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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/66 20060101AFI20220712BHJP
   B21B 37/58 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B21B37/66
B21B37/58 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018165951
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020037124
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】堂前 行宏
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-165211(JP,A)
【文献】特開昭49-133257(JP,A)
【文献】国際公開第2006/123394(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/136435(WO,A1)
【文献】特開平05-317945(JP,A)
【文献】特開2003-025007(JP,A)
【文献】特開昭62-016811(JP,A)
【文献】特開平01-313104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロールを備えた圧延機におけるロールギャップを制御する制御装置であって、
前記複数のロールに含まれる2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、前記制御対象ロールにおける複数の回転位置Aでのギャップ操作量を記憶するように構成された記憶ユニットと、
前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、前記制御対象ロールの回転位置を取得するように構成された回転位置取得ユニットと、
前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を、前記記憶ユニットに記憶された前記ギャップ操作量に基づき設定し、前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて設定した前記ギャップ操作量を合計することで、合計のギャップ操作量を設定するように構成されたギャップ操作量設定ユニットと、
前記ギャップ操作量設定ユニットが設定した前記合計のギャップ操作量に基づき、前記ロールギャップを操作する操作ユニットと、
を備え、
前記ギャップ操作量設定ユニットは、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置がいずれかの前記回転位置Aに一致する場合は、一致する前記回転位置Aに対応する前記ギャップ操作量を設定するように構成されるとともに、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置がいずれの前記回転位置Aにも一致しない場合は、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置の周囲に位置する2以上の前記回転位置Aでの前記ギャップ操作量に基づき、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を算出し、算出した前記ギャップ操作量を設定するように構成された制御装置。
【請求項2】
複数のロールを備えた圧延機におけるロールギャップを制御する制御方法であって、
前記複数のロールに含まれる2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、前記制御対象ロールにおける複数の回転位置Aでのギャップ操作量を記憶ユニットに記憶し、
前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、前記制御対象ロールの回転位置を取得し、
前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて、取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を、前記記憶ユニットに記憶された前記ギャップ操作量に基づき設定し、
前記2以上の制御対象ロールのそれぞれについて設定した前記ギャップ操作量を合計することで、合計のギャップ操作量を設定し、
設定した前記合計のギャップ操作量に基づき、前記ロールギャップを操作し、
前記ギャップ操作量を設定するとき、取得した前記回転位置がいずれかの前記回転位置Aに一致する場合は、一致する前記回転位置Aに対応する前記ギャップ操作量を設定するとともに、取得した前記回転位置がいずれの前記回転位置Aにも一致しない場合は、取得した前記回転位置の周囲に位置する2以上の前記回転位置Aでの前記ギャップ操作量に基づき、取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を算出し、算出した前記ギャップ操作量を設定する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機を用いて圧延工程が行われる。圧延機が備えるロールが偏心していることにより、圧延板の板厚が変化することがある。
圧延板の板厚が変化することを抑制することを目的とする技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されている技術は、ロールの回転位置ごとに、圧延荷重の変動成分を加算・記憶する。そして、記憶した圧延荷重の変動成分に基づき、圧延ロールギャップ指令値を演算し、出力する。さらに、圧延ロールギャップ指令値に基づき、ロールギャップを操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2006-123394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術では、ロールの回転位置が、圧延荷重の変動成分が記憶された回転位置に至ると、圧延ロールギャップ指令値を演算する。ロールがさらに回転し、ロールの回転位置が、圧延荷重の変動成分が記憶された次の回転位置に至るまで、圧延ロールギャップ指令値は同一の値となる。ロールの回転位置が、圧延荷重の変動成分が記憶された次の回転位置に至ると、圧延ロールギャップ指令値を更新する。そのため、特許文献1記載の技術では、ロールが回転するにつれて、圧延ロールギャップ指令値が急峻に変化する。その結果、圧延材の板厚変化量を抑制することが困難であった。
【0005】
本開示の一局面は、圧延材の板厚変化量を抑制することができる制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、複数のロールを備えた圧延機におけるロールギャップを制御する制御装置であって、前記複数のロールに含まれる制御対象ロールにおける複数の回転位置Aでのギャップ操作量を記憶するように構成された記憶ユニットと、前記制御対象ロールの回転位置を取得するように構成された回転位置取得ユニットと、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を、前記記憶ユニットに記憶された前記ギャップ操作量に基づき設定するように構成されたギャップ操作量設定ユニットと、前記ギャップ操作量設定ユニットが設定した前記ギャップ操作量に基づき、前記ロールギャップを操作する操作ユニットと、を備え、前記ギャップ操作量設定ユニットは、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置がいずれかの前記回転位置Aに一致する場合は、一致する前記回転位置Aに対応する前記ギャップ操作量を設定するように構成されるとともに、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置がいずれの前記回転位置Aにも一致しない場合は、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置の周囲に位置する2以上の前記回転位置Aでの前記ギャップ操作量に基づき、前記回転位置取得ユニットが取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を算出し、算出した前記ギャップ操作量を設定するように構成された制御装置である。
【0007】
本開示の一局面である制御装置は、圧延後の圧延材における板厚変化量を抑制できる。特に、本開示の一局面である制御装置は、回転位置Aの数が少ない場合でも、圧延後の圧延材における板厚変化量を抑制できる。
【0008】
本開示の別の局面は、複数のロールを備えた圧延機におけるロールギャップを制御する制御方法であって、前記複数のロールに含まれる制御対象ロールにおける複数の回転位置Aでのギャップ操作量を記憶ユニットに記憶し、前記制御対象ロールの回転位置を取得し、取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を、前記記憶ユニットに記憶された前記ギャップ操作量に基づき設定し、設定した前記ギャップ操作量に基づき、前記ロールギャップを操作し、前記ギャップ操作量を設定するとき、取得した前記回転位置がいずれかの前記回転位置Aに一致する場合は、一致する前記回転位置Aに対応する前記ギャップ操作量を設定するとともに、取得した前記回転位置がいずれの前記回転位置Aにも一致しない場合は、取得した前記回転位置の周囲に位置する2以上の前記回転位置Aでの前記ギャップ操作量に基づき、取得した前記回転位置における前記ギャップ操作量を算出し、算出した前記ギャップ操作量を設定する制御方法である。
【0009】
本開示の別の局面である制御方法は、圧延後の圧延材における板厚変化量を抑制できる。特に、本開示の別の局面である制御方法は、回転位置Aの数が少ない場合でも、圧延後の圧延材における板厚変化量を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧延システム1の構成を表す説明図である。
図2】回転位置θが0である状態を表す説明図である。
図3】回転位置θが2π/Nである状態を表す説明図である。
図4】制御装置5が実行するギャップ操作量記憶処理を表すフローチャートである。
図5】制御装置5が実行するギャップ操作処理を表すフローチャートである。
図6】制御装置5が実行するワークロール9についてのギャップ操作量設定処理を表すフローチャートである。
図7】ギャップ操作量ΔUSを算出する方法を表す説明図である。
図8】制御装置5が出力する合計のギャップ操作量と、回転位置θとの関係を表すグラフである。
図9】シミュレーションモデルの構成を表す説明図である。
図10】ユニット31が本開示の制御装置5と同様の処理を行い、Nが60の場合のシミュレーション結果を表すグラフである。
図11】ユニット31が本開示の制御装置5と同様の処理を行い、Nが10の場合のシミュレーション結果を表すグラフである。
図12】ユニット31が図8におけるYに対応する処理を行い、Nが60の場合のシミュレーション結果を表すグラフである。
図13】ユニット31が図8におけるYに対応する処理を行い、Nが10の場合のシミュレーション結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の例示的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
1.圧延システム1の構成
圧延システム1の構成を、図1図3に基づき説明する。図1に示すように、圧延システム1は、圧延機3と、制御装置5とを備える。圧延機3は、圧延材7を圧延する装置である。圧延機3は、ワークロール9、11、バックアップロール13、15、荷重検出器17、及びギャップ調整装置19を備える。
【0012】
ワークロール9、11は、上下方向に並んで配置されている。ワークロール9、11は、回転しながら圧延材7を圧延する。バックアップロール13はワークロール9の上方に位置する。バックアップロール13はワークロール9を支持する。バックアップロール13は、ワークロール9の回転に応じて回転する。バックアップロール15はワークロール11の下方に位置する。バックアップロール15はワークロール11を支持する。バックアップロール15は、ワークロール11の回転に応じて回転する。
【0013】
なお、ワークロール9、11、及びバックアップロール13、15は、複数のロール及び制御対象ロールに対応する。荷重検出器17は圧延荷重を検出する。荷重検出器17は、検出した圧延荷重を制御装置5に出力する。
【0014】
ギャップ調整装置19は、制御装置5から、後述する合計のギャップ操作量を受け取る。ギャップ調整装置19は、合計のギャップ操作量の分だけ、ギャップを変化させる。すなわち、制御装置5は、圧延機3におけるギャップを制御する。ギャップとは、ワークロール9とワークロール11とのロールギャップである。
【0015】
制御装置5は、回転位置検出部21と、ギャップ操作量記憶部23と、ギャップ操作量演算部25と、を備える。回転位置検出部21は回転位置取得ユニットに対応する。ギャップ操作量記憶部23は記憶ユニットに対応する。ギャップ操作量演算部25は、ギャップ操作量設定ユニット及び操作ユニットに対応する。
【0016】
回転位置検出部21は、ワークロール9、11、及びバックアップロール13、15の回転位置θを検出する。回転位置θを、図2図3に基づき説明する。ここでは、ワークロール9の回転位置θを説明する。ワークロール11、及びバックアップロール13、15の回転位置θも同様である。
【0017】
ワークロール9の外周面に、目盛り0~N-1が存在すると仮定する。Nは2以上の自然数である。Nは5以上であることが好ましく、10以上であることが一層好ましい。目盛り0~N-1はワークロール9の周方向に沿って、等間隔で配置されている。目盛り0~N-1は、ワークロール9の外周面に固定されている。ワークロール9が回転すれば、目盛り0~N-1も同じ角度だけ回転する。
【0018】
ワークロール9の中心を通る鉛直線を固定基準線27とする。ワークロール9の中心と目盛り0とを通る直線を、ロール側基準線29とする。固定基準線27とロール側基準線29とが成す角度を回転位置θとする。
【0019】
回転位置θが(2π/N)iに一致するとき、目盛りiと固定基準線27とが重なる。iは0以上N以下の整数である。図2に示すように、回転位置θが0であるとき、目盛り0と固定基準線27とが重なる。また、図3に示すように、回転位置θが2π/Nであるとき、目盛り1と固定基準線27とが重なる。なお、(2π/N)iに一致する回転位置θは、複数の回転位置Aに対応する。
【0020】
2.制御装置5が実行するギャップ操作量記憶処理
制御装置5が所定時間ごとに繰り返し実行するギャップ操作量記憶処理を、図4に基づき説明する。ギャップ操作量記憶処理は、圧延を行っているときに実行される。制御装置5は、ワークロール9、11、及びバックアップロール13、15のそれぞれについて、ギャップ操作量記憶処理を実行する。ここでは、ワークロール9についてのギャップ操作量記憶処理を説明する。ワークロール11、及びバックアップロール13、15についてのギャップ操作量記憶処理も同様である。
【0021】
図4のステップ1では、ワークロール9が1回転するとき、ギャップ操作量記憶部23が、荷重検出器17を用いて、Piを取得する。Piとは、回転位置θが(2π/N)iに一致するときの圧延荷重である。ギャップ操作量記憶部23は、iが0~N-1のそれぞれの場合について、圧延荷重Piを取得する。ギャップ操作量記憶部23は、ワークロール9が1回転するとき、ワークロール9の回転位置θを継続的に取得し、回転位置θがいずれかの(2π/N)iに一致したとき、圧延荷重Piを取得する。
【0022】
ステップ2では、ギャップ操作量記憶部23が、前記ステップ1で取得した圧延荷重Piを用いて、平均値Paveを算出する。PaveはP~PN-1の平均値である。
ステップ3では、ギャップ操作量記憶部23が、前記ステップ1で取得した圧延荷重Piと、前記ステップ2で算出した平均値Paveとを用いて、圧延荷重変化量ΔPiを算出する。圧延荷重変化量ΔPiは、圧延荷重Piから平均値Paveを差し引いた値である。ギャップ操作量記憶部23は、iが0~N-1のそれぞれの場合について、圧延荷重変化量ΔPiを算出する。
【0023】
ステップ4では、ギャップ操作量記憶部23が、前記ステップ3で算出した圧延荷重変化量ΔPiを下記の式(1)に代入することで、ギャップ変動量ΔSiを算出する。
【0024】
【数1】
式(1)におけるMはミル定数である。式(1)におけるQは圧延材7の塑性係数である。ギャップ操作量記憶部23は、iが0~N-1のそれぞれの場合について、ギャップ変動量ΔSiを算出する。
【0025】
ステップ5では、ギャップ操作量記憶部23が、前記ステップ4で算出したギャップ変動量ΔSiを下記の式(2)に代入することで、ギャップ操作量ΔUSiを算出する。
【0026】
【数2】
式(2)におけるGは調整係数である。本実施形態ではGの値を1.0とした。式(2)におけるΔUSiOLDは、前回の処理で算出されたギャップ操作量ΔUSiを意味する。ギャップ操作量記憶部23は、iが0~N-1のそれぞれの場合について、ギャップ操作量ΔUSiを算出する。
【0027】
ステップ6では、ギャップ操作量記憶部23が、前記ステップ5で算出したギャップ操作量ΔUSiを、対応する回転位置θと関連付けて記憶する。ギャップ操作量ΔUSiに対応する回転位置θとは、(2π/N)iである。ギャップ操作量記憶部23は、iが0~N-1のそれぞれの場合について、ギャップ操作量ΔUSiを記憶する。
【0028】
以上のようにして、ギャップ操作量記憶部23は、ワークロール9について、回転位置(2π/N)iでのギャップ操作量ΔUSiを記憶する。記憶した内容を以下では、ワークロール9の記憶内容とする。
【0029】
ギャップ操作量記憶部23は、ワークロール11、及びバックアップロール13、15についても、同様に、回転位置(2π/N)iでのギャップ操作量ΔUSiを記憶する。記憶した内容を以下では、それぞれ、ワークロール11の記憶内容、バックアップロール13の記憶内容、及びバックアップロール15の記憶内容とする。
【0030】
3.制御装置5が実行するギャップ操作処理
制御装置5が所定時間ごとに繰り返し実行するギャップ操作処理を図5図7に基づき説明する。ギャップ操作処理は、圧延を行っているときに実行される。
【0031】
図5のステップ11では、制御装置5が、ワークロール9についてのギャップ操作量を設定する。この処理を、図6に基づき説明する。ステップ21では、回転位置検出部21が、ワークロール9の回転位置θを取得する。
【0032】
ステップ22では、前記ステップ21で取得した回転位置θが、いずれかの回転位置(2π/N)iに一致するか否かをギャップ操作量演算部25が判断する。iは0~N-1のいずれかである。回転位置θが、いずれかの回転位置(2π/N)iに一致すると判断した場合、本処理はステップ23に進む。回転位置θが、いずれの回転位置(2π/N)iにも一致しないと判断した場合、本処理はステップ24に進む。
【0033】
ステップ23では、前記ステップ21で取得した回転位置θと一致する回転位置(2π/N)iに関連付けられたギャップ操作量ΔUSiを、ギャップ操作量演算部25がワークロール9の記憶内容から読み出す。次に、ギャップ操作量演算部25は、読み出したギャップ操作量ΔUSiを、ワークロール9についてのギャップ操作量として設定する。
【0034】
ステップ24では、回転位置(2π/N)jでのギャップ操作量ΔUSjと、回転位置(2π/N)(j+1)でのギャップ操作量ΔUSj+1とを、ギャップ操作量演算部25がワークロール9の記憶内容から読み出す。
【0035】
回転位置(2π/N)jは、前記ステップ21で取得した回転位置θより小さい回転位置(2π/N)iのうち、最大値である。回転位置(2π/N)(j+1)は、前記ステップ11で取得した回転位置θより大きい回転位置(2π/N)iのうち、最小値である。回転位置(2π/N)j、(2π/N)(j+1)は、前記ステップ21で取得した回転位置θの周囲に位置する2以上の回転位置Aに対応する。
【0036】
ステップ25では、ギャップ操作量演算部25が、前記ステップ24で読み出したギャップ操作量ΔUSj、ΔUSj+1を下記の式(3)に代入し、前記ステップ21で取得した回転位置θでのギャップ操作量ΔUSを算出する。ギャップ操作量ΔUSは、図7に示すように、ギャップ操作量ΔUSj、ΔUSj+1に基づき、直線近似により算出された値である。
【数3】
【0037】
ステップ26では、ギャップ操作量演算部25が、前記ステップ25で算出した値を、ワークロール9についてのギャップ操作量として設定する。
図5に戻り、ステップ12では、制御装置5が、ワークロール11についてのギャップ操作量を設定する。ワークロール11についてのギャップ操作量の設定方法は、ワークロール9の場合と基本的には同様である。ただし、前記ステップ21では、ワークロール11の回転位置θを取得する。また、前記ステップ23、24では、ワークロール11の記憶内容を使用する。
【0038】
ステップ13では、制御装置5が、バックアップロール13についてのギャップ操作量を設定する。バックアップロール13についてのギャップ操作量の設定方法は、ワークロール9の場合と基本的には同様である。ただし、前記ステップ21では、バックアップロール13の回転位置θを取得する。また、前記ステップ23、24では、バックアップロール13の記憶内容を使用する。
【0039】
ステップ14では、制御装置5が、バックアップロール15についてのギャップ操作量を設定する。バックアップロール15についてのギャップ操作量の設定方法は、ワークロール9の場合と基本的には同様である。ただし、前記ステップ21では、バックアップロール15の回転位置θを取得する。また、前記ステップ23、24では、バックアップロール15の記憶内容を使用する。
【0040】
ステップ15では、ギャップ操作量演算部25が、ワークロール9についてのギャップ操作量と、ワークロール11についてのギャップ操作量と、バックアップロール13についてのギャップ操作量と、バックアップロール15についてのギャップ操作量とを合計する。合計した値を、以下では合計のギャップ操作量とする。
【0041】
ステップ16では、ギャップ操作量演算部25が、前記ステップ15で算出した合計のギャップ操作量をギャップ調整装置19に出力し、ギャップ調整装置19を駆動する。すなわち、ギャップ操作量演算部25は、ギャップ調整装置19を用いて、ギャップを操作する。ギャップの操作は、合計のギャップ操作量に基づき行われる。
【0042】
制御装置5が出力する合計のギャップ操作量と、回転位置θとの関係を図8におけるXの曲線に示す。図8において「A」は、(2π/N)iを意味する。なお、図8におけるYは、回転位置θが(2π/N)jを越え、(2π/N)(j+1)未満である区間における合計のギャップ操作量を、(2π/N)jにおける値に等しくした場合の曲線である。
【0043】
4.制御装置5が奏する効果を確認するための試験
図9に示すシミュレーションモデルを用いて、制御装置5が奏する効果を確認した。シミュレーションモデルは、ユニット31、33、35、37を備える。ユニット31は制御装置5に対応する。ユニット33、35、37は圧延機3に対応する。
【0044】
ユニット31は、回転位置θ、及び圧延荷重変化量ΔPiを取得し、ワークロール9、11、バックアップロール13、15の記憶内容を作成する。また、ユニット31は、回転位置θと、ワークロール9、11、バックアップロール13、15の記憶内容とに基づき、合計のギャップ操作量を作成する。
【0045】
ユニット33は、合計のギャップ操作量に基づき、ギャップ変動量ΔSiを算出する。ユニット35は、ギャップ変動量ΔSiと、ギャップ変動dとを取得する。ギャップ変動dとは、ロール回転に伴って生じるロール偏心等によるギャップ変動を意味する。ユニット35は、板厚変化量Δhを算出する。板厚変化量Δhは、圧延後の圧延材7における板厚変化量である。
【0046】
ユニット37は、ギャップ変動量ΔSiと、ギャップ変動dと、板厚変化量Δhとを取得する。ユニット37は、圧延荷重変化量ΔPiを作成し、ユニット31に出力する。
圧延機3及び圧延の条件は、表1及び表2に示すとおりとした。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
ユニット31が本開示の制御装置5と同様の処理を行った場合のシミュレーション結果を図10図11に示す。図10図11の横軸は時間を表し、縦軸は板厚変化量Δhを表す。図10は、Nの値が60の場合のシミュレーション結果を示し、図11は、Nの値が10である場合のシミュレーション結果を示す。
【0049】
図10図11に示す「制御開始」の時点以降で、ギャップを制御した。図10図11に示す「標準偏差評価区間」にて、板厚変化量Δhの標準偏差を算出した。算出した標準偏差を表3における「X」の行に示す。Nの値が60の場合でも、10の場合でも、板厚変化量Δhの標準偏差は小さかった。
【0050】
【表3】
ユニット31が出力する合計のギャップ操作量と、回転位置θとの関係が図8のYに示すものである場合のシミュレーション結果を図12図13に示す。図12は、Nの値が60の場合のシミュレーション結果を示し、図13は、Nの値が10である場合のシミュレーション結果を示す。
【0051】
図12図13に示す「制御開始」の時点以降で、ギャップを制御した。図12図13に示す「標準偏差評価区間」にて、板厚変化量Δhの標準偏差を算出した。算出した標準偏差を表3における「Y」の行に示す。Nの値が10の場合、板厚変化量Δhの標準偏差は顕著に大きかった。
【0052】
5.制御装置5が奏する効果
制御装置5は、圧延後の圧延材7における板厚変化量を抑制できる。特に、制御装置5は、ギャップ操作量を記憶する回転位置Aの数が少ない場合でも、圧延後の圧延材7における板厚変化量を抑制できる。圧延後の圧延材7における板厚変化量を抑制できる理由は、図8の曲線Xに示されているように、回転位置θが変化しても、合計のギャップ操作量が急峻に変化し難いためであると推測される。
【0053】
6.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0054】
(1)前記ステップ25において回転位置θでのギャップ操作量ΔUSを算出する方法は、直線近似以外の方法であってもよい。公知の近似演算の中から適宜選択した方法で、ギャップ操作量ΔUSを算出することができる。
【0055】
(2)前記ステップ11~14においてギャップ操作量を設定するロールは、ワークロール9、11、及びバックアップロール13、15の全部ではなく、一部であってもよい。ギャップ操作量を設定するロールの数は、例えば、1個、2個、3個とすることができる。また、合計のギャップ操作量は、ワークロール9、11、及びバックアップロール13、15から選択された1~3個のロールにおけるギャップ操作量の合計であってもよい。
【0056】
(3)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0057】
(4)上述した制御装置の他、当該制御装置を構成要素とするシステム、当該制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、圧延方法、圧延材の製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1…圧延システム、3…圧延機、5…制御装置、7…圧延材、9、11…ワークロール、13、15…バックアップロール、17…荷重検出器、19…ギャップ調整装置、21…回転位置検出部、23…ギャップ操作量記憶部、25…ギャップ操作量演算部、27…固定基準線、29…ロール側基準線
図1
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図13