(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20220712BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20220712BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/22 C
B60C9/22 A
D07B1/06 A
(21)【出願番号】P 2018029567
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 陽平
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-520217(JP,A)
【文献】特開2001-032184(JP,A)
【文献】特開2002-234032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
D07B 1/00- 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと、このトレッドの半径方向内側に位置するバンドとを備えており、
上記バンドが、螺旋状に巻回されたコードを含んでおり、
上記コードが、3本以上
4本以下のスチールからなるフィラメントを撚り合わせた、単撚りの構造を有しており、
このコードの延在方向に垂直な断面において、これらのフィラメントの断面を囲む最小の円の直径がφとされ、フィラメントの直径がψとされたとき、
上記直径φが直径ψの3倍以上6倍以下となるように、これらのフィラメント間に隙間が設けられており
、
上記コードの初期伸びが0.1%以上1.5%以下であり、
上記バンドが、センター部と、このセンター部の軸方向外側に位置する一対のサイド部とを備えており、
上記コードの上記センター部での初期伸びと、このコードの上記サイド部における初期伸びとが異なっている空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記フィラメントの直径ψが、0.15mm以上0.35mm以下である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記コードのクローズ点での引っ張り力が、30N以上である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記コードが降伏するときの圧縮力が、150N以上である請求項1から3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記コードのタイヤの周方向に対する角度が15°以下である請求項1から4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
上記コードの上記センター部での初期伸びが、このコードの上記サイド部における初期伸びより小さい、請求項1から5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
上記フィラメントの数が3
本である、請求項1から6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、二輪自動車に装着される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪自動車用のタイヤは、トレッドの内側にバンドを備えている。バンドは、螺旋状に巻回されたコードを含んでいる。コードの典型的な材質は、スチールである。コードがスチールからなるバンドは、高速安定性や高速耐久性に寄与する。さらに、コードには、良好な乗り心地に寄与することも求められている。
【0003】
二輪自動車では、四輪自動車に比べて、一般にタイヤに負荷される荷重は小さい。このため、バンドには、良好な乗り心地が実現できる、しなやかで伸びの大きなコードが使用される。例えば、バンドのコードとして、複撚りのコードが使用される。耐久性や乗り心地に寄与するタイヤ用のコードについての検討が、特開2012-140718公報で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バンドのコードとして複撚りのコードを使用する場合は、コストの低減が課題となる。一方単撚りのコードでは、しなやかさや伸びの向上が課題となる。さらに、単撚りのコードは、圧縮剛性が高い。二輪自動車のトレッドは曲率半径が小さいため、荷重が負荷されたときのトレッドの変形により、バンドには圧縮力がかかり易い。単撚りのコードの使用においては、大きな圧縮力が負荷されたときのバックリングによる、急激な剛性感の変化を防止することも課題となる。
【0006】
本発明の目的は、低いコストで、良好な乗り心地とバックリングの防止とが実現された空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドと、このトレッドの半径方向内側に位置するバンドとを備えている。上記バンドは、螺旋状に巻回されたコードを含む。上記コードは、3本以上6本以下のスチールからなるフィラメントを撚り合わせた、単撚りの構造を有する。このコードの延在方向に垂直な断面において、これらのフィラメントの断面を囲む最小の円の直径がφとされ、フィラメントの直径がψとされたとき、フィラメントの数が3本又は4本のときは、直径φが直径ψの3倍以上6倍以下となるように、これらのフィラメント間に隙間が設けられており、フィラメントの数が5本又は6本のときは、直径φが直径ψの3.5倍以上7倍以下となるように、これらのフィラメント間に隙間が設けられている。上記コードの初期伸びは、0.1%以上1.5%以下である。
【0008】
好ましくは、上記フィラメントの直径ψは、0.15mm以上0.35mm以下である。
【0009】
好ましくは、上記コードのクローズ点での引っ張り力は、30N以上である。
【0010】
好ましくは、上記コードが降伏するときの圧縮力は、150N以上である。
【0011】
好ましくは、上記バンドが、センター部と、このセンター部の軸方向外側に位置する一対のサイド部とを備えており、上記コードの上記センター部での初期伸びと、このコードの上記サイド部における初期伸びとが異なっている。
【0012】
好ましくは、上記コードのタイヤの周方向に対する角度は、15°以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤでは、バンドのコードは、スチールからなるフィラメントを撚り合わせた単撚りの構造を有している。単撚りであるこのコードのコストは低い。このコードでは、フィラメントの数が3本又は4本のときは、フィラメントの断面を囲む最小の円の直径φがフィラメントの直径ψの3倍以上6倍以下となり、フィラメントの数が5本又は6本のときは、この直径φがこの直径ψの3.5倍以上7倍以下となるように、フィラメント間に隙間が設けられている。このコードは、「緩く」撚り合わされている。このため、このコードは、しなやかで伸びが大きい。このタイヤは、乗り心地に優れる。
【0014】
このタイヤでは、コードが緩く撚り合わされているため、コードの圧縮剛性は抑えられている。さらにこのコードは、初期伸びが適切に調整されている。これらは、バックリングの抑制に寄与する。このタイヤでは、バックリングが抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のタイヤのバンドの形成に用いられる帯状プライが示された断面斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1のタイヤのバンドのコードが示された断面図である。
【
図4】
図4は、バンドの形成の様子が示された模式図である。
【
図5】
図5(a)は引っ張り力が負荷されたときの
図1のタイヤのバンドのコードが示された断面図であり、(b)は圧縮力が負荷されたときの
図1のタイヤのバンドのコードが示された断面図である。
【
図6】
図6は、
図1のタイヤのバンドのコードの、引っ張り力と変異との関係が示されたグラフである。
【
図7】
図7は、
図1のタイヤのバンドのコードの、圧縮力と変異との関係が示されたグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの、バンドのコードが示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ2が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0018】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、インナーライナー12、一対のチェーファー14及びバンド16を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、二輪自動車に装着される。このタイヤ2は、二輪自動車の後輪に装着される。
【0019】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接触するトレッド面18を形成する。トレッド4には、溝20が刻まれている。この溝20により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は架橋ゴムからなる。このトレッド4の架橋ゴムには、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性が考慮されている。
【0020】
このタイヤ2は、二輪自動車に装着される。
図1に示されるように、このタイヤ2のトレッド面18の輪郭は大きく湾曲している。このタイヤ2では、直進走行においては、クラウン領域が主に路面と接触する。旋回時にライダーは、車両を傾けて走行させる。このため、旋回走行においては、ショルダー領域が主に路面と接触する。
【0021】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス10の損傷を防止する。
【0022】
それぞれのビード8は、サイドウォール6よりも半径方向内側に位置している。ビード8は、コア22と、エイペックス24とを備えている。コア22はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス24は、コア22から半径方向外向きに延びている。エイペックス24は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス24は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0023】
カーカス10は、カーカスプライ26を備えている。このタイヤ2では、カーカス10は1枚のカーカスプライ26からなる。カーカスプライ26は、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ26は、コア22の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。このカーカス10が、2枚以上のカーカスプライ26から構成されてもよい。
【0024】
図示されていないが、カーカスプライ26は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス10はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0025】
インナーライナー12は、カーカス10の内側に位置している。インナーライナー12は、カーカス10の内面に接合されている。インナーライナー12は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー12の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー12は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0026】
それぞれのチェーファー14は、ビード8の近傍に位置している。タイヤ2がリム(図示されず)に組み込まれると、このチェーファー14がリムと当接する。この当接により、ビード8の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー14は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。架橋ゴムからなるチェーファー14が採用されてもよい。
【0027】
バンド16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。バンド16は、半径方向において、トレッド4とカーカス10との間に位置している。バンド16は、トレッド面18の一方の端側から他方の端側まで、カーカス10に沿って延在している。
【0028】
図示されないが、このタイヤ2が、バンド16とカーカス10との間に、ベルトを備えていてもよい。このベルトは、内側層と外側層とを備える。それぞれの層は、並列された複数のコードとトッピングゴムとからなる。ベルトが、内側層のみから構成されていてもよい。
【0029】
後述するとおり、バンド16は帯状プライ28が巻回されて形成される。
図2には、この帯状プライ28が示されている。図で示されるように、帯状プライ28は、コード32と、このコード32を被覆するトッピングゴム34とを備える。この帯状プライ28は、5本のコード32を含んでいる。これらのコード32は、帯状プライ28の幅方向に並列されている。この帯状プライ28に含まれるコード32の本数は、4本以下でもよく6本以上でもよい。この帯状プライ28に含まれるコード32の本数は、タイヤ2の仕様、生産性等が考慮され、適宜決められる。
【0030】
図2に示されるように、それぞれのコード32は、複数のフィラメント36が撚り合わされた単撚りの構造を有する。
図2の実施形態では、コード32は4本のフィラメント36からなる。フィラメント36の材質は、スチールである。
図2で示されるように、これらのフィラメント36間には、隙間が設けられている。換言すれば、これらのフィラメント36は、「緩く」巻かれている。
【0031】
バンド16は、帯状プライ28が螺旋状に巻回されて形成されるため、バンド16は螺旋状に巻回されたコード32を含む。このバンド16は、いわゆるジョイントレス構造を有する。周方向に対するコード32の角度は、15°以下である。
【0032】
図3には、バンド16に含まれるコード32の断面が示されている。このコード32は4本のフィラメント36から形成されているため、コード32の断面には、4つのフィラメント36の断面38が存在する。フィラメント36が緩く巻かれているため、バンド16のコード32の断面においても、フィラメント36の断面38間には、隙間が存在している。
【0033】
図3において、二点差線で示されている円Eは、これらのフィラメント36の断面38を囲む最小の円である。両矢印φは、この円Eの直径を表す。両矢印ψは、1本のフィラメント36の直径を表す。このバンド16では、直径φは、直径ψの3倍以上6倍以下となるように、フィラメント36間に隙間が設けられる。
【0034】
本発明において、上記直径φの測定においては、タイヤ2を無作為に選んだ位置でコード32の延在方向と垂直方向に切断し、このときのバンド16の断面内に位置する全てのコード32の断面について、円Eの直径が計測される。これらの直径を平均したのが、直径φとされる。
【0035】
このタイヤ2のバンド16は、センター部Cと一対のサイド部Sとを備えている。このバンド16は、センター部Cと一対のサイド部Sとからなる。センター部Cは、バンド16の軸方向中心部分に位置している。それぞれのサイド部Sは、軸方向において、センター部Cの外側に位置している。
図1の符号CSは、センター部Cとサイド部Sとの境界を表している。
【0036】
このタイヤ2では、コード32の、センター部Cにおける初期伸びとそれぞれのサイド部Sにおける初期伸びとは異なっている。この実施形態では、コード32の、センター部Cにおける初期伸びは、サイド部Sにおける初期伸びより小さい。コード32の、一方のサイド部Sにおける初期伸びと、他方のサイド部Sにおける初期伸びとは同等である。このタイヤ2では、コード32の初期伸びは0.1%以上1.5%以下である。すなわち、センター部Cにおける初期伸びは0.1%以上であり、サイド部Sにおける初期伸びは1.5%以下である。
【0037】
本発明においては、コード32の初期伸びは、市販の引張試験機を用いて「JIS G3510」に準拠して、コード32の引張試験を行い特定される。具体的には、タイヤ2のバンド16から採取されたコード32について、下記の測定条件で引張試験を行って得られる、荷重が5Nから20Nまで変位したときの伸びの変位量が、初期伸びとして計測される。
つかみ間隔:250mm
引張速度:50mm/min
測定温度:23℃
【0038】
このタイヤ2の製造方法は、ローカバーが得られる工程及びこのローカバーが加硫される工程を含む。ローカバーが得られる工程では、複数のタイヤ2の構成部材が組み合わされて、ローカバーが形成される。ローカバーが得られる工程は、さらにバンド16を形成する工程を含む。
【0039】
バンド16を形成する工程では、前述したように、帯状プライ28が螺旋状に巻回される。この形成の様子が、
図4に示されている。バンド16の形成には、フォーマー40が使用される。
【0040】
フォーマー40は、ボビン42とドラム44とを備えている。ボビン42は、矢印RBで示された方向に回転できる。ボビン42の回転速度は図示されない手段により調整されうる。ボビン42には、帯状プライ28が巻かれている。ドラム44は、矢印RDで示された方向に回転できる。このフォーマー40では、ドラム44の回転速度は図示されない手段により調整されうる。図示されないが、バンド16を形成する工程の以前の工程において、フォーマー40の外面には、カーカスプライ26が積層されている。
【0041】
バンド16を形成する工程では、ボビン42に巻かれた帯状プライ28が、ドラム44に送り出される。帯状プライ28は、カーカスプライ26上に巻回される。このタイヤ2の製造では、ドラム44は一定の速度で回転させられる。ボビン42の回転速度を調整することで、帯状プライ28にかかるテンションがコントロールされる。このテンションは、帯状プライ28に含まれるコード32の初期伸びに影響する。負荷されるテンションを大きくすることで、コード32の初期伸びを小さくできる。負荷されるテンションを小さくすることで、コード32の初期伸びを大きくできる。
【0042】
この工程では、一方のバンド16の端に相当する位置から他方のバンド16の端に相当する位置まで、一本の帯状プライ28が巻回される。このとき、一方のバンド16の端に相当する位置から一方の境界CSに相当する位置まで、小さなテンションが帯状プライ28に負荷される。この境界CSに相当する位置から他方の境界CSに相当する位置まで、大きなテンションが帯状プライ28に負荷される。そして、この境界CSに相当する位置から他方のバンド16の端に相当する位置まで、小さなテンションが帯状プライ28に負荷される。これにより、コード32の、センター部Cにおける初期伸びがサイド部Sにおける初期伸びより小さくされたバンド16が得られる。これにて、バンド16を形成する工程が終了する。
【0043】
帯状プライ28の巻き方は、上記の方法に限られない。フォーマー40が二つのボビン42を備えており、それぞれのボビン42から供給される2本の帯状プライ28を巻き回すことで、バンド16が形成されてもよい。このとき、一方の帯状プライ28が、一方のバンド16の端に相当する位置から中央に向けて巻かれ、他方の帯状プライ28が、バンド16の中央に相当する位置から他方のバンド16の端に相当する位置に向けて巻かれる。それぞれの帯状プライ28が、バンド16の中央に相当する位置から、外側に向けて巻回されてもよい。
【0044】
バンド16を形成する工程が終了すると、このバンド16の外側にトレッド4が積層される。これにより、ローカバーが得られる。これによりローカバーを形成する工程が終了する。
【0045】
ローカバーが加硫される工程では、ローカバーが、モールド(図示されず)に投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー又は剛体コア22(中子とも称される)に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。
【0046】
以下では、本発明の作用効果が説明される。
【0047】
本発明に係る空気入りタイヤ2では、バンド16のコード32は、スチールからなるフィラメント36を撚り合わせた単撚りの構造を有している。単撚りであるこのコード32のコストは低い。このタイヤ2では、小さなコストが実現されている。
【0048】
このタイヤ2のバンド16のコード32では、フィラメント36の断面38を囲む最小の円の直径φが、フィラメント36の直径ψの3倍以上6倍以下となるように、これらのフィラメント36間に隙間が設けられている。このコード32は、「緩く」撚り合わされている。このコード32は、しなやかである。このコード32は、しなやかに曲がることができる。
図5(a)に、引っ張り力が負荷されたときのコード32の断面が示されている。引っ張り力が負荷されたとき、緩く撚り合わされたフィラメント36が互いに密着する状態となることで、コード32が伸ばされる。このコード32は、従来の単撚りのコード32と比べて、伸びが大きい。しなやかで伸びが大きいコード32は、良好な乗り心地に寄与する。このタイヤ2は、乗り心地に優れる。
【0049】
図5(b)に、圧縮力が負荷されたときのコード32の断面が示されている。圧縮力が負荷されたとき、緩く撚り合わされたフィラメント36は、その間隔が開き易い。フィラメント36の断面38間に隙間があるので、圧縮力が負荷されたとき、フィラメント36の径が変化し易い。このコード32では、圧縮剛性が抑えられている。このタイヤ2では、バンド16に大きな圧縮力が負荷されても、柔軟に変形しうる。バックリングによる、急激な剛性の変化が抑えられている。このタイヤ2は、耐バックリング性に優れる。
【0050】
このコード32は、直径φが、フィラメント36の直径ψの6倍以下である。コード32の直径φが抑えられているため、このバンド16は、十分なコード32密度を有することができる。このバンド16は、十分な拘束力を有する。これは、高速安定性に寄与する。さらに、コード32の直径φを抑えることは、バンド16の厚みの抑制に寄与する。これは、タイヤ2の質量の増加を抑える。
【0051】
上記のとおり、このコード32では圧縮剛性が抑えられている。このコード32は圧縮力の大きさに追従して変形することができる。このバンド16は、圧縮力に対してリニアに撓む。これは、乗り心地及び操縦安定性に寄与する。このタイヤ2では、優れた乗り心地及び操縦安定性が実現されている。
【0052】
上記のとおり、このコード32は引っ張り力が負荷されたとき、緩く撚り合わされたフィラメント36が互いに密着する状態となる。このとき、フィラメント36の隙間に入り込んでいたゴムが、フィラメント36間に挟み込まれる。これは、タイヤ2に高い荷重が負荷されたときの、良好な「踏ん張り感」に寄与する。
【0053】
図6は、このコード32に負荷される引っ張り力と、コード32の変位との関係が示されたグラフである。引っ張り力が負荷されたとき、緩く撚り合わされたフィラメント36が互いに密着するまでは、変位の引っ張り力に対する変化率(傾き)は大きい。コード32が密着した後は、フィラメント36自体の変位がコード32の変位となるため、傾きは小さくなる。この傾きが変化する点は、クローズ点と称される。具体的には、5Nから20Nまでの引っ張り力の間での傾きに対して、傾きが70%小さくなった点が、クローズ点である。
【0054】
コード32のクローズ点における引っ張り力Cpは、30N以上が好ましい。クローズ点での引っ張り力Cpが30N以上のコード32は、しなやかで伸びが大きい。このコード32は、乗り心地に効果的に寄与する。このタイヤ2は、乗り心地に優れる。
【0055】
本発明においては、クローズ点は、市販の引張試験機を用いて「JIS G3510」に準拠して、コード32の引張試験を行い特定される。具体的には、タイヤ2のバンド16から採取されたコード32について、下記の測定条件で引張試験を行う。クローズ点は、荷重が0Nからコード32が破断するまでの変位を計測して得られた
図6のグラフから計算される。
つかみ間隔:250mm
引張速度:50mm/min
測定温度:23℃
【0056】
図7は、このコード32に負荷される圧縮力と、コード32の変位との関係が示されたグラフである。負荷された圧縮力が小さい領域では、緩く撚り合わされたフィラメント36の間隔及びフィラメント36の径が広がるため、傾きは大きい。圧縮力が大きくなると、これらの広がりが小さくなり、傾きも小さくなる。コード32はやがて降伏する。
【0057】
コード32が降伏するときの圧縮力Bpは、150N以上が好ましい。降伏するときの圧縮力Bpが150N以上のコード32は、大きな圧縮力に対しても、柔軟に変形しうる。これは、耐バックリング性に効果的に寄与する。このタイヤ2は、耐バックリング性に優れる。
【0058】
本発明においては、降伏するときの圧縮力Bpは、市販の圧縮試験機を用いてコード32の圧縮試験を行い特定される。具体的には、タイヤ2のバンド16から採取されたコード32について、下記の測定条件で圧縮試験を行う。
つかみ間隔:250mm
圧縮速度:50mm/min
測定温度:23℃
【0059】
このタイヤ2では、コード32の初期伸びは、0.1%以上である。コード32の初期伸びを0.1%以上とすることで、コード32の剛性が適度に抑えられる。このタイヤ2は、乗り心地及び衝撃の吸収性に優れる。また、コード32の剛性を適度に抑えることは、バックリングの抑制に寄与する。さらに、初期伸びをこのようにすることで、コード32が降伏するのに必要な圧縮力を大きくすることができる。このタイヤ2は、耐バックリング性に優れる。これらの観点から、コード32の初期伸びは、0.4%以上がより好ましい。
【0060】
このタイヤ2では、コード32の初期伸びは、1.5%以下である。コード32の初期伸びを1.5%以下とすることで、このコード32はバンド16の拘束力に効果的に寄与する。このタイヤ2は、高速安定性に優れる。この観点から、コード32の初期伸びは、1.0%以下がより好ましい。
【0061】
このバンド16では、コード32の初期伸びは、適正に整えられている。コード32の、センター部Cにおける初期伸びは、サイド部Sにおける初期伸びと異なっている。このように、センター部Cとサイド部Sの初期伸びをそれぞれ調整することにより、このタイヤ2には、要求に応じた性能を持たせることができる。
【0062】
図1において、両矢印WBは、軸方向における赤道面CLからバンド16の外側端までの距離を示す。両矢印WCは、軸方向における赤道面CLからセンター部Cとサイド部Sとの境界CSまでの距離を示す。距離WCの距離WBに対する比(WC/WB)は、30%以上70%以下が好ましい。比(WC/WB)を30%以上70%以下とし、このセンター部Cとサイド部Sの初期伸びをそれぞれ調整することにより、このタイヤ2には、要求に応じた性能を持たせることができる。
【0063】
この実施形態のバンド16では、前述のとおり、コード32の、センター部Cにおける初期伸びは、サイド部Sにおける初期伸びより小さい。換言すれば、サイド部Sの剛性は、センター部Cの剛性よりも低い。二輪自動車では、旋回時には、ライダーが車両を倒し込む。このとき、トレッド4の、このサイド部Sの半径方向外側部分が主に接地する。このタイヤ2では、ライダーが車両を倒し込むほど、剛性が低くなる。これは、旋回時の接地感に効果的に寄与する。このタイヤ2は、旋回時の接地感に優れる。サイド部Sの剛性に比して剛性が高いセンター部Cは、直進時の高速走行安定性に寄与する。このタイヤ2では、直進時の良好な高速走行安定性が実現されている。
【0064】
コード32の、センター部Cにおける初期伸びは、サイド部Sにおける初期伸びより大きくてもよい。このとき、サイド部Sの剛性は、センター部Cの剛性よりも高い。このタイヤ2では、ライダーが車両を倒し込むほど、剛性が高くなる。これは、コーナーから抜けるときのトラクションの向上に寄与する。サイド部Sの剛性に比して剛性が低いセンター部Cは、直進時の乗り心地に寄与する。このタイヤ2では、直進時の良好な乗り心地が実現されている。
【0065】
なお、タイヤ2に要求される性能によっては、コード32の、センター部Cにおける初期伸びとサイド部Sにおける初期伸びとが同じとなってもよい。
【0066】
このバンド16では、フィラメント36の直径ψは、0.15mm以上0.35mm以下が好ましい。直径ψを0.15mm以上とすることで、このコード32は十分な剛性及び耐久性を有する。直径ψを0.35mm以下とすることで、このフィラメント36はコード32のしなやかさの実現に寄与する。
【0067】
本発明では、特に言及がない限り、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リム(図示されず)に組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。以下のタイヤでも同様である。
【0068】
上記の実施形態では、それぞれのコード32が有するフィラメント36の本数Nは、4本の例が示された。タイヤによって、コードが有するフィラメントの本数Nは、3本以上6本以下の値とされる。この本数Nは、タイヤに要求される性能やコストにより決められる。例えば、低コストが求められるタイヤでは、本数Nは、3本又は4本とされる。高い荷重が負荷されるタイヤでは、本数Nは、5本又は6本とされる。
【0069】
図8には、フィラメント52の数が3本であるコード54の断面が示されている。このコード54を有するバンドにおいても、直径φは、直径ψの3倍以上6倍以下となるように、フィラメント52間に隙間が設けられている。
【0070】
この実施形態におけるタイヤ50では、バンドのコード54は、スチールからなるフィラメント52を撚り合わせた単撚りの構造を有している。単撚りであるこのコード54のコストは低い。このタイヤ50では、小さなコストが実現されている。
【0071】
このタイヤ50のバンドのコード54では、これらのフィラメント52間に隙間が設けられている。このコード54は、「緩く」撚り合わされている。このコード54は、しなやかである。このコード54は、従来のコード54と比べて、伸びが大きい。しなやかで伸びが大きいコード54は、良好な乗り心地に寄与する。このタイヤ50は、乗り心地に優れる。
【0072】
圧縮力が負荷されたとき、緩く撚り合わされたフィラメント52は、その間隔が開き易い。フィラメント52の断面間に隙間があるので、圧縮力が負荷されたとき、フィラメント52の径が変化し易い。このコード54は、圧縮剛性が抑えられている。このタイヤ50では、バンドに大きな荷重が負荷されても、柔軟に変形しうる。バックリングによる、急激な剛性の変化が抑えられている。このタイヤ50は、耐バックリング性に優れる。
【0073】
図示されないが、フィラメントの数が5本又は6本の場合は、直径φは、直径ψの3.5倍以上7倍以下となるように、フィラメント間に隙間が設けられる。このタイヤにおいても、小さなコストが実現されている。このタイヤにおいても、良好な乗り心地及びに耐バックリング性が実現されている。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0075】
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、190/55R17であった。このタイヤのコードの諸元が、表1に示されている。このコードは、4本のフィラメントからなる単撚りの構造を有する。このことが、「コード構造」の欄に、「1×4」として示されている。このコードのフィラメントの直径ψは、0.25mmとされた。このタイヤでは、距離WCの距離WBに対する比(WC/WB)は40%であった。
【0076】
[比較例1]
比(φ/ψ)及び初期伸びを表1の通りとした他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。このタイヤでは、コードのフィラメントは、きつく巻かれている。コード間の隙間は、実施例1と同じとされた。これは、従来のタイヤである。
【0077】
[実施例2]
比(φ/ψ)を表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0078】
[実施例3-4]
初期伸びを表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例3-4のタイヤを得た。
【0079】
[実施例5]
コードの構造を表1の通りにした他は実施例1と同様にして、実施例5のタイヤを得た。
【0080】
[乗り心地及び耐バックリング性]
上記タイヤを正規リム(リムサイズ=MT6.00)に組み込み、排気量が1000ccであるスポーツタイプの二輪自動車の後輪に装着した。その内圧が290kPaとなるように、空気を充填した。前輪には、市販のタイヤ(サイズ:120/70R17)を装着した。この二輪自動車を、その路面がアスファルトであるサーキットコース及び市街地で走行させて、ライダーによる官能評価を行った。評価項目は、乗り心地及び耐バックリング性である。この結果が、比較例1を100とする指数で、表1に示されている。乗り心地及び耐バックリング性のいずれも、数値が大きいほど優れている。数値が大きいほど好ましい。
【0081】
[質量]
タイヤの質量を計測した。この結果の逆数が、比較例1を100とした指数で表1に示されている。数値が大きいほど、質量が小さいことが示されている。数値が大きいほど、好ましい。
【0082】
[コスト]
バンドの形成に必要なコストが計算された。この結果の逆数が、比較例1を100とした指数で表1に示されている。数値が大きいほど、コストが小さいことが示されている。数値が大きいほど、好ましい。
【0083】
【0084】
表1に示されるように、実施例のタイヤは、総合的に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明されたバンドに関する技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0086】
2、50・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・カーカス
12・・・インナーライナー
14・・・チェーファー
16・・・バンド
18・・・トレッド面
20・・・溝
22・・・コア
24・・・エイペックス
26・・・カーカスプライ
28・・・帯状プライ
32、54・・・コード
34・・・トッピングゴム
36、52・・・フィラメント
38・・・フィラメントの断面
40・・・フォーマー
42・・・ボビン
44・・・ドラム