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特許7104032大気汚染の悪影響に対する水溶性トマト抽出物の保護
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  • 特許-大気汚染の悪影響に対する水溶性トマト抽出物の保護 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】大気汚染の悪影響に対する水溶性トマト抽出物の保護
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/81 20060101AFI20220712BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/7052 20060101ALI20220712BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K36/81
A61P9/14
A61P7/02
A61K31/7034
A61K31/7048
A61K31/7052
A23L33/105
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019522897
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017077993
(87)【国際公開番号】W WO2018083137
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】16196794.8
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507273068
【氏名又は名称】プロヴェクシス ナチュラル プロダクツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ムスラー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・レーダーストルフ
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・リヒャルト
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506901(JP,A)
【文献】特表2002-512972(JP,A)
【文献】Eur. Heart J., (2008), 29, [24], p.3043-3051
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/81
A61K 31/7034
A61K 31/7048
A61K 31/7052
A61P 9/00
A61P 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染への曝露のリスクがある対象において、心血管の健康を維持するか、心血管の健康問題を発症するリスクを減らすか、または既存の心血管の健康問題を悪化させる可能性を減少させるめの水溶性トマト抽出物(WSTE)を含む組成物。
【請求項2】
薬剤、栄養補助食品、食品サプリメントまたは食品の形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒト対象に用いられる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒト対象が健康な人である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ヒト対象が、既存の心血管疾患を有する人である請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
対象が、火山の放出、砂塵嵐、森林火災、草地の火事からの煙、自動車の排ガス、製造業からの排出物または喫煙の結果として形成される、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染への曝露のリスクがある請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
WSTEが、
(i)実質的にリコピンを含まず;
(ii)実質的に熱安定性であり;および
(ii)血小板凝集を防止する活性を有し、1000ダルトン未満の分子量を有する水溶性化合物を含む;
トマト抽出物を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
WSTEが、
(a)グリコシル化フェノール酸もしくはフェノールエステル、またはそれらの誘導体;
(b)グリコシル化フラボノイド;および
(c)ヌクレオシド;
から選択される血小板凝集を防止するための活性を有する水溶性化合物の1つ、いくつかまたはそれぞれを含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
WSTE成分が、<0.8AUの褐変指数、4.0-4.3のpHおよび1.15-1.20の密度を有する請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
WSTE成分が、WSTE成分の総乾燥重量に対して、<1%の糖を含有し、かつ、>95%の、WSTEが由来する均質トマトの出発混合物に含まれる血小板凝集を防止する活性を有する水溶性化合物を含有する濃縮水溶液である請求項7または8に記載の組成物。
【請求項11】
WSTE成分が、WSTE成分の総乾燥重量に対して、<1%の糖を含有し、かつ、>95%の、WSTEが由来する均質トマトの出発混合物に含まれる血小板凝集を防止する活性を有し、粉末形態である水溶性化合物を含有する請求項7または8に記載の組成物。
【請求項12】
組成物が、粒子状物質による大気汚染に曝露された対象における血小板凝集を減少させるか、またはそのリスクを最小限に抑えるのに十分である量のWSTEを含む請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
粒子状物質による大気汚染の悪影響から保護するための、有効量の水溶性トマト抽出物(WSTE)を含む薬剤、栄養補助食品、食品サプリメントまたは食品から選択される、製品
【請求項14】
25-300mgのWSTEを含む、請求項13に記載の製品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体の心血管系を大気汚染の悪影響に対して保護するための水溶性トマト抽出物(water-soluble tomato extract)(WSTE)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染は様々な形で起こる。一般的な種類の汚染は「粒子状物質による大気汚染」と呼ばれ、「吸入性粒子状物質」と呼ばれる、煤煙、ガス、その他の微粒子状の物質を含む。吸入性粒子状物質は、空気力学的直径が10ミクロンまたは2.5ミクロン未満などのサイズによって(それぞれPM10またはPM2.5)、またはナノ粒子として(直径100 nm未満、またはPM0.1)、分類される。これらの粒子は、多くの場合、自動車の排気ガス、特にディーゼル燃料、またはディーゼルエンジンから発生する。
【0003】
粒子状物質が、血流に侵入して細胞傷害性および炎症性反応を誘発する可能性があることが示されており、ディーゼル排出物への曝露と心血管疾患との間には認識された関連性がある。しかしながら、これがどのように行われるかの実際のメカニズムはまだ完全には理解されていない。Solomonら、2013 J. Thromb Haemost 11: 325-34;Taborら、2016 Particle and Fibre Toxicology 13:6 DOI 10.1186/s12989-016-0116-x;Luckingら、2008 European Heart J 29: 3043-3051;and Hunterら、2014 Particle and Fibre Technology 11:62 DOI 10.1186/s12989-014-0062-4を参照。
【0004】
大気汚染は、粒子状物質(PM)と気体成分の混合物である。PMの大気汚染に曝露されると心血管の健康に悪影響があることが多くの研究で示されている(Millerら、2012、Popeら、2015)。血小板の活性/反応性は、心血管疾患、特に血栓症のリスク増加と関連しており、またアテローム性動脈硬化症の発症にも寄与する。血小板の活性/反応性は、大気汚染などのさまざまな要因によって増大する可能性がある。したがって、PMは、血小板活性化の増加を通じて、動脈血栓症およびアテローム性動脈硬化症を促進することが示されている。
【0005】
すべての血小板抗凝集剤が同じ経路で作用するわけではなく、抗凝集剤がすべての凝集刺激に反応するわけでもない。たとえば、クロピドロゲル(アテローム性動脈硬化症の心血管合併症の二次予防に使用される抗血小板薬)は、アデノシン5'-ジホスフェート(ADP)による血小板凝集を阻害するが、コラーゲンやトロンビンによる血小板凝集は抑制しない。(Weberら、1999 British J Pharmacology126: 415-420参照)。PMは、生理学的メカニズム(活性酸素誘発凝集に見られるメカニズムなど)に加えて、物理的メカニズムを介して血小板凝集を刺激しうる。
【0006】
リコピンを含まない水溶性トマト抽出物が記載されている;たとえば、WO2010/049707;WO10/049709、およびWO99/55350(全てProvexis Natural Products、Ltdによる)を参照。それらは、登録商標FRUITFLOWおよびFRUITFLOW 2として、スイスのDSM Nutritional Productsから市販されている。それらは、抗血小板凝集能を有すると記載されており、これは、抽出物中のヌクレオシドおよび他の活性剤、たとえば、アデノシン、クロロゲン酸などのカフェ酸誘導体、ならびにルチンおよびケルセチン-3,4-グリコシドなどのフラボノイドの存在によるものと推定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粒子状物質による大気汚染の影響を改善するのを補助することができる、安全で効果的な栄養補助食品、食品または食品サプリメント、栄養補助食品または薬剤を有することが望まれるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の詳細な記載
本発明によれば、水溶性トマト抽出物は、粒子状物質による大気汚染に曝露されることによってもたらされる悪影響から心血管系を保護することができることが見出されている。したがって、本発明は、健康な心血管系を維持するため、および/または大気汚染粒子状物質との相互作用によってもたらされる血小板凝集を防止するための水溶性トマト抽出物(WSTE)の使用に関する。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、本発明は、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染への曝露のリスクがある対象において、心血管の健康を維持するか、心血管の健康問題を発症するリスクを減らすか、または既存の心血管の健康問題を悪化させる可能性を減少させることにおいて使用するための水溶性トマト抽出物(WSTE)を含む組成物を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、本発明は、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染への曝露のリスクがある対象において、大気汚染粒子状物質への曝露の前または曝露と同時に、保護量の水溶性トマト抽出物を投与することを含む、心血管の健康を維持するか、心血管の健康問題を発症するリスクを減らすか、または既存の心血管の健康問題を悪化させる可能性を減少させる方法を提供する。
【0011】
本発明のもう1つの態様は、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染への曝露のリスクがある対象において、心血管の健康を維持するか、心血管の健康問題を発症するリスクを減らすか、または既存の心血管の健康問題を悪化させる可能性を減少させることにおいて使用するための、薬剤、栄養補助食品、食品サプリメントまたは食品の製造におけるWSTEの使用を提供する。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、粒子状物質による大気汚染の悪影響から保護するための、有効量のWSTEを含む薬剤、栄養補助食品、食品サプリメントまたは食品を含む剤形を提供する。
【0013】
本発明者らは、後述するように、WSTEは、粒子状物質による大気汚染に曝露された対象における血小板凝集のリスクを減少または最小にするので、WSTEは、心血管の健康を維持するのに有効であると考える。したがって、本発明の別の態様によれば、本発明は、粒子状物質による大気汚染に曝露されている対象において、大気汚染粒子状物質への曝露の前または曝露中に、有効量のWSTEを対象に投与することを含む、血小板凝集を減少させるか、またはそのリスクを最小限に抑える方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】粒子状物質によって誘発された凝集量(最大凝集%)に対するFRUITFLOWの効果を示す。詳細は実施例に記載する。
図2】凝集量(粒子状物質およびADP(アデノシン二リン酸)によって誘導される最大凝集%)に対するFRUITFLOWの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
明細書および特許請求の範囲で使用されているように、以下の定義が適用される:
水溶性トマト抽出物(WSTE):本発明で使用されるWTSEは以下の特性を有する。
・それは、室温、すなわち25℃で水溶性である。好ましい実施態様では、抽出物はまた、より低温で(より長い期間にわたるより多くの撹拌が必要でありうるが、たとえば、15℃、10℃、さらには4℃程度の低温でさえも)可溶性である。WSTEは、実質的に全くリコピンを含まないか、またはごくわずかな量のリコピン(乾燥重量で0.5%未満、好ましくは乾燥重量で0.1%未満)を含有する。
・それは、水不溶性粒子状物質を実質的に含まない(すなわち、乾燥重量で0.1%未満、好ましくは乾燥重量で0.01%未満の粒子状物質)。
・それは、液体または乾燥形態でありうる。乾燥抽出物FRUITFLOW 2などのいくつかの形態では、糖は除去されており、そして抽出物は濃縮されている。
【0016】
粒子状物質による大気汚染:これは、ナノ粒子に分類されるか、または粒子径がPM2.5以下の粒子を含む大気汚染である。これらのサイズの粒子は、火山の放出、砂塵嵐、森林火災、草地の火事からの煙などの「自然発生源」の結果として、あるいは自動車の排ガス、製造業からの排出物または喫煙を含む他の活動などの人間の活動の結果として生じる。
心血管の健康:この用語は、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、血栓症、末梢動脈疾患、または脳血流低下などの、望ましくない血小板凝集に関連する状態として定義され、糖尿病(I型または2型)およびその関連する心血管障害も含む。
【0017】
健康な人:本発明の目的にとって、健康な人は、望ましくない血小板凝集、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中、血栓症、末梢動脈疾患、脳血流の低下、糖尿病(1型または2型)などに関連する心血管の健康問題を有すると診断されていないか、または自覚していない。
【0018】
好ましい組成物
好ましいWSTEは、実質的にリコピンを含まず、実質的に熱安定性であり、そして血小板凝集を防止する活性を有し、1000ダルトン未満の分子量を有する水溶性化合物を含むトマト抽出物を含む。
【0019】
好ましくは、WSTEは、以下からなる群から選択される血小板凝集を防止するための活性を有する水溶性化合物の1つ、いくつかまたはそれぞれを含む:
(a)グリコシル化フェノール酸もしくはフェノールエステル、またはそれらの誘導体;
(b)グリコシル化フラボノイド;および
(c)ヌクレオシド。
【0020】
本発明に従って使用されるWSTEは、WO2010/049707に記載されているトマト抽出物であることが好ましい。好ましくは、WSTEは、WO2010/049707に記載されている方法に従って製造される。たとえば、いくつかの実施態様では、WSTEは、WO2010/049707の図2または図4に記載されている方法に従って作製することができる。
【0021】
1つの実施態様では、WSTEは、シロップの形態の液体である。好ましい抽出物は、<0.8AUの褐変指数、4.0-4.3のpHおよび1.15-1.20の密度を有し、そして以下の工程によって調製することができる:
(a)均質化トマトの出発混合物の調製;
(b)果実固形物からの水溶性画分の分離;
(c)抽出物を実質的にリコピンを含まないようにするための水溶性画分の濾過;および
(d)ろ蒸発器を用いたろ過透過液中の血小板凝集防止活性を有する水溶性化合物の濃縮。
【0022】
他の実施態様では、糖は、抽出物から除去されてもよい。そのような抽出物は、WSTEが由来する均質化トマトの出発混合物に含まれる、<1%の糖、および>95%の血小板凝集防止活性を有する水溶性化合物を含むことが好ましい。そのような抽出物は、濃縮水溶液の形態、または好ましくは粉末形態でありうる。最も好ましい実施態様では、そのような抽出物は以下の工程によって製造することができる:
(a)均質化トマト果実の出発混合物の調製、ここで、出発混合物のpHは5.5を超えず、出発混合物の保持温度は35℃を超えず、かつ、出発混合物は33%未満の固形分を含むように水で希釈される;
(b)画分の温度が60℃を超えない手順による、水溶性画分を果実固形物からの分離;
(c)水溶性画分のろ過;
(d)ろ過した水溶性画分からの遊離糖の除去;および
(e)画分の温度を60℃以上に上昇させない手順による血小板凝集防止活性を有する水溶性化合物の濃縮。
【0023】
工程(e)の後、抽出物は、<1%の糖を含有し、>95%の、出発混合物に含まれる血小板凝集を防止する活性を有する水溶性化合物を含有する濃縮水溶液でありうる。このような水溶液をさらに脱水して粉末を形成することができる。
【0024】
いくつかの実施態様では、WSTEは、ヒトの健康に有利である他の分子を含む組成物で提供されてもよい。たとえば、組成物は、硝酸塩または一酸化窒素の前駆体を含んでもよい。硝酸塩は、食物硝酸塩の供給源(たとえば、純粋に例として、スイスフチャード、ルッコラ、ホウレンソウ、ルバーブ、イチゴまたはレタスからの水溶性抽出物)に由来するのが好ましい。組成物はまた、葉酸またはその代謝産物(たとえば、5-メトキシテトラヒドロ葉酸塩またはテトラヒドロ葉酸塩)を含みうる。葉酸またはその代謝産物および/または硝酸塩を含む本発明の使用のための好ましい組成物は、WO2014/102546に記載されている。
【0025】
WSTE治療から利益を得る対象は、好ましくはヒト対象である。本発明者らは健康な人および既存の心血管状態を有する人が、粒子状物質による大気汚染にさらされるリスクがある場合、WSTEを摂取することから利益を得ることができることを見出した。
【0026】
健康な人における使用
いくつかの実施態様では、人は、健康な人である。人が大気汚染に曝露される前に本発明のWSTEを摂取する好ましい実施態様では、摂取は、曝露の少なくとも30分から1時間前に行われる。特に好ましい実施態様では、WSTEを含有する食品または食品サプリメントが消化され、そしてWSTE活性成分がそれらの最適なレベルで循環系に入ることを確実にするために、摂取は曝露の少なくとも2または3時間前に行われる。持続的なエピソードで大気汚染が発生する(すなわち、大気汚染が1日以上続く)地域では、WSTEは最初のエピソードの前、および少なくとも大気汚染のエピソードの間は毎日摂取されるべきである。他の実施態様では、WSTEは、一年のうち大気汚染のエピソードが発生する可能性がある間は、少なくとも毎日摂取される。
【0027】
本発明の別の実施態様は、粒子状物質による大気汚染への曝露の前または曝露中に、曝露のリスクにある人に有効量のWSTEを投与することを含む、粒子状物質による大気汚染に曝露された人において、健康な血流を維持するか、または血小板凝集のリスクを最小化する方法である。
【0028】
本発明の別の態様では、リスクにある人は、一般に、良好な心血管の健康を享受しており、すなわち、心血管の健康に関連する既知の問題を抱えていない。
【0029】
本発明のもう1つの実施態様は、粒子状物質タイプの大気汚染に曝露されるリスクがある健康な人の健康な血流を非治療的に維持するためのWSTEの使用である。非治療的結果の例として、スキンケアの問題、特に肌のシワまたは硬化による老けて見えるリスクの減少、および/または良好な血液循環による全般的な健康とエネルギーのバランスの維持が挙げられる。
【0030】
本発明のWSTEの他の用途として、以下のものが挙げられる:
大気汚染の存在下で健康的な血小板機能を維持すること;
大気汚染の存在下で健康的な血行と血流を維持すること;
粒子状物質による大気汚染の存在下でのアテローム性動脈硬化症、または血栓症などの有害な心血管症状のリスクを軽減すること;
粒子状物質に曝露されたときの心血管疾患の重症度を軽減すること;および
大気汚染環境における心血管疾患および呼吸器疾患のリスクを軽減すること。
【0031】
すでに心血管疾患を患っている人における使用
また、驚くべきことに、WSTEがアデノシン二リン酸(ADP)とPMの両方の存在下で相乗的な抗血小板凝集作用を示すことも見出された。血小板に保管された天然の血小板アゴニストであるADPは、血小板活性化時に放出され;そして、それは血小板凝集の強い開始を誘導する。PMはまた、一般的に血小板凝集を強く誘導し、そして、またADPにより誘導される血小板凝集をさらに促進する。ADPとPMの組み合わせは、ADPまたはPM単独によって誘導された個々の血小板活性化応答の合計よりも強い血小板活性化応答を誘導している。実施例においてより詳細に示されるように、我々は、WSTEが大気汚染中に存在するPMによって誘発される血小板活性、および驚くべきことにそれがPMの存在によって促進されるときADP誘発血小板凝集の両方を阻害することを見出した。
【0032】
したがって、本発明のWSTEは、必要に応じて、心血管系の健康問題または糖尿病の病歴があり、したがって循環血中にADPが存在し、そしてまた粒子状物質による大気汚染に曝露されるリスクがある人々の集団にも使用できる。したがって、本発明のもう1つの実施態様は、粒子状物質による大気汚染への曝露の前または曝露中に、有効量のWSTE抽出物を人に投与することを含む、心血管の健康問題の既往歴があり、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染に曝露されるリスクがある人の心血管の健康を維持する方法である。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、大気汚染、好ましくは粒子状物質による大気汚染の有害な心血管作用から使用者を保護するためのWSTEの使用である。そのような大気汚染に曝露されているか、そのような大気汚染に曝露されるリスクがある人は、WSTEを摂取し、それによって大気汚染に関連する心血管系の問題から自分自身を守ることができる。
【0034】
本発明のもう1つの態様は、粒子状物質による大気汚染に曝露されるリスクがある人にWSTEを投与することを含む、粒子状物質による大気汚染誘発性血小板凝集に関連する心血管系の健康問題のリスクを減少させる方法である。
【0035】
本発明のもう1つの態様は、粒子状物質による大気汚染に曝露されているか、または粒子状物質による大気汚染に曝露されるリスクがある人において心血管の健康を維持すること、心血管の健康問題を発症するリスクを低減すること、または既存の心血管の健康問題を悪化させる可能性を減少させることができる医薬または栄養補助食品の製造における使用のための水溶性トマト抽出物の使用である。
【0036】
投与量および製剤
投与量:
トマト抽出物:製剤が液体である場合、FRUITFLOW1(液体形態)が使用されてもよいが、FRUITFLOW(登録商標)2(粉末形態)が使用されるのが好ましい。WSTEの量は、25-300mg/日、好ましくは75-200mg/日、より好ましくは125-175mg/日であるべきである。いくつかの実施態様では、100または150mg/日が対象に摂取される可能性がある。前述の量は、1日1回投与量として摂取されてもよく、または全量が消費されるように部分投与量が1日1回を超えて摂取されてもよい(すなわち、1日当たり2回または3回)。本発明による好ましい剤形は、25-300mgのWSTE、好ましくは75-200mgのWSTE、より好ましくは125-175mgのWSTEを含む。
【0037】
投与のタイミング:WTSEが適切に代謝され、そして暴露前に循環系で利用可能であるように、大気汚染エピソードへの暴露前に、好ましくは少なくとも2~3時間前に、WTSEを消費することが好ましい。他の実施態様では、摂取は曝露の少なくとも30分から1時間前に行われる。持続的なエピソードで大気汚染が発生する(すなわち、大気汚染が1日以上続く)地域では、WSTEは最初のエピソードの前、および少なくとも大気汚染のエピソードの間は毎日摂取されるべきである。他の実施態様では、WSTEは、一年のうち大気汚染のエピソードが発生する可能性がある間は、少なくとも毎日摂取される。他の実施態様では、WSTEは、一年のうち大気汚染のエピソードが発生する可能性がある間は、少なくとも毎日摂取される。
【0038】
形態
1つの実施態様において、本発明の組成物は栄養補助食品の形態でありうる。本明細書で使用される「栄養補助食品」という用語は、栄養学的分野および製薬学的分野の両方での有用性を意味する。したがって、WSTEを含む栄養補助食品組成物は、食品および飲料のサプリメントとして、ならびにカプセルまたは錠剤などの固体製剤、または溶液または懸濁液などの液体製剤でありうる経腸または非経口適用のための医薬製剤として使用することができる。
【0039】
本発明のWSTE養補助食品組成物は、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、フィルム形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶剤)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゲル化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤および抗菌剤をさらに含んでもよい。
【0040】
本発明の栄養補助食品組成物は、たとえば、食品、食品プレミックス、強化食品、錠剤、丸剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤および発泡剤(粉末や錠剤など)などの固形製剤、あるいは、たとえば、飲料、ペーストおよび油性懸濁液などの溶液、乳液または懸濁液などの液体形態などの、身体に投与するのに適している従来の担体材料を含有する任意のガレヌス経口形態でありうる。ペーストは、ハードシェルまたはソフトシェルカプセルに組み込むことができ、それによってカプセルは、動物由来のゼラチン、植物タンパク質またはリグニンスルホネートのマトリックスを特徴とする。
【0041】
栄養補助食品組成物が医薬製剤である場合、組成物は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤または補助剤をさらに含有する。たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences、20th edition Williams & Wilkins、PA、USAに開示されているように、標準的な技術をそれらの製剤化に使用することができる。経口投与には、好適な結合剤、たとえば、ゼラチンまたはポリビニルピロリドン、好適な増量剤、たとえば、ラクトースまたはデンプン、好適な滑沢剤、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、および場合によりさらなる添加剤を含有する錠剤およびカプセル剤を用いるのが好ましい。
【0042】
いくつかの実施態様では、組成物は、食品または飲料としての消費用に製剤すすることができる。このような食品または飲料の例は、たとえば、マーガリン、スプレッド、バター、チーズ、ヨーグルトまたはミルク飲料などの乳製品である。
【0043】
WSTEで強化することができる他の食品の例として、パン、シリアルバー、ケーキやクッキーなどのベーカリーアイテム、およびポテトチップスまたはクリスプが挙げられる。
【0044】
飲料は、ノンアルコール飲料およびアルコール飲料、ならびに飲料水および液体食品に添加される液体製品を包含する。非アルコール飲料は、たとえば、ソフトドリンク、スポーツドリンク、フルーツジュース、レモネード、紅茶および牛乳ベースの飲料である。液体食品は、たとえば、スープおよび乳製品である。
【0045】
WSTEを含む栄養補助食品組成物は、ソフトドリンク、エネルギーバー、またはキャンディーに加えることができる。
【0046】
非限定的な実施例が、本発明をさらに説明するために提示される。
実施例
【実施例1】
【0047】
試薬:ディーゼル排気微粒子(Industrial Forklift、SRM2975)は、米国標準技術局(ゲイサーズバーグ、メリーランド、USA)からのものであった。アデノシン二リン酸(ADP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)および酸化チタン(IV)(TiO2)アナターゼは、シグマ(セントルイス、ミズーリ)から入手した。リン酸緩衝食塩水(PBS)は、インビトロゲン(カールスバッド、カリフォルニア)から入手した。
【0048】
ディーゼル排気微粒子およびTiO 2 の調製:粒子をDMSOに懸濁し、超音波水浴中で5分間超音波処理して凝集を最小限にした。使用前にPBS中でそれらを適切な濃度に希釈した。
【0049】
血小板凝集測定:健常人ボランティアからの血液をSafety-Multifly(登録商標)針を通してSodium Citrate S-Monovette(登録商標)チューブ(ザルスタット、ニュームブレヒト、ドイツ)に採取した。クエン酸添加血液を150g、37℃にて15分間遠心分離することにより、多血小板血漿(PRP)を得た。PRPをプラスチックチューブに移し、37℃にて放置した。残った血液を2000gで15分間37℃にて遠心分離して、乏血小板血漿(PPP)を得た。血小板数をSysmexセルカウンター(ノルダーシュテット、ドイツ)を用いて測定し、PRP中の血小板数を自己PPPで3 x 108血小板/mLに調整した。PRPをFruitflow(登録商標)2(86μg/ mL)またはPBSと共に37℃にて10分間刺激前にインキュベートした。PRP懸濁液を、Fruitflow(登録商標)の存在下または不在下で、ADP(2.5μM)、ディーゼル排気微粒子(50μg/ml)またはTiO2(50μg/mL)で刺激し、血小板凝集を撹拌条件下で37℃で10分間、血小板凝集計(APACT 4004、Labitec、アーレンスブルク、ドイツ)でモニターした。PPPを用いてベースラインを決定した(100%凝集)。粒子は光透過率に影響を与える可能性があるため、ディーゼル排気微粒子(50μg/ ml)またはTiO2(50μg/ml)を含むPPPを、ディーゼル排気微粒子またはTiO2の存在下でベースラインとして使用した。血小板凝集を、凝集曲線下面積(AUC)および最大凝集パーセント(最大凝集%)として定量した。
【0050】
結果
ADPは、血小板に保管されている天然の血小板アゴニストであり、血小板活性化時に放出される;それは血小板凝集の強い開始を誘導する。ディーゼル排気微粒子(PM)もまた、血小板凝集を強く誘発する。対照的に、汚染されていないTiO2粒子は、同等の濃度で有意な凝集を誘導しなかった。さらに、PMは、ADPによって誘発された血小板凝集をさらに促進した。ADP+PMの組み合わせは、ADPまたはPM単独によって誘発される個々の血小板活性化反応よりも強い血小板活性化反応を誘発している。
【0051】
興味深いことに、Fruitflow(登録商標)はPMによって誘発される血小板凝集を阻害することができた。このように、凝集曲線下面積(AUC)は、18606から13079へと30%有意に減少し、そして最大凝集パーセント(最大凝集%)は、Fruitflow(登録商標)の存在下で37%から27%へと28%減少した(登録商標)(第1表および図1)。最終的に、血小板凝集は、ADPとPMの組み合わせによって促進され、Fruitflow(登録商標)によって強く阻害される。凝集曲線下面積(AUC)は、55622から35511へと36%有意に減少した。最大凝集パーセント(最大凝集%)は、Fruitflowの存在下で101%から66%へと35%減少した(登録商標)(第1表および図2)。
【0052】
第1表:大気汚染粒子状物質による血小板凝集に対するFruitflow(登録商標)の効果
【表1】
【0053】
すべての値は、平均±SDである。ADP:アデノシン二リン酸。PM:粒子状物質。FF:Fruitflow(登録商標)。AUC:凝集曲線下面積。最大凝集%:最大凝集パーセント。
*:p<0.05 FFを投与されていないそれぞれの処置とは有意に相違する(たとえば、ADP対ADP+FF、PM対PM+FF、PM+ADP対PM+ADP+FF)。
【0054】
結論
Fruitflow(登録商標)は、大気汚染中に存在するPMによって誘発された血小板活性を阻害する。さらに、Fruitflow(登録商標)はまた、PMの存在によって促進された場合のADP誘発血小板凝集を阻害する。
したがって、Fruitflow(登録商標)は、動脈血栓症、アテローム性動脈硬化症、および他の心血管疾患を促進する、PMによって誘発される血小板活性化を減少させる。Fruitflow(登録商標)は、ストレスによるすでに上昇した血小板活性の場合に特に有用でありうる。さらに、WTSEは、ストレス条件および疾患下で放出されるADPなどの天然の血小板アゴニストによって引き起こされる血小板反応性として、PMなどの大気汚染物質によってさらに促進され、PMによって引き起こされる心血管イベントのリスクを減らすようにFruitflow(登録商標)によって阻害されうる、糖尿病または心血管疾患などの既存の疾患を有する人において使用することができる。結論として、Fruitflow(登録商標)は、心血管系に対するPMの有害な影響を減少させうる。
図1
図2