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特許7103715ポリオレフィン微多孔膜、フィルター、クロマトグラフィー担体及びイムノクロマトグラフ用ストリップ
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  • 特許-ポリオレフィン微多孔膜、フィルター、クロマトグラフィー担体及びイムノクロマトグラフ用ストリップ 図1
  • 特許-ポリオレフィン微多孔膜、フィルター、クロマトグラフィー担体及びイムノクロマトグラフ用ストリップ 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜、フィルター、クロマトグラフィー担体及びイムノクロマトグラフ用ストリップ
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20220712BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CES
B01D71/26
G01N33/543 521
G01N33/543 525C
G01N33/545 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018202062
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066716
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】南部 真実
(72)【発明者】
【氏名】幾田 良和
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-90821(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179983(WO,A1)
【文献】特開2011-241361(JP,A)
【文献】特開2003-253026(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047600(WO,A1)
【文献】特開2008-81513(JP,A)
【文献】特表2009-516046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
B29C44/00-44/60;67/20-67/20
B01D53/22;61/00-71/82
G01N33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(1)及び式(2)を満足する、ポリオレフィン微多孔膜。
式(1):0.7≦τ/τ≦1.5
式(2):0.7≦τ/τ≦1.5
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における曲路率。
【請求項2】
膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(3)及び式(4)を満足する、ポリオレフィン微多孔膜。
式(3):0.5≦T/T≦2.0
式(4):0.5≦T/T≦2.0
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における透過性指標。
【請求項3】
バブルポイント圧が0.001MPa以上0.1MPa未満である、請求項1又は請求項2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
エタノール流量(mL/(min・cm・MPa))と膜厚(μm)とを乗算した値が5万~50万である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
単位厚さ当たりのガーレ値が0.0005秒/100mL・μm~0.1秒/100mL・μmである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
空孔率が70%~95%である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
親水性のポリオレフィン微多孔膜であり、少なくとも一方の面において滴下1秒後の水の接触角が0度~90度である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
前記親水性のポリオレフィン微多孔膜は、膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に親水性材料を有する、請求項7に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項9】
前記親水性のポリオレフィン微多孔膜は、膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に物理的に親水化処理が施されたポリオレフィン微多孔膜である、請求項7又は請求項8に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜を含むフィルター。
【請求項11】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜を含むクロマトグラフィー担体。
【請求項12】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜に設けられた検出部であって、被検出物質と特異的に結合する検出試薬が固定された検出部と、
を含むイムノクロマトグラフ用ストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜、フィルター、クロマトグラフィー担体及びイムノクロマトグラフ用ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、厚さ1~350μm、空孔率25~90%、バブルポイント1~10kg/cm 、透水量が1000リットル/hr・m・atm以上、表面の水滴接触角が100゜以下である改質ポリオレフィン多孔膜が開示されている。
特許文献2には、平均フィブリル径が40~80nm、細孔の平均孔径が15~50nmであるポリオレフィン微多孔膜が開示されている。
特許文献3には、水蒸気透過量が4000~10000g/m/24hrであり、耐水圧が30kPa以上であるポリオレフィン微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-246322号公報
【文献】特開2010-53245号公報
【文献】特開2014-61505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリオレフィン微多孔膜は、物質の分離、精製又は検出等を目的に、フィルター、クロマトグラフィー担体等として用いられることがある。物質の分離又は精製の精度又は速度を向上させるために、面方向と厚さ方向とにおいて多孔質構造の差異が小さく、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜が求められている。
【0005】
本開示の実施形態は上記状況のもとになされた。
本開示の実施形態は、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜を提供することを目的とし、これを解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
[1] 膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(1)及び式(2)を満足する、ポリオレフィン微多孔膜。
式(1):0.7≦τ/τ≦1.5
式(2):0.7≦τ/τ≦1.5
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における曲路率。
[2] 膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(3)及び式(4)を満足する、ポリオレフィン微多孔膜。
式(3):0.5≦T/T≦2.0
式(4):0.5≦T/T≦2.0
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における透過性指標。
[3] バブルポイント圧が0.001MPa以上0.1MPa未満である、[1]又は[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[4] エタノール流量(mL/(min・cm・MPa))と膜厚(μm)とを乗算した値が5万~50万である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[5] 単位厚さ当たりのガーレ値が0.0005秒/100mL・μm~0.1秒/100mL・μmである、[1]~[4]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6] 空孔率が70%~95%である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7] 親水性のポリオレフィン微多孔膜であり、少なくとも一方の面において滴下1秒後の水の接触角が0度~90度である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[8] 前記親水性のポリオレフィン微多孔膜は、膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に親水性材料を有する、[7]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[9] 前記親水性のポリオレフィン微多孔膜は、膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に物理的に親水化処理が施されたポリオレフィン微多孔膜である、[7]又は[8]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[10][1]~[9]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜を含むフィルター。
[11][1]~[9]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜を含むクロマトグラフィー担体。
[12][1]~[9]のいずれかに記載のポリオレフィン微多孔膜と、前記ポリオレフィン微多孔膜に設けられた検出部であって、被検出物質と特異的に結合する検出試薬が固定された検出部と、を含むイムノクロマトグラフ用ストリップ。
【発明の効果】
【0008】
本開示の実施形態によれば、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】イムノクロマトグラフ用ストリップの構成を示した模式図である。
図2A】実施例1のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像である。
図2B】実施例2のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像である。
図2C】実施例3のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像である。
図2D】比較例1のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像である。
図2E】比較例2のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像である。
図3】実施例2及び比較例1における吸光度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。本開示において述べる作用機序は推定を含んでおり、その正否は発明の範囲を制限するものではない。
【0011】
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0012】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。
【0013】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
本開示において、「機械方向」とは、長尺状に製造される膜、フィルム又はシートにおいて長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「機械方向」に直交する方向を意味する。本開示において、「機械方向」を「MD方向」ともいい、「幅方向」を「TD方向」ともいう。
【0017】
<ポリオレフィン微多孔膜>
本開示は、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【0018】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜とは、フィブリル状のポリオレフィンが三次元ネットワーク構造を形成し、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0019】
本開示は、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜として、第一のポリオレフィン微多孔膜と第二のポリオレフィン微多孔膜とを開示する。
【0020】
第一のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(1)及び式(2)を満足する。
【0021】
式(1):0.7≦τ/τ≦1.5
式(2):0.7≦τ/τ≦1.5
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における曲路率。
τ:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における曲路率。
【0022】
ここでポリオレフィン微多孔膜の第一の面とは、ポリオレフィン微多孔膜が有する2つの主面(例えば一方の面を表面と定義した場合、表面および裏面が2つの主面に相当)の一方を指す。ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った方向は、ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向と直交する。したがって、上記第一の方向と、上記第二の方向と、上記厚さ方向とは、互いに直交する。
【0023】
本開示において曲路率(Tortuosity)とは、流体が流れる流路が最短距離に対してどれだけ迂回しているかを表す指標であり、流路が迂回しているほど曲路率は大きい。
【0024】
第一のポリオレフィン微多孔膜は、式(1)と式(2)とを同時に満たすことにより、物質移動の等方性に優れる。ポリオレフィン微多孔膜においてτ/τ又はτ/τが0.7未満であると、流路の迂回の程度が厚さ方向において大きすぎ、厚さ方向に流体が行きわたりにくい。ポリオレフィン微多孔膜においてτ/τ又はτ/τが1.5超であると、流路の迂回の程度が面方向において大きすぎ、面方向に流体が行きわたりにくい。
【0025】
第一のポリオレフィン微多孔膜は、物質移動の等方性により優れる観点から、式(1’):0.75≦τ/τ≦1.3を満足することが好ましく、式(1''):0.8≦τ/τ≦1.1を満足することがより好ましい。
【0026】
第一のポリオレフィン微多孔膜は、物質移動の等方性により優れる観点から、式(2’):0.75≦τ/τ≦1.3を満足することが好ましく、式(2''):0.8≦τ/τ≦1.1を満足することがより好ましい。
【0027】
第一のポリオレフィン微多孔膜は、式(1)と式(2’)とを同時に満たすことが好ましく、式(1)と式(2'')とを同時に満たすことがより好ましい。
第一のポリオレフィン微多孔膜は、式(1’)と式(2)とを同時に満たすことが好ましく、式(1’)と式(2’)とを同時に満たすことがより好ましく、式(1’)と式(2'')とを同時に満たすことが更に好ましい。
第一のポリオレフィン微多孔膜は、式(1'')と式(2)とを同時に満たすことが好ましく、式(1'')と式(2’)とを同時に満たすことがより好ましく、式(1'')と式(2'')とを同時に満たすことが更に好ましい。
【0028】
τの値は、特に制限されるものではないが、1.2~2.0が好ましく、1.2~1.8がより好ましく、1.4~1.7が更に好ましい。
τの値は、特に制限されるものではないが、1.2~2.0が好ましく、1.2~1.8がより好ましく、1.4~1.7が更に好ましい。
τの値は、特に制限されるものではないが、1.3~2.1が好ましく、1.5~2.0がより好ましく、1.6~1.9が更に好ましい。
【0029】
第二のポリオレフィン微多孔膜は、膜厚が1μm~400μmであり、下記の式(3)及び式(4)を満足する。
【0030】
式(3):0.5≦T/T≦2.0
式(4):0.5≦T/T≦2.0
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った第一の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿い且つ第一の方向に直交する第二の方向における透過性指標。
:ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向における透過性指標。
【0031】
ここでポリオレフィン微多孔膜の第一の面とは、ポリオレフィン微多孔膜が有する2つの主面(例えば一方の面を表面と定義した場合、表面および裏面が2つの主面に相当)の一方を指す。ポリオレフィン微多孔膜の第一の面に沿った方向は、ポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向と直交する。したがって、上記第一の方向と、上記第二の方向と、上記厚さ方向とは、互いに直交する。
【0032】
本開示において透過性指標(Permeability)とは、流体が流れる流路について流体の流れやすさを示す指標であり、流体が流れやすい流路であるほど透過性指標が大きい。本開示において透過性指標は、ダルシー・ワイスバッハの式から導かれる湿潤面積であり、長さの2乗(μm)を単位とする。
ダルシー・ワイスバッハの式:k=QμL/ΔPA
k:透過性指標(μm
Q:単位時間当たりの流出水量(μm/s)
μ:流体の粘度(Pa・s)
L:流路の長さ(μm)
ΔP:圧力差(Pa)
A:断面積(μm
【0033】
第二のポリオレフィン微多孔膜は、式(3)と式(4)とを同時に満たすことにより、物質移動の等方性に優れる。ポリオレフィン微多孔膜においてT/T又はT/Tが0.5未満であると、面方向に比べて厚さ方向に流体が流れすぎて、面方向に流体が行きわたりにくい。ポリオレフィン微多孔膜においてT/T又はT/Tが2.0超であると、厚さ方向に比べて面方向に流体が流れすぎて、厚さ方向に流体が行きわたりにくい。
【0034】
第二のポリオレフィン微多孔膜は、物質移動の等方性により優れる観点から、式(3’):0.8≦T/T≦2.0を満足することが好ましく、式(3''):0.9≦T/T≦1.9を満足することがより好ましい。
【0035】
第二のポリオレフィン微多孔膜は、物質移動の等方性により優れる観点から、式(4’):0.75≦T/T≦1.5を満足することが好ましく、式(4''):0.8≦T/T≦1.1を満足することがより好ましい。
【0036】
第二のポリオレフィン微多孔膜は、式(3)と式(4’)とを同時に満たすことが好ましく、式(3)と式(4'')とを同時に満たすことがより好ましい。
第二のポリオレフィン微多孔膜は、式(3’)と式(4)とを同時に満たすことが好ましく、式(3’)と式(4’)とを同時に満たすことがより好ましく、式(3’)と式(4'')とを同時に満たすことが更に好ましい。
第二のポリオレフィン微多孔膜は、式(3'')と式(4)とを同時に満たすことが好ましく、式(3'')と式(4’)とを同時に満たすことがより好ましく、式(3'')と式(4'')とを同時に満たすことが更に好ましい。
【0037】
の値は、特に制限されるものではないが、0.4~3.0が好ましく、0.5~2.5がより好ましく、1.0~2.0が更に好ましい。
の値は、特に制限されるものではないが、0.2~2.0が好ましく、0.3~1.9がより好ましく、0.5~1.8が更に好ましい。
の値は、特に制限されるものではないが、0.2~2.0が好ましく、0.3~1.9がより好ましく、0.5~1.8が更に好ましい。
【0038】
ポリオレフィン微多孔膜の曲路率及び透過性指標の測定方法を説明する。
【0039】
ポリオレフィン微多孔膜をX線コンピュータ断層撮影(X線CT)にかけ、サンプルを0°~180°回転させながらX線透過像の撮像を行い、得られた画像データから内部構造の三次元像をコンピュータで再構築する。再構築した三次元像を画像処理ソフトウェアImageJにて画像変換し、3平面(XY平面、XZ平面、YZ平面)それぞれについて0.26μm/pixelピッチの断面シークエンスデータを得る。X線CTのスキャニング方向によるが必要であれば、得られたシークエンスデータから、三面図のZ方向がポリオレフィン微多孔膜の厚さ方向に一致するように前記シークエンスデータの軸方向を画像処理ソフトウェアImageJにて変換する。また必要に応じて、画像処理ソフトウェアImageJにて三面図を作製する。三面図のX方向及びY方向は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン微多孔膜のMD方向及びTD方向又はTD方向及びMD方向とそれぞれ一致させる。
次いで、得られたシークエンスデータから、X方向に300μm且つY方向に300μmのデータを取り出し、Z方向に、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚に応じた長さ(μm)のデータを取り出す。解析精度を上げる観点からは、Z方向に上下それぞれ数μm(例えば、上下それぞれ5μm)のデータを除き、Z方向の中央部分のデータを取り出すことが好ましい。
上記の寸法にて取り出したシークエンスデータを、画像解析ソフトウェアAvizoに取り込んだ後、0.26μm/voxelの三次元データに変換し、同ソフトウェアを用いて空隙の抽出を行う。その際、ノイズの除去を行うことが好ましい(例えば、X線CTを撮影する際の反射及び散乱によるノイズとして、50voxel以下の体積のドットを除去する。)。そして、画像解析ソフトウェアAvizoのPore network解析機能を用いて、X方向、Y方向、Z方向それぞれに、直近の空隙の中心どうしを順につないでネットワークを構築し、且つ直近の空隙どうしの接触面積をパラメータとして取得する。そして、X方向、Y方向、Z方向それぞれに、一定の単位時間当たりの流出水量で流体を流すシミュレーションを行い、ネットワークの複雑さ及び透過性を解析する。取り出したデータのうち、流体を流す方向の長さを流路の長さ、流体を流す方向と直交する平面の面積を断面積とする。シミュレーションの条件は、流体の粘度:0.001Pa・s、入口圧:130MPa、出口圧:100MPaであり、入口と出口の圧力差は30MPaである。
ネットワークの解析結果から、X方向、Y方向及びZ方向それぞれの曲路率であるτ、τ及びτと、X方向、Y方向及びZ方向それぞれの透過性指標であるT、T及びTとを得る。曲路率は、一方の面から他方の面へとつながるネットワークの長さを、該ネットワークの始点と終点とを結ぶ最短距離で除算した値の平均値である。透過性指標は、ダルシー・ワイスバッハの式から導かれる係数である。ダルシー・ワイスバッハの式において、Qに単位時間当たりの流出水量を、μに流体の粘度を、Lに流路の長さを、ΔPに圧力差を、Aに断面積をそれぞれ代入し、係数kを求める。
【0040】
第一のポリオレフィン微多孔膜と第二のポリオレフィン微多孔膜とについて、さらに詳細に説明する。第一のポリオレフィン微多孔膜と第二のポリオレフィン微多孔膜に共通する事項については、本開示のポリオレフィン微多孔膜と総称して説明する。
【0041】
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、疎水性でもよく、親水性でもよい。ポリオレフィンは疎水性の樹脂であるので、ポリオレフィン微多孔膜そのものは疎水性である。本開示のポリオレフィン微多孔膜は、親水化処理を施さない疎水性ポリオレフィン微多孔膜でもよく、親水化処理により親水性を付与されたポリオレフィン微多孔膜でもよい。ポリオレフィン微多孔膜の親水化処理の方法の詳細は後述する。
【0042】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜が親水性であるとは、少なくとも一方の面において、滴下1秒後の水の接触角が90度以下であることを意味する。滴下1秒後の水の接触角は、後述する測定方法によって測定される値である。
【0043】
次に、本開示のポリオレフィン微多孔膜における曲路率及び透過性指標以外のその他の特性について説明する。疎水性ポリオレフィン微多孔膜と親水性ポリオレフィン微多孔膜に共通する特性については、単に「ポリオレフィン微多孔膜」と記載して特性を説明する。
【0044】
[膜厚]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、1μm~400μmが適当であり、当該範囲内で用途に応じて選択してよく、例えば、10μm~300μmであり、20μm~250μmであり、30μm~200μmであり、40μm~150μmである。
【0045】
[バブルポイント圧]
本開示のポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は、用途に応じて選択してよく、例えば、0.001MPa以上0.1MPa未満であり、0.005MPa~0.08MPaであり、0.007MPa~0.05MPaである。
本開示においてポリオレフィン微多孔膜のバブルポイント圧は、ポリオレフィン微多孔膜をエタノールに浸漬し、JIS K3832:1990のバブルポイント試験方法に従って、ただし、試験時の液温を24±2℃に変更し、印加圧力を昇圧速度2kPa/秒で昇圧しながらバブルポイント試験を行って求める値である。
【0046】
[エタノール流量]
本開示のポリオレフィン微多孔膜のエタノール流量は、用途に応じて選択してよい。本開示のポリオレフィン微多孔膜は、エタノール流量(mL/(min・cm・MPa))と膜厚(μm)とを乗算した値が、例えば、5万~50万であり、8万~40万であり、10万~30万である。
【0047】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜のエタノール流量(mL/(min・cm・MPa)は、一定の透液面積(cm)を有する透液セルにセットしたポリオレフィン微多孔膜に、一定の差圧(kPa)でエタノール100mLを透過させて、エタノール100mLが透過するのに要する時間(sec)を測定し、単位換算して求める。
【0048】
[ガーレ値]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の単位厚さ当たりのガーレ値(秒/100mL・μm)は、用途に応じて選択してよく、例えば、0.0005~0.1であり、0.005~0.05であり、0.01~0.03である。本開示においてポリオレフィン微多孔膜のガーレ値は、JIS P8117:2009に従って測定した値である。
【0049】
[空孔率]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、用途に応じて選択してよく、例えば、70%~95%であり、75%~93%であり、80%~92%である。
【0050】
本開示においてポリオレフィン微多孔膜の空孔率(%)は、下記の式により求める。
空孔率(%)={1-(Wa/xa+Wb/xb+Wc/xc+…+Wn/xn)/t}×100
ここに、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料がa、b、c、…、nであり、前記構成材料の質量がそれぞれWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、前記構成材料の真密度がそれぞれxa、xb、xc、…、xn(g/cm)であり、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚がt(cm)である。
【0051】
[平均流量孔径]
本開示のポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径は、用途に応じて選択してよく、例えば、0.02μm~5μmであり、0.05μm~4μmであり、0.1μm~3.5μmである。
【0052】
ポリオレフィン微多孔膜の平均流量孔径は、PMI社のパームポロメーター(型式:CFP-1200-AEXL)を用い、浸液にPMI社製のガルウィック(表面張力15.9dyn/cm)を用いて、ASTM E1294-89に規定するハーフドライ法に基づき求める。
【0053】
[BET比表面積]
本開示のポリオレフィン微多孔膜のBET比表面積は、用途に応じて選択してよく、例えば、1m/g~30m/gであり、2m/g~25m/gであり、3m/g~20m/gである。
【0054】
ポリオレフィン微多孔膜のBET比表面積は、マイクロトラック・ベル株式会社の比表面積測定装置(型式:BELSORP-mini)を用い、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法にて、設定相対圧:1.0×10-3~0.35の吸着等温線を測定し、BET法で解析して求めた値である。
【0055】
[突刺強度]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、単位厚さ当たりの突刺強度が、例えば、0.05g/μm~1.5g/μmであり、0.07g/μm~1.2g/μmであり、0.08g/μm~1.0g/μmである。
【0056】
ポリオレフィン微多孔膜の単位厚さ当たりの突刺強度は、針貫通試験(針:先端の曲率半径0.5mm、突刺速度:320mm/分)を行って最大突刺荷重(g)を測定し、最大突刺荷重をポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)で除算して求める。
【0057】
[水の接触角]
本開示のポリオレフィン微多孔膜が親水性ポリオレフィン微多孔膜である場合、少なくとも一方の面において、滴下1秒後の水の接触角が0度~90度である。本開示のポリオレフィン微多孔膜が親水性ポリオレフィン微多孔膜である場合、両面において、滴下1秒後の水の接触角が0度~90度であることが好ましい。親水性ポリオレフィン微多孔膜の表面における滴下1秒後の水の接触角は、用途に応じて選択してよく、例えば、1度~80度であり、3度~70度であり、5度~60度である。
【0058】
本開示のポリオレフィン微多孔膜の表面について、滴下1秒後の水の接触角は、下記の測定方法によって測定される値である。
温度24℃且つ相対湿度60%の雰囲気にて、ポリオレフィン微多孔膜の表面に注射器で1μLの水滴を落とし、滴下1秒後の水の静的接触角を、全自動接触角計を用いてθ/2法により測定する。
【0059】
[ポリオレフィン]
本開示のポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレンとポリエチレンとの共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物等が好適である。ポリオレフィン微多孔膜としては、含まれるポリオレフィンがポリエチレンのみであるポリエチレン微多孔膜が好適である。
【0060】
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン組成物(本開示において、2種以上のポリオレフィンを含むポリオレフィンの混合物を意味し、含まれるポリオレフィンがポリエチレンのみである場合はポリエチレン組成物という。)を含むことが好ましい。ポリオレフィン組成物は、延伸時のフィブリル化に伴ってネットワーク構造を形成し、ポリオレフィン微多孔膜の空孔率を増加させる効用がある。
【0061】
ポリオレフィン組成物としては、重量平均分子量が9×10以上である超高分子量ポリエチレンを、ポリオレフィンの総量に対して、3質量%~15質量%含むポリオレフィン組成物が好ましく、5質量%~10質量%含むポリオレフィン組成物がより好ましく、5質量%~8質量%含むポリオレフィン組成物が更に好ましい。
【0062】
ポリオレフィン組成物は、重量平均分子量が9×10以上である超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が2×10~8×10で密度が0.92g/cm~0.96g/cmである高密度ポリエチレンとが、質量比3:97~15:85(より好ましくは5:95~10:90、更に好ましくは5:95~8:92)で混合したポリオレフィン組成物であることが好ましい。
【0063】
ポリオレフィン組成物は、ポリオレフィン全体の重量平均分子量が2×10~2×10であることが好ましい。
【0064】
本開示のポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィンの重量平均分子量は、ポリオレフィン微多孔膜をo-ジクロロベンゼン中に加熱溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(システム:Waters社製 Alliance GPC 2000型、カラム:GMH6-HT及びGMH6-HTL)により、カラム温度135℃、流速1.0mL/分の条件にて測定を行うことで得られる。分子量の校正には分子量単分散ポリスチレン(東ソー社製)を用いる。
【0065】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、例えば、下記の工程(I)~(IV)を含む製造方法で製造することができる。
【0066】
工程(I):ポリオレフィン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調製する工程。
工程(II):前記溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程。
工程(III):前記第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し且つ溶剤の乾燥を行い第二のゲル状成形物を得る工程。
工程(IV):前記第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程。
【0067】
工程(I)~(IV)の各条件を制御することにより、等方性に優れた多孔質構造を有し、物質移動の等方性に優れたポリオレフィン微多孔膜を製造することが可能になる。
【0068】
工程(I)は、ポリオレフィン組成物と大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤とを含む溶液を調製する工程である。前記溶液は、好ましくは熱可逆的ゾルゲル溶液であり、ポリオレフィン組成物を溶剤に加熱溶解させることによりゾル化させ、熱可逆的ゾルゲル溶液を調製する。大気圧における沸点が210℃未満の揮発性の溶剤としてはポリオレフィンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されない。前記揮発性の溶剤としては、例えば、テトラリン(206℃~208℃)、エチレングリコール(197.3℃)、デカリン(デカヒドロナフタレン、187℃~196℃)、トルエン(110.6℃)、キシレン(138℃~144℃)、ジエチルトリアミン(107℃)、エチレンジアミン(116℃)、ジメチルスルホキシド(189℃)、ヘキサン(69℃)等が挙げられ、デカリン又はキシレンが好ましい(括弧内の温度は、大気圧における沸点である。)。前記揮発性の溶剤は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
工程(I)に使用するポリオレフィン組成物(本開示において、2種以上のポリオレフィンを含むポリオレフィンの混合物を意味し、含まれるポリオレフィンがポリエチレンのみである場合はポリエチレン組成物という。)は、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレン組成物であることがより好ましい。
【0070】
工程(I)において調製する溶液は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造の等方性を制御する観点から、ポリオレフィン組成物の濃度が10質量%~40質量%であることが好ましく、15質量%~35質量%であることがより好ましい。ポリオレフィン組成物の濃度が10質量%以上であると、ポリオレフィン微多孔膜の製膜工程において切断の発生を抑制することができ、また、ポリオレフィン微多孔膜の力学強度が高まりハンドリング性が向上する。ポリオレフィン組成物の濃度が40質量%以下であると、ポリオレフィン微多孔膜の空孔が形成されやすい。
【0071】
工程(II)は、工程(I)で調製した溶液を溶融混練し、得られた溶融混練物をダイより押し出し、冷却固化して第一のゲル状成形物を得る工程である。工程(II)は、例えば、ポリオレフィン組成物の融点~融点+65℃の温度範囲においてダイより押し出して押出物を得、次いで前記押出物を冷却して第一のゲル状成形物を得る。第一のゲル状成形物はシート状に賦形することが好ましい。冷却は、水又は有機溶媒への浸漬によって行ってもよいし、冷却された金属ロールへの接触によって行ってもよく、一般的には工程(I)に使用した揮発性の溶剤への浸漬によって行われる。
【0072】
工程(III)は、第一のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(一次延伸)し且つ溶剤の乾燥を行い第二のゲル状成形物を得る工程である。工程(III)の延伸工程は、二軸延伸が好ましく、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸でもよく、縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸でもよい。一次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造の等方性を制御する観点から、1.1倍~3倍が好ましく、延伸時の温度は75℃以下が好ましい。工程(III)の乾燥工程は第二のゲル状成形物が変形しない温度であれば特に制限なく実施されるが、60℃以下で行われることが好ましい。
【0073】
工程(III)の延伸工程と乾燥工程とは、同時に行ってもよく、段階的に行ってもよい。例えば、予備乾燥しながら一次延伸し、次いで本乾燥を行ってもよいし、予備乾燥と本乾燥との間に一次延伸を行ってもよい。一次延伸は、乾燥を制御し、溶剤を好適な状態に残存させた状態でも行うことができる。
【0074】
工程(IV)は、第二のゲル状成形物を少なくとも一方向に延伸(二次延伸)する工程である。工程(IV)の延伸工程は、二軸延伸が好ましい。工程(IV)の延伸工程は、縦延伸と横延伸とを別々に実施する逐次二軸延伸;縦延伸と横延伸とを同時に実施する同時二軸延伸;縦方向に複数回延伸した後に横方向に延伸する工程;縦方向に延伸し横方向に複数回延伸する工程;逐次二軸延伸した後にさらに縦方向及び/又は横方向に1回又は複数回延伸する工程;のいずれでもよい。
【0075】
二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造の等方性を制御する観点から、好ましくは2倍~25倍であり、より好ましくは5倍~20倍であり、更に好ましくは8倍~15倍である。二次延伸の延伸温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造の等方性を制御する観点から、90℃~135℃が好ましく、90℃~125℃がより好ましい。
【0076】
工程(IV)に次いで熱固定処理を行ってもよい。熱固定温度は、ポリオレフィン微多孔膜の多孔質構造の等方性を制御する観点から、120℃~150℃が好ましく、125℃~140℃がより好ましい。
【0077】
熱固定処理の後にさらに、ポリオレフィン微多孔膜に残存している溶媒の抽出処理とアニール処理とを行ってもよい。残存溶媒の抽出処理は、例えば、熱固定処理後のシートを塩化メチレン浴に浸漬させて、塩化メチレンに残存溶媒を溶出させることにより行う。塩化メチレン浴に浸漬したポリオレフィン微多孔膜は、塩化メチレン浴から引き揚げた後、塩化メチレンを乾燥によって除去することが好ましい。アニール処理は、残存溶媒の抽出処理の後に、ポリオレフィン微多孔膜を例えば100℃~140℃に加熱したローラー上を搬送することで行う。
【0078】
ポリオレフィン微多孔膜における曲路率を式(1)及び式(2)の範囲に制御する方法としては、二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)を2倍~25倍の範囲にすることが挙げられる。
【0079】
ポリオレフィン微多孔膜における透過性指標を式(3)及び式(4)の範囲に制御する方法としては、二次延伸の延伸倍率(縦延伸倍率と横延伸倍率の積)を2倍~25倍の範囲にすることが挙げられる。ポリオレフィン組成物に含まれる超高分子量ポリエチレンの質量割合が大きいほど、T、T及びTの値が小さくなる傾向がある。
【0080】
[ポリオレフィン微多孔膜の親水化処理]
疎水性ポリオレフィン微多孔膜を親水化する処理方法としては、例えば、疎水性ポリオレフィン微多孔膜の膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に親水性材料を付与する方法、又は、疎水性ポリオレフィン微多孔膜の膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に物理的に親水化処理を施す方法が挙げられる。
【0081】
疎水性ポリオレフィン微多孔膜の膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に親水性材料を付与する方法としては、具体的には例えば、界面活性剤又は親水性材料のコーティング、親水性モノマーのグラフト重合が挙げられる。
【0082】
疎水性ポリオレフィン微多孔膜を親水化する界面活性剤は、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤のいずれでもよい。陽イオン系界面活性剤としては、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニウム、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。陰イオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。中でもアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。両性イオン系界面活性剤としては、アルキルベタイン系化合物、イミダゾリン系化合物、アルキルアミンオキサイド、ビスオキシボレート系化合物等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0083】
疎水性ポリオレフィン微多孔膜をコーティングする親水性材料としては、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレン-ポリビニルアルコール共重合体、ポリウレタン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0084】
疎水性ポリオレフィン微多孔膜の表面にグラフト重合する親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルアルコール、N-ビニル-2-ピロリドン、ビニルスルホン酸等が挙げられる。
【0085】
疎水性ポリオレフィン微多孔膜の膜表面及び空孔内表面の少なくとも一方に物理的に親水化処理を施す方法としては、具体的には例えば、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射、電子線照射が挙げられる。
【0086】
<ポリオレフィン微多孔膜の用途>
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、例えば、流体(すなわち、気体又は液体)に分散又は溶解している物質の分離、精製、濃縮、分画、検出等の目的に使用される。本開示の親水性複合膜の用途としては、例えば、気液分離、浄水、除菌、海水淡水化、人工透析、医薬品製造、食品製造、医療機器、体外診断薬、体外診断機器等に用いるフィルター;クロマトグラフィー担体;などが挙げられる。
【0087】
クロマトグラフィー担体はクロマトグラフィーの固定相である。クロマトグラフィー及びクロマトグラフィー担体は公知であり、公知のあらゆる形態を適用して、本開示のポリオレフィン微多孔膜を含むクロマトグラフィー担体を構成してよい。
【0088】
本開示のポリオレフィン微多孔膜を含むクロマトグラフィー担体のより具体的な形態例として、イムノクロマトグラフ用ストリップ(immunochromatographic strip)に含まれるクロマトグラフィー担体が挙げられる。本開示のポリオレフィン微多孔膜を適用したイムノクロマトグラフ用ストリップの形態例として、下記の形態が挙げられる。
【0089】
本開示のポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜に設けられた検出部であって、被検出物質と特異的に結合する検出試薬が固定された検出部と、
を含むイムノクロマトグラフ用ストリップ。
【0090】
本開示のポリオレフィン微多孔膜は、本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップにおいて、クロマトグラフィー担体(固定相)として機能する。本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップにおいては、クロマトグラフィー担体(すなわち本開示のポリオレフィン微多孔膜)を液体状のサンプルが移動し、液体状のサンプルに含まれる被検出物質が検出部に濃縮され、目視又は機器を用いて検出される。
【0091】
イムノクロマトグラフ用ストリップの好ましい実施形態は、
被検出物質を含有する可能性のある液体状のサンプルを受け入れるサンプルパッドと、
前記被検出物質と特異的に結合する標識物質を含有するコンジュゲートパッドと、
前記被検出物質と特異的に結合する検出試薬が固定された本開示のポリオレフィン微多孔膜と、を備える。
【0092】
図1に、本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップの実施形態例を示す。イムノクロマトグラフ用ストリップAは、展開方向(図1において矢印Xで示す方向)の上流から下流に向かって、滴下されたサンプルを受け入れるサンプルパッド2、標識物質を含有するコンジュゲートパッド3、検出試薬が固定されたクロマトグラフィー担体1、余分なサンプルを吸収する吸収パッド4がこの順に、樹脂製の支持体5上に固定されて構成されている。
【0093】
クロマトグラフィー担体1は、本開示のポリオレフィン微多孔膜と、当該ポリオレフィン微多孔膜に設けられた検出部11とを備える。検出部11は、被検出物質と特異的に結合する検出試薬が固定された領域である。本開示のポリオレフィン微多孔膜は、フィルムによる裏打ち加工が行われた上で、クロマトグラフィー担体1として用いられることが好ましい。
【0094】
クロマトグラフィー担体1は、本開示のポリオレフィン微多孔膜を含む。クロマトグラフィー担体1の一例においては、本開示のポリオレフィン微多孔膜のTD方向と、サンプルの展開方向(図1において矢印Xで示す方向)とが一致する。クロマトグラフィー担体1の別の一例においては、本開示のポリオレフィン微多孔膜のMD方向と、サンプルの展開方向(図1において矢印Xで示す方向)とが一致する。
【0095】
検出部11の一例は、図1に示すように、ポリオレフィン微多孔膜の任意の位置において、展開方向に直交する方向に直線状に形成されている。検出部11は、ポリオレフィン微多孔膜の任意の位置において、円形のスポット、数字、文字、記号(例えば、+、-)等の形状に形成されていてもよい。
【0096】
クロマトグラフィー担体1は、検出部11の下流に、標識物質に特異的に結合するコントロール用物質を固定した領域であるコントロール部をさらに備えていてもよい。クロマトグラフィー担体1が検出部11の下流にコントロール部を有する場合、サンプルが検出部11を通過した後にコントロール部へ移動すると、検出部11に捕捉されない標識物質(つまり、被検出物質が結合していない標識物質)がコントロール用物質に特異的に結合することにより、コントロール部に標識物質が濃縮される。これにより、目視又は適当な機器を用いてコントロール部までサンプルが移動したことを確認でき、検査の完了を把握できる。
【0097】
イムノクロマトグラフ用ストリップは公知であり、公知のあらゆる形態を適用して、イムノクロマトグラフ用ストリップAを構成してよい。イムノクロマトグラフ用ストリップAに含まれる各部材の材料、イムノクロマトグラフ用ストリップAの検査対象となる被検出物質、被検出物質を含むサンプル、クロマトグラフィー担体1に固定される検出試薬及びコントロール用物質、コンジュゲートパッド3に含まれる標識物質には、公知のあらゆる形態を適用してよい。
【0098】
被検出物質を含むサンプルを構成する媒体が水性媒体である場合、イムノクロマトグラフ用ストリップAが備える本開示のポリオレフィン微多孔膜は、親水性ポリオレフィン微多孔膜であることが好ましい。本開示の親水性ポリオレフィン微多孔膜がイムノクロマトグラフ用ストリップAを構成する際、親水性ポリオレフィン微多孔膜における滴下1秒後の水の接触角が0度~90度である面が、被検出物質を含有する可能性のある液体状のサンプルを受容する側の面になる。
【0099】
本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップは検査精度に優れる。その機構は下記のように推測される。
一般的に検出部は、検出試薬を含有する液体組成物をクロマトグラフィー担体に塗布することによりクロマトグラフィー担体の一部に設けられる。この際に、従来のポリオレフィン微多孔膜においては液体組成物が厚さ方向に比べて面方向に流れやすく、その結果、検出部の面積が広がり、検出部に含まれる検出試薬の濃度が期待値よりも低くなる。
一方、物質移動の等方性に優れる本開示のポリオレフィン微多孔膜においては、検出試薬を含有する液体組成物が面方向と同程度に厚さ方向にも流れるので、検出部の面積の広がりが抑えられ、検出部に含まれる検出試薬の濃度が期待値に近い濃度になる。本開示のポリオレフィン微多孔膜に形成された検出部は、検出試薬の濃度が期待値に近い濃度であるので、本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップは検査精度に優れる。
【0100】
本開示のイムノクロマトグラフ用ストリップは、検査完了に要する時間が短い。その機構は下記のように推測される。
検出部はクロマトグラフィー担体の厚さ方向に深さをもって形成されているので、検出部に含まれる検出試薬と被検出物質との特異的結合が飽和するには、被検出物質がクロマトグラフィー担体の厚さ方向全体にわたって検出部に到達することを要する。
ところが、従来のポリオレフィン微多孔膜においては移動相が厚さ方向に比べて面方向に流れやすく、移動相が厚さ方向に行きわたるのに時間を要するので、被検出物質が厚さ方向全体にわたって検出部に到達するのに時間を要する。したがって、従来のポリオレフィン微多孔膜においては、検出部に含まれる検出試薬と被検出物質との特異的結合が飽和するのに時間を要し、検査完了に要する時間が長くなる。
一方、物質移動の等方性に優れる本開示のポリオレフィン微多孔膜においては移動相が面方向と同程度に厚さ方向にも流れるので、被検出物質が厚さ方向全体にわたって検出部に到達する時間が短縮される。したがって、本開示のポリオレフィン微多孔膜においては、検出部に含まれる検出試薬と被検出物質との特異的結合が飽和する時間が短縮され、検査完了に要する時間が短くなる。
【実施例
【0101】
以下に実施例を挙げて、本開示のポリオレフィン微多孔膜をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本開示のポリオレフィン微多孔膜の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0102】
<ポリオレフィン微多孔膜の作製>
[実施例1]
重量平均分子量460万の超高分子量ポリエチレン(以下「UHMWPE」という。)2.5質量部と、重量平均分子量56万且つ密度950kg/mの高密度ポリエチレン(以下「HDPE」という。)22.5質量部とを混合したポリエチレン組成物を用意した。ポリマー濃度が25質量%となるようにポリエチレン組成物とデカリンとを混合しポリエチレン溶液を調製した。
【0103】
上記のポリエチレン溶液を温度147℃でダイからシート状に押出し、次いで押出物を水温20℃の水浴中で冷却し、第一のゲル状シートを得た。
【0104】
第一のゲル状シートを70℃の温度雰囲気下にて10分間予備乾燥し、次いで、MD方向に1.1倍で一次延伸をし、次いで、本乾燥を57℃の温度雰囲気下にて5分間行って、第二のゲル状シート(ベーステープ)を得た(第二のゲル状シート中の溶剤の残留量は1%未満とした。)。次いで二次延伸として、第二のゲル状シート(ベーステープ)をMD方向に温度90℃にて倍率2倍で延伸し、続いてTD方向に温度130℃にて倍率5倍で延伸し、その後直ちに140℃で熱処理(熱固定)を行った。
【0105】
熱固定処理後のシートを、2槽に分かれた塩化メチレン浴にそれぞれ30秒間ずつ連続して浸漬させながら、シート中のデカリンを抽出した。シートを塩化メチレン浴から搬出した後、40℃の温度雰囲気下で塩化メチレンを乾燥除去し、120℃に加熱したローラー上を搬送させながらアニール処理をした。こうして、本実施形態に係るポリエチレン微多孔膜を得た。
【0106】
上記のポリエチレン微多孔膜の両面に、プラズマ処理(Nordson MARCH社製AP-300:出力150W、処理圧力400mTorr、ガス流量160sccm、処理時間135秒)を施した。こうして、本実施形態に係る親水性ポリエチレン微多孔膜を得た。
【0107】
上記の親水性ポリエチレン微多孔膜の片面に、粘着剤の付いたPETフィルムを貼り合わせ、積層体を得た。
【0108】
[実施例2~4、比較例1~2]
ポリエチレン溶液の組成又は微多孔膜の製造工程を表1に記載のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜、親水性ポリエチレン微多孔膜、及び積層体を作製した。実施例3及び実施例4においては、プラズマ処理を施さなかった側のポリエチレン微多孔膜の面にPETフィルムを貼り合わせた。
【0109】
【表1】
【0110】
<ポリオレフィン微多孔膜の物性の測定方法>
実施例1~4又は比較例1~2におけるプラズマ処理後のポリエチレン微多孔膜(すなわち、親水性ポリエチレン微多孔膜)を試料にして、下記の測定を行った。表2に各ポリエチレン微多孔膜の物性を示す。
【0111】
[膜厚]
ポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状の端子を用いた。測定圧は0.1Nとした。
【0112】
[曲路率及び透過性指標]
両面テープ2枚を重ねた物をスペーサー兼接着剤として用い、約1mm幅のポリイミドフィルム上に固定した後、その上に、MD方向約10mm×TD方向約1mmに切り出したポリオレフィン微多孔膜を橋渡しの形で固定した。この試料をX線CT装置の試料台にワックスを用いて固定し、測定に供した。X線CTの仕様は、下記のとおりであった。
X線CT装置:リガク社製、高分解能3DX線顕微鏡、商品名「nano3DX」
X線源:Cu、8.0keV
X線カメラ:L0270
X線管電圧・管電流:40kV-30mA
CT撮影範囲:0°~180°
【0113】
X線CTから得られた三次元像をもとに、既述の画像解析及びシミュレーションによってポリオレフィン微多孔膜の曲路率(τ、τ、τ)及び透過性指標(T、T、T)を求め、τ/τ、τ/τ、T/T及びT/Tを算出した。τは厚さ方向の曲路率であり、τはTD方向の曲路率とし、τはMD方向の曲路率とした。Tは厚さ方向の透過性指標であり、TはTD方向の透過性指標とし、TはMD方向の透過性指標とした。
【0114】
図2A~Eに、実施例1~3及び比較例1~2のポリオレフィン微多孔膜のX線CTから得られた断面画像を示す。図2A~Eにおいて、XはTD方向であり、YはMD方向であり、Zは厚さ方向である。図2A~Eの各画像内の白い直線はスケールバーであり、XY方向の画像内のスケールバーは50μmを示し、XZ方向の画像内のスケールバーは20μmを示し、YZ方向の画像内のスケールバーは20μmを示す。
【0115】
[バブルポイント圧]
ポリオレフィン微多孔膜を直径48mmの円形に切り出し、エタノールに浸漬し、JIS K3832:1990に従って、ただし、試験時の液温を24±2℃に変更し、印加圧力0MPaから測定を開始し、昇圧速度2kPa/秒で昇圧しながらバブルポイント試験を行い、バブルポイント圧を求めた。
【0116】
[空孔率]
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率ε(%)は下記の式により求めた。
ε={1-(Wa/xa+Wb/xb+Wc/xc+…+Wn/xn)/t}×100
ここに、構成材料がa、b、c、…、nであり、構成材料の質量がそれぞれWa、Wb、Wc、…、Wn(g/cm)であり、構成材料の真密度がそれぞれxa、xb、xc、…、xn(g/cm)であり、膜厚がt(cm)である。
【0117】
[ガーレ値]
JIS P8117:2009に従って、面積642mmのポリオレフィン微多孔膜の空気透過時間(秒/100mL)を測定し、空気透過時間をポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)で除算して厚さ1μmあたりの空気透過時間(秒/100mL・μm)を求めた。
【0118】
[エタノール流量]
ポリオレフィン微多孔膜をMD方向10cm×TD方向10cmに切り出し、エタノールに浸漬し、エタノールから引き揚げ、室温下で乾燥した。乾燥後のポリオレフィン微多孔膜を、透液面積が17.34cmであるステンレス製の円形透液セルにセットした。透液セル上のポリオレフィン微多孔膜を少量(約0.5mL)のエタノールで湿潤させた後、92kPa~95kPaの差圧でエタノール100mLを透過させて、エタノール100mLが透過するのに要する時間(sec)を計測した。測定は室温24℃の温度雰囲気で行った。測定条件及び測定値を単位換算してエタノール流量(mL/(min・cm・MPa))を求め、該エタノール流量と、予め測定しておいたポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)とを乗算した。
【0119】
[水の接触角]
ポリオレフィン微多孔膜の表面における滴下1秒後の水の接触角を、協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DMo-701FEと解析ソフトウェアFAMAS(interFAce Measurement and Analysis System)とを用いて測定した。大気中常圧下、温度24℃、相対湿度60%の雰囲気において、1μLの水(イオン交換水)をポリオレフィン微多孔膜に滴下し、滴下1秒後の静的接触角を測定した。水滴の形成には、SUS(ステンレス鋼)製の22G針を備えたシリンジを用いた。実施例3及び実施例4のポリオレフィン微多孔膜については、プラズマ処理を行った側の面において水の接触角を測定した。
【0120】
[突刺強度]
テンシロン万能材料試験機(RTE-1210)を用いて針貫通試験(針:先端の曲率半径0.5mm、突刺速度:320mm/分)を行って最大突刺荷重(g)を測定し、最大突刺荷重をポリオレフィン微多孔膜の膜厚(μm)で除算して厚さ1μmあたりの突刺荷重(g/μm)を求めた。
【0121】
<イムノクロマトグラフ用ストリップの作製>
実施例1~4又は比較例1~2の親水性ポリエチレン微多孔膜を用いて、図1に示すイムノクロマトグラフ用ストリップAであって、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を被検出物質とするイムノクロマトグラフ用ストリップを以下の手順にしたがって作製した。
【0122】
(1)クロマトグラフィー担体1の作製
親水性ポリエチレン微多孔膜とPETフィルムとの積層体を、親水性ポリエチレン微多孔膜のMD方向及びTD方向にしたがって、MD方向150mm且つTD方向25mmの長方形に切り出した。0.5mg/mLの抗hCG-αサブユニット抗体(マウスモノクローナル抗体)を含むリン酸緩衝液(pH7.2)を、切り出した積層体の親水性ポリエチレン微多孔膜側の面に、一方の長辺から8mmの位置に長辺に対して平行に直線状に塗布し(塗布量は1μL/cm)た。次いで、温度50℃の雰囲気下で30分間乾燥させて親水性ポリエチレン微多孔膜に検出部11を形成し、クロマトグラフィー担体1を得た。
【0123】
(2)標識物質分散液の作製
粒子径40nmの金コロイド(標識部)を、50mMのKHPO緩衝液(pH7.0)で60μg/mLの濃度に希釈した分散液10mLに、抗hCG抗体(マウスモノクローナル抗体)(結合部)を1mL加え、室温で10分間静置した。次いで、1質量%のポリエチレングリコール(PEG、重量平均分子量20,000)の水溶液0.5mLを金コロイド及び抗hCG抗体を含む分散液に加えて攪拌した後、10質量%のBSA(ウシ血清アルブミン)の水溶液1mLを加えてさらに攪拌した。次いで、遠心加速度7,000Gで15分間遠心分離を行い、上清を除去した。次いで、沈殿物に、PEG(重量平均分子量20,000)を0.05質量%、NaClを0.009質量%、BSAを1質量%及びNaNを0.095質量%含む20mMのトリス塩酸緩衝液(Tris-HCl、pH8.2)を加え、標識物質(金コロイドによって標識された抗hCG抗体)を分散させ、標識物質分散液を得た。
【0124】
(3)コンジュゲートパッド3の作製
上記で作製した標識物質分散液0.7mLに、PEG(重量平均分子量20,000)を0.05質量%及びスクロースを3.5質量%含むトリス塩酸緩衝液(Tris-HCl、pH8.2)を2.1mL加えて攪拌し、塗布液を得た。塗布液を150mm×8mm×400μmのグラスファイバー製のパッド(Ahlstrom製)に均等に塗布した後、真空乾燥機にて乾燥させ、コンジュゲートパッド3を得た。
【0125】
(4)サンプルパッド2の作製
150mm×18mm×340μmのセルロース製のパッド(Ahlstrom製)に、トリス塩酸緩衝液(Tris-HCl、pH8.2)0.6mLを均等に塗布した後、温度50℃で1時間乾燥させ、サンプルパッド2を得た。
【0126】
(5)吸収パッド4の用意
吸収パッド4として、150mm×20mmのろ紙(Lohmann製)を用意した。
【0127】
(6)イムノクロマトグラフ用ストリップAの作製
片面に粘着剤が塗布された支持体5(Lohmann製バッキングシート、150mm×60mm)に、クロマトグラフィー担体1、コンジュゲートパッド3、サンプルパッド2及び吸収パッド4を貼り合せ複合シートを得た。その際、サンプルパッド2とコンジュゲートパッド3の重なり幅は4mm、コンジュゲートパッド3とクロマトグラフィー担体1の重なり幅は2mm、クロマトグラフィー担体1と吸収パッド4の重なり幅は5mmとし、クロマトグラフィー担体1の検出部11がコンジュゲートパッド3よりも吸収パッド4に近くなるようにした。複合シート全体を長さ方向に5mm幅ごとに切断して、イムノクロマトグラフ用ストリップA(展開方向の全長60mm、幅5mm。親水性ポリエチレン微多孔膜のTD方向がサンプルの展開方向である。)を得た。
【0128】
<イムノクロマトグラフ用ストリップの性能評価>
以下の性能評価試験は、温度24℃且つ相対湿度60%の雰囲気において行った。表2に、イムノクロマトグラフ用ストリップAの評価結果を示す。
【0129】
[飽和時間]
hCG抗原(被検出物質)を16.7nkatになるように、BSAを1質量%及びNaNを0.095質量%含むリン酸緩衝液に希釈し、サンプルを作製した。サンプル100μLをイムノクロマトグラフ用ストリップAのサンプルパッド2に滴下して展開させ、イムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス社製、型番C10066-10)を用いて、発光ピーク波長が520nm付近であるLED(light emitting diode)を光源として使用し、検出部11における吸光度を経時測定した。サンプルをサンプルパッド2に滴下した時点を起点として、検出部11の発色(赤)が飽和するまでの時間(飽和時間という。)を測定し、下記の3段階に分類した。図3に、実施例2及び比較例1における吸光度の経時変化を示す。
【0130】
A:飽和時間が15分未満。
B:飽和時間が15分以上30分未満。
C:飽和時間が30分以上。
【0131】
[検出部の発色の明瞭度]
飽和時間の測定と同時に、検出部11の発色(赤)の明瞭さを目視により判定し、下記の3段階に分類した。
【0132】
A:検出部に赤い線を明瞭に確認できる。
B:検出部に赤い線を確認できる。
C:検出部に赤い線を確認できるが不明瞭。
【0133】
【表2】
【符号の説明】
【0134】
A:イムノクロマトグラフ用ストリップ
X:展開方向
1:クロマトグラフィー担体
2:サンプルパッド
3:コンジュゲートパッド
4:吸収パッド
5:支持体
11:検出部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3