(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】マスク密着度判定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 3/26 20060101AFI20220712BHJP
A62B 27/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G01M3/26 Z
A62B27/00
(21)【出願番号】P 2018194878
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000179926
【氏名又は名称】山本光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 啓樹
(72)【発明者】
【氏名】阪本 憲一
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-210031(JP,A)
【文献】特開2018-089158(JP,A)
【文献】特開2013-075157(JP,A)
【文献】特開2014-085218(JP,A)
【文献】特開2007-212312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0166859(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00 - 3/40
A62B 18/00 - 18/10
G01N 15/00 - 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の顔面と着用したマスクとの間に挿入するマスク内圧検知部と、
前記マスク内圧検知部
をマスク外部に出し、マスクの着用場所の大気圧を数分毎に測定された
大気圧値と、
密着度の判定前のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値
との変動差による規定しきい値の設定、および
密着度の判定時のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値と、前記規定しきい値との変動差による密着度の判定を行うための回路制御部と、
前記回路制御部により判定された前記密着度を着用者に示すための表示部を備えたことを特徴とするマスク密着度判定装置。
【請求項2】
前記マスク内圧検知部は、ピエゾ抵抗型の超小型圧力センサーとし、着用者の顔面と着用したマスクとの間にフレキシブル基板を介して挿入されていることを特徴とする請求項1記載のマスク密着度判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工場、工事現場等の粉塵や有毒ガスが発生する場所において防塵マスクや防毒マスクとして使用するなど、特に装着時に密着性が要求される呼吸用マスク等において、その装着時の密着度を判定することができるマスク密着度判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマスク密着度判定装置としては、粒子の漏れの程度をリアルタイムに確認し、かつ粒子の漏れと着用者の呼吸との関係を確認できる面体(マスク)内環境測定装置が存在する(特許文献1)。
【0003】
このようなマスク内環境測定装置は、マスクの内部粒子カウンターと、マスクの外部粒子カウンターと、マスクの内圧を測定する圧力センサーと、粒子数比較算出部や出力部とを備えており、レーザー光散乱方式のパーティクルカウンターで粒子数を計測し、粒子個数濃度を判定するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のマスク内環境測定装置は、非常に複雑な構造の据置型の装置となり、形状も大きく、装置の価格も極めて高価なものとなっているという課題を有していた。
【0006】
さらに、上記従来のマスク内環境測定装置は、マスク内に挿入するサンプリングチューブもマスクの密着性に影響しやすいものとなっている。すなわち、マスク内の粒子と、マスク内部の圧力を取り出すチューブの2本をマスク内に挿入する必要があり、これ自体が密着性に支障を来たす虞れがあるという課題を有していた。
【0007】
また、上記従来のマスク内環境測定装置は、操作方法が簡易ではなく、正確な測定には熟練度が必要とされるという課題を有していた。
【0008】
そこで、この発明は、非常に簡単な部品構成であり、電池で駆動することができ、手のひらサイズの小型化が可能で、安価となり、しかも操作方法が簡易で、正確な測定にも熟練度を必要としないマスク密着度判定装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のマスク密着度判定装置は、着用者の顔面Fと着用したマスク1との間に挿入するマスク内圧検知部2を備えている。さらに、前記マスク内圧検知部2をマスク外部に出し、マスクの着用場所の大気圧を数分毎に測定された大気圧値と、密着度の判定前のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値との変動差による規定しきい値の設定、および密着度の判定時のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値と、前記規定しきい値との変動差による密着度の判定を行うための回路制御部を備えている。さらに、前記回路制御部により判定された前記密着度を着用者に示すための表示部3を備えたものとしている。
【0010】
この発明のマスク密着度判定装置において、前記マスク内圧検知部2は、ピエゾ抵抗型の超小型圧力センサーとし、着用者の顔面Fと着用したマスク1との間にフレキシブル基板Bを介して挿入されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明のマスク密着度判定装置は、以上に述べたように構成されているので、非常に簡単な部品構成となり、電池で駆動することができ、手のひらサイズの小型化が可能で、安価となり、しかも操作方法が簡易で、正確な測定にも熟練度を必要としないものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明のマスク密着度判定装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すこの発明のマスク密着度判定装置の開閉蓋を開放した状態を示す斜視図である。
【
図3】この発明のマスク密着度判定装置の使用状態を示す説明図である。
【
図4】この発明のマスク密着度判定装置による密着度の判定手順を示すフローチャートである。
【
図5】この発明のマスク密着度判定装置による規定しきい値の設定時のマスク内圧値の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明のマスク密着度判定装置を実施するための形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
この発明のマスク密着度判定装置は、
図1~3に示したように、着用者の顔面Fと、口および鼻を覆うようにして着用したマスク1との間に挿入するマスク内圧検知部2と、このマスク内圧検知部2によって測定された
大気圧値、マスク内圧値によって、着用者の呼吸の強さに応じた規定しきい値の設定、および密着度の判定を行うための回路制御部(図示せず)と、この回路制御部により判定された前記密着度を着用者に示すための表示部3を備えたものとしている。そして、この発明のマスク密着度判定装置は、回路制御部や表示部3に電気を供給するバッテリーユニット(図示せず)と、これらに電力の供給を開始・停止するための電源スイッチ4と、マスク内圧検知動作を開始するためのスタートスイッチ5を備えたものとしている。
【0018】
さらに、この発明のマスク密着度判定装置は、本体部6に開閉蓋7が備えられており、必要に応じて、本体部6には前記マスク内圧検知部2や後に述べるケーブルCの収納部8が設けられると共に、開閉蓋7の内側にマスク1の装着状態確認用の鏡9が設けられている。前記マスク内圧検知部2は、精密な電子デバイスであるので、破損や紛失を防止するため収納部8に収納しておくのが好ましい。また、マスク1の装着状態を、実際に目で確認するために鏡9を設けておくのが好ましい。
【0019】
前記マスク内圧検知部2は、本体部6とケーブルCで接続され、着用者の顔面Fと着用したマスク1との間にフレキシブル基板Bを介して挿入されている。このフレキシブル基板Bの厚みは、600μm以下にしている。また、このマスク内圧検知部2には、図示していないが、マスク1の縁部に挟持可能としたクランプが設けられている。このクランプは、マスク内圧検知部2がマスク1内部で不用意に動かないようにするためのものであり、マスク内圧値の正確な測定や着用者に不快感を与えないようにしている。
【0020】
前記マスク内圧検知部2は、ピエゾ抵抗型の数mmレベルのサイズとした超小型圧力センサーとしており、防水仕様であることが好ましい。このような超小型圧力センサーとしておくことにより、マスク1内部で邪魔になることがなく、防水仕様にすることにより、マスク1内が極めて高湿な環境になっても使用可能となる。
【0021】
さらに、前記マスク内圧検知部2は、測定した圧力値の情報を回路制御部へ送信する無線送信機能を備えたものとすることができ、前記回路制御部は、マスク内圧検知部2から送られた圧力値の情報を受信する無線受信機能を備えたものとすることができる。このように前記マスク内圧検知部2と回路制御部を無線接続することにより、マスク内圧変動差を常時測定し外部機器に送信することで、複数名の作業者のマスク密着度を一括管理できる。また、このように前記マスク内圧検知部2と回路制御部を無線接続することにより、前記ケーブルCは不要となり、前記マスク内圧検知部2が、着用者の顔面Fとマスク1との間により挿入しやすいものとなる。
【0022】
前記回路制御部は、マイコンなどの内部情報機器が装着されており、このマイコンのプログラム修正や蓄積された測定履歴データ等の取り込みができるように、パソコンやスマートフォンなどの外部情報機器に接続可能な端子(図示せず)が設けられており、本体部6に内蔵された電池などのバッテリーユニット(図示せず)から電力が供給されるようにしている。前記回路制御部とパソコンを接続することにより、着用者の呼吸によるマスク内圧変動差の記録ができる。また、マスク内圧検知部2をスマートフォンやタブレットと接続し、専用のアプリケーションによりマスク密着度判定ができる。
【0023】
この発明のマスク密着度判定装置において、前記大気圧値の測定は、マスク内圧検知部2をマスク外部に出し、マスクの着用場所の大気圧を数分毎に測定しなおすものとしている。これは、大気圧が一日において最大で約10hPa の変動差があり、1時間でも数hPa の変動があるため、マスク密着度判定時の最適な大気圧値を得るためである。
【0024】
前記規定しきい値の設定は、密着度の判定前のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値と、前記大気圧値との変動差から行うものとしている。このときのマスク内圧値は、複数回の呼吸によるマスク内圧変動差の平均値にしたり、複数回の呼吸によるマスク内圧変動差に対し、n番目に高い値にしたりすることができる。なお、着用者の呼吸はスタートスイッチ5のLED表示とブザー音などに従って一定リズムで行われるようにしている。また、着用者の呼吸に応じてリアルタイムでマスク内圧変動差を表示部3に段階的に表示することもできる。
【0025】
前記密着度の判定は、密着度の判定時のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値と、前記規定しきい値の変動差から行うものとしている。このときのマスク内圧値も、複数回の呼吸によるマスク内圧変動差の平均値にしたり、複数回の呼吸によるマスク内圧変動差に対し、n番目に高い値にしたりすることができる。なお、着用者の呼吸も前記規定しきい値の設定時と同じく、スタートスイッチ5のLED表示とブザー音などに従って一定リズムで行われるようにしている。また、着用者の呼吸に応じてリアルタイムでマスク内圧変動差を表示部3に段階的に表示することもできる。
【0026】
前記表示部3は、規定しきい値の設定および密着度の判定を段階的に表示するようにしており、例えばG1 ~G3 というように複数のLEDからなり、G1 は赤色、G2 は黄色、G3 は緑色のLEDにしたものとしている。そして、規定しきい値の設定時や密着度の判定時のマスク着用者の複数回の呼吸の強さにより生じるマスク内圧値と、前記大気圧値の変動差が、例えば0.4hPa以上のときは、G1 の赤色のLEDが点灯するようにし、0.7hPa以上のときは、G2 の黄色のLEDが点灯するようにし、1.0hPa以上のときは、G3 の緑色のLEDが点灯するようにし、さらに1.5hPa以上のときは、G3 の緑色のLEDが点滅するようにしている。このように前記表示部3を段階的に表示することにより、着用者は規定しきい値の設定時や密着度の判定時のマスクの密着度が一目瞭然となる。
【0027】
そこで、この発明のマスク密着度判定装置を用いて、マスク着用者のマスクの密着度の判定を行うには、次の手順で行う。
【0028】
先ず、
図1に示した状態から、
図2に示したように開閉蓋7を開き、本体部6の収納部8からマスク内圧検知部2とケーブルCを取り出す。
【0029】
次に、取り出したケーブルCを本体部6に接続した状態にして、電源スイッチ4をオン操作すると共に、スタートスイッチ5を押し、マスク内圧検知部2でマスク着用場所の
大気圧値を測定する。その後、マスク1を顔面Fに装着し、鏡9を見ながらマスク1の装着具合を確認し、整える(マスク内圧検知部2と回路制御部を無線接続したものではケーブルCを本体部6に接続しなくてよい)。そして、顔面Fとマスク1との間にマスク内圧検知部2を挿入し(
図3に示す)、必要に応じてこのマスク内圧検知部2をクランプでマスク1の縁部に挟持する。なお、その後すぐにマスクの密着度の判定を行う場合には、前記
大気圧値の測定は一度でよいが、判定開始までに時間がかかる場合には、数分毎にマスク1内からマスク内圧検知部2を取り出して、
大気圧値を測定しなおす。
【0030】
そこで、前記マスク着用者は、マスクの密着度判定前に、複数回(例えば5回)の呼吸を行うと、マスク内圧検知部2でマスク内圧値が測定される。この測定されたマスク内圧値は、その呼吸毎に
図5に示したように変動するので、その平均値が求められる。そして、このマスク内圧値の平均値と前記
大気圧値の変動差により、回路制御部で規定しきい値の設定が行われる。
【0031】
規定しきい値の設定を行うマスク着用者は、表示部3のLEDの点灯によって、この規定しきい値を設定するときのマスクの密着度を確認する。この密着度は、表示部3によって段階的に表示される。例えば、前記表示部3のLEDの点灯が、G1 (赤色)以上(0.4hPa以上)であれば、密着度の判定におけるしきい値設定が可能であると判断する。前記表示部3のLEDが、何れも点灯しない場合には、マスク1の装着具合を確認し、整えてから、表示部3のLEDの点灯が、G1 (赤色)以上になるまで、再度同様の設定操作を繰り返す。
【0032】
なお、前記規定しきい値は、回路制御部の内部情報機器に記憶させておけば、マスク着用時に度々設定する必要はなく、同一使用者において一回行えばよく、このような使用者は、次回から規定しきい値の設定を行うことなく、マスクの密着度の判定を行うことができる。
【0033】
前記規定しきい値の設定後、マスク着用者は、マスクの密着度の判定を行うが、このマスクの密着度判定時においても、複数回(例えば5回)の呼吸を行うと、マスク内圧検知部2でマスク内圧値が測定される。この測定されたマスク内圧値も、前記マスクの密着度判定前と同様に、その呼吸毎に変動するので、その平均値が求められる。そして、このマスク内圧値の平均値と前記規定しきい値の変動差により、回路制御部で密着度の判定が行われる。
【0034】
マスクの密着度の判定を行うマスク着用者は、表示部3のLEDの点灯によって、このマスクの密着度を確認する。この密着度も、表示部3によって段階的に表示される。例えば、前記表示部3のLEDの点灯が、G3 (緑色)であれば、マスクの密着度が良好であると判断する。前記表示部3のLEDの点灯が、G1 (赤色)であったり、G2(黄色)の場合には、マスク1の装着具合を確認し、整えてから、表示部3のLEDの点灯が、G3 (緑色)になるまで、再度同様の判定操作を繰り返す。
【0035】
以上のように構成されたこの発明のマスク密着度判定装置は、先にも述べたように、非常に簡単な部品構成となっており、電池で駆動することができ、手のひらサイズの小型化が可能で、安価となり、しかも操作方法が簡易で、正確な測定にも熟練度を必要としないものとなった。
【符号の説明】
【0036】
1 マスク
2 マスク内圧検知部
3 表示部
F 顔面
B フレキシブル基板