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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220712BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220712BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220712BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017079861
(22)【出願日】2017-04-13
(65)【公開番号】P2018181614
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2019-08-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年10月14日 第36回エレクトロセラミックス研究討論会にて公開した。 平成28年12月17日 第23回ヤングセラミストミーティングin中四国にて公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆太
(72)【発明者】
【氏名】寺西 貴志
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】清水 稔
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-210694(JP,A)
【文献】特開平9-326331(JP,A)
【文献】寺西貴志 他6名、第57回 電池討論会 講演要旨集、2C05、「高出力Liイオン電池に向けたペロブスカイト強誘電体SEIの検討」、電気化学会 電池技術委員会、平成28年11月28日発行、p.188
【文献】.「2009年度 科学研究費補助金研究成果報告書」、平成22年6月25日現在、研究種目:基礎研究(A)、研究期間:2007~2009、課題番号:19206068、研究課題名(和文) サブミリ波エリプソメトリによる誘電体フォノン解析と計算結晶化学、研究代表者 鶴見 敬章」、インターネット、<URL:https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-19206068/19206068seika.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/525,4/505,4/36,C01G23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、
強誘電体と
を含み、
前記強誘電体は、前記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に配置されており、
前記強誘電体は、-5℃未満の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有し、
前記強誘電体は、下記式(I):
Ba1-xSrxTiO3 …(I)
[ただし式(I)中、xは0.4<x≦0.6を満たす。]
により表される、
リチウムイオン二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記強誘電体は、-70℃以上-50℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有し、
上記式(I)中、xは、0.5≦x≦0.6の関係を満たす、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-210694号公報(特許文献1)では、チタン酸バリウム(BaTiO3)が正極活物質粒子の表面に焼結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-210694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、正極活物質粒子の表面にBaTiO3が焼結されることにより、出力特性が向上するとされている。この作用メカニズムは次のように推定される。
【0005】
BaTiO3は強誘電体である。電池内では、正極と負極との間に電界が生じる。この電界が強誘電体に作用することにより、強誘電体に誘電分極が生じる。誘電分極により、正極活物質粒子の表面に負電荷が生じる。この負電荷と、リチウム(Li)イオンとの間に引力が生じる。これにより、正極活物質粒子と電解質との界面におけるLiイオンの移動(すなわち界面反応)が促進されると考えられる。
【0006】
誘電率は分極のしやすさの指標である。一般に強誘電体の誘電率は温度依存性を有する。特許文献1では強誘電体としてBaTiO3が使用されている。BaTiO3は、130℃程度に、誘電率の最大ピークを有する。したがってBaTiO3は、主に100℃を超える高温環境において、界面反応の促進効果を発揮すると考えられる。換言すれば、低温環境における出力特性には改善の余地がある。
【0007】
本開示の目的は、低温環境における出力特性に優れるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0009】
[1]リチウムイオン二次電池用正極材料は、正極活物質粒子と、強誘電体とを含む。強誘電体は、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に配置されている。強誘電体は、90℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有する。
【0010】
強誘電体が90℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有することにより、低温環境における界面反応の促進が期待される。すなわち正極材料は、低温環境において優れた出力特性を示し得る。
【0011】
[2]強誘電体は、70℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有してもよい。これにより、低温環境における出力特性の向上が期待される。
【0012】
[3]強誘電体は、下記式(I):
Ba1-xSrxTiO3 …(I)
[ただし式(I)中、xは0.1≦x≦0.9を満たす。]
により表されてもよい。
【0013】
BaTiO3の誘電率は、常誘電相から強誘電相への相転移に付随して、最大ピークを示す。BaTiO3の誘電率の最大ピークは、130℃程度に位置する。BaTiO3において、バリウム(Ba)の一部または全部がBa以外の元素で置換されることにより、相転移が散漫になると考えられる。これにより最大ピークの位置が低温にシフトすると考えられる。ただし相転移が散漫になることにより、誘電率の最大ピークがブロードになり、最大ピークが低くなる傾向がある。
【0014】
上記[3]の構成では、特定の元素によりBaが置換される。すなわち、Baの一部がストロンチウム(Sr)により置換される。Baの一部がSrにより置換された強誘電体では、最大ピークの位置が低温にシフトし、なおかつ最大ピークが高い傾向がある。
【0015】
置換量(x)は0.1以上0.9以下とされる。置換量(x)が0.1未満であると、誘電率の最大ピークの位置が90℃以下にならない可能性がある。
【0016】
[4]上記式(I)において、xは0.2≦x≦0.9を満たしてもよい。これにより、強誘電体は、70℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有し得る。
【0017】
[5]上記式(I)において、xは0.3≦x≦0.6を満たしてもよい。これにより、低温環境における出力特性の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。以下「リチウムイオン二次電池用正極材料」が「正極材料」と略記される場合がある。
【0020】
<リチウムイオン二次電池用正極材料>
図1は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極材料を示す概念図である。正極材料は、正極活物質粒子10と、強誘電体20とを含む。強誘電体20は、正極活物質粒子10の表面に配置されている。電池内では、正負極間に電界が生じる。電界により、強誘電体20に誘電分極が生じる。これにより負電荷(-)が生じる。負電荷と、Liイオン(Li+)との間に引力が働くことにより、正極活物質粒子10と電解質(電解液)との界面におけるLiイオンの移動が促進されると考えられる。
【0021】
《正極活物質粒子》
「正極活物質粒子」とは、正極活物質を含む粒子である。正極活物質粒子は、実質的に正極活物質のみを含む粒子であり得る。正極活物質粒子10は、一次粒子が集合した二次粒子であってもよい。一次粒子は、たとえば、10nm~1μmの平均粒径を有してもよい。二次粒子は、たとえば、1~30μmの平均粒径を有してもよい。本明細書の平均粒径は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において微粒側から累積50%の粒径を示す。
【0022】
正極活物質粒子10の結晶構造は、たとえば、X線回折(XRD)法、電子線回折法等によって同定され得る。正極活物質粒子10は、各種の結晶構造を有し得る。正極活物質粒子10は、たとえば、層状岩塩構造、スピネル構造、逆スピネル構造、オリビン構造等を有し得る。リチウムイオンは、正極活物質粒子の結晶構造内に電気化学的に挿入され、脱離される。正極活物質粒子10の化学組成は、たとえば、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)法により特定され得る。組成分析は少なくとも3回実施される。少なくとも3回の分析結果の相加平均が採用される。正極活物質粒子10は、たとえば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiNi0.82Co0.15Al0.032、LiMn24、LiFePO4等であってもよい。
【0023】
《強誘電体》
「強誘電体」とは、外部電場が無くても自発分極を持ち、かつ分極の向きが電場の方向によって反転する結晶を示す。強誘電体20は、正極活物質粒子10の表面の少なくとも一部に配置されている。強誘電体20は、正極活物質粒子10の表面の全部を覆っていてよいし、表面の一部を覆っていてもよい。表面の少なくとも一部に強誘電体20が配置されていることにより、低温環境における出力特性の向上が期待される。
【0024】
正極活物質粒子10の表面における強誘電体20の存在形態は特に限定されるべきではない。強誘電体20は、粒子状であってもよいし、膜状であってもよい。ただし、強誘電体20は、正極活物質粒子10の表面に複合化されていることが望ましい。「複合化」とは、結着材等を介さずに、正極活物質粒子10と強誘電体20とが直接固着していることを示す。強誘電体20は、その一部が正極活物質粒子10に固溶していてもよい。強誘電体20と正極活物質粒子10とは、相互に固溶していてもよい。
【0025】
低温環境における出力特性の向上効果が得られる限り、強誘電体20の物質量は特に限定されるべきではない。強誘電体20は、たとえば、正極活物質粒子10の物質量に対して0.1mоl%以上5mоl%以下であってもよいし、0.5mоl%以上3mоl%以下であってもよいし、0.1mоl%以上1.5mоl%以下であってもよい。
【0026】
強誘電体20の化学組成は、たとえば、STEM-EDX法等により特定され得る。組成分析は少なくとも3回実施される。少なくとも3回の分析結果の相加平均が採用される。
【0027】
本明細書では、誘電率の温度特性を示すグラフにおいて、最も高いピークが「最大ピーク」と称される。強誘電体20は、90℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有する。そのため正極材料は、低温環境において優れた出力特性を示し得る。強誘電体20は、70℃以下の温度範囲に、誘電率の最大ピークを有してもよい。これにより低温環境における出力特性の向上が期待される。
【0028】
最大ピークの位置が低温にシフトする程、低温における出力特性の向上が期待される。最大ピークの位置が過度に低温にシフトすると、最大ピークの位置が一般的な電池の使用温度範囲から外れる可能性もある。ただし電池の用途によっては、極低温での使用も想定される。強誘電体20は、たとえば、63℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、25℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、-5℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよい。
【0029】
強誘電体20は、たとえば、-140℃以上の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、-110℃以上の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、-90℃以上の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、-70℃以上の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよいし、-50℃以上の温度範囲に誘電率の最大ピークを有してもよい。
【0030】
強誘電体20は、たとえば、下記式(I):
Ba1-xSrxTiO3 …(I)
[ただし式(I)中、xは、0.1≦x≦0.9を満たす。]
により表される化合物であってもよい。
【0031】
上記式(I)によって表される強誘電体20は、-140℃以上90℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有し得る。さらに最大ピークにおける誘電率が高い傾向がある。Srによる置換量(x)が0.1未満であると、最大ピークの位置が90℃以下にならない可能性がある。
【0032】
置換量(x)は0.2≦x≦0.9を満たしてもよい。これにより、上記式(I)によって表される強誘電体20は、-140℃以上70℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有し得る。
【0033】
置換量(x)は0.2≦x≦0.7を満たしてもよいし、0.3≦x≦0.6を満たしてもよいし、0.4≦x≦0.5を満たしてもよい。置換量(x)が0.3≦x≦0.6を満たすことにより、低温環境における出力特性のいっそうの向上が期待される。最大ピークが適度な温度範囲内に位置し、かつ最大ピークが高くなるためと考えられる。
【0034】
強誘電体20の結晶構造は、XRD法、電子線回折法等により同定され得る。強誘電体20は、ペロブスカイト構造を有し得る。ペロブスカイト構造を有することにより、誘電率の最大ピークが高くなることが期待される。
【0035】
強誘電体20では、電気的な中性が保たれるために、酸素の一部が欠損していることもあり得る。すなわち、本実施形態の強誘電体20は、下記式(II):
Ba1-xSrxTiO3-y …(II)
[ただし式(I)中、x、yは、0.1≦x≦0.9、0≦y≦0.9を満たす。]
により表される化合物であってもよい。ここで「y」は、電気的中性が保たれるための酸素欠損量である。
【0036】
強誘電体20は、90℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有する限り、上記式(I)で表される化合物に限定されるべきではない。強誘電体20は、たとえば、マグネシウムニオブ酸鉛等であってもよい。マグネシウムニオブ酸鉛は、たとえば、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3等の化学組成を有し得る。
【0037】
正極活物質粒子10の表面に強誘電体20を配置する方法は、特に限定されるべきではない。たとえば、ゾル-ゲル法等が使用され得る。たとえば、ゾル-ゲル法により、正極活物質粒子10の表面において、強誘電体20が合成され得る。これにより正極活物質粒子10の表面に強誘電体20が配置され、なおかつ強誘電体20が正極活物質粒子10の表面に複合化され得る。
【実施例
【0038】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0039】
<比較例1>
1.正極板の製造
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)のモル比が、Ni:Co:Mn=1:1:1となるように、Niの硫酸塩、Coの硫酸塩およびMnの硫酸塩が純水に溶解された。これにより硫酸塩水溶液が得られた。水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が、硫酸塩水溶液に滴下された。これにより正極活物質の前駆体(共沈水酸化物)が生成された。純水により前駆体が洗浄された。洗浄後の前駆体が乾燥された。乾燥後の前駆体が炭酸リチウム(Li2CO3)と混合された。これにより混合物が得られた。混合物が900℃で15時間加熱された。これにより焼成物が得られた。ボールミルにより焼成物が粉砕された。以上より、正極活物質粒子(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が調製された。正極活物質粒子は、10μmの平均粒径を有するものであった。
【0040】
以下の材料が準備された。
導電材:アセチレンブラック
結着材:ポリフッ化ビニリデン
溶媒 :N-メチル-2-ピロリドン
【0041】
プラネタリミキサにより、上記で得られた正極活物質粒子と導電材と結着材と溶媒とが混合された。これにより正極合材ペーストが調製された。正極合材ペーストの固形分組成は、質量比で「正極活物質粒子:導電材:結着材:=85:10:5」とされた。正極合材ペーストの固形分比率は58質量%とされた。「固形分比率」は、溶媒以外の成分の質量比率を示す。
【0042】
帯状のアルミニウム(Al)箔が準備された。ダイコータにより、上記で得られた正極合材ペーストがAl箔の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥された。これによりAl箔の表面に正極活物質層が形成された。ロール圧延機により、正極活物質層およびAl箔が圧延された。以上より帯状の正極板が製造された。
【0043】
2.負極板の製造
以下の材料が準備された。
負極活物質粒子:天然黒鉛(平均粒径:20μm)
増粘材:カルボキシメチルセルロース
結着材:スチレンブタジエンゴム
溶媒 :水(イオン交換水)
【0044】
プラネタリミキサにより、負極活物質粒子と増粘材と結着材と溶媒とが混合された。これにより負極合材ペーストが調製された。負極合材ペーストの固形分組成は、質量比で「負極活物質粒子:増粘材:結着材=88:6:6」とされた。
【0045】
帯状の銅(Cu)箔が準備された。ダイコータにより、上記で得られた負極合材ペーストがCu箔の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥された。これによりCu箔の表面に負極活物質層が形成された。ロール圧延機により、負極活物質層およびCu箔が圧延された。以上より帯状の負極板が製造された。
【0046】
3.リチウムイオン二次電池の製造
帯状のセパレータが準備された。セパレータを挟んで、正極板と負極板とが対向するように、正極板、セパレータおよび負極板が積層され、さらに渦巻状に巻回された。これにより電極群が構成された。正極板および負極板に端子がそれぞれ接続された。電極群が電池ケースに収納された。
【0047】
所定の電解液(液体電解質)が準備された。電池ケースに電解液が注入された。電池ケースが密閉された。以上よりリチウムイオン二次電池が製造された。このリチウムイオン二次電池は、3.0V~4.2Vの電圧範囲で動作するように構成されたものである。以下、リチウムイオン二次電池は「電池」と略記される場合がある。比較例1は強誘電体が使用されない例である。
【0048】
<比較例2>
ゾル-ゲル液A(BaアルコキシドおよびTiアルコキシドの溶液)が準備された。40mlのエタノールと、比較例1で調製された正極活物質粒子と、ゾル-ゲル液Aとが所定の容器に投入された。ゾル-ゲル液Aの量は、正極活物質粒子に含まれるNi、CoおよびMnの合計物質量(すなわち正極活物質粒子の物質量)に対して、BaTiO3が1.0mоl%となるように調整された。
【0049】
先ず室温において、容器の内容物が超音波により30分攪拌された。次いで内容物が70℃に加熱された。70℃において、内容物が超音波により約1.5時間攪拌された。これにより混合物が調製された。混合物が乾燥された。これにより乾燥固形物が回収された。乾燥固形物が800℃で20時間加熱された。これにより焼結物が調製された。焼結物が粉砕された。
【0050】
以上より、比較例2に係る正極材料が調製された。この正極材料は、正極活物質粒子(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と、強誘電体(BaTiO3)とを含む。強誘電体は、正極活物質粒子の表面に配置されている。
【0051】
正極活物質粒子(非処理品)に代えて、比較例2に係る正極材料が使用されることを除いては、比較例1と同様に、電池が製造された。
【0052】
<実施例1>
ゾル-ゲル液B(Srアルコキシドの溶液)が準備された。ゾル-ゲル液Aおよびゾル-ゲル液Bの混合物が使用されることを除いては、比較例2と同様に、実施例1に係る正極材料が調製された。この正極材料は、正極活物質粒子(LiNi1/3Co1/3Mn1/32)と、強誘電体(Ba0.9Sr0.1TiO3)とを含む。強誘電体は、正極活物質粒子の表面に配置されている。強誘電体はペロブスカイト構造を有するものである。正極活物質粒子(非処理品)に代えて、実施例1に係る正極材料が使用されることを除いては、比較例1と同様に、電池が製造された。
【0053】
<実施例2~9>
下記表1に示される強誘電体が生成されるように、ゾル-ゲル液Aとゾル-ゲル液Bとの混合比が変更されることを除いては、実施例1と同様に、正極材料が調製され、電池が製造された。実施例2~9に係る正極材料において、強誘電体はいずれもペロブスカイト構造を有する。
【0054】
<比較例3>
ゾル-ゲル液Aに代えて、ゾル-ゲル液Bが使用されることを除いては、比較例2と同様に正極材料が調製され、電池が製造された。
【0055】
<比較例4、5>
下記表1に示される強誘電体が生成されるように、各種のゾル-ゲル液が使用されることを除いては、実施例4と同様に、正極材料が調製され、電池が製造された。
【0056】
<実施例10>
下記表1に示される強誘電体が生成されるように、ゾル-ゲル液(Pb、MgおよびNbのアルコキシド溶液)が使用されることを除いては、実施例1と同様に、正極材料が調製され、電池が製造された。
【0057】
<評価>
1.電池の活性化および初期容量の測定
25℃において、以下の定電流-定電圧方式(CCCV)充電により、電池が満充電にされた。次いで以下の定電流方式(CC)放電により、電池が放電された。このときの放電容量が初期容量とされた。なお「1C」は、満充電容量を1時間で放電する電流を示す。
【0058】
CCCV充電:CC電流=1/3C、CV電圧=4.2V、終止電流=1/50C
CC放電 :CC電流=1/3C、終止電圧=3.0V
【0059】
2.出力特性の評価
電池の開放電圧が3.7Vに調整された。-5℃に設定された恒温槽内に、電池が配置された。20Cの電流により、端子間電圧が3.3Vになるまで電池が放電された。これにより、放電容量が測定された。同様に、5℃、40℃においても、それぞれ放電容量が測定された。結果は下記表1に示されている。-5℃の放電容量が大きい程、低温環境における出力特性に優れることを示している。
【0060】
3.サイクル耐久性の評価
60℃に設定された恒温槽内に電池が配置された。以下の充電と放電との一巡が1サイクルとされ、200サイクルが実施された。充電および放電は、いずれも定電流方式(CC)とされた。
【0061】
CC充電:電流=10C、終止電圧=4.2V
CC放電:電流=10C、終止電圧=3.3V
【0062】
200サイクル後、初期容量と同様に、サイクル後容量が測定された。サイクル後容量が初期容量で除されることにより、容量維持率が算出された。結果は下記表1に示されている。容量維持率が高い程、サイクル耐久性に優れることを示している。
【0063】
【表1】
【0064】
<結果>
上記表1に示されるように、90℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有する実施例は、かかる条件を満たさない比較例に比して、低温環境(-5℃)における出力特性に優れている。
【0065】
実施例1~9では、上記式(I)中、xが0.1≦x≦0.9を満たしている。
実施例2~9では、上記式(I)中、xが0.2≦x≦0.9を満たしている。
【0066】
実施例では、比較例に比して、サイクル耐久性も向上している。この理由は次のように推定される。充放電サイクルに伴う容量減少は、主反応(Liイオンの挿入反応および脱離反応)に付随する副反応によって引き起こされると考えられる。すなわち副反応によって正極活物質粒子の結晶構造が崩壊することにより、容量減少が引き起こされていると考えられる。さらに結晶構造の崩壊により、主反応に関与するLiイオンが減少すると考えられる。これにより副反応が起こり易くなり、容量減少が促進されると考えられる。
【0067】
正極活物質粒子の表面に強誘電体が配置されていることにより、正極活物質粒子の表面において、副反応が起こり得る活性点の露出が減少すると考えられる。また容量減少の原因となる副反応には、正電荷を有する酸性物質が関与していると考えられる。強誘電体の誘電分極により生じた正電荷は、副反応に関与する酸性物質が正極活物質粒子に接近することを阻害すると考えられる。さらに強誘電体の誘電分極により生じた負電荷が、Liイオンを引き寄せることにより、主反応に関与するLiイオンの減少を抑制すると考えられる。これらの作用が相乗することにより、実施例ではサイクル耐久性も向上していると考えられる。
【0068】
上記表1に示されるように、上記式(I)において置換量(x)が0.3≦x≦0.6を満たすことにより、低温環境における出力特性およびサイクル耐久性がいっそう向上している。最大ピークが適度な温度範囲内に位置し、かつ最大ピークが高くなるためと考えられる。
【0069】
強誘電体がマグネシウムニオブ酸鉛〔Pb(Mg1/3Nb2/3)O3〕であっても、低温環境における出力特性が向上している(実施例10)。90℃以下の温度範囲に誘電率の最大ピークを有するためと考えられる。
【0070】
上記の実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0071】
10 正極活物質粒子、20 強誘電体。
図1