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特許7103907浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02F 3/90 20060101AFI20220712BHJP
   E02F 3/88 20060101ALI20220712BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20220712BHJP
【FI】
E02F3/90 K
E02F3/88 H
B63B35/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018188384
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020056250
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 克昌
(72)【発明者】
【氏名】草刈 成直
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-080035(JP,A)
【文献】特開昭50-118488(JP,A)
【文献】特開昭60-109429(JP,A)
【文献】国際公開第2011/117204(WO,A1)
【文献】特開昭61-151337(JP,A)
【文献】特開昭50-058790(JP,A)
【文献】特開昭58-069940(JP,A)
【文献】特開昭58-069941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/88-3/94
B63B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理システムであって、
前記ポンプ浚渫船の位置を計測する位置計測手段と、
施工範囲近傍の潮位を計測する潮位計と、
前記ポンプ浚渫船の姿勢を計測する複数のセンサと、
当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行う演算管理手段と、
該演算管理手段により取り扱う情報の少なくとも一部を表示する少なくとも1つの表示手段と、
前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチを制御することで前記カッターの深度を調整する制御手段と、を含み、
前記演算管理手段は、施工範囲の設計浚渫深度に応じたカッター管理深度が予め設定されると共に、前記位置計測手段と前記潮位計と前記複数のセンサとの計測結果に基づき、前記カッターの位置及び深度を算出し、
前記制御手段は、前記演算管理手段により算出された前記カッターの位置及び深度と、前記演算管理手段に設定された前記カッター管理深度とに基づいて、前記ラダーウィンチを制御し、
施工範囲の現在の水底深度を計測する深度計測手段を含み、
前記演算管理手段は、施工範囲の施工前の水底深度と、施工範囲の前記設計浚渫深度とが予め設定され、設定された前記施工前の水底深度、前記設計浚渫深度及び前記カッター管理深度と、前記深度計測手段から取得する前記現在の水底深度とを、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理し、
前記少なくとも1つの表示手段は、前記施工前の水底深度と、前記設計浚渫深度と、前記カッター管理深度と、前記現在の水底深度とのうち、オペレータにより選択された深度情報を、深度に応じて色を変化させながら3次元で深度のカラー立体表示として表示すると共に、該深度のカラー立体表示における深度と色との対応関係を示す深度カラー表示部と、前記深度のカラー立体表示を前記少なくとも1つの表示手段の画面内で回転及び移動させるための表示操作メニューとを表示することを特徴とする浚渫施工管理システム。
【請求項2】
前記位置計測手段がGNSSであり、
前記深度計測手段がマルチビームソナーであり、
前記複数のセンサが、前記ポンプ浚渫船の喫水を計測する喫水計と、前記ラダーの傾斜角度を計測する傾斜計とを含むことを特徴とする請求項記載の浚渫施工管理システム。
【請求項3】
前記制御手段を介した前記ラダーウィンチの自動制御と、オペレータによる前記ラダーウィンチの手動制御とを切り替えるための切替手段を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の浚渫施工管理システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの表示手段は、前記演算管理手段により算出された前記カッターの深度と、前記演算管理手段に設定された前記カッター管理深度と、前記切替手段を操作するための操作入力表示と、前記ラダーウィンチの手動制御時において前記ラダーウィンチを操作するための操作入力表示と、前記ラダーの上限位置及び下限位置を設定するための操作入力表示とのうち、少なくともいずれか1つを含む監視画面を表示することを特徴とする請求項記載の浚渫施工管理システム。
【請求項5】
側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理方法であって、
施工範囲の施工前の水底深度を把握すると共に、施工範囲の設計浚渫深度と、該設計浚渫深度に応じたカッター管理深度とを設定し、
前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢と、施工範囲の現在の水底深度とを計測し、
前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢との計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出し、
算出した前記カッターの位置及び深度と、前記カッター管理深度とに基づいて、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチを制御することで、前記カッターの深度を調整し、
前記施工前の水底深度、前記設計浚渫深度、前記カッター管理深度及び前記現在の水底深度を、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理し、
少なくとも1つの表示手段を利用して、前記施工前の水底深度と、前記設計浚渫深度と、前記カッター管理深度と、前記現在の水底深度とのうち、オペレータにより選択された深度情報を、深度に応じて色を変化させながら3次元で深度のカラー立体表示として表示すると共に、該深度のカラー立体表示における深度と色との対応関係を示す深度カラー表示部と、前記深度のカラー立体表示を前記少なくとも1つの表示手段の画面内で回転及び移動させるための表示操作メニューとを表示することを特徴とする浚渫施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ浚渫船の浚渫施工管理システム及び浚渫施工管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプ浚渫船を用いたポンプ浚渫工では、船首に取り付けられたラダーを船体ごとスイングしながら、ラダー先端に設けられたカッターにより水底を掘削して浚渫するため、設計通りの深度に浚渫するように、ラダー先端の深度を調整する必要がある。従来、ラダー先端の深度の調整は、ラダーを支持するラダーシャースに設置されたラダー深度計、ラダーを吊り下げているロッドに設けられた目盛と水面との位置関係、或いは、従来システムにおいて表示される仮想断面図等を確認しながら、オペレータが手動により、ラダーの傾斜角度を制御するラダーウィンチを操作することで行っていた。一方、例えば特許文献1、2に開示された発明では、浚渫した土砂の含泥率等のパラメータに応じて、ラダーの角度調整を含むポンプ浚渫船の制御を自動化する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭50-58790号公報
【文献】特開昭58-69940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したようにオペレータにより手動でラダー先端の深度を調整する場合、スイング動作で変化するラダー先端の位置、随時変化する施工範囲近傍の潮位やポンプ浚渫船の喫水等の影響を考慮して、設計通りの深度に浚渫するためには、オペレータに高い技量や豊富な経験が必要となる。更に、特許文献1、2の発明には、実用性等の点に関して改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、オペレータの技量や経験の如何に関わらず、高精度にポンプ浚渫を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理システムであって、前記ポンプ浚渫船の位置を計測する位置計測手段と、施工範囲近傍の潮位を計測する潮位計と、前記ポンプ浚渫船の姿勢を計測する複数のセンサと、当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行う演算管理手段と、該演算管理手段により取り扱う情報の少なくとも一部を表示する少なくとも1つの表示手段と、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチを制御することで前記カッターの深度を調整する制御手段と、を含み、前記演算管理手段は、施工範囲の設計浚渫深度に応じたカッター管理深度が予め設定されると共に、前記位置計測手段と前記潮位計と前記複数のセンサとの計測結果に基づき、前記カッターの位置及び深度を算出し、前記制御手段は、前記演算管理手段により算出された前記カッターの位置及び深度と、前記演算管理手段に設定された前記カッター管理深度とに基づいて、前記ラダーウィンチを制御する浚渫施工管理システム。
【0007】
本項に記載の浚渫施工管理システムは、ポンプ浚渫船によって、側端が法面で形成される凹路を水底に構築する浚渫施工を管理するものである。管理対象とする浚渫施工では、ポンプ浚渫船の船首に上下方向に揺動可能に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体と共に、水底に構築する凹路の幅方向にスイングしながら、ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプ浚渫船に搭載されたポンプにより吸い込んで圧送することが行われる。そして、当該システムの構成要素として、位置計測手段、潮位計、複数のセンサ、演算管理手段、少なくとも1つの表示手段、及び、制御手段を含んでいる。
【0008】
位置計測手段はポンプ浚渫船の位置(平面位置)を計測するもの、潮位計は施工範囲近傍の潮位を計測するもの、複数のセンサはポンプ浚渫船の姿勢を計測するものであり、これらの計測が施工中に継続的に行われることで、各計測結果に常に最新の状況が反映される。演算管理手段は、当該システムの運用に必要な演算及び情報の管理を行うものであり、管理する情報の1つとして、施工範囲の設計浚渫深度(換言すれば水底の設計形状)に応じたカッター管理深度が予め設定される。ここで、カッター管理深度とは、水底を設計浚渫深度通りに浚渫するために、埋め戻りやカッターの大きさ等を考慮して、カッターを配置すべき深度を示すものであり、設計浚渫深度に基づいて施工範囲の全域にわたって設定される。
【0009】
更に、演算管理手段は、当該システムの運用に必要な演算の1つとして、位置計測手段と潮位計と複数のセンサとの計測結果に基づき、カッターの位置(平面位置)及び深度の算出を実行する。このとき、カッターの位置は、位置計測手段により計測されるポンプ浚渫船の位置に、演算管理手段に予め設定されるポンプ浚渫船の各部位(船体、ラダー等)の大きさ、複数のセンサにより計測されるポンプ浚渫船の姿勢等が加味されて算出される。又、カッターの深度は、潮位計により計測される施工範囲近傍の潮位、ポンプ浚渫船の姿勢、ポンプ浚渫船のラダーの大きさ等から算出される。このようなカッターの位置及び深度の算出が、施工中に継続的に行われることで、カッターの現在の位置及び深度がリアルタイムに把握されるものである。
【0010】
少なくとも1つの表示手段は、演算管理手段により算出される算出結果や、演算管理手段に設定される各種の情報を含み、演算管理手段により取り扱う情報の少なくとも一部を表示するものである。この表示手段によって、例えば、カッターの現在の位置及び深度といった最新の情報が、オペレータに対して提供されるものである。制御手段は、ラダーを上下方向に揺動させるようにポンプ浚渫船に搭載されたラダーウィンチを制御することで、ラダーの傾斜角度(揺動角度)を変化させ、ラダー先端に設けられたカッターの深度を調整するものである。このとき、制御手段は、上記のように演算管理手段により算出されたカッターの位置及び深度と、上記のように演算管理手段に設定されたカッター管理深度とに基づいて、ラダーウィンチを制御する。すなわち、制御手段は、カッターの深度が、カッターが今現在ある位置に設定されているカッター管理深度に等しくなるように、ラダーウィンチの制御を行うものである。
【0011】
上記のような構成により、本項に記載の浚渫施工管理システムは、ラダーのスイング動作によりラダー先端のカッターの位置が変化しても、カッターの現在位置に設定されているカッター管理深度と等しくなるように、常にカッターの深度が調整される。換言すれば、ラダーのスイング動作に追従して、常にカッター管理深度通りの深度にカッターの深度が調整されるものである。このため、例えば、ラダーのスイング動作により、凹路の側端に相当する位置にカッターが移動されても、凹路の側端に法面が形成されるように設定されたカッター管理深度通りにカッターの深度が調整されることで、凹路の側端に難なく法面が形成されることになる。
【0012】
このように、カッター管理深度に従ってリアルタイムにラダーの深度が調整されるため、水底が設計浚渫深度通りに浚渫されることとなり、高精度にポンプ浚渫が行なわれるものである。更に、カッターの深度調整には、施工範囲近傍の潮位やポンプ浚渫船の姿勢等が加味されているため、オペレータの技量や経験に左右されることなく、高精度で効率的かつ省力化された浚渫が行われるものである。加えて、オペレータが、繊細なラダー操作から解放されて負担が軽減されるため、状況に応じて、浚渫に必要な別の操作に注意が傾けられる場合もあり、これによっても施工の精度が向上されることになる。
【0013】
(2)上記(1)項において、施工範囲の現在の水底深度を計測する深度計測手段を含み、前記演算管理手段は、施工範囲の施工前の水底深度と、施工範囲の前記設計浚渫深度とが予め設定され、設定された前記施工前の水底深度、前記設計浚渫深度及び前記カッター管理深度と、前記深度計測手段から取得する前記現在の水底深度とを、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理する浚渫施工管理システム。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、更に、施工範囲の現在の水底深度(換言すれば現在の水底の形状)を計測する深度計測手段を含み、この深度計測手段による計測を施工中に継続的に行うことで、浚渫作業により刻々と変化する水底形状の最新の状態を把握するものである。
【0014】
又、演算管理手段には、管理する情報として、施工範囲の施工前の水底深度(換言すれば施工前の水底の形状)と、施工範囲の設計浚渫深度とが予め設定される。そして、演算管理手段は、設定された施工前の水底深度、設計浚渫深度及びカッター管理深度と、深度計測手段から取得する現在の水底深度とを、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理する。すなわち、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度及び現在の水底深度の全てを、メッシュを構成する複数の矩形の各々単位で管理するものである。これにより、深度計測手段によってリアルタイムに把握される施工状況を含み、施工範囲の情報が集約して緻密に管理されるため、管理密度が高められると共に、出来形管理の効率化が図られるものである。
【0015】
(3)上記(2)項において、前記少なくとも1つの表示手段は、前記施工前の水底深度と、前記設計浚渫深度と、前記カッター管理深度と、前記現在の水底深度とのうち、オペレータにより選択された深度情報を、深度に応じて色を変化させながら3次元で深度のカラー立体表示として表示すると共に、該深度のカラー立体表示における深度と色との対応関係を示す深度カラー表示部と、前記深度のカラー立体表示を前記少なくとも1つの表示手段の画面内で回転及び移動させるための表示操作メニューとを表示する浚渫施工管理システム(請求項)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、上記(2)項に記載したように演算管理手段において管理される、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度及び現在の水底深度のうち、オペレータにより選択された深度情報を、少なくとも1つの表示手段により表示するものである。このとき、表示手段は、上記の4つの深度を、深度の値に応じて色を変化させながら3次元で深度のカラー立体表示として表示する。ここで、これらの4つの深度は、演算管理手段においてメッシュで管理されているため、メッシュを構成する矩形毎に着色した立体で各深度を表示し、そのような矩形を並べて施工範囲の一部や全体を表示させればよい。これにより、施工中に変化する浚渫状況を含み、施工範囲の情報が3次元でリアルに「見える化」されるため、浚渫状況等がオペレータにより直観的に把握されることとなり、状況判断の迅速化及び高度化が図られるものである。更に、少なくとも1つの表示手段により、深度のカラー立体表示における深度と色との対応関係を示す深度カラー表示部と、深度のカラー立体表示を表示手段の画面内で回転及び移動させるための表示操作メニューとを表示するものである。
【0016】
(4)上記(3)項において、前記位置計測手段がGNSSであり、前記深度計測手段がマルチビームソナーであり、前記複数のセンサが、前記ポンプ浚渫船の喫水を計測する喫水計と、前記ラダーの傾斜角度を計測する傾斜計とを含む浚渫施工管理システム(請求項)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、ポンプ浚渫船の位置を計測する位置計測手段がGNSS(Global Navigation Satellite System)であり、施工範囲の現在の水底深度を計測する深度計測手段がマルチビームソナーであることで、これらの計測を精度良く行うものである。更に、ポンプ浚渫船の姿勢を計測する複数のセンサが、ポンプ浚渫船の喫水を計測する喫水計と、ラダーの傾斜角度を計測する傾斜計とを含むことで、ポンプ浚渫船の姿勢をより高精度に計測するものである。そして、カッターの現在の位置及び深度の算出に、上述したGNSS、喫水計及び傾斜計等の計測結果を利用することにより、算出精度をも高めるものである。
【0017】
(5)上記(3)(4)項において、前記制御手段を介した前記ラダーウィンチの自動制御と、オペレータによる前記ラダーウィンチの手動制御とを切り替えるための切替手段を含む浚渫施工管理システム(請求項)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、更に、制御手段を介したラダーウィンチの自動制御と、オペレータによるラダーウィンチの手動制御とを切り替えるための切替手段を含むことで、ラダーウィンチの自動制御及び手動制御の切り替えを、状況に応じて迅速かつ柔軟に実行するものである。
【0018】
(6)上記(5)項において、前記少なくとも1つの表示手段は、前記演算管理手段により算出された前記カッターの深度と、前記演算管理手段に設定された前記カッター管理深度と、前記切替手段を操作するための操作入力表示と、前記ラダーウィンチの手動制御時において前記ラダーウィンチを操作するための操作入力表示と、前記ラダーの上限位置及び下限位置を設定するための操作入力表示とのうち、少なくともいずれか1つを含む監視画面を表示する浚渫施工管理システム(請求項)。
本項に記載の浚渫施工管理システムは、少なくとも1つの表示手段により、ラダーの制御に係る監視画面を表示するものである。この監視画面は、演算管理手段により算出されたカッターの深度と、演算管理手段により管理するカッター管理深度と、上記(5)項に記載した切替手段を操作するための操作入力表示と、ラダーウィンチが手動制御に切り替えられた状態でラダーウィンチを操作するための操作入力表示と、ラダーの上限位置及び下限位置を設定するための操作入力表示とのうち、少なくともいずれか1つを含むものである。このような監視画面をオペレータに対して表示することで、ラダーの状態を示す情報を集約して提供すると共に、ラダー制御の切替操作やラダーウィンチの手動操作が容易に実行されるものである。
【0019】
(7)側端が法面で形成される凹路を水底に構築するために、上下方向に揺動可能に船首に取り付けられたラダーを、船尾に設けられたスパッドを中心として船体ごと前記凹路の幅方向にスイングしながら、前記ラダーの先端に設けられたカッターにより水底の土砂を掘削し、掘削した土砂をポンプにより吸い込んで圧送するポンプ浚渫船の浚渫施工管理方法であって、施工範囲の施工前の水底深度を把握すると共に、施工範囲の設計浚渫深度と、該設計浚渫深度に応じたカッター管理深度とを設定し、前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢と、施工範囲の現在の水底深度とを計測し、前記ポンプ浚渫船の位置と、施工範囲近傍の潮位と、前記ポンプ浚渫船の姿勢との計測結果に基づいて、前記カッターの位置及び深度を算出し、算出した前記カッターの位置及び深度と、前記カッター管理深度とに基づいて、前記ラダーを揺動させるためのラダーウィンチを制御することで、前記カッターの深度を調整し、前記施工前の水底深度、前記設計浚渫深度、前記カッター管理深度及び前記現在の水底深度を、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理し、少なくとも1つの表示手段を利用して、前記施工前の水底深度と、前記設計浚渫深度と、前記カッター管理深度と、前記現在の水底深度とのうち、オペレータにより選択された深度情報を、深度に応じて色を変化させながら3次元で深度のカラー立体表示として表示すると共に、該深度のカラー立体表示における深度と色との対応関係を示す深度カラー表示部と、前記深度のカラー立体表示を前記少なくとも1つの表示手段の画面内で回転及び移動させるための表示操作メニューとを表示する浚渫施工管理方法(請求項)。
本項に記載の浚渫施工管理方法は、上記()項の浚渫施工管理システムにより実行されることで、上記()項の浚渫施工管理システムと同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記のような構成であるため、オペレータの技量や経験の如何に関わらず、高精度にポンプ浚渫を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムの一部の構成要素の設置イメージ図である。
図3】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムを搭載するポンプ浚渫船の側面図及び平面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムで表示する監視画面の一例を示している。
図5】本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システムで表示する3次元表示の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1にその構成の一例が示されている本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、例えば図3に示すようなポンプ浚渫船36による浚渫施工を管理するものである。ポンプ浚渫船36による浚渫施工では、例えば、港湾へと続く航路を造成するために、港湾から沖側へと延在し、幅方向の側端が法面で形成される凹路を水底に構築する。
【0023】
まず、図3を参照してポンプ浚渫船36の構成を簡単に説明すると、船首にラダー42が設けられており、このラダー42は、先端側(図中右側)が上下方向に揺動するように、基端側(図中左側)が船体に軸支されている。ラダー42の先端側は、吊り下げワイヤ50及びロッド52を介してラダーシャース48から吊り下げられており、ラダーウィンチ44(図2参照)によって吊り下げワイヤ50の繰り出し及び巻き取りが行われることで、基端側を軸として、上下方向に揺動するようになっている。ラダー42の先端には、水底を掘削するためのカッター54と、掘削した土砂を吸引するための吸引口(図示省略)が設けられている。一方、ポンプ浚渫船36の船尾には、2本のスパッド56(56A、56B)が設けられており、浚渫施工時に水底に打ち込まれる。又、浚渫施工時には、図3(b)に示すように、ラダー42の先端近傍から凹路の幅方向(図中上下方向)の両側へ向けて、2本のスイングワイヤ58が張設され、各スイングワイヤ58の先端が、アンカー等によって水底に固定される。なお、図3に符号38で示されているのはブリッジである。
【0024】
そして、上述したような構成のポンプ浚渫船36は、浚渫施工の際、図3(a)に示すように、ラダー42が下方へと傾けられ(仮想線参照)、ラダー42の先端に設けられたカッター54により水底を掘削すると共に、掘削した土砂をラダー42先端の吸入口からポンプ(図示省略)を利用して吸い込み、図示しない排送管を介して陸側の排砂池まで圧送する。更に、水底の掘削及び土砂の吸引は、ポンプ浚渫船36の船体と共にラダー42が、形成すべき凹路の幅方向にスイングされた状態で行われる。このとき、船体のスイングは、2本のスパッド56A、56Bの何れか一方が水底に打ち込まれた状態で、ラダー42の先端近傍から張設された2本のスイングワイヤ58を利用して行われる。例えば、図3(b)の例では、2本のスパッド56A、56Bのうち、スパッド56Aが打ち込まれた状態で、図中下方のスイングワイヤ58が巻き取られて図中上方のスイングワイヤ58が繰り出されることで、スパッド56Aを中心として、船体と共にラダー42が図中下方にスイングされる。
【0025】
更に、今現在スパッド56が打ち込まれた位置での浚渫作業が終わり、ポンプ浚渫船36を前進させる場合には、2本のスパッド56A、56Bの打ち替えが行われることで、ポンプ浚渫船36が前進される。例えば、図3(b)の例では、ラダー42の先端が、水底に形成する凹路の側端を越える位置まで、ポンプ浚渫船36が図中下方向にスイングされた状態で、スパッド56Aが抜かれると共にスパッド56Bが打ち込まれ、続いて図中上方向へとスイングされることで、ポンプ浚渫船36は、スイングの幅方向の略中心を通る方向に沿って、僅かに前進することになる。
【0026】
次に、図1を参照して、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10の構成を説明する。なお、ポンプ浚渫船36の構成については、適宜、図3を参照のこと。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、位置計測手段12、複数のセンサ14、深度計測手段16、潮位計18、演算管理手段24、少なくとも1つの表示手段26、制御手段28、及び、切替手段30を含んでいる。位置計測手段12は、ポンプ浚渫船36の位置(平面位置)を計測するものであり、本実施形態ではGNSSが用いられ、ポンプ浚渫船36の適切な位置にGNSSのアンテナや受信器が設置される。位置計測手段12による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、位置計測手段12によって計測されたポンプ浚渫船36の位置情報が、演算管理手段24へと送信される。
【0027】
複数のセンサ14は、ポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであり、本実施形態では喫水計14Aと傾斜計14Bとを含んでいる。喫水計14Aは、ポンプ浚渫船36の喫水を計測するものであり、図2で確認できるように、喫水を計測可能なポンプ浚渫船36の適切な位置に設置され、各種の喫水計を利用することができる。傾斜計14Bは、図2で確認できるように、ポンプ浚渫船36のラダー42に取り付けられ、ラダー42の傾斜角度を計測するものであり、各種の傾斜計が利用される。これら複数のセンサ14(14A、14B)による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、これらによって計測されたポンプ浚渫船36の姿勢に係る情報が、演算管理手段24へと送信される。
【0028】
深度計測手段16は、ポンプ浚渫船36から現在の水底の形状(深度)を計測するものであり、本実施形態ではマルチビームソナーが用いられ、水底の形状を計測可能なポンプ浚渫船36の適切な位置に取り付けられる。深度計測手段16による計測が、浚渫施工中に継続的に行われることで、浚渫施工中に変化する施工範囲の現在の水底形状が、深度計測手段16から演算管理手段24へと送信される。潮位計18は、施工範囲近傍の潮位を計測するものであり、図2で確認できるように、施工範囲近傍の、波等の影響で動揺しない固体位置20(例えば岸、突堤、人工島等)に設置される。潮位計18による計測は、浚渫施工中に継続的に行われ、潮位計18によって計測された施工範囲近傍の潮位が、送信器22を介してポンプ浚渫船36まで無線で送信され、ポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置された演算管理手段24へと伝達される。潮位計18には、潮位を計測可能な各種の計測装置が利用される。
【0029】
演算管理手段24は、浚渫施工管理システム10の運用に必要な各種の演算及び情報の管理を行うものであり、上述したようにポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置されている。具体的に、演算管理手段24は、位置計測手段12、複数のセンサ14(喫水計14A、傾斜計14B)、深度計測手段16、及び、潮位計18の各々による計測結果を取り込み、情報として管理する。更に、演算管理手段24には、施工範囲の施工前の水底深度、施工範囲の設計浚渫深度、施工範囲のカッター管理深度、及び、ポンプ浚渫船38の各部位の大きさ等が予め設定され、これらのデータも管理する。なお、施工前の水底深度とは、施工前に計測された施工範囲の水底形状であり、設計浚渫深度とは、浚渫によって形成すべき形状(凹路形状)を示すものであり、カッター管理深度とは、設計浚渫深度通りに浚渫するために、カッター54を最終的に移動させるべき深度を示している。
【0030】
又、演算管理手段24は、予め設定された施工範囲の施工前の水底深度、施工範囲の設計浚渫深度、及び、施工範囲のカッター管理深度と、深度計測手段16から取得する施工範囲の現在の水底深度とを、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理する。すなわち、施工範囲を、各々が同じ任意の大きさの複数の矩形に分割し、各矩形に対して、各矩形の位置に対応する各種の深度の値を割り当てる。例えば、設計浚渫深度の場合は、その元になるデータとして、凹路の延在方向と直交する方向の断面設計図が、凹路の延在方向に沿った所定間隔毎に示されることが多い。このため、施工範囲のメッシュを構成する複数の矩形のうち、まずは、断面設計図の位置に対応するメッシュの矩形の各々に、断面設計図で示される設計浚渫深度の値を割り当てる。更に、残りの矩形には、各矩形に対応する位置の近傍について示された断面設計図に基づいて、断面設計図によって示されていない施工範囲の部分を補完するような深度の値を割り当てる。
【0031】
一方、施工前の水底深度は、施工前に行われる測定によって通常は施工範囲全体について把握され、カッター管理深度は、設計浚渫深度からカッター54の大きさ等が考慮されて施工範囲全体について算出されるため、施工範囲全体について各矩形の位置に対応する深度を割り当てればよい。他方、現在の水底深度は、施工範囲のうち、深度計測手段16によって測定した範囲(直近に測定した範囲のみではなく既に測定した範囲を含む)について、メッシュの各矩形の位置に対応する深度を割り当てればよい。
【0032】
更に、演算管理手段24は、上記のように管理する各種の情報に基づいて、様々な演算を実行する。例えば、演算管理手段24は、位置計測手段12により計測されるポンプ浚渫船36の現在位置、傾斜計14Bにより計測されるラダー42の傾斜角度、予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位の大きさ等の情報に基づき、カッター54の位置(平面位置)を算出する。又、演算管理手段24は、喫水計14Aにより計測されるポンプ浚渫船36の喫水、傾斜計14Bにより計測されるラダー42の傾斜角度、潮位計18により計測される施工範囲近傍の潮位、予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位の大きさ等の情報に基づき、カッター54の深度を算出する。上述したような演算管理手段24による演算や情報管理は、浚渫施工中に継続的に行われ、演算結果や管理情報の一部が、表示手段26や制御手段28に送信される。なお、演算管理手段24は、各種のコンピュータにより構成することができる。
【0033】
表示手段26は、演算管理手段24と同じくポンプ浚渫船36のブリッジ38に設置され、演算管理手段24によって演算及び管理される情報を表示するものであり、本実施形態では2つの表示手段26A、26Bを含み、互いに異なる内容を表示するようになっている。例えば、表示手段26Aは、図4に示すような監視画面64を表示し、表示手段26Bは、図5に示すような3次元表示80を表示する。これらの表示内容については、後程詳しく説明する。表示手段26A、26Bによる表示は、演算管理手段24により表示内容が常に最新の情報に更新されながら、浚渫施工中に継続的に行われる。表示手段26A、26Bには、各種の表示装置を用いることができ、例えば、演算管理手段24を構成するコンピュータのディスプレイ装置であってもよい。
【0034】
制御手段28は、演算管理手段24から取得する情報に基づいて、ラダー42を揺動させるためのラダーウィンチ44を制御することで、ラダー42の先端に設けられたカッター54の深度を調整するものである。具体的に、制御手段28は、演算管理手段24により算出されたカッター54の位置及び深度と、演算管理手段24に設定されて管理されるカッター管理深度とに基づき、本実施形態ではラダー制御盤46を介して、ラダーウィンチ44の制御を実行する。すなわち、制御手段28は、カッター54の現在位置に設定されているカッター管理深度と等しい深度に、カッター54が配置されるように、カッター54の現在深度を確認しながら、ラダーウィンチ44を制御する。制御手段28によるラダーウィンチ44の制御は、浚渫施工中に継続的に行われる。制御手段28は、ラダー制御盤46を介してラダーウィンチ44を制御可能な、各種のコンピュータや制御機構により構成され、例えばブリッジ38に設置される。なお、ラダーウィンチ44及びラダー制御盤46は、ポンプ浚渫船36の機関室・ウィンチ室40に設置されている。
【0035】
切替手段30は、制御手段28を介したラダーウィンチ44の自動制御と、オペレータによるラダーウィンチ44の手動制御とを切り替えるものであり、後述する監視画面64(図4参照)を介してオペレータにより操作されることで、ラダーウィンチ44の制御方式の切り替えを実行する。すなわち、切替手段30は、ラダーウィンチ44の自動制御への切り替え時には、上記の如く制御手段28を介してラダーウィンチ44の制御が行われるように、制御系統の切り替えを行う。他方、ラダーウィンチ44の手動制御への切り替え時には、後述の如き監視画面64を介したオペレータによる操作により、ラダーウィンチ44の手動制御が行われるように、制御系統の切り替えを行う。切替手段30は、ラダーウィンチ44の制御方式を切り替え可能な任意の機構で構成され、オペレータにより操作されるように、少なくともその構成の一部がブリッジ38に設置される。
【0036】
続いて、図4には、少なくとも1つの表示手段26(本実施形態では表示手段26A)により表示する監視画面64の一例を示している。監視画面64は、ラダー42の制御状態を監視するために、ブリッジ38のオペレータに対して表示されるものである。図4の例において、監視画面64は、ラダーのイメージ表示66、カッターの深度表示68、カッター管理深度の表示70、切替手段の操作入力表示72、ラダーウィンチの操作入力表示74、ラダーの上限位置の設定入力表示76、及び、ラダーの下限位置の設定入力表示78を含んでいる。ラダーのイメージ表示66は、ラダー42のイメージを表示したものであり、ラダー42の実際の動きに合わせて表示を変化させてもよい。カッターの深度表示68は、演算管理手段24により算出されたカッター54の深度を表示するものであり、カッター管理深度の表示70は、演算管理手段24に設定されたカッター管理深度を表示するものである。
【0037】
又、切替手段の操作入力表示72は、例えばマウス等の入力装置を介してオペレータから操作入力されることで、切替手段30によるラダーウィンチ44の制御方式の切り替えを実行するものである。ラダーウィンチの操作入力表示74は、切替手段30によってラダーウィンチ44の手動制御に切り替えられた状態において、例えばマウス等の入力装置を介してオペレータから操作入力されることで、ラダーウィンチ44の手動操作を実行するためのものである。ラダーの上限位置の操作入力表示76及び下限位置の操作入力表示78は、例えばマウス等の入力装置を介してオペレータから操作入力されることで、ラダーウィンチ44の自動制御時及び/又は手動制御時における、ラダー42の上限位置及び下限位置を設定するためのものである。なお、監視画面64は、図4に示した表示の一部がないものや、図4に示されていない別の表示が追加されたものであってもよい。
【0038】
更に、図5には、少なくとも1つの表示手段26(本実施形態では表示手段26B)により表示する3次元表示80の一例を示している。3次元表示80は、主に、演算管理手段24により管理されている深度情報を伝えるために、ブリッジ38のオペレータに対して表示されるものである。図5の例において、3次元表示80は、ポンプ浚渫船のイメージ表示82、深度のカラー立体表示84、表示深度切替選択部86、深度カラー表示部88、及び、表示操作メニュー90を含んでいる。ポンプ浚渫船のイメージ表示82は、ポンプ浚渫船36のイメージを表示したものであり、ポンプ浚渫船36の実際のスイング動作に合わせて、イメージ表示82も変化するように表示させる。深度のカラー立体表示84は、演算管理手段24により管理されている各種の深度情報、すなわち、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度、及び、現在の水底深度のうち、表示深度切替選択部86を介して設定されている深度情報を、深度に応じて色を変化させながら3次元で表示したものである。上述したように、上記の各深度情報は、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理されているため、それを利用してメッシュを構成する矩形単位で深度を表示すればよい。
【0039】
表示深度切替選択部86は、例えばマウス等の入力装置を介してオペレータから選択入力されることで、深度のカラー立体表示84に表示する深度情報の切り替えを行うものである。図5の例では、表示深度切替選択部86の「設計」が設計浚渫深度、「現地盤」が施工前の水底深度、「カッター深度」がカッター管理深度、「Sea Vision」が現在の水底深度に相当する。深度カラー表示部88は、深度のカラー立体表示84における深度と色との対応関係を示すものであり、この深度と色との対応関係は、オペレータにより任意に設定可能になっている。表示操作メニュー90は、例えばマウス等の入力装置を介してオペレータから操作入力されることで、少なくとも深度のカラー立体表示84を、表示手段26の画面内で回転や移動させるものである。なお、3次元表示80は、図5に示した表示の一部がないものや、図5に示されていない別の表示が追加されたものであってもよい。又、図5は白黒の2色表示になっているため確認し難いが、少なくとも深度のカラー立体表示84及び深度カラー表示部88は、RGB等を用いたカラーで表示されるものである。
【0040】
ここで、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、図1図5に示した構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、位置計測手段12は、ポンプ浚渫船36の位置を計測できるものであれば、GNSS以外の計測装置であってもよく、深度計測手段16は、施工範囲の現在の水底深度を計測できるものであれば、マルチビームソナー以外の計測装置であってもよい。又、複数のセンサ14は、喫水計14A及び傾斜計14Bの構成に限定されず、ポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであれば、他の計測装置を含んでいてもよい。又、表示手段26が1つのみの構成や3つ以上の構成であってもよく、同じ表示手段26において複数種類の表示画面を切り替えて表示してもよく、表示画面の種類に対応した数の表示手段26を設置し、表示手段26毎に異なる表示画面を表示してもよい。更に、表示手段26により、図4に示した監視画面64や図5に示した3次元表示80に加えて、従来システムで表示していたような平面誘導図や断面誘導図等を表示してもよい。
【0041】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、図1及び図2に示すように、位置計測手段12、潮位計18、複数のセンサ14(14A、14B)、演算管理手段24、少なくとも1つの表示手段26(26A、26B)、及び、制御手段28を含んでいる。位置計測手段12はポンプ浚渫船36の位置(平面位置)を計測するもの、潮位計18は施工範囲近傍の潮位を計測するもの、複数のセンサ14はポンプ浚渫船36の姿勢を計測するものであり、これらの計測が施工中に継続的に行われることで、各計測結果に常に最新の状況が反映される。演算管理手段24は、浚渫施工管理システム10の運用に必要な演算及び情報の管理を行うものであり、管理する情報の1つとして、施工範囲の設計浚渫深度(換言すれば水底の設計形状)に応じたカッター管理深度が予め設定される。
【0042】
更に、演算管理手段24は、浚渫施工管理システム10の運用に必要な演算の1つとして、位置計測手段12と潮位計18と複数のセンサ14との計測結果に基づき、カッター54の位置(平面位置)及び深度の算出を実行する。このとき、カッター54の位置は、位置計測手段12により計測されるポンプ浚渫船36の位置に、演算管理手段24に予め設定されるポンプ浚渫船36の各部位(船体、ラダー等)の大きさ、複数のセンサ14により計測されるポンプ浚渫船36の姿勢等が加味されて算出される。又、カッター54の深度は、潮位計18により計測される施工範囲近傍の潮位、ポンプ浚渫船36の姿勢、ポンプ浚渫船36のラダー42の大きさ等から算出される。このようなカッター54の位置及び深度の算出を、施工中に継続的に行うことで、カッター54の現在の位置及び深度をリアルタイムに把握することができる。
【0043】
少なくとも1つの表示手段26は、演算管理手段24により算出される算出結果や、演算管理手段24に設定される各種の情報を含み、演算管理手段24により取り扱う情報の少なくとも一部を表示するものである。この表示手段26によって、例えば、カッター54の現在の位置及び深度といった最新の情報を、オペレータに対して提供することができる。制御手段28は、ラダー42を上下方向に揺動させるようにポンプ浚渫船36に搭載されたラダーウィンチ44を制御することで、ラダー42の傾斜角度(揺動角度)を変化させ、ラダー42先端に設けられたカッター54の深度を調整するものである。このとき、制御手段28は、上記のように演算管理手段24により算出されたカッター54の位置及び深度と、上記のように演算管理手段24に設定されたカッター管理深度とに基づいて、ラダーウィンチ44を制御する。すなわち、制御手段28は、カッター54の深度が、カッター54が今現在ある位置に設定されているカッター管理深度に等しくなるように、ラダーウィンチ44の制御を行うものである。
【0044】
上記のような構成により、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、ラダー42のスイング動作によりラダー42先端のカッター54の位置が変化しても、カッター54の現在位置に設定されているカッター管理深度と等しくなるように、常にカッター54の深度が調整される。換言すれば、ラダー42のスイング動作に追従して、常にカッター管理深度通りの深度にカッター54の深度を調整することができる。このため、例えば、ラダー42のスイング動作により、水底に構築する凹路の側端に相当する位置にカッター54が移動されても、凹路の側端に法面が形成されるように設定されたカッター管理深度通りにカッター54の深度を調整することで、凹路の側端に難なく法面を形成することが可能となる。
【0045】
このように、カッター管理深度に従ってリアルタイムにラダー42の深度を調整することができるため、水底を設計浚渫深度通りに浚渫することができ、高精度にポンプ浚渫を行うことが可能となる。更に、カッター54の深度調整には、施工範囲近傍の潮位やポンプ浚渫船36の姿勢等が加味されているため、オペレータの技量や経験に左右されることなく、高精度で効率的かつ省力化された浚渫を実行することができる。加えて、オペレータは、繊細なラダー操作から解放されて負担が軽減されるため、状況に応じて、浚渫に必要な別の操作に注意を傾けることができ、これによっても施工の精度を向上することが可能となる。
【0046】
又、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、更に、施工範囲の現在の水底深度(換言すれば現在の水底の形状)を計測する深度計測手段16を含み、この深度計測手段16による計測を施工中に継続的に行うことで、浚渫作業により刻々と変化する水底形状の最新の状態を把握することができる。又、演算管理手段24には、管理する情報として、施工範囲の施工前の水底深度(換言すれば施工前の水底の形状)と、施工範囲の設計浚渫深度とが予め設定される。そして、演算管理手段24は、設定された施工前の水底深度、設計浚渫深度及びカッター管理深度と、深度計測手段16から取得する現在の水底深度とを、施工範囲を複数の矩形に分割したメッシュで管理する。すなわち、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度及び現在の水底深度の全てを、メッシュを構成する複数の矩形の各々単位で管理するものである。これにより、深度計測手段16によってリアルタイムに把握される施工状況を含み、施工範囲の情報を集約して緻密に管理することができるため、管理密度を高めることができると共に、出来形管理の効率化を図ることが可能となる。
【0047】
又、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、ポンプ浚渫船36の位置を計測する位置計測手段12がGNSSであり、施工範囲の現在の水底深度を計測する深度計測手段16がマルチビームソナーであることとすれば、これらの計測を精度良く行うことができる。更に、ポンプ浚渫船36の姿勢を計測する複数のセンサ14が、ポンプ浚渫船36の喫水を計測する喫水計14Aと、ラダー42の傾斜角度を計測する傾斜計14Bとを含むことで、ポンプ浚渫船36の姿勢をより高精度に計測することができる。そして、カッター54の現在の位置及び深度の算出に、上述したGNSS、喫水計14A及び傾斜計14B等の計測結果を利用することにより、算出精度をも高めることができる。
更に、制御手段28を介したラダーウィンチ44の自動制御と、オペレータによるラダーウィンチ44の手動制御とを切り替えるための切替手段30を含むことで、ラダーウィンチ44の自動制御及び手動制御の切り替えを、状況に応じて迅速かつ柔軟に実行することができる。
【0048】
加えて、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、少なくとも1つの表示手段26により、例えば図4に示すような、ラダー42の制御に係る監視画面64を表示するものである。この監視画面64は、演算管理手段24により算出されたカッター54の深度(カッターの深度表示68)と、演算管理手段24により管理するカッター管理深度(カッター管理深度の表示70)と、切替手段30を操作するための操作入力表示72と、ラダーウィンチ44が手動制御に切り替えられた状態でラダーウィンチ44を操作するための操作入力表示74と、ラダー42の上限位置及び下限位置を設定するための操作入力表示76、78とのうち、少なくともいずれか1つを含むものである。このような監視画面64をオペレータに対して表示することで、ラダー42の状態を示す情報を集約して提供することができると共に、ラダー42の制御の切替操作やラダーウィンチ44の手動操作を容易に実行することができる。
【0049】
更に、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10は、演算管理手段24において管理される、施工前の水底深度、設計浚渫深度、カッター管理深度及び現在の水底深度のうち、少なくともいずれか1つを、例えば図5に示す3次元表示80の深度のカラー立体表示84のように、少なくとも1つの表示手段26により表示するものである。このとき、表示手段26は、上記の4つの深度を、深度の値に応じて色を変化させながら3次元で表示する。ここで、これらの4つの深度は、演算管理手段24においてメッシュで管理されているため、メッシュを構成する矩形毎に着色した立体で各深度を表示し、そのような矩形を並べて施工範囲の一部や全体を表示させればよい。更に、図5に示す表示深度切替選択部86等を利用して、4つの深度のうち、オペレータにより選択された深度を表示するようにしてもよい。これにより、施工中に変化する浚渫状況を含み、施工範囲の情報を3次元でリアルに「見える化」することができるため、オペレータが浚渫状況等を直観的に把握することができ、状況判断の迅速化及び高度化を図ることが可能となる。
なお、本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理方法は、上述した本発明の実施の形態に係る浚渫施工管理システム10により実行されることで、浚渫施工管理システム10と同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0050】
10:浚渫施工管理システム、12:位置計測手段(GNSS)、14:複数のセンサ、14A:喫水計、14B:傾斜計、16:深度計測手段(マルチビームソナー)、18:潮位計、24:演算管理手段、26(26A、26B):表示手段、28:制御手段、30:切替手段、36:ポンプ浚渫船、42:ラダー、44:ラダーウィンチ、54:カッター、56(56A、56B):スパッド、64:監視画面、68:カッターの深度表示、70:カッター管理深度の表示、72:切替手段の操作入力表示、74:ラダーウィンチの操作入力表示、76:ラダーの上限位置の操作入力表示、78:ラダーの下限位置の操作入力表示、80:3次元表示、84:深度のカラー立体表示
図1
図2
図3
図4
図5