(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】乳酸金属塩を含む、がんを処置するための薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/19 20060101AFI20220712BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220712BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20220712BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220712BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220712BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K31/19
A23L33/10 ZNA
A61K31/282
A61K31/337
A61K31/404
A61K31/439
A61K31/44
A61K31/4745
A61K31/506
A61K31/513
A61K31/517
A61K31/519
A61K31/5377
A61K39/395 P
A61K45/00
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2017552768
(86)(22)【出願日】2015-12-04
(86)【国際出願番号】 KR2015013191
(87)【国際公開番号】W WO2016108446
(87)【国際公開日】2016-07-07
【審査請求日】2018-11-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】10-2014-0192158
(32)【優先日】2014-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2015-0142828
(32)【優先日】2015-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517227806
【氏名又は名称】メティメディ ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】キム ファン ムク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン グン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シム ジェ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヨン ス
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521913(JP,A)
【文献】Cancer Lett., 1990, Vol.53, pp.17-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A23L5/00-33/29
CAplus、MEDLINE、BIOSIS、EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸カルシウムの有効量をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムのみを含む薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞の代謝を妨害する、薬学的組成物。
【請求項2】
乳酸カルシウムの有効量をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムのみを含む薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞の成長、浸潤および/または転移を抑制する、薬学的組成物。
【請求項3】
乳酸カルシウムの有効量をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムのみを含む薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞のアポトーシスを誘発する、薬学的組成物。
【請求項4】
抗がん薬との併用処置のために使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
乳酸カルシウムの有効量および抗がん薬の有効量をそれらを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムと抗がん薬(ただし、オキサリプラチンを除く)とを含む、薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞内でがん細胞の代謝を妨害する、薬学的組成物。
【請求項6】
乳酸カルシウムの有効量および抗がん薬の有効量をそれらを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムと抗がん薬(ただし、オキサリプラチンを除く)とを含む、薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞の成長、浸潤および/または転移を抑制する、薬学的組成物。
【請求項7】
乳酸カルシウムの有効量および抗がん薬の有効量をそれらを必要とする対象に投与する段階を含む、がんの処置またはがん転移の抑制のために使用される、活性成分として乳酸カルシウムと抗がん薬(ただし、オキサリプラチンを除く)とを含む、薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体ががん細胞のアポトーシスを誘発する、薬学的組成物。
【請求項8】
前記抗がん薬が、イマチニブ、5-FU(5-フロロウラシル)、イリノテカン、スニチニブ、パクリタキセル、ラパチニブ、トラスツズマブ(ハーセプチン
(登録商標))、ゲフィチニブ、エルロチニブ、メトトレキサート、カルボプラチン、ドセタキセル、エベロリムス、ソラフェニブ、炭酸脱水酵素阻害因子、およびモノカルボン酸輸送体阻害因子からなる群より選択される1種または複数種の抗がん薬を含む、請求項
4~
7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記抗がん薬が、イマチニブ、5-FU(5-フロロウラシル)、イリノテカン、スニチニブ、パクリタキセル、ラパチニブ、トラスツズマブ(ハーセプチン
(登録商標))、ゲフィチニブ、エルロチニブ、メトトレキサート、カルボプラチン、ドセタキセル、エベロリムス、ソラフェニブ、5-インダンスルホンアミド、およびケイ皮酸からなる群より選択される1種または複数種の抗がん薬を含む、請求項
4~
7のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
放射線との併用処置のために使用される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の薬学的組成物であって、乳酸カルシウムそれ自体が放射線に対する抵抗性を誘発する因子の発現を抑制する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記放射線が、1日あたり2~10Gyの放射線量で対象に照射される、請求項
10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記がんが、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、脳がん、膵がん、甲状腺がん、皮膚がん、骨がん、リンパ腫、子宮がん、子宮頸がん、腎がん、および黒色腫からなる群より選択される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記がんが、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、腎がんおよび黒色腫からなる群より選択される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記がんが、黒色腫である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
薬学的組成物の1回量に含まれる乳酸カルシウムの濃度が、2.5mM~25mMである、請求項1~
14のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
乳酸カルシウムの投与が、皮下投与、静脈内投与または腫瘍内投与である、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
液剤、散剤、エアロゾル剤、注射剤、輸液(点滴静注剤)、貼付剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、デポー剤、または坐剤に製剤化されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
注射用液剤または輸液(点滴静注剤)に製剤化されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
がんを縮小するための、活性成分として乳酸カルシウムを含む食品組成物。
【請求項20】
クッキー、飲料、アルコール飲料、発酵食品、缶詰食品、乳加工食品、肉加工食品、または麺類の形態で製造されている、請求項19に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乳酸金属塩を含むがんを処置するための薬学的組成物に関し、より具体的には、がん細胞内でがん細胞の代謝を妨害し、よってがん細胞の成長、浸潤、および転移などの活動を効果的に阻害することができる、ラクテートを解離する能力を有する乳酸金属塩を活性成分として含む、がんを処置するための薬学的組成物、がん転移を阻害するための薬学的組成物、およびがんを改善するための食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
2011年に公表されたデータによれば、韓国では2011年に合計218,017例のがんが発生したと報告された。粗罹患率は100,000人あたり男性で439.2人、女性で431.0人であった。がんの罹患数は、胃がん、結腸直腸がん、肺がん、肝がん、および乳がんの順であった。これら上位5つのがんで、すべてのがんの50%を上回る罹患率になる。最もよく見られるがんは、男性では順に、胃がん、結腸直腸がん、肺がん、および肝がんであり、女性では、甲状腺がんを除けば、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、および肺がんである。韓国人が平均余命まで生きると、がんにかかる可能性は36.9%になる。がんは、男性の5人に2人(38.1%)、女性の3人に1人(33.8%)に発生すると推定される。世界標準人口によって調整した韓国における年齢調整率(age-standardized rate)(ASR)は100,000人あたり295.1人であった。これは、米国(318.0)またはオーストラリア(323.0)に関する数字よりは低いが、OECD平均値(271.5)よりは高い。韓国統計庁(National Statistical Office)からのデータによれば、2013年の韓国では、がんによる死亡数が75,334人で、総死亡数の28.3%を占め、がんによる死亡率は、2~3年で8.8%増加すると予想されている。それゆえ、罹患率および死亡率が高いがんを処置するために、さまざまな処置方法が世界中で試みられている。今のところ、早期がんおよび進行期がんを積極的に処置するには、外科手術および抗がん薬治療または放射線療法が最善の選択肢である。
【0003】
がんを外科的に処置するには、腫瘍の種類およびタイプを腫瘍の診断によって同定すべきである。ほとんどの場合、診断のために生検が行われる。外科手術は、根治的捻除術を使って原発巣および腫瘍を取り囲むリンパ節をすべて除去する根治療法である。根治的捻除術は完治を目的として優先的に行われる。捻除術に起因する死亡率は1~3%まで低下しており、患者の5年生存率は50%超増加している。しかし、外科手術を受けた患者に再燃のリスクがあることは周知である。さらに、外科手術には、出血、腸閉塞、血管傷害、尿管傷害、直腸破裂、肺炎、および合併症が引き起こす肺塞栓症などといった急性副作用の可能性があるため、再手術が必要になる場合もある。化学療法は、全身に拡がったがん細胞に適用される、薬物、すなわち抗がん薬を使った疾患の処置である。しかし抗がん薬の大半は、がん細胞の迅速な成長を抑制するために調製されているので、がん細胞の損傷を引き起こすだけでなく、がん細胞ほどではないにせよ、正常細胞の損傷も引き起こすであろう。その間、迅速に分裂または増殖する血球、口腔を含む消化管の上皮細胞、有毛細胞、および生殖細胞などの正常細胞は著しい影響を受け、貧血、脱毛、および生殖異常などの副作用をもたらす。重症例では、抗がん薬が骨髄の機能を低下させ、処置から2~3週間以内に、敗血症による死亡につながる感染症を引き起こすこともありうる。放射線療法とは、高エネルギー放射線を使ってがん組織のアポトーシスを誘発する処置をいう。この処置は、患者が普通の生活を続けることを妨げない方法の一つであるが、高エネルギー放射線の副作用として、局所領域の正常皮膚の損傷を引き起こしうる。転移がんの場合、がん幹細胞が放射線に対して抵抗性であり、再燃または転移が起こることもありうる。
【0004】
これらの欠点を克服するために、放射線療法を化学療法と併用する処置方法または遺伝子治療を開発するための研究が、活発に行われている。例えば韓国特許公開第2002-0042606号(特許文献1)には、N-アセチルフィトスフィンゴシン誘導体およびジメチルフィトスフィンゴシン誘導体を含有する放射線増感剤組成物が開示されており、韓国特許公開第2003-0055878号(特許文献2)には、セラミドおよびその誘導体ならびにスフィンゴシンキナーゼ阻害因子であるジメチルスフィンゴシンを含有する放射線増感剤が開示されており、韓国特許第620751号(特許文献3)には、活性成分としてペオノールおよび薬学的に許容されるその塩を含有する放射線増感用の組成物が開示されている。しかし、放射線療法の治療効果を改良するために放射線療法を上述の抗がん薬と併用すると、放射線療法の副作用に加えて、放射線治療部位における炎症、胃障害、悪心、嘔吐、および下痢などといった抗がん薬の毒性も生じうる。このように抗がん薬の使用には限界がある。さらにまた、腫瘍は、その免疫抑制環境ゆえに、完全に根絶することができず、再燃のリスクは高いことが知られている。
【0005】
したがって、がんの処置に容易に応用することができ、がんを効果的に処置する能力を有しつつ、正常組織への影響が少ない新規な処置の開発が、差し迫って必要とされている。最近の研究によれば、がん細胞は独自の特徴を有し、それらの特徴を維持しつつ持続的に成長できることが知られている。第1に、がん細胞は分化シグナルを持続的に維持するという特徴を有する。例えば、β-カテニンシグナル伝達を維持することによる細胞の分化と生存は周知である。正常細胞がタンパク質のユビキチン化によってβ-カテニンシグナル伝達の過剰生成を阻害するのに対し、がん細胞はβ-カテニンのユビキチン化を回避し、成長シグナルを持続的に維持する。第2に、がん細胞は、グルコースを使って高い効率でエネルギーを生産するために、解糖によって過剰量の乳酸を生産するための系を有する。第3に、がん細胞はアポトーシスを回避するという特徴を有する。がん細胞は、アポトーシス回避分子であるポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)を活性化することにより、アポトーシスを回避してさまざまな遺伝子標的処置に抵抗し、腫瘍形成を持続的に維持する。第4に、がんは浸潤性または転移性に優れ、血管新生によって独自の環境を作り出す能力も有する。がんが持続的に成長すると、腫瘍の周りでは壊死が起こり、酸素供給量が減少して、上記の減少に直接的または間接的に関与することが知られている低酸素誘導因子(HIF)-1αの増加を引き起こす。
【0006】
上述したがんの特徴を標的として、細胞成長の調節と転移抑制に基づく、さまざまな抗がん薬が開発された。しかし、成長シグナルを媒介するチロシンキナーゼ阻害因子は満足できる処置結果を与えず、薬物に対する抵抗性が見られた。抗がん薬の開発において、複雑なシグナル伝達経路のネットワークによって調節されるがん細胞の成長を効果的に抑制するための方法を見つけ出すことは、今なお困難である。
【0007】
このような状況下で、本発明者らは、がん細胞の成長を効果的に抑制してがんを処置する方法を開発するために研究努力した結果、がん細胞内でがん細胞の代謝を妨害し、よってがん細胞の成長、浸潤、および転移などの活動を効果的に阻害することができる、ラクテートを解離する能力を有する乳酸金属塩を、抗がん薬の活性成分として使用できることを見いだすことにより、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国特許公開第2002-0042606号
【文献】韓国特許公開第2003-0055878号
【文献】韓国特許第620751号
【発明の概要】
【0009】
概要
本開示は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを処置するための薬学的組成物を提供することを目的としてなされた。
【0010】
さらに本開示は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がんの転移を抑制するための薬学的組成物を提供することを目的としてなされた。
【0011】
さらにまた、本開示は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを改善するための食品組成物を提供することを目的としてなされた。
【0012】
さらにまた、本開示は、乳酸金属塩を投与する工程を含む、がんを処置するための方法を提供することを目的としてなされた。
【0013】
さらにまた、本開示は、乳酸金属塩を投与する工程を含む、がんの転移を抑制するための方法を提供することを目的としてなされた。
【0014】
本開示の例示的態様によれば、本開示の乳酸金属塩には副作用がなく、本開示の乳酸金属塩は主要エネルギー生産経路における代謝を妨害することで、がん細胞の成長を抑制し、アポトーシスを誘発し、放射線に対する抵抗性を誘発する因子の発現も抑制するので、より効果的な抗がん処置のために広く使用することができる。
[本発明1001]
活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを処置するための薬学的組成物。
[本発明1002]
前記乳酸金属塩が、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸鉄(II)、乳酸クロム、乳酸銅、乳酸マンガン、乳酸亜鉛、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1003]
前記乳酸金属塩が乳酸カルシウムである、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1004]
放射線または公知の抗がん薬との併用処置のために使用される、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1005]
前記放射線が、1日あたり2~10Gyの放射線量でがん患者に照射され、かつ前記薬学的組成物と併用して処置されるものである、本発明1004の薬学的組成物。
[本発明1006]
前記抗がん薬が、イマチニブ、5-FU(5-フロロウラシル)、イリノテカン、スニチニブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、ラパチニブ、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、メトトレキサート、カルボプラチン、ドセタキセル、エベロリムス、ソラフェニブ、炭酸脱水酵素阻害因子、およびモノカルボン酸輸送体阻害因子からなる群より選択される1種または複数種の抗がん薬を含む、本発明1004の薬学的組成物。
[本発明1007]
前記がんが、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、脳がん、膵がん、甲状腺がん、皮膚がん、骨がん、リンパ腫、子宮がん、子宮頸がん、腎がん、および黒色腫からなる群より選択される、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1008]
薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤をさらに含む、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1009]
液剤、散剤、エアロゾル剤、注射剤、輸液(点滴静注剤)、貼付剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、デポー剤、または坐剤に製剤化されている、本発明1001の薬学的組成物。
[本発明1010]
それを必要とする対象に、本発明1001~1009のいずれかの組成物を薬学的有効量として投与する工程を含む、対象におけるがんを処置するための方法。
[本発明1011]
活性成分として乳酸金属塩と抗がん薬とを含む、がんを処置するための薬学的組成物。
[本発明1012]
前記乳酸金属塩が、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸鉄(II)、乳酸クロム、乳酸銅、乳酸マンガン、乳酸亜鉛、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1011の薬学的組成物。
[本発明1013]
前記抗がん薬が、イマチニブ、5-FU(5-フロロウラシル)、イリノテカン、スニチニブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、ラパチニブ、トラスツズマブ(ハーセプチン), ゲフィチニブ、エルロチニブ、メトトレキサート、カルボプラチン、ドセタキセル、エベロリムス、ソラフェニブ、炭酸脱水酵素阻害因子、およびモノカルボン酸輸送体阻害因子からなる群より選択される1種または複数種の抗がん薬を含む、本発明1010の薬学的組成物。
[本発明1014]
活性成分として乳酸金属塩を含む、がん転移を抑制するための薬学的組成物。
[本発明1015]
前記乳酸金属塩が乳酸カルシウムである、本発明1014の薬学的組成物。
[本発明1016]
転移性の肺がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、脳がん、膵がん、甲状腺がん、皮膚がん、骨がん、リンパ腫、子宮がん、子宮頸がん、腎がん、および黒色腫からなる群より選択される1種または複数種の転移がんの発生を抑制する、本発明1014の薬学的組成物。
[本発明1017]
それを必要とする対象に、本発明1014~1016のいずれかの組成物を薬学的有効量として投与する工程を含む、対象におけるがん転移を抑制するための方法。
[本発明1018]
活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを改善するための食品組成物。
[本発明1019]
前記乳酸金属塩が乳酸カルシウムである、本発明1018の食品組成物。
[本発明1020]
クッキー、飲料、アルコール飲料、発酵食品、缶詰食品、乳加工食品、肉加工食品、または麺類の形態で製造されている、本発明1018の食品組成物。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】乳酸カルシウム、ならびにそれぞれ乳酸カルシウムと類似する分子構造を有する乳酸ナトリウムおよび乳酸カリウムの構造および結合エネルギーを、相互に比較した模式図および表である。
【
図2】乳酸カルシウム(CaLa)による処理の有無に依存する、がん細胞中のカルシウムレベルを比較した結果を示す蛍光顕微鏡像である。
【
図3】乳酸カルシウム(CaLa)による処理の有無に依存する、がん細胞中のラクテートレベルを比較した結果を示すグラフである。
【
図4】乳酸カルシウムで処理したがん細胞の細胞内pHおよび細胞外pHの変化を示すグラフであり、左側のグラフはがん細胞の細胞外pHの変化を示し、右側のグラフはがん細胞の細胞内pHの変化を示している。
【
図5】
図5の上側は、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのmRNA発現レベルを比較した結果を示す電気泳動像であり、
図5の下側は、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像である。
【
図6】さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)における総β-カテニンおよび活性型β-カテニンのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像である。
【
図7】低酸素条件下でのがん細胞株における乳酸カルシウムの効果を示すリアルタイムPCRおよびウェスタンブロットである。グラフは、解糖の初期に関与するグルコース輸送体(GLUT)-1およびヘキソキナーゼ(HK)2のmRNA発現レベルを示し、ウェスタンブロッティング像はHK2のタンパク質発現レベルを示している。
【
図8】ヒト乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)中で発現するPARPおよび切断型PARPのタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を示すウェスタンブロッティング像である。
【
図9】乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、またはラクテート流出経路であるMCT-4の阻害因子であるケイ皮酸(CA)で単独処理または併用処理した結腸直腸がん細胞株におけるPARPのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像およびグラフである。
【
図10】さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト黒色腫細胞株(SKMEL-02およびSKMEL-28)におけるPARPのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像である。
【
図11a】乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株におけるLDH-Bのタンパク質発現レベルの変化を示す蛍光顕微鏡像である。
【
図11b】乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株の蛍光吸光度を示す蛍光顕微鏡像である。
【
図11c】LDH-Bのタンパク質発現レベルに依存する蛍光発生レベルを示す定量分析グラフである。
【
図12】乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞におけるピルベート濃度の変化を示すグラフである。
【
図13a】乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株におけるPDHのタンパク質発現レベルの変化を示す蛍光顕微鏡像である。
【
図13b】乳酸カルシウムによる処理に依存する、PDHの蛍光発生レベルを示す定量分析グラフである。
【
図14a】標準培地下で乳酸カルシウム処理したがん細胞株におけるα-KG濃度の変化を示す定量分析グラフである。
【
図14b】グルタミン無しの培地下で乳酸カルシウム処理したがん細胞株におけるα-KG濃度の変化を示す定量分析グラフである。
【
図15】
図15(上側)は、酸素正常条件下または低酸素条件下、2.5mM乳酸カルシウムによる処理有りまたは無しで、24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)におけるHIF-1αタンパク質の発現レベルを示すウェスタンブロッティング像であり、
図15の下側は、低酸素条件下、0.5mM、1.5mMおよび2.5mM乳酸カルシウム処理有りで、24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)における、HIF-1αタンパク質の発現レベルを示すウェスタンブロッティング像である。
【
図16a】酸素正常条件下または低酸素条件下、2.5mM乳酸カルシウム有りまたは無しで、24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)におけるVEGFのmRNA発現レベルを測定した結果を示す定量分析グラフである。
【
図16b】酸素正常条件下または低酸素条件下、2.5mM乳酸カルシウム有りまたは無しで、24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)におけるVEGFのタンパク質発現レベルを測定した結果を示す定量分析グラフである。
【
図17】さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト血管内皮細胞(HUVEC)における管形成レベルを示す蛍光像である。HUVECは、乳酸カルシウム濃度が異なる培養がん細胞株の培地を使って培養した。
【
図18】細胞遊走を確認した結果を示す写真である。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する結腸直腸がん細胞株の転移能を示している。
【
図19】細胞遊走を確認した結果を示す写真である。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する乳がん細胞株の転移能を示している。
【
図20】細胞遊走を確認した結果を示す写真である。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する黒色腫細胞株の転移能を示している。
【
図21a】細胞遊走を確認した結果を示す写真である。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する乳がん細胞株(MCF-7)の転移能を示している。
【
図21b】乳酸カルシウムで処理しなかった乳がん細胞株(MCF-7)の生存率を示すフローサイトメトリー分析である。
【
図21c】乳酸カルシウムで処理した乳がん細胞株(MCF-7)の生存率を示すフローサイトメトリー分析である。
【
図21d】細胞遊走を確認した結果を示す写真である。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する乳がん細胞株(MDA-MB231)の転移能を示している。
【
図21e】乳酸カルシウムで処理しなかった乳がん細胞株(MDA-MB231)の生存率を示すフローサイトメトリー分析である。
【
図21f】乳酸カルシウムで処理した乳がん細胞株(MDA-MB231)の生存率を示すフローサイトメトリー分析である。
【
図22】乳酸カルシウム処理による結腸直腸がん幹細胞株のスフィア変化を示す顕微鏡像である。
【
図23】乳酸カルシウム濃度に依存する結腸直腸がん細胞株のコロニー形成能の比較を示す代表的写真および定量分析グラフ(左:HCT-116、中央:HT-29、右:DLD-1)である。
【
図24a】乳酸カルシウム濃度に依存する黒色腫細胞株SKMEL-02のコロニー形成能を比較した結果を示すグラフおよび表である。
【
図24b】乳酸カルシウム濃度に依存する黒色腫細胞株SKMEL-28のコロニー形成能を比較した結果を示すグラフおよび表である。
【
図25a】乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、またはラクテート流出経路であるMCT-4の阻害因子であるケイ皮酸(CA)で個別に処理した結腸直腸がん細胞株の生存率を比較した結果を示す定量分析グラフである。
【
図25b】乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-IS、またはラクテート流出経路であるMCT-4の阻害因子であるCAで併用処理した結腸直腸がん細胞株の生存率を比較した結果を示す定量分析グラフである。
【
図26】超低接着性プレートで培養した結腸直腸がん細胞株の生存率に対する乳酸カルシウムの効果を比較した結果を示す定量分析グラフである。
【
図27】動物モデルを使った乳酸カルシウム処置に関する実験計画の概略図である。
【
図28】乳酸カルシウム処置の方法および乳酸カルシウム処置の有無に依存する、異種移植片動物モデルの腫瘍組織から抽出されるPARPタンパク質の発現レベルの変化を示す写真である。
【
図29】乳酸カルシウムを経口投与した動物モデルの腫瘍組織から抽出されるタンパク質における、乳酸カルシウム処置の有無に依存するHIF-1αまたはGAPDHの発現レベルの変化を示す写真である。
【
図30】2.5mM乳酸カルシウムを経口投与した動物モデルにおける、乳酸カルシウム処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフである。
【
図31】腫瘍周囲の乳酸カルシウム処置の有無に依存する、異種移植片動物モデルの腫瘍組織から抽出されるタンパク質における、HIF-1αまたはGAPDHの発現レベルの変化を示すウェスタンブロットである。
【
図32】腫瘍周囲の2.5mM乳酸カルシウムによる処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフである。
【
図33】腫瘍周囲への2.5mM乳酸カルシウムの注射に依存する、動物モデルの腫瘍形態の変化を示す代表的写真である。
【
図34】肩甲骨間領域周辺に25mM乳酸カルシウムを皮下注射した動物モデルにおける、乳酸カルシウム処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフである。
【
図35】乳酸カルシウム処置に依存する、動物モデルにおける腫瘍形態の変化を示す代表的写真である。
【
図36】動物モデルを使った放射線と乳酸カルシウムとの併用処置に関する実験計画の概略図である。
【
図37a】側腹部にHT-29結腸直腸がん細胞株を埋め込むことによって調製した動物がんモデルにおける、放射線および乳酸カルシウムによる個別処置であるか併用処置であるかに依存する、経時的な腫瘍体積の変化を示すグラフである。
【
図37b】側腹部にHCT-116結腸直腸がん細胞株を埋め込むことによって調製した動物がんモデルにおける、放射線および乳酸カルシウムによる個別処置であるか併用処置であるかに依存する、経時的な腫瘍体積の変化を示すグラフである。
【
図38a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図38b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図39a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図39b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図40a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図40b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図41a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図41b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図42a】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図42b】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図43a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図43b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図44a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMゲフィチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図44b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMゲフィチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図45a】ヒト肝細胞がん細胞株(Hep3B)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMソラフェニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図45b】ヒト肝細胞がん細胞株(Hep3B)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMソラフェニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図46a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMイリノテカンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図46b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMイリノテカンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図47a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMエルロチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図47b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMエルロチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図48a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMスニチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図48b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMスニチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図49a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに5nM、10nM、および20nMメトトレキサートで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図49b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに5nM、10nM、および20nMのメトトレキサートで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図50a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μMカルボプラチンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図50b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μMカルボプラチンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図51a】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.6nM、1.3nM、および2.5nMドセタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図51b】ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.6nM、1.3nM、および2.5nMドセタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図52a】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2μM、4μM、および8μMラパチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図52b】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2μM、4μM、および8μMラパチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図53a】ヒト腎がん細胞株(Caki-1)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.3nM、0.5nM、および1nMエベロリムスで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図53b】ヒト腎がん細胞株(Caki-1)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.3nM、0.5nM、および1nMエベロリムスで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図54a】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図54b】ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【
図55a】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMオキサリプラチンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
【
図55b】ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMオキサリプラチンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
以下の詳細な説明では、本開示の一部を形成する添付の図面を参照する。詳細な説明、図面、および請求項に記載する例示的態様は、限定を意図するものではない。ここに提示する内容の本旨または範囲から逸脱することなく、他の態様を用いることも、他の変更を加えることもできる。
【0017】
本発明者らは、がん細胞の成長および転移を効果的に抑制することによってがんを処置する方法を開発するために、さまざまな研究を行い、がん細胞の代謝経路に注目した。がん細胞では、大量の酸素を使用するミトコンドリア呼吸鎖によるのではなく、酸素を使用しない解糖によって、グルコースからエネルギーが生産される。がんの代謝中はラクテートが大量に生産される。しかしラクテートの酸性度はがん細胞の生存に非能率を招く。したがって過剰なラクテートは細胞外に輸出される。そこで、がん患者に乳酸金属塩を人為的に投与し、がん細胞内にラクテートを蓄積させれば、蓄積したラクテートが、がんの代謝障害を引き起こすか、がんの生存に不利ながん微小環境を発生させることにより、結果的に致命的な損傷を引き起こすことができると仮定した。
【0018】
したがって、がん細胞の代謝を妨害するための物質として、乳酸金属塩を選択した。その理由は、グルコースが解糖によってピルベートに変換されると、次にラクテートが形成されるので、がん細胞中にラクテートを蓄積させることができれば、解糖は減速または停止するだろうと予想したからである。しかしラクテートは体内では容易に分解されるので、がん細胞へと効果的に輸送することができない。そこで、乳酸金属塩を使用すれば、ラクテートが細胞外環境において容易に分解されることはないが、細胞中には容易に導入され、そこでは効果的に分解されうると予想した。
【0019】
一方、本発明者らは、体内で容易には代謝されえない金属構成要素を含む乳酸金属塩を使用した場合、その金属構成要素は、多量に頻回投与される場合がある抗がん薬の特徴ゆえに、副作用を引き起こしうると考えた。そこで本発明者らは、さまざまな乳酸金属塩のなかでも、体内で容易に代謝されえない金属構成要素を含有せず、ラクテートに対する優れた結合力と、がん細胞への優れたラクテート送達効率とを有する、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、および乳酸カルシウムから、乳酸金属塩を選択した。結果として、乳酸カルシウムはラクテートに対する最も高い結合力とがん細胞への最も高いラクテート送達効率とを有することが確認されたので、最終的に乳酸カルシウムを選択した。
【0020】
選択された乳酸カルシウムをがん細胞に投与した結果として、細胞内で、ラクテート、ラクテートの代謝に影響を及ぼすLDH-B(乳酸デヒドロゲナーゼB)、ピルベート、ピルベートの代謝に影響を及ぼすPDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)、およびα-KG(α-ケトグルタレート)のレベルは増加し、細胞内で、がん成長因子であるβ-カテニン、細胞内DNA損傷を抑制するPARP、HIF-1α(低酸素誘導因子1α)、ならびにがん細胞の転移、浸潤および血管新生に影響を及ぼすVEGF(血管内皮成長因子)のレベルは減少し、がん細胞の成長、転移(遊走)および管形成のレベルは減少することが確認された。
【0021】
さらに、動物モデルを使って乳酸カルシウムの抗がん活性を測定したところ、乳酸カルシウムの投与は動物モデルにおけるがん細胞の成長を抑制することが確認された。
【0022】
さらにまた、従来の放射線と併用投与すれば、従来の場合と比較して少ない放射線量で等価な抗がん効果が得られることが確認された。また、さまざまな種類の周知の抗がん薬と組み合わせて関連がん細胞株に投与すれば、単独投与の場合と比較して低い抗がん薬濃度で、より高い抗がん効果が得られることが確認された。
【0023】
そのような抗がん活性を示す乳酸金属塩の大半は、体内で代謝されることができ、副作用はないことが知られている。したがって乳酸金属塩は、安全で優れた抗がん活性を持つ抗がん薬または健康食品の活性成分として使用することができる。これら乳酸金属塩の抗がん効果は、以前は公知でなかったが、本発明者らによって初めて実証された。
【0024】
本開示の例示的一態様は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを処置するための薬学的組成物を提供する。
【0025】
本明細書において使用する「乳酸金属塩」という用語は、金属イオンに結合した乳酸の形態で生産または合成される化合物を指す。
【0026】
本開示において、がん細胞に乳酸金属塩が投与される場合、乳酸金属塩は、がん細胞内でラクテートを解離し、よってがん細胞内のラクテート濃度を増加させるために使用される。本開示によるがんを処置するための薬学的組成物の活性成分として使用される乳酸金属塩は、それらががん細胞の代謝を妨害できる限り、特には限定されない。一例として、細胞外では安定な化合物を形成し、がん細胞内ではラクテートを解離することでがん細胞内のラクテート濃度を増加させる能力を有する、乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、乳酸マグネシウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸鉄(II)、乳酸クロム、乳酸銅、および乳酸マンガンを、個別に、または組み合わせて使用しうる。別の例として、体内で容易に代謝されえない金属構成要素を含有せず、細胞外では安定な化合物を形成し、がん細胞内ではラクテートを解離することでがん細胞内のラクテート濃度を増加させる能力を有する、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、および乳酸カリウムを、個別にまたは組み合わせて使用しうる。さらに別の例として、体内で容易に代謝されえない金属構成要素を含有せず、がん細胞への送達効率が優れていて、細胞外では安定な化合物を形成し、がん細胞内ではラクテートを解離することでがん細胞内のラクテート濃度を増加させる能力を有する乳酸カルシウムを使用しうる。
【0027】
本開示において、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、および乳酸カリウムはすべて乳酸金属塩として合成され、これらの乳酸金属塩は、がん細胞中でラクテートに解離されうることが確認された。さまざまな抗がん活性を実証するために、最も高いラクテート送達効率を有する乳酸カルシウムを、特に使用した。
【0028】
しかしながら、乳酸カルシウムは、本開示において提供する乳酸金属塩の一例にすぎない。本開示において提供する乳酸金属塩は乳酸カルシウムに限定されず、本開示によるがんを処置するための薬学的組成物の活性成分としてさまざまな乳酸金属塩を使用できることは自明である。
【0029】
乳酸金属塩は、従来の抗がん薬と併用投与すると、改良された抗がん活性を示すことができる。これは、従来の抗がん薬に、がん細胞の解糖に関与する機序がないからである。したがって、本開示において提供するがんを処置するための薬学的組成物と併用投与することができる抗がん薬は、それががん細胞の解糖に直接的に関与しない限り、特には限定されない。例えば、周知の抗がん薬であるイマチニブ、5-FU(5-フロロウラシル)、イリノテカン、スニチニブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、ラパチニブ、トラスツズマブ(ハーセプチン)、ゲフィチニブ、エルロチニブ、メトトレキサート、カルボプラチン、ドセタキセル、エベロリムス、およびソラフェニブ、抗がん活性を有することが知られている炭酸脱水酵素阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、ならびにモノカルボン酸輸送体阻害因子であるケイ皮酸(CA)を使用しうる。
【0030】
さらに、乳酸金属塩は、放射線療法において放射線に対する抵抗性をがん細胞に与えるPARP、HIF-1αおよびVEGFの発現を減少させる。したがって、乳酸金属塩の投与を放射線と併用すれば、乳酸金属塩は放射線の抗がん活性を改良する。それゆえに、従来の場合と比較して少ない放射線量で、等価な抗がん効果を得ることが可能である。この場合、放射線量は特には限定されず、1日あたり2~10Gyでありうる。放射線は1日1回照射するか、放射線量を分割して数日にわたって照射することができる。
【0031】
「乳酸カルシウム」という用語は、C6H10O6Ca・5H2Oによって表され、カルシウムイオンがラクテートに結合している、乳酸金属塩の一タイプを指す。乳酸カルシウムは、室温において白色粉末状または白色顆粒状であり、120℃加熱条件で無水となり、5%(w/v)の溶解度を有する。さらに、乳酸カルシウムは優れたバイオアベイラビリティおよび体内吸収性を有し、公知の副作用はないので、主に食品のカルシウム強化剤またはpH調節剤として使用されてきた。
【0032】
本開示では、がんを処置するための薬学的組成物の活性成分である乳酸金属塩の一例として、乳酸カルシウムを使用することができる。ラクテートに結合しているカルシウムは正常細胞よりがん細胞に吸収されやすいので、乳酸カルシウムは、他のタイプの乳酸金属塩よりがん細胞へのラクテート送達の効率が相対的に高いという利点を有する。
【0033】
本開示において提供する薬学的組成物で処置することができるがんは、その成長、浸潤、および転移を、その代謝を妨害することによって抑制することができる限り、特には限定されない。一例として、解糖を妨害することによってその成長、浸潤、および転移を抑制することができる固形がん、例えば肺がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、脳がん、膵がん、甲状腺がん、皮膚がん、骨がん、リンパ腫、子宮がん、子宮頸がん、腎がん、および黒色腫などを挙げることができる。別の例として、乳酸金属塩による処置でその成長、浸潤、および転移を抑制することができる結腸直腸がん、乳がん、および黒色腫を挙げることができる。
【0034】
本開示の例示的一態様によれば、乳酸金属塩を合成するために、さまざまな乳酸金属塩のなかから、体内で有害でありうる金属を含有しない乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、および乳酸カリウムを、それぞれ合成した。次に、結合エネルギーおよびがん細胞へのラクテート送達効率を比較することにより、乳酸カルシウムが、ラクテートに対して最も高い結合力と、がん細胞への最も高いラクテート送達効率とを有することが確認され、最終的に乳酸カルシウムを選択した(
図1)。
【0035】
選択された乳酸カルシウムでがん細胞を処置した場合には、がん細胞中のカルシウム濃度(
図2)およびラクテート濃度(
図3)が増加し、細胞中のpHが低下すること(
図4)が確認された。さらに、がん成長因子であるβ-カテニンの発現は遺伝子解読によって抑制され(
図5)、β-カテニンと活性型β-カテニンの両方ともタンパク質発現は、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて減少すること(
図6)が確認された。さらにまた、乳酸カルシウムは、乳がん細胞株(
図8)、結腸直腸がん細胞株(
図9)、および黒色腫細胞株(
図10)において、細胞内DNA損傷を修復するPARPのタンパク質発現を減少させること;細胞内ラクテートの代謝に影響を及ぼすLDH-B(乳酸デヒドロゲナーゼB)のタンパク質発現を増加させ(
図11a、11b、および11c)、ピルベートレベルを増加させ(
図12)、PDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)のタンパク質発現を増加させ(
図13aおよび
図13b)、α-KG(α-ケトグルタル酸)レベルを増加させること(
図14aおよび
図14b);HIF-1α(低酸素誘導因子1α)のタンパク質発現(
図15)ならびにがん細胞の転移、浸潤、および血管新生に影響を及ぼすVEGF(血管内皮成長因子)のタンパク質発現(
図16aおよび
図16b)を抑制し、HUVECの管形成レベルを抑制すること(
図17); 結腸直腸がん細胞株(
図18)、乳がん細胞株(
図19)および黒色腫細胞株(
図20)の細胞遊走を抑制すること;乳がん細胞株(
図21a、21b、21c、21d、および21e)および結腸直腸がん細胞株(
図22)の細胞アポトーシス率を増加させること; 結腸直腸がん細胞株(
図23)および黒色腫細胞株(
図24aおよび
図24b)のコロニー形成能を阻害すること;そして、従来の抗がん薬と併用投与した場合に抗がん効率を増加させること(
図25aおよび
図25b)が確認された。
【0036】
さらに、動物モデルを使って乳酸カルシウムの抗がん活性を試験した結果として、結腸直腸がん細胞株の播種によって調製されたマウス動物モデルでは、PARP分解活性が増加し(
図28)、HIF-1αおよびVEGFの発現が抑制され(
図29および
図31)、腫瘍の成長が抑制され(
図30、32、および34)、腫瘍体積が減少し、血管新生も減少すること(
図33および
図35)が確認された。一方、乳酸カルシウムを放射線と併用投与した結果として、腫瘍の成長は、より効果的に減少することが確認された(
図37aおよび
図37b)。
【0037】
さらにまた、乳酸カルシウムを、さまざまながんの処置のために使用されるさまざまな抗がん薬と併用投与した場合には、抗がん薬を単独投与した場合と比較して、腫瘍の成長は、より効果的に抑制されることが確認された(
図38a、38b~55a、および55b)。
【0038】
本開示の薬学的組成物は、がんを処置するための薬学的組成物の形態で調製することができ、薬学的組成物の調製に一般に使用される適切な担体、賦形剤、または希釈剤を、さらに含みうる。具体的に述べると、薬学的組成物は、伝統的な方法に従って、例えば散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エアロゾル剤、口腔内貼付剤などの経口剤形、外用のための外用調製物、貼付剤、坐剤、または滅菌注射用溶液剤の形態に製剤化しうる。本開示では、薬学的組成物に含めてもよい担体、賦形剤および希釈剤として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アラビアゴム、アルギナート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、無定形セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油を挙げることができる。組成物の製剤化は、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などといった希釈剤または賦形剤の使用を伴いうる。経口投与用の固形製剤としては、錠剤、デポー剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、口腔内貼付剤などを挙げることができる。固形製剤は、少なくとも一つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、またはゼラチンなどを、その抽出物および画分と混合することによって調製することができる。そのような一般的賦形剤に加えて、ステアリン酸マグネシウムまたはタルクなどの潤滑剤も使用しうる。経口投与用の液状製剤としては、懸濁剤、内服用溶液剤、乳剤、シロップ剤などを挙げることができる。水および流動パラフィンなどの一般的希釈剤に加えて、湿潤剤、香料、芳香剤、保存剤などといったさまざまな賦形剤を含めることができる。非経口投与用の製剤としては、滅菌水性溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥調製物、外用貼付剤、または坐剤を挙げることができる。非水性溶液剤および懸濁剤は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射可能エステルを含みうる。坐剤の基剤は、ウイテプゾール、マクロゴール、tween 61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを含みうる。
【0039】
本開示の薬学的組成物に含まれる乳酸金属塩の量は、最終組成物の総重量に基づいて、0.0001重量%~50重量%、より好ましくは0.01重量%~20重量%であることができるが、特にそれらに限定されるわけではない。薬学的組成物の1回量に含まれる乳酸金属塩の濃度は2.5mM~25mMであることができる。
【0040】
本開示の薬学的組成物は薬学的有効量で投与することができ、本明細書において使用する「薬学的有効量」という用語は、任意の医学的処置または医学的防止に適用することができる妥当なベネフィット/リスク比で疾患を処置または防止するのに十分な量を指す。有効投薬量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康状態および性別、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、および本開示の組成物の排泄率、処置の継続時間、本開示の組成物と同時使用または併用される薬物、および医学分野において公知の他の因子に依存して決定されうる。本開示の薬学的組成物は、単独投与するか、抗がん活性を有することが知られている他の公知の抗がん薬または構成要素と併用投与することができる。上記の因子をすべて考慮して、副作用を引き起こさずに最大の効果を発揮しうる最少量で組成物を投与することが重要である。
【0041】
当業者は、使用目的、疾患の重症度、患者の年齢、体重、性別、および既往症、活性成分として使用する物質の種類などを考慮して、本開示の薬学的組成物の投薬量を決定することができる。本開示の薬学的組成物は、例えば成人1人あたり約0.1ng~約1,000mg/kg、好ましくは成人1人あたり1ng~約100mg/kgの投薬量で投与することができ、本開示の組成物の投与頻度は、1日1回の投与または1日数回の分割投与とすることができるが、特にそれらに限定されるわけではない。投薬量または投与頻度が本開示の範囲を限定することは決してない。
【0042】
本開示の別の例示的態様は、がんを有する対象に薬学的有効量の薬学的組成物を投与する工程を含む、がんの処置方法を提供する。
【0043】
本明細書において使用する「対象」という用語は、がんを有する、マウス、家畜、およびヒトを含むすべての哺乳動物、ならびに養殖魚を包含するが、それらに限定されるわけではない。
【0044】
本明細書において使用する「処置」という用語は、がんを有する対象に、活性成分として乳酸金属塩を含む本開示の薬学的組成物を投与することによって、がんの症状を緩和または改善するためのあらゆる活動を指す。
【0045】
本開示のがん処置方法において、処置されるがんの種類は上述のとおりである。
【0046】
前記組成物は単一の剤形または複数の剤形で投与することができる。この場合、組成物は、液剤、散剤、エアロゾル剤、注射剤、輸液(点滴静注剤)、カプセル剤、丸剤、錠剤、坐剤、または貼付剤に製剤化することができる。
【0047】
本開示の、がんを処置するための薬学的組成物は、標的組織に到達できる限り、一般的な経路のいずれで投与してもよい。
【0048】
本開示の薬学的組成物は、目的に応じて、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経皮貼付剤の形態で投与、経口投与、鼻腔内投与、肺内投与、または直腸内投与することができる。経口投与の場合は、製剤化されていない形態で薬学的組成物を投与してもよいが、経口投与時に乳酸金属塩は胃酸によって変性を起こしうるので、経口投与用組成物の活性成分は、胃での分解から保護するためにコーティングまたは製剤化するか、口腔内投与用の貼付剤の形態で口腔内に投与すべきである。加えて、標的細胞中に活性成分を輸送することができる一定の装置を使って組成物を投与してもよい。
【0049】
本開示のさらに別の例示的態様は、活性成分として乳酸金属塩と抗がん薬とを含む、がんを処置するための薬学的組成物を提供する。
【0050】
上述のように、本開示において提供する乳酸金属塩は、従来の抗がん薬と併用投与すれば、改良された抗がん活性を示すことができる。これは、従来の抗がん薬に、がん細胞の解糖に関与する機序がないからである。したがって、本開示において提供する乳酸金属塩と公知の抗がん薬の活性成分とを含む抗がん薬は、がんを処置するために、より効果的に使用することができる。
【0051】
本明細書において、乳酸金属塩、公知の抗がん薬、がんを処置するための薬学的組成物を適用することができるがん、投薬量、投与方法などは、上述のとおりである。
【0052】
本開示のさらに別の例示的態様は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がん転移を抑制するための薬学的組成物を提供する。
【0053】
本開示において提供する乳酸金属塩は、転移、浸潤、がん細胞の血管新生、管形成、細胞遊走、コロニー形成能などといった、がん細胞の転移を誘発しうるさまざまな特徴を
抑制することができるので、がん転移を抑制するための薬学的組成物の活性成分として使用することができる。
【0054】
本明細書において、転移抑制の標的となるがんは、上述のとおりである。例えば、がん転移を抑制するための薬学的組成物は、転移性の肺がん、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、脳がん、膵がん、甲状腺がん、皮膚がん、骨がん、リンパ腫、子宮がん、子宮頸がん、腎がん、および黒色腫からなる群より選択される1種または複数主の転移がんの発生を抑制するために使用することができる。
【0055】
本開示の例示的一態様によれば、本開示において提供する乳酸金属塩の一種である乳酸カルシウムでさまざまながん細胞を処理したところ、がん細胞の転移、浸潤、および血管新生に影響を及ぼすHIF-1α(低酸素誘導因子1α)(
図15)およびVEGF(血管内皮成長因子)(
図16)のタンパク質発現、ならびにHUVECの管形成レベル(
図17)が抑制されること; 結腸直腸がん細胞株(
図18)、乳がん細胞株(
図19)および黒色腫細胞株(
図20)の細胞遊走が抑制されること;乳がん細胞株(
図21)および結腸直腸がん細胞株(
図22)の細胞アポトーシス率が増加すること;そして結腸直腸がん細胞株(
図23)および黒色腫細胞株(
図24)のコロニー形成能が阻害されることが確認された。
【0056】
本開示のさらに別の例示的態様は、活性成分として乳酸金属塩を含む、がんを改善するための食品組成物を提供する。
【0057】
乳酸金属塩はインビボでの代謝に一般に使用されており、乳酸カルシウムには副作用がないと証明されており、公定食品添加物として使用されてきた。したがって、毎日食することができ、がんの改善を促進することができる食品の形態で、乳酸金属塩を摂取することができる。本明細書において、食品に含まれる乳酸金属塩の量は、食品組成物の総重量に基づいて0.001重量%~10重量%または0.1重量%~1重量%でありうるが、それらに特に限定されるわけではない。食品が飲料である場合は、100mlあたり1g~10gまたは2g~7gの比で乳酸金属塩を含めることができる。
【0058】
さらに、前記組成物は、匂い、味、外観などを改良するために食品組成物に典型的に使用されてきた追加構成要素、例えばビタミンA、C、D、E、B1、B2、B6、B12、ナイアシン、ビオチン、葉酸、パントテン酸なども含みうる。さらにまた、組成物は、例えばZn、Fe、Ca、Cr、Mg、Mn、Cuなどのミネラルも含みうる。さらにまた、組成物は、例えばリジン、トリプトファン、システイン、バリンなどのアミノ酸も含みうる。加えて、組成物は、保存剤(ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、消毒薬(さらし粉、高度さらし粉、次亜塩素酸ナトリウムなど)、酸化防止剤(ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)など)、着色剤(タール色素など)、発色剤(亜硝酸ナトリウムなど)、漂白剤(亜硫酸ナトリウム)、調味料(グルタミン酸一ナトリウム(MSG)など)、甘味料(ズルチン、シクラメート、サッカリン、ナトリウムなど)、香料(バニリン、ラクトンなど)、膨潤剤(ミョウバン、D-酒石酸水素カリウムなど)、強化剤、乳化剤、増粘剤(糊材)、薄膜形成剤、ガムベース剤、消泡剤、溶剤、向上剤などの食品添加物も含みうる。食品添加物は、食品の種類に応じて選択して、適切な量で使用することができる。
【0059】
一方、乳酸金属塩を含む、がんを改善するための食品組成物を使って、がんを改善するための機能性食品を製造することもできる。
【0060】
具体的に述べると、前記食品組成物を使って、がんを改善することができる加工食品を製造することができる。加工食品の例は、クッキー、飲料、アルコール飲料、発酵食品、缶詰食品、乳加工食品、肉加工食品、または麺類の形態にある機能性食品として製造することができる。本明細書において、クッキーの例には、ビスケット、パイ、ケーキ、パン、キャンディー、ジェリー、ガム、シリアル(穀物フレークなどの代用食)が含まれる。飲料の例には、飲料水、炭酸清涼飲料、機能性アイソトニック飲料、ジュース(例えばリンゴジュース、ナシジュース、ブドウジュース、アロエジュース、タンジェリンジュース、モモジュース、ニンジンジュース、トマトジュースなど)、甘酒などが含まれる。アルコール飲料の例には、清酒、ウイスキー、ソジュ(朝鮮の蒸留酒)、ビール、リキュール、果実酒などが含まれる。発酵食品の例には、醤油、味噌、コチュジャンなどが含まれる。缶詰食品の例には、海産物の缶詰食品(例えばマグロ、サバ、サンマ、巻き貝などの缶詰)、畜産物の缶詰食品(牛肉、豚肉、鶏、シチメンチョウなどの缶詰)、および農産物の缶詰食品(トウモロコシ、モモ、パイナップルなどの缶詰)が含まれる。乳加工食品の例には、チーズ、バター、ヨーグルトなどが含まれる。肉加工食品の例には、ポークカツレツ、ビーフカツレツ、チキンカツレツ、ソーセージ、酢豚、ナゲット、ノビアニなどが含まれる。麺類の例には、乾麺、素麺、ラーメン、うどん、朝鮮冷麺、密封包装生麺などが含まれる。その他、レトルト食品、スープなどを製造するために前記組成物を使用してもよい。
【0061】
本明細書において使用する「機能性食品」という用語は、「特定保健用食品(FoSHU)」という用語と同じ意味を有し、栄養を与えると共に身体調整機能を効率よく発揮するように加工された、医薬的処置および医学的処置に高い効果を有する食品を指す。機能性食品は、がんの改善にとって有用な効果が得られるように、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、丸剤などを含むさまざまな形態で製造することができる。
【0062】
以下に、下記実施例を参照して、本開示をさらに詳しく説明する。ただし、これらの実施例には例示の目的しかなく、本開示の範囲を限定しようとするものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1:乳酸金属塩の調製
乳酸金属塩(乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、または乳酸カリウム)溶液が得られるように、それぞれ炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、または炭酸カリウムを、ラクテートと反応させた。粉末状の乳酸金属塩(乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、または乳酸カリウム)を得るために、前記の溶液のそれぞれを濾過し、乾燥し、粉砕した。次に、得られた乳酸金属塩(乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、または乳酸カリウム)の構造および結合エネルギーを分析した(
図1)。
【0064】
図1に、乳酸カルシウム、ならびにそれぞれ乳酸カルシウムと類似する分子構造を有する乳酸ナトリウムおよび乳酸カリウムの構造および結合エネルギーを、相互に比較した模式図および表を示す。
図1からわかるように、乳酸カルシウムは、乳酸ナトリウムおよび乳酸カリウムと比較して、相対的に高い結合エネルギーを有することが確認された。
【0065】
以下では、相対的に高い結合エネルギーを有する乳酸カルシウムを使った実験を行った。
【0066】
実施例2:腫瘍微小環境に対する乳酸カルシウムの効果
乳酸カルシウムによるがん細胞の処理後に、乳酸カルシウムの流入レベルを予測するために、細胞におけるカルシウム濃度の変化、ラクテート濃度の変化、およびpHの変化を分析した。
【0067】
実施例2-1:カルシウムレベルの変化
がん細胞培養培地(10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)中、37℃、5%CO
2で培養した、細胞数5×10
5個のヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)のそれぞれを、2.5mM乳酸カルシウムで処理した後、24時間培養した。培養がん細胞を10μM Fluo-3/AMカルシウム指示薬および25%Pluronic F-127で処理し、37℃で30分反応させて、蛍光プローブとともに適用し、次に共焦点顕微鏡で写真撮影した(
図2)。ここでは、乳酸カルシウムで処理していないがん細胞を対照群として使用した。
【0068】
図2に、乳酸カルシウム(CaLa)による処理の有無に依存する、がん細胞中のカルシウムレベルを比較した結果を示す蛍光顕微鏡像を掲載する。
図2からわかるように、乳酸カルシウムで処理したがん細胞ではカルシウム濃度が増加することが確認された。
【0069】
実施例2-2:ラクテートレベルの変化
実施例2-1で培養した細胞を、3mM(低)または11mM(通常)のグルコースを含む培地で、再び培養した。培養細胞を超音波処理によって破砕した。破砕された細胞に含まれるラクテートの濃度を、ラクテートアッセイキット(AbCam、マサチューセッツ州ケンブリッジ)を使って測定した(
図3)。ここでは、乳酸カルシウムで処理していないがん細胞を対照群として使用した。
【0070】
図3は、乳酸カルシウム(CaLa)による処理の有無に依存する、がん細胞中のラクテートレベルを比較した結果を示すグラフである。
図3からわかるように、培地に含まれるグルコースの濃度にかかわらず、乳酸カルシウムで処理したがん細胞ではラクテートの濃度が増加し、高濃度のグルコースを含む培地で細胞を培養した場合には、それがより顕著であることが確認された。
【0071】
実施例2-3:がん細胞の内部および外部のpHの変化
図2および
図3に示した結果から、がん細胞を乳酸カルシウムで処理すると、乳酸カルシウムががん細胞に流入することが確認された。次に、がん細胞の内部および外部のpHが乳酸カルシウムによって変化するかどうかを調べた。
【0072】
具体的に述べると、実施例2-1において培養した細胞を使って、乳酸カルシウムで処理した細胞について細胞外pHを培地からpH計で測定し、次に培養し、pH検出キット(Life Technologies、カリフォルニア州)を使って、乳酸カルシウムで処理してから培養した細胞から、細胞内pHを測定した(
図4)。ここでは、乳酸カルシウムで処理していないがん細胞を対照群として使用した。
【0073】
図4に、乳酸カルシウムで処理したがん細胞の細胞内pHおよび細胞外pHの変化を示すグラフを掲載する。左側のグラフはがん細胞の細胞外pHの変化を示し、右側のグラフはがん細胞の細胞内pHの変化を示している。
図4からわかるように、細胞を乳酸カルシウムで処理すると、細胞外pHは変化しないが、細胞内pHは酸性状態へと低下することが確認された。
図4の左側のグラフからわかるように、乳酸カルシウムそのものはがん細胞外のpHを変化させなかったが、がん細胞に乳酸カルシウムが流入するとpHは低下し、そのために、がん細胞の細胞内環境は、乳酸カルシウムの流入によって変化した。
【0074】
実施例3:がん成長因子の発現に対する乳酸カルシウムの効果
実施例2の結果から、乳酸カルシウムによってがん細胞の細胞内環境を変化させうることが確認された。そこで、そのような変化ががん細胞の成長に変化を引き起こすかどうかを調べるために、乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん成長因子の一つであるβ-カテニンの発現レベルを、結腸直腸がんまたは乳がん細胞株において、遺伝子発現レベルおよびタンパク質発現レベルで調べた。
【0075】
実施例3-1:結腸直腸がん細胞株におけるβ-カテニンの発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)を、それらを0mM、1.5mM、または2.5mM乳酸カルシウムで処理した点以外は実施例2-1と同じ方法で培養して、培養がん細胞を得た。次に、乳酸カルシウム濃度に依存するβ-カテニンの発現レベルを、そこに含まれるmRNAおよびタンパク質の発現レベルで比較した。
【0076】
最初に、mRNA発現レベルを比較するために、がん細胞のそれぞれから、RNeasyミニキットを使って全RNAを抽出し、逆転写酵素を使ってcDNAを合成した。合成されたcDNAをテンプレートとし、下記のプライマーを使用する逆転写PCRによって、β-カテニンの遺伝子を得た。
β-カテニンF: 5'-AAAATGGCAGTGCGTTTAG-3'(SEQ ID NO:1)
β-カテニンR: 5'-TTTGAAGGCAGTCTGTCGTA-3'(SEQ ID NO:2)
アクチンF: 5'-AAC-TGGAACGGTGAAGGT-3'(SEQ ID NO:3)
アクチンR: 5'-CCTGTAACAACGCATCTCAT-3'(SEQ ID NO:4)
【0077】
図5の上側に、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのmRNA発現レベルを比較した結果を示す電気泳動像を掲載する。また、
図5の下側には、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図5の上側からわかるように、β-カテニンのmRNA発現レベルには、乳酸カルシウム濃度に依存する相違はなかった。
【0078】
次に、タンパク質発現レベルを比較するために、がん細胞のそれぞれを破砕して、電気泳動を行った。次に、抗β-カテニン抗体を一次抗体とし、抗ウサギIgGコンジュゲートを二次抗体として、ウェスタンブロットを行い(
図5の下側)、そのブロットをImage-Jプログラムで分析した。ここでは、アクチンを内部対照群として使用した。
【0079】
図5の上側に、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのmRNA発現レベルを比較した結果を示す電気泳動像を掲載する。また、
図5の下側には、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)におけるβ-カテニンのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図5の下側からわかるように、β-カテニンのmRNA発現レベルとは異なり、β-カテニンのタンパク質発現レベルは、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて減少することが確認された。
【0080】
したがって、がん細胞に流入する乳酸カルシウムは、がん細胞の細胞内環境を変化させること、そしてそれにより、がん成長因子であるβ-カテニンの発現は遺伝子解読レベルで抑制されることが確認された。
【0081】
実施例3-2:乳がん細胞株におけるβ-カテニンの発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例3-1と同じ方法を使用し、がん細胞培養培地(10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)中、37℃、5%CO
2で培養したヒト乳がん細胞株(MCF-7)、および別のがん細胞培養培地(10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM培地)中、37℃、5%CO
2で培養したヒト乳がん細胞株(MDA-MB-231)を使って、乳酸カルシウム濃度に依存するβ-カテニンおよび活性型β-カテニンの発現レベルを、タンパク質発現レベルで比較した(
図6)。
【0082】
図6に、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)における総β-カテニンおよび活性型β-カテニンのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図6からわかるように、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて、β-カテニンと活性型β-カテニンの両方ともタンパク質発現レベルは減少することが確認された。
【0083】
実施例4:がんエネルギー収支(energetics)に対する乳酸カルシウムの効果
実施例2により、がん細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、がん細胞株内の乳酸カルシウム濃度は増加することが確認された。次に、増加したラクテートがラクテート合成を変化させるかどうかを調べた。
【0084】
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)を酸素正常条件下または低酸素条件下で培養した。低酸素条件下で培養した細胞株を乳酸カルシウムで処理し、次に、培養細胞株のそれぞれにおけるGLUT1およびHK2の発現レベルを、mRNA発現レベルおよびタンパク質発現レベルで比較した(
図7)。
【0085】
図7は、低酸素条件下のがん細胞株における乳酸カルシウムの効果を示すリアルタイムPCRおよびウェスタンブロットである。グラフは、解糖の初期に関与するグルコース輸送体(GLUT)-1およびヘキソキナーゼ(HK)2のmRNA発現レベルを示し、ウェスタンブロッティング像は、HK2のタンパク質発現レベルを示している。
図7からわかるように、低酸素条件下では、解糖の初期に作用するGLUT1およびHK2の発現レベルが増加し、その結果、解糖は活性化されるが、細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、その活性化は低減することが確認された。
【0086】
実施例5:乳酸カルシウムが引き起こすがん遺伝子の安定化の分析
乳酸カルシウムによる処理が、損傷した遺伝子を修復する塩基除去経路の一部としてDNAの完全性に重要な役割を果たすポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)の発現レベルの変化を引き起こすかどうかを調べた。
【0087】
実施例5-1:乳がん細胞株におけるPARPの発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
ヒト乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)を、それらを0mM、2.5mM、または5.0mM乳酸カルシウムで処理した点以外は実施例2-1と同じ方法で培養して、培養がん細胞を得た。次に、乳酸カルシウム濃度に依存する発現レベルの変化を、そこに含まれるPARPのタンパク質発現レベルで分析した(
図8)。この場合、発現レベルの変化は、抗PARP抗体を一次抗体とし、抗ウサギIgGコンジュゲートを二次抗体として、ウェスタンブロットにより、Image-Jプログラムを使って分析し、GAPDHを内部対照群として使用した。
【0088】
図8に、ヒト乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)中で発現するPARPおよび切断型PARPのタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図8からわかるように、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて、乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)のそれぞれにおけるPARPのタンパク質発現レベルは減少することが確認された。一方、MCF-7細胞株では、切断型PARPのタンパク質発現レベルが増加している。したがって、乳酸カルシウムはがん細胞における解糖を停止させるだけでなく、解糖を停止させることによってがん細胞のアポトーシスも誘発し、よって抗がん薬として使用できることが確認された。
【0089】
実施例5-2:結腸直腸がん細胞株におけるPARPの発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、5mM乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、もしくはラクテートの経路であるMCT-4の阻害因子であるケイ皮酸(CA)で個別に24時間処理した後、またはそれらを組み合わせて24時間処理した後に、結腸直腸がん細胞株において発現したPARPのタンパク質発現レベルを比較した(
図9)。ここでは、非処理がん細胞株を対照群として使用した。
【0090】
図9に、乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、またはラクテート流出経路であるMCT-4の阻害因子であるケイ皮酸(CA)で個別に処理するか、それらを組み合わせて処理した結腸直腸がん細胞株におけるPARPのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像およびグラフを掲載する。
図9からわかるように、上述した物質のそれぞれによる単独処理の場合、PARPのタンパク質発現レベルは、ヒト結腸直腸がん細胞株を乳酸カルシウムで単独処理した場合にのみ減少することが確認された。しかし、乳酸カルシウムによる処理を行わずにヒト結腸直腸がん細胞株を2つの阻害因子の組み合わせで処理した場合には、PARPのタンパク質発現レベルが減少し、結腸直腸がん細胞株を各阻害因子と乳酸カルシウムとの組み合わせで処理した場合には、PARPのタンパク質発現レベルがさらに減少し、そしてヒト結腸直腸がん細胞株を3つすべての物質の組み合わせで処理した場合には、PARPは細胞中に検出されないことが確認された。
【0091】
実施例5-3:黒色腫細胞株におけるPARPの発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
がん細胞培養培地(10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)中、37℃、5%CO
2で培養したヒト黒色腫細胞株(SKMEL-02およびSKMEL-28)のそれぞれを、0mM、0.5mM、1.0mM、2.5mM、5.0mM、または10mMの乳酸カルシウムで12時間処理した。次に、黒色腫細胞株において発現したPARPのタンパク質発現レベルを比較した(
図10)。
【0092】
図10に、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト黒色腫細胞株(SKMEL-02およびSKMEL-28)におけるPARPのタンパク質発現レベルを比較した結果を示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図10からわかるように、黒色腫細胞株におけるPARPのタンパク質発現レベルも、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて減少することが確認された。
【0093】
実施例6:がん細胞におけるラクテート関連代謝に対する乳酸カルシウムの効果
図2および
図4に示す結果から、がん細胞に乳酸カルシウムが流入すると、細胞中のラクテート濃度が増加し、それによって解糖によるエネルギー供給が正常には行われなくなる可能性があることが確認された。
【0094】
次に、乳酸カルシウムによる処理が引き起こす細胞内代謝に対するラクテートの効果を調べた。
【0095】
実施例6-1:LDH-B(乳酸デヒドロゲナーゼB)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
ラクテートをピルベートに変換する酵素であるLDH-B(乳酸デヒドロゲナーゼB)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0096】
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)を2.5mM乳酸カルシウムで処理し、24時間培養した。それらの培養がん細胞株を4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗ウサギLDHB抗体で15時間処理した。次に、がん細胞株をPBSで洗浄し、ビオチンとコンジュゲートされた二次抗体で処理してから、室温で2時間反応させた。次に、蛍光染色を行うために、FITCとコンジュゲートされたストレプトアビジンでがん細胞株を処理してから、蛍光顕微鏡で写真撮影した(
図11a~11c)。ここでは、酸素正常条件下(N-対照)または低酸素条件下(H-対照)で培養したがん細胞株を対照群として使用し、DAPIを使って各細胞の核を染色した。さらに、Xenogen In Vivo Imaging System 100シリーズおよび生体イメージングソフトウェア(Xenogen)を使って、写真を分析した。
【0097】
図11aに、乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株におけるLDH-Bのタンパク質発現レベルの変化を示す蛍光顕微鏡像を掲載する。
図11bに、乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株の蛍光吸光度を示す蛍光顕微鏡像を掲載する。
図11cに、LDH-Bのタンパク質発現レベルに依存する蛍光発生レベルを示す定量分析グラフを掲載する。
図11a~11cからわかるように、乳酸カルシウムで処理した細胞におけるLDH-Bのタンパク質発現レベルは明確に増加することが確認された。
【0098】
実施例6-2:ピルベートレベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例6-1の結果から、乳酸カルシウムで処理することにより、がん細胞におけるLDH-Bのタンパク質発現レベルは増加することが確認された。次に、LDH-Bによって生産されるピルベートの細胞内発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0099】
細胞数5×10
5個のヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)のそれぞれを、2.5mM乳酸カルシウムで24時間処理し、細胞を超音波処理によって破砕し、濾液を得るために10kDaフィルターで濾過した。得られた濾液をピルベートアッセイキット(Abcam、マサチューセッツ州ケンブリッジ)に適用して、濾液に含まれるピルベートの濃度を測定した(
図12)。
【0100】
図12は、乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞におけるピルベート濃度の変化を示すグラフである。
図12からわかるように、乳酸カルシウムで処理した細胞におけるピルベートレベルは明確に増加することが確認された。
【0101】
実施例6-3:PDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例6-2の結果から、乳酸カルシウムで処理すると、がん細胞中のピルベートレベルは増加することが確認された。次に、ピルベートをTCA回路に転用するための酵素であるPDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0102】
抗ウサギLDHB抗体の代わりに抗ウサギPDH抗体を使用した点以外は実施例6-1と同じ方法を行った後、乳酸カルシウムで処理したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)におけるPDHのタンパク質発現レベルを測定した(
図13)。
【0103】
図13aに、乳酸カルシウムによる処理に依存する、がん細胞株におけるPDHのタンパク質発現レベルの変化を示す蛍光顕微鏡像を掲載する。
図13bに、乳酸カルシウムによる処理に依存する、PDHの蛍光発生レベルを示す定量分析グラフを掲載する。
図13aおよび
図13bからわかるように、乳酸カルシウムで処理した細胞におけるPDHのタンパク質発現レベルは明確に増加することが確認された。
【0104】
実施例6-4:α-KG(α-ケトグルタレート)レベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例6-3の結果から、乳酸カルシウムで処理することにより、がん細胞におけるPDHのタンパク質発現レベルは増加することが確認された。次に、PDHによって活性化されたTCA回路が生産するα-KG(α-ケトグルタレート)の細胞内レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。α-KGは培地中のグルタミンによって合成されうる。そこで、ここでは、標準培地で培養したがん細胞株またはグルタミン無しの培地で培養したがん細胞株を使用した。
【0105】
標準培地またはグルタミン無しの培地で培養した細胞数5×10
5個のがん細胞株を、2.5mM乳酸カルシウムで24時間処理し、細胞を超音波処理によって破砕し、濾液を得るために10kDaフィルターで濾過した。得られた濾液をα-ケトグルタレートアッセイキット(BioVision、ペンシルベニア州エクストン)に適用して、濾液に含まれるα-KGの濃度を測定した(
図14aおよび
図14b)。
【0106】
図14aに、標準培地での、乳酸カルシウム処理によるがん細胞株におけるα-KG濃度の変化を示す定量分析グラフを掲載する。
図14bに、グルタミン無しの培地での、乳酸カルシウム処理によるがん細胞株におけるα-KG濃度の変化を示す定量分析グラフを掲載する。
図14aおよび
図14bからわかるように、標準培地またはグルタミン無しの培地で培養したがん細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、細胞中のα-KGレベルは明確に増加することが確認された。
【0107】
実施例6-1~6-4の結果を概説すると、乳酸カルシウムで処理したがん細胞では、ラクテートをピルベートに変換するためのLDH-Bのレベル、LDH-Bによって生産されるピルベートのレベル、ピルベートをTCA回路に転用するためのPDH(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)のレベル、およびPDHによって活性化されたTCA回路が生産するα-KGのレベルは増加することがわかる。
【0108】
実施例7:がん細胞の転移、浸潤、および血管新生因子の発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例6の結果から、乳酸カルシウムで処理したがん細胞では、α-KGレベルが増加することが確認された。次に、がん細胞の転移、浸潤、および血管新生に影響を及ぼし、タンパク質発現レベルがα-KGによって調節される、因子について、その発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0109】
実施例7-1:HIF-1α(低酸素誘導因子1α)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
がん細胞転移因子として知られるHIF-1α(低酸素誘導因子1α)のタンパク質発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0110】
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)を、酸素正常条件下または低酸素条件下で、2.5mM乳酸カルシウムによる処理を行って、またはそのような処理を行わずに、24時間培養した。次に、抗HIF-1α抗体を用いるウェスタンブロットを、培養がん細胞株のそれぞれに対して行った(
図15の上側)。
【0111】
図15の上側に、酸素正常条件下または低酸素条件下の、2.5mM乳酸カルシウム処理有りまたは無しで、24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)において発現したHIF-1αのタンパク質発現レベルを示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図15の上側からわかるように、HIF-1αは低酸素条件下では発現するが、がん細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、HIF-1αは低酸素条件下でさえ発現しないことが確認された。
【0112】
次に、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)を、低酸素条件下、さまざまな濃度(0.5mM、1.5mMおよび2.5mM)の乳酸カルシウムで処理し、培養して、がん細胞の核におけるHIF-1αの発現レベルの変化を測定した(
図15の下側)。
【0113】
図15の下側に、低酸素条件下、0.5mM、1.5mMおよび2.5mMの乳酸カルシウムで処理して、24時間培養した、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)において発現したHIF-1αのタンパク質発現レベルを示すウェスタンブロッティング像を掲載する。
図15の下側からわかるように、乳酸カルシウムはHIF-1αの発現レベルを濃度依存的に抑制することが確認された。
【0114】
実施例7-2:VEGF(血管内皮成長因子)の発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果
実施例7-1の結果から、乳酸カルシウムはHIF-1αの発現レベルを濃度依存的に抑制することが確認された。次に、その発現がHIF-1αによって調節されるがん細胞浸潤因子として知られているVEGF(血管内皮成長因子)の発現レベルに対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0115】
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)を、低酸素条件下、2.5mM乳酸カルシウムで処理し、24時間培養した。次に、培養がん細胞株のそれぞれにおけるVEGFのmRNA発現レベルおよびタンパク質発現レベルを分析した(
図16aおよび
図16b)。ここでは、乳酸カルシウムで処理せずに酸素正常条件下または低酸素条件下で培養したヒト結腸直腸がん細胞株を、対照群として使用した。
【0116】
図16aに、2.5mM乳酸カルシウムで処理して、またはそのような処理を行わずに、酸素正常条件下または低酸素条件下で24時間培養したヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116およびHT-29)において発現したVEGFのmRNA発現レベルおよびタンパク質発現レベル(
図16b)の測定結果を示すグラフを掲載する。
図16aおよび
図16bからわかるように、低酸素条件下でVEGFレベルは明確に増加するが、がん細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、VEGFレベルの増加は減少することが確認された。
【0117】
実施例7-3:ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の管形成を引き起こすがん細胞由来因子に対する乳酸カルシウムの効果
血管新生に対する乳酸カルシウムの効果を確認するために、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の管形成を誘発することができる、がん細胞から分泌される因子に対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0118】
1%FBSを添加したRPMI-1640培地で培養したがん細胞株を、0.5mM、1mM、1.5mM、および2.5mMの乳酸カルシウムで24時間処理し、そこから培養上清を得た。得られた培養上清のそれぞれにヒト血管内皮細胞(HUVEC)を接種し、培養して、細胞の形態変化を分析した(
図17)。ここでは、乳酸カルシウムで処理せずに培養したがん細胞株の培養培地を使って培養したHUVECを対照群として使用し、HUVECの成長阻害因子であるスルフォラファンで処理して培養したHUVECを比較群として使用した。
【0119】
図17は、さまざまな濃度の乳酸カルシウムで処理したヒト血管内皮細胞(HUVEC)における管形成レベルを示す蛍光像である。異なる濃度の乳酸カルシウムを含む培養がん細胞株の培地を使ってHUVECを培養した。
図17からわかるように、優れた管形成能を示す対照群と比較して、乳酸カルシウムで処理したがん細胞株の培養上清を使って培養したHUVECは、乳酸カルシウム濃度が増加するにつれて、低減した管形成能を示し、2.5mM乳酸カルシウムで処理したがん細胞株の培養上清中で培養したHUVECは、スルフォラファンで処理した比較群と同様の低減した管形成能を示すことが確認された。HUVECの血管新生は、がん細胞から分泌される因子によって誘発されるので、乳酸カルシウムは、血管新生を誘発する因子を濃度依存的に阻害する活性を有することが確認された。
【0120】
実施例7-1~7-3の結果を概説すると、乳酸カルシウムは、がん細胞転移因子として知られるHIF-1αおよびがん細胞浸潤因子として知られるVEGFの発現を阻害する効果を有し、血管新生を低減する効果も有することがわかる。
【0121】
実施例8:がん細胞株の転移および浸潤に対する乳酸カルシウムの効果
実施例7の結果から、乳酸カルシウムは、がん細胞転移因子として知られるHIF-1αおよびがん細胞浸潤因子として知られるVEGFの発現を阻害する効果を有し、血管新生を誘発する因子の活性を阻害する効果も有することが確認された。次に、がん細胞の転移および浸潤に対する乳酸カルシウムの実際の効果を、がん細胞の遊走を分析することによって調べた。
【0122】
実施例8-1:結腸直腸がん細胞株の転移および浸潤に対する乳酸カルシウムの効果
細胞数4×10
5個の結腸直腸がん細胞株HCT-116を、厚さ500μmのibidiカルチャーインサートが中央に置かれている培養容器に接種し、2.5mM乳酸カルシウムで処理した後、24時間培養した。次に、インサートを取り出し、インサートが取り除かれた部位へのがん細胞の遊走を、JuLi Brライブセルアナライザー(NanoEnTek Inc.、韓国)を使って分析するために、さらに12時間培養した(
図18)。ここでは、乳酸カルシウムで処理せずに培養した結腸直腸がん細胞株を対照群として使用した。
【0123】
図18に、細胞遊走を確認した結果を示す写真を掲載する。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する結腸直腸がん細胞株の転移能を示している。
図18からわかるように、乳酸カルシウムで処理した結腸直腸がん細胞株では細胞遊走が減少したのに対し、乳酸カルシウムで処理されていない結腸直腸がん細胞株では、細胞遊走が維持されることが確認された。
【0124】
実施例8-2:乳がん細胞株の転移および浸潤に対する乳酸カルシウムの効果
実施例8-1と同じ方法を使用し、結腸直腸がん細胞株の代わりに乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB231)を使って、乳がん細胞株の遊走に対する乳酸カルシウムの効果を調べた(
図19)。
【0125】
図19に、細胞遊走を確認した結果を示す写真を掲載する。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する乳がん細胞株の転移能を示している。
図19からわかるように、乳酸カルシウムで処理されていない対照群の乳がん細胞株と比較して、乳酸カルシウムで処理した乳がん細胞株は、相対的に低い転移レベルを示すことが確認された。
【0126】
実施例8-3:黒色腫細胞株の転移および浸潤に対する乳酸カルシウムの効果
実施例8-1と同じ方法を使用し、結腸直腸がん細胞株の代わりに黒色腫細胞株(SKMEL-02およびSKMEL-28)を使うと共に、インサートの除去を行った後、さらに24時間培養して、黒色腫細胞株の遊走に対する乳酸カルシウムの効果を調べた(
図20)。
【0127】
図20に、細胞遊走を確認した結果を示す写真を掲載する。これは、乳酸カルシウム処理の有無に依存する黒色腫細胞株の転移能を示している。
図20からわかるように、乳酸カルシウムで処理されていない対照群と比較して、乳酸カルシウムで処理した黒色腫細胞株は相対的に低い転移レベルを示すことが確認された。
【0128】
実施例8-1~8-3の結果を概説すると、乳酸カルシウムは、結腸直腸がん、乳がん、および黒色腫細胞などのがん細胞の転移をいずれも阻害できることがわかる。
【0129】
実施例9:がん細胞株の生存度に対する乳酸カルシウムの効果
乳がん細胞株、結腸直腸がん細胞株、および黒色腫細胞株の生存度に対する乳酸カルシウムの効果を調べた。
【0130】
実施例9-1:乳がん細胞株の生存度に対する乳酸カルシウムの効果
乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB231)を、2.5mM乳酸カルシウムによる処理有りまたは無しで、24時間培養した。乳がん細胞株のそれぞれを、5μlのFITCアネキシンVおよび5μlのPIで処理し、室温で15分反応させてから、FACS Calibur(BD Bioscience、米国)を使ってフローサイトメトリー分析を行うことで、その染色を評価し、よってがん細胞アポトーシス率を測定した(
図21a~21f)。
【0131】
図21aおよび
図21dに、細胞遊走を確認した結果を示す写真を掲載する。これらはそれぞれ、MCF-7細胞株およびMDA-MB231細胞株について、乳酸カルシウム処理の有無に依存する乳がん細胞株の転移能を示している。
図21b、21c、21e、および21fに、生存率の変化を示すフローサイトメトリー分析の結果を掲載する。
図21bおよび
図21cからわかるように、MCF-7細胞株は、乳酸カルシウム処理前は9.63%の細胞アポトーシス率を示すが、乳酸カルシウム処理後は33.8%の細胞アポトーシス率を示すことが、そしてMDA-MB231細胞株(
図21eおよび
図21f)は、乳酸カルシウム処理前は10.17%の細胞アポトーシス率を示すが、乳酸カルシウム処理後は13.05%の細胞アポトーシス率を示すことが確認された。
【0132】
したがって、乳がん細胞株を乳酸カルシウムで処理すると、細胞アポトーシス率は増加することがわかる。
【0133】
実施例9-2:結腸直腸がん幹細胞株の形態変化に対する乳酸カルシウムの効果
ヒト結腸直腸がん幹細胞株を幹細胞培養培地(1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよび50倍のB27を含み、1:1で混合されたDMEM培地とF12培地とを含む培地)に接種し、37℃、5%CO
2で培養した。培養結腸直腸がん幹細胞株を乳酸カルシウムで処理した後、幹細胞によって形成されるスフィアの形態変化があるかどうかを調べた(
図22)。ここでは、乳酸カルシウムの代わりにDMSOで処理したがん細胞を、対照群として使用した。
【0134】
図22に、スフィアを構成する結腸直腸がん幹細胞株の乳酸カルシウム処理に依存する、スフィアの形態変化を示す顕微鏡像を掲載する。
図22からわかるように、乳酸カルシウムで処理しなかった対照群ではスフィアは維持されるが、乳酸カルシウムによる処理後は、スフィアの形態が破壊されることが確認され、それによって、結腸直腸がん幹細胞の生存度の低減が確認された。
【0135】
実施例9-3:がん細胞株のコロニー形成能に対する乳酸カルシウムの効果
まず、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)を、さまざまな濃度(0mM、0.5mM、1.5mM、または2.5mM)の乳酸カルシウムを含む固形培地に接種し、10日間培養した。培養の完了後に、細胞を固定し、ヘマトキシリンで染色した。次に、コロニーを形成したがん細胞の数をカウントした(
図23)。
【0136】
図23に、乳酸カルシウム処理に依存する結腸直腸がん細胞株のコロニー形成能を比較した結果を示す写真およびグラフ(左:HCT-116、中央:HT-29、右:DLD-1)を掲載する。
図23からわかるように、乳酸カルシウムで処理されていない結腸直腸がん細胞株はすべて260~360個のコロニーを形成したが、コロニーの数は乳酸カルシウムの濃度が増加するにつれて減少し、結腸直腸がん細胞株を2.5mM乳酸カルシウムで処理すると、100~120個のコロニーしか形成されないことが確認された。
【0137】
次に、上記と同じ方法を使って、ヒト黒色腫細胞株(SKMEL-02およびSKMEL-28)を、さまざまな濃度(1mM、2.5mM、または5mM)の乳酸カルシウムを含む固形培地に接種し、培養を行い、コロニーを形成したがん細胞の数をカウントした(
図24aおよび
図24b)。
【0138】
図24aおよび
図24bに、乳酸カルシウムによる処理に依存する黒色腫細胞株のコロニー形成能を比較した結果を示すグラフおよび表を掲載する。
図24aおよび
図24bからわかるように、乳酸カルシウムで処理されていないヒト黒色腫細胞株は105~168個のコロニーを形成するが、コロニーの数は乳酸カルシウムの濃度が増加するにつれて減少し、SKMEL-28細胞株を5mM乳酸カルシウムで処理した場合にはコロニーは形成されず、SKMEL-02細胞株を5mM乳酸カルシウムで処理した場合には約49個のコロニーが形成されることが確認された。
【0139】
結果を概説すると、乳酸カルシウムは結腸直腸がん細胞株および黒色腫細胞株のコロニー形成能を阻害する効果を有することがわかる。
【0140】
実施例9-4:がん細胞株の生存度に対する、乳酸カルシウムと抗がん活性を有する物質との併用の効果
5mM乳酸カルシウムまたは抗がん活性を有することが知られている物質(1mM IS(5-インダンスルホンアミド)または5mM CA(ケイ皮酸))を個別にまたは組み合わせて含む半薬物アガロース系プレートを調製した。次に、調製したプレートのそれぞれにヒト結腸直腸がん細胞株HCT-116を接種し、10日間培養した。次に、細胞の生存率を比較した
(
図25aおよび25b)。
【0141】
図25aおよび
図25bに、乳酸カルシウム、炭酸脱水酵素の阻害因子である5-インダンスルホンアミド(IS)、またはラクテート流出経路であるMCT-4の阻害因子であるケイ皮酸(CA)で個別処理または併用処理した結腸直腸がん細胞株の生存率を比較した結果を示すグラフを掲載する。
図25aおよび
図25bからわかるように、乳酸カルシウムまたは抗がん活性を有することが知られている物質(ISまたはCA)で個別処理された結腸直腸がん細胞株の生存率は約60%まで減少し、ISもしくはCAまたはその両方と組み合わせた乳酸カルシウムで処理した結腸直腸がん細胞株の生存率はさらに、約10%~30%まで減少することが確認された。
【0142】
実施例9-5:細胞接着性が減少したがん細胞株の生存度に対する乳酸カルシウムの効果
ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116、HT-29、およびDLD-1)を低接着性の6ウェルプレートに接種した後、さまざまな濃度(0mM、1.5mM、または2.5mM)の乳酸カルシウムで処理しつつ培養した。次に細胞の生存率を比較した(
図26)。
【0143】
図26に、接着性が低い培養容器中で培養した結腸直腸がん細胞株の生存率に対する乳酸カルシウムの効果を比較した結果を示すグラフを掲載する。
図26からわかるように、接着性が低い培養培地で培養した結腸直腸がん細胞株を乳酸カルシウムで処理しなければ、細胞アポトーシス率は極めて低いが(約5%)、それらを乳酸カルシウムで処理すると、細胞アポトーシス率は明確に増加する(約90%)ことが確認された。
【0144】
実施例9-1~9-5の結果を概説すると、乳酸カルシウムは、結腸直腸がんおよび黒色腫細胞などといったがん細胞の生存率をいずれも減少させうることがわかる。
【0145】
実施例10:動物モデルを使った乳酸カルシウムの効果の検証
実施例10-1:動物モデルを使った実験群の設定
RPMI1640培地中で培養してからPBSで希釈した結腸直腸がん細胞(HT-29)をBalb/cマウスの側腹部に皮下埋植した。結腸直腸がんが約5mmに成長するまでマウスを飼育した。次に、4つの群、すなわち、乳酸カルシウムによる処置が30日間は行われない対照群、経口投与によって2.5mM乳酸カルシウムを投与する実験群1(経口、P.O.)、腫瘍周囲に2.5mM乳酸カルシウムを注射する実験群2(腫瘍内、I.T.)、および25mM乳酸カルシウムを皮下注射する実験群3(皮下、S.C.)を設定した(
図27)。
【0146】
図27は、動物モデルを使った乳酸カルシウム処置に関する実験計画の概略図である。
【0147】
実施例10-2:PARPの発現レベルの変化
実施例10-1において設定した対照群、実験群1、または実験群2のマウスから結腸直腸がん組織を摘出し、そこで発現している、がん細胞の安定化に寄与するPARPおよび切断型PARPの発現レベルを比較した(
図28)。
【0148】
図28は、乳酸カルシウム処置の方法および乳酸カルシウム処置の有無に依存する、異種移植片動物モデルの腫瘍組織から抽出されるPARPタンパク質の発現レベルの変化を示す写真である。
図28からわかるように、さまざまな方法で乳酸カルシウム処置した実験群では、乳酸カルシウムで処置されていない対照群と比較して、PARP分解活性が増加していることが確認された。
【0149】
実施例10-3:経口投与によって乳酸カルシウムを投与した動物モデルにおけるHIF-1αおよびVEGFの発現レベルの変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群1のマウスから結腸直腸がん組織を摘出し、そこで発現している、腫瘍の転移、浸潤、および血管新生に関与するHIF-1αおよびVEGFの発現レベルを比較した(
図29)。ここではGAPDHを内部対照群として使用した。
【0150】
図29に、乳酸カルシウムを経口投与した動物モデルの腫瘍組織から抽出されたタンパク質中の、乳酸カルシウム処置の有無に依存するHIF-1αまたはGAPDHの発現レベルの変化を示す写真を掲載する。
図29からわかるように、乳酸カルシウムで処置した実験群1では、乳酸カルシウムで処置されていない対照群と比較して、HIF-1αおよびVEGFの発現は阻害されることが確認された。
【0151】
実施例10-4:経口投与によって乳酸カルシウムを投与した動物モデルにおける腫瘍サイズの変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群1のマウスから摘出された結腸直腸がん組織の体積を経時的に測定し、互いに比較した(
図30)。
【0152】
図30は、2.5mM乳酸カルシウムを経口投与した動物モデルにおける、乳酸カルシウム処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフである。
図30からわかるように、乳酸カルシウムで処置されていない対照群の最終腫瘍体積は約1200mm
3×10
3であるのに対し、乳酸カルシウムで処置した実験群1のそれは約480mm
3×10
3である。したがって、乳酸カルシウムには腫瘍の成長を阻害する効果があることがわかる。
【0153】
実施例10-5:乳酸カルシウムを注射した動物モデルにおけるHIF-1αおよびVEGFの発現レベルの変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群2のマウスから結腸直腸がん組織を摘出し、そこでの、腫瘍の転移、浸潤、および血管新生に関与するHIF-1αおよびVEGFの発現レベルを比較した(
図31)。ここではGAPDHを内部対照群として使用した。
【0154】
図31に、腫瘍周囲の乳酸カルシウム処置の有無に依存する、異種移植片動物モデルの腫瘍組織から抽出されたタンパク質におけるHIF-1αまたはGAPDHの発現レベルの変化を示すウェスタンブロットを掲載する。
図31からわかるように、乳酸カルシウムで処置した実験群2では、乳酸カルシウムで処置されていない対照群と比較して、HIF-1αおよびVEGFの発現は阻害されることが確認された。
【0155】
実施例10-6:乳酸カルシウムを注射した動物モデルにおける腫瘍サイズの変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群2のマウスから摘出された結腸直腸がん組織の体積を経時的に測定し、互いに比較した(
図32)。
【0156】
図32に、腫瘍周囲の2.5mM乳酸カルシウム処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフを掲載する。
図32からわかるように、カルシウムで処置されていない対照群の最終腫瘍体積は約1200mm
3×10
3であるのに対し、乳酸カルシウムで処置した実験群2のそれは約490mm
3×10
3であることが確認された。したがって、乳酸カルシウムには腫瘍の成長を阻害する効果があることがわかる。
【0157】
実施例10-7:乳酸カルシウムによる処置に依存する、動物モデルの腫瘍形態の変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群2のマウスの腫瘍形態を互いに比較した(
図33)。
【0158】
図33に、腫瘍周囲への2.5mM乳酸カルシウムの注射に依存する、動物モデルの腫瘍形態の変化を示す写真を掲載する。
図33からわかるように、乳酸カルシウムで処置されていない対照群から写真撮影された腫瘍は、サイズが大きく、その表面では血管新生が増加しているのに対し、実験群から写真撮影された腫瘍は、サイズが小さくなり、血管新生が減少していることが確認された。
【0159】
実施例10-8:乳酸カルシウムを皮下注射した動物モデルにおける腫瘍サイズの変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群3のマウスから摘出した結腸直腸がん組織の体積を経時的に測定し、互いに比較した(
図34)。
【0160】
図34は、25mM乳酸カルシウムを項部周囲に皮下注射した動物モデルにおける、乳酸カルシウム処置の有無に依存する腫瘍体積の変化を示すグラフである。
図34からわかるように、乳酸カルシウムで処置されていない対照群の最終腫瘍体積は約2300mm
3であるのに対し、乳酸カルシウムで処置された実験群3のそれは約80mm
3であることが確認された。したがって、25mM乳酸カルシウムには腫瘍の成長を阻害する効果があることがわかる。
【0161】
実施例10-9:乳酸カルシウムによる処置に依存する、動物モデルの腫瘍形態の変化
実施例10-1において設定した対照群または実験群3のマウスの腫瘍形態を互いに比較した(
図35)。
【0162】
図35に、25mM乳酸カルシウムによる処置に依存する、動物モデルにおける腫瘍形態の変化を示す写真を掲載する。
図35からわかるように、25mM乳酸カルシウムで処置されていない対照群から写真撮影された腫瘍はサイズが大きく、その表面では血管新生が増加しているのに対し、実験群3から写真撮影された腫瘍は、サイズが著しく小さくなり、血管新生も減少していることが確認された。したがって、実施例10-1~10-9の結果を概説すると、濃度が2.5mM~25mMの乳酸カルシウムは動物モデルにおいて優れた抗がん活性を示した。
【0163】
実施例11:乳酸カルシウムの投与と組み合わせた放射線による結腸直腸がん処置の効果
実施例10-2、10-3、および10-5では、乳酸カルシウムで処置することによってPARP、HIF-1αおよびVEGFの発現は減少することが確認された。ここで、これらの因子は放射線に対する抵抗性を与える。したがって、乳酸カルシウムによってこれらの因子が減少するなら、放射線の効率を向上させることができることになる。それを検証した。
【0164】
実施例11-1:動物モデルを使った実験群の設定
結腸直腸がん細胞(HT-29またはHCT-116)をマウスの側腹部に皮下埋植した。結腸直腸がん細胞が約5mmに成長するまでマウスを飼育した。次に、4つの群、すなわち、乳酸カルシウムによる処置が30日間は行われない対照群、2.5mM乳酸カルシウムを注射する実験群11(腫瘍内、I.T.)、2.0mmアルミニウムフィルターを装着したX-RAD 320 X線照射装置(300kVp)を使って2Gyの放射線を5回照射する実験群12(IR)、および2Gyの放射線を5回照射すると同時に2.5mM乳酸カルシウムを注射する実験群13(CaLa+IR)を設定した(
図36)。
【0165】
図36は、動物モデルを使った放射線および乳酸カルシウムによる併用処置に関する実験計画の概略図である。
【0166】
実施例11-2:放射線と乳酸カルシウムとの併用で処置した動物モデルにおける腫瘍サイズの変化
実施例11-1において設定した対照群または実験群のそれぞれのマウスから摘出した結腸直腸がん組織の体積を経時的に測定し、互いに比較した(
図37aおよび
図37b)。
【0167】
図37aには、側腹部にHT-29結腸直腸がん細胞株を埋め込むことによって調製した動物がんモデルにおける、放射線および乳酸カルシウムによる個別処置または併用処置の有無に依存する、経時的な腫瘍体積の変化を示すグラフを掲載し、
図37bには、側腹部にHCT-116結腸直腸がん細胞株を埋め込むことによって調製した動物がんモデルにおける、放射線および乳酸カルシウムによる個別処置または併用処置の有無に依存する、経時的な腫瘍体積の変化を示すグラフを掲載する。
【0168】
図37aおよび
図37bからわかるように、放射線および乳酸カルシウムで個別にまたは放射線と乳酸カルシウムとを併用して処置された実験群では、放射線でも乳酸カルシウムでも処置されなかった対照群と比較して、埋め込んだ結腸直腸がん細胞株のタイプとはかかわりなく、腫瘍の成長が阻害され、特に放射線と乳酸カルシウムとを併用して処置した実験群13では、腫瘍の成長が最も低いレベルまで阻害されることが確認された。
【0169】
この結果から、乳酸カルシウムによる処置は、放射線に対する抵抗性を与える因子の発現を阻害できることが立証され、この結果は、乳酸カルシウムによる処理を放射線と併用すると、放射線量を減らしてもなお、抗がん処置の効率が改良されうると分析された。したがって、乳酸カルシウムはがんの処置のために単独でも使用できるが、乳酸カルシウムを放射線の照射と組み合わせて投与すれば、強化された抗がん処置の効果を得ることができることがわかる。
【0170】
実施例12:周知の抗がん薬と乳酸カルシウムとの併用処理
実施例9-4により、乳酸カルシウムと抗がん活性を示す物質との併用処理は、乳酸カルシウム単独または当該物質単独による処理と比較して、がん細胞の生存度を減少させることが確認された。この結果に基づき、さまざまながん細胞株に対する周知の抗がん薬と乳酸カルシウムとの併用の効果を検証した。
【0171】
実施例12-1:イマチニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29およびHCT-116)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理するか、さまざまな濃度(1μM、2.5μM、および5μM)のイマチニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29およびHCT-116)を対照群として使用した(
図38a、
図38b、
図39a、および
図39b)。
【0172】
図38aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図38bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1F、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
【0173】
図39aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図39bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMイマチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図38a、
図38b、
図39a、および
図39bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(1μM、2.5μM、および5μM)のイマチニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、イマチニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、イマチニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0174】
実施例12-2:5-FU(5-フルオロウラシル)と乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3細胞のヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29およびHCT-116)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理するか、さまざまな濃度(2.5μM、5μM、および10μM)の5-FUと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29およびHCT-116)を対照群として使用した(
図40a、
図40b、
図41a、および
図41b)。
【0175】
図40aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで、単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図40bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図41aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで、単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図41bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HCT-116)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μM 5-FUで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図40a、
図40b、
図41a、および
図41bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(2.5μM、5μM、および10μM)の5-FUで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、5-FUと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、5-FUで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0176】
実施例12-3:パクリタキセルと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト乳がん細胞株(MCF-7)およびヒト肺がん細胞株(A549)を、各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理するか、さまざまな濃度(0.63nM、1.3nM、および2.5nM)のパクリタキセルと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト乳がん細胞株(MCF-7)およびヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図42a、
図42b、
図43aおよび
図43b)。
【0177】
図42aは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図42bは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図42aおよび
図42bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.63nM、1.3nM、および2.5nM)のパクリタキセルで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、パクリタキセルと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、パクリタキセルで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0178】
図43aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図43bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.63nM、1.3nM、および2.5nMパクリタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図43aおよび
図43bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.63nM、1.3nM、および2.5nM)のパクリタキセルで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、パクリタキセルと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、パクリタキセルで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0179】
実施例12-4:ゲフィチニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肺がん細胞株(A549)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは1.3μM、2.5μM、および5μMゲフィチニブで単独処理するか、さまざまな濃度(1.3μM、2.5μM、および5μM)のゲフィチニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図44aおよび
図44b)。
【0180】
図44aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMゲフィチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図44bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMゲフィチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図44aおよび
図44bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(1.3μM、2.5μM、および5μM)のゲフィチニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、ゲフィチニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、ゲフィチニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0181】
実施例12-5:ソラフェニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肝がん細胞株(Hep3B)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは1μM、2.5μM、および5μMソラフェニブで単独処理するか、さまざまな濃度(1μM、2.5μM、および5μM)のソラフェニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肝細胞がん細胞株(Hep3B)を対照群として使用した(
図45aおよび
図45b)。
【0182】
図45aは、ヒト肝細胞がん細胞株(Hep3B)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMソラフェニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図45bは、ヒト肝細胞がん細胞株(Hep3B)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1μM、2.5μM、および5μMソラフェニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図45aおよび
図45bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(1μM、2.5μM、および5μM)のソラフェニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、ソラフェニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、ソラフェニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0183】
実施例12-6:イリノテカンと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.5μM、1μM、および2μMイリノテカンで単独処理するか、さまざまな濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のイリノテカンと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を対照群として使用した(
図46aおよび
図46b)。
【0184】
図46aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMイリノテカンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図46bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMイリノテカンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図46aおよび
図46bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のイリノテカンで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、イリノテカンと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、イリノテカンで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0185】
実施例12-7:エルロチニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肺がん細胞株(A549)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.5μM、1μM、および2μMエルロチニブで単独処理するか、さまざまな濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のエルロチニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図47aおよび
図47b)。
【0186】
図47aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMエルロチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図47bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMエルロチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図47aおよび
図47bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のエルロチニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、エルロチニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、エルロチニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0187】
実施例12-8:スニチニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.5μM、1μM、および2μMスニチニブで単独処理するか、さまざまな濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のスニチニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を対照群として使用した(
図48aおよび
図48b)。
【0188】
図48aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMスニチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図48bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.5μM、1μM、および2μMスニチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図48aおよび
図48bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.5μM、1μM、および2μM)のスニチニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、スニチニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、スニチニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0189】
実施例12-9:メトトレキサートと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肺がん細胞株(A549)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは5nM、10nM、および20nMメトトレキサートで単独処理するか、さまざまな濃度(5nM、10nM、および20nM)のメトトレキサートと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図49aおよび
図49b)。
【0190】
図49aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに5nM、10nM、および20nMメトトレキサートで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図49bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を2.5mM乳酸カルシウムならびに5nM、10nM、および20nMメトトレキサートで、単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図49aおよび
図49bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(5nM、10nM、および20nM)のメトトレキサートで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、メトトレキサートと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、メトトレキサートで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0191】
実施例12-10:カルボプラチンと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肺がん細胞株(A549)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは2.5μM、5μM、および10μMカルボプラチンで単独処理するか、さまざまな濃度(2.5μM、5μM、および10μM)のカルボプラチンと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図50aおよび
図50b)。
【0192】
図50aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μMカルボプラチンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図50bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2.5μM、5μM、および10μMカルボプラチンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図50aおよび
図50bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(2.5μM、5μM、および10μM)のカルボプラチンで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、カルボプラチンと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、カルボプラチンで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0193】
実施例12-11:ドセタキセルと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト肺がん細胞株(A549)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.6nM、1.3nM、および2.5nMドセタキセルで単独処理するか、さまざまな濃度(0.6nM、1.3nM、および2.5nM)のドセタキセルと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト肺がん細胞株(A549)を対照群として使用した(
図51aおよび
図51b)。
【0194】
図51aは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.6nM、1.3nM、および2.5nMドセタキセルで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図51bは、ヒト肺がん細胞株(A549)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.6nM、1.3nM、および2.5nMドセタキセルで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図51aおよび
図51bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.6nM、1.3nM、および2.5nM)のドセタキセルで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、ドセタキセルと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、ドセタキセルで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0195】
実施例12-12:ラパチニブと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト乳がん細胞株(MCF-7)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは2μM、4μM、および8μMラパチニブで単独処理するか、さまざまな濃度(2μM、4μM、および8μM)のラパチニブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト乳がん細胞株(MCF-7)を対照群として使用した(
図52aおよび
図52b)。
【0196】
図52aは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2μM、4μM、および8μMラパチニブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図52bは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに2μM、4μM、および8μMラパチニブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図52aおよび
図52bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(2μM、4μM、および8μM)のラパチニブで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、ラパチニブと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、ラパチニブで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0197】
実施例12-13:エベロリムスと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト腎がん細胞株(Caki-1)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を0.3nM、0.5nM、および1nMエベロリムスで単独処理するか、さまざまな濃度(0.3nM、0.5nM、および1nM)のエベロリムスと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト腎がん細胞株(Caki-1)を対照群として使用した(
図53aおよび
図53b)。
【0198】
図53aは、ヒト腎がん細胞株(Caki-1)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.3nM、0.5nM、および1nMエベロリムスで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図53bは、ヒト腎がん細胞株(Caki-1)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.3nM、0.5nM、および1nMエベロリムスで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図53aおよび
図53bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(0.3nM、0.5nM、および1nM)のエベロリムスで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、エベロリムスと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、エベロリムスで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。
【0199】
実施例12-14:トラスツズマブ(ハーセプチン)と乳酸カルシウムとの併用処理
抗がん薬トラスツズマブに対して抵抗性を示す細胞数1×10
3個のヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、各6ウェルプレート中のRPMI1640培地(1%ウシ胎児血清+500ng/μl上皮成長因子を含む)に播種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブで単独処理するか、さまざまな濃度(0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/ml)のトラスツズマブと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト乳がん細胞株(MCF-7)を対照群として使用した(
図54aおよび
図54b)。
【0200】
図54aは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図54bは、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図54aおよび
図54bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群では、対照群と比較して、コロニー形成能が減少するが、低濃度(0.23μg/ml, 0.45μg/ml、および1.8μg/ml)のトラスツズマブで単独処理した群では、対照群との間にコロニー形成能の相違はほとんどないことが確認された。しかし、0.23μg/ml、0.45μg/ml、および1.8μg/mlトラスツズマブと乳酸カルシウムとで併用処理した群は、抗がん効果を示さなかったトラスツズマブ単独処理群と比較して、低いレベルへと抑制されたコロニー形成能を示すことが確認された。
【0201】
実施例12-15:オキサリプラチンと乳酸カルシウムとの併用処理
細胞数1×10
3個のヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を各6ウェルプレート中のRPMI1640培地に接種した。1日後に、培地を新鮮培地で置き換え、細胞を2.5mM乳酸カルシウムまたは1.3μM、2.5μM、および5μMオキサリプラチンで単独処理するか、さまざまな濃度(1.3μM、2.5μM、および5μM)のオキサリプラチンと2.5mM乳酸カルシウムとで併用処理した。次に、細胞のコロニー形成能を比較した。ここでは、どの薬物でも処理されていないヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を対照群として使用した(
図55)。
【0202】
図55aは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMオキサリプラチンで単独処理または併用処理した場合の、コロニーの数の減少を比較した結果を示している。
図55bは、ヒト結腸直腸がん細胞株(HT-29)を、2.5mM乳酸カルシウムならびに1.3μM、2.5μM、および5μMオキサリプラチンで単独処理または併用処理した場合の、個々のコロニーの形成の抑制を比較した結果を示している。
図55aおよび
図55bからわかるように、乳酸カルシウムで単独処理した群および低濃度(1.3μM、2.5μM、および5μM)のオキサリプラチンで単独処理した群では、対照群と比較して、がん細胞のコロニー形成能が抑制され、オキサリプラチンと乳酸カルシウムとで併用処理した群では、オキサリプラチンで単独処理した群と比較して、コロニー形成能がさらに抑制されることが確認された。この結果は、乳酸カルシウムと周知の抗がん薬とで併用処理すると、抗がん剤の量を減らしてもなお、抗がん処置の効率は改善されうることを含意すると分析された。
【0203】
したがって、がん細胞を乳酸金属塩で単独処理した場合でも抗がん活性を認めることはできるものの、がん細胞を乳酸金属塩と周知の抗がん薬とで併用処理すると、強化された抗がん活性を認めることができる。さらに、トラスツズマブの結果からは、周知の抗がん薬に対するがん細胞の感受性を、さらに増加させうることがわかる。
【配列表】