(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】近赤外線吸収性組成物、近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサー
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220712BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20220712BHJP
H01L 31/0232 20140101ALI20220712BHJP
【FI】
C09K3/00 105
G02B5/22
H01L31/02 D
(21)【出願番号】P 2018246421
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】板本 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】大福 幸司
(72)【発明者】
【氏名】林 健司
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/183671(WO,A1)
【文献】特許第6220107(JP,B1)
【文献】特開2018-081323(JP,A)
【文献】特開2001-154015(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087870(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173386(WO,A1)
【文献】特開2015-134893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
G02B5/22
H01L31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、
銅イオンのモル基準含有量をC
Cとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物
において、Zが下記式(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量を、それぞれC
X1
、C
X2
、C
X3
とし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をC
Yとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するC
Hとしたとき、下記式(2)で規定する条件を満たすことを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
式(1)
C
H
=C
X1
+C
X2
×2+C
X3
+C
Y
×2
式(2)
1.720≦C
H/C
C≦
2.070
(A)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅化合物との反応により得られる金属錯体とからなる成分
【化1】
〔上記一般式(I)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【化2】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(I)におけるOと結合する。
R
21~R
24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
ただし、一般式(I)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時に有する。
条件(i):R
21~R
24が全て水素原子である。
条件(ii):R
21~R
24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
一般式(I)において、lは、上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。mは、上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。〕
【化3】
〔上記一般式(II)において、R
1は置換基を有してもよいフェニル基である。〕
【請求項2】
更に、下記ホスホン酸群から選ばれる化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収性組成物。
ホスホン酸群:エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、2-クロロエチルホスホン酸、3-ブロモプロピルホスホン酸、3-メトキシブチルホスホン酸、1,1-ジメチルプロピルホスホン酸、1,1-ジメチルエチルホスホン酸、1-メチルプロピルホスホン酸。
【請求項3】
前記一般式(I)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(III)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の近赤外線吸収性組成物。
【化4】
〔上記一般式(III)において、R、R
21~R
24、l及びmは、前記一般式(I)におけるそれらと同義である。nは1又は2であり、nが2のとき、〔 〕内の構造は同一であっても異なっていてもよい。〕
【請求項4】
前記一般式(I)で表される構造を有する化合物が、モノエステルとジエステルを含み、モノエステルのモル比率が20~95%の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、下記条件(iii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時に有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
条件(i):R
21~R
24が全て水素原子である。
条件(iii):R
21~R
24のいずれか1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、残りの3つが水素原子である。
【請求項6】
前記一般式(I)におけるl及びmが、それぞれ1~3の範囲内の数であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項7】
前記銅イオン又は前記銅化合物を構成する銅に対し、100モル%以下の酢酸を含有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物を用いたことを特徴とする近赤外線吸収性膜。
【請求項9】
ポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂を含有することを特徴とする請求項8に記載の近赤外線吸収性膜。
【請求項10】
エポキシ基を有するマトリックス樹脂を含有することを特徴とする請求項8に記載の近赤外線吸収性膜。
【請求項11】
請求項8から請求項10までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性膜を具備することを特徴とする固体撮像素子用イメージセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収性組成物と、これを用いた近赤外線吸収性膜及び固体撮像素子用イメージセンサーに関し、より詳しくは、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などにはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが用いられているが、これら固体撮像素子は、その受光部において近赤外線波長領域の光に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているため、視感度補正を行うことが必要であり、近赤外線カットフィルター(以下、「IRカットフィルター」ともいう。)を用いることが多い。
【0003】
このような近赤外線カットフィルターには、大きく分けて吸収タイプと反射タイプがあるが、反射タイプに適用する反射層は入射角度依存を受けやすい特性を持つため、昨今はでは全吸収タイプが主に検討がされている。
【0004】
このような近赤外線カットフィルターを形成するための材料の一つとして、銅化合物を用いた近赤外線吸収性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特許文献1で開示されている方法は、フェニルホスホン酸と銅イオンにより形成された赤外線吸収剤を含み、それぞれの構成材料における銅イオンのモル数に対する構成材料のヒドロキシ基のモル数の比の値を特定の範囲に規定した赤外線吸収性組成物であり、可視光域の特定の範囲の波長の光の透過率を高め、かつ、赤外側のカットオフ波長を短くすることができるとされている。
【0006】
分光波長特性として、特許文献1で開示されている方法では、銅化合物のみではIRカットフィルターに必要な1100nm程度の吸収が不十分である。近年、反射層のピークシフトの問題から、全吸収タイプへの移行が求められており、700~1100nmの間でも、1100nm近辺の吸収が大きく、700nm近辺も補助できるような分光特性が求められている。
【0007】
加えて、特許文献1で開示されている方法では、特定分光波形プロファイルを形成するために、フェニルホスホン酸を使用しているが、フェニルホスホン酸はその相互作用の強さから凝集しやすい特性を有しており、分散剤としてリン酸エステル類を多量に添加する必要がある。そのため、十分な吸収特性を発現させるためには近赤外吸収性材料を多量に添加する必要が生じ、その結果、形成する近赤外線吸収性膜の膜厚がかなり厚くなるため、薄膜化に対する障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく上記問題の原因等について検討した結果、近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCXとし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、下記式(2)で規定するCH/CCで表される比の値が特定の範囲にある近赤外線吸収性組成物により、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーを実現することができることを見いだし、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0012】
1.近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、
前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、
銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、Zが下記式(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量を、それぞれC
X1
、C
X2
、C
X3
とし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、下記式(2)で規定する条件を満たすことを特徴とする近赤外線吸収性組成物。
【0013】
式(1)
C
H
=C
X1
+C
X2
×2+C
X3
+C
Y
×2
式(2)
1.720≦C
H/C
C≦
2.070
(A)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅イオンとからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅化合物との反応により得られる銅錯体とからなる成分
【化5】
〔上記一般式(I)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。Zは、下記式(Z-1)~(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【0014】
【化2】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載の*は結合部位を表し、上記一般式(I)におけるOと結合する。
【0015】
R21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表す。
【0016】
ただし、一般式(I)で表される構造を有する化合物は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時に有する。
【0017】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0018】
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
【0019】
一般式(I)において、lは、上記条件(i)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。mは、上記条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。〕
【化3】
〔上記一般式(II)において、R
1は置換基を有してもよいフェニル基である。〕。
【0020】
2.更に、下記ホスホン酸群から選ばれる化合物を含有することを特徴とする第1項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0021】
ホスホン酸群:エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、2-クロロエチルホスホン酸、3-ブロモプロピルホスホン酸、3-メトキシブチルホスホン酸、1,1-ジメチルプロピルホスホン酸、1,1-ジメチルエチルホスホン酸、1-メチルプロピルホスホン酸。
【0022】
3.前記一般式(I)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(III)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0023】
【化4】
〔上記一般式(III)において、R、R
21~R
24、l及びmは、前記一般式(I)におけるそれらと同義である。nは1又は2であり、nが2のとき、〔 〕内の構造は同一であっても異なっていてもよい。〕。
【0024】
4.前記一般式(I)で表される構造を有する化合物が、モノエステルとジエステルを含み、モノエステルのモル比率が20~95%の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0025】
5.前記一般式(I)は、下記の条件(i)を満たす部分構造と、下記条件(iii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時に有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0026】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0027】
条件(iii):R21~R24のいずれか1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、残りの3つが水素原子である。
【0028】
6.前記一般式(I)におけるl及びmが、それぞれ1~3の範囲内の数であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0029】
7.前記銅イオン又は前記銅化合物を構成する銅に対し、100モル%以下の酢酸を含有することを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物。
【0030】
8.第1項から第7項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性組成物を用いたことを特徴とする近赤外線吸収性膜。
【0031】
9.ポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂を含有することを特徴とする第8項に記載の近赤外線吸収性膜。
【0032】
10.エポキシ基を有するマトリックス樹脂を含有することを特徴とする第8項に記載の近赤外線吸収性膜。
【0033】
11.第8項から第10項までのいずれか一項に記載の近赤外線吸収性膜を具備することを特徴とする固体撮像素子用イメージセンサー。
【発明の効果】
【0034】
本発明の上記手段により、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物と、膜厚を低減することができる近赤外線吸収性膜と、当該近赤外外線吸収性膜を具備する固体撮像素子用イメージセンサーを提供することができる。
【0035】
本発明の効果の発現機構・作用機構については明確になっていないが、以下のように推察している。
【0036】
本発明の近赤外線吸収性組成物では、含有する近赤外線吸収剤が、前記(A)成分及び前記(B)成分のうち少なくともいずれかの成分を含有し、銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、Zが下記式(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量を、それぞれC
X1
、C
X2
、C
X3
とし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、CH/CCで表される比の値が特定の範囲にある近赤外線吸収性組成物により、分散安定性、可視光の透過性及び近赤外光の吸収性に優れた近赤外線吸収性組成物を得ることができる。
【0037】
フェニルホスホン酸と銅から構成される技術は、従来技術に対し、近赤外線吸収領域を広げることが可能であるが、前述のとおり、フェニルホスホン酸化合物自身は凝集性が強いため、分散剤を多量に添加させることが必要となり、近赤外線吸収性膜が厚くなるという問題を抱えていた。
【0038】
本発明では、分散剤として、特定の構造を有するリン酸エステルを適用併用することにより、凝集性の高いフェニルホスホン酸と銅から構成される赤外線吸収剤の優れた分散安定性を得ることができる。
【0039】
これにより、可視光領域の透過率を高く維持しながら、近赤外領域に十分な吸収を持たせることが可能となり、近赤外線吸収性膜が厚くなるのを防止することができる。
【0040】
更に、本発明に係るフェニルホスホン酸の一部をアルキルホスホン酸に置換し、両者を併用することにより、近赤外領域の波長と吸収量を調整することができる。
【0041】
また、CH/CCで表される比の値を1.720から2.070の範囲内に設定することにより、近赤外領域での赤外線を効率的にカットし、可視光の400~700nmの波長範囲域における光の透過率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の近赤外線吸収性膜を具備した固体撮像素子を備えたカメラモジュールの構成の一例を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の近赤外線吸収性組成物では、近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、前記近赤外線吸収剤が、前記(A)成分及び前記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCXとし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、下記式(2)で規定する条件を満たすことを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0044】
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、更に、前記ホスホン酸群から選ばれるアルキルホスホン酸を併用することが、分光透過波形を維持しながら、更にフェニルホスホン酸の分散安定性を向上させることができる点で好ましい。
【0045】
また、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物が、前記一般式(III)で表される構造を有する化合物であることが、より優れた近赤外線吸収性組成物の分散安定性と、近赤外領域における優れた分光波長特性を得ることができる点で好ましい。
【0046】
また、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物は、モノエステルとジエステルを含み、モノエステルのモル比率が20~95%の範囲内であることが、より優れた近赤外線吸収性組成物の分散安定性と、近赤外領域における優れた分光波長特性を得ることができる点で好ましい。
【0047】
また、前記一般式(I)が、前記条件(i)を満たす部分構造と、条件(iii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時に有することが、より優れた近赤外線吸収性組成物の分散安定性と、近赤外領域における優れた分光波長特性を得ることができる点で好ましい。
【0048】
また、前記一般式(I)におけるl及びmが、それぞれ1~3の範囲内の数であることが、より優れた近赤外線吸収性組成物の分散安定性と、近赤外領域における優れた分光波長特性を得ることができる点で好ましい。
【0049】
また、酢酸を、前記銅の含有量に対して100モル%以下で含有することが、より優れた近赤外線吸収性組成物の分散安定性と、近赤外領域における優れた分光波長特性を得ることができる点で好ましい。
【0050】
本発明の近赤外線吸収性膜においては、上記本発明の近赤外線吸収性組成物を用いることを特徴とする。また、本発明の近赤外線吸収性膜においては、バインダー成分として、ポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂又はエポキシ基を有するマトリックス樹脂を含有することが、強靭で、優れた透過特性を備えた塗膜を得ることができる点で好ましい。
【0051】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0052】
《近赤外線吸収性組成物の構成》
本発明の近赤外線吸収性組成物は、近赤外線吸収剤と溶媒を含有する近赤外線吸収性組成物であって、前記近赤外線吸収剤が、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有し、銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、Zが下記式(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量を、それぞれC
X1
、C
X2
、C
X3
とし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、下記式(2)で規定する条件を満たすことを特徴とする。
【0053】
式(1) C
H
=C
X1
+C
X2
×2+C
X3
+C
Y
×2
式(2) 1.720≦CH/CC≦2.070
(A)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅イオンからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分。
【0054】
以下、本発明の近赤外線吸収性組成物の構成材料の詳細について、説明する。
【0055】
[近赤外線吸収剤]
本発明に係る近赤外線吸収剤は、下記(A)成分及び下記(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有することを特徴の一つとする。
【0056】
(A)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅イオンからなる成分
(B)成分:下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる成分。
【0057】
(銅イオンと反応性ヒドロキシ基とのモル比率CH/CC)
本発明においては、銅イオンのモル基準含有量をCCとし、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物において、Zが下記式(Z-1)、(Z-2)、(Z-3)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量を、それぞれC
X1
、C
X2
、C
X3
とし、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとし、かつ、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を、下記式(1)で規定するCHとしたとき、下記式(2)で規定する条件を満たすことを特徴とする。
【0058】
式(1) C
H
=C
X1
+C
X2
×2+C
X3
+C
Y
×2
式(2) 1.720≦CH/CC≦2.070
上記式(2)において、CCは近赤外線吸収剤が含有する銅イオン又は銅化合物を構成する銅のモル基準含有量(モル数)を表す。一方、CHは一般式(I)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCXとし、一般式(II)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量をCYとしたとき、一般式(I)で表される構造を有する化合物及び一般式(II)で表される構造を有する化合物が含有する反応性ヒドロキシ基のモル含有量の総量を表す。また、一般式(I)で表される構造を有する化合物におけるZが式(Z-2)である場合、及び一般式(II)で表される構造を有する化合物の場合には、それぞれの化合物のモル数の2倍が、反応性ヒドロキシ基のモル数である。
【0059】
本発明において、銅イオンと反応性ヒドロキシ基とのモル比率CH/CCを式(2)で規定する範囲内とすることにより、可視光の400~700nmの波長範囲域における光の透過率を高くするとともに、近赤外領域における1100nm近傍での透過光の漏れがなく、効率よく吸収性能を維持するとともに、可視光の長波長の端部である700nmにもある程度の吸収特性を有る分光透過特性を実現することができる。
【0060】
以下、本発明の近赤外線吸収性組成物の代表的な構成成分である一般式(I)で表される構造を有する化合物、一般式(II)で表される構造を有する化合物、一般式(III)で表される構造を有する化合物、ホスホン酸と、銅錯体及び溶媒等について説明する。ただし、本発明はここで例示する構成にのみ限定されるものではない。
【0061】
〔一般式(I)で表される構造を有する化合物〕
はじめに、本発明に係る下記一般式(I)で表される構造を有する化合物について説明する。
【0062】
【化5】
上記一般式(I)において、Rは炭素数が1~20のアルキル基又は炭素数が6~20のアリール基を表し、Rはさらに置換基を有してもよい。
【0063】
Zとしては、下記式(Z-1)、(Z-2)、及び(Z-3)から選択される構造単位を表す。
【0064】
【化6】
上記式(Z-1)~(Z-3)に記載されている*は結合部位を表し、上記一般式(I)におけるOと結合する。
【0065】
上記式(Z-1)、(Z-2)及び(Z-3)から選択される構造単位においては、銅錯体の分散性の観点から、好ましくは、ヒドロキシ基を一つ有する式(Z-1)又は(Z-2)である。
【0066】
上記一般式(I)において、Zが(Z-1)の場合はジエステルとなり、Zが(Z-2)又は(Z-3)の場合はモノエステルとなる。銅錯体の分散性の観点から、ジエステルとモノエステルは混合物であることが好ましく、モノエステルとジエステルのうち、モノエステルのモル比率が20~95%の範囲内であることが好ましい。
【0067】
一般式(I)において、lは、後述する条件(i)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。mは、後述する条件(ii)を満たす部分構造の数を表し、1~10の数である。
【0068】
上記一般式(I)において、Rで表される炭素数が1~20のアルキル基としては、直鎖でも分岐を有してもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基、2-ブチルオクチル基、2-ヘキシルオクチル基、n-デシル基、2-ヘキシルデシル基、n-ドデシル基、n-ステアリル基等が挙げられる。それぞれのアルキル基はさらに置換基を有してもよい。銅錯体の分散性と耐湿性の観点から、好ましくは、炭素数が6~16のアルキル基である。
【0069】
また、Rで表される炭素数が6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、フルオレノニル基である。それぞれのアリール基はさらに置換基を有してもよい。
【0070】
Rが有してもよい置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、イソプロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子等)、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)、トリアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基等)、トリアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリル基等)、トリヘテロアリールシリル基(例えば、トリピリジルシリル基等)、ベンジル基、アリール基(例えば、フェニル基等)、ヘテロアリール基(例えば、ピリジル基、カルバゾリル基等)が挙げられ、縮合環としては、9,9′-ジメチルフルオレン、カルバゾール、ジベンゾフラン等が挙げられるが、特に制限はない。
【0071】
前記一般式(I)において、R21~R24はそれぞれ水素原子又は炭素数が1~4のアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられるが、銅錯体の分散性の観点から、特にメチル基が好ましい。
【0072】
本発明に係る一般式(I)で表される構造を有する化合物においては、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(ii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つその分子構造内に同時に有することを特徴とする。
【0073】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0074】
条件(ii):R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である。
【0075】
条件(ii)を満たす部分構造は、R21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、更に2つが当該アルキル基である場合、3つが当該アルキル基、4つすべてが当該アルキル基である構造を包含する。銅錯体の分散性の観点から、好ましくは、いずれか1つのみが、炭素数が1~4のアルキル基であることが好ましい。
【0076】
条件(i)を満たす部分構造は、R21~R24が全て水素原子であるエチレンオキシド構造であり、金属との錯体形成能が高く、分散性を高めることに寄与する。一方、条件(ii)はアルキル置換されたエチレンオキシド構造であり、成分数が多く、エントロピー効果により、水分混入時の分散安定性を高めることに寄与する。
【0077】
一般式(I)において、lは、上記条件(i)で規定するR21~R24が全て水素原子である部分構造の数を表し、その数は1~10の範囲内であり、好ましくは1~3の範囲内である。mは、上記条件(ii)で規定するR21~R24の少なくとも1つが、炭素数が1~4のアルキル基である部分構造の数を表し、その数は1~10の範囲内であり、好ましくは1~3の範囲内である。
【0078】
l及びmは、それぞれエチレンオキシド構造とアルキル置換されたエチレンオキシド構
造の平均付加モル数をそれぞれ表している。
【0079】
また、上記一般式(I)で表される構造を有する化合物においては、下記の条件(i)を満たす部分構造と、条件(iii)を満たす部分構造とを、それぞれ少なくとも1つ同時
に有することが好ましい。
【0080】
条件(i):R21~R24が全て水素原子である。
【0081】
条件(iii):R21~R24のいずれか1つが、炭素数が1~4のアルキル基であり、残りの3つが水素原子である。
【0082】
例えば、条件(iii)で表すアルキル基がメチル基である場合には、同一構造内に、エチレンオキシド構造とプロピレンオキシド構造を有する化合物である。
【0083】
なお、本願において、「エチレンオキシド構造」とは、ポリエチレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるエチレンオキシドが開環した構造をいう。また、「プロピレンオキシド構造」とは、ポリプロピレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるプロピレンオキシドが開環した構造をいう。
【0084】
また、上記一般式(I)で表される構造を有する化合物においては、下記一般式(II)で表される構造を有するリン酸エステルであることが、より好ましい態様である。
【0085】
上記一般式(III)において、R、R21~R24、l及びmは、前記一般式(I)におけるそれらと同義である。nは1又は2であり、nが2のとき、〔 〕内の構造は同一であっても異なっていてもよい。
【0086】
次いで、一般式(I)で表される構造を有する化合物の具体例について説明する。
【0087】
はじめに、代表的な例示化合物の構造の一例について、説明する。
【0088】
〈例示化合物1〉
例示化合物1は、下記の表1に示すように、
R:メチル基、
条件(i):R21~R24=H
条件(ii):R21=H、R22=メチル基、R23=メチル基、R24=H
Z:Z-3
l:1.0
m:8.0
の構造を有しているが、例えば、下記の例示化合物(1-1)の構造で表される。
【0089】
【化7】
上記例示化合物(1-1)においては、エチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は、適用する合成方法により、任意に変更が可能であり、下記例示化合物(1-2)も例示化合物1に包含される。
【0090】
【化8】
本発明においては、エチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は、特に限定されず、それぞれの構造がランダムに配列した化合物も本発明で規定する化合物に含まれる。
【0091】
〈例示化合物2〉
例示化合物2は、下記の表1に示すように、
R:メチル基、
条件(i):R21~R24=H
条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H
Z:Z-1、Z-2 l:2.0
m:3.0
の構造を有しているが、ZがZ-2である例示化合物(2-1)と、ZがZ-1である例示化合物(2-2)の構造で表される。
【0092】
【化9】
例示化合物2の場合は、モノエステル比率が50%であり、上記例示化合物(2-1)と例示化合物(2-2)が、それぞれ同モル量ずつ含まれている。
【0093】
上記例示化合物1と同様に、例示化合物2においてもエチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は合成方法により、任意に変更可能であり、下記例示化合物(2-3)、(2-4)も例示化合物2に含まれる。
【0094】
【化10】
本発明においては、エチレンオキシド構造と、アルキル置換されたエチレンオキシド構造の順番は、特に限定されず、それぞれの構造がランダムに配列した化合物も本発明で規定する化合物に含まれる。
【0095】
次いで、一般式(I)で表される構造を有する化合物の具体例を、下記表I~表IVに列挙するが、本発明はこれら例示化合物に限定されない。
【0096】
【0097】
(例示化合物の合成)
次いで、本発明に係る一般式(I)で表される構造を有する化合物の合成の代表例を挙げるが、本発明はこれらの合成方法に限定されない。
【0098】
〈例示化合物49の合成〉
n-オクタノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド116g(2.0モル)を付加させた後、エチレンオキサイド88g(2.0モル)を付加させた。
【0099】
次に、n-オクタノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物49(R=オクチル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:2.0、m:2.0、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0100】
【化11】
〈例示化合物56の合成〉
2-エチルヘキサノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド145g(2.5モル)を付加させた後、エチレンオキサイド110g(2.5モル)を付加させた。
【0101】
次に、2-エチルヘキサノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、無水リン酸47g(0.33モル)を80℃で5時間反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物56(R=2-エチルヘキシル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:2.5、m:2.5、Z:リン酸モノエステル(Z-2)/リン酸ジエステル(Z-1))を得た。
【0102】
【化12】
〈例示化合物59の合成〉
2-エチルヘキサノール130g(1.0モル)をオートクレーブに入れ、水酸化カリウムを触媒とし、圧力147kPa、温度130℃の条件で、プロピレンオキシド58g(1.0モル)を付加させた後、エチレンオキサイド132g(3.0モル)を付加させた。
【0103】
次に、2-エチルヘキサノールが残っていないことを確認したのち、上記付加物を反応器にとり、トルエン溶液で、クロロスルホン酸117g(1.0モル)を約1時間かけて滴下して、反応させたのち、蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、下記に示す例示化合物59(R=2-エチルヘキシル基、条件(i):R21=H、R22=H、R23=H、R24=H、条件(ii):R21=H、R22=H、R23=メチル基、R24=H、l:3.0、m:1.0、Z:スルホン酸(Z-3))を得た。
【0104】
【化13】
(銅成分)
本発明に係る近赤外線吸収剤においては、前述のとおり、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物及前記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅イオンからなる(A)成分、又は前記一般式(I)で表される構造を有する化合物及び前記一般式(II)で表される構造を有する化合物と、銅化合物との反応により得られる銅錯体からなる(B)成分のうちの少なくともいずれかの成分を含有していることを特徴とする。
【0105】
上記(A)成分における銅イオン、あるいは(B)成分である銅化合物との反応により得られる銅錯体における銅塩としては、2価の銅イオンを供給することが可能な銅塩が用いられる。例えば、無水酢酸銅、無水ギ酸銅、無水ステアリン酸銅、無水安息香酸銅、無水アセト酢酸銅、無水エチルアセト酢酸銅、無水メタクリル酸銅、無水ピロリン酸銅、無水ナフテン酸銅、無水クエン酸銅等の有機酸の銅塩、該有機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩、該無機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;水酸化銅が挙げられる。
【0106】
(銅錯体)
本発明に係る一般式(I)で表される構造を有する化合物又は前記一般式(II)で表される構造を有する化合物と銅化合物との反応により得られる銅錯体の合成方法については、例えば、特許第4422866号公報、特許第5953322号公報に記載されている方法を適用することができる。
【0107】
本発明に係る一般式(I)で表される構造を有する化合物は、Zで表されるリン酸基、又はスルホン酸基を介して、配位結合及び/又はイオン結合により銅イオンに結合し、この銅イオンは、一般式(I)で表される構造を有する化合物に囲まれた状態で近赤外光吸収性膜中に溶解又は分散され、銅イオンのd軌道間の電子遷移によって近赤外光が選択吸収される。また、Zがその代表例であるリン酸基の場合、近赤外光吸収性膜中におけるリン原子の含有量が銅イオン1モルに対して1.50以下が好ましく、さらには、0.3~1.3、すなわち、銅イオンに対するリン原子の含有比(以下、「P/Cu」という)がモル比で0.3~1.3であると、近赤外線吸収性膜の耐湿性、及び近赤外線吸収性膜の耐湿性、及び近赤外光吸収層における銅イオンの分散性の観点から非常に好適であることが確認された。
【0108】
P/Cuがモル比で0.3未満であると、一般式(I)で表される構造を有する化合物に対して配位する銅イオンが過剰となり、銅イオンが近赤外光吸収性膜中に均一に分散しにくくなる傾向にある。一方、P/Cuがモル比で1.3を超えると、近赤外線吸収性膜の厚さを薄くして銅イオンの含有量を高めたときに、失透が起こりやすくなる傾向にあり、高温多湿の環境では特にこの傾向が顕著となる。さらに、P/Cuがモル比で0.8~1.3モルであるとより好ましい。このモル比が0.8以上であると、樹脂中への銅イオンの分散性を確実に且つ十分に高めることができる。
【0109】
また、近赤外線吸収性膜における銅イオンの含有割合が上記下限値未満であると、近赤外線吸収性膜の厚さが1mm程度より薄くされたときに、十分な近赤外光吸収性を得ることが困難な傾向となる。一方、銅イオンの含有割合が上記上限値を超えると、銅イオンを近赤外光吸収膜中に分散させることが困難となる傾向にある。
【0110】
(一般式(II)で表される構造を有する化合物)
次いで、本発明に係る下記一般式(II)で表される構造を有するフェニルホスホン酸について説明する。
【0111】
【化14】
上記一般式(II)において、R
1は置換基を有してもよいフェニル基である。置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、イソプロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子等)、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)、トリアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基等)、トリアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリル基等)、トリヘテロアリールシリル基(例えば、トリピリジルシリル基等)、ベンジル基、ヘテロアリール基(例えば、ピリジル基、カルバゾリル基等)が挙げられ、縮合環としては、9,9′-ジメチルフルオレン、カルバゾール、ジベンゾフラン等が挙げられるが、特に制限はない。
【0112】
一般式(II)で表される構造を有するフェニルホスホン酸としては、フェニルホスホン酸、4-メトキシフェニルホスホン酸、(4-アミノフェニル)ホスホン酸、(4-ブロモフェニル)ホスホン酸、3-ホスホノ安息香酸、4-ホスホノ安息香酸、及び(4-ヒドロキシフェニル)ホスホン酸等を挙げることができる。
【0113】
〈フェニルホスホン酸銅錯体〉
次いで、本発明に好適なフェニルホスホン酸銅錯体について説明する。
【0114】
フェニルホスホン酸銅錯体は、下記一般式(IV)で表される構造を有する。
【0115】
【化15】
一般式(IV)において、置換基を有してもよいフェニル基である。
【0116】
一般式(IV)で表される構造を有するフェニルホスホン酸銅錯体の形成に用いられる銅塩としては、2価の銅イオンを供給することが可能な銅塩が用いられる。例えば、無水酢酸銅、無水ギ酸銅、無水ステアリン酸銅、無水安息香酸銅、無水アセト酢酸銅、無水エチルアセト酢酸銅、無水メタクリル酸銅、無水ピロリン酸銅、無水ナフテン酸銅、無水クエン酸銅等の有機酸の銅塩、該有機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;酸化銅、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、リン酸銅、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩、該無機酸の銅塩の水和物若しくは水化物;水酸化銅が挙げられる。
【0117】
本発明においては、ホスホン酸銅錯体を構成するホスホン酸が、アルキルホスホン酸であることが好ましく、例えば、エチルホスホン酸銅錯体、プロピルホスホン酸銅錯体、ブチルホスホン酸銅錯体、ペンチルホスホン酸銅錯体、ヘキシルホスホン酸銅錯体、オクチルホスホン酸銅錯体、2-エチルヘキシルホスホン酸銅錯体、2-クロロエチルホスホン酸銅錯体、3-ブロモプロピルホスホン酸銅錯体、3-メトキシブチルホスホン酸銅錯体、1,1-ジメチルプロピルホスホン酸銅錯体、1,1-ジメチルエチルホスホン酸銅錯体、1-メチルプロピルホスホン酸銅錯体等を挙げることができる。
【0118】
〔その他の構成材料〕
(その他のホスホン酸化合物)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、本発明に係る一般式(II)で表される構造を有するフェニルホスホン酸とともに、下記に示すホスホン酸群から選ばれる化合物を併用することができる。
【0119】
併用可能なホスホン酸群としては、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、2-クロロエチルホスホン酸、3-ブロモプロピルホスホン酸、3-メトキシブチルホスホン酸、1,1-ジメチルプロピルホスホン酸、1,1-ジメチルエチルホスホン酸、1-メチルプロピルホスホン酸を挙げることができる。
【0120】
本発明の近赤外線吸収性組成物において、本発明に係る一般式(II)で表される構造を有するフェニルホスホン酸に対する上記ホスホン酸の添加量は、フェニルホスホン酸の効果を損なわない範囲で、任意の比率で適用することができるが、おおむね、フェニルホスホン酸に対し、50%未満であり、好ましくは30%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0121】
(スルホン酸化合物)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、スルホン酸化合物を用いることもでき、スルホン酸化合物としては、例えば、特開2015-430638号公報記載の化合物などが挙げられる。
【0122】
(酢酸について)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、近赤外線吸収剤が含有する(A)成分を構成する銅イオン、又は(B)成分を構成する銅錯体における銅化合物を構成する銅に対し、100モル%以下の酢酸を含有することが好ましい。
【0123】
例えば、一般式(I)と酢酸銅を用いて、銅錯体化合物を調製する際に、酢酸が生じるが、この酢酸量を上記で規定する範囲内とすることにより、耐久性(熱湿度耐性)及び近赤外領域で所望の分光スペクトルが得られる点で好ましい。
【0124】
〔溶媒〕
次いで、本発明の近赤外吸収性組成物の調製に適用可能な溶媒について説明する。
【0125】
本発明の近赤外吸収性組成物に用いることができる溶媒は、特に限定されるものではないが、炭化水素系溶剤を挙げることができ、より好ましくは脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0126】
脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の非環状脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、n-プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、イソプロピルビフェニル等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム等)を挙げることができる。更に、アニソール、2-エチルヘキサン、sec-ブチルエーテル、2-ペンタノール、2-メチルテトラヒドロフラン、2-プロピレングリコールモノメチルエーテル、2,3-ジメチル-1,4-ジオキサン、sec-ブチルベンゼン、2-メチルシクロヘキシルベンゼンなどを挙げることができる。中でもトルエン及びテトラヒドロフランが沸点や溶解性の点から好ましい。
【0127】
また、近赤外線吸収性組成物に対する固形分の比率は、5~30質量%の範囲内であることが、適切な固形物(例えば、銅錯体粒子)の濃度となり、保存期間中での粒子凝集性が抑制され、より優れた経時安定性(銅錯体粒子の分散安定性と近赤外線吸収能)を得ることができる点で好ましい。10~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0128】
(近赤外線吸収調整剤)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、吸収波形調整用の添加剤として、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する近赤外線吸収調整剤を少なくとも1種添加することが、分光特性の観点から好ましい。本発明に適用する近赤外線吸収調整剤としては、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する近赤外線吸収色素を適用することが好ましい。
【0129】
本発明に好適な近赤外線吸収色素としては、例えば、シアニン色素、スクアリリウム色素、クロコニウム色素、アゾ色素、アントラキノン色素、ナフトキノン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、クアテリレン色素、ジチオール金属錯体系色素等を挙げることができる。その中でも、近赤外線を十分に吸収し、可視光透過率が高く、かつ耐熱性が高いため、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素、クアテリレン色素が特に好ましい。
【0130】
フタロシアニン化合物の具体例としては、例えば、特開2000-26748号公報、特開2000-63691号公報、特開2001-106689号公報、特開2004-149752号公報、特開2004-18561号公報、特開2005-220060号公報、特開2007-169343号公報、特開2016-204536号公報、特開2016-218167号公報等に記載されている化合物が挙げられ、これらの公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0131】
クアテリレン系色素の具体例としては、例えば、特開2008-009206号公報、特開2011-225608号公報に記載の化合物が挙げられ、これらの公報に記載の方法に従って合成することができる。
【0132】
上記近赤外吸収色素は市販品としても入手可能であり、例えば、FDR002、FDR003、FDR004、FDR005、FDN001(以上、山田化学工業社製)、Excolor TX-EX720、Excolor TX-EX708K(以上、日本触媒社製)、Lumogen IR765、Lumogen IR788(以上、BASF社製)、ABS694、IRA735、IRA742、IRA751、IRA764、IRA788、IRA800(以上、Exciton社製)、epolight5548、epolight5768(以上、aako社製)、VIS680E、VIS695A、NIR700B、NIR735B、NIR757A、NIR762A、NIR775B、NIR778A、NIR783C、NIR783I、NIR790B、NIR795A(以上、QCR solutions社製)、DLS740A、DLS740B、DLS740C、DLS744A、DLS745B、DLS771A、DLS774A、DLS774B、DLS775A、DLS775B、DLS780A、DLS780C、DLS782F(以上、Crystalin社製)、B4360、B4361、D4773、D5013(以上、東京化成工業社製)等の商品名を挙げることができる。
【0133】
近赤外線吸収色素の添加量は、近赤外線吸収性組成物を構成する近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.01~0.1質量%の範囲内で添加することが好ましい。
【0134】
近赤外線吸収色素の添加量が、近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.01質量%以上であれば、近赤外線吸収を十分に高めることができ、0.1質量%以下であれば、得られる近赤外線吸収組成物の可視光透過率を損なうことがない。
【0135】
(紫外線吸収剤)
本発明の近赤外線吸収性組成物においては、近赤外線吸収剤と溶媒の他に、紫外線吸収剤をさらに含有していることが、分光特性及び耐光性の観点から好ましい。
【0136】
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0137】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、5-クロロ-2-(3,5-ジ-sec-ブチル-2-ヒドロキシルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、(2-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(直鎖及び側鎖ドデシル)-4-メチルフェノール等を挙げることができる。また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は市販品としも入手することができ、例えば、TINUVIN109、TINUVIN171、TINUVIN234、TINUVIN326、TINUVIN327、TINUVIN328、TINUVIN928等のTINUVINシリーズがあり、これらはいずれもBASF社製の市販品である。
【0138】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、ビス(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニルメタン)等が挙げられる。
【0139】
サリチル酸エステル系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルサリシレート等が挙げられる。
【0140】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、2′-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3-(3′,4′-メチレンジオキシフェニル)-アクリレート等が挙げられる。
【0141】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2′-ヒドロキシ-4′-ヘキシルオキシフェニル)-4,6-ジフェニルトリアジン等が挙げられる。トリアジン系紫外線吸収剤の市販品としては、例えば、TINUVIN477(BASF社製)が挙げられる。
【0142】
紫外線吸収剤の添加量は、近赤外線吸収性組成物を構成する近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.1~5.0質量%の範囲内で添加することが好ましい。
【0143】
紫外線吸収剤の添加量が、近赤外線吸収剤100質量%に対して、0.1質量%以上であれば、耐光性を十分に高めることができ、5.0質量%以下であれば、得られる近赤外線吸収組成物の可視光透過率を損なうことがない。
【0144】
《近赤外線吸収性膜とその適用分野》
本発明においては、本発明の近赤外線吸収性組成物を用いて、近赤外線吸収性膜を形成することを一つの特徴とする。
【0145】
(マトリックス樹脂)
本発明の近赤外線吸収性膜は、本発明に係る近赤外線吸収性組成物に、マトリクス樹脂を添加し、マトリクス樹脂に、例えば、銅錯体の微粒子、フェニルホスホン酸銅錯体が分散していることによって形成されている。また、吸収波形調整用の添加剤として、650~800nmの波長域に吸収極大波長を有する前記近赤外色素を少なくとも1種、添加することができる。
【0146】
上記構成よりなる近赤外線吸収性膜形成用塗布液をスピンコーティング又はディスペンサによる湿式塗布方式により基板上に塗布して、近赤外線吸収性膜を形成する。その後、この塗膜に対して所定の加熱処理を行って塗膜を硬化させて、近赤外線吸収性膜を形成する。
【0147】
近赤外線吸収性膜の形成に用いるマトリクス樹脂(バインダー樹脂ともいう。)は、可視光線及び近赤外線に対し光透過性を有し、かつ、赤外線吸収組成物の微粒子を分散可能な樹脂である。フェニルホスホン酸銅錯体は、比較的極性が低い物質であり、疎水性材料に良好に分散する。このため、近赤外線吸収性膜形成用のマトリクス樹脂としては、アクリル基、エポキシ基、又はフェニル基を有する樹脂を用いることができる。また、ポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂は、熱分解しにくく、可視光線及び近赤外線に対して高い光透過性を有し、耐熱性も高いので、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として有利な特性を有する。このため、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として、ポリシロキサン構造を有する樹脂を用いることも好ましい。近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なポリシロキサン構造を有する樹脂の具体例としては、KR-255、KR-300、KR-2621-1、KR-211、KR-311、KR-216、KR-212、及びKR-251を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
【0148】
また、シリコーン樹脂としては、例えば、SS-6203、SS-6309、VS-9301、VS-9506を挙げることができ、これらはいずれもサンユレック社製のシリコーン樹脂である。
【0149】
本発明の近赤外線吸収性膜の形成に用いるマトリクス樹脂としては、低ガス透過性の観点から、エポキシ基を有するマトリックス樹脂を含有することも好ましい態様である。
【0150】
この場合、近赤外線吸収性膜を構成するエポキシ基を有するマトリクス樹脂は、高い耐湿性を発揮するため、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として好適な特性を有する。
【0151】
近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なエポキシ基を有する樹脂の具体例としては、KJC-X5(信越化学工業社製)、NLD-L-672(サンユレック社製)、LE-1421(サンユレック社製)、EpiFineシリーズ(KISCO社製)を挙げることができる。
【0152】
また、近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として、上記に挙げたポリシロキサンとエポキシ基の両方を有する樹脂を用いることも好ましい。
【0153】
この場合、これらのポリシロキサンとエポキシ基の両方を有するマトリクス樹脂は、高い耐熱性、耐湿性を発揮するため、固体撮像素子用イメージセンサー用の材料として好適な特性を有する。
【0154】
近赤外線吸収性膜のマトリクス樹脂として使用可能なポリシロキサンとエポキシ基の両方を有する樹脂の具体例としては、EpiFineシリーズ(KISCO社製)、ILLUMIKAシリーズ(カネカ社製)を挙げることができる。
【0155】
本発明の近赤外線吸収性膜の膜厚は、100~490μmの範囲内であることが好ましく、更に好ましくは150~300μmの範囲内である。
【0156】
(その他の添加剤)
本発明の近赤外線吸収性膜には、本発明の目的効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を適用することができ、例えば、増感剤、架橋剤、硬化促進剤、フィラー、熱硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤などが挙げられ、更に基材表面への密着促進剤及びその他の助剤類(例えば、導電性粒子、充填剤、消泡剤、難燃剤、レベリング剤、剥離促進剤、酸化防止剤、香料、表面張力調整剤、連鎖移動剤など)を併用してもよい。
【0157】
これらの成分を適宜含有させることにより、目的とする近赤外線吸収膜の安定性、膜物性などの性質を調整することができる。
【0158】
これらの成分は、例えば、特開2012-003225号公報の段落番号0183~、特開2008-250074号公報の段落番号0101~0102、特開2008-250074号公報の段落番号0103~0104、特開2008-250074号公報の段落番号0107~0109等に記載されている内容を参考にすることができる。
【0159】
本発明の近赤外線吸収性組成物は、液状の湿式塗布液とすることができるため、例えば、スピン塗布することにより膜を形成するという簡単な工程によって、近赤外線吸収性膜、例えば、近赤外線カットフィルターを容易に製造できる。
【0160】
《固体撮像素子用イメージセンサーへの適用》
本発明の近赤外線吸収性膜は、例えば、CCD用、CMOS用又は他の受光素子用の視感度補正部材、測光用部材、熱線吸収用部材、複合光学フィルター、レンズ部材(眼鏡、サングラス、ゴーグル、光学系、光導波系)、ファイバ部材(光ファイバ)、ノイズカット用部材、プラズマディスプレイ前面板等のディスプレイカバー又はディスプレイフィルター、プロジェクタ前面板、光源熱線カット部材、色調補正部材、照明輝度調節部材、光学素子(光増幅素子、波長変換素子等)、ファラデー素子、アイソレータ等の光通信機能デバイス、光ディスク用素子等を構成するものとして好適である。
【0161】
本発明の近赤外線吸収性組成物を有する近赤外線吸収膜の用途は、特に、固体撮像素子基板の受光側における近赤外線カットフィルター用(例えば、ウエハーレベルレンズに対する近赤外線カットフィルター用など)、固体撮像素子基板の裏面側(受光側とは反対側)における近赤外線カットフィルター用などとして、固体撮像素子用イメージセンサーに適用することが特徴である。
【0162】
本発明の近赤外線吸収性膜を固体撮像素子用イメージセンサーに適用することにより、可視部透過率の回線、近赤外部吸収効率及び耐熱湿性等を向上させることできる。
【0163】
本発明の近赤外線吸収性膜(近赤外線カットフィルター)は、具体的には、固体撮像素子用イメージセンサー上に具備させる。
【0164】
図1は、本発明の近赤外線吸収性膜である赤外線カットフィルターを具備した固体撮像素子を備えたカメラモジュールの構成を示す概略断面図である。
【0165】
図1に示すカメラモジュール1は、実装基板である回路基板12に接続部材であるハンダボール11を介して接続されている。
【0166】
詳細には、カメラモジュール1は、シリコーン基板の第1の主面に撮像素子部13を備えた固体撮像素子基板10と、固体撮像素子基板10の第1の主面側(受光側)に設けられた平坦化層8と、平坦化層8の上に設けられた近赤外線カットフィルター(近赤外線吸収性膜)9と、近赤外線カットフィルター9の上方に配置されるガラス基板3(光透過性基板)と、ガラス基板3の上方に配置され内部空間に撮像レンズ4を有するレンズホルダー5と、固体撮像素子基板10及びガラス基板3の周囲を囲うように配置された遮光兼電磁シールド6と、を備えて構成されている。各部材は、接着剤2、7により接着されている。
【0167】
本発明は、固体撮像素子基板と、上記固体撮像素子基板の受光側に配置された赤外線カットフィルターとを有するカメラモジュールの製造方法であって、固体撮像素子基板の受光側において、上記本発明の近赤外線吸収性組成物をスピン塗布することにより近赤外線吸収性膜を形成することができる。
【0168】
よって、カメラモジュール1においては、例えば、平坦化層8の上に、本発明の近赤外線吸収性組成物をスピン塗布することにより近赤外線吸収性膜を形成して、赤外線カットフィルター9を形成する。
【0169】
カメラモジュール1では、外部からの入射光Lが、撮像レンズ4、ガラス基板3、赤外線カットフィルター9、平坦化層8を順次透過した後、固体撮像素子基板10の撮像素子部に到達するようになっている。
【0170】
また、カメラモジュール1は、固体撮像素子基板10の第2の主面側で、ハンダボール11(接続材料)を介して回路基板12に接続されている。
【実施例】
【0171】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0172】
実施例1
《近赤外線吸収性組成物の調製》
(近赤外線吸収性組成物1の調製)
酢酸銅(II)一水和物(関東化学社製、以下、単に「酢酸銅」ともいう。)の0.563g(2.82mmol)とテトラヒドロフラン(THF)30gとを混合して1時間撹拌し酢酸銅溶液を調製した。
【0173】
次に、得られた酢酸銅溶液に、一般式(I)で表される構造を有するリン酸エステル化合物として、例示化合物100を0.734g(1.27mmol、モル比で酢酸銅1モルに対して0.45モル)にTHFを3g加えた溶液を添加し、30分間撹拌して、A液を調製した。
【0174】
次いで、一般式(II)で表される構造を有する化合物であるフェニルホスホン酸(東京化成工業株式会社製)の0.293g(1.85mmol、モル比で酢酸銅1モルに対して0.66モル)にTHF5gを加えて30分撹拌し、B液を調製した。
【0175】
次いで、A液を撹拌しながらA液にB液を添加し、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン20gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を調製した。
【0176】
このC液をフラスコに入れて、オイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)にて120℃で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1000)によって、30分間の脱溶媒処理を行った。
【0177】
その後、フラスコ中でC液の固形分濃度が20質量%になるように溶媒量を調整し、これを近赤外線吸収性組成物1とした。
【0178】
近赤外線吸収性組成物1における、銅のモル数を1.00としたときの例示化合物100において、Zが式(Z-1)、(Z-2)で表される構造を有する化合物のモル含有量は、それぞれ、0.225、0.225であり、一般式(II)で表される化合物であるフェニルホスホン酸のモル含有量は0.66であり、一般式(I)で表される構造を有する化合物である例示化合物100及び一般式(II)で表される構造を有する化合物であるフェニルホスホン酸に含まれる反応性ヒドロキシ基のモル基準総含有量CHは、銅1モルに対し、(例示化合物100=0.225+0.225×2)+(フェニルホスホン酸=0.66×2)=1.995(CH/CC)である。
【0179】
(近赤外線吸収性組成物2~5の調製)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、例示化合物100及びフェニルホスホン酸の銅1モルに対するモル数が、表Vに記載のモル含有量となるように変更し、CH/CCの値を、それぞれ、2.070、1.830、1.855、1.720に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物2~5を調製した。
【0180】
(近赤外線吸収性組成物6の調製)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、フェニルホスホン酸に代えて、同モル(1.85mmol、モル比で酢酸銅1モルに対して0.66モル)の4-メトキシフェニルホスホン酸に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物6を調製した。
【0181】
(近赤外線吸収性組成物7~12の調製)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、例示化合物100を、同モル(1.27mmol、モル比で酢酸銅1モルに対して0.45モル)の例示化合物101~106に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物7~12を調製した。
【0182】
(近赤外線吸収性組成物13の調製)
上記近赤外線吸収性組成物2の調製において、例示化合物100の添加モル比を酢酸銅1モルに対して0.29モルに変更し、かつ、ホスホン酸の添加総モル数を酢酸銅1モルに対して0.78モルとし、一般式(II)で表される構造を有する化合物Aであるフェニルホスホン酸の銅1モルに対するモル数を0.70モル、それ以外のホスホン酸(化合物B)であるヘキシルホスホン酸銅の1モルに対するモル数を0.08モル(フェニルホスホン酸:ヘキシルホスホン酸=9:1(モル比))とした以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物13を調製した。
【0183】
(近赤外線吸収性組成物14及び15の調製)
上記近赤外線吸収性組成物13の調製において、ホスホン酸の構成として、フェニルホスホン酸(化合物A)とヘキシルホスホン酸(化合物B)とのモル比を、それぞれ7:3及び5:5に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物14及び15を調製した。
【0184】
(近赤外線吸収性組成物16の調製)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、例示化合物100の添加モル比を酢酸銅1モルに対して0.45モルとし、ホスホン酸の添加総モル数を酢酸銅1モルに対して0.66モルとし、一般式(II)で表される構造を有する化合物Aであるフェニルホスホン酸の銅1モルに対するモル数を0.59モル、それ以外のホスホン酸(化合物B)であるヘキシルホスホン酸銅の1モルに対するモル数を0.07モル(フェニルホスホン酸:ヘキシルホスホン酸=9:1(モル比))とした以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物16を調製した。
【0185】
(近赤外線吸収性組成物17の調製)
上記近赤外線吸収性組成物16の調製において、ホスホン酸の構成として、フェニルホスホン酸(化合物A)とヘキシルホスホン酸(化合物B)とのモル比を、7:3に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物17を調製した。
【0186】
(近赤外線吸収性組成物18の調製)
上記近赤外線吸収性組成物3の調製において、例示化合物100の添加モル比を酢酸銅1モルに対して0.34モルとし、ホスホン酸の添加総モル数を酢酸銅1モルに対して0.66モルとし、一般式(II)で表される構造を有する化合物Aであるフェニルホスホン酸の銅1モルに対するモル数を0.59モル、それ以外のホスホン酸(化合物B)であるヘキシルホスホン酸の銅の1モルに対するモル数を0.07モル(フェニルホスホン酸:ヘキシルホスホン酸=9:1(モル比))とした以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物18を調製した。
【0187】
(近赤外線吸収性組成物19及び20の調製)
上記近赤外線吸収性組成物16の調製において、ヘキシルホスホン酸を同モルのプロピルホスホン酸及びオクチルホスホン酸にそれぞれ変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物19及び20を調製した。
【0188】
(近赤外線吸収性組成物21の調製:比較例)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、例示化合物100に代えて、プライサーフA208F(第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステルを用いた以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物21を調製した。プライサーフA208Fの銅の1モルに対するモル含有量は0.89モルである。
【0189】
(近赤外線吸収性組成物22の調製:比較例)
上記近赤外線吸収性組成物1の調製において、例示化合物100の銅1モルに対するモル数を0.34、フェニルホスホン酸の銅1モルに対するモル数を0.53モルとし、CH/CCを1.570に変更した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物22を調製した。
【0190】
(近赤外線吸収性組成物23の調製:比較例)
上記近赤外線吸収性組成物13の調製において、フェニルホスホン酸を除き、ヘキシルホスホン酸単独で構成した以外は同様にして、近赤外線吸収性組成物23を調製した。
【0191】
以上により作製した近赤外線吸収性組成物1~23の構成を表Vに示す。なお、C
X
とは、一般式(I)で表される構造を有する化合物のモル基準含有量のことをいい、C
X
=C
X1
+C
X2
+C
X3
で表される。
【0192】
【0193】
〔分光透過率の評価〕
上記調製した近赤外線吸収性組成物1~23について、1100nm波長の透過率が5%となるようにトルエンで希釈し、評価用のサンプルAを調製した。
【0194】
次いで、各評価サンプルAについて、測定装置として日本分光社製の分光光度計V-570を用い、300~1200nmの波長域範囲における分光透過率を測定した。次いで、可視部領域として500nm、600nm、700nmにおける分光透過率を求め、下記の基準に従って、評価を行った
(透過率1の評価:500nmにおける透過率の評価)
上記方法で測定した近赤外線吸収性組成物の500nmにおける透過率を、下記の基準に従ってランク付けを行い、可視光領域の透過率1の評価を行った。
【0195】
◎:500nmにおける透過率が、95%以上である
○:500nmにおける透過率が、90%以上、95%未満である
△:500nmにおける透過率が、80%以上、90%未満である
×:500nmにおける透過率が、80%未満である
(透過率2の評価:600nmにおける透過率の評価)
上記方法で測定した近赤外線吸収性組成物の600nmにおける透過率を、下記の基準に従ってランク付けを行い、可視光領域の透過率2の評価を行った。
【0196】
◎:600nmにおける透過率が、90%以上である
○:600nmにおける透過率が、80%以上、90%未満である
△:600nmにおける透過率が、60%以上、80%未満である
×:600nmにおける透過率が、60%未満である
(透過率3の評価:700nmにおける透過率の評価)
上記方法で測定した近赤外線吸収性組成物の700nmにおける透過率を、下記の基準に従ってランク付けを行い、可視光領域の透過率3の評価を行った。
【0197】
◎:700nmにおける透過率が、50%未満である
○:700nmにおける透過率が、50%以上、60%未満である
×:700nmにおける透過率が、60%以上である
〔濃度特性の評価〕
上記で調製した近赤外線吸収性組成物1~23の評価用のサンプルA(1100nm波長の透過率が5%)について、それぞれの近赤外線吸収性組成物における近赤外線吸収性組成物の濃度を測定し、下記の基準に従って、濃度特性の評価を行った。
【0198】
◎:サンプルAの近赤外線吸収性組成物の濃度が、2.0質量%未満である
○:サンプルAの近赤外線吸収性組成物の濃度が、2.0質量%以上、5.0%未満である
×:サンプルAの近赤外線吸収性組成物の濃度が、5.0質量%以上である
〔膜厚の評価〕
上記調製した近赤外線吸収性組成物1~23について、バインダー樹脂としてポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂を用い、それぞれの固形分比率が1:1となるように、各近赤外線吸収性膜形成用塗布液を調製した。
【0199】
次いで、各近赤外線吸収性膜形成用塗布液を、ガラス基板上に、1100nm波長の透過率が5%となる厚さ条件で塗布し、硬化させた。次いで、ホットプレート上で、80℃で1時間、150℃で2時間の加温処理により乾燥させ、各近赤外線吸収性膜を形成した。
【0200】
次いで、下記組み合わせによる膜厚計を使用し、各近赤外線吸収性膜の膜厚を測定した。
【0201】
(端子、スタンド、読み取り機)
端子:DIGIMICRO MH-15M(NIKON社製)
スタンド:DIGIMICRO STAND MS-5C(NIKON社製)
読み取り機:DIGITAL READ OUT TC-101A(NIKON社製)
以上により測定された各近赤外線吸収性膜の膜厚について、下記の基準に従って、膜厚の評価を行った。
【0202】
◎:近赤外線吸収性膜の膜厚が、300μm未満である
○:近赤外線吸収性膜の膜厚が、300μm以上、500μm未満である
×:近赤外線吸収性膜の膜厚が、500μm以上である
以上により得られた結果を、表VIに示す。
【0203】
【表6】
表VIに記載の結果より明らかなように、本発明の近赤外線吸収性組成物は、比較例に対し、本発明に係る例示化合物を用いることにより、分光特性に優れており、可視部域(500nm及び600nm)での透過率が高く、近赤外領域(700nm)の透過率が低い、優れた近赤外光のカット能力を有していることがわかる。加えて、本発明の近赤外線吸収性組成物は、1100nm近傍での近赤外吸収性に優れ、かつ、近赤外線吸収性膜を形成した際に、薄膜化することができることが分かる。
【0204】
また、上記膜厚の評価において、バインダー樹脂としてポリシロキサン構造を有するマトリックス樹脂に代えて、エポキシ基を有するマトリックス樹脂を用いても同様の結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0205】
1 カメラモジュール
2、7 接着剤
3 ガラス基板
4 撮像レンズ
5 レンズホルダー
6 遮光兼電磁シールド
8 平坦化層
9 近赤外線吸収性膜(近赤外線カットフィルター)
10 固体撮像素子基板
11 ハンダボール
12 回路基板
13 撮像素子部