(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/18 20060101AFI20220712BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220712BHJP
F16D 121/04 20120101ALN20220712BHJP
F16D 125/06 20120101ALN20220712BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20220712BHJP
【FI】
F16D65/18
B60T13/74 G
F16D121:04
F16D125:06 Z
F16D125:06 A
F16D125:40
(21)【出願番号】P 2018184461
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 幸男
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/097938(WO,A1)
【文献】特開2017-133672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 13/00-13/74
F16D 121/04
F16D 125/06
F16D 125/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダが設けられたボディと、
前記シリンダに収容され、前記シリンダ内の液圧によって前記シリンダの中心軸に沿って移動しパッドをディスクに押圧させるピストンと、
モータのロータと連動して回転する回転部材と、当該回転部材の正転に応じて前記パッドに近付く第一方向に直動して前記ピストンを押圧するとともに前記回転部材の逆転に応じて前記パッドから遠ざかる第二方向に直動する直動部材と、前記ピストンに設けられ前記直動部材の正転を制限する正転制限部と、前記ピストンに設けられ前記直動部材の逆転を制限する逆転制限部と、を有した回転直動変換機構と、
前記ピストンに設けられた第一係合部と、前記直動部材に設けられた第二係合部と、を有し、前記逆転制限部によって前記直動部材の逆転が制限されている状態では前記第一係合部と前記第二係合部とが前記第一方向に重なった係合状態となり、前記係合状態から前記回転部材が正転し前記正転制限部によって前記直動部材の正転が制限されている状態では、前記第一係合部と前記第二係合部との前記第一方向の重なりが解除された非係合状態となる、係合機構と、を備えた、車両用ブレーキ。
【請求項2】
前記ピストンは、筒状壁を有し、
前記直動部材は、前記筒状壁の内側に位置され、
前記第一係合部は、前記筒状壁の内周面から前記中心軸の径方向内方に突出した第一突起であり、
前記第二係合部は、前記直動部材の外周面から前記中心軸の径方向外方に突出した第二突起である、請求項1に記載の車両用ブレーキ。
【請求項3】
前記筒状壁に取り付けられ前記内周面に沿って延び前記第一突起を有したリングを備えた、請求項2に記載の車両用ブレーキ。
【請求項4】
前記リングには、前記正転制限部と逆回転制限部との間に、前記非係合状態において前記第一方向から見た場合に前記第二係合部との重なりを避ける切欠が設けられた、請求項3に記載の車両用ブレーキ。
【請求項5】
前記係合状態において取得したデータが液圧によって前記ピストンを前記ディスクに向けて移動させるための条件を満たす場合に前記回転部材が前記正転方向に回転するよう前記モータを制御するモータ制御部、を備えた、請求項1~4のうちいずれか一つに記載の車両用ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータによって駆動される回転部材の回転を直動部材の直動に変換し、当該直動部材によってピストンを介してパッドをディスクに押し付ける電動ブレーキが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、モータの駆動によって直動部材がパッドから遠ざかる方向に戻る際に、ピストンが直動部材に追従せずパッドに接した位置に留まると、パッドがディスクに接したままディスクが回転する所謂引き摺り現象が生じる虞がある。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、例えば、直動部材の戻りにピストンが追従しやすいなど、改善された新規な構成の車両用ブレーキを得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車両用ブレーキは、例えば、シリンダが設けられたボディと、上記シリンダに収容され、上記シリンダ内の液圧によって上記シリンダの中心軸に沿って移動しパッドをディスクに押圧させるピストンと、モータのロータと連動して回転する回転部材と、当該回転部材の正転に応じて上記パッドに近付く第一方向に直動して上記ピストンを押圧するとともに上記回転部材の逆転に応じて上記パッドから遠ざかる第二方向に直動する直動部材と、上記ピストンに設けられ上記直動部材の正転を制限する正転制限部と、上記ピストンに設けられ上記直動部材の逆転を制限する逆転制限部と、を有した回転直動変換機構と、上記ピストンに設けられた第一係合部と、上記直動部材に設けられた第二係合部と、を有し、上記逆転制限部によって上記直動部材の逆転が制限されている状態では上記第一係合部と上記第二係合部とが上記第一方向に重なった係合状態となり、上記係合状態から上記回転部材が正転し上記正転制限部によって上記直動部材の正転が制限されている状態では上記第一係合部と上記第二係合部との上記第一方向の重なりが解除された非係合状態となる、係合機構と、を備える。
【0007】
上記車両用ブレーキの係合機構は、逆転制限部によって直動部材の逆転が制限されている状態で第一係合部と第二係合部とが第一方向に重なった係合状態となり、係合状態から直動部材が正転することにより非係合状態となる。よって、回転部材の逆転に伴って直動部材が逆転制限部によって逆転が制限されながらパッドから遠ざかる方向に移動する際には、係合機構が係合状態となるため、ピストンは直動部材に追従してパッドから遠ざかる方向に移動することができる。他方、回転部材の正転に伴って直動部材が正転制限部によってその正転が制限されながらパッドに近付く方向に移動する際には、係合機構が非係合状態となるため、ピストンは直動部材とは関係なく液圧の作用に応じて移動することができるとともに、直動部材に押圧されてパッドに近付く方向に移動することができる。したがって、このような構成によれば、例えば、パッドがディスクに接したままディスクが回転する所謂引き摺り現象が生じるのを抑制することができるなど、改善された新規な構成の車両用ブレーキを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の車両用ブレーキの模式的かつ例示的な断面図であって、電動ブレーキ機能による制動状態を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両用ブレーキの直動部材およびピストンを
図1の方向D1に見た模式的かつ例示的な図であって、正転制限部によって直動部材の正転が制限されている状態でありかつ非係合状態を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態の車両用ブレーキの直動部材およびピストンを
図1の方向D1に見た模式的かつ例示的な図であって、逆転制限部によって直動部材の逆転が制限されている状態でありかつ係合状態を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態の車両用ブレーキの模式的かつ例示的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。また、図面は全て、模式的かつ例示的なものである。
【0010】
また、各図において、直動部材52がパッド45に近付く方向は矢印D1で示され、直動部材52がパッド45から遠ざかる方向は矢印D2で示され、パッド45を押圧する回転部材51の回転方向である正転方向は矢印R1で示され、逆転方向が矢印R2で示されている。
【0011】
[車両用ブレーキの構成]
図1は、車両用ブレーキ10の断面図であって、電動ブレーキ機能による制動状態を示す図である。
図1に例示されるように、車両用ブレーキ10は、モータ20と、回転伝達機構30と、回転直動変換機構50を内蔵するキャリパ40と、を備えている。車両用ブレーキ10は、液圧ブレーキとして作動することができるとともに、電動ブレーキとしても作動することができる。キャリパ40は、液圧ブレーキを構成し、モータ20、回転伝達機構30、回転直動変換機構50、およびキャリパ40は、電動ブレーキを構成する。電動ブレーキは、所謂電動パーキングブレーキである。すなわち、車両用ブレーキ10は、電動ブレーキ機能による制動状態が駐車時に維持されるよう、構成されている。ただし、電動ブレーキは、走行時や一時停止時に作動してもよい。
【0012】
モータ20の出力シャフト20aの回転は、複数のギヤ等の回転要素(不図示)を有した回転伝達機構30を介して、回転直動変換機構50の回転部材51に伝達される。回転伝達機構30は、減速機構とも称されうる。
【0013】
キャリパ40は、ボディ41と、ピストン43とを有している。ボディ41には、シリンダ42が設けられている。シリンダ42は、中心軸Ax1を中心として方向D1(
図1の右方)に開放された有底円筒状の穴である。ピストン43は、シリンダ42に中心軸Ax1に沿って往復動可能に収容されている。シリンダ42には液圧室Rが設けられている。液圧室Rにおける液圧の上昇に伴ってピストン43はパッド45の裏板45aを方向D1に押し、ライニング45bをディスクDに押し付ける。これにより、ディスクDと一体に回転する車両のホイール(不図示)が制動された、液圧ブレーキによる制動状態が得られる。具体的に、ピストン43は、有底円筒状の形状を有し、筒状壁43aと底壁43cとを有している。すなわち、ピストン43には、凹部44が設けられている。筒状壁43aは、中心軸Ax1を中心とする円筒状の形状を有し、底壁43cは、中心軸Ax1と交差している。また、ピストン43は、円筒外面状の外周面43bと、円筒内面状の内周面43eと、液圧室Rとは反対側(
図1では右方)の端面43c1と、を有している。外周面43bとシリンダ42の内周面42aとの間には微小な隙間(クリアランス)が設定されており、外周面43bは、当該隙間に作動液が存在する潤滑状態で、内周面42aと摺動する。シール72は、外周面43bと内周面42aとの間に介在し、液圧室Rから隙間を介しての作動液の漏れを抑制する。また、シール72は、液圧室Rにおける液圧の下降に伴って弾性力によってピストン43を液圧室R側(
図1の左方)に引き込みピストン43の端面43c1をパッド45から離間させるリトラクト機能を、有している。すなわち、液圧室Rの液圧の低下に伴って、ピストン43の裏板45aへの押圧が解除されると、ピストン43によるライニング45bのディスクDへの押し付けが解除され、これにより液圧ブレーキによる制動解除状態が得られる。このように、キャリパ40は、液圧ブレーキとして作動することができる。パッド45は、制動部材の一例である。
【0014】
また、キャリパ40内には、回転直動変換機構50が設けられている。回転直動変換機構50は、回転部材51と直動部材52とを有している。回転部材51は、結合部51aと、フランジ51bと、シャフト51cと、を有し、ボディ41に中心軸Ax1回りに回転可能に支持されている。結合部51aは、回転伝達機構30のアウトプットシャフト(不図示)と一体に回転する。フランジ51bと、キャリパ40のボディ41との間には、スラストベアリング71が設けられている。シャフト51cは、フランジ51bから結合部51aとは反対側(
図1では右方)に突出している。シャフト51cの外周面には、雄ねじ部51dが設けられている。
【0015】
直動部材52は、ピストン43の筒状壁43a内に位置されている。直動部材52は、筒状部52aと突起52bとを有している。筒状部52aの形状は、中心軸Ax1を中心とする円筒状である。筒状部52aの筒内面には、雌ねじ部52cが設けられており、この雌ねじ部52cと回転部材51の雄ねじ部51dとが噛み合っている。突起52bは、筒状部52aの外周面52a1から中心軸Ax1の径方向(以下、単に径方向と称される)の外方に突出している。突起52bは、外向き突起や、外向きフランジ、フランジとも称されうる。
【0016】
回転直動変換機構50は、ピストン43に設けられた凹部44内に収容されている。凹部44は、液圧室R側(
図1の左方)に向けて開放されている。直動部材52は、凹部44内で中心軸Ax1の軸方向(以下、単に軸方向と称される、
図1の左右方向)に移動可能に設けられている。
【0017】
[回り止め機構]
図2,3は、直動部材52およびピストン43を
図1の方向D1に見た図である。
図2は、正転制限部61によって直動部材52の正転が制限されている状態でありかつ係合機構90による係合が解除された非係合状態を示す図であり、
図3は、逆転制限部62によって直動部材52の逆転が制限されている状態でありかつ係合機構90の係合状態を示す図である。
【0018】
回転直動変換機構50には、直動部材52の中心軸Ax1回りの回転を制限する回り止め機構60が設けられている。具体的には、
図2,3に例示されるように、ピストン43に設けられた凹部44には、軸方向に延びた溝43dが設けられており、この溝43dには、直動部材52の突起52bが当該溝43dに沿って移動可能に収容されている。回り止め機構60は、溝43dの側面と直動部材52の突起52bとによって、構成されている。なお、ピストン43の中心軸Ax1回りの回転は、ピストン43とシール72やパッド45との摩擦によって制限されている。
【0019】
このように、本実施形態では、回転部材51の雄ねじ部51dと直動部材52の雌ねじ部52cとが噛み合うとともに、回り止め機構60により直動部材52の突起52bの回転がピストン43の溝43dによって制限されているため、回転部材51の回転に応じて直動部材52は軸方向に直動する。モータ20の出力シャフト20aの回転(以下、これを正転とする)に基づく回転部材51の一方向の回転により、直動部材52が方向D1(
図1の右方)に移動し、ピストン43が裏板45aを方向D1に押圧すると、ピストン43はパッド45のライニング45bをディスクDに押し付ける。これにより、ディスクDと一体に回転する車両のホイール(不図示)が制動された、電動ブレーキ機能による制動状態が得られる(
図1)。他方、モータ20の出力シャフト20aの逆転に基づく回転部材51の逆方向の回転により、直動部材52が
図2の左方に移動し、ピストン43の裏板45aへの押圧が解除されると、ピストン43によるライニング45bのディスクDへの押し付けが解除され、これにより電動ブレーキ機能による制動の解除状態が得られる(
図2)。このように、モータ20、回転伝達機構30、回転直動変換機構50、およびキャリパ40は、電動ブレーキとして作動することができる。
【0020】
回り止め機構60は、直動部材52の正転を制限する正転制限部61を有している。正転制限部61は、直動部材52の突起52bの正転方向(方向R1)側の側面52b1と、ピストン43の溝43dの正転方向側の側面43d1と、を有している。ピストン43の溝43dは、ピストン43の内周面43eから径方向内方に突出した四つの突起43f(凸条)のうち、中心軸Ax1の周方向(以下、単に周方向と称される)に互いに面した二つの突起43fの間に設けられている。突起43fは、中心軸Ax1に沿って延びており、中心軸Ax1と直交する断面の形状は一定である。溝43dの正転方向側の側面43d1は、言い換えると、突起43fの逆転方向側の側面である。回転部材51の正転に伴って直動部材52が正転すると、直動部材52の側面52b1がピストン43の側面43d1に当接する。ピストン43の側面43d1は、直動部材52の側面52b1の正転方向への移動を制限し、これにより、直動部材52の正転が制限される。側面52b1は、第一押部と称され、側面43d1は、第一受部と称されうる。
【0021】
また、回り止め機構60は、直動部材52の逆転を制限する逆転制限部62を有している。逆転制限部62は、直動部材52の突起52bの逆転転方向(方向R2)側の側面52b2と、ピストン43の溝43dの逆転方向側の側面43d2と、を有している。溝43dの逆転方向側の側面43d2は、言い換えると、突起43fの正転方向側の側面である。回転部材51の逆転に伴って直動部材52が逆転すると、直動部材52の側面52b2がピストン43の側面43d2に当接する。ピストン43の側面43d2は、直動部材52の側面52b2の逆転方向への移動を制限し、これにより、直動部材52の逆転が制限される。側面52b2は、第二押部と称され、側面43d2は、第二受部と称されうる。
【0022】
溝43dの周方向の幅は、突起52bの周方向の幅よりも大きく設定されている。よって、
図2に例示されるように、回転部材51の正転により正転制限部61において直動部材52の正転が制限されている状態にあっては、逆転制限部62の直動部材52の側面52b2とピストン43の側面43d2とは互いに離間する。また、
図3に例示されるように、回転部材51の逆転により逆転制限部62において直動部材52の逆転が制限されている状態にあっては、正転制限部61の直動部材52の側面52b1とピストン43の側面43d1とは互いに離間する。すなわち、回転部材51の正転状態にあっては、正転制限部61および逆転制限部62のうち正転制限部61のみが作動し、回転部材51の逆転状態にあっては、正転制限部61および逆転制限部62のうち逆転制限部62のみが作動する。
【0023】
[係合機構]
係合機構90は、ピストン43に固定されたリング91と、直動部材52の突起52bと、を有している。
【0024】
リング91は、ピストン43の内周面43eに開口した環状の溝43g(
図1参照)に挿入された状態で、ピストン43に装着されている。リング91は、例えば、ばね鋼のような金属製の弾性材料で作られた所謂Cリングであり、自由状態では内周面43eの内径よりも大きい外径を有している。よって、リング91が一旦溝43g内に挿入されると、当該溝43g内に挿入された状態が維持される。作業者またはロボットは、リング91の周方向両端に設けられた保持部90cに外力を与えてそれら保持部90c間の隙間を狭くすることによりリング91の外径を弾性的に小さくし、当該外径が小さくなったリング91を凹部44内に挿入し、溝43gが設けられた位置で外力を解除することにより、リング91を溝43g内に装着する。リング91とピストン43との間には、凹部や、凸部、段差等による周方向の位置決め部(不図示)が設けられており、リング91は、ピストン43に、所定姿勢(所定角度)で取り付けられる。また、
図1に示されるように、溝43gおよび当該溝43gに装着されたリング91は、直動部材52とピストン43とが軸方向に当接した状態において、突起52bから方向D2に僅かに離れている。
【0025】
リング91は、内向きフランジ91aを有している。内向きフランジ91aは、内周面43eよりも中心軸Ax1の径方向内方に張り出している。なお、中心軸Ax1の径方向は、以下では単に径方向と称される。内向きフランジ91aの内周面43eからの径方向内方への突出長は、周方向に沿って変化する。よって、リング91には、他の部位よりも突出長が小さい区間に隣接した切欠91bが設けられている。
【0026】
図2に示されるように、正転制限部61によって直動部材52の正転が制限されている状態で、突起52bは、切欠91b内に位置され、軸方向に内向きフランジ91aとは重ならない。すなわち、突起52b、切欠91b、および内向きフランジ91aのスペックは、正転制限部61によって直動部材52の正転が制限されている状態で、内向きフランジ91aと突起52bとが軸方向に重ならないように設定されている。
図2において、直動部材52は、非係合位置Prに位置されている。
図2は、突起52bによって内向きフランジ91aすなわちピストン43の軸方向の移動が制限されない係合機構90の非係合状態を示している。係合機構90は、引掛機構や、連動機構、ロック機構とも称され、非係合状態は、非引掛状態や、非連動状態、アンロック状態とも称されうる。
【0027】
また、
図3に示されるように、逆転制限部62によって直動部材52の逆転が制限されている状態で、突起52bは、軸方向に部分的に内向きフランジ91aと重なる。すなわち、突起52b、切欠91b、および内向きフランジ91aのスペックは、逆転制限部62によって直動部材52の逆転が制限されている状態で、内向きフランジ91aと突起52bとが軸方向に部分的に重なるように設定されている。
図3において、直動部材52は、係合位置Plに位置されている。
図3は、突起52bによって内向きフランジ91aすなわちピストン43の軸方向の移動が制限される係合機構90の係合状態を示している。内向きフランジ91aは、第一突起および第一係合部の一例であり、突起52bは、第二突起および第二係合部の一例である。内向きフランジ91aは、内向き突起とも称されうる。係合状態は、引掛状態や、連動状態、ロック状態とも称されうる。また、第一係合部は、第一引掛部や、第一ロック部とも称され、第二係合部は、第二引掛部や、第二ロック部とも称されうる。
【0028】
このように、係合機構90は、ピストン43が直動部材52に係合された係合状態(
図3)と、当該係合状態が解除された非係合状態(
図2)とを、切り替えることができる。また、係合機構90は、回転部材51が逆転している場合に係合状態となるよう構成されている。よって、回転部材51が逆転する際、ピストン43は、方向D2に移動する直動部材52に係合され、当該直動部材52と連動して方向D2に移動するため、ピストン43がパッド45と摺動する位置に留まる所謂引き摺り現象を抑制することができる。
【0029】
図2,3を参照すれば明らかとなるように、直動部材52が非係合位置Pr(
図2)にある非係合状態から、回転部材51が僅かに逆転し、それに伴って直動部材52が僅かに逆転すると、直動部材52が係合位置Pl(
図3)に動き、係合機構90が係合状態となる。また、直動部材52が係合位置Pl(
図3)にある係合状態から、回転部材51が僅かに正転し、それに伴って直動部材52が僅かに正転すると、直動部材52が非係合位置Prに動き、係合機構90が非係合状態となる。
図2,3を比較すれば明らかとなるように、非係合位置Prと係合位置Plとの中心軸Ax1回りの角度差は比較的小さい。したがって、係合機構90の非係合状態と係合状態とは比較的迅速に切り替わりうる。なお、
図2,3からわかるように、係合機構90の非係合状態と係合状態とは、内向きフランジ91aと突起52bとの軸方向の重なりによって定まる。よって、係合状態は、逆転制限部62により突起52bの逆転が制限されている状態のみには限定されないし、非係合状態は、正転制限部61により突起52bの正転が制限されている状態のみには限定されない。
【0030】
また、
図3に示されるように、正転制限部61の第一押部としての側面52b1および逆転制限部62の第二押部としての側面52b2を有する突起52b自体が、係合機構90を設けるための専用の加工等が施されることなく、部分的に、係合機構90の第二係合部として利用されている。よって、係合機構90が突起52bとは別に設けられた構成と比べて、係合機構90および回り止め機構60ひいては回転直動変換機構50や車両用ブレーキ10が、より簡素なあるいはより小さな構成として実現されうる。また、内向きフランジ91aのうち係合状態で突起52bと軸方向に重なって係合機構90を構成する部位は、突起43fの側面43d2と周方向(正転方向、方向R1)に隣接して設けられている。よって、逆転制限部62によって直動部材52の逆転が制限されている状態で係合状態となり、係合状態から回転部材51ひいては直動部材52が僅かに正転することにより非係合状態となる係合機構90が、比較的簡素な構成として実現されうる。
【0031】
[制御装置]
図4は、車両用ブレーキ10の模式的かつ例示的なブロック図である。ECU81(electronic control unit)は、モータ制御部81aと、液圧制御部81bとを有している。モータ制御部81aは、モータ20の作動を制御し、液圧制御部81bは、例えば電動制御弁のような液圧ブレーキ用のアクチュエータ21を制御する。モータ制御部81aおよび液圧制御部81bは、それぞれ、センサ82の検出値に基づいて演算処理を実行し、モータ20やアクチュエータ21の作動を制御することができる。センサ82は、例えば、車載カメラや、車輪速センサ、ブレーキ操作部のセンサ、アクセル操作部のセンサ、エンジン回転数のセンサ、車両や車両用ブレーキ10の振動センサ、車両用ブレーキ10の所定位置の温度センサ等である。ECU81は、モータ制御装置、液圧制御装置、あるいはアクチュエータ制御装置とも称されうる。なお、ECU81の一部は、ソフトウエアを実行するcentral processing unit(CPU)やコントローラのようなハードウエアによって構成されてもよいし、ECU81は、全体的にハードウエアによって構成されてもよい。
【0032】
モータ制御部81aは、係合機構90が係合状態(
図3)である場合であり(条件1)、かつ液圧ブレーキの作動が必要になった場合、すなわち液圧の作用によるピストン43の方向D1への移動が必要になった場合に(条件2)、すなわち条件1および条件2のアンド条件により、回転部材51および直動部材52が正転して係合機構90が非係合状態(
図2)に遷移するよう、モータ20を制御する。
【0033】
条件1に関し、モータ制御部81aは、例えば所定のフラグの値のような、係合機構90の状態を示すデータや、モータ20の制御履歴等から、係合状態である、すなわち条件1が満たされたと、判断することができる。
【0034】
条件2に関し、モータ制御部81aは、例えば、運転者のブレーキ操作部の操作に基づいて、条件2が満たされたと判断することができる。具体的に、モータ制御部81aは、例えば、ブレーキ操作部の操作量が所定値以上である場合や、ブレーキ操作部の操作速度が所定値以上である場合、アクセル操作部の戻し速度が所定値以上である場合などに、条件2が満たされたと判断することができる。ブレーキ操作部の操作量および操作速度は、ブレーキ操作部のセンサの検出値およびその経時変化(時間微分値)から得られる。また、アクセル操作部の操作量および操作速度は、アクセル操作部のセンサの検出値およびその経時変化(時間微分値)から得られる(条件2-1)。
【0035】
また、モータ制御部81aは、例えば、自動ブレーキや緊急ブレーキの作動に基づいて、条件2が満たされたと判断することができる。具体的に、モータ制御部81aは、例えば、液圧制御部81bから得られた、所定のフラグの値のような、自動ブレーキや緊急ブレーキの作動状態を示すデータから、条件2が満たされた、すなわち自動ブレーキや緊急ブレーキが作動中であると判断することができる(条件2-2)。なお、条件2-1および条件2-2は、いずれか一方が満たされれば、条件2が満たされる。すなわち、条件2-1および条件2-2はOR条件である。なお、条件2-1および条件2-2の判断には、公知技術を採用できる。
【0036】
以上、説明したように、本実施形態では、係合機構90は、逆転制限部62によって直動部材52の逆転が制限されている状態でリング91(第一係合部)と突起52b(第二係合部)とが方向D1(第一方向)に重なった係合状態となり、係合状態から直動部材52が正転することにより非係合状態となる。よって、回転部材51の逆転に伴って直動部材52が逆転制限部62によって逆転が制限されながらパッド45から遠ざかる方向(方向D2、第二方向)に移動する際には、係合機構90が係合状態となるため、ピストン43は直動部材52に追従してパッド45から遠ざかる方向に移動することができる。他方、回転部材51の正転に伴って直動部材52が正転制限部61によってその正転が制限されながらパッド45に近付く方向(方向D1、第一方向)に移動する際には、係合機構90が非係合状態となるため、ピストン43は直動部材52とは関係なく液圧の作用に応じて移動することができるとともに、直動部材52に押圧されてパッド45に近付く方向に移動することができる。したがって、このような構成によれば、例えば、パッド45がディスクDに接したままディスクDが回転する所謂引き摺り現象が生じるのを抑制することができるなど、改善された新規な構成の車両用ブレーキ10を得ることができる。その後、再び係合状態にするためには、直動部材52がピストン43に接触するまで回転部材51を正転方向に回転させるよう、モータ制御部81aがモータ20を制御すればよい。
【0037】
また、本実施形態では、係合機構90は、筒状壁43aの内周面43eから径方向内方に突出した内向きフランジ91a(第一突起、第一係合部)と、直動部材52の外周面52a1から突出した突起52b(第二突起、第二係合部)と、を有している。このような構成によれば、例えば、係合機構90を、比較的簡素な構成として実現することができる。
【0038】
また、本実施形態では、係合機構90は、内向きフランジ91aを有したリング91を備えている。このような構成によれば、例えば、ピストン43に内向きフランジ91aが設けられた構成を、比較的簡素な構成として実現することができる。また、例えば、内向きフランジ91aが設けられたピストン43、係合機構90、ひいては車両用ブレーキ10の製造の手間やコストが低減されやすいというメリットも得られる。
【0039】
また、本実施形態では、リング91には、正転制限部61と逆転制限部62との間に、突起52bとの重なりを避ける切欠91bが設けられている。このような構成によれば、例えば、非係合状態を得る構成を、比較的簡素な構成として実現することができる。
【0040】
また、本実施形態では、モータ制御部81aは、係合状態において取得したデータが所定の条件、すなわち液圧によってピストン43を方向D1へ(ディスクDへ向けて)移動させるための条件を満たす場合に回転部材51が正転方向に回転するようモータを制御する。このような構成によれば、例えば、液圧の作用によりピストン43を駆動する必要があるあるいは駆動した方が望ましい状況において、ピストン43の直動部材52への係合を解除することができる。
【0041】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。例えば、回転直動変換機構や、回り止め機構は、種々の構成として実現されうる。
【0042】
また、例えば、リングは、上記実施形態の構成には限定されない。また、係合機構(第一係合部および第二係合部)は、逆転制限部から離間していてもよい。係合機構が逆転制限部に設けられていないことにより構成を簡素化できる場合もある。また、第一係合部は、例えばピストンに局所的に取り付けられた部材のようなリング以外の部材によって構成されてもよいし、例えば圧入のようなリングとは異なる装着方法によって装着されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…車両用ブレーキ、20…モータ、20a…出力シャフト(ロータ)、41…ボディ、42…シリンダ、43…ピストン、43a…筒状壁、45…パッド、50…回転直動変換機構、51…回転部材、52…直動部材、52b…突起(第二突起、第二係合部)、61…正転制限部、62…逆転制限部、81a…モータ制御部、90…係合機構、91…リング、91a…内向きフランジ(第一突起、第一係合部)、91b…切欠、D1…方向(第一方向)、D2…方向(第二方向)。