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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】歪センサ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018193492
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020060519
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】594094205
【氏名又は名称】日本リニアックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筧 芳治
(72)【発明者】
【氏名】小栗 泰造
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和郎
(72)【発明者】
【氏名】松元 光輝
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-141167(JP,A)
【文献】特開2017-201235(JP,A)
【文献】特開2006-194598(JP,A)
【文献】特開2016-180704(JP,A)
【文献】特開2015-178999(JP,A)
【文献】特開平11-284224(JP,A)
【文献】特開2013-117422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/00-1/26
25/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層とを備えた歪センサであって、
前記基板と前記感応層との間にバッファ層をさらに備え、
前記感応層は、Ti、CおよびOを含む材料からなり、
前記バッファ層は、前記感応層と同じ結晶構造を有し、
前記バッファ層の格子定数をa、前記感応層の格子定数をaとしたとき、aとaとの間にa×N×0.95≦a≦a×N×1.05(ただし、N=1,2)の関係がある
ことを特徴とする歪センサ。
【請求項2】
前記バッファ層は、MgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOのうちの1つからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の歪センサ。
【請求項3】
前記バッファ層の配向性が、前記感応層の配向性と同一である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歪センサ。
【請求項4】
前記感応層の表面上にSiC、またはSiCにOを添加してなる材料からなる保護層をさらに備える
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の歪センサ。
【請求項5】
基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層とを備えた歪センサの製造方法であって、
前記基板の表面上にバッファ層を形成するバッファ層形成工程と、
前記バッファ層の表面上に、Ti、CおよびOを含む材料からなる感応層を形成する感応層形成工程と、
を含み、
前記バッファ層は、前記感応層と同じ結晶構造を有し、
前記バッファ層の格子定数をa、前記感応層の格子定数をaとしたとき、aとaとの間にa×N×0.95≦a≦a×N×1.05(ただし、N=1,2)の関係がある
ことを特徴とする歪センサの製造方法。
【請求項6】
前記バッファ層は、MgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOのうちの1つからなる
ことを特徴とする請求項5に記載の歪センサの製造方法。
【請求項7】
前記バッファ層形成工程において、前記感応層と同一の配向性を有するように前記バッファ層を形成する
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の歪センサの製造方法。
【請求項8】
前記感応層形成工程の後に実行される、前記感応層の表面上にSiC、またはSiCにOを添加してなる材料からなる保護層を形成する保護層形成工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の歪センサの製造方法。
【請求項9】
前記バッファ層形成工程と前記感応層形成工程との間に実行される、前記バッファ層を予め定められたアニール温度でアニール処理するアニール工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項5~請求項8のいずれか一項に記載の歪センサの製造方法。
【請求項10】
前記アニール温度が、300℃以上である
ことを特徴とする請求項9に記載の歪センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層とを備えた歪センサ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力センサ、加速度センサおよび力覚センサ等として、基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層(歪抵抗薄膜)とを備えた歪センサが使用されている。歪センサによれば、ホイートストンブリッジ回路等を用いて感応層の電気抵抗変化を検知することにより、基板の歪の程度、すなわち、測定すべき圧力等を測定することができる。
【0003】
上記のような歪センサとしては、例えば、石英等の絶縁性を有する材料からなる基板11と、Ti、CおよびOを含む材料(TiC。「炭酸化チタン」ともいう)からなる感応層12とを備えた歪センサ10が知られている(図11および特許文献1参照)。感応層12は、チャンバ内に基板11およびTiCターゲットを配置した後、チャンバ内にAr等のスパッタガスとともに反応性ガスとしてのOガスを導入しながらTiCターゲットにイオンビームを照射するスパッタリングにより形成される。図12に示すように、形成された感応層12中のCおよびOの濃度は、導入されるOガスの流量に応じて変化する。具体的には、Oガスの流量を増加させると、Oの濃度は増加し、Cの濃度は低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-201235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歪センサの性能を示す指標には、ゲージ率(GF,Gauge Factor)と抵抗温度係数(TCR,Temperature Coefficient of Resistance)とがある。ゲージ率GFは、基板11の歪に対して感応層12の電気抵抗がどの程度変化するのかを示す指標であり、大きければ大きいほど好ましい。また、抵抗温度係数TCRは、感応層12の電気抵抗が温度に応じてどの程度変化するのかを示す指標であり、歪センサが使用される温度範囲においてゼロに近ければ近いほど好ましい。このため、歪センサの開発においては、より大きなゲージ率GFと、よりゼロに近い抵抗温度係数TCRとが同時に実現されるよう検討が進められている。
【0006】
しかしながら、上記従来の歪センサ10では、ゲージ率GFと抵抗温度係数TCRとの間に図13に示すトレードオフの関係があるため、一方を悪化させることなく他方を改善することができなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ゼロに近い抵抗温度係数TCRを有し、かつ従来よりも大きなゲージ率GFを有する歪センサ、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る歪センサは、基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層とを備えた歪センサであって、基板と感応層との間にバッファ層をさらに備え、感応層がTi、CおよびOを含む材料(TiC)からなり、バッファ層が感応層と同じ結晶構造を有し、バッファ層の格子定数をa、感応層の格子定数をaとしたとき、aとaとの間にa×N×0.95≦a≦a×N×1.05(ただし、N=1,2)の関係がある、との構成を有している。
【0009】
この構成によれば、バッファ層の影響を受けて感応層の結晶化が促進され、感応層の結晶粒径が大きくなり、その結果、バッファ層が存在しない場合、すなわち、基板上に感応層を直接的に形成した場合よりもゲージ率GFを改善することができる。
【0010】
上記歪センサは、バッファ層がMgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOのうちの1つからなる、との構成を有していてもよい。
【0011】
感応層を構成するTiC(一例として、TCRがゼロに近い組成比であるTi0.4830.2270.290)、並びにバッファ層を構成するMgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOの結晶構造および格子定数は、以下の通りである。

TiC: 岩塩構造(立方晶系), a=0.4341nm
MgO: 岩塩構造(立方晶系), ab1=0.4211nm
NiO: 岩塩構造(立方晶系), ab2=0.4168nm
MgSnO:スピネル構造(立方晶系),ab3=0.8600nm
ZnSnO:スピネル構造(立方晶系),ab4=0.8665nm

すなわち、バッファ層を構成するMgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOは、感応層を構成するTiCと同様、立方晶系に属する結晶構造を有している。また、MgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOの格子定数ab1,ab2,ab3,ab4は、TiCの格子定数aのN倍(ただし、N=1,2)との誤差が±5%以内である。具体的には、(ab1-a)/a×100=-3.0%、(ab2-a)/a×100=-4.0%、(ab3-2×a)/(2×a)×100=-0.9%、(ab4-2×a)/(2×a)×100=-0.2%である。したがって、MgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOは、バッファ層としての条件を満たしている。なお、TiCの組成比は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により測定した。
【0012】
上記歪センサは、バッファ層の配向性が感応層の配向性と同一であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、感応層の結晶化がさらに促進され、ゲージ率GFをさらに改善することができる。
【0014】
上記歪センサは、感応層の表面上にSiC、またはSiCにOを添加してなる材料からなる保護層をさらに備えていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、大気中の高温環境下において感応層を構成するTiCが酸化されるのを防ぐことができる。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る歪センサの製造方法は、基板と該基板の歪に応じて電気抵抗が変化するよう構成された感応層とを備えた歪センサの製造方法であって、基板の表面上にバッファ層を形成するバッファ層形成工程と、バッファ層の表面上にTi、CおよびOを含む材料からなる感応層を形成する感応層形成工程とを含み、バッファ層は感応層と同じ結晶構造を有し、バッファ層の格子定数をa、感応層の格子定数をaとしたとき、aとaとの間にa×N×0.95≦a≦a×N×1.05(ただし、N=1,2)の関係がある、との構成を有している。
【0017】
上記歪センサの製造方法は、バッファ層がMgO、NiO、MgSnOおよびZnSnOのうちの1つからなる、との構成を有していてもよい。
【0018】
上記歪センサの製造方法は、バッファ層形成工程において、感応層と同一の配向性を有するようにバッファ層を形成することが好ましい。
【0019】
上記歪センサの製造方法は、感応層形成工程の後に実行される、感応層の表面上にSiC、またはSiCにOを添加してなる材料からなる保護層を形成する保護層形成工程をさらに含むことが好ましい。
【0020】
さらに、上記歪センサの製造方法は、バッファ層形成工程と感応層形成工程との間に実行される、バッファ層を予め定められたアニール温度(例えば、300℃以上)でアニール処理するアニール工程をさらに含むことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、バッファ層の結晶粒径が大きくなり、それに引きずられるように感応層の結晶粒径がさらに大きくなり、その結果、アニール処理を行わない場合よりもゲージ率GFを改善することができる。なお、この構成は、バッファ層形成工程における基板の温度が比較的低く、十分に結晶化されたバッファ層が得られていない場合に特に有用である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ゼロに近い抵抗温度係数TCRを有し、かつ従来よりも大きなゲージ率GFを有する歪センサ、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る歪センサの概略的な構成を示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る歪センサの製造方法を示すフロー図である。
図3】バッファ層を厚さ50nmのMgOとした場合の、第1実施形態に係る歪センサのゲージ率GF、抵抗温度係数TCR、バッファ層および感応層の結晶粒径の測定結果を示すグラフである。
図4】バッファ層を厚さ100nmのMgOとした場合の、第1実施形態に係る歪センサのゲージ率GF、抵抗温度係数TCR、バッファ層および感応層の結晶粒径の測定結果を示すグラフである。
図5】バッファ層を厚さ50nmのMgOとした場合の、MgOの配向性が第1実施形態に係る歪センサのゲージ率GFに与える影響を示すグラフである。
図6】バッファ層を厚さ100nmのMgOとした場合の、MgOの配向性が第1実施形態に係る歪センサのゲージ率GFに与える影響を示すグラフである。
図7】本発明の第2実施形態に係る歪センサの概略的な構成を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る歪センサの製造方法を示すフロー図である。
図9】300K~773Kの範囲での複数回の昇降温が第2実施形態に係る歪センサの比抵抗に与える影響を示すグラフである。
図10】アニール処理がバッファ層を構成するMgOの結晶粒径に与える影響を示すグラフである。
図11】従来の歪センサの概略的な構成を示す断面図である。
図12】TiCからなる感応層を形成する際にチャンバ内に導入する酸素の流量と形成された感応層の組成との関係を示すグラフである。
図13】TiCからなる感応層を形成する際にチャンバ内に導入する酸素の流量とゲージ率GFおよび抵抗温度係数TCRとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る歪センサ、およびその製造方法の実施形態について説明する。
【0025】
[第1実施形態]
[歪センサ、およびその製造方法の構成]
図1に、本発明の第1実施形態に係る歪センサ1Aを示す。同図に示すように、歪センサ1Aは、石英からなる基板2と、Ti、CおよびOを含む材料(TiC)からなる感応層4と、これらの間に位置するMgOからなるバッファ層3とを備えている。本実施形態では、バッファ層3の厚みは50nmまたは100nmである。また、本実施形態では、感応層4の厚みは100nmである。
【0026】
図2に、歪センサ1Aの製造方法FAを示す。同図に示すように、製造方法FAは、基板2の表面上にMgOからなるバッファ層3を形成するバッファ層形成工程S1と、バッファ層3の表面上にTiCからなる感応層4を形成する感応層形成工程S3とを含んでいる。
【0027】
バッファ層形成工程S1では、チャンバ内に基板2およびMgOターゲットを配置した後、チャンバ内にスパッタガスとしてのArガスを導入しながら高周波プラズマを発生させ、基板2の表面にMgO薄膜を堆積させる。つまり、本工程S1では、スパッタリングによってバッファ層3としてのMgO薄膜を形成する。なお、本工程S1では、チャンバ内に導入するArガスの流量を変化させることにより、MgOの配向を制御することができる。
【0028】
感応層形成工程S3では、チャンバ内にバッファ層3が形成された基板2およびTiCターゲットを配置した後、チャンバ内にスパッタガスとしてのArガスとともに反応性ガスとしてのOガスを導入しながらTiCターゲットにイオンビームを照射することにより、TiCターゲットから飛び出したTi原子およびC原子をバッファ層3の表面に堆積させる。つまり、本工程S3では、スパッタリングによって感応層4としてのTiC薄膜を形成する。なお、本工程S3では、導入するOガスの流量を変化させることにより、TiC中のCおよびOの濃度を制御することができる(図13参照)。
【0029】
図2に示すように、本実施形態に係る製造方法FAは、バッファ層形成工程S1と感応層形成工程S3との間に実行される、大気中においてバッファ層3を予め定められたアニール温度でアニール処理するアニール工程S2をさらに含んでいてもよい。後述するように、アニール工程S2によれば、バッファ層3を構成するMgOの結晶粒径を大きくし、その結果、感応層4を構成するTiCの結晶粒径も大きくすることができる。アニール工程S2は、バッファ層形成工程S1における基板2の温度が比較的低く、バッファ層3を十分に結晶化させることができていない場合に特に有用である。
【0030】
[性能評価試験]
続いて、第1実施形態に係る歪センサ1Aに対して行った各種性能評価試験の結果について説明する。
【0031】
基板2上に(100)に配向した厚さ50nmのMgOからなるバッファ層3を形成し、その上に(100)に配向した厚さ100nmのTiCからなる感応層4を形成してなる実施例1に係る歪センサ1Aと、バッファ層3に対して500℃、10時間のアニール処理を行った以外は実施例1と同様にして作成した実施例2に係る歪センサ1Aと、基板11上に厚さ100nmのTiCからなる感応層12を直接的に形成してなる比較例1に係る歪センサ10(図11参照)とを用意し、それぞれのゲージ率GF、抵抗温度係数TCR、バッファ層3および感応層4,12の結晶粒径を測定した。その結果を、表1および図3に示す。
【表1】
【0032】
このように、基板2と感応層4の間にバッファ層3を設けると、抵抗温度係数TCRはほとんど変化せずに、ゲージ率GFが大幅に改善した。また、バッファ層3に対してアニール処理を行うと、バッファ層3を構成するMgOおよび感応層4を構成するTiCの結晶粒径が大きくなり、その結果、ゲージ率GFがさらに改善した。
【0033】
次に、バッファ層3の厚みを100nmとした以外は実施例1と同様にして作成した実施例3に係る歪センサ1Aと、バッファ層3の厚みを100nmとした以外は実施例2と同様にして作成した実施例4に係る歪センサ1Aと、比較例1と同様にして作成した比較例2に係る歪センサ10とを用意し、それぞれのゲージ率GF、抵抗温度係数TCR、バッファ層3および感応層4,12の結晶粒径を測定した。その結果を、表2および図4に示す。
【表2】
【0034】
このように、基板2と感応層4の間に厚さ100nmのバッファ層3を設けても、抵抗温度係数TCRはほとんど変化せずに、ゲージ率GFが大幅に改善した。また、厚さ100nmのバッファ層3に対してアニール処理を行っても、バッファ層3を構成するMgOおよび感応層4を構成するTiCの結晶粒径が大きくなり、その結果、ゲージ率GFがさらに改善した。
【0035】
次に、バッファ層3であるMgOを無配向とした以外は実施例1と同様にして作成した実施例5に係る歪センサ1Aと、MgOを無配向とした以外は実施例2と同様にして作成した実施例6に係る歪センサ1Aと、比較例1と同様にして作成した比較例3に係る歪センサ10とを用意し、それぞれのゲージ率GFを測定した。その結果を表3および図5(A)に示す。なお、ΔGF/GFは、比較例3を基準とした改善率である。
【表3】
【0036】
このように、基板2と感応層4の間に無配向のMgOからなるバッファ層3を設けても、ゲージ率GFは改善した。また、無配向のMgOからなるバッファ層3に対してアニール処理を行っても、ゲージ率GFはさらに改善した。
【0037】
次に、実施例1に係る歪センサ1Aと、実施例2に係る歪センサ1Aと、比較例1に係る歪センサ10とを用意し、それぞれのゲージ率GFを測定した。その結果を表4および図5(B)に示す。なお、ΔGF/GFは、比較例1を基準とした改善率である。
【表4】
【0038】
このように、(100)に配向したMgOからなるバッファ層3を用いると、無配向のMgOからなるバッファ層3を用いた場合に比べ、ゲージ率GFの改善率が大幅に上昇した。
【0039】
次に、バッファ層3の厚みを100nmとした以外は実施例5と同様にして作成した実施例7に係る歪センサ1Aと、バッファ層3の厚みを100nmとした以外は実施例6と同様にして作成した実施例8に係る歪センサ1Aと、比較例2と同様にして作成した比較例4に係る歪センサ10とを用意し、それぞれのゲージ率GFを測定した。その結果を表5および図6(A)に示す。なお、ΔGF/GFは、比較例4を基準とした改善率である。
【表5】
【0040】
このように、基板2と感応層4の間に厚さ100nmの無配向のMgOからなるバッファ層3を設けても、ゲージ率GFは改善した。また、厚さ100nmの無配向のMgOからなるバッファ層3に対してアニール処理を行っても、ゲージ率GFはさらに改善した。
【0041】
次に、実施例3に係る歪センサ1Aと、実施例4に係る歪センサ1Aと、比較例2に係る歪センサ10とを用意し、それぞれのゲージ率GFを測定した。その結果を表6および図6(B)に示す。なお、ΔGF/GFは、比較例2を基準とした改善率である。
【表6】
【0042】
このように、(100)に配向したMgOからなる厚さ100nmのバッファ層3を用いると、無配向のMgOからなる厚さ100nmのバッファ層3を用いた場合に比べ、ゲージ率GFの改善率が大幅に上昇した。
【0043】
[第2実施形態]
[歪センサ、およびその製造方法の構成]
図7に、本発明の第2実施形態に係る歪センサ1Bを示す。同図に示すように、歪センサ1Bは、石英からなる基板2と、(100)に配向したMgOからなるバッファ層3と、(100)に配向したTiCからなる感応層4とに加え、感応層4の表面上に位置するSiCからなる保護層5をさらに備えている。本実施形態では、バッファ層3の厚みは50nmであり、感応層4の厚みは100nmである。また、本実施形態では、保護層5の厚みは30nmである。
【0044】
図8に、歪センサ1Bの製造方法FBを示す。同図に示すように、製造方法FBは、バッファ層形成工程S1と、感応層形成工程S3とに加え、感応層4の表面上にSiCからなる保護層5を形成する保護層形成工程S4をさらに含んでいる。製造方法FAと同様、製造方法FBは、バッファ層形成工程S1と感応層形成工程S3との間に実行されるアニール工程S2をさらに含んでいてもよい。
【0045】
保護層形成工程S4では、チャンバ内にバッファ層3および感応層4が形成された基板2およびSiCターゲットを配置した後、チャンバ内にOガスを導入することなくSiCターゲットにイオンビームを照射することにより、SiCターゲットから飛び出したSi原子およびC原子を感応層4の表面に堆積させる。つまり、本工程S4では、スパッタリングによって保護層5としてのSiC薄膜を形成する。
【0046】
[性能評価試験]
続いて、第2実施形態に係る歪センサ1Bに対して行った高温安定性試験の結果について説明する。本試験では、大気が導入された測定室内に歪センサ1Bを配置した後、300K(室温)~773K(500℃)の範囲での3往復の昇降温を行いながら感応層4の比抵抗を測定した。
【0047】
図9に比抵抗の測定結果を示す。この結果は、上記の温度範囲で昇降温を繰り返しても、感応層4の組成にほとんど変化がなかったことを示している。なお、保護層5を備えていない第1実施形態に係る歪センサ1Aに対して同様の試験を行うと、大気中のOによって感応層4が酸化され、感応層4中のOの濃度が増加し、その結果、比抵抗だけでなく、ゲージ率GFおよび抵抗温度係数TCRが変化すると考えられる(図13参照)。
【0048】
[その他の実施形態]
以上、本発明に係る歪センサおよびその製造方法の第1および第2実施形態について説明してきたが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0049】
例えば、基板2は、絶縁性を有する石英以外の材料からなっていてもよい。
【0050】
また、バッファ層3は、以下の(1)~(3)の条件を満たすMgO以外の材料からなっていてもよい。
(1)立方晶系に属する結晶構造を有していること。
(2)TiCの格子定数のN倍(ただし、N=1,2)に対する誤差が±5%以内である格子定数を有していること。
(3)TiCに対して十分に高抵抗であること。
このような材料としては、例えば、岩塩構造を有するNiO(格子定数:0.4168nm)、スピネル構造を有するMgSnO(格子定数:0.8600nm)、およびスピネル構造を有するZnSnO(格子定数:0.8665nm)がある。
【0051】
また、バッファ層3は、任意の配向性を有していてもよい。ただし、感応層4としてのTiCが(100)に配向している場合は、(100)に配向した材料をバッファ層3とすることが好ましい。図5および図6に示した結果から明らかなように、バッファ層3の配向性を感応層4の配向性と同一にすると、ゲージ率GFの改善率が高まるからである。
【0052】
また、保護層5は、SiC薄膜であってもよい。この場合、チャンバ内にバッファ層3および感応層4が形成された基板2およびSiCターゲットを配置した後、チャンバ内にAr等のスパッタガスとともに反応性ガスとしてのOガスを導入しながらSiCターゲットにイオンビームを照射することにより、SiCターゲットから飛び出したSi原子およびC原子とともにO原子を感応層4の表面に堆積させる。SiCにOを添加することにより、保護層5と感応層4との間の密着性が向上し、高温時の保護層5の剥離を抑制することができる。
【0053】
また、アニール工程S2におけるアニール温度を、300℃以上の任意の温度としてもよい。図10に示すように、300℃以上であれば、アニール処理によってバッファ層3を構成するMgOの結晶粒径を大きくすることができるからである。なお、図10は、(100)に配向した厚さ100nmのMgOからなるバッファ層3の、アニール前後のX線回折強度を示している。
【0054】
なお、前述した通り、バッファ層形成工程S1において基板2の温度を十分に高温にすることができる場合は、バッファ層形成工程S1においてバッファ層3が十分に結晶化されるので、アニール工程S2を不要とすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1A,1B 歪センサ
2 基板
3 バッファ層
4 感応層
5 保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図13