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特許7103603CH3ドメインに基づくヘテロダイマー分子、その調製方法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】CH3ドメインに基づくヘテロダイマー分子、その調製方法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20220712BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220712BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220712BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/16
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018531643
(86)(22)【出願日】2016-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 CN2016110252
(87)【国際公開番号】W WO2017101828
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-16
(31)【優先権主張番号】201510938995.0
(32)【優先日】2015-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517238994
【氏名又は名称】蘇州康寧傑瑞生物科技有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】518320030
【氏名又は名称】江蘇康寧杰瑞生物制薬有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徐 霆
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515275(JP,A)
【文献】特表2014-504265(JP,A)
【文献】Nature Biotechnology,1998年,Vol.16,p.677-681
【文献】Shane Atwell et al.,J. Mol. Biol.,1997年,vol. 270,p. 26-35
【文献】Hye-Ji Choi et al.,Molecular Cancer Therapeutics,2013年12月,Vol. 12, No. 12,p. 2748-2759
【文献】Nature Biotechnology,1998年,Vol.16,p.677-681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の重鎖定常領域の第1のCH3ドメインを含む第1のポリペプチド鎖と、抗体の重鎖定常領域の第2のCH3ドメインを含む第2のポリペプチド鎖とを含み、
前記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、対応する野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインに比べて、以下のアミノ酸の変異、すなわち、
(a)前記第1のCH3ドメインのY349及びT366に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368Y407、及びF405に変異が生じること、
(b)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、及びF405のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368及びY407のアミノ酸に変異が生じること、
(c)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、及びK409のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368、Y407、及びF405のアミノ酸に変異が生じること、
(d)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、F405、K360、及びQ347のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368、Y407、及びQ347のアミノ酸に変異が生じること、
(e)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、F405、及びQ347のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368、Y407、K360、及びQ347のアミノ酸に変異が生じること、
(f)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、K409、K360、及びQ347のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368、Y407、F405、及びQ347のアミノ酸に変異が生じること、又は
(g)前記第1のCH3ドメインのY349、T366、K409、及びQ347のアミノ酸に変異が生じ、前記第2のCH3ドメインのD356、T366、L368、Y407、F405、K360、及びQ347のアミノ酸に変異が生じること、
前記野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインが、ヒトIgG1の重鎖定常領域のCH3ドメインであり、
Y349の変異は、Y349Cであり、
T366の変異は、T366Wであり、
F405の変異は、F405Kであり、
K409の変異は、K409E又はK409Aであり、
K360の変異は、K360Eであり、
Q347の変異は、Q347E又はQ347Rであり;
前記第2のCH3ドメインにおける
D356の変異は、D356Cであり、
T366の変異は、T366Sであり、
L368の変異は、L368Aであり、
Y407の変異は、Y407Vであり、
F405の変異は、F405Kであり、
Q347の変異は、Q347R又はQ347Eであり、
K360の変異は、K360Eである、
上述したアミノ酸の位置が、抗体FcのKABATがナンバリングしたEUインデックスに基づいて確定される、ヘテロダイマー分子。
【請求項2】
前記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、
1)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
2)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407Vと、
3)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
4)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
5)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K+K360E+Q347E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+Q347Rと、
6)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K+Q347R、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+K360E+Q347Eと、
7)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+K360E+Q347E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405K+Q347Rと、
8)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+Q347R、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405K+K360E+Q347Eと、
の群から選択される変異を含む、請求項1に記載のヘテロダイマー分子
【請求項3】
前記第1のポリペプチド鎖と、第2のポリペプチド鎖とが、それぞれ抗体の重鎖定常領域のCH2ドメインを更に含む、請求項1又は2に記載のヘテロダイマー分子。
【請求項4】
前記第1のポリペプチド鎖と、第2のポリペプチド鎖とが、それぞれ抗体の重鎖定常領域のヒンジ領域又はヒンジ領域の一部を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子。
【請求項5】
前記第1のポリペプチド鎖及び/又は第2のポリペプチド鎖が、抗原結合領域、受容体結合領域及び酵素結合領域から選択される分子結合領域を更に含む、請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子。
【請求項6】
前記抗原結合領域が、抗体の可変領域を含む、請求項に記載のヘテロダイマー分子。
【請求項7】
二重特異性抗体、二重特異性融合タンパク質、又は抗体-融合タンパク質キメラである、請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子と、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む、組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖及び/又は第2のポリペプチド鎖をコードする、核酸分子。
【請求項10】
請求項に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載のヘテロダイマー分子、請求項に記載の組成物、請求項に記載の核酸分子、請求項10に記載のベクター、又は請求項11に記載の宿主細胞の、二重特異性抗体、二重特異性融合タンパク質、又は抗体-融合タンパク質キメラの調製における使用。
【請求項13】
請求項11に記載の宿主細胞を用いて前記ヘテロダイマー分子を発現させる工程を含む、ヘテロダイマー分子の調製方法。
【請求項14】
前記宿主細胞が、前記ヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖をコードするベクターと第2のポリペプチド鎖をコードするベクターとを同時に含み、
前記宿主細胞を用いて前記ヘテロダイマー分子を発現させ、回収し、取得することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞が、第1群の細胞と、第2群の細胞とを含み、
前記第1群の細胞及び第2群の細胞が、前記ヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖をコードするベクター及び第2のポリペプチド鎖をコードするベクターをそれぞれ含み、
前記第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖をそれぞれ前記第1群の細胞及び前記第2群の細胞で発現させて前記第1のポリペプチド鎖のホモダイマー及び前記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーを形成し、その後、前記第1のポリペプチド鎖のホモダイマーと、前記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーとを適切な条件で混合し、前記ヘテロダイマー分子を調製して取得することを含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に記載の発明は、抗体工学の分野に属し、具体的には、CH3ドメインに基づくヘテロダイマー分子、その調製方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体薬は、この15年間で大きな進歩を遂げ、製薬業界の推進力となっている。1996年以降、合計30個前後のモノクローナル抗体薬が認可され、市販されており、このうち9つのモノクローナル薬の年間売上高は10億USドルを超えている。2010年のモノクローナル薬の販売総額は300億USドルを超えており、年間成長率が10%を超えている。モノクローナル抗体は標的特異性が高いので、単一の標的のみ抑制することができる。しかしながら、腫瘍、自己免疫疾患等を含む複数の疾患では、多重シグナル経路を抑制して補償作用を回避する必要がある。ウイルス感染疾患については、ウイルスの変異率が高いので、一般に、複数の抗原部位を抑制して漏れがないようにする必要がある。また、二重特異性抗体、二重特異性タンパク質は、人体の免疫系を特異的に活性化するのに用いられている(非特許文献1)。
【0003】
周知のように、抗体の結晶性フラグメント(Fc)領域はホモダイマーを形成しており、また、Fcは抗体及びFc融合タンパク質のin vivo安定性に重要な役割を果たしている。Fcの改変によってこれにヘテロダイマーを形成させることが、多機能性抗体、多機能性タンパク質を産生し、そのin vivo安定性を維持する効果的な方法である。
【0004】
ヘテロダイマーの1つの典型的な適用例が二重特異性抗体であり、二重特異性抗体(BsAb:Bispecific antibody)は2つの異なるリガンド結合部位を含む免疫グロブリン分子である。二重特異性抗体は少なくとも2つの異なる抗原に対して活性を有するようにすることができ(非特許文献2)、これは代表的な抗体のFabの両腕が同じ配列であるのに対し、異なる配列を持つFabの両腕の形態を用いているので、Y字型の両腕が異なる抗原に結合することができるものである。癌治療における二重特異性抗体の適用は既に複数の文献で概要が述べられている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献3)。
【0005】
二重特異性抗体は自然の状態では存在せず、特殊な方法によってしか調製することができない。従来、二重特異性抗体の調製方法には、化学架橋法、F(ab’)2分子ハイブリダイゼーション法及びマウスハイブリドーマ法等がある。化学架橋法により産生された二重特異性抗体の不均一性、各ロット間の製品の不安定性、及び抗体の特異性は何らかの修飾又は不適正な連結により変更されやすいという特性により、この方法で産生された二重特異性抗体はin vivoの使用に適していない。タンパク質の酵素分解フラグメントF(ab’)をスルフヒドリル基で架橋して産生された二重特異性ハイブリダイズ分子は、成分は比較的均一であるが、時間も手間もかかり、生産量が少ない。ハイブリドーマ法で産生された二重特異性抗体は、由来は確かなものであるが、軽鎖と重鎖とのランダム対合により抗体の形態が複数種類発生する可能性があり、二重特異性抗体の産生、精製が非常に困難になる。
【0006】
既に1990年代にCarter他が「ノブ・イントゥ・ホール」(knob into hole)モデルによって抗体重鎖の一部のアミノ酸を改変しており、二重特異性抗体の調製実現に成功している(非特許文献4、非特許文献2)。「ノブ・イントゥ・ホール」モデルは最初Crickによって提示されたものであり、これにより、隣り合うαヘリックス間のアミノ酸側鎖が折り畳まれるという問題が解決された(非特許文献5)。Carter他は、Fc領域の1本目の重鎖のCH3ドメインにおいて側鎖の小さい1つのアミノ酸を側鎖の大きい1つのアミノ酸に変異させることによって1つの「ノブ」(例えば、T366Y)を作り出し、2本目の重鎖のCH3における或るいくつかのアミノ酸を側鎖の小さいアミノ酸に変異させて「ホール」(Y407T等)を作り出した。「ノブ・イントゥ・ホール」モデルの原理は「ノブ・イントゥ・ホール」の相互作用でヘテロダイマーの形成をサポートするというものであるが、「ノブ-ノブ」モデル及び「ホール-ホール」モデルはホモダイマーの形成を阻害する。彼らはさらに、「ノブ・イントゥ・ホール」の変異を基礎としてCH3ドメイン内のジスフィルド結合を導入することでヘテロダイマーの結合能を強化した。しかしながら、彼らの研究結果では、「ホール-ホール」モデルにおけるホモダイマーの形成阻害能力は依然として不十分である。その後、この研究グループはランダム変異-ファージディスプレイ等の方法によってヘテロダイマーの含有率を更に向上させようと試みているが、問題は依然として根本的に解決されていない。ヘテロダイマーの比率を高めるために、さらに、2種類の抗体をそれぞれ調製することによってin vitroにおいて分子間のジスフィルド結合の還元-再対合の方法でヘテロダイマーを形成する研究があるが、その調製工程は明らかに複雑すぎるものである。
【0007】
したがって、この分野では依然として、さらにヘテロダイマータンパク質の形成を強化すると共にホモダイマータンパク質の形成を弱める好適な変異を探求する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Wolf, Hofmeister et al. 2005
【文献】Carter 2001
【文献】Chames and Baty 2009
【文献】Ridgway, Presta et al. 1996
【文献】Crick 1952
【発明の概要】
【0009】
本願に記載の発明は、イオン作用、疎水性相互作用及び空間作用等の界面アミノ酸間の種々の相互作用を総合的に考慮することによって、ホモダイマーを形成せずにヘテロダイマーを形成する傾向がより一層ある有益なCH3変異配列をスクリーニングしており、これにより、ヘテロダイマー分子の生産量が大幅に向上した。
【0010】
一態様では、本願に記載の発明は、抗体の重鎖定常領域の第1のCH3ドメインを含む第1のポリペプチド鎖と、抗体の重鎖定常領域の第2のCH3ドメインを含む第2のポリペプチド鎖とを含み、
上記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、対応する野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインに比べて、以下の(1)~(3)に示される位置のアミノ酸の変異、すなわち、
(1)第1のCH3ドメインのY349及びT366に変異が生じ、第2のCH3ドメインのD356、T366、L368及びY407に変異が生じ、さらに、該第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、F405、K409、K360、Q347及びL368から選択される1つ~3つのアミノ酸の位置に変異があることと、
(2)第1のCH3ドメインのT366及びK409に変異が生じ、第2のCH3ドメインのT366、L368、Y407及びF405に変異が生じ、さらに、任意選択により、該第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、K392、D399、Y349、S354及びE357から選択される1つ~2つのアミノ酸の位置に変異があることと、
(3)第1のCH3ドメインのT366及びF405に変異が生じ、第2のCH3ドメインのT366、L368、Y407及びK409に変異が生じ、さらに、任意選択により、該第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、K392、D399、Y349、S354及びE357から選択される1つ~2つのアミノ酸の位置に変異があることと、
から選択されるいずれかを含み、
上述したアミノ酸の位置が、抗体FcのKABATがナンバリングしたEUインデックスに基づいて確定される、ヘテロダイマー分子に関する。
【0011】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、上述した第(2)項又は第(3)項の変異を含み、Y349C及びD356Cの変異を含んでいない。
【0012】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、以下の変異、すなわち、
1a)第2のCH3ドメインのF405に変異が生じたことと、
1b)第1のCH3ドメインのF405に変異が生じたことと、
1c)第1のCH3ドメインのK409に変異が生じ、第2のCH3ドメインのF405に変異が生じたことと、
1d)第1のCH3ドメインのF405、K360及びQ347に変異が生じ、第2のCH3ドメインのQ347に変異が生じたことと、
1e)第1のCH3ドメインのF405及びQ347に変異が生じ、第2のCH3ドメインのK360及びQ347に変異が生じたことと、
1f)第1のCH3ドメインのK409、K360及びQ347に変異が生じ、第2のCH3ドメインのF405及びQ347に変異が生じたことと、
1g)第1のCH3ドメインのK409及びQ347に変異が生じ、第2のCH3ドメインのF405、K360及びQ347に変異が生じたことと、
1h)第1のCH3ドメインのK409及びL368に変異が生じ、第2のCH3ドメインのF405に変異が生じたことと、
から選択されるいずれかを更に含んでいる。
【0013】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、任意選択により、以下の変異、すなわち、
2a)第1のCH3ドメインのK392に変異が生じ、第2のCH3ドメインのD399に変異が生じたことと、
2b)第1のCH3ドメインのY349に変異が生じ、第2のCH3ドメインのE357に変異が生じたことと、
2c)第1のCH3ドメインのY349及びS354に変異が生じ、第2のCH3ドメインのE357に変異が生じたことと、
から選択されるいずれかを更に含んでいる。
【0014】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインが、任意選択により、以下の変異、すなわち、
3a)第1のCH3ドメインのD399に変異が生じ、第2のCH3ドメインのK392に変異が生じたことと、
3b)第1のCH3ドメインのY349に変異が生じ、第2のCH3ドメインのE357に変異が生じたことと、
3c)第1のCH3ドメインのY349及びS354に変異が生じ、第2のCH3ドメインのE357に変異が生じたことと、
から選択されるいずれかを更に含んでいる。
【0015】
或るいくつかの実施の形態では、上記各変異が、それぞれ独立に、非荷電アミノ酸から荷電アミノ酸への変異、荷電アミノ酸から非荷電アミノ酸への変異、及び荷電アミノ酸から反対の電荷を持つアミノ酸への変異から選択される。
【0016】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメイン及び/又は第2のCH3ドメインにおける変異が、Y349C、Y349D、D356C、T366W、T366S、L368A、L368E、L368G、F405K、Y407V、Y407A、K409E、K409A、K360E、Q347E、Q347R、K392D、D399S、E357A及びS354Dから選択される1つ以上の変異を含んでいる。例えば、上記変異は、Y349C、Y349D、D356C、T366W、T366S、L368A、L368E、L368G、F405K、Y407V、Y407A、K409E、K409A、K360E、Q347E、Q347R、K392D、D399S、E357A及びS354Dから選択される1つ以上の変異とすることができる。
【0017】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインには、Y349、T366、F405、K409、L368、K392、S345及び/又はD399の群から選択される1つ以上における(例えば、少なくとも1つにおける、少なくとも2つにおける、少なくとも3つにおける、少なくとも4つにおける、少なくとも5つにおける、少なくとも6つにおける、少なくとも7つにおける又は少なくとも8つにおける)変異が含まれている。
【0018】
或るいくつかの実施の形態では、上記第2のCH3ドメインには、D356、T366、L368、Y407、F405、D399、E357、K409及び/又はK392の群から選択される1つ以上における(例えば、少なくとも1つにおける、少なくとも2つにおける、少なくとも3つにおける、少なくとも4つにおける、少なくとも5つにおける、少なくとも6つにおける、少なくとも7つにおける、少なくとも8つにおける又は少なくとも9つにおける)変異が含まれている。
【0019】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインには、Y349、T366、F405、K409、L368、K392、S345及び/又はD399の群から選択される1つ以上における(例えば、少なくとも1つにおける、少なくとも2つにおける、少なくとも3つにおける、少なくとも4つにおける、少なくとも5つにおける、少なくとも6つにおける、少なくとも7つにおける又は少なくとも8つにおける)変異が含まれ、上記第2のCH3ドメインには、D356、T366、L368、Y407、F405、D399、E357、K409及び/又はK392の群から選択される1つ以上における(例えば、少なくとも1つにおける、少なくとも2つにおける、少なくとも3つにおける、少なくとも4つにおける、少なくとも5つにおける、少なくとも6つにおける、少なくとも7つにおける、少なくとも8つにおける又は少なくとも9つにおける)変異が含まれている。
【0020】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインには、Y349C、T366W、F405K、K409A、L368E、K392D、Y349D、S345D及び/又はD399Sの群から選択される1つ以上(例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ又は少なくとも9つ)の変異が含まれている。
【0021】
或るいくつかの実施の形態では、上記第2のCH3ドメインには、D356C、T366S、L368A、Y407V、F405K、D399S、L368G、Y407A、E357A、K409A及び/又はK392Dの群から選択される1つ以上(例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個又は少なくとも11個)の変異が含まれている。
【0022】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインには、Y349C、T366W、F405K、K409A、L368E、K392D、Y349D、S345D及び/又はD399Sの群から選択される1つ以上(例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ又は少なくとも9つ)の変異が含まれ、上記第2のCH3ドメインには、D356C、T366S、L368A、Y407V、F405K、D399S、L368G、Y407A、E357A、K409A及び/又はK392Dの群から選択される1つ以上(例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個又は少なくとも11個)の変異が含まれている。
【0023】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、
1)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
2)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407Vと、
3)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
4)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
5)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K+K360E+Q347E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+Q347Rと、
6)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K+Q347R、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+K360E+Q347Eと、
7)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+K360E+Q347E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405K+Q347Rと、
8)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+Q347R、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405K+K360E+Q347Eと、
9)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+L368E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
10)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A+K392D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+D399S+F405Kと、
11)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A、第2のCH3ドメイン:T366S+L368G+Y407A+F405Kと、
12)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A+Y349D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+F405K+E357Aと、
13)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A+Y349D+S345D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+F405K+E357Aと、
14)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409Aと、
15)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K+D399S、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409A+K392Dと、
16)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:T366S+L368G+Y407A+K409Aと、
17)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K+Y349D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409A+E357Aと、
18)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K+Y349D+S345D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409A+E357Aと、
の群から選択される変異を含んでいる。
【0024】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のCH3ドメインと、第2のCH3ドメインとが、
2)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407Vと、
4)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
9)第1のCH3ドメイン:Y349C+T366W+K409A+L368E、第2のCH3ドメイン:D356C+T366S+L368A+Y407V+F405Kと、
10)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A+K392D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+D399S+F405Kと、
11)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A、第2のCH3ドメイン:T366S+L368G+Y407A+F405Kと、
13)第1のCH3ドメイン:T366W+K409A+Y349D+S345D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+F405K+E357Aと、
15)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K+D399S、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409A+K392Dと、
16)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K、第2のCH3ドメイン:T366S+L368G+Y407A+K409Aと、
18)第1のCH3ドメイン:T366W+F405K+Y349D+S345D、第2のCH3ドメイン:T366S+L368A+Y407V+K409A+E357Aと、
の群から選択される変異を含んでいる。
【0025】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のポリペプチド鎖と、第2のポリペプチド鎖とが、それぞれ抗体の重鎖定常領域のCH2ドメインを更に含んでいる。或るいくつかの実施の形態では、上記CH2ドメインが、CH3ドメインのN末端に位置しており、CH3ドメインのN末端と直接連結されるか、又はC-ペプチドによって連結されている。
【0026】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のポリペプチド鎖と、第2のポリペプチド鎖とが、それぞれ抗体の重鎖定常領域のヒンジ領域又はヒンジ領域の一部を更に含んでいる。或るいくつかの実施の形態では、上記ヒンジ領域の一部が、D221-P230である。
【0027】
或るいくつかの実施の形態では、上記ヒンジ領域又はヒンジ領域の一部が、CH3ドメインのN末端に位置しており、CH2ドメインが存在する場合には、上記ヒンジ領域又はヒンジ領域の一部が、さらに、CH2ドメインのN末端に位置しており、CH2ドメイン又はCH3ドメインと直接連結されるか、又はC-ペプチドによって連結されている。
【0028】
或るいくつかの実施の形態では、上記野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインが、ヒトIgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)の重鎖定常領域のCH3ドメイン、ヒトIgA(例えば、IgA1、IgA2)の重鎖定常領域のCH3ドメイン、ヒトIgDの重鎖定常領域のCH3ドメイン、ヒトIgEの重鎖定常領域のCH3ドメイン、及びヒトIgMの重鎖定常領域のCH3ドメインから選択される。
【0029】
或るいくつかの実施の形態では、上記野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインが、ヒトIgG1の重鎖定常領域のCH3ドメインである。
【0030】
或るいくつかの実施の形態では、上記第1のポリペプチド鎖及び/又は第2のポリペプチド鎖が、例えば抗原結合領域、受容体結合領域又は酵素結合領域のような分子結合領域を更に含んでいる。或るいくつかの実施の形態では、上記抗原結合領域が、抗体の可変領域を含んでいる。
【0031】
或るいくつかの実施の形態では、上記ヘテロダイマー分子が、二重特異性抗体、二重特異性融合タンパク質、又は抗体-融合タンパク質キメラである。
【0032】
別の態様では、本願は、本願に記載のいずれかのヘテロダイマー分子と、任意選択の薬学的に許容可能な担体又は賦形剤とを含む、組成物(例えば、医薬組成物)に関する。
【0033】
本願は更に、本願に記載のヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖若しくは第2のポリペプチド鎖をコードするか、又は本願に記載のヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖をコードする、核酸分子に関する。
【0034】
本願は更に、本願に記載の核酸分子を含む、ベクターに関する。
【0035】
本願は更に、本願に記載のベクターを含む、宿主細胞に関する。
【0036】
本願は更に、上記ヘテロダイマー分子、組成物、核酸分子、ベクター又は宿主細胞の、二重特異性抗体、二重特異性融合タンパク質、及び抗体-融合タンパク質キメラの調製における用途に関する。
【0037】
本願は更に、本願に記載の宿主細胞を用いて上記ヘテロダイマー分子を発現させる工程を含む、ヘテロダイマー分子の調製方法に関する。
【0038】
上記ヘテロダイマー分子の調製方法の或るいくつかの実施の形態では、上記宿主細胞が、上記ヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖をコードするベクターと、第2のポリペプチド鎖をコードするベクターとを同時に含んでおり、該方法は、上記宿主細胞を用いて上記ヘテロダイマー分子を発現させ、回収し、取得することを含んでいる。
【0039】
上記ヘテロダイマー分子の調製方法の或るいくつかの実施の形態では、上記宿主細胞が、第1群の細胞と、第2群の細胞とを含み、上記第1群の細胞と、第2群の細胞とが、上記ヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖をコードするベクター及び第2のポリペプチド鎖をコードするベクターをそれぞれ含んでおり、該方法は、上記第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖をそれぞれ上記第1群の細胞及び上記第2群の細胞で発現させて上記第1のポリペプチド鎖のホモダイマー及び上記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーを形成し、その後、上記第1のポリペプチド鎖のホモダイマーと、上記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーとを適切な条件で混合し、上記ヘテロダイマー分子を調製して取得することを含んでいる。或るいくつかの実施の形態では、該方法は、上記第1のポリペプチド鎖のホモダイマーと、上記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーとを還元してモノマーに解離し、混合し、酸化させ、その後、精製し、上記ヘテロダイマー分子を調製して取得することを更に含んでいる。或るいくつかの実施の形態では、上記宿主細胞が、上記ヘテロダイマー分子の第1のポリペプチド鎖をコードするベクター及び第2のポリペプチド鎖をコードするベクターをそれぞれ含んでおり、第1のポリペプチド鎖及び第2のポリペプチド鎖が、それぞれ2つの宿主細胞で発現して第1のポリペプチド鎖のホモダイマー及び第2のポリペプチド鎖のホモダイマーを形成し、その後、上記第1のポリペプチド鎖のホモダイマーと、上記第2のポリペプチド鎖のホモダイマーとを適切な条件で還元し、混合し、酸化させ、その後、精製し、上記ヘテロダイマー分子を調製して取得する。
【0040】
上記ヘテロダイマー分子の調製方法の或るいくつかの実施の形態では、それぞれ上記第1群の細胞と、上記第2群の細胞とに対して、上記第1のポリペプチド鎖又は上記第2のポリペプチド鎖を含む構築体又はベクターをトランスフェクションする。上記トランスフェクションは、一過性トランスフェクションとすることができる。トランスフェクションでは、上記第1のポリペプチド鎖を含む構築体又はベクターと、上記第2のポリペプチド鎖を含む構築体又はベクターとのモル比を1:4~4:1、例えば1:2~2:1、例えば約1:1とすることができる。
【0041】
以下の詳細な説明から、当業者は、本開示の他の態様及び利点を容易に理解することができる。以下の詳細な説明には、単に本開示の例示的な実施形態が示され、記載されているにすぎない。当業者に理解されるように、本開示の内容は、本願に係る発明の趣旨及び範囲を逸脱しない限り、開示される具体的な実施形態を当業者が改変することができる。これに対応して、本願の図面及び明細書の記載は、単に例示的なものにすぎず、限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの一過性発現の電気泳動分析結果を示す図である。4%~12%のSDS-PAGEタンパク質ゲル電気泳動を用いた。レーンは、1から7まで順に、タンパク質分子量マーカー、変異の組合せKH、変異の組合せ1、変異の組合せ2、変異の組合せ3、変異の組合せ4、野生型陰性対照の組合せである。各産物に含まれるホモダイマー及びヘテロダイマーは、分子量の違いによりゲル電気泳動における泳動距離が異なっている。図には、それぞれのホモダイマー又はヘテロダイマーのタンパク質の所在位置が示されている。
図2】ScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの一過性発現の電気泳動分析結果を示す図である。12%のSDS-PAGEタンパク質ゲル電気泳動を用いた。レーンは、1から9まで順に、変異の組合せ9、変異の組合せ8、変異の組合せ7、変異の組合せ4、変異の組合せ6、変異の組合せ5、変異の組合せ2、ブランク対照(細胞上清)及びタンパク質分子量マーカーである。各産物に含まれるホモダイマー及びヘテロダイマーは、分子量の違いによりゲル電気泳動における泳動距離が異なっている。図1と同様に、上から下へ、それぞれScFv-Fc/ScFv-Fcホモダイマー、ScFv-Fc/Fcヘテロダイマー、及びFc/Fcホモダイマーである。
図3】変異の組合せ4におけるヘテロダイマーFcのCH3-CH3界面の部分的結晶構造図である。変異したアミノ酸残基は短い棒で示されており、具体的に含まれる、互いに接触した変異アミノ酸残基対は、T366W/A鎖-T366S、L368A、Y407V/B鎖、K409A/A鎖-F405K/B鎖、S354C/A鎖-Y349C/B鎖である。A鎖(左側の色がやや薄い鎖)は緑色で示され、B鎖(右側の色がやや濃い鎖)はベビーブルーで示されている。
図4】F405K-K409A対の変異アミノ酸残基において、D399S-K392D対の新たな変異を近傍に導入して、より一層ヘテロダイマー間の相互吸引を増強すると共に、ホモダイマー間の相互反発の力を増加させることができることを示す図である。図4Aは、新たな変異の導入の際の、F405K-K409Aの変異の近傍の界面アミノ酸に対する相互作用を示している。図4Bは、新たな変異の導入後にもたらされた相互作用の変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、特定の具体的な実例により本発明の実施形態を説明するが、当業者は本明細書に開示の内容を通じて本発明の他の利点及び効果を理解し得る。
【0044】
本願において、上記第1のポリペプチド鎖と、第2のポリペプチド鎖とが、いずれも抗体FcフラグメントのCH3ドメインを含んでおり、2本のポリペプチド鎖間では、CH3ドメイン又はCH3ドメインを含むFcフラグメントによって相互作用が生じて、二量体、特にヘテロダイマーが形成される。ヘテロダイマーの2本のポリペプチド鎖は、異なる組合せ、例えば、第1のポリペプチド鎖が抗体であり、第2のポリペプチド鎖が融合タンパク質である組合せ、2本のポリペプチド鎖がいずれも融合タンパク質である組合せ、又は2本のポリペプチド鎖がいずれも抗体である組合せ(例えば、異なる抗原又は抗原エピトープを標的とする抗体)であってもよい。融合タンパク質が抗体のFcフラグメントと細胞接着分子の細胞外ドメインとを含む場合には、イムノアドヘシンともいう。上記細胞接着分子は、主に特異的リガンドの細胞表面受容体を同定することができる分子をいい、例えば、カドヘリン、セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、インテグリン及びヒアルアドヘリンが含まれる。
【0045】
本願において、上記CH3ドメインは、抗体Fcフラグメントに由来し、例えば、ヒトの抗体Fcフラグメント(例えば、ヒト抗体の重鎖定常領域のFcフラグメント)に由来する。或るいくつかの実施形態では、上記CH3ドメインは、ヒト免疫グロブリン(Ig)の重鎖定常領域のFcフラグメントに由来し、例えば、IgM、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgE及び/又はIgDの重鎖定常領域のFcフラグメントに由来する。或るいくつかの実施形態では、本願に記載のCH3ドメイン(例えば、上記野生型ヒト抗体の重鎖定常領域のCH3ドメイン)は、野生型ヒトIgG1に由来し、例えば、野生型ヒトIgG1抗体の重鎖定常領域のCH3ドメインに由来する。通常の場合、上記ヒト抗体FcフラグメントのCH3ドメインは、対応する野生型ヒト抗体Fcフラグメントに由来する。野生型ヒト抗体Fcフラグメントとは、ヒトの自然個体群における抗体Fcフラグメント、例えば、人為突然変異又は人工修飾されていないヒト抗体Fcフラグメントをいう。或るいくつかの実施形態では、本願に記載のヒト抗体Fcフラグメントには、対応する野生型ヒト抗体Fc配列における個々のアミノ酸の変更も含まれ、例えば、グリコシル化部位で変異した或るいくつかのアミノ酸又は他のナンセンス突然変異が含まれ、「ノブ・イントゥ・ホール」モデルにより変異した個々のアミノ酸の変更も含まれる。例えば、CH3ドメイン及びCH2ドメインについては、本願で提示した変異のほか、抗体(特に、Fcフラグメント)の機能に影響しない他の変異が更に含まれていてもよい。
【0046】
本願において、第1のポリペプチド鎖及び/又は第2のポリペプチド鎖にヒンジ領域が含まれる場合には、当該ヒンジ領域は、柔軟なフラグメントとして2つのポリペプチド間を連結し、それによって、各ポリペプチド鎖の機能を確保する。当業者は、必要に応じてヒンジ領域の長さを選択することができ、例えば、全長の配列又はそのうちの一部の配列を選択することができる。
【0047】
本願において、上記Fc又はそのCH2ドメイン、CH3ドメイン若しくはヒンジ領域におけるアミノ酸の位置の番号は、いずれもKabatのEUナンバリングインデックスの位置に基づいて特定される。当業者に知られるように、上述領域では、アミノ酸の挿入、欠失又は他の変異によりアミノ酸配列が変化しても、KabatのEUナンバリングインデックスに基づいて特定される、標準配列に対応した各アミノ酸の位置番号は、依然として変わらない。
【0048】
本願において、ヒト抗体の重鎖定常領域は、重鎖CH1、CH2、CH3、CH4のうちの2つ以上のドメインと抗体のヒンジ領域との組合せを含むことができる。或るいくつかの実施形態では、上記ヒト抗体Fcフラグメントには、少なくとも1つの抗体ヒンジ領域と、1つのCH2ドメインと、1つのCH3ドメインとが含まれる。或るいくつかの実施形態では、上記CH2ドメインは、EUナンバリングシステムによるアミノ酸228~340に対応したヒトIgG1の重鎖定常領域のCH2ドメインである。或るいくつかの実施形態では、上記CH2ドメインは、本願に記載の他のいずれかの抗体アイソタイプの該当する領域に対応している。或るいくつかの実施形態では、上記CH3ドメインは、EUナンバリングシステムによるアミノ酸341~447に対応したヒトIgG1の重鎖定常領域のCH3ドメインである。或るいくつかの実施形態では、上記CH3ドメインは、本願に記載の他のいずれかの抗体アイソタイプの該当する領域に対応している。
【0049】
本願において、上記荷電アミノ酸には、アルギニン、リシン、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0050】
本願において、ヘテロダイマー分子は、標準的実験手段によって宿主細胞から精製することができる。例えば、ヘテロダイマータンパク質に抗体Fcフラグメントが含まれている場合には、プロテインAを用いて精製することができる。精製方法は、クロマトグラフィー法、例えばサイズ排除法、イオン交換法、アフィニティークロマトグラフィー法及び限外濾過法、又は上記種々の方法の適切な組合せを含むが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本願において、上記EUインデックスは、例えば、Kabat他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)に記載されている。
【0052】
本願に記載の発明は、イオン作用、疎水性相互作用及び空間作用等の界面アミノ酸間の種々の相互作用を総合的に考慮することによって、ホモダイマーを形成せずにヘテロダイマーを形成する傾向がより一層ある好適なCH3変異配列をスクリーニングしており、これにより、ヘテロダイマー分子の生産量が大幅に向上した。また、本願のいくつかの実施形態では、Fcフラグメントを含むヘテロダイマータンパク質の結晶を調製し、結晶構造に対する解析及び3次元構造モデリングによって、界面アミノ酸間の直接的な相互作用をより一層理解すると共に、Y349CとD356Cとの両システイン間に安定したジスフィルド結合が必然的に形成されるという従来考えられていた見方を排除しており、これを基にして行われる変異の組合せは、ヘテロダイマーの形成にはより有利であり、ホモダイマーの形成にはより不利であり、ヘテロダイマーの比率が大幅に向上すると同時にホモダイマーの比率が大幅に低減された。
【0053】
以下、実施例を参照して本願に記載の発明の実施形態を詳細に説明するが、以下の実施例は単に本願に記載の発明を例示的に説明しているにすぎず、本願に記載の発明の範囲を限定するものとみなすべきでないことが当業者には理解されよう。具体的な条件が与えられていない実施例は、従来の条件又は製造者により提示された条件に従って実施される。製造業者が与えられていない試薬又は機器は、全て従来の市販製品である。
【実施例
【0054】
実施例1:1回目の変異における組合せの配列候補の取得
1、Fcの構造モデリング及び界面アミノ酸の取得
タンパク質構造データバンク(PDB、www.pdb.org)からFc領域を含む48個のヒトIgG1抗体の結晶構造を取得し、構造類似性検索アルゴリズム(参考文献:Yuzhen Ye and Adam Godzik. FATCAT: a web server for flexible structure comparison and structure similarity searching. Nucleic Acids Res., 2004, 32(Web Server issue):W582-585.)によって、48個の抗体のFcフラグメントが1DN2(PDB番号)に由来していることを得た。
【0055】
タンパク質接触アミノ酸認識ソフトウェアCMA(URL:http://ligin.weizmann.ac.il/cma/)を用い、アミノ酸が作用する距離に基づいてスクリーニングし、抗体(PDB番号:1DN2)におけるCH3-CH3間のアミノ酸接触を認識した。アミノ酸接触ルールに基づいて、界面アミノ酸とは、側鎖の重原子と、別の1本の鎖のいずれか1つのアミノ酸の重原子との間の距離が或る閾値よりも低いいくつかのアミノ酸を指す。本実施例の閾値として4.5オングストロームを選択したが、5.5オングストロームを選択することもできる(文献:B. Erman, I. Bahar and R. L. Jernigan. Equilibrium states of rigid bodies with multiple interaction sites. Application to protein helices. J. Chem. Phys. 1997, 107:2046-2059.)。ヒト及びマウスのIgGサブタイプのアミノ酸接触界面の保存状況は多重整列によって取得することができる。表1は、アミノ酸接触によってスクリーニングした(すなわち、アミノ酸の距離が4.5オングストローム未満の)抗体1DN2の34個の界面アミノ酸であり、なお、A鎖及びB鎖は、それぞれ抗体1DN2の第1鎖及び第2鎖を示している。以下のアミノ酸の位置は、抗体FcのKABATがナンバリングしたEUインデックスに基づいて命名されたものである。
【0056】
【表1】
【0057】
2、アミノ酸の変異によるイオン作用の変化
表1の結果に基づき、接触アミノ酸対のうちの荷電アミノ基が含まれるアミノ酸対を選択し、このうちの一方の鎖における1つのアミノ基を変異させ(非荷電アミノ酸から荷電アミノ酸への変更、荷電アミノ酸から非荷電アミノ酸への変更、又は荷電アミノ酸の持つ電荷の性質の変更)、それによって、FcのA鎖とFcのB鎖との間のイオン作用を不均衡にして、ホモダイマー形成の確率を低減させ、及び/又はヘテロダイマー形成の確率を向上させた。
【0058】
例示として、例えば、A鎖のPhe405を変異させてPhe405Lys(F405Kと書いてもよい)にするが、B鎖はそのままにする。405位のアミノ酸残基の周りでB鎖に位置する接触アミノ酸残基にはLysが2つ含まれており、いずれも正電荷を帯びたアミノ酸であるので、A鎖とA鎖とが対になると、2本の鎖におけるF405Kの変異による正電荷が極めて大きい斥力を引き起こすが、A鎖とB鎖とが対になると、一方の鎖(A)でしかF405Kの変異により引き起こされる斥力がなく、他方の鎖(B)はPhe405のままであり、斥力が引き起こされない。この場合、AA間の2本の鎖の相互反発は、十分顕著であり、AB又はBBよりもはるかに大きいので、AAのホモダイマーの形成を効果的に低減させることができる。
【0059】
A鎖にF405Kの変異を導入すると共に、B鎖におけるA鎖のF405Kの変異残基に対応した接触アミノ酸残基Lys409をK409E又はK409Aに変異させた場合、A鎖とA鎖とが対になると、2本のA鎖におけるF405Kの変異による正電荷が依然として極めて大きい斥力を引き起こすが、A鎖とB鎖とが対になると、A鎖にはF405Kの変異があり、B鎖におけるK409E又はK409Aの変異と作用して、斥力がなくなり、さらには引力までも有するようになる(K409E)。しかしながら、B鎖とB鎖とが対になると、斥力も引力も引き起こされない。この場合、AA間の2本の鎖の相互反発は十分に顕著であり、AB間の斥力は低下するか、又は引力が引き起こされるので、AAのホモダイマーの形成を効果的に低減させると共に、ABのヘテロダイマーの形成を促進することができる。
【0060】
このことから類推すると、本実施例で得られた変異の組合せは、次の表に示す通りである。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例2:ScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの調製及び考察
1、変異したヒトIgG1のFcフラグメント及びScFv-Fc融合タンパク質を発現させる組換えベクターの構築
タンパク質データベースUniprotにおけるヒト免疫グロブリンgamma1(IgG1)の定常領域のアミノ酸配列(P01857)に基づいて、ヒトIgG1-Fcの領域のアミノ酸配列(配列番号1)を取得し、逆転写PCRによってヒトPBMCの全RNAからヒトIgG1-Fcをコードする核酸断片(配列番号2、「Fc遺伝子」と命名する)を取得し、オーバーラップPCRによって、その5’末端にマウスkappaIIIシグナルペプチドのコード配列(配列番号3に示す)を加え、その後、ベクターpcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)にサブクローニングして、ヒトIgG1-Fc(「Fc」と略称する)タンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0063】
配列番号5に示されるScFv-Fc融合タンパク質のコード遺伝子(なお、ScFvとは、抗HER2の一本鎖抗体をいう)を人工合成して取得した。当該遺伝子によりコードされるScFv-Fc融合タンパク質の配列は、配列番号4を参照されたい。その後、哺乳動物細胞の発現ベクターpcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)にサブクローニングして、ScFv-Fc融合タンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0064】
実施例1の表2に基づき、オーバーラップPCR法によって、scFV-Fc及びFcのコード遺伝子に対して組合せ突然変異誘発を行った。なお、A鎖に対する変異はscFV-Fc融合タンパク質に位置し、B鎖に対する変異はFcタンパク質に位置している。pcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)に変異後の遺伝子をサブクローニングして、最終的にそれぞれ、変異したscFV-Fc融合タンパク質及び変異したFcタンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0065】
2、ScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの一過性発現、及びヘテロダイマーの含有量に対するそれぞれの変異の組合せの影響の検出
ステップ1の4つの変異の組合せ、KHの組合せ(対照群とする)、それに加えて野生型の組合せ(すなわち、変異していないScFv-Fc融合タンパク質及びFcタンパク質、陰性対照群とする)に対応する発現ベクターを、懸濁培養した293H細胞(ATCC、CRL-1573)にPEIを用いてトランスフェクションした。変異の組合せ毎に、それに対応するA鎖(scFV-Fc融合タンパク質鎖をいう)及びB鎖(Fcタンパク質鎖をいう)の組換え発現ベクターの共トランスフェクションが含まれており、A鎖及びB鎖の組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率を1:1とした。5日~6日培養した後に一過性発現培養上清を集め、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、予備精製された4組の変異の組合せ、KHの変異の組合せ及び野生型の陰性対照群の一過性トランスフェクション産物を取得した。これらの一過性トランスフェクション産物にはいずれも、それぞれの比率のホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)が含まれている。この3つのタンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc、及びScFv-Fc/Fc)の分子量のサイズが異なっているので、各産物におけるホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)の構成状況を非還元条件でのSDS-PAGE電気泳動によって検出することができ、また、ホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)の比率をBioRad社から出されている画像解析専門ソフトウェアImageLabで解析した。電気泳動の検出結果は、図1及び表3に示す通りである。
【0066】
【表3】
【0067】
野生型の陰性対照の組合せに対して、4組の変異の組合せ候補、及びKHの組合せにおけるヘテロダイマー(ScFv-Fc/Fc)の比率は、いずれも顕著に増加している。また、KHを基にして新たな変異を導入した後にもヘテロダイマーの比率に変化が生じており、あるものは格段に増加し(例えば、組合せ2、4)、あるものはほどほどに向上した(例えば、組合せ1、3)。なお、この数組の新たな変異の組合せには、接触面の側鎖基の空間作用及びイオン作用の2つの主要な相互作用に対する調整が含まれているので、ヘテロダイマーの含有量に対する影響の大きさは、単純に2つの作用の重畳を考えるだけではいけない。例えば、F405Kという変異が導入されたことでホモダイマー間の斥力が増大するのは同じだが、変異の組合せ2におけるヘテロダイマーの増加に対する効果は変異の組合せ1よりもはるかに大きい(変異の組合せ2におけるヘテロダイマー含有量は約70%であるが、変異の組合せ1は約58%である)。また、K409の部位に導入された変異については、変異の組合せ4に位置する非荷電の変異によるヘテロダイマー含有量の増加(77%)は、変異の組合せ3における反対の電荷の変異(57%)よりもはるかに優れている。しかしながら、2つの相互作用の重畳を単に理論的に考えると、この2つの変異による効果は似ているはずである。
【0068】
A鎖及びB鎖の組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率のホモダイマー及びヘテロダイマーの比率に対する影響を更に考察するために、比較的優れている2つの変異の組合せ(2及び4)及びKHの組合せで用いる共トランスフェクション発現ベクターを、懸濁培養した293H細胞(ATCC、CRL-1573)にそれぞれ4:1及び1:4の比率でPEIを用いてトランスフェクションし、5日~6日培養した後に細胞上清を集めた。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、それぞれの一過性トランスフェクション産物を取得した。ホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)の構成状況を非還元条件でのSDS-PAGE電気泳動によって検出した。具体的な結果は、表4を参照されたい。結果からわかるように、組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率は、産物におけるホモダイマー及びヘテロダイマーの比率に対して比較的明らかな影響をもたらし得る。共トランスフェクションの比率が4:1であるか、1:4であるかにかかわらず、その産物におけるヘテロダイマーの含有量はいずれも顕著に低下した。この3つの組合せは、A鎖とB鎖との発現が相対的に平衡である場合には、産物におけるヘテロダイマーの比率を極めて大きく増加させ、ホモダイマーの比率を低下させることができるが、産物においてA鎖とB鎖との発現が平衡しておらず、A鎖又はB鎖が過剰になる場合には、過剰な方のその産物は、ホモダイマーの形成比率が増加し、ヘテロダイマーの含有量が相対的に低下することがこの結果からわかる。なお、KHの組合せでは、いずれの鎖が過剰であるかにかかわらず、ヘテロダイマーの含有量が顕著に低くなった。変異の組合せ2では、B鎖(Fc)の過剰による影響が比較的大きかった。変異の組合せ4では、A鎖(ScFv-Fc)の過剰による影響が比較的大きかった。ただし、変異の組合せ2におけるB鎖又は変異の組合せ4におけるA鎖が過剰であっても、ヘテロダイマーの形成比率は、いずれも依然として対照のKHの組合せよりも顕著に高かった。この結果を更に分析するとわかるように、この3つの変異の組合せにおいて、A鎖とB鎖との間の相互作用は大幅に強化されたが、A鎖とA鎖との間又はB鎖とB鎖との間の相互作用を弱める程度は依然として十分でなく、だからこそ、このうちの一方の成分が発現過剰である場合には、ホモダイマー及びヘテロダイマーの形成の平衡が破られて、より多くのホモダイマーを産生させることになっている。なお、新たな変異の組合せ2及び変異の組合せ4はいずれも、KHの組合せに比べて、ホモダイマーの形成を阻害する点では明らかに優れている。
【0069】
【表4】
【0070】
実施例3:2回目の変異における組合せの配列候補の取得
実施例1及び実施例2で言及した好適なFcの変異の組合せ(変異の組合せ2及び変異の組合せ4)を基に、既に開示されている野生型Fcの3次元結晶構造に基づいて、界面アミノ酸の変異を更に導入した。そのねらいは、更にA鎖-A鎖間及びB鎖-B鎖間の相互吸引を低減させ、ホモダイマータンパク質の形成を阻害することにある。
【0071】
表1の結果に基づき、さらに、変異の組合せ2及び変異の組合せ4における変異部位近傍に近い接触アミノ酸のうち、荷電アミノ酸が含まれる、対になるアミノ酸を選択し、このうちの一方の鎖における1つのアミノ酸を変異させ(非荷電アミノ酸から荷電アミノ酸への変更、荷電アミノ酸から非荷電アミノ酸への変更、又は荷電アミノ酸の持つ電荷の性質の変更)、A鎖とB鎖との間のイオン作用の不均衡性をより一層増大させて、ホモダイマー形成の確率を低減させるか、又は同時にヘテロダイマー形成の確率を向上させた。
【0072】
例えば、A鎖のLys360とB鎖のGln347との一対の接触アミノ酸を変異させて、それらの間のイオン作用を変化させた。このうちの一方の鎖(例えば、A鎖)では、この2つのアミノ酸残基を、負電荷を帯びたアミノ酸残基に変異させ、例えば、K360E及びQ347Eの2つの変異を導入した。また、他方の鎖(例えば、B鎖)では、このうちの電荷を帯びていないアミノ酸残基を、正電荷を帯びたアミノ酸残基に変異させ、例えば、Q347Rの変異を導入した。この場合、A鎖-A鎖の相互作用の場合は360位、347位で帯びた負電荷が相互に反発し、B鎖-B鎖の相互作用の場合はこの2つの部位における正電荷が相互に反発し、A鎖とB鎖との相互作用の場合にしか、それぞれの正電荷、負電荷は相互吸引作用を生じない。この変異により、AA間及びBB間の2本の鎖の相互反発が増加し、同時にABの2本の鎖の間の相互吸引が増加すると推測される。
【0073】
また、Leu368というアミノ酸残基を考察した。この残基の周りには2つの荷電アミノ酸残基Glu357及びLys409がある。これまでに変異の組合せ4にK409Aの変異を導入したことを考慮して、この場合、K409Aの変異が導入されたのと同じFc鎖(実施例2に基づいてここではA鎖を指定する)において、さらに、Leu368を、負電荷を帯びたアミノ酸残基(例えば、368E)に変異させた。このとき、A鎖とA鎖とが対になると、2本の鎖におけるL368Eで帯びている負電荷がE357における負電荷と相互に作用し、斥力が引き起こされる。一方、A鎖とB鎖とが対になると、A鎖におけるL368Eで帯びている負電荷とB鎖におけるE357の負電荷とが相互に反発するが、同時にB鎖におけるK409と相互に吸引し、総合的には斥力又は引力が過度に大きく引き起こされることはない。この変異により、AA間の2本の鎖の相互反発を増大させるものの、AB又はBBの2本の鎖の間の相互作用に影響することはないと推測される。
【0074】
実施例1及び実施例2で言及した好適なFcの変異の組合せ(変異の組合せ2及び変異の組合せ4)を基に新たに導入される変異の組合せを加えて得られた変異の組合せは、表5に示す通りである。
【0075】
【表5】
【0076】
実施例4:新たなScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの変異の組合せの調製及び考察
1、変異したヒトIgG1のFcフラグメント及びScFv-Fc融合タンパク質を発現させる組換えベクターの構築
実施例2で構築された野生型scFV-Fc及びFcタンパク質の発現組換えベクターをテンプレートとし、実施例3の表5に基づき、オーバーラップPCR法によって、scFV-Fc及びFcのコード遺伝子に対して組合せ突然変異誘発を行った。なお、A鎖に対する変異はscFV-Fc融合タンパク質に位置し、B鎖に対する変異はFcタンパク質に位置している。pcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)に変異後の遺伝子をサブクローニングして、最終的に、新たに変異したscFV-Fc融合タンパク質及び変異したFcタンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0077】
2、ScFv-Fc/Fcヘテロダイマーの一過性発現、及びヘテロダイマーの含有量に対するそれぞれの変異の組合せの影響の検出
実施例2-2に記載の方法に従って、新たな5つの変異の組合せ(5~9)、及び1回目の好適な変異の組合せ(2及び4)を293H細胞(ATCC、CRL-1573)で一過性発現させた。なお、A鎖及びB鎖の組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率を1:1とした。5日~6日培養した後に、一過性発現培養上清を集め、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、予備精製された新たな5組の変異の組合せ、1回目の好適な2組の組合せの一過性トランスフェクション産物を取得した。これらの一過性トランスフェクション産物にはいずれも、それぞれの比率のホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)が含まれている。この3つのタンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc、及びScFv-Fc/Fc)の分子量のサイズが異なっているので、各産物におけるホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)の構成状況を非還元条件でのSDS-PAGE電気泳動によって検出することができ、また、ホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、Fc/Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/Fc)の比率をBioRad社から出されている画像解析専門ソフトウェアImageLabで解析した。電気泳動の検出結果は、図2及び表6に示す通りである。
【0078】
【表6】
【0079】
1回目の変異の好適な組合せと比べて、新たに導入された変異では、例えば、組合せ5が組合せ2に対するように、ヘテロダイマーの生成比率がわずかに向上したものがいくつかあり、例えば、組合せ6が組合せ2に対し、組合せ7、8が組合せ4に対するように、変化が少ないものが数組ある。また、組合せ9は新たな変異が導入されると却ってヘテロダイマーの生成比率が大幅に低減し、これは、A鎖に新たに導入されたL368Eによる負電荷とB鎖におけるE357の負電荷との相互反発が、B鎖におけるK409との相互吸引を上回って、ヘテロダイマーが不安定になるからであると推測される。総体的には、新たに導入された変異は、ヘテロダイマーの形成を適切に助けるものが数組あるが、格段に向上するわけではない。
【0080】
A鎖-A鎖及びB鎖-B鎖のホモダイマーに対する新たに導入された変異の影響を更に考察するために、A鎖のタンパク質又はB鎖のタンパク質を個別に一過性発現させ、同じ一過性トランスフェクション条件でのホモダイマータンパク質を発現させることによって、そのホモダイマーの形成傾向を考察した。組換え発現ベクターは、懸濁培養した293H細胞(ATCC、CRL-1573)にそれぞれPEIを用いてトランスフェクションし、5日~6日培養した後に細胞上清を集めた。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、それぞれの一過性トランスフェクション産物を取得して、OD280でその発現レベルを検出した。結果は、表7を参照されたい。発現レベルからみると、組合せ4のA鎖に導入された一部の変異(組合せ8、組合せ9)は、そのホモダイマーの形成傾向を低減することができ、組合せ2のB鎖に導入された一部の変異(組合せ5)は、そのホモダイマーの形成傾向を低減することができ、その他の新たな変異は、ホモダイマーの形成に対して影響が少なかった。また、この結果から更にわかるように、組合せ2及び組合せ2から誘導された変異の組合せ(5、6)は、組合せ4及び組合せ4から誘導された変異の組合せ(7、8、9)よりも、そのA鎖のホモダイマーの形成傾向が小さくなっており、後者のB鎖のホモダイマーの形成傾向は、前者よりも小さくなっている。この結果は、実施例2で得られた結果と一致しており、この方法でホモダイマーの形成傾向を予備考察することのフィージビリティも更に証明された。また、発現レベルからみると、全てのB鎖がA鎖よりもはるかに低くなっている。野生型A鎖及び野生型B鎖の個別の一過性発現も行ったが、いずれの変異も導入されていない場合には、野生型B鎖のホモダイマーの発現レベルは野生型A鎖の発現レベルよりも低いことがわかった(前者は後者の約半分である)。これにより、A鎖におけるFc配列のN末端にScFv配列が融合するとその発現レベルの向上に有益であり、また、A鎖とB鎖との発現レベルの違いがA鎖とB鎖とのそれぞれのホモダイマーの形成傾向の違いに直接影響することはないと推定される。
【0081】
【表7】
【0082】
実施例5:3回目の変異における組合せの配列候補の取得
1、これまでの変異の組合せ(例えば、変異の組合せ2又は4)を基に更にホモダイマータンパク質の形成を阻害するか、又はヘテロダイマータンパク質の形成を促進するように、変異の組合せ4の結晶構造に基づき、構造モデリングと突き合わせて、新たな接触界面アミノ酸の変異の配列候補を探し出した。
【0083】
変異の組合せ4のヘテロダイマータンパク質の結晶構造の解析
変異の組合せ4を選択し、293H細胞(ATCC、CRL-1573)で一過性発現させ、精製して変異の組合せ4のヘテロダイマータンパク質を取得し、結晶構造を解析した。ここで、変異の組合せ4のB鎖のC末端にHisタグ配列を分子クローニングによって挿入することによって、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー後にIMAC法によってより純粋なA鎖-B鎖のヘテロダイマータンパク質を結晶化用に取得した。
【0084】
結晶構造の解析プロセスは、次の通りである。
【0085】
ヘテロダイマーのFc結晶を次の条件で形成した。2μLの結晶緩衝液(15%のPEG3350、1MのLiCl、0.1MのMES、pH6.0)を2μLのタンパク質溶液(10mg/mLの目的タンパク質、10mMのTris、150mMのNaCl、pH7.4)に混合し、22℃、静置した液滴で結晶化させた。約3日後に結晶が成長した。その後、結晶を以下の溶液、すなわち、17%のPEG3350、1MのLiCl、0.1MのMES、pH6.0、及び20%のグリセリンに置いた。続いて、液体窒素で急速に湿潤させ冷凍した。X線回折データをSSRF BL17Uによって収集した。野生型Fcの構造(PDBアクセッション番号:3AVE)をフレームワークとして分子置換構造解析を行った。
【0086】
結晶構造によると、変異後のFcヘテロダイマーは、その全体構造は野生型Fcと類似しているが、変異が導入されたCH3界面ではそれぞれの基の相互作用によりやや変化していた。CH3界面の具体的な結晶構造は、図3を参照されたい。
【0087】
2、新たな変異における組合せ候補の取得
変異の組合せ4の結晶構造の結果に基づき、新たな変異候補を更にスクリーニングした。
【0088】
まず、結晶の3次元構造によって、A鎖のY349CとB鎖のD356Cとが2つのCys側鎖基の方向の問題によりジスフィルド結合を形成することができず、一対の遊離スルフヒドリル基となっていることがわかった。この結果に基づいて、3回目の変異ではこの対の変異を取り消し、これを変異前の野生型アミノ酸配列に還元させた。
【0089】
第2に、3次元構造モデリングの比較によって、F405K-K409Aの対の変異アミノ酸残基対近傍に更に変異を導入して、イオン結合及び水素結合を変化させた。K409AがA鎖に位置し、F405KがB鎖に位置していると仮定する。そこで、A鎖にK392Dの変異を導入し、B鎖にD399Sの変異を導入する。図4に示すように、A鎖とB鎖との間の相互作用については、新たに導入された変異対には、K392D-F405Kの対のイオン結合と、K392D-D399Sの対の水素結合とがあり、ヘテロダイマーの形成傾向を効果的に向上させることができると推測される。一方、A鎖-A鎖の相互作用では、K392D-D399間の静電反発力が導入されて、A鎖のホモダイマーの形成が阻害される。B鎖-B鎖の相互作用では、これまでのK409-D399間のイオン結合はD399Sの変異の導入により消失し、B鎖のホモダイマーの形成傾向が低減する。
【0090】
第3に、変異の組合せ4の結晶構造と野生型Fcタンパク質の結晶構造とを比較して、変異の組合せ4におけるA鎖に外側への移動がある(すなわち、B鎖から離れる)ことがわかり、これはおそらくA鎖のT366Wの変異では大きくなった側鎖基により或る程度立体障害がもたらされたからであると推測される。これを基に、さらに、B鎖におけるA鎖のT366W残基に接触するアミノ酸残基を、より小さい側鎖基を有するアミノ酸残基に変異させ、例えば、B鎖において、これまでのY407V及びL368Aの変異をY407A及びL386Gの2つの変異に置換して、T366Wの変異のために十分な空間を残すようにし、このようにすると、ヘテロダイマー構造がより安定する可能性がある。
【0091】
第4に、F405K-K409Aの対の変異アミノ酸残基対の周囲において他の接触界面アミノ酸対を変異させて、界面の静電作用を変化させた。ここで、Y349とE357との対の接触アミノ酸を考察した。A鎖にY349Dの変異を導入し、B鎖にE357Aを導入する。すると、A-A間のY349DとE357Aとの間で引き起こされた静電反発力がA-Aのホモダイマー形成を阻害し、A-B間及びB-B間では新たな作用力は引き起こされない。これを基に、A鎖にS354Dの変異を更に導入し、E357Aとの間の静電反発力を強化して、A-Aのホモダイマーの形成を更に阻害する。
【0092】
まず、変異の組合せ4を基に上述の変異を導入して得られた変異の組合せは、表8に示す通りである。
【0093】
【表8】
【0094】
続いて、変異の組合せ2を基に上述の変異を導入すると共に変異の組合せ4を参考にして得られた変異の組合せは、表9に示す通りである。
【0095】
【表9】
【0096】
実施例6:3回目のScFv-Fc/VhH-Fcヘテロダイマーの変異の組合せの調製及び考察
1、変異したヒトIgG1のFcフラグメント及びScFv-Fc融合タンパク質を発現させる組換えベクターの構築
単純なFcフラグメントの発現レベルがscFv-Fcよりも低いことを考慮して、2本の鎖の発現比率をより良く把握するために、元のB鎖(単純なFc鎖)のN末端にラクダ単一ドメイン抗体の可変領域の配列(VhHと表記する)を融合した。配列番号36に示されるVhH-Fc融合タンパク質のコード遺伝子を人工合成して取得した。当該遺伝子によりコードされるVhH-Fc融合タンパク質の配列は、配列番号35を参照されたい。その後、哺乳動物細胞の発現ベクターpcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)にサブクローニングして、VhH-Fc融合タンパク質を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0097】
実施例2で構築された野生型scFV-Fcタンパク質の発現組換えベクター及び上述のVhH-Fc融合タンパク質の組換え発現ベクターをテンプレートとし、実施例5の表8に基づき、オーバーラップPCR法によって、scFV-Fc及びVhH-Fcのコード遺伝子(配列番号5及び配列番号36)に対して組合せ突然変異誘発を行った。なお、A鎖に対する変異はscFV-Fc融合タンパク質に位置し、B鎖に対する変異はVhH-Fcタンパク質に位置している。pcDNA4(Invitrogen、Cat V86220)に変異後の遺伝子をサブクローニングして、最終的に、3回目で変異したscFV-Fc融合タンパク質及び変異したVhH-Fcタンパク質(配列番号4~配列番号35)を哺乳動物細胞で発現させるための組換え発現ベクターを取得した。
【0098】
2、ScFv-Fc/VhH-Fcヘテロダイマーの一過性発現、及びヘテロダイマーの含有量に対するそれぞれの変異の組合せの影響の検出
実施例2-2に記載の方法に従って、表8の4つの変異の組合せ(10~13)、及び変異の組合せ4を、293H細胞(ATCC、CRL-1573)で一過性発現させた。なおA鎖及びB鎖の組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率を4:1、1:1及び1:4とした。5日~6日培養した後に、一過性発現培養上清を集め、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、予備精製された新たな4組の変異の組合せ、及び変異の組合せ4の一過性トランスフェクション産物を取得した。これらの一過性トランスフェクション産物にはいずれも、それぞれの比率のホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)が含まれている。この3つのタンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc、及びScFv-Fc/VhH-Fc)の分子量のサイズが異なっているので、各産物におけるホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)の構成状況を非還元条件でのSDS-PAGE電気泳動によって検出することができ、また、ホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)の比率をBioRad社から出されている画像解析専門ソフトウェアImageLabで解析した。電気泳動の検出結果は、表10に示す通りである。
【0099】
【表10】
【0100】
A鎖-A鎖及びB鎖-B鎖のホモダイマーに対する新たに導入された変異の影響を更に考察するために、A鎖のタンパク質又はB鎖のタンパク質を個別に一過性発現させ、同じ一過性トランスフェクション条件でのホモダイマータンパク質を発現させることによって、そのホモダイマーの形成傾向を考察した。組換え発現ベクターは、懸濁培養された293H細胞(ATCC、CRL-1573)にそれぞれPEIを用いてトランスフェクションし、5日~6日培養した後に細胞上清を集めた。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、それぞれの一過性トランスフェクション産物を取得して、OD280でその発現レベルを検出した。結果は、表11を参照されたい。
【0101】
【表11】
【0102】
上述した結果をまとめると、次のことがわかる。変異の組合せ4に3回目の変異を導入すると、A鎖のホモダイマーの形成阻害のプロセスで顕著な効果が示されているわけではないが、B鎖のホモダイマーの形成がいずれも顕著に阻害されており、ヘテロダイマーの形成が効果的に促進されている。2本の鎖の発現が平衡(1:1)に近いとき、数組の新たな変異の組合せにおいてヘテロダイマーの含有量がいずれも80%以上になり、変異の組合せ4に比べて明らかに向上している。なお、変異の組合せ11では、B鎖に対する新しい変異を用いて、B鎖ホモダイマーの形成を完全に阻害することができた。1:4(A:B)の一過性トランスフェクションの比率でも、B鎖のホモダイマーが観察されず、ヘテロダイマーの含有量が89%に達していることがわかった。
【0103】
組合せ10~13の結果により、さらに、変異の組合せ15、16、18を選択し、一過性発現によって、そのヘテロダイマーの形成促進効果を考察した。
【0104】
実施例2-2に記載の方法に従って、表9の3つの変異の組合せ(15、16、18)、及び変異の組合せ2を293H細胞(ATCC、CRL-1573)で一過性発現させた。なお、A鎖及びB鎖の組換え発現ベクターの共トランスフェクションの比率を4:1、1:1及び1:4とした。5日~6日培養した後に、一過性発現培養上清を集め、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、予備精製された3組の新たな変異の組合せ及び変異の組合せ2の一過性トランスフェクション産物を取得した。これらの一過性トランスフェクション産物にはいずれも、それぞれの比率のホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)が含まれている。この3つのタンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc、及びScFv-Fc/VhH-Fc)の分子量のサイズが異なっているので、各産物におけるホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)の構成状況を非還元条件でのSDS-PAGE電気泳動によって検出することができ、また、ホモダイマータンパク質(ScFv-Fc/ScFv-Fc、VhH-Fc/VhH-Fc)及びヘテロダイマータンパク質(ScFv-Fc/VhH-Fc)の比率をBioRad社から出されている画像解析専門ソフトウェアImageLabで分析した。電気泳動の検出結果は、表12に示す通りであり、次のことがわかる。変異の組合せ2に3回目の変異を導入すると、同様に、B鎖のホモダイマーの形成阻害において更に顕著な効果が示されると共に、ヘテロダイマーの形成が効果的に促進されている。2本の鎖の発現が平衡(1:1)に近いとき、数組の新たな変異の組合せにおいてヘテロダイマーの含有量がいずれも80%以上になり、変異の組合せ4に比べて明らかに向上している。なお、変異の組合せ16及び18は、一過性トランスフェクションのベクターの比率を適宜変更した(B鎖のプラスミドが過剰であるか、又は2つのプラスミドが平衡である)場合にも、依然としてそのヘテロダイマーの比率が80%以上に達している。
【0105】
【表12】
【0106】
実施例7:ヘテロダイマーのその他の指標の検査
1、ヘテロダイマーの加速安定性の検出
変異の組合せ4、11及び16のヘテロダイマーを選択し、試験期間を31日とし、温度を45℃とし、バッファーをPBSとして加速安定性試験を行った。0日目、8日目、18日目及び31日目に非還元でCE-SDSにより検出し、対応する野生型Fcタンパク質と比較した。31日間の加速安定性のSDS-PAGE結果から、3つの変異サンプル及び野生型の対照サンプルは、31日目までそのメインピークの含有量の減少がいずれも2%を超えないことがわかった。これにより、ヘテロダイマーが野生型と同じ熱安定性を有していると考えられる。
【0107】
本願に記載の具体的な実施形態を詳細に説明したが、既に開示されたあらゆる教示に基づいてこれらの詳細に対して種々の変更及び置換をすることができ、これらの変更はいずれも本願に記載の発明の請求の範囲内であることが当業者には理解されよう。本願に記載の発明の全ての範囲は、添付の請求項及びそれらのあらゆる均等物により定められる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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