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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】流体制御弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20220712BHJP
   F01P 3/20 20060101ALN20220712BHJP
   F01P 7/16 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
F16K31/06 305J
F16K31/06 305D
F16K31/06 305L
F16K31/06 305M
F16K31/06 305K
F01P3/20 H
F01P7/16 504E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018159607
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020034054
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】栃原 秀哉
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特許第5614585(JP,B2)
【文献】特表2013-525653(JP,A)
【文献】特開平6-34064(JP,A)
【文献】実公昭26-1487(JP,Y1)
【文献】特開平11-304034(JP,A)
【文献】特開2001-55132(JP,A)
【文献】特開2019-56380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体である作動流体が流通する内部通路(520)を有するハウジング(52)と、
弁座部(560b;566b;1560b)から離間して前記作動流体の流通を許可する開弁状態と閉弁状態とに切り換えるように前記内部通路を開閉し、開弁する方向に前記作動流体の圧力が作用する弁部(550b;552b;1550b)と、
一部に前記弁部をし、前記弁部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれかまたは組み合わせによって前記弁部とともに形成されたプランジャ(55;155;255;355)と、
通電時に前記プランジャを軸方向に駆動する磁気力を発生するコイル部(540)と、
前記通電時に前記プランジャとともに磁気回路を形成し、前記弁座部を一部に備えて、前記弁部と接触する前記弁座部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれかまたは組み合わせによって形成されたヨーク(56;156;256)と、
を備える流体制御弁。
【請求項2】
前記プランジャと前記ヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第1経路(565,552;551,561;552,563a)と、
前記第1経路とは異なる部位において前記プランジャと前記ヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第2経路(550,560;552,564;552,566;1550,1560)と、
を備え、
前記開弁状態における通電開始時は前記第1経路の方が前記第2経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成し、通電中である前記閉弁状態では前記第2経路の方が前記第1経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成する請求項1に記載の流体制御弁。
【請求項3】
液体である作動流体が流通する内部通路(520)を有するハウジング(52)と、
弁座部(560b;566b;1560b)から離間して前記作動流体の流通を許可する開弁状態と閉弁状態とに切り換えるように前記内部通路を開閉し、開弁する方向に前記作動流体の圧力が作用する弁部(550b;552b;1550b)と、
一部に前記弁部を前記弁部とともに形成されて、軸方向に駆動されるプランジャ(55;155;255;355)と、
通電時に前記プランジャを前記軸方向に駆動する磁気力を発生するコイル部(540)と、
前記弁部に対して前記軸方向に対向する位置に前記弁座部を備えて、前記通電時に前記プランジャとともに磁気回路を形成するヨーク(56;156;256)と、
前記プランジャと前記ヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第1経路(565,552;551,561;552,563a)と、
前記第1経路とは異なる部位において前記プランジャと前記ヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第2経路(550,560;552,564;552,566;1550,1560)と、
を備え、
前記開弁状態における通電開始時は前記第1経路の方が前記第2経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成し、通電中である前記閉弁状態では前記第2経路の方が前記第1経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成する流体制御弁。
【請求項4】
前記第1経路は、前記プランジャと前記ヨークの一方の一部であって前記プランジャと前記ヨークの他方の部分(551;563)に対して傾斜する断面形状をなす傾斜部(561)と前記他方の部分との間を磁束が通る磁気経路であり、
前記第2経路は、前記プランジャと前記ヨークのそれぞれにおいて前記軸方向に向かい合う部分であって互いに沿うような断面形状をなす平行部(550,560;552,566;552,564;1550,1560)を磁束が通る磁気経路である請求項2または請求項3に記載の流体制御弁。
【請求項5】
前記プランジャは、前記軸方向に延びる筒状部(551)を備え、
前記ヨークは、前記筒状部に対して傾斜する断面形状をなす前記傾斜部を備え、
前記平行部は、前記プランジャにおいて前記筒状部よりも前記作動流体の上流側に設けられているプランジャ側盤部(550;1550)と、前記ヨークにおいて前記傾斜部よりも前記作動流体の上流側に設けられているヨーク側盤部(560;1560)とを含んで構成されている請求項4に記載の流体制御弁。
【請求項6】
前記弁部と前記弁座部は、前記閉弁状態において前記第2経路を形成する前記平行部に設けられている請求項4または請求項5に記載の流体制御弁。
【請求項7】
前記第2経路は複数の部位に設定されており、
複数の部位に設定された前記第2経路の少なくとも一つは、前記閉弁状態において前記プランジャと前記ヨークとが接触する部位に形成されている請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【請求項8】
前記第2経路は、前記閉弁状態において前記プランジャと前記ヨークとが接触する部位に形成されている請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【請求項9】
前記プランジャの外側であって前記コイル部の内側に前記作動流体が流通する流体通路(521)を備える請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【請求項10】
前記プランジャの内側に前記作動流体が流通する流体通路(1550a)を備える請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【請求項11】
前記コイル部よりも内側であってかつ前記プランジャの内側に前記作動流体が流通する流体通路(1550a)を備える請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【請求項12】
前記弁部と前記弁座部の少なくとも一つは、磁性材料によって形成されている請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の流体制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジン冷却回路においてエンジンから流出した流体の流通を許可および阻止する流体制御弁が開示されている。この流体制御弁は、冷却水の液圧が生じていない状態では、付勢バネの付勢力や、プランジャが固定コアに引き付けられる吸引力によって閉弁状態に維持されている。冷却水の液圧が付勢バネの付勢力を上回ると、プランジャは液圧により固定コアから離間する方向に移動して開弁するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5614585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の流体制御弁は、円筒状体の固定コアにおける環状の先端面にプランジャが接触することにより閉弁状態になる。固定コアの環状の先端面は、弁部であるプランジャと接触する弁座面として機能する。先端面が弁座面としての機能を発揮するには、先端面の平面度を確保するために先端面を研磨加工したり表面仕上げ加工したりすることが必要であるので、表面仕上げ等の製造コストを要するという課題がある。
【0005】
特許文献1の流体制御弁では、開弁状態から閉弁する際にプランジャの移動方向と反対向きに作用する冷却水の液圧の大きさによってはソレノイドが磁束を発生しても閉弁できないことがある。また特許文献1においては、作動流体の圧力に抗して閉弁する閉弁性能を確保するには、閉弁方向に付勢する付勢バネを併せ持つ必要がある。また、付勢バネの付勢力が大きい場合、通電終了後に冷却水の液圧が弱まった場合に閉弁状態から開弁状態に移行しにくいという懸念がある。
【0006】
この明細書に開示する第1の目的は、弁部と弁座部の接触面に関する製造コストの低減を図る流体制御弁を提供することである。
【0007】
この明細書に開示する第2の目的は、作動流体の圧力に抗して閉弁する閉弁性能の向上を図る流体制御弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
開示された流体制御弁の一つは、液体である作動流体が流通する内部通路(520)を有するハウジング(52)と、弁座部(560b;566b;1560b)から離間して作動流体の流通を許可する開弁状態と閉弁状態とに切り換えるように内部通路を開閉し、開弁する方向に作動流体の圧力が作用する弁部(550b;552b;1550b)と、
一部に弁部をし、弁部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれかまたは組み合わせによって弁部とともに形成されたプランジャ(55;155;255;355)と、通電時にプランジャを軸方向に駆動する磁気力を発生するコイル部(540)と、通電時にプランジャとともに磁気回路を形成し、弁座部を一部に備えて、弁部と接触する弁座部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれかまたは組み合わせによって形成されたヨーク(56;156;256)と、を備える。
【0010】
この流体制御弁によれば、弁部と弁座部とについて研磨処理または切削処理が施されていないプランジャとヨークを備える。この構成を有するプランジャとヨークによれば、弁部と弁座部との接触面について研磨処理または切削処理を施さなくても、流体制御弁としての閉弁性能を発揮可能な弁部と弁座部の接触面を得ることができる。以上より、この流体制御弁によれば、弁部と弁座部の接触面に関する製造コストの低減を図ることができる。
【0011】
開示された流体制御弁の一つは、液体である作動流体が流通する内部通路(520)を有するハウジング(52)と、弁座部(560b;566b;1560b)から離間して作動流体の流通を許可する開弁状態と閉弁状態とに切り換えるように内部通路を開閉し、開弁する方向に作動流体の圧力が作用する弁部(550b;552b;1550b)と、一部に弁部を弁部とともに形成されて、軸方向に駆動されるプランジャ(55;155;255;355)と、通電時にプランジャを軸方向に駆動する磁気力を発生するコイル部(540)と、弁部に対して軸方向に対向する位置に弁座部を備えて、通電時にプランジャとともに磁気回路を形成するヨーク(56;156;256)と、プランジャとヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第1経路(565,552;551,561;552,563a)と、第1経路とは異なる部位においてプランジャとヨークとの間を磁束が通る磁気経路である第2経路(550,560;552,564;552,566;1550,1560)と、を備え、開弁状態における通電開始時は第1経路の方が第2経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成し、通電中である閉弁状態では第2経路の方が第1経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成する。
【0012】
この流体制御弁によれば、通電開始時に、第2経路よりも磁束が大きい第1経路を通る磁気経路によって発生する駆動力を利用してプランジャを流体圧力に抗して吸引し始めることができる。さらに開弁状態から閉弁状態に至る過程において、第1経路よりも磁束が大きくなる第2経路を通る磁気経路によって発生する駆動力を利用して閉弁状態を維持するように、プランジャの弁部をヨークの弁座部に吸着することができる。このように開弁状態での通電開始時に第1経路を通る磁気経路が支配的になることにより、プランジャを弁座部側に吸引する吸引力を発揮させて作動流体の圧力に抗する方向に弁部を移動させる駆動力を得ることができる。そして閉弁状態では第2経路を通る磁気経路が支配的になることにより、弁部を弁座部に接触させた状態に維持する吸着力を発揮させて内部通路を締め切ることができる。以上より、作動流体の圧力に抗して閉弁する閉弁性能の向上を図る流体制御弁を提供できる。
【0013】
さらに、スプリングなどの付勢力に頼らずに、開弁状態からの閉弁動作と閉弁状態の維持とを両立できるので、スプリングの具備や付勢力の強化などに伴う装置の大型化を抑えることができる。さらにプランジャとヨークとが弁部と弁座部の機能を持つため、別個の弁体を備える必要がなく、部品点数や部品管理工数を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る冷却水回路を示す構成図である。
図2】第1実施形態の流体制御弁について開弁状態を示した断面図である。
図3】第1実施形態の流体制御弁について閉弁状態を示した断面図である。
図4】閉弁状態における流出ポート側のヨークとプランジャ間の磁気経路を示した部分拡大図である。
図5】第1経路と第2経路についてストロークと吸引力の関係を示す特性図である。
図6】第2実施形態の流体制御弁について開弁状態における流入ポート側のヨークとプランジャ間の磁気経路を示した部分拡大図である。
図7】第2実施形態の流体制御弁について閉弁状態における流入ポート側のヨークとプランジャ間の磁気経路を示した部分拡大図である。
図8】第3実施形態の流体制御弁について開弁状態を示した断面図である。
図9】第3実施形態の流体制御弁について閉弁状態を示した断面図である。
図10】閉弁状態における流出ポート側のヨークとプランジャ間の磁気経路を示した部分拡大図である。
図11】第3実施形態におけるプランジャの斜視図である。
図12】第3実施形態におけるプランジャを流出ポート側からみた平面図である。
図13】第4実施形態の流体制御弁について閉弁状態を示した断面図である。
図14】閉弁状態における流出ポート側のヨークとプランジャ間の磁気経路を示した部分拡大図である。
図15】第5実施形態におけるプランジャの斜視図である。
図16】第5実施形態におけるプランジャを流出ポート側からみた平面図である。
図17】第6実施形態の流体制御弁について開弁状態を示した断面図である。
図18】第6実施形態の流体制御弁について閉弁状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0016】
(第1実施形態)
開示の目的を達成する流体制御弁は、内部を流通する作動流体の圧力が作用する方向と反対の方向を閉弁方向とし、流体通路を開く開弁状態と流体通路を閉じる閉弁状態とを切り換える装置である。流体制御弁によって制御される作動流体は、水、オイル等の液体である。
【0017】
流体制御弁の一例を開示する第1実施形態について図1図5を参照しながら説明する。第1実施形態の流体制御弁5は、液体を作動流体とする冷却水回路1に用いられる。冷却水回路1は、エンジン冷却水が循環する回路であり、車両に設けられたエンジン2の暖機および冷却を効率良く行う機能を有している。図1に示すように、冷却水回路1は、エンジン2、ポンプ3、第1流路10、第2流路11、第3流路12、切換弁4、ヒータコア6、流体制御弁5、ラジエータ7、制御装置8等を備えている。
【0018】
冷却水はポンプ3から流出し、エンジン2、第1流路10、第2流路11、第3流路12を流通してポンプ3に戻る。制御装置8は、少なくとも一つの演算処理装置と、プログラムとデータとを記憶する記憶媒体としての少なくとも一つのメモリ装置とを有する。制御装置8は、例えばコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリまたは磁気ディスクなどによって提供されうる。制御装置8は、一つのコンピュータ、またはデータ通信装置によってリンクされた一組のコンピュータ資源によって提供されうる。プログラムは、制御装置8によって実行されることにより、制御装置8をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される方法を実行するように制御装置8を機能させる。制御装置8は、エンジン2の暖機および冷却を行う種々の処理を行うための機能部がハードウェアまたはソフトウェアまたはその両方で構築されている。
【0019】
ポンプ3は、エンジン2が運転状態である場合に冷却水を駆動させるようにエンジン2の運転と連動する装置である。ポンプ3は、エンジン2が運転状態のときに運転して冷却水を循環させ、エンジン2が停止状態のときに運転しない。ポンプ3には、例えばエンジンの回転によって動作する機械式の流量可変型ポンプが用いられる。ポンプ3は、電動モータを駆動源とし、エンジン2の運転状態とは無関係に作動、停止が可能である装置としてもよい。この場合、ポンプ3は、制御装置8の制御により、吐出する流体の量を変化させることができる。
【0020】
第1流路10は、エンジン2から流出した流体をポンプ3を経由してエンジン2に流入させるように、流体がヒータコア6やラジエータ7を経由しないでエンジン2、切換弁4およびポンプ3を循環する流路である。エンジン2の内部には冷却水を流通させる流路が形成されている。エンジン2の内部を流通する冷却水は、エンジン2の熱を吸収して自らの温度を上昇させることでエンジン2の内部温度を低下させている。第2流路11は、エンジン2から流出した冷却水を、第1流路10の上流部から分岐して流体制御弁5、ヒータコア6を経由して第1流路10の下流部に戻す流路である。第2流路11には流体制御弁5およびヒータコア6が設けられている。第3流路12は、流体制御弁5よりも上流側である第2流路11の上流部から分岐して、ラジエータ7を経由して第1流路10の下流部に戻す流路である。
【0021】
第3流路12にはラジエータ7が設けられている。第3流路12が下流側において第1流路10に接続する合流部には、切換弁4が設けられている。切換弁4は、エンジン2を流出した冷却水の流路を、第1状態と第2状態と第3状態とに切り換え可能に構成されている。第1状態は、冷却水が第1流路10を循環するように第1流路10と第3流路12とを連通させない状態である。第2状態は、冷却水が第3流路12を経由してエンジン2に戻るように切換弁4によって第3流路12とエンジン側の通路とを接続する状態である。第3状態は、切換弁4において接続されている3つの通路をすべて開放する状態である。切換弁4は、例えば冷却水が所定の温度条件を満たす場合に第3状態に流路を切り換え、所定の温度条件を満たさない場合に第1状態に流路を切り換える装置であり、例えばサーモスタット弁によって構成することができる。つまり、切換弁4は、感温ワックスに加えられた熱の量(冷却水温度)に応じて弁開度が変化する。
【0022】
流体制御弁5は、第2流路11においてヒータコア6よりも上流側または下流側に設けられ、その開度を閉状態または開状態の2つの状態に切り換え可能な弁である。流体制御弁5が閉状態である場合、冷却水は第1状態で第2流路11には流れず第1流路10のみに流れ、第2状態で第3流路12のみに流れる。流体制御弁5が開状態である場合、冷却水は第1状態で第1流路10と第2流路11の両方に流れる。以上のように、第2流路11、第3流路12は第1流路10に対して並列状態で構成されている。
【0023】
制御装置8は、冷却水温度センサによって検出される冷却水の温度に基づいて流体制御弁5を制御する。エンジン2の始動後、冷却水温度があらかじめ定めた第1温度未満である場合は、切換弁4によって第1状態に維持され制御装置8によって流体制御弁5を閉状態に制御する。冷却水は第1流路10のみを循環するので、エンジン2の暖機が促進される。
【0024】
冷却水温度が第1温度以上になると、エンジン2の暖機制御を終了する。冷却水温度が第1温度よりも高温に設定された第2温度以上になると、切換弁4によって第2状態または第3状態に切り換えられて、冷却水は第3流路12を循環しラジエータ7において冷却水の放熱が行われる。制御装置8によって通電が遮断されて流体制御弁5が開状態に制御されると、冷却水は第2流路11を循環し、ヒータコア6においても冷却水の放熱が行われる。また、第1状態である場合に、ヒータコア6において冷却水からの放熱が必要である場合は、制御装置8によって通電が遮断されて流体制御弁5を開状態に制御することがある。
【0025】
また他の形態として、前述した冷却水回路1は、エンジン2から流出した流体がヒータコア6やラジエータ7を経由しないでエンジンに戻る経路をなす第1流路10を備えていない構成であってもよい。切換弁4は、前述の第2状態を実施しないように冷却水回路1の流路を切り換える構成でもよい。制御装置8は、エンジン油温、あるいはトランスミッション等の油温を検出するセンサの検出値に基づいて流体制御弁5を制御するように構成してもよい。
【0026】
次に流体制御弁5について、図2図5を用いて説明する。図2は開弁状態を示しており、図3は閉弁状態を示している。流体制御弁5は、弁部550bを備えた可動コアであるプランジャ55、シートバルブである弁座部560bを備えたヨーク56、電磁ソレノイド部54等を備えている。流体制御弁5は、弁部550bが弁座部560bから離間していく方向である開弁方向に作動流体の圧力が作用する構成を有する電磁弁装置である。つまり、流体制御弁5は、流体圧力に抗する方向に弁部550bの閉弁方向が設定されている電磁弁装置である。流体制御弁5は、作動流体から受ける流体圧力と通電により発生する磁気力とのバランス状態に応じて、ハウジング内に設けられた内部通路520を開閉する。内部通路520は、中間ハウジング52の内部においてヨーク56の上流側開口部560aを入口とする通路を構成する。
【0027】
プランジャ55は、軸方向の一端側が閉じられた形状であり、他端側が開口しているカップ状体である。プランジャ55は、流入ポート510側に設けられた上流側盤部550と、流出ポート530側に設けられた下流側環状部552と、上流側盤部550と下流側環状部552とを連絡する筒状部551とを備えている。上流側盤部550は、筒状部551と同程度の外径寸法を有し、流入ポート510側に位置する面に弁座部560bに着座する弁部550bを備えている。上流側盤部550は、プランジャ55において筒状部551よりも上流側に設けられており、表面が平らに形成されたプランジャ側盤部に相当する。弁部550bは、ヨーク56の一部として設けられた弁座部560bに対して、プランジャ55において対向する位置に設けられている。軸方向はプランジャ55の移動方向である。上流側盤部550は、少なくとも弁部550bが軸方向に対して直交する面を形成するように設けられている。また、上流側盤部550は、少なくとも弁部550bが弁座部560bに対して平行な面を形成するように設けられている。
【0028】
プランジャ55は、例えば磁性材料で構成されている。弁部550bは磁性材料で形成されている構成でもよい。プランジャ55は、弁部550bの表面に研磨処理または切削処理が施されていない部材である。プランジャ55を製造する際のプレス加工においては、板材を絞り加工、曲げ加工を用いた成形を行う。また、プランジャ55は、鍛造、転造のいずれかによって形成された部材である。鍛造や転造は、材料を切削しないで圧縮力によって所定の形状に成形する加工技術であるため、弁部550bの表面に研磨処理または切削処理が施されていないプランジャ55を形成することができる。プランジャ55は、弁部550bの表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、またはこれらのうち複数の組み合わせによって形成された部材である。弁部550bの表面は、弁座部560bに対して平行に成形された板材の表面によって構成されることになる。このような成形により、成形後に弁部550bの表面に研磨処理、切削処理等の仕上げ加工を施さずとも、弁座部560bとの閉弁性能を確保可能な弁部550bの表面を形成することができる。
【0029】
下流側環状部552は、筒状部551よりも大きい外径寸法であって筒状部551に対して直交するように放射状に広がる形状であるフランジ状部である。下流側環状部552には、筒状部551よりも径外寄りに位置する下流側通路552aが軸方向に貫通している。下流側通路552aは、下流側環状部552において周方向に複数個並ぶように設けられている。下流側通路552aは、上流側において筒状部551の周囲に設けられた連通路521に通じ、下流側において流出ポート530に通じている。連通路521は、中間ハウジング52の内部に設けられた通路であり、上流側において内部通路520に通じている。連通路521は、プランジャ55の外側であってコイル部540の内側に作動流体が流通する流体通路である。このように内部通路520、連通路521および下流側通路552aは、流入ポート510と流出ポート530とを連通する通路を構成している。
【0030】
プランジャ55は、少なくとも下流側環状部552が、ヨーク56の下流端に位置する第2筒状部565に内挿された状態で、軸方向に摺動可能に支持されている。また、プランジャ55は、少なくとも筒状部551が、ボビン541よりも内側に設けられた摺動支持部に部分的に支持されている構成によって、軸方向に摺動可能であってもよい。摺動支持部は、ボビン541と同様に、非磁性材料で形成されている。
【0031】
流体制御弁5において流体通路を形成するハウジング本体は、作動流体が流入する流入通路である流入ポート510が設けられた流入側ハウジング51と、流出通路である流出ポート530が設けられた流出側ハウジング53と、中間ハウジング52とを備える。中間ハウジング52は、流入側ハウジング51と流出側ハウジング53とを連結する。流入側ハウジング51は、下流側端部に設けられたフランジ部が中間ハウジング52に一体に結合されている。
【0032】
流出側ハウジング53は、上流側端部に設けられたフランジ部が中間ハウジング52に一体に結合されている。流入側ハウジング51、中間ハウジング52および流出側ハウジング53は、樹脂材料で形成され、結合部において溶着接合されている。
【0033】
中間ハウジング52は、ヨーク56、プランジャ55、コイル部540、ボビン541等を内蔵している。ヨーク56は、プランジャ55と同様に、例えば磁性材料で構成されている。弁座部560bは磁性材料で形成されている構成でもよい。ヨーク56は、磁気回路の一部を構成し、ボビン541、プランジャ55を中間ハウジング52の内部で支持している。ヨーク56は、ボビン541およびコイル部540の外周側を覆うように設けられている。ヨーク56、プランジャ55、コイル部540、ボビン541および摺動支持部は、軸心が同軸をなすように設置されている。
【0034】
電磁ソレノイド部54は、ヨーク56、コイル部540、ボビン541、摺動支持部、コネクタ等を備えて構成されている。コネクタは、ヨーク56の側方または外側に位置するように設けられる。コネクタは、コイル部540に通電するために設けられており、内部のターミナル端子は、コイル部540と電気的に接続されている。電磁ソレノイド部54は、コネクタによってターミナル端子を電流制御装置等に電気的に接続することにより、コイル部540に通電する電流を制御できる。ボビン541は、樹脂材により円筒状に形成され、外周面にはコイル部540が巻回されている。コイル部540に通電が行われると、発生した磁束はヨーク56とプランジャ55とを循環するように流れる磁気回路を形成する。
【0035】
ヨーク56は、軸方向の両端が開口している筒状体である。ヨーク56は、流入ポート510側に設けられた上流側の第1環状部560と、プランジャ55の軸心に対して傾斜する傾斜部561と、傾斜部561の下流側端部から径外側に延びる第2環状部562と、を備えている。ヨーク56は、さらに第2環状部562の外周縁から軸方向に延びる第1筒状部563と、下流側の端部において軸方向に延びる断面形状である第2筒状部565と、第1筒状部563と第2筒状部565とをつなぐ下流側環状部564とを備えている。下流側環状部564は、第1筒状部563の下流側端部から径外側に放射状に延びて外周側において第2筒状部565と一体になっている。
【0036】
第1環状部560は、ヨーク56において傾斜部561よりも上流側に設けられており、表面が平らに形成されたヨーク側盤部に相当する。傾斜部561は、上流側の端部が第1環状部560に連結し、下流側の端部が第2環状部562に連結する形状の筒状部である。傾斜部561は、プランジャ55の筒状部551に対して傾斜する断面形状をなす部分である。以下、傾斜部および平行部に関わる断面形状とは、プランジャ55等の軸方向に沿う縦断面形状のことである。傾斜部561は、上流側の端部が下流側の端部よりも外径寸法が小さく形成されている。したがって、傾斜部561は、下流側に向かうほど、直径が大きくなるように筒状部551に対して傾斜している。傾斜部561における上流側の端部は、筒状部551よりも直径寸法が大きく構成されている。
【0037】
第1環状部560は、プランジャ55の上流側盤部550に接触可能で、上流側盤部550よりも大きい直径寸法を有し、プランジャ55と同軸に形成された上流側開口部560aを貫通孔として有する。第1環状部560と上流側盤部550は、軸方向に向かい合う部分であって互いに沿うような断面形状をなす平行部をなしている。
【0038】
第1環状部560は、下流側に位置する面に弁部550bに接触する弁座部560bを備えている。第1環状部560は、少なくとも弁座部560bが軸方向に対して直交する面を形成するように設けられている。また、上流側盤部550は、少なくとも弁部550bが弁座部560bに対して平行な面を形成するように設けられている。弁座部560bは、プランジャ55の一部として設けられた弁部550bに対して、ヨーク56において対向する位置に設けられている。閉弁状態において弁座部560bは、第1環状部560において上流側開口部560aよりも径外側に、環状面または環状線を形成するように弁部550bに接触する部分である。
【0039】
ヨーク56は、弁座部560bの表面に研磨処理または切削処理が施されていないプレス加工によって形成された部材である。ヨーク56を製造する際のプレス加工においては、板材を絞り加工、曲げ加工を用いた成形を行う。また、ヨーク56は、鍛造、転造のいずれかによって形成された部材である。鍛造や転造は、材料を切削しないで圧縮力によって所定の形状に成形する加工技術であるため、弁座部560bの表面に研磨処理または切削処理が施されないヨーク56を形成することができる。ヨーク56は、プランジャ55と同様に、弁座部560bの表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、またはこれらのうち複数の組み合わせによって形成された部材である。弁座部560bの表面は、弁部550bに対して平行に成形された板材の表面によって構成されることになる。このような成形により、成形後に弁座部560bの表面に研磨処理、切削処理等の仕上げ加工を施さずとも、弁部550bとの閉弁性能を確保可能な弁座部560bの表面を形成することができる。
【0040】
流体制御弁5の製造方法は、コイル部540、ボビン541およびヨーク56を備えた電磁ソレノイド部54を中間ハウジング52に設置する工程と、電磁ソレノイド部54に内側にプランジャ55を設置する工程とを備える。流体制御弁5の製造方法は、さらに内部に電磁ソレノイド部54およびプランジャ55が設置された状態の中間ハウジング52に対して、流入側ハウジング51と流出側ハウジング53とを結合する工程を備える。また、流入側ハウジング51と流出側ハウジング53の一方のハウジングが中間ハウジング52に一体に形成されている単一のハウジングを構成している場合には、流体制御弁5の製造方法は、単一のハウジングに他方のハウジングを結合する工程を備えればよい。
【0041】
流体制御弁5は、図2に示す開弁状態における通電時に、下流側においてプランジャ55とヨーク56との間を磁束が通る磁気経路である第1経路を形成する。流体制御弁5は、図3に示す閉弁状態における通電時に、上流側と下流側とにおいてプランジャ55とヨーク56との間を磁束が通る磁気経路である第2経路を形成する。第2経路は、第1経路とは異なる部位においてプランジャ55とヨーク56との間を磁束が通る磁気経路である。上流側に形成される第2経路は、上流側盤部550と第1環状部560との間に磁束が通る磁気経路であり、弁部550bと弁座部560bを通過する経路である。下流側に形成される第2経路は、第2筒状部565と下流側環状部552との間に磁束が通る磁気経路である。
【0042】
図2に示すように開弁状態で通電中であると、プランジャ55とヨーク56の下流側端部においては、下流側環状部552と第2筒状部565との間の第1経路に磁束が通る。開弁状態で下流側におけるプランジャ55とヨーク56との距離は、下流側環状部552と第2筒状部565との間が最も短くなっている。
【0043】
図2に示す開弁状態から閉状態に近づけていき図3図4に示す閉弁状態になると、第2経路が第1経路よりも支配的となる逆転現象が起こる。これは、互いに平行部を構成する下流側環状部552と下流側環状部564とが接触し、または下流側においてプランジャ55とヨーク56との間において最も近接するからである。下流側において下流側環状部552と下流側環状部564との間が、磁気抵抗が最も小さい部位であり、磁束が最も大きい部位になる。閉弁状態では、さらにプランジャ55とヨーク56の上流側端部において、上流側盤部550と第1環状部560との間を磁束が通る第2経路が支配的になる。このように第2経路が支配的になるのは、互いに平行部を構成する上流側盤部550と第1環状部560とが接触し、または上流側においてプランジャ55とヨーク56との間において最も近接するからである。
【0044】
このように流体制御弁5は、下流側において、図5に示す特性図と同様にストロークが小さい閉弁状態の直前においてプランジャ55の吸引力が第2経路の方が第1経路よりも大きくなるように変化する。流体制御弁5は、第2経路によって弁部550bを弁座部560bに吸着する構成を上流側と下流側の両方に備えることにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して弁部550bを弁座部560bに着座させることができ、閉弁時の吸着保持力を強化できる。
【0045】
図5に示すように、プランジャ55を吸引する吸引力は、開弁状態から閉弁状態に近づく間は第1経路の方が第2経路よりも大きく、閉弁状態の直前で逆転現象が起きて閉弁状態では第2経路の方が第1経路よりも大きくなるという特性がある。図2に示すように、通電時の開弁状態においては、第1経路が第2経路よりも支配的な磁気経路になる。これは、プランジャ55とヨーク56との間において、下流側環状部552と第2筒状部565との距離が最も短くなり磁気抵抗が最も小さい部位であり、磁束が最も大きい部位になるからである。このため、流体制御弁5は、図5の特性図と同様に、ストロークが大きい開弁状態ではプランジャ55を吸引する吸引力が第2経路よりも第1経路の方が大きくなる。したがって、流体制御弁5は、第1経路において吸引し始める構成を採用することによって、弁部550bに作用する流体圧力に反してプランジャ55を吸引することができ、通電開始時の吸引性能を強化できる。
【0046】
図4に示す開弁状態から閉状態に近づけていくと、流体制御弁5は、図5の特性図と同様に、ストロークが小さい閉弁状態の直前においてプランジャ55の吸引力が第2経路の方が大きくなるように変化する。したがって、流体制御弁5は、第2経路によって弁部550bを弁座部560bに吸着する構成を採用することにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して閉弁時の吸着保持力を強化することができる。以上のように、流体制御弁5は、図5に図示する第1経路と第2経路の両方の吸引力に係る有利な特性を併せ持った電磁弁を提供している。
【0047】
次に、第1実施形態の流体制御弁5がもたらす作用効果について説明する。流体制御弁5は、弁座部560bから離間して作動流体の流通を許可する開弁状態と閉弁状態とに切り換えるように内部通路520を開閉し、開弁する方向に作動流体の圧力が作用する弁部550bを備える。流体制御弁5は、プランジャ55と、通電時にプランジャ55を軸方向に駆動する磁気力を発生するコイル部540と、通電時にプランジャ55とともに磁気回路を形成しヨーク56とを備える。プランジャ55は弁部550bを一部に備えている。プランジャ55は、弁部550bの表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、または組み合わせによって形成されている。ヨーク56は弁座部560bを一部に備えている。ヨーク56は、弁部550bと接触する弁座部560bの表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、またはこれらのうち複数の組み合わせによって形成されている。
【0048】
この流体制御弁5によれば、弁部550bと弁座部560bとについて研磨処理または切削処理が施されていないプランジャ55とヨーク56を備える。この構成を有するプランジャ55とヨーク56によれば、流体制御弁5としての閉弁性能を発揮可能な弁部550bと弁座部560bの接触面を提供することができる。これにより、弁部550bの表面と弁座部560bの表面について研磨処理または切削処理を施さなくても、必要な閉弁性能を満たした流体制御弁5を提供できる。この流体制御弁5によれば、弁部550bと弁座部560bの接触面に関する製造コストの低減が図れる。
【0049】
流体制御弁5は、プランジャ55とヨーク56との間を磁束が通る磁気経路である第1経路と、第1経路とは異なる部位においてプランジャ55とヨーク56との間を磁束が通る磁気経路である第2経路とを備える。開弁状態での通電開始時は、第1経路の方が第2経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成し、閉弁状態では第2経路の方が第1経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成する。
【0050】
この流体制御弁5によれば、通電開始時に、第2経路よりも磁束が大きい第1経路を通る磁気経路によって発生する駆動力を利用してプランジャ55を流体圧力に抗して吸引し始めることができる。さらに開弁状態から閉弁状態に至る過程において、第1経路よりも磁束が大きい第2経路を通る磁気経路によって発生する駆動力を利用して、弁部550bを弁座部560bに吸着し、閉弁状態を維持することができる。このように開弁状態での通電開始時に第1経路を通る磁気経路が支配的になることにより、プランジャ55を弁座部560b側に吸引する吸引力を発揮させて作動流体の圧力に抗する方向に弁部550bを移動させる駆動力を得ることができる。そして閉弁状態では第2経路を通る磁気経路が支配的になることにより、弁部550bを弁座部560bに接触させた状態に維持する吸着力を発揮させて内部通路520を閉じ続けることができる。以上より、流体制御弁5は、作動流体の圧力に抗して閉弁する閉弁性能の向上を図ることができる。
【0051】
さらに、スプリングなどの付勢力に頼らずに、開弁状態からの閉弁動作と閉弁状態の維持とを両立できるので、スプリングの具備や付勢力の強化などに伴う装置の大型化を抑制できる。流体制御弁5は、さらにプランジャ55とヨーク56とが弁部550bと弁座部560bの機能を備えるので、別個の弁体を備える必要がなく部品点数や部品管理工数を抑制できる。
【0052】
流体制御弁5は、プランジャ55とヨーク56とで磁気回路を形成する構成を備えることにより、装置の部品点数抑制に寄与し、さらに磁気回路におけるエアギャップを抑えることができる。
【0053】
流体制御弁5は、開弁状態における通電開始時(吸引開始時)に最大電圧に制御され、閉弁状態である吸着保持時に吸引開始時よりも小さい電圧に制御されるようにしてもよい。この制御を採用した場合には、前述した第1経路と第2経路を備える構成により、通電電圧を抑えても吸引開始と吸着保持とを満足することができる流体制御弁5を提供できる。
【0054】
弁部550bと弁座部560bは、閉弁状態において第2経路を形成する平行部に設けられている。この構成によれば、弁部550bと弁座部560bは、プランジャ55とヨーク56との重複面積または接触面積が大きく磁束が大きい第2経路が形成されている平行部に設けられている。したがって、電磁力による吸着力が作用する部位に弁機能を備えた流体制御弁5を提供でき、弁の締切性能を高めることができる。
【0055】
流体制御弁5において第2経路は複数の部位に設定されている。複数の部位に設定された第2経路の少なくとも一つは、閉弁状態においてプランジャ55とヨーク56とが接触する部位に形成されていることが好ましい。この構成によれば、複数の第2経路の少なくとも一つがプランジャ55とヨーク56とを接触させた部位に設けられていることにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して弁部550bの閉弁状態を継続できる吸着力を提供でき、閉弁時の吸着保持力を強化できる。
【0056】
流体制御弁5は、プランジャ55の外側であってコイル部540の内側に作動流体が流通する流体通路を備える。この構成によれば、通電によるコイル部540とプランジャ55からの発熱を両者の間を流れる作動流体によって緩和できる流体制御弁5を提供できる。
【0057】
第2経路は、閉弁状態においてプランジャ55とヨーク56とが接触する部位に形成されていることが好ましい。この構成によれば、流体制御弁5はプランジャ55とヨーク56とを接触させた部位に第2経路を備えることにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して弁部550bの閉弁状態を継続できる吸着力を提供でき、閉弁時の吸着保持力を強化できる。
【0058】
(第2実施形態)
第2実施形態について、図6および図7を参照して説明する。第2実施形態の流体制御弁5は、第1実施形態に対して、ヨーク56とプランジャ55が開弁状態における通電時に第2経路よりも第1経路の方が支配的になるように形成されている点が相違する。第2実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については、第1実施形態と同様であり、以下、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0059】
第2環状部562は、傾斜部561の下流側端部よりも大きい直径寸法であって第1筒状部563に対して直交する方向に放射状に広がるフランジ状部である。第2環状部562は、断面形状が第1環状部560と平行な関係にある。第1筒状部563の内周面は、閉弁状態および開弁状態で、軸方向について下流側環状部552の外周縁と対向する位置関係にある。
【0060】
筒状部551、特にその上流側部位は、図6に示す開弁状態から図7に示す閉弁状態へ移動するにつれて傾斜部561との距離が少しずつ小さくなるように設けられている。
【0061】
第2実施形態の流体制御弁5においては、図6に示すように、通電時の開弁状態において、実線矢印で示す第1経路が破線矢印で示す第2経路よりも支配的な磁気経路になる。これは、プランジャ55とヨーク56との間において傾斜部561と筒状部551とは、距離が最も短くなり、磁気抵抗が最も小さい部位であり、磁束が最も大きい部位になるからである。開弁状態での通電開始時には、図6に示すように、上流側におけるプランジャ55とヨーク56との距離は、傾斜部561と筒状部551との間が最も短くなっている。このため、流体制御弁5は、前述の図5に示す特性図と同様に、開弁状態ではプランジャ55を吸引する吸引力が第2経路よりも第1経路の方が大きくなる。流体制御弁5は、第1経路において吸引し始める構成を採用することによって、弁部550bに作用する流体圧力に反してプランジャ55を吸引することができ、通電開始時の吸引性能を強化できる。
【0062】
図6に示す開弁状態から閉状態に近づけていき、図7に示す閉弁状態になると、第2経路が第1経路よりも支配的となる逆転現象が起こる。これは、上流側において互いに平行部を構成する上流側盤部550と第1環状部560とが接触し、またはプランジャ55とヨーク56との間において最も近接するからである。第2実施形態の流体制御弁5は、図6図7に図示する第1経路と第2経路の両方の吸引力に係る有利な特性を併せ持った電磁弁を提供している。以上のように、開弁状態での通電開始時は第1経路の方が第2経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成し、閉弁状態では第2経路の方が第1経路よりも磁束が大きくなる磁気経路を形成する。
【0063】
第2実施形態によれば、上流側における第1経路は、プランジャ55とヨーク56の一方の一部であってプランジャ55とヨーク56の他方の部分に対して傾斜する断面形状をなす傾斜部と他方の部分との間を磁束が通る磁気経路である。上流側における第2経路は、プランジャ55とヨーク56のそれぞれにおいて軸方向に向かい合う部分であって互いに沿うような断面形状をなす平行部を磁束が通る磁気経路である。この平行部は、プランジャ55の上流側盤部550とヨーク56の第1環状部560とで構成されている。
【0064】
この構成によれば、プランジャ55とヨーク56において他方の部分に対して傾斜する傾斜部を備えることにより、開弁状態での通電開始時にプランジャ55とヨーク56の平行部を通る第2経路よりも磁束が大きい第1経路を形成することができる。さらに開弁状態から閉弁状態に至る過程において平行部によって第2経路を構成することにより、プランジャ55とヨーク56との重なり合う面積または接触面積が大きくできる。このため、磁束を大きくできる第2経路によって、閉弁状態を維持する保持力を強化する流体制御弁5を提供できる。
【0065】
プランジャ55は軸方向に延びる筒状部551を備え、ヨーク56は筒状部551に対して傾斜する断面形状をなす傾斜部561を備える。平行部は、プランジャ55において筒状部551よりも作動流体の上流側に設けられているプランジャ側盤部と、ヨーク56において傾斜部561よりも作動流体の上流側に設けられているヨーク側盤部とを含んで構成されている。この構成によれば、ヨーク56がプランジャ55の筒状部551に対して傾斜する傾斜部561を備えることにより、開弁状態での通電開始時に前述の平行部を通る第2経路よりも磁束が大きい第1経路を形成できる。ヨーク56とプランジャ55に係るこの構成により、開弁状態での通電開始時にプランジャ55をヨーク56に引き付ける吸引力を発揮させる流体制御弁5を提供できる。
【0066】
この構成を有する流体制御弁5によれば、プランジャ55の筒状部551に対する傾斜部561がヨーク56に設けられているので、筒状部551の内径を大きくすることができる。これにより、後述する第6実施形態のように、筒状部551の内側に流体通路を設ける構成を採用する場合には、作動流体の圧力に抗した閉弁性能の向上と閉弁状態の維持性能向上とを図りつつ、作動流体の流通抵抗抑制が可能な流体制御弁を提供できる。
【0067】
(第3実施形態)
第3実施形態について図8図12を参照して説明する。第3実施形態の流体制御弁105は、第1実施形態に対して、ヨーク156とプランジャ155に関して、閉弁状態における第2経路の構成が相違する。第3実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については、第1実施形態と同様であり、以下、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0068】
流体制御弁105について、図8図12を用いて説明する。図8は開弁状態を示しており、図9は閉弁状態を示している。プランジャ155の下流側環状部552には、筒状部551よりも径外寄りに位置する下流側通路552cが軸方向に貫通している。図11および図12に示すように、下流側通路552cは、下流側環状部552において周方向に複数個並ぶように設けられている。複数個の下流側通路552cのそれぞれは、下流側環状部552において外周縁に近接した位置に設けられている。下流側通路552cは、上流側において、ヨーク156に設けられた下流側開口部566aに通じ、下流側において流出ポート530に通じている。内部通路520、連通路521、下流側開口部566aおよび下流側通路552cは、流入ポート510と流出ポート530とを連通する通路を構成している。
【0069】
ヨーク156は、上流側の第1環状部560と、傾斜部561と、第2環状部562と、第1筒状部563と、下流側環状部566とを一体に備えている。下流側環状部566は、第1筒状部563の下流側における内周面の全周から径内側に突出する環状部である。下流側環状部566は、別部品である第1筒状部563に結合された部分である。また、下流側環状部566は、第1筒状部563に一体に成形されている部分であってもよい。この場合、下流側環状部566は、単一部品からなるヨーク156の一部である。下流側環状部566は、第1筒状部563における下流端部563aよりも上流に設けられている。下流側環状部552が下流端部563aに対して摺動可能に内接する構成により、プランジャ155はヨーク156に対して軸方向に摺動可能に支持されている。下流側環状部566と下流側環状部552は、軸方向に向かい合う部分であって互いに沿うような断面形状をなす平行部をなしている。
【0070】
下流側開口部566aは、下流側環状部566の内周縁に設けられた開口部である。下流側開口部566aには、プランジャ155の筒状部551が下流側環状部566を軸方向に貫通した状態で設置されている。下流側通路552cは、下流側開口部566aよりも径外側に位置している。下流側環状部552において下流側通路552cよりも径内側の部位と下流側環状部566とは、軸方向に対向している。この構成により、下流側環状部552における上流側面552bと下流側環状部566における下流側面566bとは、軸方向に対面している。上流側面552bと下流側面566bとは、平行な面を形成するように設けられている。
【0071】
流体制御弁105は、図8に示す開弁状態における通電時に、下流側においてプランジャ155とヨーク156との間を磁束が通る磁気経路である第1経路を形成する。流体制御弁105は、図9図10に示す閉弁状態における通電時に、上流側と下流側とにおいてプランジャ155とヨーク156との間を磁束が通る磁気経路である第2経路を形成する。流体制御弁105において上流側に形成される第2経路は、上流側盤部550と第1環状部560との間に磁束が通る磁気経路であり、接触している弁部550bと弁座部560bを通過する経路である。流体制御弁105において下流側に形成される第2経路は、図10に図示するように、近接して接触していない下流側環状部566と下流側環状部552との間に磁束が通る磁気経路である。
【0072】
図8に示すように開弁状態で通電中であると、プランジャ155とヨーク156の下流側端部においては、第1筒状部563における下流端部563aと下流側環状部552との間の第1経路に磁束が通る。開弁状態において下流側におけるプランジャ155とヨーク156との距離は、下流側環状部552と下流端部563aとの間が最も短くなっている。
【0073】
図8に示す開弁状態から閉弁状態に近づけていき図9図10に示す閉弁状態になると、第2経路が第1経路よりも支配的となる逆転現象が起こる。これは、互いに平行部を構成する下流側環状部552と下流側環状部566とが接触し、または下流側においてプランジャ155とヨーク156との間において最も近接するからである。閉弁状態では、さらにプランジャ155とヨーク156の上流側端部において、上流側盤部550と第1環状部560との間を磁束が通る第2経路が支配的になる。
【0074】
流体制御弁105は、第2経路によって弁部550bを弁座部560bに吸着する構成を上流側に備えることにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して弁部550bを弁座部560bに着座させることができる。流体制御弁105は、第2経路によって弁部550bを弁座部560bに吸着する構成を採用することにより、弁部550bに作用する流体圧力に対して閉弁時の吸着保持力を強化することができる。流体制御弁105は、図5に図示する第1経路と第2経路の両方の吸引力に係る有利な特性を併せ持った電磁弁を提供している。
【0075】
(第4実施形態)
第4実施形態について図13および図14を参照して説明する。第4実施形態の流体制御弁205は、第2実施形態に対して、ヨーク156とプランジャ155の下流側において弁部と弁座部とを有する構成が相違する。第4実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については、前述の実施形態と同様であり、以下、前述の実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0076】
流体制御弁205は、開弁状態における通電時に関しては、第3実施形態と同様の第1経路を形成する。流体制御弁205は、図13図14に示す閉弁状態における通電時に、上流側と下流側とにおいてプランジャ155とヨーク156との間を磁束が通る磁気経路である第2経路を形成する。流体制御弁205において上流側に形成される第2経路は、近接して接触していない上流側盤部550と第1環状部560との間に磁束が通る磁気経路である。流体制御弁205において下流側に形成される第2経路は、図14に図示するように、上流側盤部550と第1環状部560との間に磁束が通る磁気経路であり、接触している上流側面552bと下流側面566bを通過する経路である。この構成により、上流側面552bは弁部として機能し、下流側面566bは弁座部として機能する。上流側面552bと下流側面566bとが接触して閉弁状態になることにより、下流側開口部566aと下流側通路552cとの連通が阻害されて、流入ポート510から流出ポート530への流体経路が遮断される。
【0077】
流体制御弁205は、第2経路によって弁部である上流側面552bを弁座部である下流側面566bに吸着する構成を下流側に備えることにより、弁部に作用する流体圧力に対して弁部を弁座部に着座させることができる。流体制御弁205は、下流側に形成された第2経路によって弁部を弁座部に吸着する構成を採用することにより、弁部に作用する流体圧力に対して閉弁時の吸着保持力を強化することができる。流体制御弁205は、図5に図示する第1経路と第2経路の両方の吸引力に係る有利な特性を併せ持った電磁弁を提供している。
【0078】
第4実施形態によれば、上流側面552bと下流側面566bは、閉弁状態において第2経路を形成する平行部である。この構成によれば、上流側面552bと下流側面566bは、プランジャ155とヨーク156との重複面積または接触面積が大きいため、磁束が大きい第2経路を形成する。したがって、電磁力による吸着力が作用する部位に弁機能を備えた流体制御弁205を提供でき、弁の締切性能を高めることができる。
【0079】
第4実施形態によれば、第2経路は、閉弁状態においてプランジャ155とヨーク156とが接触する部位である上流側面552bと下流側面566bに形成されている。この構成によれば、流体制御弁205はプランジャ155とヨーク156とが接触する上流側面552bと下流側面566b部位に第2経路を備えることにより、下流側において閉弁状態を継続できる吸着力を提供でき、閉弁時の吸着保持力を強化できる。
【0080】
(第5実施形態)
第5実施形態について図15および図16を参照して説明する。第5実施形態は、第3実施形態や第4実施形態に対して、プランジャ255に設けられた下流側通路1552cの構成が相違する。第5実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については、前述の実施形態と同様であり、以下、前述の実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0081】
下流側通路1552cは、図15図16に示すように、プランジャ255の下流側環状部552の外周縁において部分的に凹んだ部分と第1筒状部563の下流端部563aとの間に形成された通路である。下流側通路1552cは、プランジャ255の下流側環状部552の外周縁に沿って間隔をあけて複数個並ぶように設けられている。
【0082】
この下流側通路1552cを第4実施形態の流体制御弁205に適用した場合には、上流側面552bは弁部として機能し、下流側面566bは弁座部として機能し、上流側面552bと下流側面566bとが接触して閉弁状態になる。これにより、下流側開口部566aと下流側通路1552cとの連通が阻害されて、流入ポート510から流出ポート530への流体経路が遮断される。
【0083】
(第6実施形態)
第6実施形態について図17および図18を参照して説明する。第6実施形態の流体制御弁305は、第1実施形態に対して、プランジャ355の内側を作動流体が流通する流体通路を備える点が相違する。第6実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については、第1実施形態と同様であり、以下、第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0084】
流体制御弁305について、図17図18を用いて説明する。図17は開弁状態を示しており、図18は閉弁状態を示している。プランジャ355は、流入ポート510側に設けられた上流側盤部1550と、流出ポート530側に設けられた下流側環状部552と、上流側盤部1550と下流側環状部552とを連絡する筒状部551とを備えたカップ状である。
【0085】
上流側盤部1550には、プランジャ355の軸心を含む位置に軸方向に貫通する上流側貫通路1550aが形成されている。上流側盤部1550は、筒状部551と同程度の外径寸法を有し、流入ポート510側に位置する面に弁座部1560bに着座する弁部1550bを備えている。上流側盤部1550は、プランジャ355において筒状部551よりも上流側に設けられており、表面が平らに形成されたプランジャ側盤部に相当する。弁部1550bは、上流側盤部1550の上流側面において、上流側貫通路1550aを取り囲むようによりも上流側貫通路1550aよりも径外側に設けられた部分である。弁部1550bは、ヨーク256の一部として設けられた弁座部1560bに対して、プランジャ355において対向する位置に設けられている。軸方向はプランジャ355の移動方向である。上流側盤部1550は、少なくとも弁部1550bが軸方向に対して直交する面を形成するように設けられている。また、上流側盤部1550は、少なくとも弁部1550bが弁座部1560bに対して平行な面を形成するように設けられている。
【0086】
ヨーク256は、第1実施形態のヨーク56に対して、第1環状部560の代わりに上流側盤部1560を備えている点が相違する。上流側盤部1560には、上流側貫通路1550aよりも径外側に位置する上流側貫通路1560aが軸方向に貫通している。上流側貫通路1560aは、上流側盤部1560において周方向に複数個並ぶように設けられている。上流側盤部1560は、ヨーク256において傾斜部561よりも上流側に設けられており、表面が平らに形成されたヨーク側盤部に相当する。上流側貫通路1560aは、図17に示す開弁状態において、下流側に設けられた内部通路520に通じている。上流側貫通路1550aは、図17に示す開弁状態において、上流側に設けられた内部通路520に通じ、筒状部551の内側通路を介して下流側に設けられた流出ポート530に通じている。開弁状態において、上流側貫通路1560a、内部通路520、上流側貫通路1550aおよび筒状部551の内側通路は、流入ポート510と流出ポート530とを連通する通路を構成している。
【0087】
上流側盤部1550において上流側貫通路1550aよりも径外側の部位と上流側盤部1560において上流側貫通路1560aよりも径内側の部位とは、軸方向に対向している。この構成により、上流側盤部1550における弁部1550bと上流側盤部1560における弁座部1560bとは、軸方向に対面している。弁部1550bと弁座部1560bとは、平行な面を形成するように設けられている。
【0088】
流体制御弁305は、図17に示す開弁状態における通電時に、下流側においてプランジャ355とヨーク256との間を磁束が通る磁気経路である第1経路を形成する。開弁状態において下流側におけるプランジャ355とヨーク256との距離は、下流側環状部552と第2筒状部565との間が最も短くなっているからである。
【0089】
流体制御弁305は、図18に示す閉弁状態における通電時に、上流側と下流側とにおいてプランジャ355とヨーク256との間を磁束が通る磁気経路である第2経路を形成する。流体制御弁305において上流側に形成される第2経路は、互いに平行部をなす上流側盤部1550と上流側盤部1560との間に磁束が通る磁気経路であり、接触している弁部1550bと弁座部1560bを通過する経路である。流体制御弁305において下流側に形成される第2経路は、図18に図示するように、互いに平行部をなして近接または接触している下流側環状部564と下流側環状部552との間に磁束が通る磁気経路である。流体制御弁305の下流側においては、図17に示す開弁状態から閉状態に近づけていき図18に示す閉弁状態になると、第2経路が第1経路よりも支配的となる逆転現象が起こる。
【0090】
流体制御弁305は、第2経路によって弁部1550bを弁座部1560bに吸着する構成を少なくとも上流側に備えることにより、弁部1550bに作用する流体圧力に対して弁部1550bを弁座部1560bに着座させることができる。流体制御弁305は、第2経路によって弁部1550bを弁座部1560bに吸着する構成を採用することにより、弁部1550bに作用する流体圧力に対して閉弁時の吸着保持力を強化することができる。流体制御弁305は、図5に図示する第1経路と第2経路の両方の吸引力に係る有利な特性を併せ持った電磁弁を提供している。
【0091】
流体制御弁305は、プランジャ355の内側に作動流体が流通する流体通路を備える。この構成によれば、通電によるプランジャ355からの発熱を作動流体によって緩和可能な流体制御弁305を提供できる。
【0092】
流体制御弁305は、コイル部540よりも内側であってかつプランジャ355の内側に作動流体が流通する流体通路を備える。この構成によれば、通電によるコイル部540およびプランジャ355からの発熱を作動流体によって緩和可能な流体制御弁305を提供できる。
【0093】
(他の実施形態)
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0094】
第2実施形態は、第1実施形態の流体制御弁だけでなく、第3実施形態~第6実施形態に係る流体制御弁に、適用することができる。
【0095】
明細書に開示する目的を達成可能な流体制御弁5は、第1経路と第2経路を前述の各実施形態に記載する位置に限定するものではない。前述の各実施形態は、磁気経路に関するプランジャおよびヨークの形状が上流側と下流側とで逆になるように構成されてもよい。
【0096】
前述のプランジャ155,255,355は、プランジャ55と同様の磁性材料で構成されている。プランジャ155,255,355は、プランジャ55と同様に、弁部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、またはこれらのうち複数の組み合わせによって形成された部材である。前述のヨーク156,256は、ヨーク56と同様の磁性材料で構成されている。ヨーク156,256は、ヨーク56と同様に、弁座部の表面に研磨処理または切削処理が施されていない、プレス加工、鍛造、圧造、面押し、転造、鋳造のいずれか、またはこれらのうち複数の組み合わせによって形成された部材である。
【0097】
前述の各実施形態の流体制御弁は、通電のオン時間とオフ時間とによって形成される1周期の時間に対するオン時間の比率すなわちデューティ比を制御装置8が制御して電磁コイルに通電を行うデューティコントロールバルブとして構成することができる。このような流体制御弁に対する通電制御によれば、第2流路11を流通する冷却水の流量を自在に調節することが可能である。
【0098】
明細書に開示する目的を達成可能な流体制御弁は、エンジン2の冷却水が循環する冷却水回路1において冷却水の流量等を制御可能な電磁弁に限定するものではない。この流体制御弁は、例えば、モータ、インバータ、半導体装置等を冷却可能な作動流体の流量を制御する電磁弁、冷房または暖房に用いられる作動流体の流量を制御する電磁弁、オートマティックオイル等の作動油の流れ制御する電磁弁に用いることができる。
【符号の説明】
【0099】
5,105,205,305…流体制御弁、 52…中間ハウジング(ハウジング)
55,155,255,355…プランジャ
56,156,256…ヨーク、 520…内部通路、 521…連通路(流体通路)
540…コイル部、 550…上流側盤部(プランジャ側盤部)
550b,1550b…弁部、 552b…上流側面(弁部)
560…第1環状部(ヨーク側盤部)、 560b,1560b…弁座部
566b…下流側面(弁座部)、 1550a…上流側貫通路(流体通路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18