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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】接合構造体及び接合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/16 20060101AFI20220712BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20220712BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220712BHJP
   C21D 1/32 20060101ALN20220712BHJP
   B62D 21/00 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
B23K11/16
C22C38/60
C22C38/00 301U
C21D1/32
B62D21/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018216802
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020082103
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-125251(JP,A)
【文献】特開2018-126752(JP,A)
【文献】特開2008-106324(JP,A)
【文献】特開2017-002384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/16
C22C 38/60
C22C 38/00
C21D 1/32
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼からなる第1部材と、
前記第1部材に重ねられ、高張力鋼からなる第2部材と、
前記第1部材における前記第2部材との重ね面、又は前記第2部材における前記第1部材との重ね面の少なくとも一方に形成された表面軟質層と、
前記第1部材と前記第2部材とが溶融および凝固して形成された溶融凝固部と、
前記溶融凝固部の周囲に形成された熱影響部と、
を有し、
前記表面軟質層の合計厚さが50μm以上120μm以下、かつ、前記溶融凝固部の炭素量が0.35質量%以上であるとともに、
前記熱影響部内における前記表面軟質層の最大ビッカース硬さが100Hv以上500Hv以下であり、
前記溶融凝固部の径Dと、前記第1部材の板厚と前記第2部材の板厚のうち薄い方の板厚t min とが、D≧4.0√t min を満足することを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記表面軟質層が脱炭層であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の接合構造体を製造する方法であって、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の表面に形成された前記表面軟質層が前記第1部材と前記第2部材の間に介在するように、前記第1部材と前記第2部材を重ね合わせた後、溶接により前記溶融凝固部を形成することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造体及び接合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出量の削減を目的とした車体軽量化や衝突安全性強化を実現するため、自動車のボディ骨格等に高張力鋼板(High Tensile Strength Steel;HTSS)が適用されており、優れた溶接部品質が確保可能な高張力鋼板(高強度鋼板)の溶接技術が求められている。
【0003】
溶接部品質を表す代表的な溶接品質評価項目として、継手の静的強度が挙げられる。静的強度には、引張せん断強度(TSS)及び十字引張強度(CTS)があるが、高張力鋼板では、母材成分中のC量が多いことに起因して、溶接部の靭性が低下し、界面破断や部分プラグ破断(ナゲット内破断)を生じやすくなる。特に、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板になると、その傾向が顕著に現れ、これまで引張せん断強度を向上させるために、種々の対策がなされている。
【0004】
特許文献1には、鋼板成分を適切に制御し、更には、焼入れ後の溶接性を改善させるNdを適量添加することで、良好なせん断引張強度を有するスポット溶接継手が得られることが開示されている。
【0005】
しかしながら、鋼中の各種基本構成元素の成分量(鋼中成分)を制限することで、母材自体の機械的特性(材料強度)が低下する等の問題がある。また、Ndは高価な元素であり、製造コスト増加につながる。
【0006】
特許文献2には、溶接ワイヤ―を用いて軟質な溶接部を形成し、高強度鋼板においても高い十字引張強さおよびせん断強さの両方を確保したアークスポット溶接継手が得られることが開示されている。
【0007】
上記特許文献2に記載の技術は、希釈を行う位置に溶湯を供給する必要があり、制御が難しいという問題がある。また、自動車ボディなどの溶接構造体は、様々な角度(溶接姿勢)で溶接を行う必要があり、角度によっては溶湯を接合部に供給することが不可能な場合があり、溶接施工性に問題があった。
【0008】
すなわち、従来の技術では、高張力鋼板同士の溶接継手において、良好な引張せん断強度を得るためには、鋼中成分(母材成分)、特に炭素量(C量)を制限せざるを得ず、母材自体の機械的特性(材料強度、変形能)を犠牲にする必要があった。あるいは、溶接法を制限する必要があるため、溶接施工性が阻害されることは避けられなかった。
【0009】
しかしながら、CO排出量や衝突安全性の厳格化に対応するため、成形性が良好な高成分系鋼板の適用が必須である。また、アークスポット溶接法は溶接施工の自由度が低く、自動車組立において適用可能な部位が限定される。更に、高周波加熱を用いたスポット溶接は、特殊な溶接機が必要であり、コスト面で問題がある。そのため、高張力鋼板の溶接において、母材の機械的特性を犠牲にすることなく、高い継手強度、すなわち高い引張せん断強度(Tensile Shear Strength;TSS)と溶接施工性を満足する向上できる工法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2008-308732号公報
【文献】特開2013-10139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、母材の機械的特性が良好な、鋼中の炭素量が多い高張力鋼板においても、溶接施工性を阻害することなく、溶融凝固部の靭性を高めて、継手強度(引張せん断強度)を向上できる接合構造体及び接合構造体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、接合構造体に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 高張力鋼からなる第1部材と、
前記第1部材に重ねられ、高張力鋼からなる第2部材と、
前記第1部材における前記第2部材との重ね面、又は前記第2部材における前記第1部材との重ね面の少なくとも一方に形成された表面軟質層と、
前記第1部材と前記第2部材とが溶融および凝固して形成された溶融凝固部と、
前記溶融凝固部の周囲に形成された熱影響部と、
を有し、
前記表面軟質層の合計厚さが5μm以上200μm以下、かつ、前記溶融凝固部の炭素量が0.35質量%以上であるとともに、
前記熱影響部内における前記表面軟質層の最大ビッカース硬さが100Hv以上500Hv以下であることを特徴とする接合構造体。
【0013】
また、接合構造体に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]又は[3]に関する。
[2] 前記表面軟質層が脱炭層であることを特徴とする上記[1]に記載の接合構造体。
[3] 前記表面軟質層の合計厚さが45μm以上であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の接合構造体。
【0014】
また、本発明の上記目的は、接合構造体の製造方法に係る下記[4]の構成により達成される。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の接合構造体を製造する方法であって、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の表面に形成された前記表面軟質層が前記第1部材と前記第2部材の間に介在するように、前記第1部材と前記第2部材を重ね合わせた後、溶接により前記溶融凝固部を形成することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、母材の機械的特性が良好な、鋼中の炭素量が多い高張力鋼板の接合において、溶接施工性を阻害することなく、溶融凝固部の靭性を高めて、継手強度(引張せん断強度)を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る接合構造体の断面図である。
図2図2は、本発明の別の一実施形態に係る接合構造体の断面図である。
図3図3は、本発明の更に別の一実施形態に係る接合構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<接合構造体の基本構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る接合構造体の断面図である。本構成の接合構造体100は、高張力鋼からなる第1部材12と、第1部材12に重ねられ、高張力鋼からなる第2部材14と、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の少なくとも一方に形成された表面軟質層20と、溶融凝固部30と、溶融凝固部30の周囲に形成された熱影響部40と、を有する。第1部材12と第2部材14の高張力鋼は、いずれも引張強度が440MPa以上の高張力鋼板(High Tensile Strength Steel;HTSS)で構成される。
【0018】
溶融凝固部30は、第1部材12と第2部材14とが、スポット溶接等の溶接処理により溶融した後、凝固して形成された接合部である。溶融凝固部30は、第1部材12と第2部材14とを堅固に接合する。なお、スポット溶接のような抵抗溶接を用いた溶接の場合には、溶融凝固部30をナゲットともいう。
【0019】
また、熱影響部(Heat Affected Zone;HAZ)40は、溶接熱により、組織や機械的性質が変化を生じた、溶融していない母材の部分のことである。熱影響部40は、熱影響部40の外側の領域で熱影響を受けない母材部分と溶融凝固部30との中間に位置する。
なお、溶融凝固部30の周辺には、固相溶接されたリング状の部分であるコロナボンド50が形成されている。
【0020】
ここで、接合構造体100における引張せん断強度(TSS)に影響を与える因子として、炭素量(C量)が知られている。炭素量の値が、所定値以下(例えば0.35質量%未満)であれば、引張せん断試験での破断形態が良好で、TSSの値が低下しないとされる。
【0021】
また、第1部材12と第2部材14とを溶融させて接合する場合において、その溶融凝固部30における炭素量(M1,M2)は、下記式(1)に示すように、第1部材12の炭素量(M1)と第2部材14の炭素量(M2)との平均値となる。
炭素量(M1,M2)={炭素量(M1)+炭素量(M2)}/2・・・(1)
【0022】
ここで、第1部材12および第2部材14ともに高張力鋼板を用いる場合、各部材の炭素量は比較的高い値(例えば0.35質量%以上)であるため、溶融凝固部30の炭素量も、第1部材12及び第2部材14と同等レベルの高い値となってしまい、結果としてTSSの値が低くなってしまう。
【0023】
一方、上記特許文献1で示したように、鋼中の各種基本構成元素の成分量、特に炭素量を制限することにより、TSSを向上させることは可能である。しかし、鋼中の炭素量を制限した場合には、鋼自体の機械的特性(材料強度)の低下が懸念される。よって、高張力鋼同士を良好な継手強度(引張せん断強度)で溶接することは困難である。
【0024】
そこで、本実施形態の接合構造体100においては、溶融凝固部30における炭素量の値を0.35質量%以上の高い値としつつ、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の少なくとも一方に表面軟質層20を形成し、第1部材12と第2部材14との溶接処理により得られる熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さを100Hv以上500Hv以下の範囲に制御する。
【0025】
第1部材12と第2部材14との界面に表面軟質層20を設けることにより、第1部材12と第2部材14とを溶接した場合に得られる、溶融凝固部30の周囲に形成された熱影響部40内の表面軟質層20(詳細には、図1に示される、コロナボンド50の周囲に連続して形成されている、熱影響部40内の表面軟質層20の部分)の最大ビッカース硬さを所定値以下(具体的には、500Hv以下)に制御することができる。ここで、熱影響部40内の表面軟質層20の最大ビッカース硬さを所定値以下に制御し得る好適な表面軟質層としては、脱炭層が挙げられる。脱炭層は、母材と比較して非常に薄いため、母材強度をほとんど低下させることなく、局部変形能を高めることが可能である。
【0026】
引張せん断においては、主にせん断応力が付与される一方で、曲げモーメントによる変形も加えられるが、熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さを所定値以下に制御することにより、応力集中点近傍(具体的には、コロナボンド50の端部近傍)の変形能が向上するため、優先的に母材部分を変形させることができ、溶融凝固部30での破断や熱影響部40での脆性的な破断を効果的に抑制することができる。また、熱影響部40に含まれるコロナボンド50も軟化するため、コロナボンド50における初期亀裂および進展を抑制することができる。
【0027】
<接合構造体の詳細>
次に、上記構成の接合構造体100における各構成要素につき詳細に説明する。
【0028】
(高張力鋼部材)
第1部材12、第2部材14は、前述したように引張強度が440MPa以上の高張力鋼板(HTSS)である。なお、上記高張力鋼板としては、440MPa級以上のものであれば特に限定されず、例えば、590MPa級以上、780MPa級以上、980MPa級以上の高張力鋼板であってもよい。
第1部材12、第2部材14の表面片側又は両面には、亜鉛又は亜鉛合金等の金属めっき皮膜、塗料等の有機樹脂皮膜、潤滑剤、及び/又は潤滑油等、通常、鋼材に施される公知の皮膜が形成されていてもよい。また、これらの皮膜は、単独に用いた単層、又は複合させて組み合わせた複層で被覆されていてもよい。
【0029】
第1部材12、第2部材14の鋼中成分量は特に限定されないが、鋼中に含まれる各元素(C、Si、Mn、P、S及びその他の金属元素)の含有量の望ましい範囲およびその範囲の限定理由を以下で説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て「質量%」の意味である。
【0030】
[C:0.05~0.60%]
Cは鋼の母材強度向上に寄与する元素であるため、高張力鋼板には必須な元素である。そのため、C含有量(炭素量)の下限は0.05%以上とすることが好ましい。一方、過剰に添加すると、溶融凝固部30および熱影響部40の硬度が高くなり、良好な継手強度が得られない。そのため、C含有量の上限は、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.40%以下、更に好ましくは0.20%とする。
なお、第1部材12と第2部材14とを溶融させて接合する場合において、その溶融凝固部30における炭素量(M1,M2)を0.35質量%以上とするためには、第1部材12の炭素量(M1)と第2部材14の炭素量(M2)との平均値が0.35質量%以上となる必要がある。
【0031】
[Si:0.01~3.0%]
Siは脱酸に寄与する元素である。そのため、Si含有量の下限は0.01%以上とすることが好ましい。一方、過剰に添加すると、焼戻し軟化抵抗が高くなり、溶融凝固部30および熱影響部40の硬度が過剰に高くなり、良好な継手強度が得られない。そのため、Si含有量の上限は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、更に好ましくは1.00%以下とする。
【0032】
[Mn:0.5~3.0%]
Mnは焼入れ性向上に寄与する元素であり、マルテンサイトなど硬質組織を生成するために必須な元素である。そのため、Mn含有量の下限は0.5%以上とすることが好ましい。一方、過剰に添加すると、溶融凝固部30および熱影響部40の硬度が過剰に高くなり、良好な継手強度が得られない。そのため、Mn含有量の上限は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下とする。
【0033】
[P:0.05%以下(0%は含まない)]
Pは不可避的に鋼中へ混入する元素であるが、粒内および粒界へ偏析しやすく、溶融凝固部30および熱影響部40の靭性を低下させるため、極力低減することが望ましい。そのため、P含有量の上限は、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.04%以下、更に好ましくは0.02%以下とする。
【0034】
[S:0.05%以下(0%は含まない)]
SはP同様、不可避的に鋼中へ混入する元素であるが、粒内および粒界へ偏析しやすく、溶融凝固部30および熱影響部40の靭性を低下させるため、極力低減することが望ましい。そのため、S含有量の上限は、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.04%以下、更に好ましくは0.02%以下とする。
【0035】
[その他の金属元素]
本件発明にかかる第1部材12及び第2部材14は、上記C、Si、Mn、P及びS以外は、
Al:1.0%以下(0%を含む)、
N:0.01%以下(0%を含む)、
Ti、V、Nb、Zrの合計で0.1%以下(0%を含む)、
Cu、Ni、CrおよびMoの合計で1.0%以下(0%を含む)、
B:0.01%以下(0%を含む)
Mg、Ca、REMの合計で0.01%以下(0%を含む)であることが好ましい。
その他、残部はFe及び不可避的不純物であることが好ましい。不可避不純物は、鋼の製造時に不可避的に混入する不純物であり、上記第1部材12及び第2部材14の諸特性を害さない範囲で含有されうる。
【0036】
第1部材12、第2部材14は、溶接可能な板厚であればよい。通常、3mm以下の板厚を有するものが接合構造体100として用いられる。また、高張力鋼部材の成形方法については、特に限定されないが、例えば、プレス成形、ロールフォーム等を採用できる。
【0037】
(表面軟質層)
表面軟質層20は、図1に示すように、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の少なくとも一方に形成される。図1においては、第1部材12および第2部材14の両面に表面軟質層20が形成されているが、第1部材12の表面のみ、又は第2部材14の表面のみに表面軟質層20をするのでもよい。また、表面軟質層20は、第1部材12や第2部材14よりもビッカース硬さが低い軟質の組織であり、変形能に優れる。すなわち、引張せん断において曲げ変形が加えられた際、本実施形態のように第1部材12や第2部材14の表面に表面軟質層20を形成させることにより、初期変形能を高め、熱影響部40での亀裂発生を抑制し、優先的に母材部を変形させることができる。よって、表面軟質層20の形成により、引張せん断強度(TSS)が向上する。
【0038】
表面軟質層20の材質については、第1部材12や第2部材14よりもビッカース硬さが低い軟質の組織であれば特に制限されない。
【0039】
よって、第1部材12と第2部材14とを接合する場合において、第1部材12と第2部材14の間に表面軟質層20としての脱炭層を形成しておくことで、第1部材12と第2部材14の溶融凝固部30における炭素量(M1,M2,N)は、下記式(2)に示すように、第1部材12の炭素量(M1)と、第2部材14の炭素量(M2)と、表面軟質層20(脱炭層)の炭素量(N)との平均値となる。この場合、溶融凝固部30は、第1部材12や第2部材14より低い炭素量の表面軟質層20(脱炭層)によって希釈され、第1部材12の炭素量(M1)や第2部材14の炭素量(M2)よりも低くなる。その結果、溶融凝固部30の炭素量の低下により、靱性に優れ、良好な継手強度を有する接合構造が得られる。
炭素量(M1,M2,N)=(炭素量(M1)+炭素量(M2)+炭素量(N))/3・・・(2)
【0040】
なお、上記した希釈の効果を十分に発揮させるためには、表面軟質層20を第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の両方に形成することが好ましい。
【0041】
このような表面軟質層20を形成することによる効果を有効に発揮させるためには、表面軟質層20の合計厚さを5μm以上とし、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは45μm以上、より更に好ましくは50μm以上とする。しかし、表面軟質層20が過剰に厚くなると、引張強度や疲労強度が低下するため、表面軟質層20の合計厚さは200μm以下とし、好ましくは160μm以下、より好ましくは120μm以下、より更に好ましくは80μm以下とする。
なお、上記「合計厚さ」とは、表面軟質層20が、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面のいずれかのみに形成される場合は、その形成された表面軟質層20の厚さを意味する。また、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の両方に形成される場合は、その両方に形成された各表面軟質層20の合計の厚さを意味する。
【0042】
なお、表面軟質層20の形成方法は特に限定されない。表面軟質層20が脱炭層である場合には、本実施形態の効果を損なわない範囲で公知の種々の脱炭処理方法を適用することができる。例えば、二酸化炭素、空気、水蒸気など、脱炭反応に寄与する気体を含む雰囲気ガス中で、700℃~950℃の温度で1時間保持する条件で脱炭層を形成すればよい。
また、脱炭処理による方法以外でも、例えば、第1部材12や第2部材14のビッカース硬さよりも低い材料(金属板など)をクラッド(複層圧延)により形成してもよい。
【0043】
また、表面軟質層20が脱炭層である場合の、脱炭層の厚さは、脱炭処理直後のサンプルに対して、光学顕微鏡や電子顕微鏡などによるフェライトを主層とする層の厚さを測定することなどにより判断する。
【0044】
(熱影響部)
上述の通り、熱影響部(Heat Affected Zone;HAZ)40は、溶接熱により、組織、機械的性質が変化を生じた、溶融していない母材の部分のことであり、溶融凝固部30の周囲に形成される。第1部材12と第2部材14との界面付近の熱影響部40における硬さは、引張せん断試験の変形量に大きく影響する。このため、良好な継手強度を得るためにはこの最大硬さが所定値以下であることが好ましい。具体的には、熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さが500Hv以下であり、好ましくは400Hv以下、より好ましくは300Hv以下、更に好ましくは200Hv以下である。
しかし、熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さを100Hv未満とすることは鋼板の特性上からして困難であるため、熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さの下限を100Hvとする。
【0045】
なお、熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さは、第1部材12や第2部材14の表面に脱炭層を形成することにより制御することができる。更には、後述するように、スポット溶接の場合、溶融凝固部30の形成のための本通電(溶融通電)の後、後通電としてテンパー通電を適用することにより制御することができる。
また、本実施形態における「熱影響部40内における表面軟質層20の最大ビッカース硬さ」は、熱影響部40内における表面軟質層20に相当する部分を、ビッカース硬度計により、板厚垂直方向に測定して得られる硬さ分布の中で最大の硬度のものとする。なお、硬さの測定方法は上記方法のみに限定されず、ナノインデンターなど、他の測定方法を用いても差し支えない。
【0046】
(溶融凝固部)
溶融凝固部30におけるビッカース硬さは、溶融凝固部30の靱性(スポット溶接の場合、ナゲット靱性)に大きく影響し、破断形態を大きく左右する。このため、良好な継手強度を得る観点からは、具体的には、溶融凝固部30の最軟化部におけるビッカース硬さが600Hv以下であることが好ましく、500Hv以下であることがより好ましく、350Hv以下であることが更に好ましい。しかし、溶融凝固部30の最軟化部におけるビッカース硬さを200Hv未満とすることは鋼板の特性上からして困難であるため、溶融凝固部30の最軟化部におけるビッカース硬さの下限を200Hvとする。
【0047】
なお、溶融凝固部30の最軟化部におけるビッカース硬さは、例えば、スポット溶接の場合、後述するように、溶融凝固部30の形成のための本通電(溶融通電)の後、後通電としてテンパー通電を適用することにより制御することができる。また、溶融凝固部30の最軟化部とは、溶融凝固部30における最も硬さが低い部分のことである。本実施形態における「最軟化部におけるビッカース硬さ」は、第1部材12の板厚と第2部材14の板厚のうち薄い方の板厚をtminとした場合において、薄い方の部材表面から3tmin/4の深さ位置における溶融凝固部30の部分を、ビッカース硬度計により、板厚垂直方向に測定して得られる硬さ分布の中で最小の硬度のものとする。
【0048】
また、図1に示すように、溶融凝固部30の径D(スポット溶接の場合、ナゲット径)と、第1部材12の板厚と第2部材14の板厚のうち薄い方の板厚tminとが、下記式(3)を満足することが好ましい。なお、第1部材12の板厚と第2部材14の板厚が同じ厚さの場合は、その厚さをtminとする。
D≧3.5√tmin ・・・(3)
溶融凝固部30の径Dが3.5√tmin未満であると、溶融凝固部30への応力集中が顕著となるため、引張せん断試験時に母材があまり変形しにくく、表面軟質層20(脱炭層)を設けたことによる効果が得られにくい。このため、溶融凝固部30の径Dは、3.5√tmin以上が好ましく、3.7√tmin以上がより好ましく、4.0√tmin以上が更に好ましく、5.0√tmin以上がより更に好ましく、5.5√tmin以上が最も好ましい。
【0049】
上記した溶融凝固部30は、スポット溶接により形成しているが、これに限定されない。溶融凝固部30は、スポット溶接の他、レーザ溶接、アーク溶接等、公知の溶接法を用いても形成できる。また、溶接条件については、必要とする強度や剛性等の設計条件に応じて適宜選択し、決定すればよい。
例えば、スポット溶接であれば、印加電流値を二段階に変化させる二段通電条件や、パルス電流を印加するパルス通電条件等を用いて、溶融凝固部30を形成してもよい。その場合、溶融凝固部30に加えるエネルギー量を高精度に設定でき、溶融凝固部30の温度やサイズ等を細かく設定できる。
【0050】
なお、スポット溶接は、溶接時に電極で被溶接材を押さえ付けるため、溶接姿勢によらず、高い品質での施工が可能である。また、本技術は、既存の軟鋼などの量産スポット溶接設備をそのまま利用可能であり、高張力鋼用の特別な装置や制御も不要となる。
【0051】
<接合構造体の製造方法>
次に、接合構造体の製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係る接合構造体100は、例えば、次の手順で接合される。まず、炭素量が各々0.35質量%以上の第1部材12および第2部材14の少なくとも一方の表面に、脱炭層などの表面軟質層20を形成する。そして、表面軟質層20が第1部材12と第2部材14の間に介在するように、第1部材12と第2部材14を重ね合わせる。第1部材12と第2部材14を重ね合わせた後、一対のスポット溶接電極で第1部材12および第2部材14を挟み込み、溶接電流を印加する。これにより第1部材12と第2部材14とが溶融および凝固して溶融凝固部30(溶融ナゲット)が形成される。
なお、通電パターンは特に限定されず、必要に応じて、電流値を適宜変化させる多段通電を適用してもよい。加圧条件に関しても、必要に応じて、通電中あるいは冷却中に変化させてもよい。電極材質や電極形状についても、表面軟質層20を設けることによる本実施形態の効果を損なわない範囲で、適宜選択すればよい。
【0052】
この接合構造体100では、第1部材12と第2部材14との界面に表面軟質層20を設けることで、第1部材12と第2部材14との溶接処理により得られる熱影響部40内における表面軟質層20のビッカース硬さを100Hv以上500Hv以下の範囲に制御している。熱影響部40内における表面軟質層20のビッカース硬さを所定値以下に制御することにより、応力集中点近傍の変形能が向上するため、優先的に母材部分を変形させることができ、溶融凝固部30(ナゲット)での破断や熱影響部40での脆性的な破断を効果的に抑制することができる。
【0053】
上記構成により、接合構造体100は、靭性に優れ、良好な継手強度を有する接合構造を得ることが可能となる。また、上記した接合構造体100の製造方法によれば、通常のスポット溶接の設備をそのまま使用するだけで済み、溶接条件を複雑に制御することもなく、高張力鋼部材同士の溶接を、接合強度を低下させずに適切に行える。
【0054】
なお、上記接合構造体100を製造するにあたっては、スポット溶接における溶接条件として、溶融凝固部30の形成のための本通電(溶融通電)の後、後通電としてテンパー通電を適用してもよい。テンパー通電とは、本通電による溶融凝固部30の形成の後、一旦、溶融凝固部30を冷却し、その後に溶融凝固部30を加熱する通電である。この通電により、溶融凝固部30の硬さをより低下させる、溶融凝固部(ナゲット)30およびHAZにおけるPやSなどの元素偏析を緩和させるなどの効果が得られ、引張せん断強度を更に向上させることができる。なお、テンパー通電は1回のみの付与に限らず、必要に応じて数回付与しても差し支えない。また、テンパー通電における通電波形は限定されず、パルス通電波形など、適宜最適な波形を選択すればよい。
【0055】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0056】
例えば、上記実施形態では、図1で示したように、第1部材12および第2部材14の両面に表面軟質層20が形成されているが、表面軟質層20は、第1部材12における第2部材14との重ね面、又は第2部材14における第1部材12との重ね面の少なくとも一方に形成されていればよく、図2で示す接合構造体200のように、第1部材12の表面のみに表面軟質層20をするものであっても構わない。
【0057】
また、上記実施形態では、第1部材12および第2部材14の2枚の高張力鋼を用いた接合構造体を例として説明したが、例えば、図3で示す接合構造体300のように、3枚の高張力鋼(第1部材12、第2部材14および第3部材16)を重ねて接合した場合であっても構わない。
【実施例
【0058】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
まず、表1に示す鋼種35MnB及び鋼種S45Cの各々(いずれも炭素量が0.35質量%以上)に対し、鋼板の両表面に表面軟質層としての脱炭層を形成したものと、脱炭層を形成しないものを準備した。脱炭層は、大気炉において700℃~950℃の温度で1時間保持する条件により形成された。熱処理により発生したスケールを酸洗処理(酸洗液:10~50%塩酸、温度:25~82℃、酸洗時間:20~3600秒)により除去した。
脱炭層の厚さ(深さ)は、表1に示すように、鋼種35MnB及び鋼種S45Cにおいて種々のものを準備した。なお、ここでいう「脱炭層の厚さ」は、鋼板の片面に形成された脱炭層の厚さを意味する。
【0060】
続いて、実施例1~4については、脱炭層を形成した鋼種35MnB又は鋼種S45Cのいずれかを第1部材及び第2部材とし、引張せん断試験方法(JIS Z3136:以下、引張せん断試験方法のJIS規格の記載は省略)に基づき以下に示す条件で重ねて溶接し、引張せん断試験片を作製した。
【0061】
また、比較例1~4については、脱炭層を形成しなかった鋼種35MnB又は鋼種S45Cのいずれかを第1部材及び第2部材とし、実施例と同様にして以下に示す条件で重ねて溶接し、引張せん断試験片を作製した。
【0062】
重ね溶接は、エア加圧式単層交流溶接機を用いて、下記の通電条件でスポット溶接を実施した。電極は上下ともに、先端径6mm(先端R40mm)、ドームラジアス型(DR電極)のクロム銅電極とした。電極を流れる冷却水量は上下ともに1.5L/minとした。
(通電条件)
加圧力:450~500kgf
電流値:5~8kA
通電時間:0.3sec
ホールドタイム:0.16sec
【0063】
スポット溶接して得られた継手に対して、上記の引張せん断試験方法に基づく引張せん断試験を実施して、引張せん断強度(TSS)を調査した。
【0064】
続いて、継手の断面において、熱影響部内における表面軟質層(脱炭層)の最大ビッカース硬さを測定した。測定は、ビッカース硬度計により、それぞれ下記の条件にて行い、板厚垂直方向の硬さ分布を調査した。得られたそれぞれの硬さ分布に基づき、熱影響部内における表面軟質層(脱炭層)の最大ビッカース硬さと、溶融凝固部の最軟化部におけるビッカース硬さを求めた。
・表面軟質層(脱炭層)
荷重:10~50gf(表面脱炭層における硬さ測定荷重は、脱炭層厚さに応じて適宜調節した。)
測定ピッチ:0.10mm
測定位置:コロナボンドと熱影響部の界面から熱影響部と母材界面まで
※熱影響部は、ピクリン酸腐食することで判別した。(母材よりも白い部分)
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す実施例1~4のうち、実施例1では、54μm厚さの脱炭層が形成された鋼種35MnB(炭素量:0.35質量%)同士の板組に対して、溶接を実施した。
実施例2~4では、47μm厚さの脱炭層が形成された鋼種S45C(炭素量:0.43質量%)同士の板組に対して、溶接を実施した。表2に示す通り、実施例2~4においては、溶接時の通電時間が異なることにより、ナゲット径が異なっている。
【0068】
また、比較例1では、脱炭層を有さない鋼種35MnB(炭素量:0.35質量%)同士の板組に対して、溶接を実施した。
比較例2~4では、脱炭層を有さない鋼種S45C(炭素量:0.43質量%)同士の板組に対して、溶接を実施した。比較例2~4においても同様、溶接時の通電時間が異なることにより、ナゲット径が異なっている。
【0069】
表2の結果に示すように、いずれの実施例においても、脱炭層を形成することで、熱影響部の脱炭層の最大硬さが低くなり、結果として引張せん断強度(TSS)が向上することが明らかとなった。
【0070】
実施例と比較例とを詳細に比較すると、例えば、鋼種35MnBの鋼板を用いた例において、同等の試験条件である実施例1と比較例1を比較した場合、実施例1は比較例1に対し、熱影響部内における脱炭層の最大ビッカース硬さが553Hvから374Hvに低下しており、これに伴って、TSSが11.15kNから16.27kNに向上していることが分かる。
また、鋼種S45Cの鋼板を用いた例において、同等の試験条件である実施例2と比較例2を比較した場合、実施例2は比較例2に対し、熱影響部内における脱炭層の最大ビッカース硬さが776Hvから478Hvに低下しており、これに伴って、TSSが10.73kNから11.70kNに向上していることが分かる。
【0071】
なお、鋼種違いで比較した場合、炭素量が多い鋼種(すなわち、ナゲット部の炭素量が多くなる場合)ほど、脱炭層を形成することによるTSSの向上効果が高いことが理解される。例えば、炭素量が0.35質量%である鋼種35MnBにおける、実施例1と比較例1を比較した場合、実施例1は比較例1に対し、TSSが11.15kNから16.27kNにしか向上していないが、炭素量が0.43質量%である鋼種S45Cにおける、実施例3と比較例3を比較した場合、実施例3は比較例3に対し、TSSが11.08kNから22.34kNに大幅に向上していることが分かる。
これは、鋼中の炭素量が多い高張力鋼板ほど、脱炭層を設けない場合のTSSの低下割合が高いことから、脱炭層を設けることによるTSS向上の効果が顕著に現れたものと考えられる。
【0072】
また、ナゲット径違いで比較した場合、ナゲット径が大きくなるほど、脱炭層を形成することによるTSSの向上効果が高いことが理解される。例えば、鋼種S45Cにおける、実施例2(ナゲット径D=3.7√t)と実施例4(ナゲット径D=5.2√t)を比較した場合、実施例2は比較例2に対し、TSSが10.73kNから11.70kNにしか向上してないが、実施例4は比較例4に対し、TSSが11.68kNから23.68kNにまで大幅に向上していることが分かる。
これは上述したように、ナゲット径が小さいほど、ナゲットへの応力集中が顕著となるため、引張せん断試験時に母材があまり変形しにくく、脱炭層を設けたことによる効果が得られにくいためと考えられる。
【0073】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
[1] 高張力鋼からなる第1部材と、
前記第1部材に重ねられ、高張力鋼からなる第2部材と、
前記第1部材における前記第2部材との重ね面、又は前記第2部材における前記第1部材との重ね面の少なくとも一方に形成された表面軟質層と、
前記第1部材と前記第2部材とが溶融および凝固して形成された溶融凝固部と、
前記溶融凝固部の周囲に形成された熱影響部と、
を有し、
前記表面軟質層の合計厚さが5μm以上200μm以下、かつ、前記溶融凝固部の炭素量が0.35質量%以上であるとともに、
前記熱影響部内における前記表面軟質層の最大ビッカース硬さが100Hv以上500Hv以下であることを特徴とする接合構造体。
【0074】
この接合構造体によれば、第1部材と第2部材との界面に表面軟質層を設けることにより、第1部材と第2部材とを溶接した場合に得られる、溶融凝固部の周囲に形成された熱影響部内の最大ビッカース硬さを所定値以下に制御することができる。引張せん断においては、主に材料へ曲げ変形が加えられるが、熱影響部内における表面軟質層の最大ビッカース硬さを所定値以下に制御することにより、応力集中点近傍の変形能が向上するため、優先的に母材部分を変形させることができ、溶融凝固部での破断や熱影響部での脆性的な破断を効果的に抑制することができる。また、熱影響部に含まれるコロナボンド部も軟化するため、コロナボンド部における初期亀裂および進展を抑制することができる。
【0075】
[2]前記表面軟質層が脱炭層であることを特徴とする上記[1]に記載の接合構造体。
【0076】
この接合構造体によれば、第1部材と第2部材とを接合する場合において、第1部材と第2部材の間に表面軟質層としての脱炭層を形成しておくことで、溶融凝固部における炭素量が、第1部材や第2部材より低い炭素量の脱炭層によって希釈される効果も得られる。その結果、溶融凝固部30の炭素量の低下により、靱性に優れ、良好な継手強度を有する接合構造が得られる。
【0077】
[3]前記表面軟質層の合計厚さが45μm以上であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の接合構造体。
【0078】
この接合構造体によれば、第1部材や第2部材の表面に表面軟質層を形成させることにより、局部変形能を改善し、引張せん断強度(TSS)を向上させるという効果を高められる。
【0079】
[4]上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の接合構造体を製造する方法であって、
前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方の表面に形成された前記表面軟質層が前記第1部材と前記第2部材の間に介在するように、前記第1部材と前記第2部材を重ね合わせた後、溶接により前記溶融凝固部を形成することを特徴とする接合構造体の製造方法。
【0080】
この接合構造体の製造方法によれば、母材の機械的特性が良好な、鋼中の基本構成元素の成分量、特に炭素量が多い高張力鋼板の接合において、溶接施工性を阻害することなく、溶融凝固部の靭性を高めて、継手強度(引張せん断強度)を向上できる。
【符号の説明】
【0081】
12 第1部材
14 第2部材
16 第3部材
20 表面軟質層(脱炭層)
30 溶融凝固部
40 熱影響部
50 コロナボンド
100、200、300 接合構造体
図1
図2
図3