から後方支持部の後端部までの間に位置していてもよい。この場合、後方支持部が重点的にレンズ冷却部によって冷却される一方で、眼内レンズ全体のうちの前方側の温度は後方支持部に比べて下がりにくい。従って、眼内レンズが小さく折り曲げられる際に、眼内レンズ全体のうちの前方側は、後方支持部に比べて柔らかい状態が保たれる。よって、眼内レンズの全体が略均一に冷却される場合に比べて、眼内レンズが適切に小さく折り曲げられる。
【0017】
ただし、レンズ冷却部を設置する位置を変更することも可能である。例えば、レンズ冷却部の前端部は、設置部に設置される眼内レンズのうち、光学部の後端部、または光学部の後端部から前記後方支持部の後端部までの間に位置していてもよい。この場合、後方支持部がより重点的にレンズ冷却部によって冷却される。また、レンズ冷却部は、眼内レンズの全体を略均一に冷却してもよい。
【0018】
冷却部は、押出部材を冷却する押出部材冷却部を含んでいてもよい。押出部材を後方支持部に接触させて後方支持部のタッキングを行う場合には、押出部材を冷却することで、後方支持部における押出部材との接触部位およびその近傍が重点的に冷却される。従って、後方支持部に不適切な屈曲が生じにくい。また、押出部材が眼内レンズの一部(例えば、後方支持部の一部および光学部の一部)に接触すると、眼内レンズにおける押出部材との接触部位が冷却されて硬化する。従って、押出部材が接触部位を押す際に、接触部位およびその近傍にクラック等が生じる可能性が低下する。
【0019】
眼内レンズの樹脂材料のガラス転移温度が18℃以下であってもよい。この場合、眼内レンズは軟性となるため、ノズルを通過する際に小さく折り畳まれる。従って、ノズルの先端の通路面積をより小さくすることができるので、患者眼に形成する切開創を小さくすることが容易である。一方で、眼内レンズが柔らかい程、支持部のタッキングを行う際に不適切な屈曲が生じやすい。これに対し、本開示に係る眼内レンズ挿入器具は、設置部に設置された眼内レンズを冷却部によって冷却した状態で、支持部のタッキングを行うことができる。よって、より適切に手術が行われる。
【0020】
本開示で例示する眼内レンズ挿入システムは、樹脂材料によって成形された変形可能な眼内レンズを患者眼の眼内に挿入するために用いられる。眼内レンズは、光学部と、1つまたは複数の支持部を備える。光学部の形状は円盤形状である。支持部は、光学部から外側に向けて湾曲して延びると共に、先端を自由端とする。本開示における眼内レンズ挿入システムは、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内レンズを患者眼の眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具と、冷却装置とを備える。眼内レンズ挿入器具は、設置部、押出部材、およびノズルを備える。設置部には、支持部が光学部のレンズ面上に折り畳まれていない状態で眼内レンズが設置される。押出部材は、通路の軸に沿って通路内を前方に移動することで、眼内レンズを前方に押し出す。ノズルは、設置部よりも前方に設けられており、前方に向かう程通路面積が小さくなると共に、前端部に挿入口を有する。ノズルは、支持部が光学部のレンズ面上に折り畳まれた状態で、眼内レンズを挿入口から排出する。冷却装置は、設置部に設置された眼内レンズおよび眼内レンズ挿入器具の本体のうちの少なくとも一部を冷却する。
【0021】
本開示における眼内レンズ挿入システムによると、ユーザは、眼内レンズ挿入器具の設置部に設置された眼内レンズを冷却部によって冷却した状態で、支持部のタッキングを行うことができる。従って、タッキングを行う際に、眼内レンズの素材が冷却されて硬化しているので、支持部に不適切な屈曲が生じにくい。よって、支持部のタッキングがより精度良く行われる。
【0022】
眼内レンズの支持部の1つは後方支持部であってもよい。押出部材は、後方支持部の一部に接触しながら前方に移動することで、後方支持部を光学部のレンズ面上に折り畳んでもよい。この場合、押出部材を前方に押し出す動作によって、後方支持部のタッキングと眼内レンズの眼内への挿入が共に行われる。ただし、前述したように、眼内レンズ挿入器具によって後方支持部のタッキングを行うための具体的な方法を変更することも可能である。
【0023】
冷却装置は、レンズ冷却部を含んでいてもよい。レンズ冷却部は、眼内レンズ挿入器具が冷却装置に設置された状態で、眼内レンズ挿入器具の設置部に設置された眼内レンズの少なくとも一部を冷却する。眼内レンズ挿入器具の前後方向において、レンズ冷却部の前端部が、設置部に設置される眼内レンズのうち、光学部の中心、または光学部の中心から後方支持部の後端部までの間に位置していてもよい。この場合、後方支持部が重点的にレンズ冷却部によって冷却される一方で、眼内レンズ全体のうちの前方側の温度は後方支持部に比べて下がりにくい。従って、眼内レンズが小さく折り曲げられる際に、眼内レンズ全体のうちの前方側は、後方支持部に比べて柔らかい状態が保たれる。よって、眼内レンズの全体が略均一に冷却される場合に比べて、眼内レンズが適切に小さく折り曲げられる。ただし、前述したように、設置部に設置された眼内レンズに対するレンズ冷却部の位置を変更することも可能である。
【0024】
冷却装置は、押出部材を冷却する押出部材冷却部を含んでいてもよい。押出部材を後方支持部に接触させて後方支持部のタッキングを行う場合には、押出部材を冷却することで、後方支持部における押出部材との接触部位およびその近傍が重点的に冷却される。従って、後方支持部に不適切な屈曲が生じにくい。また、押出部材が眼内レンズの一部(例えば、後方支持部の一部および光学部の一部)に接触すると、眼内レンズにおける押出部材との接触部位が冷却されて硬化する。従って、押出部材が接触部位を押す際に、接触部位およびその近傍にクラック等が生じる可能性が低下する。
【0025】
また、眼内レンズ挿入システムにおいても、眼内レンズの樹脂材料のガラス転移温度は、前述したように18℃以下であってもよい。
【0026】
<第1実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つである第1実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。なお、以下の説明では、眼内レンズ挿入器具100における本体部101のノズル180側の方向(
図1の紙面左下側)を眼内レンズ挿入器具100の前方、プランジャー300の押圧部370の方向(
図1の紙面右上側)を眼内レンズ挿入器具100の後方とする。また、
図1の紙面上側を眼内レンズ挿入器具100の上方、
図1の紙面下側を眼内レンズ挿入器具100の下方、
図1の紙面右下側を眼内レンズ挿入器具100の右方、
図1の紙面左上側を眼内レンズ挿入器具100の左方とする。
【0027】
図1を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100の全体構成について説明する。眼内レンズ挿入器具100は、変形可能な眼内レンズ1(詳細は後述する)を眼内に挿入するために使用される。眼内レンズ挿入器具100は、本体部101とプランジャー300を備える。本体部101は略筒状であり、本体部101の内部の通路を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状であり、本体部101の内部の通路を前後方向に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部101の内部に充填された眼内レンズ1を押し出す。
【0028】
本実施形態の本体部101およびプランジャー300は、樹脂材料で形成されている。眼内レンズ挿入器具100は、モールド成型、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。眼内レンズ挿入器具100が樹脂材料で形成されることで、使用者は、使用済みの眼内レンズ挿入器具100を容易に廃棄することができる。
【0029】
本実施形態では、粘着性を有する軟性の眼内レンズ1を円滑に眼内に挿入するために、本体部101の内壁に潤滑コーティング処理が行われている。また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具100の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具100の外側から容易に視認することができる。
【0030】
図1を参照して、本体部101について説明する。本体部101は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル(挿入部)180を備える。
【0031】
本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されており、本体部101の後端側(基端側)に位置する。本体筒部110の後端よりもやや前方の外周には、使用者によって把持される張り出し部111が形成されている。
【0032】
設置部130は、本体筒部110の前端側に接続されている。設置部130には眼内レンズ1が設置(充填)される。詳細には、設置部130は保持部160とセット部170を備える。保持部160は、眼内レンズ挿入器具100が保管状態とされている場合に眼内レンズ1を保持する。セット部170は、先端部の軸を中心として回動可能に設けられている。セット部170が回動されると、保持部160に保持されている眼内レンズ1が、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動して位置決めされる。なお、本実施形態では、冷却部の1つであるレンズ冷却部201が設置部130に設けられている。冷却部は、眼内レンズ1および眼内レンズ挿入器具100の本体のうちの少なくとも一部を冷却する。レンズ冷却部201の詳細については後述する。
【0033】
ノズル180は、設置部130の前端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形させるために、前方に向かう程小さくなる。つまり、ノズル180には、先細りの内部空間が形成されている。ノズル180の前端には、先端が斜めに切断された円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の前端には、眼内レンズ1を内部の通路から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。本体部101の内部の通路は、本体筒部110の後端からノズル180の前端の挿入口183まで貫通している。
【0034】
図2を参照して、プランジャー300の概略構成について説明する。本実施形態のプランジャー300は、押出部材310と、軸基部350と、押圧部370を備える。
【0035】
押圧部370は、プランジャー300の後端に形成されている。押圧部370は、押出軸A(
図1参照)と直交する方向に延びる板状の部材である。押圧部370には、使用者がプランジャー300を前方へ押し出す際に、使用者の指が接触する。
【0036】
軸基部350は、押圧部370の前端側から前方に延びる棒状の部材である。本実施形態では、軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略H状となるように形成されている。押出軸Aに直交する断面の形状が略矩形である本体筒部110に、軸基部350が挿入されることで、本体部101に対するプランジャー300の押出軸Aの周方向の回転が抑制される。プランジャー300が前方へ移動し、眼内レンズ1の眼内への挿入が完了する位置に到達すると、軸基部350の前端下部の傾斜面が、本体部101の所定箇所に形成された傾斜面に接触する。その結果、プランジャー300の前端が挿入口183(
図1参照)から過度に突き出ることが防止される。
【0037】
押出部材310は、棒状の部材であり、押出軸Aの軸方向に沿って軸基部350の前端から前方に延びる。押出部材310は、押出軸Aに直交する断面の形状が略円形となるように形成されている。また、押出部材310の太さは、本体部101の挿入口183を通過できる太さとなっている。押出部材310は、本体部101の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動することで、眼内レンズ1のタッキングを行うと共に、眼内レンズ1を挿入口183から眼内に排出する。
【0038】
図3を参照して、眼内レンズ挿入器具100によって眼内に挿入される眼内レンズ1の一例について説明する。眼内レンズ1は、光学部2と支持部3を備える。本実施形態の眼内レンズ1は、光学部2と支持部3が一体成型された、所謂ワンピース型の眼内レンズである。ただし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、光学部2と支持部3が別部材で形成された、所謂3ピース型の眼内レンズにも適用できる。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の樹脂材料を採用できる。
【0039】
眼内レンズ1の樹脂材料のガラス転移温度は、18℃以下である。従って、眼内レンズ1の材料は非常に柔らかい。眼内レンズ1の材料が柔らかい程、眼内レンズ挿入器具100は、ノズル180(特に、ノズル180の挿入部182)を通過させる際に眼内レンズ1を小さく折り畳むことができる。従って、眼内レンズ1の材料を柔らかくする程、挿入部182を小さくすることができる。挿入部182を小さくすると、患者眼に形成する切開創を小さくすることが容易となる。一例として、本実施形態における眼内レンズ1のガラス転移温度は3.6℃である。
【0040】
光学部2は、患者眼に所定の屈折力を与える。光学部2の形状は円盤形状である。光学部2の光軸Oは、光学部2の中心を通り、且つ上下方向に延びる。支持部3は、光学部2を眼内で支持する。一例として、本実施形態の眼内レンズ1には、一対の支持部(前方支持部3A、および後方支持部3B)が設けられている。前方支持部3Aは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、光学部2の外周部から眼内レンズ挿入器具100の前方に向けて湾曲して延び出す(
図4参照)。つまり、前方支持部3Aは、周方向に湾曲したループ形状であり、前方支持部3Aの先端部は自由端とされている。後方支持部3Bは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、光学部2の外周部から眼内レンズ挿入器具100の後方に向けて湾曲して延び出す(
図4参照)。つまり、後方支持部3Bは、周方向に湾曲したループ形状であり、後方支持部3Bの先端部も自由端とされている。
【0041】
図1および
図4を参照して、第1実施形態におけるレンズ冷却部201について説明する。なお、
図4では、眼内レンズ1およびレンズ冷却部201は、本来は設置部130の上壁に覆われている。しかし、それぞれの位置関係の理解を容易にするために、眼内レンズ1およびレンズ冷却部201も
図4において模式的に明示している。
【0042】
レンズ冷却部201は、眼内レンズ1が設置部130に設置された状態、且つ、眼内レンズ1のタッキングが行われていない状態で、眼内レンズ1の少なくとも一部を冷却する。
図1に示すように、第1実施形態のレンズ冷却部201は、設置部130の下部を構成するセット部170の一部に設けられている。ただし、レンズ冷却部201の位置を変更することも可能である。例えば、レンズ冷却部201は、設置部130の下部に代えて、または設置部130の下部と共に、設置部130の上部、左部、右部の少なくともいずれかに設けられていてもよい。
【0043】
第1実施形態のレンズ冷却部201は、冷却を開始するよりも前において、溶解時に吸熱反応を示す物質(以下、「吸熱物質」という)と、吸熱物質を溶解させる液体(以下、「溶解液」という)を、各々を分離させた状態で保持している。吸熱物質には、例えば、硝酸アンモニウム、尿素、塩化アンモニウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム8水和物と硝酸アンモニウムの混合物等の少なくともいずれかが用いられてもよい。溶解液には、例えば水等が用いられてもよい。
【0044】
第1実施形態のレンズ冷却部201では、吸熱物質と溶解液が混合されることで冷却が開始される。一例として、第1実施形態では、眼内レンズ1を保持位置から待機位置に移動させるためにセット部170が回動されると、回動動作によって、吸熱物質と溶解液を分離している分離材(例えば袋等)が破壊される。従って、ユーザが眼内レンズ1を待機位置に移動させると、レンズ冷却部201による冷却が自動的に開始される。ただし、冷却を開始させる方法を変更することも可能である。例えば、分離材を破壊させる衝撃をユーザがレンズ冷却部201に加えることで、冷却が開始されてもよい。ユーザが針等によって分離材を破壊してもよい。また、レンズ冷却部201は、吸熱物質による吸熱反応の代わりに、他の原理を用いて冷却を行ってもよい。例えば、ペルチェ素子等をレンズ冷却部201に用いてもよいし、冷媒ガス(例えばヘリウム等)を用いて冷却を行う原理が用いられてもよい。
【0045】
図4を参照して、設置部130に設置された眼内レンズ1に対するレンズ冷却部201の位置関係について、詳細に説明する。第1実施形態では、眼内レンズ挿入器具100の前後方向において、レンズ冷却部201の前端部D3は、設置部130に設置される眼内レンズ1のうち、光学部2の光軸Oが通る中心の位置D1、または、位置D1から後方支持部3Bの後端部の位置D2までの間に位置している。従って、後方支持部3Bが重点的にレンズ冷却部201によって冷却される一方で、眼内レンズ1の全体のうち前方側の温度は後方支持部3Bに比べて下がり難い。従って、眼内レンズ1が小さく折り曲げられる際に、眼内レンズ1の全体のうちの前方側は、後方支持部3Bに比べて柔らかい状態が保たれる。よって、眼内レンズ1の全体が略均一に冷却される場合に比べて、眼内レンズ1が適切に小さく折り曲げられる。
【0046】
なお、レンズ冷却部201の前端部D3は、光学部2の後端部の位置、または、光学部2の後端部の位置から後方支持部3Bの後端部の位置D2までの間に位置していることがより望ましい。この場合、後方支持部3Bがより重点的に冷却される。なお、第1実施形態では、
図4に示すように、レンズ冷却部201の前端部D3は、光学部2の後端部近傍に位置している。つまり、本実施形態のレンズ冷却部201を換言するなら、眼内レンズ1の一部(例えば後方支持部3B)を局所的に冷却する局所冷却手段と言える。
【0047】
図2を参照して、第1実施形態における押出部材冷却部202について説明する。押出部材冷却部202は、プランジャー300の押出部材310を冷却する。一例として、第1実施形態の押出部材冷却部202は、プランジャー300のうち、押出部材310の基端(つまり、軸基部350のうち、押出部材310が接続される先端部)に設けられている。押出部材冷却部202による冷却が行われると、押出部材310は基端から先端にかけて徐々に冷却される。なお、押出部材310の材質を、眼内レンズ挿入器具100における他の部材の材質よりも熱伝導率が高い材質(例えば金属等)としてもよい。この場合、押出部材310の先端部がより効率よく冷却される。なお、押出部材冷却部202の配置は本開示に限るものではない。例えば、軸基部350の基端等に押出部材冷却部202が設けられていてもよい。
【0048】
また、第1実施形態の押出部材冷却部202では、レンズ冷却部201と同様に、吸熱物質と溶解液が混合されることで冷却が開始される原理が用いられている。詳細には、第1実施形態では、ユーザがプランジャー300を所定位置まで押し進めると、押出部材冷却部202において吸熱物質と溶解液を分離している分離材が破壊される。従って、ユーザは、プランジャー300を押し進めるだけで、押出部材310を容易に冷却することができる。ただし、ユーザが押出部材冷却部202に衝撃等を加えることで、冷却が開始されてもよい。また、ペルチェ素子等が押出部材冷却部202に用いられてもよい。また、押出部材冷却部の位置等を変更することも可能である。例えば、押出部材310の先端が眼内レンズ1の後方支持部3Bの後端部よりも後方の待機位置に位置している状態で、押出部材冷却部が押出部材310の少なくとも先端部を冷却してもよい。この場合、押出部材冷却部202は、眼内レンズ挿入器具100の本体部101のうち、待機位置に位置している押出部材310の先端部と同じ前後方向の位置に設けられていてもよい。また、押出部材310、軸基部350、および押圧部370を含むプランジャー300の全体が、冷却部によって冷却されてもよい。
【0049】
なお、本実施形態では、後方支持部3Bのタッキングが行われる際の後方支持部3Bの温度が、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202によって室温よりも低くなるように、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202の材料、大きさ、位置等が設計されている。眼内レンズ1を眼内に挿入する手術では、一般的に、室温は18℃~28℃に設定される。従って、本実施形態では、タッキングが行われる際に後方支持部3Bの温度が18℃未満とされる。
【0050】
図5および
図6を参照して、本実施形態で例示した技術を採用することによる作用効果について説明する。まず、作業者は、セット部170(
図1参照)を回転させることで、設置部130の保持部160(
図1参照)に保持されている眼内レンズ1を、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動させる。この時点で、レンズ冷却部201による眼内レンズ1(特に、眼内レンズ1の後方支持部3B)の冷却が開始される。
【0051】
ここで、
図5(a)に示すように、保持部160に保持された眼内レンズ1における後方支持部3Bの基端部は、押出軸Aに対して左右のいずれかの方向にずれている。一例として、本実施形態では、後方支持部3Bの基端部は、押出軸Aに対して右側(
図5における下側)に位置する。なお、眼内レンズ1の支持部3A,3Bの各々が延びる左右の方向は、本実施形態と逆の方向であってもよい。なお、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100は、眼内レンズ1が予め内部に充填された、所謂プリセット型の器具である。しかし、本開示で例示する技術は、患者眼に眼内レンズ1を挿入する直前に眼内レンズ1が内部に充填される眼内レンズ挿入器具等にも適用できる。
【0052】
次いで、作業者は、注入器等を用いて充填物(例えば、粘弾性物質、水等)を設置部130内に注入し、プランジャー300の前方への移動を開始させる。その結果、
図5(a)に示すように、プランジャー300の押出部材310が、眼内レンズ1の後方支持部3Bの一部に接触する。前述したように、押出部材310は、押出部材冷却部202によって冷却された状態となっている。従って、後方支持部3Bのうち、押出部材310の先端部と接触する部位およびその近傍は、押出部材310によってさらに冷却されて硬化する。よって、例えば、接触部位およびその近傍にクラック等が生じる可能性が低下する。
【0053】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、
図5(b)に示すように、後方支持部3Bは、押出部材310によって光学部2に近づく方向(つまり前方)に移動していく。その後、後方支持部3Bは、光学部2のレンズ面上(上方)へ変形移動して折り畳まれ、後方支持部3Bの先端が前方を向く。その結果、後方支持部3Bのタッキングが行われる。
【0054】
ここで、
図6に示すように、押出部材310によって後方支持部3Bが前方に変形移動される過程で、後方支持部3Bに不適切な屈曲が生じる場合がある。この場合、本来ならば光学部2のレンズ面上に移動すべき後方支持部3Bの先端部近傍が、光学部2の側面に引っかかる可能性がある。
図6に示す状態で押出部材310がさらに押し進められると、後方支持部3Bの少なくとも一部が光学部2の下方(裏側)に入り込んでしまい、タッキングが正常に行われない。このようなタッキングの異常は、特に、棒状の押出部材310を後方支持部3Bの1点に接触させて押し出す場合に生じやすい。また、このようなタッキングの異常は、後方支持部3Bが柔らかい程生じやすい。
【0055】
これに対し、本実施形態では、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202によって後方支持部3Bが冷却されて硬化している。従って、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202が設けられていない場合に比べて、後方支持部3Bに不適切な屈曲が生じにくい。よって、後方支持部3Bのタッキングが適切に行われやすい。つまり、本実施形態によると、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202によって後方支持部3Bが冷却されて硬化されることで、後方支持部3Bのタッキングの精度向上と、押出部材310との接触部位におけるクラック等の発生防止の効果が共に得られる。
【0056】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、押出部材310が光学部2に接触し、眼内レンズ1の全体が前方へ移動する。ここで、押出部材310は、押出部材冷却部202によって冷却された状態となっている。従って、光学部2のうち、押出部材310の先端部と接触する部位およびその近傍は、押出部材310によって冷却されて硬化する。よって、光学部2にクラック等が生じる可能性も低下する。
【0057】
図5(C)に示すように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触する。詳細には、前方支持部3Aの基端部が、ノズル180の左側の内壁に接触して応力を受けることで、前方支持部3Aが光学部2に近づく方向(つまり後方)に変形する。さらに、前方支持部3Aの先端部近傍は、ノズル180の右側の内壁に接触して応力を受けることで、後方に変形する。その結果、
図5(d)に示すように、前方支持部3Aが光学部2のレンズ面上へ変形移動して折り畳まれ、前方支持部3Aの先端が後方を向く。つまり、前方支持部3Aのタッキングが行われる。
【0058】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、眼内レンズ1の光学部2も、先細りとなっているノズル180の内壁に接触する。その結果、
図5(d)(e)に示すように、眼内レンズ200は、前方支持部203および後方支持部207のタッキングが行われた状態で小さく折り畳まれていく。その後、眼内レンズ200は、挿入口183から眼内に挿入される。ここで、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202は、眼内レンズ1における後部(例えば、後方支持部3B)を重点的に冷却している。従って、眼内レンズ1の前方側は、後方支持部3Bに比べて柔らかい状態が保たれる。よって、眼内レンズ1は適切に小さく折り畳まれる。
【0059】
(第2実施形態)
図7を参照して、本開示の第2実施形態に係る眼内レンズ挿入システム400について説明する。なお、以下説明する第2実施形態では、患者眼の眼内に挿入される眼内レンズには、第1実施形態で説明した眼内レンズ1と同様の眼内レンズを用いることができる。従って、眼内レンズの詳細な説明は省略する。また、第2実施形態の眼内レンズ挿入システム400に含まれる眼内レンズ挿入器具100の構成は、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202が設けられない点以外は、第1実施形態で説明した眼内レンズ挿入器具100と同様の構成を採用できる。従って、眼内レンズ挿入器具100の詳細な説明も省略する。
【0060】
図7に示すように、第2実施形態における眼内レンズ挿入システム400は、眼内レンズ挿入器具100と冷却装置401を備える。冷却装置401は、眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された眼内レンズ1および眼内レンズ挿入器具100のうちの少なくとも一部を冷却する。冷却装置401の前面にはスイッチ402が設けられている。ユーザは、スイッチ402を操作することで、冷却の実行と停止を切り替えることができる。
【0061】
冷却装置401には、本体部装着部410が設けられている。本体部装着部410には、眼内レンズ挿入器具100における本体部101が装着される。本実施形態の本体部装着部410は冷却装置401の上部に設けられており、本体部101は、本体部装着部410上に上方から載置されることで装着される。詳細には、本体部装着部410は、冷却装置401の上面を下方に窪ませることで形成されている。本体部装着部410の外形は、本体部101の外形に略一致している。従って、本体部101は、本体部装着部410における所定の位置に装着される。
【0062】
本体部装着部410には、レンズ冷却部411が設けられている。レンズ冷却部411は、眼内レンズ挿入器具100の本体部101が本体部装着部410に設置された状態で、本体部101の設置部130に設置された眼内レンズ1の少なくとも一部を冷却する。第2実施形態のレンズ冷却部411は、本体部装着部410における底の面のうちの一部に設けられている。詳細には、第2実施形態では、設置部130に設置された眼内レンズ1とレンズ冷却部411の位置関係は、前述した第1実施形態における眼内レンズとレンズ冷却部201の位置関係(
図4参照)が採用されている。つまり、第2実施形態でも第1実施形態と同様に、眼内レンズ挿入器具100の前後方向において、レンズ冷却部411の前端部は、眼内レンズ1の光学部2の光軸Oが通る中心、または、光学部2の中心から後方支持部3Bの後端部までの間に位置している。従って、後方支持部3Bが重点的に冷却される。なお、第1実施形態のレンズ冷却部201と同様に、レンズ冷却部411の位置等を変更することも可能である。
【0063】
冷却装置401には、プランジャー装着部420が設けられている。プランジャー装着部420には、眼内レンズ挿入器具100のプランジャー300が装着される。本実施形態のプランジャー装着部420は冷却装置401の上部に設けられており、プランジャー300は、プランジャー装着部420に上方から載置されることで装着される。詳細には、プランジャー装着部420は、冷却装置401の上面を下方に窪ませることで形成されている。プランジャー装着部420の外形は、プランジャー300の外形に略一致している。従って、プランジャー300は、プランジャー装着部420における所定の位置に装着される。
【0064】
プランジャー装着部420には、押出部材冷却部422が設けられている。押出部材冷却部422は、プランジャー装着部420に装着されたプランジャー300の押出部材310を冷却する。一例として、第2実施形態の押出部材冷却部422は、押出部材310の全体を冷却する。しかし、押出部材冷却部422は、押出部材310の一部(例えば、押出部材310の先端部)を冷却してもよい。
【0065】
第2実施形態の眼内レンズ挿入システム400によると、ユーザは、冷却装置401による眼内レンズ1および押出部材310の冷却が行われた状態で手術を行うことで、前述した第1実施形態と同様に適切な手術を行うことができる(
図5参照)。
【0066】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、第1実施形態の眼内レンズ挿入器具100は、レンズ冷却部201と押出部材冷却部202を備える。しかし、レンズ冷却部201および押出部材冷却部202の一方のみが設けられていてもよい。また、眼内レンズ挿入器具100は、眼内レンズ1の全体を冷却する冷却部を備えていてもよい。また、第2実施形態の冷却装置401も同様に、レンズ冷却部411および押出部材冷却部422の一方のみを備えていてもよいし、眼内レンズ1の全体を冷却する冷却部を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 眼内レンズ
100 眼内レンズ挿入器具
180 ノズル
182 挿入部
183 挿入口
201 レンズ冷却部
202 押出部材冷却部
300 プランジャー
310 押出部材
400 眼内レンズ挿入システム
401 冷却装置
410 本体部装着部
411 レンズ冷却部
420 プランジャー装着部
422 押出部材冷却部