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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】固体レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/105 20060101AFI20220712BHJP
   H01S 3/113 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01S3/105
H01S3/113
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018164429
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2019176119
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018065739
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「マイクロチップレーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】足立 宗之
(72)【発明者】
【氏名】山田 毅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084401(JP,A)
【文献】特開2001-257403(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107355(WO,A1)
【文献】特開2010-219307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得幅内の縦モード数が実質的に3本以下のレーザ光を出力する固体レーザ装置は、
光共振器を構成する一対の反射手段と、
前記一対の反射手段間に配置され、励起されて光を放出するレーザ媒質と、
前記一対の反射手段間に配置され、前記レーザ媒質が放出する放出光を偏光する偏光制御手段と、
を備え、
前記偏光制御手段はフォトニック結晶で形成されている、
ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固体レーザ装置であって、前記偏光制御手段は前記レーザ媒質が放出する放出光を直線偏光する、ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固体レーザ装置は、前記一対の反射手段間に配置され、前記光共振器の光損失を変化させるQスイッチを備える、ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の固体レーザ装置は、前記一対の反射手段の少なくともいずれかに前記フォトニック結晶が形成されており、前記フォトニック結晶は前記レーザ媒質が放出する放出光に対して反射と偏光を行う、ことを特徴とする固体レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を出力する固体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光の縦モードを単一に近づけることができ、かつ数ナノ未満の短パルスを発生できる固体レーザデバイスが知られている(例えば特許文献1)。また、光共振器(共振器)を構成する一対のミラー間に、偏光子(ポラライザ)を傾斜させつつ配置した固体レーザ装置が知られている(例えば特許文献2)。また、Qスイッチを実現するための可飽和吸収体を、偏光方向を制御する機能としても利用する受動Qスイッチレーザ装置が知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-135421号公報
【文献】特開2017-183505号公報
【文献】特開2006-73962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の固体レーザ装置は、レーザ光の縦モードを単一に近づけることができるものの、偏光方向が制御されていないレーザ光が出力されていた。例えばレーザ光の出力先に偏光制御素子を配置し、固体レーザ装置の外部で偏光方向を制御することは可能である。しかしこの場合、偏光制御素子の箇所で不要なエネルギーロスが発生してしまっていた。
【0005】
一方、特許文献2の固体レーザ装置は、偏光方向が制御されたレーザ光を出力できるが、利得幅内の縦モード数を減らし難かった。つまり、偏光子を傾斜させつつ配置するスペースが必要であり、このスペースは光共振器長(光共振器のミラー間の距離)を短くする際の支障になっていた。また特許文献3の偏光方法は、偏光制御のために光共振器長が長くなることはないが、レーザ光の偏光特性が温度等で変化し易かった。
【0006】
そこで、本開示は簡素な構成ながらも、縦モードが単一に近づけられ、且つ、偏光方向が制御されたレーザ光を出力できる固体レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1)利得幅内の縦モード数が実質的に3本以下のレーザ光を出力する固体レーザ装置は、光共振器を構成する一対の反射手段と、前記一対の反射手段間に配置され、励起されて光を放出するレーザ媒質と、前記一対の反射手段間に配置され、前記レーザ媒質が放出する放出光を偏光する偏光制御手段と、を備え、前記偏光制御手段はフォトニック結晶で形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の固体レーザ装置によれば、簡素な構成ながらも、縦モードが単一に近づけられ、且つ、偏光方向が制御されたレーザ光を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の固体レーザ装置の全体構成図である。
図2】結合素子と出力素子の外観斜視図である。
図3】第2反射部を結合素子側から見た図である。
図4】第2反射部の構造を示す図である。
図5】利得幅内の縦モード数を示す図である。
図6図1の固体レーザ装置を搭載した眼科用レーザ治療装置の光学系を示す図である。
図7】変容例の固体レーザ装置の全体構成図である。
図8】変容例の固体レーザ装置の全体構成図である。
図9】変容例の固体レーザ装置の全体構成図である。
図10】比較用の固体レーザ装置の全体構成図である。
図11】比較用の固体レーザ装置の全体構成図である。
図12】実験に用いた固体レーザ装置の全体構成図である。
図13図12の固体レーザ装置で用いる出力素子の図である。
図14図12の固体レーザ装置から出力されるレーザ光の波形を示すグラフである。
図15図12の固体レーザ装置から出力されるレーザ光の偏光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。なお本開示の固体レーザ装置(固体レーザ装置1等)はマイクロチップレーザと呼ばれることがある。本開示では利得幅内の縦モード数が実質的に1~3本の固体レーザ装置、又は出力パルス幅が3ns未満(より好ましくは2ns未満)の固体レーザ装置をマイクロチップレーザと呼んでいる。なお本実施形態の出力パルス幅はレーザ光全体(つまりレーザ光のプロファイル全体)の時間的変化を対象にしている。また本開示では、レーザ媒質33の利得特性において、半値幅内に存在する縦モード数が実質的に2本以下の固体レーザ装置を、マイクロチップレーザと呼ぶ場合がある。なお本開示の固体レーザ装置は共振器長を短くすることで、利得幅内の縦モード数3本以下を達成し、且つ、出力パルス幅2ns未満を達成している。なお縦モード数が実施的に3本以下とは、例えば、ピーク利得の半値を超える縦モードの本数を指す。半値幅内に存在する縦モード数が実質的に2本以下も同様であり、例えば、ピーク利得の半値を超える縦モードの本数を指す。
【0011】
まず、本実施形態の固体レーザ装置1について、図1図5を参照しながら説明する。
【0012】
<固体レーザ装置の全体>
本実施形態の固体レーザ装置1は、励起光源2と本体3を備える。励起光源2はレーザ媒質33を励起するために用いられる。励起光源2の光源11が生成した励起光BEは、ファイバーを介して出力端12から出射される。本実施形態では波長808nmの励起光BEが出力端12から出射される。なおファイバーと出力端12を用いず、励起光BEが光源11から直接出射されてもよい。
【0013】
本実施形態の本体3は、支基21、レンズ群23、結合素子25、および出力素子27を備える。レンズ群23、結合素子25、及び出力素子27は、支基21上に所定の配置で固定されている。出力端12は支基21が備える入射端(不図示)に接続される。本実施形態では、励起光BEの入射側(図1では左側)から、レンズ群23、結合素子25、出力素子27の順で、光軸L1方向に並んで配置されている。なお本体3が備えるレンズ群23を、励起光源2が備えてもよい。また固体レーザ装置が励起光源2を含まず、固体レーザ装置と励起光源2とを組み合わせた固体レーザシステムの態様であってもよい。
【0014】
本実施形態の結合素子25は、第1反射部31(第1反射手段)、レーザ媒質33、及び可飽和吸収体35を備えており、これらが一体化されて構成されている。なお第1反射部31を全反射ミラーと呼んでもよい。この結合素子25は、例えば、光軸L1方向に沿った中心軸を有する円柱状(本実施形態では直径が5mm程度)をなしており、励起光BEの入射側(図1では左側)から、第1反射部31、レーザ媒質33、可飽和吸収体35の順で、光軸L1方向に並んで配置されている。なお結合素子25を構成する第1反射部31等の説明は、後ほど詳細に行う。
【0015】
本実施形態の出力素子27は、第2反射部41(第2反射手段)と基板43を備えており、これらが一体化されて構成されている。なお第2反射部41を出力ミラーと呼んでもよい。本実施形態の第2反射部41はフォトニック結晶であり、基板43の表面に形成されている。出力素子27は、例えば、光軸L1方向に沿った中心軸を有する円柱状(本実施形態では直径が5mm程度)をなしており、励起光BEの入射側(図1では左側)から、第2反射部41、基板43の順で、光軸L1方向に並んで配置されている。本実施形態では結合素子25と出力素子27との間に間隔Pdの隙間を設け、第2反射部41として形成されるフォトニック結晶の損傷を抑制している。本実施形態では間隔Pdは1mmである。間隔Pdを例えば、0.5~1mmの範囲内にすればよい。なお出力素子27を構成する各部材の説明は、後ほど詳細に行う。
【0016】
本実施形態では第1反射部31と第2反射部41とで、レーザ媒質33が放出する放出光を共振させる光共振器を構成している。本実施形態の光共振器長Maは13mmである。なお本開示の説明で用いる光共振器長(共振器長)とは、光学的な長さ(光路長)を示す。実際の共振器長(空間)を、例えば6~10mmとしてもよい。なお光共振器長(光路長)は前述した長さに限るものではない。励起光BEは第1反射部31を介してレーザ媒質33を励起する。偏光されたレーザ光BLのパルスが第2反射部41を介して出力される。なお結合素子25と出力素子27の形状は円柱状に限られず、例えば多角柱状(例えば直方体形状など)でもよい。
【0017】
<第1反射部>
本実施形態の第1反射部31は、励起光BEを透過させ、レーザ媒質33から放出される放出光を反射させる全反射ミラーとして作用する。本実施形態の第1反射部31は誘電体多層膜で形成されている。レーザ媒質33と可飽和吸収体35の接合面とは反対側の端面に第1反射部31が形成(蒸着)されている。
【0018】
<レーザ媒質>
本実施形態のレーザ媒質33は光活性物質を含有しており、励起光源2(例えば、レーザダイオード)から出射される励起光BEが入射されることで光活性物質が励起され、その光活性物質から放出光を発生するものである。レーザ媒質33としては、母材としてのYAG結晶中のイットリウム(Y)を他の希土類元素で置換したものを用いることができる。本実施形態では、レーザ媒質33として、例えばNd:YAG結晶を用いている。Nd:YAG結晶は、レーザ媒質として多く使用されており、安価であって取り扱い性に優れているからである。レーザ媒質33としては、Nd:YAG結晶に限られることなく、例えばYb:YAG結晶などを用いることもできる。
【0019】
本実施形態において、レーザ媒質33の厚さ(図1の紙面左右方向)は、例えば4~5mm程度である。そして、本実施形態では、レーザ媒質33がNd:YAG結晶であるから、励起光BEの主波長が808nmであり、放出光(レーザ光BL)の主波長が1064nmとなる。なお、励起光BEの波長は808nmに限られることはなく、例えば885nmであってもよい。
【0020】
<可飽和吸収体>
本実施形態の可飽和吸収体35は、光吸収の飽和により光吸収率が小さくなるものであって、光共振器において受動Qスイッチとして作動する。本実施形態の可飽和吸収体35をQスイッチと呼んでもよい。可飽和吸収体35は、光強度が小さいときには光吸収率が大きく、光強度が所定値を超えると光吸収が飽和して光吸収率が急に小さくなる特性を有する。本実施形態では可飽和吸収体35を、固体レーザ装置1からレーザ光BLのパルス(ジャイアントパルス)を出力するために用いている。この可飽和吸収体35は、レーザ媒質33に接合されている。本実施形態では、可飽和吸収体35として、例えばCr:YAG結晶を用いている。本実施形態において、可飽和吸収体35の厚さ(図1の紙面左右方向)は、例えば3~5mm程度であり、透過率が30~50%になるように決定される。なお、この透過率は30~50%に限られることなく、例えば透過率20%程度になるように、可飽和吸収体35の厚さを決めることもできる。
【0021】
<第2反射部(フォトニック結晶)>
本実施形態の第2反射部41は、レーザ媒質33からの放出光の一部を透過させ残部を反射させるハーフミラーとして作用する。また本実施形態の第2反射部41は更に、レーザ光BL(レーザ媒質33が放出する放出光)に対する偏光制御の作用も有する。なお本実施形態の第2反射部41はレーザ光BLを直線偏光する。詳細には、励起光BEに基づきレーザ媒質33から放出される放出光は、光共振器内で発振して、第2反射部41からレーザ光BLとして出力される。第2反射部41の作用に着目すると、可飽和吸収体35の光吸収率が小さくなると、放出光は光共振器を構成する第1反射部31と第2反射部41とで反射(つまり発振)しつつ第2反射部41からレーザ光BLとして出力される。ここで放出光(レーザ光BL)が第2反射部41で反射する際に、第2反射部41によって直線偏光化が行われる。なお本実施形態の第2反射部41は、入射光の40%程度(例えば30~50%の範囲内)を反射し、入射光の90%以上を透過する特性を有する。本実施形態の第2反射部41は入射光に対して、反射、偏光、および透過を行う。このように本実施形態の第2反射部41は、光共振器を構成する出力ミラーとしての作用とレーザ光BLを偏光制御する作用とを兼ね備える。
【0022】
本実施形態では第2反射部41としてフォトニック結晶を用いている。フォトニック結晶とは、例えば、屈折率の異なる材料が周期的に並んだ構造体を指す。フォトニック結晶は、光学材料内に波長オーダーの屈折率周期構造を持った構造体(素子)とも言える。この周期構造は自由に設計可能であり、例えばミラー表面に縦方向と横方向とで構造が異なる周期構造を形成させて、光の偏光方向(振動方向)に対して縦方向と横方向とで反射率を変えることができる。例えば素子方向に対し、縦偏光は反射し横偏光は透過させる素子を形成できる。
【0023】
一例として、反射側の偏光成分の反射率を高くすると(例えば90%以上)、この素子を光共振器内の高反射ミラー且つ一方の偏光だけを反射する偏光制御素子(偏光制御手段)として利用できる。また同様に例えば、反射率を10~90%の範囲で任意に設定すると、偏光制御機能を持った出力ミラーとして利用できる。このように、フォトニック結晶ミラーは両方の機能(共振ミラー・偏光制御素子)を持つことが可能であり、本開示のようにマイクロチップレーザの光共振器ミラーに利用することで、共振器長を伸ばすことなく簡単に直線偏光化が可能になる。なおフォトニック結晶で形成した偏光制御素子は反射型であり、透過偏光に直交する偏光は反射される。従って、偏光分離素子としても利用できる。
【0024】
本実施形態のフォトニック結晶は2次元型であり、透明な板状部材である基板43の片面に、薄膜で形成されている(図3のハッチング箇所を参照)。本実施形態の基板43は石英で形成されている。本実施形態ではフォトニック結晶を形成する多層膜として、酸化シリコン、酸化ニオブ、酸化タンタルあるいは酸化ハフニウム等を用いている。
【0025】
本実施形態では2次元の周期構造体を第2反射部41として用いている。本実施形態の第2反射部41には、直線偏光化するためのパターンがフォトニック結晶の態様で形成されている。本実施形態のフォトニック結晶は自己クローン技術で形成されている。図4は第2反射部41の一部領域を切り出した構造図である。図4で例示するように、本実施形態では基板43の表面に凹凸パターンを形成し、この凹凸パターン上に多層膜をスパッタリング成膜することでフォトニック結晶(第2反射部41)を成形している。なお例えば、第2反射部41として3次元の周期構造体(3次元型のフォトニック結晶)を用いてもよい。3次元型のフォトニック結晶で円偏光させてもよい。前述したようにフォトニック結晶(第2反射部41)は基板43の片面に形成されており、基板43は光軸L1に対して垂直に配置される。つまり本実施形態では、光共振器内で発振するレーザ光BLはフォトニック結晶面に対して垂直に入射する。入射軸に沿ってフォトニック結晶面に入射し、フォトニック結晶面で偏光されたレーザ光BLは、入射軸を戻るようにフォトニック結晶面に対して垂直に反射する。つまり本実施形態で示すフォトニック結晶(第2反射部41)を用いた偏光制御では、入射軸(偏光前)と出射軸(偏光後)が一致し、且つ、入射軸と出射軸はフォトニック結晶面に対して垂直である。
【0026】
本実施形態の第1反射部31及び第2反射部41は、その間にレーザ媒質33及び可飽和吸収体35を共振光路上(光軸L1上)に有し、レーザ媒質33からの放出光を共振させる光共振器を構成する。このように第1反射部31及び第2反射部41を設けることで、レーザ光BLを偏光制御しつつ光共振器長を短縮できる。つまり本実施形態の固体レーザ装置1は、レーザ媒質33が放出する放出光を偏光する偏光手段(第2反射部41)を一対の反射手段間に配置し、偏光手段をフォトニック結晶で形成している。これにより、本実施形態の固体レーザ装置1は、縦モード数を単一に近づけている。詳細には、本実施形態の固体レーザ装置1は、利得幅内の縦モード数が実質的に3本以下である。本実施形態の固体レーザ装置1は、例えば、出力パルス幅2ns未満を達成し、且つ、レーザ光BLの出力変動(リップル成分)が抑制されている。
【0027】
<縦モード数>
図5は本実施形態の固体レーザ装置1が生成するレーザ光BLの特性を示す。図5にて点線で示す曲線は、レーザ媒質33の利得特性を示す。図5にて符号P1,符号P2,符号P2で示す実線は、本実施形態の固体レーザ装置1の縦モードを示す。本実施形態の固体レーザ装置1は短い光共振器長であるため、縦モード数が単一に近づけられている。本実施形態の固体レーザ装置1は、レーザ媒質33の利得幅内の縦モード数が実質的に3本以下、又はレーザ媒質33の利得特性において、半値幅Q内に存在する縦モード数が実質的に2本以下である。なお、利得幅内の縦モード数が単一(1本:縦モードシングル)に近づくほど好ましい。
【0028】
<実験例>
図12~15を併用し、本実施形態の固体レーザ装置1を用いた実験例を説明する。図12は、実験に用いた固体レーザ装置の全体構成図である。図1と同じ符号箇所の説明は省略する。
【0029】
実験例の固体レーザ装置1では、レンズ群23と結合素子25は支基21に組み付けられている。出力素子27はホルダ22に組み付けられ、ホルダ22は調整機構24を介して支基21に組み付けられている。つまり、レンズ群23と結合素子25は支基21に固定され、出力素子27は結合素子25に対する位置及び角度の調整が可能とされている。なおホルダ22と調整機構24の組合せにより2軸のミラーホルダーが形成されている。図12の実験例は一例であり、例えば、ホルダ22が支基21に固定されていてもよい。なお実験例の固体レーザ装置1は一例であり、例えば結合素子25の箇所が分離していても構わない。つまり結合素子25を構成する各素子同士が分離していてもよい。結合素子25の代わりに、例えば、第1反射部31、レーザ媒質33、及び可飽和吸収体35の各々を独立した素子とし、光軸L1上に配列させてもよい。
【0030】
実験例では光源11(励起用)の一例として、DILAS社の808nm QCW Diode Laserを用いている。光源11はダイオードレーザ(半導体レーザ)であり、光源11が出力するレーザ光の波長は808nmである。実験例では光源11がパルス状レーザ光を出力するように不図示の制御手段が光源11を制御する。実験例では励起光の導光用として、コア径400μmの光ファイバー(DILAS社のHigh Power SMA/SMA Fiber)を用いている。光ファイバーの片端は光源11に接続され、他端(出力端12)は支基21の入力端子に接続されている。なお光源11と光ファイバーは一例である。
【0031】
図13は、実験例の固体レーザ装置1で用いる出力素子27の図である。図13(a)は出力素子27を図12の紙面左側から見た正面図であり、図13(b)は出力素子27の側面図である。基板43は板ガラスであり、一辺が16mmの正方形である。また基板43は厚さ(光軸L1方向)は1mmである。第2反射部41(フォトニック結晶)は基板43上に薄膜形成されている。実験例の第2反射部41は、基板43の中央部に4mm×3.5mmの長方形で形成されており、可飽和吸収体35と向き合う基板43の片面に形成されている。なお第2反射部41が薄膜形成される基板43の表面の一部領域には、凹凸形状が形成されている(図4参照)。
【0032】
実験例の第2反射部41(フォトニック結晶)は、波長1064nmに対して透過率(透過偏光透過率)が95%以上であり、且つ、同波長に対する反射率(遮断偏光透過率)が50%±10%となる特性で形成されている。なお実験例では、基板43を透過して出力されるレーザ光BLのビーム径は3mmである。
【0033】
組立作業者は調整機構24を用いて、基板43からレーザ光BLが出力されるように、結合素子25に対するホルダ22の位置調整を行う。なお本実験例の調整機構24は、ホルダ22を光軸L1の周方向に回転できる。従って、組立作業者はホルダ22を回転することで、基板43から出力されるレーザ光BLの偏光方向を調整できる。
【0034】
図14は、実験例の固体レーザ装置1から出力されるレーザ光BLのパルス波形に対応する測定結果(グラフ)である。図14の横軸は時間であり、縦軸はレーザ光BLのエネルギーの相対値である。図14にて示されるように、実験例の固体レーザ装置1は半値幅1ns以下のレーザ光BLを出力する。図15は、実験例の固体レーザ装置1から出力されるレーザ光BLの偏光特性に対応する測定結果(グラフ)である。図15は光軸L1に直交する任意方向とレーザ光BLのエネルギーとの関係を示す測定結果(グラフ)である。図15は、光軸L1に直交する線分の角度に応じて、レーザ光BLのエネルギーが変化することを示している。つまり図15により、固体レーザ装置1から出力されるレーザ光BLは偏光特性を有していると理解できる。なお実験例の固体レーザ装置1は一例として、4[mJ/pulse]のレーザ光を出力する。
【0035】
このように、実験例の固体レーザ装置1は、共振器内にフォトニック結晶を配置することで、偏光されたレーザ光を共振器から出力できる。なお、実験例の固体レーザ装置1の基板43の厚さは1mmだが、基板43が歪むことで第2反射部41(フォトニック結晶)の特性が局所的又は全体的に変化し、レーザ光BLのビームプロファイルが荒れ易くなると考えられる。したがって、基板43の厚さは1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。なお、第2反射部41(フォトニック結晶)と特性と基板の厚さとの関係は、実験例の基板43に限るものでは無い。例えば、後ほど図9を用いて説明する偏光制御部57でも同様である。つまり、レーザ光を偏光するためのフォトニック結晶を形成する基板の厚さは1mmが好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。なお図12で示した固体レーザ装置1の構成は、本開示の技術を説明するための実験例に過ぎず、適宜変更してもよい。
【0036】
<他の偏光制御方法との比較>
図10図11を併用し、本実施形態の固体レーザ装置1とフォトニック結晶を用いない比較用の固体レーザ装置(固体レーザ装置110,固体レーザ装置120)とを比較する。固体レーザ装置110,固体レーザ装置120は共に、マイクロチップレーザ(又は縦モードが単一に近づけられたレーザ)であるものとする。なお図10図11において図1と同じ符号箇所は同じ部材であるため説明を省略する。
【0037】
図10に示す比較用の固体レーザ装置110は、図10の第2反射部83には誘電体多層膜が形成されている。第2反射部83は、レーザ媒質33からの放出光の一部を透過させ残部を反射させるハーフミラーとしての作用を有するが、偏光制御の作用を有しない。なお第2反射部83(図10)は可飽和吸収体35等と一体化されているため、比較用の固体レーザ装置110の光共振器長Meは、本実施形態の固体レーザ装置1の光共振器長Maよりも短い。つまり、光共振器長Ma>光共振器長Meの関係である。
【0038】
光共振器長の関係から、比較用の固体レーザ装置110(図10)は本実施形態の固体レーザ装置1(図1)よりも縦モードを単一に近づけ易い。しかし比較用の固体レーザ装置110から出力されるレーザ光BLは偏光制御されていないため、偏光制御されたレーザ光BLを用いたい場合、固体レーザ装置110の外部に偏光子85(ポラライザ)を配置する必要がある。しかしこの場合、外部に配置した偏光子85の箇所にて、レーザ光BLのエネルギーが大きく減衰してしまう。つまり固体レーザ装置110の外部で偏光制御する場合、偏光制御とエネルギー減衰とがトレードオフの関係になる。従って、偏光子85でのエネルギー減衰を考慮して、固体レーザ装置110を高出力化する必要がある。固体レーザ装置110を高出力化しようとすると、例えば、複雑な放熱手段を設ける必要がある。これに対して本実施形態の固体レーザ装置110は、光共振器長の増加を抑制しつつ光共振器内に偏光制御手段(第2反射部41)を配置しているため、縦モード数を単一に近づけ、且つ、偏光制御したレーザ光BLをエネルギー効率よく出力できる。例えば、複雑な放熱手段が不要になる。
【0039】
図11に示す比較用の固体レーザ装置120は、偏光制御用の偏光子85(ポラライザ)とハーフミラー用の第2反射部83とに分離した態様である。第2反射部83は先に説明した固体レーザ装置110と同じであるが、固体レーザ装置120では第2反射部83は基板87上に形成されている。偏光子85は、可飽和吸収体35と第2反射部83の間に斜設されている。より詳しくは、偏光子85は光軸L1に直交する面に対して20度以上の角度で光軸方向(図11の紙面右側)に傾斜している。偏光子85の偏光制御する面(素子)を、光軸に対してブリュースター角(56度程度)や45度に配置してもよい。
【0040】
一例として偏光子85を傾斜させない場合(光軸に対して直交させる場合)、例えば、レーザ光BLを偏光出来ない、又はレーザ光BLの発振中又は出力時に偏光子85が発熱する可能性が高い。前述した偏光子85が発熱する場合、偏光子85を損傷し易いと考えられる。比較用の固体レーザ装置110の光共振器長Mfは本実施形態の固体レーザ装置1(図1)の光共振器長Maよりも長く、光共振器長Ma<光共振器長Mfの関係になる。
【0041】
ここで比較用の固体レーザ装置同士を比較すると、比較用の固体レーザ装置120(図11)は比較用の固体レーザ装置110(図10)よりも、偏光制御されたレーザ光BLをエネルギー効率よく生成できる。つまり、固体レーザ装置120は固体レーザ装置110よりも低出力化し易い。しかし比較用の固体レーザ装置120は偏光子85の斜設に伴い、光共振器長Mfが固体レーザ装置110の光共振器長Meよりも間隔Pcだけ長くなっている。これにより、比較用の固体レーザ装置120(図11)は比較用の固体レーザ装置110(図10)よりも縦モードを単一に近づけ難い。
【0042】
これらの比較用の固体レーザ装置に対して、本実施形態の固体レーザ装置110は、光共振器内にフォトニック結晶を用いた偏光制御手段(第2反射部41)を配置することで、縦モード数を単一に近づけ、且つ、偏光制御したレーザ光BLをエネルギー効率よく出力できる。なお本実施形態では組立時の第2反射部41の傷付きを抑制するため可飽和吸収体35と第2反射部41の間に隙間(間隔Pb:図2の左右方向)を設けている。間隔Pb(図2)は間隔Pc(図3)よりも遥かに短く、2つの長さの関係は間隔Pb<間隔Pcである。つまり、本実施形態の固体レーザ装置1(図1)は比較用の固体レーザ装置120(図11)よりも縦モードを単一に近づけ易い。なお本実施形態では可飽和吸収体35と第2反射部41の間に隙間を設けているが、これに限るものではなく、可飽和吸収体35と第2反射部41を密接していてもよい。この場合、本実施形態の固体レーザ装置1(図1)の光共振器長Maは比較用の固体レーザ装置110(図10)の光共振器長Meと同じになり得る。
【0043】
このように、利得幅内の縦モード数が実質的に1~3本のレーザ光を出力する本実施形態の固体レーザ装置1は、光共振器を構成する一対の反射手段と、一対の反射手段間に配置され、励起されて光を放出するレーザ媒質33と、一対の反射手段間に配置され、レーザ媒質33が放出する放出光を偏光する偏光制御手段とを備えており、偏光制御手段はフォトニック結晶で形成されている。これにより縦モードを単一に近づけ易く短パルス化もし易い、また、偏光制御されたレーザ光BLをエネルギー効率よく生成できる。なお本実施形態の固体レーザ装置1はQスイッチを備えるが、これに限るものでなく、固体レーザ装置1が可飽和吸収体35を備えなくてもよい。一対の反射手段間に偏光制御を行なうためのフォトニック結晶が配置されていればよい。
【0044】
また本実施形態の固体レーザ装置1において、偏光制御手段(第2反射部41)はレーザ媒質33が放出する放出光を直線偏光する。これにより、例えば、固体レーザ装置1を高出力化することなく、固体レーザ装置1の外部でレーザ光BLのエネルギー調節が容易である。エネルギー調節方法として、例えば、回動可能な1/2波長板と固設した偏光板とを組み合わせてもよい(例えば特開2000-14679号公報参照)。
【0045】
また本実施形態の固体レーザ装置1は、一対の反射手段間に配置され、光共振器の光損失を変化させるQスイッチを備える。これにより、例えば、固体レーザ装置1からジャイアントパルス(レーザ光BLのパルス)を出力できる。固体レーザ装置1から出力されるジャイアントパルスは、縦モードが単一に近づけられ、且つ、エネルギー効率よく偏光制御されている。なお、Qスイッチとしてレーザ媒質33が放出する放出光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収体35を用いることで、例えば固体レーザ装置1を簡素な構成にし易い。ここで本実施形態の固体レーザ装置1は、出力されるレーザ光BLのパルス幅が2ns未満となる間隔で一対の反射手段が配置されている。レーザ光BLのパルス幅を短くするほど、固体レーザ装置1から出力されるレーザ光BLのピークパワーを大きくし易くできる。これにより例えば、レーザ光BLを用いたプラズマを発生し易くできる。また本実施形態の固体レーザ装置1は利得幅内の縦モード数が1~3本のレーザ光BL(ジャイアントパルス)を出力するため、リップルが抑制されたジャイアントパルスを出力でき、プラズマを安定して発生できる。
【0046】
また本実施形態の固体レーザ装置1は、一対の反射手段の少なくともいずれかにフォトニック結晶が形成されており、フォトニック結晶はレーザ媒質33が放出する放出光に対して反射と偏光を行う。フォトニック結晶が複数の作用を兼用するため、例えば、光共振器長を短くし易い。また、固体レーザ装置1を簡素な構成にし易い。
【0047】
このように本実施形態の固体レーザ装置1(マイクロチップレーザー)は、共振器長を短くすることで、短パルス化(2ns未満)し、かつ単一波長化を達成しようとするレーザである。例えば固体レーザ装置から出力されるレーザ光BLを高効率で波長変換(グリーン光等へ)するには、基本波光の直線偏光化が必要になる。ここでマイクロチップレーザの共振器内に通常の偏光制御素子(ポラライザ)を挿入すると、共振器長が伸びてしまうため、パルス幅が延びる。さらに多波長化することで時間パルス波形も不安定化し易い。本実施形態の固体レーザ装置1は偏光素子(ポラライザ)を挿入せずに、共振器ミラー偏光制御機能を持たせることで、従来と同じレーザ構成となり、短パルス化、単一波長化を達成し易い。小型の固体レーザ装置にて、短パルスと単一偏光を両立できるため、応用範囲も広い。
【0048】
次いで、図7図9を併用し、固体レーザ装置1の変容例を説明する。図7図9において図1と同じ符号箇所は同じ部材であるため説明を省略する。
【0049】
<第1変容例の固体レーザ装置>
図7に示す第1変容例の固体レーザ装置101は入力素子28を備え、入力素子28はフォトニック結晶が形成されている第1反射部52を有する。また第1変容例の固体レーザ装置101は、誘電体多層膜が形成されている第2反射部83を備える。第1反射部52には2次元型又は3次元型のフォトニック結晶が形成されており、レーザ光BLの直線偏光と全反射が可能である。ここで第1反射部52は更に、励起光BEを通過させる特性も有する。第2反射部83は比較用の固体レーザ装置110と同じ部材であるため説明を省略する。
【0050】
図1に記した固体レーザ装置1の光共振器長Maと図7に記した変容例の固体レーザ装置101の光共振器長Mbとの関係は、光共振器長Ma=光共振器長Mbである。つまり第1変容例の固体レーザ装置101も固体レーザ装置1と同様に、光共振器内にフォトニック結晶を用いた偏光制御手段(第1反射部52)を配置することで、縦モード数を単一に近づけ、且つ、偏光制御したレーザ光BLをエネルギー効率よく出力できる。
【0051】
<第2変容例の固体レーザ装置>
次いで図8を用いて第2変容例の固体レーザ装置102を説明する。第2変容例の固体レーザ装置102は、励起光BEをレーザ光BLの出力側(つまり出力ミラー側)から入射させる。第1反射部54(全反射ミラー)にはフォトニック結晶が形成されている。詳細には、可飽和吸収体35の片面にフォトニック結晶がコーティングで形成されている。第1反射部54はレーザ光BLの全反射の作用とレーザ光BLの偏光制御の作用を有する。
【0052】
第2反射部55(出力ミラー)は、レーザ光BLの波長に対してハーフミラーの作用を有し、励起光BEに対して通過させる作用を有する。第2反射部55を誘電体多層膜で形成してもよい。励起光源2から出射された励起光BEは、レンズ群23を介した後にダイクロイックミラー56で第2反射部55の方向に反射し、第2反射部55を介してレーザ媒質33を励起する。光共振器から出力されるレーザ光BLは、ダイクロイックミラー56を透過する。図1の固体レーザ装置1と対比すると、光共振器長の関係は、光共振器長Ma>光共振器長Mcである。第2変容例の固体レーザ装置102のフォトニック結晶(第1反射部54)は、レーザ光BLの全反射の作用とレーザ光BLの偏光制御の作用のみであり、フォトニック結晶の構造を簡素化し易い。
【0053】
<第3変容例の固体レーザ装置>
次いで図9を用いて第3変容例の固体レーザ装置103を説明する。第3変容例の固体レーザ装置103は、偏光制御用の部材が独立して設けられている。第3変容例の固体レーザ装置103は、レーザ光BLに対する偏光制御の作用は偏光制御素子29(偏光制御手段)で行い、レーザ光BLに対するハーフミラーの作用は第2反射部83(反射手段)で行う。なお第2反射部88と基板87は比較用の固体レーザ装置120と同じであるため説明を省略する。偏光制御素子29は偏光制御部57と基板58を備える。偏光制御部57はフォトニック結晶であり、フォトニック結晶は透明な板状部材である基板58の片面に形成されている。偏光制御素子29ではレーザ光BLの直線偏光が行われる。
【0054】
ここで第3変容例の固体レーザ装置103の光共振器長Mdと比較用の固体レーザ装置120(図11)の光共振器長Mfを対比すると、光共振器長Md<光共振器長Mfの関係にある。第3変容例の固体レーザ装置103の間隔Pbは比較用の固体レーザ装置120の間隔Pcよりも短いため、光共振器長を短くし易い。つまり、縦モードが単一に近づけられ、且つ、偏光方向が制御されたレーザ光を出力する。以上説明したように、図1に示した本実施形態の固体レーザ装置1のみならず、図7図9に示した変容例の固体レーザは何れも、光共振器を構成する一対の反射手段間にフォトニック結晶で形成された偏光制御手段を配置し、レーザ光を偏光している。これにより、縦モードが単一に近づけられ、且つ、偏光方向が制御されたレーザ光をエネルギー効率よく出力できる。なお反射手段間とは反射手段の箇所(例えば全反射ミラー,ハーフミラー)も含む。なお本開示の固体レーザ装置(1,101,102,103)は例示に過ぎず、例えば、レーザ媒質33と可飽和吸収体35が接合されていなくてもよい。
【0055】
<利用例>
図6は一例として、本実施形態の固体レーザ装置1を搭載した眼科用レーザ治療装置200を示す。なお図6は、後述する選択的レーザー線維柱帯形成術の場合を示している。本実施形態の眼科用レーザ治療装置200は、患者眼Epに第1波長の治療レーザ光を照射する第1照射手段8と、患者眼Epに第2波長の治療レーザ光を照射する第2照射手段9とを備える。眼科用レーザ治療装置200は更に、患者眼Epを観察するための観察手段7を備える。観察手段は対物レンズ69とダイクロイックミラー68を第1照射手段8等と兼用し、変倍レンズ群71と術者眼Eoが覗く接眼レンズ72を備える。本実施形態では第1照射手段8と第2照射手段9と観察手段7は筐体6に収容されている。本実施形態では第1照射手段8と第2照射手段9とで固体レーザ装置1を共用する。
【0056】
先ず、第1照射手段8を用いた後発白内障の治療方法を説明する。第1照射手段8は光軸L2を備える第1照射光学系を用いて、固体レーザ装置1から出射されるレーザ光BLを患者眼Epに照射する。なお第1照射手段8で患者眼Epにレーザ光BLを照射する際には、術者が治療モード切換手段を操作して、挿脱ミラー62を光路外に退避しておく。本実施形態の第1照射手段8は、固体レーザ装置1、エネルギー調節部61(減衰手段)、ミラー63、ミラー64、ダイクロイックミラー65、シャッター66、ビームエキスパンダ67、ダイクロイックミラー68、および対物レンズ69を備える。術者が操作するトリガスイッチに基づき固体レーザ装置1から出射されたレーザ光BL(波長1064nmでありパルス幅3ns未満)は、エネルギー調節部61で減衰(調節)される。本実施形態のエネルギー調節部61は、回動可能な1/2波長板と固設した偏光板とで構成される(例えば特開2000-14679号公報参照)。エネルギー調節部61は、患者眼Epに照射する治療レーザ光のエネルギーを調節する。
【0057】
エネルギー調節部61を通過したレーザ光BLは、光路外に退避された挿脱ミラー62を通過してミラー63に入射する。ミラー63に入射したレーザ光BLは、ミラー64で反射した後、ダイクロイックミラー65を透過してシャッター66の開口部を通過する。シャッター66を通過したレーザ光BLは、ビームエキスパンダ67でビーム径が拡大される。ダイクロイックミラー68で反射したレーザ光BLは対物レンズ69とコンタクトレンズCLを介して患者眼Epに入射する。
【0058】
患者眼Epの水晶体後嚢部ではレーザ光BLに基づくプラズマが発生し、白濁した後嚢に穴が空く。なお前述したビームエキスパンダ67は、プラズマを発生し易くするためビーム径を拡大している。本実施形態の固体レーザ装置1は利得幅内の縦モード数が少ないため、例えば、患者眼Epの照射するレーザ光BLのエネルギーが少なくてもプラズマを安定して発生させ易い。また、本実施形態の固体レーザ装置1はパルス幅が3ns未満であるため、プラズマを発生させ易い。つまりパルス幅を短くすることでピークパワーを大きくし易い。ピークパワーが大きいことでプラズマが発生され易い。また効率よくピークパワーを得られるため、固体レーザ装置1の高出力化も抑制されている。また本実施形態の固体レーザ装置1は直線偏光されたレーザ光BLを出力するため、患者眼Epに照射する治療レーザ光(レーザ光BL)を、エネルギー効率よく調節できる。なおパルス幅を狭めるほど(例えば2ns未満)、プラズマが発生され易くなる。
【0059】
次いで、第2照射手段9を用いた選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)を説明する。第2照射手段9は光軸L3を備える第2照射光学系を用いて、固体レーザ装置1から出射されるレーザ光BLを患者眼Epに照射する。なお第2照射手段9で患者眼Epにレーザ光BLを照射する際には、術者が治療モード切換手段を操作して、挿脱ミラー62を光路内に挿入しておく。本実施形態の第2照射手段9は、固体レーザ装置1、エネルギー調節部61、挿脱ミラー62、縮小光学系73、波長変換器74(波長変換手段)、ダイクロイックミラー65、シャッター66、ビームエキスパンダ67、ダイクロイックミラー68、および対物レンズ69を備える。術者が操作するトリガスイッチに基づき固体レーザ装置1から出射されたレーザ光BL(波長1064nmのパルス)は、エネルギー調節部61で減衰された後、光路内に挿入された挿脱ミラー62で反射する。挿脱ミラー62で反射したレーザ光BLは、縮小光学系73でビーム径が縮小された後、波長変換器74に入射する。波長変換器74では、入射した波長1064nmのビームを532nmに変換する。本実施形態の波長変換器74はKTPである。波長変換器74で波長変換されたレーザ光BLは、ダイクロイックミラー65で反射してシャッター66の開口部を通過する。以降、ビームエキスパンダ67でビーム径が拡大され、ダイクロイックミラー68で反射したレーザ光BLは、対物レンズ69とコンタクトレンズCLを介して患者眼Epに入射する。患者眼Epの線維柱帯には532nmに波長変換されたレーザ光BLが照射される。本実施形態の固体レーザ装置1は偏光制御したレーザ光BLを出力するため、波長変換器74で効率よく波長変換できる。
【0060】
本実施形態の固体レーザ装置1を用いた眼科用レーザ治療装置200は、固体レーザ装置1と、固体レーザ装置1から出力されるレーザ光を波長変換する波長変換手段と、固体レーザ装置1から出力されるレーザ光を用いて、第1波長の治療レーザ光を患者眼に照射する第1照射手段8を備えている。また眼科用レーザ治療装置200は更に、波長変換手段を用いて、第2波長の治療レーザ光を患者眼に照射する第2照射手段9と、固体レーザ装置1から出力されるレーザ光を所定の割合へと減衰する減衰手段とを備えている。これにより、例えば、簡素な構成ながらも波長が異なる治療レーザ光を患者眼に照射できる。眼科用レーザ治療装置を小型化し易い。なお本開示は一例にすぎず、固体レーザ装置1を搭載した眼科用レーザ治療装置が、第1照射手段と第2照射手段のいずれか一方を備えるだけでもよい。また、本開示の技術を適用可能な眼科用レーザ装置はこれに限るものでは無い。例えば、患者眼の網膜に治療レーザ光を照射して、この治療レーザ光で凝固班を生成する光凝固装置に本開示の固体レーザ装置を用いてもよい。従来の眼科用レーザ治療装置(例えば特開2016-193071号公報)では、共振器長の長いレーザ光源が搭載されていた。詳細には、特開2017-183505号公報の固体レーザ装置のように、共振器内に偏光子が斜設され、また利得幅内の縦モード数が実質的に5本以上のレーザ光源が搭載されていた。このため、眼科用レーザ治療装置が大型化し易く、また治療レーザ光のビーム品質を向上させ難かった。このビーム品質の課題の一例として、パルス波形が安定し難く、治療レーザ光を用いた気中プラズマの下限値(閾値)を下げ難かった。これに対して本実施形態では、例えば、眼科用レーザ治療装置200を小型化し易い。また気中プラズマの下限値を下げ易い。本実施形態の固体レーザ装置を用いた眼科用レーザ治療装置は、例えば、眼科用レーザ治療装置の構成を簡素でき、治療レーザ光のビーム品質を向上でき、また眼科用レーザ装置を小型化し易い。
【0061】
<その他>
なお本開示の固体レーザ装置はレーザ光BLをパルス出力するため可飽和吸収体35を備えるが、可飽和吸収体35を備えない固体レーザ装置の態様であってもよい。つまりフォトニック結晶を用いた偏光制御で光共振器長を短くできればよい。また本開示の固体レーザ装置は光共振器の光損失を変化させるQスイッチとして可飽和吸収体35(言い換えるなら受動Qスイッチ)を用いるが、これに限るものでは無く、Qスイッチで光共振器の光損失を変化できればよい。例えば能動Qスイッチ(AOM,EOM等)を用いてもよい。Qスイッチとフォトニック結晶を組み合わせて、例えば、共振器長を抑制しつつ、直線偏光されたレーザ光BLをパルス(ジャイアントパルス)として出力できればよい。なおフォトニック結晶を形成する箇所は、光共振器を構成する反射手段(図1の第2反射部41等)、又は偏光制御用として独立した部材(図9の偏光制御部57)に限らない。例えばレーザ媒質33や可飽和吸収体35の表面に、偏光制御するためのフォトニック結晶を形成してもよい。つまりレーザ媒質33や可飽和吸収体35の表面に、フォトニック結晶をコーティングで形成してもよい。光共振器間に偏光制御するためのフォトニック結晶が配置されればよい。
【0062】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びこれと均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 固体レーザ装置
31 第1反射部
33 レーザ媒質
41 第2反射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15