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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】防水構造
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/52 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
H01R13/52 301E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019004453
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020113475
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2020-02-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 隼士
(72)【発明者】
【氏名】蔦川 友佑
(72)【発明者】
【氏名】加用 一真
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 暁洋
(72)【発明者】
【氏名】木内 海
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】平瀬 知明
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-7686(JP,A)
【文献】特開2002-8793(JP,A)
【文献】特開2003-234138(JP,A)
【文献】特開2011-14260(JP,A)
【文献】特開2002-302601(JP,A)
【文献】特開2008-269858(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034825(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部の取付け穴に挿通される被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたシール部と、
前記シール部を覆うように前記被覆電線の端末部に設けられて前記弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジングと、
前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部と、
を備え、
前記シール部と前記バリ切り部とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されており、
前記バリ切り部の一部が、前記ハウジングに覆われ、前記バリ切り部のうち前記ハウジングによりオーバーラップされた前記一部の外径が、それ以外の部分の外径より小さいことを特徴とする防水構造。
【請求項2】
前記シール部と前記バリ切り部とが、同一材料で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の防水構造。
【請求項3】
前記シール部及び前記バリ切り部の少なくとも一方が、熱収縮チューブまたは固化した接着材であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
被取付部の取付け穴と、この取付け穴に挿通される被覆電線との間の防水性を確保するための防水構造が知られている。特許文献1には、このような防水構造を有するコネクタが開示される。このコネクタは、被覆電線の被覆を一体に覆う絶縁性の弾性材料により形成されるシール部と、被覆電線の端末部におけるシール部の周囲を一体に覆う弾性材料より剛性が高い絶縁樹脂により形成されるハウジングと、を備える。弾性材料により形成されるシール部は、被覆電線の被覆に一次成形される。絶縁樹脂により形成されるハウジングは、シール部を覆って二次成形される。このコネクタでは、一次成形されるシール部に、弾性材料を用いることにより、防水機能を付与しつつ、電線屈曲時の応力緩和を図っている。
【0003】
このように、従来のコネクタにおける防水構造は、筒状の弾性材料が、被覆電線の電線被覆(以下、単に「被覆」と言う。)の外周に密着して設けられる。この弾性材料には、水密性を確保するためのエラストマーなどが好適に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-7112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の防水構造は、被覆、エラストマー、ハウジング材の線膨張係数の違いにより、ハウジングによりオーバーラップされた部分のエラストマーが、ハウジングの外側へ押し出されることがある。このため、従来の防水構造では、外観不良や電線の切れ、皺による防水機能の低下が発生する虞があった。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、被覆電線の外観不良や電線の切れ、被覆の皺による防水機能の低下を防ぐことができる防水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 被取付部の取付け穴に挿通される被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたシール部と、前記シール部を覆うように前記被覆電線の端末部に設けられて前記弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジングと、前記ハウジングの少なくとも一端部に連続して設けられ前記被覆電線の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部と、を備え、前記シール部と前記バリ切り部とが、前記被覆電線に沿う方向に所定の距離を有して分離されており、前記バリ切り部の一部が、前記ハウジングに覆われ、前記バリ切り部のうち前記ハウジングによりオーバーラップされた前記一部の外径が、それ以外の部分の外径より小さいことを特徴とする防水構造。
【0008】
上記(1)の構成の防水構造によれば、シール部は、筒状の他端部がハウジングの環状溝部(オーバーラップしている部分)から外部へ延出する通常の構造に対し、ハウジング内部の環状埋入部となるため、線膨張係数の差による飛び出しが起きない。また、本構成の防水構造は、ハウジングの一端部に設けたバリ切り部により、金型合わせ部の挟み込みによる被覆電線の傷付きを防ぐことができる。更に、本構成の防水構造は、ハウジングに連続する弾性部材からなるバリ切り部が被覆電線の周囲を覆うので、ハウジングの後端から導出された被覆電線が屈曲した時の被覆電線に作用する応力を、バリ切り部の変形により緩和することができる。また、ハウジングの一端部に連続するバリ切り部が弾性部材とされることで、バリ切り部によりハウジングと被覆電線との間を水密シールすることができる。即ち、本構成の防水構造は、シール部と、バリ切り部とを併設することにより、ハウジングと被覆電線との間を二重の防水構造に構成できる。これにより、本構成の防水構造では、シール部の飛び出しを規制し、シール部に接する被覆の変形を小さくすることで、外観不良や防水機能の低下を抑制することができる。
更に、上記(1)の構成の防水構造によれば、バリ切り部の一部が、ハウジングに埋入して覆われるので、ハウジングとバリ切り部との接合面を大きく確保できる。また、ハウジングとバリ切り部との解離方向がせん断方向となる接合面(即ち、被覆の外周面とこれに接するハウジングの内周面との接合面)を増やすことができるので、ハウジングとバリ切り部の接合強度を、端面同士の接合構造に比べ大きくできる。
【0009】
(2) 前記シール部と前記バリ切り部とが、同一材料で形成されたことを特徴とする上記(1)に記載の防水構造。
【0010】
上記(2)の構成の防水構造によれば、シール部とバリ切り部とが同一の弾性部材から形成されることにより、シール部とバリ切り部とが、同一の金型及び同一の成形樹脂材料を用いて同時に一次成形される。これにより、製造工程を簡素にできる。
【0015】
) 前記シール部及び前記バリ切り部の少なくとも一方が、熱収縮チューブまたは固化した接着材であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の防水構造。
【0016】
上記()の構成の防水構造によれば、シール部及びバリ切り部の双方を熱収縮チューブまたは固化した接着材とすることにより、金型を用いた一次成形工程を省略できる。これにより、一次成形用の金型費用が不要となる。また、シール部及びバリ切り部のいずれか一方を熱収縮チューブまたは固化した接着材としても、一次成形用の金型費用を簡素にできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る防水構造によれば、被覆電線の外観不良や電線の切れ、被覆の皺による防水機能の低下を防ぐことができる。
【0018】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る防水構造を備えたコネクタの斜視図、(b)は(a)のハウジングを省略した斜視図である。
図2】(a)は図1に示したコネクタの縦断面図、(b)は(a)のシール部及びバリ切り部における要部拡大図である。
図3】従来の防水構造における作用を説明する図であり、(a)は熱膨張時の挙動を説明する模式図、(b)は熱収縮時の挙動を説明する模式図である。
図4】熱膨張及び熱収縮により被覆に変形の生じた防水構造の模式図である。
図5】(a)は本発明の第2実施形態に係る防水構造を備えたコネクタの斜視図、(b)は(a)のハウジングを省略した斜視図である。
図6】(a)は図5に示したコネクタの平面図、(b)は(a)のA-A断面図である。
図7】(a)は変形例に係るシール部及びバリ切り部の縦断面図、(b)は他の変形例に係るシール部及びバリ切り部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1の(a)は本発明の第1実施形態に係る防水構造を備えたコネクタ11の斜視図、(b)は(a)のハウジング13を省略した斜視図である。
本第1実施形態に係る防水構造は、図1の(a)に示すように、被覆電線15の導体17に端子19が接続され、その接続部分である被覆電線15の端末部と端子19の一部分とが絶縁性の樹脂成形品にて覆われた所謂オーバーモールドコネクタに適用される。
【0021】
コネクタ11は、導体17が被覆21によって覆われる被覆電線15の端末部に端子19が導通接続されている。被覆電線15は、被取付部(図示略)の取付け穴に挿通される。なお、被覆電線15は、導体17が被覆21のみによって覆われる被覆電線15の他、導体17を覆う内部絶縁被覆の外側が金属製編組等のシールド部材によって覆われ、更にその外側が外被によって覆われるシールド電線であってもよい。
【0022】
端子19は、被覆電線15の端末部に露出された導体17に接続固定される。端子19と導体17との接続構造は、圧着構造、圧接構造、溶接構造、ロー付構造等のいずれであってもよい。また、本実施形態において、端子19は、電気接触部23がオスタブ型である平型端子を例示するが、端子19は、丸形端子、Y形端子等の他、箱状電気接触部を有するメス端子であってもよい。
【0023】
本第1実施形態に係る防水構造は、被覆電線15の外周に熱可塑性エラストマー等の絶縁性の弾性部材をシール部25及びバリ切り部27として一次成形した後、シール部25と端末部の端子19の一部分とを熱可塑性樹脂等の絶縁樹脂によりハウジング13として二次成形したコネクタ11として構成される。この際、バリ切り部27は、ハウジング13の一端部に連続して成形される。
【0024】
コネクタ11は、被覆電線15の端末部における導体17に、端子19が導通接続される。端子19は、導体17との接続部29がハウジング13に覆われる。ハウジング13は、接続部29と反対側の電気接触部23を外部に突出させる。
【0025】
ハウジング13は、シール部25やバリ切り部27を形成する弾性材料より剛性が高い絶縁樹脂(例えばPBT)により形成される。ハウジング13は、被覆電線15の端末部におけるシール部25と、端子19の接続部29とを一体に覆う。ハウジング13は、シール部25の全体を覆う。ハウジング13は、被覆電線15に沿う方向の略中央部分に、半径方向外側に張り出すフランジ部31を有する。フランジ部31は、取付け穴を有した被取付部に対する当接部となる。フランジ部31よりも端子側のハウジング13の外周には、周溝43が形成される。周溝43には、環状の弾性シール部材(図示略)が装着される。
【0026】
図1の(b)に示すように、一次成形されるシール部25とバリ切り部27とは、所定の距離を有して分離した異なる外径の環状体となって被覆21の外周に密着する。本第1実施形態では、シール部25の外径よりもバリ切り部27の外径が大きく形成される。バリ切り部27は、金型形成されるバリ切りの被当接部となるのに加え、ハウジング13と被覆21とを水密シールする第二のシール部としても作用する。
【0027】
射出成形機を使用した二次成形では、ハウジング13の成形時、金型のキャビティに溶融樹脂を圧入する際、溶融樹脂の漏出によるバリの発生を抑制する必要がある。バリ切り部27は、このための被当接部となる。バリ切りは、被覆電線15を挟む山脈状の複数の尖った先端形状部を有する。そのため、被覆電線15の外周にハウジング13を直接形成する場合では、被覆電線15を金型に配置する際に、被覆21を傷つけてしまう虞がある。本第1実施形態の防水構造では、一次成形により成形済のバリ切り部27の外周に、二次成形の金型に設けられたバリ切りが接触するので、被覆電線15の被覆21をバリ切りにより傷つけることがない。
【0028】
図2の(a)は図1に示したコネクタ11の縦断面図、図2の(b)は図2の(a)のシール部25及びバリ切り部27における要部拡大図である。
本第1実施形態に係る防水構造は、弾性部材により一次成形された環状のシール部25が被覆電線15の周囲を覆う。シール部25は、ハウジング13の内部に埋入される。即ち、シール部25は、環状埋入部となる。また、ハウジング13の一端部には、シール部25の一次成形時に、同時に、同一の弾性部材からなるバリ切り部27が成形される。バリ切り部27は、ハウジング13の一端部に連続して設けられる。
【0029】
本第1実施形態において、シール部25とバリ切り部27とは、同一材料で形成される。同一材料は、例えばエラストマーとすることができる。
【0030】
また、本第1実施形態において、ハウジング13における一端部の外周面と、バリ切り部27の外周面との高さとは、略同等に形成されている。従って、被覆電線15の周囲に円筒状に成形されたハウジング13の一端部は、段差無く同一外径のバリ切り部27と連続している。
【0031】
なお、本実施形態に係る防水構造は、シール部25及びバリ切り部27の少なくとも一方が、熱収縮チューブまたは固化した接着材であってもよい。シール部25及びバリ切り部27を熱収縮チューブまたは接着材で形成すれば、金型による一次成形を省略することができる。この場合、本実施形態に係る防水構造は、シール部25及びバリ切り部27を熱収縮チューブまたは接着材で形成した後に、ハウジング13が成形される。
【0032】
次に、上記した構成の作用を説明する。
本第1実施形態に係る防水構造の作用を説明する前に、従来の防水構造における作用を図3及び図4を参照して説明する。
【0033】
図3の(a)に示すように、取付け穴と、この取付け穴に挿通される被覆電線との間を防水する防水構造は、筒状の弾性部材が、被覆21の外周に密着して設けられる。この弾性部材が、水密性を確保するためのシール部125となる。弾性部材の材質の一例としては、エラストマーを挙げることができる。シール部125は、被覆21の外周に、一次成形されることにより設けられる。このシール部125の外周には、更に、ハウジング113が密着して二次成形される。ハウジング113の材質は、シール部125よりも剛性が高い例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)などからなる。つまり、被覆電線15からハウジング13までの間には、中心側より、被覆電線15の導体17、被覆21、シール部125、ハウジング113が、半径方向外側に向かって積層して設けられる。ここで、筒状のシール部125は、軸線に沿う方向の一端部が閉塞され他端部が開放されたハウジング113の環状溝部33(図3参照)に設けられる。このため、シール部125は、他端部(図3中、右側端部)がハウジング113から外部へ延出する。
【0034】
車両に搭載されるこの種の防水構造は、大きな温度変化に晒される。この温度変化は、例えば-40℃から120℃程となる。上記の各構造部を形成する部材の線膨張係数は、-40℃から120℃程の範囲では、最も大きい導体17(銅合金やアルミ合金)から、被覆21(架橋ポリエチレン)、シール部25(エラストマー)、ハウジング13(PBT)の順で小さい。
【0035】
従来の防水構造は、このような異なる線膨張係数の部材が積層構造で密着していることにより、温度変化によって外観や防水性能を低下させる挙動を示すことがある。上記した積層構造において、各部が、膨張、収縮を繰り返すとき、外観や防水性能に直接的な影響のない導体17を除外して考えると、被覆21の動き(変位)が、他の部材より最も大きい部位となる。
【0036】
図3は従来の防水構造における作用を説明する図であり、図3の(a)は熱膨張時の挙動を説明する模式図、図3の(b)は熱収縮時の挙動を説明する模式図、図4は熱膨張及び熱収縮により被覆21に変形の生じた防水構造の模式図である。
積層構造内のシール部125は、温度変化で被覆21との界面が被覆21の変動に追従する。一方、積層構造内のシール部125は、熱膨張、熱収縮の繰り返しにより、界面以外の肉厚方向の体積が、図3の(a)に示すように、シール部125をオーバーラップしている部分である環状溝部33からハウジング13の外部へ膨出部35として押し出される。このため、シール部125に接していて他の部材よりも変位が大きい被覆21は、図3の(b)に示すように、熱収縮した変位後に膨出部35が元の位置に戻りにくい。このため、図4に示すように、シール部125の伸縮が繰り返されると、被覆21には、皺や変形が発生する。その結果、従来の防水構造は、被覆21の変形に伴う外観不良や防水機能の低下を生じさせる虞があった。
【0037】
そこで、本第1実施形態の防水構造では、被覆電線15の周囲を覆う弾性部材からなるシール部25が、弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジング13により覆われる。ハウジング13は、シール部25を被覆電線15ごと覆うことにより、シール部25を成形体の内部に埋入する。つまり、シール部25は、ハウジング13の内部で環状埋入部となる。また、シール部25を覆ったハウジング13の一端部には、弾性部材よりなる環状のバリ切り部27が連続して形成される。
【0038】
これにより、シール部25は、筒状の他端部がハウジング13のオーバーラップしている部分である環状溝部33から外部へ延出する通常の構造に対し、ハウジング内部の環状埋入部となるため、線膨張係数の差による飛び出しが起きない。
【0039】
また、本第1実施形態の防水構造は、ハウジング13の一端部に設けたバリ切り部27により、金型合わせ部の挟み込みによる被覆電線15の傷付きを防ぐことができる。
【0040】
更に、本第1実施形態の防水構造は、ハウジング13に連続する弾性部材からなるバリ切り部27が被覆電線15の周囲を覆うので、ハウジング13の後端から導出された被覆電線15が屈曲した時の被覆電線15に作用する応力を、バリ切り部27の変形により緩和することができる。
【0041】
また、ハウジング13の一端部に連続するバリ切り部27が弾性部材とされることで、バリ切り部27によりハウジング13と被覆電線15との間を水密シールすることができる。即ち、本構成の防水構造は、シール部25と、バリ切り部27とを併設することにより、ハウジング13と被覆電線15との間を二重の防水構造に構成できる。
【0042】
これにより、本第1実施形態の防水構造では、シール部25の飛び出しを規制し、シール部25に接する被覆21の変形を小さくすることで、外観不良や防水機能の低下を抑制することができる。
【0043】
また、本第1実施形態の防水構造では、シール部25とバリ切り部27とが同一の弾性部材から形成されることにより、シール部25とバリ切り部27とが、同一の金型及び同一の成形樹脂材料を用いて同時に一次成形される。これにより、製造工程を簡素にできる。
【0044】
また、本第1実施形態の防水構造では、ハウジング13における一端部の外周面とバリ切り部27の外周面との高さが略同等に形成される。そこで、ハウジング13とバリ切り部27との高さ方向(被覆電線15の半径方向の距離)の接合面積を最大にできる。これにより、ハウジング13とバリ切り部27とを解離しにくくできる。その結果、より信頼性の高い二重防水構造を得ることができる。
【0045】
また、本第1実施形態の防水構造では、シール部25及びバリ切り部27の双方を熱収縮チューブまたは固化した接着材とすることにより、金型を用いた一次成形工程を省略できる。これにより、一次成形用の金型費用が不要となる。また、シール部25及びバリ切り部27のいずれか一方を熱収縮チューブまたは固化した接着材としても、一次成形用の金型費用を簡素にできる。
【0046】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る防水構造の第2実施形態を説明する。
図5の(a)は本発明の第2実施形態に係る防水構造を備えたコネクタ37の斜視図、図5の(b)は図5の(a)のハウジング39を省略した斜視図である。なお、本第2実施形態において上記第1実施形態で示した部材と同一の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
本第2実施形態に係る防水構造では、被覆電線15の端末部に、被覆21が除去された被覆電線15の導体17に端子19が導通接続される。ハウジング39は、端子19と導体17との接続部29を除く被覆電線15の周囲を覆う。
【0047】
コネクタ37は、それぞれの導体17に端子19を導通接続した複数(本実施形態では2本)の被覆電線15に対して設けられる。ハウジング39は、2本の被覆電線15の間隙部を一体に覆う。つまり、この間隙は、ハウジング39を成形する絶縁樹脂により二次成形された連結部41となる。ハウジング39は、被覆電線15に沿う方向の略中央部分に、半径方向外側に張り出すフランジ部31を有する。フランジ部31は、取付け穴を有した被取付部に対しての当接部となる。
【0048】
図6の(a)は図5に示したコネクタ37の平面図、図6の(b)は図6の(a)のA-A断面図である。
本第2実施形態に係る防水構造は、バリ切り部27の一部が、ハウジング39に覆われる。
【0049】
また、本第2実施形態に係るコネクタ37は、フランジ部31よりも端子側のハウジング39の外周に、周溝43が形成される。周溝43には、被取付部の内周壁に密接する環状の弾性シール部材45が装着される。弾性シール部材45は、ハウジング39と、被取付部の内周壁との間を水密にシールする。また、ハウジング39には、シール部25と反対側の端面に、環状溝部47が形成される。この環状溝部47には、弾性部材からなる第二シール部49が設けられる。第二シール部49は、シール部25と同様に一次成形により成形することができる。この第二シール部49は、シール部25と反対側のハウジング39の端面において、被覆21とハウジング39との間を水密にシールする。
【0050】
この第2実施形態に係る防水構造では、バリ切り部27の一部が、ハウジング39に埋入して覆われるので、ハウジング39とバリ切り部27との接合面を大きく確保できる。また、ハウジング39とバリ切り部27との解離方向がせん断方向となる接合面(即ち、被覆21の外周面とこれに接するハウジング39の内周面との接合面)を増やすことができるので、ハウジング39とバリ切り部27の接合強度を、端面同士の接合構造に比べ大きくできる。
【0051】
この第2実施形態に係る防水構造では、被覆電線15の端末部における被覆21が除去され、露出した導体17に端子19が導通接続される。ハウジング39は、端子19と導体17との接続部29を除く被覆電線15の周囲を覆う。つまり、ハウジング39は、被覆電線15の端末部に導通接続された端子19から離間した被覆電線15の途中に設けられる。ハウジング39は、外周の周溝43に、環状の弾性シール部材45が装着される。弾性シール部材45は、ハウジング39と、被取付部の取付け穴との間を水密にシールする。従って、本第2実施形態の防水構造では、上記した作用により、被覆21の外観不良や防水機能の低下を抑制しながら、端末部に端子19が導通接続された被覆電線15を被取付部に水密構造で貫通させることができる。
【0052】
[変形例]
次に、上記した第1、第2実施形態に係る防水構造の変形例を説明する。
図7の(a)は変形例に係るシール部25及びバリ切り部51の縦断面図、図7の(b)は他の変形例に係るシール部25及びバリ切り部53の縦断面図である。
変形例に係る防水構造は、図7の(a)に示すように、バリ切り部51の一部が、ハウジング13に覆われる。この変形例では、バリ切り部51のうちハウジング13によりオーバーラップされた部分の外径が、それ以外の部分の外径より小さく形成される。
【0053】
この変形例に係る防水構造では、バリ切り部51の一部が、ハウジング13に埋入して覆われるので、ハウジング13とバリ切り部51との接合面を大きく確保できる。また、ハウジング13とバリ切り部51との解離方向がせん断方向となる接合面(即ち、被覆21の外周面とこれに接するハウジング13の内周面との接合面)を増やすことができるので、ハウジング13とバリ切り部51の接合強度を、端面同士の接合構造に比べ大きくできる。
【0054】
また、バリ切り部51は、オーバーラップされた部分が、環状薄肉部55となり、それ以外の部分が、環状厚肉部57となる。これにより、シール部25は、環状薄肉部55と環状厚肉部57との内外径が同一である構造に比べ、ハウジング13の環状溝部33での肉厚(量)が環状厚肉部57に対して減り、膨張時、ハウジング13の外部へ押し出される量が軽減される。これにより、熱膨張と熱収縮の差によるバリ切り部51の変位(残留した変形)が抑制される。その結果、バリ切り部51に接している被覆21は、変形が小さくなり、外観不良や防水機能の低下が抑制される
【0055】
他の変形例に係る防水構造は、図7の(b)に示すように、バリ切り部53の少なくともハウジング13とオーバーラップされた部分が、ハウジング13に向かって外径が徐々に縮径するテーパー面59を有する。
【0056】
テーパー面59は、凸曲面とすることができる。また、テーパー面59は、平坦な傾斜面であってもよい。この他、テーパー面59は、凹曲面とすることもできる。
【0057】
この変形例に係る防水構造では、バリ切り部53が、テーパー面59を有することで、ハウジング13にオーバーラップするバリ切り部53の体積が、ハウジング13に向かって徐々に小さくなる。換言すれば、バリ切り部53は、ハウジング13から離反する方向に向かって体積が徐々に大きくなる。バリ切り部53は、上記した作用により押し出される際に、押し出し方向側の体積が大きいことにより、剛性が高まる。これによりバリ切り部53は、熱膨張時、ハウジング13の外部へ押し出される押し出し量が軽減される。
【0058】
また、上記変形例に係る防水構造は、熱収縮した際、被覆21と共にバリ切り部53がハウジング13に接近する方向に引き寄せられる。バリ切り部53は、この引き寄せ方向の変位により、ハウジング13の環状溝部33に進入しようとする。この際、バリ切り部53は、ハウジング13の内周壁に、進入方向に向かって縮径するテーパー面59で接しているので、ハウジング13からの反力により被覆21を押圧する。これにより、ハウジング13とバリ切り部53の境界、及びバリ切り部53と被覆21との境界では、ハウジング13からの反力により密着力が高まる。
【0059】
これらの作用により、上記変形例に係る防水構造は、熱膨張と熱収縮の差によるバリ切り部53の変位が抑制される。その結果、バリ切り部53に接している被覆21は、変形が小さくなり、外観不良や防水機能の低下が抑制される。
【0060】
従って、上記した各実施形態に係る防水構造によれば、被覆電線15の外観不良や電線の切れ、被覆21の皺による防水機能の低下を防ぐことができる。
【0061】
ここで、上述した本発明に係る防水構造の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 被取付部の取付け穴に挿通される被覆電線(15)の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたシール部(25)と、
前記シール部(25)を覆うように前記被覆電線(15)の端末部に設けられて前記弾性部材より剛性が高い絶縁樹脂により形成されたハウジング(13)と、
前記ハウジング(13)の少なくとも一端部に連続して設けられ前記被覆電線(15)の周囲を覆う絶縁性の弾性部材により形成されたバリ切り部(27)と、
を備えたことを特徴とする防水構造。
[2] 前記シール部(25)と前記バリ切り部(27)とが、同一材料で形成されたことを特徴とする上記[1]に記載の防水構造。
[3] 前記ハウジング(13)における前記一端部の外周面と前記バリ切り部(27)の外周面との高さが略同等に形成されたことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の防水構造。
[4] 前記バリ切り部(27)の一部が、前記ハウジング(13)に覆われたことを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の防水構造。
[5] 前記シール部(25)及び前記バリ切り部(27)の少なくとも一方が、熱収縮チューブまたは固化した接着材であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の防水構造。
【符号の説明】
【0062】
13…ハウジング
15…被覆電線
25…シール部
27…バリ切り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7