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特許7104047滑りが低減されたポリウレタンガラス接合接着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】滑りが低減されたポリウレタンガラス接合接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20220712BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220712BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C09J175/06
C09J11/04
C09J11/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019536104
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2017067788
(87)【国際公開番号】W WO2018132242
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】62/444,928
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー・ゴロンボウスキ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ルッツ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・シュマドロホ
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0046848(US,A1)
【文献】特表2010-518198(JP,A)
【文献】特開2016-194053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)白色顔料、カーボンブラック、焼成カオリン、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、コーティングされていないカオリン、又はこれらの混合物のうちの少なくとも1種;B)1種以上のガラス接着促進剤;C)1種以上の触媒;D)可塑剤;E)プレポリマー;F)イソシアネート;及びG)溶媒又は熱安定剤を含有する接着剤組成物であって、
前記イソシアネートが、約21.8%のNCO含有率を有するヘキサメチレンジイソシアネート三量体、及びポリマーMDIを含有する、接着剤組成物
【請求項2】
前記プレポリマーが、ポリエステルポリオールとジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとの反応生成物を含有する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記組成物の総重量を基準として0.5~2.5重量%の、ポリエステルポリオールとジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとの反応生成物を含有する、請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記触媒が2,2’-ジモルホリノジエチルエーテルを含む、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記組成物の総重量を基準として0.2~0.6重量%の、2,2’-ジモルホリノジエチルエーテルを含有する、請求項4に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記組成物の総重量を基準として0.1~3重量%の、約21.8%のNCO含有率を有するヘキサメチレンジイソシアネート三量体を含有する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
成分(E)成分(A)との間の比率が1.2~3.55である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車関連用途、特にガラス接合用途において特有の特性を有する新規なプライマー不要の接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なガラス接合接着剤キットは、プライマーと湿気硬化型ウレタン接着剤とを含む。ガラス接合プライマーは、典型的には、有機溶媒、有機シラン中間体、イソシアネートプレポリマー、フィルム形成剤、カーボンブラック、触媒及び安定剤を含有する。プライマーは、湿気硬化型ウレタン接着剤との良好な接合を可能にするためにガラスの表面を改質する。プライマー中のイソシアネートは、湿気硬化を受けて架橋熱硬化性ネットワークを生成し、これは、プライマーを周囲条件下で十分な耐久性を有するのに十分に堅牢にする。しかしながら、プライマーは、高温多湿条件を維持するのに十分な架橋密度を有さなければならない。一般的な単純化及びプロセスの合理化の一環として、多くの自動車製造業者は別個のプライマー組成物を使用する表面前処理工程をなくそうと努めてきた。この方法では、接着剤は、別個のプライマーの塗布工程なしにガラス又は塗料上に直接塗布されることが意図されている。そのような簡素化された塗布のための重要な要件は、長期間の耐久性のある接合部を形成するための、塗料、e-コート、及びガラスへの接着剤の接着力の発現である。接着剤の変形又は基材界面での接着剤のずれによって接合したガラスが元の位置から滑らないことが重要である。滑りは主にガラスの平らな表面及び表面の粗さが小さい塗料で生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、プライマーによる前処理なしで、及び塗布後にほとんど又は全く滑らずにガラス表面に塗布することができるガラス接合接着剤組成物を得ることが望まれる。そのような接着剤は、追加の加熱工程なしで塗布できることが更に望ましい。つまり、低温又は室温の間に流動性を有する接着剤を得ることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、接着剤中へのイソシアネートの配合量及び2,2’-ジモルホリノジエチルエーテル(「DMDEE」)の配合量を慎重に選択することによって、接着剤を低温又は室温で塗布することを可能にし、平らなガラスに塗布された場合に最小の滑りを示し、優れた表面粘着性を与える、特有の接着剤組成物を提供する。
【0005】
本発明の典型的な接着剤組成物は、A)白色顔料、カーボンブラック、焼成カオリン、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、コーティングされていないカオリン、又はこれらの混合物のうちの1種であってもよいフィラー(これにはA-IとA-IIの2種のフィラーの両方が含まれる);B)ガラス接着促進剤;C)1種以上の触媒;D)可塑剤;E)プレポリマー(E-IプレポリマーとE-IIプレポリマーの両方を含む);F)イソシアネート;及びG)溶媒又は熱安定剤を含有する。改善された滑り特性(≦3.55%)を得るためには、プレポリマーとフィラーとの間の比率を1.2~3.55、好ましくは1.6~3.0、より好ましくは2.2~2.9の範囲に保つことが重要である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
様々なフィラーを様々な量で使用することができる。A-Iフィラーを含有する接着剤組成物については、典型的な実施形態では、接着剤組成物は、接着剤組成物の総重量を基準として、10~26重量%、好ましくは16~25重量%、より好ましくは18~23重量%の、Orion Carbonsから市販されているPrintexTM30などのカーボンブラックを含み得る。A-IIフィラーの場合、接着剤組成物は典型的には2~23重量%、好ましくは5~18重量%、より好ましくは13~15重量%の、Imerysから市販されているPoleStarTM200Rなどの焼成カオリン;並びに13~17重量%、好ましくは2~23重量%、より好ましくは5~13重量%の、Imerysから市販されているCarbitalTM120などのコーティングされていないカオリンを含むであろう。
【0007】
Momentiveから市販されているSilquestTMA187、A189、及びA1170などのガラス接着促進剤(「成分B」)については、2.5重量%未満、好ましくは1.6重量%未満、より好ましくは1.4重量%未満で使用するべきであり、これらは全て接着剤組成物の総重量基準である。
【0008】
成分Cについては、本発明の接着剤組成物は好ましくは、0.1~1.6重量%、好ましくは0.4~1.2重量%、より好ましくは0.6~1.1重量%の、The Dow Chemical Companyから市販されているFormrez UL28(可塑剤DINP中の2.4%溶液として)などのジメチルスズジラウレート、及び、0.2~0.6重量%、好ましくは0.3~0.4重量%、より好ましくは0.35~0.45重量%のDMDEEを含有し、これらは全て接着剤組成物の総重量基準である。任意選択的には、皮張り時間を制御するためにアミン触媒も追加的に使用されてもよい。
【0009】
成分Dについては、本発明の接着剤組成物は好ましくは、0.1~50重量%、好ましくは10~40重量%、より好ましくは15~35重量%の、Evonikから市販されているVestinolTMなどのジイソノニルフタレートを含有する。
【0010】
成分E-Iについては、低温又は室温で接着剤組成物の流動性を維持するために、接着剤組成物中のプレポリマーの量を低く保つことが重要である。したがって、本発明の接着剤組成物は好ましくは、0.5~2.5重量%、好ましくは0.8~1.8重量%、より好ましくは1.0~1.5重量%の、ポリエステルポリオールとジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(「MDI」)との反応生成物(プレポリマーBなど)を含有する。
【0011】
プレポリマーBは以下の方法で調製される:可塑剤(分岐可塑剤)46.7g、The Dow Chemical Companyから商品名IsonateTMM125Uとして市販されているイソシアネート(ジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート)30.15gを、Evonikから商品名DYNACOLTM7381として市販されているポリエステルポリオール190.0gと混合することによってポリエーテルポリウレタンプレポリマーを調製した。その後、混合物全体を8時間撹拌した。
【0012】
上述したE-Iプレポリマーに加えて、プレポリマーA(成分E-II)のような別のMDI/PPO(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート/ポリプロピレンオキシドポリオール)をベースとするプレポリマーも接着剤組成物中に含まれていてもよい。組成物は好ましくは、55~60重量%、好ましくは55.2~57重量%、より好ましくは55.5~56重量%の、そのようなMDI/PPOをベースとするプレポリマーを含有する。全ての重量パーセンテージは接着剤組成物の総重量基準である。
【0013】
プレポリマーAは以下の方法で調製される:商品名VolanolTM2000Lとして市販されている平均分子量が2000g/モルであるポリオキシプロピレンジオール22.3150gを、商品名ArcolTMCP4655として市販されている平均分子量が4650g/molであるポリオキシプロピレントリオール33.9350gと混合することによってポリエーテルポリウレタンプレポリマーを調製した。34.1430gの可塑剤(直鎖可塑剤)を添加した。更に、9.5900gのジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネートを添加した。その後、0.009gのMEK中の0.001gのオルトリン酸を添加した。その後、混合物全体を反応器中で50℃まで加熱し、0.007gのオクタン酸第一スズ及びを添加した。
【0014】
成分Fについては、本発明の接着剤組成物は0.1~3重量%、好ましくは0.3~1.5重量%、より好ましくは0.5~0.8重量%の、CovestroからDesmodur(登録商標)N3300として市販されている、約21.8%のNCO含有率を有するヘキサメチレンジイソシアネート三量体を含有する。全ての重量パーセンテージは接着剤組成物の総重量基準である。
【0015】
成分Gについては、様々な溶媒又は熱安定剤を様々な量で使用することができる。典型的な実施形態では、接着剤組成物は、接着剤組成物の総重量を基準として、0.05~5重量%、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.05~1重量%の、BASFから市販されているマレイン酸ジエチル(DEM)を含有していてもよい。
【0016】
ある好ましい実施形態においては、成分A-IIに対する成分E-IIの比率は、1~3.55%、好ましくは2.5~3.55%、より好ましくは3~3.55%である。
【0017】
以下の非限定的な実施例によって本発明を更に実証することができる。
【実施例
【0018】
本発明の有効性を実証するために、表1に従って合計5つの実施例を調製した。これらのうちの2つは本発明の実施例であり、これらのうちの3つは比較例である。
【0019】
【表1】
【0020】
上の試料は、成分E-II(PPOをベースとするプレポリマーA)を、成分B、C、D、F、Gと混合することによって調製した。カーボンブラック、焼成カオリン、及びヒュームドシリカなどの成分Aのフィラーを添加した。混合物を窒素雰囲気下で更に5分間撹拌した。混合物を60℃に加熱した。
【0021】
成分E-1を60℃で添加し、引き続き真空下で35分間混合した。その後、成分B、C、少量のD(ジイソノニルフタレートなど)、スズ触媒、及びアミン触媒を添加し、混合物を真空下で15分間又は均一なペースト状の黒色混合物(接着剤組成物)が得られるまで撹拌した。
【0022】
24時間後に接着剤をその滑り抵抗について試験した。10mmの滑りが許容限界であり、5mmが良好な滑り抵抗であるとみなされると見込まれる。
【0023】
滑り試験は、垂直に設置されたフロントガラスの滑り抵抗を保証するための実験室試験に基づいて設計されており、以下の工程が含まれる:
・190×90mm(標準サイズ)の下塗りされていないe-コート試験片に、2本の平行なビード(合計約12g;三角形、底辺8mm、高さ14mm(標準サイズ)の材料を塗布し、接着剤の塗布されたビードの正確な重量を確認する。
・材料の塗布温度を23℃に保つ。
・塗布3分後、125×75mm(標準サイズ)の下塗りされていないガラス板を4mmのビード厚に組み立て、30秒間その位置に固定する。
・距離スペーサーを取り外し、アセンブリを垂直位置に回転させて1枚のガラスプレートを固定し、下側のガラス試験片に8Nの総重量でおもりをのせ、1時間半後に滑りを測定する。
・試験中の測定及び材料の全ての詳細を記録する。
【0024】
表2に示されているように、本発明の実施例1はDMDEE中の非常に高いアミン触媒量のために非常に優れた滑り抵抗を示す。また、本発明の実施例2は、アミン触媒含有量がわずかに少ないため、良好ではあるものの閾値(10MM)未満である、より大きい滑りをもたらす。比較例3及び4は、皮張り形成と相関する少量のアミン触媒のため大きい滑りを示した。比較例5は、より多い量のNCO含有量(IsonateM600+Desmodur(登録商標)N3300)に起因して閾値よりもわずかに大きい滑りを示す。NCO含有量が多いほど、硬化速度/皮張り時間と相関するアミン触媒/NCO比が減少する。それが滑りの減少が少ない理由であると考えた。
【0025】
【表2】
【0026】
可能な限り最良の表面粘着性及び最良の滑りの低減をもたらすために、アミン触媒含有量、プレポリマー対白色顔料の比を特に変動させた。特に、速い皮張り時間に必要とされるアミン触媒は、ガラス表面上での小さい滑り/大きい滑り抵抗性を得るためにより多い白色顔料の使用と組み合わせて必要とされる。
【0027】
比較例3~5は現在の技術水準を反映している。これらのいずれも、非常に低い粘度、非常に高いG’(すなわち1×10(6)Pa*s)、又は非常に多量の表面接着促進剤を有しておらず、これらの要素の組み合わせは非常に滑らかなガラス表面から滑り落ちる接着剤をもたらした。この滑り低減性能は、セラミックフリットガラスコーティングが2つのガラス層の間にあり、そのための接着剤をガラス表面上に直接配置しなければならないガラス接着のためのプライマーなしの接着剤にとって特に重要である。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
A)白色顔料、カーボンブラック、焼成カオリン、ヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、コーティングされていないカオリン、又はこれらの混合物のうちの少なくとも1種;B)1種以上のガラス接着促進剤;C)1種以上の触媒;D)可塑剤;E)プレポリマー;F)イソシアネート;及びG)溶媒又は熱安定剤を含有する接着剤組成物。
項2.
前記プレポリマーが、ポリエステルポリオールとジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとの反応生成物を含有する、項1に記載の接着剤組成物。
項3.
前記組成物の総重量を基準として0.5~2.5重量%の、ポリエステルポリオールとジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネートとの反応生成物を含有する、項2に記載の接着剤組成物。
項4.
前記触媒が2,2’-ジモルホリノジエチルエーテルを含む、項1に記載の接着剤組成物。
項5.
前記組成物の総重量を基準として0.2~0.6重量%の、2,2’-ジモルホリノジエチルエーテルを含有する、項4に記載の接着剤組成物。
項6.
前記組成物の総重量を基準として0.1~3重量%の、約21.8%のNCO含有率を有するヘキサメチレンジイソシアネート三量体を含有する、項1に記載の接着剤組成物。
項7.
プレポリマーとフィラーとの間の比率が1.2~3.55である、項1に記載の接着剤組成物。
項8.
少なくとも1種の脂肪族イソシアネートが、約21.8%のNCO含有率を有するヘキサメチレンジイソシアネート三量体である、項6に記載の接着剤組成物。
項9.
少なくとも1種の芳香族イソシアネートがポリマーMDIである、項6に記載の接着剤組成物。