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▶ ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)の特許一覧

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  • 特許-精製過酸化水素水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】精製過酸化水素水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 301/12 20060101AFI20220712BHJP
   C07D 303/04 20060101ALI20220712BHJP
   C01B 15/023 20060101ALI20220712BHJP
   C01B 15/013 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C07D301/12
C07D303/04
C01B15/023 Z
C01B15/013
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020122131
(22)【出願日】2020-07-16
(62)【分割の表示】P 2018148196の分割
【原出願日】2014-10-02
(65)【公開番号】P2020186168
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】13187128.7
(32)【優先日】2013-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】14175503.3
(32)【優先日】2014-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カルリエ, フアン-テラ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルネル, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ベンブルックス, ヘンク
(72)【発明者】
【氏名】フーゲ, リーヴェン
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-512082(JP,A)
【文献】特表2007-515370(JP,A)
【文献】特表2016-531822(JP,A)
【文献】特開2019-006779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 301/00-305/14
C01B 15/00-23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンと過酸化水素との反応によりプロピレンオキシド(1,2-エポキシプロパン)を製造する方法であって、
100ppb未満のAlおよび/またはFeを含有する過酸化水素水溶液を使用し、
過酸化水素は、唯一の抽出溶が水であるAO(自動酸化)プロセスにより得られ
前記過酸化水素水溶液が、100ppb未満のCrを含有する、方法。
【請求項2】
前記過酸化水素水溶液が、1ppbを下回るAlおよび/またはFeを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記過酸化水素水溶液が、1ppbを下回るCrを含有する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年10月2日に出願された欧州出願第13187128.7号および2014年7月13日に出願された欧州出願第14175503.3号の優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、精製過酸化水素水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
過酸化水素は、世界的に生産されている最も重要な無機化学薬品の一つである。その産業用途には、繊維、パルプおよび紙の漂白、有機合成(プロピレンオキシド)、無機化学薬品および洗浄剤の製造、環境ならびに他の用途が含まれる。
【0004】
過酸化水素の合成は、アントラキノンループプロセスまたはAO(自動酸化)プロセスとも呼ばれる、リードル-プフライデラープロセス(Riedl-Pfleiderer process)を使用することによって主として達成される。
【0005】
この周知の循環プロセスは、典型的には少なくとも1種のアルキルアントラヒドロキノンおよび/または少なくとも1種のテトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン(ほとんどの場合、2-アルキルアントラキノン)の対応するアルキルアントラキノンおよび/またはテトラヒドロアルキルアントラキノンへの自動酸化を利用し、これは、過酸化水素の生成をもたらす。
【0006】
AOプロセスの第1の工程は、選択されたキノン(アルキルアントラキノンまたはテトラヒドロアルキルアントラキノン)を対応するヒドロキノン(アルキルアントラヒドロキノンまたはテトラヒドロアルキルアントラキノン)に水素ガスおよび触媒を使用して有機溶媒中で還元することである。次いで、有機溶媒、ヒドロキノンおよびキノン種の混合物(作動溶液、WS)は触媒から分離され、ヒドロキノンは酸素、空気または酸素豊富化空気を使用して酸化され、このようにしてキノンを再生し、それと同時に過酸化水素を形成する。最適の有機溶媒は、典型的には2種の溶媒の混合物であり、一方はキノン誘導体の良溶媒(例えば、芳香族化合物の混合物)であり、他方はヒドロキノン誘導体の良溶媒(例えば、長鎖アルコール)である。次いで、過酸化水素は、典型的には水で抽出され、粗過酸化水素水溶液の形態で回収され、キノンは、水素発生器に戻され、ループを完了する。
【0007】
過酸化水素を不均一系触媒の存在下で使用して、オレフィンをオキシランに変換すること、より詳細には、過酸化水素との反応によりプロピレンをプロピレンオキシド(1,2-エポキシプロパン)に変換することは公知である。このようなプロセスは、一般に大量の過酸化水素を消費する巨大プラントで行われる。多くの他の(触媒による)有機酸化プロセスのように、それは、プロセス沈殿の危険のまったくない純粋な試薬、すなわち、10ppbのオーダの金属含有量を必要とする。プロピレンオキシド製造の場合、すなわち、Fe(使用される装置の構造物の材料から出てくる)またはAl(触媒から出てくる)のような、そして、たとえ50~200ppbの低い量であっても、金属が存在する場合、これらは、反応器に供給される反応性物質と反応し、不溶性物質の沈殿をもたらし、これは、そして次ぎに、フィルタ目詰まりをもたらす。
【0008】
本出願人の名での特許出願欧州特許第529723号明細書および欧州特許第965562号明細書には、精過酸化水素水溶液を製造する方法が記載されており、ここでは、粗過酸化水素水溶液は、少なくとも1種の有機溶媒による洗浄操作を施す。このような方法では、洗浄は、過酸化物から、作動溶液残留物、すなわち、キノンおよびそれらの分解生成物を除去するように意図される。溶媒は、一般的には、キノンを溶解して作動溶液を作製するために通常使用される、問題のAOプロセスのものである(溶媒は、一般的には粗洗浄から主ループに循環される)。この伝統的な粗洗浄の目的は、過酸化物中のTOC(有機物質)を低減させることであり、そしてそれは、この粗洗浄は無機不純物(Al、Feなど)に対して効果をまったく有しない。
【0009】
他方で、超純粋過酸化物が必要とされる場合、様々な技術(膜濾過、蒸留など)が利用可能であるが、それらは費用がかかり過ぎるか、または大量(1年当たり>100000t)用途に適さない。
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明の目的は、過酸化水素の調製のための改良された方法、特に、高価でなく、かつ大量に適する、容易に沈殿する金属(Al、Fe、Cr・・・)の濃度が低い過酸化水素を生成させる新規な方法を提供することである。
【0011】
したがって、本発明は、粗過酸化水素水溶液に少なくとも1種の有機溶媒による洗浄操作を施し、かつここで、有機溶媒に有機リンキレート剤が添加される、精製過酸化水素水溶液を製造する方法に関する。
【0012】
本発明は、その好ましい実施形態に関連する以下の実施例および添付の図1図3により非限定的な仕方で例証される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例7の連続試験に使用した装置(設備)の概略図である。
図2】この設備の出口での水相中のアルミニウムおよび鉄含有量の漸進的変化を示す。
図3】前記設備内の有機相中のアルミニウムおよび鉄の蓄積を示す。
図4】本発明の好ましい実施形態のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
用語「洗浄」は、過酸化水素水溶液中の不純物の含有量を低減することを目的とする、化学工業において公知である、有機溶媒による粗過酸化水素水溶液の任意の処理を意味することが意図されている。この洗浄は、例えば、遠心抽出器または例えば向流式で運転する液体/液体抽出カラムなどの装置において有機溶媒を用いて、粗過酸化水素水溶液中の不純物を抽出することにあり得る。液体/液体抽出カラムが、好ましい。液体/液体抽出カラムの中で、有孔プレートを有するカラムが好ましい。
【0015】
好ましい実施形態において、粗過酸化水素水溶液は、所望のレベルで不純物の含有量を低減するために、必要に応じて、数回、すなわち、連続的に少なくとも2回またはさらにはより多くの回数にわたって洗浄される。
【0016】
表現「粗過酸化水素水溶液」は、過酸化水素の合成工程からまたは過酸化水素の抽出工程からまたは貯蔵ユニットから直接に得られる溶液を意味することが意図される。粗過酸化水素水溶液は、本発明の方法による洗浄操作の前に、1回以上の処理を受けて、不純物を分離除去することができる。それは、典型的には30~45重量%の範囲内のH2O2濃度を有する。
【0017】
粗過酸化水素水溶液に対して向流で有機溶媒を導くことが好ましい。洗浄の効力は、有機溶媒の流量に依存する。洗浄の効力は、有機溶媒の流量が増大する場合に、向上する。洗浄に使用される有機溶媒の容量は、溶媒の流量と過酸化水素溶液の流量の商として定義される。本発明による方法で使用される容量は、一般的には粗過酸化水素水溶液1m当たり少なくとも3lである。好ましくは、容量は、粗過酸化水素水溶液1m当たり少なくとも25lである。容量は、一般的には粗過酸化水素水溶液1m当たり100l以下である。容量は、好ましくは粗過酸化水素水溶液1m当たり75l以下である。洗浄温度は、一般的に少なくとも10℃である。少なくとも40℃の温度で作用することが好ましい。一般的に、温度は、65℃以下、好ましくは60℃以下である。洗浄時間は、選択された装置のサイズおよび装置に導入される粗過酸化水素水溶液の流量に依存する。
【0018】
この方法によって除去される金属は、Al、FeおよびCrのようにリン酸塩と接触して容易に沈殿するものである。良好な結果は、Alおよび/またはFeの除去について得られる。したがって、「精製された」は、低減された金属含有量、より特定的には、好ましくは100ppb未満のAlおよび/またはFe(典型的には10ppbの範囲内、好ましくは1ppbの範囲内、さらにより好ましくは1ppb未満)の、低減されたAlおよび/またはFe含有量によって意味する。好ましい実施形態において、Cr含有量も、同じレベル(すなわち、100ppb未満、典型的には10ppbの範囲内、1ppbの範囲内、またはさらにはそれ未満)に低減され得る。
【0019】
本発明による有機リンキレート剤は、金属、特に上述の金属(Alおよび/またはFeならびに任意選択によりCr)と錯体を形成することができる有機分子である。それは好ましくは、酸基、好ましくはリン酸基を含む。それはまた、好ましくはS(硫黄)を欠いており、すなわち、その結果、過酸化水素の安定性に悪影響を及ぼさない。良好な結果を与えるキレート剤は、DEHPA(ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸)およびCyanex(登録商標)272(ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸)である。前者が好ましい。
【0020】
好ましくは、本発明の方法は、以下の工程:
a)少なくとも1種の有機溶媒および少なくとも1種のアルキルアントラキノンを含む作動溶液を触媒の存在下で水素化して、対応するアルキルアントラヒドロキノンを得る工程と、
b)触媒からアルキルアントラヒドロキノンを含む水素化作動溶液を分離する工程と、
c)工程b)からの回収水素化作動溶液を酸化して、過酸化水素を形成する工程と、
d)前記酸化工程の間および/またはその後に前記過酸化水素を作動溶液から、好ましくは水性媒体によって分離する工程と、
e)回収作動溶液を工程a)に再利用する工程と
を含み、
かつ工程d)で分離された粗過酸化水素水溶液に洗浄操作を施す。
【0021】
用語「アルキルアントラキノン」は、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖または分岐の脂肪族型の少なくとも1つのアルキル側鎖で1、2または3位において置換された9,10-アントラキノンを意味することが意図される。通常、これらのアルキル鎖は、9個未満の炭素原子、好ましくは6個未満の炭素原子を含む。このようなアルキルアントラキノンの例は、2-エチルアントラキノン、2-イソプロピルアントラキノン、2-sec-および2-tert-ブチルアントラキノン、1,3-、2,3-、1,4-および2,7-ジメチルアトラキノン、2-イソおよび2-tert-アミルアントラキノンならびにこれらのキノンの混合物である。
【0022】
用語「アルキルアントラヒドロキノン」は、上で特定された9,10-アルキルアントラキノンに対応する9,10-ヒドロキノンを意味することが意図される。
【0023】
本発明のこの実施形態において、アルキルアントラキノンは、様々なタイプの溶媒、特に、典型的には周知のAOプロセスの作動溶液中に使用される溶媒に溶解させ得る。例えば、アルキルアントラキノンは、単一溶媒、または少なくとも1種の芳香族溶媒と少なくとも1種の脂肪族もしくは脂環式アルコールとを含む混合溶媒、特に混合溶媒に溶解させ得る。芳香族溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、tert-ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ナフタレン、ポリアルキル化ベンゼンのメチルナフタレン混合物、およびそれらの混合物から選択される。脂肪族または脂環式アルコールは、例えば、アミルアルコール、ノニルアルコール、イソヘプチルアルコール、ジイソブチルカルビノール、メチルシクロヘキサノール、およびそれらの混合物から選択される。有用な単一溶媒は、とりわけ、ケトン、エステル、エーテル、またはそれらの混合物である。しばしば使用される溶媒は、S-150および/またはジイソブチルカルビノール(DiBC)、好ましくは両方の混合物である。S-150は、Solvesso(登録商標)シリーズからのタイプ150の市販の芳香族炭化水素溶媒を意味する。S-150(Solvesso(登録商標)-150;CAS番号64742-94-5)は、多くの工業用途における、特にプロセス流体としての使用のためにそれらを優れたものにする、高い溶解力および制御された蒸発特性を与える高芳香族化合物の芳香族溶媒として公知である。Solvesso(登録商標)芳香族炭化水素は、例えば、165~181℃、182~207℃または232-295℃の蒸留範囲を有する、様々な揮発性を有する3つの沸騰範囲で利用可能である。それらはまた、ナフタレンが低減されて、または超低ナフタレングレードとして入手されてもよい。Solvesso(登録商標)150(S-150)は、以下の通りに特徴付けられる:182~207Cの蒸留範囲;64℃のフラッシュ点;99重量%を超える芳香族含有量;15℃のアニリン点;15℃で0.900の密度;および5.3の蒸発速度(nButAc=100)。
【0024】
本発明の第1の下位実施形態において、洗浄操作に使用される有機溶媒は、アルキルアントラキノン法で使用される作動溶液の一部である。
【0025】
この下位実施形態は、アルキルアントラキノン法によって得られる粗過酸化水素水溶液を洗浄するための操作において有機溶媒の供給流量を調節することを可能にする。実際には、過酸化水素水溶液の洗浄のための操作に供給するのに十分な有機溶媒の流量を提供することが望ましい。所望の洗浄効力に応じて、および洗浄操作が施される粗過酸化水素水溶液の量に応じて、有機溶媒の流量を調節できることが、特に望ましい。
【0026】
アルキルアントラキノン法において、作動溶液は、有機溶媒の所望の供給流量を達成するのに必要である、有機溶媒の量を採用することを可能にするのに十分大きい量で利用できる。
【0027】
本発明のこの下位実施形態による方法は、洗浄工程に供給する大量の新鮮な有機溶媒の使用を回避するので、経済的および技術的利点を有する。新鮮な有機溶媒は、精製された溶媒よりも高価である。大きな量は、新鮮な有機溶媒の連続的供給および洗浄操作後のその分解を確保することが必要であるので、生じさせるのが困難である。
【0028】
本発明のこの下位実施形態において、有機溶媒は、洗浄後に、再生処理を施すことができる。次いで、それは、洗浄工程に再利用することができる。必要であれば、それは、アルキルアントラキノン法で使用される作動溶液中に再利用することができる。
【0029】
本発明の第2の下位実施形態において、洗浄操作に使用される有機溶媒は、専用溶媒であり、作動溶液の一部ではない。この下位実施形態は、溶媒の性質が、有機リンキレート剤と相乗効果(金属抽出)を示す(言い換えれば、有機リンキレート剤による金属抽出を向上させる)ように選択され得る利点を有する。その点で、アルキルホスフェートまたはアルキルホスホネートのような他の有機リン化合物(すなわち、有機リンキレート剤とは異なる少なくともある有機リン化合物)を含む溶媒が、溶媒として好ましく使用される。特に、有機リンキレート剤がジ-(2-エチルヘキシル)リン酸(DEHPAまたはHDEHP)である場合、良好な結果が、TOP(トリオクチルホスフェート)またはTEHP(トリエチルヘキシルホスフェート)を含む溶媒によって得られる。ジブチルリン酸(DBPA)、トリブチルホスフェート(TBP)またはCyanex(登録商標)923(トリアルキルホスフィンオキシド)を含む溶媒も使用され得る。
【0030】
この下位実施形態において、専用溶媒は、(過酸化物生成の)主ループで再利用/再循環されないが、代わりに、洗浄工程で再生および再利用されるか、またはこの方法での可溶性金属の蓄積を回避するために廃棄される。
【0031】
上述の再生処理は、例えば、不純物を除去するために、溶媒に1回以上の抽出、および有機溶媒と相溶性である化学試薬による1回以上の処理を施すことにある。溶媒再生は、好ましくは、酸性水溶液、例えば、硝酸水溶液(HNO3)を使用して行われる。この溶媒再生は、実際には抽出でもあり、酸は、有機金属錯体を、水溶性である前記金属の無機塩(硝酸の場合は硝酸塩)に変換し、したがって、すなわち、金属塩が溶解される水からなる水相に溶媒(有機相)から抽出される。したがって、この再生は、カラム、遠心デカンタなどのような古典的な工業用抽出装置を使用して行うことができる。
【0032】
キレート剤および溶媒の性質の外に、いくつかの他のパラメータ、すなわち、pH、キレート剤の量、過酸化物と溶媒の比および温度が、本発明の方法を最適化するように適合されてもよい。好ましくは、pHは、これが過酸化水素の分解、およびまた、前記過酸化水素中のキレート剤の溶解度を制限するので、酸性である。
【0033】
添付した図4は、本発明の好ましい実施形態のブロック図を示し、これによれば、粗過酸化水素水溶液(1)は、有機リンキレート剤が添加されており、かつ実際には新鮮な抽出溶媒(3)と再生溶媒(8)との混合物である有機溶媒による洗浄操作(第1の抽出工程2)が施される。この洗浄操作は、実際には抽出であり、有機相(溶媒+キレート剤)は、それが含有する金属と錯体を形成することができるよう、最初に粗過酸化水素溶液と混合されて、その後、2相は分離されて、それぞれ、精製過酸化水素水溶液(4)および金属錯体で満たされた有機相(5)を与える。次いで、後者は、上で説明したとおりにHNO3水溶液(7)を使用して第2の抽出工程(6)で少なくとも部分的に再生される。この再生工程(6)の試みによって、金属硝酸塩を含む水相(9)および精製抽出溶媒が得られ、この一部(8)は第1の抽出工程(洗浄操作2)に再利用され、一部(10)はこの方法を平衡させるために除去される。
【0034】
本発明はまた、上述のとおりの方法で精製された過酸化水素を使用する、プロピレンと過酸化水素との反応によりプロピレンオキシド(1,2-エポキシプロパン)を製造する方法に関する。
【0035】
より一般的には、本発明はまた、プロピレンオキシドを製造するための、精製H2O2溶液の使用に関し、ここで、「精製された」は、上で定義されたとおりであり、すなわち、100ppb未満、典型的には10ppbの範囲内、好ましくは1ppbの範囲内、さらにより好ましくは1ppb未満のAlおよび/またはFe(および任意選択によりまた、Cr含有量)を有する。
【0036】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、および刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例
【0037】
実施例1~実施例4
40%の過酸化物濃度および以下の金属含有量:
- Al=220ppb
- Fe=110ppb
を有する粗H2O2溶液からAlおよびFeを除去すべくキレート剤としてDEHPAを試験した。
【0038】
実施例1:pH最適化
40%濃度での過酸化水素の試料を、硝酸溶液または水酸化ナトリウム溶液のいずれかで処理して、所望のpHを得る。次いで、この過酸化水素を、溶媒およびキレート剤を含有する有機溶液とプラスチック製傾斜漏斗中で混合する。次いで、漏斗を30分間振とうし、有機相と水相との間で良好な分離が得られるまで傾斜させた。処理した過酸化水素を回収し、ICPによって金属濃度を分析した。有機相(TOP+DEHPA)に対する過酸化物相の比を5.0に等しく設定した。TOP中のDEHPAの量は、2重量%に等しく設定した。
【0039】
得られた結果を以下の表1に示す。
【0040】
【0041】
これらの試験は、
-AlおよびFe除去の最適pH範囲は、2.0~2.5であり、これは、粗過酸化物の自然のpHに近い、
-pHが増加する(特に3.5を超えて)場合、キレート剤(錯化剤)は、P含有量の漸進的変化によって見ることができるように過酸化水素に溶解する傾向を有する
ことを示す。
【0042】
実施例2:過酸化物相/有機相の比およびDEHPAの量の最適化
pHを試験前に調節しなかった以外は、実施例1におけるのと同じ条件を使用した。
【0043】
得られた結果を以下の表2に示す。
【0044】
【0045】
これらの試験は、最適の金属除去が、過酸化物相対有機相の低い比(1対1)およびTOP中5重量%のDEHPAの濃度で得られることを示す。
【0046】
実施例3:溶媒の影響:TOPと比較したSolvesso(登録商標)/DiBC
溶媒の組み合わせSolvesso(登録商標)150/DiBCが粗H2O2生成部位に対してしばしば使用されるので、このタイプの溶媒中のDEHPAの効率を調べることは興味深かった。
【0047】
実験室規模で行った試験(再び前の実施例におけるのと同じ手順を使用して)を以下の表3に示す。
【0048】
【0049】
これらの結果は、TOPとの比較で主に2つの異なる傾向
-最適pHがはるかに高く(6.0に近い)、過酸化水素についての安定性の問題をもたらし得る
-最適除去に必要なDEHPAの量は、TOP系に必要なものよりも低い(5%の代わりに1%)
を示す。
【0050】
実施例4:錯化剤の影響:DEHPAと比較したCYANEX(登録商標)272
CYANEX(登録商標)272、DEHPAと異なる構造を有し、化学式ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(CAS:83411-71-6)を有するホスホン化成分を再び同じ実験条件で使用した。実験室規模で行った比較試験を以下の表4に示す。
【0051】
【0052】
これらの試験は、DEHPAについて最適化された最良の条件(pH=2、比=1およびDEHPA=5%)を使用する場合、CYANEX(登録商標)によるAl除去は、DEHPAの82%の代わりに30%に制限される。
【0053】
しかしながら、CYANEX(登録商標)272は、Fe除去について、DEHPAで得られたものと同様の高い効率(>95%)を有する。
【0054】
実施例5、実施例6および実施例7:
40%の過酸化物濃度および以下の金属含有量:
-Al=76ppb
-Fe=92ppb
-Cr=23ppb
を有する粗H2O2溶液からAl、FeおよびCrを除去するために、複数回-抽出プロセスを試験した。
【0055】
実施例5:周囲温度での試験
40%濃度での過酸化水素の粗溶液を、溶媒とキレート剤との混合物を含有する有機溶液と、プラスチック製傾斜漏斗中で混合した。有機溶液は、
-80%w/wのSolvesso(登録商標)150
-10%w/wのTOP
-10%w/wのDEHPA
からなった。
【0056】
次いで、漏斗を周囲温度で60分間振とうし、24時間デカントさせた。処理した過酸化水素を有機相から分離し、ろ紙(597 1/2、続いて595)で濾過し、試料を分析のために採取した。
【0057】
過酸化水素の同じ試料を、有機キレート溶液の新鮮アリコートで連続的に5回処理した。この方法の各工程で、試料を採取し、ICP-MSによって金属濃度について分析した。
【0058】
過酸化物相対有機相(S150+TOP+DEHPA)の比は、各工程で同じであり、10に等しかった。
【0059】
得られた結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
これらの結果は、
-抽出プロセスは、粗過酸化水素の自然なpHでAl、FeおよびCrについて効率的である、
-抽出プロセスの効率は、順にFe>Al>Crになる
ことを示す。
【0062】
実施例6:50℃での試験
温度を周囲温度の代わりに50℃に設定したこと以外は、実施例5におけるのと同じ手順を繰り返した。
【0063】
得られた結果を以下の表6に示す。
【0064】
【0065】
これらの結果は、
-抽出プロセスの効率は、周囲温度でよりも50℃でより高い、
-粗溶液中1ppb未満の金属濃度は、Al、FeおよびCrについて3回抽出後に達成することができる、
-5回抽出後、Feは、過酸化水素溶液から完全に除去することができる
ことを示す。
【0066】
実施例7:連続抽出試験
上記の実施例5および実施例6で使用したものと同一の40%濃度での過酸化水素の粗溶液と、溶媒の混合物およびキレート剤を含有する有機溶液との2つの連続流を、加熱ガラス製反応器中で連続的に一緒に混合した。有機溶液は、
- 80%w/wのSolvesso(登録商標)150、
- 10%w/wのTOP
- 10%w/wのDEHPA
からなった。
【0067】
次いで、水相と有機相との混合物を、充填ガラスで満たした分離ガラスカラムに連続的に供給して、両方の相を分離した。次いで、そのプロセスを同一原料からなる第2の組で繰り返した。使用した装置(設備)の概略図を、添付の図1に示す。溶媒の混合物は、閉回路に従ってこの設備内で永続的に再利用した。各溶液の流量は、
-過酸化水素水溶液について50ml/時間、
-有機抽出溶液について100ml/時間
であった。
【0068】
このシステムで再利用した有機溶液の全量は、1250mlであり、設備は50℃で完全に保った。
【0069】
定期的に、水溶液の試料を設備の出口で採取し、ICPにより分析した。設備の出口での水相中アルミニウムおよび鉄含有量の漸進的変化を、添付の図2に示す。
【0070】
定期的に、有機溶液の試料を採取し、ICP-MSにより分析した。有機相中のアルミニウムおよび鉄の蓄積を、添付の図3に示す。
【0071】
これらの結果は、
-出口過酸化水素の粗溶液中のアルミニウム濃度を、運転のほとんど2500時間の間20ppb未満に保つことができる、
-出口過酸化水素中の鉄の5ppb未満の濃度を、長時間運転で保つことができる、
-1250mlの抽出溶液は、粗溶液中の20ppb未満のアルミニウムの濃度を保ちながら、125lの過酸化水素を精製することを可能にした
ことを示す。
【0072】
実施例8:消尽キレート溶液の再生
連続抽出試験(実施例7)で使用した溶媒とキレート剤との有機混合物を使用して、再生手順を試験した。
【0073】
連続試験の間、入口および出口の過酸化水素溶液をICPにより定期的に分析した。これらの分析結果の積分によって、連続試験の最後での有機溶液中のアルミニウムの量は10.2mg/kgと推定することができる。
【0074】
プラスチック製燃料デカンタ中で、100mlのその有機抽出溶液を100mlのHNO1mol/lと周囲温度で30分間混合し、両相間で良好な分離が得られるまでデカントさせた。
【0075】
次いで、硝酸溶液を回収し、そのアルミニウム含有量をICPにより分析した。得られた結果は、硝酸相中9.2mg/kgのアルミニウムであった。
【0076】
過酸化水素の密度を考慮に入れると、アルミニウム再生の収率は、約:
9.2*100/(10.2*1.15)=78%
であった。
図1
図2
図3
図4