(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】粉末含有複合非生分解性樹脂組成物、抗菌性食器及び抗菌包装資材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220712BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220712BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20220712BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08K3/22
C08K3/26
C08L97/00
(21)【出願番号】P 2019550102
(86)(22)【出願日】2017-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2017039794
(87)【国際公開番号】W WO2019087363
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】520151574
【氏名又は名称】リッキークリスチャンジョンサー
(73)【特許権者】
【識別番号】520150670
【氏名又は名称】合同会社MITSUYA
(74)【代理人】
【識別番号】100166589
【氏名又は名称】植村 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】野川幸夫
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-237764(JP,A)
【文献】特開2012-111923(JP,A)
【文献】特開2008-106171(JP,A)
【文献】特開2006-219567(JP,A)
【文献】特開平11-048436(JP,A)
【文献】特開平09-208742(JP,A)
【文献】特開平09-208741(JP,A)
【文献】特開平09-194628(JP,A)
【文献】特開平09-194627(JP,A)
【文献】特開平09-059424(JP,A)
【文献】特開平08-134361(JP,A)
【文献】特開2018-062579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
A47G 19/00-19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵殻もしくは貝殻(海産)または陸生貝殻を高温焼成し加水を施した水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末と、
卵殻もしくは貝殻(海産)または陸生貝殻の炭酸カルシウム微粉末と、
生分解性樹脂組成物と
を含む粉末含有複合非生分解性樹脂組成物であって、
前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して3.0質量%~7.0質量%であり、
前記炭酸カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して45.0質量%~52.0質量%であることを特徴とする
粉末含有複合非生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
卵殻もしくは貝殻(海産)または陸生貝殻を高温焼成し加水を施した水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末と、
木片または紙繊維質素材微粉末と、
生分解性樹脂組成物と
を含む粉末含有複合非生分解性樹脂組成物であって、
前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して3.0質量%~7.0質量%であり、
前記繊維質素材微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して45.0質量%~52.0質量%であることを特徴とする
粉末含有複合非生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
卵殻もしくは貝殻(海産)または陸生貝殻を高温焼成し加水を施した水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末と、
農作物非食用部であるも
み殻の繊維質素材微粉末と、
生分解性樹脂組成物と
を含む粉末含有複合非生分解性樹脂組成物であって、
前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して3.0質量%~7.0質量%であり、
前記繊維質素材微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して45.0質量%~52.0質量%であることを特徴とする
粉末含有複合非生分解性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤と各種のバイオマスを微小粉体に施し、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂または、生分解性樹脂組成物に混練含有させ、多機能性を持たせた粉末含有複合非生分解性樹脂組成物並びに抗菌性食器及び抗菌包装資材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、私たちを取り巻く日用品等においては、石油由来の化学合成樹脂による製品が大半を占めている。またその生産量及び廃棄量の急激な増大が大きな社会問題になっている。
そのほとんどの樹脂成型品は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂により構成されており、それらの廃棄時における焼却処理や埋立て処理が地球温暖化や土壌汚染の原因にもなっている。
【0003】
人々の環境に対しての意識の高まりや、リサイクル法などによる処理方法の高度化から、業者や消費者の問題意識も高まっている。そのため、可燃物としての廃棄処理が容易な紙素材、木素材等への関心が集中している。また、その素材に銀粉末等を含有させ抗菌性能を有した物も製造されているが、コスト高や耐水性、耐熱性、耐久性などが十分ではない。
【0004】
そのため、可燃物としての廃棄処理が容易であり、かつ素材に抗菌性、消臭性等の多機能性を有した低コストの粉末含有樹脂組成物による成形品が注目を集め、その研究開発が活発化している(特許文献1、2を参照のこと)。
【0005】
また、その原料となる樹脂組成物や複合材材料として、バイオマス「生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で一般的には、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を有効に利用することにより石油等の化石資源への依存を低減し、現代社会が直面する環境問題の改善や環境型社会の形成に貢献する非生分解性樹脂は次世代の樹脂として注目を集めている。
【0006】
【文献】特開2009-28523号公報
【文献】特開2009-29121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、原料費が安価な多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物を提供し、且つ配合した樹脂等の様々な特性を低下させることのない粉末含有非生分解性樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の第一の観点による粉末含有複合非生分解性樹脂組成物は、卵殻または貝殻(海産)もしくは、陸生貝殻を高温焼成した酸化カルシウム微粉末又はその酸化カルシウムに加水を施した水酸化カルシウム微粉末又を食品廃棄バイオマス(卵殻または貝殻(海産)もしくは、陸生貝殻の炭酸カルシウム微粉末)と、生分解性樹脂組成物とを含む粉末含有複合非生分解性樹脂組成物であって、前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して0.5質量%~10.0質量%であり、前記酸化カルシウム微粉末を用いる場合の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して4.0質量%以下とし、前記炭酸カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して5.0質量%~60.0質量%であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第二の観点による粉末含有複合非生分解性樹脂組成物は、卵殻または貝殻(海産)もしくは陸生貝殻を高温焼成した酸化カルシウム微粉末又はその酸化カルシウムに加水を施した水酸化カルシウム微粉末と、バイオマス(廃棄紙、廃棄製材木、林地残材、農作物非食用部等のセルロース質素材微粉末と、生分解性樹脂組成物を含む粉末含有樹脂組成物であって、前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して0.5質量%~10.0質量%であり、前記酸化カルシウム微粉末を用いる場合の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して4.0質量%以下とし、前記バイオマスセルロース質素材微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して5.0質量%~60.0質量%であることを特徴とる。
【0010】
また、本発明の第三の観点による粉末含有複合非生分解性樹脂組成物は、卵殻または貝殻(海産)もしくは陸生貝殻を高温焼成した酸化カルシウム微粉末又はその酸化カルシウムに加水を施した水酸化カルシウム微粉末と、食品廃棄バイオマス(卵殻または貝殻(海産)もしくは陸生貝殻の炭酸カルシウム微粉末)と、バイオマス(廃棄紙、廃棄製材木、林地残材、農作物非食用部等のセルロース質素材微粉末と、生分解性樹脂組成物とを含む粉末含有複合非生分解性樹脂組成物であって、前記水酸化カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して0.5質量%~10.0質量%であり、前記酸化カルシウム微粉末を用いる場合の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して4.0質量%以下とし、前記炭酸カルシウム微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して5.0質量%~60.0質量%であり、前記セルロース質素材微粉末の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して5.0質量%~60.0質量%であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第四の観点による抗菌・消臭性加工製品は、前記第一ないし第三の観点に記載された粉末含有複合非分解性樹脂組成物を用いた日用品並びに抗菌性箸、抗菌性スプーン、抗菌性ナイフ、抗菌性フォーク、抗菌性皿、抗菌性トレー、抗菌性カップ等の抗
菌性食器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による粉末含有複合非生分解性樹脂組成物においては、前述の構成成分によって次に列挙する効果が得られる。
(1)石油由来の樹脂製品と比較して可燃物として焼却処理時の排出CO2を低減が可能である。
(2)抗菌・消臭効果を目的とした酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを混合しているが、これは卵殻や貝殻(海産)陸生貝殻などの生物由来の物であり、人体に対してアレルギーや副作用などを生じさせるおそれがない。また、殺菌力も極めて高く、銀系抗菌剤や光触媒を用いた従来の抗菌剤にも勝るとも劣らない抗菌・消臭効果を発揮することができる。
【0013】
(3)消臭効果も高く、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤は生分解性樹脂母材に混合が可能である。因みに、生分解性樹脂母材は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT BASF)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリ(3‐ヒドロキシブチレート―コ―3―ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)のいずれかを用いる。
(4)従来、廃棄処分とされていた木片や紙などの再利用に役立ち、バイオマスとして社会における資源リサイクルに貢献することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に用いられる水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末の抗菌効果の試験結果を示す図表である。
【
図2】本発明に基づく多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の抗菌性試験結果を示す図表である。
【
図3】本発明に基づく多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の消臭性試験を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態である実施例について、本願の明細書に添付した各図面を参照しつつ以下に説明を行う。
【0016】
(1)酸化カルシウム又は水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末の生成
本発明に基づく酸化カルシウム又水酸化カルシウムは、その主原料として生物由来である卵殻や貝殻(海産)もしくは陸生貝殻等の炭酸カルシウムを使用する。それらの主原料から本発明において使用される抗菌・防腐・消臭性能が高い水酸化カルシウム微粉末の生成方法の説明を行う。
【0017】
(1-1)主原料として貝殻(海産)を使用する場合
本発明に用いられる酸化カルシウム微粉末は、生物由来の炭酸カルシウムを高温焼成したカルシウムで水酸化カルシウム微粉末は前記酸化カルシウムに、加水を施しこれを所定の微粉砕方法によって微細粉末化したものである。
【0018】
ここで生物由来の炭酸カルシウムとしては、天然或いは養殖を問わず、例えばホタテの貝殻、ハマグリ貝殻、アサリ貝殻、ホッキ貝殻等の二枚貝の貝殻を利用することができるが、その他の珊瑚などを用いてもよい。但し、貝殻の組成分が均一であること、並びに供給量が極めて安定していることなどの点に鑑みれば、養殖用のホタテの貝殻を用いることが最も望ましい。
【0019】
生物由来の炭酸カルシウムを用いて焼成し生成された酸化カルシウムやそれに加水を施した水酸化カルシウムには殺菌力、防腐、消臭等の効果があることは周知の事実である。係る効果を最大限に発揮させるには、その焼成方法並びに粉砕方法が極めて重要な要素となる。すなわち、生物由来の炭酸カルシウムを焼成、粉砕して生成された水酸化カルシウム微粉末のアルカリイオン還元能力は、その焼成方法並びに微粉末化工程によって得られる粉末粒径によって大きく異なる。
【0020】
因みに、水酸化カルシウムではなく、水酸化カルシウム生成前の酸化カルシウムを使用すると、酸化カルシウムはその水和時に発熱を起こす特性を有するので、生分解性樹脂混錬。において膨張加熱を起こし、成型および成型後に樹脂劣化の不具合が生じるため、本発明に酸化カルシウムを使用することはあまり好ましくないが、製造コスト面からあえて使用する場合は、含有率を4.0質量%以下とする。含有率を4.0質量%以下であれば混錬時の発熱量が樹脂成型温度に影響はない。
【0021】
本実施例では、生物由来の炭酸カルシウム(具体的にはホタテ貝殻を用いる)を単に焼成するだけではなく、特殊高温焼成分解炉において摂氏825~1,150度の範囲内において焼成を施し、その焼成時間は1時間以上が望ましい。なお本発明における焼成温度は、825~1,200度程度の範囲内であれば問題はなく、通常では摂氏1,000度程度の設定温度で、約1時間にわたり高温焼成を行うことが望ましい。但し、最適には摂氏1,000度程度の設定温度で、約1時間から2時間までの高温焼成が最も好ましい。
【0022】
このような高温焼成処理は、空気中で行なってもよいが、或いは、窒素や炭酸ガス等の不活性ガスの範囲気内で行うようにしても良い。因みに、係る高温焼成処理を施すことによって、生物由来の炭酸カルシウム中に含まれる炭酸カルシウム以外の有機物などが熱分解により除去されることになる。
【0023】
生物由来の炭酸カルシウムの組成は(CaCO3)であり、これを高温焼成(825度以上で1時間以上)することによって酸化カルシウム(CaO)が得られる。本実施例においては、前記酸化カルシウム(CaO)。またその酸化カルシウムに所定の水和処理を施すことにより変性されて得ることができる。
【0024】
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)は、アルカリイオン還元能力が極めて高く、そのpH(ペーハー)は、12.0~13.8にも及ぶものである。係る強アルカリ(強塩基)性によって、抗菌効果や防腐、消臭効果等の性能が発揮されることになる。
【0025】
本実施例では、高温焼成及びその焼成時間、ならびに水和時の水分添加量、水分添加方法によって上記アルカリ性pH(ペーハー)に大きな相違が生じる。また、粉末の粒径(微細化)によってもアルカリ性pH(ペーハー)に大きな影響あることが確認・実証されている。
【0026】
また、上記において、水和時の水分添加量及び添加方法によって、生物由来の炭酸カルシウムが、焼成によって生成された酸化カルシウム(CaO)から水酸化カルシウム(Ca(OH)2)への変性確率が大きく異なる。本発明においては、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の濃度が極めて重要なポイントになり、アルカリ性pH(ペーハー)に大きな影響あることが確認・実証されている。
【0027】
以上の処理を施すことによって、強アルカリ(強塩基)性pH(ペーハー)は13.8程度までに上昇し、抗菌効果や防腐、消臭効果等が極めて強力に発揮され、しかも、銀系抗菌剤等と比較して極めて低コストで生成することができる。
【0028】
また、粉砕工程において、粒子の微細化は粉砕された微粒子の粒径が5μm以下になると粉砕中に微粒子同士の再結合が頻繁に発生し、微粒子の粒径が不揃いとなり粒子径の均一化が図れない等不具合が生ずる。そのため本実施例では、高温焼成・水和後の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の粉砕処理において、微粒子同士の再結合を防止すべく、シリカ微粉末(SiO2)を水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の総質量に対して0.1~1.0質量%(好適には、0.3~0.6質量%)配合する。これによって、粉砕処理後の粒子の平均粒径を0.3~3.0μmに均一化することができる。
【0029】
前述の工程による粒径の均一化工程を特に望まない場合は、高温焼成・水和後の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の粉砕処理において、微粒子同士の再結合を防止すべく、同粉体の含水率を2,000ppm~3,500ppmの範囲になるよう強制乾燥機にて3~4時間乾燥工程を再度行うことが好ましく、最適には同粉体の含水率が、2,800ppmが望ましい。
【0030】
本実施例においては、上記の処理によって生成された水酸化カルシウムを、特殊微粉砕機(例えば、エアジェットミル装置)にセットして、平均粒径が0.5~3.0μm程度の微細粉末を生成する。
【0031】
(1-2)主原料として卵殻を使用する場合
主原料として卵殻を用いた場合の水酸化カルシウム粉末の製造プロセスも、上記に示した貝殻(海産)を主原料として用いた場合の製造プロセスとほぼ同様である。但し、卵殻の場合は前述の貝殻(海産)の場合と異なり、殻の厚みが非常に薄く質量も小さいため、焼成温度を低く設定し、また焼成時間も短く設定する。本実施例において主原料として卵殻を用いた場合は、焼成温度を摂氏825~950度程度にし、焼成時間は5~25分間程度(好適には6~8分間程度)とすることが望ましい。
【0032】
また、卵殻の場合は貝殻(海産)と異なり原材料に含まれる不純物が少ないため、前述の貝殻の場合に比較して、ほぼ純粋な水酸化カルシウムを得ることが可能となる。なお、焼成後における微粉砕工程や、粉砕粒径などの各種のパラメータに関しては、前述した貝殻の場合の製造プロセスと同様であるが、卵殻内側膜は、たんぱく質のためこの卵殻内側膜を焼成前に取り除き卵殻のみの状態での焼成が望ましい。
【0033】
(1-3)主原料として陸生貝を使用する場合
ここで生物由来の炭酸カルシウムとしては、天然或いは養殖を問わず、分類は腹足網有肺亜網柄眼目科の食用エスカルゴ(Escargot)(ブルゴーニュ種、トルコ種、プティ・グリ種)であり、養殖エスカルゴ殻を用いる。
【0034】
陸生貝殻を用いた水酸化カルシウム粉末の製造プロセスも、上記に示した貝殻(海産)を主原料として用いた場合の製造プロセスとほぼ同様である。但し、陸生貝殻の場合は前述の貝殻(海産)の場合と異なり、殻の厚みが非常に薄く質量も小さいため、焼成温度を低く設定し、また焼成時間も短く設定する。本実施例において主原料として陸生貝殻を用いた場合は、焼成温度を摂氏825~950度程度にし、焼成時間は5~25分間程度(好適には6~8分間程度)とすることが望ましい。
【0035】
(2)炭酸カルシウム微粉末の生成
本発明に基づく炭酸カルシウムは、その主原料として生物由来である卵殻や貝殻(海産)または、陸生貝殻等の炭酸カルシウムである。以下に、その炭酸カルシウム微粉末の生成方法の説明を行う。
(2-1)主原料として貝殻(海産)を使用する場合
本発明に用いられる炭酸カルシウム微粉末は、生物由来の炭酸カルシウムを所定の微粉砕方法によって微細粉末化したものである。
【0036】
ここで生物由来の炭酸カルシウムとしては、天然或いは養殖を問わず、例えばホタテの貝殻、ハマグリ貝殻、アサリ貝殻、ホッキ貝殻等の二枚貝との貝殻を利用することができるが、その他の珊瑚などを用いてもよい。但し、貝殻の組成物が均一であること、並びに供給量が極めて安定していることなどの点に鑑みれば、バイオマスである養殖用のホタテの貝殻を用いることが好ましい。
【0037】
生物由来の炭酸カルシウムの組成は(CaCO3)であり、本発明に用いられる炭酸カルシウム微粉末は、これをミル粉砕装置等により粒径を10~80μm程度に粉砕することによって得ることができる。
【0038】
(2-2)主原料として卵殻を使用する場合
本発明に用いられる炭酸カルシウム微粉末は、生物由来の炭酸カルシウムを所定の微粉砕方法によって微細粉末化したものである。
【0039】
主原料として卵殻を用いた場合の炭酸カルシウム粉末の製造プロセスも、上記に示した貝殻を主原料として用いた場合の微粉砕工程や、粉砕粒径などの各種のパラメータに関しても、上記した貝殻の場合の製造プロセスと同様であるが、卵殻内側膜を取り除き卵殻のみの状態で上記工程を行うのが望ましい。
【0040】
(2-3)主原料として陸生貝殻を使用する場合
主原料として陸生貝殻を用いた場合の炭酸カルシウム粉末の製造プロセスも、上記に示した貝殻を主原料として用いた場合の微粉砕工程や、粉砕粒径などの各種のパラメータに関しても、上記した貝殻の場合の製造プロセスと同様であるが、主原料である卵殻、貝殻(海産)陸生貝殻等に付着している微生物や雑菌、汚れ等の除去を行う。また、その微生物雑菌除去に本発明の水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末水溶液を用いる。その水溶液濃度は2%で約10分間浸透を行うのが望ましい。
【0041】
(3)木片(竹片を含む)及び紙(パルプ)等のセルロース質素材微粉末の生成
本発明に用いられるセルロース質素材微粉末は、主原料に特定性を持たず安全・安心である物質であればその使用が可能である。ここでは、木片、及び紙(パルプ)微粉末の生成方法の説明を行う。
【0042】
(3-1)主原料として木片(竹片を含む)を使用する場合
本発明に用いられるセルロース質素材微粉末において、木片を使用する場合は木片チップの乾燥工程が重要になる。木片の含水率は、一般に極めて高く乾燥材を除いては80%を超えるものがほとんどである。含水率が高いままの木片チップ等を用いての微粉砕化は困難であり、粉砕された木片粉をそのまま樹脂へ混錬すると、樹脂の物性を低下させる等の不具合を生ずるため強制的な乾燥工程が必要とされる。
【0043】
木片の乾燥は、強制的な乾燥機において含水率を15~35%まで低下させるべく強制乾燥を行う。因みに、好適な含水率は15~25%である。木材の樹種により異なるが、約30%以下が木片の繊維飽和点であることから含水率が30%以下のものを使用する。因みに、木片は繊維飽和点に達すると力学的性能(縦圧縮・横圧縮・硬さ縦引張・横引張・曲げ・せん断)が著しく向上する。
【0044】
木片の粉砕においては、上記乾燥工程を経た木片をミル粉砕装置等により、粒径80~100μm程度に粉砕することによって、木片を主原料とした繊維質素材微粉末を得ることができる。
【0045】
(3-2)主原料として紙片(パルプ)を使用する場合
本発明に用いられる繊維質素材微粉末として、紙片(パルプ)を使用する場合、紙片の乾燥工程は木片と比較して少なく、その含水率は保存状態により異なるが、通常で保存の場合は含水率が8~20%である。この場合、やはり強制的に乾燥機において含水率を8~10%まで乾燥を行う。粉砕においては、上記乾燥工程を得た紙片をミル粉砕装置等により、粒径を80~100μmに粉砕することによって繊維質素材微粉末を得ることができる。
【0046】
(4)農作物非食用部等のセルロース質素材微粉末の生成
本発明に用いられるセルロース質素材微粉末は、主原料にバイオマスである農作物非食用部の使用が可能である。ここでは、もみ殻微粉末の生成方法の説明を行う。
【0047】
本発明に用いられるセルロース質素材微粉末として、バイオマスである農作物非食用部であるもみ殻を使用する場合の乾燥工程であるが、農作物非食用部のもみ殻は木片と比較して含水率が少なく、その含水率は保存状態により異なるが、通常で保存の場合は含水率が8.5~13.5%である。この場合、やはり含水率の安定化を図るために、強制的に乾燥機において含水率を8~10%まで乾燥を行う。粉砕においては、上記乾燥工程を得た農作物非食用部等のもみ殻をミル粉砕装置等により、粒径を80~100μmに粉砕することによって農作物非食用部のもみ殻セルロース質素材微粉末を得ることができる。
【0048】
(5)本発明に基づく粉末含有複合非分解性樹脂組成物
上記(1)の製造プロセスで得られた水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末と、(2)の製造プロセスで得られた炭酸カルシウム微粉末、あるいは(3)(4)の製造プロセスで得られた木片(竹片を含む)及び紙(パルプ)、農作物非食用部のもみ殻等のセルロース質素材微末を樹脂に混合することにより、抗菌性を有し、なおかつ樹脂の配合割合を減らし(樹脂を減少させた分は、(2)(3)(4)の製造プロセスで得られた炭酸カルシウム微粉末や、木片(竹片を含む)及び紙(パルプ)等のセルロース質素材微粉末で補う。)、製造コストを減少させた粉末含有複合非分解性樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
本実施例においては、何れの原料をベースとした場合であっても、水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末の含有比率は、粉末含有樹脂組成物の総質量に対して0.5質量%~10.0質量%の範囲内に設定するが、更に好適な含有比率は、粉末含有樹脂組成物の総質量に対して3質量%~8.0質量%が最も望ましく、酸化カルシウム微粉末を用いる場合の含有量は、粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の総質量に対して4.0質量%以下とする。
【0050】
また、他の混合物である微粉末は(2)の製造プロセスで得られた炭酸カルシウム微粉末、或いは(3)の製造プロセスで得られた木片及び紙(パルプ)等の繊維質素材微粉末又は、(4)の製造プロセスで得られた農作物非食用部のもみ殻セルロース質素材微粉末の一方、或いはその両方を含むものであっても良い。なお、各微粉末の含有比率は、粉末含有複合非分解性樹脂組成物の総質量に対して5.0質量%~60.0質量%の範囲内に設定することが好ましい。更に好適な含有比率は、粉末含有複合非分解性樹脂組成物の総質量に対して45.0質量%~52.0質量%が最も望ましい。樹脂において特にPP(ポリプロピレン)は耐衝撃性が低いが炭酸カルシウムを添加することにより耐衝撃性が高くなる論文もある。しかし、(2)、(3)、(4)の含有比率が60.0質量%を超えると混合する樹脂組成物の物性強度(引張強度・曲げ強度)を著しく低下させ、化学的性質変化の吸水性を高めてしまう。
【0051】
本実施例で用いられる樹脂組成物としては、バイオプラスチックであるポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT BASF)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリ(3‐ヒドロキシブチレート‐コ‐3‐ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)の生分解性樹脂を用いることが可能であり、特に樹脂の選別は問わない。また、樹脂の性質に関しても特に限定するものではなく、各生分解性樹脂の混合樹脂も使用することが可能である。
【0052】
(6)本発明に基づく粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の応用製品
前述のように、本発明に基づく粉末含有複合非生分解性樹脂組成物は、強力な抗菌性・消臭性を有し、かつ人体に対し極めて高い安全性を有しているので、既存樹脂日用品に限らず、箸、スプーン、フォーク、ナイフ、皿、トレー、カップ等の食器として用いることが最適である。
【0053】
例えば、現在、外食産業や仕出し弁当、コンビニ弁当においては、ワンウエイの割り箸が主流となっている。一部には、木製や竹製といった素材によるものも見受けられるが、雑菌消毒処理として危険性の高いケミカル処理がなされている。本発明による多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の応用製品を利用すれば、コストパフォーマンスに優れ、同等の価格帯で安全性が高く、かつ可燃物としても廃棄処理が容易な様々の食器類を提供することができる。
【0054】
また、本発明に基づく粉末含有複合非生分解性樹脂組成物から成る箸は、その物性強度も十分に兼ね備えており、かつ高い抗菌性能も有しているため、外食産業において、現在の樹脂製箸の代わりとしても使用が可能である。
【0055】
(7)本発明に用いられる水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末の抗菌・消臭効果
次に、本発明に基づく生物由来からなる水酸化カルシウムの抗菌・消臭効果の実証例について説明を行う。添付図面の
図1(A)に(1)の製造プロセスで得られた水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末の抗菌効果に関する抗菌性試験(JIS-Z 1902:2015、菌液吸収法、準用)の結果を示す。
【0056】
図1の図表によれば、(1)の製造プロセスで得られた水酸化カルシウムは、黄色ブドウ球菌に対しては、その抗菌活性値が5.7、を示し、大腸菌に対しては、その抗菌活性値が6.1、という極めて高い数値を有することが示されており、その抗菌・防腐効果が有効であると認証されている。
【0057】
また、本発明に基づく多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の細菌類に対する繁殖抑止効果を視認できるデータとして、JIS・Z 2801:2010の抗菌性試験による試験結果を
図2に示す。
【0058】
図2の図表によれば、本発明の製造プロセスで得られた多機能性粉末含有複合非生分解性樹脂組成物は、黄色ブドウ球菌に対しては、その抗菌活性値が>4.7、を示し、大腸菌に対しては、その抗菌活性値が>5.9、という極めて高い数値を有することが示されており、その抗菌効果が有効であると認証されなお、同図表の数値は、一般財団法人「カケンテストセンター」(大阪府)による平成29年2月10日付の試験報告書の記載に基づいている。抗菌活性値とは、抗菌剤の細菌類に対する繁殖抑止効果を表したパラメータであり、一般に、抗菌活性値≧2.0であれば、その抗菌・防腐効果が有効であると認証されている。
【0059】
本発明の製造プロセスで得られた粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の、消臭効果の実証例について説明を行う。添付図面の
図3に消臭効果に関するガス除去性能評価試験の結果を示す。
【0060】
図3の図表によれば、本発明の製造プロセスで得られた粉末含有複合非生分解性樹脂組成物の消臭効果は、イソ吉草酸ガスに対して24時間後のガス濃度減少率が、≧99%を示し、硫化水素ガスに対しては、6時間後のガス濃度減少率が、≧97%と極めて高い減少率を示し、その消臭効果が有効であると認証される。
【0061】
以上に説明したように本発明に基づく粉末含有樹脂組成物は、貝殻(海産)や卵殻、陸生貝殻などの天然生物由来の原料とした酸化カルシウム又は水酸化カルシウムからなる粉末抗菌剤微粉末を用いるので、人体に対しても有害な副作用やアレルギー反応を引き起こすことなく、食品類に対して優れた抗菌・消臭効果が実現できる。また、使用される樹脂組成物の比率も少ないため、製品のコストパフォーマンスが高く、かつ、その廃棄時における燃焼焼却処理においてもCO2排出量が少なく環境に対する配慮がなされている。
【0062】
本実施形態では、生分解性樹脂組成物を使用しているため、化石等由来の従来の樹脂に比べて、環境負荷が少ない。具体的には、環境中に放置することによって分解されていくため除去の手間も不要であるし、焼却又は埋め立て等も不要である。このように、生分解性樹脂にしたことによって、従来に比べて極めて大きな利点がある。
【0063】
なお、本発明の実施形態は、以上に説明した実施例に限定されるものではなく、例えば、各々の実施例を構成する各部位の形状や配置、或いはその素材などは、本発明の趣旨を逸脱することなく、現実の実施形態様に即して適宣変更ができるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上に説明した本発明の構成並びに方法は日用品や食器類の分野に限らず、抗菌・消臭効果を必要とする分野においてその利用が可能である。