(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】アンテナモジュール及び通信装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/08 20060101AFI20220712BHJP
H01Q 3/24 20060101ALI20220712BHJP
H01Q 3/38 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01Q21/08
H01Q3/24
H01Q3/38
(21)【出願番号】P 2021516133
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017181
(87)【国際公開番号】W WO2020218290
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019084698
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓彦
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-044774(JP,A)
【文献】特開2008-312197(JP,A)
【文献】特開2009-218677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/08
H01Q 3/24
H01Q 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル移相器と、前記デジタル移相器に接続される複数のアンテナ素子とを有するアンテナモジュールであって、
前記複数のアンテナ素子のうち第1方向に配列された複数のアンテナ素子と、
固定移相器と、を有し、
前記デジタル移相器は前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、離散的に与えられる第1位相値に変更し、
前記固定移相器は、前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、前記第1位相値に対して所定のオフセット位相値を加えて得られる第2位相値に変更し、
前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子のうち、前記第1方向の一端側に位置するアンテナ素子の中心と、前記第1方向の他端側に位置するアンテナ素子の中心とを結ぶ仮想線の中点をアンテナ中心とし、
前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子のうち、前記アンテナ中心に対して対称となる位置に配置された2つのアンテナ素子を一対のアンテナ素子としたとき、
前記一対のアンテナ素子のうち一方のアンテナ素子に前記固定移相器が電気的に接続される
アンテナモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナモジュールであって、
前記一対のアンテナ素子のうち、前記一方のアンテナ素子は、前記固定移相器を介して前記デジタル移相器に電気的に接続され、
他方のアンテナ素子は、前記固定移相器を介さずに前記デジタル移相器に電気的に接続される
アンテナモジュール。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアンテナモジュールであって、
前記複数のアンテナ素子は、前記第1方向及び前記第1方向と直交する第2方向に配列されており、
素子番号(m、n)での前記複数のアンテナ素子の前記固定移相器の接続状態又は非接続状態に関する情報PSmnは、下記の式で表される
PSmn=(S(m))XOR(T(n))
ただし、
XORは、排他的論理和を表す論理記号、
m(m=1、2、…)は、前記第1方向に配列されたアンテナ素子の素子番号、
n(n=1、2、…)は、前記第2方向に配列されたアンテナ素子の素子番号、
S(m)(S(m)=0、1)は、前記第1方向に配列された素子番号mの前記アンテナ素子と、前記固定移相器との接続状態又は非接続状態を表す情報、
T(n)(T(n)=0、1)は、前記第2方向に配列された素子番号nの前記アンテナ素子と、前記固定移相器との接続状態又は非接続状態を表す情報である
アンテナモジュール。
【請求項4】
デジタル移相器と、前記デジタル移相器に接続される複数のアンテナ素子とを有するアンテナモジュールであって、
前記複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、前記デジタル移相器により離散的に与えられる第1位相値に対して所定のオフセット位相値を加えた第2位相値に変更する固定移相器と、を有し、
前記複数のアンテナ素子は
偶数個であり、第1群の複数のアンテナ素子と、前記第1群の複数のアンテナ素子に含まれないアンテナ素子から構成され
、前記第1群の複数のアンテナ素子と同数の第2群の複数のアンテナ素子と、を有し、
前記第1群の複数のアンテナ素子又は前記第2群の複数のアンテナ素子の一方に前記固定移相器が接続される
アンテナモジュール。
【請求項5】
請求項4に記載のアンテナモジュールであって、
前記第1群の複数のアンテナ素子又は前記第2群の複数のアンテナ素子の一方は、前記固定移相器を介して前記デジタル移相器に接続され、
前記第1群の複数のアンテナ素子又は前記第2群の複数のアンテナ素子の他方は、前記固定移相器を介さずに前記デジタル移相器に接続される
アンテナモジュール。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンテナモジュールであって、
前記オフセット位相値は、前記デジタル移相器が有する複数の前記第1位相値のうち、隣接する前記第1位相値の差の半分の位相値である
アンテナモジュール。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアンテナモジュールであって、
前記複数のアンテナ素子が設けられる基板と、
前記基板の一方の面に設けられるRFICと、
前記基板に設けられ、前記複数のアンテナ素子と、前記RFICとを電気的に接続する伝送線路とを有し、
前記固定移相器は、前記伝送線路により構成される
アンテナモジュール。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアンテナモジュールであって、
前記複数のアンテナ素子が設けられる基板と、
前記基板の一方の面に設けられるRFICと、を有し、
前記固定移相器は、前記RFICに設けられる配線により構成される
アンテナモジュール。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のアンテナモジュールと、
前記アンテナモジュールにベースバンド信号を供給するベースバンドICと、を有する
通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナモジュール及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、デジタル移相器を用いてアンテナから放射される電波の指向性を制御するアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、一部のアンテナ素子に、デジタル移相器に加えてアナログ移相器が接続されている。このため、回路規模が増大する可能性がある。一方で、デジタル移相器のみ用いた場合には、デジタル移相器により離散的に変更される位相と、理想的な位相との差が大きくなり、サイドローブが増大する可能性がある。
【0005】
本発明は、回路規模の増大を抑制しつつサイドローブを低減することができるアンテナモジュール及び通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面のアンテナモジュールは、デジタル移相器と、前記デジタル移相器に接続される複数のアンテナ素子とを有するアンテナモジュールであって、前記複数のアンテナ素子のうち第1方向に配列された複数のアンテナ素子と、固定移相器と、を有し、前記デジタル移相器は前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、離散的に与えられる第1位相値に変更し、前記固定移相器は、前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、前記第1位相値に対して所定のオフセット位相値を加えて得られる第2位相値に変更し、前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子のうち、前記第1方向の一端側に位置するアンテナ素子の中心と、前記第1方向の他端側に位置するアンテナ素子の中心とを結ぶ仮想線の中点をアンテナ中心とし、前記第1方向に配列された複数のアンテナ素子のうち、前記アンテナ中心に対して対称となる位置に配置された2つのアンテナ素子を一対のアンテナ素子としたとき、前記一対のアンテナ素子のうち少なくとも一方のアンテナ素子に前記固定移相器が電気的に接続される。
【0007】
本発明の一側面のアンテナモジュールは、デジタル移相器と、前記デジタル移相器に接続される複数のアンテナ素子とを有するアンテナモジュールであって、前記複数のアンテナ素子と、前記複数のアンテナ素子を伝播する信号の位相を、前記デジタル移相器により離散的に与えられる第1位相値に対して所定のオフセット位相値を加えた第2位相値に変更する固定移相器と、を有し、前記複数のアンテナ素子は、第1群の複数のアンテナ素子と、前記第1群の複数のアンテナ素子に含まれないアンテナ素子から構成される第2群の複数のアンテナ素子と、を有し、前記第1群の複数のアンテナ素子又は前記第2群の複数のアンテナ素子の少なくとも一方に前記固定移相器が接続される。
【0008】
本発明の一側面の通信装置は、上記のアンテナモジュールと、前記アンテナモジュールにベースバンド信号を供給するベースバンドICと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回路規模の増大を抑制しつつサイドローブを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、アンテナアレイを示す平面図である。
【
図4】
図4は、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。
【
図5】
図5は、アンテナ素子を伝播する信号に対する位相指令値と、デジタル移相器が与える第1位相値及び固定移相器が与える第2位相値との関係を模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例に係る通信装置における、ビーム方向と相対電力との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、比較例に係る通信装置における、ビーム方向と相対電力との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第1変形例に係る通信装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る通信装置の、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。
【
図10】
図10は、第2変形例に係る複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る通信装置の、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための平面図である。
【
図12】
図12は、第4実施形態に係る通信装置の、固定移相器の移相量と、サイドローブレベルとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のアンテナモジュール及び通信装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2の実施の形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図である。通信装置10は、例えば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレット端末などの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどである。又は、通信装置10は、基地局間の通信及び基地局とコアネットワークとの通信を行うバックホール通信であってもよい。
【0013】
図1に示すように、通信装置10は、アンテナモジュール100と、ベースバンドIC200(以下、BBIC(Baseband Integrated Circuit)と表す)と、を有する。アンテナモジュール100は、給電回路の一例であるRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)110と、アンテナアレイ120とを備える。BBIC200は、ベースバンド信号処理回路を構成する。BBIC200は、アンテナモジュール100にベースバンド信号を供給する。
【0014】
通信装置10は、BBIC200からアンテナモジュール100へ伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナアレイ120から放射する。また、通信装置10は、アンテナアレイ120で受信した高周波信号をダウンコンバートしてBBIC200にて信号を処理する。
【0015】
なお、
図1では、説明を容易にするために、アンテナアレイ120を構成する複数のアンテナ素子121のうち、4つのアンテナ素子121に対応する構成のみ示し、同様の構成を有する他のアンテナ素子121に対応する構成については省略する。また、本実施形態では、アンテナ素子121が、矩形の平板形状を有するパッチアンテナである場合を例として説明する。
【0016】
RFIC110は、スイッチ111A、111B、111C、111D、113A、113B、113C、113D、117と、パワーアンプ112AT、112BT、112CT、112DTと、ローノイズアンプ112AR、112BR、112CR、112DRと、減衰器114A、114B、114C、114Dと、デジタル移相器115A、115B、115C、115Dと、信号合成/分波器116と、ミキサ118と、増幅回路119とを備える。
【0017】
高周波信号を送信する場合には、スイッチ111A、111B、111C、111D、113A、113B、113C、113Dが、パワーアンプ112AT、112BT、112CT、112DT側へ切り換えられる。また、スイッチ117は、増幅回路119の送信側アンプに接続される。
【0018】
BBIC200から伝達された信号は、増幅回路119で増幅され、ミキサ118でアップコンバートされる。アップコンバートされた高周波信号である送信信号は、信号合成/分波器116で4分波され、4つの信号経路を通過して、それぞれ異なるアンテナ素子121に給電される。このとき、各信号経路に配置されたデジタル移相器115A、115B、115C、115Dの位相値が個別に調整されることにより、アンテナアレイ120の指向性を調整することができる。
【0019】
高周波信号を受信する場合には、スイッチ111A、111B、111C、111D、113A、113B、113C、113Dが、ローノイズアンプ112AR、112BR、112CR、112DR側へ切り換えられる。また、スイッチ117は、増幅回路119の受信側アンプに接続される。
【0020】
各アンテナ素子121で受信された高周波信号である受信信号は、それぞれ異なる4つの信号経路を経由し、信号合成/分波器116で合波される。合波された受信信号は、ミキサ118でダウンコンバートされ、増幅回路119で増幅されてBBIC200に伝達される。
【0021】
RFIC110は、さらに、走査制御回路130を有する。走査制御回路130は、送信時のビーム方向Db及び受信時のビーム方向Dbを制御する回路である。走査制御回路130は、ビーム方向制御回路131と、位相制御回路132とを有する。ビーム方向制御回路131は、送信時のビーム方向Db又は受信時のビーム方向Dbに基づく制御信号を位相制御回路132に出力する。位相制御回路132は、ビーム方向制御回路131からの制御信号に基づいて、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相を演算し、位相指令値φaをデジタル移相器115A、115B、115C、115Dに出力する。
【0022】
デジタル移相器115A、115B、115C、115Dは、位相指令値φaに基づいて、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相を、第1位相値I1、I2、I3、I4(
図5参照)に変更する。
【0023】
また、複数のアンテナ素子121のうち、少なくとも1つ以上のアンテナ素子121には固定移相器125が接続される。固定移相器125は、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相を、第2位相値J1、J2、J3、J4(
図5参照)に変更する。第2位相値J1、J2、J3、J4は、デジタル移相器115A、115B、115C、115Dにより離散的に与えられる第1位相値I1、I2、I3、I4に対して所定のオフセット位相値φosを加えた位相値である。
【0024】
RFIC110は、例えば、上記回路構成を含む1チップの集積回路部品として形成される。あるいは、RFIC110における各アンテナ素子121に対応する機器(スイッチ、パワーアンプ、ローノイズアンプ、減衰器、デジタル移相器)については、対応するアンテナ素子121ごとに1チップの集積回路部品として形成されてもよい。また、走査制御回路130は、RFIC110に設けられる構成に限定されず、例えば、RFIC110に含まれず、通信装置10に設けられていても良い。
【0025】
次に、アンテナアレイ120の構成について説明する。
図2は、アンテナアレイを示す平面図である。
図2に示すように、アンテナアレイ120は、複数のアンテナ素子121が設けられる基板122を有する。基板122は、例えばセラミックス多層基板が用いられる。セラミックス多層基板としては、例えば低温同時焼成セラミックス多層基板(LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)多層基板)が用いられる。なお、基板122は、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板であってもよい。また、基板122は、低い誘電率を有する液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer:LCP)から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板でもよく、フッ素系樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板でもよく、LTCCよりも高温で焼結されるセラミックス多層基板でもよい。
【0026】
複数のアンテナ素子121は、平面視で、第1方向Dxに配列され、かつ、第2方向Dyに配列される。ここで、第1方向Dx及び第2方向Dyは、基板122の第1主面122aに平行な方向である。例えば第1方向Dxは、基板122の一辺に沿った方向である。第2方向Dyは、第1方向Dxと直交する。第3方向Dzは、第1方向Dx及び第2方向Dyと直交する方向である。つまり、第3方向Dzは、基板122の第1主面122aに垂直な方向である。
【0027】
図3は、
図2のIII-III’断面図である。
図3に示すように、基板122は、マザー基板140と対向して配置される。基板122は、端子141を介してマザー基板140と電気的に接続される。
【0028】
RFIC110は、基板122の第2主面122bに設けられる。複数のアンテナ素子121は、基板122の第1主面122a側に設けられる。複数のアンテナ素子121は、基板122の内層に設けられる。ただし、これに限定されず、複数のアンテナ素子121は、基板122の表層に設けられ、複数のアンテナ素子121を覆って保護層が設けられる構成であってもよい。
【0029】
複数のアンテナ素子121は、それぞれ伝送線路123を介してRFIC110と電気的に接続される。伝送線路123は、基板122に設けられた配線や、層間に設けられたビアを含み構成される。伝送線路123の一端は、アンテナ素子121の給電点126に接続され、伝送線路123の他端は、RFIC110の端子128に接続される。
【0030】
固定移相器125の第2位相値J1、J2、J3、J4は、伝送線路123の線路長を変更することで調整することができる。例えば、固定移相器125が接続されていないアンテナ素子121において、伝送線路123の線路長を線路長Laとする。また、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121において、伝送線路123の線路長を線路長Lbとする。線路長Lbを波長λで規格化した長さと、線路長Laを波長λで規格化した長さとを異なる長さにすることで、固定移相器125が構成される。具体的には、固定移相器125が例えば45°の位相差を与える場合において、伝送線路123での信号の波長をλεとすると、線路長La、Lbは下記の式(1)を満たす。さらに具体的には、例えば真空中の波長が5mm(周波数が約60GHz)で基板122の比誘電率ε=4のとき、波長λεは、波長λε=5/√4=2.5mmである。式(1)に基づいて、線路長Laと線路長Lbとの差は、La-Lb=2.5mm×(45/360)=0.3125mmとなる。
La-Lb=λε×(u+45/360) … (1)
ただし、uは整数である。
【0031】
図4は、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。
図4では、説明を分かりやすくするために、第1方向Dxに配列された複数のアンテナ素子121について説明する。
【0032】
図4に示すように、アンテナアレイ120において、第1方向Dxに、例えば8個のアンテナ素子121aからアンテナ素子121hが配列される。なお、以下の説明において、アンテナ素子121aからアンテナ素子121hを区別して説明する必要がない場合には、単にアンテナ素子121と表す。
【0033】
複数のアンテナ素子121のうち、アンテナ中心Cxに対して対称となる位置に配置された2つのアンテナ素子121を、それぞれ一対のアンテナ素子P1、P2、P3、P4とする。ここで、アンテナ中心Cxは、第1方向Dxに配列された複数のアンテナ素子121のうち、第1方向Dxの一端側に位置するアンテナ素子121aのアンテナ素子中心Ca(
図2参照)と、第1方向Dxの他端側に位置するアンテナ素子121hのアンテナ素子中心Caとを結ぶ仮想線LCxの中点である。アンテナ素子中心Caは、
図2に示すように、各アンテナ素子121の平面視での重心位置であり、アンテナ素子121が矩形状の場合には、対角線の交点の位置と重なる。
【0034】
なお、本実施形態において「対称の位置」とは、例えば、アンテナ素子121aのアンテナ素子中心Caと、アンテナ素子121hのアンテナ素子中心Caとが対称となるように配置されることを示す。ただし、これに限定されず、アンテナ素子121aのアンテナ素子中心Caの対称となる位置が、アンテナ素子121hのアンテナ素子中心Caとずれた部分のアンテナ素子121hと重なる場合も含む。
【0035】
一対のアンテナ素子P1は、アンテナ素子121aとアンテナ素子121hとで構成される。一対のアンテナ素子P2は、アンテナ素子121bとアンテナ素子121gとで構成される。一対のアンテナ素子P3は、アンテナ素子121cとアンテナ素子121fとで構成される。一対のアンテナ素子P4は、アンテナ素子121dとアンテナ素子121eとで構成される。
【0036】
一対のアンテナ素子P1、P2、P3、P4のうち、それぞれ、一方のアンテナ素子121d、121f、121g、121hに固定移相器125が接続される。つまり、一方のアンテナ素子121d、121f、121g、121hは、固定移相器125を介してデジタル移相器115に接続される。一対のアンテナ素子P1、P2、P3、P4のうち、それぞれ、他方のアンテナ素子121a、121b、121c、121eは、固定移相器125を介さずにデジタル移相器115に接続される。
【0037】
次に、
図4及び
図5を参照して、固定移相器125及びデジタル移相器115の動作について説明する。
図5は、アンテナ素子を伝播する信号に対する位相指令値と、デジタル移相器が与える第1位相値及び固定移相器が与える第2位相値との関係を模式的に示すグラフである。
【0038】
図5に示すグラフの横軸は、位相指令値φaであり、位相制御回路132(
図1参照)から出力される指令値である。位相指令値φaは、アンテナアレイ120のビーム方向Dbを第3方向Dzに対して角度θ傾ける場合に、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相を制御する指令値である。
図5に示すグラフの縦軸は、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相φである。各アンテナ素子121を伝播する信号が理想位相値φmと一致する場合、各アンテナ素子121を伝播する信号の位相と位相指令値φaとの誤差を抑制できる。
【0039】
ここで、複数のアンテナ素子121のそれぞれの給電点126に、同位相の信号が給電されると、アンテナアレイ120は、第3方向Dzに指向性を有する。ビーム方向Dbを第3方向Dzに対して角度θ傾ける場合には、各アンテナ素子121を伝播する信号の理想位相値φmは、下記の式(2)で表される。
【0040】
φm=k×m×d×sinθ … (2)
ただし、kは自由空間での波数kであり、k=2π/λ(λは、アンテナ素子121を伝播する信号の波長)で表される。mは、アンテナ素子121の素子番号mであり、アンテナ素子121aからアンテナ素子121hが配列される順番にしたがって、m=1、2、…、8が対応付けられる。dは、アンテナ素子間隔dである。アンテナ素子間隔dは、隣り合うアンテナ素子121のアンテナ素子中心Caの間隔である。
【0041】
以下の説明では、説明を分かりやすくするために、一対のアンテナ素子P1、P2、P3、P4のうち、一対のアンテナ素子P1(アンテナ素子121a、121h)を伝播する信号について説明する。
図5に示す例では、デジタル移相器115は、量子化ビットiが2ビットであり、4つの第1位相値I1、I2、I3、I4を有する。第1位相値I1、I2、I3、I4は、2π/2
iごとに離散的に配置される。ただし、iは、量子化ビットiの数であり、
図5に示す例では、i=2である。具体的には、第1位相値I1、I2、I3、I4は、それぞれ、0°、90°、180°、270°である。なお、量子化ビットiは、1ビットでもよく、3ビット以上であってもよい。
【0042】
デジタル移相器115は、一対のアンテナ素子P1のうち、アンテナ素子121aを伝播する信号の位相φを、離散的に配置された第1位相値I1、I2、I3、I4のいずれかに変更する。例えば、デジタル移相器115は、位相指令値φaが0°以上、90°よりも小さい場合に、位相φを、第1位相値I1=0°に変更する。デジタル移相器115は、位相指令値φaが90°以上、180°よりも小さい場合に、位相φを、第1位相値I2=90°に変更する。デジタル移相器115は、位相指令値φaが180°以上、270°よりも小さい場合に、位相φを、第1位相値I3=180°に変更する。デジタル移相器115は、位相指令値φaが270°以上、360°よりも小さい場合に、位相φを、第1位相値I4=270°に変更する。
【0043】
固定移相器125は、アンテナ素子121hを伝播する信号の位相を、第2位相値J1、J2、J3、J4のいずれかに変更する。第2位相値J1、J2、J3、J4は、デジタル移相器115により離散的に与えられる第1位相値I1、I2、I3、I4に対して、それぞれ所定のオフセット位相値φosを加えた位相値である。オフセット位相値φosは、線路長Lb及び線路長Laをそれぞれ波長λで規格化した長さの差に応じて設定できる。
【0044】
オフセット位相値φosは、デジタル移相器115が有する複数の第1位相値I1、I2、I3、I4のうち、隣接する第1位相値I1、I2、I3、I4の差の半分の位相値である。
図5に示す例では、隣接する第1位相値I1、I2、I3、I4の差(離散幅)は90°であり、オフセット位相値φosは、半分の45°である。すなわち、第2位相値J1、J2、J3、J4は、それぞれ、45°、135°、225°、315°である。
【0045】
例えば、固定移相器125は、位相指令値φaが0°以上、90°よりも小さい場合に、位相φを、第2位相値J1=45°に変更する。固定移相器125は、位相指令値φaが90°以上、180°よりも小さい場合に、位相φを、第2位相値J2=135°に変更する。固定移相器125は、位相指令値φaが180°以上、270°よりも小さい場合に、位相φを、第2位相値J3=225°に変更する。固定移相器125は、位相指令値φaが270°以上、360°よりも小さい場合に、位相φを、第2位相値J4=315°に変更する。
【0046】
ここで、デジタル移相器115により変更された位相φ(第1位相値I1、I2、I3、I4)と、理想位相値φmとの差を第1量子化誤差DE1とする。また、デジタル移相器115及び固定移相器125により変更された位相φ(第2位相値J1、J2、J3、J4)と、理想位相値φmとの差を第2量子化誤差DE2とする。
【0047】
例えば、位相指令値φaが0°の場合には、第1量子化誤差DE1は0°であり、第2量子化誤差DE2は45°となる。つまり、ビーム方向Dbが第3方向Dz(θ=0°)に向けられた場合には、固定移相器125を設けることで量子化誤差の合計が増大する場合がある。
【0048】
一方、ビーム方向Dbが第3方向Dzに対して角度θだけ傾けられた場合には、上述した式(2)に基づいて、複数のアンテナ素子121ごとに異なる理想位相値φmとなり、これに応じた位相指令値φaが各アンテナ素子121に設定される。
【0049】
例えば、アンテナ素子121aの位相指令値φaが60°、アンテナ素子121hの位相指令値φaが120°の場合には、第1量子化誤差DE1は-60°であり、第2量子化誤差DE2は15°となる。つまり、ビーム方向Dbが第3方向Dzに対して角度θだけ傾けられた場合には、デジタル移相器115のみで位相が制御される構成に比べて、一対のアンテナ素子P1の量子化誤差の平均値が抑制される。なお、
図5では、一対のアンテナ素子P1(アンテナ素子121a、121h)を示しているが、一対のアンテナ素子P2、P3、P4(アンテナ素子121bから121g)も同様である。
【0050】
この結果、本実施形態のアンテナモジュール100及び通信装置10によれば、アンテナアレイ120のビームパターンにおいて、第1量子化誤差DE1及び第2量子化誤差DE2に基づくサイドローブの平均値を低減することができる。また、一対のアンテナ素子P1、P2、P3、P4のそれぞれにおいて、アンテナ中心Cxに対して対称となる位置に、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121d、121f、121g、121hと、固定移相器125が接続されていないアンテナ素子121a、121b、121c、121eが設けられる。これにより、効果的に、サイドローブレベルを抑制することができる。
【0051】
また、固定移相器125は、基板122に設けられ、アンテナ素子121と、RFIC110とを電気的に接続する伝送線路123により構成される。このため、デジタル移相器115に加えアナログ移相器を設けた構成や、デジタル移相器115のビット数を増やした場合に比べて、RFIC110の回路規模の増大を抑制することができる。
【0052】
なお、本実施形態の通信装置10の構成は、適宜変更することができる。例えば、複数のアンテナ素子121は、パッチアンテナに限定されず、例えば、平面ホーンアンテナなど他の構成であってもよい。また、アンテナ素子121数は、第1方向Dxに9個以上配列されていても良く、7個以下でもよい。
【0053】
図6は、実施例に係る通信装置における、ビーム方向と相対電力との関係を示すグラフである。
図7は、比較例に係る通信装置における、ビーム方向と相対電力との関係を示すグラフである。
図6に示す実施例に係る通信装置は、
図4に示す例と同様に、アンテナ素子121d、121f、121g、121hに固定移相器125が接続された通信装置10における、ビームパターンを示す。
図7に示す比較例に係る通信装置は、固定移相器125が接続されず、全てのアンテナ素子121の位相がデジタル移相器115により制御される構成を示す。
【0054】
図6及び
図7に示すグラフ1、2は、横軸がビーム方向Dbの角度θxであり、縦軸が相対電力である。角度θxは、第3方向Dzに対するメインビームの角度を示す。
図6及び
図7に示すグラフ1、2は、いずれも、メインビームの角度θxを、θx=0°、10°、20°、30°、35°に異ならせた場合のビームパターンを示す。
【0055】
図6に示すように、実施例において、ビーム方向Dbの角度θx=0°、10°、20°、30°、35°の近傍で、それぞれメインビームの最大相対電力を示す。また、各ビームパターンにおいて、複数のサイドローブのうち、サイドローブSL0、SL10、SL20、SL30、SL35のそれぞれで、サイドローブの最大相対電力を示す。
【0056】
実施例において、メインビームの角度θxがθx=0°の場合、メインビームの最大相対電力は、約17.8dBである。サイドローブSL0の最大相対電力は、約6.1dBである。つまり、サイドローブレベルは、約-11.7dB程度である。同様に、θx=10°の場合、サイドローブレベルは、約-11.6dB程度である。θx=20°の場合、サイドローブレベルは、約-6.1dB程度である。θx=30°の場合、サイドローブレベルは、約-10.3dB程度である。θx=35°の場合、サイドローブレベルは、約-11.6dB程度である。
【0057】
図7に示すように、比較例において、メインビームの角度θxがθx=0°の場合、メインビームの最大相対電力は、約18.1dBである。サイドローブSL0の最大相対電力は、約5.2dBである。つまり、サイドローブレベルは、約-12.9dB程度である。同様に、θx=10°の場合、サイドローブレベルは、約-6.7dB程度である。θx=20°の場合、サイドローブレベルは、約-5.8dB程度である。θx=30°の場合、サイドローブレベルは、約-7.0dB程度である。θx=35°の場合、サイドローブレベルは、約-6.7dB程度である。
【0058】
以上のように、実施例の通信装置は、比較例に比べて、メインビームの角度θxがθx=0°の場合の最大相対電力はわずかに低下するものの、メインビームの角度θxが傾いた場合のサイドローブレベルを低減できることが示された。
【0059】
(第1変形例)
図8は、第1変形例に係る通信装置の構成を示すブロック図である。なお、以下の説明では、上述した実施形態と同じ構成要素には、同じ参照符号を付して、説明を省略する。第1変形例では、上記第1実施形態とは異なり、固定移相器125がRFIC110に設けられた構成について説明する。
【0060】
図8に示すように、第1変形例の通信装置10Aにおいて、固定移相器125は、RFIC110に設けられる配線により構成される。具体的には、固定移相器125は、スイッチ111B、111Dと、RFIC110の端子128とを接続する配線により構成される。なお、スイッチ111A、111Cと、RFIC110の端子128との間には、固定移相器125は設けられていない。スイッチ111B、111Dと、RFIC110の端子128との間の配線及びスイッチ111A、111Cと、RFIC110の端子128との間の配線の長さについて、それぞれ波長λで規格化した長さを異ならせることで、固定移相器125が構成される。
【0061】
なお、RFIC110において、固定移相器125を設ける位置は、これに限定されない。固定移相器125は、信号合成/分波器116と端子128との間の信号経路のうち、任意の箇所に設けることができる。
【0062】
第1変形例においても、RFIC110の配線により固定移相器125が構成されるので、RFIC110の回路規模の増大を抑制することができる。また、アンテナアレイ120に設けられる伝送線路123を変更する必要がないので、基板122の製造が容易である。
【0063】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る通信装置の、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。第2実施形態では、第1実施形態及び第1変形例とは異なり、第1群の複数のアンテナ素子G1又は第2群の複数のアンテナ素子G2の一方の複数のアンテナ素子121に固定移相器125が接続される構成について説明する。
【0064】
具体的には、
図9に示すように、複数のアンテナ素子121は、第1群の複数のアンテナ素子G1と、第1群の複数のアンテナ素子G1とは異なり、第1群の複数のアンテナ素子G1に含まれないアンテナ素子121から構成される第2群の複数のアンテナ素子G2と、を有する。例えば、第1群の複数のアンテナ素子G1は、アンテナ素子121a、121b、121c、121dから構成される。第2群の複数のアンテナ素子G2は、アンテナ素子121e、121f、121g、121hから構成される。
【0065】
固定移相器125は、第2群の複数のアンテナ素子G2の複数のアンテナ素子121e、121f、121g、121hにそれぞれ接続される。第1群の複数のアンテナ素子G1は、固定移相器125を介さずにデジタル移相器115に接続される。なお、これに限定されず、固定移相器125が、第1群の複数のアンテナ素子G1の複数のアンテナ素子121a、121b、121c、121dにそれぞれ接続され、第2群の複数のアンテナ素子G2が、固定移相器125を介さずにデジタル移相器115に接続される構成であってもよい。また、第1群の複数のアンテナ素子G1及び第2群の複数のアンテナ素子G2は、それぞれ任意に選択できる。
【0066】
第1群の複数のアンテナ素子G1にそれぞれ接続されたデジタル移相器115は、同じ第1位相値I1、I2、I3、I4のいずれかに設定される。つまり、第1群の複数のアンテナ素子G1に接続される端子128を伝播する信号は、位相差がなく同じ位相値である。
【0067】
第2群の複数のアンテナ素子G2にそれぞれ接続されたデジタル移相器115は、同じ第1位相値I1、I2、I3、I4のいずれかに設定される。つまり、第2群の複数のアンテナ素子G2に接続される端子128を伝播する信号は、位相差がなく同じ位相値である。また、第2群の複数のアンテナ素子G2の各給電点126を伝播する信号は、固定移相器125により、第1群の複数のアンテナ素子G1の第1位相値I1、I2、I3、I4に対して、オフセット位相値φosの位相差を有する。
【0068】
第2実施形態の通信装置10Bにおいても、上述した第1実施形態と同様に、第3方向Dzに対して角度θx傾いた方向でのサイドローブレベルを抑制することができる。
【0069】
(第2変形例)
図10は、第2変形例に係る複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための説明図である。第2変形例では、上述した第2実施形態に比べて、第1群の複数のアンテナ素子G1及び第2群の複数のアンテナ素子G2の配置が異なる構成について説明する。
【0070】
第1群の複数のアンテナ素子G1及び第2群の複数のアンテナ素子G2は、任意に選択することができる。例えば、
図10に示すように、第1群の複数のアンテナ素子G1は、アンテナ素子121c、121d、121e、121fから構成される。第2群の複数のアンテナ素子G2は、アンテナ素子121a、121b、121g、121hから構成される。固定移相器125は、第2群の複数のアンテナ素子G2の複数のアンテナ素子121a、121b、121g、121hにそれぞれ接続される。
【0071】
第2変形例の通信装置10Cでは、アンテナ中心Cxを中心に対称となる位置に配置されたアンテナ素子121a、121hに、それぞれ固定移相器125が接続される。また、アンテナ素子121b、121gに、それぞれ固定移相器125が接続される。一方、アンテナ中心Cxを中心に対称となる位置に配置されたアンテナ素子121c、121fには、固定移相器125が接続されない。同様に、アンテナ素子121d、121eには、固定移相器125が接続されない。
【0072】
第2変形例の通信装置10Cでは、上述した第1実施形態、第2実施形態及び第1変形例に比べて、固定移相器125の配置の自由度を向上させることができる。なお、第2実施形態及び第2変形例では、上述した第1変形例の構成を適用することができる。
【0073】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態に係る通信装置の、複数のアンテナ素子と固定移相器との接続関係を説明するための平面図である。第3実施形態では、第1実施形態、第2実施形態、第1変形例及び第2変形例とは異なり、第1方向Dx及び第2方向Dyに配列されたアンテナ素子121に固定移相器125が接続される構成について説明する。なお、
図11では、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121に斜線を付して示している。
【0074】
図11に示すように、複数のアンテナ素子121a1、121b1、121c1、121d1、121e1、121f1、121g1、121h1は、第1方向Dxに配列される。アンテナ素子行121Sは、第1方向Dxに配列された複数のアンテナ素子121から構成される。アンテナ素子行121S-1、121S-2、121S-3、121S-4は、第2方向Dyに配列される。
【0075】
各アンテナ素子行121Sにおいて、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121と、固定移相器125が接続されないアンテナ素子121とが、交互に配置される。また、各アンテナ素子行121Sにおいて、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121と、固定移相器125が接続されないアンテナ素子121とが、アンテナ中心Cxを中心に対称となる位置に配置される。
【0076】
また、複数のアンテナ素子121a1、121a2、121a3、121a4は、第2方向Dyに配列される。アンテナ素子列121Tは、第2方向Dyに配列された複数のアンテナ素子121から構成される。アンテナ素子列121T-1、121T-2、121T-3、121T-4、121T-5、121T-6、121T-7、121T-8は、第1方向Dxに配列される。
【0077】
アンテナ素子列121T-1において、複数のアンテナ素子121a1、121a2には固定移相器125が接続されず、複数のアンテナ素子121a3、121a4に固定移相器125が接続される。また、アンテナ素子列121T-2において、複数のアンテナ素子121b1、121b2に固定移相器125が接続されており、複数のアンテナ素子121b3、121b4には固定移相器125が接続されていない。
【0078】
アンテナ素子列121T-1及びアンテナ素子列121T-2を一組として、固定移相器125と各アンテナ素子121との接続関係を示す接続パターンが、アンテナ素子列121T-3からアンテナ素子列121T-8に繰り返し配置される。また、各アンテナ素子列121Tにおいて、固定移相器125が接続されたアンテナ素子121と、固定移相器125が接続されないアンテナ素子121とが、アンテナ中心Cyを中心に対称となる位置に配置される。
【0079】
第1方向Dx及び第2方向Dyに配列された複数のアンテナ素子121の素子番号を、素子番号(m、n)と表す。m(m=1、2、…、8)は、第1方向Dxに配列されたアンテナ素子121の素子番号である。n(n=1、2、…、4)は、第2方向Dyに配列されたアンテナ素子121の素子番号である。
【0080】
素子番号(m、n)でのアンテナ素子121の固定移相器125の接続状態又は非接続状態に関する情報PSmnは、下記の式(3)で表される。
【0081】
PSmn=(S(m))XOR(T(n)) … (3)
ただし、XORは、排他的論理和を表す論理記号である。S(m)(S(m)=0、1)は、第1方向Dxに配列された素子番号mのアンテナ素子121の、固定移相器125の接続状態(S(m)=1)又は非接続状態(S(m)=0)を表す情報である。T(n)(T(n)=0、1)は、第2方向Dyに配列された素子番号nのアンテナ素子121の、固定移相器125の接続状態(T(n)=1)又は非接続状態(T(n)=0)を表す情報である。
【0082】
式(3)に基づいて、PSmn=1となる素子番号(m、n)のアンテナ素子121には、固定移相器125が接続される。また、PSmn=0となる素子番号(m、n)のアンテナ素子121には、固定移相器125が接続されず、デジタル移相器115に電気的に接続される。
【0083】
これにより、第3実施形態の通信装置10Dでは、ビーム方向Dbが、第3方向Dzに対して、第1方向Dx及び第2方向Dyに傾いた方向に向けられた場合においても、良好にサイドローブを抑制することができる。
【0084】
(第4実施形態)
図12は、第4実施形態に係る通信装置の、固定移相器の移相量と、サイドローブレベルとの関係を示すグラフである。第4実施形態では、上述した各実施形態及び各変形例とは異なり、固定移相器125の移相量が45°以外の場合について説明する。
【0085】
図12に示すグラフ3は、横軸が固定移相器125の移相量を示し、縦軸がサイドローブレベルを示す。なお、固定移相器125の移相量とは、
図5に示すオフセット位相値φosに対応する。また、
図12では、0°以上45°以下の移相量を示し、45°以上90°以下の移相量とサイドローブレベルとの関係は省略している。ただし、45°以上90°以下の移相量でのサイドローブレベルは、
図12と線対称の関係であり、移相量45°を通る仮想線を対称軸として、
図12に示すサイドローブレベルを左右反転させたサイドローブレベルとなる。
【0086】
図12に示すように、固定移相器125の移相量が45°で最も小さいサイドローブレベルを示す。固定移相器125の移相量が45°からずれた場合であっても、移相量が15°、30°でも、サイドローブレベルはわずかに大きくなるのみで、移相量が45°の場合と実質同じサイドローブレベルを示す。移相量が15°よりも小さい範囲では、サイドローブレベルが増大する。このように、固定移相器125の移相量が15°以上45°以下の範囲で、サイドローブレベルを抑制できることが示された。上述したように、グラフ3に示すサイドローブレベルと移相量との関係を、移相量が45°以上90°以下の範囲まで拡張させた場合、固定移相器125の移相量が15°以上75°以下の範囲で、サイドローブレベルを抑制できることが示された。
【0087】
なお、上記した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0088】
10、10A、10B、10C、10D 通信装置
100 アンテナモジュール
110 RFIC
115、115A、115B、115C、115D デジタル移相器
120 アンテナアレイ
121、121a、121b、121c、121d、121e、121f、121g、121h アンテナ素子
122 基板
123 伝送線路
125 固定移相器
P1、P2、P3、P4 一対のアンテナ素子
G1 第1群の複数のアンテナ素子
G2 第2群の複数のアンテナ素子
200 BBIC