(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】レリーフ構造を有するセキュリティ要素及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/324 20140101AFI20220712BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20220712BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20220712BHJP
G03H 1/02 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B42D25/324
B42D25/328
G02B5/32
G03H1/02
(21)【出願番号】P 2019554354
(86)(22)【出願日】2018-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2018000100
(87)【国際公開番号】W WO2018184715
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】102017003281.5
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518041917
【氏名又は名称】ギーゼッケ・ウント・デブリエント・カレンシー・テクノロジー・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Giesecke+Devrient Currency Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Prinzregentenstrasse 159, 81677 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】ロッホビーラー、ハンス
(72)【発明者】
【氏名】フーゼ、クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シェラー、マイク・ルドルフ・ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】アムトール、ファルク
(72)【発明者】
【氏名】ラーム、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】プファイファー、マチアス
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/091858(WO,A1)
【文献】特表2014-500811(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008046128(DE,A1)
【文献】特表2009-511308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/324
B42D 25/328
G02B 5/32
G03H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素であって、レリーフ構造(7、10、12、13、14、16、17)を有し、前記レリーフ構造(7、10、12、13、14、16、17)は、当該セキュリティ要素(S)のモチーフ領域(1、4)を覆って前記モチーフ領域(1、4)に前記モチーフを提供するとともに、当該セキュリティ要素(S)の背景領域(2)を覆って前記背景領域(2)に前記背景を提供する、セキュリティ要素(S)において、
前記背景領域(2)から前記モチーフ領域(1、4)を区切るとともに、前記レリーフ構造によって形成された輪郭
線が提供されており、
前記輪郭
線の前記レリーフ構造(12、14、17)は、一方では前記輪郭
線と前記モチーフ領域(1、4)との間に、他方では前記輪郭
線と前記背景領域(2)との間に明るさ及び/又は色のコントラストが存在するように、前記モチーフ領域(1、4)の前記レリーフ構造(12、13、16a)及び前記背景領域(2)の前記レリーフ構造(7、16)とは異なっている、
ことを特徴とする、セキュリティ要素。
【請求項2】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造(12、14)はサブ波長回折格子を有する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項3】
前記モチーフ領域(1、4)及び前記背景領域(2)はサブ波長回折格子を特に有しない、請求項2に記載のセキュリティ要素。
【請求項4】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造はモスアイ構造(14)を有する、請求項2に記載のセキュリティ要素。
【請求項5】
前記モチーフ領域(1、4)及び前記背景領域(2)はモスアイ構造を特に有しない、請求項4に記載のセキュリティ要素。
【請求項6】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造(12、14)はマイクロキャビティを有する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項7】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造はマイクロミラー構造を有する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項8】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造はホログラム構造を有する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項9】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造は再帰反射構造を有する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項10】
前記輪郭
線の前記レリーフ構造は、金属、高屈折、又は色彩効果生成層複合材で被覆されている、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項11】
前記レリーフ構造は、前記輪郭
線の構造化部を有する前記輪郭
線を形成する、請求項1に記載のセキュリティ要素。
【請求項12】
前記輪郭
線の前記構造化部は、前記輪郭
線の中断部及び/又は、肉眼で検出できない若しくは解像できないマイクロテキスト若しくは情報アイテムを備える、請求項11に記載のセキュリティ要素。
【請求項13】
請求項1に記載のセキュリティ要素を有するセキュリティ文書。
【請求項14】
背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素(S)の製造方法であって、
前記セキュリティ要素(S)のモチーフ領域(1、4)を覆って前記モチーフ領域(1、4)に前記モチーフを提供するとともに、前記セキュリティ要素(S)の背景領域(2)を覆って前記背景領域(2)に前記背景を提供する、レリーフ構造(7、10、12、13、14、16、17)が生成される、製造方法において、
前記背景領域(2)から前記モチーフ領域(1、4)を区切るとともに、前記レリーフ構造によっても形成された輪郭
線が提供され、
前記輪郭
線の前記レリーフ構造(12、14、17)は、一方では前記輪郭
線と前記モチーフ領域との間に、他方では前記輪郭
線と前記背景領域(2)との間に明るさ及び/又は色のコントラストが存在するように、前記モチーフ領域(1、4)の前記レリーフ構造(10、13、16a)及び前記背景領域(2)の前記レリーフ構造(7、16b)とは異なっている、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素に関し、セキュリティ要素はレリーフ構造を有し、レリーフ構造は、セキュリティ要素のモチーフ領域を覆ってモチーフ領域にモチーフを提供するとともに、セキュリティ要素の背景領域を覆って背景領域に背景を提供する。
【0002】
本発明は更に、セキュリティ要素を有するセキュリティ文書に関する。
【0003】
本発明は、最終的に、背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素の製造方法であって、セキュリティ要素のモチーフ領域を覆ってモチーフ領域にモチーフを提供するとともに、セキュリティ要素の背景領域を覆って背景領域に背景を提供する、レリーフ構造が生成される、製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
紙幣のセキュリティ特徴は、特に良好なレベルの知覚性と偽造に対するセキュリティとを実現するように設計された記号、像、又はトゥルーカラー像などのモチーフを含む。そのようなモチーフは、例えば、以下の刊行物から周知である:非特許文献1、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6。
【0005】
しかしながら、そのようなセキュリティ要素を有するモチーフは、不十分な照明条件での知覚性の点において改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/156049 A1号パンフレット
【文献】欧州特許第1434695 B1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2453269 A1号明細書
【文献】国際公開第2013/091858 A9号パンフレット
【文献】米国特許第9188716 B2号明細書
【文献】独国特許出願公開第102014011425 A1号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】H.Lochbihler,“Colored images generated by metallic sub-wavelength gratings”,Opt. Express,Vol.17,pages 12189-12196,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、セキュリティ要素、セキュリティ文書、及び導入部で言及した種類の製造プロセスを知覚性が高まるように改良することである。同時に、簡単な製造を可能とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、請求項1、10及び11に定義される。
【0010】
背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素はレリーフ構造を有し、レリーフ構造は、セキュリティ要素のモチーフ領域を覆ってモチーフ領域にモチーフを提供するとともに、セキュリティ要素の背景領域を覆って背景領域に背景を提供し、これに加えて、輪郭領域が提供され、輪郭領域は背景領域からモチーフ領域を区切るとともに、レリーフ構造によっても形成され、輪郭領域のレリーフ構造は、一方では輪郭領域とモチーフ領域との間に、他方では輪郭領域と背景領域との間に明るさ及び/又は色のコントラストが存在するように、モチーフ領域のレリーフ構造及び背景領域のレリーフ構造とは異なっている。
【0011】
背景上にモチーフを表示する、紙幣、小切手等のセキュリティ文書を製作するためのセキュリティ要素の製造方法では、セキュリティ要素のモチーフ領域を覆ってモチーフ領域にモチーフを提供するとともに、セキュリティ要素の背景領域を覆って背景領域に背景を提供するレリーフ構造が生成され、背景領域からモチーフ領域を区切るとともに、レリーフ構造によっても形成された輪郭領域が提供され、輪郭領域のレリーフ構造は、一方では輪郭領域とモチーフ領域との間に、他方では輪郭領域と背景領域との間に明るさ及び/又は色のコントラストが存在するように、モチーフ領域のレリーフ構造及び背景領域のレリーフ構造とは異なっている。
【0012】
本発明は、モチーフが高コントラストの輪郭によって背景から分界されればモチーフを認識することがより簡単になるという知見に基づく。特に良好なコントラストを実現するために且つ製造性を促進するために、輪郭は、レリーフ構造によっても画定され、一方では輪郭領域とモチーフ領域との間に、他方では輪郭領域と背景領域との間に明るさ及び/又は色のコントラストが存在するように、輪郭領域内のレリーフ構造は、モチーフ領域内のレリーフ構造及び背景領域内のレリーフ構造とは異なる。この方法により、高い色コントラストを有する輪郭の従来の印刷において生じるような位置合わせ要件が回避される。同時に、輪郭は、モチーフ及び背景に対する最大コントラストが実現されるように、すなわち、例えば、明るい輪郭も容易に可能となるように設計することができる。したがって、本発明は、観察者のモチーフの知覚性を大幅に高める。
【0013】
輪郭領域とモチーフ領域と背景領域との間のコントラストは、例えば、レリーフ構造のプロファイルの幾何学的形状を適切に選択することにより実現することができる。レリーフ構造は、通常、例えば、金属若しくは高屈折コーティングで、又は国際公開第2008/080499(A1)号パンフレットから知られるものなど色彩効果を生じる層複合材で被覆されている。モチーフを作成するための異なるレリーフ構造が先行技術から知られている。すなわち、これらのレリーフ構造によって、モチーフ領域と背景領域との間にコントラストを実現することができる。例えば、マイクロミラーを有するレリーフ構造が先行技術から知られている(独国特許出願公開第102010049617(A1)号明細書を参照)。これらのマイクロミラーは画素に配列することができ、そのそれぞれは、同様に配向されたマイクロミラーを有する。また、フレネル構造(欧州特許第1562758(B1)号明細書を参照)を使用することができる又はマイクロミラーと組み合わせることもできる。マイクロミラーについては、1μm~最大100μmのレリーフ高さ及び10μm未満~100μmより下の横寸法が知られている。モチーフを作成するための別の既知のレリーフ構造はレリーフホログラムの形態のホログラム回折格子である。これらは、500nm~2μmの格子周期を有する金属被覆されたレリーフ構造からなり、観察者が一次回折次数のモチーフ又はトゥルーカラー像を知覚するように配列されている。米国特許第9188716(B1)号明細書は、再帰反射構造の形態のレリーフ構造を用いて着色モチーフを作成する。モチーフ又は背景を作成するために、一次元又は二次元サブ波長回折格子もまた、例えば、刊行物、H.Lochbihler,“Colored images generated by metallic sub-wavelength gratings”,Opt. Express,Vol.17,pages 12189-12196,2009、又は国際公開第2012/156049号パンフレットから知られている。異なるプロファイルパラメータを有するレリーフ構造の画素ベースの配列によって、背景上にモチーフを製作するためにも使用することができる、ゼロ次回折次数のトゥルーカラー像を生成することができる。更に、特定のレリーフ構造、例えば、微細構造の連続的な表示によって、像のモーション効果を誘導することが可能である(独国特許出願公開第102010047250(A1)号明細書を参照)。本発明の文脈においては、これら全ての異なる種類のレリーフ構造を使用し、且つ組み合わせて、モチーフ及び背景(すなわち、モチーフ領域及び背景領域内の)を生成することができるとともに、輪郭を生成することができる。当然、各場合において、背景領域及びモチーフ領域及び輪郭に対して異なるレリーフ構造を使用することができる。重要な点は、裸眼で知覚可能な光学コントラストが輪郭領域とモチーフ領域との間に、及び輪郭領域と背景領域との間に存在することである。サブ波長構造の別の例は、いわゆるモスアイ構造である(国際公開第2006/026975(A2)号パンフレット及び欧州特許出願公開第2453269(A1)号明細書を参照)。着色モチーフは、レリーフ構造を色付け又は染色することにより生成することができる。
【0014】
1つの拡張形態では、輪郭領域は、適宜レリーフ構造を設計することにより構造化部を備えることができる。構造化部は、輪郭領域の中断部を意味し得る、及び/又は肉眼で検出されないマイクロテキスト若しくは情報を含み得る。
【0015】
輪郭領域は、また、複合モチーフ内の外形線であってもよい。複合モチーフは複数のモチーフ構成要素からなり、モチーフ構成要素の1つは、輪郭領域が背景領域を区切るように、すなわち、複合モチーフのうちの1つのモチーフ領域を複合モチーフの別のモチーフ領域から区切るように、他に対して光学的に知覚されたときに、背景であると理解される。特定の実施形態では、輪郭領域は、構造化されないことも可能である。
【0016】
本発明を、本発明に必須の特徴も示すことができる例に基づき、及び図を参照して、以下で更に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】輪郭がモチーフを背景に対して区切っている、背景に対して複数のモチーフを有するセキュリティ要素の平面図である。
【
図2】
図1のセキュリティ要素のモチーフ領域、輪郭領域、及び背景領域に対応する3つの領域I、II及びIIIを有するセキュリティ要素Sの概略断面図である。
【
図3】モチーフ領域、背景領域、及び輪郭領域に他のレリーフ構造が使用されている、
図2の図に類似する図である。
【
図4】同じく、モチーフ領域、背景領域、及び輪郭領域に他のレリーフ構造が使用されている、
図2及び
図3の図に類似する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、構造化された背景に対するモチーフとしてハチドリを年号ともに示すセキュリティ要素Sを示す。モチーフ領域1と背景領域2とは、反射して光学コントラストを形成する異なるレリーフ構造により形成されているため、モチーフを裸眼で知覚することができる。モチーフは、細い輪郭によって背景から区切られている。年号もまた、輪郭によって背景から上昇している。輪郭領域3の輪郭外形もレリーフ構造によって作成され、これらの輪郭外形は、モチーフ領域1、4及び背景領域2の両方と対照であるように設計されている。これにより、観察者にとってのモチーフの知覚性が大幅に高まる。モチーフ領域1、4及び背景領域2は、例えば、金属被覆され誘電体に埋設されたレリーフ構造によって形成されている。同じことが輪郭3に当てはまる。異なる領域間のコントラストは、レリーフ構造のプロファイルの幾何学的形状を適切に選択することによって作成される。
【0019】
図2は、例えば、このようなレリーフ構造の概略断面図を示す。ここでは、範囲Iはモチーフ領域1又は4に対応し、領域IIは背景領域2に対応し、領域IIIは、輪郭領域3に対応する。セキュリティ要素Sは基材フィルム5上に形成され、基材フィルム5上にエンボスラッカー層6が適用され、エンボスラッカー層6にレリーフ構造が導入され、その後、金属被覆される。上部ラッカー層8とカバリングフィルム9によってセキュリティ要素Sが完成し、セキュリティ要素Sは、例えば、紙幣の窓領域に広がり得る。
【0020】
ホログラム回折格子7、10の実施形態において、領域I及び領域IIは両方とも、正弦波プロファイルで形成されている。ホログラム回折格子7とホログラム回折格子10とは、それらの設計が、それらにより生成される像の観点において異なる。対照的な輪郭領域3は、領域III内のサブ波長回折格子12により実装される。サブ波長回折格子12は、1次元又は2次元において周期的であり得る。サブ波長回折格子12は、ホログラム回折格子7及びホログラム回折格子10の両方に対してコントラストを作成することで、輪郭として、モチーフ領域1、4により形成されたモチーフを、背景領域2により形成された背景に対して強調する。
【0021】
図3は、領域Iと領域IIとの間にコントラストが存在し、領域IIIと領域I及び領域IIとの間にコントラストが生じる限りは、領域I、II及びIII内のレリーフ構造を広い部分において自由に選択することができることを説明するための更なる実施形態を示す。
図3の実施形態では、背景領域2は異なるように形成されている。一方では、すなわち、いくつかの部分においては、背景領域2はホログラム回折格子7によって形成されており、他方では、すなわち、他の部分においては、平滑面15によって形成されている。モチーフ領域はマイクロミラー配列13によって実装されている。領域III内の輪郭領域には、光吸収モスアイ構造14で満たされている。
【0022】
図4は、輪郭領域が明るい境界部を実装している実施形態を示す。ここでは、領域I及び領域IIは、例えば、独国特許出願公開第102014011425(A1)号明細書から知られるものなどの透過型ホログラム回折格子を有して設計されている。これらの領域I及び領域IIは、ゼロ次回折次数0.O.及び一次回折次数1.O.に加えて、更なる透過効果を有する。すなわち、入射放射Eは、
図2及び
図3の実施形態の場合のように反射放射Rとして反射されるだけでなく透過放射Tとしても一部透過される。これは、透過光モチーフも可能であることを意味する。領域IIIにおいて、これは、金属被覆後に不透明になる従来のホログラム回折格子と組み合わされる。したがって、平面視において、明るい輪郭を生じさせる、背景領域2に対するモチーフ領域1、4の区切りが得られる。
図4の構造は透過型のモチーフも示す。この観察方向において、外形線、すなわち、領域IIIは暗く見え、このモチーフの知覚性を高める。透過におけるこれらのコントラスト変化は、かなり一般的には不透明輪郭によって実装され得る。この目的に適したレリーフ構造は金属被覆され、アスペクト比、すなわち、周期に対する深さの比率が0.4未満のプロファイルを有する。具体的な例は、滑らかな金属被覆表面、マイクロミラーアレイ、マット構造、又は従来のホログラフィック構造等である。透過型構造は、特に、導入部で言及したLochbihler,Opt.Expressの刊行物から、又は国際公開第2012/156049号パンフレットから知られるものであり得る。そのような透過型構造は、透過される光の成分により反射が低減されるため、反射において、低アスペクト比を有する不透明金属構造に比べて一般により暗く見える。したがって、これらの平坦構造は、明るい輪郭として、反射においてモチーフの知覚を大幅に向上させる。
【0023】
図2~
図4の実施形態は、当然単なる一例として、領域I~III内の異なるレリーフ構造の横方向の配列を示す。観察者に対し各領域間の明るさ及び/又は色のコントラストを提供するマイクロミラー配列、フレネル状構造、μレンズ、ホログラフィック回折格子、再帰反射構造、一次元若しくは二次元サブ波長回折格子、又はモスアイ構造、及びマイクロキャビティの他の組み合わせが等しく可能である。
【0024】
輪郭領域内に暗構造を提供することも可能である。そのような構造は、異なる観察方向、好ましくは全ての観察方向から暗く見える。この目的のために、
図3で使用したモスアイ構造14が特に好適である。そのようなモスアイ構造14を生成するための異なる方法が文献から知られている。一例として、上述の国際公開第2006/026975(A2)号パンフレット又は欧州特許第1434695(B1)号明細書を参照されたい。これらの公報は、屈折率勾配層を形成するとともに、良好な吸収を有する蒸発金属ランダム面について記載している。これらの蒸発金属ランダム面の構造深さは、好ましくは、50nmを超え、隣接する上昇部間の平均間隔は500nm未満であるため、名称サブ波長構造。そのようなランダム面は、PMMAなどのプラスチック基材からプラズマエッチングプロセスにより生成することができる。代替的に、周期的に配列されたモスアイ構造も使用することができる。多層、例えばいわゆるカラーシフトコーティングで覆われたモスアイ構造が、高コントラストの暗色を生じさせることも知られている(欧州特許出願公開第2453269(A1)号明細書を参照)。また、500nmを超える平均間隔を有する構造は金属被覆後に高い吸収効果を示すことができる。そのようないわゆるマイクロキャビティは、好ましくは、開口サイズに対する深さの比率が0.5を超え、例えば、六辺形に又は直交し互いに隣り合って配列された半球状凹部を有する。欧州特許第1434695(B1)号明細書は、420nm未満の周期を有する金属被覆された交差格子により形成されたモスアイ構造について開示している。また、光吸収については、例えば、国際公開第2012/156049(A1)号パンフレットに記載されているように、2次元周期のサブ波長回折格子を使用することができる。この回折格子は色フィルタリングにも好適である。回折格子の幾何学的形状パラメータは、最大光吸収が起こり、且つ平均反射が20%未満、好ましくは10%未満であるように選択され得る。
【0025】
背景領域とモチーフ領域と輪郭領域との間の分界は、色フィルタとして機能するそのような構造により実現することができる。これらは必ずしも黒である必要はなく、赤又は青などの他の色にも見えることができる。しかしながら、モチーフの知覚性のためには暗色が有利である。これらの前記金属サブ波長構造は、一部、光の共振吸収により、可視スペクトル範囲内で光吸収の増加を示し、反射の色度をもたらす。可視波長域内の平均吸収がマイクロミラーなどのミラー平滑面のものよりも常に高いため、輪郭領域とモチーフ領域及び/又は背景領域との間の高コントラストが保証される。あるいは、これらの構造は、また、いくつかの方向からは暗く見えなくすることができる。例えば、輪郭領域もまた、全てが同じ配向を有することで同時に1つの角度にのみ明るく照明されるマイクロミラーで満たすことができる。これには、領域IIIは、したがって特定の角度から見たときに(不必要に)明るくなるため、この角度において、特定の条件下で輪郭領域はモチーフと背景との間の分界を生じないという欠点があるものの、しかしながらこの欠点と引き換えに、マイクロミラー以外の他の構造を作製する必要がない、特に、ナノ構造がないため、構造の実装が技術的に非常に簡単である。したがって、背景領域、輪郭領域、及びモチーフ領域のレリーフ構造を、異なる領域間のマイクロミラーの配向のみが変化するマイクロミラーのみによって実装することが可能である。有利なことには、これらの領域内の望ましくない照明の角度は、ほとんど分からないように選択され、例えば、この領域内において、全てのミラーは、照明効果が非常に斜めの視野角でのみ起こるように最大に下方に配向され得る。その代わりに、例えば、マイクロミラーの整列が極めて東に方向付けられた状態で、東西方向の傾斜を選択することができる。
【0026】
明るい輪郭を形成するためには低アスペクト比を有するレリーフ構造が好適である。金属被覆後、そのような構造は透過においてほとんど不透明であり、反射において観察者には明るく見える。この目的のために特に好適なのはマイクロミラー、ホログラフィック回折格子、再帰反射構造、及び平面である。
【0027】
カラーシフトコーティングが使用される場合、レリーフ構造は輪郭領域内のカラーシフト色を変化させ、分界をもたらすことができる。
【0028】
良好な知覚性のために、輪郭領域の平均明るさは、反射において、及び任意選択的に透過においても、モチーフ領域の平均明るさ及び背景領域の平均明るさの50%未満である。あるいは、輪郭領域の平均明るさは、反射において、及び任意選択的に透過においても、モチーフ領域の平均明るさ及び背景領域の平均明るさよりも20%超高い。
【0029】
モチーフ領域及び背景領域においては、マイクロミラー、ホログラフィック回折格子及び/又は鋸歯回折格子が好ましくは使用され、輪郭領域においては、サブ波長構造(特に、色フィルタリング又はモスアイ)、ホログラフィック回折格子及び/又はマット構造が好ましくは使用される。
【0030】
レリーフ構造は、例えば二光子吸収過程で機能するeビームシステム又はレーザ描画システムなどのリソグラフィ法を使用して製造されることが好ましい。あるいは、レリーフ構造は、二段階リソグラフィプロセスで生成することができる。第1の段階においてナノ構造化が実施される。これは、例えば、電子ビームリソグラフィプロセスにより実行される。代替として、レーザビーム干渉法も使用することができる。非周期的モスアイ構造も、ブラズマエッチングによって又は超短レーザパルスでの構造化によって生成することができる。次の工程で、そのような構造の原型又は複製はフォトレジストにより平坦化される。この目的に適した方法は主に、スピンコーティング又はディップコーティングである。その後、フォトリソグラフィ工程においてフォトレジストにレリーフ構造が刻まれ、構造の所望の領域が露光される。このプロセスは、直接露光手順においてレーザライタを用いて実行され得る。その後、得られた原型を、電解的に又は感光性ポリマー(例えば、Ormocere)を使用して複製転写することができる。このようにして製作されたスタンプの表面構造は、その後、ステップアンドリピート方式によってより広い面積上に隣り合わせで複製することができる。表面上に複製されたこの原型の電解刻印によって、それからエンボスシリンダを作製することができる。最後に、構造は、連続的なロールツーロールプロセスでフィルム上にエンボス加工され得る。ここでは、UV硬化性材料でのホットスタンピング又はエンボス加工などのナノインプリント法が好適である。最後に、エンボス加工されたフィルムに金属を気化させる。一般的な蒸発技術は、電子ビーム蒸着、熱蒸発、又はスパッタリングである。金属材料としては、アルミニウム、銀、銅、パラジウム、金、クロム、ニッケル、鉄、コバルト及び/又はタングステン並びにこれらの合金などの金属が使用され得る。蒸着後、構造は、任意選択的に、カバーフィルム9で積層加工され、これにより保護される。単純な金属コーティングの代わりに、レリーフ構造を多層構造で覆うこともできる。この目的のために、特に、半透明金属層と、誘電体間隔層と、その下に位置する金属鏡層とからなる、いわゆるカラーシフトコーティングが使用される。特に好適な誘電体は、SiO2、MgF2、Ta2O5、ZnS、及びポリマーである。更なる代替物は、高屈折率材料を有する誘電体コーティングである。フィルム要素上に金属被覆除去した領域を付加的に必要とする場合、蒸着前に所望の領域にウォッシュカラー(wash color)が印刷され、その後、蒸着後に除去される。あるいは、これらの領域はレーザ金属被覆除去又はウェット化学エッチング法でも製造することができる。
【0031】
更なる実施形態では、(例えば、コードの形態の)モチーフはモーション効果を備える。モチーフ領域1、4は一連のマイクロミラーにより生成されており、パターンが傾けられると明るいビームが上下に移動する独国特許出願公開第102010047250(A1)号明細書から知られるものなどの「ローリングバー(rolling bar)」効果を有する。複数のビームの移動は同じ方向又は反対方向であり得る。そのようなモチーフは、輪郭により見ることが極めて容易になる。なぜなら、観察者は、輪郭がなければ、反射される明るい光の「散乱」のみをおそらくは見るからである。輪郭領域は、観察者が実際の形態をはっきりと見えるようにする。これは、例えば、色フィルタリングサブ波長構造によって、又は暗い外形が望ましければモスアイ構造によって実装され得る。特に有利な変形形態では、マイクロミラーは、色変化コーティング(例えば、シーケンス吸収体と、誘電体と、反射体とを有する3層構造)を備えることができる。特に有利には、輪郭領域内のレリーフ構造はこのコーティングの色の印象を、例えば、適切なサブ波長構造の使用により変化させる。したがって、明るい又は暗い輪郭線を生成することができるだけでなく、特に、モーション効果内の色以外の色を有する輪郭も生成することができる。
【0032】
特に、輪郭領域内にサブ波長構造を使用して生じさせることができる更なる効果は、より高い透過である。強力な透過を有する金属サブ波長回折格子は、平面、ホログラフィック回折格子、又はマイクロミラー構造と明確なコントラストを示す。特に、輪郭領域内にモスアイ構造が使用される場合、輪郭領域は上から見ると暗く見え、横方向から見ると明るく見える(例えば、紙幣の窓に使用される場合)。色変化コーティング(特に、例えば、また、2つの薄い吸収体層、したがって、構造吸収体と、誘電体と、吸収体とを有する)の場合、及び/又は輪郭領域内に色フィルタリングサブ波長構造を使用するとき、平面視と横方向視との間のモーション効果により、輪郭領域の色はモチーフ領域の色と異なってもよい。輪郭領域自体もまた、上方から及び背後から照らされると異なる色を示すことができる。
【符号の説明】
【0033】
1、4 モチーフ領域
2 背景領域
3 輪郭領域
5 基材フィルム
6 エンボスラッカー層
7 ホログラフィック構造
8 カバリング層
9 カバリングフィルム
10 ホログラフィック構造
12 サブ波長回折格子
13 マイクロミラー構造
14 モスアイ構造
15 平滑領域
16 透過型ホログラフィック回折格子
17 不透過型ホログラフィック回折格子
S セキュリティ要素
E 入射放射
R 反射放射
T 透過放射
0.O. ゼロ次
1.O. 一次
I-III 領域