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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 127
B41J2/01 501
B41J2/01 401
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018045441
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019155726
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140491(JP,A)
【文献】特開2016-065137(JP,A)
【文献】特開2006-159417(JP,A)
【文献】特開2016-175297(JP,A)
【文献】特開2017-043004(JP,A)
【文献】特開2018-065307(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135425(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0315453(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0256176(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に対してカラーインクを用いて印刷を行う印刷装置であって、
前記カラーインクを前記媒体に付着させる前に前記媒体に付着させる液体である前処理剤を吐出するインクジェットヘッドである前処理剤用ヘッドと、
前記カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであるカラーインク用ヘッドと、
エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記前処理剤は、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱する液体であり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記前処理剤用ヘッドが前記前処理剤を吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させ、
前記エネルギー線は、紫外線であり、
前記前処理剤は、前記エネルギー線を吸収して発熱することで前記前処理剤を発熱させる紫外線吸収剤と、前記カラーインクの成分を凝集させる物質とを含むことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記媒体は、前記前処理剤を吸収する吸収性の媒体であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記カラーインクは、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱するインクであり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記カラーインク用ヘッドが前記カラーインクを吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記カラーインクの溶媒の少なくとも一部を蒸発させることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記媒体に付着した前記カラーインクへ前記エネルギー線を照射する場合、前記エネルギー線照射部は、前記カラーインクの溶媒が沸騰しないように、前記カラーインクへ前記エネルギー線を照射することを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記カラーインクは、固体の色材を含むインクであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記媒体は、前記前処理剤を吸収する吸収性の媒体であり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体に付着した前記前処理剤に前記エネルギー線を照射することにより、少なくとも、前記媒体に対して前記カラーインクを吐出した後に前記媒体にカール及びコックリングが生じなくなる状態にまで、前記前処理剤を乾燥させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記エネルギー線照射部は、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記前処理剤用ヘッドが前記前処理剤を吐出した後、前記カラーインク用ヘッドが前記カラーインクを吐出する前に前記エネルギー線を照射して、前記前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項8】
前記媒体に付着した前記前処理剤へ前記エネルギー線を照射する場合、前記エネルギー線照射部は、前記前処理剤の溶媒が沸騰しないように、前記前処理剤へ前記エネルギー線を照射することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項9】
媒体に対してカラーインクを用いて印刷を行う印刷方法であって、
前記カラーインクを前記媒体に付着させる前に前記媒体に付着させる液体である前処理剤を吐出するインクジェットヘッドである前処理剤用ヘッドと、
前記カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであるカラーインク用ヘッドと、
エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を用い、
前記前処理剤は、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱する液体であり、
前記エネルギー線照射部により、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記前処理剤用ヘッドが前記前処理剤を吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させ、
前記エネルギー線は、紫外線であり、
前記前処理剤は、前記エネルギー線を吸収して発熱することで前記前処理剤を発熱させる紫外線吸収剤と、前記カラーインクの成分を凝集させる物質とを含むことを特徴とする印刷方法。
【請求項10】
媒体に対してカラーインクを用いて印刷を行う印刷装置であって、
前記カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであるカラーインク用ヘッドと、
前記カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体である凝集用液体を吐出する凝集用液体用ヘッドと、
エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を備え、
前記凝集用液体は、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱する液体であり、
前記カラーインクは、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱するインクであり、
前記エネルギー線照射部は、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記凝集用液体用ヘッドが前記凝集用液体を吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記凝集用液体及び前記カラーインクの両方について、溶媒の少なくとも一部を蒸発させることを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
媒体に対してカラーインクを用いて印刷を行う印刷方法であって、
前記カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであるカラーインク用ヘッドと、
前記カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体である凝集用液体を吐出する凝集用液体用ヘッドと、
エネルギー線を照射するエネルギー線照射部と
を用い、
前記凝集用液体は、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱する液体であり、
前記カラーインクは、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱するインクであり、
前記エネルギー線照射部により、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記凝集用液体用ヘッドが前記凝集用液体を吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記凝集用液体及び前記カラーインクの両方について、溶媒の少なくとも一部を蒸発させることを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタ用のインクとして、溶媒を蒸発させることで媒体(メディア)に定着する蒸発乾燥型のインクが広く用いられている。また、近年、蒸発型のインクとして、紫外線等のエネルギー線の照射によりインク自体が発熱するインク(瞬間乾燥型のインク)が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/135425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の構成において、例えばヒータ等で媒体を加熱することでインクを乾燥させる場合、インクは、媒体を介して間接的に加熱されることになる。これに対し、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、インク自体を発熱させることで、周囲への加熱の影響等を抑えつつ、インクを直接的に加熱することが可能になる。また、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、媒体への着弾の直後に媒体上のインクへエネルギー線を照射することで、インクの滲み(色間滲み等)が発生する前に、短時間で効率的にインクを乾燥させることができる。
【0005】
しかし、瞬間乾燥型のインクを用いる構成は、提案されてから間もない技術であるため、様々な特徴について更に検討を行うことが望まれている。また、このような検討に基づき、高い品質の印刷をより適切に行うことが望まれている。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明者は、瞬間乾燥型のインクを用いる構成に関し、鋭意研究を行った。そして、この鋭意研究において、瞬間乾燥型のインクを用いる場合において、一般にコーヒーステイン現象と呼ばれている現象が生じやすくなる場合があることを見出した。この場合、コーヒーステイン現象とは、例えば、媒体上のインクにおいてインクの色材(顔料等)が周縁部に偏る現象のことである。また、この場合、色材の偏りにより、インクのドット(プリントドット)により形成される画素は、例えば、中心部の色が薄く、かつ周縁部の色が濃いドーナツ形状になる。また、その結果、例えば、印刷の成果物であるプリント物において、色の薄い部分が生じることや、着色される色の平均濃度が減少すること等が考えられる。また、これらの影響により、画質の劣化が生じることが考えられる。
【0007】
これに対し、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、コーヒーステイン現象が生じやすくなる理由について、乾燥時のインクの温度と関係していることを見出した。より具体的に、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、紫外線等のエネルギー線を照射することで、インクを発熱させる。また、これにより、インクを高温に加熱して、インクを急速に乾燥させる。そして、この場合、例えばヒータ等で媒体を加熱することでインクを間接的に加熱する場合と比べ、インクをより高い温度(例えば、80℃以上)に加熱することができる。
【0008】
しかし、この場合、インクの高温化により一時的にインクが低粘度化して、インクの液滴が媒体に着弾することで形成されるインクのドット内において、例えば、中心部から周縁部へ向かって、インクの成分の流れが生じることが考えられる。また、その結果、例えば顔料等のインクの色材がドットの周縁部に移動しやすくなり、コーヒーステイン現象が発生しやすくなると考えられる。
【0009】
ここで、このようにしてコーヒーステイン現象が生じることを防ぐためには、例えばインクの温度上昇を抑えて、インクが低粘度化しないようにすればよいようにも思われる。しかし、温度上昇を抑えてインクの加熱を行う場合、インクが十分に乾燥するまでの時間が長時間化することで、インクの滲み(色間滲み等)が発生しやすくなる。そのため、単にインクの温度上昇を抑えるのみでは、高品質の印刷を適切に行うことが難しくなるおそれがある。
【0010】
そこで、本願の発明者は、媒体に対し、滲みの発生を防ぐための前処理を行うことを考えた。また、このような前処理として、例えばインクの成分を凝集させる前処理剤等をインクジェットヘッドで媒体に吐出することを考えた。このように構成すれば、例えば、前処理後の媒体へ吐出するインク(カラーインク)について、例えば加熱時の低粘度化を生じ難くすることができる。また、これにより、例えば、コーヒーステイン現象が生じることも適切に防ぐことができる。また、この場合、例えば温度上昇を抑えてインクの加熱を行ったとしても、滲みの発生を適切に防ぐことができる。そのため、この点でも、コーヒーステイン現象が生じることを適切に防ぐことができると考えられる。
【0011】
しかし、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このようにして前処理剤を用いる場合に関し、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで更なる問題が生じる場合があることを見出した。より具体的に、上記のように前処理剤を用いて印刷を行う場合、媒体に対し、前処理剤とカラーインクとを吐出することになる。そして、この場合、例えばカラーインクのみを用いる場合と比べ、媒体へ吐出する液体の合計量が大幅に増加することになる。また、その結果、例えば媒体のカールやコックリング等の問題が生じやすくなると考えられる。この場合、カールとは、例えば、媒体が湾曲する現象のことである。また、コックリングとは、例えば、媒体が液体を吸収することで波打ち状の皺が発生する現象のことである。そして、このような問題が発生した場合、前処理剤を用いたとしても、高品質の印刷を適切に行うことは難しくなる。
【0012】
これに対し、本願の発明者は、短時間に適切に前処理剤を乾燥させるため、前処理剤についても、エネルギー線の照射により発熱する瞬間乾燥型にすることを考えた。このように構成すれば、例えば、前処理剤及びカラーインクを用いる場合にも、例えば、カールやコックリングが発生する前に前処理剤及びカラーインクを適切に乾燥させることができる。また、これにより、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、瞬間乾燥型の前処理剤を用いる構成について、例えば瞬間乾燥型のインク以外のカラーインクを用いる場合にも有用であることを見出した。また、上記の効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、媒体に対してカラーインクを用いて印刷を行う印刷装置であって、前記カラーインクを前記媒体に付着させる前に前記媒体に付着させる液体である前処理剤を吐出するインクジェットヘッドである前処理剤用ヘッドと、前記カラーインクを吐出するインクジェットヘッドであるカラーインク用ヘッドと、エネルギー線を照射するエネルギー線照射部とを備え、前記前処理剤は、溶媒を含み、かつ、前記エネルギー線に応じて発熱する液体であり、前記エネルギー線照射部は、前記媒体において印刷がされる各位置に対し、前記前処理剤用ヘッドが前記前処理剤を吐出した後に前記エネルギー線を照射して、前記前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させることを特徴とする。
【0014】
このように構成すれば、例えば、前処理剤を用いる場合にも、前処理剤を効率的かつ適切に乾燥させることができる。また、これにより、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題(例えば、カール、コックリング等)の発生を適切に防ぐことができる。媒体へ吐出する液体とは、例えば、前処理剤やカラーインク等のことである。そのため、このように構成すれば、例えば、高い品質の印刷をより適切に行うことができる。
【0015】
また、この構成において、エネルギー線照射部は、例えば、媒体において印刷がされる各位置に対し、前処理剤用ヘッドが前処理剤を吐出した後、カラーインク用ヘッドがカラーインクを吐出する前にエネルギー線を照射して、前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させる。このように構成すれば、例えば、例えば、媒体の各位置へカラーインクを吐出する前に、前処理剤の乾燥を適切に促進することができる。また、これにより、例えば、各タイミングにおいて媒体に付着している液体の合計量を適切に低減することができる。また、この構成において、エネルギー線照射部は、例えば、前処理剤の吐出後に更にカラーインクを吐出してもカールやコックリング等の問題が生じない程度にまで、前処理剤を乾燥させる。また、使用する前処理剤やカラーインクの構成によっては、カラーインクの着弾時において、前処理剤の溶媒が残っていることが好ましい場合もある。この場合、例えば、前処理剤を完全には乾燥させずに、一部の溶媒のみを蒸発させてもよい。また、このような場合、カラーインクを吐出する前には前処理剤へエネルギー線を照射せずに、カラーインクの吐出後に、前処理剤及びカラーインクに対してまとめてエネルギー線を照射してもよい。
【0016】
また、この構成において、前処理剤については、例えば、瞬間乾燥型の液体と考えることができる。また、前処理剤としては、例えば、カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体等を用いることが考えられる。この場合、カラーインクの成分を凝集させるとは、例えば、カラーインクが含む固体成分等を凝集させることである。また、この場合、凝集については、例えば、凝固や凝結等と呼ばれる現象を含む現象と考えることができる。また、この構成において、カラーインクとしては、例えば、インク中の成分(例えば、固体成分)の凝集を防ぐ分散剤を含むインクを用いることが考えられる。この場合、前処理剤は、例えば、カラーインク中の分散剤の効果を打ち消すことにより、カラーインクの成分を凝集させる。
【0017】
また、この構成において、前処理剤としては、例えば、エネルギー線を吸収して発熱するエネルギー線吸収剤を含む液体を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、エネルギー線の照射により前処理剤をより適切に発熱させることができる。また、エネルギー線としては、例えば、紫外線を好適に用いることができる。この場合、エネルギー線照射部としては、例えば、紫外線を発生するLED(UVLED)を用いた構成(UVLED照射器)等を好適に用いることができる。
【0018】
また、この構成において、媒体としては、例えば紙や布等のような、前処理剤を吸収する吸収性の媒体等を用いることが考えられる。そして、このような吸収性の媒体を用いる場合、従来の構成で印刷を行うと、媒体のカールやコックリング等の問題が生じやすくなる。これに対し、上記のような構成を用いる場合、瞬間乾燥型の前処理剤を用いることで、このような問題の発生を適切に防ぐことができる。また、より具体的に、この場合、エネルギー線照射部は、例えば、媒体に付着した前処理剤にエネルギー線を照射することにより、少なくとも、媒体に対してカラーインクを吐出した後に媒体にカール及びコックリングが生じなくなる状態にまで、前処理剤を乾燥させる。
【0019】
また、この構成においては、カラーインクとしても、瞬間乾燥型のインクを用いることが好ましい。この場合、カラーインクについて、例えば、溶媒を含み、かつ、エネルギー線に応じて発熱するインク等と考えることができる。また、この場合、エネルギー線照射部は、媒体において印刷がされる各位置に対し、カラーインク用ヘッドがカラーインクを吐出した後に更にエネルギー線を照射して、カラーインクの溶媒の少なくとも一部を蒸発させる。このように構成すれば、例えば、カラーインクについても、短時間で効率的に乾燥させることができる。また、これにより、例えば、インクの滲みの発生等をより適切に防ぐことができる。また、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題の発生をより適切に防ぐこともできる。
【0020】
また、この場合、例えば、前処理剤を用いて媒体上のカラーインクを凝集させることにより、例えば、カラーインクの発熱時におけるインクの低粘度化を生じ難くすることができる。また、この場合、前処理剤を用いることでカラーインクが滲み難い条件を実現することで、カラーインクへのエネルギー線の照射について、例えば前処理剤を用いない場合と比べ、穏やかな条件にすることもできる。より具体的に、媒体に付着したカラーインクへエネルギー線を照射する場合、エネルギー線照射部は、例えば、カラーインクの溶媒が沸騰しないように、カラーインクへエネルギー線を照射してもよい。このように構成すれば、例えば、インクの温度が一時的に高温になることで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。インクの温度が一時的に高温になることで生じる問題とは、例えば、インクの溶媒が突沸することでインクの表面が粗面化する問題等のことである。
【0021】
また、カラーインクとしては、例えば、顔料等の固体の色材を含むインクを用いることが考えられる。そして、この場合、カラーインクの成分を凝集させる前処理剤を用いて、インクの低粘度化を生じ難くすることにより、例えば、コーヒーステイン現象の発生等を適切に防ぐこともできる。また、この場合、例えば、カラーインクの溶媒を沸騰させない条件でインクを加熱することで、例えば、インクの温度の上昇を抑え、一時的な粘度低下をより適切に防ぐこともできる。そのため、このように構成すれば、例えば、コーヒーステイン現象の発生等を適切に防ぎつつ、瞬間乾燥型のカラーインクを用いた印刷をより適切に行うことができる。
【0022】
また、この構成において、前処理剤のインクの吐出時には、通常、他の色のインクとの混色等は生じない。そのため、前処理剤の吐出時にも、例えば前処理剤の溶媒が沸騰しないような、穏やかな条件での加熱を行うことが考えられる。より具体的に、媒体に付着した前処理剤へエネルギー線を照射する場合、エネルギー線照射部は、例えば、前処理剤の溶媒が沸騰しないように、前処理剤へエネルギー線を照射する。このように構成すれば、例えば、前処理剤の温度が一時的に高温になることで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。
【0023】
また、前処理剤については、例えば、カラーインクの成分を凝集させる以外の用途の液体を用いることも考えられる。より具体的に、例えば、媒体への付着後に発色処理を行うインク(例えば、発色処理により発色する染料インク等)を用いる場合、前処理剤として、発色の助剤等を用いることも考えられる。この場合も、瞬間乾燥型の前処理剤を用いることにより、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。また、コーヒーステイン現象を防ぐという観点等で考えた場合、本発明の構成として、瞬間乾燥型以外の前処理剤を用いること等も考えられる。この場合、例えば、前処理剤を吐出した後に瞬間乾燥型のカラーインクを媒体へ吐出して、前処理剤によりカラーインクの成分を凝集させることにより、コーヒーステイン現象を適切に防ぐことができる。また、この場合、カラーインクの成分を凝集させることにより、インクの滲みの発生等を適切に防ぐこともできる。また、カラーインクを凝集させる特徴に着目した場合、本発明の構成として、カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体である凝集用液体を用い、かつ、この凝集用液体として瞬間乾燥型の液体を用いる構成を考えることもできる。また、この場合、凝集用液体について、媒体の各位置に対し、カラーインクより後に吐出すること等も考えられる。また、本発明の構成として、上記と同様の特徴を有する印刷方法等を用いることも考えられる。この場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、例えば、高い品質の印刷をより適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す図である。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を簡略化して示す上面図及び側断面図である。
図2】媒体50にカラーインクが着弾した後に生じる現象について説明をする図である。図2(a)は、従来の構成によりインクを乾燥させる場合におけるインクの乾燥の仕方の例を示す。図2(b)は、本例の構成によりインクを乾燥させる場合におけるインクの乾燥の仕方の例を示す。図2(c)は、図2(a)、(b)に示した状態におけるインクの濃度分布を比較するグラフである。
図3】印刷装置10の構成の変形例を示す上面図である。
図4】印刷装置10の構成の更なる変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を簡略化して示す上面図及び側断面図である。尚、以下において説明をする点を除き、印刷装置10は、公知の印刷装置と同一又は同様の特徴を有してよい。例えば、印刷装置10は、以下において説明をする構成に加え、公知の印刷装置と同一又は同様の様々な構成を更に備えてもよい。
【0027】
本例において、印刷装置10は、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、ヘッド部12、媒体支持部14、ガイドレール16、走査駆動部18、プリントヒータ20、プレヒータ22、アフターヒータ24、及び制御部30を備える。また、印刷装置10は、ヘッド部12に主走査動作を行わせるシリアル型のインクジェットプリンタである。この場合、主走査動作とは、例えば、予め設定された主走査方向(図中のY方向)へ移動しつつインク(インク滴)を吐出する動作のことである。また、ヘッド部12に主走査動作を行わせるとは、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドに主走査動作を行わせることである。また、本例において、印刷装置10は、例えば、媒体の各位置に対して複数回の主走査動作を行うマルチパス走査方式により、シリアル方式での印刷を実行する。
【0028】
ヘッド部12は、印刷対象の媒体(メディア)50に対してインクを吐出する部分であり、キャリッジ100、複数のインクジェットヘッド及び紫外線照射部106を備える。キャリッジ100は、複数のインクジェットヘッド及び紫外線照射部106を保持する保持部材である。また、本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドとして、図中に示すように、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102y、インクジェットヘッド102k、及びインクジェットヘッド104を有する。また、本例において、これらのインクジェットヘッドは、主走査方向と直交する副走査方向(図中のX方向)における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設されている。
【0029】
また、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドのうち、インクジェットヘッド102c、インクジェットヘッド102m、インクジェットヘッド102y、及びインクジェットヘッド102k(以下、インクジェットヘッド102c~kという)は、カラーインク用ヘッドの一例であり、互いに異なる色のインクを吐出する。より具体的に、本例において、インクジェットヘッド102c~kは、フルカラーの表現に用いるプロセスカラーの各色のインクを吐出する。また、更に具体的に、インクジェットヘッド102cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド102kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、この場合、CMYKの各色のインクは、カラーインクの一例である。また、本例において、CMYKの各色のインクとしては、例えば、CMYKの各色の顔料を含むインクを用いる。この場合、顔料は、固体の色材の一例である。また、CMYKの各色のインクとしては、例えば、インク中の成分(例えば、顔料等の固体成分)の凝集を防ぐ分散剤を含むインクを用いることが好ましい。この場合、分散剤については、例えば、インク中の成分をインクの溶媒中に分散させるための物質等と考えることもできる。また、分散剤としては、公知の分散剤を好適に用いることができる。
【0030】
また、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドのうち、インクジェットヘッド104は、前処理剤用ヘッドの一例であり、前処理剤を吐出する。この場合、前処理剤とは、例えば、カラーインクを50に付着させる前に媒体50に付着させる液体のことである。また、より具体的に、本例において、インクジェットヘッド104は、前処理剤として、カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体を用いる。この場合、前処理剤について、例えば、凝集用液体の一例と考えることができる。また、インクジェットヘッド104について、例えば、凝集用液体用ヘッドの一例と考えることができる。また、カラーインクの成分を凝集させるとは、例えば、カラーインクが含む固体成分等を凝集させることである。また、カラーインクが含む固体成分等を凝集させるとは、例えば、インクの溶媒中に分散している固体成分等を集合させることである。また、この場合、前処理剤は、例えば、カラーインク中の分散剤の効果を打ち消すことにより、カラーインクの成分を凝集させる。このような前処理剤としては、例えば、公知の凝集剤を含む液体等を好適に用いることができる。また、この場合、凝集剤については、例えば、凝結剤又は凝固剤等と考えることもできる。また、凝集剤について、例えば、凝集効果によりインクの滲みを抑制する物質等と考えることもできる。
【0031】
また、本例において、インクジェットヘッド102c~kから吐出するカラーインクやインクジェットヘッド104から吐出する前処理剤としては、蒸発乾燥型のインクを用いる。この場合、インクとは、例えば、機能性の液体のことである。蒸発乾燥型のインクとは、例えば、媒体50に定着させるために溶媒を蒸発させるインクのことである。溶媒とは、例えば、インク中の他の成分を溶解又は分散させる液体のことである。また、蒸発乾燥型のインクについては、例えば、溶媒を30重量%以上含むインク等と考えることもできる。蒸発乾燥型のインク中の溶媒の含有量は、70重量%以上であることがより好ましい。また、この場合、溶媒としては、インクの種類に応じた液体を用いる。例えば、水性のインクの場合、溶媒としては、例えば水等の水性溶媒を用いる。また、ソルベントタイプのインクの場合、溶媒として、有機溶剤を用いる。また、溶媒については、特定の液体に限定されず、水、水と1種類以上の溶剤(有機溶剤)とを混合した液体、又は複数の溶剤を混合した液体等の、様々な液体を用いることが考えられる。
【0032】
また、本例においてカラーインク及び前処理剤として用いる蒸発乾燥型のインクは、エネルギー線を照射することで発熱するインク(瞬間乾燥型のインク)である。エネルギー線を照射することでインクが発熱するとは、例えば、照射されたエネルギー線をインクが吸収することで、インク自体が発熱することである。また、この場合、本例において用いるカラーインクについては、例えば、溶媒を含み、かつ、エネルギー線に応じて発熱するインク等と考えることができる。また、カラーインクについて、紫外線の照射により瞬間的に乾燥するカラーインク(UV瞬間乾燥カラ―インク)等と考えることもできる。また、前処理剤については、例えば、溶媒を含み、かつ、エネルギー線に応じて発熱する液体等と考えることができる。また、前処理剤については、紫外線の照射により瞬間的に乾燥する凝集剤(UV瞬間乾燥凝集剤)等と考えることもできる。また、前処理剤について、凝集剤を添加した瞬間乾燥型インクである瞬間乾燥凝集剤インク(より具体的には、UV瞬間乾燥凝集剤インク)等と考えることもできる。
【0033】
また、本例において、エネルギー線としては、紫外線(UV光)を用いる。また、カラーインク及び前処理剤としては、例えば、紫外線吸収剤(UV吸収剤)を含むインクを用いる。この場合、紫外線吸収剤は、エネルギー線を吸収して発熱するエネルギー線吸収剤の一例である。紫外線吸収剤については、例えば、紫外線の照射に応じて瞬間的にインク中の溶媒を加熱し、乾燥させるための物質等と考えることもできる。また、紫外線吸収剤としては、ヘッド部12における紫外線照射部106が発生する紫外線を適切に吸収する物質(紫外線照射部106の発光波長の紫外線を吸収する物質)を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、紫外線の照射によりカラーインク及び前処理剤を適切に発熱させ、瞬間乾燥型のインクとして機能させることができる。また、カラーインクや前処理剤の組成によっては、インクビヒクルのいずれかの成分(例えば色材、樹脂、溶媒等)として、紫外線吸収作用を有する成分を用いることも考えられる。この場合、インクを発熱させる用途の専用の紫外線吸収剤を添加するのではなく、インク中の他の成分(例えば色材、樹脂、溶媒等)に紫外線吸収剤の機能を兼用させてもよい。また、本例において用いる瞬間乾燥型のインクについては、例えば、照射される紫外線のエネルギー(UV光エネルギー)を熱エネルギーに変換することで発熱するインク等と考えることもできる。
【0034】
また、本例のヘッド部12において、紫外線照射部106は、エネルギー線照射部の一例であり、媒体50に付着した前処理剤及びカラーインクへエネルギー線の一例である紫外線を照射することにより、前処理剤及びカラーインクを発熱させる。このように構成すれば、例えば、効率的かつ適切に前処理剤及びカラーインクを加熱して、これらの溶媒の少なくとも一部を蒸発させることができる。また、より具体的に、本例において、紫外線照射部106は、紫外線光源202及び紫外線光源204を有する。また、紫外線光源202及び紫外線光源204としては、例えば、紫外線を発生するLEDであるUVLED(UV-LED照射手段)を用いる。このように構成すれば、例えば、必要な波長範囲の紫外線を適切かつ効率的に照射することができる。UVLEDとしては、発光の中心波長が400nm以下のUVLEDを好適に用いることができる。また、より具体的に、この場合、UVLEDにより、例えば、360~390nmに発光中心を持つ0.1~5Joule/cm程度の強さの紫外線を照射することが考えられる。また、UVLEDにより発生する紫外線の波長については、上記に限定されず、使用する瞬間乾燥型のインクを適切に加熱できる波長であればよい。また、本例において、紫外線光源202及び紫外線光源204は、UV照射手段の一例である。
【0035】
また、本例において、紫外線光源202は、インクジェットヘッド104及びインクジェットヘッド102c~kと副走査方向における位置を揃えて、主走査動作時にインクジェットヘッド104の後ろ側になる位置において、インクジェットヘッド104とインクジェットヘッド102c~kとの間に配設される。また、この構成により、紫外線照射部106は、紫外線光源202により、媒体50において印刷がされる各位置に対し、インクジェットヘッド104が前処理剤を吐出した後、インクジェットヘッド102c~kがカラーインクを吐出する前に、紫外線を照射する。また、これにより、紫外線光源202は、前処理剤を発熱させて、前処理剤の溶媒の少なくとも一部を気化させ、蒸発させる。この場合、媒体50において印刷がされる各位置とは、例えば、主走査動作時にインクジェットヘッド104及びインクジェットヘッド102c~kがインクを吐出しつつ通過する領域の各位置のことである。このように構成すれば、例えば、媒体50の各位置にカラーインクが着弾する前に、前処理剤を短時間で効率的に乾燥させることができる。
【0036】
また、紫外線光源204は、インクジェットヘッド104及びインクジェットヘッド102c~kと副走査方向における位置を揃えて、主走査動作時にインクジェットヘッド102c~kの後ろ側になる位置に配設される。また、この構成により、紫外線照射部106は、紫外線光源204により、媒体50において印刷がされる各位置に対し、インクジェットヘッド102c~kがカラーインクを吐出した後に紫外線を照射する。また、これにより、紫外線光源204は、カラーインクを発熱させて、カラーインクの溶媒の少なくとも一部を気化させ、蒸発させる。このように構成すれば、例えば、カラーインクについても、短時間で効率的に乾燥させることができる。
【0037】
媒体支持部14は、媒体50を支持する台状部材(プラテン)であり、ヘッド部12と対向させて媒体50を支持する。また、本例において、媒体支持部14は、内部にプリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24を収容する。ガイドレール16は、主走査動作時にヘッド部12の移動をガイドするレール部材である。
【0038】
走査駆動部18は、媒体50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部12に行わせる駆動部である。この場合、ヘッド部12に走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドに走査動作を行わせることである。また、本例において、走査駆動部18は、走査動作として、主走査動作及び副走査動作をヘッド部12に行わせる。この場合、走査駆動部18は、ヘッド部12に主走査動作を行わせることにより、媒体50の各位置に対し、ヘッド部12のインクジェットヘッド104に前処理剤を吐出させ、インクジェットヘッド102c~kにカラーインクを吐出させる。また、主走査動作時にインクジェットヘッド104及びインクジェットヘッド102c~kと共に紫外線光源202及び紫外線光源204を移動させることにより、媒体50上の前処理剤及びカラーインクへ紫外線を照射させる。また、本例において、印刷装置10は、図中にプリント時移動方向として矢印で示した一方の向きでの主走査動作(片方向)のみを行う片方向プリンタである。また、走査駆動部18は、主走査動作の合間(パス走査毎)に副走査動作をヘッド部12に行わせることで、媒体50においてヘッド部12と対向する位置を順次変更する。この場合、副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動する動作のことである。また、より具体的に、本例において、走査駆動部18は、図中にX方向として示した方向と平行な搬送方向へ媒体50を搬送することにより、ヘッド部12に副走査動作を行わせる。この場合、例えば図示を省略したローラ等を用いて、図中に矢印で示す搬送方向(メディア搬送方向)へ媒体50を搬送する。
【0039】
プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24は、媒体50を加熱する加熱手段である。また、これらのうち、プリントヒータ20は、ヘッド部12と対向する位置において媒体50を加熱するヒータである。プリントヒータ20を用いることにより、例えば、媒体50上のインク(前処理剤及びカラーインク)をより効率的に加熱することが可能になる。また、この場合、本例の印刷装置10の構成について、紫外線照射部106とプリントヒータ20とを併用してインクを乾燥させる構成と考えることもできる。
【0040】
ここで、プリントヒータ20での加熱温度が高い場合、例えばヘッド部12におけるインクジェットヘッドが加熱されることで、ノズル詰まり等の問題が生じやすくなる。この場合、ノズル詰まりとは、例えば、インクジェットヘッドのノズルがインクの乾燥により詰まることである。そのため、プリントヒータ20による加熱温度については、70℃以下にすることが好ましい。また、本例においては、上記においても説明をしたように、紫外線照射部106における紫外線光源202及び紫外線光源204を用いて、インクを効率的に加熱することが可能である。そのため、プリントヒータ20による加熱温度については、環境温度の影響を抑え、媒体50の温度を一定化すること等を目的に、十分に低い温度にすることがより好ましい。この場合も、プリントヒータ20を用いることにより、インク中の溶媒の蒸発条件を適切に一定化することができる。また、より具体的に、プリントヒータ20は、例えば、プリントヒータ20と対向する領域に対し、室温により近い温度(例えば、50℃以下程度)での加熱を行う。また、プリントヒータ20による媒体50の加熱温度については、好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下である。このように構成すれば、例えば、ノズル詰まり等の問題を抑えつつ、環境温度の影響等を適切に抑えることができる。
【0041】
また、プレヒータ22は、搬送方向においてヘッド部12よりも上流側で媒体50を加熱(予備加熱)するヒータである。プレヒータ22を用いることにより、例えば、ヘッド部12の位置へ到達する前に、媒体50の初期温度を適切に調整することができる。また、この場合、プレヒータ22による媒体50の加熱温度についても、例えば、環境温度の影響を抑えること等を目的に、十分に低い温度(例えば50℃以下、好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下)にすることが好ましい。アフターヒータ24は、搬送方向においてヘッド部12よりも下流側で媒体50を加熱するヒータである。アフターヒータ24を用いることにより、例えば、印刷を完了するまでの間に、インクをより確実に乾燥させることができる。アフターヒータ24による媒体50の加熱温度については、例えば30~50℃程度にすることが考えられる。また、アフターヒータ24については、例えば、プリントヒータ20での加熱を行った時点では残留している溶媒成分を完全に除去するための後加熱用のヒータ(後乾燥手段)等と考えることができる。また、アフターヒータ24の加熱温度については、使用する媒体50の耐熱温度以下の範囲で、ある程度の高い温度に設定してもよい。
【0042】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、紫外線光源202及び紫外線光源204を用いて、前処理剤やカラーインク中の溶媒の少なくとも一部を蒸発させる。そして、この場合、前処理剤やカラーインクの乾燥については、主に紫外線の照射により行うことができる。そのため、印刷装置10を使用する環境や求められる印刷の品質によっては、プリントヒータ20、プレヒータ22、アフターヒータ24のうちの一部又は全てを省略してもよい。また、プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24としては、公知の様々な加熱手段を用いることが考えられる。より具体的に、プリントヒータ20、プレヒータ22、及びアフターヒータ24としては、例えば、各種ヒータや温風機等(例えば、伝熱ヒータ、温風ヒータ、赤外線ヒータ等)を好適に用いることができる。また、アフターヒータ24として、例えば、紫外線光源(UV後照射手段)を用いること等も考えられる。
【0043】
制御部30は、例えば印刷装置10のCPUであり、印刷装置10の各部の動作を制御する。制御部30は、例えば、各回の主走査動作時において、必要な吐出位置へインクジェットヘッド104に前処理剤を吐出させ、印刷すべき画像に応じて設定されるタイミングにインクジェットヘッド102c~kにインクを吐出させる。本例によれば、例えば、印刷装置10により所望の画像を適切に印刷することができる。
【0044】
続いて、本例において行う印刷の動作の特徴について、更に詳しく説明をする。図2は、媒体50にカラーインクが着弾した後に生じる現象について説明をする図である。図2(a)は、従来の構成によりインクを乾燥させる場合におけるインクの乾燥の仕方の例(従来の乾燥モデル)を示す図であり、カラーインクにより形成される一つのドットの状態の一例を示す。図2(b)は、本例の構成によりインクを乾燥させる場合におけるインクの乾燥の仕方の例(本例の乾燥モデル)を示す図であり、前処理剤を先に吐出した位置においてカラーインクにより形成される一つのドットの状態の一例を示す。また、図示の便宜上、図2(a)、(b)においては、色の濃さの違いについて、網掛け模様により模式的に示している。図2(c)は、図2(a)、(b)に示した状態におけるインクの濃度分布(乾燥後の濃度分布)を比較するグラフである。
【0045】
上記においても説明をしたように、本例においては、瞬間乾燥型のカラーインク等を用い、紫外線を照射することにより、インク乾燥させる。そして、この場合、例えばヒータ等で媒体を加熱することで間接的にインクを加熱する場合と異なり、紫外線の照射により直接的にインクを加熱することにより、例えば、周辺の構成や媒体50への影響を抑えつつ、インクを効率的かつ適切に加熱することもできる。また、これにより、例えば、ヒータのみを用いて加熱を行う場合と比べて、インクの温度をより高い温度にまで加熱することができる。
【0046】
しかし、この場合、単に瞬間乾燥型のカラーインクを用いるのみであると、インクの高温化により一時的にインクが低粘度化して、インクの液滴が媒体に着弾することで形成されるインクのドット内において、例えば、中心部から周縁部へ向かって、インクの成分の流れが生じることが考えられる。この場合、単に瞬間乾燥型のカラーインクを用いるとは、例えば、前処理剤等を用いずに、瞬間乾燥型のカラーインクを媒体へ直接吐出することである。そして、この場合、例えば顔料等のインクの色材がドットの周縁部に移動しやすくなり、コーヒーステイン現象が発生しやすくなると考えられる。また、より具体的に、この場合、例えば図2(a)に示すように、インクのドット内での色の濃さの分布(乾燥後の濃度分布)は、中心付近で薄くなり、周辺部で濃くなるような分布になる。そして、この場合、印刷される画像において、色の薄い部分が生じることや、着色される色の平均濃度が減少すること等の影響で、画質の劣化が生じることが考えられる。また、この場合、インクのドット内での色の濃さの分布(ドット内の濃度分布)は、例えば図2(c)において符号Aを付して破線で示した曲線のようになる。
【0047】
これに対し、本例のように、カラーインクの成分を凝集させる前処理剤を用いる場合、前処理剤を用いることにより、カラーインクの着弾の直後において、カラーインクの成分を適切に凝集させ、粘度を上昇させることができる。そして、この場合、その後に紫外線を照射してカラーインクの温度が高温になったとしても、インクの色材がドットの周縁部へ移動する現象は生じ難くなる。より具体的に、この場合、カラーインクが既に高粘度化していることで、紫外線の照射によりカラーインクを蒸発・乾燥させる過程(カラーインクの発熱時)において、低粘度化を生じ難くすることができる。また、これにより、例えば、低粘度でのインクの成分中の色材(顔料の粒子等)の移動が生じ難くすることができる。そのため、本例によれば、例えば、コーヒーステイン現象が生じることを適切に防いで、インクのドットについて、中心部まで適切に高濃度にすることができる。また、この場合、インクのドット内での色の濃さの分布は、例えば図2(c)において符号Bを付して実線で示した曲線のようになる。そして、この場合、符号Aを付した曲線との比較から明らかなように、インクのドットの内部まで均一な濃度分布を適切に実現できる。また、これにより、プリント物での平均濃度を適切に高め、高品質な印刷を行うことが可能になる。
【0048】
ここで、本例において用いる媒体としては、例えば紙や布等のような、吸収性の媒体を用いることが考えられる。吸収性の媒体とは、例えば、前処理剤及びカラーインクを吸収する媒体のことである。そして、このような媒体を用いる場合、前処理剤及びカラーインクの合計量が多くなると、通常、媒体のカールやコックリング等の問題が生じやすくなると考えられる。これに対し、本例においては、瞬間乾燥型の前処理剤を用いることで、このような問題の発生を適切に防ぐことができる。
【0049】
より具体的に、本例においては、上記においても説明をしたように、瞬間乾燥型の前処理剤を用いて、紫外線照射部106における紫外線光源202(図1参照)から紫外線を照射することで、媒体の各位置へカラーインクを吐出する前に、その位置に付着している前処理剤の溶媒の少なくとも一部を蒸発させる。また、この場合、少なくとも、後のカラーインクの吐出時にカールやコックリング等の問題が生じない程度にまで、前処理剤を乾燥させることが考えられる。カールやコックリング等の問題が生じないとは、例えば、求められる印刷の品質等に応じて、問題となるカールやコックリング等が生じないことである。このように構成すれば、カールやコックリング等の問題の発生を適切に防ぐことができる。また、上記のように、前処理剤を用いる場合、着弾の直後にカラーインクを高粘度化することで、その後に強い紫外線を照射したとしても、コーヒーステイン現象を生じ難くすることができる。そのため、本例によれば、例えば、コーヒーステイン現象の発生等を適切に防ぎつつ、瞬間乾燥型のカラーインクを用いた印刷をより適切に行うことができる。
【0050】
また、上記のような前処理剤を用いる場合、着弾の直後にカラーインクを高粘度化することで、例えば、カラーインクが滲み難い条件を実現するもできる。そして、この場合、カラーインクへの紫外線の照射について、例えば、前処理剤を用いない場合と比べて穏やかな条件にすること等も考えられる。より具体的に、例えば、カラーインクを短時間で効率的に乾燥させようとする場合、カラーインクに対し、より強い紫外線を照射して、カラーインクの温度をより高温にすることが考えられる。また、この場合、例えば、カラーインクの溶媒の沸騰するような条件で紫外線を照射することが考えられる。しかし、この場合、インクの温度が一時的に高温になることの影響で新たな問題が発生する場合がある。例えば、カラーインクの溶媒が沸騰するような条件で紫外線を照射する場合、紫外線の照射エネルギーが過剰になり、インクの溶媒が突沸すること等が考えられる。また、その結果、インクの表面が十分に平坦化されずに、プリント物の表面がマット状になること等が考えられる。また、突沸の影響で媒体上のインクの表面が多孔質被膜状になること等も考えられる。そして、これらの現象が生じた場合、光沢性の高いプリント面を得ることが難しくなると考えられる。また、この場合、例えば非浸透性のプラスチックの媒体等の光沢印刷用の媒体(光沢メディア)を用いたとしても、十分な光沢性を得ることが難しくなる。
【0051】
これに対し、上記のような前処理剤を用いる場合、例えば、媒体に付着したカラーインクに対し、カラーインクの溶媒が沸騰しないように紫外線を照射すること等も考えられる。また、この場合、カラーインクの溶媒を沸騰させない条件でインクを加熱することで、例えば、インクの温度の上昇を抑え、加熱時のインクの粘度の低下をより適切に抑えること等も可能になる。そのため、このように構成すれば、例えば、コーヒーステイン現象が生じることをより適切に防ぐこともできる。
【0052】
また、例えば図1を用いて説明をした構成により印刷を行う場合、前処理剤のインクの吐出時には、他の色のインクとの混色等は生じない。そのため、前処理剤の吐出時にも、例えば前処理剤の溶媒が沸騰しないような、穏やかな条件での加熱を行うことが考えられる。より具体的に、媒体に付着した前処理剤へエネルギー線を照射する場合、紫外線照射部106の紫外線光源202により、例えば、前処理剤の溶媒が沸騰しないように紫外線を照射することが考えられる。このように構成すれば、例えば、前処理剤の温度が一時的に高温になることで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。
【0053】
尚、前処理剤をどの程度乾燥させるかについては、例えば、使用する前処理剤及びカラーインクの組成等に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、カラーインクの吐出前に前処理剤を完全に乾燥させても問題がない場合、前処理剤について、カラーインクの吐出前に、例えば前処理剤が完全に乾燥する程度にまで、十分に乾燥させることが好ましい。このように構成すれば、例えば、媒体の各位置へカラーインクを吐出する前に、前処理剤の乾燥を適切に促進することができる。また、これにより、例えば、カールやコックリング等をより確実に防止することができる。また、前処理剤及びカラーインクの組成によっては、例えば、前処理剤を完全には乾燥させず、溶媒が残った未乾燥の前処理剤とカラーインクとを接触させることが好ましい場合も考えられる。このような場合、前処理剤を完全には乾燥させずに、未乾燥の前処理剤上にカラーインクが着弾するように、前処理剤の溶媒の一部を蒸発させることが好ましい。このように構成すれば、媒体上で前処理剤とカラーインクとをより適切に混合させることができる。また、前処理剤及びカラーインクの組成によっては、例えば、カラーインクと接触する前には前処理剤を乾燥させずに、カラーインクの吐出後に前処理剤及びカラーインクを同時に乾燥させること等も考えられる。この場合、例えば、図1に示した構成から紫外線光源202を省略した構成の印刷装置10を用いて印刷を行うことが考えられる。このような場合も、瞬間乾燥型の前処理剤及びカラーインクを用いることで、効率的に短時間で前処理剤及びカラーインクを乾燥させることができる。また、これにより、例えば、カールやコックリング等を発生し難くすることができる。
【0054】
また、印刷装置10の具体的な構成等については、上記において説明をした構成に限らず、様々な変更を行うことも可能である。図3は、印刷装置10の構成の変形例を示す上面図である。尚、以下に説明をする点を除き、図3において、図1と同じ符号を付した構成は、図1における構成と同一又は同様の特徴を有してよい。
【0055】
本変形例において、印刷装置10は、ヘッド部12におけるインクジェットヘッド及び紫外線光源の配置を図1の構成と異ならせたシリアル型のインクジェットプリンタである。また、本変形例のヘッド部12において、前処理剤用のインクジェットヘッド104は、カラーインク用のインクジェットヘッド102c~kと副走査方向における位置をずらして、別の列を構成するように配設されている。また、この配置に合わせ、前処理剤に紫外線を照射する紫外線光源202は、インクジェットヘッド104と副走査方向の位置を揃えて配設されることで、カラーインクに紫外線を照射する紫外線光源204と副走査方向における位置をずらして配設されている。
【0056】
このように構成した場合も、瞬間乾燥型の前処理剤及びカラーインクを用いることや、前処理剤によりカラーインクの成分を凝集させること等により、図1及び図2を用いて上記において説明をした場合と同様の効果を得ることができる。また、本変形例においては、媒体50の各位置に対し、前処理剤とカラーインクとを、別の回の主走査動作で吐出する。そして、この場合、前処理剤を吐出してからカラーインクを吐出するまでの時間が長くなるため、例えば、カラーインクを吐出する時点までに、前処理剤をより適切に乾燥させることができる。そのため、本変形例によれば、例えば、各タイミングにおいて媒体へ浸透している液体の量をより適切に低減できる。また、これにより、例えば、媒体のカールやコックリング等をより適切に防止することができる。また、本変形例の構成については、例えば、前処理剤をある程度以上乾燥(例えば、半乾燥又は完全乾燥)させてもカラーインクを凝集させる効果が得られる場合に特に好ましい構成と考えることができる。
【0057】
また、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、例えば、カラーインク用のインクジェットヘッド102c~kについても、色毎に副走査方向における位置をずらして、別の列に配設してもよい。このように構成した場合、各位置に対して1色ずつインクを吐出することで、各タイミングにおいて媒体へ浸透している液体の量をより適切に低減できる。また、これにより、例えば、媒体のカールやコックリング等をより適切に防止することができる。また、この場合、各回の主走査動作において同じ位置へ吐出するインクが1色のみになるため、インクの滲みをより確実に防ぐこと等も可能になる。
【0058】
また、上記においては、印刷装置10の構成について、主に、片方向への主走査動作(片方向プリント)を行う場合の構成の例を説明した。しかし、印刷装置10の構成の更なる変形例においては、印刷装置10の構成として、往復の主走査動作(両方向プリント)を行う構成を用いてもよい。この場合、紫外線光源202及び紫外線光源204について、対応するインクジェットヘッドに対し、主走査方向における片側のみではなく、両側に配設することが好ましい。また、印刷装置10の構成として、シリアル型の構成に限らず、ライン型の構成(ラインプリンタ)を用いること等も考えられる。この場合、ライン型の構成とは、例えば、インクジェットヘッドの位置を移動させずに、所定の方向へ媒体を搬送しつつインクジェットヘッドからインクを吐出する構成のことである。
【0059】
図4は、印刷装置10の構成の更なる変形例を示す上面図であり、ラインプリンタの場合の印刷装置10の構成の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図4において、図1~3と同じ符号を付した構成は、図1~3における構成と同一又は同様の特徴を有してよい。
【0060】
本変形例において、前処理剤用のインクジェットヘッド104、及びカラーインク用のインクジェットヘッド102c~kのそれぞれは、図中に示すように、媒体50の搬送方向(X方向)に沿って、間を空けて並べて配設される。また、本変形例において、紫外線照射部106は、前処理剤用の紫外線光源202と、カラーインク用の複数の紫外線光源204とを有する。この場合、紫外線光源202は、インクジェットヘッド104が前処理剤を吐出した直後に媒体50へ紫外線を照射するように、搬送方向においてインクジェットヘッド104の下流側に配設される。また、複数の紫外線光源204のそれぞれは、インクジェットヘッド102c~kのそれぞれが各色のインクを吐出した直後に媒体50へ紫外線を照射するように、搬送方向においてインクジェットヘッド102のそれぞれの下流側に配設される。また、この場合、アフターヒータ24について、図中に示すように、搬送方向においてこれらの構成よりも下流側になる位置に配設することが考えられる。このように構成した場合も、瞬間乾燥型の前処理剤及びカラーインクを用いることや、前処理剤によりカラーインクの成分を凝集させること等により、図1~3を用いて上記において説明をした場合と同様の効果を得ることができる。また、ライン型の印刷装置10を用いる場合、例えば、媒体50の両面への印刷(両面印刷)を行うこと等も考えられる。そして、この場合、例えば、媒体50の各位置に対して吐出するインクの合計量が片面のみへの印刷を行う場合と比べて多くなる。そのため、このような場合には、瞬間乾燥型の前処理剤やカラーインクを用いることの効果が特に大きくなると考えられる。
【0061】
続いて、上記において説明をした各構成に関する補足説明や、更なる変形例等について、改めて説明をする。先ず、上記において説明をした各構成により得られる効果等について、説明をする。上記においても説明をしたように、図1~4を用いて説明をした各構成においては、瞬間乾燥型のインクを用いて、紫外線の照射によりインクを瞬間的に乾燥させる方式(UV瞬間乾燥方式)での印刷を行う。そして、この場合、インクを瞬間的に媒体に定着させることにより、滲みの発生を抑えて、高速な印刷を行うことができる。また、この場合、瞬間乾燥型のインクとしては、公知の様々な蒸発乾燥型のインクに紫外線吸収剤を添加したインク等を好適に用いることができる。また、公知の蒸発乾燥型のインクとしては、例えば、公知のソルベントインク、水性インク、ラテックスインク、又はエマルジョンタイプのインク等を用いることができる。また、この場合、瞬間乾燥型のインクを用いることで、例えば、従来の構成で公知のインクを用いるのみでは滲みの影響等で直接印刷を行うことが難しかった媒体を用いる場合にも、媒体への直接の印刷を適切に行うことが可能になる。例えば、瞬間乾燥型の水性インクを用いる場合、紙や布地等の吸収性の媒体や、各種プラスチックフィルム、金属、ガラス等の非吸収性の媒体に対し、適切に印刷を行うことが可能になる。
【0062】
また、より具体的に、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、例えば印刷のパス数を少なくして高速に印刷を行う場合でも、滲みの発生を適切に防ぐことが可能になる。そのため、例えば、高速に印刷を行う高速プリンタ等を適切に実現することができる。また、印刷装置10として、1パスからマルチパス方式(マルチパスプリント)まで、様々な構成の印刷装置10を用いることができる。また、滲みの発生を適切に防ぐことにより、例えば、様々な媒体を用いるメディアフリーの構成を実現すること等も可能になる。そのため、媒体として、例えば、受容層が形成されていない媒体、吸収性(浸透性)の媒体、非吸収性(非浸透性)の媒体等の様々な媒体を幅広く用いることができる。
【0063】
また、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータ等を用いて媒体を介して間接的にインクを加熱する構成と比べ、インクを直接かつ効率的に加熱することができる。また、上記において説明をした各構成のように、エネルギー線として紫外線を用いる場合、媒体に付着したインクに対し、例えば、インクの内部にまで浸透して、内部からインクを加熱すること等も可能になる。そのため、例えばインクの乾燥時にインクの表面に被膜が形成された場合等にも、被膜に囲まれた部分のインクをより適切に乾燥させることができる。また、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータを用いる場合と比べ、例えば、装置の小型化及び低価格化や、省電力化を実現すること等も可能になる。より具体的に、瞬間乾燥型のインクを用いる場合、ヒータを用いる場合と比べ、例えば、放熱のための構成が簡単になること等により、装置の小型化や低価格化が可能となる。また、平均消費電力を数分の1以下程度とし、待機電力をゼロとするよう、省電力化を実現できる。
【0064】
また、上記においても説明をしたように、図1~4を用いて説明をした各構成においては、画像を印刷するためのカラーインクの他に、前処理剤を媒体へ吐出する。そして、前処理剤としても、瞬間乾燥型のインク(瞬間乾燥型の液体)を用いている。このように構成した場合、前処理剤及びカラーインクについて、瞬間乾燥方式で短時間のうちに加熱をすることで、溶媒の大部分について、媒体に浸透する前に適切に蒸発させることができる。そのため、例えば吸収性の媒体を用いる場合にも、媒体による溶媒の吸収及び膨潤によりカールやコックリングが発生することを効果的に防止することができる。
【0065】
また、より具体的に、例えば紙や布等のように、水分等の液体を吸収すると膨潤する繊維等からなる媒体を用いる場合、カラーインクに加えて余分に前処理剤を吐出すると、媒体に付着する液体(溶媒の成分)の量が増加することで、カラーインクのみを用いる場合と比べ、一層カールやコックリング等を生じやすくなる。また、カールやコックリング等が発生すると、媒体の搬送時の蛇行や、インクジェットヘッドと媒体との接触が生じること等が考えられる。また、これらの影響により、画質の低下(画質障害)が発生する場合もある。これに対し、瞬間乾燥型の前処理剤を用いる場合、前処理剤の溶媒の大部分を短時間の間に蒸発させることが可能になるため、これらの問題の発生を適切に防ぐことができる。また、カールやコックリング等の問題は、一般的に、例えば高濃度のカラー画像を印刷する場合や、両面印刷を行う場合に、特に生じやすくなる。これに対し、上記のような構成を用いた場合、高濃度のカラー画像を印刷する場合や、両面印刷を行う場合等にも、カールやコックリング等の発生をより適切に防ぐことができる。
【0066】
また、上記においても説明をしたように、前処理剤としては、例えば、カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体を用いる。このように構成した場合、例えば、前処理剤を予め媒体に付着させることで、カラーインクの着弾の直後にカラーインクの粘度を高め、カラーインクの滲みをより効果的に防止することができる。また、これにより、例えば、高解像度かつ高画質な印刷を適切に行うことができる。また、例えば、カールやコックリングの防止と、滲みの防止とを適切に両立できる。
【0067】
また、この場合、前処理剤でカラーインクの成分を凝集させることにより、例えば、コーヒーステイン現象を防ぐこと等も可能になる。より具体的に、この場合、例えば、色材として顔料を含むインク等を用いる場合でも、カラーインクの着弾の直後にインクの粘度を高めることにより、その後に紫外線を照射することでインクの温度が高温になったとしても、インクの粘度について、コーヒーステイン現象が問題にならない粘度に適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、コーヒーステイン現象を適切に防止することができる。また、この場合、コーヒーステイン現象を防止することで、高い濃度での印刷(コーヒーステイン無し高濃度印刷)をより適切に行うことが可能になる。そのため、このように構成すれば、例えば、高い品質の印刷をより適切に行うことができる。また、この場合、前処理剤を用いることでカラーインクが滲み難くなっているため、例えばカラーインクについて、温度上昇を抑えた穏やかな条件で加熱すること等も可能になる。そして、この場合、コーヒーステイン現象について、より確実に防止することが可能になる。
【0068】
また、上記においても説明をしたように、前処理剤を用いてカラーインクの滲みを防ぐことにより、カラーインクへの紫外線の照射について、例えば、前処理剤を用いない場合と比べて穏やかな条件にすること等も考えられる。そのため、この場合、例えば、媒体に付着したカラーインクに対し、カラーインクの溶媒が沸騰しないように紫外線を照射すること等も考えられる。このように構成すれば、例えば、溶媒の突沸等によりカラーインクの表面が粗面化すること等を適切に防ぐことも可能になる。また、これにより、例えば、光沢性の高い印刷をより適切に行うこともできる。また、この場合、カラーインクとして、樹脂(バインダ樹脂等)を含むインク等を好適に用いることができる。このように構成すれば、例えば、カラーインクの表面が粗面化すること等をより適切に防ぐことができる。
【0069】
続いて、上記において説明をした構成の様々な特徴に関する補足説明を行う。上記においても説明をしたように、図1~4を用いて説明をした各構成においては、媒体へカラーインクを吐出する前に、前処理剤を吐出する。そして、この場合、前処理剤については、例えば、滲み防止用の瞬間乾燥型のインク等と考えることができる。また、前処理剤を吐出し、その直後に紫外線を照射する動作について、例えば、前処理剤をプリントし、その直後に紫外線を照射し、前処理剤を乾燥させながらプリプリントする工程(UV瞬間乾燥インクのプリプリントの工程)等と考えることができる。また、この場合、前処理剤を吐出した後に、媒体に対し、カラーインクを吐出する。この場合、カラーインクを吐出し、その直後に紫外線を照射する動作について、例えば、プリプリントされた前処理剤上にカラーインクをプリントし、その直後に紫外線を照射し、カラーインクを乾燥させながら画像を定着させる工程(UV瞬間乾燥カラーインクのプリントの工程)等と考えることができる。
【0070】
また、これらの工程において、前処理剤やカラーインクへ照射する紫外線については、求められる印刷の品質等に応じて、十分な強さ(光量)に設定することが考えられる。より具体的に、前処理剤へ照射する紫外線については、少なくとも、カールやコックリング等を防ぐことが可能になる量の溶媒を蒸発させる強さに設定することが考えられる。また、カラーインクへ照射する紫外線については、少なくとも、滲みが発生する前にカラーインクが十分に乾燥する強さに設定することが考えられる。また、カラーインクへ照射する紫外線については、更に、カラーインクの表面の粗面化等の問題が発生しない範囲の強さに設定することが好ましい。また、前処理剤及びカラーインクのいずれに対しても、照射する紫外線の最大供給エネルギーについて、インク等に焦げが発生しない範囲内に設定すること考えられる。この場合、最大供給エネルギーとは、例えば、照射される紫外線のエネルギーの最大値のことである。また、この場合、照射される紫外線のエネルギーは、紫外線の照射手段である紫外線光源202及び紫外線光源204(図1参照)の照射強度及び照射時間により決まる。また、照射時間については、例えば、印刷速度、印刷のパス数、プリントドット密度等の印刷の条件に応じて変化すると考えられる。そのため、最大供給エネルギーについては、これらの条件に応じて自動的又はユーザの手動により、インク等に焦げが発生しない範囲内に適宜調整を行うことが好ましい。
【0071】
また、上記においては、前処理剤について、主に、カラーインクの成分を凝集させる液体を用いる場合について、説明をした。しかし、印刷装置10の構成の変形例においては、前処理剤として、カラーインクの成分を凝集させる以外の用途の液体を用いることも考えられる。より具体的に、例えば、媒体への付着後に発色処理を行うインク(例えば、発色処理により発色する染料インク等)を用いる場合、前処理剤として、発色の助剤等を用いることも考えられる。この場合も、瞬間乾燥型の前処理剤を用いることにより、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。また、カールやコックリング等が問題にならない媒体を用いる場合等において、滲みの防止やコーヒーステイン現象を防ぐという観点等で考えた場合、例えば、瞬間乾燥型以外の前処理剤を用いること等も考えられる。この場合、例えば、前処理剤を吐出した後に瞬間乾燥型のカラーインクを媒体へ吐出することにより、インクの滲みの発生等をより適切に防ぐことができる。また、例えば前処理剤によりカラーインクの成分を凝集させることにより、コーヒーステイン現象を適切に防ぐこと等も可能になる。
【0072】
また、上記において説明をした各構成において、使用する媒体については、特に限定されない。また、印刷の速度や用途等についても、特に限定されない。より具体的に、例えば、前処理剤及びカラーインクを用いる場合、高速に印刷を行う高速プリンタにおいて、紙、布、Tシャツ等の縫製品等の吸収性で滲みが発生しやすい媒体を用いる場合にも、印刷時(プリント時)の滲み止めの効果を適切に得ることができる。また、前処理剤及びカラーインクを用いる構成については、例えば塩化ビニルシートや各種のプラスチックフィルム等の非吸収性の媒体への印刷時に用いる場合にも、急速乾燥による滲み止めの効果等を適切に得ることができる。
【0073】
また、印刷装置10の具体的な構成等についても、上記において説明をした構成に限らず、更に様々な変形をすることも可能である。例えば、紫外線光源(UVLED照射手段)を配設する位置については、印刷装置10の構成等に応じて、様々に変更可能である。この場合、例えば、シリアル型又はライン型等の走査の方式に合わせた位置に紫外線光源を設置することが考えられる。また、この場合、インクを吐出する走査動作においてインクジェットヘッドに対して相対的に媒体が移動する方向の下流側に、複数の条件で紫外線を照射する紫外線光源を配設してもよい。また、ライン型の構成の場合、例えば図4に示す構成のようにCMYKの各色用のインクジェットヘッドの下流側に個別に紫外線光源を配設する構成に限らず、CMYKの各色用の複数のインクジェットヘッドの下流側にインクジェットヘッドを配設して、CMYKの各色のインクへ一括して紫外線を照射してもよい。また、使用するインクの色についても、上記において説明をした色に限らず、様々な色のインクを用いてもよい。例えば、カラーインクとして使用するインクについては、CMYK等の基本色のインクに限らず、印刷の目的等に応じて、R(レッド、)G(グリーン)、B(ブルー)の各色や、その他の特色のインクを用いることも考えられる。また、特色のインクとしては、例えばメタリック色やパール色のインクを用いることが考えられる。また、印刷装置10において、特色のインクとして、例えば、クリア色や白色のインクを用いることも考えられる。この場合、クリア色や白色のインク用のインクジェットヘッドについては、CMYKの各色用のインクジェットヘッド(カラーインク用のインクジェットヘッド)と副走査方向における位置をずらして配設することが好ましい。
【0074】
また、使用するカラーインクや媒体等の特徴によっては、上記において説明をした前処理剤と同一又は同様の液体について、カラーインクより後に媒体へ吐出すること等も考えられる。より具体的に、この場合、例えば、瞬間乾燥型のカラーインクと、瞬間乾燥型の凝集用液体とを用いることが考えられる。凝集用液体とは、例えば、カラーインクの成分を凝集させる物質を含む液体のことである。また、この場合、例えば、媒体において印刷がされる各位置に対し、カラーインクよりも後で凝集用液体を吐出し、その後に、カラーインク及び凝集用液体へ紫外線を照射する。このように構成した場合も、滲みを抑えつつ、カラーインク及び凝集用液体を効率的かつ適切に乾燥させることができる。また、これにより、例えば、媒体へ吐出する液体の合計量が増加することで生じる問題の発生を適切に防ぐことができる。また、この場合も、カラーインクが凝集用液体と混ざった後に紫外線を照射することで、コーヒーステイン現象等を適切に防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば印刷装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
10・・・印刷装置、12・・・ヘッド部、14・・・媒体支持部、16・・・ガイドレール、18・・・走査駆動部、20・・・プリントヒータ、22・・・プレヒータ、24・・・アフターヒータ、30・・・制御部、50・・・媒体、102・・・インクジェットヘッド、104・・・インクジェットヘッド、106・・・紫外線照射部、202・・・紫外線光源、204・・・紫外線光源
図1
図2
図3
図4