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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】濾過装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/10 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
B01D46/10 A
B01D46/10 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017085650
(22)【出願日】2017-04-24
(65)【公開番号】P2018183719
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】関 和也
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】包 理
(72)【発明者】
【氏名】大谷 吉生
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 章文
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-202425(JP,A)
【文献】特開2014-033974(JP,A)
【文献】特開2016-087581(JP,A)
【文献】実開平01-061927(JP,U)
【文献】Centrifugal Filter for Aerosol Collection,Aerosol Science and Technology,2015年10月03日,vol.49 No.10,959-965
【文献】生産プロセスにおけるオイルミスト捕集技術の検討 (第2報)回転式フィルタのオイルミスト捕集効率測定と解析,空気調和・衛生工学会大会講演論文集,2016年09月,49-52
【文献】Centrifugal Filter for Aerosol Collection,Aerosol Science and Technology,2015年10月03日,vol.49 No.10,959-965
【文献】生産プロセスにおけるオイルミスト捕集技術の検討 (第2報)回転式フィルタのオイルミスト捕集効率測定と解析,空気調和・衛生工学会大会講演論文集,2016年09月,49-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 46/00-46/54
B01D 39/00-41/04
F24F 1/00-1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の微粒子を捕集する濾材と、
前記濾材を回転させる駆動装置と、
前記濾材を外周側から取り囲み、前記濾材と一体に回転する外枠と、を備え、
前記濾材の充填率は0.05未満であり、
前記駆動装置は、前記濾材に捕集された微粒子が前記濾材の回転中心から遠ざかる方向に移動するように1000回転/分以上の回転数で前記濾材を回転さ
前記外枠は、前記濾材の回転中心線と平行な方向に延在し、かつ、前記回転中心線の周りの周方向に延在した円筒形状のガイド部を有し、前記濾材は前記ガイド部の内周側に配置されている、ことを特徴とする濾過装置。
【請求項2】
前記濾材の半径の、気流の方向に沿った前記濾材の厚さに対する比は0.1以上である、請求項1に記載の濾過装置。
【請求項3】
前記濾材の平均繊維径は10μmを超え100μm以下である、請求項1又は2に記載の濾過装置。
【請求項4】
前記充填率は、前記回転中心を通る前記濾材の位置から、前記回転中心から離れた前記濾材の端部の位置にかけて一定である、請求項1から3のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項5】
前記ガイド部は、気流の方向と直交する前記濾材の径方向の外側において前記濾材と隙間なくしている、請求項1から4のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項6】
前記濾材は、前記回転中心が位置する中心部と、前記中心部より外周側の前記濾材の外周部とを有し、
前記濾材が回転することで、前記中心部と前記外周部とで前記濾材に捕集された微粒子量の差が生じるよう、前記濾材に捕集された微粒子が移動する、請求項1から5のいずれか1項に記載の濾過装置。
【請求項7】
前記濾材は、前記濾材を回転させる駆動装置の回転軸に貫通されていない、請求項1から6のいずれか1項に記載の濾過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の塵埃等の微粒子を取り除いて空気を清浄化するために、濾材を備える濾過装置が用いられている。濾材は、例えば、複数の繊維を有する繊維体からなる。濾材は、濾過装置内の空気の通路の途中に配置されており、装置内に取り込まれた空気が濾材を通過するときに、塵埃等が繊維に衝突等することにより、微粒子は空気中から除去される。濾材に捕集された微粒子は、濾過装置の稼働に伴って濾材内に徐々に堆積し、空気の流路が次第に狭くなって、圧力損失を上昇させる。圧力損失が所定の上限値(最終圧力損失)に達すると、寿命に達したとして新たな濾材と交換される。
【0003】
上記濾過装置では、濾材の表面付近に微粒子が堆積しやすく、表面濾過が起きやすい。このため、最終圧力損失に達するまでに濾材に捕集される微粒子の量(以下、保塵量ともいう)が小さく、寿命が短くなりやすい。特に、PM2.5やPM10といった粒子径の小さい微粒子の濃度が高い環境で濾過を行うと表面濾過が起きやすく、寿命はよりいっそう短くなる。このため、濾材の交換頻度が増え、コストあるいは作業の手間が増えるという問題が生じている。
【0004】
ところで、従来、微粒子を含有する気体をフィルタ層に通過させる手段と、当該フィルタ層を気体の通過方向と交差する方向に移動制御するための移動制御手段とを備えた装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、フィルタ層が回転することで、捕集された微粒子が凝集し、それに作用する遠心力が大きくなることで、フィルタ層から粒子を離脱させ、フィルタの寿命が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-202425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、濾材の寿命は長いほど好ましく、より一層の長寿命化が絶えず求められている。
【0007】
本発明は、寿命を向上させる効果の高い濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1には、上述したように、フィルタ層に捕集された微粒子に遠心力が作用することで、フィルタ層から粒子を離脱させることが記載されている。ところで、遠心力は、濾材が速く回転するほど大きくなるため、濾材を速く回転させることで、粒子を濾材内で移動させることができると考えられる。しかし、本発明者の検討により、濾材の回転速度を調整しても、必ずしもこのような作用が得られない場合があることが明らかとなった。本発明者は、さらに検討を進めた結果、充填率が特定の範囲内にある濾材を採用し、その上で濾材の回転数を調整することで、捕集された微粒子が濾材内で移動しやすくなることを突き止め、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の一態様は、濾過装置であり、
気体中の微粒子を捕集する濾材と、
前記濾材を回転させる駆動装置と、
前記濾材を外周側から取り囲み、前記濾材と一体に回転する外枠と、を備え、
前記濾材の充填率は0.05未満であり、
前記駆動装置は、前記濾材に捕集された微粒子が前記濾材の回転中心から遠ざかる方向に移動するように1000回転/分以上の回転数で前記濾材を回転さ
前記外枠は、前記濾材の回転中心線と平行な方向に延在し、かつ、前記回転中心線の周りの周方向に延在した円筒形状のガイド部を有し、前記濾材は前記ガイド部の内周側に配置されている、ことを特徴とする。
【0009】
前記濾材の半径の、気流の方向に沿った前記濾材の厚さに対する比は0.1以上であることが好ましい。
【0010】
前記濾材の平均繊維径は10μmを超え100μm以下であることが好ましい。
【0011】
前記充填率は、前記回転中心を通る前記濾材の位置から、前記回転中心から離れた前記濾材の端部の位置にかけて一定であることが好ましい。
【0012】
前記ガイド部は、気流の方向と直交する前記濾材の径方向の外側において前記濾材と隙間なくしていることが好ましい。
前記濾材は、前記回転中心が位置する中心部と、前記中心部より外周側の前記濾材の外周部とを有し、
前記濾材が回転することで、前記中心部と前記外周部とで前記濾材に捕集された微粒子量の差が生じるよう、前記濾材に捕集された微粒子が移動する、ことが好ましい。
前記濾材は、前記濾材を回転させる駆動装置の回転軸に貫通されていない、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の濾過装置は、寿命を向上させる効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の一例による濾過装置を示す分解斜視図である。
図2】濾過装置の気流方向に沿った断面図である。
図3】(a)は、従来の濾過装置を用いた場合の、濾材に堆積した微粒子を概念的に説明する図であり、(b)は、本実施形態の一例の濾過装置を用いた場合の、濾材に堆積した微粒子を概念的に説明する図である。
図4】本実施形態の濾過装置の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態の濾過装置について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の一例による濾過装置1を示す分解斜視図である。図2は、図1の濾過装置1の気流方向Xに沿った断面図である。
濾過装置1は、濾材22と、駆動装置40と、を備える。
【0017】
濾材22は、気体中の塵埃等の微粒子を捕集する部材である。
濾材22には、例えば、中性能フィルタ、あるいは粗塵用フィルタとしてのフィルタ性能を有する濾材が用いられる。中性能フィルタは、主に粒径5μm未満の粒子に対して中程度の粒子捕集率をもつエアフィルタであり、比色法により測定した捕集効率が50~95%、あるいは、粒径0.7μmの粒子を用いて計数法により測定した捕集効率が50~95%であるエアフィルタである。粗塵用フィルタは、主に粒径5μm以上の粉塵の除去に用いられるエアフィルタであり、粒径0.7μmの粒子を用いて計数法により測定した捕集効率が5~50%未満であるフィルタである。
濾材22は、例えば、ガラス繊維、有機繊維、金属繊維、セラミック繊維、あるいは、これらのうちの2種以上の繊維の混合繊維からなる繊維体であり、例えば、不織布、あるいはフェルトである。濾材22の形態は、例えば、シート状、マット状、あるいはプリーツ状である。プリーツ状の濾材22は、シート状の濾材を、山折り、谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工(プリーツ加工)することで作製される。ガラス繊維からなる濾材22は、例えば、湿式法又は乾式法によって抄紙することにより作製される。有機繊維からなる濾材22は、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等によって作製される。
【0018】
濾材22の充填率は0.05未満である。充填率がこの範囲内にあると、濾材22の回転数が適切に調整されることで、濾材22に捕集された微粒子が濾材22内で移動しやすくなることが明らかにされた。本明細書において、濾材22の充填率とは、濾材22を構成する捕集体が濾材22中に占める割合を意味し、下記式に従って計算される。
充填率=捕集体の体積(m3)/濾材22の体積(m3
この式は、下記式と等価である。
充填率={1-濾材22に含まれる空隙の体積(m3)}/濾材22の体積(m3
捕集体の例としては、繊維体、後述する、多孔体、構造体が挙げられる。捕集体が繊維体である場合の充填率は、下記式のように計算することができる。
充填率=濾材22を構成する繊維の体積(m3)/濾材22の体積(m3
=繊維体の目付(g/cm2)/{繊維密度(g/cm3)×繊維体の厚さ(cm)}
繊維体の厚さは、気流方向の濾材22の長さを意味する。
【0019】
濾材22の充填率が0.05を超えると、濾材22に捕集された微粒子が、濾材22の回転によって発生した遠心力によって濾材22の外周側に移動し難くなる。
濾材22の充填率は、濾材22に捕集された微粒子の外周側への移動がより容易になるよう、好ましくは0.01以下であり、より好ましくは0.005以下である。充填率の下限値は、微粒子が捕集されずに下流側にリークすることを防ぐ観点から、例えば、0.0001である。
濾材22の充填率は、後述する回転中心を通る位置から、回転中心から離れた濾材22の端部(外周部)の位置にかけて一定であること、すなわち、分布を有しないことが好ましい。
【0020】
濾材22の平均繊維径は、例えば5~100μmであるが、10μmを超え100μm以下であることが好ましい。平均繊維径が10μmを超える場合、太くて捕集効率の低い濾材を用いて捕集効率の向上効果を得ることができる。また、濾材22が回転することで上昇する圧力損失の上がり幅を抑えることができる。
【0021】
濾材22の目付は、例えば30~500g/m2である。
濾材22の厚さは、例えば1~60mmである。濾材22の厚さとは、図1及び図2に示す例において、気流方向Xに沿った濾材22の長さをいう。
濾材22の半径は、例えば50~175mmである。
【0022】
一例によれば、濾材22は、上述の繊維体のほか、多孔体、あるいは構造体であってもよい。多孔体である濾材22は、例えば、金属、炭素等の粉体又は繊維を焼結してなる焼結フィルタである。構造体である濾材22は、一方向に延びる気体の通路を、通路を横切る方向に多数並べた形状のハニカムフィルタである。
【0023】
濾材22は、充填率の勾配を有するものであってもよい。例えば、濾材22は、回転中心線Zから外周側に向かって段階的又は連続的に充填率が変化していてもよい。濾材22に捕集された微粒子は、濾材22の回転に伴って濾材22内を外周側に移動しやすくする観点からは、濾材22の充填率の勾配が、回転中心線Zから外周側に向かって低くなっていることが好ましい。
【0024】
一例によれば、濾過体20は、複数の濾材22を有していてもよい。複数の濾材22は、例えば、気流方向Xに積層され、あるいは、回転中心線Zの周りの方向(以下、周方向ともいう)もしくは濾過体20の径方向に隙間なく並べられて配置される。複数の濾材22は、充填率が互いに同じであってもよく、少なくとも一部が異なっていてもよい。例えば、上記した、充填率の勾配が回転中心線Zから外周側に向かって段階的に低くなっている濾材として、充填率の異なる複数の濾材22を、濾過体20の径方向に隙間なく、外周側に位置する濾材であるほど充填率が小さくなるように配置したものを挙げることができる。
【0025】
濾材22の半径の厚さに対する比は0.1以上であることが好ましい。濾材22の半径の厚さに対する比が0.1以上であると、保塵量を増加させる効果が増す。また、濾過装置1が設置される気流方向のスペースに制約がある場合、濾材22の半径の厚さに対する比は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上である。
濾材22は、図1及び図2に示す例において、円板状の形状を有している。
【0026】
濾材22は、図示されるように、濾材面積を大きくできる点で、後述する回転軸42に貫通されていないことが好ましい。
【0027】
駆動装置40は、後述する外枠24と連結される回転軸42と、回転軸42を回転させるモータ44と、制御装置60と、を有している。モータ44は、図示されない外部又は内部電源が供給されることで外枠24を回転駆動させる。濾材22は、外枠24内に配置され、外枠24に保持されていることで、外枠24と一体的に回転する。このため、モータ44の回転数は濾材22の回転数と等しい。モータ44は、筐体10に対して複数の支持体12を介して支持され、回転軸42が後述する回転中心線Z上に位置するように配置されている。なお、図2では、モータ44の支持体12の図示を省略している。制御装置60は、指定された回転数でモータ44が回転するように設計された制御回路を有している。モータ44の回転数は、例えば、インバータ又はスライダックを用いて、駆動装置40に供給される電源の電圧又は周波数を変えることで調節することできる。
【0028】
駆動装置40は、濾材22に捕集された微粒子が外周側(濾材22の回転中心から遠ざかる方向)に移動するように充填率の範囲に応じて調整された回転数で、濾材22を回転させる。このような回転数で濾材22を回転させることで、濾材22に捕集された微粒子を、濾材22内で外周側に移動させ、濾材22の外周部に堆積させることを容易に行うことができ、下記説明するように、濾材22の保塵量を増加させることができる。なお、充填率の範囲に応じて調整された濾材22の回転数とは、濾材22の充填率が0.05未満である場合に、濾材22に捕集された微粒子が濾材22の外周側に移動しやすくなる回転数をいう。濾材22の回転中心は回転中心線Z上にある。回転中心線Zは、気流方向Xと平行な仮想線である。
【0029】
駆動装置40は、図示されるように、筐体10の空間10a内に、濾過体20に対し下流側に配置されることが好ましい。すなわち、濾材22は、回転軸42に対し上流側に配置されていることが好ましい。このような配置態様によれば、濾材22を回転軸42によって貫通させる必要がなく、濾材面積を確保することができる。また、濾材22に遠心力が作用することによって回転軸42との間に隙間ができることを防止できる。また、空気中の微粒子によって駆動装置40が汚染され、回転駆動に不具合が発生することを防止できる。しかし、一例によれば、駆動装置40は、濾過体20に対し上流側に配置されていてもよい。この場合、回転軸42は、濾材22を貫通して外枠24に連結される。
【0030】
ここで、図3を参照して、濾材22の保塵量について説明する。図3(a)は、従来の濾過装置を用いた場合の、濾材に堆積した微粒子を概念的に説明する図であり、図3(b)は、濾過装置1を用いた場合の、濾材22に堆積した微粒子を概念的に説明する図である。
従来の濾過装置では、濾材は回転せず、図3(a)に示すように、濾材の上流側の表面付近の部分に微粒子が堆積しやすい。このため、表面濾過が起きやすく、短時間で圧力損失が上昇する。したがって、濾材の下流側の表面付近に、微粒子を捕集できる領域(未捕集領域)が多く残されていても、濾材を交換する必要が生じる。なお、図3において、濾材内に捕集された微粒子を、多数の丸で概念的に表す。
これに対し、本実施形態の濾過装置1では、濾材22に捕集された微粒子は、濾材22の回転によって生じる遠心力を受けて、濾材22の外周側に移動し、図3(b)に示すように、濾材22の外周部に堆積する。このため、少なくとも、濾材22の回転中心を通る中心部では表面濾過が起きにくく、圧力損失が上昇し難いため、最終圧力損失に達するまでの時間が延びる。そして、濾材22の外周部から微粒子を堆積させ、濾材22内のより広い領域に微粒子を保持できるため、最終圧力損失に達するまでに濾材22内に残る未捕集領域が少なく、保塵量が増し、濾材22の寿命が延びる。なお、保塵量とは、使用を開始してから最終圧力損失に達するまでに濾材に捕集される微粒子の重量をいう。
【0031】
一方で、濾材の充填率が0.05以上である場合は、濾材22を速く回転させても、濾材に捕集された微粒子の外周側への移動は起き難く、本実施形態の濾過装置1を用いた場合と比べ、最終圧力損失に達するまでの時間は短い。また、本実施形態の濾過装置1を用いた場合ほどに、濾材22内に堆積する微粒子の量が増加せず、保塵量が増す効果は抑制され、寿命の延び幅は小さい。
本実施形態では、濾材22の充填率が0.05以上である場合、濾材22の回転数が適切に調節されることで、上述したように、捕集された粒子が遠心力で外周側に移動しやすい。このため、最終圧力損失に達するまでの時間が長く、また、保塵量が増すことで、長寿命なものとなる。本実施形態の濾過装置1によれば、PM2.5やPM10などの粒径の小さい微粒子の濃度が高い環境で濾過装置1を使用したときに、濾材22の交換頻度が増すことを抑制できる。また、従来の濾過装置において用いたときに寿命の短い濾材であっても、充填率が上記範囲内にあって、回転数が適切に調節された場合は、寿命を延ばすことができるため、本実施形態の濾過装置1では、捕集効率が高く圧力損失の小さい高性能な濾材を用いる必要がない。
【0032】
上記した、充填率の上記範囲に応じて調整された濾材22の回転数は、具体的に、1000回転/分以上であり、寿命を大きく延ばす効果が得られる点で、1500回転/分以上、好ましくは2000回転/分以上である。回転数の上限値は、特に制限されないが、例えば5000回転/分である。
【0033】
本実施形態の濾過装置1によれば、上記説明したように、濾材22に捕集された微粒子が外周側に移動することで、濾材の中心部と外周部とで、捕集された微粒子量に差が生じている。なお、濾材22の中心部とは、濾材22の回転中心から、濾材22の半径の50%以下(好ましくは25%)の長さ外周側に離れた位置までの部分をいう。一方、濾材22の外周部とは、濾材22の外周の縁から、濾材22の半径の50%(好ましくは25%)未満の長さ、回転中心に近づいた位置までの部分をいう。
【0034】
濾過装置1は、さらに、筐体10と、外枠24と、壁部材30(図2参照)と、ファン50と、を備えることが好ましい。図1において、壁部材30の図示は省略されている。
【0035】
筐体10は、気体を取り込んで通過させる空間10aを有する。図示される例において、筐体10は、筒状の部材であり、気流方向Xの上流側及び下流側が開口されている。気流方向Xは、気体が筐体10の空間10aを通過する方向である。一例によれば、筐体10は、建物の中に設置されたダクトであってもよい。
【0036】
外枠24は、筐体10の内壁との間に隙間をあけて空間10a内に配置され、回転中心線Zの周りに回転する。隙間の長さ(外枠24と筐体10の内壁との距離)は、例えば2mm以下である。
【0037】
外枠24は、図示される例では、ガイド部25と、環状壁部26と、支持部27と、を有しており、これらが一体に形成されている。
【0038】
ガイド部25は、濾材22の外周部をその外周側から取り囲む部分である。ガイド部25は、図2に示す例では、気流方向Xと平行な方向に延在し、かつ、周方向に延在した円筒状の形状を有している。濾材22は、ガイド部25の内周側に、径方向に圧縮された状態で配置され、あるいは、ガイド部25の内壁に外周部が接着されて配置されており、ガイド部25に対し隙間なく接している。ガイド部25は、濾材22に入り込んで濾材22内を外周側に流れた空気が隙間G内に流れ出るのを防止し、気流方向Xの下流側に案内する機能を有している。ガイド部25は、隙間をあけて筐体10と離間している。
【0039】
ガイド部25は、貫通孔を有しないことが好ましい。これにより、濾材22に捕集された微粒子が貫通孔を通過してガイド部25と筐体10の内壁との隙間に流出し、下流側を汚染することを防止できる。 しかし、一例によれば、ガイド部25は、貫通孔を有していてもよい。ガイド部25は、例えば、多数の貫通孔が配列したメッシュ状の形態を有していてもよい。ガイド部25にこのような貫通孔が設けられていることで、濾材22に捕集された微粒子を、ガイド部25を通過させて濾過体20の外周側に取り出すことができる。これにより、濾材22をより長く使用することができる。この場合、筐体10内の、例えばガイド部25の下流側には、濾材22から排出された微粒子を受け止める容器等が配置される。
【0040】
環状壁部26は、濾材22に対し下流側から接するように、回転中心線Zに向かって延在した部分である。図示される例では、環状壁部26は、ガイド部25の下流側の端から回転中心線Zに向かって延在し、かつ、周方向に延在した円環状をなしている。
【0041】
支持部27は、濾材22に対し下流側から接するように、回転中心線Zが通る外枠24の中心部と、環状壁部26とに接続された部分である。支持部27は、2つ、3つ、あるいは4つ以上の複数設けられることが好ましく、図示されるように、外枠24の中心部から放射状に延びて配置されることが好ましい。支持部27は、環状壁部26とともに、濾材22が外枠24から下流側に抜けることを防止する。また、複数の支持部27が周方向に間隔をあけて配置されていることで、濾材22を通過する空気の流量が確保される。
【0042】
外枠24及び濾材22は、濾過体20を構成する。一例によれば、濾過体20は、上記説明した外枠24を備えていなくてもよい。この場合、濾材22は、後述する回転軸42に貫通され、回転軸42と一体に回転するように固定される。
【0043】
一例によれば、濾過体20は、複数の濾材22を有していてもよい。複数の濾材22は、例えば、気流方向Xに積層され、あるいは、回転中心線Zの周りの方向(以下、周方向ともいう)に隙間なく並べられて配置される。
【0044】
壁部材30は、筐体10に取り込まれる気体の流量を絞る通路30aを形成する部材である。壁部材30は、図2に示す例では、筐体10の上流側の端に取り付けられ、筐体10内に配された濾材22より上流側に位置している。壁部材30は、筐体10と溶接され、あるいは、パッキン等のシール部材を介して接続され、筐体10との間に隙間なく取り付けられている。壁部材30は、図2に示す例において、第1壁部32と、第2壁部34と、を有している。
【0045】
第1壁部32は、筐体10の上流側の端から内周側に延在し、かつ、周方向に延在した円環状の部分である。第1壁部32は、筐体10の内壁から通路30aを画する端まで、気流方向Xと反対側(上流側)への空気の流れを遮断するように延在する壁面32aを有している。通路30aは、図2に示す例において、気流方向Xと直交する方向の断面が円形であり、筐体10内の空間10aの断面積より、その流路面積が小さい。本実施形態では、濾材22に捕集された微粒子は外周側に移動しやすく、濾材22の外周部から堆積する。このため、濾材22を通過する気流を、濾材22の中心部に誘導することで、表面濾過の発生を抑え、目詰りし難くなる効果が向上する。濾材が回転しない上記従来の濾過装置では、濾材の厚み方向の上流側の部分から微粒子が堆積するため、表面濾過が起きて空気の流れが阻害されやすく、目詰りしやすい。壁面32aは、凹みや貫通孔を有しない平滑面である。また、壁面32aは、気流方向Xと交差する方向に延在しており、図示される例において、気流方向Xと直交する方向に延びている。壁面32aは、通路30aを通過した空気が濾材22の中心部に進入するように、濾材22に対して接近して配置されていることが好ましい。この点から、気流方向Xに沿った壁面32aと濾材22との距離は、例えば、30mm以下に設定される。
【0046】
第1壁部32の径方向の長さ(径方向両側のうちの片側)は、通風量を低下させすぎることなく、濾材22の中心部に空気を導く観点から、筐体10の内径の5~25%の長さであることが好ましい。
【0047】
第2壁部34は、図2に示す例において、第1壁部32の内周側の端から気流方向Xに沿って上流側に延びる円筒状の部分である。一例によれば、第2壁部34は、このような形態に制限されず、第1壁部32の外周側の端から上流側に延在した円筒状をなしていてもよい。
【0048】
また、一例によれば、第1壁部32の内周側の端から上流側に向かって連続的に通路30aを広げるように、気流方向Xに対して傾斜して延在した円錐台形状であってもよい。
図4は、本実施形態の別の一例による濾過装置1を示す図である。
図4に示す例において、第2壁部34の内壁には、螺旋状に延びるネジ山34aが設けられている。本実施形態の濾過装置1では、通路30aによって流量が絞られているため、壁部材30を備えない場合と比べ、通風量が低下しやすい。しかし、図4に示す形態の壁部材30を備える濾過装置1では、ネジ山34aに沿って、図示される矢印で指す方向に流れるように空気を供給しつつ、通路30aの中心部を筐体10内から上流側に戻る気流の流れを確保することで、通風量の低下の程度を抑えることができる。
【0049】
ファン50は、微粒子を含んだ空気を取り込んで筐体10内を通過させる気流を発生させる。ファン50は、図示される例において、回転軸42に連結され、駆動装置40によって回転駆動される。図示される例では、濾過体20及びファン50は、駆動装置40によって一体的に回転駆動されるため、濾過体20及びファン50を異なる駆動装置で回転駆動させる場合と比べ、消費電力を抑えることができる。
【0050】
以上説明した濾過装置1によれば、濾材22の充填率が0.05未満であるため、濾材22の回転数が適切に調整されることで、濾材22に捕集された微粒子が濾材22内で移動しやすくなる。このため、最終圧力損失に達するまでの時間が長く、また、保塵量が増すことで、長寿命なものとなる。
【0051】
本実施形態の濾過装置1は、室内又は屋外の塵埃が発生しやすい場所において、塵埃が浮遊する空気を取り込み、清浄化する集塵機等として好適に用いることができる。例えば、オイルミストが発生しやすい、切削加工等を行う作業現場、調理施設等を備える室内、において、濾過装置1を設置する、あるいは、室内と接する建物内部に設けられたダクトを筐体として濾過装置1を設置することができる。この場合、濾材22に捕集された油分が濾材22に蓄積されることを抑えるために、濾過装置1の上流側で水蒸気を発生させ、オイルミストとともに筐体10内に取り込むことで、濾材22に捕集された油分を濾材22の繊維から離脱させやすくすることができる。
また、例えば、ヒューム等の金属粉、その他の粉体が発生しやすい、溶接加工、切削加工等を行う室内又は屋外において、濾過装置1を設置することができる。
【0052】
本実施形態の濾過装置1は、水平方向を気流方向Xとする場合に限らず、鉛直方向を気流方向Xとすることもできる。例えば、天井と接する建物内部に設けた鉛直方向に延びるダクトを筐体とすることもできる。
【0053】
(実験例)
本発明の効果を確認するために、上記実施形態の濾過装置において、回転数を種々異ならせて、保塵量を測定した。
濾材には、有機繊維からなる不織布(日本無機社製のPET繊維不織布 DS600)を3枚重ねたものを用いた。この濾材は、目付が0.013g/cm2、繊維密度が1.38g/cm3、厚みが20cmであり、濾材の充填率は0.047%であった。
試験方法は、JIS B 9908:2011に準拠して行った。最終圧力損失498Paに達した時点で終了し、エアフィルタ1台あたりの保塵量(g/台)を計算した。保塵量の計算は、試験の前後での濾材の質量を測定し、その差から求めた。
また、捕集効率として、JIS B9908 形式3に準拠し、質量法粒子捕集率(%)を求めた。
結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実験例1と実験例2、3の比較から、濾材の充填率が0.05未満である場合に、回転数が調整されることで、保塵量が増加することが確認された。濾材の充填率が0.05未満である場合に、回転数が調整されることで、濾材に捕集された微粒子が外周側に移動しやすくなり、その結果、濾材の未捕集領域が減り、保塵量が増したと考えられる。
【0056】
実験例1~3から、濾材の充填率が0.05未満である場合に、回転数が調整されることで、保塵量が変化することが確認された。
また、実験例1~3の比較から、回転数の増加に伴って、捕集効率が上昇することが確認された。
【0057】
以上、本発明の濾過装置について詳細に説明したが、本発明の濾過装置は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0058】
1 濾過装置
12 支持体
10 筐体
10a 空間
20 濾過体
22 濾材
24 外枠
25 ガイド部
26 環状壁部
27 支持部
30 壁部材
30a 通路
32 第1壁部
32a 壁面
34 第2壁面
34a ネジ山
40 駆動装置
42 回転軸
44 モータ
50 ファン
図1
図2
図3
図4