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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】神経障害を改善するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20220712BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K33/26
A61P21/00
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019525547
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022839
(87)【国際公開番号】W WO2018235728
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017122838
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 究
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 直実
(72)【発明者】
【氏名】塩田 倫史
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064447(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/126693(WO,A1)
【文献】NISHIO, Y. et al.,5-Aminolevulinic acid combined with ferrous iron enhances the expression of heme oxygenase-1,Int. Immunopharmacol.,2014年,Vol.19, No.2,p.300-307,ISSN:1567-5769
【文献】OMORI, C. et al.,Facilitation of brain mitochondrial activity by 5-aminolevulinic acid in a mouse model of Alzheimer',Nutr. Neurosci.,2017年11月,Vol.20, No.9,pp.538-546,doi: 10.1080/1028415X.2016.1199114, Epub 2016 Jun 22
【文献】WEBER, J.J. et al.,From pathways to targets: understanding the mechanisms behind polyglutamine disease,Biomed Res. Int.,2014年,Vol.2014, Article ID 701758,pp.1-22
【文献】HUKEMA, R.K. et al.,Induced expression of expanded CGG RNA causes mitochondrial dysfunction in vivo,Cell Cycle,2014年,Vol.13、No.16,pp.2600-2608
【文献】ESTERAS, N. et al.,Nrf2 activation in the treatment of neurodegenerative diseases: a focus on its role in mitochondrial,Biol. Chem.,2016年,Vol.397, No.5,pp.383-400
【文献】ESCARTIN, C. et al.,The Nrf2 pathway as a potential therapeutic target for Huntington disease A commentary on "Triterpen,Free Radic. Biol. Med.,2010年,Vol.49, No.2,pp.144-146
【文献】COLIN-GONZALEZ, A.L. et al.,Heme oxygenase-1 (HO-1) upregulation delays morphological and oxidative damage induced in an excitot,Neuroscience,2013年,Vol.231,pp.91-101
【文献】SONG, G. et al.,Altered redox mitochondrial biology in the neurodegenerative disorder fragile X-tremor/ataxia syndro,Mol. Med.,2016年,Vol.22,pp.548-559
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 33/00-33/44
A61P 21/00-21/06
A61P 25/00-25/36
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)の存在に起因する神経障害を有する対象の予防または治療において使用するための医薬組成物であって、
下記式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩、および一種または二種以上の金属含有化合物を含有
ここで、前記対象は、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、脆弱X症候群(FRAXA)、筋緊張性ジストロフィーからなる群から選択されるトリプレットリピート病を患う対象であり、
前記金属含有化合物が、鉄を含有する化合物である、
ことを特徴とする
医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
前記対象は、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)または脆弱X症候群(FRAXA)を患う対象である、
ことを特徴とする
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物であって、
が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、および、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、
が、水素原子、直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、および、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
およびRが、水素原子である、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項に記載の医薬組成物であって、
前記鉄を含有する化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムである、
医薬組成物。
【請求項6】
染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)の存在に起因する神経障害を有する対象を予防または治療するための医薬の製造における下記式(I):
【化2】
(式中、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩の使用であって、
前記医薬は、一種または二種以上の金属含有化合物の投与と併用され、
ここで、前記対象は、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、脆弱X症候群(FRAXA)、筋緊張性ジストロフィーからなる群から選択されるトリプレットリピート病を患う対象であり、
前記金属含有化合物が、鉄を含有する化合物である、
使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-アミノレブリン酸またはその誘導体(本明細書中、単に「ALA類」とも称する)の新規用途、具体的には、染色体上のトリプレットリピートの存在に起因する神経障害を有する対象の治療におけるALA類の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の塩基配列において、3塩基単位(トリプレット、CAGなど)が連続して繰り返し配列することをトリプレットリピート(以下「TR」とも称する)という。この繰り返し回数は、正常人でも多様であるが、一定以上に多く繰り返して過伸長すると神経障害を惹起する場合があり、総称してトリプレットリピート病(TR病)と称されている。
【0003】
TR病は、TRが存在する遺伝子上の領域に基づいて、5’末端の非翻訳領域に存在するTRの伸長による疾患、翻訳領域に存在するTRの伸長による疾患、3’末端の非翻訳領域に存在するTRの伸長による疾患、およびイントロン内に存在するTRの伸長による疾患に分類され、フリードライヒ失調症(FRDA)、球脊髄性筋委縮症、ハンチントン病(HD)、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、脆弱X症候群(FRAXA)、脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)、筋緊張性ジストロフィーなどの疾患が知られている。
【0004】
ハンチントン病や筋強直性ジストロフィーなどのTR病では、CAGやCTGといった3塩基繰り返し配列(リピート)が異常に伸長しており、そのリピート長は症状の重症度と比例する。これらTR病患者では、年齢とともにリピート長がさらに伸長することにより、症状が進行するとされ、リピート伸長抑制効果のある遺伝子治療の開発が基礎研究で試みられているが実用化には至っていない。実際の臨床現場では、症状に応じた対症療法が行われている(非特許文献1)。
【0005】
脆弱X症候群(FRAXA)、脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)は、X染色体に位置するFMR1遺伝子のCGGリピートが関与している。脆弱X症候群(FRAXA)、脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)に対する治療法としては、薬剤により、FMR遺伝子調節を変化させ、FMR遺伝子の発現を回復させる方法、神経細胞間の興奮性神経伝達に重要な役割を担う、グルタミン酸を認識する受容体(mGluR)の阻害剤を用いる方法、FXSで抑制されているとされているGABAシステムにおけるGABA受容体の作動薬を用いる方法、FMRタンパクが制御する遺伝子を薬剤で抑制する方法などが報告されているが、いずれも研究段階であり、治療法の確立には至っていない(非特許文献2)。
【0006】
また、フリードライヒ失調症(FRDA)を含むフラタキシンタンパク質量の低下に起因する疾患に対して、ALA類が有用であり得ることが報告されているが、トリプレットリピートを有する対象に対する効果や、神経障害に対する効果は示されていない(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015/064447
【非特許文献】
【0008】
【文献】中森ら,リピート長制御によるトリプレットリピート病の新規治療法の開発(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25713034/)
【文献】難波栄二,脳と発達 2015;47;112-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、TRの存在に起因する神経障害の予防または改善に使用することができる新規薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
現在までに、TR病の根本的な治療法が確立されておらず、行動異常やてんかんなど、症状に応じた対症療法が行われている。本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討する過程で、驚くべきことに、ALA類が、TRの存在に起因する神経障害を形態学的および生理学的に改善することができ、TR病の中核症状の治療に有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
具体的に、本発明は、以下の特徴を包含する。
[1] 染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)の存在に起因する神経障害を有する対象の予防または治療において使用するための医薬組成物であって、
下記式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩もしくはエステルを含有する、
ことを特徴とする
医薬組成物。
【0012】
[2] [1]に記載の医薬組成物であって、
前記対象は、フリードライヒ失調症(FRDA)、球脊髄性筋委縮症、ハンチントン病(HD)、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、脆弱X症候群(FRAXA)、筋緊張性ジストロフィーからなる群から選択されるトリプレットリピート病を患う対象である、
ことを特徴とする
医薬組成物。
【0013】
[3] [1]または[2]に記載の医薬組成物であって、
前記対象は、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)または脆弱X症候群(FRAXA)を患う対象である、
ことを特徴とする
医薬組成物。
【0014】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、および、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、
が、水素原子、直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、および、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択される
ことを特徴とする、
医薬組成物。
【0015】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
およびRが、水素原子である、
医薬組成物。
【0016】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
一種または二種以上の金属含有化合物をさらに含有する、
医薬組成物。
【0017】
[7] [6]に記載の医薬組成物であって、
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデンまたはコバルトを含有する化合物である、
医薬組成物。
【0018】
[8] [7]に記載の医薬組成物であって、
金属含有化合物が、鉄、マグネシウムまたは亜鉛を含有する化合物である、
医薬組成物。
【0019】
[9] [8]に記載の医薬組成物であって、
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物である、
医薬組成物。
【0020】
[10] [9]に記載の医薬組成物であって、
前記鉄を含有する化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムである、
医薬組成物。
【0021】
[11] 染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)の存在に起因する神経障害を有する対象を予防または治療するための医薬の製造における下記式(I):
【化2】
(式中、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩もしくはエステルの使用。
【0022】
[12] 染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート)の存在に起因する神経障害を有する対象を予防または治療する方法であって、
それを必要とする対象に、治療上有効量の下記式(I):
【化3】
(式中、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩もしくはエステルを投与することを含む、
ことを特徴とする、
方法。
【0023】
なお、上記に述べた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、染色体上のTRの存在に起因する神経障害を有する対象を予防または治療するための医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、マウス大脳皮質初代培養神経細胞における神経活動改善効果を電気生理学的に示す図である。
図2図2は、マウス大脳皮質初代培養神経細胞における神経活動改善効果を神経形態学的に示す図である。
図3図3は、Beam walking試験の結果を示す図である。図中の各符号は、それぞれ以下を示している:WT、wild-type;WT+ALA、wild-type薬剤(ALA塩酸塩+SFC)投与群;CGG KI、FXTAS Vehicle(SFC)投与群;CGG+ALA、FXTAS 薬剤(ALA+SFC)投与群。
図4図4は、新規物体認識試験の結果を示す図である。図中の各符号は、それぞれ以下を示している:WT、wild-type;WT+ALA、wild-type薬剤(ALA塩酸塩+SFC)投与群;CGG KI、FXTAS Vehicle(SFC)投与群;CGG+ALA、FXTAS 薬剤(ALA+SFC)投与群。
図5図5は、Y字迷路試験におけるアーム侵入回数の結果を示す図である。図中の各符号は、それぞれ以下を示している:WT、wild-type;WT+ALA、wild-type薬剤(ALA塩酸塩+SFC)投与群;CGG KI、FXTAS Vehicle(SFC)投与群;CGG+ALA、FXTAS 薬剤(ALA+SFC)投与群。
図6図6は、Y字迷路試験における正解率の結果を示す図である。図中の各符号は、それぞれ以下を示している:WT、wild-type;WT+ALA、wild-type薬剤(ALA塩酸塩+SFC)投与群;CGG KI、FXTAS Vehicle(SFC)投与群;CGG+ALA、FXTAS 薬剤(ALA+SFC)投与群。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、染色体上の3塩基繰り返し配列(トリプレットリピート;TR)の存在に起因する神経障害を有する対象の予防または治療において使用するための医薬組成物に関する。
【0027】
本発明において、TRは、染色体上のその存在に起因して、神経損傷、神経活動低下など、形態学的または生理学的に神経障害を引き起こすTRである限り、その種類は特に制限されない。例えば、本発明に含まれるTRには、これに限定されるものではないが、CGGリピート、CAGリピート、GAAリピート、CCGリピート、CTGリピート等を挙げることができる。本発明の一実施形態において、TRは、CGGリピートである。
【0028】
また、本発明において、TRのリピート数は、神経損傷、神経活動低下など、形態学的または生理学的に神経障害を引き起こすのに十分な長さである場合のほか、潜在的に、神経障害を引き起こし得るリピート数を含む。具体的に、本発明におけるTRのリピート数は、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、1110以上、120以上、130以上、140以上、150以上、160以上、170以上、180以上、190以上、200以上であり得る。
【0029】
本発明において、予防または治療の対象は、フリードライヒ失調症(FRDA)、球脊髄性筋委縮症、ハンチントン病(HD)、脊髄小脳変性症1型(SCA1)、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、脆弱X症候群(FRAXA)、または筋緊張性ジストロフィーを患う対象、またはこれらの疾患を発症するおそれのある対象であり得る。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記対象は、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、または脆弱X症候群(FRAXA)を患う対象、またはこれらの疾患を発症するおそれのある対象である。脆弱X随伴振戦/運動失調症候群(FXTAS)、および脆弱X症候群(FRAXA)は、いずれもfragile X mental retardation 1(FMR1)遺伝子の5’非翻訳領域におけるCGGリピートの異常な延長によって特徴付けられる。FXTASは、パーキンソン病、神経核内封入体病などとの鑑別が必要な疾患で、CGGリピート55~200を持つ保因者の一部に発症するとされている。世界的な保因者数は男性の850人に1人、女性の300人に1人とされ、この保因者男性の40%、保因者女性の16%程度が発症するとされている。また、FRAXAはCGGリピート200以上で発症するといわれている。現時点で、FXTAS、FRAXAともに確立された治療法は存在しない。
【0031】
本発明の医薬組成物は、ALA類を有効成分とすることを特徴とする。
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体またはそれらの塩またはエステルをいう。
【0032】
本明細書において、ALAは、5-アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ-アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0033】
ALAの誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、Rは、水素原子またはアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、RおよびRが水素原子の場合に相当する。
【化4】
【0034】
ALA類は、生体内で式(I)のALAまたはその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0035】
式(I)のRにおけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0036】
式(I)のRにおけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖または分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0037】
式(I)のRにおけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、または一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0038】
式(I)のRにおけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0039】
式(I)のRにおけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0040】
好ましいALA誘導体としては、Rが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記Rが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記RとRの組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0041】
ALA類のうち、ALAまたはその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0042】
ALA類のエステルとしては、これに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル等を挙げることができる。
【0043】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、および、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0044】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物または溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0045】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、一実施形態において、一種または二種以上の金属含有化合物が併用される。したがって、本発明の医薬組成物は、一種または二種以上の金属含有化合物をさらに含有することができる。かかる金属含有化合物の金属部分としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができる。好ましい実施形態では、金属含有化合物の金属部分は、鉄、マグネシウムまたは亜鉛であり、特に鉄であることが好ましい。
【0047】
本発明において、鉄化合物は、有機塩でも無機塩でもよい。無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができる。有機塩としては、ヒドロキシカルボン酸塩等のカルボン酸塩、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、グリシン第一鉄硫酸塩を挙げることができる。
【0048】
本発明において、マグネシウム化合物としては、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジエチレントリアミン五酢酸マグネシウムジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸マグネシウムジナトリウム、マグネシウムプロトポルフィリンを挙げることができる。
【0049】
本発明において、亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母を挙げることができる。
【0050】
対象への金属含有化合物の投与量は、対象へのALAの投与量に対してモル比で0~100倍であればよく、0.01倍~10倍が望ましく、0.1倍~8倍がより望ましい。
【0051】
本発明の医薬組成物に含有されるALA類と金属含有化合物は、ALA類と金属含有化合物とを含む組成物としても、あるいは、それぞれ単独でも投与することできるが、それぞれ単独で投与する場合でも同時に投与することが好ましく、ここで同時とは、同時刻に行われることのみならず、同時刻でなくともALA類と金属含有化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに行われることを意味する。
【0052】
本発明におけるALA類と金属含有化合物の投与経路は限定されず、全身投与であっても、局所投与であってもよい。投与経路としては、例えば、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、点滴を含む静脈内投与、貼付剤等による経皮投与、座薬、または、経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。また、上述のとおり、ALA類と、金属含有化合物とを、別々の経路から投与してもよい。
【0053】
本発明の医薬組成物の剤型は、前記投与経路に応じて適宜決定してよく、限定はされないが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、貼付剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0054】
本発明に係る医薬組成物は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性および動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0055】
本発明の医薬組成物の対象への投与頻度や投与期間は、対象の症状や状態等を考慮して、当業者(例えば、医師)が適宜決定することができる。
【0056】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0057】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0058】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語および科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書および関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、または、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0059】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例
【0060】
<実施例1>マウス大脳皮質初代培養神経細胞におけるALAの神経活動改善効果の電気生理学的評価
【0061】
本実施例では、CGGリピートを神経細胞に導入することで低下した神経活動が、ALAによって改善するかどうかを電気生理学的に評価した。
マウス大脳皮質初代培養神経細胞に、CGG88回反復伸長発現プラスミドまたはコントロールとしてのGFP発現プラスミドを発現させた各神経細胞を作製した。
プラスミドの細胞へのトランスフェクションは、NEPA21エレクトロポレーター(ネッパジーン社)を用い、エレクトロポレーション法にて行った。
ヒト由来ゲノムからCGG88回反復配列を含むDNAを取得し、pCAG-neoベクター(Wako社)に挿入し、さらに、CGG88回反復配列の下流にpEGFP-C1 Vector(clontech社)由来のGFP遺伝子を挿入した。QIAGEN Plasmid Maxi Kit(キアゲン社)を用いて精製したプラスミドを、CGG88回反復伸長発現プラスミドとして用いた。また、CGG88回反復配列を挿入せずに、GFP遺伝子のみを挿入したプラスミドを、GFP発現プラスミドとして用いた。前記各細胞は21日間培養した。培地は、B-27(登録商標)サプリメント(2%)(インビトロジェン社)およびGlutaMaxTMサプリメント(1%)(インビトロジェン社)を添加したNeurobasalTM Medium(インビトロジェン社)(神経細胞用メディウム)を用いて、37℃、5%CO存在下で培養した。1μM ALA+0.05μM SFC(ALAとSFCをモル比で20:1の割合で混合)を培養14日目から1週間培養液中に投与した。
培養21日後の各神経細胞に対して、ホールセルパッチクランプ法にて自発性の興奮性シナプス後電流(spontaneous excitatory postsynaptic currents(sEPSCs))を神経活動の指標として測定した。
【0062】
ホールセルパッチクランプ法
ホールセルパッチクランプ法は、細胞膜に微小ガラス電極をギガオーム以上の高抵抗で密着させた後、さらに吸引することでガラス電極が密着している部分の細胞膜に穴をあけ、全細胞膜を流れるイオン電流を記録する方法である。本実施例においては、以下の装置、試薬、条件を用いた:
アンプ装置:EPC10 amplifier(HEKA,Lambrecht/Pfalz,Germany)
外液(in mM):143 NaCl,5 KCl,2 CaCl,1 MgCl,10glucose,10 HEPES,pH7.4 with NaOH;
内液(in mM):135 CsMeS,5 CsCl,10 HEPES,0.5 EGTA,1 MgCl2,4 Mg2ATP,0.4 NaGTP,5 QX-314,pH7.4 with CsOH.
膜電位:-70mVに固定し測定。
【0063】
<結果>
図1から分かるとおり、CGG88回反復伸長発現神経細胞において低下した神経活動(図1内「CGG repeat」)がALA+SFC処置により改善した(図1内「CGG repeat + 5-ALA」)。
<実施例2>マウス大脳皮質初代培養神経細胞におけるALAの神経活動改善効果の神経形態学的評価
【0064】
本実施例では、CGGリピートを神経細胞に導入することで低下した神経活動が、ALAによって改善するかどうかを神経形態学的に評価した。
<実施例1>で使用した各神経細胞について、培養21日後に、4%パラホルムアルデヒドで固定し、神経細胞マーカーとしての抗MAP2抗体(ab5392、アブカム社、1/1,000希釈)、および抗GFP抗体(ab290、アブカム社、1/1,000希釈)を用いて細胞染色を行った。固定した細胞をTriton X-100(0.1%)を含むPBSで10分間洗浄し、上記抗体(1次抗体)存在下、4℃でインキュベートした。その後、PBSで洗浄し、蛍光標識された2次抗体(DyLight 405‐AffiniPure Donkey Anti-Chicken IgY(Jackson ImmunoResearch社、1/500希釈)およびAlexa Fluor 488‐conjugated donkey anti-rabbit IgG(インビトロジェン社、1/500希釈))で染色した。染色後、PBSで洗浄し、共焦点顕微鏡(LSM700、カールツァイス社)で撮影した。
【0065】
<結果>
図2から分かるとおり、CGG88回反復伸長発現神経細胞において低下した神経細胞突起分岐数(図2内「CGG repeat」)が、ALA+SFC処置により改善した(図2内「CGG repeat + ALA」)。
<実施例3>脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)モデルマウスに対するALAの行動改善効果の評価
【0066】
FXTASの症状に対するALAの効果を評価するために、確立されたFXTASモデルマウスを本試験に用いた。なお、本モデルマウスは、マウスC57BL6/J系統のFmr1遺伝子にCGGの98回リピート変異が導入されたマウスであり、5か月齢から、FXTASの神経障害症状を呈していることによって特徴付けられる。
【0067】
なお、本試験では、コントロール群として、同腹仔のwild-typeマウスを使用した。
【0068】
<試験薬および投与>
wild-typeマウスおよび上記のモデルマウスに対し、薬剤投与群(ALA塩酸塩とSFC併用投与)、Vehicle群(SFCのみを投与)をそれぞれ設定し、試験群として計4群を用いた。また、ALA塩酸塩の投与量は、1回投与あたり3mg/kgとして用いた。
薬剤投与群においては、ALAとSFCとがモル比で20:1の割合で含む水溶液を調製し、試験に用いた。具体的には、ALA塩酸塩3mg/kgに対して、SFC0.47mg/kgを使用した。
【0069】
こうして調製した試験薬は、ゾンデを使用し経口投与した。投与期間は、5か月齢から1ヶ月間にわたり、1日あたり1回投与した。その後、後述する行動試験を実施した。なお、投与は行動試験中も継続した。
【0070】
Beam Walking試験による運動機能確認
各群のマウスを細長い板の上(長さ80cm、幅5mm)で歩かせ、この細長い板上で足を滑らせる(スリップ)回数を数えた。
【0071】
図3からわかるとおり、薬剤投与(CGG+ALA)群は、Vehicle(CGG KI)群に比べ、足を滑らせる回数が少なく、ALAにより運動機能が改善されていることが確認された。
【0072】
新規物体認識試験
新規物体認識試験とは、記憶により旧知物体に対する探索行動が新規物体に対するものより低下するというマウスの習性を利用した学習・記憶能力試験である。
【0073】
すなわち、マウスはケージ内に新規物体があれば物体に対する探索行動を行う。物体を認識することにより新規性が低下すれば物体に対する探索行動も低下する。2個の物体をケージ内に置き探索行動をさせた後、1個の物体を新規のものに替えて探索行動をさせると、記憶により旧知物体に対する探索行動が新規物体に対するものより低下していることが観察される。
【0074】
具体的には、物体のないケージに馴化させた後、2個の同じ物体をケージ内で離して置き、マウスをケージに入れて10分間、物体への探索行動をさせる。それぞれの物体への探索行動(臭いを嗅ぐ、前肢で触れるなど)の時間を測定し、飼育ケージへ戻す。24時間後に一つの物体を形状の異なる新規物体にして同様にマウスの探索行動の時間を測定する。両物体への探索時間の合計に対する新規物体に対する探索時間の割合を学習・記憶の指標とする。学習・記憶が障害されていれば、0に近くなり、物体に対する記憶があれば、より大きな値となる。
【0075】
図4からわかるとおり、CGG KI群では探索行動時間の割合がWT群のそれに比べて小さい値を示した。これに対して、CGG+ALA群では探索行動時間の割合がCGG KI群に比して大きい値を示すことが確認された。すなわち、ALAによる学習・記憶機能の改善が確認された。
【0076】
Y字迷路試験
マウスの自発的交替行動を試験する当業者に周知の試験である。具体的に、探索行動で自発的にY字迷路の異なるアームに入るマウスの性質を利用した試験方法であり、マウスをY字迷路中で自由に行動させ、既に入ったアームについての記憶を評価することで、マウスの注意力、空間記憶を評価するものである。
【0077】
具体的には、3本のarmをすべて同じ大きさにしてarm間の角度を120度としたY迷路がマウスの自発的交替行動の試験に用いられる。自発的交替行動はマウスが探索行動で自発的に異なるarmに入る性質を利用した試験方法で、既に入ったarmを記憶していることにより可能となる行動である。
測定では、8分間マウスが3本のarmに入る順序を記録する。すべてのarmに侵入した回数と続けて3回異なるarmに入った回数(最少回数3回ですべてのarmに侵入した回数:交替行動数)を数え、交替行動数をarmの総侵入回数引く2で割った値を交替行動率として評価する。
【0078】
図5及び図6からわかるとおり、CGG+ALA群の交替行動数は、他の群と差がなく、加えてCGG+ALA群の正解率がCGG KI群よりも回復し、さらにはWT群の水準まで回復していることが確認された。すなわち、ALAによる学習・記憶機能の改善が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、染色体上のTRの存在に起因する神経障害を有する対象の予防または治療において使用するための医薬組成物が提供される。本発明の医薬組成物は、TR病の中核症状に対して効果的に使用することができると考えられるため、TR病を根本的に治療する手段として期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6