(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】加工工具および加工工具を備えた動力工具
(51)【国際特許分類】
B28D 1/18 20060101AFI20220712BHJP
B23C 5/04 20060101ALI20220712BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B28D1/18
B23C5/04 A
B23C5/06 A
(21)【出願番号】P 2018096985
(22)【出願日】2018-05-21
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】508200078
【氏名又は名称】オオノ開發株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】神野 浩
(72)【発明者】
【氏名】神野 太郎
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-019817(JP,A)
【文献】米国特許第03540103(US,A)
【文献】実開昭63-151509(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/18
B23C 5/04
B23C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料を含む被加工物の表面を加工する加工工具であって、
回転体形状を有し、部材取付面を備える回転可能な工具本体と、
円筒形状あるいは円錐台形状を有し、該部材取付面上に設けられた複数の加工部材と
を備え、
該複数の加工部材は、それぞれの外周面が該被加工物を加工する刃面となるように該工具本体に取り付けられている、加工工具。
【請求項2】
前記複数の加工部材のそれぞれにおいて前記刃面が前記工具本体から突出する高さは、該工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高くなっている、請求項1に記載の加工工具。
【請求項3】
前記刃面が前記工具本体の回転方向の前方側で該工具本体から突出する高さは、約1mm~約10mmである、請求項2に記載の加工工具。
【請求項4】
前記複数の加工部材は、該加工部材が装着された位置における前記部材取付面の法線方向に対して、該加工部材の中心軸がオフセットするように配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項5】
前記法線に対する前記加工部材の中心軸のオフセット角度は、約1°~約30°である、請求項4に記載の加工工具。
【請求項6】
前記複数の加工部材は、円錐台形状を有し、加工部材の外周面は、該加工部材の中心軸に対して約2°~約15°傾斜している、請求項1~5のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項7】
前記複数の加工部材の各々は、前記部材取付面上での前記工具本体の回転方向において異なる位置に配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項8】
前記複数の加工部材のうち隣接する加工部材は、前記部材取付面上での前記工具本体の回転方向において互いに重ならない位置に配置されている、請求項7に記載の加工工具。
【請求項9】
前記回転体形状は、円筒形状であり、
前記部材取付面は、該円筒形状の外周面である、請求項1~8のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項10】
前記工具本体の軸線方向の基端側と先端側に位置する少なくとも1組の前記加工部材は、該工具本体の前記部材取付面上で回転方向において一部重なるように配置されている、請求項9に記載の加工工具。
【請求項11】
前記少なくとも1組の加工部材の重なり幅は、該工具本体の回転方向における前記加工部材の幅の約30%~約70%である、請求項10に記載の加工工具。
【請求項12】
前記複数の加工部材は、前記部材取付面において螺旋状に配列されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の加工工具。
【請求項13】
前記複数の加工部材は複数のグループに分けられ、ここで、該複数のグループの各々に含まれる該複数の加工部材は、前記工具本体の部材取付面で該工具本体の軸線方向に対して所定角度で傾斜した線に沿って配列されている、請求項12に記載の加工工具。
【請求項14】
前記所定角度は、約30°~約60°である、請求項13に記載の加工工具。
【請求項15】
前記複数のグループのうちの隣接するグループに含まれる加工部材同士は、千鳥状に配列されている、請求項13または14に記載の
加工工具。
【請求項16】
前記回転体形状は、円板形状に円錐台形状を結合してなる複合形状であり、
前記部材取付面は前記工具本体のうちの該円錐台形状をなす部分の外周面に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の加工
工具。
【請求項17】
前記複数の加工部材の少なくとも一部は、前記工具本体のうちの前記円板形状をなす部分の外周面に配置されている、請求項16に記載の加工工具。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の加工工具と、
前記加工工具を回転駆動する回転駆動部と
を備えた、動力工具。
【請求項19】
請求項1~
17のいずれか一項に記載の加工工具または請求項
18に記載の動力工具を用いて被加工物を加工することを含む、該被加工物の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工工具および加工工具を備えた動力工具に関し、特に、被加工物の表面を加工するための加工工具、およびその加工工具を備えた動力工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリートや石材などの表層を剥がす電動工具として、円板状部材に加工刃を固定した加工工具を備え、加工工具を回転駆動軸に着脱可能に取り付けたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、このような電動工具として、床面や壁面などの表層としてのモルタルやコンクリートなどを剥がすのに用いられる電動回転工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の電動回転工具では、円板状部材に加工刃として取り付けられている研削刃は加工面が矩形状を有する長円弧状で構成されている。
【0006】
このような電動回転工具では、切削刃の刃面が劣化しやすく、長時間にわたる加工効率が維持できない。また、加工時には、加工部材には大きな負荷が急激にかかることがあるため、回転工具を駆動させる駆動源を大きくしなければならないという問題などがあった。
【0007】
本発明は、長時間にわたる加工効率を維持することができる加工工具およびそのような加工工具を備えた動力工具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
被加工物の表面を加工する加工工具であって、
回転体形状を有し、部材取付面を備える回転可能な工具本体と、
円筒形状あるいは円錐台形状を有し、該部材取付面上に設けられた複数の加工部材と
を備え、
該複数の加工部材は、それぞれの外周面が該被加工物を加工する刃面となるように該工具本体に取り付けられている、加工工具。
(項目2)
前記複数の加工部材のそれぞれにおいて前記刃面が前記工具本体から突出する高さは、該工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高くなっている、項目1に記載の加工工具。
(項目3)
前記刃面が前記工具本体の回転方向の前方側で該工具本体から突出する高さは、約1mm~約10mmである、項目2に記載の加工工具。
(項目4)
前記複数の加工部材は、該加工部材が装着された位置における前記部材取付面の法線方向に対して、該加工部材の中心軸がオフセットするように配置されている、項目1~3のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目5)
前記法線に対する前記加工部材の中心軸のオフセット角度は、約1°~約30°である、項目4に記載の加工工具。
(項目6)
前記複数の加工部材は、円錐台形状を有し、加工部材の外周面は、該加工部材の中心軸に対して約2°~約15°傾斜している、項目1~5のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目7)
前記複数の加工部材の各々は、前記部材取付面上での前記工具本体の回転方向において異なる位置に配置されている、項目1~6のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目8)
前記複数の加工部材のうち隣接する加工部材は、前記部材取付面上での前記工具本体の回転方向において互いに重ならない位置に配置されている、項目7に記載の加工工具。
(項目9)
前記回転体形状は、円筒形状であり、
前記部材取付面は、該円筒形状の外周面である、項目1~8のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目10)
前記工具本体の軸線方向の基端側と先端側に位置する少なくとも1組の前記加工部材は、該工具本体の前記部材取付面上で回転方向において一部重なるように配置されている、項目9に記載の加工工具。
(項目11)
前記少なくとも1組の加工部材の重なり幅は、該工具本体の回転方向における前記加工部材の幅の約30%~約70%である、項目10に記載の加工工具。
(項目12)
前記複数の加工部材は、前記部材取付面において螺旋状に配列されている、項目1~11のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目13)
前記複数の加工部材は複数のグループに分けられ、ここで、該複数のグループの各々に含まれる該複数の加工部材は、前記工具本体の部材取付面で該工具本体の軸線方向に対して所定角度で傾斜した線に沿って配列されている、項目12に記載の加工工具。
(項目14)
前記所定角度は、約30°~約60°である、項目13に記載の加工工具。
(項目15)
前記複数のグループのうちの隣接するグループに含まれる加工部材同士は、千鳥状に配列されている、項目13または14に記載の研削工具。
(項目16)
前記回転体形状は、円板形状に円錐台形状を結合してなる複合形状であり、
前記部材取付面は前記工具本体のうちの該円錐台形状をなす部分の外周面に存在する、項目1~7のいずれか一項に記載の加工部材。
(項目17)
前記複数の加工部材の少なくとも一部は、前記工具本体のうちの前記円板形状をなす部分の外周面に配置されている、項目16に記載の加工工具。
(項目18)
前記被加工物は、コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択される材料を含む、項目1~17のいずれか一項に記載の加工工具。
(項目19)
項目1~18のいずれか一項に記載の加工工具と、
前記加工工具を回転駆動する回転駆動部と
を備えた、動力工具。
(項目20)
項目1~18のいずれか一項に記載の加工工具または項目19に記載の動力工具を用いて被加工物を加工することを含む、該被加工物の加工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工部材の刃面の劣化が抑制され、長時間にわたる加工効率を維持することができる加工工具およびそのような加工工具を備えた動力工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1による加工工具100の外観を示す斜視図。
【
図2】
図1の加工工具100の外観を示す平面図であり、
図2(a)~
図2(f)はそれぞれ、
図1のA方向~F方向から見た加工工具100の構造を示す。
【
図3】
図1の加工工具100における1つの加工部材10を取り外した状態を示す斜視図。
【
図4】
図1に示す加工工具100を構成する工具本体110(
図4(a))、加工部材10(
図4(b))、および固定ボルト20(
図4(c))を示す斜視図。
【
図5】
図4(a)の工具本体110の説明図であり、
図5(a)~
図5(f)はそれぞれ、
図4(a)のA方向~F方向から見た工具本体110の構造を示す。
【
図6】
図4(a)の工具本体110の外周面Sに形成されている収容凹部112の配置を説明するための図であり、
図6(a)は、工具本体110の外周面Sでの複数の収容凹部112の位置関係を示し、
図6(b)は、
図6(a)の複数の収容凹部112および複数の収容凹部112に取り付けられた加工部材10の配置を示す展開図。
【
図7】
図4(b)の加工部材10の説明図であり、
図7(a)は、
図4(b)のA1方向から見た加工部材10の構造を示し、
図7(b)は、
図7(a)のVIIb-VIIb線断面を示す。
【
図8】
図1の加工工具100の断面図であり、
図8(a)および
図8(b)はそれぞれ、
図2(f)のVIIIa-VIIIa線断面およびVIIIb-VIIIb線断面を示す。
【
図9】
図1の加工工具100が装着された動力工具1を示す斜視図。
【
図9A】加工部材10による被加工物Wpの加工状態を説明するための図であり、
図9A(a)~
図9A(c)は、中心軸をオフセットさせた加工部材10により被加工物Wpが加工される様子を示し、
図9A(d)~
図9A(f)は、中心軸をオフセットさせていない加工部材10により被加工物Wpが加工される様子を示す。
【
図10】本発明の実施形態2による加工工具200を説明するための斜視図であり、加工工具200が装着された電動工具2を示す。
【
図11】
図10の加工工具200の説明図であり、
図11(a)および
図11(b)はそれぞれ、
図10のA2方向およびB2方向から見た加工工具200の構造を示す。
【
図12】
図11(b)の加工工具200の工具本体210のうちの加工部材10が収容される収容凹部212a、212bの配置を説明する図。
【
図12A】
図10の加工工具200による被加工物Wpの加工状態を説明するための図であり、
図12A(a)は、
図10のA2方向から見た動力装置の先端部の構造を示す平面図、
図12A(b)は、
図12A(a)の加工工具200を被加工物Wp側(B2方向)から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
本明細書において使用される用語「約」とは、後に続く数値の±10%の範囲を意味する。
【0013】
本明細書において、「回転体」、「円筒」、「円錐」、「円錐台」、「円板」などの形状に関する用語は、厳密にそれらの形状に限定されるのではなく、本発明の効果を奏する範囲においてその前方に「略」が付されたものも包含するように解釈される。例えば、「円」とは「真円」のみを意味するものではない。
【0014】
本発明の加工工具は、回転体形状の工具本体の表面に円筒形状あるいは円錐台形状の複数の加工部材を取り付け、複数の加工部材の外周面を被加工物に対する刃面とすることにより、被加工物への刃面の切込みの際に刃面が被加工物により研がれる作用により、刃面の劣化による加工能力の低下という課題を解決したものである。従って、本発明の加工工具は、回転体形状を有する工具本体と、円筒形状あるいは円錐台形状を有する複数の加工部材とを備え、複数の加工部材の外周面で被加工物を加工するものであれば、特に限定されるものではない。
【0015】
また、加工部材に円筒形状あるいは円錐台形状のものを用いることにより、被加工物の加工屑が加工部材の円筒形状あるいは円錐台形状に沿って首尾よく加工部材の刃面から剥離されて外部に排出されることから、刃面に加工屑が固着することによる加工能力の低下が解消される。
【0016】
(工具本体)
本発明の工具本体は、その外形が回転体形状であり、回転体形状の外周面上に部材取付面を有し、外部の駆動源と連結されて、または工具本体内に備えられた駆動源によって、自身が回転することができるものである。工具本体の回転の際に、工具本体の部材取付面に設けられた加工部材が被加工物と接触することによって、所望の被加工物の加工(例えば表層剥離)が達成され得る。
【0017】
例えば、工具本体が有する回転体形状は、円筒形状、円錐形状、円錐台形状、円板形状、およびそれらの結合した複合形状など任意の形状であり得る。1つの実施形態において、工具本体の形状は円筒形状であり、この場合、部材取付面は工具本体の外周面であってもよいし、先端側の円形面であってもよい。本明細書において、工具本体における「基端側」とは、工具本体において、工具本体を回転駆動する駆動源に接続される側をいい、「先端側」とは基端側とは反対側で被加工物に向かい合う側をいう。
【0018】
好ましい実施形態においては、本発明の工具本体の形状は円筒形状であり、部材取付面は外周面であり得る(例えば、
図1~9を参照のこと)。別の実施形態においては、本発明の工具本体の形状は円板形状に円錐台形状を結合して得られる複合形状であり、部材取付面は円錐台部分の外周面(以下、複合形状の底面、あるいは単に底面という。)であり得る(例えば、
図10~12を参照のこと)。
【0019】
本発明の工具本体は、部材取付面において、加工部材を固定するための固定機構を備えてもよい。この固定機構は、ネジ、接着剤、接着テープ、嵌合、溶着、電着など当該分野で任意のものであり得る。好ましい実施形態においては、本発明の工具本体は、部材取付面に、加工部材を収容するための収容凹部を備えてもよい。このような収容凹部を備えることによって、剥離加工時の加工部材にかかるトルクを収容凹部の壁面で支持することができ、加工部材の固定機構が安定し得る。さらに好ましい実施形態においては、本発明の工具本体は、ネジと収容凹部との組み合わせによって、部材取付面において加工部材を固定し得る。こうすることによって、加工時の固定機構の安定を達成しながら、加工部材の交換も容易であり、好ましい。
【0020】
駆動源による加工時の工具本体の回転数は、約1000rpm~約15000rpmであり、好ましくは約3000rpm~約12000rpmであり、より好ましくは約8000rpm~約12000rpmである。
【0021】
(加工部材)
加工部材は被加工物の表面を機械加工できる任意のものであり得る。例えば、切削工具(セラミックチップ、ダイヤモンドチップ、超硬チップなど)、研削工具(ダイヤモンド砥石、セラミック砥石など)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
本発明の加工部材は、円筒形状あるいは円錐台形状を有し、その形状の外周面が被加工物を加工(除去・剥離)するための刃面である。加工部材の外形形状は、円筒形状、円錐形状、円錐台形状など、端縁が円形あるいは楕円形であれば任意のものであってよい。加工部材の加工面を外周面(
図8(b)の11aを参照のこと)とすることにより、加工時において、被加工物は加工部材に対して刃面を研ぐ方向に移動するため、加工部材の刃面は鋭利な状態を保つことになり、その結果、長期間にわたり加工部材の加工効率を維持することが可能となる。さらに、加工面(刃面)を円筒形状あるいは円錐台形状の外周面とすることにより、加工部材の被加工物への最初の接触から、加工部材が被加工物をえぐって加工(除去・剥離)するにつれて、加工部材にかかる負荷は徐々に増加していくため(
図9A(a)~(f)参照)、急激かつ大きな負荷が使用者に付与されず、またそのような負荷に耐え得る駆動源が不要となる。
【0023】
好ましい実施形態においては、複数の加工部材のそれぞれにおいて刃面が工具本体から突出する高さは、工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高くなっている。これにより、加工部材の外周面のうちの工具本体の回転方向の前方側の部分である刃面が被加工物を加工(除去・剥離)することにより形成された加工溝の底に、加工部材の先端面のうちの工具本体の回転方向の後方側の部分が接触することが防止される(例えば、
図9A(a)~(c)を参照)。このように被加工物に対する加工部材の刃面以外の部分の接触が抑制され、その結果、被加工物の表面上で加工工具をその回転面に沿った方向にスムーズに往復移動させながら被加工物の表面を加工することが可能となる。
【0024】
刃面が工具本体の回転方向の前方側で工具本体の部材取付面から突出する高さは、約1mm~約10mm、好ましくは約2mm~約8mm、さらに好ましくは約3mm~約5mmである。
【0025】
また、加工部材が円錐台形状を有する場合、加工部材の中心軸に対する外周面の傾斜角度は、約2°~約15°、さらに好ましくは約5°~約10°の範囲で適宜設定され得る。
【0026】
なお、刃面が工具本体から突出する高さが工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高い構造は、例えば、円筒形状あるいは円錐台形状の加工部材の工具本体に取り付ける配置の工夫、または円筒形状あるいは円錐台形状の加工部材の一部を加工することにより形成することによって達成され得る。
【0027】
好ましい実施形態においては、本発明の加工部材は、部材取付面の加工部材の装着位置での法線方向(すなわち、加工部材の装着位置における部材取付面の接平面に対する法線方向)に対してオフセットした方向に沿って(具体的には、加工部材の中心軸がこのオフセットした方向に向くように)配置され得る(例えば、
図9A(a)~(c)を参照)。このように、加工部材の中心軸を加工部材の取り付け位置での法線方向に対してオフセットさせることによって、円筒形状や円錐台形状の加工部材をそのまま用いて、複数の加工部材のそれぞれにおいて刃面が工具本体から突出する高さを、工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高くすることができる。
【0028】
本明細書において、加工部材の「オフセット角度」とは、加工部材の装着位置である部材取付面の法線方向と、加工部材の中心軸との間の角度をいう。
【0029】
加工部材の「オフセット角度」は、任意の角度であり得るが、被加工物の硬度または粘性の度合いによって適宜調整され得る。例えば、硬度や粘性が高い場合はオフセット角度を大きく、硬度や粘性が低い場合はオフセット角度を小さくするように調整される。加工部材のオフセット角度を大きくすることにより、刃面が被加工物に接触する面積を小さくすることができる。その結果、被加工物への切込み量が小さくなることによる加工工具にかかる負荷(回転トルク)の上昇が抑制されるため、大きな負荷がかかるおそれのある硬度や粘性の高い被加工物の加工を良好に行うことが可能となる。一方、加工部材のオフセット角度を小さくすることにより、刃面が被加工物に接触する面積を大きくすることができる。その結果、被加工物への切込み量が大きくできるため、小さな負荷で加工の行える硬度や粘性の低い被加工物の加工効率を向上させることが可能となる。
【0030】
刃面が被加工物に接触する面積の調整は、オフセット角度の調整の他、加工部材の刃面が工具本体から突出する高さを調整することでも達成される。
【0031】
例えば、オフセット角度は約1°~約30°であり、好ましくは約3°~約20°であり、より好ましくは約5°~約15°である。
【0032】
具体的な実施形態として、コンクリート上に塗装された膜厚約3mm~約5mmのウレタン塗装面を加工する場合、円錐台形状の加工部材を用い、高さ約4mm~約5mm、最大直径約9mm~約11mm、オフセット角度を約10°~約15°とする。
【0033】
加工部材がオフセットされて部材取付面に配置されることによって、加工部材として円筒形状や円錐台形状の加工部材をそのまま用いても、複数の加工部材のそれぞれにおいて刃面が工具本体の部材取付面から突出する高さを、複数の加工部材の回転方向の前方側が複数の加工部材の回転方向の後方側に比べて高くすることが可能となる(例えば、
図9A(a)参照)。
【0034】
また、別の実施形態においては、円筒形状や円錐台形状の加工部材の一部を除去加工することにより、刃面が工具本体から突出する高さを、工具本体の回転方向の前方側でその後方側に比べて高くなるようにしてもよい。このようにした場合は、加工部材をオフセットした位置に配置しなくても、同様に刃面が工具本体の部材取付面から突出する高さを、加工部材の回転方向の前方側が加工部材の回転方向の後方側に比べて高くすることが可能となる。
【0035】
さらに、複数の加工部材は、回転体形状の工具本体の外周面(外周部の表面)に取り付けられていてもよいし、回転体形状の工具本体の底面(底部の表面)に取り付けられていてもよい。また、工具本体に取り付けられる複数の加工部材の配置関係も特に限定されるものではない。
【0036】
(加工部材(収容凹部)の配置パターン)
好ましい実施形態において、複数の加工部材の各々は、工具本体の部材取付面上での工具本体の回転方向において異なる位置に配置されている。ここで、本明細書において、加工部材が「工具本体の回転方向において異なる位置」に配置されているとは、複数の加工部材の中心軸同士が、工具本体の回転方向において一致しないことをいう。例えば、
図6(b)の部材取付面の展開図を参照すると、各加工部材の中心軸は、工具本体の回転方向(R1方向)においてそれぞれ一致しておらず、各加工部材は工具本体の回転方向R1において異なる位置に配置されていることが理解される。
【0037】
好ましい実施形態において、隣接する加工部材は、工具本体の部材取付面上での工具本体の回転方向において互いに重ならない位置に配置されている。隣接する加工部材とは、
図6(b)の部材取付面の展開図において、工具本体の軸線方向(Y1方向)において1つの加工部材に対して最も近接している1つまたは2つの加工部材をいう。すなわち、
図6(b)において、加工部材10a2は、加工部材10a1および10a3と隣接し、加工部材10a3は、加工部材10a2および10a4と隣接する。加工部材10a5は、加工部材10a4のみと隣接し、加工部材10b1とは隣接するとはいわない点に留意されたい。
図11(a)においては、加工部材10a1’は加工部材10a2’とのみ隣接し、加工部材10a2’は加工部材10a1’および10a3’と隣接している。本明細書において、隣接する加工部材が、工具本体の部材取付面上での工具本体の回転方向において「互いに重ならない」位置とは、一方(前方)の加工部材の工具本体の回転方向後端部の位置が、他方(後方)の加工部材の工具本体の回転方向前端部の位置よりも回転方向の前方側に配置されていることをいう。
【0038】
このようにすることにより、加工時に被加工物の加工に寄与する加工部材が実質的に1つとなり、被加工物の加工時に実際に加工を行う加工部材の数や加工部材が被加工物に接触する領域が削減される。これによって、加工における負荷(回転トルク)を小さく抑えることが可能となる。加工における負荷が抑えられるため、加工工具を駆動する駆動源などの小型化が可能となり使用者の操作性が向上および設備および製造コストの削減が可能となる。
【0039】
1つの実施形態において、工具本体は円筒形状であり、部材取付面は円筒形状の外周面である。この実施形態において、工具本体の軸線方向の基端側と先端側の両端に位置する少なくとも1組の加工部材(例えば、
図6(b)における加工部材10a5と加工部材10b1)は、工具本体の部材取付面上での工具本体の回転方向(R1方向)において一部重なるように配置されていてもよい。本明細書において、工具本体の軸線方向の基端側と先端側に位置する少なくとも1組の加工部材が「工具本体の部材取付面上での工具本体の回転方向において一部重なるように配置」されるとは、一方(前方)の加工部材の工具本体の回転方向後端部の位置が、他方(後方)の加工部材の工具本体の回転方向前端部の位置よりも回転方向の後方側に配置されていることをいう。この場合、工具本体を回転させたときに工具本体の軸線方向の両端に位置する加工部材が被加工物の表面に接するタイミングが重なるので、工具本体の回転軸の被加工物の表面に対するふらつきを抑制でき、振動や騒音の発生を低減できる。この実施形態における、1組の加工部材同士の重なり幅は、任意であり得る。ただし、あまり重なり幅が大きすぎると、加工部材にかかる負荷(回転トルク)が大きくなるので好ましくない。一つの実施形態において、工具本体の回転方向における加工部材の幅の約20%~約80%であり、好ましくは、工具本体の回転方向における加工部材の幅の約30%~約70%であり、より好ましくは工具本体の回転方向における加工部材の幅の約50%である。例えば、
図6(b)においては、加工部材10a5と加工部材10b1とは、加工部材の約50%が重なっている。
【0040】
1つの実施形態において、複数の加工部材のうちで工具本体の部材取付面上で工具本体の軸線方向(Y1方向)において加工部材は、一部重なるように配置される。ここで、本明細書において、「工具本体の軸線方向(Y1方向)において加工部材が、一部重なるように配置」されているとは、一方(工具本体先端側)の加工部材の工具本体基端側端部の位置が、他方(工具本体基端側)の加工部材の工具本体先端側端部の位置よりも工具本体基端側に配置されていることをいう。
【0041】
このように、工具本体の軸線方向(Y1方向)において複数の加工部材が一部重ねることにより被加工面の表面性状を向上させることが可能となる。その重なりが大きいほど、被加工面の表面性状は向上する反面、加工にかかる負荷(回転トルク)が上昇する。複数の加工部材の重なりを設けるか否か、また重なりをどの程度にするかは、求められる被加工面の表面性状や加工工具の駆動性能などに基づいて適宜設定され得る。
【0042】
1つの実施形態において、複数の加工部材は、部材取付面において螺旋状に配置されている。典型的には、複数の加工部材は、工具本体の部材取付面において、軸線方向に対して傾斜した線にほぼ沿って、工具本体の軸線方向の基端側から先端側にわたって並ぶように配置され得る。この場合、工具本体の外周面に設けられた加工部材の刃面で生成された加工屑は、加工工具の回転により、工具本体の外周面をその軸線方向に対して傾斜した線に沿って並ぶ複数の加工部材によって工具本体の外周面の一方の縁側に掃き寄せられることとなる。これにより加工工具の工具本体の外周面からの加工屑の掃き出しをスムーズに行うことができる。
【0043】
なお、上記の軸線方向に対して傾斜した線の傾斜角、すなわち、
図6(b)の展開図において傾斜した線Ltと工具本体の軸線方向(Y1方向)とがなす角度は、約20°~約70°であり、好ましくは、約30°~約60°であり、より好ましくは約45°である。
【0044】
角度を小さくすると、配置される加工部材の数が増えることにより、加工効率および被加工面の平滑性を向上させることができる反面、加工における負荷(回転トルク)は増加させることとなる。角度は、求められる加工効率、加工工具の有する仕様などに基づいて適宜設定され得る。
【0045】
本明細書において、複数の加工部材は複数のグループに分れていてもよい。ここで、「複数のグループ」は、上記の傾斜した線上に配置される一群の複数の加工部材を含む。好ましい実施形態において、複数のグループは第1のグループと第2のグループとを含み、ここで、第1のグループと第2のグループに含まれる加工部材同士が千鳥状に配置されている。すなわち、それぞれのグループに含まれる加工部材同士が、工具本体の軸線方向において異なる位置に配置されている。ここで、本明細書において、各グループそれぞれの加工部材同士が「工具本体の軸線方向において異なる位置」に配置されているとは、加工部材の中心軸同士が、工具本体の軸線方向において一致しないことをいう。すなわち、
図6(b)において、第1のグループG1と第2のグループG2とでは、各グループに含まれる加工部材同士の中心軸は、工具本体の軸線方向(Y1方向)において一致していない。
【0046】
上記のように、第1のグループと第2のグループに含まれる加工部材同士を千鳥状に配置することによって、個々のグループでの切削作用が弱い領域を補完することができる。
【0047】
好ましい実施形態において、第1のグループ(
図6(b)におけるG1)と、加工部材同士の中心軸が工具本体の軸線方向において一致するように配置された加工部材を含むグループ(
図6(b)におけるG1’、G1’’)がさらに存在し得る。G1、G1’、G1’’は、その間に同様に加工部材同士の中心軸が工具本体の軸線方向において一致するように配置された加工部材を含むG2、G2’、G2’’を介して交互に配列されていてもよい。このように配列することによって、被加工物の加工面をより均一にすることができる。
【0048】
別の実施形態において、
図11に示すように、工具本体は円板形状に円錐台形状を小径側が下側を向くように結合することにより得られる複合形状を有し、部材取付面は円錐台部分の外周面(底面)であり得る。好ましくは、複数の加工部材は底面の部材取付面にだけ配置されているのではなく、複数の加工部材の一部は、複合形状の円板形状部分の外周面(以下、単に外周面という。)に配置され得る。このようにすることによって、加工部材の側面においても加工が可能になる。
【0049】
(被加工物)
本発明の加工工具により加工される被加工物の材質は特に限定されるものではないが、例えば、コンクリート、モルタル、アスファルト、レンガ、セメント、石材およびそれらの複合材料からなる群から選択された材料を含むものでもよい。さらに、本発明の加工工具により加工される被加工物は、加工工具により加工可能なものであれば、これらの材質以外の材質のものでもよく、例えば、上記のような硬い材質の他に軟らかい材質を含むものでもよい。軟らかい材質を含む被加工物としては、例えば、硬い材質で構成された本体部分と、本体部分の表面に固着されている軟らかい材質で構成された表層とを含むものが一例として挙げられる。軟らかい材質も特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタンやポリエチレンテレフタレートなどの樹脂、不織布、天然皮革、合成皮革、木材、紙、炭素繊維、ガラス繊維からなる群から選択されたものでもよい。
【0050】
好ましい実施形態においては、加工工具は、本体部分がコンクリート、石材などからなる床面や壁面の表層に設けられたウレタンなどの塗膜やタイル、モルタルなどの加工(除去・剥離)に用いられる。
【0051】
(具体的な実施形態)
以下の実施形態の説明では、実施形態1の加工工具として、工具本体が円筒形状を有し、加工部材が円錐台形状を有し、複数の加工部材は、工具本体の外周面に取り付けられた複数の加工部材を含み、複数の加工部材は、奇数個(例えば、5個)の加工部材からなる第1のグループと、偶数個(例えば、4個)の加工部材からなる第2のグループとにグループ分けされているものを挙げる。
【0052】
また、実施形態2の加工部材として、工具本体が複合形状(円板形状に円錐台形状を結合することにより得られる形状)を有し、加工部材が円錐台形状を有し、複数の加工部材は、工具本体の底面(円錐台形状部分の外周面)に取り付けられた複数の加工部材(底面側加工部材)と、工具本体の外周面(円板形状部分の外周面)に取り付けられた複数の加工部材(外周側加工部材)とを含み、複数の底面側加工部材が、工具本体の半径方向を横切ってその底面の外周から中心へ向かって並ぶ一定数(例えば、3個)の底面側加工部材毎にグループに分かれているものを挙げる。
【0053】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0054】
(実施形態1)
図1および
図2はそれぞれ、本発明の実施形態1による加工工具100の外観を示す斜視図および平面図であり、
図2(a)~
図2(f)はそれぞれ、
図1のA方向~F方向から見た加工工具100の構造を示す。
【0055】
この加工工具100は、被加工物Wpの表面を切削により剥離する加工工具である。この加工工具100は、回転体形状としての円筒形状を有する工具本体110と、円錐台形状を有する複数の加工部材10とを備えている。複数の加工部材10は、それぞれの外周面が被加工物Wpを切削する刃面11aとなるように工具本体110に取り付けられている。工具本体110への加工部材10の取付には六角ボルト20が用いられている。
【0056】
1つの実施形態においては、複数の加工部材のそれぞれにおいて刃面11aが工具本体110から突出しており、加工部材10の突出する高さは、工具本体110の回転方向R1の前方側(Rf側)でその後方側(Rb側)に比べて高くなっている。ここで、刃面11aが工具本体110の回転方向R1の前方側Rfで工具本体110の部材取付面Sから突出する高さは、約1mm~約10mm、好ましくは約2mm~約8mm、さらに好ましくは約3mm~約5mmである。1つの具体的な実施形態において、刃面11aが工具本体110の回転方向R1の前方側Rfで工具本体110の部材取付面Sから突出する高さは約3mm~約5mmとし、刃面11aが工具本体110の回転方向R1の後方側Rbで工具本体110の部材取付面Sから突出する高さは約0mmとしている。
【0057】
本発明の実施形態において、加工部材10を工具本体110へ固定する機構(固定機構)として、六角ボルト20が用いられているが、固定機構は任意の手段であり得る。ここで、固定機構は、ネジ、接着剤、接着テープ、嵌合、溶着、電着など、当該分野で任意のものであり得る。
【0058】
ここで、工具本体110は、回転体形状として円筒形状を有し、外周部110aと底面部110bとで構成されており、工具本体110の部材取付面である外周部110aの表面(以下、外周面ともいう。)Sには加工部材10が取り付けられている。底面部110bの中央部は肉厚部111となっており、肉厚部111には、電動工具の駆動シャフト(図示せず)が挿入される取付穴111aが形成されている。この加工工具100は、電動工具によってR1方向に回転させることで被加工物Wpの加工を行うものである。
【0059】
図3は、
図1に示す加工工具100の1つの加工部材10を取り外した状態を示す斜視図であり、
図4は、
図1に示す加工工具100を構成する工具本体110(
図4(a))、加工部材10(
図4(b))、および固定ボルト20(
図4(c))を示す斜視図である。
【0060】
加工工具100は、
図3に示すように、複数の加工部材10を六角ボルト20により工具本体110に取り付けた構造となっている。従って、加工工具100は、
図4に示すように工具本体110と、複数の加工部材10と、複数の六角ボルト20とで構成されている。
【0061】
ここで、工具本体110の外周部110aの表面(外周面)Sには、
図4(a)に示すように、加工部材10を収容する収容凹部112が形成されており、収容凹部112の形状は、任意の形状であり得、好ましくは、加工部材10の形状に基づいた形状である。収容凹部112の底面には、六角ボルト20をねじ込むための固定ねじ穴113が形成されている。加工部材10は、
図4(b)に示すように、その内部を六角ボルト20が貫通するように筒形形状を有する。六角ボルト20は、
図4(c)に示すように、逆円錐台形状のボルト頭部22と、ボルト頭部22から延びる雄ねじ部21とを有し、ボルト頭部22には、六角レンチ(図示せず)を嵌め込むための六角穴22aが形成されている。
【0062】
以下、加工工具100を構成する工具本体110および加工部材10を詳しく説明する。
【0063】
〔工具本体110〕
図5は、
図4(a)の工具本体110の外観を示す平面図であり、
図5(a)~
図5(f)はそれぞれ、
図4(a)のA方向~F方向から見た工具本体110の構造を示す。
【0064】
工具本体110の外周面(外周部110aの表面)Sには、
図4(a)および
図5(a)~
図5(f)に示すように、円錐台形状の加工部材10を収容する複数の収容凹部112が形成され、それぞれの収容凹部112の中央には、六角ボルト20のボルトねじ部21をねじ込むための固定ねじ穴113が形成されている。
【0065】
図6は、
図4(a)の工具本体110の外周面Sに形成されている収容凹部112の配置を説明するための図であり、
図6(a)は、工具本体110の外周面Sでの複数の収容凹部112の位置関係を示し、
図6(b)は、
図6(a)の複数の収容凹部112および複数の収容凹部112に取り付けられた加工部材10の配置の展開図である。なお、
図6(b)では、説明の都合上、
図6(a)に示されている固定ねじ穴113は省略している。
図6(b)における「0」~「48」の数字は、円筒形状の工具本体110の外周面Sを周方向に48等分したときの外周面Sの基準位置P0からの距離をその数値で示している。例えば、数字「24」が示す位置は、工具本体110の中心軸C0の周りの角度で基準位置P0から180°(=(360°/48)×24)だけ離れた位置である。
【0066】
複数の収容凹部112は、
図6(a)に示すように、工具本体110の外周面Sに設定される9個の仮想円周L1~L9のいずれかの仮想円周上に配置されている。仮想円周L1~L9はそれぞれ、工具本体110が有する円筒形状の半径と一致した半径を有する円であり、工具本体110の中心軸C0の軸線方向に一定の間隔D2で配置されている。なお、ここでは、工具本体110の中心軸C0の軸線方向の両端に位置する仮想円周L1およびL9と、工具本体110の両端縁との間隔D1は、隣接する仮想円周の間隔D2より広くなっている。例えば、工具本体110の円筒形状の直径Dmが約50mm~約100mm、この円筒形状の幅Wが約30mm~約70mmである場合、間隔D1は約3mm~約10mm、間隔D2は約3mm~約10mであり、好ましくは、直径Dmが約80mm、この円筒形状の幅Wが約52mmである場合、間隔D1は約6mm、間隔D2は約5mmである。ただし、円筒形状の直径Dm、幅W、間隔D1およびD2は、これらの値に限定されるものではない。
【0067】
工具本体110の各仮想円周L1~L9上では、3つの収容凹部112が120°の間隔で配置されている。工具本体110の外周面の一方の縁Ed1側から数えて奇数番目の仮想円周L1、L3、L5、L7、L9での複数の収容凹部112の配列は、工具本体110の底面部110b(外周面の他の縁Ed2)に近づくに連れて、各仮想ライン上での収容凹部112の配列の位相が約15°づつ、使用時の工具本体110の回転方向R1に進んだ配列となっている。工具本体110の外周面の一方の縁側から数えて偶数番目の仮想円周L2、L4、L6、L8においても、奇数番目の仮想円周と同様、工具本体110の底面部110bに近づくに連れて、各仮想ライン上での収容凹部112の配列の位相が15°づつ、工具本体110の回転方向R1に進んでいる。ただし、隣接する仮想円周上に配置されている収容凹部112の位相ずれ量や位相ずれの方向は限定されるものではなく、加工工具100の加工対象である被加工物Wpに合わせて適宜設定可能である。
【0068】
さらに、複数の収容凹部112の各々は、工具本体110の外周面S上での中心軸周りの位置が他の収容凹部112とは異なるように配置され、さらに、複数の収容凹部112のうち隣接する収容凹部112は、部材取付面S上での工具本体110の回転方向R1において互いに重ならない位置に配置されている。従って、複数の収容凹部112に収容された複数の加工部材10の各々は、工具本体110の外周面上での中心軸周りの位置が他の加工部材とは異なるように配置され、さらに、隣接する加工部材10は、部材取付面S上での工具本体110の回転方向R1において互いに重ならない位置に配置されることとなる。ただし、複数の収容凹部112には、工具本体110の外周面S上での中心軸周りの位置が重なるものが含まれていてもよい。
【0069】
また、複数の収容凹部112は、3つの第1のグループG1と3つの第2のグループG2とに分れており、これらのグループの各々に含まれる複数の収容凹部112は、工具本体の外周面の展開図(
図6(b))において外周面Sの幅方向Y1に対して傾斜した各グループに対応する傾斜直線Ltに沿って、外周面Sの一方の縁Ed1側から他方の縁Ed2側に跨って並ぶように工具本体110の外周面Sに配置されている。
【0070】
ここで、展開図における幅方向Y1に対する傾斜直線Ltの傾斜角は、約20°~約70°であり、好ましくは約30°~約60°であり、より好ましくは約45°である。
【0071】
具体的には、工具本体110の中心軸回りの方向R1において連続して並ぶ複数の収容凹部112であって、それぞれ奇数番目の仮想ラインL1、L3、L5、L7、L9と傾斜直線との交点に位置する5つの収容凹部112は、収容凹部112の第1のグループG1を構成している。工具本体110の中心軸回りの方向R1において連続して並ぶ複数の収容凹部112であって、それぞれ偶数番目の仮想ラインL2、L4、L6、L8と傾斜直線との交点上に位置する4つの収容凹部112は、収容凹部112の第2のグループG2を構成している。
【0072】
なお、この実施形態1では、複数の収容凹部112は、3つの第1のグループG1と3つの第2のグループG2とにグループ分けされている場合を示しているが、第1、第2のグループG1、G2はそれぞれ、1つでも2つでも、あるいは4つ以上でもよし、複数の収容凹部112は、グループ分けされていなくてもよい。
【0073】
さらに、この実施形態1では、3つの第1のグループG1と3つの第2のグループG2とは、工具本体110の外周方向X1において交互に配置される。ただし、複数の第1のグループG1と複数の第2のグループG2とは、工具本体110の中心軸回りの方向(工具本体の回転方向)R1において交互に配置されていなくてもよい。
【0074】
従って、このようにグループ分けされた複数の収容凹部112に収容された複数の加工部材10は、複数の収容凹部112と同様に、3つの第1のグループG1の加工部材10と3つの第2のグループG2の加工部材10とにグループ分けされ、加工部材10の3つの第1のグループG1と加工部材10の3つの第2のグループG2とは、工具本体110中心軸回りの方向R1において交互に配置される。さらに、これらの3つの第1のグループG1と3つの第2のグループG2の加工部材10は、工具本体の外周面の展開図において外周面の幅方向に対して傾斜した各グループに対応する傾斜直線Ltに沿って、外周面Sの一方の縁Ed1側から他方の縁Ed2側に跨って並ぶように工具本体110の外周面Sに配置される。このように、複数のグループの各々の加工部材は、部材取付面において螺旋状に配列され、複数のグループのうちの隣接するグループに含まれる加工部材同士は、千鳥状に配列されている。
【0075】
さらに、工具本体110の外周面Sに形成されている複数の収容凹部112のうちで工具本体110の中心軸周りの方向R1において隣接し、かつ、工具本体110の外周面Sの両端に位置する一対の収容凹部112(例えば、
図6(b)に右上がりのハッチングを付けて示す1組の収容凹部112b1および112a5、
図6(b)に左上がりのハッチングを付けて示す1組の収容凹部112a1および収容凹部112b4など)は、工具本体110の外周面上でその中心軸周りの方向R1において一部重なるように、具体的には回転角で約7.5°だけ重なるように配置されている。
【0076】
ここでは、各グループG1、G2内では、工具本体110の中心軸周りの方向R1において隣接する2つの収容凹部112の間隔を回転角で約15°とすることにより、隣接する収容凹部112間に工具本体110の中心軸周りの方向R1における隙間ができないように複数の収容凹部112を配置している。従って、工具本体110の両端に位置する一対の収容凹部112b1および112a5(
図6(b)で右上がりのハッチングを付けたもの)、あるいは一対の収容凹部112a1および112b4(
図6(b)で左上がりのハッチングを付けたもの)を工具本体の中心軸周りの方向R1において、回転角で約7.5°だけ重なるように配置した場合、これらの1組の収容凹部112が工具本体の中心軸周りの方向R1における収容凹部112の幅の約半分(約50%)だけ重なることとなる。
【0077】
ただし、工具本体110の外周面Sの両端に位置する少なくとも1組の収容凹部112が工具本体の中心軸周りの方向において重なる重なり幅は、工具本体の中心軸周りの方向における収容凹部112の幅の約50%に限定されない。例えば、被加工物Wpの材質にもよるが、工具本体110の外周面Sの両端に位置する少なくとも1組の収容凹部112が工具本体の中心軸周りの方向において重なる重なり幅は、収容凹部112の幅の約20%~約80%の幅であればよく、好ましくは、収容凹部112の幅の約30%~約70%の幅であればよい。重なり幅は、大きくなると振動が抑制される反面、加工部材にかかる負荷(回転トルク)が大きくなることから、求められる振動や負荷に基づいて所望の重なり幅に設定し得る。
【0078】
従って、複数の収容凹部112に収容された複数の加工部材10では、工具本体110の外周面Sでの配置は、複数の収容凹部112の配置と同じ配置となり、例えば、工具本体110の外周面Sの両端に位置する少なくとも1組の加工部材は、工具本体110の外周面S上でその中心軸周りの方向R1において互いに加工部材10の幅の約半分だけ重なるように配置される。
【0079】
〔加工部材10〕
図7は、
図4(b)の加工部材10の説明図であり、
図7(a)は、
図4(b)のA1方向から見た加工部材10の構造を示し、
図7(b)は、
図7(a)のVIIb-VIIb線断面を示す。
【0080】
加工部材10は、円錐台形状を有する筒状体11で構成されており、筒状体11の直径の大きい方の端面には、固定ボルト20を挿入するためのボルト挿入口11bが形成されており、筒状体11の内面には、固定ボルト20の円錐台形状のボルト頭部22の側面に当接する頭部当接面11cが形成されている。
【0081】
1つの実施形態においては、加工部材10を構成する円錐台形状の筒状体11の外周面は、
図7(b)に示すように、加工部材10の中心軸C10に対して約7°で傾斜している。ただし、加工部材10の中心軸C10に対する外周面の傾斜角度は約7°に限定されるものではない。好ましくは約2°~約15°、さらに好ましくは約5°~約10°の範囲で適宜設定され得る。例えば、傾斜角度を小さくすると、加工部材が被加工物への食い込み(切り込み)が小さくなるため、加工における負荷(回転トルク)を抑制でき、加工工具の被加工面における移動をスムーズに行うことができ、被加工面の表面性状(表面粗さ)も細かくできる。ただし、傾斜角度をあまり小さくすると、被加工物への加工部材の食い込み(切り込み)が小さくなることで、加工効率が損なわれる。逆に傾斜角度を大きくすると加工部材が被加工物への食い込み(切り込み)が大きくなるため、加工効率は向上するが、加工における負荷(回転トルク)が大きくなり、加工工具の被加工面における移動の円滑性が損なわれ、被加工面の表面粗さは粗くなる。従って、傾斜角度は求められる加工条件(被加工面の表面性状、加工効率など)に基づいて適宜設定され得る。
【0082】
そして、複数の加工部材10を工具本体110の複数の収容凹部112に固定ボルト20により固定することにより加工工具100が組み立てられる。
【0083】
図8は、組み立てられた加工工具100の断面図であり、
図8(a)および
図8(b)はそれぞれ、
図2(f)のVIIIa-VIIIa線断面およびVIIIb-VIIIb線断面を示す。
【0084】
この加工工具100では、
図8(b)に示すように、複数の加工部材10は、筒状体11の直径の小さい方の端面が収容凹部112の底面に対向し、かつ、工具本体110の外周面S上での加工部材10の位置P10に立てた法線N10に対して工具本体110の中心軸C10が一定角度A10だけオフセットするように工具本体110に取り付けられる。ここで、オフセット角度A10は、約1°~約30°であり、好ましくは約3°~約20°であり、より好ましくは約5°~約15°である。
【0085】
これにより、加工部材10は、
図8(a)および
図8(b)に示すように、筒状体11の直径の大きい方の端部側の外周面のうちの回転方向R1の前方側を向いた面が、被加工物Wpに対する加工を施す刃面11aとなる。
【0086】
この場合、複数の加工部材10のそれぞれにおいて刃面11aが工具本体110から突出する高さは、複数の加工部材10の回転方向の前方側で複数の加工部材10の回転方向の後方側に比べて高くなっている。
【0087】
1つの実施形態においては、加工部材10のオフセット角度が約10°~約15°となり、工具本体110の回転方向R1の前方側での刃面11aの最大突出高さが約3mm~約5mmとなり、工具本体110の回転方向R1の後方側での刃面11aの最低突出高さが約0mmとなるように、加工部材10が工具本体110に取り付けられている。
【0088】
次にこの加工工具100の使用方法を説明する。
【0089】
図9は、
図1の加工工具100が装着された動力工具1を示す斜視図である。
【0090】
図9に示すように、動力工具1の駆動部1aの駆動シャフト(図示せず)に加工工具100を取り付け、加工工具100を回転させる。このとき、加工工具100は、加工部材10の外周面のうちの工具本体110の外周面から突出する部分(
図1参照)が刃面11aとして被加工物Wpの表面に当たる方向R1に回転させる。このときの回転速度は、望ましくは、一般的な携帯型切削工具や研削工具と同様の約1000rpm~約15000rpmであり、好ましくは約3000rpm~約12000rpmであり、より好ましくは約8000rpm~約12000rpmの回転速度である。例えば、実施形態1における回転速度は、一般的なディスクグラインダーと同程度の約10000rpmである。但し、回転速度はこれに限定されるものではない。ここで、動力工具1は、電動工具などのモータの駆動力で駆動されるものでもよいし、圧縮空気などの圧縮された流体で駆動されるものでもよい。また、動力工具は、携帯型のものに限定されず、重機のアームの先端に取り付けられたものでも、あるいは旋盤やマシニングセンタなどの据置型装置の駆動軸に取り付けられるものでもよい。
【0091】
なお、図中、1bは、動力工具1の動力部に取り付けられたカバー部材であり、加工部材10の回転により被加工物Wpの加工屑が周囲に飛び散るのを防止することが可能である。また、カバー部材1bに取り付けられた取っ手1b1によって使用者が加工工具100を被加工物Wpに押え付けやすくするものである。さらに、カバー部材1bには、加工屑を吸引するための吸引ホース(図示せず)が取り付けられている。
【0092】
このように加工工具100を回転させた状態で、加工工具100の外周面に取り付けられている加工部材10の先端が被加工物Wpに接触するように加工部材10の外周面を被加工物Wpの表面に押し付けると、工具本体110の外周部110aに取り付けられている複数の加工部材10の刃面11aが被加工物Wpを加工することとなり、被加工物Wpの表面が削り取られることとなる。
【0093】
図9Aは、加工部材10による被加工物Wpの加工状態を説明するための図であり、
図9A(a)~
図9A(c)は、中心軸をオフセットさせた加工部材10により被加工物Wpが加工される様子を示し、
図9A(d)~
図9A(f)は、中心軸がオフセットさせていない加工部材10により被加工物Wpが加工される様子を示す。なお、
図9Aでは、説明の都合上、工具本体110に取り付けられている複数の加工部材10(
図8(b)参照)のうちの1つのみ示し、また固定ボルト20は省略している。
【0094】
このような構成の実施形態1の加工工具100では、円筒形状の加工部材10の刃面11aは、加工部材10が円錐台形状を有し、その刃面11aがその外周面であるため、加工時において、まず刃面11aの回転方向における頂部Tが被加工物Wpに当接し、その後被加工物と当接する部分が頂部Tの両側に広がっていくので、加工部材10に負荷(回転トルク)が急激にかかることが抑制される。さらに、被加工物Wpのうちの刃面11aに当接する部分が加工部材10の刃面11aの頂部Tからその両側に広がっていく際に、加工部材10の刃面11aとなっている外周面が研がれる状態となる。したがって、常に刃面11aが鋭利な状態が維持されるため、加工効率を維持することが可能となる。
【0095】
また、加工部材10にかかる負荷(回転トルク)が急激にかかることがないため、加工部材10を駆動する駆動源の小型化を図ることが可能となる。なお、
図9に示す実施形態においては、加工部材10は円錐台形状を用いた場合について説示したが、加工部材が円筒形状であった場合においても、円錐台形状の場合に比べて若干劣るが上述した同様の効果を得ることができる。
【0096】
さらに、加工部材10は、
図8(b)に示すように、加工部材10の中心軸C10が工具本体110の中心軸C0からずれるようにオフセットして配置されている。
【0097】
このようにすることで、円錐台形状の加工部材10をそのまま用いて、複数の加工部材10のそれぞれにおいて外周面が工具本体110から突出する高さを、工具本体110の回転方向の前方側Rfでその後方側Rbに比べて高くすることができる。
【0098】
このように、加工部材10の外周面の突出高さが工具本体110の回転方向の前方側Rfでその後方側Rbに比べて高くした場合(
図9A(a)~(c)参照)、加工部材10の外周面の突出高さが回転方向の前方側Rfとその後方側Rbで同じでる場合(
図9A(d)~(f)参照)とは異なり、加工部材10の回転方向前方側Rfの外周面が刃面11aとして被加工物Wpの表面を切り込んだときに、刃面として寄与しない加工部材10の回転方向後方側Rbの円形先端面Rbtが被加工物Wpの加工溝Dcの底面Dc1に接触することが防止できる。その結果、周期的に発生する負荷(回転トルク)の増加が防止され、加工工具100の回転面に沿って前後に加工工具100をスムーズに往復移動させながら加工を行うことが可能となる。
【0099】
図3および
図8に示すように、加工部材10の回転方向後端側の外周面を収容凹部112の内周面に実質的に当接させることにより、加工部材10の刃先11aに回転方向R1の大きな負荷がかかった場合でも、収容凹部112の内周面で負荷を受けることができるため、加工部材10の工具本体10からの脱落や破損などを防止することが可能となる。
【0100】
また、1つの実施形態においては、
図7に示すように、加工部材10の外形は円錐台形状であり、しかも、加工部材10の先端側(被加工物側)ほど直径が大きくなっている。その結果、加工部材10の外周面である刃面11aの先端が被加工物Wpに入り込んだ部位から被加工物Wpを両側に切り裂くが効果的に働く。なぜなら、加工部材10の刃面11aは加工部材10の円錐台形状の側面のうちの先端側ほど広がっているため、加工部材10の刃面11aの先端は90°より尖っており、工具本体110の回転により加工部材10の外周面が加工部材10の刃面11aとして被加工物Wpに入り込むと、さらに、加工部材10の外周面の縁が、90°より尖った鋭利な刃先となって、小さい力で被加工物Wpの表面を効果的に切り裂くこととなる。さらに、加工部材10がオフセットして配置されている場合、オフセットしない場合に比べて、工具本体110から突出して刃面として機能する外周面の領域を大きくすることができるため、さらに上記効果の向上を図ることが可能となる。
【0101】
また、加工部材10の刃面11aの部分では、加工部材10の円錐台形状の側面のうちの先端側(被加工物Wp側)ほど基端側(工具本体110の中心軸C0側)に比べて広がっていることから、加工部材10が被加工物Wpの被加工面(剥離面)から退避する際に、その刃面11aには加工屑を退避する方向に向けて被加工面から持ち上げる力が働くため、加工屑を被加工面から外部へ排出するのを効率的に行うことが可能となる。
【0102】
また、刃面が回転体形状の外周面である場合、加工部材10を回転させて実際に加工に寄与する刃面11aとして働く外周面の位置を移動させることにより、加工部材10の外周面を全体的に刃面として使用することが可能である。その結果、加工部材10の外周面を刃面として無駄なく使用することが可能となる。
【0103】
また、複数の加工部材10が工具本体110の外周面上に間隔を空けて配置されているので、削り取られた加工屑が隣接する加工部材10の間に溜まって目詰まりを起こすことを防止できる。そして、複数の加工部材10の各々は、工具本体110の中心軸周りの方向において他の加工部材とは異なる位置に位置するように配置されているので、加工工具100を回転させたときに複数の加工部材10のうちで、ある所定期間において加工時に被加工物Wpに作用する加工部材10の数などを少なくすることにより、加工工具100にかかる負荷(回転トルク)を小さく抑えることができる。それにより、電動工具のモータへの過負荷がかかるのを防止、またモータを小型化することができる。
【0104】
また、工具本体110の中心軸周りの方向(回転方向)R1において隣接する加工部材10であって、工具本体の中心軸C0の軸線方向における両端に位置する1組の端部加工部材(
図6(b)の右上がりのハッチングで示した収容凹部112b1および112a5に収容される加工部材10b1および10a5、
図6(b)の左上がりのハッチングで示した収容凹部112b4および112a1に収容される加工部材10b4および10a1など)は、工具本体110の中心軸周りの方向R1において互いに一部が重なるように配置されているので、工具本体を回転させたときに工具本体の回転軸C0が被加工物Wpの表面に対してふらつくのを抑制でき、振動や騒音の発生を低減できる。
【0105】
さらに、この実施形態1の加工工具100で被加工物Wpの表面を加工した場合、加工部材10の刃面は外周面であるため、被加工物Wpの加工部材10の刃面11aにより加工されて剥離された面は、全体的にみて微細な凹凸が形成された状態となる。さらに、被加工物Wpに作用する加工部材10の数を少なくした場合、被加工物Wpの加工部材10の刃面11aにより加工されて剥離された被加工面は、さらに微細な凹凸が形成される状態となる。
【0106】
このように、被加工物Wpの剥離された被加工面が微細な凹凸を有していることにより、被加工面の上に塗料材料などを塗装する際の密着強度が高められる効果が得られる。
【0107】
なお、上記実施形態1では、加工工具100として、円筒形状の工具本体110の外周面に複数の加工部材10を取り付けたものを示したが、加工工具100はこれに限定されるものではなく、例えば、工具本体は任意の回転体形状であれば円形の板状形状でもよく、例えば、円板形状に円錐台形状を結合して得られる複合形状であってもよく、その場合、複数の加工部材は、円錐台形状部分の外周面(工具本体の底面)に取り付けてもよい。
【0108】
(実施形態2)
以下、実施形態2の加工工具として、円板形状の工具本体を用いた加工工具を説明する。
【0109】
図10は、本発明の実施形態2による加工工具200を説明するための斜視図であり、加工工具200が装着された動力工具2を示す。
図11は、
図10に示す加工工具200の具体的な構造を説明するための図であり、
図11(a)および
図11(b)はそれぞれ、
図10のA2方向およびB2方向から見た加工工具200の構造を示す。
【0110】
この実施形態2の動力工具2は、
図1に示す加工工具100とは構造が異なる加工工具200を用いたものであり、この動力工具2の駆動部2aには加工工具200が取り付けられている。ここで、加工工具200は、回転体形状として複合形状を有する工具本体210の底面および外周面に複数の加工部材を取り付けたものである。
【0111】
ここで、工具本体210は、複合形状を構成する円板形状の部分210bと、複合形状を構成する、円板形状に結合された円錐台形状の部分210aとを含み、複合形状の工具本体210の底面(円錐台形状部分210aの外周面)および外周面(円板形状部分210bの外周面)に複数の加工部材を取り付けたものである。従って、加工工具200では、複合形状の工具本体210の底面および外周面が加工部材10を取り付けるための部材取付面となっている。従って、工具本体210の底面側部材取付面は円錐台形状をしており、従って、底面側部材取付面は、外周から中心に向かって工具本体210の中心軸C0aの軸線方向の先端側に突出した構造となっている。
【0112】
このように工具本体210の底面側部材取付面を円錐台形状としているのは、底面側部材取付面に取り付けられている複数の加工部材10a’のうちの一部の加工部材10a’のみが被加工物Wpに接するように底面側部材取付面を傾斜させることを可能とするためである。
【0113】
なお、図中、10b’は、工具本体210の外周面に取り付けられた加工部材(外周側加工部材)を示し、2bは、動力工具2の動力部に取り付けられたカバー部材を示す。カバー部材2bは、加工部材10による被加工物Wpの切削により加工屑が飛び散るのを防止するとともに、カバー部材2bに取り付けられた取っ手2b1によって加工工具200を被加工物Wpに押え付けやすくするものである。
【0114】
さらに、カバー部材2bは、カバー部材2bの姿勢により、加工工具200の姿勢が維持されるような構造となっていてもよい。例えば、カバー部材2bは、その下端面が被加工物Wpの表面に当接したとき、駆動部2aの駆動シャフト(図示せず)に取り付けた加工工具200の底面側部材取付面の稜線が被加工物Wpの表面に接する加工工具200の姿勢が維持されるように駆動部2aに取り付け器具2b2により固定されている。
【0115】
このように実施形態2の加工工具200は、複合形状の工具本体210と、工具本体210の底面210aに取り付けられた複数の加工部材(底面側加工部材)10a’と、工具本体210の外周面210bに取り付けられた複数の加工部材(外周側加工部材)10b’と、加工部材10a’および10b’を工具本体110に固定する固定ボルト20とを有している。ここで、底面側加工部材10a’および外周側加工部材10b’は、実施形態1の加工部材10と同一の構成を有し、固定ボルト20は実施形態1の加工工具100におけるものと同一のものである。なお、この実施形態2の加工工具200は、必ずしも、底面側加工部材10a’と外周側加工部材10b’との両方を有する必要はなく、底面側加工部材10a’を有するものであればよい。
【0116】
工具本体210の中央には円形凹部が形成され、この円形凹部は、電動工具の駆動シャフト(図示せず)を取り付ける取付部211となっている。取付部211の中央には、駆動シャフト(図示せず)を挿入するための取付穴211aが形成され、取付穴211aに挿入された駆動シャフトに装着されたナット部材が取付部211としての円形凹部に収容されるようになっている。
【0117】
なお、
図11では図示していないが、工具本体210の底面部および外周部にはそれぞれ、底面側加工部材10a’および外周側加工部材10b’を収容する収容凹部が形成され、さらに、収容凹部の底面には、固定ボルト20をねじ込むための固定ねじ穴が形成されていることは言うまでもない。
【0118】
そして、この実施形態2の加工工具200では、
図11(a)に示すように、工具本体210の底面に複数の底面側加工部材10a’が取り付けられている。工具本体210の底面に取り付けられた複数の底面側加工部材10a’は、
図11(b)に示すように、それぞれの中心軸C10が、工具本体210の中心軸C0aに斜めに交差する傾斜直線C0bに平行となるように工具本体210の底面に取り付けられている。工具本体210の中心軸C0aに斜めに交差する傾斜直線C0bの傾斜角度(つまり、オフセット角度)は約1°~約30°である。オフセット角度は、任意であり得るが、被加工部材の硬度や粘性の度合いによって所定の角度に適宜設定され得る。
【0119】
具体的な実施形態として、コンクリート上に塗装された膜厚約3mm~約5mmのウレタン塗装面を加工する場合、円錐台形状の加工部材を用い、高さ約4mm~約5mm、最大直径約9mm~約11mm、オフセット角度を約10°~約15°とする。
【0120】
1つの実施形態においては、実施形態1の加工工具100と同様に、実施形態2の加工工具200においても、底面側加工部材10a’のオフセット角度は約15°としている。この場合、工具本体210の回転方向R2の前方側での刃面11aの最大突出高さが約3mmとなり、工具本体210の回転方向R2の後方側での刃面11aの最低突出高さが約0mmとなっている。
【0121】
ただし、複数の底面側加工部材10a’は、その中心軸C10が工具本体210の中心軸C0aに平行になるように、つまり、オフセットなしで配置されていてもよい。
【0122】
図12は、
図11(b)に示す加工工具200の工具本体210における収容凹部212aおよび212bの配置を説明するための図である。
【0123】
加工工具200の工具本体210の底面には、
図12(a)に示すように、底面側加工部材10a’を収容する複数の収容凹部(底面側収容凹部)212aが、工具本体210の底面上に設定される6個の仮想円周La1~La6に沿って配置されている。
【0124】
工具本体210の中心側から数えて奇数番目の仮想円周La1、La3、La5上に位置する底面側収容凹部212aのうちの隣接する3つの収容凹部212aは、第1のグループG1aを形成し、工具本体210の中心側から数えて偶数番目の仮想円周La2、La4、La6上に位置する収容凹部112aのうちの隣接する3つの収容凹部212aは、第2のグループG2aを形成している。言い換えると、円板形状の工具本体210の円周方向に隣接する2つのグループの間では、円板形状の中心C0aから複数の底面側収容凹部212aの各々までの距離が異なる。従って、第1のグループG1aの底面側収容凹部212aに収容された加工部材は第1のグループG1aの底面側加工部材10a’(10a1’、10a2’、10a3’)を形成し、第2のグループG2aの底面側収容凹部212aに収容された加工部材は第2のグループG2aの底面側加工部材10a’’(10a1’’、10a2’’、10a3’’)を形成する。
【0125】
ここでは、2つの第1のグループG1aと2つの第2のグループG2aとは、工具本体210の外周方向R2に沿って交互に配置されている。また、各グループ内では、底面側収容凹部212aは、工具本体210の中心軸C0aの周りに約22.5°の間隔で配置されており、隣接するグループ間で隣接する底面側収容凹部212aは、工具本体210の中心軸周りに約30°隔てて配置されている。
【0126】
ここでは、仮想円周La1、La3、La5の半径は、円形凹部211の半径(約17mm)より約10mm、約15mm、約20mmだけ大きく、仮想円周La2、La4、La6の半径(約17mm)は、円形凹部211の半径より約13mm、約18mm、約23mmだけ大きい。ただし、これらの寸法は限定されるものではく、それ以上であってもそれ以下であってもよい。
【0127】
また、工具本体210の外周面には、工具本体210の中心軸周りに約45°のピッチで8個の外周側収容凹部212bが均等な間隔で形成されている。これらの外周側収容凹部212bは、外周側収容凹部212bの位置で工具本体210の外周面210bの円周Dc2上に立てた法線N20に対して外周側収容凹部212bの中心軸C20が一定角度A20だけオフセットするように配置されている。1つの実施形態においては、底面側加工部材10a’のオフセット角度A20は約10°~約15°としている。
【0128】
ただし、工具本体210の外周面210b上での外周側加工部材10b’の配置は、オフセットしない配置でもよい。この場合、外周側加工部材210bに収容された加工部材10b’は、その中心軸は工具本体210の半径方向と一致したものとなる。
【0129】
次にこの加工工具200の使用方法を説明する。
【0130】
図12Aは、
図10の加工工具200による被加工物Wpの加工状態を説明するための図であり、
図12A(a)は、
図10のA2方向から見た動力装置の先端部の構造を示す平面図、
図12A(b)は、
図12A(a)の加工工具200を被加工物Wp側(紙面下側)から見た斜視図である。なお、
図12A(b)では、説明の都合上、工具本体210とこれに取り付けられている加工部材10a’、10b’のみを示している。
【0131】
図12A(a)に示すように、動力工具2の駆動部2aの駆動シャフト2a1に加工工具200を取り付け、加工工具200を回転させる。このとき、カバー部材2bの下端が被加工物Wpの表面に当接するようにカバー部材2bを被加工物Wpに押し付けることにより、動力工具2は、駆動シャフト2a1に取り付けられた加工工具200の底面側部材取付面の稜線が被加工物Wpの表面に平行になる姿勢に保持される。
【0132】
この状態では、加工工具200の工具本体210に取り付けられている複数の底面側加工部材10a’は、駆動シャフト2a1より動力工具2の先端側で被加工物Wpを加工することとなる。また、複数の底面側加工部材10a’は、工具本体210の回転方向R2において異なる位置に配置されているので、被加工物Wpに同時に接触する加工部材10a’は、実質的に1つの加工部材10a’か、隣接する2つの加工部材10a’となり、駆動シャフト2a1にかかる負荷(回転トルク)を小さく抑えることができる。その結果、使用者が加工作業に疲れることなく長時間にわたり効率的に加工を行うことが可能となる。
【0133】
さらに、それぞれの底面側加工部材10a’は、工具本体210の回転により被加工物Wpの表面を円弧状の軌跡を描くように加工するため、被加工物Wpの表面を加工しながら加工工具200を移動させる場合に、いずれの方向にもスムーズに加工工具200を移動させることが可能となる。
【0134】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、加工工具および加工工具を備えた動力工具の分野において、加工部材の刃面の劣化が抑制され、長時間にわたる加工効率を維持することができる加工工具および加工工具を備えた動力工具を得ることできるものとして有用である。
【符号の説明】
【0136】
1、2 電動工具
10 加工部材
11a 刃面
100、200 加工工具
110、210 工具本体