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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】切片作製部材
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
G01N1/06 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018142767
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020020603
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】509308953
【氏名又は名称】株式会社シンテック
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 馨
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 弘嗣
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-033312(JP,A)
【文献】特開平09-021733(JP,A)
【文献】登録実用新案第3016900(JP,U)
【文献】特開平06-323967(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、
前記容器本体における第1水平方向の一端部に設けられ、試料から切片を切り出すナイフ部と、
前記ナイフ部で切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、
前記切片を載置する載置面を有した板状のグリッドが、前記載置面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、
前記第1水平方向と直交する第2水平方向を前記容器本体の幅方向としたとき、前記グリッド収容部が、前記容器本体の幅方向両側にそれぞれ設けられている、切片作製部材。
【請求項2】
前記グリッド収容部が、前記グリッドの一部を前記液体貯留部に貯留される前記液体の液面よりも上方に突出させた状態で前記グリッドを収容する請求項1に記載の切片作製部材。
【請求項3】
容器本体と、
試料から切片を切り出すナイフ部と、
前記ナイフ部で切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、
前記切片を載置する板状のグリッドが、その厚さ方向の一方の面である第1の面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、
前記グリッド収容部が、前記グリッドの一部を前記液体貯留部に貯留される前記液体の前記液面よりも上方に突出させた状態で前記グリッドを収容するように構成され、
前記グリッド収容部が、前記グリッドを、前記第1の面の下側が第1の壁部に突き当てられ、前記グリッドの前記厚さ方向の他方の面である第2の面の上側が第2の壁部によって支持されることによって、前記第1の面が前記ナイフ部側に向かって漸次下方に傾斜した状態で収容するように構成されている、切片作製部材。
【請求項4】
前記グリッド収容部が、水平面を基準とした前記グリッドの傾斜角度が40°以上となるように収容する、請求項3に記載の切片作製部材。
【請求項5】
水平方向において一端部および他端部を有する容器本体と、
前記容器本体における前記一端部に設けられ、試料から切片を切り出すナイフ部と、
前記容器本体内に設けられ、前記ナイフ部によって切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、
前記切片を載置する載置面を有した板状のグリッドが、前記載置面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、
前記グリッド収容部が、前記液体貯留部の前記水平方向の中央よりも前記一端部に近い側に設けられている、切片作製部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切片作製部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡等で観察する切片を試料から切削するナイフ部と、ナイフ部で切削された切片をストックするストック部と、ストック部に隣接して設けられたグリッド載物用の凹陥部と、を備える電子顕微鏡凍結切片作製用クライオ・ドライダイヤモンドナイフが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この電子顕微鏡凍結切片作製用クライオ・ドライダイヤモンドナイフでは、ナイフ部で切削された切片を、まつ毛プローブでストック部にストックする。その後、ストック部にストックされている切片を、まつげプローブによって凹陥部方向にずらし、凹陥部にセットされたグリッドの上面に移載する。次に、切片を載物したグリッドをピンセットで把持して凹陥部から取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3016900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電子顕微鏡凍結切片作製用クライオ・ドライダイヤモンドナイフでは、ナイフ部で切削された切片をグリッドの上面に載せるまでに、ナイフ部で切削された切片のストック部への移動、およびストック部から凹陥部にセットされたグリッドへの移載と、2段階の作業を経る必要がある。このため、切片をグリッド上に載せて取り出すまでに、手間が掛かるという問題がある。
【0005】
さらに、切削された切片を、容器内に貯留された水の水面上に浮かべ、グリッドによって掬い取る場合もある。この場合、作業者は一方の手でグリッドを支持し、他方の手でまつげプローブによって切片をたぐり寄せる必要があり、狭い領域での両手の作業は困難であるとともに、水面張力等の作用によって、水面上に浮かんだ切片をグリッドに載せるのが困難な場合もある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、切片をグリッド上に容易かつ確実に載せて、観察用試料の作製を効率良く行うことができる切片作製部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、容器本体と、前記容器本体における第1水平方向の一端部に設けられ、試料から切片を切り出すナイフ部と、前記ナイフ部で切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、前記切片を載置する載置面を有した板状のグリッドが、前記載置面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、前記第1水平方向と直交する第2水平方向を前記容器本体の幅方向としたとき、前記グリッド収容部が、前記容器本体の幅方向両側にそれぞれ設けられている切片作製部材を提供する。
【0008】
本態様によれば、液体貯留部とグリッド収容部とは、の液面を含む領域で連通する。ナイフ部によって試料から切り出された切片は、液体貯留部に貯留された液体に浮かぶ。液体に浮かんだ切片はグリッド収容部に移動さ、グリッド収容部に収容されたグリッドの載置面に載せられる。グリッドは、載置面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されているので、液体の液面に浮かぶ切片を、斜め上方を向く載置面に載せればよい。このようにして、切片をグリッド上に容易かつ確実に載せることが可能となる。例えば、本態様を用いると、容器本体内のスペースにおいて、グリッド収容部を幅方向両側に配置することによってナイフ部に近接した側にグリッド収容部を配置でき、これにより、限られた視野である顕微鏡の視野の範囲内にグリッド収容部が収まりやすくなり、これは観察用試料の作製作業の容易化に寄与できる。
【0009】
上記態様においては、前記グリッド収容部が、前記グリッドの一部を前記液体貯留部に貯留される前記液体の液面よりも上方に突出させた状態で前記グリッドを収容していてもよい。
このようにすることで、切片をグリッドの載置面に載せる際、液面から上方に突出したグリッドの一部をピンセット等で容易に保持することができる。したがって、切片をグリッド上に載せる作業を容易に行うことが可能となる。
【0010】
本発明の他の態様は、容器本体と、試料から切片を切り出すナイフ部と、前記ナイフ部で切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、前記切片を載置する板状のグリッドが、その厚さ方向の一方の面である第1の面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、前記グリッド収容部が、前記グリッドの一部を前記液体貯留部に貯留される前記液体の前記液面よりも上方に突出させた状態で前記グリッドを収容するように構成され、前記グリッド収容部が、前記グリッドを、前記第1の面の下側が第1の壁部に突き当てられ、前記グリッドの前記厚さ方向の他方の面である第2の面の上側が第2の壁部によって支持されることによって、前記第1の面が前記ナイフ部側に向かって漸次下方に傾斜した状態で収容するように構成されている、切片作製部材である。
本態様では、上記のように、グリッドの下端を第1の壁部に突き当てることで、グリッドをその上端から下端に向かってナイフ部側に向かって漸次下方に傾斜するように配置できる。このようにグリッドを配置し、切片をグリッドに近づけていくと、切片の移動方向前方の端部がグリッドの載置面に接触する。その後、グリッドを載置面に沿った方向に斜めに引き上げていけば、切片をグリッド上に容易かつ確実に載せることができる。
【0011】
上記態様においては、前記液体貯留部および前記グリッド収容部を囲う周壁部と、前記周壁部の内側で、前記液体貯留部と前記グリッド収容部とを区画し、前記周壁部よりも低く形成された区画壁とを備え、前記区画壁の上方が前記液面を含む領域とされていてもよい。
このようにすることで、周壁部の内側に液体を入れ、その液面レベルを区画壁よりも上方となるようにすれば、液体貯留部とグリッド収容部の間で液体が連通する。これにより、液体貯留部とグリッド収容部との間で切片を液体に浮かべたまま、容易に移動させることができる。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、水平方向において一端部および他端部を有する容器本体と、前記容器本体における前記一端部に設けられ、試料から切片を切り出すナイフ部と、前記容器本体内に設けられ、前記ナイフ部によって切り出された前記切片が浮かぶ液体が貯留される液体貯留部と、前記切片を載置する載置面を有した板状のグリッドが、前記載置面を斜め上方に向けた状態で傾斜して収容されるグリッド収容部であって、前記液体貯留部と前記液体の液面を含む領域で連通するグリッド収容部と、を備え、前記グリッド収容部が、前記液体貯留部の前記水平方向の中央よりも前記一端部に近い側に設けられている、切片作製部材である。
このようにすることで、ナイフ部によって試料から切り出された切片を、グリッド収容部に収容されたグリッドまで移動させる際、切片の移動量が少なくて済む。また、ナイフ部で切片の切り出し作業を行う際に用いる顕微鏡の視野の範囲内に、グリッド収容部までが収まりやすくなる。したがって、観察用試料の作製作業を容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、切片をグリッド上に容易かつ確実に載せて、観察用試料の作製を効率良く行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る切片作製部材の全体構成を示す斜視図である。
図2図1の切片作製部材の平面図である。
図3図1の切片作製部材の液体貯留部の底面形状を示す側面図である。
図4図1の切片作製部材のグリッド収容部を示す斜視図である。
図5図1の切片作製部材のグリッド収容部を示す平面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る切片作製部材のグリッド収容部を示す断面図である。
図7図6切片作製部材の変形例を示す断面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る切片作製部材のグリッド収容部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る切片作製部材1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る切片作製部材1は、図1および図2に示されるように、容器本体10と、容器本体10に形成されたナイフ部2と、液体貯留部3と、グリッド収容部4と、連通部5とを備えている。
【0016】
容器本体10は、平面視長方形状で、底部11と、底部11の外周部から底部11に直交して上方に立ち上がる周壁部12とを一体的に備えている。容器本体10の下部10dは、切片切出し装置(図示無し)に設けられた溝部(図示無し)に嵌め込まれる。
【0017】
周壁部12の上端12tは、周壁部12の全周にわたって、底部11から一定の高さに形成されている。周壁部12の内側は、上方に向かって開口している。
図1および図3に示されるように、周壁部12の内側には、平面視長方形状の容器本体10において長辺方向一方の端部10aから他方の端部10b側に向かって漸次下方に傾斜する傾斜面13が形成されている。
【0018】
ナイフ部2は、容器本体10の端部10aに設けられている。ナイフ部2は、傾斜面13の上端部に設けられている。ナイフ部2は、刃先角度が35°から45°の範囲であることが好ましい。本実施形態においては、一例として、容器本体10の端部10aにおいて、周壁部12の外周面12fと、傾斜面13とに沿う開き角を有しているナイフ部2を用いて説明する。ナイフ部2は、切片切出し装置に保持された試料に対し、容器本体10を上方に相対移動させることで、試料から所定の厚さの切片100を切り出す。
なお、切片100を切り出す試料は、生体、樹脂、金属または電子基板等そのものであってもよいし、生体、樹脂、金属または電子基板等を樹脂等に埋設したものであってもよい。
【0019】
液体貯留部3は、容器本体10において周壁部12の内側に形成されている。液体貯留部3は、ナイフ部2が設けられた容器本体10の一方の端部10a側が、端部10aと端部10bとを結ぶ方向に直交する方向の幅寸法が小さい狭幅部3Aとされ、他方の端部10b側が、狭幅部3Aよりも幅寸法の大きい広幅部3Bとされている。
【0020】
液体貯留部3の狭幅部3Aの底面は、傾斜面13によって形成されている。液体貯留部3の広幅部3Bの底面は、傾斜面13の下端と、容器本体10の端部10bとの間で下方に湾曲した湾曲面14により形成されている。
【0021】
液体貯留部3内には、純水等、不純物のない水(液体:図6参照)Wが貯留される。水Wは、例えば、周壁部12の上端12tレベルまで満たされる。液体貯留部3内の水Wには、ナイフ部2で切り出された切片100が浮かぶようになっている。
【0022】
グリッド収容部4は、図4に示されるように、切片100を載置するグリッド200を収容する。
グリッド200は、例えば円板状で、その一面側に切片100を載置する載置面200fを有している。グリッド200には、その両面を貫通する貫通孔200hを形成してもよい。また、グリッド200の表面に、支持膜(コロジオンまたはカーボン等)を施してもよい。グリッド200は、板状ではなく、メッシュ状に形成してもよい。
【0023】
グリッド収容部4は、図1および図2に示されるように、容器本体10において、ナイフ部2が設けられた一方の端部10a側に設けられている。グリッド収容部4は、液体貯留部3の狭幅部3Aの幅方向両側にそれぞれ設けられている。すなわち、グリッド収容部4は、液体貯留部3において、ナイフ部2に近接した端部10a側(狭幅部3A側)に設けられている。
【0024】
各グリッド収容部4は、グリッド200を収容する収容凹部41を備えている。本実施形態において、各グリッド収容部4は、図5に示されるように、容器本体10の端部10aと端部10bとを結ぶ長手方向に2つの収容凹部41が並んで設けられている。
【0025】
グリッド収容部4には、図4に示されるように、周壁部12の上端12tよりも所定寸法低い位置に、水平面42が形成されている。水平面42は、液体貯留部3に貯留される水Wの液面レベルWLよりも低い位置に設けられている。各収容凹部41は、水平面42から下方に窪むように形成されている。
【0026】
各収容凹部41は、例えば、容器本体10の端部10aと端部10bとを結ぶ長手方向に長い平面視長円形状とされている。各収容凹部41において、容器本体10の長手方向に直交する短手方向の一方側の壁部41aと、他方側の壁部41bとは、間隔をあけて互いに平行に設けられている。収容凹部41の一方側の壁部41aは、周壁部12により形成されている。収容凹部41の他方側の壁部41bは、後述する区画壁15により形成されている。
【0027】
連通部5は、液体貯留部3の狭幅部3Aと、その両側にそれぞれ設けられたグリッド収容部4との間に形成されている。連通部5は、液体貯留部3の狭幅部3Aとグリッド収容部4の間に設けられた区画壁15によって形成されている。区画壁15は、周壁部12の内側において、液体貯留部3の狭幅部3Aとグリッド収容部4の各収容凹部41とを区画する。
区画壁15は、周壁部12の上端12tよりも低く形成されている。本実施形態において、区画壁15の上端は、水平面42に連続している。区画壁15は、液体貯留部3に貯留される水Wの液面レベルWLよりも下方に設けられている。これにより、区画壁15の上方において、液体貯留部3に貯留される水Wは、液面レベルWLを含む液面近くの領域において、収容凹部41に連通する。すなわち、区画壁15の上方が、連通部5である。
【0028】
このような切片作製部材1において、板状のグリッド200は、図4に示されるように、グリッド収容部4の収容凹部41に、切片100が載置される載置面200fを斜め上方に向けた状態で傾斜して収容される。具体的には、グリッド200は、その下端200aを、収容凹部41の壁部41b(区画壁15)と底面41cとの角部に突き当てた状態で、上端200b側を、壁部41a(周壁部12)に立て掛けるようにして収容される。このように、グリッド200は、下端200aを液体貯留部3との区画壁15である壁部41b側に突き当てることで、上端200bから下端200aに向かって、狭幅部3Aに設けられたナイフ部2側に漸次下方に傾斜している。
【0029】
このとき、グリッド200は、水平面を基準とした傾斜角度θが、40°以上70°以下となるように収容凹部41に収容されるのが好ましい。収容凹部41に収容されるグリッド200のさらに好ましい傾斜角度θは、45°以上60°以下である。これにより、グリッド200の載置面200fに、水Wに浮かべた切片100を載置させやすくなる。
【0030】
また、グリッド200は、グリッド収容部4の収容凹部41に、上端200b側の少なくとも一部を、水Wの液面レベルWLよりも上方に突出した状態で収容される。グリッド200の液面レベルWLから上方への突出寸法は、例えば、グリッド200の直径が3mmである場合、0.1mmから0.5mm程度とするのが好ましい。
【0031】
このように構成された本実施形態に係る切片作製部材1を用いて切片100を形成するには、切片作製部材1を、切片100を切り出す試料を保持した切片切出し装置に対向してセットする。このとき、グリッド収容部4の収容凹部41に、グリッド200を収容しておく。
【0032】
その後、切片切出し装置に保持された試料に対し、容器本体10に設けられたナイフ部2を上方に相対移動させる。これにより、試料から所定の厚さの切片100が切り出される。図4に示されるように、切片100は、ナイフ部2から液体貯留部3の狭幅部3Aに貯留された水W上に浮かぶ。
【0033】
作業者は、まつ毛プローブ等を用い、水W上に浮かんだ切片100を、液体貯留部3から連通部5を経て、グリッド収容部4に移動させていく。さらに、切片100を、グリッド収容部4の収容凹部41に収容されたグリッド200の載置面200fに寄せる。グリッド200は傾斜しているので、切片100において、移動方向前方の端部100fがグリッド200の載置面200fに接触した状態で、グリッド200をピンセット等で保持して上方に引き上げると、載置面200fに切片100が順次付着する。
【0034】
このようにして、切片100がグリッド200の載置面200fに載置された後、グリッド200を切片作製部材1から取り出す。このとき、複数枚の切片100を、一つのグリッド200の載置面200fに載置して取り出してもよい。
その後、グリッド200に載置されて取り出された切片100は、観察用試料として試料ホルダー等に移載され、電子顕微鏡等で観察される。
【0035】
このように、本実施形態に係る切片作製部材1によれば、液体貯留部3とグリッド収容部4とが、連通部5を通して連通する。これにより、ナイフ部2によって試料から切り出された切片100は、水Wに浮かべたまま、連通部5を通してグリッド収容部4に移動させ、グリッド200の載置面200fに載せることができる。しかも、グリッド収容部4が、載置面200fを斜め上方に向けた状態でグリッド200を傾斜させて収容している。これにより、水Wの液面に浮かぶ切片100を、斜め上方を向く載置面200fに容易かつ確実に載せることができる。したがって、切片100をグリッド200上に容易かつ確実に載せて、観察用試料の作製を効率良く行うことができる。
【0036】
また、グリッド200が、その一部を液面レベルWLよりも上方に突出させた状態でグリッド収容部4に収容されている。このようにすることで、切片100をグリッド200の載置面200fに載せる際、液面から上方に突出したグリッド200の一部をピンセット等で容易に保持することができる。したがって、切片100をグリッド200上に載せて取り出す作業を容易に行うことが可能となる。
【0037】
また、グリッド収容部4が、グリッド200を、ナイフ部2側に向かって漸次下方に傾斜した状態で収容している。このようにすることで、グリッド200の載置面200fが、ナイフ部2から切り出された切片100側(切片100が移動されてくる側)を向くことになる。これにより、グリッド200に近づけていけば、切片100をグリッド200に容易かつ確実に載せることができる。
【0038】
また、液体貯留部3とグリッド収容部4とを区画する区画壁15の上方が連通部5とされている。このようにすることで、周壁部12の内側に水Wを入れ、その液面レベルWLを区画壁15よりも上方となるようにすれば、液体貯留部3とグリッド収容部4との間で水Wが連通する。これにより、液体貯留部3とグリッド収容部4との間で切片100を水Wに浮かべたまま、容易に移動させることができる。
【0039】
また、グリッド収容部4が、液体貯留部3においてナイフ部2に近接した側に設けられている。このようにすることで、ナイフ部2によって試料から切り出された切片100を、グリッド収容部4に収容されたグリッド200まで移動させる際、切片100の移動量が少なくて済む。また、ナイフ部2で切片100の切り出し作業を行う際に用いる顕微鏡の視野の範囲内に、グリッド収容部4までが収まりやすくなる。したがって、切片100の作製作業を容易に行うことが可能となる。
【0040】
なお、上記実施形態においては、グリッド収容部4を、液体貯留部3の狭幅部3Aの両側に設け、それぞれ2つの収容凹部41を並設するようにしたが、その設置数、配置等については適宜変更することができる。
例えば、図6および図7に示すように、グリッド収容部4Bは、液体貯留部3の狭幅部3Aに対し、容器本体10の端部10aと端部10bとを結ぶ長手方向に2つの収容凹部41を並べるとともに、容器本体10の短手方向に前後して収容凹部41を2列に設けるようにしてもよい。容器本体10の短手方向に前後する収容凹部41間には、収容凹部間連通部25を形成する。液体貯留部3に貯留される水Wを、連通部5および収容凹部間連通部25を介して、複数の収容凹部41に連通させる。これにより、切片100を、水Wに浮かべたまま移動し、各収容凹部41に収容されるグリッド200に載置させることができる。
【0041】
また、例えば、図8に示されるように、グリッド収容部4Cの収容凹部41Cは、所定の角度で傾斜した傾斜面45を備えていてもよい。グリッド200は、載置面200fを斜め上方に向けた状態で、傾斜面45に沿って設けられ、その下部側が、水Wの液面レベルWLよりも下方に沈み、上部側が液面レベルWLよりも上方に露出する。
このような構成においても、水Wに浮かべた切片100を、連通部5を通してグリッド収容部4のグリッド200の載置面200fに載置することができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、液体貯留部3の広幅部3Bの底面が、下方に湾曲した湾曲面14により形成されているものを例示したが、これに代えて、平面等の湾曲していないものを採用してもよい。
また、上記実施形態においては、液体貯留部3内に貯留される液体として、不純物のない水Wを採用したが、これに代えて、水にエタノール等を少量添加して表面張力を調整したもの等、他の液体を採用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 切片作製部材
2 ナイフ部
3 液体貯留部
4,4B,4C グリッド収容部
5 連通部
12 周壁部
15 区画壁
100 切片
200 グリッド
200f 載置面
W 水(液体)
WL 液面レベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8