IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-X線管 図1
  • 特許-X線管 図2
  • 特許-X線管 図3
  • 特許-X線管 図4
  • 特許-X線管 図5
  • 特許-X線管 図6
  • 特許-X線管 図7
  • 特許-X線管 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/16 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
H01J35/16
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018076993
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019186089
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
(72)【発明者】
【氏名】稲鶴 務
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-086861(JP,A)
【文献】特開2009-245806(JP,A)
【文献】特開2003-132826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0129046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/16
H01J 35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、
前記第1隔壁部を含む第1円筒部と、
前記第1円筒部の内部に配置されて前記第2隔壁部を含む第2円筒部と、
前記第1円筒部を前記第2円筒部に連結する連結部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記連結部は、前記隔壁接合部を含む、X線管。
【請求項2】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、
前記第1隔壁部を含む第1円筒部と、
前記第1円筒部の内部に配置されて前記第2隔壁部を含む第2円筒部と、
前記第1円筒部を前記第2円筒部に連結する連結部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第2円筒部は、前記隔壁接合部を含む、X線管。
【請求項3】
前記第1隔壁部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなる、請求項1又は2に記載のX線管。
【請求項4】
前記第1隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第1隔壁片部を含み、
前記複数の第1隔壁片部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、請求項1~3の何れか一項に記載のX線管。
【請求項5】
前記第2隔壁部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなる、請求項1~4の何れか一項に記載のX線管。
【請求項6】
前記第2隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第2隔壁片部を含み、
前記複数の第2隔壁片部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、請求項1~5の何れか一項に記載のX線管。
【請求項7】
前記金属部は、前記金属部と前記第1隔壁部との接合部分を覆う突出部を有する、請求項1~6の何れか一項に記載のX線管。
【請求項8】
前記バルブ部は、前記第1隔壁部から前記第2隔壁部に向けて体積抵抗が連続的に大きくなるように形成された一体物である、請求項1~7の何れか一項に記載のX線管。
【請求項9】
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下である、請求項1~8の何れか一項に記載のX線管。
【請求項10】
前記第1隔壁部を構成する材料及び前記第2隔壁部を構成する材料は、ガラスである、請求項1~9の何れか一項に記載のX線管。
【請求項11】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第1隔壁部を構成する材料及び前記第2隔壁部を構成する材料は、ガラスである、X線管。
【請求項12】
前記バルブ部は、前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部を有する、請求項11に記載のX線管。
【請求項13】
前記バルブ部は、前記第1隔壁部を含む第1円筒部と、前記第1円筒部の内部に配置されて前記第2隔壁部を含む第2円筒部と、前記第1円筒部を前記第2円筒部に連結する連結部と、を有する、請求項12に記載のX線管。
【請求項14】
前記第1円筒部は、前記隔壁接合部を含む、請求項13に記載のX線管。
【請求項15】
前記第1隔壁部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなる、請求項12~14の何れか一項に記載のX線管。
【請求項16】
前記第1隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第1隔壁片部を含み、
前記複数の第1隔壁片部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、請求項12~15の何れか一項に記載のX線管。
【請求項17】
前記第2隔壁部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなる、請求項12~16の何れか一項に記載のX線管。
【請求項18】
前記第2隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第2隔壁片部を含み、
前記複数の第2隔壁片部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、請求項12~17の何れか一項に記載のX線管。
【請求項19】
前記金属部は、前記金属部と前記第1隔壁部との接合部分を覆う突出部を有する、請求項12~18の何れか一項に記載のX線管。
【請求項20】
前記バルブ部は、前記第1隔壁部から前記第2隔壁部に向けて体積抵抗が連続的に大きくなるように形成された一体物である、請求項12~19の何れか一項に記載のX線管。
【請求項21】
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下である、請求項12~20の何れか一項に記載のX線管。
【請求項22】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第1隔壁部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなる、X線管。
【請求項23】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第1隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第1隔壁片部を含み、
前記複数の第1隔壁片部は、前記金属部と接合された端部から前記隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、X線管。
【請求項24】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第2隔壁部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなる、X線管。
【請求項25】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、
前記第1隔壁部を前記第2隔壁部に接合する隔壁接合部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記第2隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第2隔壁片部を含み、
前記複数の第2隔壁片部は、前記隔壁接合部から前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されている、X線管。
【請求項26】
X線出射部が設けられた金属部と、
前記金属部に接合され、前記金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、
前記真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、
前記バルブ部は、
前記金属部と接合される第1隔壁部と、
前記電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、を有し、
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低く、
前記バルブ部は、前記第1隔壁部から前記第2隔壁部に向けて体積抵抗が連続的に大きくなるように形成された一体物である、X線管。
【請求項27】
前記金属部は、前記金属部と前記第1隔壁部との接合部分を覆う突出部を有する、請求項22~26の何れか一項に記載のX線管。
【請求項28】
前記第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、前記第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下である、請求項22~27の何れか一項に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、ターゲットへの電子の衝突によりX線を発生させる。ターゲットへ電子を導くために、例えばターゲットに高い電圧が印加される。一方で、この電圧によって生じる他の部材との電位差は、不要な放電の原因となる。放電は、X線管を構成する部品にダメージを与えることがあり得る。例えば、特許文献1は、塵埃の付着に起因する沿面放電を抑制する技術を開示する。特許文献2は、放電による構成部品の破損を安定して抑制する技術を開示する。特許文献3は、耐電圧性能を向上させる技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4876047号公報
【文献】特開2009-245806号公報
【文献】特許第5800578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、X線管の高出力化が望まれている。高出力化のためには、X線管に入力される電圧をより高くする場合がある。その結果、不要な放電がより発生し易くなる。そのような放電を抑制するためには、各構成間における耐電圧能を向上することに加え、本来備えている耐電圧能の低下を抑制することも重要である。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、耐電圧能の低下を抑制し、放電を発生させ難くするX線管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るX線管は、X線出射部が設けられた金属部と、金属部に接合され、金属部と協働して真空領域を形成するバルブ部と、真空領域に収容される電子銃及びターゲットと、を備え、バルブ部は、金属部と接合される第1隔壁部と、電子銃及びターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部と、を有し、第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低い。
【0007】
バルブ部を用いたX線管においては、X線管内で発生した電子がバルブ部に入射し、バルブ部が帯電することで、バルブ部の耐電圧能が低下してしまうことがある。例えば、電子銃から出射された電子がターゲットに入射すると、一部の電子はX線や熱に変換されることなくターゲットによって反射され、その電子がバルブ部に入射する場合がある。X線の利用効率上、ターゲットはX線出射部の近傍に設けられる場合が多く、そのような場合、反射電子は、バルブ部のうち、X線出射部が設けられた金属部と接合される側に入射しやすいと考えられる。そこで、このX線管のバルブ部においては、金属部と接合される第1隔壁部と、電子銃及びターゲットのいずれか一方を固定する第2隔壁部とを有し、第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗よりも低い。これにより、第1隔壁部において、入射した電子を移動しやすくし、バルブ部の帯電を抑制することができ、帯電に起因する耐電圧能の低下を抑制し、放電を発生させ難くすることができる。
【0008】
バルブ部は、第1隔壁部を第2隔壁部に接合する隔壁接合部を有してもよい。この構成によれば、所望の位置において第1隔壁部と第2隔壁部とを接合することが可能になる。その結果、バルブ部において帯電を抑制した領域を所望の態様に制御することができる。
【0009】
バルブ部は、第1隔壁部を含む第1円筒部と、第1円筒部の内部に配置されて第2隔壁部を含む第2円筒部と、第1円筒部を第2円筒部に連結する連結部と、を有してもよい。この構成によれば、バルブ部の全長を長くし、バルブ部の内壁における沿面放電を抑制することができる。
【0010】
第1円筒部は、隔壁接合部を含んでもよい。また、連結部は、隔壁接合部を含んでもよい。この構成によれば、バルブ部において帯電を抑制した領域を所望の態様に制御することができる。
【0011】
第1隔壁部は、金属部と接合された端部から隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくてもよい。この構成によれば、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【0012】
第1隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第1隔壁片部を含み、複数の第1隔壁片部は、金属部と接合された端部から隔壁接合部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されてもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【0013】
第2隔壁部は、隔壁接合部から電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくてもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【0014】
第2隔壁部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第2隔壁片部を含み、複数の第2隔壁片部は、隔壁接合部から電子銃及び前記ターゲットのいずれか一方に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されてもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【0015】
金属部は、金属部と第1隔壁部との接合部分を覆う突出部を有してもよい。この構成によれば、バルブ部と金属部との接合箇所における放電の発生を抑制することができる。
【0016】
バルブ部は、第1隔壁部から第2隔壁部に向けて体積抵抗が連続的に大きくなるように形成された一体物でもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【0017】
第1隔壁部を構成する材料の体積抵抗は、第2隔壁部を構成する材料の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下でもよい。この構成によれば、バルブ部の帯電を安定して抑制することができる。
【0018】
第1隔壁部を構成する材料及び第2隔壁部を構成する材料は、ガラスでもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有するバルブ部を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によれば、耐電圧能の低下を抑制し、放電を発生させ難くするX線管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態のX線管の構成を示す断面図である。
図2】第1変形例のX線管の構成を示す断面図である。
図3】第2変形例のX線管の構成を示す断面図である。
図4】第3変形例のX線管の構成を示す断面図である。
図5】解析モデルを示す端面図である。
図6】第1解析例~第6解析例の結果としての等電位線を示す図である。
図7】第7解析例~第11解析例の結果としての等電位線を示す図である。
図8】第5解析例及び第12解析例の結果としての等電位線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
X線管3の構成について説明する。図1に示されるように、X線管3は、いわゆる反射型X線管と呼ばれるものであり、内部を真空に保持する真空外囲器としての真空筐体10と、電子発生ユニットとしての電子銃11と、ターゲットTとを備えている。電子銃11は、例えば、高融点金属材料等からなる基体に易電子放射物質を含浸させたカソードCを有する。また、ターゲットTは、例えば、タングステン等の高融点金属材料からなる板状部材である。ターゲットTの中心は、X線管3の管軸AX上に位置している。電子銃11及びターゲットTは、真空筐体10の内部に収容されており、電子銃11から出射された電子がターゲットTに入射するとX線が発生する。発生したX線は、X線出射窓33aを介して外部に照射される。
【0023】
真空筐体10は、主として、絶縁性材料(例えばガラス)により形成された絶縁バルブ12(バルブ部)と、X線出射窓33a(X線出射部)を有する金属部13とから構成されており、内部空間Sを有している。金属部13は、ターゲットTが収容される本体部31と、陰極となる電子銃11が収容される電子銃収容部32とを有する。
【0024】
本体部31は、筒状に形成されており、その一端部(外側端部)には、X線出射窓33aを有する蓋板33が固定されている。X線出射窓33aの材料は、X線透過材料であって、例えばベリリウムやアルミニウム等である。蓋板33によって、内部空間Sの一端側が閉鎖されている。本体部31は、フランジ部311と、円筒部312と、突出部313とを有する。フランジ部311は、本体部31の外周に設けられており、X線発生装置に固定される部分である。円筒部312は、本体部31の一端部側において円筒状に形成された部分である。突出部313は、円筒部312の他端部に接続され、X線管3の管軸方向(Z方向)に沿って突出する部分である。突出部313は、絶縁バルブ12と後述するリング部材14との接続部を後述する陽極61(ターゲット支持部60)から遮蔽するように内部空間Sに突出している。
【0025】
電子銃収容部32は、円筒状に形成されており、本体部31の一端部側の側部に固定されている。本体部31の中心軸線(すなわち、X線管3の管軸AX)と電子銃収容部32の中心軸線とは、略直交している。電子銃収容部32の内部は、電子銃収容部32の本体部31側の端部に設けられた開口32aを介して、本体部31の内部空間Sと連通している。
【0026】
電子銃11は、カソードCと、ヒータ111と、第1グリッド電極112と、第2グリッド電極113とを備えており、各構成の協働によって発生する電子ビームの径を小さくすること(微小焦点化)ができる。カソードC、ヒータ111、第1グリッド電極112及び第2グリッド電極113は、それぞれ平行に延びる複数の給電ピン114を介して、ステム基板115に取り付けられている。カソードC、ヒータ111、第1グリッド電極112及び第2グリッド電極113は、それぞれに対応する給電ピン114を介して外部から給電される。
【0027】
絶縁バルブ12は、略筒状に形成されている。絶縁バルブ12の一端部には、金属等からなるリング部材14が融着されている。リング部材14は、本体部31に接合されている。これにより、絶縁バルブ12の一端側は、リング部材14を介して本体部31に接続されている。一方、絶縁バルブ12の他端側には、内方に向けて延びる円筒状の内筒部12aが設けられている。つまり、絶縁バルブ12の他端部は、Z方向から見た絶縁バルブ12の中央部に孔部が画成されるように、全周にわたって内側に折り返されている。
【0028】
絶縁バルブ12の内筒部12aは、固定部15(詳しくは後述)を介して、陽極61(ターゲットTが先端に固定されたターゲット支持部60)を保持している。ターゲット支持部60は、例えば銅材等により棒状(円柱状)に形成されており、Z方向に延在している。ターゲット支持部60の先端側には、絶縁バルブ12側から本体部31側に向かうにつれて電子銃11から遠ざかるように傾斜する傾斜面60aが形成されている。ターゲットTは、傾斜面60aと面一になるように、ターゲット支持部60の端部に埋設されている。
【0029】
ターゲット支持部60(陽極61)の基端部60bは、絶縁バルブ12の下端部(すなわち、折り返し位置)よりも外側に突出しており、電源に接続されている。本実施形態では、真空筐体10(金属部13)が接地電位とされており、電源において陽極61(ターゲット支持部60)にプラスの高電圧が供給されるが、それとは異なる電圧印加形態を用いても良い。
【0030】
固定部15は、金属等からなる。固定部15は、ターゲット支持部60を絶縁バルブ12の他端部(内筒部12aの上端部72b)に対して固定するための部材である。固定部15は、その一端側がターゲット支持部60に固定され、他端側が内筒部12aの上端部72bに融着されることで、ターゲット支持部60(陽極61)を管軸AXに沿って(同軸に)延在するように固定するとともに、真空封止を行う。
【0031】
カバー電極19は、絶縁バルブ12の内筒部12aと固定部15との融着部分(接合部分)を外方から包囲する電極部材であり、ターゲット支持部60に固定される略円錐台状の先端部と、円筒状の基端部とが、滑らかに接続された略円筒形状に形成されている。カバー電極19は、特に発生しやすい上記融着部分への放電による絶縁バルブ12の損傷を防止するために設けられる。
【0032】
以下、図1を参照しつつ、絶縁バルブ12についてさらに詳細に説明する。一体成型物である絶縁バルブ12は、内筒部12a(第2円筒部)と、外筒部12b(第1円筒部)と、連結部12cと、を含む。また、上記のターゲットT、ターゲットTを支持するターゲット支持部60は陽極61を構成し、陽極61及び電子銃11は、X線発生部を構成する。さらに、金属部13及び絶縁バルブ12は、協働して真空領域(内部空間S)を形成する。
【0033】
内筒部12aは、円筒状を呈する。内筒部12aは、絶縁バルブ12において管軸AXの方向に沿って一定の直径を有する部分をいう。内筒部12aは、外筒部12bよりも細い管状の部分である。つまり、内筒部12aの外径は、外筒部12bの内径よりも小さい。内筒部12aは、その軸線が管軸AXと重複するように配置される。内筒部12aの一方の端部は、外筒部12bの内部に配置されている。さらには、内筒部12aは、カバー電極19の内側に配置されている。そして、内筒部12aは、固定部15に融着されている。さらに、内筒部12aは、連結部12cに繋がっている。また、内筒部12aの管軸AXに沿った長さは、外筒部12bの管軸AXに沿った長さよりも短い。
【0034】
外筒部12bは、円筒状を呈し、絶縁バルブ12の外形をなす。外筒部12bは、絶縁バルブ12において管軸AXの方向に沿って一定の直径を有する部分をいう。外筒部12bは、コバールガラス製のガラス連結部74を介して、金属製のリング部材14の一端に融着されている。すなわち、外筒部12bは、リング部材14を介して本体部31に接合されている。リング状の外筒部12bは、ガラス連結部74から管軸AXの方向に沿って延びる。
【0035】
内筒部12aと同様に、外筒部12bの軸線も管軸AXに重複する。そうすると、内筒部12aの外周面と外筒部12bの内周面との間には所定の隙間が形成される。また、内筒部12a及び外筒部12bは、絶縁バルブ12において管軸AXの方向に沿って一定の直径を有する部分であるから、同軸に配置によれば、内筒部12aの内周面から、外筒部12bの外周面までの距離(隙間)は、管軸AXに沿って一定である。換言すると、内筒部12aの内周面は、外筒部12bの外周面に対して平行であるともいえる。内筒部12aと外筒部12bとの間には、カバー電極19が配置されている。つまり、内筒部12aの外周面は、外筒部12bの内周面に対して直接に対面しない。
【0036】
連結部12cは、外筒部12bを内筒部12aに連結する。上述したように、内筒部12aと外筒部12bとの間には、隙間が形成される。連結部12cは、この隙間を閉鎖するものともいえる。実施形態の連結部12cは、円環面状(トーラス状)を呈する。
【0037】
上記のとおり、絶縁バルブ12を、内筒部12a、外筒部12b及び連結部12cの3個の部分に分けてその形状を説明した。絶縁バルブ12は、さらに材料特性に基づいて2個の部分に分けられる。
【0038】
絶縁バルブ12は、低抵抗ガラス部71(第1隔壁部)と、高抵抗ガラス部72(第2隔壁部)と、を有する。低抵抗ガラス部71は、高抵抗ガラス部72に対してガラス接合部73(隔壁接合部)において接合されている。つまり、絶縁バルブ12は、絶縁バルブ12を構成する材料自体が体積抵抗の違いを有する。ガラス接合部73は、低抵抗ガラス部71の端部71bと高抵抗ガラス部72の一方の端部72aの接合部分である。低抵抗ガラス部71は、高抵抗ガラス部72に対して体積抵抗が異なる。ここでいう「低抵抗」及び「高抵抗」は、低抵抗ガラス部71と高抵抗ガラス部72との間の相対的な体積抵抗の違いをいう。つまり、低抵抗ガラス部71の体積抵抗は、高抵抗ガラス部72の体積抵抗よりも小さいことを意味し、低抵抗ガラス部71に入射した電子は、高抵抗ガラス部72に入射した電子に比べて移動しやすいため、低抵抗ガラス部71は高抵抗ガラス部72に比べて帯電しにくいことを意味する。一例として、低抵抗ガラス部71の体積抵抗は、高抵抗ガラス部72の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下である。例えば、低抵抗ガラス部71は、体積抵抗が約1015[Ωcm]のホウケイ酸ガラスにより形成されている。一方、高抵抗ガラス部72は、体積抵抗が1018[Ωcm]のホウケイ酸ガラスにより形成されている。なお、図示を分かりやすくするために、低抵抗ガラス部71と、高抵抗ガラス部72とで壁の厚さ(構成するガラス部材の厚さ)を変えて記載しているが、当該壁の厚さは同じでもよく、厚さの大小関係が逆でもよい。
【0039】
外筒部12bは、低抵抗ガラス部71の全体と高抵抗ガラス部72の一部とを含む。つまり、外筒部12bは、ガラス接合部73を含む。連結部12c及び内筒部12aは、高抵抗ガラス部72の残りの部分を含む。つまり、連結部12cは全て高抵抗ガラス部72により構成されている。同様に、内筒部12aも全て高抵抗ガラス部72により構成されている。
【0040】
体積抵抗に注目して絶縁バルブ12を見たとき、絶縁バルブ12は、リング部材14と固定部15との間に互いに異なる体積抵抗を有する2個の部分を含む。具体的には、金属部13側の部分の体積抵抗は、固定部15側の部分の体積抵抗よりも小さい。この構成によれば、陽極61(ターゲット支持部60)及びカバー電極19の少なくとも一部は、低抵抗ガラス部71に包囲される。換言すると、陽極61(ターゲット支持部60)及びカバー電極19は、相対的に体積抵抗の小さい低抵抗ガラス部71と対面する。
【0041】
ここで、陽極61(ターゲット支持部60)には直流電圧が印加されるので、絶縁バルブ12の内部には、直流電界が形成される。絶縁バルブ12内とは、外筒部12bの内周面と陽極61(ターゲット支持部60)の外周面との間の領域、及び、外筒部12bの内周面とカバー電極19の外周面との間の領域を含む。直流電界における絶縁体中の電界の強さは、体積抵抗の値により決まる。例えば、体積抵抗が大きい領域には、電界が集中しやすい。つまり、絶縁バルブ12において、低抵抗ガラス部71が占める領域と、高抵抗ガラス部72が占める領域と、の関係は、絶縁バルブ12内の電界に影響する。低抵抗ガラス部71が占める領域及び高抵抗ガラス部72が占める領域は、ガラス接合部73の位置により示すことができる。
【0042】
実施形態に係る絶縁バルブ12では、ガラス接合部73が外筒部12bに設けられている。より詳細には、ガラス接合部73は、カバー電極19の一端(陽極61(ターゲット支持部60)に対する固定部側の端部)に対面する位置から、カバー電極19の他端に対面する位置の間に設けられている。この範囲には、ガラス接合部73がカバー電極19の一端に対面する構成を含む。同様に、ガラス接合部73がカバー電極19の他端に対面する構成も含む。このようなガラス接合部73の位置によれば、絶縁バルブ12内の内壁面が帯電することが抑制される。つまり、耐電圧能の低下を抑制し、放電の発生を抑制できる。
【0043】
以下、絶縁バルブ12が帯電する原因についてさらに詳細に説明する。絶縁バルブ12の帯電は、反射電子の絶縁バルブ12への入射によるものと、電界電子放出(Field Emission:FE)による電子の絶縁バルブ12への入射によるものと、2つの原因が考えられる。
【0044】
[反射電子の入射によるもの]
例えば、ターゲットTに入射した電子E1は、一定の割合で、X線や熱に変換されることなく再放出されて反射電子E2となる。反射電子E2の一部は、陽極61(ターゲット支持部60)等で反射されたりしながら絶縁バルブ12内を飛行し、外筒部12bの内壁面に入射する電子E3となる。
【0045】
なお、電子E1は、電子銃11において予め所望の電位差によって加速されてターゲットTに入射する。この際、ターゲットT表面からほぼ運動エネルギを損なうことなく反射する反射電子E2が一部発生する。この反射電子はX線管3内を飛行して直接、もしくは陽極61(ターゲット支持部20)の側壁に入射して再度反射電子E2を発生させ、電子E3として外筒部12bに入射する。この電子E3の入射によって、外筒部12bに帯電が生じる可能性がある。
【0046】
ここで、電子E3が入射する外筒部12bは、相対的に体積抵抗が低い低抵抗ガラス部71を含む。その結果、低抵抗ガラス部71に入射した電子E3は、リング部材14に向かって流れやすいので、電子E3を逃がすことができる。このように、絶縁バルブ12が帯電し難くなるので、絶縁バルブ12の耐電圧能が低下することなく、放電が抑制される。
【0047】
この観点に基づけば、外筒部12bにおいて、電子E3が入射し得る領域は、低抵抗ガラス部71によって構成されていることが望ましい。つまり、外筒部12bにおいて、ターゲットT側の部分は、低抵抗ガラス部71であってよい。
【0048】
[電界電子放出による電子の入射によるもの]
ところで、絶縁バルブ12を帯電させる電子は、反射電子E2の他にも存在する。具体的には、電界電子放出による電子であり、電界電子放出とは、周囲の電界に対してマイナスの電位である箇所から電子が放出される現象である。つまり、真空筐体10が内部空間Sの電位に対して相対的に負となる電位を持つ場合であり、例えば図1で示したX線管3のように、陽極61に対して正の高電圧(例えば100kV)を印加し、真空筐体10(金属部13)を接地電位とした場合である。真空筐体10は、ガラス連結部74とリング部材14とが接合された部分を含む。この部分では、真空(真空筐体10の内部)と、絶縁物(ガラス連結部74)と、金属(リング部材14)とが互いに接している。このような箇所は、トリプルジャンクション75と呼ばれる。トリプルジャンクション75では、電界が集中しやすいので、電界の強さは周囲よりも相対的に強くなりやすい。そして、トリプルジャンクション75からは、電界電子放出によって電子が真空側(絶縁バルブ12の内部側)に放出される。この放出された電子E4が、電子E3のように、外筒部12bの内壁面に入射することで、外筒部12bの内壁面が帯電する。
【0049】
そこで、実施形態の絶縁バルブ12は、体積抵抗が互いに異なる低抵抗ガラス部71及び高抵抗ガラス部72を組み合わせることにより、絶縁バルブ12内の電界の分布を制御する。具体的には、トリプルジャンクション75における電界の強度が弱くなるように、低抵抗ガラス部71及び高抵抗ガラス部72を組み合わせる。電界は、体積抵抗が高い場所に集中しやすい。そこで、実施形態の絶縁バルブ12は、トリプルジャンクション75側には、相対的に体積抵抗が小さい低抵抗ガラス部71を配置する。この構成によれば、トリプルジャンクション75の近傍における電界の強度が抑制されるので、電界電子放出が抑制される。つまり、絶縁バルブ12への電子入射自体を抑制することで、絶縁バルブ12が帯電し難くなるので、絶縁バルブ12の耐電圧能が低下することなく、放電が抑制される。
【0050】
[作用効果]
絶縁バルブ12を用いたX線管3においては、X線管3内で発生した電子が絶縁バルブ12に入射し、絶縁バルブ12が帯電することで、絶縁バルブ12の耐電圧能が低下してしまうことがある。例えば、電子銃11から出射された電子E1がターゲットTに入射すると、一部の電子E1はX線や熱に変換されることなくターゲットTによって反射され、その反射電子E2が絶縁バルブ12に入射する場合がある。X線の利用効率上、ターゲットTはX線出射窓33aの近傍に設けられる場合が多く、そのような場合、反射電子E2は、絶縁バルブ12のうち、X線出射窓33aが設けられた金属部13と接合される側に入射しやすいと考えられる。そこで、このX線管3の絶縁バルブ12においては、金属部13と接合される低抵抗ガラス部71と、ターゲットT(陽極61)を固定する高抵抗ガラス部72とを有し、低抵抗ガラス部71を構成する材料の体積抵抗は、高抵抗ガラス部72を構成する材料の体積抵抗よりも低い。これにより、低抵抗ガラス部71において、入射した電子E3を移動しやすくし、絶縁バルブ12の帯電を抑制することができ、帯電に起因する耐電圧能の低下を抑制し、放電を発生させ難くすることができる。また、絶縁バルブ12の金属部13と接合される側においてトリプルジャンクション75からの電界電子放出が発生しうる場合には、絶縁バルブ12のトリプルジャンクション75側に相対的に体積抵抗が小さい低抵抗ガラス部71を配置されているため、トリプルジャンクション75の近傍における電界の強度が抑制され、電界電子放出が抑制される。つまり、絶縁バルブ12への電子入射自体を抑制することで、絶縁バルブ12の帯電を抑制することができ、帯電に起因する耐電圧能の低下を抑制し、放電を発生させ難くすることができる。また、電界電子放出の際に発生する熱によって、近傍部材からのガス放出が発生し、真空筐体10内の真空度の低下によって放電が発生する可能性があるが、電界電子放出を抑制することで、このような真空度の低下による放電を発生させ難くすることができる。
【0051】
絶縁バルブ12は、絶縁バルブ12を構成する材料の特性によって表面抵抗値を制御する。この構成によれば、表面抵抗値を制御する付加的な部材を絶縁バルブの表面に張り付けるような構成と比べると、不均一な塗布による影響や塗布膜の剥がれといった不確定要素を排除できる。従って、確実に表面抵抗値を制御することができる。
【0052】
絶縁バルブ12は、低抵抗ガラス部71を高抵抗ガラス部72に接合するガラス接合部73を有する。この構成によれば、所望の位置において低抵抗ガラス部71と高抵抗ガラス部72とを接合することが可能になる。その結果、絶縁バルブ12において、帯電を抑制した領域を所望の態様に制御することができるとともに、その内部の電界の分布を所望の態様に制御することができる。
【0053】
絶縁バルブ12は、低抵抗ガラス部71を含む外筒部12bと、外筒部12bの内部に配置されて高抵抗ガラス部72を含む内筒部12aと、外筒部12bを内筒部12aに連結する連結部12cと、を有する。この構成によれば、絶縁バルブ12の全長を長くし、絶縁バルブ12の内壁における沿面放電を抑制することができる。
【0054】
外筒部12bは、ガラス接合部73を含む。この構成によれば、電子E3及び電子E4が入射し得る領域が低抵抗ガラス部71によって形成される。その結果、絶縁バルブ12の帯電を抑制することができる。さらに、絶縁バルブ12と金属部13との接合箇所における電界の強さを低減することが可能になる。その結果、不要な電子E4の発生を抑制することができる。
【0055】
金属部13は、絶縁バルブ12と陽極61(ターゲット支持部60)との間に配置された突出部313を有し、突出部313は、金属部13と低抵抗ガラス部71との接合部分を覆う。この構成によれば、絶縁バルブ12への反射電子E2の入射を好適に抑制することが可能である。さらに、絶縁バルブ12と金属部13との接合箇所において、放電の発生を抑制するとともに、電界の強度を弱めることができる。その結果、不要な電子E4の発生を抑制することができる。
【0056】
低抵抗ガラス部71を構成する材料の体積抵抗は、高抵抗ガラス部72を構成する材料の体積抵抗の10-5倍以上10-2倍以下である。この構成によれば、ターゲット支持部60と金属部13との間で、所望の電界分布を生じさせることが可能である。従って、絶縁バルブ12の帯電を安定して抑制することができる。
【0057】
低抵抗ガラス部71を構成する材料及び高抵抗ガラス部72を構成する材料は、ガラスである。この構成によっても、所望の体積抵抗を有する絶縁バルブ12を容易に製造することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。すなわち、X線管の各部の形状及び材料等は、上記実施形態で示した具体的な形状及び材料等に限定されない。
【0059】
[第1変形例]
図2に示すように、第1変形例のX線管3Aは、真空筐体10Aを有する。真空筐体10Aは、実施形態の絶縁バルブ12に代えて絶縁バルブ12Aを有する。この絶縁バルブ12Aは、ガラス接合部73が連結部12c1に設けられている。例えば、ガラス接合部73は、連結部12c1の頂部に設けられてもよい。この構成では、外筒部12b1は、全て低抵抗ガラス部71によって構成される。また、内筒部12a1は、全て高抵抗ガラス部72によって構成される。そして、連結部12c1は、低抵抗ガラス部71及び高抵抗ガラス部72を含む。つまり、断面が円弧状をなす連結部12c1において、外筒部12b1に連続する部分が低抵抗ガラス部71であり、内筒部12a1に連続する部分が高抵抗ガラス部72である。この構成によれば、電子E3又は電子E4が入射し得る範囲(つまり外筒部12b1)は、低抵抗ガラス部71によって構成される。従って、絶縁バルブ12Aの帯電を好適に抑制することができる。
【0060】
[第2変形例]
図3に示すように、第2変形例のX線管3Bは、真空筐体10Bを有する。真空筐体10Bは、実施形態の絶縁バルブ12に代えて絶縁バルブ12Bを有する。第2変形例の絶縁バルブ12Bは、ガラス接合部73が内筒部12a2に設けられている。例えば、ガラス接合部73は、カバー電極19に覆われている。つまり、ガラス接合部73と外筒部12b2との間には、カバー電極19が配置されている。この構成では、外筒部12b2は、全て低抵抗ガラス部71によって構成される。また、連結部12c2も、全て低抵抗ガラス部71によって構成される。そして、内筒部12a2は、低抵抗ガラス部71及び高抵抗ガラス部72を含む。この構成によっても、電子E3又は電子E4が入射し得る範囲(つまり外筒部12b2)は、低抵抗ガラス部71によって構成される。従って、絶縁バルブ12Bの帯電を好適に抑制することができる。
【0061】
[第3変形例]
上記実施形態では、X線発生部として反射型の装置を例示した。図4に示すように、第3変形例のX線管3Cは、真空筐体10Cと、X線発生部80と、を有する。真空筐体10Cは、本体部31Aを含む金属部13Aと、絶縁バルブ12Cと、を有する。X線発生部80は、透過型の装置である。透過型のX線発生部80は、電子銃81と、ターゲットT1とを有する。電子銃81は、管軸AXの方向に電子E5を出射するように、真空筐体10Cの内部に配置されている。例えば、円筒状の電子銃81は、その中心軸線が管軸AXと重複する。一方、電子銃81の出射部とは逆側の端部は、固定部15Aを介して絶縁バルブ12Cの内筒部12aと連結されている。電子銃81から放出された電子E5は、ターゲットT1に入射する。ターゲットT1は、X線出射窓33aの裏面に配置されている。この入射によって、X線が発生する。
【0062】
X線発生部80を有するX線管3Cでは、ターゲットT1に入射した電子E5の一部は、反射電子E6になる。そして、反射電子E6の一部は、絶縁バルブ12の外筒部12bに入射する電子E7となる。この入射によって、絶縁バルブ12に帯電が生じる。
【0063】
透過型のX線発生部80を有するX線管3Cによっても、絶縁バルブ12の帯電が抑制されるので、放電の発生を抑制することができる。
【0064】
[第4変形例]
実施形態に係る絶縁バルブ12において、低抵抗ガラス部71は、一定の体積抵抗を有していた。しかし、絶縁バルブが有する体積抵抗は、このような態様に限定されない。低抵抗ガラス部の体積抵抗は一定でなくともよい。つまり、一方の端部から他方の端部に向かって体積抵抗が変化してもよい。例えば、低抵抗ガラス部は、金属部13と接合された端部からガラス接合部73に向けて次第に体積抵抗が大きくなっていてもよい。これと同様に、高抵抗ガラス部72は、ガラス接合部73から陽極61(ターゲット支持部60)に接合された端部に向けて次第に体積抵抗が大きくなっていてもよい。この構成によれば、所望の体積抵抗を有する絶縁バルブを容易に製造することができる。
【0065】
[第5変形例]
第4変形例のように、低抵抗ガラス部に体積抵抗の勾配を設けるにあたり、例えば、体積抵抗の異なる隔壁片部を複数接合することにより構成してもよい。つまり、低抵抗ガラス部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第1隔壁片部を含む。複数の第1隔壁片部は、金属部13に接合された端部からガラス接合部73に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されてもよい。高抵抗ガラス部も同様である。要するに、高抵抗ガラス部は、互いに体積抵抗が異なる複数の第2隔壁片部を含む。複数の第2隔壁片部は、ガラス接合部73から陽極61(ターゲット支持部60)に接合された端部に向けて体積抵抗が大きくなるように配置されてもよい。この構成によっても、所望の体積抵抗を有する絶縁バルブを容易に得ることができる。
【0066】
[第6変形例]
実施形態の絶縁バルブ12は、低抵抗ガラス部71と高抵抗ガラス部72とが別の部品であり、両者を接合することにより得られるものとして説明した。しかし、放電抑制の効果を得るためには、この構成に限定されない。つまり、絶縁バルブにおいて、金属部13側の体積抵抗を、陽極61(ターゲット支持部60)側の体積抵抗より小さくすればよい。従って、第6変形例のX線管が備える絶縁バルブは、一体のガラス品であり、金属部13へ接合された端部から、陽極61(ターゲット支持部60)へ接合された端部に向かって連続的に体積抵抗が変化するものであってもよい。換言すると、第6変形例の絶縁バルブは、低抵抗ガラス部と高抵抗ガラス部とを含み、低抵抗ガラス部から高抵抗ガラス部に向けて体積抵抗が連続的に大きくなるように形成された一体物である。つまり、第6変形例の絶縁バルブは、ガラス接合部を有しない。この構成によっても、所望の体積抵抗を有する絶縁バルブを容易に得ることができる。
【0067】
[解析例]
以下、数値解析によって絶縁バルブの内部に形成される電界の様子を確認した結果を説明する。この解析により等電位線を得た。これらの結果によれば、絶縁バルブ93内の電界の様子がわかるので、例えば、電界電子放出の程度が予測できる。
【0068】
数値解析は、図5に示すモデルを用いた。モデルは、図1等に示すX線管3を単純化したものである。モデルは、X線管の構成として、陽極91と、電極カバー92と、絶縁バルブ93と、金属部94とを備え、金属製のX線管収容容器としてX線管収容部95を有する。電極カバー92は、絶縁バルブ93と陽極91との接続部96を覆っている。絶縁バルブ93は、低抵抗ガラス部93aと、高抵抗ガラス部94bと、を含む。低抵抗ガラス部93aは、コバールガラス97を介して金属部94の円筒部99に連結されている。陽極91と、絶縁バルブ93と、金属部94と、により囲まれる領域S5は、真空である。X線管収容部95と、金属部94と、絶縁バルブ93と、陽極91とにより囲まれる領域S6は、絶縁油により満たされているとした。
【0069】
そして、数値解析にあっては、図5に示す図を断面とし、管軸AXのまわりに回転対称のモデルに展開した。さらに、入力条件として、金属部94と陽極91との間に電位差を設けた。具体的には、X線管収容部95及び金属部94の電圧を0Vとし、陽極91の電圧を100kVとした。
【0070】
この数値解析では、2個のパラメータを設定した。第1のパラメータは、ガラス接合部73の位置である。ガラス接合部73の位置を、互いに異なる6個の位置に設定し、それぞれについて等電位線を得た。第2のパラメータは、低抵抗ガラス部93aと高抵抗ガラス部94bとの体積抵抗の比率である。体積抵抗の比率を、互いに異なる5個の比率に設定し、それぞれについて等電位線を得た。
【0071】
[ガラス接合部の位置]
【0072】
点P1は第1解析におけるガラス接合部73の位置を示す。第1解析例では、ガラス接合部73を電極カバー92と陽極91とが対面する領域に設定した。つまり、第1解析例では、内筒部12aは、低抵抗ガラス部93aと、高抵抗ガラス部93bと、を含む。第1解析例における等電位線は図6の(a)部である。
【0073】
点P2は第2解析におけるガラス接合部73の位置を示す。第2解析例では、ガラス接合部73を内筒部12aと連結部12cとの境界位置に設定した。第2解析例における等電位線は図6の(b)部である。
【0074】
点P3は第3解析におけるガラス接合部73の位置を示す。第3解析例では、ガラス接合部73を連結部12cに設定した。具体的には、連結部12cを断面視したときに現れる円弧の頂部とした。第3解析例における等電位線は図6の(c)部である。
【0075】
点P4は第4解析におけるガラス接合部73の位置を示す。第4解析例では、ガラス接合部73を電極カバー92の端部と対面する位置に設定した。この位置は、外筒部12bと連結部12cとの境界であるともいえる。つまり、第4解析例の絶縁バルブ93は、外筒部12bは、低抵抗ガラス部93aを含む。低抵抗ガラス部93aは、陽極91と電極カバー92と突出部98に対面する。第4解析例における等電位線は図6の(d)部である。
【0076】
点P5は第5解析におけるガラス接合部73の位置を示す。第5解析例では、ガラス接合部73を電極カバー92と対面する位置に設定した。つまり、第5解析例の絶縁バルブ93の外筒部に相当する部分は、低抵抗ガラス部93aと高抵抗ガラス部94bとを含む。低抵抗ガラス部93aは、陽極91と電極カバー92と突出部98とに対面する。第5解析例における等電位線は図6の(e)部である。
【0077】
点P6は第6解析例におけるガラス接合部73の位置を示す。第6解析例では、ガラス接合部73を突出部98と対面する位置に設定した。つまり、第6解析例の絶縁バルブ93は、そのほとんどが高抵抗ガラス部94bによって構成されるものとした。第6解析例における等電位線は図6の(f)部である。
【0078】
第1~第6解析例では、特に、円筒部99とコバールガラス97との接合部を含む領域R1に生じる等電位線に注目した。まず、第1、第2、第3解析例の等電位線(図6の(a)部、(b)部及び(c)部)を確認すると、図1におけるトリプルジャンクション75に相当する領域R1に電界が集中している様子が確認できた。つまり、第1、第2、第3解析例におけるガラス接合部73の位置では、電界電子放出が生じる可能性が高いことがわかった。
【0079】
一方、第4、第5、第6解析例の等電位線(図6の(d)部、(e)部及び(f)部)を確認すると、領域R1に電界が集中している様子は確認できなかった。つまり、第4、第5、第6解析例におけるガラス接合部73の位置では、電界電子放出が生じる可能性が低いことがわかった。従って、トリプルジャンクション75における電界電子放出を抑制する観点によれば、第4、第5、第6解析例のモデルに示されるガラス接合部73の位置が好適であることがわかった。
【0080】
さらに、絶縁バルブ93の帯電抑制の観点によれば、絶縁バルブ93の外筒部が低抵抗ガラス部93aによって形成されていることが好適である。つまり、第1~第5解析例のモデルに示されるガラス接合部73の位置が好適である。
【0081】
そうすると、電界電子放出を抑制する観点と帯電抑制の観点とを併せて鑑みれば、第4及び第5解析例に示されるガラス接合部73の位置が好適であることがわかった。実施形態に係る絶縁バルブ93は、第5解析例のモデルと対応する。従って、実施形態に係る絶縁バルブ93は、トリプルジャンクション75の近傍における電界の集中を抑制し、電界電子放出を好適に抑制し得ることが確認できた。
【0082】
[体積抵抗の比率]
次に、上記第5解析例のモデルを用いて、低抵抗ガラス部93aと高抵抗ガラス部94bとの体積抵抗の比率が等電位線に及ぼす影響を確認した。低抵抗ガラス部93aと高抵抗ガラス部94bとの比率は、低抵抗ガラス部93aを基準として、高抵抗ガラス部94bの体積抵抗を1倍(第7解析例)、10倍(第8解析例)、10倍(第9解析例)、10倍(第10解析例)、10倍(第11解析例)に設定した。換言すると、比率は、高抵抗ガラス部94bを基準として、低抵抗ガラス部93aの体積抵抗を1倍、10-1倍、10-2倍、10-3倍、10-4倍である。
【0083】
図7の(a)部は、第7解析例の結果である。図7の(b)部は、第8解析例の結果である。図7の(c)部は、第9解析例の結果である。図7の(d)部は、第10解析例の結果である。図7の(e)部は、第11解析例の結果である。
【0084】
第7~第11解析例では、特に低抵抗ガラス部93aで構成された領域と高抵抗ガラス部93bで構成された領域における等電位線の密度の違いに着目した。第7、第8解析例と比較して第9、第10、第11解析例では、高抵抗ガラス部93bで構成された領域側において、より等電位線の密度が高く、電界が集中している様子が確認できた。つまり、低抵抗ガラス部93aで構成された領域側の領域R1(図1におけるトリプルジャンクション75)における電界集中を抑制し電界電子放出を抑制し得ることが確認できた。また、第10、第11解析例を比較すると、等電位線の密度に対して優位な差を生じさせなかった。つまり、必要以上に体積抵抗を低下させることは、等電位線の密度に大きな影響を与えない一方で、低抵抗ガラス部93aに流れる電流量を増加させることにつながり、低抵抗ガラス部93aにおける絶縁性能を低下させることになると判断される。従って、体積抵抗の比率は、総合的に考慮すると、低抵抗ガラス部93aを基準として、高抵抗ガラス部94bの体積抵抗を10倍以上10倍以下とすることが好適であることがわかった。換言すると、高抵抗ガラス部94bを基準とした場合には、低抵抗ガラス部93aの体積抵抗を10-5倍以上10-2倍以下に設定すればよい。
【0085】
[突出部の作用]
ところで、トリプルジャンクション75を形成する部分は、突出部98によって覆われている。換言すると、トリプルジャンクション75を形成する部分とターゲット支持部60との間には突出部98が配置されている。この突出部98の作用について、解析により確認した。
【0086】
第12解析例では、第5解析例のモデルから突出部を除いたモデルを用いた。図8の(a)部は、第12解析例の結果を示す。図8の(a)部は、等電位線を示す。なお、図8の(b)部は、第5解析例の結果を再度示すものである。
【0087】
トリプルジャンクション75の近傍の領域R1に注目すると、突出部98が存在する場合(第5解析例)には、電界の強い部分が形成されていなかった。それに対して、突出部98が存在しない場合(第12解析例)には、電界の強い部分が形成されていた。従って、突出部98は、トリプルジャンクション75の近傍の領域R1における電界を弱める作用があることを確認できた。
【符号の説明】
【0088】
3,3A,3B,3C…X線管、12,12A,12B…絶縁バルブ(バルブ部)、12a…内筒部(第2円筒部)、12b…外筒部(第1円筒部)、12c…連結部、13…金属部、60…ターゲット支持部、71…低抵抗ガラス部(第1隔壁部)、72…高抵抗ガラス部(第2隔壁部)、73…ガラス接合部(隔壁接合部)、E1,E3,E4…電子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8