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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018065189
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173936
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-127385(JP,A)
【文献】特開2008-264428(JP,A)
【文献】特開昭60-143247(JP,A)
【文献】特開平05-280593(JP,A)
【文献】国際公開第2013/038463(WO,A1)
【文献】実開平01-169640(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心に回転するロータと、
前記中心軸を中心として、前記ロータの回転数で回転する波動発生器と、
前記中心軸を囲む筒状であって、前記波動発生器の径方向外側に配置され、前記波動発生器によって非真円状に撓められる可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の径方向外側に配置され、前記可撓性外歯歯車と部分的に噛み合う内歯歯車と、
を備え、
前記内歯歯車および前記可撓性外歯歯車のうちの一方は固定され、他方は前記中心軸を中心に回転し、
前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車とは、歯数の違いによって相対回転し、
前記波動発生器の回転により、前記可撓性外歯歯車の径方向の長さが変位して、前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車との噛み合い位置が、前記中心軸を中心に、周方向に変化し、
前記波動発生器と前記ロータとの間に配置されるとともに、前記波動発生器および前記ロータに対して固定され、前記波動発生器および前記ロータよりも変形しやすい偏心吸収部材をさらに備え
前記偏心吸収部材は、径方向または軸方向に凹凸を交互に有する部位を含み、
前記凹凸を交互に有する部位と、前記ロータと、前記波動発生器と、の各々の少なくとも一部が、径方向に並ぶ、波動歯車装置。
【請求項2】
中心軸を中心に回転するロータと、
前記中心軸を中心として、前記ロータの回転数で回転する波動発生器と、
前記中心軸を囲む筒状であって、前記波動発生器の径方向外側に配置され、前記波動発生器によって非真円状に撓められる可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の径方向外側に配置され、前記可撓性外歯歯車と部分的に噛み合う内歯歯車と、
を備え、
前記内歯歯車および前記可撓性外歯歯車のうちの一方は固定され、他方は前記中心軸を中心に回転し、
前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車とは、歯数の違いによって相対回転し、
前記波動発生器の回転により、前記可撓性外歯歯車の径方向の長さが変位して、前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車との噛み合い位置が、前記中心軸を中心に、周方向に変化し、
前記波動発生器と前記ロータとの間に配置されるとともに、前記波動発生器および前記ロータに対して固定され、前記波動発生器および前記ロータよりも変形しやすい偏心吸収部材をさらに備え、
前記偏心吸収部材は、複数の開口部が周方向に沿って配列された変形量調整部を有し、
前記変形量調整部の少なくとも一部は、前記波動発生器と径方向に並ぶ、波動歯車装置。
【請求項3】
請求項2に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、径方向または軸方向に凹凸を繰り返す部位を含む、波動歯車装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、円筒状である波動歯車装置。
【請求項5】
請求項4に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
当該偏心吸収部材の内周面に配置され、前記ロータに対して固定される第1固定部と、
当該偏心吸収部材の外周面に配置され、前記波動発生器に対して固定される第2固定部と、
を有する、波動歯車装置。
【請求項6】
請求項4に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
前記ロータに対して固定される第1固定部と、
前記波動発生器に対して固定される第2固定部と、
を有し、
前記第1固定部と、前記第2固定部とは、軸方向に並んで配置される、波動歯車装置。
【請求項7】
請求項6に記載の波動歯車装置であって、
前記第1固定部と、前記第2固定部とは、軸方向に間隔を開けて配置される、波動歯車装置。
【請求項8】
請求項1又は請求項3に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
径方向外側に突出する凸部と、径方向内側に凹む凹部と、を軸方向に交互に有する、波動歯車装置。
【請求項9】
請求項1又は請求項3に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
複数の第1円環部と、前記第1円環部とは異なる直径を有する複数の第2円環部とを有し、
前記第1円環部と前記第2円環部とが、同軸上に交互に配列されている、波動発生器。
【請求項10】
請求項1又は請求項3に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
軸方向の一方側に突出する凸部と、軸方向の他方側に凹む凹部と、を径方向に交互に有する、波動歯車装置。
【請求項11】
請求項1又は請求項3に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は、
薄膜が複数回折り重ねられて径方向に層状となっているダイヤフラム部を有する、波動歯車装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記偏心吸収部材は弾性材料からなる、波動歯車装置。
【請求項13】
請求項2又は請求項3に記載の波動歯車装置であって、
前記開口部は三角形状であり、前記変形量調整部全体としてトラス構造をなしている、
波動歯車装置。
【請求項14】
請求項2又は請求項3に記載の波動歯車装置であって
前記複数の開口部は、
軸方向の第1位置において周方向に配列され、各々が周方向にスリット状に延びる第1開口部と、
軸方向の前記第1位置とは異なる第2位置において周方向に配列され、各々が周方向にスリット状に延びる第2開口部と、
を有し、
前記第1開口部と、前記第2開口部とが、周方向に交互に配置される、波動歯車装置。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記可撓性外歯歯車は、軸方向における、前記可撓性外歯が設けられる側とは反対側の端部から、径方向内側に向かって延びる平板部を有する、波動歯車装置。
【請求項16】
請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記可撓性外歯歯車は、軸方向における、前記可撓性外歯が設けられる側とは反対側の端部から、径方向外側に向かって延びる平板部を有する、波動歯車装置。
【請求項17】
請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の波動歯車装置であって、
前記内歯歯車は、
前記可撓性外歯歯車の径方向外側に固定的に配置される円環状の固定内歯歯車と、
前記固定内歯歯車に対して相対回転可能に設けられ、前記固定内歯歯車と同じ直径で同軸上に配置される円環状の出力用内歯歯車と、
を含み、
前記可撓性外歯歯車の前記外歯の数と、前記固定内歯歯車および前記出力用内歯歯車の少なくとも一方の前記内歯の数とは、互いに相違し、
前記固定内歯歯車および前記出力用内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車と部分的に噛み合う、波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剛性内歯歯車および可撓性外歯歯車を備える波動歯車装置が知られている。この種の波動歯車装置は、主に減速機として用いられる。従来の減速機については、例えば実用新案登録第2535495号公報に開示されている。この実用新案登録第2535495号公報に開示された減速機は、環状の剛性部材と、この内側に配置した環状の可撓性部材と、この可撓性部材の内側に嵌め込まれており、この可撓性部材を半径方向に撓めて前記剛性部材に対して複数の箇所で係合させると共にこれらの係合位置を周方向に向けて移動させる波動発生器とを有する。
【0003】
そして、実用新案登録第2535495号公報に記載の波動発生器は、カム部材を有する。当該カム部材は、外側円筒部材と、軸線方向に向けて摺動可能に前記外側円筒部材の内側に嵌め込まれた中間円筒部材と、軸線方向に向けて摺動可能に前記中間円筒部材の内側に嵌め込まれた内側円筒部材とを有する。これら外側円筒部材と、中間円筒部材と、内側円筒部材とは、3部材でいわゆるオルダム継手構造を形成する状態に組み合わされている。実用新案登録第2535495号公報に記載の減速機では、このようなオルダム継手構造を有することにより、動力の入力部分での偏心を吸収できる、としている。
【文献】実用新案登録第2535495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実用新案登録第2535495号公報に記載の減速機では、オルダム継手構造において、回転と偏心によって生じる継手部の摺動摩擦抵抗によって、発熱と動力損失を生じる虞があった。さらに言えば、高速回転を与えると、継手の往復運動によって振動が発生し、剛性部材と可撓性部材との係合状態にアンバランスが生じて、噛み合いが不良となる場合が考えられる。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その潜在的な目的は、動力の入力部分で偏心が生じている場合においても、剛性内歯と可撓性外歯との噛み合いを良好に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の波動歯車装置が提供される。即ち、この波動歯車装置は、ロータと、波動発生器と、可撓性外歯歯車と、内歯歯車とを備える。前記ロータは、中心軸を中心に回転する。前記波動発生器は、前記中心軸を中心として、前記ロータの回転数で回転する。可撓性外歯歯車は、前記中心軸を囲む筒状であって、前記波動発生器の径方向外側に配置され、前記波動発生器によって非真円状に撓められる。前記内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車の径方向外側に配置され、前記可撓性外歯歯車と部分的に噛み合う。前記内歯歯車および前記可撓性外歯歯車のうちの一方は固定され、他方は前記中心軸を中心に回転する。前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車とは、歯数の違いによって相対回転する。前記波動発生器の回転により、前記可撓性外歯歯車の径方向の長さが変位して、前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車との噛み合い位置が、前記中心軸を中心に、周方向に変化する。この波動歯車装置は、前記波動発生器と前記ロータとの間に配置される偏心吸収部材をさらに備える。前記偏心吸収部材は、前記波動発生器および前記ロータに対して固定され、前記波動発生器および前記ロータよりも変形しやすい。前記偏心吸収部材は、径方向または軸方向に凹凸を交互に有する部位を含む。前記凹凸を交互に有する部位と、前記ロータと、前記波動発生器と、の各々の少なくとも一部が、径方向に並ぶ。
本発明の観点によれば、以下の構成の波動歯車装置が提供される。即ち、この波動歯車装置は、ロータと、波動発生器と、可撓性外歯歯車と、内歯歯車とを備える。前記ロータは、中心軸を中心に回転する。前記波動発生器は、前記中心軸を中心として、前記ロータの回転数で回転する。可撓性外歯歯車は、前記中心軸を囲む筒状であって、前記波動発生器の径方向外側に配置され、前記波動発生器によって非真円状に撓められる。前記内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車の径方向外側に配置され、前記可撓性外歯歯車と部分的に噛み合う。前記内歯歯車および前記可撓性外歯歯車のうちの一方は固定され、他方は前記中心軸を中心に回転する。前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車とは、歯数の違いによって相対回転する。前記波動発生器の回転により、前記可撓性外歯歯車の径方向の長さが変位して、前記可撓性外歯歯車と前記内歯歯車との噛み合い位置が、前記中心軸を中心に、周方向に変化する。この波動歯車装置は、前記波動発生器と前記ロータとの間に配置される偏心吸収部材をさらに備える。前記偏心吸収部材は、前記波動発生器および前記ロータに対して固定され、前記波動発生器および前記ロータよりも変形しやすい。前記偏心吸収部材は、複数の開口部が周方向に沿って配列された変形量調整部を有する。前記変形量調整部の少なくとも一部は、前記波動発生器と径方向に並ぶ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の観点によれば、動力の入力部分で偏心が生じている場合においても、剛性内歯と可撓性外歯との噛み合いを良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
図2図2は、剛性内歯と可撓性外歯との噛み合いを示す横断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るロータ、波動発生器、および偏心吸収部材の縦断面図である。
図4図4は、第2実施形態に係るロータ、波動発生器、および偏心吸収部材の縦断面図である。
図5図5は、第3実施形態に係るロータ、波動発生器、および偏心吸収部材の縦断面図である。
図6図6は、第3実施形態に係る偏心吸収部材の全周の展開図である。
図7図7は、第3実施形態の変形例に係る、偏心吸収部材の全周の展開図である。
図8図8は、第4実施形態に係るロータ、波動発生器、および偏心吸収部材の縦断面図である。
図9図9は、第5実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
図10図10は、第6実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。また、本明細書において、軸方向を上下方向として説明を行う場合があるが、これは波動歯車装置の使用時の向き等を限定することを意図するものではない。
【0011】
<1.第1実施形態>
以下では、図1から図3までを参照して、本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置100の構成について説明する。図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置100の縦断面図である。図2は、可撓性外歯と剛性内歯との噛み合いを示す横断面図であり、図1中のI-I線断面図である。図3は、図1中のロータ90、波動発生器30、および偏心吸収部材40の縦断面図である。
【0012】
本実施形態の波動歯車装置100は、後述する剛性内歯歯車(内歯歯車)10と可撓性外歯歯車20との差動(相対回転)を利用して、入力された回転動力を変速する装置である。波動歯車装置100は、例えば、小型ロボットの関節に組み込まれ、モータから得られる動力を減速する減速機として用いられる。図1に示すように、波動歯車装置100は、剛性内歯歯車10と、可撓性外歯歯車20と、波動発生器30と、ロータ90と、偏心吸収部材40とを備えている。
【0013】
剛性内歯歯車10は、図1に示す回転中心軸(中心軸)Cを中心とする円環状の部材である。剛性内歯歯車10の剛性は、後述する可撓性外歯歯車20の可撓性歯部23の剛性よりも、はるかに高い。したがって、剛性内歯歯車10は、実質的に剛体とみなすことができる。剛性内歯歯車10は、内周面に複数の内歯(剛性内歯)11を有する。複数の内歯11は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。剛性内歯歯車10は、波動歯車装置100が搭載される装置の枠体に固定される。
【0014】
可撓性外歯歯車20は、円筒状の胴部21と平板部22とを備える部材である。円筒状の胴部21は、その軸方向の他端部(下端部)に、外歯(可撓性外歯)29が外周面(外面)に形成される可撓性歯部23を有する。胴部21は、径方向に撓み変形可能な部分である。筒状の胴部21の軸方向の一端部(上端部)には、可撓性歯部23よりも撓み難い平板部22が接続される。
【0015】
平板部22は、回転中心軸Cに対して垂直に平面状に広がる部位である。平板部22は、円環板状の固定部25と、ダイヤフラム部24とを有する。ダイヤフラム部24は、胴部21との接続箇所に近い側に配置され、軸方向の肉厚が固定部25よりも薄い。ダイヤフラム部24は、円環状の形状を有し、可撓性歯部23よりも小さい撓み性を有する。
【0016】
固定部25は、ダイヤフラム部24の内周側に配置される、一定の肉厚を有する部位である。固定部25の撓み性は、ダイヤフラム部24の撓み性よりもはるかに小さい。固定部25の中央には、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が固定される。
【0017】
波動発生器30は、可撓性外歯歯車20の可撓性歯部23を径方向に非真円形状に撓み変形させるための機構である。波動発生器30は、非真円カム31と、波動ベアリング33とを有する。
【0018】
本実施形態の非真円カム31は、楕円形のカムプロフィールを有する板状のカムである。図1に示すように、非真円カム31は、可撓性外歯歯車20の可撓性歯部23の径方向内側に配置される。非真円カム31の中央には、入力軸1が、後述するロータ90および偏心吸収部材40を介して、相対回転不能に固定される。具体的には、この入力軸1は、例えば電動機の出力軸とすることができる。入力軸1が回転すると、当該入力軸1と一体的に、非真円カム31が、回転中心軸Cを中心にして減速前の回転数で回転する。
【0019】
図3に示すように、波動ベアリング33は、内輪331と、複数のボール332と、弾性変形可能な外輪333とを有する。内輪331は、非真円カム31の外周面に固定される。外輪333は、可撓性外歯歯車20の可撓性歯部23の内周面に固定される。複数のボール332は、内輪331と外輪333の間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪333は、回転される非真円カム31のカムプロフィールを反映して、内輪331およびボール332を介して弾性変形(撓み変形)する。
【0020】
ロータ90は、波動発生器30に回転運動を入力するための、略円筒状の部材である。ロータ90は、非真円カム31の内周面と、入力軸1の外周面と、の間に介在する。ロータ90と入力軸1との間に、軸方向に延びるキー部材(図示省略)が挿入されることにより、ロータ90は入力軸1に対して相対回転不能に固定される。入力軸1が回転すると、当該入力軸1と一体となって、ロータ90および波動発生器30も回転する。なお、より詳細には、ロータ90と波動発生器30との間に偏心吸収部材40が介在する。偏心吸収部材40については、後に詳述する。
【0021】
このような構成の波動歯車装置100において、上述の入力軸1に動力が供給されると、入力軸1および非真円カム31が一体的に回転する。また、非真円カム31の回転に伴って、波動ベアリング33を介して、可撓性外歯歯車20の可撓性歯部23の内周面が押されることにより、可撓性歯部23が楕円状に径方向に撓み変形する。これにより、図2のように、可撓性歯部23がなす楕円の長軸の両端の2箇所で、外歯29と内歯11とが噛み合う。この際、前記楕円の2箇所以外の位相位置では、外歯29と内歯11とは噛み合わない。
【0022】
非真円カム31が回転すると、前記楕円の長軸の位置が周方向に移動するので、外歯29と内歯11との噛み合い位置も周方向に移動する。ここで、剛性内歯歯車10の内歯11の数と、可撓性外歯歯車20の外歯29の数とは、僅かに相違する。このため、非真円カム31の1回転ごとに、内歯11と外歯29との噛み合い位置が僅かに変化する。その結果、剛性内歯歯車10に対して可撓性外歯歯車20および上記の出力軸が、減速された回転数で回転する。これにより、減速された動力を装置の外部に取り出すことができる。
【0023】
ここで、一般的に、波動歯車装置において、動力の入力部分で偏心が生じてしまう場合が考えられる。具体的には、上述のような入力軸の取付け状態に誤差があると、ロータの回転軸が剛性内歯歯車の回転軸に対して傾斜または偏心する等して、歯車の噛み合い状態が悪化してしまう場合が想定される。このように、動力の入力部分で偏心が生じている場合、剛性内歯と可撓性外歯との噛み合いが不均一となり、回転性能が悪化する原因となり得る。そこで、動力の入力部分で偏心が生じていても、剛性内歯と可撓性外歯との噛み合いを良好に保つことが可能な、新たな技術が求められていた。
【0024】
この点、本実施形態の波動歯車装置100は、動力の入力部分で偏心が生じていても、偏心に起因する位置のずれを抑制し、内歯11と外歯29との噛み合いを良好に保つことのできる、特有の構成を有している。
【0025】
以下では、本実施形態に特有の構成、およびその機能について、図3を参照して説明する。
【0026】
図3に示すように、本実施形態の波動歯車装置100は、径方向における波動発生器30とロータ90との間に、偏心吸収部材40を備えている。本実施形態に係る偏心吸収部材40は、概ね円筒状である。偏心吸収部材40は、波動発生器30およびロータ90よりも、弾性変形しやすい性質を有する。本実施形態の偏心吸収部材40は、波動発生器30およびロータ90よりも弾性率が高い弾性材料からなる。
【0027】
より詳細には、偏心吸収部材40は、第1固定部41と、第2固定部42と、ベローズ部43と、を有する。
【0028】
第1固定部41は、偏心吸収部材40をロータ90に対して固定する部位である。第1固定部41は、偏心吸収部材40の軸方向の一端部の、内周面に設けられる。第1固定部41は、例えば溶着によって、ロータ90に対して固定される。ただし、第1固定部41をロータ90に固定する手法はこれに限るものではなく、焼付け、ロウ付け等の他の手法であってもよい。
【0029】
第2固定部42は、偏心吸収部材40を波動発生器30に対して固定する部位である。第2固定部42は、偏心吸収部材40の軸方向の他端部の、外周面に設けられる。第2固定部42は、例えば溶着によって、波動発生器30に固定される。ただし、第2固定部42を波動発生器30に固定する手法はこれに限るものではなく、焼付け、ロウ付け等の他の手法であってもよい。
【0030】
本実施形態では、入力軸1が剛性内歯歯車10の回転中心軸Cと同軸上に取り付けられている場合においては、第2固定部42の裏面(内面)側と、ロータ90の外周面と、の間に隙間(遊び)が生じる。
【0031】
ベローズ部43は、偏心吸収部材40を径方向および軸方向に変形しやすくするために設けられる部位である。ベローズ部43は、偏心吸収部材40の軸方向の中途部に設けられる。ベローズ部43は、径方向外側に突出する凸部431と、径方向内側に凹む凹部432と、を軸方向に交互に有する蛇腹状である。
【0032】
本実施形態の偏心吸収部材40は、ベローズ部43の伸縮により、径方向および軸方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形しにくい。別の言い方をすれば、ベローズ部43を有することにより、偏心吸収部材40は、径方向および軸方向には撓みやすく、かつ、周方向に捩られ難くなっている。斯かる構成の偏心吸収部材40を備えることにより、本実施形態の波動歯車装置100は、以下の利点を有する。即ち、ロータ90に取り付けられた入力軸1が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して、傾いている場合等においても、偏心吸収部材40が弾性変形することにより、外歯29と内歯11との噛み合い位置がずれてしまうことを防止できる。動力の入力部分に偏心が生じていても、偏心に起因する位置のずれを、偏心吸収部材40が吸収するため、外歯29と内歯11との噛み合いは良好に保たれる。しかも、偏心吸収部材40は、ねじり方向には変形し難いので、ロータ90の回転を波動発生器30へ精度よく伝達できる。結果として、減速機の回転性能を損ねることなく動力の伝達効率を向上させることができる。
【0033】
より詳細には、ロータ90に取り付けられた入力軸1が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して、傾斜または偏心している場合、その傾きや心ずれの大きさに応じて、ベローズ部43が回転中心軸Cを挟む両側において異なる量だけ伸び縮みする。これにより、偏心吸収部材40(ベロース部43)が、径方向の一方側に撓んだ状態とされる。この際、本実施形態では、ロータ90と波動発生器30との間の下端部に、隙間(遊び)があるから、ロータ90の傾きが波動発生器30に直接には伝わらない。
【0034】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置100は、ロータ90と、波動発生器30と、可撓性外歯歯車20と、剛性内歯歯車(内歯歯車)10とを備える。ロータ90は、回転中心軸(中心軸)Cを中心に回転する。波動発生器30は、回転中心軸Cを中心として、ロータ90の回転数で回転する。可撓性外歯歯車20は、回転中心軸Cを囲む筒状であって、波動発生器30の径方向外側に配置され、波動発生器30によって非真円状に撓められる。剛性内歯歯車10は、可撓性外歯歯車20の径方向外側に配置され、可撓性外歯歯車20と部分的に噛み合う。剛性内歯歯車10および可撓性外歯歯車20のうちの一方は固定され、他方は回転中心軸Cを中心に回転する。可撓性外歯歯車20と剛性内歯歯車10とは、歯数の違いによって相対回転する。波動発生器30の回転により、可撓性外歯歯車20の径方向の長さが変位して、可撓性外歯歯車20と剛性内歯歯車10との噛み合い位置が、回転中心軸Cを中心に、周方向に変化する。この波動歯車装置10は、波動発生器30とロータ90との間に配置される偏心吸収部材40をさらに備える。偏心吸収部材は、波動発生器30およびロータ90に対して固定され、波動発生器30およびロータ90よりも変形しやすい。
【0035】
これにより、動力の入力部分で偏心が生じているような場合、より具体的にはロータ90の回転軸が剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して傾斜または偏心しているような場合においても、偏心吸収部材40が変形することにより、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合いを良好に保つことができる。
【0036】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100では、偏心吸収部材40は概ね円筒状である。これにより、波動歯車装置100の径方向の寸法を小型化できる。
【0037】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100においては、偏心吸収部材40は、第1固定部41と、第2固定部42とを有する。第1固定部41は、偏心吸収部材40の内周面に配置され、ロータ90に対して固定される。第2固定部42は、偏心吸収部材40の外周面に配置され、波動発生器30に対して固定される。これにより、偏心吸収部材40を、ロータ90および波動発生器30に対して容易に固定することができる。
【0038】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100においては、第1固定部41と、第2固定部42とは、軸方向に並んで配置される。これにより、波動歯車装置100の径方向の寸法を、より小型化できる。
【0039】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100においては、第1固定部41と、第2固定部42とは、軸方向に間隔を開けて配置される。これにより、偏心吸収部材40を、より大きく変形させることができる。よって、ロータ90の回転軸が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して、大きく偏心している場合においても、偏心に起因する位置のずれを偏心吸収部材40で吸収し、剛性内歯11と可撓性外歯29とを良好に噛み合わせることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100においては、偏心吸収部材40は、軸方向に凹凸を繰り返す部位を含む。このように、偏心吸収部材40に適宜の凹凸構造を含ませることにより、偏心吸収部材40を径方向および軸方向に容易に変形するものとすることが可能である。よって、偏心に起因する位置のズレを偏心吸収部材40で吸収することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100においては、偏心吸収部材40は、径方向外側に突出する凸部431と、径方向内側に凹む凹部432と、を軸方向に交互に含むベローズ部43を有する。別の言い方をすれば、偏心吸収部材40は、複数の第1円環部431と、当該第1円環部431とは異なる直径を有する複数の第2円環部432とを有する。第1円環部431と第2円環部432とは、同軸上に交互に配列されている。これにより、偏心吸収部材40を径方向および軸方向に容易に変形させることができる。また、この偏心吸収部材40は、周方向には変形し難いため、ロータ90の回転を波動発生器30へ精度よく伝達できる。
【0042】
また、本実施形態に係る波動歯車装置100の偏心吸収部材40は、弾性材料からなる。これにより、偏心吸収部材40の変形の自由度が向上する。
【0043】
さらに、本実施形態に係る波動歯車装置100では、可撓性外歯歯車20は、軸方向における、可撓性外歯29(可撓性歯部23)が設けられる側とは反対側の端部から、径方向内側に向かって延びる平板部を有する。これにより、動力の入力部分で偏心が生じている場合においても、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合いを良好に保つことが可能な、いわゆるカップ型の可撓性外歯歯車20を備える波動歯車装置100を実現できる。
【0044】
<2.第2実施形態>
以下では、第2実施形態に係る波動歯車装置200について、図4を参照して説明する。なお、以下の説明においては、第1実施形態で示したのと同様の構成・機能の部材については、同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。これ以降に説明する他の実施形態および変形例についても、同様とする。図4は、本実施形態に係る波動歯車装置200の、ロータ90、波動発生器30、および偏心吸収部材240の縦断面図である。
【0045】
第2実施形態に係る波動歯車装置200は、偏心吸収部材40に代えて、偏心吸収部材240を備えている点で、第1実施形態に係る波動歯車装置100とは主として異なっている。図4に示すように、偏心吸収部材240は、第1固定部41と、第2固定部42と、ダイヤフラム部243と、を有する。
【0046】
ダイヤフラム部243は、偏心吸収部材240の軸方向の中途部に設けられる。ダイヤフラム部243は、軸方向の一方側に突出する凸部244と、軸方向の他方側に凹む凹部245と、を径方向に交互に有する。
【0047】
ダイヤフラム部243も、第1実施形態に係るベローズ部43と同様に、その構造上、径方向および軸方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形し難い。よって、動力の入力部分に偏心が生じていても、偏心に起因する位置のずれを、偏心吸収部材240が吸収するため、外歯29と内歯11との噛み合いは良好に保たれる。しかも、偏心吸収部材240は、ねじり方向には変形し難いので、ロータ90の回転を波動発生器30へ精度よく伝達できる。
【0048】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置200においては、偏心吸収部材240は、軸方向の一方側に突出する凸部244と、軸方向の他方側に凹む凹部245と、を径方向に交互に有するダイヤフラム部243を含む。別の言い方をすれば、偏心吸収部材240は、図4に示すように、薄膜が複数回折り重ねられて径方向に層状となっているダイヤフラム部243を有する。これにより、偏心吸収部材240を径方向および軸方向に容易に変形させることができる。また、この偏心吸収部材240は、周方向には変形し難いため、ロータ90の回転を波動発生器30へ精度よく伝達できる。
【0049】
<3.第3実施形態>
以下では、第3実施形態に係る波動歯車装置300について、図5および図6を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る波動歯車装置300の、ロータ90、波動発生器30、および偏心吸収部材340の縦断面図である。図6は、本実施形態に係る偏心吸収部材340の全周の展開図を示している。
【0050】
第3実施形態に係る波動歯車装置300は、偏心吸収部材40に代えて、偏心吸収部材340を備えている点で、第1実施形態に係る波動歯車装置100とは主として異なっている。図5および図6に示すように、偏心吸収部材340は、第1固定部41と、第2固定部42と、変形量調整部343と、を有する。
【0051】
図6に示すように、本実施形態の偏心吸収部材340は、軸方向の中途部に、変形量調整部343を有する。また、本実施形態の変形量調整部343は、偏心吸収部材340の全周にわたって、円環状に設けられる。
【0052】
変形量調整部343には、複数の開口部344,345が、周方向に沿って規則的に配列される。より詳細には、本実施形態の変形量調整部343には、第1開口部344と第2開口部345とが、それぞれ周方向に沿って等間隔に設けられる。また、本実施形態においては、第1開口部344と第2開口部345とが、周方向に沿って交互に間隔を開けて配置される。
【0053】
本実施形態の第1開口部344は、二等辺三角形状であり、当該二等辺三角形の頂角が軸方向の一方側に向けられている。第2開口部345も、二等辺三角形状であり、当該二等辺三角形の頂角が軸方向の他方側に向けられている。別の言い方をすれば、隣接する第1開口部344および第2開口部345が、互いに軸方向の反対側を向くように、交互に配置される。これにより、隣り合う開口部344,345の二等辺三角形の等辺と等辺との間に、軸方向に対して傾斜した腕部346が、周方向に間隔を開けて設けられる。このように、本実施形態の変形量調整部343は、全体としていわゆるトラス構造をなしている。
【0054】
本実施形態の波動歯車装置300は、偏心吸収部材340にトラス構造の変形量調整部343を含むことにより、偏心吸収部材340を径方向に変形しやすく、かつ周方向には変形し難くしている。
【0055】
以上に示したように、本実施形態に係る波動歯車装置300においては、偏心吸収部材340は、複数の開口部344,345が周方向に沿って全周に配列された変形量調整部343を有する。これにより、開口部344,345の形状に応じて、偏心吸収部材340を、径方向に撓み変形しやすくすることができる。よって、ロータ90の回転軸が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して傾斜または偏心していても、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合い状態を、偏心吸収部材340の撓み変形量で調整することで、良好に噛み合わせることができる。
【0056】
また、本実施形態に係る波動歯車装置300においては、開口部344,345は三角形状であり、変形量調整部343全体としてトラス構造をなしている。これにより、偏心吸収部材340を、より一層径方向に撓み変形しやすくすることができる。その結果、ロータ90の回転軸が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して傾斜または偏心していても、剛性内歯11と可撓性外歯29とを精度よく噛み合せることができる。また、周方向の変形をより一層抑制できるため、ロータ90の回転を波動発生器30へ精度よく伝達できる。
【0057】
<4.第3実施形態の変形例>
以下では、第3実施形態の変形例に係る波動歯車装置300について、図5および図7を参照して説明する。図5は、本変形例に係る波動歯車装置300に備えられる偏心吸収部材350を示している。図7は、本変形例に係る偏心吸収部材350の全周の展開図を示している。
【0058】
第3実施形態の変形例に係る波動歯車装置300は、偏心吸収部材340に代えて偏心吸収部材350を備えている点で、第3実施形態に係る波動歯車装置300とは異なっている。図5および図7に示すように、偏心吸収部材350は、第1固定部41と、第2固定部42と、変形量調整部353と、を有する。
【0059】
図7に示すように、本変形例の偏心吸収部材350は、軸方向の中途部に、変形量調整部353を有する。本実施形態の変形量調整部353は、偏心吸収部材350の全周にわたって、円環状に設けられる。
【0060】
変形量調整部353には、複数の開口部354,355が、周方向に沿って規則的に配列される。より詳細には、本変形例の変形量調整部353には、第1開口部354と第2開口部355とが、それぞれ周方向に沿って等間隔に設けられる。
【0061】
第1開口部354は、軸方向の第1位置において周方向に配列され、各々が周方向にスリット状に延びている。第2開口部355は、軸方向の第1位置とは異なる第2位置において周方向に配列され、各々が周方向にスリット状に延びている。第1開口部354と第3開口部355とは、周方向に交互に配置される。
【0062】
本変形例の構成によっても、第1開口部354と第2開口部355とを適宜に設けることによって、偏心吸収部材350を、必要な強度を有するものとしつつ、ロータ90の取付け誤差等に起因する位置のずれを吸収し得る撓み性を発揮するものとすることができる。
【0063】
<5.第4実施形態>
以下では、第4実施形態に係る波動歯車装置400について、図8を参照して説明する。図8は、本実施形態に係る波動歯車装置400の、ロータ90、波動発生器30、および偏心吸収部材440の縦断面図である。
【0064】
第4実施形態に係る波動歯車装置400は、偏心吸収部材40に代えて、偏心吸収部材440を備えている点で、第1実施形態に係る波動歯車装置100とは主として異なっている。図8に示すように、偏心吸収部材440は、第1固定部41と、第2固定部42とを有する。また、本実施形態に係る偏心吸収部材440は、その全体が合成ゴムからなる。また、偏心吸収部材440は、第1実施形態に係る偏心吸収部材40よりも、径方向の厚み(肉厚)が大きい。
【0065】
本実施形態の構成によっても、適切な合成ゴム材料を選択すれば、偏心吸収部材440を径方向および軸方向に容易に変形させることができる。よって、ロータ90に取り付けられた入力軸1が、剛性内歯歯車10の回転中心軸Cに対して、傾斜または偏心している場合においても、偏心吸収部材440が変形することにより、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合いを良好に保つことができる。
【0066】
<6.第5実施形態>
以下では、第5実施形態に係る波動歯車装置500について、図9を参照して説明する。図9は、本実施形態に係る波動歯車装置500の縦断面図を示している。
【0067】
第5実施形態に係る波動歯車装置500は、上述のカップ型の可撓性外歯歯車20に代えて、いわゆるシルクハット型の可撓性外歯歯車520を備えている点で、第1実施形態に係る波動歯車装置100とは主として異なっている。
【0068】
可撓性外歯歯車520は、平板部22に代えて平板部552を備える点等において、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは主として異なっている。平板部552は、ダイヤフラム部554と、固定部555とを有する。ダイヤフラム部554は、胴部21との接続箇所に近い側に配置され、肉厚が固定部555よりも薄い部位である。ダイヤフラム部554は、胴部21に対し、径方向外側に向かって延びている。ダイヤフラム部554は、円環状の形状を有し、可撓性歯部23よりも小さい撓み性を有する。ダイヤフラム部554の外周部には、円環状の固定部555が接続されている。固定部555および剛性内歯歯車10は相対回転可能にクロスローラベアリングで軸支されている。本実施形態においても、径方向におけるロータ90と波動発生器30との間に、偏心吸収部材40が設けられる。
【0069】
本実施形態の構成によれば、動力の入力部分に偏心が生じていても、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合いを良好に保つことのできる、いわゆるシルクハット型の可撓性外歯歯車520を備える波動歯車装置500を実現できる。
【0070】
<7.第6実施形態>
以下では、第6実施形態に係る波動歯車装置600について、図10を参照して説明する。図10は、本実施形態に係る波動歯車装置600の縦断面図を示している。
【0071】
第6実施形態に係る波動歯車装置600は、上述のカップ型の可撓性外歯歯車20に代えて、いわゆる偏平型の可撓性外歯歯車620を備えている点、および、剛性内歯歯車10として、固定内歯歯車611および出力用内歯歯車612を備えている点において、第1実施形態に係る波動歯車装置100とは主として異なっている。
【0072】
可撓性外歯歯車620は、平板部22を備えていない点において、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは異なっている。固定内歯歯車611および出力用内歯歯車612は、いずれも同じ大きさの円環状であり、同軸上に重ねて設けられる。固定内歯歯車611は、波動歯車装置600が搭載される装置の枠体に固定される。出力用内歯歯車612には、減速後の動力を取り出すための出力軸が同軸上に固定される。
【0073】
本実施形態では、固定内歯歯車611の内歯の数と、可撓性外歯歯車620の外歯の数とが、等しい。このため、非真円カム31が回転しても、固定内歯歯車611と可撓性外歯歯車620との間では、互いに噛み合う歯の位置は変化しない。したがって、固定内歯歯車611と可撓性外歯歯車620とは、相対回転しない。
【0074】
一方、出力用内歯歯車612の内歯の数と、可撓性外歯歯車620の外歯の数とは、互いに僅かに異なる。このため、非真円カム31の1回転ごとに、可撓性外歯歯車620の同じ位置の外歯29に噛み合う出力用内歯歯車612の内歯の位置がずれる。これにより、出力用内歯歯車612が、可撓性外歯歯車620に対して相対回転する。この相対回転運動が、減速後の動力として出力軸に取り出される。
【0075】
以上に示したように、本実施形態の波動歯車装置600においては、剛性内歯歯車10は、固定内歯歯車611と、出力用内歯歯車612とを含む。固定内歯歯車611は、円環状であり、可撓性外歯歯車620の径方向外側に固定的に配置される。出力用内歯歯車612は、固定内歯歯車611に対して相対回転可能に設けられ、固定内歯歯車611と同じ直径で同軸上に配置される。可撓性外歯歯車620の外歯の数と、固定内歯歯車611および出力用内歯歯車612の少なくとも一方の内歯の数とは、互いに相違する。固定内歯歯車611および出力用内歯歯車612は、可撓性外歯歯車620と部分的に噛み合う。
【0076】
本実施形態においても、図10に示すように、偏心吸収部材40が備えられているので、動力の入力部分に偏心が生じていても、剛性内歯11と可撓性外歯29との噛み合いを良好に保つことのできる、いわゆる偏平型の可撓性外歯歯車620を備える波動歯車装置600を実現できる。
【0077】
<8.その他の変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上述したものに対し種々の変更を加えることが可能である。
【0078】
上記の実施形態では、偏心吸収部材は概ね円筒状であるものとしたが、本発明に係る「偏心吸収部材」は、厳密な円筒状であっても、概略的に円筒状であっても、円筒状の部分を一部に含んでいても、いずれであってもよい。「概略的に円筒状」には、例えば一部に上記のようなベローズ状の部分を有するような場合が、含まれる。
【0079】
上記の実施形態では、偏心吸収部材40は、波動発生器30およびロータ90よりも弾性率が高い材料からなるものとしたが、これに限らない。例えば上記に代えて、偏心吸収部材を、波動発生器およびロータよりも厚みを小さく構成することにより、波動発生器およびロータよりも弾性変形しやすくしてもよい。
【0080】
上記の実施形態では、変形量調整部の開口部の形状をいくつか例示した。しかしながら、開口部の形状を、上記に代えて、軸方向に延びる形状としてもよい。その場合、この開口部を、周方向に沿って等間隔に設けるものとしてもよい。
【0081】
上記の実施形態では、変形量調整部の開口部が、三角形状に、より特定的には二等辺三角形状に形成されている例を示した。しかしながら、これに代えて、開口部を直角三角形状としてもよい。その場合、隣り合う向きの異なる直角三角形同士を長方形状に配置し、かつ、周方向の全周にこの長方形が等間隔に並ぶようにレイアウトしてもよい。あるいは、開口部の形状を、円形状、楕円形状、矩形状、あるいは長孔形状等としてもよい。また、変形調整部に、形状の異なる複数種類の開口部が混在していてもよい。
【0082】
また、上記の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。例えば、シルクハット型の可撓性外歯歯車を有する波動歯車装置において、径方向に層状となっているダイヤフラム部を有する偏心吸収部材を設けてもよい。
【0083】
偏心吸収部材のベローズ部またはダイヤフラム部において、凹凸が繰り返される数は、図示したものよりも多くても、あるいは少なくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願は、波動歯車装置に利用できる。
【符号の説明】
【0085】
10 剛性内歯歯車(内歯歯車)
11 内歯
20 可撓性外歯歯車
29 外歯
30 波動発生器
31 非真円カム
40 偏心吸収部材
41 第1固定部
42 第2固定部
43 ベローズ部
90 ロータ
100 波動歯車装置
243 ダイヤフラム部
431 凸部
432 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10