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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】手足症候群の予防または改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4172 20060101AFI20220712BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K31/4172
A61K9/08
A61P17/00
A61P25/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019543685
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034710
(87)【国際公開番号】W WO2019059246
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017181783
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】上村 顕也
(72)【発明者】
【氏名】寺井 崇二
(72)【発明者】
【氏名】野沢 与志津
(72)【発明者】
【氏名】小山 直人
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】癌と化学療法,2016年,第43巻,第4号,第463-465頁
【文献】肝臓,2016年,Vol.57, suppl.1,A218, Abstract No. O-121
【文献】Physiology & Behavior,2008年,Vol.93,pp.267-273
【文献】Physiology & Behavior,1991年,Vol.49,pp.863-868
【文献】Trace Nutrients Research,2004年,Vol.23,pp.93-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスチジンを含有する、手足症候群の予防または改善用組成物であって、組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合が少なくとも80重量%である組成物
【請求項2】
ヒスチジンを1日摂取量として0.8g~5g含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合が10重量%~100重量%である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ヒスチジンを3w/v%~20w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
経口用組成物である、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手足症候群の予防または改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
手足症候群(hand-foot syndrome)(以下、HFSともいう)は、フルオロウラシル、カペシタビンなどのフッ化ピリミジン系薬剤、ソラフェニブ、スニチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬等により発症する副作用である。手足に起こる、しびれ、皮膚知覚過敏、感覚異常、無痛性腫脹、無痛性紅斑、色素沈着が初発症状となる。進行すると疼痛を伴う発赤、腫脹、潰瘍やびらんが生じ、歩行困難や物をつかめないなどの機能障害を生じる。爪甲の変形、色素沈着を伴うこともある。
【0003】
分子標的薬であるソラフェニブは、局所制御が困難な肝細胞癌の患者に対して、生命予後の延長を期待できる薬剤である。しかし、その主たる副作用であるHFSは、ソラフェニブ投与症例の多くの患者に発症する(非特許文献1)。HFSの予防と軽減は患者の生活の質(QOL)を維持し予後改善に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hepatol Res 42(6):523-542, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HFSは患者のQOLを低下させ、投薬の継続が困難になるなど、治療に対して大きな影響を与える。本発明の目的は、HFSの予防または改善に有用な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはこれまでに、HFS発症患者で末梢血管の血流量速度低下により末梢血流量が低下することを、末梢血管のドップラエコー、サーモグラフィーの変化により実証した。
【0007】
また、本発明者らは、ソラフェニブの血管面積に対する影響について、ソラフェニブ内服患者を対象として、肝動脈を含む各種血管の内服前後の血管面積の変化を、造影CTを用いて解析した。その結果、脾動脈、左肝動脈および門脈でソラフェニブ投与後の血管面積に有意な減少を認めた。
【0008】
さらに、本発明者らは、血管壁で緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)を発現し、血管を可視化できるトランスジェニックメダカ(Fli-GFPメダカ)の尾ひれ血管を一部切断したモデルを対象として、ソラフェニブ含有水槽で飼育した際の尾ひれの既存血管および切断部分の血管の再生過程を、血管面積の変化を経時的に測定することにより解析した。その結果、ソラフェニブ含有水槽で飼育したFli-GFPメダカは、既存血管および再生血管において、ソラフェニブの濃度依存的な血管面積の減少傾向を認めた。
【0009】
ソラフェニブ投与後に、ヒトの血管面積およびメダカの尾ひれ血管面積が減少することから、HFSの発症に関わる末梢血流量低下の機序に、血管面積減少が関与することが示唆され、HFS発症の予測に血管面積測定が有用と考えられた。
【0010】
本発明者らは、HFSの予防または改善に有用な物質を鋭意検討した結果、ヒスチジンが、ソラフェニブの投与に起因する既存血管面積減少を抑制する効果を有し、手足症候群の予防または改善に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下に示す通りである。
[1] ヒスチジンを含有する、手足症候群の予防または改善用組成物。
[2] ヒスチジンを1日摂取量として0.8g~5g含有する、[1]に記載の組成物。
[3] 組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合が少なくとも80重量%である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合が10重量%~100重量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] ヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] ヒスチジンを3w/v%~20w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[7] 経口用組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 手足症候群の予防または改善を必要とする哺乳動物に、有効量のヒスチジンを含有する組成物を投与することを含む、該哺乳動物における手足症候群の予防または改善方法。
[9] 組成物がヒスチジンを1日摂取量として0.8g~5g含有する、[8]に記載の方法。
[10] 組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合が少なくとも80重量%である、[8]または[9]に記載の方法。
[11] 組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合が10重量%~100重量%である、[8]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 組成物がヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[8]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13] 組成物がヒスチジンを3w/v%~20w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[8]~[11]のいずれかに記載の方法。
[14] 組成物が該哺乳動物に経口投与される、[8]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 手足症候群の予防または改善における使用のための、ヒスチジンを含有する組成物。
[16] ヒスチジンを1日摂取量として0.8g~5g含有する、[15]に記載の組成物。
[17] 組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合が少なくとも80重量%である、[15]または[16]に記載の組成物。
[18] 組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合が10重量%~100重量%である、[15]~[17]のいずれかに記載の組成物。
[19] ヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[15]~[18]のいずれかに記載の組成物。
[20] ヒスチジンを3w/v%~20w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[15]~[18]のいずれかに記載の組成物。
[21] 経口用組成物である、[15]~[20]のいずれかに記載の組成物。
[22] 手足症候群の予防または改善用組成物を製造するためのヒスチジンの使用。
[23] 組成物がヒスチジンを1日摂取量として0.8g~5g含有する、[22]に記載の使用。
[24] 組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合が少なくとも80重量%である、[22]または[23]に記載の使用。
[25] 組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合が10重量%~100重量%である、[22]~[24]のいずれかに記載の使用。
[26] 組成物がヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[22]~[25]のいずれかに記載の使用。
[27] 組成物がヒスチジンを3w/v%~20w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、[22]~[25]のいずれかに記載の使用。
[28] 組成物が経口用組成物である、[22]~[27]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒスチジンを含有する手足症候群の予防または改善用組成物は、抗がん剤の副作用である手足症候群を予防または改善し得る。本発明の組成物は、その有効成分がアミノ酸であることから、副作用を生じるおそれが少ないという点で安全性に優れている。また、高濃度のヒスチジンを含有する本発明の組成物により、少量で高用量のヒスチジンを摂取することが可能である。経口摂取に適した、安全性に優れた食品、サプリメント、医薬品等の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、Fli-GFPメダカの尾ひれ下半分を切断したモデルの模式図を示す。
図2図2は、ソラフェニブ(SFN)+ヒスチジン(His)含有水槽における14日後の既存血管面積増減率を示す。
図3A図3Aは、ソラフェニブ(SFN) 0 μg/L+ヒスチジン(His)各種濃度含有水槽における再生血管面積増加率を示す。
図3B図3Bは、ソラフェニブ(SFN) 75 μg/L+ヒスチジン(His)各種濃度含有水槽における再生血管面積増加率を示す。
図3C図3Cは、ソラフェニブ(SFN) 150 μg/L+ヒスチジン(His)各種濃度含有水槽における再生血管面積増加率を示す。
図3D図3Dは、ソラフェニブ(SFN) 300 μg/L+ヒスチジン(His)各種濃度含有水槽における再生血管面積増加率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明におけるヒスチジンは、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは化学合成法、発酵法、酵素法または遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。またヒスチジンは、L-体、D-体又はDL-体のいずれも使用することができるが、L-体が好適に使用される。
【0016】
本発明において用いられるヒスチジンは、塩の形態であってもよい。塩の形態としては、酸付加塩や塩基との塩等を挙げることができ、薬理学的に許容される塩を選択することが好ましい。そのような塩としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩が挙げられる。
無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。
無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウムとの塩等が挙げられる。
有機塩基との塩としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等との塩が挙げられる。
【0017】
本明細書中では、ヒスチジン又はその塩を「ヒスチジン」と総称する。
【0018】
本発明において、対象となる手足症候群は、抗がん剤投与に起因するものである。手足症候群は、手掌・足底発赤知覚症候群、肢端紅斑、化学療法薬誘導性肢端紅斑、手掌・足底紅斑、手足皮膚反応としても知られているが、本発明において、手足症候群という用語はこれら全てを含む。
【0019】
本発明において、抗がん剤としては、フルオロウラシル、カペシタビン、テガフール・ウラシル配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、レボホリナートカルシウム、ドキソルビシンリポソーム注射剤、ドセタキセル、オキサリプラチン、ベバシズマブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、レゴラフェニブ、エベロリムス、レンバチニブなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施態様において、手足症候群は、分子標的薬の投与に起因する手足症候群である。分子標的薬としては、ベバシズマブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、ニロチニブ、ラパチニブ、レゴラフェニブ、エベロリムス、レンバチニブなどが挙げられる。分子標的薬として、好ましくはソラフェニブまたはスニチニブであり、特に好ましくはソラフェニブである。
【0020】
本発明の組成物の適用対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類およびウサギなどの実験動物、イヌおよびネコなどのペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ及びニワトリなどの家畜及び家禽、サル、オランウータン及びチンパンジーなどの霊長類並びにヒトなどが挙げられ、特にヒトが好ましい。
【0021】
本発明の組成物は、医薬品、食品として提供され得る。本明細書において、食品とは、経口摂取し得るものを広く包含する概念であり、所謂「食べ物」のみならず飲料、健康補助食品、保健機能食品、サプリメント等を含む。
【0022】
本発明の組成物の形態は特に限定されず、粉末状、錠剤、顆粒状、スラリー状、カプセル状、溶液状、ゼリー状、乳液状などの固形又は半固形、あるいは液状であり得る。
【0023】
本発明の組成物は容器詰された形態(容器詰組成物)であってもよい。容器詰組成物は、所望の容器に本発明の組成物を注入、充填等して製造することができる。容器詰組成物の具体的な実施形態としては、例えば、容器詰飲料等が挙げられる。容器詰飲料の「容器」としては、例えば、アルミ缶、スチール缶、ガラス瓶、ペットボトル等が挙げられる。また容器詰飲料の「飲料」としては、例えば、茶飲料(例、緑茶、烏龍茶、紅茶等)、清涼飲料(例、アイソトニック飲料、ミネラルウォーター、コーヒー飲料等)、ジュース(例、果汁ジュース、野菜ジュース等)等の飲料、液体サプリメント等が挙げられる。
【0024】
本発明の組成物は、より摂取しやすい形態とすること等を目的として種々の添加物または医薬的に許容される担体を配合することができる。具体的には矯味剤、香料、賦形剤、滑沢剤、ゲル化剤、果汁、各種ビタミン類、油脂類、乳及び乳製品、ガムベース、乳化剤、軟化剤、可塑剤、増粘剤、保存剤、水、炭酸水等が挙げられ、任意のものを利用することができる。矯味剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸及びこれらの塩等の酸味料や、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、グリチルリチン酸、ソーマチン、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、エリスリトール、砂糖、マンニトール、ソルビトール、アドバンテーム等の甘味料(高甘味度甘味料を含む)、ココアリカー等が挙げられる。香料としては、例えば、L-メントール等の合成香料化合物、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等の柑橘類精油、花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油等の植物精油、ペパーミント香料、ワニラ香料、チェリー香料、オレンジ香料等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。ゲル化剤としては、例えば寒天、ゼラチン等が挙げられる。果汁としては、例えば、レモン果汁、オレンジ果汁、グレープ果汁等が挙げられる。各種ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB群(例、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド等)、ビタミンC、ビタミンE等が挙げられる。油脂類としては、例えば、SOS型油脂等が挙げられる。乳及び乳製品としては、生乳、牛乳、バター、ココアバター、チーズ、全脂粉乳、脱脂粉乳等が挙げられる。乳化剤としては、例えば、モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル等が挙げられる。軟化剤としては、例えば、グリセリン等が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ゼラチン等が挙げられる。保存剤としては、安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物の剤形は特に制限されないが、経口用の剤形が好ましい。経口用の剤形としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、エリキシル剤、シロップ剤、マイクロカプセル剤、ドリンク剤、乳剤、懸濁液剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は、経口用の剤形である場合、例えば、トラガント、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン、高分子ポリビニルピロリドン等の結合剤;セルロース及びその誘導体(例、微晶性セルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等の賦形剤;コーンスターチ、前ゼラチン化デンプン、アルギン酸、デキストリン等の膨化剤;ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;微粒二酸化ケイ素、メチルセルロース等の流動性改善剤;グリセリン脂肪酸エステル、タルク、ポリエチレングリコール6000等の滑沢剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ゼラチン等の増粘剤;アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸及びこれらの塩等の酸味料;アスパルテーム、ステビア、スクラロース、グリチルリチン酸、ソーマチン、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、エリスリトール、砂糖、マンニトール、ソルビトール、アドバンテーム等の甘味料(高甘味度甘味料を含む);ペパーミントフレーバー、ワニラフレーバー、チェリーフレーバー、オレンジフレーバー等の香料;モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル等の乳化剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、ゼラチン等の増粘剤;アスパルテーム、カンゾウエキス、サッカリン等の嬌味剤;エリソルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;安息香酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等の保存剤;ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、カルミン、食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色2号、紅花色素等の着色剤;油脂;ビタミンC、ビタミンA、ビタミンE、各種ポリフェノール、ヒロドキシチオソール、抗酸化アミノ酸等の抗酸化剤;シェラック、砂糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリアセチン等の被覆剤;ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類;各種アミノ酸類等を含有してよい。
【0027】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されず、本発明の組成物は自体公知の方法により製造できる。
【0028】
本発明の組成物は、ヒスチジンを1日摂取量(経口摂取)として0.8g~5g含有することが好ましい。ヒスチジンの含有量は、好適な効果の発現の観点から、1日摂取量として、より好ましくは1g~5g、更に好ましく1.5g~5g、特に好ましくは1.5g~4gである。
【0029】
本発明において、ヒスチジンを「1日摂取量として」特定量(例えば、0.8g~5g等)含有する組成物とは、当該組成物の1日当たりに摂取されるヒスチジンの量が、予め特定量(例えば、0.8g~5g等)に定められている組成物をいう。当該組成物の形態としては、例えば、1日摂取量当たりの単位包装形態とすることにより1日摂取量を規定する形態や、容器又は包装等に1日摂取量やその摂取方法を表示することにより1日摂取量を規定する形態等が挙げられる。
【0030】
本明細書中に記載の1日摂取量(経口摂取)は、特にことわりのない限り、ヒト(好ましくは、成人)の1日摂取量である。
【0031】
本発明の組成物の1日当たりの摂取回数は、好ましくは1回から3回であり、より好ましくは1回から2回であり、更に好ましくは1回である。
【0032】
本発明の組成物において、組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合は少なくとも80重量%であることが好ましい。ここで、組成物中の全アミノ酸量とは、組成物中の蛋白質、ペプチドおよび遊離アミノ酸の合計量を意味する。組成物中の全アミノ酸量に対するヒスチジンの割合は、好適な効果の発現の観点から、より好ましくは少なくとも90重量%であり、更に好ましくは少なくとも95重量%であり、特に好ましくは少なくとも99重量%である。
【0033】
本発明の組成物において、組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合は10重量%~100重量%であることが好ましい。組成物中の固形成分に対するヒスチジンの割合は、好適な効果の発現の観点から、20重量%~100重量%、より好ましくは30重量%~100重量%であり、50重量%~100重量%、更に好ましくは75重量%~100重量%である。
【0034】
本発明の一実施態様として、ヒスチジンを少なくとも3w/v%の濃度で含有する水性液体組成物である、手足症候群の予防または改善用組成物が提供される。
【0035】
本発明において、水性液体組成物における水性液体とは、水を含む液体を意味し、水のみよりなる液体の他、水を主成分とし他の溶媒を含むものを包含する概念である。例えば、水、含アルコール水等が例示され、通常水を50~100重量%含有するものである。
【0036】
本発明の水性液体組成物に含まれるヒスチジンの濃度は、少なくとも3w/v%であり、好ましくは少なくとも5w/v%であり、より好ましくは少なくとも6w/v%である。本発明の水性液体組成物に含まれるヒスチジンの濃度範囲は、好ましくは3w/v%~20w/v%、より好ましくは5w/v%~15w/v%、更に好ましくは6w/v%~10w/v%である。高濃度のヒスチジンを含有する水性液体組成物により、少量で高用量のヒスチジンを摂取することが可能である。
【0037】
本発明の水性液体組成物は、必要に応じて、ヒスチジン以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、酸味料、飲食品、医薬品等の製造に際して通常使用される原料が挙げられ、特に制限されないが、例えば、酸味料、ビタミン類、増粘剤、甘味料、矯味剤、保存剤、香料、賦形剤、安定化剤、着色剤等が挙げられる。
【0038】
酸味料の例としては、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸等の有機酸またはその塩が挙げられる。
【0039】
ビタミン類の例としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB群(例、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド等)、ビタミンC、ビタミンE等が挙げられる。
【0040】
増粘剤の例としては、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、トラガント末、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の高分子が挙げられる。
【0041】
甘味料の例としては、ブドウ糖、果糖、転化糖、ソルビトール、キシリトール、グリセリン、単シロップなどが挙げられる。また他の成分の含有量を減らして高濃度でヒスチジンを提供するため、高甘味度甘味料を用いることもできる。高甘味度甘味料としては、例えば、アスパルテーム(α-L-アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル)、アセスルファムK(6-メチル-1,2,3-オキサチアジン-4(3H)-オン-2,2-ジオキシドカリウム)、スクラロース(4,1,6-トリクロロガラクトスクロース)、アドバンテーム、グリチルリチン、ソーマチン、モネリンなどが挙げられる。
【0042】
矯味剤の例としては、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、アセスルファムK、マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、カカオ末などが挙げられる。
【0043】
保存剤の例としては、安息香酸ナトリウム、中鎖脂肪酸モノグリセライド、グリシン、エタノールなどが挙げられる。
【0044】
香料の例としては、レモンフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、チョコレートフレーバー、アップルフレーバー、dl-メントール、l-メントールなどが挙げられる。
【0045】
賦形剤の例としては、アルコール、グリセロール、転化糖、グルコース、植物油、ワックス、脂肪、半固体及び液体ポリオールなどが挙げられる。
【0046】
安定化剤の例としては、酢酸、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。
【0047】
着色剤の例としては、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、カルミン、食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色2号、紅花色素等が挙げられる。
【0048】
本発明の組成物は、手足症候群を発症または再発する前から予防目的で摂取してもよく、手足症候群を発症した後に症状を改善(軽減)する目的で摂取してもよい。
【0049】
本発明の組成物は、手足症候群を起こす可能性のある抗がん剤の投薬開始と同時、抗がん剤の投薬開始前、または抗がん剤の投薬開始後のいずれの時期に摂取を開始してもよい。
【0050】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0051】
以下の試験例において、ヒスチジンとしてL-ヒスチジンを使用した。
【0052】
試験例1
Fli-GFPトランスジェニックメダカを用いたソラフェニブ(以下、SFNともいう)投与時の血管面積変化
血管壁でGFPを発現し、血管を可視化できるトランスジェニックメダカ(Fli-GFPメダカ)の尾ひれ下半分を切断したモデルを対象とした。
【0053】
Fli-GFPメダカの作製
Friend leukemia virus integration(FLI)プロモーターの下流にGFP発現遺伝子を挿入し、血管壁がGFPで光るトランスジェニックメダカを作製した。
【0054】
Fli-GFPメダカの尾ひれ下半分を切断したモデルを、SFN含有水槽またはSFN+ヒスチジン含有水槽で14日間飼育した(各群n=3)。SFN各濃度(0, 75, 150, 300, 600, 2400 μg/L)とヒスチジン各濃度(0, 12, 60 mg/L)を組み合わせ投与した。3, 7, 14日後の尾ひれの血管を、蛍光実体顕微鏡で観察した。Fli-GFPメダカの尾ひれ下半分を切断したモデルの模式図を図1に示す。
既存血管面積変化と再生血管面積変化をImageJ software (version 1.6.0_20, National Institutes of Health, USA)を用いて解析した。
下記の計算式から既存血管面積増減率(%)を求めた。
既存血管面積=全血管面積-再生血管面積
既存血管の増加面積=14日後の既存血管面積-0日の既存血管面積
既存血管面積増減率(%)=(既存血管の増加面積/0日の既存血管面積)×100(%)
結果を図2に示す。値は平均±標準偏差(各群n=3)を示す。 p<0.05、** p<0.01、一元配置分散分析後のボンフェローニの多重比較検定。図2に示すように、SFNの濃度依存的に既存血管面積は有意に減少した。また、ヒスチジンは、SFN投与時の既存血管面積の減少を濃度依存的に有意に軽減した。
SFN+ヒスチジン各種濃度含有水槽における再生血管面積増加率を図3A、3B、3C及び3Dに示す(図3A:SFN 0 μg/L、図3B:SFN 75 μg/L、図3C:SFN 150 μg/L、図3D:SFN 300 μg/L)。値は平均±標準偏差(各群n=3)を示す。N.S. 統計学的な有意差なし。二元配置分散分析後のボンフェローニの多重比較検定。図3A、3B、3C及び3Dに示すように、SFN濃度依存的に再生血管面積の回復は遅延した。一方、ヒスチジンの投与による再生血管面積の増加率にはヒスチジン投与なしと比較して有意な差はなかった。この結果は、ヒスチジンがSFNの抗腫瘍効果(血管新生阻害作用)に影響を及ぼさないことを示す。
上記の結果から、ヒスチジンは、SFNの投与により生じる既存血管面積減少を抑制する効果を有し、手足症候群の予防または改善に有用である。
【0055】
試験例2
肝細胞癌に対してソラフェニブ(商品名:ネクサバール(登録商標))を内服するため入院する患者8人を本試験の対象とした。ソラフェニブ内服の1週間前から実施例1に記載のヒスチジン含有組成物(一日当たりのヒスチジン摂取量1.65 g)の摂取を開始し、試験終了まで継続させ、ソラフェニブ内服2週間の手足症候群の発症を観察した。手足症候群は皮膚の知覚障害、疼痛、発赤、浮腫、角質の剥離、水疱形成の有無などによって発症を判断した。
<結果>
8例中2例は病態進行により試験を中止した。残りの6例は試験を完遂し、ソラフェニブ内服2週間における手足症候群の発症例は0人であった。
【0056】
実施例1
ヒスチジンを含有する水性液体組成物
下記配合を有する水性液体組成物を常法により製造した。当該組成物の1日摂取量は22mL(ヒスチジンの1日摂取量は1.65g)であった。原材料と配合比率(w/v%)を下表に示す。
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のヒスチジンを含有する手足症候群の予防または改善用組成物は、抗がん剤の副作用である手足症候群を予防または改善し得る。本発明の組成物は、その有効成分がアミノ酸であることから、副作用を生じるおそれが少ないという点で安全性に優れている。
【0059】
本出願は、日本で出願された特願2017-181783を基礎としており、その内容は参照により本明細書にすべて包含されるものである。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D