(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】反力発生装置及び鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20220712BHJP
G10B 3/12 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G10H1/34
G10B3/12 130
(21)【出願番号】P 2018056561
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2017074723
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】田之上 美智子
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 一郎
【審査官】泉 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068967(JP,A)
【文献】特開2003-022073(JP,A)
【文献】特開2007-025576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
G10B 1/00-3/24
G10C 1/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部、及び、前記基部から膨出し弾性材で成るドーム部を有し、前記ドーム部の軸心に直交する断面形状が略線対称で且つ、対称軸と前記軸心とを含む仮想面に対して前記ドーム部の立体形状が略対称である被押圧体と、
前記ドーム部の先端に対向する対向面を有する対向部材と、を備え、
前記対向部材は、非操作状態において前記被押圧体から離れて配置され、
前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、そこに加えられる押圧操作に応じて揺動的運動を行うように構成されており、該押圧操作に応じて、前記対向部材が前記基部に対して相対的に近づき、該相対的に近づく過程で前記対向面と前記先端との接触によって前記ドーム部が変形し、該相対的に近づくことは、前記基部に対する前記対向部材の最大可動範囲に対応する押圧終了状態において停止され、
前記仮想面は、前記被押圧体に押圧操作が加えられていない初期状態から前記押圧終了状態までの全押圧行程において変化しないように規定され、
前記押圧行程における前記対向面の法線に対して前記軸心がなす相対的な角度の変化量については、初期状態から前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第1の変化量から、初期状態から前記押圧終了状態に遷移するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第2の変化量までの角度範囲に、初期状態における前記軸心と前記対向面の前記法線とが形成する鋭角側の角度が収まるように、前記被押圧体及び前記対向部材の構成が規定され、
前記角度の前記第1の変化量は0度より大き
く、
前記軸心は、前記ドーム部の先端面の図心を通る直線であって、前記直線の所定の長さ範囲内では、任意の位置における直交面に関する前記ドーム部の断面形状が互いに相似形となるような直線であることを特徴とする反力発生装置。
【請求項2】
基部、及び、前記基部から膨出し弾性材で成るドーム部を有し、前記ドーム部の軸心に直交する断面形状が略線対称で且つ、対称軸と前記軸心とを含む仮想面に対して前記ドーム部の立体形状が略対称である被押圧体と、
前記ドーム部の先端に対向する対向面を有する対向部材と、を備え、
前記対向部材は、非操作状態において前記被押圧体から離れて配置され、
前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、そこに加えられる押圧操作に応じて揺動的運動を行うように構成されており、該押圧操作に応じて、前記対向部材が前記基部に対して相対的に近づき、該相対的に近づく過程で前記対向面と前記先端との接触によって前記ドーム部が変形し、該相対的に近づくことは、前記基部に対する前記対向部材の最大可動範囲に対応する押圧終了状態において停止され、
前記仮想面は、前記被押圧体に押圧操作が加えられていない初期状態から前記押圧終了状態までの全押圧行程において変化しないように規定され、
前記押圧行程における前記対向面の法線に対して前記軸心がなす相対的な角度の変化量については、初期状態から前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第1の変化量から、初期状態から前記押圧終了状態に遷移するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第2の変化量までの角度範囲に、初期状態における前記軸心と前記対向面の前記法線とが形成する鋭角側の角度が収まるように、前記被押圧体及び前記対向部材の構成が規定され、
前記角度の前記第1の変化量は0度より大きく、
前記被押圧体は、前記基部上に設けられた弾性材で成るドーム突部をさらに有することを特徴とする反力発生装置。
【請求項3】
前記軸心は、前記ドーム部の前記先端が前記対向面への接触を開始したときに前記対向面に対して略直交することを特徴とする請求項1
または2に記載の反力発生装置。
【請求項4】
前記軸心は、前記押圧行程において、前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触してから前記押圧終了状態となるまでの間に前記対向面に対して直交することを特徴とする請求項1
または2に記載の反力発生装置。
【請求項5】
操作子を介して前記押圧操作が前記対向部材に加えられることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項6】
操作子を介して前記押圧操作が前記被押圧体に加えられることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項7】
前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、そこに加えられる押圧操作に応じて、押圧行程において揺動軸が変位するような揺動的運動を行うように構成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項8】
前記押圧操作は、ユーザ操作可能な操作子を介して前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方に加えられ、
前記操作子を介した前記押圧操作に基づく動きを停止するための、軟質材からなるストッパをさらに備えることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項9】
さらに、前記押圧操作を検出するためのスイッチ装置を備えたことを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項10】
前記スイッチ装置は、前記ドーム部の前記先端と前記対向部材の前記対向面との接触に基づき前記押圧操作を検出するように構成されていることを特徴とする請求項
9に記載の反力発生装置。
【請求項11】
複数の前記反力発生装置が、ユーザ操作可能な複数の鍵を持つ鍵盤装置に搭載され、各反力発生装置は各鍵に対応して設けられ、前記押圧操作は対応する鍵を介して前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方に加えられることを特徴とする請求項1~
10のいずれか1項に記載の反力発生装置。
【請求項12】
前記鍵盤装置は、鍵盤楽器であることを特徴とする請求項
11に記載の反力発生装置。
【請求項13】
ユーザ操作可能な複数の鍵と、前記鍵の各々に対応して設けられた反力発生装置と、を備える鍵盤装置であって、
前記反力発生装置は、
基部、及び、前記基部から膨出し弾性材で成るドーム部を有し、前記ドーム部の軸心に直交する断面形状が略線対称で且つ、対称軸と前記軸心とを含む仮想面に対して前記ドーム部の立体形状が略対称である被押圧体と、
前記ドーム部の先端に対向する対向面を有する対向部材と、を備え、
前記対向部材は、非操作状態において前記被押圧体から離れて配置され、
前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、対応する鍵を介してそこに加えられる押圧操作に応じて揺動的運動を行うように構成されており、該押圧操作に応じて、前記対向部材が前記基部に対して相対的に近づき、該相対的に近づく過程で前記対向面と前記先端との接触によって前記ドーム部が変形し、該相対的に近づくことは、前記基部に対する前記対向部材の最大可動範囲に対応する押圧終了状態において停止され、
前記仮想面は、前記被押圧体に押圧操作が加えられていない初期状態から前記押圧終了状態までの全押圧行程において変化しないように規定され、
前記押圧行程における前記対向面の法線に対して前記軸心がなす相対的な角度の変化量については、初期状態から前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第1の変化量から、初期状態から前記押圧終了状態に遷移するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第2の変化量までの角度範囲に、初期状態における前記軸心と前記対向面の前記法線とが形成する鋭角側の角度が収まるように、前記被押圧体及び前記対向部材の構成が規定され、
前記角度の前記第1の変化量は0度より大き
く、
前記軸心は、前記ドーム部の先端面の図心を通る直線であって、前記直線の所定の長さ範囲内では、任意の位置における直交面に関する前記ドーム部の断面形状が互いに相似形となるような直線であることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項14】
ユーザ操作可能な複数の鍵と、前記鍵の各々に対応して設けられた反力発生装置と、を備える鍵盤装置であって、
前記反力発生装置は、
基部、及び、前記基部から膨出し弾性材で成るドーム部を有し、前記ドーム部の軸心に直交する断面形状が略線対称で且つ、対称軸と前記軸心とを含む仮想面に対して前記ドーム部の立体形状が略対称である被押圧体と、
前記ドーム部の先端に対向する対向面を有する対向部材と、を備え、
前記対向部材は、非操作状態において前記被押圧体から離れて配置され、
前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、対応する鍵を介してそこに加えられる押圧操作に応じて揺動的運動を行うように構成されており、該押圧操作に応じて、前記対向部材が前記基部に対して相対的に近づき、該相対的に近づく過程で前記対向面と前記先端との接触によって前記ドーム部が変形し、該相対的に近づくことは、前記基部に対する前記対向部材の最大可動範囲に対応する押圧終了状態において停止され、
前記仮想面は、前記被押圧体に押圧操作が加えられていない初期状態から前記押圧終了状態までの全押圧行程において変化しないように規定され、
前記押圧行程における前記対向面の法線に対して前記軸心がなす相対的な角度の変化量については、初期状態から前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第1の変化量から、初期状態から前記押圧終了状態に遷移するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第2の変化量までの角度範囲に、初期状態における前記軸心と前記対向面の前記法線とが形成する鋭角側の角度が収まるように、前記被押圧体及び前記対向部材の構成が規定され、
前記角度の前記第1の変化量は0度より大きく、
前記被押圧体は、前記基部上に設けられた弾性材で成るドーム突部をさらに有することを特徴とする鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの手又は足あるいはその他の身体部分によって操作可能な操作子の操作により押圧されて、弾性変形により反力を発生させる反力発生装置及びそれを備える鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操作子に対するユーザによる操作に応じて押圧されて、弾性変形により反力を発生させる反力発生装置が知られている。例えば、電子鍵盤楽器の分野で、基板面から膨出した弾性膨出部の内側に、基板面に向かって膨出するドーム部をさらに有し、鍵等の部材により押圧されて弾性変形するスイッチを有する楽器が知られている(下記特許文献1)。この種の楽器では、ドーム部の先端に可動接点を設けると共に基板面に固定接点を設け、ドーム部の先端が基板面に当接することでセンサがオンとなる。なお、ドーム部等が弾性変形することで、実質的に鍵に対する反力が発生する。
【0003】
また、このようなドーム部を有する弾性部材を、反力発生を主目的として利用した反力発生装置も知られている(下記特許文献2)。この反力発生装置においては、ドーム部(反力発生部材)の軸線方向に押圧力が加えられることにより該ドーム部の弾性部材が弾性変形して該押圧力に対する反力を発生するようになっており、前記押圧力の増加による弾性変形量の増加に従って反力が増加し、反力がピークに達した後には該ドーム部の弾性部材が座屈変形して反力を減少させる。該反力発生装置において、押圧部とドーム部(反力発生部材)は、該押圧部がドーム部に接触する時点における該ドーム部に対する前記押圧部の押圧面の法線と、前記押圧部がドーム部を押圧し終えた時点における該ドーム部に対する前記押圧部の押圧面の法線とがなす角度の範囲内に、該ドーム部(反力発生部材)の軸線の方向が存在するように、構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-25576号公報
【文献】特開2015-68967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ドーム部と当接関係となる基板面等の対向面に対するドーム部の先端の接触開始(着地)の際に、基板面の法線方向に対してドーム部の軸心方向の傾きが大きくなりすぎると、着地動作が不安定となる。すると、反力の大きさ及び反力発生のタイミングが不安定となり、反力発生装置の耐久性も低下する。また、対向面とドーム部との当接箇所を電気的又は電子的接点によって構成することによって押鍵検知を行う場合、接点動作が不安定になってチャタリングが生じ、発音が適切に行えなくなるおそれがある。さらには、従来の装置は、ドーム部(反力発生部材)に押圧力を加えるための動き(ストローク運動)が固定された1枢軸の場合についてしか考慮しておらず、ドーム部(反力発生部材)に押圧力を加えるための運動が複数の枢軸からなる構成あるいは1枢軸の位置が移動するような構成からなる複雑なストローク運動については考慮されていなかった。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、反力の大きさ及び反力発生のタイミングを安定化させると共に、耐久性を高めることができる反力発生装置及び鍵盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の反力発生装置は、基部(21)、及び、前記基部から膨出し弾性材で成るドーム部(22)を有し、前記ドーム部の軸心(X2)に直交する断面形状が略線対称で且つ、対称軸(Ax)と前記軸心とを含む仮想面(Sx)に対して前記ドーム部の立体形状が略対称である被押圧体(20)と、前記ドーム部の先端(23)に対向する対向面(11)を有する対向部材(10)と、を備え、前記対向部材は、非操作状態において前記被押圧体から離れて配置され、前記対向部材と前記被押圧体の少なくとも一方は、そこに加えられる押圧操作に応じて揺動的運動を行うように構成されており、該押圧操作に応じて、前記対向部材が前記基部に対して相対的に近づき、該相対的に近づく過程で前記対向面と前記先端との接触によって前記ドーム部が変形し、該相対的に近づくことは、前記基部に対する前記対向部材の最大可動範囲に対応する押圧終了状態において停止され、前記仮想面は、前記被押圧体に押圧操作が加えられていない初期状態から前記押圧終了状態までの全押圧行程において変化しないように規定され、前記押圧行程における前記対向面の法線(X1)に対して前記軸心がなす相対的な角度の変化量については、初期状態から前記ドーム部の前記先端が前記対向面に接触するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第1の変化量(ΔθA)から、初期状態から前記押圧終了状態に遷移するまでの前記法線に対する前記軸心の角度の第2の変化量(ΔθA+ΔθB)までの角度範囲に、初期状態における前記軸心と前記対向面の前記法線とが形成する鋭角側の角度(θ)が収まるように、前記被押圧体及び前記対向部材の構成が規定され、前記角度の前記第1の変化量は0度より大きく、前記軸心は、前記ドーム部の先端面の図心を通る直線であって、前記直線の所定の長さ範囲内では、任意の位置における直交面に関する前記ドーム部の断面形状が互いに相似形となるような直線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反力の大きさ及び反力発生のタイミングを安定化させると共に、反力発生装置の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施の形態に係る反力発生装置の構成を示す模式的断面図(図(a))、
図1(a)のA-A線に沿う断面図(図(b))である。
【
図2】押圧行程における被押圧体の状態遷移図である。
【
図3】ドーム部の断面形状の変形例を示す図である。
【
図4】第2の実施の形態における押圧行程における被押圧体の状態遷移図である。
【
図5】第3の実施の形態における反力発生装置の構成を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る反力発生装置の構成を示す模式的断面図である。この反力発生装置には、少なくとも、被押圧体20及び第1部材10(対向部材)が含まれる。被押圧体20は第2部材12上に配設される。一例として、第1部材10は回動軸Pを中心に適宜の角度範囲で回動するかまたは回動を伴う変位(つまりストローク運動)をする。つまり、第1部材10は回動軸(揺動軸)Pの周りで揺動可能である。第1部材10は、それ自体がユーザによって操作可能な操作子の1部品であってもよいが、図示しない操作子とは別体の、該図示しない操作子の操作に連動して変位する変位部材であってもよい。第2部材12は例えば変位しない部材であるが、それに限らず、第1部材10と第2部材12との少なくともいずれかが変位することで、協働して相対的に被押圧体20を回動的に押圧する構成であってもよい。
図1(a)では、前記操作子の非操作状態を示している。非操作状態では、第1部材10は変位を開始していない自由状態にあり、被押圧体20は何ら押圧荷重を受けていない初期状態にある。
【0012】
図1(b)は、
図1(a)のA-A線に沿う断面図である。被押圧体20は、基部21及びドーム部22を有し、弾性材で一体に形成される。なお、少なくともドーム部22が弾性材であればよい。基部21は第2部材12に固着されている。ドーム部22は基部21から膨出する。ドーム部22の先端23が第1部材10によって押圧されることでドーム部22が弾性変形し、先端23が第2部材12に相対的に近づく方向へドーム部22が弾性変形することで、前記操作子に対する適切な反力が発生する。先端23の形状(先端面の形状)は、一例として略円形で平坦面である。第1部材10はドーム部の先端23に対向する対向面11を有する。
【0013】
ドーム部22は、第2部材12の法線方向に膨出してもよいが、本実施の形態では、第2部材12の法線に対して少し斜めの方向にドーム部22が膨出する構成を例にとる。そこで、ドーム部22の概ね膨出する方向がドーム部22の軸心X2となる。詳細には、軸心X2は、先端23の図心Gを通る直線であって、この直線の所定の範囲内では、任意の位置における直交面に関するドーム部22の断面形状が互いに相似形となるような直線である。軸心X2に直交するドーム部22の断面形状は略線対称で、この例では円形(円環状)である。この線対称に係る対称軸Axと軸心X2とを含む仮想面をSxとする。仮想面Sxに対してドーム部22の立体形状は略対称である。なお、対称軸Axと軸心X2とを含む面は種々に選定し得るが、本発明においては、ストローク運動する第1部材10の全移動行程において、該第1部材10の対向面11の法線X1に対して常に平行となるような面を、仮想面Sxを規定(選定)するものとする。例えば、
図1(a)におけるドーム部22の断面は、該仮想面Sxに沿って示されている。
【0014】
軸心X2と対向面11の法線X1とが形成する鋭角側の角度をθとする。
図1(a)に示す非操作状態においては、角度θはθ0である。非操作状態からの操作子の操作によって第1部材10と基部21(ないし第2部材12)とが相対的に近づく行程が押圧行程(つまり、往きの移動行程)となる。該第1部材10と基部21(ないし第2部材12)とが相対的に近づく動作は、回動的動作であるため、この押圧行程(つまり、往きの移動行程)においては、両者がなす前記角度θが変化することになる。図示はしないが、操作子、第1部材10または操作子から第1部材10までの間に介在する部材がストッパ等に当接することで、第1部材10の変位終了位置が規定されるように構成されている。第1部材10が変位終了位置で規制されることで押圧終了状態となる。従って、初期状態の被押圧体20が、非操作状態からの操作子の変位に基づき、対向面11に対する相対的な最大可動範囲に対応する押圧終了状態へ遷移するまでの行程が、押圧行程となる。なお、第1部材10に対する押圧が解除されると、該第1部材10は図示しない付勢部材(バネ等)の作用により初期状態(非操作状態)に復帰し、かつ、被押圧体20は自己の弾性により初期状態に復帰する。押圧行程(移動行程)においてドーム部22は変形するが、前述のように仮想面Sxは変化しないように規定(選定)されている。従って、仮想面Sxは法線X1と常に略平行である。
【0015】
図2(a)、(b)、(c)は、押圧行程における被押圧体20の状態遷移図である。
図2(a)は非操作状態を示し、
図2(b)は第1部材10と先端23との当接開始時を示し、
図2(c)は押圧終了状態を示す。なお、軸心X2と法線X1とが形成する角度θは、厳密には仮想面Sx上で考えるとし、非操作状態での角度θを正で表現し、軸心X2と法線X1との関係が逆転した以降、例えば押圧終了状態では角度θを負で表現する。非操作状態(
図2(a))では、角度θはθ0(例えば、+20°)である。第1部材10と先端23とが接触した時点(
図2(b))では、角度θはθs(例えば、0°)となる。また、押圧終了状態(
図2(c))では、角度θは「-θe」(例えば、-10°)となる。
【0016】
軸心X2と法線X1とが形成する前記角度θの、押圧行程における変化量Δθは次のようになる。非操作状態から先端23が対向面11に接触するまで(
図2(a)から
図2(b)の状態に遷移するまで)の変化量ΔθAは、ΔθA=θ0-θsで、例えば約20°である。この変化量ΔθAを「第1の角度変化量」とする。先端23が対向面11に接触してから押圧終了状態に遷移するまで(
図2(b)から
図2(c)の状態に遷移するまで)の変化量ΔθBは、ΔθB=θs-(-θe)で、例えば約10°である。従って、非操作状態から押圧終了状態に遷移するまでの「第2の角度変化量」は、ΔθA+ΔθBで、例えば約30°となる。
【0017】
ここで、第1の角度変化量(ΔθA)から第2の角度変化量(ΔθA+ΔθB)までの角度範囲(第1または第2の角度変化量を含む)に、非操作状態における角度θ(θ0)が収まるという条件を満たすように構成されている。つまり、ΔθA≦θ0≦(ΔθA+ΔθB)であることを条件としている。ただし、第1の角度変化量(ΔθA)は0°(0度)より大きいとする。
図2(a)~2(c)で示した例では、θ0=約20°としたので、第1部材10と先端23との当接開始時(
図2(b))で、ちょうど角度θが0°となるように設計されている。すなわち、軸心X2は、押圧行程において先端23が対向面11への接触開始したときに対向面11に対して略直交する。しかしこれに限らない。例えば、第1の角度変化量が20°、第2の角度変化量が30°という設計において、θ0が25°であるとすれば、軸心X2は、押圧行程において先端23が対向面11に接触してから押圧終了状態となるまでの間に対向面11に対して直交する。なお、上記条件によれば、押圧終了状態となった時点で軸心X2が対向面11に対して直交する構成も含まれる。
【0018】
ここで、上記不等式を上記θs及びθeを用いて書き換えると、θ0-θs≦θ0≦θ0+θeであり、各項からθ0を引き算すると、等価的に-θs≦0≦θeと表せる。この不等式から明らかなように、本実施の形態によれば、押圧行程において先端23が対向面11に接触してから押圧終了状態となるまでの間に、角度θが0°となる状態が訪れる。これにより、先端23が対向面11に接触してから押圧終了状態となるまでの間、常に一方向に軸心X2が法線X1に対して傾く構成に比し、先端23と対向面11との接触動作(着地動作)が安定する。角度θが0°となるタイミングは反力の発生タイミングや態様に影響する。よって、反力の大きさ及び反力発生のタイミングを安定化させると共に、反力発生装置の耐久性を高めることができる。
【0019】
本実施の形態では、軸心X2に直交するドーム部22の断面形状は円形であった。しかし、
図3(a)~(e)に例示するように、軸心X2に直交するドーム部22の断面形状は略線対称であればよい。すなわち、断面形状は、角が丸い長方形(
図3(a))、楕円形(
図3(b))、直線部を有する環状(
図3(c))、角が丸い菱形(
図3(d))、直線部及び半円部を有する異形形状(
図3(e))のいずれでもよい。
【0020】
なお、ドーム部22の先端23が対向面11と接触を開始する時点で、先端23と対向面11とは略平行となるが、それは必須でなく、接触開始時に先端23が対向面11に対して傾きを有してもよい。また、ドーム部22の先端23は平坦であるとしたがそれも必須でなく、例えば、先端23が適宜に丸みを帯びた凸状であってもよく、あるいは鈍角又は鋭角の凸状であってもよい。先端23が平坦でない場合は、ドーム部22の概ね膨出方向における先端23の投影形状で図心Gは把握される。なお、上記した各角度値は、例示した値に限定されるものではない。
【0021】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態では、押圧部材が基部21を押圧する構成を例示する。
図4(a)~(d)は、押圧行程における被押圧体20-2の状態遷移図である。この被押圧体20-2は、第1の実施の形態で説明した被押圧体20にスカート部24を追加したものに相当する。この例では、第1部材10上に、弾性を有するスカート部24を介して基部21が保持される。基部21、ドーム部22(先端23を含む)の構成は被押圧体20(
図1(a))と同様である。なお、スカート部24はドーム部22に比し、十分に変形しやすい構成となっており、反力発生に大きく寄与することがない。
【0022】
一例として、押圧部材13は不図示の回動軸を中心に回動するかまたは回動を伴う変位をする。押圧部材13は操作子自身であってもよいが、操作子の操作によって変位する変位部材であってもよい。第1部材10は例えば変位しない部材であるが、それに限らず、第1部材10と押圧部材13との少なくともいずれかが変位することで、協働して被押圧体20-2を押圧する構成であってもよい。基部21は押圧部材13から押圧力を受ける。
図4(a)は非操作状態を示し、
図4(b)は基部21と押圧部材13との当接開始時を示し、
図4(c)は第1部材10と先端23との当接開始時を示し、
図4(d)は押圧終了状態を示す。第1の実施の形態と同様に、操作子、押圧部材13または操作子から押圧部材13までの間に介在する部材がストッパ等に当接することで、押圧部材13の変位終了位置が規定されるように構成されている。押圧部材13が変位終了位置で規制されることで押圧終了状態となる。そして、前述と同様に、押圧部材13に対するよる押圧が解除されると、該押圧部材13は図示しない付勢部材(バネ等)の作用により初期状態(非操作状態)に復帰し、かつ、被押圧体20-2は自己の弾性により初期状態に復帰する。
【0023】
スカート部24の変形を除外して考察すれば、押圧行程における角度θの変化量Δθの遷移については、基本的に第1の実施の形態と同様である。すなわち、非操作状態(
図4(a))では、角度θはθ0である。第1部材10と先端23とが接触した時点(
図4(c))では、角度θはθsとなる。また、押圧終了状態(
図4(d))では、角度θは「-θe」となる。そして、第1の角度変化量から第2の角度変化量までの角度範囲(第1または第2の角度変化量を含む)に、非操作状態における角度θ(θ0)が収まるように設計されている。
【0024】
本実施の形態によれば、反力の大きさ及び反力発生のタイミングを安定化させると共に、反力発生装置の耐久性を高めることに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0025】
なお、本実施の形態において、操作子の非操作状態で基部21と押圧部材13とは予め当接(軽い圧接も含む)する構成であってもよく、その場合、基部21と押圧部材13とが当接している非操作状態が、被押圧体20-2の初期状態に相当する。
【0026】
(第3の実施の形態)
上記第1及び第2の実施形態においては、第1部材10又は押圧部材13は固定された1つの回動軸Pを中心に揺動的運動をする構成であるが、これに限らず、押圧行程において揺動軸(揺動中心点)が変位するような構成においても本発明を適用することができる。
図5は、そのような、押圧行程において揺動軸が変位するような構成における本発明の第3の実施形態を示す模式的断面図である。
図5において、
図1(a)に付された参照符号と同一の参照符号が付された部品は、
図1(a)を参照して説明した部品と実質的に同一に機能するものであるから、重複説明を省略する。
【0027】
図5においては、
図1(a)と同様に、押圧操作に応じて第1部材10が揺動運動し、被押圧体20を配置した第2部材12は動かない。第1部材10は揺動部材14によって構成され、該揺動部材14の下面が前記対向面11となっている。該揺動部材14の一端は多点支持構造の基部14aとなっており、この基部14aは図示しないフレームに設けられたガイド溝30内に嵌合し該ガイド溝30によって案内されて移動し得るようになっている。ガイド溝30は、多焦点の湾曲形状をなしており、それにより、揺動部材14の基部14aがガイド溝30内を移動する過程で、該揺動部材14の対向面11が水平に対してなす角度が変化する。
図5は、第1部材10すなわち揺動部材14の初期状態(非操作状態)を示しており、この状態から第1部材10に対して押圧操作が加えられると、揺動部材14が湾曲したガイド溝30に沿って下方に動き、かつ、ガイド溝30の湾曲形状に従って該揺動部材14の対向面11が水平に対してなす角度が変化する。このような構造によって、第1部材10すなわち揺動部材14の揺動運動は、固定された1点を中心に揺動する運動ではなく、揺動中心点が適宜変位するような運動となる。
図5のような揺動構造を持つ反力発生装置においても、
図1(a)~
図2(c)を参照して示したような第1実施形態と同様に、本発明を適用することができる。したがって、本発明によれば、第1部材10すなわち揺動部材14の揺動運動が揺動軸(揺動中心点)が変位するような複雑なストローク運動を示す場合において、反力の大きさ及び反力発生のタイミングを安定化させると共に反力発生装置の耐久性を高めることができる有利な構成を提供することができる。なお、
図5のような揺動構造を、第2部材12、または、第1部材10及び第2部材12の双方に適用してもよい。
【0028】
さらに、
図4(a)~
図4(d)に示したような押圧部材13を有する構成においても、該押圧部材13の揺動構造として、
図5に示したような多点支持構造の基部14aとガイド溝30の組合せからなる構造を適用することができる。
【0029】
本発明の適用につき、
図6に示されるように各種の変形例を考えることができる。
【0030】
まず、本発明の反力発生装置を鍵盤装置や楽器に適用してもよい。反力発生装置を鍵盤装置に適用する場合、複数の前記反力発生装置が、ユーザによって操作可能な複数の鍵を持つ鍵盤装置に搭載され、各反力発生装置は各鍵に対応して設けられ、各鍵が前記操作子として機能し、前記押圧操作は該対応する鍵を介して前記第1部材(対向部材)10と前記被押圧体20の少なくとも一方に加えられる。反力発生装置を鍵盤楽器に適用する場合、第1部材10または押圧部材13は、鍵盤の鍵または鍵の移動に伴って変位する部材のいずれかであってもよい。例えば、押鍵操作に対して慣性を与えるハンマであってもよい。例えば、
図6(a)に示すように、鍵盤楽器である鍵盤装置100に本発明を適用し、第1部材10としての鍵により、被押圧体20が押圧される構成としてもよい。
【0031】
なお、反力発生装置を、押鍵操作を検知するスイッチ装置としても利用できる。その場合、例えば第1部材10を基板として構成して対向面11に固定接点を配設すると共に、ドーム部22の先端23に可動接点を配設する。そして固定接点と可動接点との接触によって押鍵操作を検出するようにしてもよい。例えば、
図6(b)に示すように、第1部材10の対向面11に接点32を配設すると共に、ドーム部22の先端23に接点31を配設してもよい。この構成は、
図1、
図2、
図4、
図5に示したいずれの反力発生装置にも適用可能である。
【0032】
なお、1つの部材によって押圧されるドーム部22の数は問わない。例えば、第2の実施の形態において、スカート部24で囲まれる空間に、基部21からドーム部22を複数膨出させ、各々のドーム部22の先端が個々のタイミングで対向面11に接触する構成としてもよい。例えば、
図6(c)に示すように、基部21から弾性材で成るドーム突部であるドーム部22を2つ以上膨出させてもよい。なお、被押圧体20に、単一のドーム部22に加えて、弾性材で成る1または複数の追加のドーム突起を基部21から突出させて設けてもよい。追加のドーム突起はドーム部22と同じ構成でなくてもよい。
【0033】
なお、
図6(d)、(e)に示すように、操作子を介した押圧操作に基づく押圧部材13または第1部材10の動きを停止させて、押圧部材13または第1部材10の変位終了位置を規定するための、軟質材からなるストッパ33、34を設けてもよい。
【0034】
ところで、鍵盤装置において、ストッパが軟質材である場合、押圧部材13または操作子から押圧部材13までの間に介在する部材がストッパ等に当接しても押圧部材13は直ちに停止せず、慣性でわずかに移動する。ストッパ当接時から押圧部材13及び被押圧体20-2が実際に停止するまでの間に発生する反力が安定することで、押圧部材13に適切な戻り初速を与えることが可能となり、連打性が向上するという利点もある。押圧部材13(ないし操作子)に対する戻りの初期段階での初速を与え、連打性を向上させることには、ドーム部22、スカート部24、ストッパの反力が寄与する。これらのうちドーム部22及びスカート部24が発生させる反力が安定することで、押圧部材13(ないし操作子)に対する安定した戻りの初速を発生させることができる。押圧部材13の戻りが速くなることで直ちに次の打鍵が可能となるため連打性の向上につながる。なお、ドーム部22を複数設けると共に、それぞれにスイッチ機能を持たせた場合、連打性向上の観点からは、戻りの初期段階で与えられる初速により、少なくとも往行程の最後にオンとなるように配置されたスイッチのオン開始位置(つまり、戻り時の該スイッチのオフ開始位置)まで押圧部材13が戻るように構成する。
【0035】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 第1部材(対向部材)、 11 対向面、 20 被押圧体、 21 基部、 22 ドーム部、 23 先端、 X1 法線、 X2 軸心、 Ax 対称軸、 Sx 仮想面、 θ 角度、 ΔθA、ΔθB 変化量