IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴァーシティー オブ タスマニアの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】無機イオン検出システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G01N27/447 331G
G01N27/447 331J
G01N27/447 301B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019508807
(86)(22)【出願日】2017-08-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 AU2017050861
(87)【国際公開番号】W WO2018032043
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】2016903232
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2017902304
(32)【優先日】2017-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519048894
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ タスマニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレッドモア、マイケル チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ザカリア、フィリップ ジェイムズ チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ - ヘラス、グスタヴォ
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-524927(JP,A)
【文献】特開平10-221305(JP,A)
【文献】国際公開第2015/134925(WO,A1)
【文献】特開2003-315310(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0116436(US,A1)
【文献】Ala A.Alhusban et al.,On-line sequential injection-capillary electrophoresis for near-real-time monitoring of extracellular in cell culture flakes,Journal of Chromatogaraphy A,2014年,Vol.1323,,pp.157-162
【文献】Hiroyuki Katayama et al., Stable Cationic Capillary Coating with Successive Multiple Ionic Polymer Layers for Capillary Electrophoresis,Anal. Chem.,1998年,Vol.70,pp.5272-5277
【文献】Cedric Sarazin et al.,Identification and determination of inorganic anions in real extracts from pre- and post-blast residues by capillary electrophoresis,Jornal of Chromatography A,2010年,Vol.1217,pp.6971-6978
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための残留物スクリーニング装置であって、前記装置が、
第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層である、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの3層以上の交互層の内側コーティングを含む分離チャネルと、
前記分離チャネルの検出区域を通過する硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出する検出器と、
0.03~0.08重量%のポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質を収容するバックグラウンド電解質貯留槽と、
試料溶液および前記バックグラウンド電解質を含む流体を前記分離チャネルの入口端部に注入する注入システムと
を含み、
記カチオン性ポリマー層を形成する前記カチオン性ポリマーはポリエチレンイミンではない、装置。
【請求項2】
前記アニオン性ポリマー層を形成する前記アニオン性ポリマーが、スルホン化ポリマーもしくは硫酸化ポリマーまたはコポリマーである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマー層を形成する前記カチオン性ポリマーがヘキサジメトリンポリマーまたはポリジアリルジメチルアンモニウムポリマーである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマー層を形成する前記カチオン性ポリマーが臭化ヘキサジメトリンである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記装置が、前記注入システム、前記分離チャネルを通る流体の流れ、および前記硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出する前記検出器の動作を制御するコントローラを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記コントローラが、前記カチオン性ポリマーと前記アニオン性ポリマーとの交互層を前記分離チャネルに塗布するチャネルコーティングシーケンスを制御する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記装置が、前記試料中に爆発性残留物が存在することを視覚的に提示するコンピュータディスプレイを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記分離チャネルが、3層、5層または7層のコーティング層を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための爆発性残留物スクリーニング装置であって、前記装置が、
第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層である、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの3層以上の交互層の内側コーティングを含む分離チャネルを含む交換可能なカートリッジを受け入れるように成形された受容器と、
前記分離チャネルを含む前記カートリッジが前記受容器内に位置決めされた場合に、前記分離チャネルの検出区域を通過する硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出するように位置決めされた検出器と、
前記カートリッジが前記受容器内に位置決めされた場合に、試料溶液およびポリエチレンイミン含有バックグラウンド電解質を含む流体を、前記カートリッジに含まれた前記分離チャネルの入口端部に注入する注入システムと、
0.03~0.08重量%のポリエチレンイミンを含む前記バックグラウンド電解質を収容するバックグラウンド電解質貯留槽と、
前記注入システム、流体の流れ、前記硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出する前記検出器の動作を制御するコントローラと、
前記試料中に爆発性残留物が存在することを視覚的に提示するコンピュータディスプレイと
を含む、装置。
【請求項10】
電気泳動を用いた試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための方法であって、前記方法が試料処理シーケンスを含み、前記試料処理シーケンスが、
前記試料と0.03~0.08重量%のポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質とを、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層であって、分離チャネルのコーティングの第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層であり、かつ前記カチオン性ポリマー層を形成する前記カチオン性ポリマーがポリエチレンイミンではない、前記カチオン性ポリマーと前記アニオン性ポリマーとの交互層でコーティングされた前記分離チャネルに導入することと、
電位を前記分離チャネルにわたって印加して前記硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを分離することと、
分離した前記硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの存在を検出することと
を含む、方法。
【請求項11】
前記試料処理シーケンスを実施する前に、前記試料処理シーケンスの実施を可能にするような位置に前記分離チャネルを含むカートリッジを配置することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料処理シーケンスを実施する前に、前記試料処理シーケンスの実施を可能にするような位置に前記分離チャネルおよびバックグラウンド電解質貯留槽を含むカートリッジを配置することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
複数の試料処理シーケンスを行った後に前記カートリッジを交換用カートリッジと交換する前に、複数の試料処理シーケンスを行うことを含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
交換されたカートリッジを用いて1000回以上の試料処理シーケンスを行った後に、前記カートリッジを前記交換用カートリッジと交換することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記カチオン性ポリマー層を形成する前記カチオン性ポリマーが臭化ヘキサジメトリンであり、前記アニオン性ポリマー層を形成する前記アニオン性ポリマーがポリスチレンスルホン酸である、請求項1014のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記バックグラウンド電解質組成物中のポリエチレンイミンの濃度が約0.03~0.08重量%である、請求項1015のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを分離および検出のための請求項10~16のいずれか一項に記載の方法における分離毛細管の使用であって、前記分離毛細管が、ヘキサジメトリンポリマーとポリスチレンスルホン酸またはそのコポリマー、塩または誘導体との3層以上の交互層の内側コーティングを含み、第1の層および最終層がヘキサジメトリンポリマー層である、分離毛細管の使用。
【請求項18】
分離毛細管を含むカートリッジであって、前記分離毛細管が、ヘキサジメトリンポリマーとポリスチレンスルホン酸またはそのコポリマー、塩または誘導体との3層以上の交互層の内側コーティングを含み、第1の層および最終層が前記ヘキサジメトリンポリマー層であり、0.03~0.08重量%のポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質組成物を収容するバックグラウンド電解質貯留槽を備える、カートリッジ。
【請求項19】
前記ヘキサジメトリンポリマーが臭化ヘキサジメトリンである、請求項18に記載のカートリッジ。
【請求項20】
試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための装置の受容器へ解放可能に挿入するように成形されている、請求項18または19に記載のカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、オーストラリア国仮特許出願第2016903232号およびオーストラリア国仮特許出願第2017902304号の優先権を主張する。これら各出願の明細書は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、毛細管電気泳動などの電気泳動を用いた試料中の無機アニオンの分離および検出のためのシステムおよび方法に関する。本システムおよび本方法は、試料の分析における特定の用途を有し、爆発物中に一般的に存在する無機アニオンの存在の検出を可能にする。本発明はまた、本システムおよび本方法に関連する毛細管、キットおよび使用に関する。
【背景技術】
【0003】
これらの分析によって提供された結果は、テロ攻撃の調査中および予防中になくてはならない手段を構成するので、爆発物の特定のための迅速かつ信頼性のある分析方法の開発にかなりの関心が寄せられている。
【0004】
無機性即席爆発装置(IED)は、強力な無機酸化剤と燃料との組合せに基づいている。厳密に制御された有機性の高性能爆発物とは対照的に、無機性IEDの成分は容易かつ合法的に低コストで入手することができる。また、これらの成分からIEDを製造することも比較的簡単である。
【0005】
爆発性残留物の検出は、爆発前分析または爆発後分析のいずれかに大きく分類することができる。爆発後分析では、爆発の発生場所周辺の地域からの爆発物を分析し、かつ特定する。一方、爆発前分析は、ある種の装置を用いた爆発性成分の特定を含んでおり、大量輸送の場所、貨物の入口および安全な施設で用いられる。両方の種類の検出が重要であるが、爆発前検出の予防的性質は爆発前検出を非常に有用なものにする。爆発前検出は、バルク検出技術(X線、ラマンおよびIRなど)または爆発性痕跡検出(ETD)を用いて達成することができる。痕跡検出は、綿棒(または空気の一吹き)を用いて(皮膚、衣服、袋などとすることができる)表面から除去され、次いで機器内に配置され、かつ各爆発物の量の測定値が提供される爆発性残留物または標識に関与している。
【0006】
イオン移動度分光分析(IMS)およびガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)を用いる直接爆発前分析は、現在世界中のほとんどの主要な空港で用いられている。スワブ試料は、結果として数秒後に供給されるためにこれらの機器に直接挿入されるが、標的種の物理化学的性質のために、無機系または過酸化物系の爆発物に対する適用性は限られている。
【0007】
毛細管電気泳動(CE)は、無機性IEDを特定する能力を有する特性の魅力的な組合せを提供する。CEを用いることの主な制限は、検出の比較的高い限界、既存の形態の分離カラムにおいて再現可能な泳動時間を得ることの困難さ、および比較的長い分析時間である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、無機性IED中に存在する類の無機アニオンを検出するための代替的または改良された方法、システムおよび/または構成要素が必要とされている。イオン間の適切な分解、および妥当な時間枠内での分離を信頼性のある再現性で達成することが実施形態にとって望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための爆発性残留物スクリーニング装置が提供され、この装置は、
第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層である、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの3層以上の交互層の内側コーティングを含む分離チャネルと、
分離チャネルの検出区域を通過する硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出する検出器と、
試料溶液およびバックグラウンド電解質を含む流体を分離チャネルの入口端部に注入する注入システムと
を含み、
バックグラウンド電解質がポリエチレンイミンを含み、カチオン性ポリマー層を形成するカチオン性ポリマーはポリエチレンイミンではない。
【0010】
分離チャネルをコーティングするために用いられるカチオン性ポリマーは、第三級アミンポリカチオンまたは第四級アミンポリカチオン(例えばヘキサジメトリンポリマー)であってもよい。分離チャネルをコーティングするために用いられるアニオン性ポリマーは、ポリスチレンスルホン酸などのスルホン化ポリマーもしくは硫酸化ポリマーまたはコポリマーであってもよい。
【0011】
第2の態様によれば、試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための爆発性残留物スクリーニング装置が提供され、この装置は、
第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層である、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの3層以上の交互層の内側コーティングを含む分離チャネルを含む交換可能なカートリッジを受け入れるように成形された受容器と、
分離チャネルを含むカートリッジが受容器内に位置決めされた場合に、分離チャネルの検出区域を通過する硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出するように位置決めされた検出器と、
カートリッジが受容器内に位置決めされた場合に、試料溶液およびポリエチレンイミン含有バックグラウンド電解質を含む流体を、カートリッジに含まれた分離チャネルの入口端部に注入する注入システムと、
注入システム、流体の流れ、硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを検出する検出器の動作を制御するコントローラと
前記試料中に爆発性残留物が存在することを視覚的に提示するコンピュータディスプレイと
を含む。
【0012】
カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層の使用と、バックグラウンド電解質中のさらなるカチオン性ポリマーの使用との組合せは、適切な効率および分解能を維持しながら分離時間の短縮をもたらす。カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層が電気浸透流を制御する一方で、バックグラウンド電解質中のさらなるカチオン性ポリマーの存在は、イオン交換機構による分離選択性を変化させる。さらに、分離チャネルの多層コーティングの安定性の向上は、無機アニオンの良好な分離分解能を維持しながら、チャネルの寿命を延ばすことを可能にする。迅速な分離とより長い実施時間との組合せは、電気泳動システムを自動化および試料処理能力の高い用途に適したものにする。
【0013】
第1の態様および第2の態様、および以降の態様によれば、コーティングは、バックグラウンド電解質などのチャネルを通過する流体と接触するチャネルまたは毛細管の内面上に存在する。
【0014】
第3の態様では、電気泳動を用いた試料中の硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの分離および検出のための方法が提供され、この方法は試料処理シーケンスを含み、試料処理シーケンスは、
試料とポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質とを、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層であって、分離チャネルのコーティングの第1の層および最終層がカチオン性ポリマー層であり、かつカチオン性ポリマー層を形成するカチオン性ポリマーがポリエチレンイミンではない、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層でコーティングされた分離チャネルに導入することと、
電位を分離チャネルにわたって印加して硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを分離することと、
分離した硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンの存在を検出することと
を含む。
【0015】
本システムは、注入システムおよび分離チャネルを通るバックグラウンド電解質の流れを発生させるためのポンプなどの流体流発生器をさらに含んでもよい。
【0016】
本システムは、注入システム、注入システムおよび分離チャネルを通るバックグラウンド電解質の流れ、および電極に印加される電圧を制御するコントローラをさらに含んでもよい。
【0017】
第4の態様では、爆発性残留物スクリーニング装置において、硝酸、過塩素酸、アジ化物および塩素酸のアニオンを分離するための分離毛細管の使用が提供され、分離毛細管は、ヘキサジメトリンポリマーとポリスチレンスルホン酸またはそのコポリマー、塩または誘導体との3層以上の交互層の内側コーティングを含み、第1の層および最終層は臭化ヘキサジメトリン層である。
【0018】
臭化ヘキサジメトリンなどのカチオン性ヘキサジメトリンポリマーとアニオン性ポリスチレンスルホン酸との交互層でコーティングされた毛細管は、カチオン性ポリマーの単層でコーティングされた毛細管と比較して安定性が高い。コーティングの安定性が向上すると、システムが泳動時間の再現性およびEOFの保持を維持する実施回数が増える。
【0019】
第5の態様では、この分離毛細管を含むカートリッジが提供される。カートリッジはまた、本明細書に記載のバックグラウンド電解質を含むバックグラウンド電解質貯留槽を含。分離を行うためのシステム(または装置)へ解放可能に挿入するよう成形されたカートリッジ内に毛細管を含めることにより、消耗品を装置へ迅速に補充することが可能になり、現場の未熟練な使用者が分離を行うことができる。
【0020】
他の変形例では、分離毛細管およびバックグラウンド電解質を含んだ交換可能なカートリッジを含むシステムを考案する代わりに、その場でコーティングを形成し、かつバックグラウンド電解質を補充するために必要な溶液をまとめてキットとして販売することができる。このような場合に試薬キットが提供されるが、この試薬キットには、
ヘキサジメトリンポリマーを含む第1の毛細管コーティング用組成物と、
ポリスチレンスルホン酸を含む第2の毛細管コーティング用組成物と、
ポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質組成物と
が含まれる。
【0021】
キットの別の形態は、
第1の層および最終層が臭化ヘキサジメトリン層である、臭化ヘキサジメトリンとポリスチレンスルホン酸との3層以上の交互層の内側コーティングを含む分離毛細管と、
ポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質組成物と
を含んでもよい。
【0022】
なお、全ての図において、ピークが数字で示されているが、これらのピークは、1=塩化物、2=硝酸塩、3=塩素酸塩、4=フッ化物、5=過塩素酸塩、6=チオシアン酸塩、7=炭酸塩、8=プロパンスルホン酸塩、9=硫酸塩、10=メタンスルホン酸塩、12=ギ酸塩および13=ペンタンスルホン酸塩を指している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】Scantex SI-CE構成の概略図である。
図2図1に示す機器の配置および以下の条件を用いて標的アニオン混合物(1ppm)の分析から得られた電気泳動図であり、条件は、BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:25μm×35cm(検出器まで26.5cm)のHDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:1秒間に1kVとする。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは2ppmである。
図3】標的アニオンのSI-CE分離に対するPEI割合の結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび変化PEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:50kV、注入:0秒間に1μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、5ppmのメタンスルホン酸塩および2ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図4】単層のHDMBでコーティングされ、分析間の洗浄工程がない毛細管を用いたSI-CEシステムの再現性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:25μm×35cm(検出器まで25cm)のHDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:1秒間に1μL/秒。
図5】単層のHDMBでコーティングされ、分析間にBGEで洗浄される毛細管を用いたSI-CEシステムの再現性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:25μm×35cm(検出器まで25cm)のHDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0.5秒間に0.5μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、5ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて2ppmである。
図6】使用済み毛細管を新しいHDMB層で再コーティングすることの効果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:25μm×35cm(検出器まで25cm)のHDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:1秒間に1kV。毛細管を実施中に洗浄した。
図7】3層被覆毛細管または5層被覆毛細管を用いたScantex SI-CE分離を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.07%のPEI、毛細管:25μm×35cm(検出器まで25cm)のHDMB/PSS/HDMBおよびHDMB/PSS/HDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、5ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて2ppmである。
図8】Scantex SI-CEのIn-BESを含むHDMBおよびPDDAC被覆毛細管を用いて達成された分離を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:50μm×35cm(検出器まで25cm)のHDMBおよびPDDAC/PSS/PDDAC被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0.5秒間に0.5μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、5ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて2ppmである。
図9】表2に概説したコーティング手順を用いた毛細管間の再現性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:50μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、2ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図10】コーティング手順を用いた毛細管間の再現性を示すグラフである。
図11】標的アニオンのIn-BES分離に対するBGEの劣化の結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:50kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、2ppmのメタンスルホン酸塩およびプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図12】pH6.0の下でのScantexのIn-BES分離に対するPEIの結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:pH6.0の下での30mMのMES/21mMのヒスチジン、毛細管:50μm×60cm(検出器まで46.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:FES加圧による4秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図13】pH6.0の下でのMes/ヒスチジンBGEを用いた標的アニオン混合物の分離を示す電気泳動図である。BGE:pH6.0の下での30mMのMES/21mMのヒスチジンおよび0.02%のPEI、毛細管:50μm×60cm(検出器まで46.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:FES加圧による4秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図14】pH6.0の下でのMES/ヒスチジンBGEを用いたEOFの安定性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:pH6.0の下での30mMのMES/21mMのヒスチジンおよび0.02%のPEI、毛細管:50μm×60cm(検出器まで46.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:FES加圧による4秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図15】観察された分離に対する毛細管直径の影響を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:25/50μm×35cm(検出器まで26.5cm)のHDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:1秒間に0.5μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。アニオンは、5ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて2ppmである。
図16】毛細管出口/高電圧界面部に対する変更を示す概略図である。
図17】標的となる無機性の爆発性標識アニオンのSI-CE分離の電圧を比較した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:50μm×35/50cm(検出器まで21.5/36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:30/50kv、注入:0秒間に1μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、2ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図18】Spellman SL120PNのHV供給および図16に示される界面部を用いて、標的アニオンのSI-CE分離に対する増加電圧の効果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:50μm×35cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:ラベル通り、注入:0秒間に1μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、2ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図19】Spellman SL120PNのHV電源を用いたベースラインの安定性に対する検出器位置の影響を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI、毛細管:50μm×35cm(検出器まで約26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:30kV、注入:0秒間に1μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、2ppmのプロパンスルホン酸塩を除いて1ppmである。
図20】分離時間対印加電圧を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:ラベル通り、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは1ppmである。
図21】標準的な外径375μmの溶融シリカ毛細管を用いた高い電界強度での分離を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm(外径375μm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、長さ:ラベル通り、電圧:40kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは1ppmである。
図22】標準的な外径375μmの溶融シリカ毛細管を用いた高い電界強度での分離を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm(外径375μm)×20cm(検出器まで6.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:ラベル通り。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは1ppmである。
図23】システムで用いられた異なるT字型部品ユニットの影響を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.055%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:5秒間のソレノイド遮断を伴うFES加圧。毛細管を実施中に洗浄した。メタンスルホン酸塩は1ppmであり、他のピークはスワブの残余物である。
図24】1つのT字型設計の概略図である。
図25】Scantex SI-CEシステムのための代替のT字型配置を示す概略図である。
図26図24および図25に示す3つのT字型配向を用いた9つの標的アニオン標準物の分離を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:最上部の分離において2秒間のソレノイド遮断、および下側の2つの分離について4秒間のソレノイド遮断を伴うFES加圧。毛細管を実施中に洗浄した。
図27図25Bに示すT字型配向を用いて10μLの40ppm標準物を添加したスワブのScantex分析後の除去を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:4秒間のソレノイド遮断を伴うFES加圧。毛細管を実施中に洗浄した。
図28】実証的な分析後のFESの持ち越し汚染を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:手動注入または5秒間のソレノイド遮断を伴うFES加圧。毛細管を実施中に洗浄した。
図29】ScantexのIn-BES内での毛細管設置の再現性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.055%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:5秒間のソレノイド遮断を伴うFES加圧。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは1ppmである。
図30】ScantexのIn-BES分離に対する試料流量の結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:45kV、注入:ラベル通り。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは1ppmである。
図31】ScantexのIn-BESを用いた変動する試料流量のピーク面積およびピーク高さに対する影響を示すグラフである。図30に示すような条件
図32】温度制御を行わない965回の連続実施にわたるScantexのIn-BESの再現性を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:45kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、1ppmのメタンスルホン酸塩およびプロパンスルホン酸塩を除いて0.5ppmである。
図33図32に示す分離についての泳動時間および相対泳動時間を示すグラフである。
図34】温度制御ハウジングを用いた1875回の連続分析にわたる泳動時間および相対泳動時間を示すグラフである。25kVであった分離電圧を除いて、他の条件は図32の通りである。
図35】温度制御ハウジングを用いたScantexのIn-BESの再現性試験中の最初の実施および最後の実施を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間に0μL/秒。毛細管を実施中に洗浄した。試料アニオンは、1ppmのメタンスルホン酸塩およびプロパンスルホン酸塩を除いて0.5ppmである。
図36】手のスワブの分析およびその後の抽出を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。ピークは、1=塩化物であり、7=炭酸塩である。
図37】直近で海水にさらされた皮膚から採取したスワブの分析を示した電気泳動図の比較を示す図である。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図38】Coles Anti-Bacterial Handwashで洗浄した手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図39】Redwin Sorbolene Moisturiserを塗布した後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図40】Coles Styling Gelを用いた後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図41】Aerogard Tropical Strength Insect Repellentを用いた後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図42】Johnson’s Baby Powderを用いた後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図43】Organic Care Conditioning Shampooを用いた後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図44】CC’s Cheese Supreme Corn Chipsに触れた後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図45図44に示した電気泳動図の比較の拡大図である。
図46】Coles Roll-on Antiperspirantを塗布した後の手のスワブを示した電気泳動図の比較を示す図である。1ppmの内部標準物(メタンスルホン酸塩)を抽出液に直接に加えた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図47】レンジデイ訓練中の標的アニオン標準物を添加したスワブの分析および洗浄後の同じスワブのその後の分析を示した電気泳動図の比較を示す図である。機器の構成をScantexシステムのその後の反復から変更し、試料またはBGEをSI-CEのT字型に転換するために用いた切替弁を単純なT字型に交換した。この配置は、分離が完了した時点のみFESおよびBESの洗浄を行うことができることを除いて、最終のScantexのIn-BESと同じように機能する。試料採取:スワブをScantexシステムに挿入する前に100ppm標的アニオン標準物に浸した。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図48】ある範囲で採取した試料の分析を示した電気泳動図の比較を示す図である。試料採取:IEDの調製後の範囲にいる各個人のうち1人の手の上で、湿潤スワブおよび乾燥スワブを拭き取った。黒色火薬系IEDを爆発させた後に、別の湿潤スワブを検証プレート上で拭き取った。全てのスワブを袋に入れ、Scantexシステムが設置された移動実験室に戻し、その場で分析を行った。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×40cm(検出器まで26.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:25kV、注入:0秒間のソレノイド遮断。毛細管を実施中に洗浄した。
図49】一般集団のボランティアの試験から選択されたスクリーニング結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。ボランティアの手、ズボンの脚、および靴の上に綿棒を通過させて、単一のスワブ試料を各ボランティアから採取した。Milli-Q水で湿らせた新しいスワブを分析ごとに用いた。一番上のトレースは、10μLの40ppm標準物を添加した空のスワブを用いて得られたものである。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:4秒間のソレノイド遮断。T字型構成は図34Bに示す通りである。毛細管を実施の間に洗浄した。
図50図49に関して言及したものとは異なる日および場所における一般集団のボランティアの試験から選択されたスクリーニング結果を示した電気泳動図の比較を示す図である。ボランティアの手、ズボンの脚、および靴の上に綿棒を通過させて、単一のスワブ試料を各ボランティアから採取した。各分析ごとに新しいスワブに交換するのではなく、全ての試験に単一のスワブを用いた。添加試料は、10μLの40ppm標準物をスワブに加えて分析することによって得られた。BGE:50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI、毛細管:25μm×50cm(検出器まで36.5cm)のHDMB/PSS/HDMB被覆毛細管、電圧:40kV、注入:4秒間のソレノイド遮断。T字型構成は図34Bに示す通りである。毛細管を実施の間に洗浄した。
図51】Scantexシステムの全分析時間枠を示す概略図である。条件は表1に示す通りである。試料:ステンレス鋼プレートの湿潤スワブに5μLの100ppm標準物を加えて乾燥させた。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述の通り、本出願は、電気泳動を用いた試料中の無機アニオンの分離および検出のためのシステムまたは方法における、分離チャネル上のコーティングとしてのカチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層の使用に関する。以下では、分離チャネル上の多層コーティングの使用について説明するが、これはいくつかの実施形態では、バックグラウンド電解質中のカチオン性ポリマーの使用と組み合わされる。毛細管電気泳動、および分離毛細管の使用もまた説明するが、本発明は、毛細管だけでなく他の形態の分離チャネルの使用にも及ぶことが理解されるであろう。
【0025】
分離チャネル
「分離チャネル」という用語は、分離毛細管、および分析物またはイオンの分離を達成することができるマイクロチップ内の微細加工チャネルなどの他のチャネル構成を包含している。以下では、毛細管電気泳動について言及する場合、同じ配置がマイクロチップ電気泳動およびMEKCなどの他の形態の電気泳動に適用されてもよく、したがってこのような言及がこの点に関して限定的ではないことが理解されるであろう。
【0026】
分離チャネルは溶融シリカ毛細管であってもよい。小口径の毛細管を用いると、小さい毛細管において表面対体積の比がより大きくなることによって引き起こされる電気浸透流(EOF)の増加に起因する分析時間の短縮が可能になる。分離毛細管の内径は約10~100μmであってもよく、例えば10~75μm、10~50μm、20~50μm、20~30μm、25~50μmであってもよい。分離毛細管の公称内径は、25ミクロン、30ミクロンまたは50ミクロンであってもよい。
【0027】
例えば25μmの毛細管を用いるなど、小口径の毛細管の使用により、わずか25kVの分離電圧を用いて50秒未満で標的アニオンの分離が可能になる。別の例として、50μmの毛細管を用いると、分離時間は約60秒になる。これらの差異は比較的小さいが、数日間または数週間の継続的な使用で総計すると、著しい差異となる可能性がある。
【0028】
分離毛細管の長さは、約15cm以上、最大100cmであってもよいが、より短い分離時間のために、15cm~60cmのより短い長さの毛細管が好ましい。この長さはカラムの全長を指している。なお、検出区域は一般的には毛細管の出口端部から離間しているので、有効長は検出区域の位置に対応する長さだけ短くなる。実施例で用いられた分離毛細管の長さは20~60cmであった。
【0029】
溶融シリカ毛細管などの分離チャネルは、コーティングの第1の層(最内層)および最終層(最外層)がいずれもカチオン性ポリマー層であるように、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの3層以上の交互層でコーティングされる。これらの層はチャネルまたは毛細管の内面にある。この配置では、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層は安定したコーティングの形成をもたらす。一例としては、カチオン性ポリマーの第1の層は、分離毛細管(最初に塩基で処理してアニオン性表面を形成する溶融シリカ毛細管など)の負に帯電した表面に形成され、続いてアニオン性ポリマーの第2の層が第1のカチオン性ポリマー層の正に帯電した表面に形成され、最後に、カチオン性ポリマーの第3の層がアニオン性ポリマーの負に帯電した表面に形成され、カチオン性ポリマー層が最後の層として残る。最終層(最外層)がカチオン性ポリマー層であるという条件で、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーのさらなる交互層をコーティングに加えることができることが理解されるであろう。
【0030】
コーティングは奇数の数の層を有する。層の数は少なくとも3であり、3、5、7、9、11または13の層であってもよい。3、5または7つの層が好ましく、3層が最も好ましい。
【0031】
分離チャネルをコーティングするために用いられるカチオン性ポリマーは、第三級アミンポリカチオンまたは第四級アミンポリカチオンであってもよい。分離チャネルをコーティングするために用いられるカチオン性ポリマーは、ヘキサジメトリンポリマーまたはポリジアリルジメチルアンモニウムポリマーであってもよい。ヘキサジメトリンポリマーの例には、臭化ヘキサジメトリン、ハロゲン化ヘキサジメトリン(臭化物、ヨウ化物など)および水酸化ヘキサジメトリンが含まれる。ポリジアリルジメチルアンモニウムポリマーの例としては、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムハライド(塩化物、臭化物、ヨウ化物など)、ポリジアリルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ポリジアリルジメチルアンモニウムスルフェート、ポリジアリルジメチルアンモニウムビスルフェート、ポリジアリルジメチルアンモニウムカーボネート、およびポリジアリルジメチルアンモニウムアセテートなどがある。ポリジアリルジメチルアンモニウムポリマーの分子量は最大で1,000,000であり、一例としては、100,000~1,000,000の範囲内の分子量であってもよい。実施例では、分離チャネルをコーティングするために用いられるカチオン性ポリマーは臭化ヘキサジメトリンである。
【0032】
分離チャネルをコーティングするために用いられるアニオン性ポリマーは、ポリスチレンスルホン酸、デキストラン硫酸、ポリ(ビニルスルホネート)などのスルホン化ポリマーもしくは硫酸化ポリマーまたはコポリマー、またはスルホン化モノマーもしくは硫酸化モノマーとアクリル酸もしくはエステルなどの第2のモノマーとのコポリマーであってもよく、一例としてポリ(4-スチレンスルホン酸-コ-マレイン酸)が挙げられる。注目すべき例は、ポリスチレンスルホン酸およびそのコポリマー、塩または誘導体である。ポリスチレンスルホン酸のコポリマーは、例えば他の芳香族モノマー、ビニルモノマー、アクリル酸モノマーまたはエステルモノマーなどの他の共重合性モノマーと共にポリスチレンスルホン酸を含んでもよく、それらコポリマーの各々はスルホン化または非スルホン化のものであってもよい。ポリスチレンスルホン酸の塩はナトリウム塩、カルシウム塩およびカリウム塩を含んでもよい。ポリスチレンスルホン酸の誘導体は、ポリスチレンエタンスルホン酸などのポリスチレンスルホン酸のアルキル誘導体を含んでもよい。実施例では、分離チャネルをコーティングするために用いられるアニオン性ポリマーはポリスチレンスルホン酸である。ポリスチレンスルホン酸の分子量は最大で10,000であり、一例としては、500~10,000の範囲内の分子量であってもよい。
【0033】
分離チャネルは、「カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの3層以上の交互層の内側コーティングを有し、第1の層および最終層はカチオン性ポリマー層である」と説明してきた。分離チャネルのコーティングを説明する別の方法は、「3以上の奇数の内側コーティング層を有し、カチオン性ポリマーの第1のコーティング層、アニオン性ポリマーの第2のコーティング層、および第1の層を形成する前記カチオン性ポリマーの第3のコーティング層を含む」ことである。これら2つの引用符で囲まれた表現は同じ意味で用いることができる。
【0034】
分離チャネルまたは分離毛細管は、システム(装置)と共に供給されてもよく、または別個の消耗品として供給されてもよい。いずれの場合も、分離チャネルは、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの交互層でプレコーティングされてもよく、またはその場でコーティングされてもよい。一般に、コーティングは、最初にチャネルを処理溶液で処理し(例えば、チャネルをアルカリ溶液で処理し)、続いてポリマーの各々を含む毛細管コーティング用組成物を分離チャネルに順番に通過させることによって達成することができる。適切な処理溶液は、1MのNaOH溶液などの弱アルカリ性溶液を含み、続いて水(Milli-Q水など)で洗浄する。第1の毛細管コーティング用組成物は分離チャネルを通過し、次いで第2の毛細管コーティング用組成物およびその後の毛細管コーティング用組成物を導入する前に除去される。毛細管コーティング用組成物がチャネルを通過する時間は約1分~10分の間であり、例えば約5分である。コーティングシーケンスの間、用いられる流量は約1~100μL/分の範囲内であってもよいが、流量は、毛細管の内径に応じてこの範囲の流量とは異なってもよい。毛細管コーティング用組成物は、0.01%~20%のカチオン性ポリマー(第1の毛細管コーティング用組成物用)または例えば0.1%~10%のポリマーなどのアニオン性ポリマー(第2の毛細管コーティング用組成物用)を含んでもよく、1%溶液が特に適している。毛細管コーティング用組成物は、第1の層(すなわち、チャネル壁に隣接し、かつ静電相互作用によってチャネル壁のシリカに結合する層)および最終層が、カチオン性ポリマーを含む第1の毛細管コーティング用組成物から作られるように順次に塗布される。これにより、コーティングは正の表面を有し、チャネルは正に帯電した内面を有する。
【0035】
結果として生じる分離チャネルは、安定したコーティングを有し、寿命が長く、再現可能に調製することができる。特定の条件下では、相対泳動時間および/または隣接ピーク間の分解能の安定性を維持しながら、最大で30,000回または最大で20,000回実施するまでチャネルを繰り返し用いることができる。いくつかの実施形態では、チャネルは、相対泳動時間および/または隣接ピーク間の分解能の安定性を維持しながら、最大で30,000、最大で20,000、少なくとも2,000、少なくとも1,000、1,000~30,000、1,000~20,000、2,000~30,000、2,000~20,000、1000~2000、300~30,000、300~20,000、300~2000、500~2000、300~1000、または500~100回の試料分離シーケンスで動作することができる。分離チャネルを新しい分離チャネルと交換する前に複数の試料処理シーケンスを行うために、分離毛細管を用いてもよい。いくつかの実施形態では、分離チャネルを新しい分離チャネルと交換する前に2000回以上または1000回以上の試料処理シーケンスを行うために、分離チャネルを用いてもよい。
【0036】
毛細管は検出区域を含む。この検出区域は、分離を行うのに十分な距離をおいて毛細管への入口から離れている。いくつかの実施形態では、毛細管は、無機アニオンの分離を起こすために毛細管への入口から適切な距離に位置するCD検出区域を含む。光学検出器が用いられる場合、検出器による検出を可能にするために光学的に透明な毛細管の区域が存在してもよい。
【0037】
動作中は、高電圧(HV)電位が一対の電極の間の分離チャネルに沿って印加される。一対または複数の電極は、一般的にはHV電極および接地電極である。電位は、試料中のイオンを分離チャネルを介してHV電極に向かって駆動する。毛細管は、低電圧(LV)端とHV端とを含む。検出区域はHV端に向かって位置決めされている。
【0038】
流体チャネルを通るバックグラウンド電解質の流れが存在する場合、高電圧は、分離段階の間に分離カラムにわたって(長手方向に)印加される。この工程の間に印加される典型的な電圧は最大で-50kVであり、例えば、最大で約-20~-45kV、約-30~-50kV、約-20~-45kV、約-25~-45kV、または約-30~-40kVである。
【0039】
検出器
検出器は、無機アニオンの存在(および相対量)を検出するための任意の適切な形態の検出器であってもよい。例としては、容量結合式非接触伝導度検出器(CD検出器)を含む非接触伝導度検出器、毛細管流体と接触する電極を有する接触伝導度検出器、および測光検出器などの光学検出器(光透過率/吸光度検出器)が挙げられる。実施例で用いた検出器はCD検出器であった。検出器によって生成された信号は、信号の記録および分析を容易にするためにコントローラによって視覚画像に変換されてもよい。分離チャネル(分離毛細管)の検出区域は、例えば分離チャネルの出口から約10cmの距離など、分離チャネルの出口から5cm~15cmの距離に適切に位置決めされる。検出器は検出区域と整列している。
【0040】
方法/システムは、10ppm以下の濃度で対象の無機イオンの検出を可能にする。本システムは、試料の抽出から電気泳動システムによる分析まで、1分の時間枠内での試料のスクリーニングを可能にする。一実施形態では、試料注入から電気泳動システムによる無機アニオンの分離までにかかる時間は、1分未満、場合によっては30秒未満であってもよい。別の実施形態では、システムは、30秒~2分、30秒~1分、20秒~50秒、または1分未満の時間枠において、硝酸イオン、過塩素酸イオン、アジ化物イオンおよび塩素酸イオンを含む無機イオンを分離する。
【0041】
方法/システムによって分離することができる無機アニオンには、爆発物中に存在する硝酸イオン、過塩素酸イオン、アジ化物イオンおよび塩素酸イオンが含まれる。この方法/システムはまた、これらの無機アニオンを、塩化物、硫酸塩、チオシアン酸塩、フッ化物、リン酸塩および炭酸塩などの爆発物と関連しないバックグラウンドイオンから分離する。これらのアニオンの各々を別々に分離し、かつ検出して、爆発物の検出について偽陽性または偽陰性の読取りまたは分析が受け取られないようにすることが必要である。
【0042】
注入システム
注入システムは、試料溶液およびバックグラウンド電解質を含む流体を分離チャネルの入口端部に注入する。いくつかの実施形態では、注入システムは、試料注入システムと、試料注入ポートと流体連通する流体チャネルと、バックグラウンド電解質を貯蔵するバックグラウンド電解質貯留槽とを含み、バックグラウンド電解質貯留槽は、試料注入システムと流体連通して流体の流れが流体チャネルを通って分離チャネルの入口端部に入ることを可能にする。
【0043】
試料注入システムは試料注入ポートを含んでもよいし、注入弁をさらに含んでもよく、この注入弁は、試料が流体チャネルへ入ることを可能にするために、試料注入ポートまたはバックグラウンド電解質への流体チャネルの開口を制御するように動作することができる。
【0044】
本方法は、試料処理シーケンスを行う前の試料調製工程を含んでもよい。これは、表面のスワブを採取し、スワブを試料溶液と接触させて無機アニオンを試料溶液中に抽出することを含んでもよい。次いで、試料溶液を注入ポートに注入してもよい。
【0045】
本システムは、バックグラウンド電解質の希釈効果による試料の「詰まり」の分散を防止するかまたは最小限にする、その後にバックグラウンド電解質が続く試料の順次の注入を含んでもよい。その結果、高流量は必要とされず、分離効率に影響を与え、試薬の消費量が少なくなる。この連続システムは、注入の時間枠を約5秒以下に短縮することを可能にする。
【0046】
本システムは、圧力注入または界面動電注入を用いて、試料を分離毛細管に充填することができる。界面動電注入を用いると、試料注入の最終段階の間に電位を毛細管にわたって印加して、試料中に存在するイオンを毛細管に沿って通過させることができる。
【0047】
バックグラウンド電解質を含む分離チャネルを通る流体の流れは、ポンプまたはその他の流体流発生器の動作によって達成してもよい。分離チャネルに至るシステムの寸法および構成要素は、出願人の以前の出願である国際出願PCT/AU2013/000889号明細書に記載されているものであるとしてもよく、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
バックグラウンド電解質は、バックグラウンド電解質貯留槽に貯蔵されてもよく、バックグラウンド電解質貯留槽は、注入システムと流体連通してバックグラウンド電解質が分離チャネルを通って分離チャネル内に入ることを可能にする。バックグラウンド電解質貯留槽は、システム(装置)自体の内部に位置していてもよく、または装置に挿入することができるカートリッジの内部に位置していてもよい。分離の期間中、バックグラウンド電解質の流量は、約10~1000μL/分の範囲であってもよく、一般的には約10~200μL/分の範囲であってもよい。実施例では50μL/分の流量を用いたが、このレベル付近の流量が処理に適している。
【0049】
バックグラウンド電解質はカチオン性ポリマー成分を含み、このカチオン性ポリマー成分は、分離チャネルまたは毛細管上のコーティングとして用いられるカチオン性ポリマーとは異なる。バックグラウンド電解質に用いられるカチオン性ポリマーは、第三級アミンポリカチオンまたは第四級アミンポリカチオンであってもよい。バックグラウンド電解質に用いられるカチオン性ポリマーは、カチオン性界面活性剤であってもよい。好ましい実施形態によれば、バックグラウンド電解質中のポリマー成分はポリエチレンイミン(PEI)である。
【0050】
PEIは、分子量が最大で1,000,000であるPEIなどの高分子量PEIであってもよく、例えば分子量が最大で100,000、または50~100,000であり、一例としては50~60,000である。バックグラウンド電解質中のPEIの量は、適切には約0.01~0.5%の範囲内であり、例えば約0.01~0.4%、0.01~0.3%、0.01~0.2%、0.01~0.1%、0.02~0.08%、0.03~0.08%、および0.04~0.08%の範囲内である。約0.06%のレベルが有効であることが分かった。
【0051】
バックグラウンド電解質は、1つ以上の緩衝剤、およびその他の一般的な電解質成分をさらに含んでもよい。バックグラウンド電解質に用いられる緩衝剤は、強塩基および弱酸、強酸および弱塩基、または弱酸および弱塩基の任意の組合せを含んでもよい。適切な緩衝剤の例としては、トリス、CHES、リン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩、ギ酸塩、HEPES、ビス-トリス-プロパン、エチレンジアミンおよびトリエタノールアミンが挙げられる。この例では、用いられる緩衝剤はトリスおよびCHESである。電解質のpHは、約7.5~11、約8~10、または約8~9の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、電解質のpHは約8.9であるが、他の一般的な条件に応じて、pHはこのpHから+/-1.0とすることができる。
【0052】
さらなるシステム機能
本システムは、使用準備の整った位置において(毛細管などの)分離チャネルを含んでもよく、または、本システムは、分離毛細管を別途購入し、直接挿入するかまたはシステムに解放可能に挿入されるカートリッジに含めることによって挿入することを意図して、毛細管を伴わずに供給されてもよい。このシステムは、可搬型装置の形態であってもよく、カートリッジ受容器、またはカートリッジもしくは分離毛細管を所望の位置に装填するための毛細管装填領域を含んでもよい。カートリッジは、システムへ解放可能に挿入することができるように成形されていてもよい。この場合のシステム/装置の受容器は、カートリッジを受け入れるように補完的な形状を有し、これに関してクリップ、戻り止めまたは他の形状の特徴を含んでもよい。カートリッジを挿入すると、分離カラムまたは毛細管が正しい位置に位置決めされ、これにより挿入後に試料処理を行うことができる。カートリッジがバックグラウンド電解質貯留槽をも含む場合、カートリッジはシステム/装置の構成要素と整列し、これにより、貯留槽に含まれるバックグラウンド電解質が必要に応じてシステムを流れることができる。
【0053】
装置を操作するためにコンピュータなどの制御システムを用いる。コントローラは、注入システムの制御、ポンプ動作(およびバックグラウンド電解質の流速)の制御、電位の印加などを含む装置の動作段階を制御する。制御システムはまた、検出器が受信した信号を処理することと、その信号を(ディスプレイ上または他のものの上の)視覚的表現に変換することとを含む、検出システムを制御してもよい。制御システムは、パーソナルコンピュータまたは装置の携帯性に適したサイズの専用制御システムを含んでもよい。制御システムは、いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとの3層以上の交互層の内側コーティングを付与する分離チャネルコーティングシーケンスを制御してもよい。コントローラは一般的に、関連する有形のメモリに保存されたコンピュータ可読命令を処理してユーザに入力要求を提示し、入力装置を介して1つ以上の入力を受け取り、その入力およびメモリに保存された命令に従って放射線源を制御するプロセッサを含む。「プロセッサ」という用語は、保存された命令に従って入力を処理して放射線源を制御することができ、かつマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブル論理装置または他の計算装置、汎用コンピュータ(例えばPC)またはサーバを含むことができる任意の装置を総称的に指すために用いられる。
【0054】
本システムは、注入システム、バックグラウンド電解質の流れ、および印加される電圧を適切に制御して以下の順次の工程を生成するコントローラを含んでもよく、これらの工程には、
バックグラウンド電解質を流体チャネルに流すことなく、試料を試料注入ポートに注入して流体チャネルの界面領域に流れ込ませることと、
次の洗浄工程の前に電位を電極にわたって印加して界面領域に位置する試料中に存在する無機アニオンを分離チャネル内に移動させることと、
電極にわたって電位を印加することなく、バックグラウンド電解質を流体チャネルに流して試料を流体チャネルの界面領域から洗い流すことと、
バックグラウンド電解質を流体チャネルに流しながら、洗浄工程の後に電極にわたって電位を印加して、試料中の無機アニオンを分離することと
が含まれる。
【0055】
本システムは可搬型装置の形態であってもよい。装置は一体型装置であってもよいし、または別々の部品で構成されてもよい。
【0056】
キット
カートリッジを含む実施形態は上述の通りである。代替の実施形態では、システムまたは装置には試薬キットが補充されてもよく、この試薬キットには、
臭化ヘキサジメトリンを含む第1の毛細管コーティング用組成物と、
ポリスチレンスルホン酸を含む第2の毛細管コーティング用組成物と、
ポリエチレンイミンを含むバックグラウンド電解質組成物と
が含まれる。
【0057】
キット用の組成物は、分離チャネルの層の形成について、およびバックグラウンド電解質組成物について上述した通りである。第1の毛細管コーティング用組成物中のヘキサジメトリンポリマーの濃度は、一般的には0.1~10重量/容量%、好ましくは0.1~5重量/容量%の範囲である。ポリスチレンスルホン酸溶液に同じ濃度範囲を用いてもよい。
【0058】
実施例
本発明を、本発明の基礎となる原理を実証する以下の実施例、および本発明の特定の実施形態を参照してさらに詳細に説明する。当業者は、広範に記載されている本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されているように、本発明に対して多数の変形および/または変更を行うことができることを理解するであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【0059】
1. 実験
1.1 化学物質
全ての試薬は、Sigma-Aldrich社(オーストラリア、シドニー)から入手した分析グレードのものであり、特に明記しない限り供給されたまま用いた。試薬の溶解液は常にMilli-Q水(Millipore社、米国マサチューセッツ州ベドフォード)中で調製した。1000μgL-1のアニオン標準溶液を、過塩素酸塩、塩素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩(BDH社、オーストラリア国ビクトリア州キルシス)、チオシアン酸塩、塩化物(Univar社、米国ワシントン州レドモンド)、フッ化物、アジド(AJAX社、オーストラリア国シドニー/メルボルン)のナトリウム塩またはカリウム塩の溶解液で調製した。プロパンスルホン酸ナトリウム(Fluka社、スイス国ブーフ)を内部標準物として用いた。これらの溶液を毎日容量分析的に希釈して、作業標準溶液を調製した。
【0060】
1.2 バックグラウンド電解質
最適なバックグラウンド電解質は、pH8.9の下での50mMの2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-プロパン-1,3-ジオール(Tris)および50mMの2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)からなる。PEI(ポリ(エチレンイミン)、M.W.50~60000、ACROSS organics社、ベルギー国ヘール)を添加して、0.06%(w/v)の最適濃度で選択性を変更した。
【0061】
1.3 電気泳動手順
Polymicro Technologies社(米国アリゾナ州フェニックス)製の内径が25または50μmの溶融シリカ毛細管を用いて分離を行った。
【0062】
1.4 毛細管のコーティング
電気浸透流(EOF)を逆流させるために、臭化ヘキサジメトリン(HDMB、ポリブレン)およびポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)を使用して溶融シリカ毛細管の壁をコーティングした。毛細管コーティング剤を塗布する前に、毛細管を水酸化ナトリウム(NaOH)溶液で洗浄した。
【0063】
以下の手順を用いて毛細管をコーティングした。
1. 25μmのFS毛細管の50cm片を切断した。
2. Upchurch FingerTight 10-32ナット(品番:F-300-01)、高圧フェルール(品番:F-142X)、1/16×0.0155 FEPスリーブ(品番:F-242X)および10-32 雌-雌ルアーアダプタ(品番:P-659)を用いて、毛細管の一方の端部を1MのNaOHを含む使い捨てシリンジに接続した。
3. シリンジおよび毛細管をシリンジポンプに装填し、流量を0.03ml/時(0.5μL/秒)に設定した。
4. 毛細管を1MのNaOHで10分間洗浄した。
5. 1MのNaOHシリンジを濾過蒸留水を含む別のシリンジと交換した。
6. 毛細管を水で10分間洗浄した。
7. 1%(w/v)の臭化ヘキサジメトリン(HDMB)を含む別のシリンジを水シリンジと交換した。
8. 毛細管をHDMBで15分間洗浄した。
9. HDMBでの洗浄後、ルアーアダプタを取り外し、水で十分に洗浄して、残りのHDMBを全て除去した。
10. 水シリンジを取り付け、毛細管を10分間洗浄した。
11. 1%(w/v)のポリスチレンスルホン酸(PSS)を含む別のシリンジを水シリンジと交換した。
12. 毛細管をPSSで15分間洗浄した。
13. PSSでの洗浄後、ルアーアダプタを取り外し、水で十分に洗浄して、残りのPSSを全て除去した。
14. 水シリンジを取り付け、毛細管を10分間洗浄した。
15. 水シリンジを1%(w/v)のHDMBを含むシリンジと交換した。
16. 毛細管をHDMBで15分間洗浄した。
17. HDMBシリンジをIn-BES用のBGE(50mMのトリス/CHESおよび0.06%のPEI)を含むシリンジと交換した。
16. 毛細管をBGEで60分間洗浄した。
17. 毛細管をIn-BESに挿入する準備が整った。
【0064】
1.5 機器
全ての実験を、社内で構築された順次注入-毛細管電気泳動ユニット(Scantex SI-CEと呼ばれる)を用いて行った。機器の概略図を図1に示す。これは、連続的なBGEおよび試料の供給が可能な2つのMilliGATポンプで構成される。ポンプを用いて、システムを介して試料およびBGEを供給した。6ポート注入弁(MXP-7980、Rheodyne社、米国ワシントン州オークハーバー)を使用して、試料またはBGEを界面部に供給した。市販のPEEK T字型継手(P-727、Upchurch Scientific社、米国ワシントン州オークハーバー)を用いて、流動システムとCE毛細管とを連結した。これらの構成要素を、実施例で用いられるユニットにおいて用いたが、特に注文仕立てのユニットについては計器の変形を用いてもよい。
【0065】
注射針(内径0.51mm)から切り取られた2cmのステンレス鋼管は、出口および接地電極として機能すると同時に、接地電極を断面が円形の形状または管状にした。実施例のユニットで用いられる接地電極はこの構造のものであったが、異なる形状、構成または構造の電極を用いることができる。
【0066】
最小の内部容量(0.57μL)と、毛細管の界面部中央への挿入を可能にするのに十分な大きさの内径(0.5mm)とに基づいて、市販のオプションの中から界面部を選択した。この内径は、注入弁およびポンプを界面部に接続するために使用されるPEEK管の内径と一致し、死容積を削減し、さらに乱流を減少させる。T字の水平アームにわたって導入された一片の毛細管(外径360μm)を用いて、毛細管の先端を界面部の中央付近の一定の位置に固定した。毛細管の出口側を、BGEを充填した25mLのガラス製薬瓶に導入した。この設計では、著しい電流漏洩を伴わずに最大で2000Vcm-1の電界を印加した。
【0067】
市販の容量結合式非接触伝導度検出器(CD)(Tracedec)をInnovative Sensor Technologies社(オーストリア国シュトラースホーフ)から購入した。検出パラメータを、毛細管の内径およびBGE組成物ごとに最適化した。最終的に選択された条件に対して、検出器の動作パラメータは、周波数:高、電圧:-6Db、ゲイン:100%、オフセット:004であった。なお、実施例で用いた検出器の代わりに他のC4D検出器を用いることができる。これらは他の商業的供給業者から入手することができ、または、具体的には商業規模で製造されたユニット用に製造してもよい。Agilent 35900E A/D変換器(Agilent Technologies社、ドイツ国ヴァルトブロン)を用いて、信号を記録し、かつ分析するために用いられるAgilent Chemstationソフトウェアを用いたCDによって生成された信号をインタフェースした。この場合もやはり、他の変換器を用いることができる。検出器ヘッドを、CE毛細管の出口から10cmの位置に位置決めし、検出点までの有効長は、特に明記しない限り、全ての実験の間、総毛細管長からマイナス10cmであった。
【0068】
分離は、陰極(-)の電極を出口ガラス製薬瓶に浸した状態で、逆の極性の下で動作するEMCO DX-250高電圧電源によって駆動された。
【0069】
シリンジポンプ用のRS232シリアル接続を用いたパーソナルコンピュータでシステムを制御した。注入弁および高電圧電源(極性制御、スイッチのオン/オフおよび電圧出力)を、National Instruments社(米国テキサス州オースティン)製のNI USB-6212データ取得装置によってコンピュータに接続した。National Instruments社製のLabView8.1を用いて記述されたソフトウェアを用いてシステムを制御した。同じソフトウェアを用いて、電源から供給される電圧および電流を監視した。商業規模で製造されたユニットの場合、要求された機能を実行するための特注のハードウェアおよびソフトウェアを用いてもよい。
【0070】
1.6 動作条件
Scantexシステムの動作条件を表1に示す。綿棒で採取した試料の完全分析は、スワブを抽出して、得られた試料を無機アニオンの分析用のSI-CEである無機バックエンドシステム(In-BES)に供給するために、フロントエンドシステム(FES)によって25秒間かけて60秒以内に完了する。分析前にCE T字型から試料溶液を洗浄するために、In-BESはさらに10秒を必要とする。In-BESによる完全分析は25秒以内に完了するが、これは内部標準物(メタンスルホン酸塩)がCEシステムを泳動するのにかかる時間である。
【0071】
【表1】
【0072】
図2は、本発明の被覆毛細管ではなく、単層HDMB被覆毛細管および50mMのトリス/CHESおよび0.05%のPEI(比較組成物)を含むバックグラウンド電解質を用いて、かつ図1に示す機器の配置を用いて達成された分離を示している。標的化合物(硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩)は全て45秒以内に完全に分解され、システムの再現性は40回の連続実施にわたって良好であった。
【0073】
2. 化学的最適化
2.1 分析物の選択
4つの無機アニオンを爆発物特定のための標的として選択した。過塩素酸塩、塩素酸塩および硝酸塩は、カリウム塩またはアンモニウム塩としてIEDに使用される最も一般的な酸化剤である。アジ化鉛は、二次爆薬を起爆させるための起爆剤の一部として一般に利用されている。
【0074】
塩化物、硫酸塩、リン酸塩、およびより少ないフッ化物およびチオシアン酸塩は、試料中に存在する可能性が最も高いバックグラウンドイオンである。大気中のCOが試料および標準溶液に急速に溶解することから生じる炭酸塩を考慮することもまた重要である。
【0075】
2.2 バックグラウンド電解質組成物
50mMのトリス、50mMのCHESおよび0.05%のPEIを含むバックグラウンド電解質を出発組成物として用いた。この濃度をシステムにおいて用いると、図3の最下部のトレースに示す分離が生じた。
【0076】
全ての標的アニオンおよび可能性のある汚染物質について、十分な分離能が得られた。PEIの濃度を増加させることの効果は、上側の2つの分離において示されており、フッ化物と過塩素酸塩との間の分解能が著しく改善されていることが分かる。さらに、後に示すように、実際の試料を分析する場合、フッ化物はチオシアン酸塩よりも広範な汚染物質であることが分かる。
【0077】
図3に示す結果に基づいて、好ましい電解質組成物を0.06%PEIの量で設定した。
【0078】
2.3 比較例-単層毛細管コーティング
図4は、単層のHDMBでコーティングされた毛細管を含み、分析と分析の間に洗浄工程がない比較例に関する。1日にわたる再現性は比較的良好であるが、複数日にわたって同じ毛細管を使用することによって、観察されたEOFの減少(分析物の泳動後に見られる大きなディップ)ならびにいくつかの標的アニオン間の分解能の低下が引き起こされたことが分かる。
【0079】
図5は、単層被覆毛細管を用いたシステムの再現性および分析間の洗浄工程の使用を示している。標的アニオンの分解能は、2~4日間の連続使用の過程で劣化し始めることが分かる。分析時間が一定のままであるという事実は、毛細管コーティングが比較的安定していることを示唆しているが、図4に示すように、コーティングが緩やかに除去される可能性が依然として残っており、その結果、分析時間が長くなり分解能が低下する可能性がある。
【0080】
毛細管を新しいHDMB層で再コーティングすることは不可能であるため、毛細管の耐久性は重要である。これは、新しいHDMB層で毛細管を再コーティングする処理が毛細管の性能を復活させることに失敗した図6から分かる。
【0081】
(上述の)HDMBの第1の層、後続のアニオン性ポリマーポリスチレンスルホネート(PSS)の層およびHDMBの最終層を含む3層被覆毛細管の使用を試験した。これらの3層被覆毛細管は、単層被覆毛細管と同様の分離性能を示したが、その耐久性および使用性ははるかに優れていた。
【0082】
5層被覆毛細管(HDMB/PSS/HDMB/PSS/HDMB)を用いる可能性も試験した。図7は、3層被覆毛細管と5層被覆毛細管とを用いて得られた分離の比較を示している。
【0083】
また、pH依存性HDMBよりも強いコーティングを毛細管表面に形成することが知られているので、より強固なカチオン性ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDAC)の使用も試験した。図8は、HDMBまたはPDDAC/PSS/PDDAC系の三層被覆毛細管を用いて得られた分離を比較している。両方のコーティングは逆流EOFおよび比較的速い分離(25kVで約70秒)を生じさせるが、HDMB被覆毛細管の性能はPDDAC系の毛細管より優れていた。
【0084】
多層被覆毛細管は時折交換する必要がある。したがって、新しい毛細管を取り付けた場合に信頼性の高い結果を期待することができるような、毛細管間の再現性は重要な考慮事項である。
【0085】
HDMB/PSS/HDMBの3層被覆毛細管を調製するのに必要な手順を表2に示す。この手順は、後続のコーティング溶液を導入する前に従前のポリマーを確実に全て除去するために、毛細管を通るポリマー溶液を順次に洗浄することを含む。
【0086】
図9は、表2に概説した手順を用いて調製した8つの異なる毛細管を用いて得られたSI-CE分離を示している。試験した8つの毛細管について良好な泳動時間再現性が得られたことが分かる。さらに、標的アニオン間の一貫した分解能は全ての毛細管について維持されている。
【0087】
【表2】
【0088】
図10は、8つの毛細管の泳動時間再現性および標的アニオンのメタンスルホン酸塩(IS)に対する泳動時間を示している。試験した8つのカラムにわたる標的アニオンの相対泳動時間は非常に良好である(RSDは0.48%未満)。
【0089】
2.4 BGEの安定性
システムの再現性にとって重要な問題は、BGEの安定性である。図11の下側のトレースは、空気下で保存され、かつ実験室の温度変動にさらされた古いBGEを用いた標的アニオンの分離を示している。
【0090】
BGEの大気への長期ばく露を最小限にするために、2つの方法を検討した。最初の方法は、BGE貯留槽上で二酸化炭素トラップを用いることであった。トラップは、貯留槽に引き込まれた空気が二酸化炭素を除去することができるように二酸化炭素吸着剤(アスカライト)を保持した。この方法は、吸着された二酸化炭素の問題を限定するのに効果的であることが証明されたが、依然としてBGEを空気にばく露したままであった。その後の方法では、使用前に毎朝、BGE貯留槽を窒素でパージして、全ての空気をBGEのヘッドスペースから除去することができるようにした。この方法は簡単かつ信頼性があることが証明され、数日から数週間の継続的な分析であってもBGEの安定性を良好に導いた。
【0091】
2.5 バックグラウンド電解質のpH
また、長期安定性を改善するための選択肢としてBGEのpHを調査した。図12の下側のトレースは、PEIをBGEに添加せずにpH6.0の下でのMES/ヒスチジンBGEを用いた9つのアニオン標的混合物のIn-BES分離を示している。PEIの量を0.02%に増加させると、標的イオンを潜在的なバックグラウンド干渉から完全に分離することができる(なお、ピーク8および10の内部標準物は抽出液に加えられるため、異なるISによって容易に除去するかおよび/または置き換えることができる)。図13は、pH6.0の下でのMES/ヒスチジンBGEを用いて、内部標準物メタンスルホン酸塩を除去する標的アニオン混合物の最適化された分離を示している。
【0092】
2.6 電気浸透流の安定性(EOF)
図14は、pH6.0の下でのMES/ヒスチジンBGEを用いたEOFの安定性を示している。PEIは、おそらく、表面を洗い流す任意のHDMB分子を置換することによって、毛細管壁のHDMBコーティングを安定化させるように作用する。
【0093】
3. ハードウェアの最適化
所与の分離についての分析時間は、短口径で小口径の毛細管とより高い電圧との組合せによって効果的に短縮することができる。しかし、時間の短縮は、適切な分解能および感度の分離とバランスをとる必要がある。適切な分離特性を維持しながら分析時間を短縮するために、分離の効率および性能に影響を与える主な操作変数を試験し、かつ最適化した。
【0094】
3.1 毛細管の直径
観察されたScantex SI-CE分離に対する毛細管直径の影響を図15に示す。
【0095】
3.2 電圧
Scantex SI-CEシステムに必要な正確な所要時間は、適用される特定の用途にある程度依存する。EMCO DX-250のHV電源は25kVしか生成することができない。最大で120kVまで生成することが可能なSpellman SL120PNユニットを用いて高電圧の使用を調査した。
【0096】
3.2.1 界面部の構造
図16は、Scantex SI-CEシステム内の毛細管出口/高電圧界面部に加えられた変更を示している。
【0097】
3.2.2 高電圧システムの性能
高分離電圧の利点は図17に示されており、ここで、50kVおよび50cmの毛細管の使用により、全ての標的アニオンは60秒以内に完全に分解した。図18は、最大50kVの電圧でSpellman SL120PNユニットを用いた標的アニオンのHV分離を示している。
【0098】
図19は、Scantex SI-CEシステムを用いた場合の、観察されたベースラインに対する毛細管位置の影響を示している。
【0099】
図20は、40cmの毛細管および30~45kVの電圧を用いて得られた分離を示している。電圧が増加するにつれて、分離時間は、分解能の低下を制限しながら減少する。完全分析が30kVで45秒(ISが泳動するのにかかる時間)以内に完了する一方で、システムを45kVで動作させることによって泳動時間を30秒近くまで短縮することができる。
【0100】
3.2.3 高い電界強度
図21は、塩素酸塩および過塩素酸塩、ならびにバックグラウンドアニオンの塩化物および炭酸塩の高い電界強度での分離を示す図である。このシステムでは、信頼性を向上させるために印加電圧を40kVに制限したが、分離毛細管を徐々に短くすることで電界強度を1.0kV/cmから2.0kV/cmまで高めた。4つのアニオンの分離は1.0kV/cmの電界強度(40cmの毛細管の使用、検出器に対して26.5cmの毛細管に対応)で比較的迅速に起こる一方で、これは電界強度が高まると著しく低減することができることが分かる。1.6kV/cmの電界強度(25cmの毛細管、検出器に対して11.5cmの毛細管に対応)に対して4つのアニオンの完全分離が依然として観察されるが、分離の時間尺度はこの時点でかなり短縮されて10秒未満である。
【0101】
3.2.4 電圧の結論
高電圧および/または高電界強度の使用についての調査から、分解能、速度および堅牢性の最良の妥協点は、30~50cmで外径375μmの毛細管の使用であると結論付けられた。したがって、これらの条件をその後の試験作業に用いた。
【0102】
3.3 T字型設計
図23は、2つの異なるT字型ユニット(同じ型および同じ供給業者)を用いた場合に得られる分離を示している。図24は、システムを流れる試料に分離毛細管を接続するために用いられるT字型内の容積を示している。他の2つの配置を図25に示す。図26は、上述の3つのT字型配向を用いて達成された分離を示している。
【0103】
図27は、図25Bに示すT字型構成を用いて10μLの40ppm標準物を添加したスワブの分析後の除去を示している。
【0104】
3.4 毛細管の設置
異なる毛細管設置方法が分離結果に及ぼす影響を調査し、その結果を図29に示した。再現性のある分離を可能にするために、毛細管を含むカートリッジは、装置に挿入された場合に毛細管が正しく位置することを可能にする必要がある。
【0105】
4. 性能
4.1 線形性
図30および図31は、変動する試料流量の分離に対する影響を示している。
【0106】
4.2 再現性
図32は、システムおよび方法の長期再現性を示す一方で、泳動時間および相対泳動時間は図33に示されている。これらの実施は温度制御なしで行われ、24時間にわたる泳動時間に対する結果としての影響が明確に見られた。絶対泳動時間が温度変化の影響を受ける一方で、メタンスルホン酸塩(IS)に対する泳動時間は、1000回の連続実施でRSDが0.20%未満と非常に安定している。相対泳動時間の安定性と同様に、隣接するピーク間の分解能もまた、1000回の全ての実施中に維持された(過塩素酸塩とチオシアン酸塩との最低分解ピークの分解能RSDは3.5%であった)。
【0107】
図33では、相対泳動時間を用いると、システムの再現性が著しく向上することを示している。温度制御された環境の使用により、温度変動によって引き起こされる変化をさらに緩和することができる。
【0108】
図34は、温度制御ハウジングを用いた場合に得られる泳動時間および相対泳動時間を示している。
【0109】
図35は、図35に示す長期再現性試験のうち最初の実施および最後の実施を示している。2つの実施の優れた一致は、接近して泳動するアニオン(過塩素酸塩、チオシアン酸塩およびメタンスルホン酸塩)の間のわずかな分解能の低下と共に見ることができる。さらに、この一連の実施は温度制御された環境で行われたが、全ての分析について入口位置および出口位置の両方で同じBGEを用いてシステムを運転する際に、他の特別な注意は払われなかった。分解能だけでなく、ピーク面積およびピーク高さは、1875回の連続実施の間に比較的影響を受けないことも分かる。
【0110】
4.3 バックグラウンド干渉
Scantexシステムを用いて日常的な化学物質、食品および材料の範囲をスクリーニングして、任意の潜在的なマスキング剤が存在するかどうかを決定することによって、実世界の試料に対するシステムの適用を試験した。可能な場合は、これらの材料を実際の使用方法に最適な方法で試験した。
【0111】
図36は、手のスワブの分析結果、および4回のすすぎからなる洗浄シーケンスに続くその後の同じスワブの抽出(下側の3つのトレース)を示している。皮膚のスワブを採取した場合に観察された主成分は塩化物であり、これは図36から明確に分かる。スワブを皮膚から採取し、次いで100ppmの標的アニオン標準物を添加して分析したところ、塩化物から十分に分離された3つの標的ピークおよび炭酸塩の後に泳動した未知のピークが示された。この未知のピークについては明らかではなく、皮膚のスワブを採取する場合に一般に存在するものであるが、炭酸塩ピークの後に泳動し、かついずれの標的化合物からも十分に離れているので、このピークの識別が重要であるとは見なされなかった。
【0112】
実際の試料の分析においては塩化物が主要な汚染物質となる可能性が高いため、直近で海水にさらされた皮膚からスワブを採取した影響を試験した(図37)。予想した通り、非常に大きな塩化物ピークが観察され、このピークが硝酸塩および塩素酸塩の泳動時間に影響を及ぼしていずれの泳動時間も数秒短縮させる一方で、2つのピークは依然として明瞭に視認できた。
【0113】
図38図46は、一連の潜在的な実世界の汚染物質の分析を示している。各製品に触れるか、または直接手に塗布した後、スワブを採取してScantexシステムを用いて直接分析した。試料採取は以下のようにして行った。
図38では、手を抗菌性の手洗い用石鹸で洗い、すすいだ。次にスワブを採取し、直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図39では、保湿剤を手に塗布し、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図40では、スタイリングジェルを使用するかのように手に塗布し、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図41では、防虫剤を手に塗布し、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図42では、ベビーパウダーを手に付けて払い落とし、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図43では、シャンプーを使用するかのように手に塗布し、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図44では、コーンチップスを食べるかのように十分に触れ、その後に手のスワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
図46では、制汗剤を直接手に塗布し、スワブを採取した。次に、スワブを直接分析するかまたはスワブに直接加えた10μLの100ppm標的アニオン標準物をスワブに添加した後、Scantexシステムで分析した。
【0114】
5. 現場分析
本システムを、3つの異なる機会に様々な範囲で評価した。最初の試験を場所Aにおいて実施し、この試験には、Scantex SI-CE(無機バックエンドシステムまたは「In-BES」とも呼ばれる)に連結された試料抽出用のフロントエンドシステム(FES)が関与した。他の2つの事例は大学のキャンパス(場所Bおよび場所C)内で発生し、これらの事例には、FESおよびIn-BESを含む完全システムの試験が関与した。
【0115】
5.1 場所Aでの範囲試験
爆発物爆発の訓練が実施されていた場所で、IEDの調製に関わり、爆発にさらされた各個人および試料の直接分析を行った。
【0116】
図47は、場所Aに存在する修正されたシステムを用いた添加済スワブ試料の分析を示している。標的種(硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩)が良好に検出されたことが分かる。さらに、同じスワブの後続の分析は、FESおよびIn-BESの効果的な洗浄を示し、これにより、スワブの3回の洗浄後に標的残留物の大部分を除去することができた。
【0117】
図48は、使用するIEDを調製した後の爆弾技術者の手の湿潤スワブおよび乾燥スワブの分析、および黒色火薬系IEDと共に用いられた検証プレートのうちの1つから採取されたスワブ試料の両方を示している。乾燥スワブを用いた場合に標的残留物は検出されなかったが、爆弾技術者の手の湿潤スワブではIEDのうちの1つを調製している間におそらく用いられた塩素酸塩の痕跡が検出されたことが分かる。
【0118】
予想した通り、黒色火薬系IED検証プレートの湿潤スワブは、Scantexシステムを爆発後分析および爆発前スクリーニングに適用する可能性を強調した硝酸塩についての大きな信号を示している。
【0119】
場所Aの試験の結果は、システムが、IEDの調製に関与したことのある人の塩素酸塩などの標的種を検出することができることを示した。さらに、(場所Bの試験および場所Cの試験で観察されたように)場所Aの試験中にバックグラウンドレベルの硝酸塩が検出されたが、黒色火薬系装置にさらされた検証プレートからスワブ試料を採取した場合に上昇レベルが見られた。
【0120】
5.2 場所Bおよび場所Cでの試験
場所Bおよび場所Cにおける一般集団の各個人のスクリーニングを、Scantexシステムを用いて2日間にわたってそれぞれ2つの異なる場所(場所Bおよび場所C)で行った。衣服および靴の湿潤スワブに関する「無作為の」スクリーニング、およびそれに続くScantexシステムによる分析のために従ってもらうように各個人に要請した。分析結果はその場で出した。
【0121】
5.2.1 場所Bでの試験
5.2.1.1 In-BESの結果
図49は、場所Bの現場試験の初日からいくつか選択されたスクリーニング結果を示している。システムは問題なく動作した。
【0122】
図49は、4人の個人からのスクリーニング結果を示している。各試験を、Milli-Q水で湿潤した新しいスワブを用いて行った。この結果から、非常に類似したレベルの一般的なバックグラウンドイオンの塩化物、炭酸塩、およびより少ないフッ化物が観察されたが、フッ化物のピークはスワブ自体またはスワブを湿らせるために用いられた水中の汚染物のいずれかに起因する可能性が高いことが分かる。ほとんどの試料においてバックグラウンドレベルの硝酸塩も観察されているが、これらのレベルは低く、かつ比較的一貫しているため、定期的なスクリーニングを目的として、限界値を適切に設定し、閾値レベルに違反している場合にのみ「陽性」の結果を返すことが可能である。予想した通り、塩素酸塩または過塩素酸塩はいずれの試料においても検出されなかった。
【0123】
5.2.2 場所Cでの試験
5.2.2.1 In-BESの結果
図50は、場所Cで行われた試験からのスクリーニング結果を選択したものを示している。使用された条件およびプロトコルは先の現場試験と同様であったが、全ての分析について単一のスワブを用いた。この結果から、塩化物、炭酸塩および炭酸塩に続く未知の化学種の一般的なバックグラウンド種が全ての試料に再び存在するが、これらのレベル、特に塩化物のレベルは各個人によって異なることが分かる。試料の多くにおいて硝酸塩が再び観察されたが、先の現場試験と同様に、観測されたレベルは質量で約15pg~75pgの範囲にわたり比較的低かった(図50に示すようにピーク高さに基づいて計算)。どの試料にも、塩素酸塩または過塩素酸塩は見られなかった。
【0124】
図50はまた、試料の実際のスクリーニングおよび空のスワブへの添加の両方に続くその後の分析結果を示している。両方の場合において、スクリーニング間で用いられた洗浄プロトコルがスワブを完全に洗浄するのに十分であり、それぞれの新しい分析の準備が整っていることを示唆するごくわずかな持ち越し汚染が観察されたことが分かる。
【0125】
5.3 場所Bおよび場所Cでの現場試験からの結論
Scantexシステムは3つの現場試験全てにおいて非常に良好に機能し、機器の問題は発生しなかった。
【0126】
場所Bおよび場所Cの現場試験からの予備的バックグラウンド分析の結果は、塩化物および炭酸塩などの干渉種の標準バックグラウンドレベルが、標的種である硝酸塩、塩素酸塩および過塩素酸塩に干渉しないことを示している。当初は考慮されていなかった追加のバックグラウンド種が、標的種の分析について任意の問題を引き起こさないこともまた見出された。干渉種のレベルは、場所Bおよび場所Cの現場試験中に試験された全てのボランティアにわたって比較的一貫していることが見出された。標的種のうち、一般集団では硝酸塩のみが検出されたが、そのレベルは比較的低かったので、スクリーニング手順を実世界の分析に適用する場合に最小閾値を容易に設定することができる。
【0127】
6. 結論および結果
上述の結果および考察は、無機系および過酸化物系の爆発性装置の両方を示す標的種の存在について試験することができるプロトタイプの爆発性残留物スクリーニング装置の開発および試験を概説している。
【0128】
本システムは、1分の時間枠で、無機系で爆発性の残留物(硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩)の存在についてスワブ試料を再現可能に分析することができる。無機性残留物をスクリーニングするのに必要な分析時間を特定の用途に合わせて容易に調整することができるように、システムには柔軟性が残されてきた。
【0129】
Scantexシステムの主な機能は以下の通りである。
無機系の爆発性残留物の存在について任意の表面を簡単に分析する手段を提供する。
スクリーニング時間は現在のところ1~2分程度であるが、比較的簡単に短縮することができる。
コンピュータソフトウェアを用いてシステムを容易に制御することができる。
分析結果はリアルタイムでコンピュータに表示される。
FESおよびIn-BESによる試薬の使用は最小限に抑えられており、FESについては1回の分析につき約4mlの溶液(主に水)を使用し、In-BESについては1回の分析につき約0.3mlの溶液を使用する。
システムの再現性は非常に良好であり、長期間の連続動作を可能にする。
【0130】
6.1 最終システムパラメータ
Scantexシステムのパラメータを表1に示し、結果として得られた分析のタイムラインおよび結果を図51に示す。綿棒で採取した試料の完全分析は、スワブを抽出して、得られた試料をIn-BESに供給するためにFESによって25秒間かけて60秒未満で完了する。分析前にCE T字型から試料溶液を洗浄するために、In-BESはさらに10秒を必要とする。In-BESによる完全分析は25秒以内に完了するが、これは内部標準物(メタンスルホン酸塩)がCEシステムを泳動するのにかかる時間である。図51に示す分析のタイムラインは、60秒未満での無機性IED残留物のスワブに基づく迅速なスクリーニングを提示している。
【0131】
本明細書において先行技術の刊行物を言及した場合、その出版物が当該技術分野において、オーストラリアまたはその他の国において、共通の一般知識の一部を形成することを認めないことが理解されるべきである。
【0132】
文脈上、言語の表現または必要な暗示によって他の意味に解釈すべき場合を除いて、以下の特許請求の範囲および前述した本発明の説明において、「含む」という用語、または「含む」もしくは「含んでいる」という用語などの変形は、包括的な意味で使用されており、すなわち、説明される特徴の存在を特定するが、本発明の種々の実施形態にさらなる特徴を含めるかまたは追加することを排除していない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51