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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220712BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B60C11/12 C
B60C11/12 A
B60C11/03 300B
B60C11/03 300E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021001445
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2016220892の分割
【原出願日】2016-11-11
(65)【公開番号】P2021062864
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】前原 敦史
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-025812(JP,A)
【文献】特開2005-126055(JP,A)
【文献】国際公開第2010/084848(WO,A1)
【文献】特開2016-124463(JP,A)
【文献】特開2002-321509(JP,A)
【文献】特開平10-258615(JP,A)
【文献】特開2016-141249(JP,A)
【文献】特開2014-218159(JP,A)
【文献】特開2008-056053(JP,A)
【文献】特開2013-103579(JP,A)
【文献】特開2006-232151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、複数のブロックが設けられたタイヤであって、
前記ブロックの少なくとも一つには、サイプが設けられており、
前記サイプは、前記ブロックの踏面をサイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状を有し、
前記サイプは、前記開口形状を維持しつつサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびており、
前記サイプのタイヤ半径方向の周期的模様において、その半波長が前記サイプの最大深さの0.10~0.24倍であり、かつ、全振幅に対する前記半波長の勾配角度が45~65°であり、
前記ブロックは、クラウンブロックと、前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の外側に配されるミドルブロックと、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の外側に配されるショルダーブロックとを含み、
前記クラウンブロックの踏面及び前記ミドルブロックの踏面に、前記サイプが設けられ、
前記ショルダーブロックの踏面は、前記サイプが設けられておらず、
前記サイプは、そのサイプ長手方向がタイヤ軸方向に対して5~15°の角度で傾斜していることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
トレッド部に、複数のブロックが設けられたタイヤであって、
前記ブロックの少なくとも一つには、サイプが設けられており、
前記サイプは、前記ブロックの踏面をサイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状を有し、
前記サイプは、前記開口形状を維持しつつサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびており、
前記サイプのタイヤ半径方向の周期的模様において、その半波長が前記サイプの最大深さの0.10~0.24倍であり、かつ、全振幅に対する前記半波長の勾配角度が45~65°であり、
前記ブロックは、クラウンブロックと、前記クラウンブロックのタイヤ軸方向の外側に配されるミドルブロックと、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の外側に配されるショルダーブロックとを含み、
前記クラウンブロックの踏面及び前記ミドルブロックの踏面に、前記サイプが設けられ、
前記ショルダーブロックの踏面は、前記サイプが設けられておらず、
前記ブロックの踏面は、タイヤ軸方向において両外側に突出する一対の頂部を具えており、
前記サイプの両端は、前記頂部の近傍に位置し、
前記頂部は、第1頂部と第2頂部とからなり、
前記踏面は、前記第1頂部からタイヤ周方向の一方側にのびる第1長辺と、前記第1頂部からタイヤ周方向の他方側にのびる第1短辺と、前記第2頂部から前記タイヤ周方向の一方側にのびる第2長辺と、前記第2頂部からタイヤ周方向の前記他方側にのびる第2短辺とを有することを特徴とするタイヤ。
【請求項3】
前記サイプの一端が前記第1頂部に接続され、前記サイプの他端が前記第2頂部の前記第2長辺に接続される請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ブロックは、横溝を介してタイヤ周方向に複数個設けられており、
前記横溝の幅は、前記ブロックの1ピッチの15%~25%である請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ブロックのタイヤ軸方向の最大幅は、トレッド幅の15%~25%である請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部に、前記クラウンブロックを区分するクラウン横溝が設けられ、
前記クラウン横溝の溝底には、第1溝底サイプが設けられる請求項1乃至5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1溝底サイプは、前記クラウンブロックの踏面に設けられた前記サイプと実質的に平行にのびている請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部に、前記ミドルブロックを区分するミドル横溝が設けられ、
前記ミドル横溝の溝底には、第2溝底サイプが設けられる請求項1乃至7のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第2溝底サイプは、前記ミドルブロックの踏面に設けられた前記サイプと実質的に平行にのびている請求項8に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記トレッド部に、前記ショルダーブロックを区分するショルダー横溝が設けられ、
前記ショルダー横溝の溝底には、前記サイプが設けられない請求項1乃至9のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ寿命とウェット性能とを発揮し得るタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッド部のブロックの踏面に、サイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状を有し、かつ、その開口形状を維持してサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびるサイプを設けることが知られている。このようなサイプは、タイヤ半径方向及びサイプ長手方向に周期的に向きを変えかつ互いに向かい合う一対のサイプ壁を有している。この一対のサイプ壁は、タイヤの接地時、相互に噛み合うので、ブロックの見かけ剛性が高く維持されるため、ブロックの変形が抑制されるとともに、ブロックに隣接する溝の容積が確保される。従って、このようなサイプが設けられたタイヤは、高いタイヤ寿命(ライフ性能)とウェット性能とを有する。
【0003】
しかしながら、近年、さらに、タイヤ寿命とウェット性能とを向上することが求められている。
【0004】
【文献】特開2005-271792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、サイプを改善することを基本として、タイヤ寿命とウェット性能とを向上し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部に、複数のブロックが設けられたタイヤであって、前記ブロックの少なくとも一つには、サイプが設けられており、前記サイプは、前記ブロックの踏面をサイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状を有し、前記サイプは、前記開口形状を維持しつつサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびており、前記サイプのタイヤ半径方向の周期的模様において、その半波長が前記サイプの最大深さの0.10~0.24倍であり、かつ、全振幅に対する前記半波長の勾配角度が45~65°であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るタイヤは、前記サイプが、そのサイプ長手方向がタイヤ軸方向に対して5~15°の角度で傾斜しているのが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記ブロックの踏面が、タイヤ軸方向において両外側に突出する一対の頂部を具えており、前記サイプの両端は、前記頂部の近傍に位置するのが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、前記頂部が、第1頂部と第2頂部とからなり、前記踏面は、前記第1頂部からタイヤ周方向の一方側にのびる第1長辺と、前記第1頂部からタイヤ周方向の他方側にのびる第1短辺と、前記第2頂部から前記タイヤ周方向の一方側にのびる第2長辺と、前記第2頂部からタイヤ周方向の前記他方側にのびる第2短辺とを有するのが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、前記サイプの一端が前記第1頂部に接続され、前記サイプの他端が前記第2頂部の前記第2長辺に接続されるのが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記ブロックが、横溝を介してタイヤ周方向に複数個設けられており、前記横溝の幅は、前記ブロックの1ピッチの15%~25%であるのが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、前記ブロックのタイヤ軸方向の最大幅が、トレッド幅の15%~25%であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤは、トレッド部に、複数のブロックが設けられている。ブロックの少なくとも一つには、サイプが設けられている。サイプは、ブロックの踏面をサイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状を有している。サイプは、開口形状を維持しつつサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびている。
【0014】
このサイプは、タイヤ半径方向及びサイプ長手方向に周期的に向きを変えかつ互いに向かい合う一対のサイプ壁を有している。この一対のサイプ壁は、タイヤの接地時、相互に噛み合うことで、ブロックの見かけ剛性が高く維持される。これにより、ブロックの変形が抑制されるとともに、ブロックに隣接する溝の容積が確保される。このため、タイヤ寿命とウェット性能とが向上する。
【0015】
サイプのタイヤ半径方向の周期的模様において、その半波長がサイプの最大深さの0.10~0.24倍であり、かつ、全振幅に対する半波長の勾配角度が45~65°である。これにより、接地時、前記一対のサイプ壁が、一層、相互に固く噛み合うことができる。従って、本発明のタイヤは、一層、優れたウェット性能とタイヤ寿命とが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態を示すトレッド部の展開図である。
図2】(a)は、クラウンブロックに設けられたサイプの平面図、(b)は、(a)の正面図である。
図3】クラウンブロックに設けられたサイプの展開斜視図である。
図4図1のクラウンブロック列及びミドルブロック列の拡大図である。
図5図1のクラウンブロック列及びミドルブロック列の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本発明の一実施形態を示すタイヤ1のトレッド部2の展開図が示される。本発明は、例えば、乗用車用や自動二輪車用等の空気入りタイヤ、及び、タイヤの内部に加圧された空気が充填されない非空気式タイヤ等の様々なタイヤに用いることができる。図1に示されるタイヤ1は、重荷重用の空気入りタイヤである。
【0018】
トレッド部2には、本実施形態では、タイヤ周方向に連続してのびる複数本の主溝3、及び、主溝3、3間や、主溝3とトレッド端Teとの間をのびる複数本の横溝4が設けられている。これにより、本実施形態のトレッド部2には、主溝3と横溝4とで区分されたブロック5がタイヤ周方向に複数個並ぶブロック列5Rが形成されている。
【0019】
主溝3は、本実施形態では、タイヤ赤道Cの両側に配された一対のクラウン主溝3A、3Aと、クラウン主溝3Aのタイヤ軸方向外側に配された一対のショルダー主溝3B、3Bとで構成されている。本実施形態の主溝3は、ジグザグ状にのびている。なお、主溝3は、このような態様に限定されるものではなく、種々の態様を取り得る。
【0020】
特に限定されるものではないが、クラウン主溝3Aの溝幅W1及びショルダー主溝3Bの溝幅W2は、トレッド幅TWの2%~6%であるのが望ましい。クラウン主溝3Aの溝深さ及びショルダー主溝3Bの溝深さ(図示省略)は、例えば、10~20mmが望ましい。
【0021】
横溝4は、本実施形態では、クラウン横溝4Aと、ミドル横溝4Bと、ショルダー横溝4Cとを含んでいる。クラウン横溝4Aは、一対のクラウン主溝3A、3Aを連通しタイヤ周方向に複数本設けられている。ミドル横溝4Bは、クラウン主溝3Aとショルダー主溝3Bとを連通しタイヤ周方向に複数本設けられている。ショルダー横溝4Cは、トレッド端Teとショルダー主溝3Bとを連通しタイヤ周方向に複数本設けられている。横溝4は、本実施形態では、直線状にのびている。なお、横溝4は、このような態様に限定されるものではない。
【0022】
クラウン横溝4A及びミドル横溝4Bの溝深さ(図示省略)は、クラウン主溝3Aの溝深さの60%~90%が望ましい。ショルダー横溝4Cの溝深さ(図示省略)は、ショルダー主溝3Bの溝深さ(図示省略)の10%~40%であるのが望ましい。
【0023】
前記「トレッド端」Teは、正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。「正規状態」とは、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、この正規状態において測定される値である。正規状態において、両トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離がトレッド幅TWとして定められる。
【0024】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"である。また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0025】
「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0026】
本実施形態のブロック列5Rは、クラウンブロック列5A、一対のミドルブロック列5B、及び、一対のショルダーブロック列5Cで構成されている。クラウンブロック列5Aは、本実施形態では、タイヤ赤道C上に配され、一対のクラウン主溝3A、3Aとクラウン横溝4Aとで区分される複数個のクラウンブロック5aによって形成されている。ミドルブロック列5Bは、クラウン主溝3A、ショルダー主溝3B、及び、ミドル横溝4Bで区分される複数個のミドルブロック5bによって形成されている。ショルダーブロック列5Cは、ショルダー主溝3B、トレッド端Te、及び、ショルダー横溝4Cで区分される複数個のショルダーブロック5cによって形成されている。
【0027】
本実施形態では、クラウンブロック5aの踏面7A及びミドルブロック5bの踏面8Aに、サイプ長手方向に沿ってジグザグ状にのびる開口形状10e(図2に示す)を有するサイプ10が設けられている。サイプ10は、本実施形態では、クラウンブロック5aに設けられたクラウンサイプ10A、及び、ミドルブロック5bに設けられたミドルサイプ10Bを含んでいる。本明細書では、「サイプ」は、幅が2.0mm以下の切り込み状のものをいう。
【0028】
図2(a)は、サイプ10(クラウンサイプ10A)の平面図、図2(b)は、その正面図である。図3は、サイプ10の展開斜視図である。図2及び図3に示されるように、サイプ10は、本実施形態では、開口形状10eを維持しつつサイプ長手方向に振幅を繰り返しながらタイヤ半径方向内側に周期的にのびている。このようなサイプ10は、タイヤ半径方向及びサイプ長手方向に周期的に向きを変えかつ互いに向かい合う一対のサイプ壁面11、11を有している。このサイプ壁面11、11は、タイヤの接地時、相互に噛み合うことで、ブロック5a、5bの見かけの剛性が高く維持される。これにより、ブロック5a、5bの変形が抑制されるとともに、ブロック5a、5bに隣接する横溝4A、4Bの溝容積が確保される。このため、タイヤ寿命とウェット性能とが向上する。このように、サイプ10は、ブロック5の変形を抑制して、見かけの剛性を高めうるので、とりわけ大きな接地圧の作用する重荷重用のタイヤ1に好適に用いられる。
【0029】
発明者らによって、以下のように規定することで、一層、タイヤ寿命とウェット性能とを向上させることができた。サイプ10は、そのタイヤ半径方向の周期的模様において、その半波長D1がサイプ10の最大深さDの0.10~0.24倍に規定される。また、サイプ10は、全振幅に対する半波長D1の勾配角度θが45~65°に規定される。半波長D1がサイプ10の最大深さDの0.10倍未満の場合、サイプ10を製造するための金型であるナイフブレード(図示省略)を、加硫後、タイヤ1からスムーズに引き抜くことができず、ブロック5a、5bのゴム欠け等を招く。半波長D1がサイプ10の最大深さDの0.24倍を超える場合、タイヤ1の接地時、サイプ壁面11、11の噛み合わせ力が小さくなり、ブロック5a、5bの変形抑制効果が小さくなる。また、半波長D1の勾配角度θが45°未満では、タイヤ1からナイフブレードの引き抜時、ブロック5a、5bのゴム欠け等を招く。半波長D1の勾配角度θが65°より大きいとき、タイヤ1の接地時、サイプ壁面11、11の噛み合わせ力が小さくなり、ブロック5a、5bの変形抑制効果が小さくなる。このようなサイプ10は、とりわけ重荷重用のタイヤ1に好適に用いられる。
【0030】
サイプ壁面11は、本実施形態では、平行四辺形状をなす壁面部11aが、タイヤ半径方向及びサイプの長手方向に複数枚並べられて形成されている。図3(b)では、1の壁面部11aがハッチで示される。この壁面部11aのタイヤ半径方向にのびる縦エッジ11eの角度が、前記勾配角度θである。壁面部11aの縦エッジ11eのタイヤ半径方向の長さが、半波長D1である。図3(b)に示される壁面部11aの破線は、山折り部を示し、実線は谷折り部を示している。
【0031】
図4に示されるように、クラウンブロック5aは、その踏面7Aがタイヤ軸方向において両外側に突出する一対の頂部7a、7bを具えている。クラウンブロック5aの踏面7Aは、本実施形態では、タイヤ軸方向の一方の外側(図では右側)に突出する第1頂部7aと、タイヤ軸方向の他方の外側(図では左側)に突出する第2頂部7bとから形成されている。
【0032】
クラウンブロック5aの踏面7Aは、本実施形態では、第1頂部7aからタイヤ周方向の一方側(図では下側)にのびる第1長辺7cと、第1頂部7aからタイヤ周方向の他方側(図では上側)にのびる第1短辺7dとを有している。また、クラウンブロック5aの踏面7Aは、本実施形態では、第2頂部7bからタイヤ周方向の一方側にのびる第2短辺7eと、第2頂部7bからタイヤ周方向の他方側へのびる第2長辺7fとを有している。このように、クラウンブロック5aは、そのタイヤ周方向にのびるブロック縁が、第1長辺7c、第2長辺7f、第1短辺7d、及び、第2短辺7eで形成されている。
【0033】
第1長辺7cと第1短辺7dとは、タイヤ軸方向に対して互いに逆向きに傾斜している。同様に、第2短辺7eと第2長辺7fとは、タイヤ軸方向に対して互いに逆向きに傾斜している。
【0034】
ミドルブロック5bは、その踏面8Aがタイヤ軸方向において両外側に突出する一対の頂部8a、8bを具えている。ミドルブロック5bの踏面8Aは、本実施形態では、タイヤ軸方向の外側に突出する第1頂部8aと、タイヤ赤道C側に突出する第2頂部8bとから形成されている。
【0035】
ミドルブロック5bの踏面8Aは、本実施形態では、第1頂部8aからタイヤ周方向の一方側にのびる第1長辺8cと、第1頂部8aからタイヤ周方向の他方側にのびる第1短辺8dとを有している。また、ミドルブロック5bの踏面8Aは、本実施形態では、第2頂部8bからタイヤ周方向の一方側にのびる第2長辺8eと、第2頂部8bからタイヤ周方向の他方側へのびる第2短辺8fとを有している。このように、ミドルブロック5bは、そのタイヤ周方向にのびるブロック縁が、第1長辺8c、第2長辺8e、第1短辺8d、及び、第2短辺8fで形成されている。
【0036】
ミドルブロック5bの第1長辺8cと第1短辺8dとは、タイヤ軸方向に対して互いに逆向きに傾斜している。同様に、ミドルブロック5bの第2長辺8eと第2短辺8fとは、タイヤ軸方向に対して互いに逆向きに傾斜している。
【0037】
このように、クラウンブロック5a及びミドルブロック5bは、略樽型の六角形状に形成される。このような各ブロック5a、5bは、走行時に有利な作用、即ち、ブロックの変形抑制効果が作用するので、タイヤ寿命とウェット性能とが効果的に向上する。
【0038】
図5に示されるように、クラウンサイプ10Aの両端10a、10bは、クラウンブロック5aの各頂部7a、7bの近傍に位置している。これにより、クラウンサイプ10Aの長さ、ひいては、サイプ壁面11の数が多く形成されるので、大きな噛み合わせ力が発揮されるため、クラウンブロック5aの変形が効果的に抑制され、ウェット性能やタイヤ寿命が高められる。また、クラウンブロック5aは、各頂部7a、7bのタイヤ周方向の両側で、クラウンブロック5aのタイヤ周方向の剛性が変化するので、クラウンサイプ10A用のナイフブレードを容易に引き抜くことができる。このため、クラウンブロック5aは、ゴム欠け等が抑制され、優れたタイヤ寿命を発揮する。
【0039】
本実施形態のクラウンブロック5aでは、クラウンサイプ10Aの一端10aが第1頂部7aに接続され、クラウンサイプ10Aの他端10bが第2頂部7bに接続されている。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。本明細書では、「頂部に接続する」とは、例えば、各頂部Tからタイヤ周方向の両側へ各2mm以内の範囲Laにサイプ10の一端Taが設けられる態様をいう。
【0040】
ミドルサイプ10Bの両端10c、10dは、ミドルブロック5bの各頂部8a、8bの近傍に位置している。これにより、ミドルサイプ10Bの長さ、ひいては、サイプ壁面11の数が多く形成されるので、大きな噛み合わせ力が発揮されるため、クラウンブロック5aの変形が効果的に抑制され、ウェット性能やタイヤ寿命を高めることができる。また、ミドルブロック5bは、各頂部8a、8bのタイヤ周方向の両側で、ミドルブロック5bのタイヤ周方向の剛性が変化するので、ミドルサイプ10B用のナイフブレードを容易に引き抜くことができるため、ゴム欠け等が抑えられる。
【0041】
本実施形態のミドルブロック5bでは、ミドルサイプ10Bの一端10cが第1頂部8aに接続され、ミドルサイプ10Bの他端10dが第2頂部8bの第2長辺8eに接続されている。第2頂部8bは、第1頂部8aよりも大きな接地圧が作用するので、ブロック欠けや摩耗等が生じ易い部分である。このため、第2長辺8eに他端10dを設けることで、ブロック欠け等を抑制して、タイヤ寿命を高く維持しうる。本明細書では、「頂部の長辺に接続される」とは、例えば、長辺Tbに接続されるサイプ10の一端Taと、頂部Tとのタイヤ周方向距離Lbが、2mmを超えて5mm以下の態様をいう。
【0042】
図4に示されるように、クラウンブロック5aの第1長辺7cのタイヤ周方向の長さL1と、第1短辺7dのタイヤ周方向の長さL2との比(L1/L2)が大きい場合、クラウンブロック5aのタイヤ周方向の両側で剛性の差が過度に大きくなる。この場合、第1短辺7d側のクラウンブロック5aの剛性が過度に小さくなり、かえって、タイヤ寿命が悪化するおそれがある。従って、クラウンブロック5aの前記長さの比(L1/L2)は、1.05~1.15であるのが望ましい。同様の観点より、クラウンブロック5aの第2長辺7fのタイヤ周方向の長さL3と、第2短辺7eのタイヤ周方向の長さL4との比(L3/L4)は、1.05~1.15であるのが望ましい。また、ミドルブロック5bの第1長辺8cのタイヤ周方向の長さL5と、第1短辺8dのタイヤ周方向の長さL6との比(L5/L6)は、1.05~1.15であるのが望ましい。ミドルブロック5bの第2長辺8eのタイヤ周方向の長さL7と、第2短辺8fのタイヤ周方向の長さL8との比(L7/L8)は、1.05~1.15であるのが望ましい。
【0043】
図5に示されるように、サイプ10は、そのサイプ長手方向がタイヤ軸方向に対して5~15°の角度αで傾斜している。これにより、直進走行から旋回走行において、効果的にサイプ壁面11、11が噛み合うので、ウェット性能及びタイヤ寿命が向上する。サイプ10の角度αが5°未満の場合、旋回走行時のサイプ壁面11、11の噛み合わせ力が小さくなるおそれがある。サイプ10の角度αが15°を超える場合、直進走行時のサイプ壁面11、11の噛み合わせ力が小さくなるおそれがある。
【0044】
クラウンブロック5aは、そのタイヤ軸方向の最大幅Waがトレッド幅TWの15%~25%であるのが望ましい。クラウンブロック5aの最大幅Waがトレッド幅TWの15%未満の場合、クラウンブロック5aの剛性が小さくなり、タイヤ寿命が悪化するおそれがある。クラウンブロック5aの最大幅Waがトレッド幅TWの25%を超える場合、ミドルブロック5b又はショルダーブロック5cの剛性が小さくなり、これらブロック5b、5cで偏摩耗が発生するおそれがある。タイヤ1が駆動輪で使用される場合、ミドルブロック5bには、クラウンブロック5aに比して小さな接地圧が作用する。このため、ミドルブロック5bのタイヤ軸方向の最大幅Wbは、クラウンブロック5aの最大幅Wa以下であるのが望ましい。より好ましくは、ミドルブロック5bのタイヤ軸方向の最大幅Wbは、トレッド幅TWの15%~25%であるのが望ましい。
【0045】
クラウンブロック5aとタイヤ周方向に隣り合うクラウン横溝4Aの幅W3は、クラウンブロック5aの1ピッチPcの15%~25%であるのが望ましい。クラウン横溝4Aの幅W3がクラウンブロック5aの1ピッチPcの15%未満の場合、クラウン横溝4Aの溝容積が小さくなり、ウェット性能が悪化するおそれがある。クラウン横溝4Aの幅W3がクラウンブロック5aの1ピッチPcの25%を超える場合、クラウンブロック5aの剛性が小さくなり、タイヤ寿命が悪化するおそれがある。
【0046】
タイヤ1が駆動輪で使用される場合、ミドルブロック5bには、クラウンブロック5aに比して小さな接地圧が作用する。このため、ミドルブロック5bの剛性を、クラウンブロック5aの剛性よりも小さくしてもタイヤ寿命が高く維持されるとともに、ミドル横溝4Bの幅W4を大きくして、ウェット性能を一層向上することができる。このような観点より、ミドルブロック5bとタイヤ周方向に隣り合うミドル横溝4Bの幅W4は、ミドルブロック5bの1ピッチPmの16%~26%であるのが望ましい。
【0047】
ミドル横溝4Bは、クラウンブロック7の頂部7a、7bに連通している。これにより、クラウン周方向3A内の水が、スムーズにミドル横溝4Bに流れ得るので、ウェット性能が向上する。
【0048】
各ミドル横溝4B、4Bのタイヤ軸方向に対する傾斜の向き(図では左上がり)は、クラウン横溝4Aのタイヤ軸方向に対する傾斜の向き(図では右上がり)と逆向きである。これにより、タイヤの転動を利用して、タイヤ軸方向の両側へ、クラウン主溝3A及びショルダー主溝3B内の水を排出できるので、ウェット性能が向上する。
【0049】
図1に示されるように、タイヤ赤道Cを挟んで離間された各ミドル横溝4B、4Bは、タイヤ周方向に位置ずれしている。このため、タイヤ赤道Cを挟んで離間された各ミドルブロック5b、5bも、タイヤ周方向に位置ずれしている。このため、タイヤ軸方向に離間したミドルブロック5b、5bが、同時に接地することがなく、異なったタイミングで接地する。これにより、各ミドルブロック5b、5bに対する接地圧が低減されるので、タイヤ寿命が高く維持される。
【0050】
ショルダーブロック5cは、本実施形態では、クラウンブロック5aやミドルブロック5bとは異なり、サイプ10が設けられていない。これは、トレッド端Teに隣接するショルダーブロック5cは、クラウンブロック5a、ミドルブロック5bに比して、サイプ10設けると偏摩耗が生じやすいからである。
【0051】
本実施形態では、横溝4の溝底4sに溝底サイプ20が設けられている。溝底サイプ20は、本実施形態では、クラウン横溝4Aに設けられた第1溝底サイプ20Aと、ミドル横溝4Bに設けられた第2溝底サイプ20Bとを含んでいる。このような溝底サイプ20は、溝底サイプ20とタイヤ周方向で隣り合うブロック5の接地時、横溝4を開かせて溝容積を大きくするので、ウェット性能を向上する。
【0052】
溝底サイプ20は、本実施形態では、タイヤ半径方向及びサイプの長手方向に直線状にのびている。第1溝底サイプ20Aは、本実施形態では、クラウンサイプ10Aと実質的に平行にのびている。また、第2溝底サイプ20Bは、本実施形態では、ミドルサイプ10Bと実質的に平行にのびている。このような溝底サイプ20は、上述の作用をより効果的に発揮させる。本明細書では、「実質的に平行にのびる」とは、溝底サイプ20とサイプ10とが、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜し、かつ、その長手方向のタイヤ軸方向に対する角度の差が5°以下の場合をいう。
【0053】
以上、本発明の実施形態について、詳述したが、本発明は例示の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変形して実施しうるのは言うまでもない。
【実施例
【0054】
図1の基本パターンをなすサイズ275/80R22.5の重荷重用空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。なお、サイプは、ナイフブレードによって形成された。各試供タイヤは、ウェット性能、及びタイヤ寿命についてテストされた。テスト方法は以下の通りである。なお、半波長の大きさに応じて、サイプの壁面部のタイヤ半径方向の数が特定される。
サイプの最大深さD:15.1mm
クラウン横溝の幅W3/クラウンブロックの1ピッチPc:20%
ミドル横溝の幅W4/ミドルブロックの1ピッチPm:21%
クラウンブロックの最大幅Wa/トレッド幅TW:20%
【0055】
<ウェット性能>
各供試タイヤが、下記の条件で、最大積載量10トン積みのトラック(2-D車)の全輪に装着された。そして、テストドライバーが、ウェットアスファルト路面(水深1mm)のテストコースを走行させ、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関するウェット時の操縦安定性を官能により評価した。結果は、実施例2を100とする評点で表示している。数値が大きいほど良好である。
リム:7.50×22.5
積載量:10トン
内圧:900kPa
【0056】
<タイヤ寿命>
テストドライバーが、上記車両を用いて、乾燥アスファルト路面を1000km走行させ、このときのタイヤの摩耗量が測定された。結果は、測定値の逆数を用い、実施例2の値を100とする指数で表示され、数値の大きいほど摩耗量が小さくタイヤ寿命が高いので良好である。
テスト結果が表1に示される。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、実施例の空気入りタイヤは、比較例に比べて、ウェット性能、タイヤ寿命が有意に向上していることが確認できる。
【符号の説明】
【0059】
1 タイヤ
5 ブロック
10 サイプ
10e 開口形状
D1 半波長
D 最大深さ
θ 勾配角度
図1
図2
図3
図4
図5