(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ノイズフィルタおよび電気回路
(51)【国際特許分類】
H03H 7/075 20060101AFI20220712BHJP
H03H 7/06 20060101ALI20220712BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H03H7/075 A
H03H7/06
H01F37/00 N
H01F37/00 R
(21)【出願番号】P 2021181673
(22)【出願日】2021-11-08
【審査請求日】2021-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】滝井 卓
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-087107(JP,A)
【文献】特開2010-193190(JP,A)
【文献】特開2005-123751(JP,A)
【文献】特開2002-084157(JP,A)
【文献】特開平10-070429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P3/00-H01P3/20
H02M1/00-H02M1/44
H02M7/42-H02M7/98
H03H1/00-H03H3/00
H03H5/00-H03H7/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送線路を構成する第一導電部材および第二導電部材と、
前記第一導電部材と第一中間部材を介して配置された第三導電部材と、
前記第二導電部材と第二中間部材を介して配置された第四導電部材と、
前記第三導電部材と前記第四導電部材を電気的に連結する第一抵抗部材および第二抵抗部材と、
前記第三導電部材と前記第四導電部材の間の領域に形成された第一磁路と、を備え、
前記第一中間部材と前記第二中間部材は一方または両方が絶縁体からなり、
前記第三導電部材、前記第一抵抗部材、前記第四導電部材、前記第二抵抗部材および前記第三導電部材を通る環状の電気的な経路が
前記伝送線路の長さ方向に構成される、
ことを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項2】
前記第一導電部材と前記第二導電部材と前記第三導電部材と前記第四導電部材と前記第一抵抗部材と前記第二抵抗部材の外周を囲うように形成された第二磁路、を備え、
前記第一磁路と前記第二磁路が、互いに磁気的に連通するとともに、
前記第二磁路によって、前記第一導電部材と前記第二導電部材と前記第三導電部材と前記第四導電部材と前記第一抵抗部材と前記第二抵抗部材と前記第一磁路が束ねられて一体化されている、
請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第一導電部材と前記第二導電部材と前記第三導電部材と前記第四導電部材と前記第一中間部材と前記第二中間部材がいずれも短冊形状である、
請求項1または請求項2に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第一導電部材と前記第二導電部材が棒状部材であり、
前記第三導電部材が前記第一導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、
前記第四導電部材が前記第二導電部材を内挿可能な筒状形状を有する、
請求項1または請求項2に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
前記第二導電部材が棒状であり、
前記第四導電部材が前記第二導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、
前記第三導電部材が前記第四導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、
前記第一導電部材が前記第三導電部材を内挿可能な筒状形状を有する、
請求項1または請求項2に記載のノイズフィルタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のノイズフィルタを3個備え、互いに等価で逆位相の同期された電流が流れる2組の三相交流の電気回路であって、
前記2組の三相交流の一方の三相交流の各相をU1,V1,W1とし、他方の三相交流の各相をU2、V2、W2とし、相U1と相U2とからなる伝送線路を伝送線路T1、相V1と相V2とからなる伝送線路を伝送線路T2、相W1と相W2からなる伝送線路を伝送線路T3とし、
前記3個のノイズフィルタのそれぞれをノイズフィルタA,ノイズフィルタB,ノイズフィルタCとしたとき、
前記ノイズフィルタAの前記第一導電部材に前記伝送線路T1の前記相U1を接続し、前記ノイズフィルタBの前記第一導電部材に前記伝送線路T2の前記相V1を接続し、
前記ノイズフィルタCの前記第一導電部材に前記伝送線路T3の前記相W1を接続し、前記ノイズフィルタAの前記第二導電部材に前記伝送線路T1の前記相U2を接続し、
前記ノイズフィルタBの前記第二導電部材に前記伝送線路T2の前記相V2を接続し、前記ノイズフィルタCの前記第二導電部材に前記伝送線路T3の前記相W2を接続する、
ことを特徴とする電気回路。
【請求項7】
請求項2に記載される前記ノイズフィルタを複数組備えた統合型のノイズフィルタであって、
複数組の前記ノイズフィルタの前記第一磁路が第三磁路を介して一体に連結されおり、
複数組の前記ノイズフィルタのそれぞれの前記第二磁路は互いに離間しており、
500Hz以下の磁界に対して、前記第三磁路の比透磁率が複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第一磁路の比透磁率より高く、
かつ、1MHz以上の磁界に対して、前記第三磁路の比透磁率が複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第一磁路の比透磁率より低い、
ことを特徴とする統合型のノイズフィルタ。
【請求項8】
請求項2に記載される前記ノイズフィルタを複数組備えた統合型のノイズフィルタであって、
複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第一導電部材が一つの第四磁路に包含され、複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第二導電部材が一つの第五磁路に包含されるとともに、前記第四磁路と前記第五磁路が離間して配置されており、
500Hz以下の磁界に対して、前記第四磁路と前記第五磁路の比透磁率は、複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第一磁路の比透磁率より高く、
かつ、1MHz以上の磁界に対して、前記第四磁路と前記第五磁路の比透磁率は、複数組のそれぞれの前記ノイズフィルタの前記第一磁路の比透磁率より低い、
ことを特徴とする統合型のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズフィルタおよびノイズフィルタが設けられる電気回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電源系統において、コモンモードノイズとノーマルモードノイズおよび反射ノイズとを縮減し、ノイズによる被駆動装置への影響を低減できる(例えば、特許文献1)。
また、特許文献1において、ノイズにより、コモンモードチョークのコア内に磁束が生じ、この磁束により電源ラインに誘導起電力が発生し、電流が流れて電源ラインの反射ノイズになる場合があっても、コモンモードチョークのコアに巻線(W)と巻線(W)に接続された第7の抵抗(R7)とを備えることにより、この反射ノイズを低減することができる。また、被駆動装置で反射されたノイズがコモンモードチョーク(13)を通過した場合であっても、CR回路(12)が、この反射ノイズを抵抗(R2)の抵抗成分で熱エネルギに変換し、消費することができる。
【0003】
一方、電源ライン(101、102)の線路を流れる双方向の電流に対して反射ノイズを低減するには、線路方向に対して対称な回路とする必要があり、CR回路(12)とコモンモードチョーク(13,LR回路)とCR回路(15)との少なくとも6個の部品を必要とする。
また近年、半導体の高性能化に伴い、ノイズの帯域はより高い周波数、例えば30MHz→1GHz程度までとなり、ノイズフィルタの特性を高い周波数まで確保する、つまり短い波長のノイズに対応するには、部品間距離短縮、部品構造単純化、部品点数削減、等が求められる。
【0004】
1GHzのノイズが共振する1/4波長は真空中で75mmであり、通常、ノイズの周囲の比誘電率と比透磁率との積は4程度あり、1/4波長は38mm程度となる、前記共振を防止できる最大長さを前記1/4波長の1/10とすれば3.8mmとなる。
ノイズフィルタの特性を1GHzまで確保するには、部品間距離を4mm以下、部品構造の巻線繰り返し構造や積層繰り返し構造等の繰り返し距離を4mm以下にする距離制限が課題となる。また、大電流用途におけるノイズフィルタの大型化と距離制限とを両立するためには、部品点数削減、部品そのものの構造の簡素化が課題となる。
【0005】
磁性体と誘電体の両方を兼ね備えた材質、複合材を利用してコイルとコンデンサを一体化し、1体でコイルとコンデンサの両方の機能を兼ね備えた複合電子部品をノイズフィルタに適用することができる(例えば特許文献2,特許文献3)。そうすれば、部品間距離の制限を満たし、部品そのものの構造の簡素化、部品点数削減を実現でき、特許文献1の課題を解決することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-244271号公報
【文献】特開昭56―6423号公報
【文献】特開平2-268506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の回路のコモンモードチョーク(13)とコンデンサ(C3)に代えて、特許文献2の複合電子部材を適用した場合、巻線(W)における抵抗が1つである。したがって、このノイズフィルタ部の特性インピーダンスが一定値とならず、伝送線路に流れる電流の周波数に従って変動してしまう。このため伝送線路とのインピーダンス整合ができないという課題を有する。
また、特許文献2の第1図の符号11で表され、または、特許文献3の第一図の符号2で表される磁性体と誘電体の複合材が必要となり、単体の磁性体、誘電体より諸特性が劣り、入手性、価格対性能で不利となる。この複合材を用いないコイルとコンデンサの一体化が課題となる。
【0008】
以上より、本発明は、特許文献1~特許文献3に対して優位性を備えるノイズフィルタおよび電気回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のノイズフィルタは、伝送線路を構成する第一導電部材および第二導電部材と、第一導電部材と第一中間部材を介して配置された第三導電部材と、第二導電部材と第二中間部材を介して配置された第四導電部材と、第三導電部材と第四導電部材を電気的に連結する第一抵抗部材および第二抵抗部材と、第三導電部材と第四導電部材の間の領域に形成された第一磁路と、を備える。
本発明におけるノイズフィルタにおいて、第一中間部材と第二中間部材は一方または両方が絶縁体からなり、第三導電部材、第一抵抗部材、第四導電部材、第二抵抗部材および第三導電部材を通る環状の電気的な経路が構成される。
【0010】
本発明におけるノイズフィルタにおいて、好ましくは、第一導電部材と第二導電部材と第三導電部材と第四導電部材と第一抵抗部材と第二抵抗部材の外周を囲うように形成された第二磁路、を備え、
第一磁路と第二磁路が、互いに磁気的に連通するとともに、
第二磁路によって、第一導電部材と第二導電部材と第三導電部材と第四導電部材と第一抵抗部材と第二抵抗部材と第一磁路が束ねられて一体化されている。このノイズフィルタを第2態様と称する。
【0011】
本発明におけるノイズフィルタにおいて、好ましくは、第一導電部材と第二導電部材と第三導電部材と第四導電部材と第一中間部材と第二中間部材がいずれも短冊形状である。
【0012】
本発明におけるノイズフィルタにおいて、好ましくは、第一導電部材と第二導電部材が棒状部材であり、第三導電部材が第一導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、第四導電部材が第二導電部材を内挿可能な筒状形状を有する。
【0013】
本発明におけるノイズフィルタにおいて、好ましくは、第二導電部材が棒状であり、第四導電部材が第二導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、第三導電部材が第四導電部材を内挿可能な筒状形状を有するとともに、第一導電部材が第三導電部材を内挿可能な筒状形状を有する。
【0014】
本発明は、以上説明したノイズフィルタを3個備え、互いに等価で逆位相の同期された電流が流れる2組の三相交流の電気回路を提供する。
この電気回路は、2組の三相交流の一方の三相交流の各相をU1,V1,W1とし、他方の三相交流の各相をU2、V2、W2とし、相U1と相U2とからなる伝送線路を伝送線路T1、相V1と相V2とからなる伝送線路を伝送線路T2、相W1と相W2からなる伝送線路を伝送線路T3とし、3個のノイズフィルタのそれぞれをノイズフィルタA,ノイズフィルタB,ノイズフィルタCとしたとき、ノイズフィルタAの第一導電部材に伝送線路T1のU1を接続し、ノイズフィルタBの第一導電部材に伝送線路T2の相V1を接続し、ノイズフィルタCの第一導電部材に伝送線路T3の相W1を接続し、ノイズフィルタAの第二導電部材に伝送線路T1の相U2を接続し、ノイズフィルタBの第二導電部材に伝送線路T2の相V2を接続し、ノイズフィルタCの第二導電部材に伝送線路T3の相W2を接続する。
【0015】
本発明は第2態様に係るノイズフィルタを複数組備えた統合型のノイズフィルタを提供する。
この統合型のノイズフィルタは、複数組の第2態様に係るノイズフィルタの第一磁路が第三磁路を介して一体に連結されおり、複数組の第2態様に係るノイズフィルタのそれぞれの第二磁路は互いに離間しており、500Hz以下の磁界に対して、第三磁路の比透磁率が複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一磁路の比透磁率より高く、かつ、1MHz以上の磁界に対して、第三磁路の比透磁率が複数組のそれぞれの第2態様に係るノイズフィルタの第一磁路の比透磁率より低い。
【0016】
本発明は第2態様に係るノイズフィルタを複数組備えた統合型の他のノイズフィルタを提供する。
この統合型のノイズフィルタは、複数組のそれぞれの第2態様に係るノイズフィルタの第一導電部材が一つの第四磁路に包含され、複数組のそれぞれの第2態様に係るノイズフィルタの第二導電部材が一つの第五磁路に包含されるとともに、第四磁路と第五磁路が離間して配置されており、500Hz以下の磁界に対して、第四磁路と第五磁路の比透磁率は、複数組のそれぞれの第2態様に係るノイズフィルタの第一磁路の比透磁率より高く、かつ、1MHz以上の磁界に対して、第四磁路と第五磁路の比透磁率は、複数組のそれぞれの第2態様に係るノイズフィルタの第一磁路の比透磁率より低い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第三導電部材、第一抵抗部材、第四導電部材、第二抵抗部材および第三導電部材を通る環状の電気的な経路が構成される。以下この構成を環状導電部構造と称するがこの環状導電部構造によって、伝送線路の一方の線路、例えば第一導電部材に負荷された電位によって第一中間部材を介して対向する第三導電部材に誘起される電荷と、伝送線路の他方の線路、例えば第二導電部材に負荷された電位によって第二中間部材を介して対向する第四導電部材に誘起される電荷を交換できる。この電荷の交換により、互いの高周波ノイズを外部に漏れることを防止できるだけでなく、伝送線路に周波数が高い電流が流れた時には、ノイズフィルタのインピーダンスの抵抗成分が大きく、損失を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電動機駆動装置(電源系統)の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の電動機駆動装置に用いられるノイズフィルタを示し、(a)は斜視図であり、(b)は正面図である。
【
図3】第一実施形態に係る環状導電部構造の等価回路を示し、(a)はコイル(L)-抵抗(R
L)の並列回路およびコンデンサ(C)-抵抗(R
C)の直列回路が一つずつの例を示し、(b)はL-R
Lの並列回路が一つ、および、C-R
Cの直列回路が二つの例を示し、(c)はL-R
Lの並列回路が二つ、および、C-R
Cの直列回路が一つの例を示す。
【
図4】第一実施形態に係るノイズフィルタの2次回路を模式的に示す図である。
【
図5】第一実施形態に係るノイズフィルタの等価回路図である。
【
図6】第一実施形態に係るノイズフィルタの電気的な状態を示す図である。
【
図7】第一実施形態に係るノイズフィルタの第一変形例を示す正面図である。
【
図8】第一実施形態に係るノイズフィルタの第二変形例を示す正面図である。
【
図9】第二実施形態に係るノイズフィルタの構成を示し、(a)は正面図、(b)は横断面図、(c)は側面図である。
【
図10】第三実施形態に係るノイズフィルタの構成を示す正面図である。
【
図11】第四実施形態に係るノイズフィルタの構成を示す正面図である。
【
図12】第五実施形態に係るノイズフィルタの構成を示す正面図である。
【
図13】第六実施形態に係るノイズフィルタの構成を示す正面図である。
【
図14】本実施形態にかかるノイズフィルタを応用して終端抵抗として使用した場合の電気回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るノイズフィルタおよびこのノイズフィルタが適用される電気回路としての電動機駆動装置について説明する。
本実施形態に係る電動機駆動装置10は、
図1に示すように、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換し、さらに変換された直流電流を交流に変換して3相交流電動機に供給して、3相交流電動機を駆動する。本実施形態において、3相交流電動機の一例としてサーボモータ3を示すが、本発明における3相交流電動機はサーボモータに限らず、誘導電動モータ、同期電動モータ、PM(Permanent Magnet)モータなどインバータ回路により駆動される3相交流による電動モータ(アクチュエータ)あるいは発電機を含む。
電動機駆動装置10は、第一サーボモータ3A,第二サーボモータ3Bと第一インバータ回路20A、第二インバータ回路20Bとの間の伝送線路T1(線路(相)U1,U2),伝送線路T2(線路(相)V1,V2),伝送線路T3(線路(相)W1,W2)にノイズフィルタ5Aが設けられている。
【0020】
[電動機駆動装置の全体構成:
図1]
本実施形態における電動機駆動装置10は、
図1に示すように、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bを備え、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bのそれぞれに対応するように第一インバータ回路20Aと第二インバータ回路20Bが設けられている。以下では、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bの両者を区別する必要がない場合には単にサーボモータ3と表記し、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bの両者を区別する必要がある場合には第一サーボモータ3A、第二サーボモータ3Bと表記する。インバータ回路20およびその構成要素についても同様に扱われる。
【0021】
第一サーボモータ3Aと第一インバータ回路20Aの組み合わせ、および、第二サーボモータ3Bと第二インバータ回路20Bの組み合わせ、の一方は他方に対する逆相電流生成機能を果たす。
【0022】
インバータ回路20は、
図1に示すように、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換する整流器11と、整流器11とインバータ主回路15の間に設けられ平滑コンデンサ13と、整流器11からの直流電流を受けてサーボモータ3を駆動するインバータ主回路15と、を主たる構成要素として備える。
また、インバータ回路20は、インバータ主回路15を制御するインバータ制御部17を備える。インバータ制御部17は、インバータ主回路15を構成する半導体スイッチング素子16u1,16u2,16u3,16u4,16v1,16v2,16v3,16v4,16w1,16w2,16w3,16w4のONおよびOFFを制御する。半導体スイッチング素子を区別して表記する必要がないときには、半導体スイッチング素子16と総称される。
図1では単一のインバータ制御部17によりインバータ主回路15A,15Bの双方を制御するように示されているが、インバータ主回路15Aに対応するインバータ制御部とインバータ主回路15Bに対応するインバータ制御部とに区分されていてもよい。
【0023】
インバータ制御部17は、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bに互いに逆位相の交流電流を供給するように、インバータ主回路15Aとインバータ主回路15Bのそれぞれを構成する半導体スイッチング素子16のONおよびOFFを制御する。インバータ制御部17は、サーボモータ3の電流を検出し、かつ、平滑コンデンサ13の電圧を検出して、半導体スイッチング素子16のONおよびOFFを制御する。また、インバータ制御部17は、サーボモータ3A,3Bのぞれぞれのエンコーダからの情報をもとに、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bの動作を互いに同期制御する。
【0024】
[サーボモータ3:
図1]
サーボモータ3は、
図1に示すように、三相交流のサーボモータからなり、それぞれが巻線からなる三つのコイル31u,31v,31wと、コイル31u,31v,31wが巻き回される導電体からなるステータ32(32A,32B)と、を備えている。サーボモータ3は、コイル31u,31v,31wおよびステータ(固定子)32に加えて、ステータ32の内側に回転可能に設けられるロータ(回転子)などを備えているが、
図1においては図示が省略されている。ロータは永久磁石からなる場合もあればコイル、カゴからなる場合もある。
【0025】
第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bは、同じ仕様を有しており、その動作が互いに同期制御される。第一サーボモータ3Aは第一モータ群および第二モータ群の一方に対応し、第二サーボモータ3Bは第一モータ群および第二モータ群の他方に対応する。本実施形態は、第一モータ群および第二モータ群のそれぞれにおけるサーボモータ3の個体数Nは1で同じ値である。第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bは、双方のステータ32Aとステータ32Bが導体33により電気的に導通されている。この導体33は対地Eに接続できる。
【0026】
[整流器11:
図1]
整流器11は、電流を一方向にだけ流す整流作用を有する素子からなり、三相交流電源1から出力される交流電流を直流電流に変換する。整流器11は、例えば一対の整流ダイオードを備え、それらを交互に流れる交流を整流する。一対の整流ダイオードに交流を交互に流すために、例えば、整流器11は一対の整流ダイオードのそれぞれに対応する半導体スイッチング素子を備える。なお、整流器11を回生または発電により電流を電動機側から整流器11の側に供給可能なコンバータと置き換えることも可能である。
【0027】
[平滑コンデンサ13:
図1]
平滑コンデンサ13は、整流器11による整流後も発生するリップルを抑え、より直流に近い電流が得られるように信号を平滑化する。整流後に平滑コンデンサ13を挿入することにより、電圧が高い時には蓄電し、電圧が低い時には放電するので、電圧の変動を抑える効果を奏する。
【0028】
[インバータ主回路15(15A,15B):
図1]
インバータ主回路15は、
図1に示すように、サーボモータ3に備えられたu相、v相、w相のコイル31u,31v,31wのそれぞれに対応する半導体スイッチング素子16を含んで構成されている。半導体スイッチング素子16はそれぞれ一対ずつ設けられている。つまり、インバータ主回路15Aにおいて、図中の上側に配置される半導体スイッチング素子16u1,16v1,16w1と、図中の下側に配置される半導体スイッチング素子16u2,16v2,16w2と、に区分されている。また、インバータ主回路15Bにおいて、図中の上側に配置される半導体スイッチング素子16u3,16v3,16w3と、図中の下側に配置される半導体スイッチング素子16u4,16v4,16w4と、に区分されている。
【0029】
インバータ主回路15は、半導体スイッチング素子16のスイッチング、つまりONおよびOFFにより生成された駆動電流をインバータ回路出力としてサーボモータ3のコイル31u,31v,31wに供給する。
半導体スイッチング素子16は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ:Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、その他の半導体素子から構成できる。
【0030】
[インバータ制御部17:
図1]
インバータ制御部17は、インバータ主回路15A,15Bを構成する半導体スイッチング素子16のそれぞれのONおよびOFFを制御する。この制御を通じて、インバータ主回路15A,15Bは、サーボモータ3A,3Bを同期制御させる。インバータ制御部17は、第一サーボモータ3Aと第二サーボモータ3Bには、互いに逆位相の電流が供給されるように、半導体スイッチング素子16のそれぞれのONおよびOFFを制御する。これは、インバータ制御部17によるインバータ主回路15A,15Bの一方のスイッチング周期を、インバータ主回路15A,15Bの他方のスイッチング動作の周期より半周期の位相分だけ遅らせることにより実現される。
【0031】
[サーボモータ3とインバータ回路20の接続形態:
図1]
第一サーボモータ3A,第二サーボモータ3Bと、第一インバータ回路20A,第二インバータ回路20Bと、は、線路U1,線路U2からなる伝送線路T1、線路V1,線路V2からなる伝送線路T2、線路W1,線路W2からなる伝送線路T3、により接続されている。具体的には、以下の通りである。
第一サーボモータ3Aのコイル31uと第一インバータ回路20Aにおける半導体スイッチング素子16u1、16u2と、は線路U1により接続される。
第二サーボモータ3Bのコイル31uと第二インバータ回路20Bにおける半導体スイッチング素子16u3,16u4と、は線路U2により接続される。
第一サーボモータ3Aのコイル31vと第一インバータ回路20Aにおける半導体スイッチング素子16v1、16v2と、は線路V1により接続される。
第二サーボモータ3Bのコイル31vと第二インバータ回路20Bにおける半導体スイッチング素子16v3,16v4と、は線路V2により接続される。
第一サーボモータ3Aのコイル31wと第一インバータ回路20Aにおける半導体スイッチング素子16w1、16w2と、は線路W1により接続される。
第二サーボモータ3Bのコイル31wと第二インバータ回路20Bにおける半導体スイッチング素子16w3,16w4と、は線路W2により接続される。
【0032】
伝送線路T1(線路U1,U2)、伝送線路T2(線路V1,V2)および伝送線路T3(線路W1,W2)には、ノイズフィルタ5Aがそれぞれ二つずつ設けられているが、一つずつでもよいし、いずれかの伝送線路だけに設けられてもよい。
【0033】
[ノイズフィルタ5Aの構成:
図2]
一例として短冊形状の長さ方向αに沿って延びるノイズフィルタ5Aの構造について、
図2を参照して説明する。なお、説明の便宜上、長さ方向α、幅方向γおよび厚さ方向βを
図2に示すように特定する。また、ノイズフィルタ5Aについて、前端(F)および後端(B)を
図2に示すように特定する。
ノイズフィルタ5Aは、厚さ方向βの両方の外側に所定の間隔を隔てて設けられる第一導電部材51A,第二導電部材51Bと、第一導電部材51A,第二導電部材51Bのそれぞれの内側に接して設けられる第一中間部材53A,第二中間部材53Bと、を備える。また、ノイズフィルタ5Aは、第一中間部材53A,第二中間部材53Bの内側に接して設けられる第三導電部材55A,第四導電部材55Bと、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bの間に挟まれる第一磁路57と、を備える。さらに、ノイズフィルタ5Aは、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bの間であって、第一磁路57の長さ方向αの両側にそれぞれ設けられる第一抵抗部材65A,第二抵抗部材65Bを備える。第一抵抗部材65Aは前端(F)の側に設けられ、第二抵抗部材65Bは後端(B)の側に設けられる。
【0034】
以上のノイズフィルタ5Aにおいて、一例として、第一導電部材51Aは伝送線路T1,T2,T3の線路U1,V1,W1に接続され、第二導電部材51Bは伝送線路T1,T2,T3の線路U2,V2,W2に接続され、伝送線路の一部を構成する。
【0035】
第一導電部材51A~第四導電部材55Bは、電気抵抗率の小さい金属材料、例えば銅、銅合金から構成される。この中で、第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bは、長さ方向α、厚さ方向βおよび幅方向γの寸法が同じに形成されている。また、この中で、第三導電部材55Aおよび第四導電部材55Bは、長さ方向α、厚さ方向βおよび幅方向γの寸法が同じに形成されている。ただし、第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bに比べて、第三導電部材55Aおよび第四導電部材55Bは長さ方向αおよび厚さ方向βの寸法が小さく形成されている。
【0036】
第一中間部材53Aおよび第二中間部材53Bは、以下に例示される電気的な絶縁材料から構成される。
第一中間部材53Aおよび第二中間部材53Bは、一例として長さ方向α、厚さ方向βおよび幅方向γの寸法が同じに形成されている。また、第一中間部材53Aおよび第二中間部材53Bは、一例として第三導電部材55Aおよび第四導電部材55Bと長さ方向αおよび幅方向γの寸法が同じに形成されている。
【0037】
第一中間部材53Aおよび第二中間部材53Bを構成する電気的な絶縁材料の例示
樹脂材料:ポリエチレン、発砲ポリエチレン、ポリパーフロロアルコキシエチレン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリフェニルサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル
化合物:チタン酸バリウム(BaTi03)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、ジルコン酸カルシウム(CaZr3)、酸化ケイ素(SiO2)
気体:空気、窒素ガス、6フッ化硫黄
その他:ガラス
【0038】
第一磁路57は、強磁性材料(軟磁性材料)は、以下に例示される材料から構成される。なお、後述する第二磁路58、第三磁路59、第四磁路61、第五磁路63についても同様の材料が適用され得る。
また、第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bは、以下に例示される電気抵抗率の大きい(高抵抗材)から構成される。第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bは一例として第一磁路57と同じ厚さ方向βの寸法を有している。
第一磁路57、第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bの三つの部材の長さ方向αの寸法を加えると、一例として第一中間部材53Aなどと長さ方向αの寸法と同じになる。
【0039】
第一磁路57を構成する強磁性材料の例示:
ソフトフェライト材料;Ni-Znフェライト、Mn-Znフェライト
金属系材料;パーマロイ、アモルファス合金(Co基、Fe基)、ナノ結晶軟磁性合金(Co基、Ni基、Fe基)
【0040】
第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bを構成する高抵抗材の例示:
金属皮膜、酸化金属皮膜、メタルグレーズ、炭素皮膜、ニクロム(Nichrome)合金
【0041】
以上の積層構造を有するノイズフィルタ5Aにおいて、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bとが、第三導電部材55A、第一抵抗部材65A、第四導電部材55B、第二抵抗部材65B、第三導電部材55A…を通る環状の電気的な経路を構成する。この環状の電気的な経路、つまり環状導電部構造は、
図2(b)に破線矢印で示されている。この環状導電部構造において、電流は上記する第三導電部材55A、第一抵抗部材65A、第四導電部材55B、第二抵抗部材65B、第三導電部材55A…の順に流れることもあれば、この逆の順に流れることもある。
【0042】
[ノイズフィルタ5Aの効果:
図3]
以上の環状導電部構造は、
図3に示すように、伝送線路T1(線路U1,U2)に対して直列にコイル(L)-抵抗(R
L)の並列回路を形成し、伝送線路T1(線路U1,U2)に対して並列にコンデンサ(C)-抵抗(R
C)の直列回路を形成することと等価である。なお、
図3は伝送線路T1(線路U1,U2)を例示しているが、伝送線路T2(線路V1,V2)、伝送線路T3(線路W1,W2)についても同様である。コイル(L)-抵抗(R
L)の並列回路およびコンデンサ(C)-抵抗(R
C)の直列回路は、
図3(a)~(c)に示すパターンで配列される。
【0043】
[インピーダンスに関する効果]
図3を前提として、第一抵抗部材65Aは第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bの伝送線路に接続する一方の端側に設けられ、第二抵抗部材65Bは第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bの伝送線路に接続する他方の端側に設けられる。これにより、
図2(b)に示すように、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bは環状に連結される。つまり第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bは、それぞれ互いに並列に配置されており、かつ並列に配置された第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bは、いずれも第三導電部材55Aおよび第四導電部材55Bと直列に配置されている。この環状導電部構造によって、伝送線路の一方の線路、例えば第一導電部材51Aに負荷された電位によって第一中間部材53Aを介して対向する第三導電部材55Aに誘起される電荷Aと、伝送線路の他方の線路、例えば第二導電部材51Bに負荷された電位によって第二中間部材53Bを介して対向する第四導電部材55Bに誘起される電荷Bと、を交換できる。
追って詳述するが、本実施形態は、部材形状が単純なこと、材質配置の対称性が確保できること、部材の寸法精度を高くできる。これにより、第一導電部材51A、第一中間部材53A、第三導電部材55Aからなるコンデンサ構造の容量、周波数特性、温度特性等と、第二導電部材51B、第二中間部材53B、第四導電部材55Bからなるコンデンサ構造の容量や周波数特性、温度特性等と、を等しくできる。そうすれば、第一導電部材と第二導電部材に印加された電流に含まれる対称なノイズに起因する電荷Aと電荷Bと、の電荷の差を小さくすることができる。この等しい電荷の交換により、互いの高周波ノイズを外部に漏れることを防止できるだけでなく、伝送線路に周波数が高い電流が流れた時には、ノイズフィルタ5Aのインピーダンスの抵抗成分が大きく、損失を大きくすることができる。
【0044】
特に、伝送線路(第一導電部材51Aおよび第二導電部材51B)に流れる電流によって、第一中間部材53Aおよび第二中間部材53B(中間部材)を介して対向する第三導電部材55Aおよび第四導電部材55Bに発生する誘導電流に対して抵抗部材を直列に連結できる。これにより、伝送線路に周波数が低い電流が流れた時には、ノイズフィルタ5Aのインピーダンスの抵抗成分が小さく、かつ、損失を小さくすることができる。
【0045】
前述した詳述の内容は以下の通りである。
伝送線路の一方の線路、例えば第一導電部材51Aに印加された電流から前述した環状導電部構造への第一の電磁誘導による起電流と、伝送線路の他方の線路、例えば第二導電部材51Bに印加された電流から環状導電部構造への第二の電磁誘導による起電流と、を電流重畳できる。この電流重畳は、環状導電部構造の第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bを直列に流れることにより負荷を持つ、この負荷を2次負荷とする。
この2次負荷は第一導電部材51Aに印加された電流に対する負荷に換算することが可能であり、この換算負荷を第一の1次換算負荷とし、この換算における比率を第一の換算率とする。また、この2次負荷は第二導電部材51Bに印加された電流に対する負荷に換算することが可能であり、この換算負荷を第二の1次換算負荷とし、この換算における比率を第二の換算率とする。
【0046】
第一導電部材51A、第二導電部材51B、第三導電部材55A、第四導電部材55B、第一中間部材53A、第二中間部材53B、第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bを各部材とし、これら各部材は短冊状、棒状、筒状等の形成容易な形状であり、一般の加工技術を用いて±1%未満の寸法誤差を確保できる。
寸法誤差が小さいと、第一導電部材51Aと前述した環状導電部構造との位置関係と、第二導電部材51Bと環状導電部構造との位置関係と、の位置関係の差を小さくできる。
また、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとは同一の材質とし、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとは同一の材質とし、第一中間部材53Aと第二中間部材53Bとは同一の材質とし、第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bとは同一の材質とする。これにより、第一導電部材51Aと前記環状導電部構造と、を含む各部材の材質の配置関係と、第二導電部材51Bと前記環状導電部構造と、を含む各部材の材質の配置関係と、の材質配置関係の差をなくすことができる。
【0047】
位置関係の差が小さいことと材質配置関係の差がないことは、前述した第一の電磁誘導と前述した第二の電磁誘導の差において、周波数特性および温度特性の差を小さくできる。
【0048】
第一導電部材51Aまたは第二導電部材51Bと、環状導電部構造と、の位置関係差は小さく、材質配置関係の差がないため第一の換算率と第二の換算率とを等しくできる。
第一の1次換算負荷と第二の1次換算負荷とは環状導電部構造からなる共通の2次負荷を持ち、第一の換算率と第二の換算率とを等しくできるため、第一の1次換算負荷と第二の1次換算負荷とを等しくできる。
第一導電部材51Aと第二導電部材51Bが等しい1次換算負荷を持つことができれば、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bに印加された電流に含まれる対称なノイズ電流を対称に損失させ、確実に相殺させることができる。これを正負対称構造のノイズフィルタとする。
【0049】
特許文献1ではコモンモードコイル(13)に巻き線構造のコイルを用いており、通常、巻き線構造のコイルの公差は±5%から±10%である。正負対称なノイズがコモンモードコイル(13)に印加されたとしても、第一の線路側を流れる正のノイズと第二の線路側を流れる負のノイズと、の損失の差は最大で公差の倍の±10%から±20%になり、ノイズを相殺できないおそれがある。
特許文献1のノイズフィルタが正負対称構造でないとしても、ノイズの強度、周波数分布によっては問題にならない。本実施形態のノイズフィルタも正負対称構造でない構造とすることが可能であり、ノイズの強度、周波数分布によっては問題にならない。
【0050】
さらに、後述するように、ノイズフィルタ5Aのインピーダンスは第一導電部材51Aおよび第二導電部材51BからなるインダクタンスLと第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bと第三導電部材55Aおよび第四導電部材55BからなるキャパシタCの比と、第一抵抗部材65A第二抵抗部材65Bの比から決定できる。したがって、損失の大小に関わらず、当該インピーダンスを一定とできるためインピーダンス整合が容易となる。
【0051】
以下、本実施形態において特徴的な特性インピーダンス整合を説明する。なお、以下では、真空の誘電率をε
0とし、真空の透磁率をμ
0とする。
(1)伝送線路の特性インピーダンス
平行平板の伝送線路の場合、
図4に示すように、第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bの幅をW、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとの距離をdとすると、その特性インピーダンスZ
dppは式(1)の通りとなる。なお、W,dなどは
図4に示されている。
【0052】
【0053】
(2)二次回路の特性インピーダンス
次に、ノイズフィルタ5Aにおける二次回路の特性インピーダンスについて、
図4をも参照して説明する。なお、各部材の仕様が以下のように定義されるものとする。そうすると、
図4における第一導電部材51Aと第三導電部材55Aの間の静電容量1(C
1)と、第二導電部材51Bと第四導電部材55Bの間の静電容量2(C
2)は、式(2)の通りとなる。また、静電容量1(C
1)と静電容量2(C
2)との直列接続容量C
34は、式(3)の通りとなり、環状導電部構造のインダクタンスL
56は式(4)の通りとなる。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
[部材の仕様]
第一導電部材51Aと第三導電部材55Aとの比誘電率:ε13
第二導電部材51Bと第四導電部材55Bとの比誘電率:ε24
第一導電部材51Aと第三導電部材55Aとの距離:d13
第二導電部材51Bと第四導電部材55Bとの距離:d24
第三導電部材55Aの表面積:S1 , 第四導電部材55Bの表面積をS2
第三導電部材55A,第四導電部材55Bの長さ:l56
磁路17の比透磁率:μr
【0058】
ただし、式(4)におけるd56はdから、誘電体+第三導電部材55A+第四導電部材55B+誘電体の厚さを減算した距離W34は第三導電部材55Aと第四導電部材55Bの幅と一致する。
【0059】
第一抵抗部材65Aの抵抗値をR5[Ω]、第二抵抗部材65Bの抵抗値をR6[Ω]とすと、直列接続容量C34に関係する第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bが並列接続されているので、式(5)の通りとなる。
【0060】
【0061】
環状導電部構造にかかる抵抗値は第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bが直列に接続されているので、式(6)の通りとなる。
【0062】
【0063】
次に、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとを伝送する交流電流の角速度をω[rad/s]とすると、当該ノイズフィルタ5Aの特性インピーダンスZ0は式(7)の通りとなる。
ここでkを任意の値として式(8)の条件を前提とすると、式(7)は式(9)となり、ωが消去される。これにより、理論上は、ノイズフィルタ5Aの特性インピーダンスを周波数によらず一定にできる。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
次に、式(1)における伝送線路の特性インピーダンスから式(10)を満足するkを選べば、伝送線路とインピーダンス整合できる。
式(11)から損失と無損失のインピーダンス比が1:1となる周波数が式(12)により求められる。
式(7)においてωがω0より十分大きい、つまり周波数が高いと式(13)となり、かつ、式(14)となって抵抗成分が有効となる。
また、式(7)においてωがω0より十分小さい、つまり周波数が低いと式(15)となり、かつ、式(16)となって抵抗成分が無効となる。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
[短冊状構造:
図2(b)]
ノイズフィルタ5Aにおいて、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bを平行かつ平板状の伝送線路とすることで、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの互いに対向する形状を同じとすることができる。これにより互いの間に発生する磁界を利用したコイル構造において、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bのそれぞれから発生する磁界の分布を同じとすることができるとともに、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの間に発生する電界を利用したコンデンサ構造おいて、誘起される電荷の密度を同じとすることができる。これにより偏りのない対称な電界と磁界を構成してノイズ拡散の予防が容易となる。
【0076】
[コンデンサ構造,トランス構造の単純化]
また、ノイズフィルタ5Aよれば、伝送線路を構成する第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの間に発生する電界を直接利用すること、伝送線路と第三導電部材55Aまたは第四導電部材55Bとでコンデンサ構造を構成し、通常、2枚の電極板が必要なコンデンサ構造において、1枚の電極板でコンデンサ構造を実現することでコンデンサ構造そのものを単純化できる。
また合わせて、伝送線路を構成する第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの間に発生する磁界を直接利用することで、伝送線路と環状導電部構造との間でトランス構造を構成し、通常、2つのコイルが必要なトランス構造において、1つのコイルでトランス構造を実現することでトランス構造そのものを単純化できる。
【0077】
[対称構造を有するノイズフィルタ5A]
第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとを接続する第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bとの合計4個の部品で伝送線路に流れる双方向の電流に対して対称構造のノイズフィルタ5Aを構成できる。この対称構造のノイズフィルタ5Aの等価回路図が
図5に示されている。
【0078】
さらに、ノイズフィルタ5Aは、少なくとも第一導電部材51Aと第三導電部材55Aとの絶縁か、第二導電部材51Bと第四導電部材55Bとの絶縁のどちらか一方が絶縁されていればよい。したがって、第一導電部材51Aに第三導電部材55Aを含めて一体とするか、第二導電部材51Bに第四導電部材55Bを含めて一体とするか、のどちらか一方を選択することで、合計3個の部品で伝送線路に流れる双方向の電流に対して対称構造のノイズフィルタ5Aを構成できる。
【0079】
[コイルとコンデンサの間の距離が0]
また、ノイズフィルタ5Aはさらに、コイルの電線とコンデンサの電極とを第三導電部材55Aまたは第四導電部材55Bで兼用することで、コイルとコンデンサの間の距離を0にできる。これにより、コイルから巻線繰り返し構造と、コンデンサからリード構造(部品の足)や積層繰り返し構造を排除することができる。そうすることで、浮遊キャパシタンスと寄生インダクタンスとをなくすことができるとともに、構造による周波数上限の制限を高くできる。さらに、コイルのインダクタンスとコンデンサのキャパシタンスとの比を一定にできる周波数と、前述のコイルのインダクタンスとコンデンサのキャパシタンスと当該比から決まるインピーダンスが一定にできる周波数上限を高くできるため、高い周波数域まで伝送線路とインピーダンス整合できる。
【0080】
[材質の選択肢]
また、ノイズフィルタ5Aにおいて、磁界を担う第一磁路57と、電界を担う第一中間部材53Aまたは第二中間部材53Bとは、異なる材料を適用することができるため、第一磁路57に一般的な磁性材料、中間部材に一般的な誘電体材料を用いるなど、材質の選択肢の幅が広く、性能対価格において有利である。
【0081】
[X=Y/N(Nは整数)の関係]
またノイズフィルタ5Aはさらに、伝送線路の一部を構成する第一導電部材51Aと第二導電部材51Bを流れる電流の波長Xが、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの電流の流れる方向の長さYに対して短く、X=Y/N(Nは整数)の関係があるとする。このとき、第一導電部材51Aと第三導電部材55Aとの間と第二導電部材51Bと第四導電部材55Bとの間に、それぞれ流れる電流によって電位の高と低(山と谷)が各N個あることになる。このため、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとの間の両端に抵抗部材を備えるだけでは、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとの間の電位差に応じた電流が抵抗部材に流れず、十分な損失を得ることができない。この様子が
図6に示されている。
【0082】
これに対して、
図7(a),(b)に示すように、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとの間の電流の流れる方向に2N個(偶数個)の抵抗部材65を備えることで、電位差に応じた電流が抵抗部材を流れ、十分な損失を得ることができる。偶数個の抵抗部材を備えることで、いずれの位置においても環状回路とすることができる。
2N個の抵抗部材は必ずしも均等間隔で配置する必要はなく、流れる電流の波長Xの分布、揺らぎを元に不均等な間隔で配置してもよい。2N個が十分に大きい値(個数)となる場合、2N個の個別抵抗ではなく、全体として1個(1体)の連続抵抗に置換することが可能である。この形態が
図7(c)に例示されている。つまり、2N個が十分に大きい値になり、抵抗部材65の胴部の太さとこれに接続されるリード線(図示省略)の太さが無限大に細くなれば、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bとの間を橋渡す抵抗部材65同士の間隔を無限大に狭くなる。そうすれば、全体として金属塊や導電材塊などのように一体化された連続抵抗を構成することができる。なお、
図7(c)において、矢印は電流が流れる向きを示している。
【0083】
また、通常の抵抗部材は同一時刻に一方向に電流を流す部品であるが、前述した連続抵抗は、同一時刻に連続抵抗の任意の複数箇所において電流の流れる向きが互いに異なり、単一の部品でありながら2方向以上の向きに電流を流すことができる。連続抵抗は、見かけ上、1個の抵抗器であるが、2方向以上に電流を流すことから、少なくとも2個以上の抵抗部材に相当する。
【0084】
[抵抗部材のインピーダンス回路への置換]
第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bをインピーダンス回路に置換して、インピーダンス回路に周波数特性を持たせることで、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとからなる伝送線路の特性インピーダンスに対して、本実施形態に係るノイズフィルタ5Aのインピーダンスを高くすることで当該伝送線路を伝達する電流を正位相反射させる、または、ノイズフィルタ5Aのインピーダンスを低くすることで当該伝送線路を伝達する電流は逆位相反射する等を周波数帯毎に選択することが可能である。
特に、第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bの一方または両方を0Ωまたは極めて小さな抵抗値とした場合、前述した直列接続容量C34と環状導電部構造のインダクタンスL56とがノイズフィルタ5Aのインピーダンスの主成分となり、ノイズフィルタ5AはLC共振回路としての性質を持ち、共振周波数を持ち、共振周波数と同じ周波数の電流に対しては短絡と同じ効果を持つ。
この効果により、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bと、を互いに符号が逆で同じ方向に伝達する当該共振周波数と同じ周波数の電流は、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとの間を短絡する。LC共振回路は抵抗値を持たないか持ったとしても極めて小さいため、この短絡した電流は損失することなく、短絡経路をすれ違い、当該伝達の方向と逆の方向に反射される。
【0085】
インバータ回路20から出力される不要な周波数と、当該共振周波数と、を一致させた本実施形態に係るノイズフィルタ5Aをインバータ回路20の出力に備えることで、当該不要な周波数の電流を出力からインバータ回路20に反射することが可能であり、不要な周波数の電流のインバータ回路20からサーボモータ3への伝達を阻止できる。
【0086】
[ノイズフィルタ5Aによる伝送の特徴など]
また、ノイズフィルタ5Aを伝送線路に少なくとも1個、好ましくは2個以上備えることにより、伝送線路における無歪伝送と電力伝送の損失低減とを両立できる。
【0087】
ノイズフィルタ5Aのインピーダンスは前述の通り一定であり、伝送線路の特性インピーダンスと整合できるため、無歪伝送が容易となる。
低周波ではインピーダンスに抵抗成分を持たないため、低い周波数の電力伝送において記電力送電のエネルギを損失しない。
高周波ではインピーダンスに抵抗成分を持つため、電力伝送に含まれている高周波ノイズのエネルギを熱に変換して消費することでノイズを除去できる。
【0088】
ノイズフィルタ5Aを備えない伝送線路の場合、伝送線路の両端で伝送電力の反射が発生し、伝送電力が伝送線路を往復伝送され、電力の往路と復路(反射)の波が合成されて定在波となるおそれと、定在波の振幅が大きくなるおそれと、がある。
この定在波には高周波電力が含まれ、高周波電力にはノイズが含まれるため、定在波の振幅が大きくなることと、ノイズの振幅が大きくなることとは同意である。
【0089】
また、ノイズフィルタ5Aのインピーダンスは前述の通り一定であり伝送線路とインピーダンス整合が容易である。インピーダンスが一定の伝送線路の両端にインピーダンス整合したノイズフィルタ5Aを備える場合、伝送線路の両端において反射を防止できるので、伝送線路における電力伝送において定在波の発生抑止が可能であるとともに、電力の無歪伝送が可能である。
【0090】
実際の伝送線路に対し複数のノイズフィルタ5Aを備えることで定在波を抑止できる。伝送線路やノイズフィルタ5Aの実物のインピーダンスは設計値に対して誤差を持ち、ノイズフィルタ5Aを含む伝送線路の経路の一部でインピーダンス整合できないおそれがある。
特に伝送線路が長い場合、伝送線路の全経路において一定のインピーダンスを保つことが困難であり、インピーダンスが一定でない箇所で電力が反射し、伝送線路に定在波が発生する。
定在波には1組以上の腹と節が存在し、伝送線路中において腹の位置に相当する位置にノイズフィルタ5Aを備えることで、定在波が含む高周波の電力を効果的に損失することができ、高周波の電力に含まれるノイズを低減できる。
【0091】
伝送線路に電力を供給すると伝送線路を伝わる電力は伝送線路の両端でそれぞれ1回反射されるが、ノイズフィルタ5Aを伝送線路の両端の何れか一方の端に備える場合、伝送線路を伝わる電力は、他方の端で1回反射され、反射された電力がノイズフィルタ5Aを通過したときに、反射した電力中の高周波の電力を損失することができ、高周波の電力に含まれるノイズを低減できる。また伝送線路の途中に備えるノイズフィルタ5Aの位置は、必ずしも伝送線路の端である必要はない。伝送線路の中央に備えてもよいし、その他の位置に備えても良い。つまり伝送線路にノイズフィルタ5Aを1つ備えるだけで定在波を抑止できる。
【0092】
ノイズフィルタ5Aは、低周波ではインピーダンスの抵抗成分の比率が小さいため、低い周波数の電力伝送において記電力送電のエネルギ損失は無視できる程に小さい。
また高周波ではインピーダンスの抵抗成分の比率が大きいため、電力伝送に含まれている高周波ノイズのエネルギを熱に変換して損失することでノイズを除去できる。
【0093】
また、伝送線路が動力線と線路接地線Eで構成される場合、ノイズフィルタ5Aの第一導電部材51Aまたは第二導電部材51Bのいずれか一方を動力線に接続し、他方を接地線Eに接続してもよい。この一例が
図8(a)に示されている。この場合、コモンモードノイズにおいても反射を防止し高周波ノイズ成分を減衰することができる。
また、ノイズフィルタ5Aを設ける位置は、インバータ回路(第一インバータ回路20A,第二インバータ回路20B)とサーボモータ(第一サーボモータ3A,第二サーボモータ3B)との間に限らない。例えば、
図8(b)に示すように、インバータ回路(第一インバータ回路20A,第二インバータ回路20B)と商用三相交流電流(R/S/T)を直流に整流してインバータ回路20に直流を供給する整流器11の間にノイズフィルタ5Aを設けることもできる。この場合のノイズフィルタ5Aは、直流の伝送回路に適用されたことになる。
【0094】
[電動機駆動装置10における効果]
電動機駆動装置10は、互いに同期した逆位相の電位が付加された2組の三相交流それぞれの対応する各相線を対にして3組の伝送線路を構成し、ノイズフィルタ5Aの第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bに結線されている。これによって、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bにそれぞれ等価で逆位相の誘電が発生する。このとき伝送線路に流れる電流に含まれるノイズもまた等価で逆位相の電位をもつため、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bに誘起されるノイズ成分も等価で逆位相となる。これにより第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bによってノイズが相殺または損失されて、周囲へのノイズの影響を防止することができる。
【0095】
[第二実施形態:
図9]
次に、第二実施形態に係るノイズフィルタ5Bについて、
図9を参照して説明する。
ノイズフィルタ5Bは、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bと第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bの外周を囲うように第二磁路58を備える。つまり、
図9(a),(b),(c)に示すように、第二磁路58は、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの両方の外側(Out)の表面(外周面)に接するように設けられる。また、
図9(c)に示すように、第二磁路58は、第一導電部材51Aから第二導電部材51Bまでのノイズフィルタ5Bの要素の幅方向γにおける前端(F)と後端(B)とに接して覆うように設けられる。このように、第二磁路58は周回経路によって第一導電部材51Aから第二導電部材51Bまでのノイズフィルタ5Bの要素を覆って束ねている。
以上の構成を備えるノイズフィルタ5Bは、第一磁路57と第二磁路58が前端(F)と後端(B)において接触するので、互いに磁気的に連通する。加えて、第二磁路58によって、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bと第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65Bと第一磁路57が束ねられて一体化されている。
なお、ノイズフィルタ5Bにおいて、伝送線路を構成する第一導電部材51Aと第二導電部材51Bへの電流を供給するための、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの端子部を除いた長さ方向α(
図9(a),(b)の左右方向)の両端面を第二磁路58で覆ってもよい。つまり第一、第二中間部材、第一、第二抵抗部材、第三、第四導電部材の端面である、ノイズフィルタ本体の伝送線路の電流の流れる方向の端面も第二磁路部材で覆ってもよい。このことは後述するノイズフィルタ5C,5Dについても同様に適用できる。
【0096】
ノイズフィルタ5Bは、伝送線路である第一導電部材51Aと第二導電部材51Bの2線の外側においては、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bに、それぞれ互いに逆向きに電流を流した場合、それぞれの電流から発生する磁界が互いに逆となり弱め合い磁界の強度が小さくなる。
【0097】
しかし、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bのどちらか一方(例えば51A)の外側Outの近傍領域NAは、一方の導電部材(51A)までの距離に比べて他方の導電部材(例えば51B)までの距離が大きい。そのため、該一方の導電部材(51A)の外側の近傍領域NAにおいては、一方の導電部材(51A)から発生する磁界に対して他方の導電部材(51B)から発生する磁界が弱くなる。このため当該近傍領域NAにおける磁界の向きが逆とはなっても十分に磁界が弱まらず、周囲に磁気の影響を及ぼすおそれがある。
【0098】
そこで、ノイズフィルタ5Bは、磁界の起因となる電流が流れる回路を構成する第一導電部材51Aと第二導電部材51Bと第三導電部材55Aと第四導電部材55Bと第一抵抗部材65Aと第二抵抗部材65B、特に第一導電部材51Aと第二導電部材51Bを囲う第二磁路58を備える。そうすることで、磁界を第二磁路58に収容し、周囲への磁界漏洩の影響を小さくすることができる。
【0099】
[第三実施形態;
図10]
次に、第三実施形態に係るノイズフィルタ5Cについて、
図10を参照して説明する。
ノイズフィルタ5Cは、伝送線路である第一導電部材51Aと第二導電部材51Bを棒形状とし、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bをそれぞれ第一導電部材51Aと第二導電部材51Bを囲う筒形状とする。この構造を採用することにより、伝送線路から誘起される磁界と電界を第三導電部材55Aと第四導電部材55Bで吸収してノイズ拡散の予防が容易となる。
具体的には、
図10(a)に示されるように、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bが棒状部材であり、第三導電部材55Aが第一導電部材51Aを内挿可能な筒状形状を有するとともに、第四導電部材55Bが第二導電部材51Bを内挿可能な筒状形状を有する。また、
図10(b)に示されるように、第二磁路58が
図10(a)に示される構造の周囲を取り囲むように配置される形態で実施することもできる。
【0100】
[第四実施形態:
図11]
次に、第四実施形態に係るノイズフィルタ5Dについて、
図11を参照して説明する。
第四実施形態に係るノイズフィルタは、すべての部材を同軸にて配置することで、第三実施形態のノイズ拡散予防効果に加えて、ノイズフィルタをコンパクトにすることができる。
具体的には、
図11(a)に示されるように、ノイズフィルタは、第二導電部材51Bが棒状であり、第四導電部材55Bが第二導電部材51Bを内挿可能な筒状形状を有するとともに、第三導電部材55Aが第四導電部材55Bを内挿可能な筒状形状を有するとともに、第一導電部材51Aが第三導電部材55Aを内挿可能な筒状形状を有する。
【0101】
ノイズフィルタ5Dを構成する全ての部材が完全に同軸ではなく、偏心しているものとする。この場合、第一導電部材51Aの発生する磁界と第二導電部材51Bの発生する磁界との向きは第二導電部材51Bの外側において逆となっても完全に打消し合うことがないため、当該外側の磁界の強度が十分に小さくならず、周囲に磁気の影響を及ぼすおそれがある。
図11(b)に示すように、第二磁路58が
図11(a)に示される構造の周囲を取り囲むように配置することで、当該外側の磁界を第二磁路58に収容し、周囲への磁界漏洩の影響を小さくすることができる。この場合、第一磁路57と第二磁路58とは物理的に連通していないが、第一導電部材51Aの外側と内側との間で磁力線の出入りが発生するため、互いに磁気的に連通していると見なすことができる。
【0102】
[第五実施形態:
図12]
次に、第五実施形態に係る統合型のノイズフィルタ(以下、統合ノイズフィルタ)7Aについて、
図12を参照して説明する。統合ノイズフィルタ7Aは、第三実施形態に係るノイズフィルタを複数組備えている。
統合ノイズフィルタ7Aは、複数組のノイズフィルタの第一磁路57が第三磁路59を介して一体に連結されおり、複数組のノイズフィルタのそれぞれの第二磁路58は互いに離間している。
統合ノイズフィルタ7Aは、500Hz以下の磁界に対して、第三磁路59の比透磁率が複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一磁路57の比透磁率より高く、かつ、1MHz以上の磁界に対して、第三磁路59の比透磁率が複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一磁路57の比透磁率より低い。
【0103】
インバータとモータを伝送線路で接続し、高トルクでモータを駆動する場合、伝送線路である第一導電部材51Aと第二導電部材51Bに大電流が流れ、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとの周囲に強い磁界が発生するため、第一導電部材51Aと第二導電部材51Bとの周囲の磁路が磁束飽和してしまうおそれがある。
一般にモータを駆動する電流の周波数は500Hz以下が用いられるため、電流から発生する磁界の周波数も500Hz以下が一般的であるので、磁束飽和の原因となるほど大きな磁界も500Hz以下の低周波磁界である。
【0104】
インバータの交流化スイッチングに起因するノイズの電流の周波数は1MHz以上が多く、電流から発生する磁界の周波数も1MHz以上となるのでノイズの原因となるほど大きな磁界も1MHz以上の高周波磁界である。
500Hz以下の低周波磁界に対して第三磁路59の比透磁率は各々の第一磁路の比透磁率より高く、1MHz以上の高周波磁界に対して第三磁路59の比透磁率は各々の第一磁路の比透磁率より低い比透磁率を持つので、500Hz以下の低周波磁界と1MHz以上の高周波磁界は、一つの磁路に集中することを防止できる。磁界は比透磁率の高い磁路に集中するので、500Hz以下の低周波磁界は第三磁路59に集中し、1MHz以上の高周波磁界は第一磁路に集中する。これにより広域周波数域の磁界がある場合、500Hz以下の低周波磁界と1MHz以上の高周波磁界は、それぞれ第一磁路と第三磁路59に分離することができるので一つの磁路に磁界が集中することを防止できる。よって一つの磁路に磁束が集中する磁束飽和を防止することができる。
【0105】
[第六実施形態:
図13]
次に、第六実施形態に係る統合型のノイズフィルタ(以下、統合ノイズフィルタ)7Bについて、
図13を参照して説明する。統合ノイズフィルタ7Bも、第三実施形態に係るノイズフィルタを複数組備えている。
統合ノイズフィルタ7Bは、複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一導電部材51Aが一つの第四磁路61に包含され、複数組のそれぞれのノイズフィルタの第二導電部材51Bが一つの第五磁路63に包含されるとともに、第四磁路61と第五磁路63が離間して配置されている。
統合ノイズフィルタ7Bは、500Hz以下の磁界に対して、第四磁路61と第五磁路63の比透磁率は、複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一磁路57の比透磁率より高く、かつ、1MHz以上の磁界に対して、第四磁路61と第五磁路63の比透磁率は、複数組のそれぞれのノイズフィルタの第一磁路57の比透磁率より低い。
【0106】
統合ノイズフィルタ7Bにおいても統合ノイズフィルタ7Aと同様に、500Hz以下の低周波磁界と1MHz以上の高周波磁界は、それぞれ第一磁路57と第四磁路61または第五磁路63とに分離することができるので一つの磁路に磁界が集中することを防止できる。よって一つの磁路に磁束が集中する磁束飽和を防止することができる。
【0107】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、本発明のノイズフィルタ5を応用して終端抵抗として使用した場合、以下の作用効果を得ることができる。
一般に、
図14に示すように、伝送線路における電力の伝達において、信号源の駆動側の終端抵抗のインピーダンスと伝送線路の特性インピーダンスと被駆動側の終端抵抗のインピーダンス整合する時、伝送される電力の波形のオーバシュート、アンダーシュートの原因となる反射が防止され無歪伝送となる。
無歪伝送では、伝送線路を伝わる全電力が終端抵抗で熱に変換される。全電力にはノイズも含まれ、ノイズの持つ電気エネルギは終端抵抗で全て熱に変換され、電磁波として放射されることなく、周囲へ影響を抑止できる。
【0108】
本発明は、終端抵抗として使用した場合、伝送線路とのインピーダンス整合が容易となることから、一定のインピーダンスを保つことと、低い周波数ではインピーダンスに抵抗成分を持たないことによる伝送線路に流れる電流量を低下させることなく、高い周波数のインピーダンスに抵抗成分を持つことよる高周波ノイズを消費して減衰させることができる。ここで言う高い周波数とはインバータの駆動する電力に伴うスイッチング周波数10kHz(代表例)に起因するノイズの周波数1MHz以上の周波数であり、低い周波数とは100kHz以下の周波数である。
【符号の説明】
【0109】
1 三相交流電源
3 サーボモータ
3A 第一サーボモータ
3B 第二サーボモータ
5A,5B,5C,5D ノイズフィルタ
7A,7B 統合ノイズフィルタ
10 電動機駆動装置
11 整流器
13 平滑コンデンサ
15 インバータ主回路
15A 第一インバータ主回路
15B 第二インバータ主回路
16 半導体スイッチング素子
16u1,16v1,16w1 半導体スイッチング素子
16u2,16v2,16w2 半導体スイッチング素子
16u3,16v3,16w3 半導体スイッチング素子
16u4,16v4,16w4 半導体スイッチング素子
17 インバータ制御部
20 インバータ回路
20A 第一インバータ回路
20B 第二インバータ回路
31u,31v,31w コイル
32,32A,32B ステータ
33 導体
51A 第一導電部材
51B 第二導電部材
53A 第一中間部材
53B 第二中間部材
55A 第三導電部材
55B 第四導電部材
57 第一磁路
58 第二磁路
59 第三磁路
61 第四磁路
63 第五磁路
65A 第一抵抗部材
65B 第二抵抗部材
T1,T2,T3 伝送線路
U1,U2 線路
V1,V2 線路
W1,W2 線路
【要約】
【課題】従来技術に対して優位性を備えるノイズフィルタを提供すること。
【解決手段】本発明のノイズフィルタは、伝送線路を構成する第一導電部材51Aおよび第二導電部材51Bと、第一導電部材51Aと第一中間部材53Aを介して配置された第三導電部材55Aと、第二導電部材51Bと第二中間部材53Bを介して配置された第四導電部材55Bと、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bを電気的に連結する第一抵抗部材65Aおよび第二抵抗部材65Bと、第三導電部材55Aと第四導電部材55Bの間の領域に形成された第一磁路57と、を備え、第一中間部材53Aと第二中間部材53Bは一方または両方が絶縁体からなり、第三導電部材55A、第一抵抗部材65A、第四導電部材55B、第二抵抗部材65Bおよび第三導電部材55Aを通る環状の電気的な経路が構成される。
【選択図】
図2