(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】熱伝導度検出器およびそれを備えるガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/66 20060101AFI20220712BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01N30/66
G01N27/04 E
(21)【出願番号】P 2018171858
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】中間 勇二
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-323558(JP,A)
【文献】特開2002-031611(JP,A)
【文献】特開平06-331589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0266858(US,A1)
【文献】米国特許第07185527(US,B2)
【文献】特開2011-021890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/26
G01N 30/66
G01N 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフ用の熱伝導度検出器であって、
第1の部分と前記第1の部分の下流の第2の部分とを有し、前記第1および第2の部分を通して試料ガスを第2の部分の排出口に導く流路と、
前記第1の部分に収容され、試料ガスの熱伝導度を検出するための発熱体と、
前記第1の部分を保温する保温部とを備え、
前記第2の部分は、前記保温部により保温されず、
前記流路のうち前記第2の部分の内面には、前記試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第1の被膜が形成された、熱伝導度検出器。
【請求項2】
前記第1の被膜は、前記第1の部分の内面にさらに形成された、請求項1記載の熱伝導度検出器。
【請求項3】
前記第1の被膜は、前記洗浄液に対して前記流路を形成する材料よりも高い耐性を有する、請求項1または2記載の熱伝導度検出器。
【請求項4】
前記発熱体には、前記洗浄液に対して耐性を有する第2の被膜が形成された、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導度検出器。
【請求項5】
前記第2の被膜は、前記洗浄液に対して前記発熱体を形成する材料よりも高い耐性を有する、請求項4記載の熱伝導度検出器。
【請求項6】
試料を気化させることにより試料ガスを生成する試料気化部と、
前記試料気化部により生成された試料ガスの成分を分離するカラムと、
請求項1~5のいずれか一項に記載の熱伝導度検出器とを備え、
前記熱伝導度検出器は、前記カラムにより分離された各成分の試料ガスの熱伝導度を検出する、ガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ用の熱伝導度検出器およびそれを備えるガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフにおいては、試料の分析を行うために例えば熱伝導度検出器が用いられる。特許文献1に記載された熱伝導度検出器は、フィラメントが配置された一のキャビティを備える。フィラメントが一定温度に加熱された状態で、当該キャビティ内に試料ガスおよび基準ガスが交互に導入される。
【0003】
このとき、導入されたガスの熱伝導に応じてフィラメントの熱が奪われ、フィラメントの抵抗値が変化する。そこで、キャビティ内を試料ガスが流れた場合のフィラメントの抵抗値が、キャビティ内を基準ガスが流れたときのフィラメントの抵抗値からどれだけ変化したかを測定することにより、試料ガスの熱伝導度が測定される。
【0004】
キャビティ内を通過した試料ガスおよび基準ガスは、当該キャビティに接続された配管を通して熱伝導度検出器の外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、熱伝導度検出器には、フィラメントが配置された流路内に導入された試料ガスを熱伝導度検出器の外部に排出するための配管(以下、排気管と呼ぶ。)が設けられる。
【0007】
ガスクロマトグラフにおいては、熱伝導度検出器の排気管に詰まりが生じた場合に、当該熱伝導度検出器を新たな熱伝導度検出器に取り換える必要がある。しかしながら、熱伝導度検出器は高価である。そのため、ガスクロマトグラフのランニングコストを低減することは難しい。
【0008】
本発明の目的は、ガスクロマトグラフのランニングコストを低減可能な熱伝導度検出器およびそれを備えるガスクロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のように、ガスクロマトグラフにおいては、熱伝導度検出器の排気管に詰まりが生じることが従来から知られていた。しかしながら、その排気管の詰まりは、熱伝導度検出器の交換時期を示すものとして認識されていた。そのため、熱伝導度検出器における排気管の詰まりのメカニズムは、全く解明されておらず、着目されることもなかった。これに対して、本発明者は、熱伝導度検出器の開発を行う中で、排気管が詰まるメカニズムについて検討し、以下の検討結果を得た。
【0010】
ガスクロマトグラフの熱伝導度検出器には、試料を気化することにより生成された比較的高温の試料ガスが導入され、その試料ガスの熱伝導度が検出される。一方、熱伝導度検出器においては、排気管の大部分は通常大気中に位置する。そのため、排気管の詰まりの発生は、気化された高温の試料ガスが、排気管内で冷却され、凝縮または凝固することに起因すると考えられる。
【0011】
上記の検討結果によれば、試料ガスの凝縮物および凝固物、すなわち排気管の内面に付着する物質(以下、付着物と呼ぶ。)を除去するために、排気管の内部を洗浄することができれば、排気管の詰まりが発生するごとに熱伝導度検出器の交換を行う必要がなくなる。しかしながら、この場合、付着物を除去するために用いる洗浄液によっては、排気管の内面が洗浄により腐食する可能性がある。
【0012】
そこで、本発明者は、排気管の詰まりを除去することにより熱伝導度検出器を継続して利用することをその課題とともにさらに検討し、以下に示す発明を案出した。
【0013】
(1)第1の発明に係る熱伝導度検出器は、ガスクロマトグラフ用の熱伝導度検出器であって、第1の部分と第1の部分の下流の第2の部分とを有し、第1および第2の部分を通して試料ガスを第2の部分の排出口に導く流路と、第1の部分に収容され、試料ガスの熱伝導度を検出するための発熱体と、第1の部分を保温する保温部とを備え、第2の部分は、保温部により保温されず、流路のうち第2の部分の内面には、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第1の被膜が形成されている。
【0014】
流路の第1の部分は、保温部により保温される。それにより、試料ガスの温度低下が低減されるので、第1の部分の内部では試料ガスに起因する付着物が発生しない。一方、第2の部分は、保温部により保温されないので、付着物が発生する可能性がある。
【0015】
このような場合でも、流路の第2の部分に洗浄液を供給することにより、その内部に発生した付着物を溶解し、当該第2の部分から除去することができる。このとき、第2の部分の内面に第1の被膜が形成されているので、その内面が洗浄液により腐食することが抑制される。それにより、洗浄後の熱伝導度検出器を再利用することができる。したがって、ガスクロマトグラフにおける熱伝導度検出器の交換が不要となり、ガスクロマトグラフのランニングコストを低減することが可能になる。
【0016】
(2)第1の被膜は、第1の部分の内面にさらに形成されてもよい。
【0017】
この場合、第2の部分の洗浄時に第1の部分に洗浄液が流れる場合でも、第1の部分の内面が洗浄液により腐食することが抑制される。また、第1の被膜は、流路の内面の保護膜としても機能する。それにより、熱伝導度検出器の長寿命化が実現される。
【0018】
(3)第1の被膜は、洗浄液に対して流路を形成する材料よりも高い耐性を有してもよい。
【0019】
この場合、第2の部分の内面が洗浄液により腐食することが十分に抑制される。
【0020】
(4)発熱体には、洗浄液に対して耐性を有する第2の被膜が形成されてもよい。
【0021】
この場合、第1の部分に洗浄液が流れる場合でも、第1の部分内の発熱体が洗浄液により腐食することが抑制される。また、第2の被膜は、発熱体の保護膜としても機能する。それにより、熱伝導度検出器の長寿命化が実現される。
【0022】
(5)第2の被膜は、洗浄液に対して発熱体を形成する材料よりも高い耐性を有してもよい。
【0023】
この場合、発熱体が洗浄液により腐食することが十分に抑制される。
【0024】
(6)第2の発明に係るガスクロマトグラフは、試料を気化させることにより試料ガスを生成する試料気化部と、試料気化部により生成された試料ガスの成分を分離するカラムと、上記の熱伝導度検出器とを備え、熱伝導度検出器は、カラムにより分離された各成分の試料ガスの熱伝導度を検出する。
【0025】
そのガスクロマトグラフは、上記の熱伝導度検出器を備える。したがって、ランニングコストを低減することが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ガスクロマトグラフのランニングコストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。
【
図2】第2の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。
【
図3】第3の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態に係る熱伝導度検出器およびそれを備えるガスクロマトグラフについて図面を参照しつつ説明する。
【0029】
[1]第1の実施の形態
(1)ガスクロマトグラフの構成の概略および基本動作
図1は、第1の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るガスクロマトグラフ1は、主として、ガスタンク10、流量調整部20、試料気化部30、カラム40、流量調整部50、切換弁60、熱伝導度検出器70および制御部80を備える。
【0030】
ガスタンク10には、後述する試料ガスをカラム40および熱伝導度検出器70へ導くためのキャリアガスが貯蔵されている。キャリアガスとしては、例えばヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。
【0031】
ガスタンク10は、キャリアガスを分岐管路を介して2つの流量調整部20,50に供給する。一方の流量調整部20は、制御部80の制御に基づいて所定流量のキャリアガスを試料気化部30に供給する。
【0032】
試料気化部30は、インジェクタおよび気化室を含む。試料気化部30の気化室には、インジェクタを介して試料が注入される。気化室の内部雰囲気は、試料が気化する状態に維持されている。それにより、気化室に注入された試料は、その内部で気化される。試料気化部30は、気化された試料を流量調整部20から供給されるキャリアガスと混合しつつカラム40に供給する。以下の説明では、試料気化部30において気化された試料の成分を含むガスを試料ガスと総称する。
【0033】
カラム40は、図示しないカラムオーブン内に収容されている。カラム40においては、試料気化部30から供給された試料ガスの各成分が分離される。カラム40は、成分ごとに分離された試料ガスを熱伝導度検出器70の後述する試料導入管路76に供給する。
【0034】
他方の流量調整部50は、制御部80の制御に基づいて所定流量のキャリアガスを切換弁60に供給する。切換弁60は、例えば三方電磁弁であり、流量調整部50に接続されるとともに、熱伝導度検出器70の後述する2つのキャリアガス導入管路75,77に接続されている。切換弁60は、制御部80の制御に基づいて流量調整部50から供給されるキャリアガスをキャリアガス導入管路75,77のいずれか一方に供給する。
【0035】
なお、流量調整部50を通過するキャリアガスを2つのキャリアガス導入管路75,77のいずれか一方に供給するための構成としては、切換弁60に代えて複数の制御弁と分岐管路とを含む切替機構が用いられてもよい。例えば、主管路を流量調整部50に接続し、2本の副管路をそれぞれキャリアガス導入管路75,77に接続する。また、2本の副管路に2つの制御弁をそれぞれ設ける。この場合、2つの制御弁の開閉状態を制御することにより、流量調整部50から供給されるキャリアガスを熱伝導度検出器70の2つのキャリアガス導入管路75,77のいずれか一方に選択的に供給することができる。
【0036】
本実施の形態に係る熱伝導度検出器70は、それぞれ直線状に延びる第1の管路71、第2の管路72、第3の管路73、第4の管路74、キャリアガス導入管路75,77、試料導入管路76および排気管路78を含む。これらの複数の管路は例えば金属製の配管により形成される。また、熱伝導度検出器70の複数の管路のうち、第1~第4の管路71~74は、加熱装置70Hとともにセルブロック79内に収容されている。セルブロック79は、金属製の複数の板状部材を加工および接合することにより作製される。
【0037】
第1の管路71および第2の管路72は、互いに対向しかつ平行に延びるように形成されている。第3の管路73は第1の管路71の一端と第2の管路72の一端とをつなぐように形成され、第4の管路74は第1の管路71の他端と第2の管路72の他端とをつなぐように形成されている。第1の管路71の内部にはフィラメントFが収容されている。一方、第2の管路72の内部にフィラメントFは収容されていない。
【0038】
第3の管路73には、第1のガス導入部73a、第2のガス導入部73bおよび第3のガス導入部73cが、この順で並ぶように設けられている。第1~第3のガス導入部73a~73cのうち、第1のガス導入部73aは第1の管路71に最も近く、第3のガス導入部73cは第2の管路72に最も近い。
【0039】
キャリアガス導入管路75は、第1のガス導入部73aからセルブロック79の外部まで延びるように形成されている。試料導入管路76は、第2のガス導入部73bからセルブロック79の外部まで延びるように形成されている。キャリアガス導入管路77は、第3のガス導入部73cからセルブロック79の外部まで延びるように形成されている。
【0040】
第4の管路74には、ガス導出部74aが設けられている。排気管路78は、ガス導出部74aからセルブロック79の外部まで延びるように形成されている。ガス導出部74aには、貫通孔が形成されている。それにより、第4の管路74の内部空間と排気管路78の内部空間とが連通する。排気管路78は、セルブロック79の外部に排出口78eを有する。
【0041】
加熱装置70Hは、制御部80により制御され、セルブロック79内の空間を試料気化部30の気化室内の温度またはカラム40を収容するカラムオーブン内の温度と同程度の温度に維持する。加熱装置70Hとして、例えばカートリッジヒータが用いられる。
【0042】
制御部80は、例えばCPU(中央演算処理装置)およびメモリまたはマイクロコンピュータにより構成され、上記のようにガスクロマトグラフ1の各構成要素の動作を制御する。また、本例の制御部80は、フィラメントFを駆動する駆動回路およびフィラメントFの抵抗の変化を検出するための検出回路をさらに含む。
【0043】
上記の切換弁60は、所定周期(例えば100msec程度)でキャリアガスを一方のキャリアガス導入管路75へ供給する第1の状態と、キャリアガスを他方のキャリアガス導入管路77へ供給する第2の状態とに切り替えられる。
【0044】
この場合、熱伝導度検出器70の第3の管路73内部においては、切換弁60が第1の状態にあるときに第2のガス導入部73bよりも第1のガス導入部73a側の空間の圧力が高くなる。それにより、試料導入管路76に供給される試料ガスは、第1のガス導入部73aから導入されるキャリアガスの一部とともに第2の管路72を流れる。また、第1のガス導入部73aから導入されるキャリアガスの残りは基準ガスとして第1の管路71を流れる。
【0045】
一方、熱伝導度検出器70の第3の管路73内部においては、切換弁60が第2の状態にあるときに第2のガス導入部73bよりも第3のガス導入部73c側の空間の圧力が高くなる。それにより、試料導入管路76に供給される試料ガスは、第3のガス導入部73cから導入されるキャリアガスの一部とともに第1の管路71を流れる。また、第3のガス導入部73cから導入されるキャリアガスの残りは第2の管路72を流れる。
【0046】
これにより、制御部80においては、基準ガスがフィラメントFの周囲を通過するときと試料ガスがフィラメントFの周囲を通過するときとの間のフィラメントFの抵抗値の変化に基づいて、試料ガスの熱伝導度が測定される。
【0047】
(2)熱伝導度検出器70の洗浄可能化構造
上記のように、熱伝導度検出器70においては、加熱装置70Hによりセルブロック79内の空間が試料の気化温度と同程度の温度に維持される。これに対して、セルブロック79の内部から外部に引き出される排気管路78の大部分は常温(例えば、25℃程度)の大気中に晒される。それにより、排気管路78には、試料ガスが凝縮または凝固し、当該排気管路78の内面に付着することに起因する詰まりが生じる可能性がある。排気管路78内の付着物を除去するためには、当該付着物を溶解することが可能な洗浄液を用いて排気管路78を洗浄する必要がある。
【0048】
本発明者は、アミン系の試料が分析されることにより排気管路78に詰まりが生じる場合には、洗浄液としてジクロロメタン等の有機溶剤を用いて排気管路78を洗浄することにより、排気管路78の詰まりが除去されることを確認した。
【0049】
熱伝導度検出器70を構成する各管路は、例えばステンレス鋼により作製される。また、フィラメントFは、例えばタングステンにより作製される。これらの金属材料は、排気管路78の洗浄に用いられる洗浄液によって腐食する可能性が高い。
【0050】
そこで、熱伝導度検出器70においては、
図1にドットパターンで示すように、熱伝導度検出器70を構成する各管路の内面全体に、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第1の被膜が形成されている。第1の被膜は、洗浄液に対して熱伝導度検出器70の各管路を形成する材料よりも高い耐性を有する。また、第1の管路71内に収容されたフィラメントFに、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第2の被膜が形成されている。第2の被膜は、洗浄液に対してフィラメントFを形成する材料よりも高い耐性を有する。さらに、熱伝導度検出器70は、ガスクロマトグラフ1において、他の構成要素から着脱可能に構成されている。
【0051】
上記の第1および第2の被膜は、互いに同じ材料で形成されてもよいし、互いに異なる材料で形成されてもよい。熱伝導度検出器70の洗浄について、第1および第2の被膜に用いることが可能な高い汎用性を有する材料としては、例えばガラス、炭化ケイ素またはダイヤモンドライクカーボンが挙げられる。第1および第2の被膜の厚みは100μm以下である。第1および第2の被膜の形成は、当該第1および第2の被膜の材料ならびに第1および第2の被膜が形成される対象物の材料および形状に応じた表面加工技術(化学的気相成長法または物理的気相成長法等)を用いて行われる。
【0052】
(3)効果
上記の熱伝導度検出器70においては、使用者は、排気管路78に詰まりが発生した場合に、当該排気管路78に洗浄液を供給することができる。この場合、排気管路78内の付着物が洗浄液により溶解され、排気管路78から除去される。
【0053】
このとき、熱伝導度検出器70の各管路の内面に第1の被膜が形成され、フィラメントFに第2の被膜が形成されているので、熱伝導度検出器70の各管路およびフィラメントFが腐食することが抑制される。それにより、洗浄後の熱伝導度検出器70を再利用することができる。したがって、ガスクロマトグラフ1における熱伝導度検出器70の交換が不要となり、ガスクロマトグラフ1のランニングコストを低減することが可能になる。
【0054】
また、上記の構成によれば、熱伝導度検出器70の各管路の内面全体に第1の被膜が形成され、フィラメントFに第2の被膜が形成されている。それにより、熱伝導度検出器70の各管路の全体に洗浄液を流すことができるので、洗浄が容易である。さらに、各管路の内面全体が第1の被膜により保護され、フィラメントFが第2の被膜により保護されるので、熱伝導度検出器70の長寿命化が実現される。
【0055】
[2]第2の実施の形態
図2は、第2の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。第2の実施の形態に係るガスクロマトグラフ1について、第1の実施の形態に係るガスクロマトグラフ1と異なる点を説明する。
【0056】
図2に示すように、本実施の形態に係るガスクロマトグラフ1の熱伝導度検出器70は、基本的に2つのキャリアガス導入管路75,77、試料導入管路76、2つのフィラメントF1,F2およびセルブロック79により構成される。
【0057】
キャリアガス導入管路75,77は、セルブロック79を貫通するように設けられている。各キャリアガス導入管路75,77の両端は、セルブロック79の外部に引き出されている。キャリアガス導入管路75は、その両端部のうちの一方の端部に排出口75eを有する。キャリアガス導入管路77は、その両端部のうちの一方の端部に排出口77eを有する。
【0058】
セルブロック79の内側かつ一方のキャリアガス導入管路75の内部にはフィラメントF1が収容され、セルブロック79の内側かつ他方のキャリアガス導入管路77の内部にはフィラメントF2が収容されている。
【0059】
2つのキャリアガス導入管路75,77には、分岐管路を介して流量調整部50が接続されている。これにより、熱伝導度検出器70においては、流量調整部50からキャリアガス導入管路75,77にキャリアガスが供給される。
【0060】
キャリアガス導入管路77におけるフィラメントF2よりも上流側の位置にガス導入部77aが設けられている。試料導入管路76は、ガス導入部77aからセルブロック79の外部まで延びるように形成されている。ガス導入部77aには、貫通孔が形成されている。それにより、キャリアガス導入管路77の内部空間と試料導入管路76の内部空間とが連通する。
【0061】
このガスクロマトグラフ1においては、流量調整部50からキャリアガス導入管路75,77にそれぞれキャリアガスが供給される状態で、カラム40から試料導入管路76に試料ガスが供給される。それにより、キャリアガス導入管路75においては、キャリアガスが基準ガスとしてフィラメントF1の周囲を通過する。一方、キャリアガス導入管路77においては、試料導入管路76から供給される試料ガスがキャリアガスとともにフィラメントF2の周囲を通過する。
【0062】
これにより、制御部80においては、基準ガスがフィラメントF1の周囲を通過するときのフィラメントF1の抵抗値と試料ガスがフィラメントF2の周囲を通過するときのフィラメントF2の抵抗値とに基づいて、試料ガスの熱伝導度が測定される。
【0063】
ここで、本実施の形態では、熱伝導度検出器70のうちキャリアガス導入管路75に試料ガスは供給されない。そのため、キャリアガス導入管路75の内部には、試料ガスに起因する詰まりが発生しない。したがって、キャリアガス導入管路75の内面に、第1の実施の形態において説明された第1の被膜は形成されていない。また、フィラメントF1に、第1の実施の形態において説明された第2の被膜は形成されていない。
【0064】
一方、上記のように、キャリアガス導入管路77には、試料ガスが供給される。この場合、排出口77eを含むキャリアガス導入管路77の下流端およびその近傍部分がセルブロック79の外部に引き出されているので、キャリアガス導入管路77に試料ガスに起因する詰まりが生じる可能性がある。
【0065】
そこで、本実施の形態では、
図2にドットパターンで示すように、キャリアガス導入管路77および試料導入管路76の内面全体に、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第1の被膜が形成されている。第1の被膜は、洗浄液に対してキャリアガス導入管路77および試料導入管路76を形成する材料よりも高い耐性を有する。また、フィラメントF2に、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第2の被膜が形成されている。第2の被膜は、洗浄液に対してフィラメントF2を形成する材料よりも高い耐性を有する。さらに、熱伝導度検出器70は、ガスクロマトグラフ1において、他の構成要素から着脱可能に構成されている。
【0066】
このような構成により、使用者は、キャリアガス導入管路77に詰まりが発生した場合に、キャリアガス導入管路77および試料導入管路76に洗浄液を供給することができる。この場合、キャリアガス導入管路77の排出口77eおよびその近傍の内部に詰まった付着物が、洗浄液により溶解され、キャリアガス導入管路77から除去される。
【0067】
[3]第3の実施の形態
図3は、第3の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成を示すブロック図である。第3の実施の形態に係るガスクロマトグラフ1について、第1の実施の形態に係るガスクロマトグラフ1と異なる点を説明する。
【0068】
図3に示すように、本実施の形態に係るガスクロマトグラフ1の熱伝導度検出器70は、基本的に試料導入管路76、キャリアガス導入管路91、ガス流通管路92、2つのフィラメントF1,F2およびセルブロック79により構成される。
【0069】
キャリアガス導入管路91は上流端91uおよび下流端91dを有し、ガス流通管路92は上流端92uおよび下流端92dを有する。ガス流通管路92は、その下流端92dに排出口92eを有する。
【0070】
キャリアガス導入管路91は、上流端91uがセルブロック79の外部に引き出された状態で、他の部分がセルブロック79の内部に収容されている。また、ガス流通管路92は、下流端92dがセルブロック79の外部に引き出された状態で、他の部分がセルブロック79の内部に収容されている。ガス流通管路92の上流端92uには、キャリアガス導入管路91の下流端91dがつながるとともに試料導入管路76の一端がつながる。試料導入管路76の他端はセルブロック79の外部に引き出されている。キャリアガス導入管路91の内部にはフィラメントF1が収容され、ガス流通管路92の内部にはフィラメントF2が収容されている。キャリアガス導入管路91の上流端91uには、流量調整部50からキャリアガスが供給される。
【0071】
このガスクロマトグラフ1においては、流量調整部50からキャリアガス導入管路91にキャリアガスが供給される状態で、カラム40から試料導入管路76に試料ガスが供給される。それにより、キャリアガス導入管路91においては、キャリアガスが基準ガスとしてフィラメントF1の周囲を通過する。一方、ガス流通管路92においては、試料導入管路76から供給される試料ガスがキャリアガス導入管路91から供給されるキャリアガスとともにフィラメントF2の周囲を通過する。
【0072】
これにより、制御部80においては、基準ガスがフィラメントF1の周囲を通過するときのフィラメントF1の抵抗値と試料ガスがフィラメントF2の周囲を通過するときのフィラメントF2の抵抗値とに基づいて、試料ガスの熱伝導度が測定される。
【0073】
本実施の形態では、
図3にドットパターンで示すように、キャリアガス導入管路91、ガス流通管路92および試料導入管路76の内面全体に、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第1の被膜が形成されている。第1の被膜は、洗浄液に対してキャリアガス導入管路
91および試料導入管路76を形成する材料よりも高い耐性を有する。また、フィラメントF1,F2に、試料ガスに起因する付着物を除去するための洗浄液に対して耐性を有する第2の被膜が形成されている。第2の被膜は、洗浄液に対してフィラメントF1,F2を形成する材料よりも高い耐性を有する。さらに、熱伝導度検出器70は、ガスクロマトグラフ1において、他の構成要素から着脱可能に構成されている。
【0074】
このような構成により、使用者は、ガス流通管路92に詰まりが発生した場合に、キャリアガス導入管路91、ガス流通管路92および試料導入管路76に洗浄液を供給することができる。この場合、ガス流通管路92の排出口92eおよびその近傍の内部に詰まった付着物が、洗浄液により溶解され、ガス流通管路92から除去される。
【0075】
[4]他の実施の形態
第1の実施の形態に係る熱伝導度検出器70においては、試料ガスおよびキャリアガスが流れる流路全体の内面をカバーするように第1の被膜が形成され、フィラメントFの表面をカバーするように第2の被膜が形成されるが、本発明はこれに限定されない。第1の被膜が排気管路78の内面にのみ形成されかつ第2の被膜がフィラメントFに形成されなくてもよい。この場合、排気管路78に、排気管路78にのみ洗浄液を流通させるためのドレイン管またはバルブ等の流体関連機器が設けられてもよい。これにより、熱伝導度検出器70のうち排気管路78の部分のみを洗浄することができる。
【0076】
上記の例と同様に、第2の実施の形態に係る熱伝導度検出器70においては、キャリアガス導入管路77の下流端およびその近傍部分の内面にのみ第1の被膜が形成されかつフィラメントF1,F2に第2の被膜が形成されなくてもよい。さらに、第3の実施の形態に係る熱伝導度検出器70においては、ガス流通管路92の下流端92dおよびその近傍部分の内面にのみ第1の被膜が形成されかつフィラメントF1,F2に第2の被膜が形成されなくてもよい。
【0077】
上記実施の形態では、試料ガスの熱伝導度を検出するためにフィラメントF,F1,F2が用いられるが、フィラメントに代えて試料ガスの熱伝導度に応じて抵抗が変化する他の発熱体が用いられてもよい。
【0078】
[5]請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0079】
第1の実施の形態においては、
図1の第1~第4の管路71~74、キャリアガス導入管路75,77、試料導入管路76および排気管路78が流路の例であり、
図1のセルブロック79内にある第1の管路71が第1の部分の例であり、
図1のセルブロック79から引き出された排気管路78の部分が第2の部分の例である。
【0080】
第2の実施の形態においては、
図2の試料導入管路76およびキャリアガス導入管路77が流路の例であり、
図2のセルブロック79内にあるキャリアガス導入管路77の部分が第1の部分の例であり、
図2のセルブロック79から引き出されたキャリアガス導入管路77の部分が第2の部分の例である。
【0081】
第3の実施の形態においては、
図3の試料導入管路76、キャリアガス導入管路91およびガス流通管路92が流路の例であり、
図3のセルブロック79内にあるキャリアガス導入管路91の部分およびガス流通管路92の部分が第1の部分の例であり、
図3のセルブロック79から引き出されたガス流通管路92の部分が第2の部分の例である。
【0082】
上記の実施の形態においては、フィラメントF,F1,F2が発熱体の例であり、セルブロック79が保温部の例である。
【0083】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【符号の説明】
【0084】
1…ガスクロマトグラフ,10…ガスタンク,20…流量調整部,30…試料気化部,40…カラム,50…流量調整部,60…切換弁,70…熱伝導度検出器,70H…加熱装置,71…第1の管路,72…第2の管路,73…第3の管路,74…第4の管路,75,77,91…キャリアガス導入管路,75e,77e,78e…排出口,76…試料導入管路,78…排気管路,79…セルブロック,80…制御部,91d,92d…下流端,91u,92u…上流端,92…ガス流通管路,F,F1,F2…フィラメント