(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】車両のブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2019014116
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】大久 千華子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 亜紀菜
(72)【発明者】
【氏名】添田 征洋
(72)【発明者】
【氏名】津田 顕
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107446(JP,A)
【文献】特開2013-135483(JP,A)
【文献】特開2017-159837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキ制御装置であって、
上記車両の全車輪に摩擦ブレーキ力を発生させる摩擦ブレーキ装置と、
上記車両のエンジンと連結された発電機を含み、該発電機の発電作動により上記車両の駆動輪に回生ブレーキ力を発生させる回生ブレーキ装置と、
上記発電機及び上記エンジンと上記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機と、
上記車両の運転者によるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサと、
上記車両の走行中における上記ブレーキペダルセンサによる上記踏み込み量が所定量よりも大きいときに、上記摩擦ブレーキ装置及び上記回生ブレーキ装置を制御して、上記車両のブレーキ制御を行うブレーキ制御部とを備え、
上記自動変速機は、上記車両の走行状態に応じて該自動変速機の変速段を自動的に切り換える自動変速モードと、該車両の運転者の操作により上記変速段を手動で切り換える手動変速モードとに、変速モードが切り換えられる変速機であり、
上記ブレーキ制御部は、上記ブレーキ制御の際、
少なくとも上記踏み込み量に応じて上記車両の目標減速度を設定するとともに、
上記変速モードが上記自動変速モードであるときには、上記車両の減速度が上記目標減速度になるように、上記摩擦ブレーキ装置による上記全車輪の目標摩擦ブレーキ力と上記回生ブレーキ装置による上記駆動輪の目標回生ブレーキ力とを設定して、該摩擦ブレーキ装置及び該回生ブレーキ装置の両方で上記車両を制動させる一方、
上記変速モードが上記手動変速モードであるときには、上記車両の減速度が上記目標減速度になるように、上記摩擦ブレーキ装置による上記全車輪の目標摩擦ブレーキ力を設定して、該摩擦ブレーキ装置のみで上記車両を制動させ、かつ上記発電機を発電作動させない
ように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両のブレーキ制御装置において、
上記発電機は、上記エンジンを介して上記自動変速機と連結されていることを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両のブレーキ制御装置において、
上記ブレーキ制御部は、上記摩擦ブレーキ装置及び上記回生ブレーキ装置の両方で上記車両を制動させているときに、上記変速モードが上記自動変速モードから上記手動変速モードに切り換えられたときには、上記摩擦ブレーキ装置のみで上記車両を制動させ、かつ上記発電機を発電作動させないように構成されていることを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンとモータジェネレータとを備えたハイブリッド車両はよく知られている。例えば特許文献1では、車両の運転者の操作により自動変速機の変速段を手動で切り換えることを可能にした(マニュアルシフト操作が実行可能に構成された)ハイブリッド車両が開示されている。この特許文献1のハイブリッド車両では、車両の減速走行時に、モータジェネレータの発電作動により駆動輪に回生ブレーキ力を発生させるとともに、マニュアルシフト操作が実行可能な条件下にある場合には、回生トルクの上限値を、マニュアルシフト操作によるシフトダウンの実行に先立って、通常時の回生トルクの上限値(通常時回生制限値)よりも低く規定しておいて、シフトダウンが実行された場合に回生トルクを通常時回生制限値を超えない範囲で増大させることができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成では、マニュアルシフト操作によるシフトダウンが実行された場合において回生トルクは通常時回生制限値を超えることができないので、回生トルクの増大には限界がある。しかも、バッテリを保護するために、バッテリの残存容量(SOC)によっては、通常時回生制限値自体が小さくなる場合もある。このため、運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現することができない可能性が高くなる。さらに、回生トルクを増加させることができたとしても、回生トルクを急激に増加させることは困難であるため、運転者がシフトダウン操作を行っても、直ぐには運転者の減速意図を実現することができない。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摩擦ブレーキ装置と、回生ブレーキ装置と、変速モードが自動変速モードと手動変速モードとに切り換えられる自動変速機とが設けられた車両の減速走行時に、手動変速モードでは車両の運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現するとともに、自動変速モードでは回生ブレーキ装置による回生量を出来る限り多くすることが可能な車両のブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明では、車両のブレーキ制御装置を対象として、上記車両の全車輪に摩擦ブレーキ力を発生させる摩擦ブレーキ装置と、上記車両のエンジンと連結された発電機を含み、該発電機の発電作動により上記車両の駆動輪に回生ブレーキ力を発生させる回生ブレーキ装置と、上記発電機及び上記エンジンと上記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機と、上記車両の運転者によるブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサと、上記車両の走行中における上記ブレーキペダルセンサによる上記踏み込み量が所定量よりも大きいときに、上記摩擦ブレーキ装置及び上記回生ブレーキ装置を制御して、上記車両のブレーキ制御を行うブレーキ制御部とを備え、上記自動変速機は、上記車両の走行状態に応じて該自動変速機の変速段を自動的に切り換える自動変速モードと、該車両の運転者の操作により上記変速段を手動で切り換える手動変速モードとに、変速モードが切り換えられる変速機であり、上記ブレーキ制御部は、上記ブレーキ制御の際、少なくとも上記踏み込み量に応じて上記車両の目標減速度を設定するとともに、上記変速モードが上記自動変速モードであるときには、上記車両の減速度が上記目標減速度になるように、上記摩擦ブレーキ装置による上記全車輪の目標摩擦ブレーキ力と上記回生ブレーキ装置による上記駆動輪の目標回生ブレーキ力とを設定して、該摩擦ブレーキ装置及び該回生ブレーキ装置の両方で上記車両を制動させる一方、上記変速モードが上記手動変速モードであるときには、上記車両の減速度が上記目標減速度になるように、上記摩擦ブレーキ装置による上記全車輪の目標摩擦ブレーキ力を設定して、該摩擦ブレーキ装置のみで上記車両を制動させ、かつ上記発電機を発電作動させないように構成されている、という構成とした。
【0007】
上記の構成により、ブレーキ制御の際、変速モードが手動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置のみで車両を制動させるので、回生ブレーキ装置が設けられていない通常の車両と同様に、エンジンブレーキを利用して、車両の運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現することができるようになる。
【0008】
一方、ブレーキ制御の際、変速モードが自動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置及び回生ブレーキ装置の両方で車両を制動させることで、回生ブレーキ装置による回生量を出来る限り多くすることができる。そして、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて車両の目標減速度を設定して、車両の減速度が目標減速度になるように、目標摩擦ブレーキ力と目標回生ブレーキ力とを設定して、摩擦ブレーキ力と回生ブレーキ力とを合わせたトータルブレーキ力でもって車両の減速度が目標減速度になるようにすることができるので、目標減速度が変化しない状態で回生ブレーキ力が変化しても、トータルブレーキ力は変化しないようにすることができ、よって、回生ブレーキ力が変化しても問題は生じない。
【0009】
上記車両のブレーキ制御装置において、上記発電機は、上記エンジンを介して上記自動変速機と連結されている、ことが好ましい。
【0010】
このことにより、回生ブレーキ装置(特に発電機)及びエンジンのレイアウト性を向上させることができる。
【0011】
上記車両のブレーキ制御装置の一実施形態において、上記ブレーキ制御部は、上記摩擦ブレーキ装置及び上記回生ブレーキ装置の両方で上記車両を制動させているときに、上記変速モードが上記自動変速モードから上記手動変速モードに切り換えられたときには、上記摩擦ブレーキ装置のみで上記車両を制動させ、かつ上記発電機を発電作動させないように構成されている。
【0012】
このことで、摩擦ブレーキ装置及び回生ブレーキ装置の両方で車両を制動させているときに、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに切り換えられたときにも、車両の運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現することができるようになる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の車両のブレーキ制御装置によると、ブレーキ制御の際、少なくともブレーキペダルの踏み込み量に応じて車両の目標減速度を設定するとともに、自動変速機の変速モードが自動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置及び回生ブレーキ装置の両方で上記車両を制動させる一方、上記変速モードが手動変速モードであるときには、上記摩擦ブレーキ装置のみで上記車両を制動させ、かつ発電機を発電作動させないようにしたことにより、車両の減速走行時に、手動変速モードでは車両の運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現することができるとともに、自動変速モードでは回生ブレーキ装置による回生量を出来る限り多くすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置が搭載された車両の概略構成を示す図である。
【
図2】シフトレバー及びガイド部材を示す斜視図である。
【
図3】ブレーキ制御装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図5】変速モードが自動変速モードであるときにおいて、ブレーキペダルの踏み込み量が所定量を超えた時点からの目標摩擦ブレーキ力及び目標回生ブレーキ力の変化を示す図である。
【
図6】変速モードが手動変速モードであるときにおいて、ブレーキペダルの踏み込み量が所定量を超えた時点からの目標摩擦ブレーキ力の変化を示す図である。
【
図7】ブレーキ協調制御の実行中に、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに切り換えられたときにおける
図5相当図である。
【
図8】ブレーキコントロールユニットによるブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置が搭載された車両1の概略構成を示す。車両1は、エンジン2と、エンジン2と連結されかつエンジン2の駆動を補助する、スタータ及び発電機兼用のモータであるISG3(Integrated Starter-Generator)とを備えるハイブリッド車両である。
【0017】
車両1は、ISG3及びエンジン2と駆動輪8aとの間の動力伝達経路に設けられた自動変速機5を更に備える。この自動変速機5は、トルクコンバータ6を介してエンジン2(詳細には、クランクシャフト2a)からの動力が入力されるようになされている。トルクコンバータ6は、一般的なトルクコンバータであって、エンジン2のクランクシャフト2aに連結されたケースと、該ケース内に固設されたポンプと、該ポンプに対向配置されかつ該ポンプにより作動油を介して駆動されるタービンと、該ポンプと該タービンとの間に介設され、トルク増大作用を行うステータと、上記ケースを介してエンジン2のクランクシャフト2aとタービンとを直結するロックアップクラッチとを有する。上記タービンの回転が自動変速機5に伝達される。
【0018】
自動変速機5は、動力伝達経路を切り換えることで変速段を切り換えるための複数の摩擦締結要素と、これら複数の摩擦締結要素及びロックアップクラッチに油圧を供給する油圧装置80(
図3参照)とを有する。油圧装置80は、油圧供給回路と、油圧供給回路に設けられたソレノイドバルブ等のようなアクチュエータとを含む。該アクチュエータの制御によって、各摩擦締結要素の締結及び解放の制御(つまり、変速制御)と、ロックアップクラッチの締結及び解放の制御とがなされる。
【0019】
ISG3の回転軸3aは、巻掛け伝動機構11を介してクランクシャフト2aにおける自動変速機5とは反対側の端部に連結されている。これにより、ISG3は、エンジン2を介して自動変速機5と連結されることになる。
【0020】
巻掛け伝動機構11は、クランクシャフト2aにおける自動変速機5とは反対側の端部に設けられたプーリ12と、ISG3の回転軸3aの先端部に設けられたプーリ13と、これらのプーリ12,13間に巻き掛けられたベルト14とを有している。巻掛け伝動機構11によって、クランクシャフト2aの回転が回転軸3aに伝達されるか、又は、回転軸3aの回転がクランクシャフト2aに伝達される。
【0021】
エンジン2の駆動力(又は、エンジン2及びISG3の駆動力)は、トルクコンバータ6、自動変速機5及び差動機構7を介して、車両1の全車輪8(本実施形態では、2つの前輪及び2つの後輪)のうちの2つの駆動輪8a(本実施形態では、2つの前輪)に伝達される。尚、
図1では、全車輪8のうち1つの車輪8(ここでは、駆動輪8a)のみを示す。
【0022】
車両1は、全車輪8に摩擦ブレーキ力を発生させる摩擦ブレーキ装置21と、駆動輪8aに回生ブレーキ力を発生させる回生ブレーキ装置31とを更に備える。
【0023】
摩擦ブレーキ装置21は、全車輪8それぞれに設けられたブレーキ機構22と、車両1の運転者が操作するブレーキペダル23と、運転者によるブレーキペダル23の踏み込み操作により、全車輪8のブレーキ機構22に油圧を供給する油圧供給装置24とを有している。油圧供給装置24は、倍力装置25と、マスタシリンダ26と、マスタシリンダ26からブレーキ機構22に供給される油圧の大きさを調整する油圧調整弁27とを含む。摩擦ブレーキ装置21は、運転者によるブレーキペダル23の踏み込み操作により、油圧供給装置24を介してブレーキ機構22に油圧を供給することで、全車輪8に摩擦ブレーキ力を発生させる。
【0024】
回生ブレーキ装置31は、発電機として作動するISG3及び巻掛け伝動機構11を含む。ISG3は、ブレーキペダル23が踏み込まれているとき(車両1の減速走行時)に、発電機として発電作動されて、駆動輪8aに回生ブレーキ力を発生させる。すなわち、駆動輪8aから差動機構7、自動変速機5、トルクコンバータ6及びエンジン2を介してISG3に伝達された運動エネルギを電気エネルギに変換するエネルギ回生が行われる。ISG3で発電された電力は、不図示のバッテリに充電される。こうして該バッテリに充電された電力は、ISG3がモータとして作動する際にISG3に供給される。
【0025】
図2に示すように、車両1には、車両1の運転者が自動変速機5の変速レンジを切り換えるためのシフトレバー41が設けられている。このシフトレバー41の上端部には、運転者が把持するシフトノブ41aが設けられている。
【0026】
シフトレバー41は、ガイド部材42のガイド孔42aによって画定された概略L字状の操作経路に沿って操作されるようになっており、その操作経路上に、Pレンジ位置、Rレンジ位置、Nレンジ位置、Dレンジ位置及びMレンジ位置が設けられている。Pレンジ位置、Rレンジ位置、Nレンジ位置及びDレンジ位置は、車両前側からこの順に車両前後方向に並んでいる。Mレンジ位置は、Dレンジ位置に対して車幅方向の一側に位置しており、シフトレバー41の車幅方向の操作により、Dレンジ位置とMレンジ位置(後述の中立位置)とに切り換えることができるようになっている。
【0027】
Mレンジ位置は、車両前後方向に長いMレンジ操作領域42bを有し、運転者は、該Mレンジ操作領域42bの中央にある中立位置から車両前側又は後側にシフトレバー41を操作することが可能になっている。シフトレバー41は、Mレンジ操作領域42bにおける上記中立位置から外れた位置にあるときには、不図示の付勢手段によって該中立位置に戻るように付勢されており、これにより、シフトレバー41は、Mレンジ位置(Mレンジ操作領域42b)で運転者により操作されていない状態では、常に上記中立位置に位置することになる。
【0028】
図3に示すように、車両1には、摩擦ブレーキ装置21及び回生ブレーキ装置31を制御して、車両1のブレーキ制御を行うブレーキ制御部としてのブレーキコントロールユニット50が設けられている。このブレーキコントロールユニット50は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラ(プロセッサ)である。ブレーキコントロールユニット50は、CPU50a、メモリ50b、入出力バス50c等を備えている。CPU50aは、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリ50bは、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(摩擦ブレーキ装置21や回生ブレーキ装置31等を制御するための制御プログラム)や、後述の目標減速度マップを含むデータ等が格納されている。RAMは、CPU50aが一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バス50cは、ブレーキコントロールユニット50に対して電気信号の入出力をするものである。
【0029】
また、車両1には、エンジン2の作動を制御するエンジンコントロールユニット70と、ISG3の作動を制御するISGコントロールユニット71と、自動変速機5の変速制御を行う変速コントロールユニット72とが設けられている。エンジンコントロールユニット70、ISGコントロールユニット71及び変速コントロールユニット72は、ブレーキコントロールユニット50と同様の構成のコントローラ(プロセッサ)である。尚、ブレーキコントロールユニット50、エンジンコントロールユニット70、ISGコントロールユニット71及び変速コントロールユニット72のうちの少なくとも2つを、1つのコントローラで構成することも可能である。
【0030】
ブレーキコントロールユニット50には、車両1の運転者によるブレーキペダル23の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ51からの信号と、車両1の車速を検出する車速センサ52からの信号と、上記バッテリの電圧を検出するバッテリ電圧センサ54からの信号と、上記バッテリに出入りする電流値を検出するバッテリ電流センサ55からの信号とが入力されるようになっている。また、ブレーキコントロールユニット50は、変速コントロールユニット72に対して必要な情報の遣り取りを行う。
【0031】
ブレーキコントロールユニット50は、メモリ50bの上記ROMに記憶されているコンピュータプログラムに従って、入力された信号をCPU50aで処理して、摩擦ブレーキ装置21及び回生ブレーキ装置31を制御する。
【0032】
変速コントロールユニット72には、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ58からの信号と、シフトレバー41のレンジ位置を検出するレンジ位置センサ59からの信号と、後述のシフトダウンスイッチ60からの信号と、後述のシフトアップスイッチ61からの信号とが入力される。また、変速コントロールユニット72には、ブレーキコントロールユニット50を介して車速センサ52からの信号が入力される。尚、変速コントロールユニット72に車速センサ52からの信号が直接入力されるようにしてもよい。
【0033】
本実施形態では、自動変速機5は、車両1の走行状態に応じて自動変速機5の変速段を自動的に切り換える自動変速モードと、車両1の運転者の操作により上記変速段を手動で切り換える手動変速モードとに、変速モードが切り換えられる変速機である。
【0034】
上記のようにシフトレバー41のレンジ位置として、運転者が上記自動変速モードを選択するためのDレンジ位置と、上記手動変速モードを選択するためのMレンジ位置とが設定されており、運転者は、シフトレバー41の操作により上記自動変速モードと上記手動変速モードとを自由に選択することができる。
【0035】
そして、運転者がシフトレバー41をMレンジ操作領域42bにおける上記中立位置から車両前側に操作する(シフトダウン操作する)ことで、自動変速機5の変速段を、該操作の直前に設定された変速段(現時点の変速段)からシフトダウンすることが可能であり、運転者がシフトレバー41を上記中立位置から車両後側に操作する(シフトアップ操作)ことで、自動変速機5の変速段を、該操作の直前に設定された変速段(現時点の変速段)からシフトアップすることが可能になっている。このようにシフトレバー41は、手動変速操作部材としての役割も有している。
【0036】
ガイド部材42におけるMレンジ操作領域42bの車両前側及び後側には、該Mレンジ操作領域42bの前端及び後端をそれぞれ画定する前側ストッパ部材43及び後側ストッパ部材44がそれぞれ設けられている。前側ストッパ部材43には、運転者のシフトダウン操作を検出するシフトダウンスイッチ60(
図3にのみ記載)が設けられ、後側ストッパ部材44には、運転者のシフトアップ操作を検出するシフトアップスイッチ61(
図3にのみ記載)が設けられている。そして、変速コントロールユニット72は、運転者のシフトダウン操作によりシフトダウンスイッチ60が1回ONになると、自動変速機5の変速段を、該シフトダウン操作の直前に設定された変速段から1段シフトダウンし、運転者のシフトアップ操作によりシフトアップスイッチ61が1回ONになると、自動変速機5の変速段を、該シフトアップ操作の直前に設定された変速段から1段シフトアップする。
【0037】
尚、シフトダウンスイッチ60及びシフトアップスイッチ61に加えて、車両1のステアリングホイールに、シフトダウン操作部材及びシフトアップ操作部材、並びに、該シフトダウン操作部材及びシフトアップ操作部材の操作によりONするシフトダウンスイッチ及びシフトアップスイッチを設けることも可能である。
【0038】
変速コントロールユニット72は、入力された信号に応じて、自動変速機5の油圧装置80(詳細には、上記アクチュエータ)を制御する。例えば、変速コントロールユニット72は、シフトレバー41のレンジ位置がDレンジ位置にあるとき(変速モードが自動変速モードであるとき)には、車両1の走行状態(アクセル開度センサ58により検出されたアクセル開度及び車速センサ52により検出された車速)から、変速コントロールユニット72のメモリのROMに予め記憶した変速マップを用いて変速段を決定して、その決定した変速段になるように、油圧装置80を制御する。
【0039】
一方、変速コントロールユニット72は、シフトレバー41のレンジ位置がMレンジ位置にあるとき(変速モードが手動変速モードであるとき)には、シフトダウンスイッチ60及びシフトアップスイッチ61からの信号に応じて変速段を決定して、その決定した変速段になるように、油圧装置80を制御する。
【0040】
また、変速コントロールユニット72は、変速モードが自動変速モードであることを示す自動変速モード信号、又は、変速モードが手動変速モードであることを示す手動変速モード信号をブレーキコントロールユニット50に出力する。
【0041】
さらに、変速コントロールユニット72は、車両1の減速走行時において、変速モードが自動変速モードであるときには、その減速に応じて自動でシフトダウン変速を行う一方、変速モードが手動変速モードであるときには、運転者のシフトダウン操作に応じてシフトダウン変速を行う。
【0042】
ブレーキコントロールユニット50は、車両1の走行中(車速センサ53による車速が0よりも大きいとき)におけるブレーキペダルセンサ51によるブレーキペダル23の踏み込み量が所定量(遊び程度の量)よりも大きいとき(つまり、運転者が車両1を減速させようとするとき)において、ブレーキ制御を行うべく、摩擦ブレーキ装置21(詳細には、本実施形態では、油圧調整弁27)を制御しかつISGコントロールユニット71を介して回生ブレーキ装置31における発電機としてのISG3を制御する。
【0043】
ISGコントロールユニット71は、ブレーキコントロールユニット50がブレーキ制御を行っているときに、ブレーキコントロールユニット50からの指令を受けて、ISGを制御する。一方、ブレーキコントロールユニット50がブレーキ制御を行っていないときには、ISGコントロールユニット71は、ISGコントロールユニット71に入力される種々の入力信号に応じて、ISG3を、モータとして作動させたり、エンジン2により駆動される発電機として作動させたりする。
【0044】
また、ブレーキコントロールユニット50は、ブレーキ制御を行っているときに、エンジンコントロールユニット70を介してエンジン2を制御する。エンジンコントロールユニット70は、ブレーキコントロールユニット50がブレーキ制御を行っているときに、ブレーキコントロールユニット50からの指令を受けて、エンジン2を適切に制御する。一方、ブレーキコントロールユニット50がブレーキ制御を行っていないときには、エンジンコントロールユニット70は、エンジンコントロールユニット70に入力される種々の入力信号(アクセル開度センサ58からの信号等)に応じて、エンジン2を制御する。
【0045】
ブレーキコントロールユニット50は、ブレーキ制御の際、ブレーキペダルセンサ51によるブレーキペダル23の踏み込み量に応じて車両1の目標減速度を設定する。本実施形態では、ブレーキペダル23の踏み込み量から、
図4に示す目標減速度マップを用いて、目標減速度を設定する。すなわち、車両1の目標減速度は、ブレーキペダル23の踏み込み量がα(上記所定量に相当)から大きくなるに連れて大きくなる。尚、車両1の目標減速度を、ブレーキペダル23の踏み込み量に加えて、車速センサ53による車速、自動変速機5の変速段(変速コントロールユニット72から入力する)等も考慮して設定するようにしてもよい。
【0046】
ブレーキコントロールユニット50は、ブレーキ制御の際、変速モードが自動変速モードであるとき(変速コントロールユニット72から自動変速モード信号が入力されているとき)には、車両1の減速度が上記目標減速度になるように、摩擦ブレーキ装置21による全車輪8の目標摩擦ブレーキ力と回生ブレーキ装置31による駆動輪8aの目標回生ブレーキ力(ここでは、0よりも大きい値)とを設定する。上記目標減速度が変化しなければ、目標摩擦ブレーキ力と目標回生ブレーキ力とを合わせたトータル目標ブレーキ力も変化しない。このような摩擦ブレーキ力及び回生ブレーキ力の両方(摩擦ブレーキ装置21及び回生ブレーキ装置31の両方)によるブレーキ制御を、以下、ブレーキ協調制御という。尚、本実施形態では、ブレーキ制御の際、変速モードが自動変速モードであっても、ブレーキ協調制御の実行条件が成立していなければ、ブレーキ協調制御を実行しない。この実行条件としては、本実施形態では、上記バッテリの残存容量が充電可能な値であること、という条件である。
【0047】
ブレーキコントロールユニット50は、
図5に示すように、ブレーキ協調制御の開始からの時間の経過に伴って、目標回生ブレーキ力を徐々に増加させる。これに伴い、ブレーキペダル23が踏み込まれた後に踏み込み量が一定となって上記目標減速度が変化しなければ(つまり、トータル目標ブレーキ力が変化しなければ)、目標摩擦ブレーキ力が徐々に低下することになる。尚、
図5では、ブレーキペダル23の踏み込み量が上記所定量を超えた時点からブレーキ協調制御が開始されている。
【0048】
ブレーキコントロールユニット50は、トータル目標ブレーキ力が減少しない限り、目標回生ブレーキ力を、予め設定された上限値TQまで徐々に増加させる。上限値TQは、トータル目標ブレーキ力、上記バッテリの残存容量(SOC)、ISG3の発電能力等によって設定されるとともに、トータル目標ブレーキ力よりも小さい値でかつ出来る限り大きい値に設定される。上記バッテリの残存容量は、例えば、バッテリ電圧センサ56によるバッテリの電圧と、バッテリ電流センサ57により検出された電流値の履歴とに基づいて求める。
【0049】
ブレーキコントロールユニット50は、目標回生ブレーキ力が上限値TQに達した後、トータル目標ブレーキ力が減少しない限り、目標回生ブレーキ力を上限値TQに維持させる。このとき、トータル目標ブレーキ力が増加すれば、目標摩擦ブレーキ力のみが増加することになる。また、ブレーキコントロールユニット50は、目標回生ブレーキ力が上限値TQに達する前であっても達した後であっても、トータル目標ブレーキ力が減少したときには、目標摩擦ブレーキ力及び目標回生ブレーキ力の両方を減少させる。
【0050】
ブレーキコントロールユニット50は、上記設定された目標摩擦ブレーキ力が全車輪8に発生しかつ上記設定された目標回生ブレーキ力が駆動輪8aに発生するように、油圧調整弁27(全車輪8に供給される油圧)及びISG3(発電量)を制御する。
【0051】
このようにブレーキコントロールユニット50は、変速モードが自動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置21及び回生ブレーキ装置31の両方(摩擦ブレーキ力及び回生ブレーキ力の両方)で車両1を制動させる。
【0052】
一方、ブレーキコントロールユニット50は、ブレーキ制御の際、変速モードが手動変速モードであるとき(変速コントロールユニット72から手動変速モード信号が入力されているとき)には、車両1の減速度が上記目標減速度になるように、目標摩擦ブレーキ力を設定する。この場合、
図6に示すように、目標摩擦ブレーキ力が上記トータル目標ブレーキ力に相当する値になる。尚、
図6では、ブレーキペダル23の踏み込み量が上記所定量を超えた時点から摩擦ブレーキ力のみによるブレーキ制御が開始されている。
【0053】
ブレーキコントロールユニット50は、ブレーキ制御の際、変速モードが手動変速モードであるときには、上記設定された目標摩擦ブレーキ力が全車輪8に発生するように、油圧調整弁27(全車輪8に供給される油圧)を制御する。このとき、ブレーキコントロールユニット50は、目標回生ブレーキ力を0に設定しかつISG3を発電作動させないようにする。このようにブレーキコントロールユニット50は、変速モードが手動変速モードであるときには、ブレーキ協調制御を実行せず、摩擦ブレーキ力のみによりブレーキ制御を行う(摩擦ブレーキ装置21のみで車両1を制動させる)。
【0054】
また、ブレーキコントロールユニット50は、
図7に示すように、ブレーキ協調制御の実行中、変速モードが自動変速モードから手動変速モードに切り換えられたとき(t1の時点)には、ISG3の発電作動(回生作動)を停止する(目標回生ブレーキ力を0に設定する)とともに、車両1の減速度が上記目標減速度になるように、目標摩擦ブレーキ力を再設定して、該設定された目標摩擦ブレーキ力が全車輪8に発生するように、油圧調整弁27を制御する(すなわち、ブレーキ協調制御を実行せずに摩擦ブレーキ力のみによりブレーキ制御を行う)。尚、
図7では、目標回生ブレーキ力を0に設定した後も目標減速度が変化しないので、再設定した目標摩擦ブレーキ力は、目標回生ブレーキ力を0に設定する前のトータル目標ブレーキ力と同じ値になる。
【0055】
次に、
図8のフローチャートにより、ブレーキコントロールユニット50によるブレーキ制御処理について説明する。このブレーキ制御処理は、ブレーキペダル23の踏み込み量が上記所定量を超えた時点から開始する。尚、ここでは、目標摩擦ブレーキ力及び目標回生ブレーキ力を設定する処理は省略している。
【0056】
最初のステップS1で、ブレーキ協調制御の実行条件が成立しているか否か(上記バッテリの残存容量が上記最大値以下であるか否か)を判定する。
【0057】
ステップS1の判定がNOであるときには、ステップS2に進んで、摩擦ブレーキ力のみによるブレーキ制御を実行し、次のステップS3で、ブレーキ制御の終了条件が成立したか否かを判定する。この終了条件は、車両1が停止すること、又は、ブレーキペダル23の踏み込み量が上記所定量以下に低下すること、という条件である。
【0058】
ステップS3の判定がNOであるときには、上記ステップS1に戻り、ステップS3の判定がYESであるときには、ブレーキ制御処理を終了する。
【0059】
ステップS1の判定がYESであるときには、ステップS4に進んで、変速モードが手動変速モードであるか否かを判定する。このステップS4の判定がYESであるときには、上記ステップS2に進む一方、ステップS4の判定がNOであるときには、ステップS5に進んで、ブレーキ協調制御を実行する。
【0060】
ステップS5の次のステップS6では、変速モードが手動変速モードであるか否かを判定し、ステップS6の判定がYESであるときには、上記ステップS2に進む一方、ステップS6の判定がNOであるときには、ステップS7に進む。
【0061】
上記ステップS7では、ブレーキ協調制御の実行条件(上記ステップS1の実行条件と同じ)が成立しているか否かを判定し、このステップS7の判定がNOであるときには、上記ステップS2に進む一方、ステップS7の判定がYESであるときには、ステップS8に進む。
【0062】
上記ステップS8では、ブレーキ制御の終了条件(上記ステップS3の終了条件と同じ)が成立したか否かを判定し、ステップS8の判定がNOであるときには、上記ステップS5に戻る一方、ステップS7の判定がYESであるときには、ブレーキ制御処理を終了する。
【0063】
したがって、本実施形態では、ブレーキコントロールユニット50によるブレーキ制御の際、変速モードが手動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置21(摩擦ブレーキ力)のみで車両1を制動させるので、回生ブレーキ装置31が設けられていない通常の車両と同様に、エンジンブレーキを利用して、車両1の運転者のシフトダウン操作による減速意図を実現することができるようになる。
【0064】
一方、ブレーキ制御の際、変速モードが自動変速モードであるときには、摩擦ブレーキ装置21及び回生ブレーキ装置31の両方で車両1を制動させることで、回生ブレーキ装置31による回生量を出来る限り多くすることができる。そして、ブレーキペダル23の踏み込み量に応じて車両1の目標減速度を設定して、車両1の減速度が目標減速度になるように、目標摩擦ブレーキ力と目標回生ブレーキ力とを設定を設定して、摩擦ブレーキ力と回生ブレーキ力とを合わせたトータルブレーキ力でもって車両の減速度が目標減速度になるようにすることができるので、目標減速度が変化しない状態で回生ブレーキ力が例えば増加しても、その分だけ摩擦ブレーキ力を減少させてトータルブレーキ力は変化しないようにすることができ、よって、回生ブレーキ力が変化しても問題は生じない。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0066】
例えば、上記実施形態では、エンジン2のクランクシャフト2aにおける自動変速機5とは反対側の端部にISG3が連結されている(ISG3がエンジン2を介して自動変速機5と連結されている)が、エンジン2がISG3を介して自動変速機5と連結されていてもよい。
【0067】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両の全車輪に摩擦ブレーキ力を発生させる摩擦ブレーキ装置と、上記車両のエンジンと連結された発電機を含み、該発電機の発電作動により上記車両の駆動輪に回生ブレーキ力を発生させる回生ブレーキ装置と、上記発電機及び上記エンジンと上記駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機とを備えた、車両のブレーキ制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 車両
2 エンジン
3 ISG(回生ブレーキ装置の発電機)
5 自動変速機
8 車輪
8a 駆動輪
21 摩擦ブレーキ装置
23 ブレーキペダル
31 回生ブレーキ装置
50 ブレーキコントロールユニット(ブレーキ制御部)
51 ブレーキペダルセンサ