(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】風向風速計測装置
(51)【国際特許分類】
G01P 13/00 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G01P13/00 E
(21)【出願番号】P 2018056822
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢嶌 健史
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4671108(US,A)
【文献】特開平9-127149(JP,A)
【文献】特開2005-321934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P13/00-13/04
G01P 5/00- 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風の吹く方位を指し示す矢羽根と、
前記矢羽根の向きに応じた電気信号を検出するセンサと、
単位時間あたりの前記電気信号の平均値からその時間帯の風向を算出するとともに、該電気信号の波形に現れる矢羽根の振動の周波数からその時間帯の風速を算出する演算部と、
を備え
、
前記演算部は前記センサが検出した電気信号から高速フーリエ変換解析によって周波数の最大ピークを抽出してカルマン渦の渦周波数とし、
fはカルマン渦の渦周波数、Vは流体の平均流速、dは渦発生体の幅、Stはストローハル数としたとき、次式
f=St・V/d
を用いて風速を算出することを特徴とする風向風速計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風向および風速を計測する風向風速計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠隔操作可能な小型の無人マルチコプター、いわゆるドローンを利用した物流網の構築に注目が集まっている。ドローンを利用した流通サービスが実用化できれば、不足する労働力の補填や、滞りがちであった山間部への配送など、さらなる産業の発達が期待できる。このような物流網の構築を目指し、本出願人らによって「ドローンハイウェイ構想」が発表されている。ドローンハイウェイ構想では、ドローンの飛行ルートを確保すべく、送電鉄塔および送電線を含む送電網の上空をドローン専用の空路に利用するというアイデアが練られている。
【0003】
ドローンを安全に飛行させるためには、風向や風速などの空路上の緻密な気象情報を観測する必要がある。しかしながら、送電鉄塔は50~100m程度の高さがあり、ドローンハイウェイではそれよりも高いところを飛行することになる。気象庁および各組織によって測定されている気象情報は主に地表面に関するものであり、そのような高所では風速および風向が地表面とは異なってしまうため、従来設備から得られるデータが役に立たない。また人口密度の高い地域では比較的密に気象情報が観測されているが、山間部などの人口密度が低い詳細な気象情報を測定する設備は整っていない。そのため、上記のドローンハイウェイ構想では、送電鉄塔などの屋外の高所に風向風速計測装置を設置することが予定される。
【0004】
現在、一般に普及している風向および風速計としては、風車や風杯の回転を検出して測定値を得る機械式のものがよく知られている。例えば、特許文献1に記載の風速監視装置では、風速値を取得するにあたって屋外に複数の風杯を設けている。その他の方式の風速計としては、超音波の伝搬時間を利用して風速を求める超音波式のものや、電熱線が発熱および冷却する温度を利用して風速を求める熱線式のもの、さらにはピトー管によって風の動圧から風速を求めるピトー管式のものなども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
風向風速計測装置を屋外の高所に設置するには、小型かつ軽量であることに加えて、故障の心配を減らすためになるべく可動部分を減らしたいという要望がある。その他、測定したデータを回収する手段などにも考慮する必要がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、小型かつ軽量な構成で屋外にも好適に設置可能な風向風速計測装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる風向風速計測装置の代表的な構成は、風の吹く方位を指し示す矢羽根と、矢羽根の向きに応じた電気信号を検出するセンサと、単位時間あたりの電気信号の平均値からその時間帯の風向を算出するとともに、電気信号の波形に現れる矢羽根の振動の周波数からその時間帯の風速を算出する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
従来の矢羽根式風向計では、矢羽根の振動は測定の邪魔になるため、矢羽根にある程度の重量を持たせるなどの対策を施していた。また、風杯を用いた風速計は、風向計を邪魔しかねないため、風向計とは間隔を空けて設置していた。しかしながら、本願発明者らは矢羽根の振動がカルマン渦によるものであって、その周波数が速度に比例することに着目し、矢羽根の振動の周波数から風速を算出する構成を着想するに至った。この構成によれば、矢羽根は常時回転する風杯に比べて動きが少ないうえ全体構造も小さくて済み、また上記の矢羽根による風向測定は、振動数さえ分かればその周期以上で平均化することで振動を抑える必要が無くなるため、より軽く簡潔な構造で足りる。したがって、上記構成であれば、小型かつ軽量で屋外の高所にも簡単に設置でき、故障の心配も少ない風向風速計測装置を実現することができる。
【0010】
当該風向風速計測装置はさらに、電力を得る太陽電池と、風向および風速に関するデータを送信し、かつマルチホップ接続によって他の装置からのデータも中継する無線通信部と、を備えてもよい。
【0011】
上記構成によれば、外部に電源を用意する必要がなく、測定したデータの回収も簡単に行うことができる。したがって、上記構成であれば、屋外の高所にも好適に設置でき、複数台を設置することで、所定の経路に沿った風向および風速情報を効率よく取得することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡潔な構成で屋外にも好適に設置可能な風向風速計測装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る風向風速計測装置の概要を示した図である。
【
図2】計測装置の概略的な内部構成を示した図である。
【
図3】風向センサから取得した電気信号の周波数と風速の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る風向風速計測装置(計測装置100)の概要を示した図である。
図1(a)は、計測装置100の全体を示した斜視図である。当該計測装置100は、矢羽根型の小型風向計を模した構成になっていて、風向に加えて風速も計測可能になっている。計測装置100は、例えば送電鉄塔や建物の屋上など、主に屋外に複数台設置することを想定している。
【0016】
計測装置100は、外観上は台座100aと矢羽根100bとで構成されている。台座100aは送電鉄塔などの計測地点に固定され、矢羽根100bは台座100aに対して回転自由に設けられている。矢羽根100bは、台座100aに対して垂直の尾翼102が風下側へと回り、先端104が風上側を向くことで、風の吹く包囲を指し示す。
【0017】
台座100aおよび矢羽根100bは軽量な樹脂製であって、例えばポリカーボネートに所定の表面処理を施すなどした、雨水や紫外線に対して劣化しにくい対候性の高い素材で形成されている。特に、矢羽根100bはわずかな風にも反応する非常に軽量な構成になっていて、台座100aは防水性が高く後述する風向センサ106等の電子部品を雨水等から十全に保護することが可能になっている。
【0018】
図1(b)は、計測装置100の運用中の様子を示した図である。
図1(b)は、左から右に向かって風Wが吹いている状況を例示している。本実施形態では、風向は矢羽根100bの向きを基にして計測するが、風速は矢羽根100bに生じる振動を基にして計測する。概要としては、一般に、流れの中に物体を置くと、物体の下流にはカルマン渦Rと呼ばれる左右交互の向きの渦が生じる。そして、カルマン渦Rによって、矢羽根100bには微振動(不安定)が生じる。このとき、矢羽根100bの振動の程度にはカルマン渦Rの数が影響していて、単位時間あたりに発生する渦の数は流速に比例している。当該計測装置100では、これら現象を利用して矢羽根100bの振動の周波数から風速を算出する。
【0019】
図2は、計測装置100の概略的な内部構成を示した図である。計測装置100のうち、特に台座100aの内部には、各種の電子部品が内蔵されている。まず、風向センサ106は、矢羽根100bの向きに応じた電気信号を検出するものであって、例えば磁気を利用して矢羽根100b104bの回転を検出する磁気センサなどで実現することができる。
【0020】
演算部108は、風向センサ106を通じて取得した電気信号から、風向きおよび風速を算出する。たとえば、目的とする時間帯の風向きの算出は、単位時間あたりの電気信号の平均値を計算し、その値に該当する方位を判別することで可能となる。一方、目的とする時間帯の風速の算出は、矢羽根100bの振動の周波数を算出することで行う。上述したように、矢羽根100bの振動はカルマン渦によるものであって、その周波数は風向センサ106から得られる電気信号の波形の周波数に反映されるため、この電気信号の周波数を解析することで風速を導き出すことができる。
【0021】
図3は、風向センサ106から取得した電気信号の周波数と風速の関係を示す図である。ここで、カルマン渦R(
図1(a)参照)の発生する周波数は、流体の速度に否定していて、その関係式は以下の式1として表されることが知られている。
f=St・V/d…式1
(fは渦周波数、Vは流体の平均流速、dは渦発生体の幅、Stはストローハル数と呼ばれる定数)。
【0022】
上記式1を本実施形態に当てはめると、渦周波数fは矢羽根100b(
図1(a)参照)の振動の周波数、平均流速Vは風速、渦発生体の幅dは矢羽根100bの尾翼102の幅となる。ストローハル数Stは、レイノルズ数と呼ばれる慣性や粘性などの特性を含めた流れの状態を定義する数値によって変化するが、このレイノルズ数の広い範囲においてほぼ一定となる。すなわち、上記式1は、ストローハル数Stを一定ととらえることで、矢羽根100bの振動の周波数fが風速Vに比例していることを表している。
【0023】
本実施形態では、演算部108(
図2参照)は、風向センサ106が検出した電気信号から高速フーリエ変換解析(Fast Fourier Transform Analysis)(以下、FFT解析)によって強度の高い周波数成分を抽出し、そこから風速を算出する。例えば、
図3(a)は、風速3m/sのときの振動(矢羽根100bの振動に応じた電気信号の波形)のFFT解析の結果を示す図である。横軸は周波数、縦軸はその周波数成分の強度である。
図3(a)からは、風速3m/sのときは約2.3Hz付近に最大ピークが発生していることが分かる。
【0024】
同様に、
図3(b)は、風速12m/sのときの振動のFFT解析の結果を示す図である。
図3(b)では約7Hz付近に最大ピークが発生していることが分かる。また、
図3(c)は、風速24m/sのときの振動のFFT解析の結果を示す図である。
図3(c)からは約12.5Hz付近に最大ピークが発生していることが分かる。
【0025】
図3(d)は、最大ピークと風速との関係を示した図である。
図3(d)は、横軸が周波数、縦軸が風速である。各プロットは、FFT解析によって得られた各風速における最大ピークの周波数を示している。
図3(d)からは、周波数と風速とに相関関係があることが確認できる。これはすなわち、矢羽根100b(
図1(a)参照)の振動の周波数が分かれば風速を算出できることを証明している。このようにして、演算部108(
図2参照)は、風向センサ106が検出した電気信号から風速を算出する。
【0026】
再び、
図2を参照する。当該計測装置100には、通信部110が備えられている。通信部110は、例えば無線LANで外部端末等と接続して、演算部108が算出した風向や風速に関する測定データを送信する。また、通信部110は、他の計測装置とマルチホップ接続することが可能になっていて、他の計測装置から送信された各種データも中継して外部端末等に送信することが可能になっている。
【0027】
なお、上記では計測装置100と外部端末等との接続は無線によるとしたが、外部端末が近くに存在する場合は有線による接続を行っても良い。いずれの方式においても、計測装置100から風向や風速に関するデータを外部端末に送ることで、モニタ等を通じてユーザに視認可能な表現で測定結果を提供することが可能になる。
【0028】
計測装置100は、電力を得る手段として不図示の太陽電池やキャパシタを備えてもよく、これによって外部電源や配線が不要になる。太陽電池は、例えば台座100a(
図1(a)参照)の上面など、日光を受けやすい位置に適宜設置することができる。当該計測装置100は、軽量の矢羽根100bを利用しているため、構造が簡潔で電気の使用量も少なくて済む。そのため、当該測装置100は省電力で、風向センサ106(
図2参照)や演算部108、および通信部110などの使用量を合わせても、太陽電池で必要電力を十分に賄うことが可能である。
【0029】
以上説明したように、当該計測装置100は、小型かつ軽量な構成で屋外にも好適に設置することが可能になっている。従来の矢羽根式風向計では、矢羽根の振動は測定の邪魔になるため、矢羽根にある程度の重量を持たせるなどの対策を施していた。しかしながら、当該計測装置100であれば、矢羽根100bの振動数の周期以上で平均化することで、矢羽根100bの振動を抑え込む必要が無くなる。加えて、矢羽根100bは、常時回転する風杯に比べて動きが少ない。そのため、当該計測装置100は、全体構造がより小さく軽い簡潔なものになっている。このようにして、当該計測装置100は、小型かつ軽量で屋外の高所にも簡単に設置でき、故障の心配も少ない構成を実現している。
【0030】
当該計測装置100は、上述したように軽量かつ外部電源不要で、計測したデータも無線によって回収することが可能である。加えて、樹脂製で雨水に強く、金属部品の使用を抑えているため落雷の心配も少ない。そのため、計測装置100は、送電鉄塔などの屋外の高所が設置場所であっても、耐用年数を長く保つことができる。当該計測装置100の運用例として、複数の送電鉄塔を結ぶ経路をドローンの空路として利用する場合において、各送電鉄塔にそれぞれ計測装置100を設置してその経路における風向および風速情報を取得するなど、空路の管理システムとして大いに役立てることができる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、風向および風速を計測する風向風速計測装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
100…計測装置、100a…台座、100b…矢羽根、102…尾翼、104…矢羽根の先端、106…風向センサ、108…演算部、110…通信部、R…カルマン渦、W…風