(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】改善されたEELS/EFTEMモジュールを有する透過型荷電粒子顕微鏡およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/26 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
H01J37/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018228641
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-10-22
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンデル ヘンストゥラ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター クリスティアン ティエメイエール
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-092025(JP,A)
【文献】特開2011-123999(JP,A)
【文献】特表2000-515675(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0125210(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/26-37/285
H01J 37/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型荷電粒子顕微鏡を使用する方法であって、該透過型荷電粒子顕微鏡は、
- 試料を透過して送られる荷電粒子の流束を受けて、該流束を、前記試料を通過した後に、センサ・デバイス上へ配向するn個のイメージング・システムと、
- 前記
透過型荷電粒子顕微鏡の少なくとも幾つかの操作上の態様を制御するためのコントローラと、
を備え、
前記方法において、前記センサ・デバイスが、
- 入射平面と、
- EELSモードにおいてEELSスペクトルが形成され、EFTEMモードにおいてEFTEM像が形成される像平面と、
- EFTEMモードにおいてエネルギー分散焦点が形成される前記入射平面と前記像平面との間のスリット平面と、
- 入射する荷電粒子ビームを、関連する分散方向を有するエネルギー分散されたビームへ分散させるための、前記入射平面と前記スリット平面との間の分散デバイスと、
- 前記分散デバイスと前記スリット平面との間の4重極の第1の列と、
- 前記スリット平面と前記像平面との間の4重極の第2の列とを備えるEELS/EFTEMモジュールであるように選択され、
前記分散デバイスおよび前記4重極は光学軸に沿って配置され、
それにより、前記光学軸がZに沿って配置されるデカルト座標系(X,Y,Z)に対しては、前記分散方向はXと平行であるように定められ、
前記方法は、
- 前記4重極の第1の列において、前記分散デバイスから出て行く、軸を外れた非分散YZビームを、前記スリット平面から前記像平面に到る前記光学軸に近軸の経路上へ偏向させるように1または複数の4重極を励起するステップと、
- 前記4重極の第2の列において、前記エネルギー分散されたビームを前記像平面上に集束させるように、
(a) 単一の4重極、または
(b) 1対の隣接した4重極
の何れかを励起するステップと、によって特徴づけられる、方法。
【請求項2】
- 前記分散デバイスに入射する軸上の分散的ビームは、交点pにおいて前記光学軸と交差し、
- 前記4重極の第2の列において、前記交点pが存在するならば、
・ 所定の4重極内で、オプション(a)がこの4重極に適用され、
・ 1対の隣接した4重極の間では、オプション(b)が、この1対の4重極に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記4重極の第2の列の前記4重極の励起が式:
e
ad
a=e
bd
b、を実質的に満たし、
- e
aおよびe
bは、1対の隣接した4重極Qa、Qbそれぞれの実効的励起であり、
- d
aおよびd
bは、4重極Qa、Qbの各々の中心から交点pまでの軸方向距離である、請求項1または2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
オプション(b)においては、両方の4重極は、同じ有極性で励起される
請求項1~3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記エネルギー分散されたビームは前記分散デバイスと前記スリット平面との間で縮小される、請求項1~4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
ビームエネルギーEおよび検出されたスペクトル・エネルギーの広がりΔEに対して、エネルギー・パラメータΔE
r/E
rが0.0125より大きい値を有し、
【数1】
mは電子質量、cは光速である、請求項1~5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
もし、非分散YZビームが光学軸から距離dEで分散デバイスに入り、4重極の第2の列内で光学軸から最大距離dLを有するならば、比d
E/d
Lは3以上、5以上、又は10以上である、請求項1~6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
透過型荷電粒子顕微鏡であって、
- 試料を透過して送られる荷電粒子の流束を受けて、該流束を、前記試料を通過した後に、センサ・デバイス上へ配向するイメージング・システムと、
- 前記
透過型荷電粒子顕微鏡の少なくとも幾つかの操作上の態様を制御するためのコントローラと、を備え、
前記センサ・デバイスはEELS/EFTEMモジュールを有し、該EELS/EFTEMモジュールは、
- 入射平面と、
- EELSモードにおいてEELSスペクトルが形成され、EFTEMモードにおいてEFTEM像が形成される像平面と、
- EFTEMモードにおいてエネルギー分散焦点が形成される前記入射平面と前記像平面との間のスリット平面と、
- 入射ビームを、関連する分散方向を有するエネルギー分散されたビームへ分散させるための、前記入射平面と前記スリット平面との間の分散デバイスと、
- 前記分散デバイスと前記スリット平面との間の4重極の第1の列と、
- 前記スリット平面と前記像平面との間の4重極の第2の列と、を備え、
前記分散デバイスおよび前記4重極は光学軸に沿って配置され、
それにより、前記光学軸がZに沿って配置されるデカルト座標系(X、Y、Z)に対しては、前記分散方向はXと平行であるように定められ、
前記コントローラが、
- 前記4重極の第1の列において、前記分散デバイスから出て行く、軸を外れた非分散YZビームを、前記スリット平面から前記像平面に到る前記光学軸に近軸の経路上へ偏向させるように1または複数の4重極を励起し、
- 前記4重極の第2の列において、前記エネルギー分散されたビームを前記像平面上に集束させるように、
(a) 単一の4重極、または
(b) 1対の隣接した4重極
の何れかを励起する、ように構成されるという点で特徴づけられた、透過型荷電粒子顕微鏡。
【請求項9】
軸を外れた非分散荷電粒子ビームを光軸に近軸に伝搬させるように4重極の第1列を励起するステップであって、前記4重極の第1列は、分散デバイスとスリット平面との間に配置される、ステップと、
軸上の分散荷電粒子ビームが光軸と交差する点に応答して、第2列のうちの1つ以上の4重極を励起するステップであって、前記点は前記スリット
平面とイメージング
平面の間に位置する、ステップと、を含む方法であって、
前記軸上の分散荷電粒子ビームを前記イメージング平面に集束させるために、第2列のうちの1つ以上の4重極を励起するステップは、
4重極の前記第2列のうちの単一の4重極に一致する点に基づいて、4重極の前記第2列のうちの前記単一の4重極を励起するステップと、
4重極の前記第2列のうちの隣り合う2つの4重極
の間の位置に一致する点に基づいて、4重極の前記第2列のうちの前記2つの4重極を励起するステップと、を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型荷電粒子顕微鏡を使用する方法に関するものであり、この透過型荷電粒子顕微鏡は、
- 試料を保持するための試料ホルダと;荷電粒子のビームを作るための源と、
- 前記試料を照射するように前記ビームを配向するための照射器と、
- 前記試料を透過して送られる荷電粒子の流束を受けて、該流束をセンサ・デバイス上へ配向するイメージング・システムと、
- 前記顕微鏡の少なくとも幾つかの操作上の態様を制御するためのコントローラと、を備え、
上記の方法において、前記センサ・デバイスが、
- 入射平面と、
- EELSモードにおいてEELSスペクトルが形成され、EFTEMモードにおいてEFTEM像が形成される像平面と、
- EFTEMモードにおいてエネルギー分散焦点が形成される前記入射平面と前記像平面との間のスリット平面と、
- 入射ビームを、関連する分散方向を有するエネルギー分散されたビームへ分散させるための、前記入射平面と前記スリット平面との間の分散デバイスと、
- 前記分散デバイスと前記スリット平面との間の4重極の第1の列と、
- 前記スリット平面と前記像平面との間の4重極の第2の列と、を備えるEELS/EFTEMモジュールであるように選択され、
前記分散デバイスおよび前記4重極は光学軸に沿って配置され、それにより、前記光学軸がZに沿って配置されるデカルト座標系(X、Y、Z)に対しては、前記分散方向はXと平行であるように定められる。
【0002】
本発明は、更に、そのような方法が実行され得る透過型荷電粒子顕微鏡に関するものである。
【0003】
この文脈において、
- EELSおよびEFTEMは、以下のそれぞれの意味を有する慣例的な略語であることに留意すべきである:
・ EELS:電子エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy)
・ EFTEM:エネルギーでフィルタされた透過電子マイクロスコピー(Energy-Filtered Transmission Electron Microscopy)。
必ずしもそうでなければならないというわけではないが、ここに言及されるEELS/EFTEMモジュールは、時には、所謂ポストコラム・フィルタ(Post-Column Filter,PCF)として実現される。
ここに言及される用語「4重極」は、励起されると(磁気または電気の)4重極場を作るレンズ・エレメントのことを指す。物理的構造という見地から見て、その多重極の複数の極が4重極場を作るように同時に励起され得る限り、そのようなレンズ・エレメントは、実際、(例えば、8重極または12重極のような)4極より多い極を有する多重極であってよい。例えば、そのような多重極は、必要に応じて、(例えば、同時に4重極レンズ場および6重極収差修正場を作るという)ハイブリッド効果を有するように励起され得る。
【背景技術】
【0004】
荷電粒子マイクロスコピーは、特に電子顕微鏡観察という形で顕微鏡観察対象を画像化するための、良く知られた、益々重要となっている技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な種類は、(例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、および、走査透過型電子顕微鏡(STEM)のような)複数の良く知られた装置の種類へ、そして、所謂「二重ビーム」装置(例えば、FIB‐SEM)のような様々の亜種への進化を経てきた。これらの様々の亜種は、「機械加工用」集束イオンビーム(Focused Ion Beam(FIB))を付加的に使用して、例えば、イオンビームミリング(ion-beam milling)またはイオンビーム誘起蒸着(Ion-Beam-Induced Deposition(IBID))のような補助的な活動を許容するものである。より具体的には:
-SEMにおいては、走査電子ビームによる試料の照射は、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線、および、陰極ルミネセンス(赤外線、可視および/または紫外の光子)の形で試料から「補助的」放射線の放射を生じさせる。このとき、この放射線の1または複数の成分が検出され、画像蓄積目的に使用される。
- また、TEMにおいては、試料を照射するために用いられる電子ビームは、(この目的ために、一般に、SEM試料の場合より薄い)前記試料を透過するに十分高いエネルギーを有するように選択される。前記試料から放射する透過電子は、それから画像を作成するために用いられ得る。そのようなTEMが走査モードで運用される(したがってSTEMになる)とき、当該画像は、照射する電子ビームの走査動作中に累積される。
【0005】
放射ビームとしての電子の使用に代わるものとして、荷電粒子マイクロスコピーは、また、他の種類の荷電粒子を用いても実行され得る。この点で、「荷電粒子」という語句は、例えば、電子、(例えば、GaまたはHeイオンのような)正イオン、(例えば、酸素のような)陰イオン、陽子、および、ポジトロンを含むものとして広く解釈されるべきである。非電子に基づく荷電粒子マイクロスコピーに関して、更なる幾つかの情報は、例えば、以下のような引用から収集され得る:
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
- W.H.Escovitz,T.R.Fox and R.Levi-Setti,Scanning Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 72(5),pp.1826-1828(1975).
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
【0006】
画像化、および、(局所的な)表面の調整(例えば、ミリング、エッチング、蒸着等)を実行することに加えて、荷電粒子顕微鏡は、また、(スペクトロスコピーを実行すること、ディフラクトグラムを検討すること、および、イオン・チャネリング/イオン後方散乱(ラザフォード後方散乱スペクトロメトリ)等を研究するような)他の機能もまた有し得るという点に留意されるべきである。
【0007】
全ての場合において、透過型荷電粒子顕微鏡(TCPM)は、少なくとも以下の構成要素を備える:
- 例えば、ショットキ電子源またはイオン源のような粒子源。
- 前記源からの「生の」放射線ビームを操作して、この放射線ビームに対して、焦点合わせ、収差軽減、(絞りによる)クロッピング(cropping)、フィルタリング等のような特定の動作を実行するために供される照射器(荷電粒子ビームコラム)。この照射器は、一般に、1または複数の(荷電粒子)レンズを有して成るであろうが、他の種類の(粒子)光学部品をも有し得る。必要に応じて、前記照射器には、その出ビームが、調査される試料を横切る走査動作を実行させるように発動され得る偏向システムを備えていてもよい。
- その上に調査中の試料が保持され、位置決めされる(例えば、傾けられ、回転される)試料ホルダ。必要に応じて、前記ビームに対する前記試料の走査動作を実現するように、このホルダは動かされ得る。一般に、そのような試料ホルダは、位置決めシステムに接続されている。極低温の試料を保持することが意図されるときは、試料ホルダは適当な冷却デバイスを備えていてもよい。
- 本質的には、試料(平面)を透過した荷電粒子を捕えて、それらを、検出/撮像デバイス(カメラ)、分光装置/EELS/EFTEMモジュール等のようなセンサ・デバイス上に向けて配向する(集束させる)イメージング・システム。上記照明器と同様に、このイメージング・システムは、収差軽減、クロッピング、フィルタリング等のような他の機能を実行することができる。このイメージング・システムは、一般に、1または複数の荷電粒子レンズ、および/または、他の種類の粒子光学部品を有し得る。
【0008】
ここに言及したEELS/EFTEMモジュールは、一般に、以下の分散デバイスを備えるであろう:
- (前記イメージング・システムから)入射する荷電粒子流束を、1つのスペクトルを作るべく最終的に検出面上に向けられ得るエネルギー弁別された(連続的な)複数のスペクトル・サブビームの列へ分散させるための、(例えば、1または複数の「荷電粒子プリズム」を有して成る)分散デバイス。基本的に、前記入射する流束は様々のエネルギーの荷電粒子を含むであろう。また、前記分散デバイスは、これらの様々のエネルギーの荷電粒子を、(連続的な)複数の所定のエネルギーを有するサブビームの集合/列へと、(質量分析器を幾らか連想させる方法で)分散方向に沿って「扇状に展開する」。前述のように、X方向は前記分散方向であると考えられ、(例えば、少量の「寄生的な」分散が、収差の結果として、Y方向と平行に発生する場合があるが)付随するY方向は所謂非分散方向であると考えられる。しばしば、(必ずしもそうとは限らないけれども)Z軸に関して集束/拡大する4重極の方位は、これらの4重極の2つの光学対称平面がXZ平面およびYZ平面と一致するように選択される。このことは、前記分散デバイスの出口においてXZ平面に存在するのみである分散機能が、このデバイスの下流側の全光路を通してYZ平面には存在しないままであるという利点を有する。
【0009】
使用されたセンサ・デバイスが、一体であっても複数の部分から成って(事実上、分けられて)いてもよく、検出されることが意図されるものに依存して多くの異なる形をとり得る点に留意する必要がある。センサ・デバイスは、例えば、1または複数のフォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光起電力セル、等を有して成り得る。
【0010】
以下において、本発明は電子顕微鏡観察の特定の文脈で述べられるかも知れない。しかし、そのような簡略化は明確化/説明を意図するものであって、必ずしも限定的に解釈されなければならないというわけではない。
【0011】
EELSは、与えられた試料に関係している基本的/化学的情報を得るために(S)TEMで使用される技術である。((S)TEMの照明器からの)照射するビーム中の移動する電子は、試料中の原子のコアシェル内の束縛電子へエネルギーを移し、このコア電子を外殻へ励起(非弾性散乱)することができる。移動する電子からのこのエネルギー移動は、EELSスペクトルで所謂「コアロス(core-loss)ピーク」(CLP)を生じさせる。CLPの(エネルギー単位での)(粗い)位置は元素に特有なものであり、その正確な位置および形は元素の化学的環境および結合に特有である。上記CLPに加えて、EELSスペクトルは、一般に、複数の所謂「プラズモン共鳴ピーク」(PRP)(即ち、試料のプラズモン上の電子の単一または多重散乱に関連したピーク/ショルダーの比較的幅広い列)をも含む。これらのPRPは、典型的にはエネルギー範囲0~50eV内にある。典型的には、EELSモジュールはまた、エネルギー選択撮像デバイス(EFTEM機能)として使用され得る。このことを達成するために、EELSモジュールは、それらの(第1次の)スペクトル平面において/に近接して、スリット(「レターボックス」)を使用する。このモジュールが純粋な分光器として使用されるとき、このスリットは引っ込められる。そして、スペクトル平面は拡大され得、(後分散光学系を用いる)前記使用される検出器(カメラ)上に画像化され得る。他方、このモジュールがエネルギー選択撮像デバイスとして使用されるとき、上記スリットは、(典型的には10~50eVのオーダーの幅の)特定のエネルギー・ウィンドウだけを通過させ/通すために発動され得る。その場合、前記後分散(スリット後)光学系は、前記使用される検出器上に前記スペクトル平面のフーリエ変換平面を画像化する。
【0012】
前述のようなEELS/EFTEMモジュールでは、前記分散デバイス(プリズム)によって生じさせられる分散を拡大し、集束させるために、様々の4重極が使用される。これらの4重極が、例えば、(前記4重極の合焦能力の前記ビームにおける電子のエネルギーに対する依存性に起因する)色収差、並びに、前記4重極のゼロでない長さ/厚さ、および、前記4重極の入口および出口のフリンジ場に起因する高次収差のような、固有の寄生収差を有することを当業者は理解するであろう。前記分散デバイスもまた、固有の寄生収差を有する。そのような収差に対処するために、前記EELS/EFTEMモジュール内で(例えば、8重極/6重極によって生成される)1または複数の専用の「クリーンアップ」多重極場を使用することは従来から一般に行われている。単一画像におけるエネルギー損失スペクトルの比較的大きな部分を1つのEELS/EFTEMモジュールが如何によく記録し得るかについて表現するために、(相対論的)「エネルギー・パラメータ」を導入することが便利である。
【数1】
ここで、Eは(典型的には、20keVと1000keVとの間の何処かにある)最初の(入射)ビームエネルギーであり、mは電子質量、cは光速、そして、ΔEは検出されたスペクトル・エネルギーの広がりである。EELS/EFTEMモジュールの光路が選択されると、このパラメータは一般にEから名目上独立している。ここで、「従来の」EELSがΔEr/Er≦約0.01と関係していると考えられ、「大エネルギー・レンジ」EELS(LER‐EELS)がΔEr/Er>約0.01と関係していると考えられるとき、このことを考慮すると、前記の「クリーンアップ」多重極場は「従来の」EELSを実行するとき比較的満足な結果を達成し得るが、LER‐EELSに対しては最適より劣る結果を提供する傾向があると言うことができる。LER‐EELSでは、(色)収差は、前記使用される検出器の限界近くのスペクトル部分において比較的深刻である傾向がある。LER‐EELSは、例えば、以下のような状況では潜在的に有利であり得るので、このことは残念である。
・幅広いエネルギー範囲(ΔE)に亘って広がる複数の基本的なピークを有する1または複数の構成要素を有して成る試料(例えば、およそ300eV、700eV、および、1550eVにピークを有する、炭素、鉄、および、アルミニウムを有して成る化合物)を分析するとき。例えば、試料への照射性損傷を減ずるように、比較的低い最初のビームエネルギー(例えば、E<100keV)を使うことを望むならば、最初のビームエネルギーを減らすことは、像平面上に投影されるスペクトルを広げる。
・(検出チャネルあたり比較的少ない電子のみで満足な出力を生じ得る)所謂「直接検出」カメラを使用するとき、そのような検出器は、比較的幅広いスペクトルを速く正確に記録し得、付随するスループットは改善する。
【0013】
更なる情報については、本発明と同じ発明者による(参照によってここに編入されるものとする)米国特許出願公開US2017/0125210A1を参照。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、これらの問題に対処することである。
より詳細には、本発明の目的は、前記収差の影響を受ける範囲がより少ない、前述のような方法/装置を提供することである。特に、本発明の目的は、新しい方法/装置がLER‐EELSに対して満足な結果を与えることである。
【0015】
これらの、そして、他の目的は、上の最初の段落に記載したような方法において達成され、以下のステップによって特徴づけられる:
- 前記第1の4重極の列において、前記分散デバイスから出て行く、軸を外れた非分散YZビームを、前記スリット平面から前記像平面に到る前記光学軸に近軸の経路上へ偏向させるように1または複数の4重極を励起すること、
- 前記第2の4重極の列において、前記エネルギー分散されたビームを前記像平面上に集束させるように、以下の(a)または(b)の何れかを励起すること:
(a) 単一の4重極、または
(b) 1対の隣接した4重極。
【0016】
本明細書で言及される表現の意味は以下の通りである:
- ビームがZ軸から離れた位置で前記分散デバイスに入るとき、このビームは「軸を外れた」ものであると考えられる。ビームが「軸を外れた」ものでないときは、このビームは軸上にある(と暗黙的に仮定される)。即ち、このビームはZ軸上で前記分散デバイスに入る。
- ビームがエネルギー損失dEを被って、エネルギーEーdEを有して進むとき、ビームは「分散的である」と言われる。ビームが分散的でないとき、このビームは「非分散的」であり(と暗黙的に仮定され)、公称エネルギーEを有して進む。
- 「YZビーム」は、前記スリット平面の位置で純粋にYZ平面内を進むと考えられる。同様に、「XZビーム」は、前記スリット平面の位置で純粋にXZ平面内を進むと考えられる。
- 術語「近軸」が、光学軸/Z軸に近接したビーム(および、それらに実質的に平行なビーム)、または/そして、光学軸/Z軸に実質的に一致したビームを含むことを当業者は理解するであろう。
例えば、
図3A‐3Cを参照。
【0017】
Z軸に近接し軸を外れた非分散ビームをスリット平面と像平面との間の「スリット後」空間に維持することにより、このスリット後空間内で最小数の4重極を励起することで十分であり得るという洞察を、本発明は利用する。スリット後空間における最小数の4重極は、理想的には、唯1つの4重極であるが、1対の隣接した4重極の励起も1つの可能性(下記参照)である。第2の4重極の列には2つを超える4重極が存在し得るが、(例えば、前記US2017/0125210A1、および、下記の
図3A‐3Cを参照)、本発明は、如何なるときでも、これらのうちの1つまたは隣接した1対を励起する必要があるだけである。励起される4重極のこの最小数は、結果として、4重極に関係する収差を最小にすることになる。これは、この分野においてこれまで長年専門家によって試みられてきたことと比較して、非常に革新的な解決策である。例えば、A.Gubbens et al.,”The GIF Quantum,a next-generation post-column imaging energy filter”,Ultramicroscopy 110(2010)pp.962-970において、著者は、用られる分散デバイスのサイズ(曲げ半径)を減らし、これにより、スリット平面における拡大倍率を(5.0xから3.3xまで)減らすことによってΔE/Eを(前に達成された値を越えて)増やそうとする。このことにより、200kV(ΔEr/Er=0.011)において2keVの観測視野、60kV(ΔEr/Er=0.012)において682eVの観測視野という結果になる。これに対して、本発明によって、本発明者はこの制限を十分に上回るΔEr/Er値を達成した。例えば、ΔEr/E≒0.033、0.051、および0.043に対応する実施形態を、それぞれ説明する
図3A‐3Cを参照。上述のUltramicroscopyの場合のように、入射ビームの直径を減少させることなく前記分散デバイスのサイズを減少させることは、結果として、本発明が避ける好ましくない副作用である、高次収差を増加させることになる。
【0018】
本発明の1つの実施形態においては:
- 前記分散デバイスに入射する軸上の分散的ビームは、交点pにおいて前記光学軸と交差する;
- 前記第2の4重極の列において、前記交点pが存在するならば、
・ 所定の1つの4重極内で、オプション(a)がこの4重極に適用され、
・ 1対の隣接した4重極の間では、オプション(b)が、この1対の4重極に適用される。
【0019】
如何なるときでも励起されるスリット後4重極の数を最小にするように、どのスリット後4重極が与えられた状況で最も励起されるかについて決定するために、この実施形態は幾何学的な方法を使用する。Z軸に沿った交点pの位置は、第1の列/「スリット前」4重極の選択された励起の特定の詳細条件によって影響されるであろう。これがスリット前光学系の「焦点距離」を決定するからである。要約すると:
- 所定の4重極Qa(の中央領域)内に点pのZ位置が配置されるならば、Qaだけの励起で十分である。
- 点pのZ位置が所定の1対の4重極Qa,Qbの部材の間に配置されるならば、QaおよびQbは同時に励起される。
【0020】
前段落の議論に関して、第2の(スリット後)4重極の列における4重極励起のために、簡単な「大雑把な」線形の式が示され得る。それによれば、
eada=ebdb
である。ここで:
- eaおよびebは、1対の隣接した4重極Qa,Qbそれぞれの実効的励起である。(e=∫dzΨQ(z)、ΨQ(z)は軸方向4重極場である。
- daおよびdbは、4重極Qa,Qbの各々の中心から交点pまでの軸方向距離である。(その結果、da+db=dabとなる。dabはQaおよびQbの中心間の軸方向距離である。)
【0021】
既に上で言及されたように、当業者は、第1の(スリット前)4重極の列における4重極の使用される励起に基づいてpの位置を予測し/計算し得るであろう。導入される収差の量を最少にして非分散XZビームを再び集束させることに対して、この式に従う励起は最も効果的である。しかし、前記第2の列において前記ビームを実質的に変えない範囲内で、前記第2の列における4重極設定のために、この式を僅かに変形することが可能であることを当業者は認識するであろう。また、両方の4重極Qa,Qbは(例えば、正の)同じ極性で励起され得ることを当業者は理解するであろう。或いは、例えば、ea~+100%,eb~-10%という状況をも選択することができるであろうが、この場合でも、依然、結果として(強い)正味の正の励起をもたらす。
【0022】
本発明の1つの実施形態において、エネルギー分散されたビームは、前記分散デバイスと前記スリット平面との間で縮小される。本質的には、このことは、分散されたビームが、前記分散デバイスから出た後、未だ越えていない装置の境界内で(特に以下のように)適合することを確実にする。
- 様々の(第1の列/第2の列)の4重極の中央穴/真空管内の適合、
- 使用される検出器/カメラの周辺の範囲内の適合。
【0023】
上に言及した近軸性の程度に関しては、本発明者が様々の状況を検討し、以下の点に気付いた。もし、非分散YZビームが光学軸から距離dEで分散デバイスに入り、第2の4重極の列内で光学軸から最大距離dLを有するならば、比dE/dLは、望ましくは≧3、好適には≧5、更に好適には≧10である。この比の2次(または、より高い次数)の冪で大きさが決まる収差は、対応して大幅に減じられるであろう。
【0024】
選択の余地により、本発明において使用される分散デバイスが様々の異なる形をとり得ることを当業者は理解するであろう。例えば、それは以下のものを含み得る。
- 単一の磁気セクタ/偏向磁石。典型的には90度の曲げ角度が使用されるが、他の曲げ角度も可能である。これは、一般に使用されるデバイスである。
- 複数のセクタ(例えば、4つのセクタ)からなる構成と180度の総偏向とを有する同様のデバイス。
- 静電偏向を用いる同様の概念。実際には、最初のビームエネルギーがおよそ60keVを上回る場合には静電偏向は好ましい選択ではない。
- (直線状の軸のデバイスである)ダイポール・ウィーン・フィルタ(dipole Wien filter)。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明は典型的な実施形態と関連する概略図とに基づいて更に詳細に説明されるであろう。
【
図1】本発明が実行されるTCPMの1つの実施形態の縦断面の立面図である。
【
図2】
図1(特に、EELS/EFTEMモジュール)の一部を拡大してより詳細を示す図である。
【
図3A】本発明の特定の実施形態のために、
図2の一部を拡大してより詳細を示す図である。
【
図3B】大部分は
図3Aと一致するが、本発明の異なる実施形態を示す図である。
【
図3C】大部分は
図3A/3Bと一致するが、本発明の更にもう1つの実施形態を示す図である。図中で、関連する箇所では、対応する部分は対応する参照記号を用いて示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施形態1
図1は、(一定の比率で描かれていないが)本発明が実行されるTCPM Mの1つの実施形態の非常に大まかな描写である。より具体的には、
図1はTEM/STEMの1つの実施形態を示す。図中、真空エンクロージャ2内で、電子源4は、電子光学軸B´に沿って伝播し、電子光学照明器(荷電粒子ビームコラム)6を横切る電子のビームBを作る。電子光学照明器(荷電粒子ビームコラム)6は、(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化され得る)試料Sの選択された部分に電子を向けて/集束させるために供される。一般に様々の他の光学素子が存在するが、照明器6内に明確に示されているのは以下のものである。
- (特にビームBの走査動作を実現するために用いられ得る)デフレクタ10、そして
- (源4から来るビームの単色性を改善するために用いられ得る)オプションのモノクロメーター8。
【0027】
試料Sは試料ホルダH上に保持される。試料ホルダHは、位置決めデバイス/ステージAによって多自由度に配置され得る。位置決めデバイス/ステージAは、クレードル(cradle)A´を動かす。クレードルA´内には、ホルダHが(取り外し可能に)取り付けられている。例えば、試料ホルダHは、(特に)XY平面内に動かされ得る指状部を有し得る。(図示されたデカルト座標系を参照。一般に、Zと平行な移動、および、X/Y廻りの傾斜も可能である)。そのような動きは、試料Sの複数の異なる部分が、(Z方向の)軸B´に沿って進む電子ビームBによって照射され/画像化され/調べられることを可能にし、そして/または、走査動作がビーム走査に代わるものとして実行されることを可能にする。必要に応じて、例えば、試料ホルダH(そして、その上の試料Sも)を極低温に維持するように、オプションの冷却デバイス(図示せず)が、試料ホルダHに密接に熱接触され得る。
【0028】
(例えば、)二次電子、後方散乱電子、X線、および、光放射(陰極ルミネセンス)を含む、様々の種類の「誘導」放射が試料Sから発するようにして、電子ビームBは試料Sと相互作用する。必要に応じて、これらの放射の種類のうちの1または複数は、分析デバイス22の支援によって検出され得る。分析デバイス22は、例えば、複合のシンチレータ/フォトマルチプライヤ、または、EDX(エネルギー分散X線分光)モジュールであり得る。そのような場合には、画像は基本的にSEMと同じ原理を用いて造られることができた。しかし、その代わりに、または、補足的に、試料Sを横断し(通過し)、試料Sから出て/発して、(一般に何らかの偏向/散乱があるが、実質的に)軸B´に沿って伝播し続ける電子を調べることができる。そのような透過した電子流束はイメージング・システム(投影レンズ)24に入る。イメージング・システム24は、一般に、様々の静電/磁気レンズ、複数のデフレクタ、複数の補正器(例えば、スティグメータ)等を有して成る。正常な(非走査)TEMモードにおいて、このイメージング・システム24は、透過した電子流束を蛍光スクリーン(センサ・デバイス)26上に集束させることができる。蛍光スクリーン26は、必要に応じて、蛍光スクリーン26が軸B´と交差しないように(模式的に矢26´で示されているように)引っ込められ得る。試料Sの(部分の)画像またはディフラクトグラム(diffractogram)はイメージング・システム24によってスクリーン26上に形成され、エンクロージャ2の壁の適当な一部分に位置するビューイングポート(viewing port)28を通して見られ得る。スクリーン26用のリトラクション(retraction)メカニズムは、実際に、例えば、機械的および/または電気的なものであってもよいが、ここで図示しない。
【0029】
スクリーン26で画像/ディフラクトグラムを見ることに代わるものとして、イメージング・システム24を出て行く電子流束の焦点深度が一般にかなり大きい(例えば、1メートルのオーダー)という事実を利用し得る。結果として、例えば、以下に記すような、様々の他の種類のセンサ・デバイスが、スクリーン26の下流側において使用され得る。
- TEMカメラ30。カメラ30において、コントローラ/プロセッサ20によって処理され得て、例えば、(フラットパネルディスプレイのような)表示デバイス(図示せず)上に表示され得る静止画像またはディフラクトグラムを電子流束B”は形成し得る。必要とされないとき、カメラ30は軸B´と交差しないように(模式的に矢30´で示されているように)引っ込められ得る。
- STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの走査位置(X,Y)の関数として記録され得、カメラ32からの出力の「写像」である画像がX,Yの関数として形成され得る。カメラ32は、カメラ30に特徴的に存在する画素のマトリックスに対して、例えば、20mmの直径を有する単一画素を有するものとすることができる。更に、カメラ32は、一般に、(例えば、1秒あたり102枚の画像)のカメラ30より非常に高い取得率(例えば、1秒あたり106ポイント)を有するであろう。更に、カメラ32が必要とされないとき、カメラ32は軸B´と交差しないように(模式的に矢32´で示されているように)引っ込められ得る。(そのような引き込みは、ドーナツ形の環状暗視カメラ32である場合には必要ない。そのようなカメラでは、カメラが使用中でないときには、中央の穴は流束の通過を可能にする。)
- カメラ30または32を用いるイメージングに代わるものとして、本例ではEELS/EFTEMモジュールである分光装置34を発動することができる。
【0030】
要素30、32、および、34の順序/位置は厳格なものではなく、多くの可能な変形があることに留意されるべきである。例えば、分光装置34は、イメージング・システム24に内に組み込まれ得る。
【0031】
コントローラ(コンピュータ・プロセッサ)20が、制御線(バス)20´を介して図示された様々の構成要素に接続されていることに注意すべきである。このコントローラ20は、(例えば、動作を同期させること、設定値を提供すること、信号を処理すること、計算を実行すること、表示デバイス(図示せず)上にメッセージ/情報を表示することのような)様々の機能を提供し得る。言うまでもなく、(模式的に示された)コントローラ20は、(部分的に)エンクロージャ2の内側または外側にあってもよく、一体であっても、必要に応じて、一体または複合の構造を有してもよい。
【0032】
エンクロージャ2の内部が完全な真空に保たれる必要がないことを当業者は理解するであろう。例えば、所謂「環境に優しいTEM/STEM」においては、所定のガスの雰囲気が慎重に導入され/エンクロージャ2内に維持される。実際には、エンクロージャ2が、可能な箇所では、電子ビームが中を通る小さな(例えば、直径1cmのオーダーの)チューブの形をとって軸Bをぴったりと囲み、源4、ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34等のような構造を収容するためには外へ広がるようにして、エンクロージャ2の体積を限定することが有利である場合があることもまた当業者は理解するであろう。
【0033】
図2を参照する。
図2は、
図1における分光装置34を拡大してより詳細な図を示す。図には、(試料Sおよびイメージング・システム24を通過した)電子の流束B”が電子光学軸Bに沿って伝搬することが示されている。流束B”は分散デバイス3(「電子プリズム」)に入る。ここで、(
図2中で模式的に破線を用いて示されている)スペクトル・サブビームのエネルギー弁別された(連続的な)列5へ分散される(扇状に展開される)。これらのサブビームは分散方向Xに沿って分配される。この点に関して、従来、伝達がZ方向に沿って発生すると考えられていること、それ故、分散デバイス内で、図示されたデカルト座標系は流束B”と「共に向きを変える」ことに注意する。分散デバイス3と関係しているのは前分散光学部品3´である。前分散光学部品3´は、一般に、例えば、1または複数の多重極エレメントを有して成るであろう。これらは、特に収差緩和のために、例えば、6重極場や4重極場を生成し得る。
【0034】
要素3の下流側で、サブビームの列5は可調整/格納式のスリット(レターボックス)7に遭遇する。スリット7は、例えば、EFTEMモードにおいて、列5の所定の部分を選択して/通し、列5の他の部分を廃棄し/遮断するために使用され得る;このために、スリット7は、スリット7を開け/閉め、スリット7(内の開口を)動かすために発動され得る駆動デバイス7aに接続される。EELSモードにおいては、このスリット7は、通常、(完全に)開いており/引っ込められる。スリット7は、分光装置34の分散平面の、または、分散平面に近接した位置(スリット平面7p)に配置されることが有利であることを当業者は理解するであろう。同様に、検出器11もまた、そのような平面の、または、平面に近接した位置(像平面11pで)に配置されることが有利である。必要ならば、例えば、分散デバイス3(への電気信号)、および/または、分散デバイス3とスリット7の間に提供されるドリフト管/デフレクタ(図示せず)を、適切に調整することによって、スリット7に当たるスペクトル・サブビームの列5において狙いを定めて/シフトすることができる。
【0035】
本発明の文脈において極めて重要であるのは、スリット前光学系9aおよびスリット後光学系9bである。スリット前光学系9aおよびスリット後光学系9bは、それぞれ、第1のおよび第2の列の4重極(または、より一般に系統立てて述べるならば、4重極レンズ場を生じる励起ができる多重極)を備える。ここに示されているように、限定的であると解釈されるべきでない1つの特定の構成において、以下の選択がなされた。
- スリット前光学系9aは、2つの4重極QIとQIIからなる第1の列を有して成る。
- スリット後光学系9bは、4つの4重極Q1、Q2、Q3、および、Q4からなる第2の列を有して成る。
【0036】
これらの4重極および関連する主ビームは、
図3Aにおいてより詳細に示されている。ここで、軸B´は(便宜上)直線状であるとして例示されている。ここで:
R
XZは、軸上の分散的ビームである。
R´
YZは、YZ平面の軸を外れた非分散的ビームである。
R´
XZは、XZ平面の軸を外れた非分散的ビームである。
【0037】
本発明に従い、以下の点に注意する。
- スリット前/第1の列の4重極QI/QIIの適当な励起によって、軸を外れた非分散ビームR´YZは光学軸B´の付近まで速く引き寄せられ、平面7pおよび11p間でこの軸に関して近軸である(この軸に「沿う(hug)」。)
- 軸上の分散的ビームRXZは交点pにおいて光学軸B´と交差する。この場合、交点pは、スリット後/第2の列の4重極Q1の中心にある。
- スリット後光学系9bの第2の列の4重極のうち、4重極Q1だけが励起される。
ここで、最初のビームエネルギーE=300keV(加速電圧300kV)の場合、ΔE=8.2keV、そして、ΔEr/Er≒0.0335となる。
【0038】
実施形態2
図3Bは、大部分は
図3Aと一致するが、本発明の別の1つの実施形態を示す。
ここで、
- 平面7pおよび11pの間においてスリット前/第1の列の4重極Q
I/Q
IIを適当に励起することによって、軸を外れた非分散ビームR´
YZは再び光学軸B´に沿う。
- 軸上の分散的ビームR
XZは交点pにおいて光学軸B´と交差する。この場合、交点pは、スリット後/第2の列の4重極Q
2の中心にある。
- このとき、スリット後光学系9bの第2の列の4重極のシリーズのうち、4重極Q
2だけが励起される。
ここで、最初のビームエネルギーE=300keVの場合、ΔE=12.4keV、そして、ΔEr/Er≒0.0507となる。
【0039】
実施形態3
図3Cは、大部分において
図3A/3Bと一致するが、本発明の更にもう1つの実施形態を示す。この場合:
- 平面7pおよび11pの間においてスリット前/第1の列の4重極Q
I/Q
IIを適当に励起することによって、軸を外れた非分散ビームR´
YZは再び光学軸B´に沿う。
- 軸上の分散的ビームR
XZは交点pにおいて光学軸B´と交差する。この場合、交点pは、4重極Q
1およびQ
2の間にある。
- このとき、4重極Q
1とQ
2の両方が(同じ極性、そして、同じ強さで)励起される。
ここで、最初のビームエネルギーE=300keVの場合、ΔE=10.5keV、そして、ΔEr/Er≒0.0429となる。
【0040】
図3A、3C、および、3Bを順次比較すると、ΔEが増加するにつれ、交点pは、光学軸に沿って右へより遠くに移る点に注意する。