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特許7103752疼痛、掻痒症および炎症のためのストロンチウムをベースとする組成物および製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】疼痛、掻痒症および炎症のためのストロンチウムをベースとする組成物および製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20220712BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K31/19
A61K31/198
A61P17/04
A61P17/00
A61P29/00
A61P43/00 121
A61K47/32
A61K47/40
A61K47/36
A61K47/18
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017026907
(22)【出願日】2017-02-16
(65)【公開番号】P2018027929
(43)【公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-01-24
(31)【優先権主張番号】15/239,171
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514237932
【氏名又は名称】コスメダーム バイオサイエンス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー エス. ハーン
(72)【発明者】
【氏名】シヴァ グディ
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510943(JP,A)
【文献】特開昭63-166837(JP,A)
【文献】特表2003-509366(JP,A)
【文献】特表2005-507396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 31/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価カチオン性ストロンチウム塩;
シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択される抗酸化剤;ならびに
β-ヒドロキシブチレート;
の錯体を含む、炎症に関連する皮膚状態を処置するための組成物であって、
ここで前記抗酸化剤および前記β-ヒドロキシブチレートは、切断可能な結合によって一緒に結合体化されており前記組成物が皮膚に局所投与されることを特徴とする
組成物。
【請求項2】
前記抗酸化剤は、N-アセチルシステインもしくはそのエステルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ストロンチウム塩は、塩化ストロンチウム、塩化ストロンチウム六水和物、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、硫化水素ストロンチウム、酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、α-ケトグルタル酸ストロンチウム、およびコハク酸ストロンチウムからなる群より選択される、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記切断可能な結合は、ペプチド結合、エステル結合、チオエステル結合、酵素により切断可能な結合、ジスルフィド結合、およびpH依存性結合からなる群より選択される、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記切断可能な結合は、チオエステル結合である、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーをさらに含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリマーは、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、硫酸化ポリサッカリド、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸およびヘパリン硫酸からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
二価カチオン性ストロンチウム、N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよびβ-ヒドロキシブチレートの錯体を含み、ここで前記N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよび前記β-ヒドロキシブチレートは、前記N-アセチルシステインもしくはそのエステルのスルフヒドリル基および前記β-ヒドロキシブチレートのカルボキシル基によって形成されるチオエステル結合によって一緒に結合体化される、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物および少なくとも1種の薬学的に受容可能な賦形剤を含む、炎症に関連する皮膚状態を処置するための製剤であって、ここで、前記製剤は、局所用製剤であり、前記製剤が皮膚に局所投与されることを特徴とする、製剤
【請求項10】
ポリマーをさらに含む、請求項に記載の製剤。
【請求項11】
前記ポリマーは、中性ポリマーもしくはアニオン性ポリマーである、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記中性ポリマーは、ポリビニルピロリドンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記ポリビニルピロリドンは、架橋によって化学改変される、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記ポリマーは、前記錯体とイオン会合しており、前記二価カチオン性ストロンチウムの制御放出を容易にするマトリクスを形成する、請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記製剤の容量オスモル濃度が、400~2000mOsmである、請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミノ酸をさらに含む、請求項に記載の製剤。
【請求項17】
前記少なくとも1種の芳香族アミノ酸は、L-異性体である、請求項1に記載の製剤。
【請求項18】
掻痒症を処置するための医薬の製造における、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項19】
掻痒症を処置するための医薬の製造における、請求項9~17のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項20】
炎症に関連する皮膚状態を処置するための医薬の製造における、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項21】
炎症に関連する皮膚状態を処置するための医薬の製造における、請求項9~17のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項22】
掻痒症を処置するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
掻痒症を処置するための、請求項9~17のいずれか1項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参考としての援用
出願データシートで特定されるあらゆる全ての優先権主張またはそれに対する任意の訂正は、米国特許法施行規則1.57条の下、参考として本明細書に援用される。この出願は、2016年8月17日に出願された米国特許出願第15/239,171号の一部継続であり、米国特許出願第15/239,171号は、2015年8月21日に出願された米国特許出願第62/208,249号の利益を主張する。上述の出願の各々は、その全体が参考として援用され、本明細書の一部を明示的に構成する。
【0002】
(技術分野)
本明細書中の開示は、疼痛、掻痒症、刺激、炎症、ならびにその刺激および炎症に起因する組織損傷を処置するための治療上活性な組成物および製剤に関する。本明細書中の開示はまた、創傷管理(高い感染リスクにある創傷を含む)のための治療上活性な組成物および製剤に関する。一実施形態において、本開示は、局所適用され得る、ストロンチウムおよびβ-ヒドロキシブチレートがベースの組成物ならびに製剤に関する。別の実施形態において、本開示は、局所適用され得る、ストロンチウムおよびヨウ素がベースの、またはストロンチウムおよび銀がベースの組成物ならびに製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
局所投与されるストロンチウム(二価イオン形態にある)は、急性感覚刺激(例えば、刺痛(stinging)、熱感(burning)、疼痛および/もしくはかゆみ(itching))、ならびに化学刺激原、電磁放射、「環境的刺激物質」、アレルギー、および疾患に起因する付随する炎症を迅速に抑制する能力を有する。いかなる特定の生化学的機構によって拘束もされないし、別段限定もされないが、ストロンチウムの抗刺激原活性は、ストロンチウムがC線維侵害受容器(Type C Nociceptor)(TCN)(刺痛、熱感、疼痛、およびかゆみの感覚、ならびにTCN活性化に付随し得る神経原性炎症応答を生成および伝達する唯一の感覚神経)の活性化を選択的に抑制する能力に起因したと理論付けられた。
【0004】
リドカインもしくはNOVOCAIN(登録商標)(歯科手順の間に歯科医が代表的に使用する局所麻酔薬)のような感覚刺激を抑制し得る既存の局所用薬物と比較される場合、ストロンチウムは、特有の特性を有する-それは、TCNに対してのみ非常に選択的であり、正常な触覚および「皮膚感覚(cutaneous awareness)」を提供する多くの他の感覚神経に顕著に影響を及ぼさない。リドカインおよび他の外用局所麻酔薬(topical local anesthetic)は、TCNに対するこの特異性を欠いているので、それらは、無感覚および機能喪失を引き起こし得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(要旨)
以下の単純化した要旨は、特許請求された主題のいくつかの局面の基礎的理解を提供する。この要旨は、網羅的な概説ではなく、欠かせない/不可欠な要素を同定するために、または特許請求された主題の範囲を線引きすることは意図されない。その目的は、以下で呈示されるより詳細な説明に対する序文として単純化された形態でいくつかの概念を呈示することである。
【0006】
一実施形態において、本明細書中の開示は、ストロンチウム含有成分およびβ-ヒドロキシブチレートを含む組成物および製剤に関する。別の実施形態において、本明細書中の開示は、ストロンチウム含有成分およびヨウ素を含む組成物および製剤に関する。別の実施形態において、本明細書中の開示は、ストロンチウム含有成分および銀を含む組成物および製剤に関する。本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤のうちのいずれかについて、上記ストロンチウム含有成分は、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、硫化水素ストロンチウム、酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、α-ケトグルタル酸ストロンチウムもしくはコハク酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、またはクエン酸ストロンチウムであり得る。
【0007】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤のうちのいずれかは、少なくとも1種のポリヒドロキシフェノールをさらに含む。上記ポリヒドロキシフェノールは、没食子酸、コーヒー酸、タンニン酸、エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、エピガロカテキン、没食子酸エピカテキン、エラグ酸、ミリセチン、ルテオリン、ナリンギン(naringen)、ゲニステイン、アピゲニン(apagenin)、ノルジヒドログアイヤレチン酸、それらのエステル、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせであり得る。
【0008】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤のうちのいずれかは、少なくとも1種のシステインベースの抗酸化剤をさらに含む。上記システインベースの抗酸化剤は、システイン、シスチン、アセチルシステイン、ジアセチルシステイン、これらのエステル、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせであり得る。
【0009】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤のうちのいずれかは、少なくとも1種の有益な薬剤をさらに含む。上記有益な薬剤は、酢酸アルミニウム、アスパルテーム、コロイド状オートミール、コルチコステロイド、コールタール、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、植物抽出物、局所麻酔薬、ビタミン、セラミド、保湿薬(moisturizer)、ポリマーまたはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせであり得る。上記有益な薬剤がコルチコステロイドである場合、それはしばしば、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アムシノニド、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸ジフロラゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルランドレノリド(flurandrenolide)、プロピオン酸フルチカゾン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、ハロメタゾン、ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ヒドロコルチゾン、フランカルボン酸モメタゾン、プレドニゾン、トリアムシノロンアセトニド、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。
【0010】
上記有益な薬剤が抗うつ薬である場合、それはしばしば、アミトリプチリン、パロキセチン、ドキセピン、ヒドロキシジン、ミルタザピン、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。上記有益な薬剤が抗ヒスタミン薬である場合、それはしばしば、アクリバスチン、アゼラスチン、ビラスチン、ブロムフェニラミン、ブクリジン、ブロモジフェンヒドラミン、カルビノキサミン、セチリジン、クロルプロマジン、シクリジン、クロルフェニラミン、クロロジフェンヒドラミン(chlorodiphenhydramine)、クレマスチン、シプロヘプタジン、デスロラタジン、デクスブロムフェニラミン、デクスクロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、ジメチンデン、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、エバスチン、エンブラミン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、レボセチリジン、ロラタジン、メクリジン(meclozine)、ミルタザピン、オロパタジン、オルフェナドリン、フェニンダミン、フェニラミン、フェニルトロキサミン、プロメタジン、ピリラミン、クエチアピン、ルパタジン、トリペレンナミン、トリプロリジン、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。上記有益な薬剤が植物抽出物である場合、それはしばしば、ツリフネソウ、クロフサスグリ種子油、生姜、ティーツリー(tea tree)油、ミント、タイム、メントール、ショウノウ、カモミール、ヒレハリソウ(アラントイン(allotonin))、ラベンダー、アロエ、ナツシロギク、ダイズ、ナハカノコソウ(Boerhavia diffusa)、キンセンカ(Calendula officinalis)、カンゾウ、セイヨウシロヤナギ樹皮、蜂蜜、緑茶、乳香、アメリカマンサク、クローブ、Arnica montana、バジル、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。上記有益な薬剤が局所麻酔薬である場合、それはしばしば、ベンゾカイン、ブタンベン、ジブカイン、リドカイン、オキシブプロカイン、プラモキシン、プロパラカイン、プロキシメタカイン、もしくはテトラカイン、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。
【0011】
上記有益な薬剤がビタミンである場合、それはしばしば、ビタミンB、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、トコフェロール、アスコルビン酸、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。上記有益な薬剤が保湿薬である場合、それはしばしば、脂質、脂肪、油、ワックス、シアバター、ラノリン、湿潤剤、グリセロール、蜂蜜、ヒアルロン酸、シリコーンベースのもの、アラントイン、ジメチコン、もしくはセラミド、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。上記有益な薬剤がポリマーである場合、そればしばしば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、シクロデキストリン、カラギーナン(carragenan)、イオタカラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、ガーゴム、硫酸化ポリサッカリド、例えば、カラギーナン、デキストラン硫酸、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、またはこれら薬剤のうちの2種もしくはこれより多くの組み合わせから選択される。
【0012】
別の実施形態において、上記有益な薬剤は、コルチコステロイドである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、抗うつ薬である。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、抗ヒスタミン薬である。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、植物抽出物である。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、局所麻酔薬である。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、ビタミンである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、保湿薬である。一実施形態において、上記有益な薬剤は、アスパルテームである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、コロイド状オートミールである。別の実施形態において、有益な薬剤は、コールタールである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、セラミドである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、酢酸アルミニウムである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、ヒアルロン酸である。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、ジメチコンである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、ポリマーである。
【0013】
別の実施形態において、上記有益な薬剤は、上述の有益な薬剤のうちの少なくとも2種の組み合わせである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、上述の有益な薬剤のうちの少なくとも3種の組み合わせである。別の実施形態において、上記有益な薬剤は、上述の有益な薬剤のうちの少なくとも4種の組み合わせである。
【0014】
別の実施形態において、上記組成物もしくは製剤は、薬学的キャリアの中に、ストロンチウム含有成分、β-ヒドロキシブチレートおよびアセチルシステインを含む。別の実施形態において、上記組成物もしくは製剤は、薬学的キャリアの中に、ストロンチウム含有成分、β-ヒドロキシブチレート、およびヨウ素を含む。別の実施形態において、上記組成物もしくは製剤は、薬学的キャリアの中に、ストロンチウム含有成分、β-ヒドロキシブチレート、および銀を含む。
【0015】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、皮膚浸透増強剤をさらに含む。頻繁には、上記皮膚浸透増強剤は、スルホキシド、ジメチルスルホキシド、アゾン(azone)、アゾン誘導体、ピロリドン、脂肪酸、精油、テルペン、テルペノイド、オキサゾリジノン、尿素、尿素誘導体、アルコール、グリコール、酵素、界面活性剤、界面活性剤、モノオレイン、イミノスルフラン(iminosulfurane)、もしくはリン脂質である。
【0016】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、賦形剤(例えば、安定性を増大させるか、固形錠剤の崩壊を増大させるか、または消費者アピールを増大させるために使用されるもの)をさらに含む。頻繁には、上記賦形剤は、保存剤、結合剤、増量剤、希釈剤、甘味料、芳香剤、香味料(flavorant)、滑沢剤、もしくは着色料である。
【0017】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、上皮組織(例えば、皮膚もしくは粘膜)に局所適用されるように設計される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、5未満のpHを有するように設計され得る。あるいは、上記pHは、4未満であり得る。あるいは、上記pHは、3未満であり得る。ある種の実施形態において、上記の組成物および製剤は、300mOsmを超える容量オスモル濃度を有するように設計される。あるいは、上記容量オスモル濃度はしばしば、350mOsmを超える。
【0018】
ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、400mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、500mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、600mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、700mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、800mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、900mOsmを超える。ある種の実施形態において、上記容量オスモル濃度は、1000mOsmを超える。
【0019】
別の実施形態において、本明細書で記載される組成物もしくは製剤は、種々の上皮組織への送達のために製剤化される。いくつかの場合には、上記組成物および製剤は、角質化した皮膚または眼もしくは尿生殖路の粘膜へ適用される局所用として製剤化される。非限定的例としては、散剤、滴剤、吸入薬(vapor)、ミスト(mist)、スプレー、泡沫、ゲル、乳剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤、パスタ剤、粉流体(liquid powder)、半固体、および固体が挙げられる。
【0020】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、急性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって急性掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置するために使用される。いくつかの場合には、上記急性掻痒症、疼痛、もしくは炎症は、アレルギー、刺虫症、毒液への曝露、ツタウルシ、アトピー性皮膚炎、乾癬、熱傷、電離放射線、化学物質への曝露、外傷、外科手術、神経圧迫、口腔内潰瘍もしくは咽頭潰瘍、細菌感染、もしくはウイルス感染に起因するかまたはこれらと関連する。
【0021】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、慢性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって慢性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置するために使用される。いくつかの場合には、上記慢性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症は、アトピー性皮膚炎、乾癬、ウイルス感染、神経圧迫、背部痛、切断(amputation)、もしくは外傷に起因するかまたはこれらと関連する。
【0022】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、神経障害性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって神経障害性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症を処置するために使用される。いくつかの場合には、上記神経障害性の掻痒症、疼痛、もしくは炎症は、帯状疱疹後神経痛、背部痛、神経圧迫、ウイルス感染、多発性硬化症、パーキンソン病、糖尿病、外傷、切断、もしくは薬物使用に起因するかまたはこれらと関連する。
【0023】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、神経障害性の状態を処置、防止もしくは逆転する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって神経障害性の状態を処置、防止もしくは逆転するために使用される。いくつかの場合には、上記神経障害性の状態は、神経圧迫、神経過剰感作(nerve over sensitization)、断端痛、帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹、糖尿病性ニューロパチー、関節炎、細菌感染、ウイルス感染、、もしくは薬物使用に起因する。
【0024】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、上皮創傷を処置する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって上皮創傷を処置するために使用される。いくつかの場合には、上記上皮創傷は、皮膚のプラーク、皮膚病、鱗屑、潰瘍、発疹、火傷、ざ瘡、口唇ヘルペス(cold sore)、蕁麻疹、アフタ、水疱、帯状疱疹、疣贅、もしくはせつである。いくつかの場合には、上記創傷は、乾癬、アトピー性皮膚炎、湿疹、細菌、ウイルス、遅延型過敏症、もしくはアレルギーに起因する。
【0025】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、上皮組織における損傷を処置、防止もしくは低減する必要性のある被験体において、上記組成物もしくは製剤を上記被験体に投与することによって上皮組織における損傷を処置、防止もしくは低減するために使用される。いくつかの場合には、上記損傷は、水疱、疣贅、発疹、もしくは蕁麻疹として現れる。いくつかの場合には、上記損傷は、ウイルス、火傷、アレルゲン、刺虫症、または刺す生物(stinging critter)に起因する。
【0026】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、帯状疱疹後神経痛を処置する必要性のある被験体において、帯状疱疹後神経痛を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、帯状疱疹後神経痛を処置する必要性のある被験体において、帯状疱疹後神経痛を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0027】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、乾癬を処置する必要性のある被験体において、乾癬を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、乾癬と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減もしくは防止する必要性のある被験体において、乾癬と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、乾癬を処置する必要性のある被験体において、乾癬を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、乾癬と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、乾癬と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0028】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、糖尿病性ニューロパチーを処置する必要性のある被験体において、糖尿病性ニューロパチーを処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、糖尿病性ニューロパチーと関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、または防止する必要性のある被験体において、糖尿病性ニューロパチーと関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、または防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、糖尿病性ニューロパチーを処置する必要性のある被験体において、糖尿病性ニューロパチーを処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、糖尿病性ニューロパチーと関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、糖尿病性ニューロパチーと関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0029】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、放射線皮膚炎を処置する必要性のある被験体において、放射線皮膚炎を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、放射線皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、放射線皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、放射線皮膚炎を処置する必要性のある被験体において、放射線皮膚炎を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、放射線皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、放射線皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0030】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、アトピー性皮膚炎を処置する必要性のある被験体において、アトピー性皮膚炎を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、アトピー性皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、アトピー性皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、アトピー性皮膚炎を処置する必要性のある被験体において、アトピー性皮膚炎を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、アトピー性皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、アトピー性皮膚炎と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0031】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、不穏下肢症候群を処置する必要性のある被験体において、不穏下肢症候群を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、不穏下肢症候群と関連する疼痛、掻痒、もしくは刺激を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、不穏下肢症候群と関連する疼痛、掻痒、もしくは刺激を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、不穏下肢症候群を処置する必要性のある被験体において、不穏下肢症候群を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、不穏下肢症候群と関連する疼痛、掻痒、もしくは刺激を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、不穏下肢症候群と関連する疼痛、掻痒、もしくは刺激を処置、低減、もしくは防止するために使用される。
【0032】
別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、関節痛を処置する必要性のある被験体において、関節痛を処置するために使用される。別の実施形態において、局所用製剤(最小限で、ストロンチウムおよびキャリアを含む)は、関節痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、関節痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、関節痛を処置する必要性のある被験体において、関節痛を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、関節痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、関節痛と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。一実施形態において、上記関節痛は、手指、手首、肘、肩、頸部、膝、足首、もしくは足指にある。
【0033】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷を処置する必要性のある被験体において、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記火傷は、軽症火傷である。別の実施形態において、上記火傷は、重症火傷である。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷を覆う必要性がある被験体において、熱傷、放射線火傷、もしくは化学火傷を覆うために使用される包帯の一部である。
【0034】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、外科手術により閉じた創傷もしくは切断端を処置する必要性のある被験体において、外科手術により閉じた創傷もしくは切断端を処置するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、外科手術により閉じた創傷もしくは切断端と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止する必要性のある被験体において、外科手術により閉じた創傷もしくは切断端と関連する疼痛、掻痒、もしくは炎症を処置、低減、もしくは防止するために使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、上記外科手術により閉じた創傷もしくは切断端を覆う必要性のある被験体において、外科手術により閉じた創傷もしくは切断端を覆うために使用される包帯の一部である。
【0035】
本明細書での教示に従って、本開示は一般に、適切なキャリアビヒクル中のストロンチウム含有錯体の組成物に関する。上記錯体は、それらが少なくとも1つもしくは2つの異なる成分:二価カチオン性ストロンチウム、および少なくとも1種の対イオン(例えば、β-ヒドロキシブチレート)を含むという点において、本質的に2部分もしくは3部分に分かれている。3部分に分かれている組成物の形態では、上記錯体は、二価カチオン性ストロンチウム、β-ヒドロキシブチレート、および少なくとも1種のシステインベースの抗酸化剤を含む。
【0036】
上記システインベースの抗酸化剤は、システイン、シスチン、N-アセチルシステイン(NAC)、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチンおよびN,S-ジアセチルシステイン、もしくはこれらの混合物からなる群より選択され得る。
【0037】
上記2部分もしくは3部分に分かれている錯体のいずれかはまた、ポリマー(例えば、ポリアニオン性ポリマー)と錯化され得る。このポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、シクロデキストリン、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、硫酸化ポリサッカリド、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸およびヘパリン硫酸からなる群より選択され得る。
【0038】
上記組成物の容量オスモル濃度は、有益には、高浸透圧活性を有し得る(例えば、400mOsmに等しいかもしくはこれより大きいか、または400~2000mOsmの間の容量オスモル濃度を有する)。
【0039】
3部分に分かれている組成物の代替の実施形態において、上記少なくとも1種のシステインベースの抗酸化剤および脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、β-ヒドロキシブチレート部分を生じる2-ヒドロキシブタン酸)は、切断可能な結合(例えば、ペプチド結合、エステル結合、チオエステル結合、酵素により切断可能な結合、ジスルフィド結合、もしくはpH依存性結合)によって一緒に結合体化される。
【0040】
2部分に分かれている組成物の代替の実施形態において、上記二価カチオン性ストロンチウムは、脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、β-ヒドロキシブチレート部分を生じる2-ヒドロキシブタン酸)と錯化され、上記錯体は、投与前に適切なキャリアビヒクルの中に入れられる。
【0041】
2部分に分かれている錯体を含む上記組成物はまた、他の構成成分(例えば、前述のストロンチウム対イオンのうちのいずれか)を含み得る。
【0042】
別の実施形態において、二価カチオン性ストロンチウム部分;シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択されるシステインベースの部分;ならびにβ-ヒドロキシブチレート部分の錯体を含む組成物が提供され;ここで上記システインベースの抗酸化剤および脂肪族ヒドロキシ酸部分(例えば、β-ヒドロキシブチレート)は、切断可能な結合によって一緒に結合体化される。上記システインベースの抗酸化剤部分は、N-アセチルシステインもしくはそのエステルであり得る。上記ストロンチウム部分は、塩化ストロンチウム、塩化ストロンチウム六水和物、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、硫化水素ストロンチウム、酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、α-ケトグルタル酸ストロンチウム、およびコハク酸ストロンチウムからなる群より選択されるストロンチウム塩であり得る。上記切断可能な結合は、ペプチド結合、エステル結合、チオエステル結合、酵素により切断可能な結合、ジスルフィド結合、およびpH依存性結合からなる群より選択され得る。上記切断可能な結合は、チオエステル結合であり得る。上記組成物は、ポリマーをさらに含み得る。上記ポリマーは、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、硫酸化ポリサッカリド、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸およびヘパリン硫酸からなる群より選択され得る。上記組成物は、二価カチオン性ストロンチウム、N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよびβ-ヒドロキシブチレートの錯体であり得、ここで上記N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよび上記β-ヒドロキシブチレートは、N-アセチルシステインもしくはそのエステルのスルフヒドリル基およびβ-ヒドロキシブチレート部分のカルボキシル基によって形成されるチオエステル結合によって一緒に結合体化される。
【0043】
別の実施形態において、錯体および少なくとも1種の薬学的に受容可能な賦形剤を含む製剤が提供され、ここで上記錯体は、二価カチオン性ストロンチウム部分;シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択されるシステインベースの部分;ならびにβ-ヒドロキシブチレート部分の錯体であり;ここで上記システインベースの抗酸化剤および上記β-ヒドロキシブチレート部分は、切断可能な結合によって一緒に結合体化される。上記製剤は、局所投与のために構成され得る。上記製剤は、経口投与もしくは全身投与のために構成され得る。上記製剤は、経口摂取のために構成され得る。上記製剤は、ポリマーをさらに含み得る。上記ポリマーは、中性ポリマーもしくはアニオン性ポリマーであり得る。上記中性ポリマーは、ポリビニルピロリドンであり得る。上記ポリビニルピロリドンは、誘導体化および/もしくは架橋によって化学改変され得る。上記ポリマーは、上記錯体とのイオン会合のために構成され得、二価カチオン性ストロンチウムの制御放出を容易にする。上記ポリマーは、容量オスモル濃度の最小化のために構成され得る。上記製剤は、ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミノ酸をさらに含み得る。上記少なくとも1種の芳香族アミノ酸は、L-異性体であり得る。
【0044】
別の実施形態において、疼痛を処置する必要性のある患者において、疼痛を処置するための方法が提供され、上記方法は、上記患者に、二価カチオン性ストロンチウム部分;シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択されるシステインベースの部分;ならびに脂肪族ヒドロキシ酸部分(例えば、β-ヒドロキシブチレートもしくは類似部分)の錯体を含む組成物を局所投与する工程を包含し;ここで上記システインベースの抗酸化剤および上記β-ヒドロキシブチレート部分は、切断可能な結合によって一緒に結合体化される。
【0045】
別の実施形態において、掻痒症を処置する必要性のある患者において、掻痒症を処置するための方法が提供され、上記方法は、上記患者に、二価カチオン性ストロンチウム部分;シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択されるシステインベースの部分;ならびにβ-ヒドロキシブチレート部分の錯体を含む組成物を局所投与する工程を包含し;ここで上記システインベースの抗酸化剤および脂肪族ヒドロキシ酸部分(例えば、β-ヒドロキシブチレート)は、切断可能な結合によって一緒に結合体化される。
【0046】
別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、インシデント後にまたは上記状態の発生の後に適用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、防止的様式で使用される。別の実施形態において、上記の組成物および製剤は、継続して適用される。
【0047】
上記の処置の各々のために、上記組成物もしくは製剤は、上皮組織に局所投与される。上記上皮組織は、角質化した皮膚、または眼、口、咽頭、食道、消化管、気道もしくは尿生殖路の粘膜である。いくつかの実施形態において、上記組成物もしくは製剤は、アプリケーターデバイスを使用して投与される。しばしば、上記デバイスは、パッチ、ローラー、シリンジ、点滴注入器、噴霧器(sprayer)、ミスト生成器(mister)、もしくは包帯である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(詳細な説明)
本開示は、ストロンチウムと第2の化合物とを組み合わせ、これによってその組み合わせの全体的な治療有効性を、別個の構成成分のうちのいずれかの有効性を超えて相乗効果的に増大する治療上活性な組成物に関する。具体的には、本明細書で記載される組み合わせは、ストロンチウムの以下の能力を増大させる:(1)急性感覚性掻痒症(acute sensory pruritus)、疼痛、発赤、腫脹、および炎症(この記載「刺激」の目的でまとめて定義される)を阻害する、(2)有痛性もしくは掻痒性の神経障害性の状態の発生および維持に寄与し得る慢性刺激を阻害する、(3)神経の増大した感受性もしくは反応性に寄与し得る神経障害性刺激を阻害する、(4)神経障害性の疼痛もしくは掻痒に寄与する神経障害性の正のフィードバックサイクルを壊す、(5)損傷した上皮組織における治癒を促進する、ならびに/または(6)創傷における感染を最小にする。
【0049】
(定義)
以下に続く説明において、多くの用語が広範に利用される。以下の非限定的な定義は、このような用語によって与えられる例示的な範囲を含め、本明細書および特許請求の範囲の明確かつ一貫した理解を提供する。別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0050】
用語「発明」もしくは「本発明」は、本明細書で使用される場合、非限定的であることが意図され、特定の発明のいずれか1つの実施形態をいうことを意図するのではなく、本明細書および特許請求の範囲において記載されるとおりの全ての可能な実施形態を包含する。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「および/または(and/or)」は、「および(and)」を意味してもよいし、「または(or)」を意味してもよく、「排他的選言判断(exclusive-or)」を意味してもよいし、「1つ(one)」を意味してもよいし、「全てではないがいくつか(some, but not all)」を意味してもよいし、「いずれもない(neither)」を意味してもよいし、そして/あるいは「両方(both)」を意味してもよい。
【0052】
用語「上皮の」もしくは「上皮」とは、本明細書で使用される場合、この語の最も広い意味において身体の外表面に言及し、従って、全ての角質化した組織ならびに粘膜(例えば、口、咽頭、眼の表面、気道、消化管、および尿生殖路(子宮頸部および膣を含む))を暗に包含する。
【0053】
用語「有益な薬剤」とは、本明細書で使用される場合、疼痛、掻痒症、もしくは炎症を低減することの一助となる、および/または上皮組織における治癒を促進する、および/または線維症状態を改善する化学物質、化合物、または成分をいう。有益な薬剤は、安全であると一般に認識されるか、米国食品医薬品局(または他の国々における同等の機関)によって承認されるか、または有益であると当業者によって認識されるかのいずれかである化学物質または化合物であり得る。有益な薬剤の非限定的な例は、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、抗細菌剤、コルチコステロイド、保湿薬、ビタミン、生物製剤、植物抽出物、およびポリマーを含め、本明細書で記載および列挙される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「処置」とは、ある状態、障害もしくは疾患の症状が、改善されるかさもなければ有益に変化させられる任意の様式を意味する。処置はまた、本明細書中の組成物の任意の薬学的使用を包含する。
【0055】
本明細書で使用される場合、「被験体」とは、動物(霊長類(例えば、ヒト)が挙げられるが、これらに限定されない)をいう。用語「被験体」および「患者」は、本明細書では交換可能に使用される。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「ストロンチウム含有成分」とは、元素ストロンチウムもしくはストロンチウム塩のいずれかをいう。用語「元素ストロンチウム」および「ストロンチウムカチオン」とは、本明細書で交換可能に使用される。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「保湿薬」および「皮膚保護薬」は、別段示されなければ、交換可能に使用される。
【0058】
用語「錯体」とは、本明細書で使用される場合、いずれかの静電力(例えば、フェノール環構造におけるπ電子に起因する)を介してか、または部分的負電荷もしくは他の分子間電荷との会合を介した、ストロンチウムカチオンおよび2種の他の負に荷電したかもしくは極性の分子(ストロンチウム対イオン)の組み合わせをいう。ストロンチウムおよび上記2個のストロンチウム対イオンに加えて、上記錯体はまた、ポリビニルピロリドンのようなポリマー物質、ポリアクリルアミド、アルギン酸のようなポリアニオン性ポリマー、N-アセチル-L-システイン(NAC)のようなチオール含有分子に可逆的に結合しかつこれと錯化する本質的能力を有するカラギーナンもしくは炭水化物ポリマー、または脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、β-ヒドロキシ酸(例えば、β-ヒドロキシブタン酸もしくは3-ヒドロキシブタン酸))、ポリヒドロキシフェノール性化合物(没食子酸、クエルセチン、ルテオリン、ミリセチンおよび他の類似分子のような)を含み得る。
【0059】
用語「システインベースの」抗酸化剤は、本明細書で使用される場合、システイン、システイン誘導体、システイン含有低分子(4個未満のアミノ酸)ペプチドおよびシステイン前駆物質をいう。
【0060】
用語「切断可能な」とは、壊され得る化学的共有結合を意味する。「切断可能な」は、化学結合の一部が切断される、すなわち、化学結合の一部が切断される場合にその結合が切断可能であることを要するのみである。一例では、その結合は、投与後に皮膚内で切断可能である。
【0061】
用語「結合体化される」とは、上記成分のうちの少なくとも2種が切断可能な結合で一緒に結合される化合物を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、任意の保護基、アミノ酸および他の化合物に関する略語は、別段示されなければ、それらの一般的使用法、認識される略語、もしくはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclature(Biochem. 11:942-944 (1972)を参照のこと)に従う。
【0063】
1個もしくはこれより多くのキラル中心を有する本明細書で記載される任意の化合物において、絶対立体化学が明示的にしめされていないのであれば、各中心は、独立して、R-配置もしくはS-配置またはこれらの混合のものであり得ることが理解される。従って、本明細書で提供される化合物は、エナンチオマーとして純粋であってもよいし、エナンチオマーとして富化されていてもよいし、ラセミ混合物であってもよいし、ジアステレオマーとして純粋であってもよいし、ジアステレオマーとして富化されていてもよいし、または立体異性体混合物であってもよい。さらに、EもしくはZとして定義され得る幾何異性体を生じる1個もしくはこれより多くの二重結合を有する本明細書で記載される任意の化合物において、各二重結合は、独立して、EもしくはZ、またはこれらの混合であり得ることが理解される。
【0064】
同様に、記載される任意の化合物において、全ての互変異性形態はまた、含まれると意図されることは、理解される。例えば、ホスフェート基の全ての互変異性体は、含まれると意図される。さらに、当該分野で公知の複素環式塩基の全ての互変異性体は、天然のおよび非天然のプリン塩基およびピリミジン塩基の互変異性体を含め、含まれると意図される。
【0065】
別段定義されなければ、全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、当業者にそれらの通常のおよび慣習的な意味を与えるべきであり、特別なもしくはカスタマイズされた意味には、本明細書でそのように明示的に定義されなければ限定されるべきではない。本開示のある種の特徴もしくは局面を記載する場合に特定の用語法を使用することは、その用語法が関連する本開示の特徴もしくは局面の任意の具体的特性を含むように限定されるとその用語法が本明細書で再定義されていることを暗示するとは解釈されないものとすることに、注意するものとする。本出願において使用される用語および文言、ならびにこれらのバリエーションは、特に添付の特許請求の範囲において、別段明示的に述べられなければ、限定とは対照的に、開放系(open ended)と解釈されるものとする。前述の例として、用語「含む、包含する(including)」は、「限定なしに、含む(including, without limitation)」、「挙げられるが、これらに限定されない(including but not limited to)」などを意味すると読まれるものとする;用語「含む、包含する(comprising)」は、本明細書で使用される場合、「含む、包含する(including)」、「含む、含有する(containing)」、または「によって特徴付けられる(characterized by)」と類義語であり、包括的もしくは開放系であって、さらなる、記載されない要素もしくは方法の工程を排除しない;用語「有する(having)」は、「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるものとする;用語「含む、包含する(includes)」とは、「挙げられるが、これらに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈されるものとする;用語「例(example)」は、考察されている項目の例示的な場合を提供するために使用されるのであって、その網羅的もしくは限定的なリストを提供するために使用されるのではない;「公知の(known)」、「通常の(normal)」、「標準的(standard)」のような形容詞および類似の意味の用語は、記載される項目を、所定の期間までに記載された項目または所定の時期当時に利用可能である項目に限定するとは解釈されないものとするが、代わりに、現在もしくは将来のいずれかの時点で利用可能もしくは公知であり得る公知の、通常の、または標準的な技術を包含すると読まれるものとする;そして「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」、「望ましい、所望の(desired)」もしくは「望ましい(desirable)」のような用語、および類似の意味の語句の使用は、ある種の特徴が、本発明の構造もしくは機能にとって不可欠であるか、本質的であるか、またはさらには重要であることを暗示するとは理解されないものとするが、代わりに、本発明の特定の実施形態において利用されてもよいし利用されなくてもよい代替のもしくはさらなる特徴を強調すると解釈されるに過ぎないと理解されるものとする。同様に、接続詞「および(and)」で接続される項目の群は、それら項目のうちのありとあらゆる1つが、その群分けの中に存在することを要するとは読まれないものとするが、むしろ別段明示的に述べられなければ、「および/または(and/or)」として読まれるものとする。同様に、接続詞「または(or)」で接続される項目の群は、その群の中で相互排他性を要するとは読まれないものとするが、むしろ別段明示的に述べられなければ、「および/または(and/or)」と読まれるものとする。
【0066】
本明細書中の実質的に任意の複数形のおよび/または単数形の用語の使用に関して、当業者は、状況および/もしくは適用に適切である場合には、複数形から単数形へと、および/または単数形から複数形へと、翻訳し得る。種々の単数形/複数形の入れ替えは、明瞭さのために、本明細書で明示的に示されてもよい。不定冠詞「1つの、ある(a)」もしくは「1つの、ある(an)」は、複数形を排除しない。単一のプロセッサもしくは他のユニットは、請求項中に記載されるいくつかの項目の機能を満たし得る。ある種の測定値が相互に異なる従属請求項に記載されるという事実のみでは、これら測定の組み合わせが有利に使用できないことを示さない。請求項中の任意の参照記号は、範囲を限定するとは解釈されないものとする。
【0067】
値の範囲が提供される場合、上限および下限、ならびにその範囲の上限と下限との間に挟まる各値が実施形態内に包含されることは、理解される。
【0068】
導入される請求項の記載のうちの具体的数字が意図される場合には、このような意図は請求項の中に明示的に記載されていること、およびこのような記載がない場合には、このような意図は存在しないということは、当業者(those within the art)によってさらに理解される。例えば、理解の助けとして、以下の添付の特許請求の範囲は、請求項の記載を導入するために、導入となる文言「少なくとも1」および「1もしくはこれより多い」の使用を包含し得る。しかし、このような文言の使用は、不定冠詞「1つの、ある(a)」もしくは「1つの、ある(an)」による請求項の記載の導入が、このような導入された請求項の記載を含む任意の特定の請求項を、その同じ請求項がその導入となる文言「1もしくはこれより多い」または「少なくとも1」、および「1つの、ある(a)」もしくは「1つの、ある(an)」のような不定冠詞を含む場合にすら、1つのこのような記載のみを含む実施形態に限定することを暗示するとは解釈されないものとする(例えば、「1つの、ある(a)」および/もしくは「1つの、ある(an)」は、代表的には、「少なくとも1(at least one)」または「1もしくはこれより多い(one or more)」を意味すると解釈されるものとする);請求項の記載を導入するために使用される定冠詞の使用にもその同じことが当てはまる。さらに、導入された請求項の記載の具体的数字がたとえ明示的に記載されるとしても、当業者は、このような記載が、代表的には、少なくともその記載される数字を意味すると解釈されるものとすることを認識する(例えば、他の修飾語なしの「2つの記載」のままの記載は、代表的には、少なくとも2つの記載、または2もしくはこれより多くの記載を意味する)。さらに、「A、B、およびCなどのうちの少なくとも1つ」に類似の慣習が使用されるそれらの場合では、一般に、このような構成は、当業者が慣習(例えば、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」としては、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとを一緒に、AとCとを一緒に、BとCとを一緒に、および/またはAとBとCとを一緒になどを有するシステムが挙げられるが、これらに限定されない)を理解するという意味において意図される。「A、B、もしくはCなどのうちの少なくとも1」に類似の慣習が使用されるそれらの例では、一般に、このような構成は、当業者がその慣習(例えば、「A、B、もしくはCのうちの少なくとも1を有するシステム」は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとを一緒に、AとCとを一緒に、BとCとを一緒に、および/またはAとBとCとを一緒になどを有するシステムが挙げられるが、これらに限定されない)を理解するという意味において意図される。2もしくはこれより多くの代替の用語を示す実質的に任意の離接的な語句および/もしくは文言が、説明の中であろうが、特許請求の範囲の中であろうが、図面の中であろうが、上記用語のうちの1つ、上記用語のうちのいずれか、または両方の用語を含むという可能性を企図すると理解されるものとすることは、当業者によってさらに理解される。例えば、文言「AまたはB」は、「A」もしくは「B」、または「AおよびB」という可能性を含むと理解される。
【0069】
本明細書で使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。よって、そうでないと示されなければ、本明細書で示される数値パラメーターは、得ようと努められる所望の特性に依存して変動し得る近似値である。
【0070】
少なくとも、および本出願に対して優先権を主張するいかなる出願におけるいかなる請求項の範囲にも均等論の適用を限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメーターは、有効数字の数字および通常の丸め法アプローチに鑑みて解釈されるものとする。
【0071】
本明細書で記載される化合物が同位体標識され得ることは、理解される。重水素のような同位体での置換は、より大きな代謝的安定性から生じるある種の治療上の利点(例えば、増大したインビボ半減期もしくは低減した投与量要件のような)を提供し得る。化合物の中の各化学元素は、上記元素の任意の同位体であり得る。従って、化合物への本明細書中での言及は、状況が別段明確に指示しなければ、全ての潜在的な同位体形態を包含する。
【0072】
本明細書で記載される方法および組み合わせが、結晶形態(多形体としても公知であり、これは、化合物の同じ元素組成の異なる結晶充填配置を含む)、無定形の相、塩、溶媒和物、および水和物を包含することは、理解される。いくつかの実施形態において、本明細書で記載される化合物は、薬学的に受容可能な溶媒(例えば、水、エタノールなど)と溶媒和形態で存在する。他の実施形態において、本明細書で記載される化合物は、非溶媒和形態で存在する。溶媒和物は、溶媒の化学量論的もしくは非化学量論的いずれかの量を含み、薬学的に受容可能な溶媒(例えば、水、エタノールなど)との結晶化のプロセスの間に形成され得る。
【0073】
水和物は、上記溶媒が水の場合に形成されるか、またはアルコラートは、上記溶媒がアルコールの場合に形成される。さらに、本明細書で提供される化合物は、非溶媒和形態でおよび溶媒和形態で存在し得る。一般に、溶媒和形態は、本明細書で提供される化合物および方法の目的に関して、非溶媒和形態に等しいと考えられる。
【0074】
用語「塩」とは、本明細書で使用される場合、広い用語であり、限定なしに、薬学的に受容可能な塩(例えば、これが投与される生物にとって顕著な害を引き起こさずかつ上記化合物の生物学的活性および特性を排除しない化合物の塩)を含む。いくつかの実施形態において、塩は、化合物の酸付加塩である。薬学的な塩は、化合物と、無機酸、有機酸、もしくは塩基とを反応させることによって得られ得る。適切な薬学的に受容可能な塩としては、金属塩、有機塩、遊離酸および遊離塩基の塩、無機塩、ならびに現在、広く行き渡って薬学的に使用されており、当業者に周知の出典(例えば、The Merck Indexのような)の中に列挙される他の塩が挙げられる。
【0075】
(侵害受容および炎症経路)
侵害受容は、組織を損傷する可能性を有する刺激をコードし、処理するという神経プロセスを包含する。侵害受容器は、機械的変化、温度変化、もしくは化学的変化を検出する、身体全体に配置される特殊な神経である。侵害受容器には2つのクラスがあり、第1のクラスは、「Aδ」神経であり、これは、鋭い、刺すような質を有する疼痛感覚を伝達することによって、物理的外傷に応答する。第2のクラスは、「C型」神経(TCN)であり、これは、我々の環境(例えば、微生物、温度限界、および電離放射線)からの刺激原に応答しかつ灼熱痛、刺痛のする疼痛もしくはかゆみ(「刺激」)という広汎性の感覚を伝達する化学センサーである。過剰に刺激される場合には、TCNはまた、ヒスタミン含有マスト細胞を直接活性化し、かつ他の免疫系細胞(例えば、発赤、腫脹およびさらには局所的組織損傷を引き起こす好中球)を誘引および活性化する神経ペプチド(例えば、サブスタンスP)を放出し得る。刺激による活性化後に、侵害受容器は、後根神経節(DRG)の中の脊髄付近においてシナプス形成し、シグナルを脳へと中継する神経経路を活性化する神経伝達物質を放出する。脳は、疼痛もしくは掻痒の種々のタイプとしてシグナルを解釈する。
【0076】
(A.急性の、慢性の、および神経障害性の疼痛および掻痒症は、侵害受容器活性化の際に起こる)
刺激への曝露は、侵害受容器を活性化する。刺激に依存して、侵害受容器の両方のタイプが活性化されてもよいし、多くの場合には、AδもしくはTCNのいずれかが、優先的に活性化される。TCNのみが、身体の最も外側の部分(例えば、皮膚、口、鼻、咽頭、眼など(本明細書では「上皮」もしくは「表皮」といわれる))に延びて、表皮の局所的生化学を変化させる実質的に任意のプロセスによって活性化され得るので、TCNは、大部分の刺激性刺激に応じて優先的に活性化される。皮膚におけるTCNの活性化に際して、TCNは、シグナルを脊髄へと伝達し、疼痛および掻痒シグナルを脳へと中継する脊髄の神経を活性化するDRGにおいて神経伝達物質放出の引き金を引く。
【0077】
化学刺激原、外傷もしくは日焼けへの曝露によって引き起こされるTCNの急性の活性化は、代表的には、数日間のみ持続しかつ「侵害受容性疼痛」といわれる、有痛性もしくは掻痒性の感覚を引き起こす。帯状疱疹もしくはHIVのようなウイルス疾患後に起こり得るように刺激が長期化するかまたは過度に重度であるか、または神経が、物理的圧力、熱傷、糖尿病もしくは四肢への広範な物理的外傷に由来する神経への外傷によって損傷される場合、有痛性の感覚もしくは掻痒症が、数年間持続し得る。過剰な侵害受容器活性化もしくは損傷によって引き起こされるこのような慢性の疼痛もしくは掻痒症は、「神経障害性の」といわれ、中でも、処置するのが最も困難な状態のうちの1つである。最良の経口用もしくは局所用薬物ですら、非常に制限された治療利益を有するに過ぎず、多くは、それらの使用を制限する実質的副作用を有する。
【0078】
(B.侵害受容シグナルは、代表的には、侵害受容器内で「カルシウム波」として伝わる細胞内カルシウム濃度の正確にタイミングを合わせた変化としてコードされる)
たとえ何が侵害受容器活性化を引き起こそうが、その事象は、ユニバーサルコード(翻って、侵害受容器全体を通じて伝達される細胞内カルシウム濃度の複雑な変化)へとコードされる。カルシウムは、このようにして、ユニバーサルな「二次メッセンジャー」として作用し、侵害受容器によって伝達される情報(疼痛もしくは掻痒症の強度および質が挙げられる)は、急速に変化するカルシウム濃度を構成する言語へと変換される。神経は一般に、および侵害受容器が特に、それらのカルシウムコードを代表的には約1/1000秒以内に伝達するので、そのタイミングおよびカルシウムの空間的分布は、そのコードされる情報を正確に伝達するように絶妙に調節されなければならない。実質的に全ての神経(侵害受容器を含む)において、そのシグナルの強度(例えば、疼痛もしくは掻痒症の重度)は、シナプスへと放出されかつ最終的には脳へとその情報を中継するシナプス後神経を活性化する神経伝達物質の引き金を引くカルシウム波の周波数の変化としてコードされる。周波数が高いほど、知覚される感覚はより強い。侵害受容器が活性化される場合、そのカルシウムシグナルは、複数の生化学的経路を通じて伝達され、その経路のうちの多くは、1つの経路の出力が次の経路の入力となるように順々に作動する。
【0079】
侵害受容器の活性化は、神経伝達物質、すなわち、グルタミン酸、サブスタンスP、およびアデノシン三リン酸(ATP)の放出の引き金を引く。侵害受容器活性化の周波数は、どの神経伝達物質がTCNによって放出されるかを決定する。低周波数の下では、グルタミン酸のみが放出される。高周波数の下では、グルタミン酸およびサブスタンスPの両方が放出される。グルタミン酸およびサブスタンスPは、疼痛、掻痒、および炎症を増大させる相乗効果を有する。
【0080】
グルタミン酸は、中枢神経系および末梢神経系において最も広く使用される興奮性神経伝達物質であり、疼痛および掻痒アクチベーターである。グルタミン酸は、2種の別個の様式で神経伝達物質として機能する。第1は、点から点(point-to-point)への伝達物質として存在し、第2は、シナプス間のスピルオーバーシナプスクロストーク(spill-over synaptic crosstalk)を介して存在する。シナプスクロストークが起こる場合、その隣り合うシナプスから放出されるグルタミン酸の合わさった量は、シナプス外シグナル伝達/拡散性伝達(volume transmission)を作り出す。グルタミン酸は、シナプス接合部付近の小胞中に貯蔵される。上述のように、侵害受容器の活性化は、イオンチャネル型および代謝調節型の(Gプロテイン共役)レセプター上で作用するグルタミン酸の放出の引き金を引く。グルタミン酸が放出された後、いくつかの異なるグルタミン酸トランスポーターが、細胞外空間からグルタミン酸を迅速に一掃し、それによって、シナプス伝達を終了させる。主要なグルタミン酸トランスポーターは、興奮性アミノ酸トランスポーター(EAAT 1~5)、小胞グルタミン酸トランスポーター(VGLUT 1~3)、およびシスチン-グルタミン酸アンチポーター(xCT)である。EAATは、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、もしくは水素)の電気化学勾配に依存するのに対して、VGLUTおよびxCTはそうではない。xCTは、細胞の形質膜に局在する一方で、VGLUTは、グルタミン酸含有シナプス小胞の膜に見出される。VGLUTは、酸(水素イオン)勾配を使用して小胞へとグルタミン酸を再パッケージする。小胞ATPaseは、ATPを使用して小胞を酸性化する。その得られたpH勾配は、次いで、カルシウム水素(Ca/H)アンチポーター(これは、グルタミン酸を小胞へと輸送する)を駆動するために使用される。
【0081】
サブスタンスPは、タキキニンもしくはニューロキニンと一般にいわれる神経ペプチドのファミリーの一部である。サブスタンスPの放出は、いくつかの細胞内エフェクター(例えば、細胞外カルシウムインフラックス、1,4,5-イノシトール三リン酸誘発性カルシウム放出、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の活性化、シクロオキシゲナーゼ(COX)、プロスタグランジン、およびサイクリックAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA))が関与する複雑なプロセスである。サブスタンスPは、Gプロテイン共役レセプター、ニューロキニン1、2、および3(NK)に結合する。NKレセプターの活性化は、ホスホリパーゼC(PLC)、アデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclate)、ERK1/2、p38、マイトジェン活性化プロテイン(MAP)キナーゼ、核因子κB(NFKB)およびプロテインキナーゼC(PKC)を含むいくつかのメッセンジャー系を活性化した。二次メッセンジャー系の活性化は、1,4,5-イノシトール三リン酸、サイクリックAMP、プロスタグランジンE2およびCOX-2の増大を生じる。サブスタンスPはまた、ケラチノサイト、好中球、B細胞、T細胞などを含むいくつかの免疫細胞を活性化した。サブスタンスPはまた、他の細胞を感作して、インターロイキン8(IL-8)およびロイコトリエンB4(これらはともに、好中球を活性化し、好中球フィードバックループを開始する。なぜなら好中球がまたロイコトリエンB4を放出するからである)を放出および活性化した。
【0082】
上述のように、サブスタンスPは、高周波数神経刺激の下でのみ放出される。放出されるサブスタンスPの量は、刺激の強度および周波数に比例する。多量に放出される場合、サブスタンスPは、近くのニューロン上のNK1レセプターへと拡散しかつ結合する能力を有する。サブスタンスPはまた、炎症性細胞(例えば、マクロファージ、好酸球、リンパ球、および樹状細胞)によって分泌される。
【0083】
サブスタンスPによる結合の際に、NK1レセプターは、クラスリン媒介性エンドサイトーシスを受け、ここでその結合したレセプターおよび他のシグナル伝達分子は、脂質エンドソームの中に入れられる。その得られたシグナル伝達エンドソームはさらに、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を含む他の経路を活性化する。このマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)は、多様な種類の刺激(例えば、マイトジェン、浸透圧ストレス、ヒートショックおよび炎症)への細胞応答を指向することに関与する。このMAPKファミリーは、3種の主要なメンバーからなる:細胞外シグナル調節キナーゼ1および2(ERK-1/2)、p38、およびc-Jun N末端キナーゼ(JNK)(これらの各々は、別個のシグナル伝達経路を代表する)。蓄積しつつある証拠によって、3種全てのMAPK経路は別個の分子および細胞機構を介して組織および神経傷害後の疼痛感作に寄与し得ることが示されている。ERK-1/2、p38、およびJNKの活性化は、炎症促進性および/もしくは侵害受容親和性(pronociceptive)メディエーター(これは、増強されかつ長期の疼痛を生じ得る)の合成をもたらす。
【0084】
MAPKは、細胞膜もしくはサイトゾルのいずれかにおいて活性化され得る。いったん活性化されると、MAPKは、サイトゾルおよび核の両方においてタンパク質をリン酸化し得る。従って、MAPKは、細胞外刺激を、形質膜からこの膜から離れた細胞標的(例えば、転写因子)へと中継し得、多様な細胞応答を開始させ得る。いくつかの経路において、活性化MAPKはエンドサイトーシスを受けて、遠隔位置(例えば、ヌクレアーゼ)への迅速な輸送を可能にして、遠隔細胞位置へのシグナルの伝播を促進すると考えられる。
【0085】
ATPは、末梢神経系における神経伝達物質である。グルタミン酸およびサブスタンスPと同様に、それはまた小胞中で貯蔵される。頻繁には、ATPはまた、他の神経伝達物質とともに単一の小胞の中に同時に貯蔵されるのが見出され、おそらく、神経伝達物質として、および/または小胞エキソサイトーシスの際のエネルギー供給源として働く。グルタミン酸と同様に、ATPは、水素イオン勾配を使用して、小胞へと充填される。小胞ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)は、その水素イオン勾配を使用して、ATPを小胞へと移動させる。また、グルタミン酸と同様に、その水素イオン勾配は、カルシウム/水素アンチポーターを使用して作り出される。
【0086】
(C.侵害受容シグナルおよびシグナルをコードする生化学的経路は、入力に対数的に関連する出力を有する)
多くの侵害受容器経路、ならびに侵害受容器による全体的な神経伝達物質放出は、代表的には、刺激の強度に対数的に関連する。例えば、刺激原が侵害受容器活性化を引き起こして、その活性化周波数(脱分極ともいわれる)を10/秒から50/秒へと増大させた場合、その得られた神経伝達物質放出の周波数は、1.7倍(Log10=1.0;Log50=1.7)程度増大し得るに過ぎない。この事実は、特に関連している。なぜならそれは、侵害受容器の活性化の比較的少量の阻害が有痛性もしくは掻痒性の刺激の知覚される重症度において大きな低減を引き起こし得るということを示すからである。刺激原の刺激をコードしかつ伝達するように順々に作用する侵害受容器においては、多くの別個の経路が存在するので、経路の工程のうちの1もしくはこれより多くにおいて連続した経路の各々を阻害することは、その有痛性もしくは掻痒性の感覚の非常に大きな累積的低減を生じる可能性を有する。
【0087】
(D.神経障害性疼痛もしくは掻痒症の発生および維持は、過剰なおよび連続した侵害受容器活性化を要する)
神経障害性の状態が発生するためには、侵害受容器は、強力な刺激によって連続して活性化されなければならない。必要とされる活性化の継続時間は、その特定の神経傷害もしくは刺激物に依存して実質的に変動し得る。このような活性化が起こる場合、皮膚および粘膜を神経支配する末梢侵害受容器は、数時間内に感作され得、刺激原へのそれらの感受性を増大させ続け得、通常は刺激性ではない刺激によってすら活性化され得る。HIVもしくはヘルペスウイルスのような感染、または細菌(例えば、アトピー性皮膚炎患者、火傷患者、および電離放射線もしくは神経への外傷性の損傷に罹患している患者の皮膚上で過剰なレベルで存在するStaphylococcus aureus)による慢性的なコロニー形成は、特に強力な侵害受容器感作物質である。何らかの外傷もしくは炎症に付随する複数の炎症メディエーターの放出はまた、感作への重要な寄与因子である。
【0088】
神経障害性状態を確立するために、TCNからの感覚入力を受け取るDRGにおける感覚神経はまた、感作されなければならない(「中枢性感作」)。末梢TCNに関しては、中枢ニューロンは、長期間(これは、数日間程度の短さであってもよいし、はるかにより長い期間であってもよい)にわたって持続した高強度の活性化を要する。炎症、感染性因子、もしくは外傷の存在は、感作された神経障害性の状態を加速し得る。ニューロンの「クロストーク」に起因して、感作した組織の最初は小さな有痛性の部分が、例えば、帯状疱疹後神経痛において起こるように、傷害されなかった侵害受容器(Aδ侵害受容器を含む)を介して隣接する組織に拡がることは、一般的である。感作された神経障害性の組織はまた、機械的圧力(例えば、咳嗽もしくは嚥下)、または温度変化に応じて、有痛性の刺激を生成し得る(異痛症として公知の状態)。
【0089】
末梢侵害受容器およびそれらの中枢性対応物の両方におけるその感作した状態は、記憶を形成するCNSにおけるニューロンに非常に類似する活性依存性可塑性の形態である。神経障害性の疼痛もしくは掻痒症の場合には、その侵害受容応答は、「疼痛もしくはかゆみの記憶」を生成する。その長期間持続するニューロン感作を生じる分子および経路は、合理的に十分に規定される。特に、細胞内キナーゼの活性化、特に重要なのは、プロテインキナーゼAおよびC(それぞれ、PKAおよびPKC)であり、そのうちの各々は、いくつかの異なる形態、ならびにp38 MAPK、ERK-1/2 MAPKおよびJNK MAPKを含むマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)で存在する。これらキナーゼは、広い範囲の環境の「危険シグナル」、内部サイトカインおよび増殖因子、電離放射線を含む曝露によって活性化され、活性酸素種(ROS)は常に、感染および外傷に付随する。活性化される場合、これらキナーゼは、複数の経路で活性化され、そして免疫細胞を活性化して炎症を生じる100を超える異なる分子ならびに神経障害性の疼痛および掻痒症を引き起こす末梢性侵害受容器および中枢性侵害受容器の感作を引き起こすイオンチャネルおよび分子センサーに影響を与える分子を十分に調節する遺伝子の調節および活性化を生じる連続カスケードを生じる。これら炎症および免疫系活性化遺伝子の中でも、最も重要なのは、核因子、免疫グロブリン軽鎖κ、B細胞のエンハンサー(Nuclear Factor, Immunoglobulin Light Chain Kappa, Enhancer of B Cells)(NF-κBと省略される)といわれる(「炎症のマスター遺伝子レギュレーター」といわれる)。さらに、PKCのようなこれらのキナーゼのうちのいくつかは、カルシウムインフラックスを引き起こしてストロンチウムが神経障害性の状態で起こるカルシウム動態を変化させる能力に干渉する侵害受容器を直接的に感作および活性化し得る。
【0090】
ニューロパチーには多くの原因があり、そのうちのいくつかは、非常に一般的である。例えば、一般的なニューロパチーとしては、ウイルス感染(例えば、HIV、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)(これは、水痘を、および数年でまたは免疫抑制に続発して帯状疱疹を、および何年にもわたって帯状疱疹後神経痛(代表的には、高齢で起こる激しく有痛性の状態)を引き起こす))が挙げられる。糖尿病は、グルコース誘発性神経損傷、重度の火傷、重度の外傷もしくは切断および多くの薬物(特に、HIVを処置するために使用されるいくつかのもの)に起因して、代表的な灼熱痛の最も一般的な原因である。神経障害性の症状からの顕著な軽減を提供し得るガバペンチン(例えば、NEURONTIN(登録商標))およびプレガバリン(例えば、LYRICA(登録商標))のような入手可能な経口薬物があるものの、それらは全て、潜在的に顕著な副作用(患者のうちの25%超においては例えば、傾眠、目眩および精神機能の変化)を有する。多くの神経障害性の患者は、70歳代もしくは80歳代であり、既に健康上の制限を抱えているので、これら副作用は、特に問題となり得、潜在的には危険であり得る。このことは、必要とされる投薬スケジュールに伴うコンプライアンスの低下、従って患者の利益の低減を頻繁にもたらす。
【0091】
(E.細胞内グルタチオンを酸化する刺激は、複数の侵害受容器活性化経路の引き金を引く)
神経障害性の状態の発生の間に侵害受容器活性化を引き起こし得る多くの状態のうち、侵害受容器のレドックス状態は、存在する最も強力な急性および慢性の侵害受容器活性化刺激のうちのいくつかを生じ得る。細胞に、複数の炎症性および細胞保護免疫アクチベーターが活性化される防御状態へと変換させる最も重要な調節シグナルのうちの1つは、還元型グルタチオン(GSH) 対 酸化型グルタチオン(GSSG)の細胞内の比である。グルタチオンは、最も豊富な細胞内チオール抗酸化剤であり、中でも、細胞に、強力な炎症メディエーターを合成させて遺伝子を活性化させる(それら遺伝子は翻って、実質的にあらゆる免疫系炎症性細胞を活性化する)ように引き金を引く最も重要なシグナル生成器である。還元型グルタチオン(GSH) 対 酸化型(GSSG)の比は、通常は、9:1もしくはこれより大きい。細胞が外傷、感染、炎症もしくは炎症メディエーター、電離放射線もしくは一般的な「細胞ストレス」に曝される場合、還元型グルタチオンの量は急速に下がり、100を優に超える炎症メディエーター、炎症促進性サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1、IL-6および多くの他のもの)、炎症性免疫細胞を誘引および活性化するサイトカイン(これらのうちの全てが疼痛および掻痒性のシグナルを伝達し、そして翻って、神経原性炎症経路によるこれら炎症カスケードを増幅する侵害受容器を感作および活性化する)の合成を最終的にもたらす遺伝子活性化の複数のカスケードの引き金を直接的に引く。炎症および免疫防御の最も重要な細胞調節因子のうちの多くは、細胞のGSH濃度の低下に非常に敏感であり、細胞が酸化的レドックス状態にあることを示す低いGSH/GSSG比によって直接的に活性化される。
【0092】
おそらく、これらレドックス感受性調節経路のうちの最も重要なものは、NF-κBである。この分子は、最も重要なかつ強力な炎症アクチベーター(TNF-α、ならびに侵害受容器を直接的に活性化し、従ってそれらの長期の感作および神経障害性の状態への変換を増大させるメディエーターを分泌する炎症性細胞を誘引する炎症性インターロイキンおよびケモカインのうちの多くを含む)の合成を直接的にもしくは間接的に誘発することを担う。
【0093】
NF-κBは、複数の炎症経路の活性化に関する「最終共通経路」として作用するので、NF-κB活性化を低下もしくはブロックする物質は、実質的および広い抗炎症活性を有し、炎症経路の免疫系媒介性活性化の多くの形態をブロックする。NF-κBはまた、酸化的細胞内環境(還元型グルタチオン(GSH) 対 酸化型グルタチオン(GSSG)の比が最小化されるもの)によって直接的に活性化される多くの調節分子のうちの1つである。この酸化的環境は、侵害受容器の合成を大いに増大するNF-κBを直接的に活性化し、メディエーターおよびサイトカインを活性化する。
【0094】
上皮に終わりがある末梢正侵害受容器ならびにDRGおよび脊髄にある中枢性侵害受容器の両方が、連続活性化の際に感作されるので、NF-κBの活性化は、神経障害性の感作の重要かつ不可欠の刺激因子である。
【0095】
(F.微生物によるToll様レセプターの活性化は、侵害受容器を感作および活性化するNF-κBによる遺伝子転写を活性化する)
表皮細胞(例えば、ケラチノサイト)、粘膜細胞、および実質的に全ての炎症性免疫細胞は、侵害受容器活性化を引き起こし得る多くのレセプターを有する。中でも最も重要なのは、Toll様レセプター(TLR)(細菌、真菌およびウイルスの保存された分子構造を認識する分子)である。TLRは、細菌、原生動物、真菌、およびウイルスに存在する病原体関連分子パターン(PAMP)といわれる分子構造に結合する。活性化の際に、TLRは、複数の炎症性および侵害受容器活性化経路(そのうちの全てが、NF-κB活性化をもたらす)の引き金を引く。
【0096】
本開示は、ある種の状態が皮膚上の細菌の増大したレベルを示すという考えに基づく。例えば、アトピー性皮膚炎もしくは湿疹を有する患者は、彼らの皮膚上に、アトピー性皮膚炎を有しない患者と比較した場合に100倍より高いレベルのStaphylococcus aureusを有する。同様に、糖尿病患者はまた、皮膚細菌の過剰増殖を経験する傾向にある。この高レベルの皮膚細菌は、TLRを活性化し、これは翻って、複数の炎症および侵害受容器経路を活性化し、疼痛、掻痒、および刺激を経験する患者を生じる。
【0097】
(G.ウイルスによる炎症経路の活性化)
本開示はまた、多くのウイルス(単純ヘルペスウイルス(HSV)、HIV、肝炎ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、およびサイトメガロウイルスを含む)が、宿主細胞に感染するためにNF-κBの活性化を要するという考えに基づく。感染後に、いくつかのウイルスはまた、その抗アポトーシス特性のために、宿主防御機構を逃れるかまたはウイルスが拡がる機構としてアポトーシスの引き金を引くかのいずれかのために、NF-κB経路を使用する。例えば、HSVは、NF-κBを2つの異なる相において活性化する;最初の相は、ウイルス吸着(viral absorption)の間であり、第2の相は、ウイルスタンパク質のデノボ合成の間である。
【0098】
(H.NF-κBの活性化は、炎症性細胞を誘引するケモカインを生成する)
NF-κBの最も重要な結果のうちの1つは、好中球(代表的には、血液中で全WBCのうちの50%超を構成する血液由来白血球(WBC))を誘引および活性化するケモカイン(IL-8を含む)の生成を刺激することである。
【0099】
好中球は、外傷、感染もしくは炎症プロセスのいずれかのタイプへの第1の応答者であり、大量に、引き金となる部位に蓄積する。IL-8および他の炎症メディエーターによる活性化の際に、好中球は、GSHを細胞(侵害受容器を含む)から急速に枯渇させる、かなりのレベルの、強力な酸化剤である活性酸素種(ROS;例えば、スーパーオキシド、過酸化水素、一酸化窒素および次亜塩素酸)を生成し、従って、NF-κBの酸化的活性化および多くのキナーゼ(侵害受容器を直接的に活性化する実質的に全ての炎症経路を増幅するように作用するプロテインキナーゼA、プロテインキナーゼCおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼを含む)の活性化を促進する。
【0100】
これら複数の独立した炎症経路および炎症性細胞の活性化は、神経障害性の感作ならびに神経障害性の疼痛および掻痒症の発生に寄与する侵害受容器の強い活性化を生じる。
【0101】
侵害受容器のこのような活性化はまた、マスト細胞活性化、ならびにヒスタミン、TNF-α、IL-1、IL-6、IL-8および侵害受容器をさらに活性化する多くのより炎症性の物質の放出の引き金を直接的に引くサブスタンスPを侵害受容器に放出させる。複数の炎症および侵害受容器活性化経路の同時活性化に起因して、神経障害性の疼痛および掻痒症を直接的にはもたらさないことが公知の侵害受容器活性化の正味の増幅が存在する。
【0102】
(ストロンチウムは侵害受容および炎症経路に影響を及ぼす)
ストロンチウムの特有の治療特性は、カルシウム(実質的に全ての細胞機能を調節する、神経および全ての他の細胞において最も重要かつユニバーサルな「二次メッセンジャー」である)へのその化学的類似点に起因する。カルシウムイオンは、2つの陽電荷を常に有し、そのイオン半径は、0.99Å(ほぼ水素原子のサイズ)である。全ての元素のうち、ストロンチウムは、カルシウムに最も近い。なぜならそれはまた、二価の正に荷電したイオンとしてのみ存在し、1.13Åのイオン半径を有するからである。これが理由で、ストロンチウムは、代表的には、カルシウム結合部位に結合し、カルシウムの活性を摸倣する。最も頻繁には、ストロンチウム誘発性応答はそれほど強力ではなく、カルシウムの約1/1000ほどの低さの活性であり得るが、ある種のカルシウム依存性活性については、ストロンチウムは、カルシウムとほぼ同程度またはカルシウムの1/10~1/30程度の活性の範囲の活性を有する。他のカルシウム依存性活性において、ストロンチウムは、カルシウムより活性であり得る。それは、ストロンチウムにその多くのかつ種々の活性を生じさせ得るストロンチウムのカルシウム摸倣活性である。カルシウムは、非常に多くの細胞機能にとって不可欠であるので、それが強力に阻害されれば、その効果は細胞にとって毒性である。対照的に、ストロンチウムは、代表的には、カルシウムの代用になり得るので、活性がより低いにも拘わらず、カルシウム依存性経路の活性は、停止されない。代わりに、その経路活性は、ラジオの音量コントロールを下げるのに類似して低下する。ストロンチウムは、暗喩的な意味では、カルシウム依存性経路の音量コントロールを、このような経路を停止するのではなく下げるだけなので、顕著な有害反応もしくは毒性の可能性は、経路を完全にブロックする薬物と比較すると遙かに低下する。
【0103】
(A.ストロンチウムは、カルシウム波の動態および空間分布を変化させる)
化学物質、疾患、外傷もしくは他の曝露に由来する刺激原が、TCNの表面上のレセプター(これは、細胞内カルシウム濃度における急速な変化としてそれらの応答の強度をコードする)を活性化する場合、これらの変化は、1/1000秒未満で起こり得、神経、ならびに急性の、慢性のおよび神経障害性の刺激を引き起こす経路のうちの引き金を引かれる大部分(全てではないが)を通じて伝播する、変化しているカルシウム濃度の非常に複雑な「波」を生じ得る。カルシウム波の周波数に加えて、カルシウム濃度の動態の変化は、TCN活性の不可欠な調節因子である共存する静電場を変化させるカルシウム波形の継続時間、規模および正確な形状を変化させる。これら変化は、複数の炎症メディエーター(プロスタグランジン(例えば、PGE2)、ロイコトリエン(例えば、LTB4、C4、D4、およびE4)および活性酸素種(ROS)(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、次亜塩素酸およびペルオキシニトリルを含む)を含む)の放出を独立して活性化する。
【0104】
ストロンチウムは、このようにして、有痛性もしくは掻痒性の神経障害性の状態に存在するカルシウム波内でコードされる疼痛および掻痒感覚を顕著に変化させ、そのシグナルをひずませ、脳によるその知覚される強度を低減するという効果を有する。複数のカルシウム依存性シグナル伝達経路へのストロンチウム結合に起因して、ストロンチウムは、複数の独立した機構によって、カルシウムによってコードされるシグナルを顕著に変化させる。カルシウム依存性キナーゼのうちのいくつかは、神経障害性の状態の発生に必須であることが公知である。なぜなら動物モデルにおけるそれらの阻害は、確立された神経障害性の状態を防止および/または逆転し得るからである。
【0105】
ストロンチウムは、カルシウムが侵害受容器に入った後にミリ秒未満以内でカルシウムを通常は除去する侵害受容器の細胞質内部でカルシウム結合タンパク質に有効に結合できず、従って、正確にタイミングを合わせたカルシウム波に寄与するカルシウム濃度における一時的増大を生成する。ストロンチウムはまた、侵害受容器の一次カルシウム貯蔵部位である小胞体(ER)へはましてや有効にポンプ輸送されず、そこから放出されない。侵害受容器活性化シグナルが受容される場合、ストロンチウムは、カルシウムシグナルを増幅するカルシウム誘発性カルシウム放出(CICR)経路を阻害し、ストロンチウムは、細胞質中のカルシウムの濃度が高すぎる場合に、さらなるカルシウム放出を阻害するように作用することによってイノシトール三リン酸(IP3)誘発性カルシウム放出を調節する能力を有しない。
【0106】
カルシウムが、侵害受容器に、その活性化および脱分極の間にいったん入ると、それは、CICR経路によってERの中に貯蔵されている大量のカルシウムの放出を活性化する。この機構は、波を形成し、カルシウム依存性経路を調節するために利用可能であるカルシウムの量を大いに増幅するという効果を有する。ストロンチウムは、CICRを誘発し、従って、通常は刺激原に応じて起こるカルシウム濃度変化を顕著に変化させるには、カルシウムよりその能力において1/100倍未満の活性である。ER中にある場合には、ストロンチウムはまた、CICRもしくは他の類似の機構によって放出されるまで、緩衝化剤として作用し、遊離カルシウムを隔離するERカルシウム結合タンパク質へと遙かに小さな結合力で結合する。結果として、ストロンチウムは、カルシウムの150%超の濃度に達して、カルシウムがCICRの間にその増幅機能を行うことに取って代わる。ストロンチウムはまた、IP3(IP3特異的レセプターによってERからのカルシウム放出をも活性化する遍在性の物質)によって引き金を引かれる2番目に重要なカルシウム増幅機構を調節することにおいてカルシウムより遙かに活性が低い。低濃度のカルシウムでは、IP3は、脱分極の間にその遙かに小さなカルシウムインフラックスを増幅するように作用するカルシウム放出の強力な刺激因子として作用する。カルシウム濃度が十分に上昇する場合には、カルシウムは、さらなるカルシウム放出を阻害し、従って、限られた濃度範囲内でカルシウム濃度を維持するように作用する。ストロンチウムが存在する場合、ストロンチウムは、IP3誘発性カルシウム放出を活性化するその能力においてカルシウムを摸倣し得るが、ストロンチウムは、過剰なカルシウム放出を阻害することができず、カルシウムおよびストロンチウムの両方が、長期間にわたってより高い濃度に達することになる。ストロンチウムがIP3に起因するカルシウム誘発性放出を実質的に阻害する能力は、特に重要である。なぜならIP3誘発性カルシウム放出は、カルシウム波の生成を担うことが公知であるからである。これらのタイプのストロンチウム効果は、神経障害性の状態と関連するカルシウム動態およびカルシウム波形を顕著に変化させ、従って、疼痛および掻痒症に対するストロンチウムの抑制効果に寄与する。
【0107】
(B.ストロンチウムは、カルシウム依存性神経伝達物質放出を阻害する)
ストロンチウムはまた、侵害受容器内のカルシウムの動態を制御するさらなる経路に影響を及ぼす一方で、急性、慢性、および神経障害性の状態の抑制にとって極めて重要である疼痛および掻痒がコードされるカルシウム波のカルシウム依存性伝達に対する1つのストロンチウム誘発性干渉が存在する。すなわち、ストロンチウムがシナプトタグミン-1(DRGにおける神経伝達物質放出を主に担う分子)を結合しかつ不活性化する能力。シナプトタグミン分子スーパーファミリーの他のメンバーおよび関連するカルシウム調節分子は、炎症性神経ペプチド(上皮におけるTCNの末梢部分からのサブスタンスPを含む)の放出を調節する。サブスタンスPは、実質的に全ての炎症性免疫「白血球」(WBC)(ヒスタミンおよび50超の種々の炎症性化学物質(腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターロイキン1αおよびβ(IL-1αおよびβ)ならびにIL-6が挙げられる)を含むマスト細胞を含む)を活性化する、TCNから放出される最も重要な炎症性神経ペプチドであることが公知である。これら3種の炎症促進性サイトカインは、TCNを直接的に活性化して、疼痛および/もしくはかゆみを引き起こす「第1の応答者」であると考えられ、神経障害性の状態の発生および維持、ならびに炎症、疼痛もしくはかゆみと関連する大部分の皮膚状態への顕著な寄与因子であると考えられる。
【0108】
シナプトタグミン-1は、疼痛および掻痒がコードされるシグナルを脳に中継する、DRGおよび上皮に終わる末梢TCNにおけるシナプス後ニューロンに結合する神経伝達物質を含み、最終的に放出する小胞の表面に存在するタンパク質である。通常は、侵害受容器からのシナプス前神経伝達物質放出の周波数は、カルシウム波においてコードされる元の疼痛もしくは掻痒シグナルの強度、タイミングおよび他の特性が脳へと正確に伝達されるように、正確に合わせられる。カルシウム波の到着と神経伝達物質放出とシナプス後活性化との間の遅れは、通常、約1/1000秒であり、放出される量は、元のTCNシグナルの強度に関連する。このタイプの神経伝達は、「同期放出(synchronous release)」といわれる。なぜならカルシウム波の到着のタイミングは、DRG神経のシナプス後活性化の引き金を引く神経伝達物質の放出に密接に同調されるからである。この正確なカップリングなしでは、周波数にコードされる疼痛もしくは掻痒シグナルは、ゆがめられる。
【0109】
ストロンチウムをカルシウムの代わりに使用する場合、TCN活性化に応じて同調する神経伝達物質放出の振幅は、代表的には、90%超程度、低減する。ストロンチウムは、「非同期放出」といわれる、神経伝達物質放出のタイミングを顕著にゆがめるさらなるシグナル歪み効果を有する。刺激するシグナルに密接にカップリングする同期放出とは対照的に、非同期放出は、数百ミリ秒に延び得る。ストロンチウムを用いると、放出される神経伝達物質の総量は、カルシウムを用いる場合と同じであり得るが、そのコードされる疼痛もしくは掻痒の強度情報を含む同期放出の強度は、強く低減され、その不可欠なタイミング情報は、本質的には壊される。このストロンチウム機構は、疼痛もしくは掻痒シグナルの知覚される重度を低減するのみならず、TCN活性化の元の部位において、上皮のTCNの近位末端におけるサブスタンスPの放出をも抑制する。ストロンチウムがTNF-α、IL-αおよびIL-6の放出を阻害する能力は、おそらく、シナプトタグミンもしくは関連するカルシウム放出機構の類似の干渉に起因する。なぜならそれは、実質的にあらゆる細胞によって使用される分泌機構だからである。同期神経伝達物質放出の抑制はまた、神経障害性の疼痛もしくは掻痒症の処置に重要な治療利益を有する。
【0110】
よって、一実施形態において、カルシウム放出をさらに抑制することによって、またはストロンチウムによって部分的に阻害される不可欠のカルシウム依存性経路に干渉することによって、侵害受容器のカルシウム動態をさらに変化させることは、従って望ましい。
【0111】
(C.ストロンチウムは、侵害受容器活性化を抑制する侵害受容器上のカルシウム感知レセプターに結合する)
大部分の(全てではないにしても)細胞は、近年同定された、細胞外カルシウム濃度を検出する表面レセプター(CaSR)を有する。ストロンチウムはまた、このCaSRレセプターにカルシウムと同程度に効率的に結合および活性化するが、さらなる活性の引き金を引く。このことに鑑みれば、単純なストロンチウム塩であるラネル酸ストロンチウム(これは、100を超える国々において骨粗鬆症処置のための経口投与される処方薬である)が商業的に開発された。カルシウムがCaSRを活性化し、そしてさらには、CaSRに関連付けられるさらなる経路を活性化する能力を摸倣するストロンチウムの特有な能力に起因して、ラネル酸ストロンチウムは、2つの独立した骨粗鬆症治療機構-ストロンチウムは、骨を吸収する破骨細胞を阻害することによって骨喪失を阻害し、新たな骨を生成する骨芽細胞を同時に刺激する-を有する唯一の公知の骨粗鬆症薬物である。
【0112】
侵害受容器はまた、カルシウムの細胞外濃度が正常より上昇する場合に、またはストロンチウムの類似の濃度が投与される場合に、侵害受容器活性化を阻害するCaSRを有する。いかなる特定の動作理論によっても拘束されることを望まないが、この機構は、ストロンチウムが、例えば、非常に酸性の化学的表皮剥離(例えば、適用後数秒以内に灼熱痛を引き起こす70% グリコール酸、pH 0.6)によるTCN活性化を急速に阻害する能力に寄与すると考えられる。ストロンチウムがその酸と混合される場合、灼熱痛および刺痛は、いかなる残りの感覚刺激も煩わしくないように、80%もしくはこれより大きい程度抑制される。
【0113】
CaSRの活性化はまた、急性の、慢性のおよび神経障害性の疼痛および掻痒症ならびに炎症の両方を増大させることが公知のいくつかの経路の活性化を引き起こす。現実世界の使用では、ストロンチウムは、代表的には、疼痛および掻痒症を阻害するので、ストロンチウムによるCaSRの活性化によって引き起こされる疼痛および掻痒増強効果は、実際には、他のストロンチウム抗刺激原機構によって打ち消されるようである。にもかかわらず、低レベルであっても、「無症状の(subclinical)」疼痛および掻痒増強効果は、ストロンチウムが神経障害性の状態(これについては、何らかの過剰なTCN活性化が神経障害性の状態を促進することが公知である)を有効に処置、防止、もしくは改善する能力を低減する。
【0114】
特に懸念されるのは、CaSRに結合し、中でも末梢性および中枢性の侵害受容器感作に対する主要な寄与因子であることが公知のMAPK分子のうちの2種、p38およびERK-1/2を急速に活性化する、ストロンチウムの報告された能力である。CaSRへのストロンチウム結合はまた、2種の重要な調節分子、前述のIP3およびジアシルグリセロール(DAG)(これらの両方が、侵害受容器活性化および感作、ならびに炎症に寄与する)を生成する重要な酵素、ホスホリパーゼCを活性化すると報告されている。IP3は、ER貯蔵からのカルシウム放出の引き金を直接引く最も重要かつ強力なカルシウム放出分子のうちの1つである。炎症、感染もしくは外傷の間に生じる疼痛および掻痒を生じる化学物質のうちの多くは、このIP3経路を使用して、侵害受容器を活性化し、疼痛および掻痒感覚を伝達するカルシウム波を生成する。DAGは、侵害受容器、ならびに疼痛および掻痒ならびに炎症メディエーターを生成する経路のうちの多くを直接活性化する分子のファミリーであるプロテインキナーゼC(PKC)の主要なアクチベーターである。PKCは、重要な侵害受容器感作物質であることも公知である。なぜならPKC阻害は、動物モデルにおいて神経障害性疼痛を防止もしくは逆転し得るからである。PKCはまた、NF-κB(疼痛、掻痒症および炎症の引き金を引き、神経障害性感作を直接引き起こし得ると考えられる分子の最も重要な刺激因子のうちの1つ)を活性化する。ストロンチウムがCaSRに結合することによってその骨粗鬆症治療利益を生じるという認識は非常に近年のものであり、さらなるストロンチウム感受性経路が同定される可能性があるということは、強調されるべきである。ヒト侵害受容器が、侵害受容器活性化を調節するCaSRを有するという事実は、重要な疼痛および掻痒経路を阻害しながら、疼痛および掻痒経路の引き金を引くことが公知のCaSRを介して経路を同時に活性化するストロンチウムの能力に起因して、局所適用されるストロンチウムによるCaSR活性化が低レベルで機能している可能性があることを示唆する。最も重要なことには、これらCaSR経路の活性化は、神経障害性の状態の発生に寄与することが公知であるので、ストロンチウムの治療可能性は、実質的に損なわれ得る。
【0115】
よって、一実施形態において、神経障害性の疼痛、掻痒症および炎症を増強することが公知のCaSR経路を特異的に阻害する分子成分を有するストロンチウムベースの製剤(例えば、塩もしくは錯体)を作り出すことは、従って望ましい。
【0116】
本開示の1つの目的は、ストロンチウムと、ストロンチウムによって調節される経路を特異的に標的としかつ患者に疼痛もしくは掻痒症の全体的な低減または他の利益を生じる(例えば、神経障害性の疼痛もしくは掻痒性の状態を防止もしくは逆転する)他の分子とを組み合わせることによって、複数の侵害受容器経路を阻害することである。本開示の別の目的は、ストロンチウムと、ストロンチウム調節性の経路、しかしストロンチウムによって調節される工程とは異なる工程の阻害もしくは刺激をも引き起こす他の分子とを組み合わせることである。いくつかの侵害受容器経路は本質的に阻害性であり、阻害される場合には、全体的な結果は、侵害受容器の刺激であり得るということに注意することは、重要である。この理由から、用語「ストロンチウム調節性経路」は、ストロンチウムもしくはストロンチウムと組み合わされる予定である分子の全体的な効果が、特定の侵害受容器経路を刺激するかもしくは阻害するかのいずれかであり得るという事実を表すために使用される。本開示の別の目的は、ストロンチウムおよびさらなる分子を、ストロンチウムおよびその分子が「塩」もしくは「錯体」として化学的に組み合わされる化学的様式において組み合わせることである(例えば、高分子量ポリマー(例えば、アルギン酸、カラギーナンもしくはストロンチウムおよびさらなるストロンチウム調節分子とマトリクスを形成し得る他のポリマーのようなポリアニオン性ポリマー))。ストロンチウム塩もしくは錯体を作り出すことによって、製剤の容量オスモル濃度は、ストロンチウムおよびストロンチウムの2個の正電荷とバランスをとるために2個の不活性対イオンを有することと比較して低減される。
【0117】
(D.ストロンチウムはNF-κBを阻害する)
上述のように、皮膚上の細菌およびウイルスは、種々の炎症経路(例えば、TLR)を活性化する。TLRは、最終的にはNF-κBを活性化する。NF-κBを停止させることによって、ストロンチウムは、免疫系の活性化を防止し得る。
【0118】
(E.ストロンチウムは、小胞のパッケージングおよびエンドサイトーシスをブロックする)
いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、ストロンチウムは、少なくとも2種の別個の機構の活性をブロックもしくは低減することによって、エンドサイトーシス小胞のパッケージングおよび形成に影響を及ぼすと考えられる。第1の機構は、VGLUT-2であり、これは、グルタミン酸を小胞へとパッケージするために使用される。第2の機構は、ダイナミンであり、これは、エンドサイトーシス小胞を膜から摘み取る(pinch off)ために使用される。各機構は、以下で簡潔に考察される。
【0119】
上述のように、グルタミン酸およびATPは、小胞中にパッケージされ、貯蔵される。
【0120】
VGLUTおよびVNUTは、それぞれ、グルタミン酸およびATPを、カルシウム/水素アンチポーターによって作り出された水素勾配を使用することによって、小胞へとポンプ輸送する。ストロンチウムがカルシウムを摸倣する能力は、カルシウム/水素アンチポーターにおいてカルシウムの代わりにストロンチウムが結合することを可能にする。ストロンチウムの結合は、アンチポーターの効力を低減し、それによって、小胞へと充填され得るグルタミン酸の量を低減する。上記のように、放出されるグルタミン酸の量は、対数ベースの目盛りで知覚される疼痛/掻痒のレベルに相当する。よって、放出される量の小さな変化は、疼痛/掻痒の知覚の大きな変化へと翻訳される。小胞の中にパッケージされるグルタミン酸の量の低減は、放出されるグルタミン酸の量の低減へと翻訳され、これは、疼痛/掻痒の低減した知覚へとさらに翻訳される。
【0121】
上述のように、NK1レセプターへのサブスタンスPの結合は、他のシグナル伝達分子とともに、結合したレセプターのエンドサイトーシスを誘発する。小胞の最終的な形成は、ダイナミンを要し、これは、その小胞が膜から放出されるまで、エンドサイトーシス小胞の首の周りをらせん状に進んで、締め上げる。ダイナミンは、リンタンパク質およびGTPase酵素である。TCN活性化の際に起こるカルシウムインフラックスは、ダイナミンの脱リン酸化およびサイトゾルから膜へのその再配置を生じる。ダイナミンの脱リン酸化は、カルシウム依存性ホスファターゼであるカルシニューリンを通じて起こり得る。GTPase活性は、この締め上げ機構を駆動するために必要なエネルギーを生成する。ストロンチウムがカルシウムを摸倣する能力は、カルシウムの代わりにストロンチウムを結合させることを可能にし、従って、ダイナミン1の有効性をブロックもしくは低減する。
【0122】
上述のように、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)は、多様な種類の刺激(例えば、マイトジェン、浸透圧ストレス、ヒートショックおよび炎症)への細胞応答を指向することに関与する。このMAPKファミリーは、3種の主要なメンバーからなる:細胞外シグナル調節キナーゼ1および2(ERK-1/2)、p38、およびc-Jun N末端キナーゼ(JNK)。これらは、3種の別個のシグナル伝達経路を表す。蓄積しつつある証拠によって、3種全てのMAPK経路が、別個の分子および細胞機構を介する組織および神経傷害後の疼痛感作に寄与し得ることが示されている。ERK-1/2、p38、およびJNKの活性化は、炎症促進性および/もしくは侵害受容親和性メディエーターの合成をもたらし、これらは、増強されかつ長期の疼痛を生じ得る。MAPKは、細胞膜もしくはサイトゾルのいずれかにおいて活性化され得る。いったん活性化されると、MAPKは、サイトゾルおよび核の両方においてタンパク質をリン酸化し得る。従って、MAPKは、細胞外刺激を形質膜から、この膜から離れた細胞標的(例えば、転写因子)へと中継し得、多様な細胞応答を開始させ得る。いくつかの経路において、活性化MAPKは、エンドサイトーシスを受けて、遠隔位置(例えば、ヌクレアーゼ)への迅速な輸送を可能にして、遠隔細胞位置へのシグナルの伝播を促進すると考えられる。よって、ストロンチウムがエンドサイトーシスをブロックする能力は、MAPKが下流の標的を活性化することを妨げ得る。
【0123】
(F.ストロンチウムは、高密度顆粒からのサブスタンスPのエキソサイトーシスをブロックする)
TCN伝達に関与する2種の主要な神経伝達物質は、グルタミン酸およびサブスタンスPである。グルタミン酸およびサブスタンスPは、小胞中にパッケージされ、エキソサイトーシスによってシナプス前小胞から放出される。上述のように、グルタミン酸は、低周波数神経活性化で放出されるのに対して、サブスタンスPは、高周波数神経活性化でのみ放出される。
【0124】
神経伝達物質は、ニューロンの末端にある小胞中で貯蔵され、カルシウム感受性小胞膜タンパク質(VAMP)によって適所に保持される。ニューロン末端へのカルシウムのインフラックスは、神経伝達物質小胞の放出の引き金を引く。いったん放出されると、小胞は、シナプス前膜へと移動する。小胞の融合は、カルシウムイオンの第2の波に依存し、これは、シナプトタグミンに結合する。シナプトタグミン(synaptotagim)は、可溶性NSF結合タンパク質レセプター(SNARE)とともに機能して、小胞のエキソサイトーシスおよび神経伝達物質の放出に影響を及ぼす。ストロンチウムは、シナプトタグミン上のカルシウムレセプターに結合することによって、神経伝達物質小胞のエキソサイトーシスを低減もしくはブロックする。
【0125】
(G.侵害受容および炎症経路に対するストロンチウムの制限)
ストロンチウムが頻繁に、疼痛、かゆみもしくは炎症を完全にブロックできないという理由が、以下の2つの要因に起因するということが驚くべきことに発見された:(1)局所的に適用され得るストロンチウムの量の制限(適用後、ストロンチウム塩自体の高浸透圧効果が、疼痛、かゆみもしくは炎症を引き起こし始める);および(2)ストロンチウムが、ストロンチウムの固有の抗刺激原活性を打ち消すように作用し得る経路を刺激する能力(従って、全体的な治療利益を低減する)。
【0126】
第1の要因に関して、これは、類似の治療目的を有する多くの他の薬物(例えば、非ステロイド性抗炎症薬)と比較して、ストロンチウムが、疼痛、かゆみおよび炎症を抑制するその能力において比較的低い有効性を有するという事実に起因する。それは、100を超える国々で骨粗鬆症の処置に関して承認されている処方薬ラネル酸ストロンチウムの形態で経口摂取される場合に、疼痛をブロックするのを防止するストロンチウムのこの低い有効性である。第2の要因に関して、ストロンチウムがその抗刺激原利益を打ち消す程度は、神経障害性の状態を発生させた神経損傷のタイプ(例えば、ウイルス感染、物理的外傷(例えば、切断もしくは神経圧迫)、糖尿病において起こるような代謝的神経損傷、共存する炎症および他の要因)に関連する多くの要因に依存する。
【0127】
(β-ヒドロキシブチレートは、侵害受容および炎症経路に影響を及ぼす)
β-ヒドロキシブチレート(β-ヒドロキシ酪酸、β-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシブタン酸、D-3-ヒドロキシブチレート、R(3-ヒドロキシ酪酸)、D,R(DおよびDのラセミ混合物)、および天然の形態としても公知であり、まとめて「BHB」といわれる)は、β-ヒドロキシ酸である。BHBは、ストロンチウムによって阻害される同じ炎症経路において異なる工程で作用し、従って、ストロンチウムの基本的な抗刺激原、抗疼痛活性および侵害受容器保護活性を実際には増幅する。欠かせない侵害受容および炎症経路のうちのいくつかに対するBHBの効果は、以下で考察される。
【0128】
(A.Gプロテイン共役レセプターA)
Gプロテイン共役レセプター109A(GPR109A)は、ニコチン酸(ナイアシンもしくはビタミンB3(まとめて「ナイアシン」といわれる)としても公知)のレセプターである。高用量のナイアシンは、ヒトにおいて高コレステロールレベルを処置するために一般に使用される。高用量のナイアシンの1つの望ましくない副作用は、潮紅/赤面であり、これは、かゆみもしくは焼けるような感覚にしばしば付随する血管拡張に起因して皮膚が赤くなることである。潮紅/赤面は、ナイアシンの結合に伴うGRP109Aの活性化に起因して起こる。GPR109Aの活性化は、サイクリックAMP(cAMP)レベルを増大させ、細胞膜からアラキドン酸を放出する。アラキドン酸は、プロスタグランジン(D2およびE2を含む)、プロスタサイクリン、およびトロンボキサンを生成するように代謝される。プロスタグランジンD2およびE2レセプター、EP4、ならびにIPレセプターの活性化は、血管の拡張をもたらし得、皮膚の潮紅/赤面を生じ得る。
【0129】
BHBはまた、GPR109Aに結合する。本開示は、BHBが、ナイアシンのように潮紅/赤面応答を活性化しないという予測外の知見を包含する。
【0130】
(B.BHBは、シナプス前小胞充填を阻害する)
ストロンチウムに類似して、BHBはまた、グルタミン酸(VGLUT2)およびATP(VNUT)の小胞充填に影響を及ぼす。しかし、BHBは、ストロンチウムとは異なる機構を使用する。上記で考察されるように、小胞の充填は、カルシウム/水素アンチポーターによって作り出される水素勾配を使用する。このカルシウム/水素アンチポーターは、機能するために塩化物の存在を要する特有の調節系を有する。BHBは、この塩化物結合部位をブロックし、従って、効力を低減するかまたはカルシウム/水素アンチポーターを停止しさえする。
【0131】
(C.マスト細胞脱顆粒)
マスト細胞は、免疫系の一部であり、ヒスタミン、ヘパリン、プロテオグリカン、セロトニンおよびプロテアーゼがパッケージされた顆粒を含む。マスト細胞は、多くの異なる機構によって活性化され得る。いったん活性化されると、マスト細胞は、急速に脱顆粒して、顆粒の内容物を放出し、これらは、種々の炎症経路を活性化する。
【0132】
(ポリヒドロキシフェノールは、侵害受容および炎症経路に影響を及ぼす)
ポリヒドロキシフェノールは、少なくとも2個のヒドロキシル基を有するフェノール化合物である。一実施形態において、このポリヒドロキシフェノールはまた、1個もしくはこれより多くのカルボキシル基を示す。同じ構造を代表的には有するが、必ずしも有さなくてよい2個もしくはこれより多くの芳香族環を有するポリマー状のフェノール化合物はまた、本開示によって企図される。
【0133】
ポリヒドロキシフェノールは、ストロンチウムによって阻害されるその同じ炎症経路における異なる工程で作用し、従って、ストロンチウムの基本的な抗刺激原および抗疼痛活性ならびに侵害受容器保護活性を実際には増幅する。欠かせない侵害受容および炎症経路のうちのいくつかに対するポリヒドロキシフェノールの効果は、以下で考察される。
【0134】
(A.ポリヒドロキシフェノールは、侵害受容器を活性化する複数の炎症経路を阻害する)
ポリヒドロキシフェノールは、NF-κBの成分に直接結合し、活性化の直接的阻害を引き起こす強力な抗酸化剤である。それらはまた、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルおよび次亜塩素酸を直接的に不活性化し、従って、これらが細胞内GSH濃度をシフトさせて低減する(これは、NF-κBおよび他のレドックス活性化炎症性調節分子および侵害受容器を直接活性化する分子を活性化する)ことから防止する。ポリヒドロキシフェノールはまた、ICAM-1、VCAM-1および好中球および単球を血管から管外遊出させ、炎症部位に蓄積させ得、従って、侵害受容器活性化に寄与するセレクチン接着分子のメンバーのような複数の細胞接着分子の発現を阻害する。
【0135】
ポリヒドロキシフェノールはまた、プロテインキナーゼC(PKC)アイソザイム、および特に、PKCεのインヒビターである(例えば、Cancer Res. 70(6): 2415-2423 (2010);およびBiochem. Pharmacol. 38: 1627-1634 (1989)(ともに本明細書に参考として援用される)を参照のこと)。これら論文の両方によっても記載されかつ示されるように、化合物によるPKCの阻害の程度を決定するための方法は、薬学分野で公知である。これは、ストロンチウムがPKCの補因子としてのカルシウムの効果を摸倣し得ることから特に有用である。本明細書で使用される場合、ポリヒドロキシフェノールは、PKCの活性の10%もしくはこれより高い程度抑制する場合に、PKCインヒビターであるとみなされる。
【0136】
ポリヒドロキシフェノールは、カルモジュリンの公知のインヒビターでもある。より具体的には、それらは、カルモジュリン促進性のホスホジエステラーゼ活性を阻害する。例えば、Plant and Cell Physiol. 26(1) 201-209 (1985)(これは、カテキン、エピカテキン、クエルセチン、コーヒー酸およびナリンゲニンのようなフラボノイドによるカルモジュリン促進性のホスホジエステラーゼ活性の阻害を記載する)を参照のこと。本明細書で使用される場合、このポリヒドロキシフェノールは、カルモジュリンの活性の10%もしくはこれより高く抑制する場合に、カルモジュリンインヒビターであるとみなされる。
【0137】
ポリヒドロキシフェノールは、アデノシン三リン酸(ATP)アナログとしても公知である。
【0138】
ATPは、プロテインキナーゼCおよび複数の炎症経路を活性化し、NF-κBを活性化し、そして侵害受容器を直接活性化するシグナル伝達経路のうちの一部である他の調節因子キナーゼのようなキナーゼの活性部位に結合する分子である。これらキナーゼは、神経障害性の侵害受容器感作、ならびに神経障害性の疼痛および掻痒症の発生に必要であることも公知である。フェノール部分上で、メタ位およびパラ位で互いに隣接してヒドロキシル基を有するポリヒドロキシフェノールは、ATPの三次元構造を摸倣し、プロテインキナーゼATP結合部位に関してATPと競合する。ATP結合部位へのポリヒドロキシフェノールの結合は、プロテインキナーゼが活性になることを妨げる。種々のATPアナログ(例えば、フラボノイド)の活性の研究は、文献において公知である(例えば、Phytochemistry Reviews 1:325-332 (2002)(ここではATP依存性活性に対するフラボノールの効果が研究された(本明細書に参考として援用される)を参照のこと)。
【0139】
ポリヒドロキシフェノールはまた、低濃度の鉄(II)イオン(Fe2++)および銅(Cu++)が触媒として作用して強力な炎症アクチベーターである毒性が高くかつ炎症性のヒドロキシルラジカルを生成するフェントン反応を阻害する能力を有する。
【0140】
ポリヒドロキシフェノールはさらに、プロスタグランジンおよびロイコトリエン、特に、PGE2およびLTB4の強力なインヒビターである。PGE2は、実質的に全ての炎症状態において合成される、最も重要な侵害受容器感作物質のうちの1つである。LTB4は、外傷、刺激、感染および炎症の部位において多数蓄積する最初の細胞であり、中でも侵害受容器活性化の最も重要な引き金である、好中球の最も重要な誘引物質およびアクチベーターのうちの1つである。
【0141】
ポリヒドロキシフェノールはまた、最も重要な炎症性分子のうちの1つであるマスト細胞に対して強力な阻害活性を有する。マスト細胞は、身体全体を通じて真皮および粘膜下組織に存在し、中でも、ヒスタミン、TNF-α、IL-1、およびIL-6のような予め形成される炎症メディエーターの最も重要な供給源である。侵害受容器は、TNF-α、IL-1、IL-6および他によって、直接的もしくは間接的にいずれかで活性化される。侵害受容器活性化はまた、マスト細胞、好中球およびあらゆる他のタイプの炎症性白血球を直接活性化するTCNからのサブスタンスP放出の主要な刺激因子である。
【0142】
さらに、ポリヒドロキシフェノールはまた、ストロンチウムによって刺激されるいくつかの炎症および侵害受容器活性化経路を阻害する欠かせない能力を有する。特に、ストロンチウムが侵害受容器を含む細胞上のカルシウム感受性レセプター(CaSR)を活性化する能力は、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼCおよびNF-κBを活性化することが公知である。これら分子の各々の活性化は、侵害受容器活性化およびニューロパチー発生に寄与することが公知である。ストロンチウムとポリヒドロキシフェノールとを組み合わせると、このような活性化を制限し、従って、ストロンチウムの望ましくない活性を打ち消す。
【0143】
ポリヒドロキシフェノールはまた、細胞内カルシウム動態を変化させる能力を有する。具体的には、それらは、疼痛および炎症が引き金を引く細胞外刺激に応じた細胞内カルシウムの増大を低減する。
【0144】
本明細書で記載されるようにストロンチウムとポリヒドロキシフェノールとを組み合わせると、複数の重複するおよび別個の機構を有することによってストロンチウム単独によって阻害される同じ侵害受容器活性化経路のうちの多くのより効率的なインヒビターである錯体を生じる。さらに、ポリヒドロキシフェノールはまた、疼痛、掻痒症、および神経障害性の疾患の発生に寄与するストロンチウムで活性化される経路を阻害する。
【0145】
(B.ポリヒドロキシフェノールは、保存された疎水性部位に結合する)
ポリヒドロキシフェノールは、π-π結合スタッキングを介して、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンのような疎水性アミノ酸に結合することが公知である。そのヒドロキシ基はまた、それらがタンパク質中のペプチド骨格のアミド基およびカルボニル基、ならびに選ばれたアミノ酸側鎖に水素結合し得ることから、重要である。没食子酸および他のポリヒドロキシフェノールが結合するアミノ酸の中でも、プロリンおよび他の芳香族アミノ酸は、中でも最も重要である。
【0146】
(システインベースの抗酸化剤は、侵害受容および炎症経路に影響を及ぼす)
システインは、三文字アミノ酸記号Cysによって略記される。システインは、多くの食品およびタンパク質中に存在する天然に存在するアミノ酸である。システインは、チオール側鎖を有し、これは容易に酸化される。その高い反応性が原因で、システインのチオール基は、多くの生物学的機能を有する。広い意味では、システインは、以下の広い薬理学的活性を有する:(1)抗酸化活性、(2)レドックス感受性調節分子の直接的調節、および(3)疼痛および炎症の引き金を引く細胞内カルシウムレベルの阻害。これらの各々は、以下で考察される。
【0147】
(A.システイン、シスチン、およびグルタチオン)
シスチンは、1個のジスルフィド結合によって一緒に結合した2個のシステイン分子から構成されるアミノ酸化合物である。細胞外環境では、シスチンは、優勢な形態であり、特異的アミノ酸交換分子、システムXcアンチポーターによって細胞へと輸送される唯一の形態である。このタンパク質は、細胞外シスチンを細胞内グルタミン酸と、輸送エネルギーの供給源としてこの2つの間の相対的濃度勾配を使用して交換する。細胞内では、シスチンのジスルフィド結合は、システインの2つの分子(各々は、遊離スルフヒドリル基を有する)を形成するように還元される。遊離システインは、次いで、トリペプチドであるグルタチオン、γ-Glu-Cys-Glyへと組み込まれる。グルタチオンは、全ての細胞において最も優勢かつ重要な細胞内チオール抗酸化剤であり、数百もの調節性分子(そのうちの多くは、強力な疼痛および炎症誘発因子である)の発現を直接的もしくは間接的に制御する還元/酸化「レドックス」スイッチとして作用する。遊離システインはまた、調節性タンパク質を不活性化し得、そして脂質を酸化し得、異常な細胞増殖および癌をもたらし得るDNAの変異を直接的に引き起こし得る活性酸素種(ROS)を直接的に不活性化し得る。
【0148】
システインは、還元型グルタチオン(GSH)の合成を制御する律速アミノ酸である。よって、システインベースの抗酸化剤の投与は、GSHの濃度を増大させ、酸化型グルタチオン(GSSG)の細胞内濃度を低下させ、従って、侵害受容器のレドックス状態を正常にする。これは、NF-κBの活性化および多くの他のレドックス感受性炎症経路の活性化を阻害し、従って、直接的経路および間接的経路の両方による侵害受容器活性化を低減するという即座の効果を有する。システインベースの抗酸化剤はまた、一酸化窒素が、神経障害性の状態に直接寄与することが公知である炎症性キナーゼに共有結合し、これを活性化する能力を抑制するそれらのチオール(SH基)に起因して、特有の抗酸化活性を有する。システインベースの抗酸化剤はまた、炎症経路を活性化する他の酸化剤を直接不活性化し、および最も重要なことには、それらは、侵害受容器活性化を阻害する。
【0149】
(B.システインベースの抗酸化剤は、侵害受容器を活性化する複数のストロンチウム調節性炎症経路を阻害する)
そのチオール基に起因して、システインベースの抗酸化剤はまた、侵害受容器活性化に寄与する炎症経路の一部である分子内のシステイン残基のチオール基に直接結合する能力を有する。多くのチオール感受性調節分子が存在するので、システインベースの抗酸化剤は、このような分子中の欠かせないシステインの酸化をブロックし、従って、炎症および侵害受容器活性化の増大をもたらす活性化をブロックする能力を有する。多くのレドックス感受性システイン調節性経路に関しては、侵害受容器内のカルシウムの濃度が増大され、そして多くの他の侵害受容器アクチベーターに関しては、得られたカルシウム濃度がコードする疼痛、掻痒症および活性化のシグナルは、神経障害性の状態の形成および長期継続に寄与する。
【0150】
侵害受容器および炎症性細胞上に存在する1つの特に重要なチオール感受性疼痛誘発および炎症誘発分子は、疼痛、掻痒および炎症応答の引き金を引くその遊離システインアミノ酸の酸化に非常に感受性である一過性レセプター電位アンキリン(transient receptor potential ankyrin)、サブタイプ1(TRPA1)である。TRPA1は、環境中に見出される化学刺激原、過酸化水素およびプロスタグランジン代謝産物のような炎症反応において放出される炎症性化学物質、ならびに香辛料を入れた刺激の強い食品における化学物質という広い範囲に対するその感受性において、公知の酸化感受性イオンチャネルの中でも特有である。それは、侵害受容性ニューロン、免疫細胞および上皮細胞上に存在する最も重要な「化学センサー」のうちの1つであると考えられる。単純なチオール抗酸化剤(本開示におけるチオール抗酸化剤のような)は、TRPA1におけるシステインの酸化を防止もしくは逆転し得、従って、その活性化、ならびに胃内容物中の刺激原化学物質および食道粘膜における炎症反応に起因する疼痛および炎症応答の生成を防止し得る。
【0151】
システインベースの抗酸化剤はまた、細胞内カルシウム動態を変化させる能力を有する。具体的には、それらは、細胞内カルシウムレベルを調節する酸化された調節性タンパク質を還元する。細胞が炎症メディエーターに曝される場合、活性酸素種は、カルシウムを貯蔵し、これを最初のカルシウム媒介性シグナルに応じて細胞質へと放出する小胞体中の分子を酸化する。これら酸化された分子は、カルシウム放出機構の感受性を増大させ、シグナルの大きさを増大させ、従って、潜在的には疼痛おとび炎症応答の両方を増大させる。
【0152】
(C.侵害受容および炎症経路に対するシステインベースの抗酸化剤の制限)
ある種の状況において、システインベースの抗酸化剤は、利益より大きな害を引き起こし得る。低pH(例えば、酸性条件)および高い容量オスモル濃度(例えば、高いシステインベースの抗酸化剤濃度)の状況では、システインベースの抗酸化剤の存在は、組織における損傷を減少させるよりむしろ増大させると考えられる。各々は、以下で簡潔に考察される。
【0153】
酸性条件は、酸感知イオンチャネル(最も注目に値するのは、酸感受性イオンチャネル(ASIC)および一過性レセプター電位バニロイド1(Transient receptor potential vanilloid 1)(TRPV1)である)の活性化を介する疼痛を誘発し得る。ASICは、過剰な水素イオン(すなわち、酸性環境)の存在下で活性化される電位非感受性カチオンチャネルのファミリーである。全てのASICは、侵害受容器において特異的に発現されるASIC3とともに、末梢神経系に存在する。
【0154】
ASICの活性化は、疼痛の知覚をもたらす。TRPV1(カプサイシンレセプターおよびバニロイドレセプター1としても公知)は、広く種々の外因性および内因性の物理的および化学的刺激(例えば、高温、酸性条件、カプサイシン、およびアリルイソチオシアネート)によって活性化され得る。TRPV1は、疼痛、掻痒、および炎症の中心的集積因子(integrator)である。TRPV1の活性化は、カルシウムイオンチャネルの開口およびサブスタンスPの放出のような他の分子を直接感作し、有痛性の焼けるような感覚を生じた。
【0155】
いくつかの還元剤(例えば、抗酸化剤、システインベースの抗酸化剤)はまた、ASICを活性化し得ると考えられる。さらに、システインベースの抗酸化剤はまた、カルシウムイオンチャネルを活性化し得、従って、ASIC1aおよびTRPV1と相乗効果的に作用して、疼痛、掻痒、および炎症の知覚を強める。
【0156】
遊離チオール(-SH)基を有する分子は、侵害受容器上のイオンチャネルを活性化および開口し得、疼痛、掻痒、および炎症シグナルの伝達を生じると考えられる。さらに、この活性化は、低いミリモル濃度からマイクロモル濃度までで起こる。さらに、細胞質からのシステインの放出は、侵害受容器活性化の引き金を引く。上記に基づけば、高濃度のシステインベースの抗酸化剤を含む組成物および製剤は、(1)侵害受容器を活性化し得る、および(2)侵害受容をも活性化し得る高い細胞外システインレベルを摸倣し得る。
【0157】
予測外なことに、システインベースの抗酸化剤とストロンチウムとを組み合わせることによって、低pHもしくは高濃度のシステインベースの抗酸化剤ですら、疼痛、掻痒、および炎症を実際に低減することが見出された。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、ストロンチウムの存在下でのイオンチャネルの開口は、より高いレベルのストロンチウムが、侵害受容器に入り、従って、その活性を停止もしくは低減することを可能にすると考えられる。これは、(1)イオンチャネルへと流れることに関して、カルシウムより高い親和性をストロンチウムが有すること、および(2)存在するカルシウムの生理学的レベルと比較して、存在するストロンチウムイオンの量が過剰であることに起因する。さらに、システインベースの抗酸化剤およびストロンチウムは、侵害受容をブロックするために異なる機構を標的とする。この組み合わせは、個々の化合物と比較して、疼痛、掻痒、および炎症の軽減の驚くべきレベルを提供する相乗効果的な影響を生じる。
【0158】
(乾癬)
【0159】
乾癬は、病変によって特徴付けられる免疫媒介性の皮膚の状態である。乾癬には、大きく5つのタイプが存在する(尋常性(plaque)、滴状、倒置(inverse)、膿疱性、および紅皮性)。そのうち、尋常性は、最も一般的である。乾癬と関連する皮膚病変は、一般に、異常に過剰なかつ急速な皮膚細胞の増殖(プラークといわれる集積および厚い斑(patche)を生じる)に起因する。皮膚細胞は、通常の28~30日間の代わりに、3~5日間ごとに置き換わる。この急速な皮膚増殖は、細胞増殖の引き金を引く炎症系の有害なサイクルを通じて維持され、それは翻って、炎症系の引き金を引く。
【0160】
乾癬サイクルは、ケラチノサイトにストレスがかかるようにさせ、樹状細胞を活性化する外傷、感染、もしくはストレスのような引き金を引く事象とともに始まると考えられる。この樹状細胞は、IL-12およびIL-23を放出し、これは、翻って、それぞれ、Th17およびTh1細胞を刺激する。Th17は、TNF-α、炎症を刺激するインターフェロン-γを放出する。同様に、Th1細胞は、炎症を刺激するIL-17を放出する。Th1細胞はまた、ケラチノサイト分裂を刺激し、プラークの形成をもたらす。免疫細胞の活性化は、ケラチノサイトをも活性化するサイトカインを放出する。免疫系とケラチノサイト活性化との間の相互作用は、自給式サイクルになる。
【0161】
予備調査は、ストロンチウムが乾癬の炎症性/ケラチノサイトサイクルを、具体的には、IL-17およびTNF-αをブロックすることによって終わらせ得ることを示す。活性化した樹状細胞が乾癬エピソードの引き金を引くために使用するこの2つの主要な経路を標的としブロックすることによって、ストロンチウムは、乾癬の治療剤として計り知れない可能性を有する。
【0162】
(アトピー性皮膚炎)
アトピー性皮膚炎(湿疹としても公知)は、乾燥、痒みのある、炎症を起こした皮膚として現れる状態である。この状態はまた、じくじくした、ひび割れのある、腫脹した、および痂皮で覆われている隆起した病変として現れ得る。この病変は、細菌、真菌、もしくはウイルス感染の増大したリスクを示す。アトピー性皮膚炎の原因は未知である一方で、多くの要因が、遺伝的性質、微生物、および環境が挙げられるが、これらに限定されない条件に寄与すると考えられる。
【0163】
アトピー性皮膚炎を有する人々は、彼らの皮膚上により高レベルのStaphylococcus aureusを有すると考えられている。細菌レベルが高いほど、toll様レセプター、特に、toll様レセプター4(TLR-4)を介して免疫応答の引き金を引く。TLR-4の継続的な活性化が、アトピー性皮膚炎の慢性的な性質に寄与するとも考えられている。
【0164】
アトピー性皮膚炎において活性化される他の分子経路としては、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)が挙げられる。MMPは、細胞外マトリクスタンパク質(結合組織を含む)を破壊し得る酵素のファミリーである。
【0165】
予備データは、ストロンチウムがTLR-4およびMMP活性をブロックし得ることを示す。
【0166】
(ヘルペスウイルス科、帯状疱疹、および帯状疱疹後神経痛)
ヘルペスウイルス科は、人々および動物において疾患を引き起こす大きなウイルスの科である。この科は、単純ヘルペスウイルス1および2(HSV1、HSV2)、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、サイトメガロウイルス、ロゼオロウイルス、およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスを含む。初期感染が消散した後、ヘルペスウイルスのうちの多くは、神経細胞体の中で潜伏性のまま残存する。そのウイルスは、数日後、数ヶ月後、数年後、もしくは数十年後にすら、再活性化され得る。活性化の際には、そのウイルスは、神経軸索を下って移動して、神経領域において皮膚のウイルス感染を引き起こす(例えば、水疱を起こさせる発疹)。
【0167】
単純ヘルペスは、感染部位に基づいていくつかの別個の医学的障害を引き起こす。一般的な感染部位としては、顔面/口(口腔顔面ヘルペス)、肛門生殖器(性器ヘルペス)、手(疱疹性ひょう疽)、眼(ヘルペス性角膜炎)、および中枢神経系(ヘルペス脳炎)が挙げられる。HSV1および2は、一般に、流体が満たされた水疱へと発達する、有痛性のおよび/もしくは痒みのある小さな赤いこぶとして現れる。その水疱は破れて後に潰瘍が残り、それは痂皮で覆われ最終的には治癒する。処置は、抗ウイルス剤から鎮痛薬から栄養補助食品までの範囲に及ぶ。
【0168】
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、小児において最初に水痘として現れる。初期感染がいったん消散したら、そのウイルスは数十年間にわたって不活性なまま残存し得る。そのウイルスの活性化は、帯状疱疹(shingles)もしくは帯状疱疹(zoster)と一般にいわれる状態を生じる。帯状疱疹は、最初に、インフルエンザ様症状(例えば、頭痛、発熱、および倦怠感)、続いて、灼熱痛およびかゆみの感覚とともに現れる。発疹は、一般に、最初の症状の1~2日間で発生するが、3週間以降程度の長さであり得る。その発疹は、赤く、流体が満たされた水疱として現れ、それは破れて、痂皮で覆われる。発疹は、代表的には、ベルト様パターンで、身体の一側に出現する。発疹は一般に、2~4週間以内に治癒する。高齢者では、発疹は、より重度になり得、より長く持続し得る。
【0169】
帯状疱疹後神経痛(PHN)は、発疹が消散した後に数ヶ月間もしくは数年間にわたって継続した疼痛を患者が経験する状態である。PHNは、帯状疱疹患者のうちの約2~20%において起こる。その疼痛は、代表的には、帯状疱疹に罹患したその同じ領域に起こり、間欠性もしくは不断であり得、帯状疱疹と関連する広い範囲の疼痛感覚を摸倣し得る。PHNは、皮膚の感作の増大(アロディニアといわれる状態)を生じ得る。PHNの実際の原因は未知である;しかし、罹患した神経に対する炎症もしくは損傷に起因すると考えられている。帯状疱疹後神経痛は、処置するのが極めて困難であり、処置は、抗ウイルス剤から鎮痛薬から抗うつ薬および抗痙攣薬までの範囲に及ぶ。
【0170】
予備調査は、ストロンチウムが、HSV1と関連する疼痛、掻痒、および発疹/水疱形成を低減および/または排除し得ることを示す。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、ストロンチウムがNF-κBをブロックする能力は、活発な感染と関連する症状を最小にすることに寄与すると考えられる。上述のように、HSV 1および2は、デノボウイルス合成のためにNF-κBの活性化を要する。NF-κBをブロックすることによって、ストロンチウムは、初期段階で感染を本質的に停止している。
【0171】
予備調査は、ストロンチウムがPHNと関連する疼痛を低減もしくはブロックし得ることを示す。
【0172】
(創傷管理)
皮膚は、微生物感染に対する保護バリアを提供する。皮膚への損傷は、微生物感染の機会を示す。よって、感染制御は、創傷管理の重要な局面である。大部分の例(例えば、小さな切り傷)では、感染は、考慮事項としては小さい。しかし、損傷が広い面積の皮膚(例えば、火傷)もしくは長期の開放創(例えば、潰瘍)で起こる場合、感染制御は非常に重要になる。感染制御は通常、抗菌剤(例えば、抗生物質および抗真菌剤)の使用を通じて行う。しかし、長期の抗生物質使用は、細菌の耐性をもたらし得る。現在まで、2種の抗生物質のみ(ヨウ素および銀)が、細菌の耐性を一度も示したことがない。そうはいっても、ヨウ素も銀も、全身感染を処置するためには使用できない。
【0173】
(A.火傷)
火傷は、熱、電気、化学物質、摩擦、もしくは放射線によって引き起こされ得る。火傷は、皮膚および下にある組織への損傷深度に基づいて分類される。I度もしくは表層の火傷は、皮膚の外層(すなわち、表皮)にのみ影響を及ぼす。II度もしくは中間層火傷(partial-thickness burn)は、皮膚の下にある層、すなわち、真皮上層にまで浸透する。III度もしくは全層性火傷(full thickness burn)は、皮膚の全ての層を貫通して拡がる。IV度火傷は、筋もしくは骨のようなより深部の組織が巻き込まれる。化学火傷は、酸、塩基、酸化剤、溶媒、還元剤もしくはアルキル化剤(alkylant)のような任意の腐食性物質によって引き起こされ得る。化学火傷は、その損傷が即座に目立たない可能性がある(例えば、皮膚の下)という点で普通ではない。化学火傷の1つの注目に値する原因は、兵器として使用されている化学物質から来るものである。非限定的な例としては、窒息性刺激原(choking irritant)、発疱薬/水疱形成剤(blistering agent)、血液剤(blood agent)、神経剤(nerve agent)、嘔吐剤(vomiting agent)、暴動鎮圧剤(riot control agent)、無力化剤(incapacitating agent)、毒素、およびアレルゲンが挙げられる。
【0174】
火傷の処置は、重症度に依存する。軽症火傷、すなわち、直径2~3インチ未満のI度およびII度の火傷は、一般に、その領域をきれいに保ち、疼痛のための市販薬を服用することによって、自己処置され得る。重症火傷、すなわち、直径3インチより大きなII度火傷、ならびに全てのIII度およびIV度の火傷は、医学的処置を要する。重症火傷の処置はしばしば、(1)滲出物を吸収する、(2)創傷部位の高湿潤性を維持して、治癒を促進する、および(3)感染リスクを低減する、ために包帯の使用を必要とする。種々の異なる創傷包帯が利用可能であり、非限定的な例としては、親水コロイド、ポリウレタンフィルム、ヒドロゲル、ケイ素被覆ナイロン(silicon coated nylon)、生合成性皮膚代替物(biosynthetic skin substitute)、抗菌剤(例えば、銀およびヨウ素)、線維、および創傷包帯パッド(wound dressing pad)が挙げられる。利用可能な包帯のうちのいくつかは、ポリマーを使用して滲出物を吸収し、ゲル様バリアを作って、創傷を湿潤に保つ一助としている。他のものは、抗菌剤(銀もしくはヨウ素)を含む。
【0175】
本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、火傷を管理することにおいて使用するために有益であり得る。予備的な臨床上の証拠は、局所適用されるストロンチウムベースの組成物および製剤が、軽症火傷(例えば、日焼けもしくは小さいサイズの熱傷)と関連する疼痛および掻痒からの軽減を提供し得ることを示す。予備的な臨床上の証拠はまた、そのインシデントの直後に適用される場合、局所適用されたストロンチウムベースの組成物および製剤が、水疱の形成もしくは皮膚剥離を低減もしくは排除し得ることを示す。重症火傷に関しては、局所適用されるストロンチウムベースの組成物および製剤はまた、重症火傷と関連する疼痛、掻痒、および炎症を管理する一助とするために使用され得る。例えば、ストロンチウムベースの組成物および製剤は、包帯を適用する前に、火傷領域に適用され得る。あるいは、ストロンチウムベースの組成物および製剤は、創傷包帯の中に組みこまれ得るかもしくはその一部であり得る。さらに、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤の使用は、火傷に起因する神経障害性の疼痛もしくは掻痒の発生を低減もしくは防止し得る。最後に、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、瘢痕の形成を防止もしくは低減し得る。
【0176】
(B.外科手術および外傷)
感染の防止はまた、外科手術中および外科手術後、ならびに皮膚の破断を生じる外傷性のインシデント後には欠かせない。外科手術に関しては、医療関係者は、代表的には、ヨウ素溶液を使用して、彼らの手および手術部位をきれいにする。外科手術後に、切開は、通常、抗細菌剤で被覆され、包帯を使用して覆った状態にされる。本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、術後創および切断の断端を処置することにおいて有用であり得る。さらに、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、術後創および切断の断端と関連する疼痛、掻痒、もしくは刺激を処置するにあたって有用であり得る。最後に、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、瘢痕の形成を防止もしくは低減し得る。
【0177】
(C.ストロンチウムベースの組成物および製剤)
一実施形態において、創傷処置における使用のためのストロンチウムベースの組成物および製剤は、さらなる抗菌剤支援を提供するために、ヨウ素もしくは銀をさらに含む。
【0178】
1つの非限定的な例は、ヨウ化ストロンチウム塩を使用する。ヨウ化ストロンチウムは、その色が標準的ヨウ素より遙かに薄いという点で別の予測外の利益を提供する。ヨウ素の欠点のうちの1つは、その色が乾燥した血液のように見えるということである。よって、より色の薄いヨウ化ストロンチウム組成物/製剤があれば、医療関係者が創傷状態を評価する一助になる。別の実施形態において、ヨウ化ストロンチウムもしくはストロンチウム・銀組成物および製剤は、BHBをさらに含み得る。上記のように、BHBは、ストロンチウムと同じもしくは異なる侵害受容および炎症経路に対して作用する。よって、BHBを含めることは、ヨウ化ストロンチウムもしくはストロンチウム・銀塩の効果を相乗効果的に増強し得る。別の実施形態において、BHBは、ポリマー形態にある。このBHBポリマーの分解は、個々のBHB分子を生じる。よって、このBHBは、BHBの長期の放出を提供し得る。別の実施形態において、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤は、創傷包帯に組みこまれ得るかもしくはその一部であり得る。
【0179】
一実施形態において、2種の別個の製剤が連携して(in tandem)使用される。第1の製剤は、ヨウ化ストロンチウムもしくはストロンチウム・銀である。第2の製剤は、ストロンチウムおよび少なくとも1種の有益な薬剤(以下で考察)(例えば、ポリヒドロキシフェノール、システインベースの抗酸化剤、もしくはBHB)である。第1の製剤は、感染リスクが高い場合(例えば、火傷管理の早期段階)に使用される。第2の製剤は、感染リスクがそれほど高くない場合(例えば、上皮組織の層が創傷の大部分を覆いつつある後)に使用される。この二重/連携製剤(dual/tandem formulation)は、創傷治癒の欠かせない相の間に、酸化剤(例えば、ヨウ素)および抗酸化剤/還元剤(例えば、ポリヒドロキシフェノールおよびシステインベースの抗酸化剤)の使用を可能にする。
【0180】
(D.適用および処置)
火傷、外科的切開、および切断は、神経損傷を引き起こす傾向にあり、従って、神経障害性の疼痛を生じる。神経障害性の疼痛の発生を潜在的に最小にする1つの方法は、本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物および製剤の即座および/もしくは継続した適用を介することである。これは、慣用的な適用もしくは長期放出製剤、またはストロンチウムベースの組成物および製剤を連続して放出するデバイスの使用を通じて達成され得る。一実施形態において、処置は、最初の数日間もしくは数週間にわたって継続する。創傷が治癒するに従って、処置は、その患者の疼痛、掻痒、もしくは刺激レベルに基づいて、より断続的になり得る。最終的には、その患者の疼痛、掻痒、もしくは刺激の知覚は、適用の頻度を決定する。
【0181】
(不穏下肢症候群)
不穏下肢症候群(RLS)(Willis-Ekbom病もしくはWittmaack-Ekbom症候群ともいわれる)は、脚(およびときおり、腕もしくは他の身体部分)に不快な「痒みのある」、「ピリピリする感じ(pins and needles)」、もしくは「虫が這いずり回る」感覚を引き起こす神経学的障害である。罹患した身体部分を動かすと、一時的な軽減が提供され得る。RLSの原因としては、遺伝的素因、鉄の不均衡(低すぎるもしくは高すぎる)、およびある種の薬物療法が挙げられる。
【0182】
予測外なことには、局所適用されたストロンチウムベースの組成物は、RLSと関連する症状を低減もしくは排除し得ることが見出された。
【0183】
(関節痛)
関節痛は、関節炎、傷害、および反復運動が挙げられるが、これらに限定されない多くの原因を有する。関節炎に関して、100を超える異なる関節炎の原因があり、これらは、2つの大きなカテゴリーに大きく分けられる。第1のカテゴリーは、軟骨の摩耗および断裂によって引き起こされる関節炎であり、第2のカテゴリーは、炎症と関連する、一般には、過度に活動的な免疫系と関連する関節炎である。関節炎の最も一般的な原因は、変形性関節症、関節リウマチ、および乾癬性関節炎である。傷害に関して、傷害は、腱、靱帯、もしくは軟骨の損傷および/もしくは炎症をもたらす捻挫、挫傷、もしくはねじれ(twist)であり得る。反復運動傷害に関しては、この用語は、反復労作、力の要る作業、振動、機械的圧迫、もしくは持続した/不自然な位置(sustain/awkward position)と関連する状態のある範囲を網羅するために使用される。反復運動傷害の非限定的な例としては、手根管症候群、肘部管症候群、ゴルフ肘、テニス肘、ドケルバン症候群、胸郭出口症候群、腱交差症候群(intersection syndrome)、狭窄性腱鞘炎、橈骨神経管症候群、および局所性ジストニアが挙げられる。
【0184】
本開示は、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物が、局所適用される場合に、関節痛の軽減を提供し得るという予測外の発見を包含する。
【0185】
関節痛および炎症管理に対する初期の理論は、鎮痛剤/抗炎症剤が例えば、関節内の深部での疼痛/炎症の発生に必要とされると考えた。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、神経終末上の神経シグナル伝達の破壊はまた、以下の概念に基づいてその神経シグナルを組織においてより深く破壊すると考えられる。第1に、生理学的に、単一の神経は、脊髄から皮膚の表面の直下へと達する。第2に、神経シグナルの伝播は、波様の様式で神経に沿ったカルシウムの流れに基づく。そして第3に、そのシグナルの強度は、カルシウム波の周波数に相関する。これら3つの概念に基づけば、神経末端でのカルシウム波の破壊は、その神経の長さにさらに沿ったシグナル伝播に影響を及ぼし得る。シグナル伝播の破壊は、疼痛もしくは掻痒の知覚における低減もしくは排除をもたらし得る。
【0186】
(高浸透圧製剤)
近年の研究は、高容量オスモル濃度製剤が侵害受容器、ケラチノサイトおよび免疫細胞もしくは炎症性細胞上に存在する特異的浸透圧センサーを活性化することを示した。この一例は、単純塩の濃縮溶液が創傷へと注がれる場合に、刺痛および熱感を引き起こす「傷口に塩(salt in the wound)」効果である。不快感を引き起こすことに加えて、高容量オスモル濃度溶液は、炎症性細胞を直接活性化し得、これら細胞に侵害受容器活性化を引き起こす化学物質を放出させ得る。
【0187】
(A.高浸透圧製剤はまた、組織を物理的に損傷させ得、疼痛および炎症を引き起こし得る)
高浸透圧活性(400mOsmを超える(例えば、400~2000mOsmの間))を有する局所用製剤はまた、繊細な組織を損傷し得、特に、物理的外傷、感染もしくは炎症に起因して損傷した「バリア機能」を有する、粘膜または組織を有する非角質化皮膚において疼痛を引き起こし得る。このような高浸透圧誘発性損傷は「傷口に塩効果」として周知であり、それは、浸透力が細胞および組織から高浸透圧製剤へと水を流す原因となる場合に起こる。高浸透圧製剤の適用は、容量オスモル濃度センサーとして作用し、活性化される場合に、疼痛感知神経ならびに炎症および細胞損傷を生じ得る免疫細胞および非免疫細胞を活性化する、ある種の分子を直接活性化し得るとも考えられる。この近年の理解は、慢性もしくは神経障害性の疼痛の発生を防止するという目標にとって潜在的に欠かせない重要性を有する。
【0188】
この所見の潜在的重要性は、神経障害性の疼痛の発生の処置もしくは防止にとって欠かせない重要性を有する。なぜなら慢性の侵害受容器活性化は、有痛性の神経障害性の状態が発生するために必要とされることが公知であるからである。高浸透圧局所用製剤に曝された際に侵害受容器活性化の引き金を引く複数のイオンチャネルおよび関連高浸透圧分子センサーが存在するという近年の発見は、それらの慢性的な使用が、侵害受容器に慢性もしくは重度の損傷が共存する場合に、神経障害性の疼痛状態の発生の素因を作り得ることを示唆する。このシナリオでは、皮膚への、および特に例えば、膣もしくは子宮頸部粘膜の繊細な粘膜への高浸透圧製剤の長期適用は、侵害受容器の低レベルではあるが長期の活性化を引き起こし得、従って、それらの感作に寄与し得る。急性の、一過性の疼痛状態から慢性の、長期の「神経障害性の状態」への進行は、刺激原刺激の大きさ(刺激原もしくは侵害受容器活性化「閾値」ともいわれる)を低減する遺伝子の増大した発現を生じ、従って、増大した侵害受容器活性化ならびに疼痛および/もしくは掻痒症の増大した知覚を引き起こす、継続した過剰な侵害受容器活性化に起因すると考えられる。さらに、これら遺伝子はまた、侵害受容器をさらに刺激し、感覚刺激および炎症の増大という「悪循環」と一般にいわれるものを生じる炎症生成分子の合成を増大させ得る。
【0189】
(B.高浸透圧製剤はまた、ヘルペスおよびHIVによる感染を増大させ得る)
有痛性もしくは掻痒性の感覚および炎症を引き起こすことに加えて、侵害受容器活性化刺激原へのたとえ低レベルであっても慢性の曝露は、多数の病原性微生物による感染の素因を作り得る。その病原性微生物のうち、単純ヘルペスウイルス1および2(HSV)ならびにヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、公衆衛生に最大の脅威を引き起こす。侵害受容器活性化および共存する炎症が、HSVおよびHIVによる感染をなぜ容易にするのかについての理由の多くのおよび種々の詳細な説明は、本明細書では詳細に考察されないが、本質的には、サブスタンスPのような炎症性神経ペプチドのC線維侵害受容器による放出は、ウイルス感染をブロックする角質化した皮膚および粘膜の両方の解剖学的「バリア」を損傷することが公知である。生じた炎症はまた、炎症性免疫細胞を活性化することが公知であり、このことは、皮肉にも、HSVおよびHIVの両方が急性感染を引き起こすことができ、そしてHSVの場合には、既存の潜伏感染の再活性化を引き起こすことができることに寄与する。
【0190】
男性もしくは女性の生殖器の粘膜への、または膣、子宮頸部もしくは肛門組織への、例えば、潤滑剤もしくは殺菌剤の高浸透圧局所用製剤の適用は、感染した個人からそうでない健康な個人への性行為感染症を引き起こすこれらウイルスもしくは他の病原性微生物のうちの1つを移すという可能性を大いに増大させ得る。浸透圧ショックを最小にするように設計された高ストロンチウム濃度を有するストロンチウム含有製剤を作り出すことは、従って有利である。
【0191】
(C.ストロンチウムは、高浸透圧製剤に起因する損傷を抑制する)
最初に、「傷口に塩」効果は、非特異的であると考えられた。すなわち、細胞による水の放出は、塩の存在に起因した。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、浸透圧センサーは、細胞外環境に対する変化に応じて、侵害受容および炎症の引き金を引くと考えられる。浸透圧レセプターは、それらの内因性リガンドとしてのカルシウムを用いるG-プロテイン共役レセプターである。よって、カルシウムは、浸透圧ストレスの主な調節因子のうちの1つとして作用する。細胞内カルシウムレベルは、低浸透圧ストレスおよび高浸透圧ストレスの間に上昇する。ストロンチウムは、浸透圧センサー上のカルシウムレセプターに結合することによって浸透圧ショックを低減し得、従って、それらが侵害受容および炎症経路の引き金を引くことを妨げる。
【0192】
(pH)
ヒトの皮膚は、皮脂および発汗の層(しばしば、「酸外套」といわれる)で保護されている。この酸外套は、細菌および真菌の増殖を阻害し、環境要素(例えば、日光、汚染物質、もしくは化学物質)への曝露を低減することによって、皮膚を保護する一助になっている。酸外套に起因して、ヒトの皮膚の平均pHは、約5.5であり、4から7まで変動し得る。高い皮膚pHは、乾燥肌を引き起こす傾向にあるのに対して、低い皮膚pHは、脂性肌を引き起こす傾向にある。
【0193】
多くの皮膚の状態は、皮膚のpHが高すぎるかもしくは低すぎるかのいずれかの場合に起こる。高い皮膚pHは、細菌増殖の増大を許容し、これは、感染および炎症をもたらし得る。低い皮膚pHは、刺激および発赤を生じ得る。いくつかの皮膚状態(例えば、湿疹およびしゅさ)は、正常範囲外(すなわち、酸性過ぎるかアルカリ性過ぎるかのいずれか)である皮膚pHと関連する傾向にある。
【0194】
大部分の皮膚用製品は、健康な皮膚pHを維持する一助となるように「pHバランス」をとる。予測外なことに、ストロンチウムを含む組成物および製剤が、低いpH(例えば、4未満、もしくはさらには3未満)においてよりよく機能するということが見出された。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、皮膚上の低pH製剤の適用は、酸感受性イオンチャネル(例えば、ASICおよびTRPV1)を活性化し、侵害受容器上のイオンチャネルの開口を生じると考えられる。ストロンチウムの存在下でのイオンチャネルの開口は、より高いレベルのストロンチウムが侵害受容器に入り、その活性を停止もしくは低減することを可能にする。これは、(1)イオンチャネルへ流れることに関して、カルシウムより高い親和性をストロンチウムが有すること、および(2)存在するカルシウムの生理学的レベルと比較して、存在するストロンチウムイオンの過剰な量、に起因する。
【0195】
(組成物)
本開示の組成物および製剤を、以下の機能のうちの1もしくはこれより多くを果たすように製剤化した:(1)急性感覚刺激(例えば、掻痒症および疼痛)、発赤、腫脹および炎症(この記載「刺激」の目的でまとめて定義される)を阻害する、(2)有痛性もしくは掻痒性の神経障害性の状態の発生および維持に特徴的でありこれらに寄与する慢性の刺激を阻害する、(3)神経感受性もしくは反応性の増大に寄与し得る神経障害性の刺激を阻害する、(4)神経障害性の疼痛もしくは掻痒に寄与する神経障害性の正のフィードバックサイクルを壊す、(5)神経障害性の状態の発生を防止する、(6)組織感染のリスクを低減する、ならびに/または(7)損傷した上皮組織における治癒を促進する。少なくとも、本開示の組成物および製剤は、ストロンチウムを含む。いくつかの実施形態において、このストロンチウム含有組成物および製剤はまた、以下で記載される有益な薬剤のうちの少なくとも1種を含む。いくつかの実施形態において、ストロンチウムおよび本明細書で記載される少なくとも1種の有益な薬剤の組み合わせは、複数の異なる分子経路を不活性化し、従って、各成分単独の作用を大いに凌ぐ相乗作用的効果を作り出すことによって、上記の目的を達成する。他の実施形態において、本開示のストロンチウムベースの組成物および製剤は、ストロンチウムベースの組成物および製剤への継続曝露/その適用を通じて、上記の目的を達成する。さらに他の実施形態において、この組成物および製剤は、治療利益を最大化するように、具体的疾患もしくは状態に合わせて作られる。例示的な組成物および製剤は、例えば、以下で考察される種々の成分を使用して製剤化される。これら例は、少なくとも3種の成分(そのうち、1つの成分は、ストロンチウムである)を含む3部分に分かれている錯体を含み、同様に、少なくとも2種の成分(そのうち、1つの成分は、ストロンチウムである)を含む2部分に分かれている錯体である。この3部分に分かれている錯体および2部分に分かれている錯体の成分は、以下で考察される。
【0196】
(A.ストロンチウム)
ストロンチウムは、二価のカチオンとして存在する。ストロンチウムは、その一般に使用される原子記号「Sr」によって指定され、以下に示される。
【0197】
ストロンチウムは、カルシウムが電位依存性カルシウムチャネルを通過する能力を摸倣し、いったん細胞内部に入ると、それは、カルシウム依存性レセプターへの結合に関してカルシウムと競合する。カルシウムは、神経伝達物質の放出を調節することによって疼痛プロセスにおいて役割を果たすと考えられるので、ストロンチウムの鎮痛効果は、カルシウムが神経細胞へ結合するのを防止することにあり得る。
【0198】
ストロンチウムは、1~100g/lの範囲で室温において水溶性である無機塩もしくは有機塩として入手可能である。無機塩としては、例えば、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、硫化水素ストロンチウム、酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウムなどが挙げられる。有機塩は、例えば、負に荷電した有機酸(例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸もしくはテトラカルボン酸)、または2~30個の炭素原子の直鎖状もしくは分枝状の炭素鎖およびこれらに結合した1個もしくはこれより多くのアミノ基を有し得るアミノカルボン酸を含む。このアミノカルボン酸は、天然のアミノ酸であってもよいし合成のアミノ酸であってもよい。有機ストロンチウム塩の例としては、例えば、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、α-ケトグルタル酸ストロンチウムもしくはコハク酸ストロンチウムが挙げられる。ストロンチウム塩の他の例、およびその調製法は、例えば、米国特許出願公開2010/0048697に見出され得る。
【0199】
(B.β-ヒドロキシ酪酸(BHB))
脂肪族ヒドロキシ酸であるβ-ヒドロキシブチレート(β-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシ酪酸、および3-ヒドロキシブタン酸、ならびに共役塩基形態の3-ヒドロキシブチレートおよびβ-ヒドロキシブチレートとしても公知であり、まとめて、「BHB」と本明細書でいわれる)は、β-ヒドロキシ酸である。それは、ヒトでは絶食状態の間に肝臓によって合成され、しばしば糖尿病性ケトアシドーシスの指標として使用される。
【0200】
BHBは、塩形態もしくはポリマー形態であり得る。
【0201】
(C.ポリヒドロキシフェノール)
ポリヒドロキシフェノールは、少なくとも2個のヒドロキシル基を、好ましくは、オルト位およびパラ位に有するフェノール化合物である。1つの例示的化合物は、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸ともいわれる)である。用語「ポリヒドロキシフェノール」は、カルボン酸(例えば、ラネレート)を含まない。ポリヒドロキシフェノールの非限定的な例としては、没食子酸、コーヒー酸、タンニン酸、エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン、エピガロカテキン、没食子酸エピカテキン、エラグ酸、ミリセチン、ルテオリン、ナリンギン、ゲニステイン、アピゲニン、ノルジヒドログアイヤレチン酸、およびこれらのエステルが挙げられる。
【0202】
ポリヒドロキシフェノールは、本質的に精製された形態で本明細書で記載される組成物に添加され得るか、またはそれらは、ポリヒドロキシフェノール含有植物抽出物(例えば、緑茶およびダイズ抽出物)の形態で添加され得る。
【0203】
フラボノイドは、15個の炭素原子(直鎖状の飽和した3炭素の鎖によって通常一緒に連結される、2個の6炭素ベンジル環)を有するポリフェノール化合物である。
【0204】
他のフラボノイドは、第3の5もしくは6炭素の環構造によって一緒に連結された2個のベンジル環からなり得る。フラボノイドは、高等植物における化合物の最も特徴的なクラスのうちの1つを構成する。多くのフラボノイドは、顕花植物における色素として容易に認識される。
【0205】
モノマー状のフェノール化合物(例えば、没食子酸およびコーヒー酸)は、カルボン酸基を有し、これは、糖部分(例えば、グルコース)でエステル化され得る。没食子酸の場合には、このようなエステル化は、グルコガリンを生成する。他の有機エステルはまた有効であり得る(例えば、没食子酸のエチルエステルである没食子酸エチル、または没食子酸のプロピルエステルである没食子酸プロピル)。
【0206】
2個もしくはこれより多くの芳香族環(これらは、同じ構造を代表的には有するが、必ずしも有さなくてもよい)を有するポリマー状のフェノール化合物もまた、本開示によって企図される。1つのこのような例は、レスベラトロール(reservatrol)である。別の例は、ペンタガロイルグルコースであり、これは、1個のグルコース分子にエステル化している5個の没食子酸残基からなる。この分子は、個々の没食子酸残基を遊離する非特異的エステラーゼによってインビボで切断される。ポリヒドロキシフェノール化合物のこのような形態の使用は、浸透圧活性を低下させるという付加的な利点を有する。なぜならペンタガロイルグルコースの1個の分子は、没食子酸の5個の別個の分子の使用によって5単位の浸透圧活性が生成されるのと比較して、1単位の浸透圧活性を生成するからである。
【0207】
タンニン酸は、1個もしくはこれより多くのエステル化した没食子酸残基が、中心グルコース分子へとエステル化される、高分子量没食子酸ポリマーの別の例である。
【0208】
エラグ酸は、没食子酸ダイマーの例である。この分子は、没食子酸様フェノール構造をもはや有しないが、没食子酸のその同じ生体活性のうちの多くを維持しており、従って、本開示の実施において有用である。
【0209】
フラボン骨格を有する化合物としては、例えば、クエルセチン、ならびにエピカテキン(EC)およびその誘導体(例えば、没食子酸エピガロカテキン(緑茶において見出されるEGCG)、エピガロカテキン(EGC)および没食子酸エピカテキン(ECG))が挙げられる。
【0210】
他のポリヒドロキシフェノール化合物としては、例えば、ミリセチン、ルテオリン、ナリンギン、ゲニステインおよびノルジヒドログアイヤレチン酸(NDGA)が挙げられる。
【0211】
1つの特定の実施形態において、有用であるポリヒドロキシフェノールはまた、1個もしくはこれより多くのカルボキシル基を示す(例えば、没食子酸)。このカルボキシル基は、さらなる対イオンとして働き得、そしてまた、選択肢的なポリアニオン性ポリマーとのマトリクス形成を補助し得る。
【0212】
ストロンチウムと、ポリヒドロキシフェノールの混合物(例えば、本明細書および上記で注記もしくは考察されるポリヒドロキシフェノールのうちの1個もしくはこれより多く、または2個もしくはこれより多くの)との組み合わせを組み込む組成物もまた、企図される。1種より多くのポリヒドロキシフェノールを使用することは、各ポリヒドロキシフェノールの種々の活性に起因して、相乗作用的効果を有する。この相乗作用的効果は、疼痛、掻痒症、および神経障害性の疾患の発生が挙げられるが、これらに限定されない感覚刺激を処置することにおいて増強された有効性を有することが企図される。一実施形態において、上記混合物は、モノフェノールのポリヒドロキシフェノールおよびポリフェノールのポリヒドロキシフェノールを含む。一実施形態において、上記混合物は、モノフェノールのポリヒドロキシフェノールおよびビフェノールのポリヒドロキシフェノールを含む。別の実施形態において、上記混合物は、モノフェノールのポリヒドロキシフェノールおよびトリフェノールのポリヒドロキシフェノールを含む。別の実施形態において、上記混合物は、ビフェノールのポリヒドロキシフェノールおよびトリフェノールのポリヒドロキシフェノールを含む。別の実施形態において、上記混合物は、モノフェノールのポリヒドロキシフェノール、ビフェノールのポリヒドロキシフェノール、およびトリフェノールのポリヒドロキシフェノールを含む。別の実施形態において、上記混合物は、モノフェノールの、ビフェノールの、もしくはトリフェノールのポリヒドロキシフェノールを有するATPアナログを含む。さらに別の実施形態において、ポリヒドロキシフェノールの混合物は、没食子酸およびコーヒー酸である。別の実施形態において、ポリヒドロキシフェノールの混合物は、ミリセチンおよびコーヒー酸である。別の実施形態において、ポリヒドロキシフェノールの混合物は、ミリセチンおよび没食子酸である。別の実施形態において、ポリヒドロキシフェノールの混合物は、ミリセチン、没食子酸、およびコーヒー酸である。
【0213】
(D.システインベースの抗酸化剤)
用語「システインベースの」は、システインおよびシスチンを含む。あるいは、システインベースの化合物は、システインのアミノ基でアセチル化されて、N-アセチルシステイン(一般にはアセチルシステインもしくはNACと略称される)を生成する。システインベースの抗酸化剤の非限定的な例としては、システイン、シスチン、アセチルシステイン、ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルが挙げられる。
【0214】
システインは、2種のエナンチオマー形態(「L-システイン」および「D-システイン」と称される)において存在し、そのうち、L形態は、生きている生物において使用される一方で、D形態は使用されない。L形態およびD形態の両方が本開示において企図されるが、アセチルシステインのL形態が最も好ましい(すなわち、NAC)。NACのD形態が意図される場合、それは、D-NACといわれる。さらに、L-CysおよびD-Cysの両方が、2個のチオール基の間でジスルフィド結合を形成して、「ダイマー」(文字通り、Cys分子対)を形成し得る。このようなジスルフィド結合は、多くのタンパク質において起こり、酸化的プロセスによるそれらの可逆的な形成および還元的プロセスによる溶解の容易さに起因して、生化学的経路において欠かせない調節役割を果たす。慣習によって、システインのジスルフィド結合したダイマーは、シスチンといわれる。従って、適切な還元条件もしくは酵素によるプロセシング下にある1個のシステイン分子は、2個のシステイン分子を生じる。シスチンは、2個のL-Cys分子、2個のD-Cys分子、または1個のL-Cysと1個のD-Cys分子のいずれかから形成され得る。別の例示的システインベースの化合物は、N,S-ジアセチルシステインである。このような改変体の全ては、本開示内に組み込まれる。
【0215】
(E.銀および/もしくはヨウ素)
銀およびヨウ素は、抗生物質耐性が一度も発生したことがない公知の抗菌剤である。非限定的な銀化合物としては、銀塩(例えば、硝酸銀)、スルファジアジン銀、銀ゼオライト、銀ナノ粒子、およびコロイド銀が挙げられる。
【0216】
(F.切断可能な結合)
一実施形態において、本開示の錯体は、切断可能な結合を利用して、3部分に分かれている錯体においてβ-ヒドロキシブチレートおよびシステインベースの化合物を一緒に連結する。切断可能な結合を使用して、3部分に分かれている錯体においてβ-ヒドロキシブチレートおよびシステインベースの化合物を一緒に連結する錯体は、その化合物の「結合体化」形態といわれる。
【0217】
上記で定義されるように、切断可能な結合は、2個の分子を一緒に連結する化学結合(これは後に破壊され得、従って、互いからその2個の分子を放出する)である。本開示は、当該分野で公知の切断可能な結合を使用することを企図し、その例としては、ペプチド結合、チオエステル結合、酵素により切断可能な結合、ジスルフィド結合、pH依存性結合、および他の共有結合が挙げられるが、これらに限定されない。
【0218】
本開示における切断可能な結合の使用は、活性形態へと変換され得る化合物のそれほど活性でない形態を作りだし得る。それほど活性でない形態を使用する利点は、当該分野で公知である。例えば、それほど活性でない形態は、化合物の安定性を増強するために使用され得、貯蔵寿命の増大もしくは貯蔵温度のより広い範囲を可能にする。それほど活性でない形態はまた、活性なものになる前に、その目標となる行き先にその化合物が達することを確実にするために使用され得る。
【0219】
本開示における切断可能な結合の使用は、錯体の性能を改善し得る他の利点を提供する。例えば、結合体化形態は、化合物の容量オスモル濃度を低下させるために使用され得る。それは、本開示において、ヒトの身体が容量オスモル濃度の変化を認識し、疼痛および掻痒経路の引き金を引く分子センサーを有することから、有用である。その結合体化形態はまた、化合物の溶解度を変化させるために使用され得、例えば、細胞へのより良好な取り込みを可能にするために化合物をより親油性にし得る。
【0220】
本明細書の他の箇所で記載されるように、本明細書において本発明の組成物の容量オスモル濃度の制限は、有益であり得る。よって、β-ヒドロキシブチレートをシステインベースの抗酸化剤に結合体化すると、容量オスモル濃度が、約1/3程度低くなり、従って、有効性が増強する。中性ポリマーもしくはアニオン性ポリマーの添加は、なおさらに複数の3部分に分かれている錯体を1個のポリマーに結合させることによって容量オスモル濃度を低減する。
【0221】
一実施形態において、化合物の結合体化形態の切断可能な結合は、皮膚へのその化合物の適用の際に切断される。この実施形態の一例は、β-ヒドロキシブチレートをNACに連結するためのチオエステルの使用である。この化合物をヒトの皮膚に適用する場合、皮膚の細胞の表面上の非特異的エステラーゼが、このチオエステル結合を切断する。
【0222】
別の実施形態において、化合物の結合体化形態の切断可能な結合のごく僅かなパーセンテージが、皮膚への上記化合物の適用の際もしくはその後に切断され、上記化合物の結合体化形態の大部分は、その切断可能な結合が切断される細胞へと取り込まれる。その化合物の結合体化形態の取り込みは、皮膚にストロンチウム塩を適用するかもしくはストロンチウムを経口摂取するよりも、より高い濃度のストロンチウムが細胞内に存在することを可能にする。
【0223】
別の実施形態において、切断可能な結合は、切断因子を含む第2の化合物の適用の際に切断される。切断因子は、特定の化学結合を切断する因子である。その第2の化合物は、化合物の結合体化形態の適用の直後に皮膚に適用され得るか、または代わりに、その2種の化合物は、皮膚への適用直前に一緒に混合され得る。切断因子の例としては、酵素、還元剤、酸化剤、光、およびpH変化を誘発する化学物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0224】
一実施形態において、本開示の錯体は、以下から誘導される:1)ストロンチウムの1個の原子;2)β-ヒドロキシブチレートの1個の部分;および3)N-アセチル-L-システイン(NAC)の1個の分子、または1)ストロンチウムの1個の原子;2)β-ヒドロキシブチレートの2個の部分;および3)N-アセチル-L-システイン(NAC)の2個の分子。別の実施形態において、上記β-ヒドロキシブチレートおよびNACは、チオエステルによって連結され、β-ヒドロキシブチレートと錯化される。
【0225】
(G.さらなる有益な薬剤)
有益な薬剤は、別個の分子経路を標的とすることによって、および/もしくは同じ分子経路に沿った異なる点を標的とすることによって、ストロンチウムの効果を相乗作用的に増強する。有益な薬剤はまた、疼痛、掻痒症、もしくは刺激を生じる状態を引き起こすかもしくは寄与する微生物を標的とし得る。最後に、有益な薬剤はまた、より高い送達もしくは長期の放出を可能にする特有の製剤を通じて、ストロンチウムを増強し得る。以下で列挙される有益な薬剤のいずれも、単独で、もしくは互いと組み合わせて使用され得る。
【0226】
(1.酢酸アルミニウム)
酢酸アルミニウムは、ツタウルシ/オーク、接触皮膚炎、みずむしなどに起因する軽い皮膚炎もしくは皮膚刺激(minor skin minor irritation)を処置することに関して認識されている。それは、ブーロヴ液中の活性成分である。
【0227】
(2.アスパルテーム)
アスパルテームは、人工甘味料である。それは、アスパラギン酸およびフェニルアラニンのジペプチドのメチルエステルである。アスパルテームは、皮膚刺激を処置するために局所使用され得る。
【0228】
(3.コロイド状オートミール)
コロイド状オートミールは、Avena sativa植物由来の、外皮を除いたエンバク種子の微細に製粉した粉末である。コロイド状オートミールは、皮膚に有益な多くの化合物を有する。コロイド状オートミールの有益な特性としては、かゆみ止め(anti-itch)、抗炎症、水分保持、および抗酸化剤能力が挙げられる。
【0229】
(4.コルチコステロイド)
コルチコステロイドは、副腎皮質において生成される分子のクラスである。それらは、ストレス応答、免疫応答、および炎症を含め、広い範囲の生理学的プロセスに関与する。コルチコステロイドの局所形態は、抗炎症特性を有し、発疹、湿疹、皮膚炎、乾癬、および他の皮膚状態の処置のために一般に使用される。局所用コルチコステロイドは一般に、短期間の間使用される。なぜなら長期間の使用は、二次的な細菌もしくは真菌の感染、皮膚萎縮、毛細血管拡張症、あざ(bruising)、および皮膚の脆弱性をもたらし得るからである。局所用コルチコステロイドの非限定的な例としては、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アムシノニド、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、デソニド、デスオキシメタゾン、酢酸ジフロラゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、ハロメタゾン、ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、吉草酸ヒドロコルチゾン、フランカルボン酸モメタゾン、プレドニゾン、およびトリアムシノロンアセトニドが挙げられる。
【0230】
(5.コールタール)
コールタール(液状炭素系洗浄液(liquor carbonis detergens)としても公知)は、フェノール、複素環式酸素(heterocyclic oxygen)、炭化水素、硫黄および窒素を含む、有機化合物の混合物である。コールタールは、皮膚に対して抗増殖効果および抗炎症効果を有し得る。
【0231】
(6.抗うつ薬)
いくつかの抗うつ薬は、抗ヒスタミン薬効果を有し得、かゆみを処置するために使用され得る。非限定的な例としては、アミトリプチリン、パロキセチン、ドキセピン、ヒドロキシジン、およびミルタザピンが挙げられる。ドキセピンは、ノルエピネフリンおよびセロトニン(神経伝達物質)の再取り込みを低減して、それらのレベルを正常に戻す、三環系抗うつ薬および抗不安(anxiolytic)(抗不安(anti-anxiety))薬である。ドキセピンは、抗コリン作用薬(副交感神経をブロックする薬物)および鎮静剤である。それは、かゆみ、ならびにいくつかのタイプの疼痛を軽減する唯一の三環系抗うつ薬である。ミルタザピンは、ノルアドレナリン作用性かつ特異的セロトニン作用性の抗うつ薬である。それはまた、ヒスタミンH1レセプターアンタゴニストである。
【0232】
(7.抗菌剤)
多くの場合には、細菌、真菌、もしくはウイルスの存在は、皮膚障害と関連する症状を引き起こすかもしくは悪化させる。例えば、高レベルのStaphylococcus aureusは、アトピー性皮膚炎に寄与するといわれている。さらに、種々のCandida種は、乳幼児における過剰に湿った皮膚に起因する発疹を悪化させる。最後に、種々のヘルペスウイルスは、有痛性の水疱を形成する発疹を引き起こす。抗菌剤は、ストロンチウムと相乗効果的に作用して、疼痛および掻痒の軽減を促進し、治癒時間を短縮する。抗菌剤の非限定的な例としては、抗細菌剤、抗真菌剤、もしくは抗ウイルス剤が挙げられる。抗細菌剤の非限定的な例としては、銀、ヨウ素、バシトラシン、ポリミキシンB、ネオマイシン、ゲンタマイシン、ムピロシン、スルファセタミド、エリスロマイシン、ネオマイシン、および蜂蜜が挙げられる。抗真菌剤の非限定的な例としては、安息香酸、ウンデシレンアルカノールアミド(undecylenic alkanolamide)、シクロピロクスオラミンポリエン(ciclopirox olamine polyenes)、ナイスタチン、イミダゾール、ビホナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、チオコナゾール、アリルアミン、テルビナフィン、チオカルバメート、トルシクラート、トルナフタート、アゾール、スルコナゾール、エフィナコナゾール、ルリコナゾール、ナフチフィン、ベンゾオキサボロール、タバボロール(tavaborole)および列挙されるものと同じクラスの中の他の薬物が挙げられる。抗ウイルス剤の非限定的な例としては、アシクロビル、ファムシクロビル、ペンシクロビル、バラシクロビル、ドコサノール、およびリジンが挙げられる。
【0233】
(8.植物抽出物)
多くの植物、薬草、および香辛料は、抗炎症、防腐、治癒、および/もしくは鎮静特性を有する。非限定的な例としては、ツリフネソウ、クロフサスグリ種子油、生姜、ティーツリー油、ミント、タイム、メントール、ショウノウ、カモミール、ヒレハリソウ(アラントイン)、ラベンダー、アロエ、ナツシロギク、ダイズ、ナハカノコソウ(Boerhavia diffusa)、キンセンカ(Calendula officinalis)、カンゾウ、セイヨウシロヤナギ樹皮、蜂蜜、緑茶、乳香、アメリカマンサク、クローブ、Arnica montana、およびバジルが挙げられる。
【0234】
(9.抗ヒスタミン薬)
抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応の症状を防止するために使用される薬物である。それらは、ヒスタミンレセプターをブロックすることによって機能する。4種のヒスタミンレセプター、H1、H2、H3、およびH4が存在する。H1レセプターの活性化は、血管拡張および細胞透過性の増大を引き起こす。H2レセプターの活性化は、胃酸分泌を刺激する。H3レセプターは、ヒスタミン含有ニューロン上のシナプス前自己レセプターとして機能する。H4レセプターは、骨髄からの好中球放出を調節し、マスト細胞化学走性に関与する。一般的な市販のH1抗ヒスタミン薬としては、ジフェンヒドラミン(ベナドリル)、フェキソフェナジン(アレグラ)、およびロラタジン(クラリチン)が挙げられる。一般的なH2抗ヒスタミン薬としては、シメチジン(タガメット(Tagament))、ファモチジン(ペプシド)、およびラニチジン(ザンタック)が挙げられる。H1抗ヒスタミン薬の非限定的な例としては、アクリバスチン、アゼラスチン、ビラスチン、ブロムフェニラミン、ブクリジン、ブロモジフェンヒドラミン、カルビノキサミン、セチリジン、クロルプロマジン、シクリジン、クロルフェニラミン、クロロジフェンヒドラミン、クレマスチン、シプロヘプタジン、デスロラタジン、デクスブロムフェニラミン、デクスクロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、ジメチンデン、ジフェンヒドラミン、ドキシラミン、エバスチン、エンブラミン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、レボセチリジン、ロラタジン、メクリジン、ミルタザピン、オロパタジン、オルフェナドリン、フェニンダミン、フェニラミン、フェニルトロキサミン、プロメタジン、ピリラミン、クエチアピン、ルパタジン、トリペレンナミン、およびトリプロリジンが挙げられる。H2抗ヒスタミン薬の非限定的な例としては、シメチジン、ファモチジン、ラフチジン、ニザチジン、ラニチジン、ロキサチジン、およびチオチジンが挙げられる。
【0235】
(10.局所麻酔薬)
局所麻酔薬は、それらが適用される領域の感覚を低減する薬剤である。非限定的な例としては、ベンゾカイン、ブタンベン、ジブカイン、リドカイン、オキシブプロカイン、プラモキシン、プロパラカイン、プロキシメタカイン、およびテトラカインが挙げられる。
【0236】
(11.ビタミン)
局所適用されるビタミンは、疼痛および掻痒を処置するにあたっていくらか有望であることが示された。
【0237】
非限定的な例としては、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンB3、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンD3、ビタミンE、ビタミンKおよびビタミン活性を有する他の化合物(例えば、トコフェロールおよびアスコルビン酸)が挙げられる。
【0238】
(12.保湿薬/皮膚保護薬)
保湿薬/皮膚保護薬(一般に保湿薬といわれる)は、表皮バリアの完全性を維持して、脱水、刺激原、アレルゲン、および感染性病原体(これらのうちの全てが掻痒および/もしくは疼痛を引き起こし得る)に対するその防御機能を促進する一助とするために使用され得る。非限定的な例としては、脂質、脂肪、油、ワックス、湿潤剤、グリセロール、蜂蜜、シアバター、ラノリン、ヒアルロン酸、シリコーンベースのもの、アラントイン、ジメチコン、およびセラミドが挙げられる。
【0239】
セラミドは、細胞の細胞膜内に高濃度で見出されるワックス状の脂質分子のファミリーである。
【0240】
(13.市販の活性成分、栄養補助食品、およびホメオパシー成分)
FDAによって承認されるかまたは一般大衆によって使用されるとおりの上皮表面(例えば、皮膚もしくは粘膜)にとって有益な種々の市販の成分もまた、企図される。FDAによって承認されるかまたは一般大衆によって使用されるとおりの上皮表面にとって保護的な種々の市販の成分もまた、企図される。上皮表面にとって有益な種々のホメオパシー成分もまた、企図される。上皮表面にとって有益な種々の栄養補助食品もまた、企図される。前述のカテゴリーの非限定的な例としては、以下が挙げられる:遮光剤(非限定的な例としては、酸化亜鉛、二酸化チタン、p-アミノ安息香酸、パジメートO、フェニルベンゾイミダゾールスルホン酸、シノキサート、ジオキシベンゾン、オキシベンゾン、アボベンゾン、ホモサラート、アントラニル酸メチル(menthyl anthranilate)、オクトクリレン(octorylene)、オクチルメトキシシンナメート、サリチル酸オクチル、スリソベンゾン、サリチル酸トロラミン、およびエカムスルが挙げられる)、昆虫忌避剤(非限定的な例としては、N,N-ジエチル-m-トルアミド、シトロネラ油、p-メンタン-3,8-ジオール、イカリジン、ニーム油、炭酸ジメチル(dimethyl carbate)、(3-[N-ブチル-N-アセチル]-アミノプロピオン酸、エチルエステル)、フタル酸ジメチル、およびSS220が挙げられる)、尿素、リジン、ヒドロキシ酸、ミョウバン、精油、オリブ油、アーモンド油、ココナツ油、および蜂蜜。
【0241】
(14.生物製剤)
本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物はまた、生物製剤を含み得る。
【0242】
生物製剤は、容易に同定されないまたは特徴付けされない複雑な混合物である。それらは、糖、タンパク質、核酸、または前述のもしくはさらには生きている実体(例えば、細胞、組織、微生物)の組み合わせから構成され得る。生物製剤は、天然供給源から精製され得るか、または組み換え技術を使用して生成され得る。非限定的な例としては、胸腺ポリペプチド、コラーゲン(collazin)、ペプチド、および組織抽出物が挙げられる。
【0243】
(15.ポリマー)
本明細書で開示されるストロンチウムベースの組成物はまた、ポリマーを含み得る。ストロンチウムおよび他の化合物は、ポリマーとイオン会合し得、従って、マトリクスを形成し得る。マトリクス形成は、錯体のバイオアベイラビリティーを増強し得、従って、上記組成物の治療効果を長期化する(例えば、徐放性)。ポリマーの使用はまた、容量オスモル濃度を最小にし得る。前述のように、高容量オスモル濃度は、不安定な製剤をもたらし得、組織を物理的に損傷し得、疼痛を、特に、粘膜もしくは物理的な外傷、感染もしくは炎症に起因して損傷した「バリア機能」を有する角質化していない皮膚において引き起こし得る。ポリマーの非限定的な例としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、デキストリン、シクロデキストリン、カラギーナン、イオタカラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、ガーゴム、硫酸化ポリサッカリド(例えば、カラギーナン)、デキストラン硫酸、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、水性ポリマー、脂肪酸、ヘパリン硫酸およびポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0244】
(a.アルギン酸)
アルギン酸は、褐海藻から得られる天然に存在するポリサッカリドである。
【0245】
構造的には、それは、(1-4)結合したβ-D-マンヌロン酸およびα-L-グルクロン酸のポリアニオン性の直鎖状コポリマーである。その反復されたカルボキシル基に起因して、アルギン酸は、ビヒクルのpHがカルボキシル基のpKa(約3~4)を上回り、それらを負に荷電させて、ストロンチウムおよびカルシウムに結合させ得る場合に、正に荷電した原子(例えば、ストロンチウムおよびカルシウム)に静電気的に結合する。そのpHが低下し、空の胃のpH(1もしくはこれより小さい)に近づくにつれて、水素イオンは、ストロンチウムおよびカルシウムと競合し、遊離ストロンチウムおよびカルシウムに置き換わる。アルギン酸は、このようにして、代表的なイオン交換カラムマトリクスとして作用する。天然に存在するアルギン酸ポリマーの種々の混合物を使用することによって、ビヒクルのpHおよびイオン強度の関数としてのストロンチウムおよびカルシウム放出の速度は、長期間にわたる放出を達成するために調節され得る。
【0246】
アルギン酸およびその塩は、食品、化粧品において、および医療デバイスにおいて広く使用されている。FDAは、アルギン酸をGRAS(一般に安全と認められる(Generally Recognized as Safe))と宣言した。類似の安全性分類が、欧州連合および他の国々にも存在する。
【0247】
(b.ポリビニルピロリドン(PVP))
ポリビニルピロリドン(PVP)は、治療上活性な分子の不活性キャリアとして一般に使用される。PVPポリマーの種々の極性構造に起因して、それは、複数の反復部位を示し、これに対して原子および分子がイオン力を介して結合し得る。イオン性媒体(例えば、水)へのその後の曝露の際に、その結合した物質は、長期間にわたってその媒体へと放出され得、従って、pHおよび他の調節可能な条件(例えば、温度など)の関数としてその物質を徐々に放出することを容易にし得る。よって、PVPは、治療用物質の徐放性を提供する「分子レザバ」として作用する。このPVPポリマーは、その天然の形態にあってもよいし、そのポリマーの「放出」特性を調節するために、誘導体化および/もしくは架橋によって化学改変されてもよい。一実施形態において、PVPは、没食子酸、関連没食子酸含有分子もしくは他のポリヒドロキシフェノール分子のキャリアとして使用される。
【0248】
PVPは、食品、化粧品において、および医療デバイスにおいて使用されている。それは、錠剤結合剤として、FDA承認経口処方薬中で賦形剤として使用される。
【0249】
一実施形態において、本開示の組成物は、ストロンチウム錯体およびこの錯体とイオン会合し得るポリマーを含み、この場合に、この錯体およびポリマーは、マトリクスを形成する。このようなマトリクス形成は、上記錯体のバイオアベイラビリティーを増強し、従って、このような錯体の治療効果を長期化する。特に、上記ストロンチウム錯体がポリヒドロキシフェノールを含む場合、このような化合物は、ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP))に対して高い親和性を有する。
【0250】
例えば、PVPは、治療上活性な分子の不活性キャリアとして一般に使用される。上記PVPポリマーの種々の極性構造に起因して、それは、複数の反復部位を示し、これに対して原子および分子がイオン力を介して結合し得る。イオン性媒体(例えば、水)へのその後の曝露の際に、その結合した物質は、長期間にわたってその媒体へと放出され得、従って、pHおよび他の調節可能な条件(例えば、温度など)の関数としてその物質を徐々に放出することを容易にし得る。よって、PVPは、治療用物質の徐放性を提供する「分子レザバ」として作用する。
【0251】
このPVPポリマーは、その天然の形態にあってもよいし、そのポリマーの「放出」特性を調節するために、誘導体化および/もしくは架橋によって化学改変されてもよい。
【0252】
ポリヒドロキシル化フェノール(例えば、没食子酸)は、PVPに対して高い親和性を有する。よって、PVP、没食子酸および二価カチオン性ストロンチウムの組み合わせは、投与後にストロンチウムの制御放出を容易にする複雑なイオン性マトリクスを形成する。
【0253】
このようなポリマーベースの組成物はまた、不安定な製剤をもたらし得、組織を物理的に損傷し得、疼痛を引き起こし得る容量オスモル濃度を最小にする。例えば、高浸透圧活性を有する局所用製剤は、繊細な組織を、特に、粘膜または物理的な外傷、感染もしくは炎症に起因して損傷した「バリア機能」を有する角質化されていない皮膚において損傷し得る。
【0254】
(c.ポリエチレングリコール(PEG))
ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、およびポリエチレンは、エチレンオキシドのポリマーである。本明細書で使用される場合、「PEG」とは、エチレンオキシドの全てのポリマーをいう。PEGの分子量は、300g/mol~10,000,000g/molの範囲に及ぶ。さらに、PEGは、いくつかの異なる幾何学的性状(例えば、直鎖状、分枝状、星状、および櫛状)を有し得る。その鎖長および幾何学的性状は、PEGの物理的特性に影響を及ぼし得る。
【0255】
(16.皮膚浸透増強剤)
実験は、ストロンチウムおよび水の単純な溶液が、皮膚に局所適用される場合に疼痛および刺激を低減することにおいて有効であり得ることを示す。これは、ストロンチウムが皮膚浸透増強剤の包含なしに、皮膚の外側層を通過し得ることを示す。いかなる1つの理論によっても拘束されることを望まないが、ストロンチウムが皮膚の外側層を通過する1つの方法は、毛包脂腺単位の使用を通じて行われると考えられる。この毛包脂腺単位は、毛包、毛幹、および皮脂腺から構成される。毛包は、直径約1~4μmである。表皮は内旋して、毛包の内部を形成する。しかし、表皮の硬い最外層、すなわち、角質層は、遙かに薄くそして/または毛包内に存在しない。よって、毛包を通過するために十分小さな化合物は、より大きな化合物より良好に皮膚に浸透し得る。ストロンチウムが毛包の使用を通じて皮膚を浸透する能力は、皮膚浸透増強剤を製剤に添加する必要性を低減する。皮膚浸透増強剤は必要でない(いくつかの場合には)一方で、ある種の実施形態において、皮膚浸透増強剤を本開示の製剤に含めることは有益である。皮膚浸透増強剤の非限定的な例としては、乳酸、スルホキシド、ジメチルスルホキシド、アゾンおよび誘導体、ピロリドン、脂肪酸、精油、テルペン、テルペノイド、オキサゾリジノン、尿素および誘導体、アルコール、グリコール、酵素、界面活性剤、モノオレイン、イミノスルフラン、リン脂質などが挙げられる。
【0256】
(17.長期放出因子)
ストロンチウムまたはストロンチウムおよび有益な薬剤の組み合わせの放出を長期化し得る種々の化学物質もまた、企図される。このような因子としては、ポリマー、リポソーム、微粒子、ナノ粒子、フィルム形成などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0257】
(18.他の薬学的賦形剤)
本開示の化合物はまた、安定性を増大させる、固形錠剤の崩壊を増大させる、もしくは消費者アピールを増大させることが薬学分野で公知のさらなる成分とともに製剤化され得る。可能な賦形剤の非限定的な例としては、保存剤、結合剤、増量剤、希釈剤、甘味料、香味料、滑沢剤、および着色料が挙げられる。
【0258】
(製剤および投与)
局所用形態において上記実施形態の組成物を投与することは、一般に望ましい;しかし、他の投与経路もまた企図される。企図される投与経路としては、経口、非経口、および皮下が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、経口投与のために、そのように処置される予定の組織が口腔もしくは消化管の膜を含む場合には液体調製物へと製剤化され得る。適切なこのような形態としては、懸濁物、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。単回投与のために構成される単位投与形態は、調製され得る;しかし、ある種の実施形態において、1日に2回もしくはこれより多くの投与のための形態を構成することは、望ましいことであり得る。
【0259】
一実施形態において、本明細書で記載される組成物および製剤は、上皮細胞/組織(角質化細胞/組織、消化管、気道、生殖器、眼、および耳が挙げられるが、これらに限定されない)への局所適用のために製剤化され得る。角質化組織への適用のための非限定的な例としては、散剤、滴剤、吸入薬、ミスト、スプレー、包帯、フィルム、泡沫、ゲル、乳剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤、パスタ剤、および固体が挙げられる。消化管への適用のための非限定的な例としては、液体、スプレー、ゲル、散剤、坐剤、および錠剤が挙げられる。上気道および下気道への適用のための非限定的な例としては、エアロゾル、散剤、ゲル、およびスプレーが挙げられる。生殖器への適用のための非限定的な例としては、スプレー、ゲル、坐剤、錠剤、クリーム剤、軟膏剤、および泡沫が挙げられる。眼および耳への適用のための非限定的な例としては、滴剤、スプレー、クリーム剤、および軟膏剤が挙げられる。
【0260】
局所用組成物の粘性は、薬学的に受容可能な濃化剤を使用して選択したレベルで維持され得る。メチルセルロースは、容易にかつ経済的に入手可能な賦形剤として使用され得る。他の適切な濃化剤としては、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどが挙げられる。その増粘剤(thickener)の濃度は、選択された濃化剤に依存する。選択される粘性を達成する量が、代表的には使用される。粘性の組成物は、このような濃化剤の添加によって溶液から通常は調製される。ある種の実施形態において、濃化剤は使用されない。
【0261】
経口投与のために、薬学的組成物は、錠剤、水性もしくは油の懸濁物、分散可能な散剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬質もしくは軟質のカプセル剤、シロップ剤もしくはエリキシル剤として提供され得る。経口使用が意図される組成物は、薬学的組成物の製造に関して当該分野で公知の任意の方法に従って調製され得、以下の薬剤のうちの1種もしくはこれより多くを含み得る:甘味料、矯味矯臭剤、着色剤および保存剤。水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適した賦形剤と混合されて活性成分を含み得る。
【0262】
液体形態で経口投与される場合、液体キャリア(例えば、水、鉱物油(petroleum)、動物もしくは植物起源の油(例えば、ラッカセイ油、鉱油、ダイズ油、もしくは胡麻油)、または合成油)が、活性成分に添加され得る。生理食塩溶液、デキストロース、もしくは他のサッカリド溶液、またはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコール)はまた、適切な液体キャリアである。薬学的組成物はまた、水中油型乳剤の形態にあり得る。その油相は、植物油(例えば、オリブ油もしくはラッカセイ油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)、またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤としては、天然に存在するガム(例えば、アカシアガムおよびトラガカントガム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆レシチン)、脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導されるエステルもしくは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレエート)、ならびにエチレンオキシドとのこれら部分エステルの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。上記乳剤はまた、甘味剤および矯味矯臭剤を含み得る。
【0263】
経口使用のための製剤はまた、硬質ゼラチンカプセル剤(ここでその活性成分は、不活性固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリン)と混合される)として、または軟質ゼラチンカプセル剤として提供され得る。軟質カプセル剤において、その活性化合物は、適切な液体(例えば、水もしくは油媒体(例えば、ラッカセイ油、オリブ油、脂肪油、流動パラフィン、もしくは液体ポリエチレングリコール)中に溶解もしくは懸濁され得る。経口投与のために製剤化される安定化剤およびマイクロスフェアはまた、使用され得る。カプセルは、ゼラチンから作られるプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールもしくはソルビトール)から作られる軟質のシールされたカプセルを含み得る。プッシュフィットカプセルは、その活性成分を、充填剤(例えば、ラクトース)、結合剤(例えば、デンプン)、および/もしくは滑沢剤(例えば、タルクもしくはステアリン酸マグネシウム)、および必要に応じて安定化剤と混合されて含み得る。組成物の成分を還元形態で維持することが望ましい場合には、カプセル剤もしくは他の投与形態の中に還元剤を含むことが望ましいことであり得る。
【0264】
錠剤は、被覆されていないか、または消化管での崩壊および吸収を遅らせて、それによって、より長期間にわたって持続した作用を提供するための公知の方法によって被覆され得る。例えば、時間遅延物質(time delay material)(例えば、モノステアリン酸グリセリル)が使用され得る。固体形態(例えば、錠剤形態)で投与される場合、その固体形態は、代表的には、約0.001重量%もしくはこれより少ない~約50重量%もしくはこれより多い活性成分(好ましくは、約0.005重量%、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、もしくは1重量%から、約2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、もしくは45重量%まで)を含む。
【0265】
錠剤は、その活性成分を、非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤(不活性物質を含む)と混合して含み得る。例えば、錠剤は、必要に応じて、1種もしくはこれより多くのさらなる成分とともに圧縮もしくは成形することによって調製され得る。圧縮された錠剤は、自由に流動する形態(例えば、粉末もしくは顆粒)にある活性成分を、必要に応じて、結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、表面活性剤もしくは分散剤と混合して適切な機械の中で圧縮することによって調製され得る。成形された錠剤は、適切な機械の中で、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化化合物の混合物を成形することによって作製され得る。
【0266】
好ましくは、各錠剤もしくはカプセル剤は、約10mgもしくはこれより少ない~約1,000mgもしくはこれより多い種々の実施形態の化合物を、より好ましくは、約20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、もしくは100mgから、約150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、もしくは900mgまでの種々の実施形態の化合物を含む。最も好ましくは、錠剤もしくはカプセル剤は、分割された投与量が投与されることを可能にする投与量範囲において提供される。
【0267】
患者に適切な投与量および毎日投与される予定の用量数は、従って、都合良く選択され得る。ある種の実施形態において、投与される予定の治療剤のうちの2種もしくはこれより多くを単一の錠剤もしくは他の投与形態(例えば、組み合わせ療法において)へと組み込むことは、望ましいことであり得る;しかし、他の実施形態において、この治療剤を別個の投与形態で提供することは望ましいことであり得る。
【0268】
適切な不活性物質としては、希釈剤(例えば、炭水化物、マンニトール、ラクトース、無水ラクトース、セルロース、スクロース、改変デキストラン、デンプンなど)、または無機塩(例えば、三リン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、および塩化ナトリウム)が挙げられる。崩壊剤もしくは造粒剤は、製剤の中に含まれ得る(例えば、コーンスターチのようなデンプン、アルギン酸、デンプングリコール酸ナトリウム、アンバーライト、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラアミロペクチン(ultramylopectin)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジの皮、酸性カルボキシメチルセルロース(acid carboxymethyl cellulose)、海綿およびベントナイト、不溶性カチオン交換樹脂、粉末化ガム(例えば、アガー、カラヤもしくはトラガカント)、またはアルギン酸もしくはその塩)。
【0269】
結合剤は、硬質錠剤を形成するために使用され得る。結合剤としては、アカシア、トラガカント、デンプンおよびゼラチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのような天然の生成物に由来する物質が挙げられる。
【0270】
滑沢剤(例えば、ステアリン酸またはそのマグネシウム塩もしくはカルシウム塩、ポリテトラフルオロエチレン、流動パラフィン、植物油およびワックス、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、デンプン、タルク、焼成シリカ(pyrogenic silica)、水和シリコアルミネート(hydrated silicoaluminate)など)は、錠剤製剤の中に含まれ得る。
【0271】
界面活性剤がまた使用され得る(例えば、アニオン性洗浄剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびジオクチルスルホン酸ナトリウム)、カチオン性洗浄剤(例えば、塩化ベンザルコニウムもしくは塩化ベンゼトニウム)、または非イオン性洗浄剤(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロース、もしくはカルボキシメチルセルロース)。
【0272】
制御放出製剤が使用され得、ここでストロンチウム、BHB、および/もしくは治療用化合物が、拡散もしくは溶脱機構のいずれかによって放出を可能にする不活性マトリクスの中に組み込まれる。ゆっくりと崩壊するマトリクスはまた、製剤の中に組み込まれ得る。他の送達系は、時限式放出(timed release)、放出遅延、もしくは徐放性の送達系を含み得る。
【0273】
被覆が使用され得る(例えば、非腸溶性物質(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシ-エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポビドン(providone)およびポリエチレングリコール)、または腸溶性物質(例えば、フタル酸エステル))。染料もしくは顔料は、同定のために、または活性化合物用量の種々の組み合わせを特徴付けるために添加され得る。
【0274】
種々の実施形態の化合物が静脈内、非経口もしくは他の注射によって投与される場合、それは、好ましくは、発熱物質のない、非経口的に受容可能な水性溶液もしくは油性の懸濁物の形態にある。懸濁物は、適切な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤を使用して、当該分野で周知の方法に従って製剤化され得る。適切なpH、等張性、安定性などを有する受容可能な水性溶液の調製は、当該分野の技術範囲内である。注射用の薬学的組成物は、等張性ビヒクル(例えば、1,3-ブタンジオール、水、等張性塩化ナトリウム溶液、リンゲル溶液、デキストロース溶液、デキストロースおよび塩化ナトリウム溶液、乳酸加リンゲル溶液、または当該分野で公知であるとおりの他のビヒクル)を含み得る。さらに、滅菌不揮発性油は、溶媒もしくは懸濁媒体として従来どおり使用され得る。この目的のために、任意の無刺激の不揮発性油が使用され得る(合成のモノグリセリドもしくはジグリセリドを含む)。さらに、脂肪酸(例えば、オレイン酸)は、注射用調製物の形成において同様に使用され得る。薬学的組成物はまた、安定化剤、保存剤、緩衝化剤、抗酸化剤、もしくは当業者に公知の他の添加剤を含み得る。
【0275】
注射の継続期間は、種々の要因に依存して調節され得、数秒間もしくはこれより短い~0.5時間、0.1時間、0.25時間、0.5時間、0.75時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、もしくは24時間またはこれより長い連続静脈内投与の過程にわたって投与される単一注射を含み得る。
【0276】
種々の実施形態の組成物は、ある種の場合には、レシピエントの体液と等張性であるように製剤化され得る。この組成物の等張性は、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコールまたは他の無機溶質もしくは有機溶質を使用して達成され得る。塩化ナトリウムが使用され得、緩衝化剤(例えば、酢酸および塩、クエン酸および塩、ホウ酸および塩、ならびにリン酸および塩)も同様に使用され得る。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース(Ringer’s dextrose)、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル溶液もしくは不揮発性油を含む。
【0277】
組成物は、適切なキャリア、希釈剤、もしくは賦形剤(例えば、滅菌水、生理食塩水、グルコースなど)と混合した状態にあり得、所望の投与経路および調製物に依存して、補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝化剤、ゲル化剤もしくは粘性増強添加剤、保存剤、矯味矯臭剤、色素など)を含み得る。例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」, Lippincott Williams & Wilkins; 第20版(June 1, 2003)ならびに「Remington’s Pharmaceutical Sciences」, Mack Pub. Co.; 第18版および第19版(それぞれ、December 1985およびJune 1990)を参照のこと。このような調製物は、錯化剤、金属イオン、ポリマー化合物(例えば、ポリ酢酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル、デキストランなど)、リポソーム、マイクロ乳剤、ミセル、単層小胞もしくは多層小胞、赤血球ゴーストもしくはスフェロブラストを含み得る。リポソーム製剤に適切な脂質としては、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸などが挙げられるが、これらに限定されない。このようなさらなる成分の存在は、物理的状態、溶解度、安定性、浸透速度、およびクリアランス速度に影響を及ぼし得、従って、意図される適用に従って選択され、その結果、上記キャリアの特徴は、選択された投与経路に合うように作られる。
【0278】
種々の実施形態の組成物は、薬学的組成物の中で、それらの分野で確立された様式でおよびそれらの分野で確立されたレベルで従来どおり見出される補助成分をさらに使用し得る。従って、例えば、上記組成物は、組み合わせ療法のためにさらなる適合性の薬学的に活性な物質(例えば、補足的な抗菌剤、収斂剤、局所麻酔薬、抗炎症剤、還元剤など)を含み得るか、または種々の実施形態の種々の投与形態を物理的に製剤化するにあたって有用な物質(例えば、賦形剤、染料、濃化剤、安定化剤、保存剤もしくは抗酸化剤)を含み得る。
【0279】
(A.容量オスモル濃度)
ストロンチウムの抗刺激原活性は、二価のストロンチウムイオンに起因する。純粋なストロンチウムは、酸素および水と非常に反応性である。よって、ストロンチウムを含む製剤は、ストロンチウムの供給源としてストロンチウム塩を使用する。その2個の陽電荷に起因して、2個のアニオン性対イオンが静電荷のバランスをとり、それによって、ストロンチウム塩を作るために必要とされる。大部分の市販のストロンチウム塩を用いると、負に荷電した対イオン(例えば、硝酸イオン(NO )もしくは塩化物イオン(Cl)が、製剤のイオン強度および容量オスモル濃度に寄与するが、全体的な抗刺激原利益には寄与しない。さらに、臨床研究から、ストロンチウム濃度が高いほど、増大した臨床利益を生じることが示された。
【0280】
結果として、高ストロンチウム濃度を有する商業的に受容可能なかつ安定な製剤を作り出すことは、医療的にかつ商業的に有利である。
【0281】
高濃度ストロンチウム製剤が臨床上有益である一方で、それらはまた、浸透圧ショックを引き起こし得、組織損傷および疼痛を、特に、非角質化上皮(例えば、粘膜)において、または物理的外傷、感染、もしくは炎症に起因して低下したバリア能力を有する角質化上皮において生じ得る。
【0282】
種々の方法は、浸透圧ショックを低減するために使用され得る。例えば、対イオンがまた治療利益を有するストロンチウムベースの塩を使用する。これは、標準的なストロンチウム塩を使用する製剤と比較される場合に、溶質の数を低減する。一実施形態において、ストロンチウムの塩およびポリヒドロキシフェノールが使用される。別の実施形態において、ストロンチウムの塩およびシステインベースの抗酸化剤が使用される。別の実施形態において、ストロンチウムの塩、ポリヒドロキシフェノール、およびシステインベースの抗酸化剤が使用される。前述のストロンチウムベースの塩を使用すると、硝酸ストロンチウムもしくは塩化ストロンチウムと、ポリヒドロキシフェノールもしくはシステインベースの抗酸化剤とを組み合わせた製剤と比較して、全体の溶質が低減される。
【0283】
浸透圧ショックを低減することが発見された別の方法は、ストロンチウムカチオンと容量オスモル濃度に影響を及ぼさないキャリアとを組み合わせることである。例えば、ストロンチウムカチオンを結合し得るポリマーを使用する。ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、ジビニルエーテル-マレイン酸無水物、ポリオキサゾリン、ポリホスフェート、ポリホスファゼン、キサンタンガム、ペクチン、キトサン誘導体、デキストラン、カラギーナン、イオタカラギーナン、ガーゴム、セルロースエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒアルロン酸、デンプン、およびデンプンベースの誘導体が挙げられる。
【0284】
容量オスモル濃度は、多くの製剤(例えば、ローション剤、クリーム剤、およびヒドロゲル)に影響を与え得、安定な乳剤もしくはヒドロゲルを生成する因子の繊細なバランスに依拠し得る。高いイオン強度を有する製剤は、安定な乳剤形成を防止し得る。例えば、約6~7%より高い硝酸ストロンチウムもしくは塩化ストロンチウム六水和物(約2%の元素のストロンチウムに等しい)が組み込まれる乳剤は、不安定かつ分離する傾向にある。同様に、約12%より高く13%まで(約4%の元素のストロンチウムに等しい)のこれら塩を含むヒドロゲルはまた、不安定である傾向にある。
【0285】
(B.pH)
大部分の局所適用される製剤のpHは、適用される表面のpHに調和させる傾向にある。例えば、皮膚のpHは、4~7の範囲に及び、よって、大部分の皮膚用製剤(例えば、ローション剤、石鹸、シャンプーなど)は、4~7の間のpHで製剤化される。慣習とは対照的に、局所用のストロンチウムベースの製剤は、皮膚のpHより低いpHでより良好に働くということが驚くべきことに見出された。一実施形態において、本開示の局所用製剤のpHは、4未満、もしくは3未満である。別の実施形態において、そのpHは、約2~約3である。
【0286】
(C.長期放出)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、長期放出のために製剤化され得る。ストロンチウムもしくはストロンチウムおよび有益な薬剤の組み合わせへの長期間暴露は、神経障害性の疼痛、掻痒、もしくは刺激のようなある種の状態を処置するにあたって有用であると考えられる。長期放出は、種々の方法において達成され得る;非限定的な例は、微小被包化、特別なポリマー、フィルム、ナノ粒子などを含む。
【0287】
(D.製剤化補助物質)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、種々の形態で製剤化され得る。その形態(例えば、ローション剤、乳剤、ヒドロゲル、錠剤、吸入薬など)は、最終生成物を作製するために必要とされるさらなる成分/物質を決める。さらに、商業的アピールを改善する成分が含められてもよい。非限定的な例としては、増粘剤、矯味矯臭剤、芳香剤、着色料、滑沢剤、溶媒、乳化剤、湿潤剤、および乾燥剤が挙げられる。
【0288】
(E.保存剤)
薬学的に受容可能な保存剤は、組成物の貯蔵寿命を増大させるために使用され得る。ベンジルアルコールは適切であり得るが、種々の保存剤(例えば、パラベン、チメロサール、クロロブタノール、もしくは塩化ベンザルコニウムが挙げられる)もまた、使用され得る。その保存剤の適切な濃度は、代表的には、組成物の総重量に基づいて約0.02%~約2%であるが、選択される薬剤に依存して、より多量もしくはより少量が使用され得る。還元剤は、有利には、その製剤の受容可能な貯蔵期間を維持するために使用され得る。
【0289】
(キット)
種々の実施形態の化合物は、投与する医師もしくは他のヘルスケア専門家に、または患者による自己投与のために、キットの形態で提供され得る。このキットは、適切なパッケージングの中に組成物を、およびこの組成物を投与するための説明書を含む容器を収容するパッケージである。このキットはまた、1種もしくはこれより多くのさらなる治療剤を必要に応じて含み得る。例えば、1種もしくはこれより多くのさらなる麻酔薬、抗細菌剤、および/または抗炎症剤と組み合わせて1種もしくはこれより多くの局所用組成物を含むキットが、提供され得る。このキットはまた、一連のもしくは逐次的投与のための別個の用量を含み得る。このキットは、1種もしくはこれより多くの診断ツールおよび使用説明書を必要に応じて含み得る。このキットは、適切な送達デバイス(例えば、シリンジ、ワイプなど)を、上記組成物および任意の他の薬剤を投与するための説明書とともに含み得る。上記キットは、含まれる任意のもしくは全ての組成物の貯蔵、再構成(適用可能であれば)、および投与のための説明書を必要に応じて含み得る。上記キットは、被験体に与えられる予定の投与回数を反映する複数の容器を含み得る。
【0290】
(アプリケーターデバイス)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、種々のアプリケーターデバイスを使用して適用され得る。非限定的な例としては、ラップ、帯具、フィルム、パッチ、ローラー、シリンジ、噴霧器、点滴注入器、ネブライザー、ミスト生成器、および吸入器が挙げられる。
【0291】
(使用/処置の方法)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの組成物は、種々の要因および状態(例えば、医学的状態)に起因する疼痛、掻痒症、炎症、刺激を処置するために使用される。非限定的な例としては、アレルギー、刺虫症(例えば、膜翅類の昆虫、ノミ、トコジラミ、クモ、アリ、ダニなど)、刺す生物(例えば、クラゲ、サソリ、毛虫など)、遅延型過敏症、蕁麻疹、毒液への曝露、ツタウルシ、アトピー性皮膚炎、湿疹、ヘルペス、帯状疱疹、ざ瘡、乾癬、しゅさ、尋常性魚鱗癬、皮膚筋炎、熱傷、電離放射線、化学物質への曝露、外傷、外科手術、神経圧迫、背部痛、切断、外傷、口腔内潰瘍もしくは咽頭潰瘍、帯状疱疹後神経痛、多発性硬化症、パーキンソン病、狼瘡、糖尿病、糖尿病性ニューロパチー、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、特発性関節炎、細菌感染、ウイルス感染、および薬物使用が挙げられる。
【0292】
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、局所適用されるように設計される。最も広い意味での局所適用は、上皮表面(例えば、皮膚もしくは粘膜(眼、口、咽頭、食道、消化管、気道、および尿生殖路を含む))への適用を意味する。
【0293】
一実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、インシデント後もしくは上記状態の発生の際に適用されるように設計される。例えば、このストロンチウムベースの化合物は、ツタウルシへの曝露後、刺虫症を受けた後、日焼けの発生、もしくは乾癬プラークが発生した後などに、適用される。別の実施形態において、このストロンチウムベースの化合物は、症状の初期の発生時に、またはある状態の初期段階の間に規則正しく適用されて、ある状態と関連する症状もしくは皮膚損傷を低減もしくは最小にする。例えば、このストロンチウムベースの化合物を、皮膚が痒くなり始めたときに口唇ヘルペスの領域、初期段階の乾癬プラークに、火傷の直後などに、適用する。別の実施形態において、このストロンチウムベースの化合物は、所定の状態とともに通常は起こる症状もしくは皮膚損傷を低減もしくは最小にするために、防止的様式で適用される。例えば、このストロンチウムベースの化合物を、発疹の発生前に帯状疱疹の発疹領域に適用するなど。別の実施形態において、このストロンチウムベースの化合物は、通常の毎日の慣行の一部として習慣的に適用される。例えば、ストロンチウム+遮光剤もしくはストロンチウム+昆虫忌避剤もしくはストロンチウム+保湿薬組成物を、通常の毎日の慣行の一部として使用する。別の実施形態において、このストロンチウムベースの化合物を、長期放出技術を使用して罹患領域に連続して適用して、過敏なもしくは過活動の神経を脱感作する。
【0294】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、神経障害性の状態を生じることが公知の外傷性の事象の直後に使用されるように設計される。外傷性の事象の非限定的な例としては、外科的切開、切断、火傷、複雑骨折もしくは開放骨折、および帯状疱疹が挙げられる。これらの状況(例えば、火傷、外科手術)の多くにおいて、感染制御は、患者の回復に非常に重要である。それらの状況に関して、上記ストロンチウムベースの製剤は通常、抗細菌剤もしくは抗菌剤(例えば、ヨウ素もしくは銀)を含む。
【0295】
(急性の状態)
一実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、急性の疼痛、掻痒症、炎症、もしくは刺激を処置するために使用される。急性の疼痛、炎症、もしくは刺激は、一般に、1か月未満、もしくはさらには2週間未満、もしくはさらには1週間未満持続し得る。急性の状態の非限定的な例としては、アレルギー、アトピー性皮膚炎、湿疹、刺す生物、刺虫症、遅延型過敏症、蕁麻疹、毒液への曝露、ツタウルシ、ヘルペス、帯状疱疹、ざ瘡、乾癬、しゅさ、熱傷、背部痛、電離放射線、化学物質への曝露、外傷、外科手術、神経圧迫、切断、細菌感染、およびウイルス感染が挙げられる。
【0296】
(慢性の状態)
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、慢性の疼痛、掻痒症、炎症、もしくは刺激を処置するために使用される。慢性の疼痛、炎症、もしくは刺激は、一般に、2週間より長く、もしくはさらには1ヶ月間より長く、もしくはさらには3ヶ月間より長く、もしくはさらには6ヶ月間より長く、もしくはさらには9ヶ月間より長く、もしくはさらには1年より長く持続する。非限定的な慢性の状態としては、外傷、外科手術、湿疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、しゅさ、背部痛、切断、神経圧迫、帯状疱疹後神経痛、多発性硬化症、パーキンソン病、狼瘡、糖尿病、糖尿病性ニューロパチー、関節リウマチ、乾癬性関節炎、および薬物使用が挙げられる。
【0297】
(A.神経障害性の状態)
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、神経障害性の疼痛、掻痒症、炎症、もしくは刺激を処置するために使用される。神経障害性の疼痛、掻痒症、炎症、もしくは刺激は、急性もしくは慢性のいずれかであり得る。急性の神経障害性の状態の非限定的な例としては、外傷、外科的切開、帯状疱疹、切断、帯状疱疹後神経痛、および深部組織火傷(放射線熱傷もしくは熱傷)が挙げられる。慢性的な神経障害性の状態の非限定的な例としては、神経圧迫、帯状疱疹後神経痛、切断、外傷、糖尿病性ニューロパチー、および薬物使用が挙げられる。
【0298】
本明細書で記載されるストロンチウムベースの組成物はまた、神経障害性の状態を防止もしくは逆転するために使用される。神経障害性の状態の非限定的な例としては、神経圧迫、神経過剰感作、切断/断端痛、帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹、糖尿病性ニューロパチー、関節炎、細菌感染、ウイルス感染、および薬物使用が挙げられる。
【0299】
いくつかの実施形態において、神経障害性の状態は、長期放出のストロンチウムベースの製剤を使用して処置される。他の実施形態において、急性の神経障害性の状態は、神経障害性の状態が始まったか起こった直後に処置される。
【0300】
(B.神経障害性の状態の発生の防止)
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、神経障害性の状態の発生を防止する、ならびに疼痛および掻痒を処置するために使用される。神経障害性の疼痛もしくは掻痒を引き起こすことが公知の事象が起こる状況において、本明細書で記載される化合物の早期の使用は、神経障害性の疼痛もしくは掻痒の発生を低減もしくは防止し得る。この事象の非限定的な例としては、外傷、火傷、外科手術、切断、および帯状疱疹(shingles/zoster)が挙げられる。
【0301】
(C.上皮組織の損傷の防止および/もしくは低減)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物はまた、損傷した上皮細胞/組織において治癒を促進するために使用される。非限定的な例としては、皮膚のプラーク、皮膚病、鱗屑、潰瘍、発疹、火傷(熱傷、放射線熱傷、電離線熱傷など)、ざ瘡、口唇ヘルペス、蕁麻疹、アフタ、水疱、帯状疱疹、疣贅、およびせつが挙げられる。上記の状態は、種々の原因(例えば、(以下に限定されない)乾癬、アトピー性皮膚炎、細菌、ウイルス、遅延型過敏症、日光による損傷、過剰な熱、放射線療法、およびアレルギー)に起因し得る。
【0302】
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物はまた、上皮組織への損傷を防止もしくは低減するために使用される。非限定的な例としては、発疹、水疱、疣贅、火傷(熱傷、放射線火傷、電離線火傷など)、ならびに蕁麻疹が挙げられる。原因の非限定的な例としては、ヘルペス、ウイルス、火傷、日光による損傷、過剰な熱、放射線療法、アレルゲンへの曝露、刺虫症、および刺す生物が挙げられる。
【0303】
(D.関節痛)
本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物はまた、関節痛を処置するために使用され得る。関節痛は、頸部、背部、膝、足首、足指、肩、肘、手首、もしくは手指にあり得る。関節痛の原因の非限定的な例としては、傷害、関節炎、および反復運動が挙げられる。
【0304】
(E.具体的状態)
一実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、単純ヘルペス感染と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、単純ヘルペス感染の強度および継続時間を低減するために使用される。
【0305】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、帯状疱疹後神経痛と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。
【0306】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、糖尿病性ニューロパチーと関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。
【0307】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、放射線皮膚炎と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。
【0308】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、アトピー性皮膚炎と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、炎症/掻痒サイクルを破壊することによってアトピー性皮膚炎を処置するために使用される。
【0309】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、乾癬と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、炎症/ケラチノサイトサイクルを破壊することによって、乾癬を処置するために使用される。
【0310】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、不穏下肢症候群と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、不穏下肢症候群を処置するために使用される。
【0311】
別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、関節痛と関連する疼痛、掻痒症、炎症、および刺激を処置するために使用される。別の実施形態において、本明細書で記載されるストロンチウムベースの化合物は、関節痛を処置するために使用される。
【実施例
【0312】
(例示的製剤)
ストロンチウムおよびBHBを合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0313】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、およびコロイド状オートミールを合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0314】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、およびアセチルシスチンを合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0315】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、およびシスチンを合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0316】
(例示的製剤)
ストロンチウムおよびヨウ素を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0317】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、およびヨウ素を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0318】
(例示的製剤)
ストロンチウムおよび銀を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0319】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、および銀を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0320】
(例示的製剤)
ストロンチウム、銀、およびヨウ素を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0321】
(例示的製剤)
ストロンチウム、BHB、銀、およびヨウ素を合わせる。さらに、賦形剤を添加して、局所用製剤を作製する。
【0322】
(例示的合成)
(チオエステル結合したβ-ヒドロキシ酪酸およびNACの合成)
合成1:β-ヒドロキシ酪酸のヒドロキシル基を、40~50℃においてアセトニトリル中、tert-ブチルジメチルシリルクロリドおよびトリエチルアミンを使用して、tert-ブチルジメチルシリルエーテル(TBS)として選択的に保護した。その溶媒を部分的に除去し、そのヒドロキシ保護した化合物(化合物A)を、水で沈殿させた。その生成物を水で洗浄し、真空下で乾燥させた。
【0323】
合成2:化合物Aを、アセトニトリル中の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)の存在下でN-ヒドロキシスクシンイミドで処理して、TBS保護されたβ-ヒドロキシ酪酸の活性化エステルを調製した。その生成物を単離し、真空下で乾燥させた(化合物B)。
【0324】
合成3:化合物B(TBS保護されたβ-ヒドロキシ酪酸のNHSエステル)を、1,4-ジオキサン/水混合物中、N-アセチルシステインで処理した。その生成物を、酢酸エチルで抽出し、水およびブラインで洗浄した(化合物C)。その粗製生成物を、酢酸エチル/ヘキサンから沈殿させ、真空下で乾燥させた。
【0325】
合成4:化合物C(TBS保護されたBHB:NAC)を、ジクロロメタン中に溶解し、TFAで処理して、TBS基を除去した。その反応混合物を乾燥するまで濃縮し、tert-ブチルメチルエーテルで洗浄した(化合物D)。
【0326】
合成5:化合物D(BHB:NACチオエステル)を、水中の酢酸ストロンチウムで処理し、その得られたストロンチウム塩を、その混合物をアセトンで粉砕することによって沈殿させた。
【0327】
その最終化合物、チオエステル結合で3部分に分かれているストロンチウム(Sr:BHB:NAC)を単離し、真空乾燥して、白色結晶固体を得た(92%)。
【0328】
(例示的反応)
(ヒト酵素を使用するチオエステル結合の切断)
上記のように合成したチオエステル結合で3部分に分かれているストロンチウム化合物を、3種の異なる酵素、ヒトカルボキシルエステラーゼI(CES1)、ヒトカルボキシルエステラーゼII(CES2)、およびS9肝臓ミクロソーム酵素での酵素切断に供した。
【0329】
上記評価した3種の酵素の各々に関して、Sr:BHB:NACを、4個のサンプルチューブA、B、C、およびDに添加した。酵素をチューブAおよびチューブBに添加し、3-ヒドロキシブタン酸をチューブDに添加した。上記サンプルを、C18カラムを使用するHPLCによって時間点5分、60分、180分、360分、540分、1380分においてUVカウントを測定することによって試験した。
【0330】
結果は、全3種の酵素がチオエステル結合を切断して、NACおよびβ-ヒドロキシブチレートを放出することを示した。
【0331】
(臨床所見)
BHBは、高用量のナイアシンを服用する個体において潮紅を引き起こす同じ経路に対して作用する。BHBを含む局所用製剤を評価して、この製剤がかゆみおよび紅斑を誘発したか否かを見た。このBHB製剤を、局所用ナイアシン製剤と比較した。
【0332】
1% BHB水溶液を作製し、1% ナイアシン水溶液を作製した。被験体には知らせずに、上記BHB製剤を、4×2インチパッチにおいて左前腕内側に適用し、上記ナイアシン製剤を、4×2インチパッチにおいて右前腕内側に適用した。皮膚をある期間にわたって評価した。数分以内に、ナイアシンを適用した右前腕は、赤くなり掻痒を引き起こし始めた。評価期間全体を通じて、BHBを適用した左前腕は、赤くもならず、痒みも起こらなかった。
【0333】
本開示は、図面および前述の説明において詳細に例証および記載されてきたが、このような例証および記載は、例証もしくは例示であって、限定ではないとみなされるべきである。本開示は、その開示される実施形態に限定されない。その開示される実施形態へのバリエーションは、特許請求される開示を実施するにあたって、図面、本開示および添付の特許請求の範囲の研究から当業者によって理解および実施され得る。
【0334】
本明細書で引用される全ての参考文献は、それらの全体において本明細書に参考として援用される。参考として援用される刊行物および特許もしくは特許出願が、本明細書に含まれる開示に矛盾する程度まで、本明細書は、いかなるこのような矛盾する材料に取って代わるおよび/または優先することが意図される。
【0335】
別段定義されなければ、全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、当業者にとってそれらの通常のもしくは慣習的な意味を与えられるべきであり、特別なもしくはカスタマイズされた意味に、本明細書でそのように明示的に定義されなければ限定されるべきではない。本開示のある種の特徴もしくは局面を記載する場合に特定の用語法を使用することは、その用語法が関連する本開示の特徴もしくは局面の任意の具体的特性を含めるように限定されるとその用語法が本明細書で再定義されていることを暗示するとは解釈されないものとすることに、注意するものとする。本出願において使用される用語および文言、ならびにこれらのバリエーションは、特に添付の特許請求の範囲において、別段明示的に述べられなければ、限定するのとは対照的に、開放系として解釈されるものとする。前述の例として、用語「含む、包含する(including)」は、「限定なしに含む(including, without limitation)」、「が挙げられるが、これらに限定されない(including but not limited to)」などを意味すると読まれるものとする;用語「含む、包含する(comprising)」とは、本明細書で使用される場合、「含む、包含する(including)」、「含む、含有する(containing)」、もしくは「~によって特徴付けられる(characterized by)」と同義であり、そして包括的もしくは開放系であって、さらなる、記載されていない要素もしくは方法の工程を排除しない;用語「有する(having)」は、「少なくとも有する(having at least)」と解釈されるものとする;用語「含む、包含する(includes)」とは、「挙げられるが、これらに限定されない(includes but is not limited to)」と解釈されるものとする;用語「例(example)」は、考察されている項目の例示的な場合を提供するために使用されるのであって、その網羅的もしくは限定的なリストを提供するために使用されるのではない;形容詞(例えば、「公知の(known)」、「通常の(normal)」、「標準的な(standard)」および類似の意味の用語は、所定の時期までに記載された項目または所定の時期当時に利用可能である項目に限定するとは解釈されないものするが、代わりに、現在もしくは将来のいずれかの時点で利用可能なもしくは公知であり得る公知の、通常の、もしくは標準的な技術を包含すると読まれるものとする;そして「好ましくは(preferably)」、「好ましい(preferred)」、「望ましい、所望の(desired)」もしくは「望ましい(desirable)」のような用語および類似の意味の語句の使用は、ある種の特徴が、本発明の構造もしくは機能にとって欠かせない、本質的である、またはさらには重要であることを暗示するとは理解されないものとするが、代わりに、本発明の特定の実施形態において利用されてもよいしされなくてもよい代替のもしくはさらなる特徴を強調すると解釈されるに過ぎないと理解されるものとする。同様に、接続詞「および(and)」で接続される項目の群は、それら項目のうちのありとあらゆる1つがその群分けの中に存在することを要するはと読まれないものとするが、むしろ別段明示的に述べられなければ、「および/または(and/or)」と読まれるものとする。同様に、接続詞「または(or)」で接続される項目の群は、その群の中で相互排他性を要するとは読まれないものとするが、むしろ別段明示的に述べられなければ、「および/または(and/or)」と読まれるものとする。
【0336】
以下の特許請求の範囲においておよび本開示全体を通じて使用される場合、文言「から本質的になる(consisting essentially of)」は、その文言の前に列挙された任意の要素を含むことを意味し、その列挙された要素に関して本開示において特定される活性もしくは作用に干渉しないまたは寄与しない他の要素に限定されることを意味する。従って、文言「から本質的になる(consisting essentially of)」は、その列挙された要素が必要とされるかもしくは必須であるが、他の要素は選択肢であり、他の要素が列挙された要素の活性もしくは作用に影響を及ぼすか否かに依存して存在してもしなくてもよいことを示す。
【0337】
値の範囲が提供される場合、上限および下限、ならびにその範囲の上限と下限との間に挟まる各値が、その実施形態内に包含されることは理解される。
【0338】
本明細書中の実質的に任意の複数形のおよび/もしくは単数形の用語の使用に関して、当業者は、状況および/もしくは適用に適切である場合には、複数形から単数形へと、および/または単数形から複数形へと翻訳し得る。種々の単数形/複数形の入れ替えは、明瞭さのために、本明細書で明示的に示されてもよい。不定冠詞「1つの、ある(a)」または「1つの、ある(an)」は、複数を排除しない。ある種の測定値が相互に異なる従属請求項に記載されるという事実のみでは、これら測定値の組み合わせが有利に使用できないことを示さない。請求項の中の任意の参照記号は、範囲を限定するとは解釈されないものとする。
【0339】
導入される請求項の記載のうちの具体的数字が意図される場合には、このような意図は請求項の中で明示的に記載されていること、およびこのような記載が存在しない場合には、このような意図は存在しないということは、当業者によってさらに理解される。例えば、理解の助けとして、以下の添付の特許請求の範囲は、請求項の記載を導入するために、導入となるの文言「少なくとも1」および「1もしくはこれより多い」の使用を包含し得る。しかし、このような文言の使用は、、不定冠詞「1つの、ある(a)」もしくは「1つの、ある(an)」による請求項の記載の導入が、このような導入された請求項の記載を含む任意の特定の請求項を、その同じ請求項がその導入となる文言「1もしくはこれより多い(one or more)」または「少なくとも1(at least one)」、および「1つの、ある(a)」もしくは「1つの、ある(an)」のような不定冠詞を含む場合にすら、1つのこのような記載のみを含む実施形態に限定することを暗示するとは解釈されないものとする(例えば、「1つの、ある(a)」および/もしくは「1つの、ある(an)」は、代表的には、「少なくとも1(at least one)」または「1もしくはこれより多い(one or more)」を意味すると解釈されるものとする);請求項の記載を導入するために使用される定冠詞の使用にもその同じことが当てはまる。さらに、導入される請求項の記載の具体的な数字がたとえ明示的に記載されるとしても、当業者は、このような記載が、代表的には、少なくともその記載される数字を意味すると解釈されるものとすることを認識する(例えば、他の修飾語のなし「2つの記載」のままの記載は、代表的には、少なくとも2つの記載、または2もしくはこれより多くの記載を意味する)。さらに、「A、B、およびCなどのうちの少なくとも1つ」に類似の慣習が使用されるそれらの場合には、一般に、このような構成は、当業者が、慣習(例えば、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」としては、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとを一緒に、AとCとを一緒に、BとCとを一緒に、および/またはAとBとCとを一緒になどを有するシステムが挙げられるが、これらに限定されない)を理解するという意味において意図される。「A、B、もしくはCのうちの少なくとも1つ、など」に類似の慣習が使用されるそれらの場合において、一般に、このような構成は、当業者が、慣習(例えば、「A、B、もしくはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」としては、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBとを一緒に、AとCとを一緒に、BとCとを一緒に、および/またはAとBとCとを一緒になどを有するシステムが挙げられるが、これらに限定されない)を理解するという意味において意図される。2もしくはこれより多くの代替の用語を示す実質的に任意の離接的な語句および/もしくは文言が、説明の中であろうが、特許請求の範囲の中であろうが、もしくは図面の中であろうが、上記用語のうちの1つ、上記用語のうちのいずれか、または両方の用語を含むという可能性を企図すると理解されるものとすることは、当業者によってさらに理解される。例えば、文言「AもしくはB」は、状況が別段示さなければ、「A」もしくは「B」、または「AおよびB」という可能性を含むと理解される。
【0340】
本明細書で使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。よって、そうでないと示されなければ、本明細書で示される数値パラメーターは、得ようと努められる所望の特性に依存して変動し得る近似値である。少なくとも、および本出願に対して優先権を主張するいかなる出願におけるいかなる請求項の範囲にも均等論の適用を限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメーターは、有効数字の数字および通常の丸め法アプローチに鑑みて解釈されるものとする。
【0341】
さらに、前述は、理解を明瞭にする目的で例証および例示によって幾分詳細に記載されてきたが、ある種の変更および改変が実施され得ることは、当業者にとって明らかである。従って、その説明および例示は、本発明の範囲を、本明細書で記載される具体的実施形態および例示に限定するとは解釈されないものとするが、むしろ本発明の真の範囲および趣旨に付随する全ての改変および変更をもまた網羅すると解釈されるものとする。
【0342】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
二価カチオン性ストロンチウム部分;
シスチン、N-アセチルシステイン、N-アセチルシステイネート、N-アセチルシスチン、N,S-ジアセチルシステイン、およびこれらのエステルからなる群より選択されるシステインベースの部分;ならびに
β-ヒドロキシブチレート部分;
の錯体を含む組成物であって、
ここで前記システインベースの抗酸化剤部分および前記β-ヒドロキシブチレート部分は、切断可能な結合によって一緒に結合体化されている、組成物。
(項目2)
前記システインベースの抗酸化剤部分は、N-アセチルシステインもしくはそのエステルである、前記項目に記載の組成物。
(項目3)
前記ストロンチウム部分は、塩化ストロンチウム、塩化ストロンチウム六水和物、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、硫化水素ストロンチウム、酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、クエン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、α-ケトグルタル酸ストロンチウム、およびコハク酸ストロンチウムからなる群より選択されるストロンチウム塩である、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目4)
前記切断可能な結合は、ペプチド結合、エステル結合、チオエステル結合、酵素により切断可能な結合、ジスルフィド結合、およびpH依存性結合からなる群より選択される、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目5)
前記切断可能な結合は、チオエステル結合である、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目6)
ポリマーをさらに含む、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目7)
前記ポリマーは、ポリビニルピロリドン、シクロデキストリン、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、硫酸化ポリサッカリド、ポリ硫酸ペントサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸およびヘパリン硫酸からなる群より選択される、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目8)
二価カチオン性ストロンチウム、N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよびβ-ヒドロキシブチレートの錯体を含み、ここで前記N-アセチルシステインもしくはそのエステルおよび前記β-ヒドロキシブチレートは、前記N-アセチルシステインもしくはそのエステルのスルフヒドリル基および前記β-ヒドロキシブチレート部分のカルボキシル基によって形成されるチオエステル結合によって一緒に結合体化される、前記項目のいずれか1項に記載の組成物。
(項目9)
前記項目のいずれか1項に記載の組成物および少なくとも1種の薬学的に受容可能な賦形剤を含む製剤。
(項目10)
前記製剤は、局所投与のために構成される、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目11)
前記製剤は、経口投与もしくは全身投与のために構成される、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目12)
前記製剤は、経口摂取のために構成される、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目13)
ポリマーをさらに含む、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目14)
前記ポリマーは、中性ポリマーもしくはアニオン性ポリマーである、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目15)
前記中性ポリマーは、ポリビニルピロリドンである、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目16)
前記ポリビニルピロリドンは、誘導体化および/もしくは架橋によって化学改変される、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目17)
前記ポリマーは、前記錯体とのイオン会合のために構成され、前記二価カチオン性ストロンチウムの制御放出を容易にする、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目18)
前記ポリマーは、容量オスモル濃度の最小化のために構成される、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目19)
ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミノ酸をさらに含む、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目20)
前記少なくとも1種の芳香族アミノ酸は、L-異性体である、前記項目のいずれか1項に記載の製剤。
(項目21)
前記項目のいずれか1項に記載の組成物もしくは前記項目のいずれか1項に記載の製剤を含む、疼痛を処置するための薬学的組成物。
(項目22)
前記項目のいずれか1項に記載の組成物もしくは前記項目のいずれか1項に記載の製剤を含む、掻痒症を処置するための薬学的組成物。
【0343】
(開示の概要)
疼痛、掻痒症、刺激、炎症、ならびに刺激および炎症に起因する組織損傷を処置するための治療上活性な組成物および製剤、ならびに高い感染リスクにある創傷を含む創傷管理のための治療上活性な組成物および製剤。局所適用され得る、ストロンチウムおよびβ-ヒドロキシブチレートがベースの組成物および製剤。