(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】光学特性評価方法及び光学特性評価システム
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20220712BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01M11/00 T
G01N21/21 Z
(21)【出願番号】P 2018202514
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 修
(72)【発明者】
【氏名】平林 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 孝治
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-141605(JP,A)
【文献】特開2011-17549(JP,A)
【文献】特開2007-240210(JP,A)
【文献】特開2013-15442(JP,A)
【文献】特開2017-15415(JP,A)
【文献】特開平11-24023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の光学フィルム及び検光子を透過した光の偏光状態の解析に基づき、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価する光学特性評価方法であって、
前記光学フィルムの位相差及び配向角を複数箇所について測定し、かつ、入力光の偏光状態を表すベクトルと、少なくとも前記光学フィルム及び前記検光子の偏光特性を表す行列とを用いて、下記演算式1により演算される出力光のベクトルのパラメーターに基づき光学特性の不均一性を定量化して評価する
ことを特徴とする光学特性評価方法。
(演算式1): F2=M×F1
ここで、
F1:入力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
F2:出力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
M :評価対象の光学フィルム及び検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【請求項2】
前記出力光のベクトルのパラメーターは、下記演算式2により演算されることを特徴とする請求項1に記載の光学特性評価方法。
(演算式2): F2=f1×f2×F1
ここで、
f1:評価対象の光学フィルムについてのミュラー行列又はジョーンズ行列
f2:検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【請求項3】
前記入力光の偏光状態をストークスベクトルで表し、かつ前記光学フィルム及び前記検光子の偏光特性をミュラー行列で表す
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学特性評価方法。
【請求項4】
少なくとも下記工程(1)~(8)を経て、前記光学フィルムを透過した光の偏光状態の解析に基づき、光学特性の不均一性を評価することを特徴とする請求項3に記載の光学特性評価方法。
工程1:評価対象の光学フィルムについて、所定の面積の複数の測定領域を選定し、当該測定領域内に含まれる所定の広さの画素それぞれについて位相差及び配向角を測定する工程
工程2:入力光の偏光状態をストークスベクトルで表現し設定する工程
工程3:前記検光子のミュラー行列を設定する工程
工程4:前記画素それぞれについて前記光学フィルムのミュラー行列を設定する工程
工程5:前記画素それぞれについて前記演算式を用いて出力光のストークスベクトルを算出する工程
工程6:前記画素それぞれについて前記出力光のストークスベクトルにおける光強度に関するパラメーターを、所定ビット数の諧調で表現をする工程
工程7:前記諧調表現において閾値を設定して二値化して表現する工程
工程8:二値化して表現された結果を用いて表示ムラの指標を作成する工程
【請求項5】
前記光学フィルムの配向角をθ1とし、前記検光子の透過軸方位をθ2としたとき、下記式3を満たす条件に設定して演算することを特徴とする請求項4に記載の光学特性評価方法。
(式3): |θ1-θ2|≦10°
ただし、θ1≠θ2
【請求項6】
前記光学フィルムの配向角をθ1とし、前記検光子の透過軸方位をθ2としたとき、下記式4を満たす条件に設定して演算することを特徴とする請求項4に記載の光学特性評価方法。
(式4): |θ1-θ2|≦2°
ただし、θ1≠θ2
【請求項7】
評価対象の光学フィルム及び検光子を透過した光の偏光状態の解析に基づき、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価する光学特性評価システムであって、
前記光学フィルムの位相差及び配向角を複数箇所について測定し、かつ、入力光の偏光状態を表すベクトルと、少なくとも前記光学フィルム及び前記検光子の偏光特性を表す行列とを用いて、下記演算式1により演算される出力光のベクトルのパラメーターに基づき光学特性の不均一性を定量化して評価する実行部を備える
ことを特徴とする光学特性評価システム。
(演算式1): F2=M×F1
ここで、
F1:入力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
F2:出力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
M :評価対象の光学フィルム及び検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性評価方法及び光学特性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置がテレビやパソコンのモニター等に広く用いられている。液晶表示装置においては、位相差フィルム、保護フィルム、視野角拡大フィルムなど、光学特性に拠る特定の機能を有する種々の光学フィルムが利用されている。
近年の液晶表示装置の高コントラスト化に伴い、光学フィルムにおいても求められる品質が高まっている。液晶表示装置は、液晶の持つ複屈折特性を利用してコントラストを得ているため、液晶表示装置の画質は使用する光学フィルムの光学特性に左右される。したがって、光学フィルムの光学特性は全体で均一であることが望ましいが、製造の過程で延伸等される際に、その光学特性が不均一となることがある。このような光学特性の不均一性に起因して、液晶表示装置の画面に輝度のばらつき、いわゆる表示ムラが発生する。
【0003】
そこで、光学フィルムの光学特性を評価し、均一な光学特性を有しているか否かの検査が行われている。例えば、特許文献1には、作製した光学フィルムを液晶表示装置に組み込み、目視にて画面上の表示ムラを評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように実際に液晶表示装置を作製する方法では、工数負荷が大きく、煩雑性が高い。
一方で、光学フィルムを偏光板に挟み、目視により評価する方法も用いられている。しかし、この方法では人によって評価基準のばらつきが生じるため、定量的な評価が難しいという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであって、評価対象の光学フィルム光学特性の不均一性を、簡便に、かつ定量的に評価可能な光学特性評価方法及び光学特性評価システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の光学特性評価方法は、
評価対象の光学フィルム及び検光子を透過した光の偏光状態の解析に基づき、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価する光学特性評価方法であって、
前記光学フィルムの位相差及び配向角を複数箇所について測定し、かつ、入力光の偏光状態を表すベクトルと、少なくとも前記光学フィルム及び前記検光子の偏光特性を表す行列とを用いて、下記演算式1により演算される出力光のベクトルのパラメーターに基づき光学特性の不均一性を定量化して評価する
ことを特徴とする。
(演算式1): F2=M×F1
ここで、
F1:入力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
F2:出力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
M :評価対象の光学フィルム及び検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光学特性評価方法において、
前記出力光のベクトルのパラメーターは、下記演算式2により演算されることを特徴とする。
(演算式2): F2=f1×f2×F1
ここで、
f1:評価対象の光学フィルムについてのミュラー行列又はジョーンズ行列
f2:検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の光学特性評価方法において、
前記入力光の偏光状態をストークスベクトルで表し、かつ前記光学フィルム及び検光子の偏光特性をミュラー行列で表す
ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の光学特性評価方法において、
少なくとも下記工程(1)~(8)を経て、光学フィルムを透過した光の偏光状態の解析に基づき、光学特性の不均一性を評価することを特徴とする。
工程1:評価対象の光学フィルムについて、所定の面積の複数の測定領域を選定し、当該測定領域内に含まれる所定の広さの画素それぞれについて位相差及び配向角を測定する工程
工程2:入力光の偏光状態をストークスベクトルで表現し設定する工程
工程3:前記検光子のミュラー行列を設定する工程
工程4:前記画素それぞれについて前記光学フィルムのミュラー行列を設定する工程
工程5:前記画素それぞれについて前記演算式を用いて出力光のストークスベクトルを算出する工程
工程6:前記画素それぞれについて前記出力光のストークスベクトルにおける光強度に関するパラメーターを、所定ビット数の諧調で表現をする工程
工程7:前記諧調表現において閾値を設定して二値化して表現する工程
工程8:二値化して表現された結果を用いて表示ムラの指標を作成する工程
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の光学特性評価方法において、
前記光学フィルムの配向角をθ1とし、前記検光子の透過軸方位をθ2としたとき、下記式3を満たす条件に設定して演算することを特徴とする。
(式3): |θ1-θ2|≦10°
ただし、θ1≠θ2
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の光学特性評価方法において、
前記光学フィルムの配向角をθ1とし、前記検光子の透過軸方位をθ2としたとき、下記式4を満たす条件に設定して演算することを特徴とする。
(式4): |θ1-θ2|≦2°
ただし、θ1≠θ2
【0013】
請求項7に記載の光学特性評価システムは、
評価対象の光学フィルム及び検光子を透過した光の偏光状態の解析に基づき、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価する光学特性評価システムであって、
前記光学フィルムの位相差及び配向角を複数箇所について測定し、かつ、入力光の偏光状態を表すベクトルと、少なくとも前記光学フィルム及び前記検光子の偏光特性を表す行列とを用いて、下記演算式1により演算される出力光のベクトルのパラメーターに基づき光学特性の不均一性を定量化して評価する実行部を備える
ことを特徴とする。
(演算式1): F2=M×F1
ここで、
F1:入力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
F2:出力光のストークスベクトル又はジョーンズベクトル
M :評価対象の光学フィルム及び検光子についてのミュラー行列又はジョーンズ行列
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、評価対象の光学フィルム光学特性の不均一性を、簡便に、かつ定量的に評価可能な光学特性評価方法及び光学特性評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る光学特性評価システムの概略構成を示す図である。
【
図2】光学特性評価装置の機能的構成を示す図である。
【
図3】本発明に係るシミュレーションモデルを示す図である。
【
図4】光学特性評価処理における光学特性評価装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】配向角と透過軸方位とのずれ量と、出力光の光強度との関係を説明する図である。
【
図6】光学特性指標算出処理における光学特性評価装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】光学特性指標算出処理の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0017】
まず、本発明で用いる下記の用語について説明する。
1.光学フィルム
後述する光学特性評価システム100の評価対象となる光学フィルムは、光学特性に基づく特定の機能を有する、透明な樹脂製のフィルムである。光学フィルムは、延伸等により形成され、正常に形成されていれば面内で均一な光学特性(複屈折特性など)を有するが、実際には多少の不均一性が生じる。
光学フィルムとして、例えば、位相差フィルム、保護フィルム、視野角拡大フィルム、反射防止フィルム、反射フィルム、基板フィルムなどが挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、これらの複数のフィルムを組み合わせて一体として用いるフィルムであってもよい。
【0018】
2.検光子
検光子は、偏光素子の一種であり、偏光子によって自然光(ランダム偏光)の中から取り出された特定の振動方向を持つ直線偏光に対し、その透過軸方位を回転させることで、入射した直線偏光の振動方向を知るために用いられる。
【0019】
3.ストークスベクトルとミュラー行列
(1)ストークスベクトル
光の偏光状態は、下記の式(1)で示されるストークスベクトル(Stokes vector)で記述することができる。具体的には、ストークスベクトルは下記のように4つの成分(ストークスパラメーター)で構成される4行1列の行列であって、ストークスパラメーターの値を所定の値に設定することで、様々な偏光状態を表現することが可能である。
【0020】
【0021】
上記式中における各ストークスパラメーターの意義は、下記のとおりである。
s0:光強度、s1:水平直線偏光成分、s2:45°直線偏光成分、s3:円偏光成分
本発明においては、光学フィルムに入射する光を入力光、光学フィルムを透過した光がさらに検光子を透過した光を出力光とし、入力光及び出力光のストークスベクトルを、それぞれ下記のように表現することにする。
入力光: F1(s0,s1,s2,s3)T
水平直線偏光: F1(1,1,0,0)T
45°直線偏光: F1(1,0,1,0)T
垂直直線偏光: F1(1,-1,0,0)T
右回り円偏光: F1(1,0,0,1)T
ランダム偏光: F(1,0,0,0)T
出力光: F2(s0’,s1’,s2’,s3’)T
【0022】
(2)ミュラー行列
評価対象である光学フィルムや検光子などの偏光素子(入射光の偏光状態を変化させる光学素子)の偏光特性は、下記の4行4列の行列、即ちミュラー行列(Mueller Matrix)で表すことができる。
なお、下記の式(2)で示されるように、入力光のストークスベクトルと、評価対象の光学フィルム等の偏光素子のミュラー行列(M)とを積算すると、出力光のストークスベクトルになる。
F2=M×F1 ・・・(2)
本発明においては、ミュラー行列は、M=f1×f2で表される。f1は、光学フィルムの位相差及び配向角を用いて表すことができる、4行4列の行列である。また、f2は、検光子の透過軸方位を用いて表すことができる、4行4列の行列である。
なお、評価対象の光学フィルムが、二層以上の層を有する積層フィルムである場合や、何らかの偏光素子(例えば、液晶素子)を含む積層体などである場合には、積層する各フィルムあるいはそれら以外の偏光素子などのそれぞれの偏光特性を、ミュラー行列f1、f2、f3、f4、・・・などで表し、さらに、偏光素子全体のミュラー行列をM=f1・f2・f3・f4・・・として表すことができる。
【0023】
4.ジョーンズベクトルとジョーンズ行列
(1)ジョーンズベクトル
光の偏光状態は、ジョーンズベクトル(Jones vector)でも記述することができる。
任意の偏光状態は、直交する二つの基本的な偏光のベクトル和として表すことができる。ジョーンズベクトルは、例えば、水平方向をx軸、鉛直方向をy軸にとり、光はz方向に進むとすると、z方向に進む光の振幅を直交するxy方向へ分解し、位相差を持つ二つの振幅で表現する。
【0024】
(2)ジョーンズ行列
光学フィルムや検光子などの偏光素子の偏光特性は、2行2列の行列、即ちジョーンズ行列(Jones matrix)で表すことができる。
なお、入力光のジョーンズベクトルと、評価対象の光学フィルム等の偏光素子のジョーンズ行列とを積算すると、出力光のジョーンズベクトルになる。
【0025】
5.位相差
光学フィルムの位相差の値は、一般に、下記の式で定義することができる。
即ち、光学フィルムの面内方向の位相差Ro及び厚さ方向の位相差Rtは、下記の式(3)及び(4)で表される。
Ro=(nx-ny)×d ・・・(3)
Rt={(nx+ny)/2-nz}×d ・・・(4)
なお、式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。また、「遅相軸」とは、複屈折を起こすフィルム内を光が伝播するとき、位相が遅れ光の進行速度が最も遅くなる軸をいう。すなわち、面内の屈折率が最大となる方向をいう。「進相軸」とは、光の進行速度が最も速くなる軸をいい、面内の屈折率が最小となる方向をいう。
本発明においては、上記式(2)による演算の際に用いる位相差値は、厚さ方向の位相差値であり、「r」として表す。
なお、位相差は光学フィルムに照射する光の波長、測定を行う環境条件(温度及び湿度)などによって変動する値であるため、光学特性評価の目的や評価対象である光学フィルムの種類などに応じて、位相差が任意の値となるようにこれらの条件を設定することが望ましい。
【0026】
6.配向角
光学フィルムの配向角は、位相差フィルムを形成する分子が配向した配向方向が、所定の基準方向に対してなす角度を指し、通常は、位相差フィルムの面内遅相軸が所定の基準方向に対してなす角度に一致する。
本発明においては、評価対象である光学フィルムの面内の遅相軸の方向と、水平方向(
図3におけるX軸方向)のなす角度であり、「θ1」として表す。
【0027】
7.透過軸方位
透過軸方位は、検光子が光の振動を透過させる軸、即ち透過軸の、所定の基準方向に対してなす角度を指す。
本発明においては、検光子の透過軸の方向と、水平方向(
図3におけるX軸方向)のなす角度であり、「θ2」として表す。
【0028】
<光学特性評価システム100の構成>
図1に、本発明の光学特性評価方法を採用した、光学特性評価システム100の全体構成例を示す。光学特性評価システム100は、評価対象の光学フィルム及び偏光板を透過した光の偏光状態の解析に基づき、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価するためのシステムである。
【0029】
光学特性評価システム100は、
図1に示すように、光学特性測定装置1Aと、光学特性評価装置2Aと、がデータ送受信可能に接続されて構成されている。なお、光学特性測定装置1Aと光学特性評価装置2Aとの接続方式は特に限定されない。例えば、光学特性測定装置1Aと光学特性評価装置2AはLAN(Local Area Network)により接続されることとしてもよいし、無線により接続される構成としてもよい。また、光学特性測定装置1Aによる測定データは、外部のサーバー等に保存されるものとし、HDD、CD、DVD等のストレージを用いて光学特性評価装置2Aに入力される構成としてもよい。さらに、光学特性評価装置2Aは、光学特性評価を行う機能として、光学特性測定装置1A内に組み込まれているものとしてもよい。なお、光学特性評価を行う機能とは、光学特性評価装置2Aのプログラム上に組み込まれているものや光学特性評価装置2Aのコンピューター上で動作する独立プログラム等を意味する。
【0030】
光学特性測定装置1Aは、測定対象としての光学フィルムの光学特性(複屈折特性)を測定可能な装置である。
光学特性測定装置1Aは、例えば、照射手段、偏光板、波長板、撮像手段、解析手段、通信I/F等を備えて構成されている。照射手段と撮像手段の間に偏光板や波長板が設けられ、偏光板と偏光計測手段との間に測定対象である光学フィルムを配置させる。照射手段は、光源、フィルター等により構成され、ランダム偏光(自然光)を偏光板や波長板を介して偏光状態を整えて光学フィルムに照射させる。撮像手段は、CCD(Charge Coupled Device)センサーやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサー等により構成され、偏光板及び測定対象を透過した光を取り込んで映像信号を生成し、解析手段に送信する。解析手段は、当該映像信号に基づいて、測定対象の位相差及び配向角を特定する。なお、解析手段は、計測された測定対象の位相差及び配向角を2次元的にマッピングした、複屈折特性の2次元分布データを生成することが可能である。得られた2次元分布データは、通信I/Fにより光学特性評価装置2Aに送信される。
【0031】
光学特性評価装置2Aは、光学フィルムの測定データを用いて、当該光学フィルムの光学特性の不均一性を評価するための装置である。具体的には、光学特性評価装置2Aは、光学特性測定装置1Aから送信された2次元分布データを予め設計されたシミュレーターに適用させることにより、光学フィルムを液晶表示装置に組み込んだ場合に、当該光学フィルムの光学特性のムラに起因して生じる表示ムラを予測する。
光学特性評価装置2Aは、
図2に示すように、制御部21、操作部22、表示部23、通信I/F24、記憶部25等を備えて構成され、各部はバス26を介して接続されている。
【0032】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等を備えて構成され、記憶部25に記憶されている各種プログラムとの協働により各種処理を実行し、光学特性評価装置2Aの動作を統括的に制御する。例えば、制御部21は、記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により、後述する光学特性評価処理を実行する実行部としての機能を実現する。
【0033】
操作部22は、文字入力キー、数字入力キー、及び各種機能キー等を備えたキーボードと、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、キーボードで押下操作されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部21に出力する。
【0034】
表示部23は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等のモニターを備えて構成されており、制御部21から入力される表示信号の指示に従って、各種画面を表示する。
【0035】
通信I/F24は、光学特性測定装置1Aをはじめとする外部機器との間でデータ送受信を行うためのインターフェースである。
その他、光学特性評価装置2Aは、LANアダプターやルーター等を備え、LAN等の通信ネットワークを介して外部機器と接続される構成としてもよい。
【0036】
記憶部25は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や半導体の不揮発性メモリー等で構成されている。記憶部25には、前述のように光学特性評価処理を実行するためのプログラムを含む各種プログラムや、各種データ等が記憶されている。
【0037】
ここで、本実施形態に係る光学特性評価装置2Aが用いるシミュレーターについて、
図3を用いて説明する。本実施形態におけるシミュレーターは、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示装置の表示画面30をモデル化しており、表示画面30は、バックライト31と、第1偏光板32と、第2偏光板33と、を備える。第2偏光板33は、検光子として機能する。
なお、以降の説明では、
図3中のX軸方向(水平方向)をθ=0°とし、X軸と垂直なY軸方向(鉛直方向)をθ=90°とし、配向角θ1及び透過軸方位θ2をX軸方向との間でなす角度で表す。また、バックライト31、第1偏光板32及び第2偏光板33はXY平面上に配置され、XY平面に垂直な方向(
図3中のZ軸方向)を表示画面30の正面方向とする。
【0038】
なお、通常の液晶表示装置においては、液晶34は
図3に示すように第1偏光板32と第2偏光板33の間に配置されるが、本シミュレーターにおいては、黒表示状態で正面方向の位相差が0であると仮定して、シミュレーション上は無視する。
測定対象である光学フィルム35は、第1偏光板32(通常の液晶表示装置においては液晶34)と第2偏光板33との間の、XY平面上に配置される。
【0039】
<光学特性評価システム100の動作(光学特性評価方法を含む。)>
以下、光学特性評価システム100において実行する光学特性評価処理について詳細に説明するが、本発明の光学特性評価処理は、これに限定されるものではない。
【0040】
まず、操作者は、評価対象とする光学フィルムの複屈折特性を、光学特性測定装置1Aを用いて測定する(工程1)。具体的には、光学特性測定装置1Aに光学フィルムを配置させ、光学フィルムの所定の面積を占める箇所を測定領域として選定し、当該測定領域内に含まれる所定の広さ画素について、位相差r[nm]及び配向角θ1[°]を画素ごとに計測し、画素ごとの複屈折特性をマッピングした2次元分布データを生成する。続いて、操作者は、生成した2次元分布データを光学特性評価装置2Aに送信する。
【0041】
このとき、光学フィルム上の複数箇所を測定領域とし、各々について2次元分布データを生成するものとする。このように複数の測定領域における輝度を比較することで、光学フィルム全体における光学特性の不均一性を評価することが可能となる。なお、通常光学フィルムは長尺状に形成されるが、先端側と後端側で光学特性にバラつきが生じる場合がある。したがって、光学フィルムの長手方向に所定の間隔を空けて2次元分布データを取得することが望ましい。
本実施形態においては、所定の間隔を空けたn箇所を測定領域に選定し、一の測定領域につきa画素についての複屈折特性を測定するものとする。即ち、光学フィルム全体で、n×a画素の複屈折特性を測定する。
【0042】
図4に、光学特性評価装置2Aにおける光学特性評価処理のフローチャートを示す。なお、
図4に示す光学特性評価処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0043】
通信I/F24により、光学特性測定装置1Aからの光学フィルムの測定データ(2次元分布データ)が入力されると(ステップS1)、制御部21は、シミュレーションにおいて用いる入力光の偏光状態を設定する(ステップS2:工程2)。
ここでの入力光とは、
図3に示すように、バックライト31から照射され、第1偏光板32によって所定の偏光状態を付与された光である。入力光は、入力光のストークスベクトルにおけるストークスパラメーターを設定することにより、任意の偏光状態に設定することができる。
【0044】
続いて、制御部21は、第2偏光板33のミュラー行列を設定する(ステップS3:工程3)。
ステップS3では、まず、第2偏光板33の透過軸方位θ2を決定する。ここで、本シミュレーションではVA方式の液晶表示装置を想定しているため、第1偏光板32と第2偏光板33をクロスニコルとなるように配置させる必要がある。即ち、第1偏光板32を透過した入力光が、第2偏光板33の透過軸方位θ2と直交する方向で、第2偏光板33に入射することとなる。したがって、ステップS2において設定した入力光の偏光状態に基づいて、第2偏光板33の透過軸方位θ2を設定する。例えば、ステップS2において入力光のストークスベクトルをF1(1,1,0,0)T、即ち水平偏光に設定したとき、透過軸方位θ2を90°の値に設定する。
次いで、第2偏光板33(検光子)のミュラー行列を、設定した透過軸方位θ2を用いて表す。
【0045】
続いて、制御部21は、光学フィルム35の光学特性を測定した各画素について、ミュラー行列を設定する(ステップS4:工程4)。
ステップS4においては、まず、測定されたすべての画素についての配向角θ1の平均値θ1aveを算出する。本実施形態においては、光学フィルム35上のn箇所の測定領域について、一の測定領域につきa画素についての複屈折特性を測定しているため、n×a画素の配向角θ1の平均値θ1aveを算出する。
ここで、上記したように、第2偏光板33の透過軸方位θ2と直交する方向に入力光が照射されるように設定されているため、光学フィルム35の配向角の平均値θ1aveが第2偏光板33の透過軸方位θ2と略一致する値となるように設定する。したがって、算出された平均値θ1aveが、ステップS3で算出した透過軸方位θ2と同一の値あるいはその近傍の値となるように設定する。
【0046】
ここで、配向角の平均値θ1
aveは、透過軸方位θ2から少しずらした値に設定する場合に、光学特性の不均一性に起因する表示ムラが確認されやすくなる。
図5は、θ1
aveとθ2のずれ量と、出力光の光強度との関係を説明する図であり、横軸にずれ量(角度)を、縦軸に出力光の光強度S0’を示す。
図5に示すように、θ1
ave=θ2であり、θ1
aveのばらつき、即ち光学特性の不均一性がA1の範囲内であるとき、光強度S0’はB1の範囲を変動し、これに起因して表示ムラが発生する。一方で、θ1
aveとθ2とのずれ量が角度αであり、θ1
aveのばらつきがA2の範囲内であるとき、光強度S0’はB2の範囲を変動するため表示ムラが大きくなる。一方で、θ1
aveとθ2とのずれ量が大きすぎると、全体の輝度が高くなり表示ムラを判別し難くなるため、ずれ量を一定の範囲に収める必要がある。
【0047】
したがって、本実施形態においては、ずれの範囲を、好ましくは|θ1-θ2|≦10°(θ1≠θ2)、より好ましくは|θ1-θ2|≦2°(θ1≠θ2)とする。例えば、透過軸方位θ2が90°であるとき、配向角の平均値θ1aveを90°、あるいは80°~100°(より好ましくは88°~92°)に設定する。
【0048】
続いて、制御部21は、光学特性指標算出処理を実行する(ステップS5)。光学特性指標とは、光学特性を測定した各測定領域における、光学特性の不均一性を評価するための指標である。
図6は、ステップS5の光学特性指標算出処理のフローチャートを示す。
図6に示す処理は、制御部21と記憶部25に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0049】
光学特性指標算出処理においては、まず、制御部11は、光学特性を測定したすべての画素について、出力光のストークスベクトルを算出する(ステップS51:工程5)。
出力光は、第2偏光板33を透過した光を指し、測定した各画素の位相差r及び配向角θ1、並びにステップS4で設定した第2偏光板33の透過軸方位θ2等を用いて、上記した式(2)の演算を行うことにより、出力光のストークスベクトルを算出することができる。
なお、本実施形態においては、n箇所の測定領域について、一の測定領域につきa画素について上記した演算を行う。
【0050】
続いて、制御部21は、ステップS5で算出した出力光の光強度を8bitデータに変換する(ステップS52:工程6)。
出力光は、上記したようにストークスベクトルを用いてF2(s0’,s1’,s2’,s3’)で表されるが、出力光の光強度は、ストークスパラメーターs0’で表される。ステップS52では、s0’の値を8bitのデータに変換、即ち256階調に規格化する。規格化の方法は特に限定されないが、例えば、0~1の間の値で表されるs0’の値を、0~255の256段階の値に変換する方法が挙げられる。
【0051】
続いて、制御部21は、ステップS52で得た8bitデータを、二値化処理する(ステップS53:工程7)。
二値化処理は、予め定められた閾値を用いて、256階調で表された画素値に閾値処理を施し、各画素の値を二値化する処理である。
【0052】
次いで、制御部21は、光強度情報を加算する(ステップS54)。
光強度情報の加算は、ステップS53で二値化した各画素について、各測定領域において閾値以上となった画素の数を計測し、測定面積であるa画素で除した値を算出する処理である。
【0053】
図7は、光学特性指標算出処理の概念を説明する図である。
図7(A)には、一の測定領域において算出された出力光の光強度を、256諧調に規格化して2次元的にマッピングして得られた画像を表す。
図7(B)には、
図7(A)の画像に対して、ステップS53の二値化処理を施して、閾値以上となった画素を可視化した画像を表す。即ち、ステップS54の処理は、
図7(B)のように可視化された画素の数を計測し、
図7(B)の画像の総面積で除した値を算出することに相当する。
以上のステップS52~S54の処理を、n箇所の測定領域のそれぞれについて行う。
【0054】
次いで、制御部21は、光学特性指標を算出する(ステップS55:工程8)。
光学特性指標とは、光学フィルム35上の各測定領域の光学特性のムラの程度を数値化したものである。光学特性指標の算出方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。ステップS54においてn箇所の測定領域のそれぞれについて算出された光強度のうち最大値をSMAX、最小値をSmin、ある測定領域の光強度をSとすると、当該測定領域における光学特性指標Iは下記の式(5)で表すことができる。
I=(S-Smin)/(SMAX-Smin) ・・・(5)
n箇所の測定領域のそれぞれについてIが算出されるが、Sの値がSMAXとなるときにI=1であり、Sの値がSminとなるときにI=0となる。即ち、光学特性指標Iは0から1の値をとり、その値が大きいほど、閾値を超えた高輝度の画素が多く含まれるため、当該測定領域においては光学特性の不均一性が高いと判断することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
下記の方法にしたがって、光学フィルムの光学特性の不均一性を評価した。
[複屈折特性の測定]
測定対象である光学フィルムとして、幅方向が2000mmの長尺状のフィルムを用いた。
光学フィルムの幅方向の中央部と、両端部からそれぞれ30mmの位置の、計3箇所を選定した。選定した各位置において、それぞれ長手方向に500mmの間隔をとって3箇所の測定領域を設けた。即ち、合計で9箇所の測定領域を設けた。
次いで、各測定領域において、175mm四方の範囲に0.5mmごとの画素、即ち、合計で350×350=122500画素について、光学特性測定装置(複屈折マッピング計測装置KAMAKIRI(登録商標);フォトロン社製)を用いて複屈折特性(位相差r及び配向角θ1)を測定し、配向角の平均値θaveを算出した。
なお、本実施例に係る複屈折特性の測定は、光学フィルムに照射する光の波長を520[nm]とし、温度23[℃]、湿度50[%]の環境下で行った。
【0057】
[シミュレーションモデルの設定]
以下に示す実施例1~7においては、第2偏光板の透過軸方位をθ2=90[°]とし、入力光の偏光状態をストークスベクトルF1(1,1,0,0)Tで表される水平直線偏光に設定した。また、実施例1においては、光学フィルムの配向角の平均値θ1aveの設定値を、第2偏光板の透過軸方位θ2と同じ、θ1ave=90[°]に設定した。実施例2~7においては、光学フィルムの配向角の平均値θ1aveの設定値を、90[°]からずらした値に設定した。
実施例8~14においては、透過軸方位θ2を任意の値に設定し、これに伴って入力光の偏光状態をストークスベクトルF1(1,1,0,0)Tで表される水平直線偏光、F1(1,0,0,1)Tで表される右回り円偏光、又はF1(1,-1,0,0)Tで表される垂直直線偏光のいずれかに設定した。また、光学フィルムの配向角の平均値θ1aveの設定値を、それぞれ透過軸方位θ2と一致する値、あるいは所定量だけずらした値に設定した。
【0058】
[光学特性指標の算出]
各実施例における光学特性指標を、以下のようにして算出した。
位相差r、配向角の平均値θaveの設定値及び透過軸方位θ2を用いて、上記した式(2)の演算を行うことにより、出力光の光強度を算出した。得られた光強度の値を8bitデータに変換後、閾値140にて二値化処理した。各測定領域について、閾値140以上の画素数を計測し、測定面積の122500画素で除した値を算出し、得られた値を用いて、上述の通り測定領域ごとにすべての測定領域について光学特性指標を算出した。
【0059】
[光学特性の評価]
各実施例において、上述のように算出された光学特性指標に基づいて、9箇所の測定領域の光学特性指標の値が大きい順に1~9の順位付けを行った。
以上の操作を、各実施例につき10反復、即ち10枚の異なる光学フィルムについて実施した。
【0060】
表1に、実施例における光学特性評価の精度を示す。なお、実施例において「≒」の表示を用いて位相差rの値を表しているが、画素ごとのばらつきを考慮した、全画素の平均的な値を指す。
【0061】
【0062】
表1に示す比較例1においては、各実施例に用いた光学フィルムと同一の光学フィルムを組み込んだ液晶表示装置を作製し、各実施例で設定した測定領域における表示ムラを目視により観測し、輝度が大きくばらつき、表示ムラが大きいと判断されるものから順に1~9の順位付けを行った。これを、各実施例と同様に10反復、即ち実施例で用いた異なる10枚の光学フィルムと同一の、10枚の光学フィルムについて実施している。
また、表1に示す比較例2においては、光学フィルムを2枚の偏光板(第1偏光板及び第2偏光板)で挟み、バックライトを照射して目視にて表示ムラを観察した。各実施例に用いた光学フィルムにおける、各実施例で設定した測定領域における表示ムラを観測し、表示ムラが大きいと判断されるものから順に1~9の順位付けを行った。これを、各実施例と同様に10反復、即ち実施例で用いた異なる10枚の光学フィルムと同一の、10枚の光学フィルムについて実施している。
【0063】
表1の「評価精度」は、10回行った順位付けのうちの、各実施例における順位付けと、対応する光学フィルムについての比較例1における順位付けとの一致回数を示す。即ち、各実施例で評価した10枚の光学フィルムと同一の10枚の光学フィルムを比較例1においても評価しているが、10枚の光学フィルムのうちの両者の間での順位付けの一致したものの枚数を示している。×は0~2回、△ーは3~4回、△は5~6回、〇は7~8回、◎は9~10回の一致数を示す。即ち、実施例におけるシミュレーターによる光学特性の不均一性の評価結果が、比較例1における表示ムラの感応評価の結果と一致しているほど、実際に製品化されたときに生じる表示ムラを精度よく予測できているといえる。
また、表1の「煩雑性」は、光学フィルムの光学特性のムラに起因する表示ムラを評価するにあたって必要な作業の煩雑性を示し、〇は煩雑性が低いことを、×は煩雑性が高いことを、××は煩雑性が著しく高いことを示す。
【0064】
表1に示すように、液晶表示装置自体を作製する比較例に比べて、各実施例においては、あらかじめ設計されたシミュレーターに測定した光学フィルムの複屈折特性を適用することで実現可能であるため、煩雑性が低い。
また、評価精度については、実施例1のようにθ1ave=θ2となる場合に比べ、実施例4及び実施例5のように|θ1-θ2|≦10°(θ1≠θ2)となる場合の方が高精度であり、実施例6及び実施例7のように|θ1-θ2|≦2°(θ1≠θ2)となる場合はより高精度であることが明らかとなった。一方で、実施例2及び実施例3のように|θ1-θ2|>10°(θ1≠θ2)となる場合には、評価精度が低下することが示された。
さらに、実施例8~14においても、|θ1-θ2|≦2°(θ1≠θ2)となる場合が最も高精度に光学特性を評価可能であることが示された。
【0065】
なお、比較例2については、目視によっては表示ムラを判別することが不可能であったため、順位付けの結果を表示していない。このように表示ムラを判別し難くなったのは、偏光板と光学フィルムとの間で光の散乱が起こり、全体の輝度が高くなったことが原因と考えられる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係る光学特性評価方法においては、光学フィルムの位相差及び配向角を複数箇所について測定し、かつ、入力光の偏光状態を表すベクトルと、光学フィルム及び検光子の偏光特性を表す行列とを用いて、演算により算出される出力光のベクトルのパラメーターに基づき光学特性の不均一性を定量化して評価する。したがって、比較例1のように液晶表示装置を作製して評価する方法よりも、工数負荷が小さく、簡便な方法であるが、評価精度は比較例1と同等であるといえる。また、比較例2のように目視にて表示ムラを観察する方法に比べ、定量的な評価が可能となる。
【0067】
[他の実施形態]
以上、本発明に係る実施形態に基づいて具体的に説明したが、上記の実施形態は本発明の好適な例であり、これに限定されない。
【0068】
上記実施形態においては、ストークスベクトル及びミュラー行列を用いた演算を例に挙げて説明したが、これに限定されず、ジョーンズベクトル及びジョーンズ行列を用いて本発明を実現することも可能である。
【0069】
また、上記実施形態においては、液晶表示装置に用いられる光学フィルムを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた表示装置に利用される光学フィルムなど、種々の光学フィルムに広く本発明を適用することが可能である。
【0070】
また、上記実施形態においては、入力光の偏光状態及び透過軸方位θ2を固定し、配向角θ1可変とするシミュレーションモデルについて説明したが、これに限定されない。配向角θ1を固定し、入力光の偏光状態及び透過軸方位θ2を可変とすることも可能である。即ち、工程2、工程3及び工程4は順不同である。
【0071】
また、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体として、不揮発性メモリー、ハードディスク等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを、通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【符号の説明】
【0072】
100 光学特性評価システム
1A 光学特性測定装置
2A 光学特性評価装置
21 制御部(実行部)
22 操作部
23 表示部
24 通信I/F
25 記憶部