(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】造水装置の洗浄トラブル判定方法および洗浄トラブル判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 65/02 20060101AFI20220712BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20220712BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B01D65/02
B01D65/06
C02F1/44 D
(21)【出願番号】P 2021538722
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013127
(87)【国際公開番号】W WO2021200752
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2020059606
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽川 和希
(72)【発明者】
【氏名】富岡 一憲
(72)【発明者】
【氏名】濱田 浩志
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135235(WO,A1)
【文献】特開2006-021066(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221984(WO,A1)
【文献】特開2011-189287(JP,A)
【文献】特開2011-115705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を分離膜にろ過させて処理水を得るろ過工程と、前記ろ過工程終了毎に前記分離膜を洗浄する第1洗浄工程と、前記ろ過工程後に前記第1洗浄工程を実施する工程を複数回行った後、前記ろ過工程または前記第1洗浄工程後に前記分離膜を高濃度薬液を用いて化学的に洗浄する第2洗浄工程とを有する造水装置の洗浄トラブル判定方法において、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度から最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(1)より算出される複数の前記第1洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化A
および複数の前記第2洗浄工程間における前記抵抗上昇速度から最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(2)より算出される前記抵抗上昇速度の経時変化Bから前記抵抗上昇速度の経時変化Aが、基準値よりも大きいとき、前記第1洗浄工程の不足またはトラブルとして判定し、前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、基準値よりも大きいとき、前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する造水装置の洗浄トラブル判定方法。
【数1】
【数2】
【請求項2】
前記抵抗上昇速度の経時変化Aおよび前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、基準値からの変化量もしくは変化率をそれぞれ比較し、前記抵抗上昇速度の経時変化Aの上昇の方が大きい場合には前記第1洗浄工程の不足またはトラブル、前記抵抗上昇速度の経時変化Bの上昇の方が大きい場合には前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する請求項1記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
【請求項3】
前記第2洗浄工程の洗浄トラブル判定において、薬液のpH、ORP、残留塩素濃度および薬品貯留タンク水位から選ばれる少なくとも一つを指標として組み合わせて、前記第2洗浄工程の洗浄トラブルを判定する請求項1または2に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
【請求項4】
前記ろ過工程中の抵抗上昇速度を、濁度、有機物濃度、無機物濃度、凝集剤濃度、水温、粘度のうち少なくとも一つの被処理水水質データにより補正する請求項1~3のいずれか1項に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の洗浄トラブル判定方法により、前記第1洗浄工程の不足またはトラブルと判定された際に前記第1洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更し、前記第2洗浄工程の不足またはトラブルと判定された際に前記第2洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する造水装置の運転方法。
【請求項6】
被処理水を分離膜に透過させて処理水を得るろ過工程と、前
記ろ過工程終了
毎に前記分離膜を洗浄する第1洗浄工程と、前記ろ過工程後に前記第1洗浄工程を実施する工程を複数回行った後、前記ろ過工程または前記第1洗浄工程後に前記分離膜を高濃度薬液を用いて化学的に洗浄する第2洗浄工程とを有する造水装置の洗浄トラブル判定プログラムであって、コンピュータを、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度を用いて複数の前記第1洗浄工程間における前記抵抗上昇速度から最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(3)により前記抵抗上昇速度の経時変化A
および複数の前記第2洗浄工程間における前記抵抗上昇速度から最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(4)により前記抵抗上昇速度の経時変化Bを算出する抵抗上昇速度経時変化算出手段、算出された前記抵抗上昇速度の経時変化Aの算出結果を記録する抵抗上昇速度経時変化記録手段、前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている前記抵抗上昇速度の経時変化Aが基準値より大きいとき、前記第1洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段、前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている前記抵抗上昇速度の経時変化Aが基準値より大きいとき、前記第1洗浄工程の不足またはトラブルとして判定、前記抵抗上昇速度の経時変化Bが基準値より大きいとき、前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段として機能させるための洗浄トラブル判定プログラム。
【数3】
【数4】
【請求項7】
前記コンピュータを、算出された前記抵抗上昇速度の経時変化AおよびBの算出結果を記録する抵抗上昇速度経時変化記録手段、前記抵抗上昇速度の経時変化Aまたは前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている基準値からの変化量もしくは変化率をそれぞれ比較し、前記抵抗上昇速度の経時変化Aの上昇の方が大きい場合には前記第1洗浄工程の不足またはトラブル、前記抵抗上昇速度の経時変化Bの上昇の方が大きい場合には前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段として機能させるための請求項6に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
【請求項8】
前記コンピュータを、前記第1洗浄工程の不足と判定された際に前記第1洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する第1洗浄工程条件変更手段、前記第2洗浄工程の不足と判定された際に前記第2洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する第2洗浄工程変更手段として機能させるための請求項6または7に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
【請求項9】
前記コンピュータを、薬品供給ラインのpH、ORP、残留塩素濃度および薬品貯留タンク水位の薬品供給記録手段、洗浄トラブル判定に前記薬品供給記録手段に記録された少なくとも一つを指標として組み合わせた洗浄トラブル判定手段として機能させるための請求項6~8のいずれか1項に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
【請求項10】
前記コンピュータを、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度の算出は濁度、有機物濃度、無機物濃度、凝集剤濃度、水温、粘度のうち少なくとも一つの被処理水水質データを記録する被処理水水質記録手段、前記被処理水水質記録手段に記録された被処理水水質データにより前記算出手段の結果を補正する補正手段として機能させるための請求項6~9のいずれか1項に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか1項に記載の造水装置の洗浄トラブル判定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水を分離膜モジュールでろ過してろ過水を得る造水装置の洗浄トラブル、不足を判定する方法、洗浄トラブル判定プログラムおよびその判定プログラムを備えた記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜分離法を用いた造水装置は、省エネルギー・スペース、およびろ過水質向上等の特長を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜は、河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスや、海水淡水化逆浸透膜処理工程における前処理へ適用されている。
【0003】
ろ過工程において原水を膜ろ過すると、膜ろ過水量に伴って、膜表面や膜細孔内に汚染物質の付着量が増大していき、ろ過水量の低下あるいは膜差圧の上昇すなわち膜のファウリングが問題となってくる。
【0004】
そこで、各ろ過工程終了後に膜の原水側に気泡を導入し、膜を揺動させ、膜同士を触れ合わせることにより膜表面の付着物質を掻き落とす空気洗浄や、膜のろ過方法とは逆方向に膜ろ過水、清澄水あるいは低濃度の次亜塩素酸ナトリウムを添加し、圧力で押し込み、膜表面や膜細孔内に付着していた汚染物質を排除する逆圧洗浄を実施する等の第1洗浄工程、さらに洗浄効果を高めるため、複数のろ過工程および第1洗浄工程後に逆圧洗浄水に比較的高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを添加する、または逆圧洗浄水にオゾン含有水を用いる第2洗浄工程が実用化されている。
【0005】
膜ろ過システムの安定運転を実現するために特許文献1には膜間差圧に基づいて物理洗浄頻度を制御することが記載されており、特許文献2には膜入口圧力または膜差圧に基づいて洗浄時のオゾン供給量を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平11-169851号公報
【文献】日本国特開2003-300071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分離膜モジュールを用いた造水装置の安定運転のためには第1洗浄工程、第2洗浄工程におけるファウリング物質の除去状態を判断することが重要であるが、特許文献1~2に記載された洗浄条件制御方法を実施しても膜ろ過システムを十分に安定化できないといった問題があった。例えば、各ろ過工程終了後の第1洗浄工程のトラブルまたは不足による膜差圧上昇に対して、特許文献2の制御方法を実施しても膜差圧上昇は改善せず、薬液消費量のみ増大する。
【0008】
そこで本発明では、膜差圧上昇に基づいて第1洗浄工程および第2洗浄工程のトラブルおよび不足を判定し、判定結果に基づいた洗浄制御を実施することで安定運転を可能とする膜分離を用いた造水装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の分離膜モジュールを用いた造水装置における洗浄トラブル判定は、次のように特定されるものである。
(1)被処理水を分離膜にろ過させて処理水を得るろ過工程と、前記ろ過工程終了毎に前記分離膜を洗浄する第1洗浄工程と、前記ろ過工程後に前記第1洗浄工程を実施する工程を複数回行った後、前記ろ過工程または前記第1洗浄工程後に前記分離膜を高濃度薬液を用いて化学的に洗浄する第2洗浄工程とを有する造水装置の洗浄トラブル判定方法において、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度から算出される複数の前記第1洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化Aまたは複数の前記第2洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化Bの少なくともいずれか一方から洗浄トラブルを判定する造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(2)前記抵抗上昇速度の経時変化Aと前記抵抗上昇速度の経時変化Bは最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(1)(2)から計算される(1)に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
【数1】
【数2】
(3)前記抵抗上昇速度の経時変化Aが、基準値よりも大きいとき、第1洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する(1)または(2)に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(4)前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、基準値よりも大きいとき、第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する(1)または(2)に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(5)前記抵抗上昇速度の経時変化Aおよび前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、基準値からの変化量もしくは変化率をそれぞれ比較し、前記抵抗上昇速度の経時変化Aの上昇の方が大きい場合には第1洗浄工程の不足またはトラブル、前記抵抗上昇速度の経時変化Bの上昇の方が大きい場合には前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する(1)または(2)に記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(6)前記第2洗浄工程の洗浄トラブル判定において、薬液のpH、ORP、残留塩素濃度および薬品貯留タンク水位から選ばれる少なくとも一つを指標として組み合わせて、前記第2洗浄工程の洗浄トラブルを判定する(1)-(5)のいずれかに記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(7)前記ろ過工程中の抵抗上昇速度を、濁度、有機物濃度、無機物濃度、凝集剤濃度、水温、粘度のうち少なくとも一つの被処理水水質データにより補正する(1)-(6)のいずれかに記載の造水装置の洗浄トラブル判定方法。
(8)(1)-(7)のいずれかに記載の洗浄トラブル判定方法により、前記第1洗浄工程の不足またはトラブルと判定された際に前記第1洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更し、前記第2洗浄工程の不足またはトラブルと判定された際に前記第2洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する造水装置の運転方法。
(9)被処理水を分離膜に透過させて処理水を得るろ過工程と、前記各ろ過工程終了後に前記分離膜を洗浄する第1洗浄工程と、前記ろ過工程後に前記第1洗浄工程を実施する工程を複数回行った後、前記ろ過工程または前記第1洗浄工程後に前記分離膜を高濃度薬液を用いて化学的に洗浄する第2洗浄工程とを有する造水装置の洗浄トラブル判定プログラムであって、コンピュータを、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度を用いて複数の前記第1洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化Aまたは複数の前記第2洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化Bの少なくともいずれか一方を算出する抵抗上昇速度経時変化算出手段、および前記抵抗上昇速度経時変化算出手段から算出された前記抵抗上昇速度の経時変化Aまたは複数の前記第2洗浄工程間における前記抵抗上昇速度の経時変化Bの少なくともいずれか一方による洗浄トラブル判定手段として機能させるための洗浄トラブル判定プログラム。
(10)前記コンピュータを、最小二乗法による回帰直線の傾きまたは式(3)(4)から前記抵抗上昇速度の経時変化Aと前記抵抗上昇速度の経時変化Bを算出する抵抗上昇速度経時変化算出手段として機能させるための(9)に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
【数3】
【数4】
(11)前記コンピュータを、算出された前記抵抗上昇速度の経時変化Aの算出結果を記録する抵抗上昇速度経時変化記録手段、および前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている前記抵抗上昇速度の経時変化Aが基準値より大きいとき、第1洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段として機能させるための(9)または(10)に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(12)前記コンピュータを、算出された前記抵抗上昇速度の経時変化Bの算出結果を記録する抵抗上昇速度経時変化記録手段、および前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている前記抵抗上昇速度の経時変化Bが基準値より大きいとき、第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段として機能させるための(9)または(10)に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(13)前記コンピュータを、算出された前記抵抗上昇速度の経時変化AおよびBの算出結果を記録する抵抗上昇速度経時変化記録手段、および前記抵抗上昇速度の経時変化Aまたは前記抵抗上昇速度の経時変化Bが、前記抵抗上昇速度経時変化記録手段に記録されている基準値からの変化量もしくは変化率をそれぞれ比較し、前記抵抗上昇速度の経時変化Aの上昇の方が大きい場合には前記第1洗浄工程の不足またはトラブル、前記抵抗上昇速度の経時変化Bの上昇の方が大きい場合には前記第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する洗浄トラブル判定手段として機能させるための(9)または(10)に記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(14)前記コンピュータを、前記第1洗浄工程の不足と判定された際に前記第1洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する第1洗浄工程条件変更手段、および前記第2洗浄工程の不足と判定された際に前記第2洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する第2洗浄工程変更手段として機能させるための(9)-(13)のいずれかに記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(15)前記コンピュータを、薬品供給ラインのpH、ORP、残留塩素濃度および薬品貯留タンク水位の薬品供給記録手段、および洗浄トラブル判定に前記薬品供給記録手段に記録された少なくとも一つを指標として組み合わせた洗浄トラブル判定手段として機能させるための(9)-(14)のいずれかに記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(16)前記コンピュータを、前記ろ過工程中の抵抗上昇速度の算出は濁度、有機物濃度、無機物濃度、凝集剤濃度、水温、粘度のうち少なくとも一つの被処理水水質データを記録する被処理水水質記録手段、および前記被処理水水質記録手段に記録された被処理水水質データにより前記算出手段の算出結果を補正する補正手段として機能させるための(9)-(15)のいずれかに記載の洗浄トラブル判定プログラム。
(17)(9)-(16)のいずれかに記載の造水装置の洗浄トラブル判定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗浄トラブル判定方法およびプログラムによれば、洗浄トラブルの原因を判定することで、適切な洗浄条件を制御することが可能となり、安定的に造水装置を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る造水装置の一例を示す装置概略フロー図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る加圧型の分離膜モジュールの一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る加圧型の分離膜モジュールの別の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る抵抗上昇を示すイメージ図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る抵抗上昇速度の経時変化を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示す実施態様に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0013】
本発明は分離膜モジュールの洗浄トラブル判定方法および判定プログラムに関するものである。本発明の実施形態に係る造水装置22は、例えば、
図1に示すように、被処理水を供給する被処理水供給ポンプ1と、被処理水供給時に開となる被処理水供給弁2と、被処理水をろ過する分離膜モジュール3と、逆圧洗浄や空気洗浄する場合に開となるエア抜き弁4と、膜ろ過時に開となる処理水排出弁5と、処理水を貯留する処理水貯留槽6と、処理水を分離膜モジュール3に供給して逆圧洗浄する逆圧洗浄ポンプ7と、逆圧洗浄する時に開となる逆圧洗浄弁8と、被処理水あるいは分離膜モジュールに薬液を供給する薬液供給ポンプ9と、薬液を貯留する薬液貯留槽10と、分離膜モジュール3の空気洗浄の空気供給源であるエアブロワー11と、空気を分離膜モジュール3の下部に供給し空気洗浄する場合に開となる空気洗浄弁12と、分離膜モジュール3の1次側の被処理水または洗浄排水を排出する場合に開となる排水弁13と1次側への処理水供給弁14と被処理水バイパス弁15と、1次側の供給圧力センサ16と、2次側圧力センサ17と、被処理水の水質を測定する水質センサ18と、供給薬液センサ19とを備えている。水質センサ18としては濁度、SS、水温を測定するセンサが一般的であるが、加えてTOC、COD、油分などの有機物成分、MnやFeなどの無機物成分を測定するセンサを設けてもよい。また、供給薬液センサ19としてはpH、ORP、残留塩素濃度、薬液貯留槽水位などを検出するセンサが挙げられる。被処理水とは分離膜モジュールを用いて処理する溶液のことであり、河川水、地下水、海水、下水処理水、工場廃水、培養液などが例として挙げられる。
【0014】
分離膜モジュール3で使用される分離膜の孔径としては、特に限定しないが、所望の被処理水の性質や水量によって、MF膜(精密ろ過膜)を用いたり、UF膜(限外ろ過膜)を用いたり、あるいは両者を併用したりする。例えば、濁質成分、大腸菌、クリプトスポリジウム等を除去したい場合はMF膜でもUF膜のどちらを用いても構わないが、ウィルスや高分子有機物等も除去したい場合は、UF膜を用いるのが好ましい。分離膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、モノリス膜等があるが、いずれでも構わない。分離膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、モノリス膜等があるが、いずれでも構わない。また、分離膜の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、およびクロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコールおよびポリエーテルスルホンやセラミック等の無機素材からなる群から選ばれる少なくとも1種類を含んでいると好ましく、さらに膜強度や耐薬品性の点からはポリフッ化ビニリデン(PVDF)がより好ましく、親水性が高く耐汚れ性が強いという点からはポリアクリロニトリルがより好ましい。ここで分離膜モジュール3としては、外圧式でも内圧式であっても差し支えはないが、前処理の簡便さの観点から外圧式である方が好ましい。
【0015】
図2は、加圧型の中空糸膜モジュールの一例を示す概略断面図である。すなわち、
図2においては、分離膜モジュール3が中空糸膜モジュールにより構成されている。この中空糸膜モジュールは、多本数の中空糸膜が開口された状態で接着剤により筒状ケースと接着固定された上部接着部23と、中空糸膜の端面が閉塞された状態で接着剤により筒状ケースと接着固定された下部接着部24とを有し、下部接着部24には複数の散気孔25が形成されている。また、中空糸膜モジュールは、被処理水供給口となる下部側面ノズル26と、処理水排出口または逆洗水供給口となる上部端面ノズル27と、エア供給口または排水口または被処理水供給口となる下部端面ノズル28と、洗浄排水及びエアを排出する上部側面ノズル29とを有している。
【0016】
膜ろ過方式としては、全量ろ過型モジュールでもクロスフローろ過型モジュールであっても差し支えはないが、エネルギー消費量が少ないという点から全量ろ過型モジュールである方が好ましい。さらに加圧型モジュールであっても
図3に示す浸漬型モジュールであっても差し支えはないが、高流束でのろ過運転が可能であるという点から加圧型モジュールである方が好ましい。なお、「1次側」とは、分離膜で仕切られた空間の内、被処理水が供給される側であり、「2次側」とは、被処理水を分離膜でろ過したろ過水側のことである。
【0017】
造水装置22の被処理水処理工程は、ろ過工程、第1洗浄工程、第2洗浄工程から構成されており、ろ過工程で蓄積した抵抗を回復させるために第1洗浄工程を実行する。通常、ろ過工程及び第1洗浄工程を繰り返して造水装置を運転するが、運転継続に伴い、第1洗浄工程で回復しない抵抗が蓄積するため、ろ過工程または第1洗浄工程後に第2洗浄工程を実行する。この時、各ろ過工程における抵抗上昇から、ろ過工程中に蓄積した抵抗上昇速度を算出する。複数回第1洗浄工程を実行したときの抵抗上昇速度経時変化を抵抗上昇速度の経時変化A、複数回第2洗浄工程を実行したときの抵抗上昇速度経時変化を抵抗上昇速度の経時変化Bとして算出する。そして、抵抗上昇速度の経時変化Aまたは抵抗上昇速度の経時変化Bを基準値と比較して、その変化量または変化率によって洗浄トラブルを判定する。各工程の詳細および抵抗上昇速度算出の詳細について以下に示す。
【0018】
造水装置22において、被処理水は被処理水供給ポンプ1を稼動し、被処理水供給弁2とエア抜き弁4を開にすることで、分離膜モジュール3内の1次側に供給される。1次側が被処理水で満たされた後、エア抜き弁4を閉、処理水排出弁5を開にすることで分離膜モジュール3内に備えられた分離膜でろ過工程が行われる。処理水質、膜ろ過性の観点から被処理水に凝集剤を添加しても良い。凝集剤としてはポリ塩化アルミニウムやポリ硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ鉄、硫酸第二鉄、ポリシリカ鉄等が挙げられる。処理水は分離膜モジュール3内の2次側から処理水排出5を経て処理水貯留槽6へと移送されるろ過工程へと移る。全量ろ過の場合、エア抜き弁4、逆圧洗浄弁8、空気洗浄弁12、排水弁13はいずれも閉である。ろ過工程時に1次側の供給圧力センサ16と2次側圧力センサ17を用いて次式によりTMP(Trans Membrane Pressure)を測定し、ろ過抵抗Rを算出する。μは粘度(Pa・s)、Jはろ過流束(m/s)を示す。TMP測定の頻度は特に限定しないが、解析精度の観点から数秒から数分の頻度で測定する方が好ましい。
TMP=1次側圧力-2次側圧力
【数5】
ろ過経過時間に従って、分離膜のろ過抵抗、すなわちTMPが上昇する。この上昇を抑えるために、定期的に第1洗浄工程によりろ過抵抗を回復させる。この時、第1洗浄工程に移る直前までのろ過抵抗上昇速度を以下式により算出する。
図4にはろ過工程中のろ過抵抗上昇、ろ過工程時間、第2洗浄工程直後ろ過抵抗上昇の一例を示している。
図4に記載の通り、ΔR
filt_cycleはろ過工程中の抵抗変化、Δt
filt_cycleはろ過工程時間により、ろ過抵抗上昇速度を算出することができる。
【数6】
ここでろ過工程中の抵抗上昇は水質の影響を受けるため、装置に備えられた水質センサ18にてろ過工程中の抵抗上昇速度を補正することが望ましく、水質センサとろ過工程中の抵抗上昇速度の関係を記録することで相関式を得ることが出来る。相関式はろ過工程中の抵抗上昇速度と水質センサによる取得データから、例えば、最小二乗法による回帰直線または回帰曲線として得ることができる。この回帰直線または回帰曲線により水質影響による抵抗上昇速度の変化を補正することができる。
【0019】
第1洗浄工程では逆圧洗浄工程(逆洗工程)、空気洗浄工程(空洗工程)、排水工程、給水工程の順に実施するのが一般的であるが、逆洗工程と空洗工程を同時に実施する、排水工程後に逆洗工程を実施する、もしくはいずれかの工程を省略あるいは複数回実施しても問題無い。逆洗工程では被処理水供給ポンプ1を停止して分離膜(中空糸膜)モジュール3でのろ過工程を停止した後、被処理水供給弁2、処理水排出弁5を閉じ、逆圧洗浄弁8とエア抜き弁4を開き、逆圧洗浄ポンプ7を稼働し、逆洗工程を実施する。逆圧洗浄水としては、特に制限するものではないが、本実施形態のように被処理水を分離膜モジュールでろ過することで得られた処理水を用いることが好ましく、工業用水、浄水、水道水、RO膜透過水、純水を用いても良い。また、逆圧洗浄時間は特に制限するものではないが1~120秒の範囲内であることが好ましい。1回の逆圧洗浄時間が1秒未満では、十分な洗浄効果が得られず、120秒を超えると分離膜モジュールの運転稼働率および水回収率が低くなる。また、逆洗工程中に低濃度の薬液を添加しても良い。薬液としては次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、オゾン等を少なくとも1つ以上含有した方が、有機物に対して洗浄効果が高くなるので好ましく、また、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸等を1つ以上含有した方が、アルミニウム、鉄、マンガン等に対して洗浄効果が高くなるので好ましい。薬液濃度は数mg/Lから数十mg/Lであることが好ましい。
【0020】
逆洗工程終了後、逆圧洗浄ポンプ7を停止し、逆圧洗浄弁8を閉じ、空気洗浄弁12を開き、エアブロワー11を稼働させ分離膜モジュール3にエアを供給し洗浄を行う空洗工程に移る。空気洗浄時間は特に制限するものではないが1~120秒の範囲内であることが好ましい。1回の逆圧洗浄時間が1秒未満では、十分な洗浄効果が得られず、120秒を超えると分離膜モジュールの運転稼働率が低くなる。また、逆洗工程の途中で空気洗浄弁12を開き、エアブロワー11を稼働させ空気洗浄工程を導入してもよい。空洗工程終了後、エアブロワー11を停止し、空気洗浄弁12を閉し、排水弁13を開き、分離膜モジュール3内に蓄積した洗浄排水を全量排水する排水工程に移る。その後、被処理水供給工程へと戻り、膜ろ過運転を継続する。ろ過と第1洗浄工程を繰り返しながら運転するのが一般的である。また、ろ過時間は被処理水の性質や膜ろ過流束に応じて適宜設定するのが好ましいが、所定の膜ろ過差圧に到達するまでろ過時間を継続させてもよい。
【0021】
図5は、造水装置22にろ過工程、第1洗浄工程、第2洗浄工程を繰り返し運転させた際に、
図4中のろ過抵抗上昇、第2洗浄工程直後ろ過抵抗上昇、ろ過工程時間から算出されたろ過工程中のろ過抵抗上昇速度の一例を示している。Δt
filt_1stは、
図5に示す第1洗浄工程とろ過工程を複数回繰り返した際の第1洗浄工程間における合計ろ過時間であり、複数回ろ過工程と第1洗浄工程を繰り返した後、抵抗上昇速度の経時変化Aを最小二乗法による回帰直線の傾きまたは以下式により算出する。
【数7】

造水装置22では、第1洗浄工程のみでは洗浄は十分ではなく、1日数回から1週間毎の頻度で第2洗浄工程が実施される。第2洗浄工程では被処理水供給弁2と処理水排出弁5を閉じ、逆圧洗浄弁8とエア抜き弁4を開き、逆圧洗浄ポンプ7と薬液供給ポンプ9を稼働し、比較的高濃度の薬液による洗浄を実施する。薬液としては、膜が劣化しない程度の濃度および接触時間を適宜設定した上で選択することが出来るが、次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、過酸化水素、オゾン等を少なくとも1つ以上含有した方が、有機物に対して洗浄効果が高くなるので好ましく、また、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸等を1つ以上含有した方が、アルミニウム、鉄、マンガン等に対して洗浄効果が高くなるので好ましい。薬液濃度は50mg/Lから10000mg/Lであることが好ましい。50mg/Lより薄くなると洗浄効果が十分でなく、10000mg/Lより濃くなると薬液のコストが高くなり不経済となるからである。薬液は1種類とするよりも2種類以上を順番に使用することが好ましく、例えば、酸と次亜塩素酸ナトリウムを交互に使用するとより好ましい。本実施形態のように2次側より薬液を分離膜モジュール3に供給することが好ましいが、1次側より薬液を分離膜モジュール3に供給しても良い。より洗浄効果を高めるため、薬液と分離膜が接触する時間を設けても良い。接触時間は5分から3時間程度が好ましい。長すぎると造水装置22を止めている時間が長くなり、造水装置22の運転効率が落ちるためである。薬液供給および薬液との接触時間を設けた後、分離膜モジュール内の薬液の排出および分離膜モジュール内の薬液を排出し、エア抜き弁4と逆圧洗浄弁8を開き、逆圧洗浄ポンプ7を稼働し、逆洗工程を実施する。逆洗工程終了後、逆圧洗浄ポンプ7を停止し、逆圧洗浄弁8を閉じ、空気洗浄弁12を開き、エアブロワー11を稼働させ分離膜モジュール3にエアを供給し洗浄を行う空洗工程に移る。また、逆圧洗浄工程の途中で空気洗浄弁12を開き、エアブロワー11を稼働させ空洗工程を導入してもよい。第2洗浄工程では薬液洗浄工程、逆洗工程、空洗工程、排水工程の順に実施するのが一般的であるが、逆洗工程と空洗工程を同時に実施する、排水工程後に逆洗工程を実施する、工程の順序を変更するもしくはいずれかの工程を省略あるいは複数回実施しても問題無い。
図4に記載の通りΔR
after2ndfilt_cycleはろ過工程中の抵抗変化、Δt
filt_cycleはろ過工程時間を示しており、この時、第2洗浄工程直後のろ過工程におけるろ過抵抗上昇速度を以下式により算出する。
【数8】
Δt
filt_2ndは
図5に示す第2洗浄工程とろ過工程を複数回繰り返した際の第2洗浄工程間における合計ろ過時間であり、複数回ろ過工程と第2洗浄工程を繰り返した後、最小二乗法による回帰直線の傾きまたは以下式により抵抗上昇速度の経時変化Bを算出する。
【数9】
上記抵抗上昇速度の経時変化AまたはBの算出は第1洗浄工程および第2洗浄工程終了毎に毎回実施もしくは一定の時間間隔ごとに実施してもよい。上記で算出した抵抗上昇速度の経時変化Aおよび抵抗上昇速度の経時変化Bを基準値からの変化量または変化率を算出し、その変化量および変化率に応じて洗浄トラブルを判定する。ここで基準値とは造水装置の稼働開始時、薬品洗浄後の運転開始時または前回の算出処理時の初期値もしくは前回計算値、設定値を示す。
【0022】
抵抗上昇速度の経時変化Aの基準値からの変化、変化量または変化率の上昇は第1洗浄工程でファウリング物質が分離膜モジュール内から十分に除去されないことにより発生するため、抵抗上昇速度の経時変化Aが基準値より大きいときには第1洗浄工程のトラブルと判定することができる。また、抵抗上昇速度の経時変化Bの基準値からの変化、変化量または変化率の上昇は第2洗浄工程でファウリング物質が分離膜モジュール内から十分に除去されないことにより発生するため、抵抗上昇速度の経時変化Bが基準値より大きいときには第2洗浄工程のトラブルと判定することができる。また、抵抗上昇速度の経時変化Aおよび抵抗上昇速度の経時変化Bがそれぞれ大きくなっている場合には基準からの変化量または変化率によりそれぞれ比較する。その結果、抵抗上昇速度の経時変化Aの基準値からの変化量または変化率の上昇が大きい場合には第1洗浄工程のトラブルと判断することができ、抵抗上昇速度の経時変化Bの基準値からの変化量または変化率の上昇の方が大きい場合には、第2洗浄工程のトラブルと判断することができる。第1洗浄工程の不足またはトラブルと判断された際には、第1洗浄工程の頻度や逆洗強度や空洗強度、第1洗浄工程順序や組み合わせを制御することで抵抗の上昇を低減させ安定運転することが可能となる。ここで逆洗強度とは逆洗供給流量、逆洗時間、空洗強度とは供給エア流量、空洗時間を意味する。また、第2洗浄工程の不足またはトラブルと判断された際には、第2洗浄工程の頻度や洗浄強度を制御することで抵抗の上昇を低減させ安定運転することが可能となる。第2洗浄工程の洗浄強度は薬液濃度、薬液種類や接触時間、第2洗浄工程順序や組み合わせなどを変更することで制御できる。エア流量センサ20、逆洗流量センサ21から取り込んだエア流量、逆洗流量から選ばれる少なくとも一つを指標として判定に組み合わせることで、物理洗浄条件の変化を検知することができるため、確度の高い第1洗浄工程のトラブル判定ができ、また、供給薬液センサ19から取り込んだpH、ORP、残留塩素濃度、薬液貯留槽水位から選ばれる少なくとも一つを指標として判定に組み合わせることで、薬液供給量、濃度や変化を検知することができるため、確度の高い第2洗浄工程のトラブル判定ができる。
【0023】
つまり、抵抗上昇速度の経時変化AまたはBの基準値からの変化量または変化率が上昇する場合には洗浄工程のトラブルが生じているため前記第1または第2洗浄工程の洗浄工程を制御する必要がある。特に、抵抗上昇速度の経時変化Aまたは経時変化Bの基準値からの変化量が初期または前回算出された抵抗上昇速度に対して20%以上上昇した場合や、変化比が初期または前回算出された抵抗上昇速度に対して1.2を超える場合には差圧上昇が急激に進行する可能性があるため、早急に第1または第2洗浄条件の制御をするのが好ましい。
【0024】
また、抵抗上昇速度の経時変化Aおよび抵抗上昇速度の経時変化Bの基準値からの変化量または変化率が同程度上昇している場合には、第1洗浄工程の頻度や逆洗強度や空洗強度、第1洗浄工程順序や組み合わせの制御および第2洗浄工程の頻度や洗浄強度の制御の両方を実施しても良いが、より洗浄頻度の高い第1洗浄工程の制御を優先することが好ましい。第1洗浄工程の制御を優先するとは、抵抗上昇速度の経時変化Aおよび抵抗上昇速度の経時変化Bの基準値からの変化量または変化率が双方共に上昇している場合に、最初に第1洗浄工程の頻度や逆洗強度や空洗強度、第1洗浄工程順序や組み合わせの制御を行った後、抵抗上昇速度の経時変化Aおよび抵抗上昇速度の経時変化Bの基準値からの変化量または変化率を確認した上で、それぞれの抵抗上昇速度の経時変化に変化がない場合に、次いで第2洗浄工程の制御を実施することを意味する。
【0025】
本発明の実施形態に係るトラブル判定プログラムは、造水装置に通常設置されているPLC(Programmable Logic Controller)やDCS(Distributed Control System)などの制御管理システムと一緒にコンピュータが読み取り可能な記録媒体に保存し設置されるか、制御管理システムから遠方監視装置を用いて、運転データをインターネット経由で取り出し、任意の場所に設置されるオンプレミスサーバーもしくは、クラウドサーバーの記録媒体に保存し設置されるのが一般的である。また、本発明の実施形態に係る洗浄トラブル判定プログラムに関して、例えば、
図6に示すとおり、下記の手段を有することを特徴とする。
【0026】
コンピュータ31を、抵抗上昇速度経時変化算出手段32、抵抗上昇速度経時変化記録手段33、洗浄トラブル判定手段34、第1洗浄工程条件変更手段35、第2洗浄工程変更手段36、薬品供給記録手段37、被処理水水質記録手段38、洗浄条件記録手段39、および補正手段40として機能させるための洗浄トラブル判定プログラム41が導入されている。抵抗上昇速度経時変化算出手段32は、抵抗上昇速度の経時変化AおよびBを算出する。抵抗上昇速度経時変化記録手段33は、抵抗上昇速度経時変化算出手段32で算出された抵抗上昇速度の経時変化AおよびBを記録する。洗浄トラブル判定手段34は、抵抗上昇速度経時変化記録手段33に記録されている基準値からの変化量もしくは変化率をそれぞれ比較し、抵抗上昇速度の経時変化Aの上昇の方が大きい場合には第1洗浄工程の不足またはトラブル、抵抗上昇速度の経時変化Bの上昇の方が大きい場合には第2洗浄工程の不足またはトラブルとして判定する。第1洗浄工程条件変更手段35は、第1洗浄工程の不足と判定された際に第1洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する。第2洗浄工程変更手段36は、第2洗浄工程の不足と判定された際に第2洗浄工程の条件または頻度の少なくとも一方を変更する。薬品供給記録手段37は、薬品供給ラインのpH、ORP、残留塩素濃度および薬品貯留タンク水位を記録する。被処理水水質記録手段38は、濁度、有機物濃度、無機物濃度、凝集剤濃度、水温、粘度のうち少なくとも一つの被処理水水質データを記録する。洗浄条件記録手段39は、エア流量、逆洗流量のうち少なくとも一つの洗浄条件データを記録する。補正手段40は、被処理水水質記録手段38に記録された被処理水水質データにより抵抗上昇速度経時変化算出手段32の算出結果を補正する。
【0027】
なお、本出願は、2020年3月30日出願の日本特許出願(特願2020-59606)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0028】
1:被処理水供給ポンプ
2:被処理水供給弁
3:分離膜モジュール
4:エア抜き弁
5:処理水排出弁
6:処理水貯留槽
7:逆圧洗浄ポンプ
8:逆圧洗浄弁
9:薬液供給ポンプ
10:薬液貯留槽
11:エアブロワー
12:空気洗浄弁
13:排水弁
14:処理水1次側供給弁
15:被処理水バイパス弁
16:1次側の供給圧力センサ
17:2次側圧力センサ
18:被処理水水質センサ
19:供給薬液センサ
20:エア流量センサ
21:逆洗流量センサ
22:造水装置
23:上部接着部
24:下部接着部
25:散気孔
26:被処理水供給口となる下部側面ノズル
27:処理水排出口または逆洗水供給口となる上部端面ノズル
28:エア供給口または排水口または被処理水供給口となる下部端面ノズル
29:洗浄排水及びエアを排出する上部側面ノズル
31:コンピュータ
32:抵抗上昇速度経時変化算出手段
33:抵抗上昇速度経時変化記録手段
34:洗浄トラブル判定手段
35:第1洗浄工程条件変更手段
36:第2洗浄工程変更手段
37:薬品供給記録手段
38:被処理水水質記録手段
39:洗浄条件記録手段
40:補正手段
41:洗浄トラブル判定プログラム