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特許7103523ポリアセタール樹脂組成物、押出成形品および射出成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物、押出成形品および射出成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20220712BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20220712BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220712BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220712BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K3/26
C08K5/101
C08K5/20
C08L23/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021533619
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008193
(87)【国際公開番号】W WO2021182242
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2020042784
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】須長 大輔
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/005888(WO,A1)
【文献】特開昭61-174270(JP,A)
【文献】特開2019-065221(JP,A)
【文献】特開2017-165835(JP,A)
【文献】特開2004-149670(JP,A)
【文献】国際公開第1998/021280(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/251189(WO,A1)
【文献】特開昭57-192448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(A)1.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する低密度ポリエチレンを0.05~5.5重量部、
(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)を0.05~2.0重量部、および
(C)ハイドロタルサイトを0.001~1.0重量部
さらに含み、
前記脂肪酸化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、またはこれらの組み合わせである、前記ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記低密度ポリエチレンは、3.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する直鎖状低密度ポリエチレンである、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
記脂肪酸エステルは、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールジステアレート、およびペンタエリスリトールテトラステアレートからなる群から選択され、
前記脂肪酸アミドは、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸モノアミド、およびオレイン酸モノアミドからなる群から選択される、請求項1または2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(A)3.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する低密度ポリエチレンを0.1~5.0重量部、
(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)を0.1~1.0重量部、および
(C)ハイドロタルサイトを0.005~0.1重量部
さらに含み、
前記脂肪酸化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、またはこれらの組み合わせであり、
前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールジステアレート、およびペンタエリスリトールテトラステアレートからなる群から選択され、
前記脂肪酸アミドは、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸モノアミド、およびオレイン酸モノアミドからなる群から選択される、前記ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記低密度ポリエチレンは、3.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する直鎖状低密度ポリエチレンである、請求項4に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレートが、1.0~5.0g/10分(190℃、2.16kg)である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む押出成形品。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物、ポリアセタール樹脂組成物を含む押出成形品および射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械物性のバランスに優れたエンジニアリングプラスチックであり、一般的に、いわゆる丸棒や板等の切削加工用素材に用いられている。ポリアセタール樹脂は結晶性が高く、固化時の収縮が比較的大きい。そのため、ポリアセタール樹脂を溶融させてから切削加工用素材を成形する場合、成形品内部に、物性上好ましくないボイドや、外観上好ましくない白化が生じてしまうことがある。
【0003】
特許3087911号は、ポリオキシメチレン樹脂100重量部に対して、ヒンダードフェノール0.05~2重量部、メルトインデックスが0.2~100g/10分である低密度ポリエチレン0.01~5重量部、カルシウムイオンが50重量ppm以下でクロルイオンが100重量ppm以下である炭素数10~36の脂肪酸のカルシウム塩0.01~1.0重量部、及びホルムアルデヒド反応性窒素原子を有する非重合化合物及びホルムアルデヒド反応性窒素原子を有する重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のホルムアルデヒド反応性物質0~2.0重量部を配合して成るポリオキシメチレン樹脂組成物であって、押出し成形加工品に優れ、押出し成形において押出し機スクリューへの樹脂組成物の噛み込みが良好であり、白化部分や、ミクロボイド等からなる巣部分の著しく少ない、物性及び外観の優れた押出し成形品を得ることができる樹脂組成物を開示する。
【0004】
特開2004-149670号公報は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、ポリエチレンまたはエチレンとアクリル系化合物との共重合体0.1~5重量部、立体障害性フェノール0.01~5重量部、アミン置換トリアジン化合物0.01~7重量部、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩またはアルコキシドから選ばれる少なくとも1種の金属含有化合物0.004~5重量部を含み、かつメルトインデックスが1.0~30.0g/10分である押出し成形用ポリアセタール樹脂組成物であって、押出し成形性に優れ、特に押出し成形時の中心部に生じるボイドや白化、中でも特に外観上好ましくない白化の発生を低減し得るポリアセタール樹脂組成物を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリアセタール樹脂組成物を用いて製造した成形品には、ポリアセタール樹脂組成物に比べてメルトフローレートが上昇する問題(粘度低下の問題)、内部中心軸付近に生じる白化による外観不良の問題(白芯の問題)、および表面に生じる波打ち状の外観不良の問題(波打ち凹凸の問題)が存在する。
【0006】
そこで、本発明は、これらの問題が解消または低減される成形品を製造できるポリアセタール樹脂組成物、並びに前記ポリアセタール樹脂組成物を用いて製造した押出成形品および射出成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明には以下の態様が含まれる。
〔1〕
ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(A)1.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する低密度ポリエチレンを0.05~5.5重量部、
(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)を0.05~2.0重量部、および
(C)下記一般式(1)で表される層状複水酸化物を0.001~1.0重量部
さらに含む前記ポリアセタール樹脂組成物。
[(M2+(M3+(OH)2(x+y)](An-x/n・z(HO) (1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示し、該アニオンは前記層状複水酸化物中に1つまたは複数含まれており、xは0<x≦6.0の範囲の数であり、nは1、2、または3であり、yおよびzは0以上の数である。)
〔2〕
前記低密度ポリエチレンは、3.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する直鎖状低密度ポリエチレンである、上記〔1〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔3〕
前記脂肪酸化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、またはこれらの組み合わせであり、
前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールジステアレート、およびペンタエリスリトールテトラステアレートからなる群から選択され、
前記脂肪酸アミドは、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸モノアミド、およびオレイン酸モノアミドからなる群から選択される、上記〔1〕または〔2〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔4〕
前記層状複水酸化物は、ハイドロタルサイトである、上記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔5〕
前記ハイドロタルサイトは、前記一般式(1)におけるM2+がMg2+であり、M3+がAl3+であり、An-がCO 2-および/またはOHである化合物である、上記〔4〕に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔6〕
ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(A)3.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する低密度ポリエチレンを0.1~5.0重量部、
(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)を0.1~1.0重量部、および
(C)ハイドロタルサイトを0.005~0.1重量部
さらに含み、
前記脂肪酸化合物は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、またはこれらの組み合わせであり、
前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールジステアレート、およびペンタエリスリトールテトラステアレートからなる群から選択され、
前記脂肪酸アミドは、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸モノアミド、およびオレイン酸モノアミドからなる群から選択される、前記ポリアセタール樹脂組成物。
〔7〕
前記ポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレートが、1.0~5.0g/10分(190℃、2.16kg)である、上記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物。
〔8〕
上記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む押出成形品。
〔9〕
上記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物を含む射出成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアセタール樹脂組成物を用いることで、成形品の粘度低下の問題、白芯の問題、および表面に生じる波打ち凹凸の問題を解消または低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ポリアセタール樹脂組成物
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含み、
前記ポリアセタール樹脂100重量部に対して、
(A)1.0~50g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する低密度ポリエチレンを0.05~5.5重量部、
(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)を0.05~2.0重量部、および
(C)下記一般式(1)で表される層状複水酸化物を0.001~1.0重量部
さらに含む。
[(M2+(M3+(OH)2(x+y)](An-x/n・z(HO) (1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示し、該アニオンは前記層状複水酸化物中に1つまたは複数含まれており、xは0<x≦6.0の範囲の数であり、nは1、2、または3であり、yおよびzは0以上の数である。)
【0010】
ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂に(A)~(C)の添加剤(必要に応じてその他の添加剤)を添加し混合・混練することによって調製できる。混合・混練の方法については、特に制限はなく、公知の混合・混練装置を使用する方法が挙げられる。混練は、ポリアセタール樹脂が溶融する温度以上、具体的には、原料のポリアセタール樹脂の融解温度以上(一般的には180℃以上)で行うのが好ましい。例えば、ポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂に(A)~(C)の添加剤を添加した後、タンブラー型ブレンダー等によって混合し、得られた混合物を1軸または2軸押出し機にて溶融混練してストランド状に押出し、ペレット化してもよい。ポリアセタール樹脂組成物のペレット化に際し、ポリアセタール樹脂組成物のペレットのメルトフローレートを調整するために、連鎖移動剤の添加量を調整するようにしてもよい。
【0011】
ポリアセタール樹脂組成物は、ISO1133規格に従い測定される1.0~5.0g/10分(190℃、2.16kg)のメルトフローレートを有する。ポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレートが1.0g/10分(190℃、2.16kg)よりも小さいと、成形する際の押出し成形機および射出成形機の負荷が大きくなり、且つ剪断発熱も大きくなり、熱分解が起こり易くなる。なお、ポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレートが30g/10分(190℃、2.16kg)より大きいと、成形時の背圧により押出機内におけるバックフローが発生しやすくなり、成形性が低下する。
【0012】
ポリアセタール樹脂組成物は、押出し成形または射出成形して、棒状および板状などの種々の形状の成形品を製造するのに用いることができる。成形品は、成形後、そのまま製品として使用されたり、さらに切削加工等の加工を施して各種部品等の製造に用いることができる。例えば、ポリアセタール樹脂組成物を用いて、直径10~200mmの棒状成形品や、10~100mmの厚みの板状成形品などを製造できる。
【0013】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、押出し成形性および射出成形性に優れており、成形品の粘度低下の問題、白芯の問題、および表面に生じる凹凸の問題を解消または低減する。従来のポリアセタール樹脂組成物に比べ、粘度低下の問題を解消または低減することにより成形時の吐出速度および生産安定性が向上し、白芯の問題および表面凹凸の問題を解消または低減することにより成形品の物性的信頼性および外観が向上される。
【0014】
ポリアセタール樹脂
ポリアセタール樹脂組成物に含まれるポリアセタール樹脂は、アセタール結合(-O-CRH-(Rは水素原子又は有機基を示す))を繰り返し単位に有する高分子であり、通常はRが水素原子であるオキシメチレン基(-OCH-)を主たる構成単位とする。ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基以外の繰り返し構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマー)またはターポリマーであってもよい。ポリアセタール樹脂は、線状構造を有するものであってもよく、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化合物、またはアリルエーテル化合物などをコモノマーおよび/またはターモノマーとして用いた分岐構造または架橋構造を有していてもよい。
【0015】
オキシメチレン基以外の構成単位は、オキシエチレン基(-OCHCH-又は-OCH(CH)-)、オキシプロピレン基(-OCHCHCH-、-OCH(CH)CH-又は-OCHCH(CH)-)、またはオキシブチレン基(-OCHCHCHCH-、-OCH(CH)CHCH-、-OCHCH(CH)CH-、-OCHCHCH(CH)-、-OCH(C)CH-、または-OCHCH(C)-)などの炭素数2~10の分岐していてもよいオキシアルキレン基である。好ましくは、オキシメチレン基以外の構成単位は、炭素数2~4の分岐していてもよいオキシアルキレン基、またはオキシエチレン基(-OCHCH-)であってもよい。また、ポリアセタール樹脂中における、オキシメチレン基以外の構成単位(オキシアルキレン基)の含有量は、0.1~20重量%であり、好ましくは0.5~15重量%、より好ましくは0.5~6.0重量%である。
【0016】
ポリアセタール樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と炭素数2~4のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状アセタールと、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン、1,3,6-トリオキソカン、1,3-ジオキセパン等の炭素数2~5のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを共重合することによって製造することができる。
【0017】
(A)低密度ポリエチレン
ポリアセタール樹脂組成物に含まれる(A)低密度ポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、密度0.910~0.930g/cm)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、密度0.910~0.925g/cm)であり、ISO1133規格(190℃、2.16kg)に従い測定される1.0~50g/10分のメルトフローレートを有する。好ましくは、低密度ポリエチレンは、3.0~50g/10分、3.6~50g/10分、1.0~45g/10分、3.0~45g/10分、3.6~45g/10分、10~45g/10分、15~45g/10分、20~45g/10分、22~45g/10分、3.0~40g/10分、3.0~30g/10分、3.0~25g/10分、3.6~22g/10分、10~30g/10分、20~25g/10分、または21~23g/10分のメルトフローレート(190℃、2.16kg)を有する。低密度ポリエチレンとして、LDPEとLLDPEを組み合わせたものと用いてもよい。
【0018】
ポリアセタール樹脂組成物中の(A)低密度ポリエチレンは、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.05~5.5重量部含まれる。好ましくは、ポリアセタール樹脂組成物中の(A)低密度ポリエチレンは、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.05~5.0重量部、0.05~3.0重量部、0.05~2.0重量部、0.1~5.0重量部、0.1~3.0重量部、0.1~2.0重量部、1.0~5.5重量部、1.0~5.0重量部、1.0~3.0重量部、または1.0~2.0重量部含まれ、より好ましくは0.1~5.0重量部含まれる。
【0019】
(B)脂肪酸化合物
ポリアセタール樹脂組成物に含まれる(B)脂肪酸化合物(ステアリン酸カルシウムを除く)は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、またはこれらの組み合わせである。脂肪酸エステルは、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールジステアレート、およびペンタエリスリトールテトラステアレートからなる群から選択される。脂肪酸アミドは、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸モノアミド、およびオレイン酸モノアミドからなる群から選択される。
【0020】
ポリアセタール樹脂組成物中の(B)脂肪酸化合物は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.05~2.0重量部含まれる。好ましくは、ポリアセタール樹脂組成物中の(B)脂肪酸化合物は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.05~1.5重量部、0.05~1.0重量部、0.1~2.0重量部、0.1~1.5重量部、0.1~1.0重量部、0.3~2.0重量部、0.3~1.5重量部、または0.1~1.0重量部含まれ、より好ましくは0.1~1.0重量部含まれる。
【0021】
(C)層状複水酸化物
ポリアセタール樹脂組成物に含まれる(C)層状複水酸化物は、陰イオン交換能を持つ、金属水酸化物層を有する化合物であって、下記一般式(1)で表される化合物である。
[(M2+(M3+(OH)2(x+y)](An-x/n・z(HO) (1)
(式(1)中、M2+は2価の金属イオンを示し、M3+は3価の金属イオンを示し、An-はn価のアニオンを示し、該アニオンは前記層状複水酸化物中に1つまたは複数含まれており、xは0<x≦6.0の範囲の数であり、nは1、2、または3であり、yおよびzは0以上の数である。)
【0022】
2価の金属イオン(M2+)は、アルカリ土類金属イオン(Mg2+など)、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、またはZn2+である。3価の金属イオン(M3+)は、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、またはIn3+である。n価のアニオン(An-)は、OH、F、Cl、Br、NO3-、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 3-、CHCOO、シュウ酸イオン、またはサリチル酸イオンである。
【0023】
層状複水酸化物は、好ましくはハイドロタルサイトである。ハイドロタルサイトは、上記一般式(1)において、2価の金属イオン(M2+)がアルカリ土類金属イオンであり、3価の金属イオン(M3+)がAl3+であり、n価のアニオン(An-)がCO 2-および/またはOHである化合物である。さらに、ハイドロタルサイトの中でも、上記一般式(1)における2価の金属イオン(M2+)がMg2+であり、3価の金属イオン(M3+)がAl3+であり、n価のアニオン(An-)がCO 2-および/またはOHで表される化合物が好ましい。
【0024】
ハイドロタルサイトの例としては、Mg1.5Al0.5(OH)(CO0.75・1.0HOで示される天然ハイドロタルサイト、またはMg4.5Al(OH)13CO・1.5HOで示される合成ハイドロタルサイトがある。例えばハイドロタルサイトとして、クラリアントケミカルズ株式会社製、Hycite713(MgAl(OH)12CO1.5O)を使用できる。
【0025】
ポリアセタール樹脂組成物中の(C)層状複水酸化物は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.001~1.0重量部含まれる。好ましくは、ポリアセタール樹脂組成物中の(C)層状複水酸化物は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.001~0.8重量部、0.001~0.5重量部、0.001~0.2重量部、0.001~0.1重量部、0.005~0.8重量部、0.005~0.5重量部、0.005~0.2重量部、0.005~0.1重量部、0.01~0.8重量部、0.01~0.5重量部、0.01~0.2重量部、または0.01~0.1重量部含まれ、より好ましくは0.005~0.1重量部含まれる。
【0026】
その他の添加剤
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、立体障害性フェノールおよび/または窒素含有化合物をさらに含むものであってもよい。立体障害性フェノールおよび/または窒素含有化合物をさらに含むことで、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上したり、また、エステル基を分子中に有しない立体障害性フェノールは、ポリアセタール樹脂にもともと含まれているヘミホルマール末端基並びにギ酸エステル末端基が加水分解して生じたヘミホルマール末端基の酸化分解を抑制できる。
【0027】
立体障害性フェノールとしては、一般に酸化防止剤として使用されるものであり、例えば、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(BASF社製、Irganox1330(登録商標))、エチレンビス(オキシエチレン)ビス-(3-5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)(BASF社製、Irganox245(登録商標))、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(ADEKA社製、AO-30)、トリエチレングリコール-ビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル-テトラキス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。これらの立体障害性フェノールは、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ポリアセタール樹脂組成物中の立体障害性フェノールの含有量は限定されないが、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.01~10重量部、0.1~2.0重量部、0.1~1.0重量部、0.2~0.4重量部含まれていてもよい。立体障害性フェノール(D)の含有量は、0.01重量部以上であればポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上し、10重量部以下であれば顕著な金型汚染を伴わずに熱安定性が向上する。
【0029】
窒素含有化合物は、例えばアミノ置換トリアジン化合物である。アミノ置換トリアジン化合物としては、例えば、グアナミン、メラミン、N-ブチルメラミン、N-フェニルメラミン、N,N-ジフェニルメラミン、N,N-ジアリルメラミン、N,N’,N”-トリフェニルメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミンなどのメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのアルキル化メラミン類、ベンゾグアナミン、2,4-ジアミノ-6-メチル-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ブチル-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ベンジルオキシ-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ブトキシ-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-シクロヘキシル-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-クロロ-sym-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-sym-トリアジン、またはアメリン(N,N,N’,N’-テトラシアノエチルベンゾグアナミン)などが挙げられる。中でも、メラミン、メチロールメラミン、アルキル化メラミン、ベンゾグアナミン、または水溶性のメラミン-ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。上記したアミノ置換トリアジン化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのアミノ置換トリアジン化合物は、熱安定剤として使用される。
【0030】
ポリアセタール樹脂組成物中の窒素含有化合物の含有量は限定されないが、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.01~5.0重量部、0.01~3.0重量部、0.02~2.0重量部、0.05~1.0重量部、または0.1~1.0重量部である。窒素含有化合物の含有量が0.01重量部以上であればポリアセタール樹脂組成物の熱安定性が向上し、5.0重量部以下であれば引張伸びや耐衝撃性の著しい低下を伴わずに熱安定性が向上する。
【実施例
【0031】
以下に本発明の一実施例について説明する。実施例及び比較例で用いた材料等を以下に示す。
【0032】
ポリアセタール樹脂
実施例および比較例において、次の方法により調製したポリアセタール樹脂を用いた。すなわち、温度を65℃に設定したジャケットを有するセルフクリーニング型パドルを有する二軸の連続重合機に、トリオキサンを100重量部および1,3-ジオキソランを4重量部、触媒として三フッ化ホウ素ジエチルエーテラートを全モノマー(即ちトリオキサンおよび1,3-ジオキソラン)1molに対して0.05mmolとなる量をベンゼン溶液として、並びに分子量調節剤としてメチラールを全モノマーに対して120ppm、250ppm、または450ppmとなる量をベンゼン溶液として、連続的に添加しながら重合を行うことで、ポリアセタール樹脂を調製した。
【0033】
(A)低密度ポリエチレン
実施例および比較例において用いた(A)低密度ポリエチレンは、以下のものである。
MFR0.5:R500(宇部丸善ポリエチレン株式会社製、0.5g/10分のメルトフローレート、0.922g/cmの密度)
MFR3.6:ノバテックLD LC520(日本ポリエチレン株式会社製、3.6g/10分のメルトフローレート、0.923g/cmの密度)
MFR22:ノバテックLD LJ803(日本ポリエチレン株式会社製、22g/10分のメルトフローレート、0.921g/cmの密度)
MFR45:ノバテックLD LJ902(日本ポリエチレン株式会社製、45g/10分のメルトフローレート、0.915g/cmの密度)
MFR60:J6016(宇部丸善ポリエチレン株式会社製、60g/10分のメルトフローレート、0.916g/cmの密度)
【0034】
(B)脂肪酸化合物
実施例および比較例において用いた(B)脂肪酸化合物は、以下のものである。
B-1:エチレンビスステアロアミド(花王ケミカルズ株式会社製のカオーワックスEB-FF)
B-2:ステアリン酸ステアリル(花王ケミカルズ株式会社製のエキセパールSS)
B-3:ステアリン酸カルシウム(日油株式会社製)
【0035】
(C)層状複水酸化物
実施例および比較例において用いた(C)層状複水酸化物は、以下のものである。
C:ハイドロタルサイト(クラリアントケミカルズ株式会社製のHycite713)
【0036】
ポリアセタール樹脂組成物の調製およびその丸棒成形品の製造
ポリアセタール樹脂100重量部に、下記表1に示す添加剤(A)~(C)をそれぞれ同表に示す量(重量部)添加し、さらに立体障害性フェノール(BASF株式会社製のイルガノックス245(登録商標))を0.3重量部およびメラミン(三井化学株式会社製)0.1重量部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。なお、これら立体障害性フェノールとメラミンの添加量は全ての実施例および比較例で同じとした。次に、二軸押出機を用いて、混合物を210~230℃の温度範囲で加熱溶融しながら、21.3kPaの減圧下で脱揮して、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを調製した。なお、実施例1~13および比較例1~10では、調製後のポリアセタール樹脂組成物のペレットのメルトフローレートを調整するために、重合時に連鎖移動剤としてジメトキシメタンを添加した。連鎖移動剤の添加量は、実施例1~9、12、13および比較例1~10では250ppm、実施例10では120ppm、実施例11では450ppmとした。
得られたポリアセタール樹脂組成物のペレットを原料として、ノーベント式40mmφ単軸押出し機(池貝鉄工所社製、型式:VS-40)のヘッドに冷却ダイ(100mmφ丸棒、長さ600mm)を設置した固化押出し成形機により、シリンダー温度を180~195℃ 、ダイス温度195℃ 、ダイ冷却温度30℃ 、樹脂圧力30~35kg/cm2、押出速度4.0mm/分の条件下で、100mmφ丸棒成形品を製造した。
なお、実施例1~13および比較例1~10のポリアセタール樹脂組成物およびその丸棒成形品は、表1に示す添加剤(A)~(C)の種類および添加量を除き、全て同じ方法および条件により調製したものである。なお、比較例6は添加剤(B)を添加しなかった例であり、比較例7~9は添加剤(A)を添加しなかった例であり、比較例10は添加剤(C)を添加しなかった例である。
実施例1~13および比較例1~10の丸棒成形品の白化の程度、波打ち凹凸、および押出前後のΔMFRを評価ないし測定し、その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1中、「ペレットMFR」は、ISO1133規格に従い190℃、2.16kgの加重下で測定されるポリアセタール樹脂組成物のペレットのメルトフローレートの値(g/10分)である。
「白化の程度」は、製造した丸棒成形品の長さ方向中心付近を長さ方向と直角に切断し、切断した断面の中心部分の白化の程度を目視観察にて確認し、白化の程度を次の4段階で評価した。1は白化が確認できないこと、2は白化が僅かに確認できること、3は白化が確認できること、4は白化が顕著に確認できることとした。「白化の程度」が1~2であれば外観評価が合格であり、3~4は外観評価が不合格である。すなわち、「白化の程度」が1~2であれば、白芯の問題が解消または低減されたことを示す。
「波打ち凹凸」は、製造した丸棒成形品の長さ方向中心付近の表面の凹凸を表面粗さ計(キーエンス社製の三次元形状測定機、サーフコム)を用いて次の条件「輪郭測定モード、測定距離:40mm、測定速度:1.5mm/秒、測定位置:ランダム」で計測し、凹凸の最大深さ(最大値)の値で評価した。「波打ち凹凸」が10μm以下の場合を合格と評価した。すなわち、「波打ち凹凸」が10μm以下であれば、表面に生じる波打ち凹凸の問題が解消または低減されたことを示す。
「押出前後のΔMFR」は、ISO1133規格に従い190℃、2.16kgの加重下で測定される、丸棒成形品のメルトフローレートからポリアセタール樹脂組成物のペレットのメルトフローレート(ペレットMFR)を引いた値(g/10分)である。「押出前後のΔMFR」が1.0g/10分以下の場合を合格と評価した。すなわち、「押出前後のΔMFR」が1.0g/10分以下であれば、粘度低下の問題が解消または低減されたことを示す。
【0039】
実施例1~13の丸棒成形品は、白化の程度が1~2(合格)であり、波打ち凹凸が3~9μm(合格)であり、押出前後のΔMFRが0.~0.9g/10分(合格)であった。すなわち、実施例1~13では、白化の程度、波打ち凹凸、および押出前後のΔMFRの全てが合格であり、粘度低下の問題、白芯の問題、および表面に生じる波打ち凹凸の問題のいずれも解消または低減できた。
【0040】
他方、比較例1は白化の程度が4(不合格)で押出前後のΔMFRが1.4g/10分(不合格)であり、比較例2は波打ち凹凸が17μm(不合格)であり、比較例3および4は白化の程度が3(不合格)であった。比較例5は波打ち凹凸が11μm(不合格)であった。添加剤(B)を含まない比較例6は波打ち凹凸が15μm(不合格)であり、添加剤(A)を含まない比較例7~9は白化の程度が4(不合格)であり、添加剤(C)を含まない比較例10は押出前後のΔMFRが2.0g/10分(不合格)であった。すなわち、比較例1~10では、白化の程度、波打ち凹凸、および押出前後のΔMFRのうちの1つ以上が不合格であり、粘度低下の問題、白芯の問題、および表面に生じる波打ち凹凸の問題のうちの1つ以上が残ったままであった。