(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】潤滑層形成能を有する表面を備えたフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20220712BHJP
B32B 5/16 20060101ALI20220712BHJP
B32B 27/14 20060101ALI20220712BHJP
B32B 23/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B5/16
B32B27/14
B32B23/00
(21)【出願番号】P 2018061998
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】清藤 晋也
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 沙耶
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 耕太
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-515653(JP,A)
【文献】特表2015-510857(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00ー43/00
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面化された表面を有し、該粗面の凹部内に、
有機固体粒子の吸水による膨潤によって形成された潤滑層を有することを特徴とするフィルム。
【請求項2】
前記フィルムの粗面が、ヒートシール性樹脂により形成されている、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記有機固体粒子が、アルギン酸Naである、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記有機固体粒子が、熱ゲル化性を示すセルロース系ポリマーである、請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のフィルムから形成されており且つ水分含有の内容物が収容されていることを特徴とする袋状容器。
【請求項6】
ヒートシール性樹脂により形成されている粗面化された表面を有するフィルムを用意し、
前記フィルムの粗面化表面に、吸水により膨潤し得る有機固体粒子を保持せしめ、
表面に有機固体粒子が保持されている前記フィルムを用いてのヒートシールにより袋状容器を得、
前記袋状容器に水分含有の内容物を充填し、袋状容器の内面に有機固体粒子の吸水による膨潤によって潤滑層を形成すること、
を特徴とする水分含有の内容物が収容されている袋状容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑層形成能を有する表面を備えたフィルムに関するものであり、特に包装用途に好適に使用されるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムをヒートシールにより貼り合わせてなる袋状容器(パウチ)は、各種の食品類、液体洗剤、コンディショナー、医薬品など種々の液状体を収容する容器として広く使用されている。
このような袋状容器では、特に粘稠なペースト、スラリー、ゲル状の内容物が収容される場合が多く、当然のことながら、これらの内容物を速やかに且つ袋内に付着残存しないように排出する特性が要求される。
【0003】
ところで、最近になって、容器等の成形体の表面に油膜を形成することによって、粘稠な物質に対する滑り性を高める技術が種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
かかる技術によれば、成形体表面を形成する合成樹脂に滑剤などの添加剤を加える場合と比して、滑り性を飛躍的に高めることができるため、現在注目されている。
【0004】
しかしながら、上記のように基材表面に油膜を形成して表面特性を改質する手段は、フィルムには適用し難いという問題がある。
即ち、フィルム表面への油膜形成は、油膜形成用の油剤をスプレー等によりフィルム表面にコーディングすることにより行われるが、工業的に実施する場合には、かかる油膜形成は長尺フィルムについて行われる。長尺フィルムをローラで巻き取る際に、その表面に油膜が形成され、従って、表面に油膜が形成されている状態で長尺フィルムがロールで巻き取られ、使用に際しては、油膜が形成されている長尺フィルムを巻出し、用途に応じた適宜の大きさに裁断して使用されることになるわけである。
【0005】
従って、油膜が形成されているフィルムを工業的に製造する場合、油膜が形成された長尺フィルムがロールに巻き取られるため、油膜の上にフィルムの裏面が重ねられることとなり、油膜の裏移りという問題を生じてしまい、その改善が必要となっている。
【0006】
さらに、フィルムの表面に凹凸を形成することにより、撥液性を持たせるという技術も提案されている(例えば、特許文献3~5参照)。かかる技術は、上記の表面を液体が流れたとき、表面の凹部内に空気層が存在しているために、優れた滑り性が発揮されるというものである。
【0007】
しかしながら、このような凹凸による内容物に対する滑り性或いは内容物に対する排出性向上効果は、特に粘稠な内容物が充填されている袋状容器では十分に発揮されない。即ち、袋状容器では、凹凸表面に粘稠な内容物が、長期にわたって常時接触しており、しかも積み重ねての保管時に内容物が凹凸表面に圧着されるため、凹部内に内容物が侵入し、凹部内の空気層が排出されてしまうからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2012/100099
【文献】WO2013/022467
【文献】特許第3358131号
【文献】特開2014-65175号
【文献】特開2016-88947号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、吸水による膨潤によって形成された潤滑層を有し、重ね合わせ時での潤滑層の裏移りが防止されたフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記フィルムから形成された袋状容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、粗面化された表面を有し、該粗面の凹部内に、有機固体粒子の吸水による膨潤によって形成された潤滑層を有することを特徴とするフィルムが提供される。
本発明によれば、また、上記のフィルムから形成されており且つ含水物質が収容されていることを特徴とする袋状容器が提供される。
本発明によれば、さらに、ヒートシール性樹脂により形成されている粗面化された表面を有するフィルムを用意し、
前記フィルムの粗面化表面に、吸水により膨潤し得る有機固体粒子を保持せしめ、
表面に有機固体粒子が保持されている前記フィルムを用いてのヒートシールにより袋状容器を得、
前記袋状容器に水分含有の内容物を充填し、袋状容器の内面に有機固体粒子の吸水による膨潤によって潤滑層を形成すること、
を特徴とする水分含有の内容物が収容されている袋状容器の製造方法が提供される。
【0011】
本発明のフィルムにおいては、
(1)前記フィルムの粗面が、ヒートシール性樹脂により形成されていること、
(2)前記有機固体粒子が、アルギン酸Naであること、
(3)前記有機固体粒子が、熱ゲル化性を示すセルロース系ポリマーであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムは、粗面化した表面を有しているが、この粗面中の凹部内に、有機固体粒子の吸水による膨潤によって形成された潤滑層を有していることが重要な特徴である。
このような有機固体粒子は、吸水による膨潤前には、潤滑前駆体としての性質を有する粒子として存在している。即ち、該固体粒子は、凹部内に保持されており且つ液状ではないため、このフィルムを、ロールで巻き取ったり或いは積み重ねて保管した場合において、かかる有機固体粒子が裏移りしてしまうという問題は生じない。
しかもこの有機固体粒子は、液体(水)と接触した場合において、体積変化(膨潤)を生じて潤滑層を形成し、この潤滑層が表面に接触する液体に対して潤滑性を示すものである。即ち、有機固体粒子が表面に保持されているフィルムを製袋して袋状容器とし、該袋状容器に水分を含有する内容物を充填した場合、内物に含まれる水分によって有機固体粒子が膨潤して潤滑層を形成し、これにより、優れた潤滑性が発揮され、内容物が粘稠な流体である場合にも優れた排出性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のフィルムの表面形態を示す概略断面図。
【
図2】本発明のフィルム表面に潤滑層が形成されている状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、全体として1で示されている本発明のフィルムは、粗面3を有しており、この粗面には、凹部3aと凸部3bとが形成されており、この凹部3a内に、有機固体粒子5が充填保持されている。かかる有機固体粒子5は、液体ではなく、しかも凹部3内に収容されているため、このフィルム1がロール巻取り等により重ねられて保管された場合にも裏移りすることはなく、また、搬送経路中で脱落することもない。
【0015】
さらに、本発明において、この有機固体粒子5は、これが液体(例えば水性或いは油性液体)と接触すると体積変化して潤滑層を形成するものである。
例えば、
図2に示されているように、この粗面3に液体7が接触していると、この有機固体粒子5は、体積変化して潤滑層9が形成され、これにより、液体7に対する優れた潤滑性が発揮される。
【0016】
即ち、上記のようにして形成される潤滑層9は、フィルム1の表面(粗面3)に接着剤などにより固定されているものではなく、また、液体7の吸収により形成されるものであるため、ある程度の流動性を示す。この結果、潤滑層9上を液体7が流れる場合、潤滑層9の表面部分が液体7と共に流動し、この結果、液体7に対して優れた潤滑性が発現することとなる。
【0017】
しかも重要なことは、上記の潤滑層9による液体7に対する潤滑性は、その表面に凹凸が形成されていることにより発現しているものではなく、従って、凹部内に液体7が侵入して潤滑性が低下するなどの不都合は生じないということである。即ち、液体7が潤滑層7に常時接触保持されているような場合にも、常に初期と同様に優れた潤滑性が維持されることとなる。このことは、このフィルム1を製袋し、内容物(特に粘稠な内容物)が長期にわたって収容される袋状容器として使用した場合にも、潤滑層9の潤滑性の低下を生じることがなく、常に、内容物に対する優れた排出性が発揮されることを意味する。
【0018】
本発明において、上記のフィルム1としては、粗面3の形成が可能である限り、各種プラスチックのみならず、金属等で形成されていてもよいが、特に有機固体粒子5を凹部3a内に安定に保持し得るという観点から、少なくとも表面(粗面3)がフィルム成形可能な熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂で形成されていることが好ましく、特に、ヒートシールによる製袋を容易に行うことができるという観点から、ヒートシール性樹脂であることが好ましい。
【0019】
このようなヒートシール性樹脂としては、例えば、以下のものを例示することができる。
オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体など;
エチレン・ビニル系共重合体、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等;
スチレン系樹脂、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等;
ビニル系樹脂、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等;
ポリアミド樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等;
ポリエステル樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフエニレンオキサイド樹脂;
生分解性樹脂、例えば、ポリ乳酸など;
勿論、成形性が損なわれない限り、これらのブレンド物を使用することもできる。
【0020】
本発明においては、上記のヒートシール性樹脂の中でも、粘稠な内容物を収容する袋素材として使用されているオレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適であり、オレフィン系樹脂が最適である。
【0021】
また、フィルム1は、その表面が上記のようなヒートシール性樹脂により形成されている限りにおいて、ヒートシール性樹脂の単層構造であってもよいし、上記ヒートシール性樹脂と紙との積層体であってもよいし、複数の樹脂層が組み合わされた多層構造を有するものであってもよく、さらには、金属箔等の表面に上記のヒートシール性樹脂がコートされた積層体であってもよい。
【0022】
本発明において、上記のようなフィルム1は、それ自体公知のフィルム成形(例えば溶融押出等)によって成形され、また、粗面3は、ブラスト処理やレーザ光照射によるレーアブレーションなどの後加工によって形成することもできるし、さらに、フィルム1の表面を形成する樹脂中に、シリカ等の無機酸化物粒子からなる粗面化剤を適宜の量、配合しておくことにより形成することもできる。即ち、フィルム1が形成されると、その表面には粗面化剤粒子の大きさが表面に反映され、粗面3が形成されることとなる。
【0023】
上記のような粗面3の程度は、用いる有機固体粒子5が凹部3a内に収容保持され得るような程度の粗さに設定されていればよく、一般に平均表面粗さRa(JIS-B-0101-1994)が1.0μm以上の範囲にあればよい。
【0024】
本発明において、上記粗面3の凹部3a内に保持される有機固体粒子5は、この粗面3に接触する液体7の種類に応じて、適宜のものが使用される。
例えば、液体7が含水物質の場合には、水を吸収して膨潤するタイプのもの、例えばポリ(メタ)アクリル酸架橋物、ポリビニルアルコール架橋ゲル化物、アルギン酸Na或いはアルギン酸Caなどが代表的であり、特にアルギン酸Naが好適に使用される。
また液体7が含水物質であり且つ接触時に加熱(例えばレトルト殺菌等の加熱殺菌)されるものでは、吸水と同時に熱ゲル化するタイプのもの、例えばメチルセルロース等のセルロース系ポリマーなども使用することができる。
さらに、液体7が油性である場合には、油分吸収性のもの、例えばシクロデキストリンなどの包接化合物を使用することができる。
【0025】
上述した有機固体粒子5は、前述した粗面3中の凹部3a内に安定に収容される程度の粒径を有しているべきであり、粗面3の粗さによっても異なるが、一般に、レーザ回折散乱法で測定した体積換算での平均粒径(D50)が200μm以下、特に10~100μm程度の範囲にあることが好適である。
【0026】
また粗面3の凹部3a中に収容保持される有機固体粒子5の量は、この凹部3から脱落せず且つ液体7との接触により連続した緻密な潤滑層9を形成し得る量とすべきであり、有固体粒子5の種類によっても異なるが、一般に、0.5~100g/m2程度の量に設定される。
【0027】
さらに、上述した有機固体粒子5の凹部3内への収容保持は、エタノール等の揮発性液体に有機固体粒子5を分散させた噴霧液を調製し、この噴霧液をフィルム1の粗面3に噴霧し、次いで加熱して揮発性液体を除去することにより行うことができる。
【0028】
このようにして製造される本発明のフィルム1は、これをローラでの巻き取りのように重ねて保管した場合においても、有機固体粒子5の裏移りという問題は生じることがなく、また、フィルム1の搬送時に有機固体粒子5が脱落するという不都合も生じることがない。
【0029】
さらに、本発明のフィルム1では、上記の有機固体粒子5が液体と接触することにより潤滑層9が生成し、これにより、液体7に対して優れた潤滑性が発現する。即ち、このフィルム1をヒートシールにより製袋して袋状容器として使用した場合、この袋状容器内に液体内容物を充填することにより潤滑層9を形成することができ、潤滑層9を形成するために格別の工程は不要であり、工業的に極めて有利である。
【0030】
また、袋状容器内に充填される内容物の種類に応じて有機固体粒子5を選択することにより、水性液体のみならず油性液体に対しても優れた潤滑性を発現させ、袋状容器内に内容物が付着残存することなく、速やかに内容物を排出することができる。
さらに、この内容物が高粘性の液状体、例えば粘度(25℃)が100mPa・s以上の粘稠なペースト状、スラリー状或いはゲル状の流動性物質であったとしても優れた排出性を示し、このような粘稠な流動性物質が長期間保持されていた場合においても、その潤滑性が損なわれることはない。
【0031】
上記のような粘稠な流動性物質としては、例えば、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス、或いはプリンやヨーグルトなどのゲル状物質、さらにはカレー、とろみをつけた各種食品類などを例示することができる。
【0032】
例えば、アルギン酸Naの有機固体粒子5を粗面上に保持したフィルム1を使用して袋状容器(パウチ)を作製し、この袋状容器内にカレーを充填したとき、数か月以上経過した後も、初期と同様に、カレーを速やかに排出できたことを実験により確認されている。
また、このようなパウチの内部にカレーを充填し、1時間程度放置したところ、有機固体粒子(アルギン酸Na)が膨潤し、潤滑層が生成していたことも確認している。
【符号の説明】
【0033】
1:フィルム
3:粗面
3a:粗面の凹部
3b:粗面の凸部
5:有機固体粒子
7:液体
9:潤滑層