(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ミトリボシン:癌細胞、細菌、及び病原性酵母を標的とした、ミトコンドリアベースの治療薬
(51)【国際特許分類】
C07C 217/52 20060101AFI20220712BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20220712BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220712BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220712BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220712BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220712BHJP
A61P 15/16 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C07C217/52 CSP
A61K31/137
A61P43/00 101
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/04
A61P15/16
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020500006
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 US2018022403
(87)【国際公開番号】W WO2018170109
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-02
(32)【優先日】2017-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519333480
【氏名又は名称】ルネラ・バイオテック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】リサンティ,マイケル・ピイ
(72)【発明者】
【氏名】ソッジャ,フェデリカ
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】カナダ国特許出願公開第02884607(CA,A1)
【文献】特表2013-532692(JP,A)
【文献】DATABASE EREGISTRY (STN) RN 2062025-32-3,[online],2017年01月31日,[Retrieved on 2021.10.22]
【文献】DATABASE REGISTRY (STN) RN 2059764-23-5,[online],2017年01月26日,[Retrieved on 2021.10.22]
【文献】DATABASE REGISTRY (STN) RN 2058655-99-3,[online],2017年01月25日,[Retrieved on 2021.10.22]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトリボシン
であって、前記ミトリボシンが
【化1】
のうちの少なくとも1つを含むミトリボサイクリン、又はその薬学的に許容可能な塩
であるミトリボシン。
【請求項2】
前記ミトリボシンは、抗老化活性を有する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項3】
前記ミトリボシンは、放射線増感活性を有する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項4】
前記ミトリボシンは、光増感活性を有する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項5】
前記ミトリボシンは、癌細胞を化学療法剤に対して感作する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項6】
前記ミトリボシンは、癌細胞を天然物質に対して感作する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項7】
前記ミトリボシンは、癌細胞をカロリー制限に対して感作する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項8】
前記ミトリボシンは、ミトコンドリアリボソームの大サブユニットに結合する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項9】
前記ミトリボシンは、ミトコンドリアリボソームの小サブユニットに結合する、請求項1に記載のミトリボシン。
【請求項10】
癌、微生物感染及び老化関連状態のうちの少なくとも1つの治療用医薬を製造するための薬学的有効量のミトリボシンの使用であって、
前記ミトリボシンは:
一般式:
【化2】
のうちの少なくとも1つの一般式
を有するミトリボサイクリン、又はその薬学的に許容可能な塩を含む、
ミトリボシンの使用。
【請求項11】
癌の治療、細菌感染の治療、病原性酵母感染の治療、老化の治療、男性避妊薬、精子静止剤及び精子固定化剤のうちの少なくとも1つのための医薬組成物であって、
前記組成物は、有効成分として少なくとも1つのミトリボシンを含有し、
前記ミトリボシンは、
一般式:
【化3】
のうちの少なくとも1つの一般式
を有するミトリボサイクリン、又はその薬学的に許容可能な塩を含
む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年3月15日出願の米国仮特許出願第62/471,688号の利益を主張するものであり、上記仮特許出願は参照によりその全体が本出願に援用される。
【0002】
本開示は:本明細書では「ミトリボシン(mitoriboscin)」と呼ばれる、ミトコンドリアリボソームを標的とするミトコンドリア機能の新規の阻害剤;ミトリボシンの同定方法;癌幹細胞を標的とするため、細菌及び病原性酵母を標的とするため、並びに抗老化効果を提供するための、上記阻害剤の使用方法;並びに有効成分として1つ以上のミトリボシンを含有する、癌、細菌感染、酵母感染、及び老化を治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
研究者達は、新規の抗癌治療の開発に苦労している。従来の癌療法(例えば照射、シクロホスファミド等のアルキル化剤、及び5‐フルオロウラシル等の代謝拮抗剤)は、細胞成長及びDNA複製に関与する細胞機序を妨害することによって、急速に成長する癌細胞を選択的に検出して根絶することを試みている。他の癌療法は、急速に成長する癌細胞に対して突然変異体腫瘍抗原(例えばモノクローナル抗体)を選択的に結合させる、免疫療法を用いている。残念ながら、これらの療法の後に腫瘍が同一部位又は1つ以上の異なる部位で再発することが多く、これは、全ての癌細胞が根絶されているわけではないことを示している。再発の原因は、化学療法剤の投薬量が不十分であること、及び/又は療法に対する耐性を有する癌クローンの出現であり得る。従って新規の癌治療戦略が必要とされている。同様に、研究者達は、新規の抗生物質治療の開発に苦労している。抗生物質耐性は、微生物におけるランダムな突然変異の漸進的な蓄積、及び抗生物質の誤用によって発達してきた。抗生物質の研究開発における資金不足により、状況は悪化している。従って、新規の抗生物質治療戦略が必要とされている。
【0004】
突然変異分析の進歩により、癌の発生中に発生する遺伝子突然変異の詳細な研究が可能になった。ゲノムの状況に関する知識があるにもかかわらず、現代の腫瘍学では、複数の癌のサブタイプにわたって主要な促進因子である突然変異を同定することは困難であった。厳しい現実として、各患者の腫瘍が独特であり、単一の腫瘍が複数の異なるクローン細胞を含有し得るようである。そこで、必要とされているのは、異なる複数の癌タイプ間の共通性を重視する新たなアプローチである。腫瘍細胞と正常細胞との間の代謝の差異を標的とすることが、新規の癌治療戦略として有望である。ヒト乳癌サンプルからの転写プロファイリングデータの分析により、ミトコンドリア生合成及び/又はミトコンドリア翻訳に関連する95を超えるmRNA転写の上昇が明らかになった。非特許文献1を参照。更に、95の上方制御されたmRNAのうちの36以上が、ミトコンドリアリボソームタンパク質(MRP)をエンコードする。同様に、ヒト乳癌幹細胞のプロテオーム分析により、複数のミトリボソームタンパク質、及びミトコンドリア生合成に関連する他のタンパク質の、有意な過剰発現が明らかになった。非特許文献2を参照。特定の静菌性抗生物質又はOXPHOS阻害剤のオフターゲット効果を用いた、ミトコンドリア生合成の機能的阻害は、機能性ミトコンドリアが癌幹細胞の増殖に必要であるという更なるエビデンスを提供する。
【0005】
新規の抗癌戦略、広範囲の抗生物質活性、及び老化の影響を低減する化合物に対する需要が、当該技術分野において存在している。「ミトコンドリア進化の内共生理論(endo‐symbiotic theory of mitochondorial evolution)」は、癌の再発及び感染症の両方に特徴的な薬物耐性を処理するための療法の開発のための基礎として使用でき、またこのような療法は、老化プロセスを遅延するという更なる効果を有し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sotgia et al., Cell Cycle,11(23):4390‐4401 (2012)
【文献】Lamb et al., Oncotarget,5(22):11029‐11037 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、以上の背景に鑑みて、本開示の目的は、ミトコンドリア生合成が、多くの癌の増殖及び維持において重要な役割を果たすことを実証することである。また、本開示の目的は、ミトコンドリアリボソーム(大サブユニット又は小サブユニット)に結合して抗癌及び抗生物質特性を有する、ミトコンドリア阻害剤を同定するための方法を提示することである。また、本開示の目的は、抗老化特性を有するミトコンドリア阻害剤のクラスを同定することである。また、本開示の目的は、放射線増感剤及び光増感剤として機能するミトコンドリア阻害剤のクラスを同定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、抗癌及び抗微生物活性、放射線増感及び光増感効果、並びに抗老化効果を有する、ミトコンドリア阻害剤化合物に関する。用語「ミトリボシン」は、広義には、抗癌及び抗生物質特性を有するミトリボソーム標的化治療薬を指す。これらの化合物は、ミトリボソームの大サブユニット又は小サブユニット(又は場合によってはこれら両方)に結合して、ミトコンドリア生合成を阻害する。本開示は更に、ミトリボシンの同定方法、このようなミトリボシンの作製方法、及び治療目的でのミトリボシンの使用方法に関する。
【0009】
本発明者らは、広範な癌タイプにわたって標的化し得る癌幹細胞(CSC)の表現型特性を分析し、CSCのクローン増殖及び生存のための、ミトコンドリア生合成に対するCSCの厳密な依存性を同定した。本発明者らによる過去の研究は、異なる複数のクラスのFDA認可抗生物質、特にドキシサイクリン及びエリスロマイシン等のテトラサイクリンが、ミトコンドリア生合成を阻害するオフターゲット効果を有することを実証した。その結果、上述のような化合物は、CSCの根絶に関して効力を有することができる。しかしながら、これらの一般的な抗生物質は、ミトリボソームを標的とするために設計されておらず、従って限定的な抗癌特性しか有しない。本発明のアプローチでは、本発明者らは、ミトコンドリアリボソーム、即ちミトリボソームを標的として、ミトコンドリア生合成を阻害する化合物を同定した。従って、これらのミトリボソーム標的化化合物ミトリボシンは、他の有利な特性の中でも特に、極めて強力な抗癌特性を有する。
【0010】
細胞増殖におけるミトコンドリア生合成の役割を考えると、本発明のアプローチで同定されるミトコンドリア阻害剤は、癌の療法の、完全に新規のクラスを提供する。ミトリボシンは、癌療法としての潜在的用法に加えて、有用かつ広範な抗生物質として機能する。ミトコンドリア進化の内共生理論は、ミトコンドリアのオルガネラが、数百万年にわたる共生及び適応の後に飲み込まれた好気性細菌から進化したという理論を立てている。このミトコンドリアオルガネラの進化の歴史は、癌細胞内でのミトコンドリアタンパク質翻訳を標的とする化合物もまた、抗微生物活性を有することを示唆している。実際、以下で説明するように、ミトリボシンは抗生物質特性を示した。
【0011】
更に、ミトコンドリアタンパク質翻訳の遺伝的阻害は、モデル生物において、老化プロセスの遅延及び寿命の増大といった有益な「副作用(side effect)」を示している。これらの結果は、ミトコンドリア阻害剤が、現在進行中の研究の主題である抗老化療法にも有用となり得ることを示唆している。
【0012】
新規のミトコンドリア阻害剤は、仮想高スループットインシリコスクリーニング、及びこれに続く、ミトコンドリア阻害に関するインビトロ検証の、収束的アプローチによって同定できる。新規のミトコンドリア阻害剤は、インシリコ薬物設計を表現型薬物スクリーニングと組み合わせることによって、迅速に開発できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ミトコンドリア進化の内共生理論を示す。
【
図2】
図2は、本発明のアプローチの実施形態による薬物発見戦略を概説する概略図を示す。
【
図3】
図3は、10個の候補ミトリボシン化合物の、MCF7細胞におけるATP結合に対する効果を示す。
【
図4A-4D】
図4A~4Dは、表現型薬物スクリーニングの後で同定された10個のミトリボシン化合物の化学構造を示す。これらの構造は、4つのグループ:ミトリボサイクリン(
図4Aの化合物a~c)、ミトリボマイシン(
図4Bの化合物d~g)、ミトリボスポリン(
図4Cの化合物h、i)、及びミトリボフロキシン化合物(
図4Dのj)に分けられる。
【
図5】
図5は、7個のミトリボシン化合物の、MCF7細胞におけるマンモスフィア形成に対する影響を示す。
【
図6A】
図6Aは、3個のミトリボシン化合物の、MCF7細胞の細胞生存率に対する影響を示す。
【
図6B】
図6Bは、3個のミトリボシン化合物の、hTERT‐BJ1細胞の細胞生存率に対する影響を示す。
【
図7A】
図7Aは、化合物23/G4の、MCF7細胞における経時的な酸素消費率(OCR)に対する影響を示す。
【
図7B】
図7Bは、化合物23/G4の、MCF7細胞における細胞外酸性化率(ECAR)に対する影響を示す。
【
図7C】
図7Cは、化合物23/G4の、基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、及び予備呼吸能に関する、OCRに対する影響を示す。
【
図7D】
図7Dは、化合物23/G4の、解糖、解糖予備、及び解糖予備能に関する、ECARに対する影響を示す。
【
図8A】
図8Aは、化合物24/D4の、MCF7細胞における経時的な酸素消費率(OCR)に対する影響を示す。
【
図8B】
図8Bは、化合物24/D4の、MCF7細胞における細胞外酸性化率(ECAR)に対する影響を示す。
【
図8C】
図8Cは、化合物24/D4の、基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、及び予備呼吸能に関する、OCRに対する影響を示す。
【
図8D】
図8Dは、化合物24/D4の、解糖、解糖予備、及び解糖予備能に関する、ECARに対する影響を示す。
【
図9A】
図9Aは、化合物24/F9の、MCF7細胞における経時的な酸素消費率(OCR)に対する影響を示す。
【
図9B】
図9Bは、化合物24/F9の、MCF7細胞における細胞外酸性化率(ECAR)に対する影響を示す。
【
図9B】
図9Cは、化合物24/F9の、基礎呼吸、プロトンリーク、ATP関連呼吸、最大呼吸、及び予備呼吸能に関する、OCRに対する影響を示す。
【
図9D】
図9Dは、化合物24/F9の、解糖、解糖予備、及び解糖予備能に関する、ECARに対する影響を示す。
【
図10A】
図10Aは、10個のミトリボシン化合物の、MCF7細胞における最大呼吸に対する影響を示す。
【
図10B】
図10Bは、10個のミトリボシン化合物の、MCF7細胞におけるATP産生に対する影響を示す。
【
図11】
図11は、2つの異なる濃度の3個のミトリボシン化合物の、MDA‐MB‐231細胞における細胞移動に対する影響を示す。
【
図12】
図12は、ミトコンドリア阻害剤の4つの新規のクラス:ミトリボサイクリン、ミトリボマイシン、ミトリボスポリン、及びミトリボフロキシンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の記載は、本発明のアプローチの実施形態を、本発明のアプローチを実施できる程度に十分詳細に例示する。本発明のアプローチを、これらの具体的実施形態を参照して説明するが、本発明のアプローチは異なる形態で具体化できることを理解されたく、本記載は、添付のいずれの請求項を、本明細書に記載の具体的実施形態に限定するものとして解釈してはならない。むしろこれらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、当業者に本発明のアプローチの範囲を十分に伝達するものとなるように、提供されるものである。
【0015】
ミトコンドリアリボソームは、癌から細菌及び真菌感染、そして老化にまで至る、多数の苦痛を治療するための、未開発の手段である。機能性ミトコンドリアは、癌幹細胞の増殖に必要とされる。癌細胞でのミトコンドリア生合成を阻害すると、これらの細胞の増殖が妨害される。従ってミトコンドリア阻害剤は、抗癌治療薬の新規のクラスの代表である。これらの化合物は、ミトコンドリアタンパク質翻訳も阻害でき、従って抗微生物活性を有することができる。その結果、ミトコンドリア阻害剤は、細菌及び病原性酵母の両方を標的とする広範な抗生物質として機能できる。また研究により、ミトコンドリア阻害剤は抗老化特性を有することも示されている。本開示は、抗癌特性及び抗生物質特性を有するこれらのミトコンドリアベースの治療用化合物を広義に記述するために、用語「ミトリボシン」を使用する。ミトリボシンを比較的低用量で使用して、老化プロセスを治療の標的とすることができ、また寿命を延長できる。
【0016】
ミトリボソームを標的とする新規のミトコンドリア阻害剤であるミトリボシンは、仮想高スループットスクリーニング、及びこれに続く、ミトコンドリア阻害に関するインビボ検証の、収束的アプローチによって同定できる。
図2は、本明細書に開示されるインシリコ薬物スクリーニング及び表現型薬物スクリーニングを用いることによる、ミトコンドリア阻害剤の同定方法の概観である。哺乳類ミトコンドリアリボソーム(ミトリボソーム)の3次元構造の全体又は一部分をステップS101で使用して、ミトリボソームに結合する新規の化合物を、仮想高スループットスクリーニング(vHTS)(即ちインシリコ薬物スクリーニング)によって同定できる。このスクリーニングは、複数の分子のライブラリにわたって実施してよい。例えば、初期調査中、本発明者らは、45,000の小分子化合物の集合を、50を超えるサブユニットとの複数サブユニット複合体である大ミトリボソームの公知の大サブユニット(39S)にいずれの部位が結合すると期待される化合物に関してスクリーニングした。初期vHTSは、eHiTSスクリーニングプログラム等の様々なスクリーニングプログラムを用いて、哺乳類ミトリボソームの大又は小サブユニットへの強い結合親和性を有する化合物のサブセットを同定できる。例えば本発明者らは、eHiTSを用いて、哺乳類ミトリボソームの大サブユニット(39S)への予想される結合親和性に基づいて、初期ライブラリから上位5,000の化合物を同定した。eHiTSは、重度の立体衝突を回避する立体構造及び位置探索空間の一部を体系的にカバーするスクリーニング方法であり、仮想高スループットスクリーニングに十分に好適な速度で、高精度ドッキングポーズを生成する。
【0017】
当業者であれば、所望の結合親和性を有する化合物のサブセットの同定方法を選択又は開発し得ることを理解されたい。ドッキングを効率的に実施するために、全タンパク質構造に対応する一連のクリップファイルを準備してよく、各化合物は各上記クリップファイルに順次ドッキングする。上位の化合物のコンセンサススコアリングは、eHiTSスクリーンから予想される各化合物に関する同一の一般的な結合部位に基づいて、AutoDock4.2を用いて実施してよい。予想される結合親和性の更なる分析及び目視検査は、SPROUT等のデノボ設計プログラムを例として含む、多数の方法を用いて実施してよい。SPROUTに関する情報については、Law et al., J Mol Struct. 666:651‐657(2003)を参照(この文献は参照によりその全体が本出願に援用される)。初期ライブラリのサイズ及び結果に応じて、表現型薬物スクリーニングのためにいくつかの化合物を選択してよい。例えば本発明者らは、ステップS103における表現型薬物スクリーニングのためのこれらの分析ステップで良好に機能する880の化合物を選択した。
【0018】
表現型薬物スクリーニングS103は、選択した細胞株における、選択した化合物のミトコンドリア阻害を試験することによって、達成できる。例えば、ATP枯渇アッセイを用いてよい。本発明者らは、選択した880の化合物を、MCF7ヒト乳癌細胞においてATP枯渇を機能的に誘発する能力について試験した。およそ85%の細胞ATPは、通常、ミトコンドリアのOXPHOSによって生成されるため、ATP枯渇は、ミトコンドリア阻害の代用マーカーとなる。当業者であれば、ミトコンドリア阻害の他の代用物を採用できることを理解されたい。しかしながら、本発明者らが採用したATP枯渇アッセイに関してはMCF7細胞(6,000個/ウェル)を、黒色の透明底96ウェルプレートに播種し、一晩インキュベートしてから処置した。vHTSによって同定された上記880の化合物を、播種したMCF7細胞に、50μMの濃度で適用し、ATP枯渇に関してスクリーニングした。次に、ATP枯渇効果を示す化合物を、より低い濃度(25μM及び10μM)で再スクリーニングして、ATP枯渇を最も強力に誘発した上位10の化合物を同定した。化合物は、インキュベーションの72時間後に試験され、また実験は2回繰り返して実施された。処置後、培地をウェルから吸引し、プレートを、Ca
2+及びMg
2+を補充した温かいリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。続いて細胞を、Hoechst 33342(Sigma)染色液(10μg/ml)で30分間インキュベートし、PBSで洗浄して、細胞生存率を推定した。355/460nmの励起/発光波長を用いて、プレートリーダで蛍光を読み取った。次に、CellTiter‐Glo蛍光アッセイ(Promega)を実施して、ある所与の化合物で処理された全く同一のウェルにおいて、代謝活性(ATP含有量)を測定した。アッセイは、製造元のプロトコルに従って実施された。蛍光強度(ヘキスト染色)及び発光強度(ATP含有量)を、ビヒクルのみで処理した対照に対して正規化し、比較のためにパーセント対照として表示した。このATP枯渇研究の結果を
図3に示す。
図3は、10個の試験化合物全てが、生細胞中のATPレベルを著しく低下させたことを示している。当業者であれば、同一又は同様のATP枯渇アッセイを使用することを選択でき、これらのアッセイを修正することを選択でき、又は上記ATP枯渇アッセイを、選択した化合物をミトコンドリア阻害に関してスクリーニングするための別の方法(例えば酸素消費アッセイ)に置き換えることができることを、理解されたい。
【0019】
本発明のアプローチは、細胞生存率を確認する方法を含む。当業者は、特定の実施形態に好適な、細胞生存率を確認するための1つ以上の方法を選択してよい。本発明者らは初め、細胞タンパク質含有量の測定をベースとする、スルフォローダミン(SRB)アッセイを使用した。96ウェルプレートでの72時間にわたる処理後、細胞を、低温の室内において、10%トリクロロ酢酸(TCA)で1時間固定し、室温で一晩乾燥させた。次に細胞をSRBで15分間インキュベートし、1%酢酸で2回洗浄し、少なくとも1時間風乾させた。最後に、タンパク質結合染料を10mMのTris、pH8.8溶液に溶解させ、540nmにおいてプレートリーダを用いて読み取った。SRBアッセイを使用して、本発明者らは、顕著な細胞毒性を有さずにATPレベルを枯渇させる化合物のみを、更なる分析のために選択した。顕著な細胞毒性は、プレート上に残る細胞が30%未満であることとして定義した。当然のことながら、他の細胞生存率確認方法を採用した実施形態は、当該技術分野において公知であり得る他の考慮事項に基づいて、更なる分析のために化合物を選択してよい。
【0020】
本発明のアプローチは更に、ステップS105での機能的検証の方法を含み、この方法の間に、化合物の、ミトコンドリア阻害剤としての機能を確認できる。機能的検証には、例えば代謝フラックス分析、マンモスフィアアッセイ、生存率アッセイ、並びに抗生物質(抗細菌及び/又は抗真菌)活性を含む、多数の方法を使用してよい。例えば本発明者らは、Seahorse Extracellular Flux(XF96)アナライザ(Seahorse Bioscience(米国マサチューセッツ州))を用いて、MCF7細胞に関する細胞外酸性化率(ECAR)及びリアルタイム酸素消費率(OCR)を決定した。MCF7細胞は、10%のFBS(ウシ胎児血清)、2mMのGlutaMAX、及び1%のPen‐Strepを補充したDMEM中に保持した。5,000個/ウェルの細胞をXF96ウェル細胞培養プレートに播種し、5%CO2加湿雰囲気において、37℃で一晩インキュベートした。24時間後、強力な細胞毒性を伴わないATP枯渇を示した様々な濃度の上述の選択した化合物(又はビヒクルのみ)で、細胞を処理した。処理の72時間後、細胞を予熱したXFアッセイ媒体で洗浄した(OCR測定に関しては、XFアッセイ媒体に、10mMのグルコース、1mMのピルビン酸、2mMのLグルタミンを補充し、pH7.4に調整した)。細胞を、非CO2インキュベータ内において、175μL/ウェルの37℃のXFアッセイ媒体中に1時間保持した。インキュベーション中、XFアッセイ媒体中の、25μLの80mMグルコース、9μMのオリゴマイシン、1Mの2‐デオキシグルコース(ECAR測定用)、及び25μLの10μMオリゴマイシン、9μMのFCCP、10μMのロテノン、10μMのアンチマイシンA(OCR測定用)を、XFe‐96センサカートリッジの注入ポートに装填した。実験中、この機器は、ECAR/OCRを継続的に測定しながら、これらの阻害剤を、所与の時点においてウェルに注入した。ECAR及びOCR測定を、(スルフォローダミンBアッセイを用いて)タンパク質含有量で正規化した。データセットをXFe‐96ソフトウェアで、一元配置分散分析及びスチューデントt検定の計算を用いて分析した。全ての実験は3回繰り返して実施され、結果は、本明細書に記載のミトリボシン化合物のミトコンドリア阻害効果を検証した。機能的検証に関しては多数の方法が公知であること、及び当業者は検証の必要に応じて1つ以上の方法(例えばミトコンドリア機能を測定又は近似する他のアッセイ)を選択できることを理解されたい。
【0021】
要約すると、本発明のアプローチは、インシリコ薬物スクリーニング及び表現型薬物スクリーニングを用いて、潜在的なミトコンドリア阻害剤及びミトリボシンを同定する方法を提供する。この方法を用いて同定される新規の化合物は、抗癌活性(例えばマンモスフィア形成及び細胞移動を阻害する能力)に関して試験してよく、更に抗微生物活性を調査するために、異なる複数の細菌及び/又は酵母株で試験してよい。
図2は、本発明のアプローチの実施形態による一般的な方法をまとめたものであるが、当業者であれば、本発明のアプローチから逸脱することなく、本明細書で開示されている具体例から離れることができることを理解されたい。
【0022】
本発明のアプローチは、抗癌、抗微生物、及び抗老化特性を有する、ミトコンドリア阻害化合物のカテゴリ、特にミトリボシンの同定につながった。本発明者らの初期スクリーニング及び検証に基づくと、
図4で同定されている化合物は、抗癌、抗微生物、及び抗老化特性を有している。従って、これらの独自のミトリボシンは、臨床試験の候補となる。
図4で同定されているミトリボシンは網羅的なものではなく、従って、本明細書に記載の新規の方法を用いてこれまでに同定されたものに過ぎない。
【0023】
図4A~4D、12に示すように、4つのグループのミトリボシンを同定した。
図12に示すミトリボシングループ、即ちミトリボサイクリン、ミトリボマイシン、ミトリボスポリン、ミトリボフロキシンは、抗癌、抗生物質、及び/又は抗老化治療薬として使用するために選択できる。当業者には、ある特定の療法のための各化合物の治療有効量は、多数の因子に左右されることを理解されたい。いくつかの実施形態では、1つ以上のミトリボシングループからの複数の化合物の組み合わせを、抗癌、抗生物質、及び/又は抗老化治療薬として使用してよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、上記ミトリボシン化合物は、以下の一般式又はその塩を含む:
【0025】
【0026】
ここで、各Rは同一であっても異なっていてもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステル及びエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式又は多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、安息香酸系誘導体、並びに1つ以上のミトコンドリア標的化信号からなる群から選択される。明確にするために、ミトコンドリア標的化信号は、付着した分子をミトコンドリアに対して標的化する効率を上昇させるいずれの化学物質又はペプチド実体として定義される。このような修飾は、ミトリボシンの効力及び有効性を向上させることが予想される。従ってRは、とりわけトリフェニルホスホニウム(TPP)、グアニジニウム系部分、及び/又はコリンエステルといったカチオン性化合物を含む、いずれのミトコンドリア標的化信号(ペプチド又は化学物質)であってよい。
【0027】
いくつかの実施形態では、上記ミトリボシン化合物は、以下の一般式又はその塩を含む:
【0028】
【0029】
ここで、各Rは同一であっても異なっていてもよく、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステル及びエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式又は多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、安息香酸系誘導体、並びに1つ以上のミトコンドリア標的化信号からなる群から選択される。
【0030】
いくつかの実施形態では、上記ミトリボシン化合物は、以下の一般式又はその塩を含む:
【0031】
【0032】
ここで、Rは、水素、炭素、窒素、硫黄、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、カルボキシル、アルカン、環状アルカン、アルカン系誘導体、アルケン、環状アルケン、アルケン系誘導体、アルキン、アルキン系誘導体、ケトン、ケトン系誘導体、アルデヒド、アルデヒド系誘導体、カルボン酸、カルボン酸系誘導体、エーテル、エーテル系誘導体、エステル及びエステル系誘導体、アミン、アミノ系誘導体、アミド、アミド系誘導体、単環式又は多環式アレーン、ヘテロアレーン、アレーン系誘導体、ヘテロアレーン系誘導体、フェノール、フェノール系誘導体、安息香酸、安息香酸系誘導体、並びに1つ以上のミトコンドリア標的化信号からなる群から選択される。
【0033】
いくつかの実施形態では、上記ミトリボシン化合物は、以下の一般式又はその塩を含む:
【0034】
【0035】
図4に示した式の特定のミトリボシンは、
図12で同定されているミトリボシンのグループの具体例として示されている。ミトリボシンは、治療用途のために個別に、又は2つ以上の特定のミトリボシン及び/若しくは他の治療薬の有効性を改善するための他の物質との組み合わせで、選択してよい。治療薬は、1つ以上の公知の方法を用いて調製できる通常の医薬組成物の形態で使用してよい。例えば、医薬組成物は、例えば当該技術分野において公知の1つ以上の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤等といった、希釈剤又は賦形剤を用いて調製してよい。1つ以上の治療目的に応じて、様々なタイプの投与単位形態を選択してよい。医薬組成物の形態の例としては、限定するものではないが、錠剤、丸剤、粉末、液体、懸濁液、エマルジョン、顆粒、カプセル、坐剤、注射製剤(溶液及び懸濁液)、局所クリーム、並びに当技術分野で知られている他の形態が挙げられる。医薬組成物を錠剤形態に成形する目的で、公知のいずれの賦形剤、例えば:乳糖、白糖、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、シクロデキストリン、結晶セルロース、ケイ酸等の担体;及び水、エタノール、プロパノール、単シロップ、グルコース溶液、デンプン溶液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、シェラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤を使用してよい。更に、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、ラミナリア粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸のモノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤を使用してよい。白糖、ステアリン、ココナッツバター、硬化油等の崩壊阻害剤;四級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤を使用してもよい。グリセリン、デンプン、及び当技術分野で公知の他の湿潤剤といった湿潤剤を使用してもよい。例えば、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイドケイ酸等の吸着剤を使用してもよい。精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸粉末、ポリエチレングリコール等の潤滑剤を使用してもよい。錠剤が望ましい場合、錠剤を、通常のコーティング材料でコーティングして、上記錠剤を糖衣錠、ゼラチンフィルムコーティング錠、腸溶性コーティングされた錠剤、フィルムでコーティングされた錠剤、二重層錠剤、及び多層錠剤とすることができる。局所投与のために適合された医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、泡、スプレー、エアロゾル、又はオイルとして製剤してよい。このような医薬組成物は、保存料、薬物浸透を支援する溶媒、共溶媒、皮膚軟化剤、噴射剤、粘度調整剤(ゲル化剤)、界面活性剤及び担体を含むがこれらに限定されない、従来の添加剤を含んでよい。
【0036】
本発明のアプローチは、化合物、特にミトリボシンを、抗癌特性に関して試験する方法を含む。上述のように、vHTS及び計算化学を用いて、候補のミトコンドリア阻害剤を同定してよい。これらの候補を、特定の抗癌特性に関して試験してよい。例えば本発明者らは、7個の候補化合物を、MCF7細胞においてマンモスフィア形成を阻害する能力に関して、並列比較した。
図5は、試験した上記7個の化合物のうちの5つが、濃度5μMにおいて、マンモスフィア形成をどの程度有意に阻害したかを示す。例えば、23/G4(グループ1)はこの濃度において、マンモスフィア形成を50%低減した。同様に、24/F9(グループ2)及び24/D4(グループ3)はいずれも、マンモスフィア形成を~90%低減した。
【0037】
この分析に基づいて、本発明者らは、MCF7細胞単層及び正常なヒト線維芽細胞(hTERT‐BJ1細胞)(
図6)における全体的な生存率に対する、これら3つの候補の機能的効果を評価した。23/G4(グループ1)は、濃度5μMにおいて、MCF7細胞の生存率を70%低減した。しかしながら、23/G4は、同一濃度で試験した場合、hTERT‐BJ1細胞の生存率に対して効果を有しなかった。このようにして、CSC及び「バルク(bulk)」癌細胞を優先的に標的とするものの、正常な線維芽細胞を標的としない、23/G4のような化合物を同定できる。当業者であれば、上記と同一の方法又は当該技術分野で公知の他の方法を採用して、候補であるミトリボシンの優先的な標的化を決定できる。
【0038】
本発明のアプローチは、ミトリボシン化合物の機能検証の方法を含む。例えば本発明者らは、酸素消費率(OCR)及び細胞外酸性化率(ECAR)を定量的に測定するSeahorse Analyzerを用いて、3つの候補の機能検証を評価した。OCRは、OXPHOSの代用マーカーであり、ECARは、解糖及びL‐乳酸産生の代用マーカーである。
【0039】
本発明者らが得た結果により、23/G4(グループ1)、24/F9(グループ2)、及び24/D4(グループ3)が全て、MCF7細胞におけるミトコンドリア酸素消費を用量依存的に阻害することが実証され、23/G4が最も強力であった(
図7、8、9)。23/G4は、わずか500nMの濃度において、ATPレベルを>50%低減した。更に、23/G4は、2.5μMにおいてATPレベルを~75%低減した(
図7)。驚くべきことに、同一濃度の23/G4を用いた処置は、MCF7単層の全体的な細胞生存率に対して、効果をほとんど又は全く有しなかった(
図6)。従って23/G4は、有意な細胞毒性を示すことなく、ATPレベルを極めて効果的に低下させた。
【0040】
このデータにより、23/G4は1.5倍を超える解糖率の上昇を誘発するものの、24/F9及び24/D4はいずれも解糖を抑制することが実証された。これにより、マンモスフィアアッセイにおいて24/F9及び24/D4が23/G4より強力であった(マンモスフィアアッセイでは、24/F9及び24/D4はいずれも、濃度5μMにおいて、マンモスフィア形成を~90%低減した)(
図5)理由を説明できる。i)最大呼吸、及びii)ATP産生を低減する能力に関する上位10個の、順位順の効力を、
図10に示す。これに関して、上位6個の化合物は23/G4、25/B3、24/H9、24/F9、23/E9、24/H6であり、23/G4が最も強力であり、5μMにおいて75%を超えるATPレベルの低減が得られることに留意されたい。
【0041】
EMT及び細胞浸潤は、「幹細胞としての形質(stemness)」及び遠隔転移に関連する表現型の特徴であるため、別のより攻撃的な乳癌細胞株であるMDA‐MB‐231の、細胞移動を受ける能力に対する、これらの化合物の効果を評価した。
図11は、23/G4、24/D4及び24/F9が全て、濃度2.5μMにおいて、細胞移動を70%超阻害したことを示している。
【0042】
本発明のアプローチにより、マンモスフィア形成及び細胞移動に対する化合物の効果を考察することによって、化合物を抗癌特性に関して試験できる。本明細書で開示されている方法を用いると、23/G4(グループ1)は、CSC及び癌細胞を標的とする選択性が高く、正常な細胞に影響を及ぼさないため、有望な新規の先導的な化合物と思われる(
図6)。23/G4は、ミトコンドリアATPレベルを効果的に低減して解糖を誘発する、最も強力な効力を有する化合物である。当業者であれば、当該技術分野で公知の他の方法を用いて、本発明のアプローチから逸脱することなく、ある特定の細胞株に対する候補ミトコンドリア阻害剤の効果を評価できることを理解されたい。また、阻害剤は癌幹細胞(CSC)を標的とするため、当業者であれば、他の癌タイプに対する候補ミトコンドリア阻害剤の効果を評価できることを理解されたい。CSCは、ほとんどの癌タイプにわたって保存された特徴を示す。オフターゲット効果としてミトコンドリアリボソームに結合する、ドキシサイクリン及びエリスロマイシン等の抗生物質は、8つの異なる癌タイプを表す12個の異なる細胞株において、有効性を示す。これらは:非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ:DCIS)、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、並びに黒色腫及び膠芽腫を含む。
【0043】
図1は、数百万年にわたる共生及び適応による、好気性細菌のミトコンドリアオルガネラへの進化を示す。この進化の歴史を考慮すると、癌細胞におけるミトコンドリアタンパク質翻訳を標的とする化合物は、抗微生物活性も有し得る。本発明のアプローチは、化合物を抗微生物活性に関して試験する方法、及び抗微生物活性を有する新規の化合物を提供する。ミトコンドリア阻害剤が広範な抗生物質として機能することを実証するために、本発明者らは、2つのグラム陽性細菌株(黄色ブドウ球菌及び化膿レンサ球菌)、3つのグラム陰性細菌株(大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ・ニューモニエ)、及び病原性酵母細胞株カンジダ・アルビカンスに対する、上述の上位3つの化合物(24/F9、24/D4、23/G4)の抗微生物活性を試験した。
【0044】
候補ミトコンドリア阻害剤の抗微生物効果は、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)のガイドラインに従って実施されるカービー=バウアーディスク拡散法(Kirby‐Bauer disc‐diffusion method)を用いて評価してよく、結果はCLSIのブレークポイントを用いて解釈される。グラム陽性及びグラム陰性細菌に対する抗生物質ディスク(Oxoid(商標)製)を、陽性対照として使用してよい。本発明者らは、本明細書に記載の特定のミトリボシンの抗生物質効果を、以下の方法に基づいて評価した。本明細書で同定されている化合物24/D4、24/F9、及び23/G4を、ジメチルスルホキシド(DMSO、Sigma/Aldrich Company(米国ミズーリ州セントルイス)製)中に溶解させることによって準備し、これらを、Blank Antimicrobial Susceptibility Disk(Oxoid(商標))の含浸に利用した。試験される細菌を一晩培養したものを、0.5番のマクファーランド濁度標準液の濁度(106CFU/ml)に調整した後、滅菌綿棒を用いて寒天プレートに接種した。表面全体にわたって細菌の均一な層が得られるような方法で、細胞培養物に浸漬した綿棒を寒天プレート表面に擦り付けた。10~15分後、抗生物質ディスク又は新規化合物ディスクを、寒天プレートの接種済み表面上に乗せ、その後、全ての寒天プレートを37℃で一晩インキュベートした。阻害の直径を測定し、感受性を、「耐性(resistance:R)」、「中程度の感受性(moderate susceptibility:I)」、及び「感受性(S)」で表現した。含浸済みDMSOディスクを用いて試験される細菌を接種された寒天プレートを、対照として使用した。単一の細菌株に関して得られた結果を、Sensi Test gram‐positive及びSensi Test ‐gram‐negativeキット(Liofilchem S.R.L.)で確認した。ディスク拡散感受性試験は3回繰り返して実施され、これを独立して3回繰り返した。
【0045】
抗細菌化合物の最小阻害濃度(minimal inhibitory concentration:MIC)は、CLSIのガイドラインに従って、ブロス希釈法を用いて決定してよい。試験化合物溶液(又は陽性対照として使用される抗生物質溶液)を、MHB媒体で連続希釈した。続いて、細菌をMHB媒体中で一晩培養したものから調製した、濃度106CFU/mlの微生物の懸濁液を、各希釈物に1:1の比で添加した。マクファーランド濁度標準液を基準として用いて、微生物懸濁液の濁度を調整した。37℃で24時間のインキュベーションの後、微生物の成長(又はその欠如)を、比濁法(波長600nm)によって決定した。MIC50及びMIC99は、細菌成長の50%及び99%の阻害に必要な化合物の最小阻害濃度として定義される。陰性対照の試験管は、細菌接種物を内包せず、また陽性対照の試験管は、DMSOのみを内包していた。MICの測定による感受性試験は3回繰り返して実施され、これを独立して3回繰り返した。統計的有意性は、スチューデントt検定を用いて決定され、0.05未満の値を有意と見なした。
【0046】
【0047】
表1は、公知の抗生物質と比較した、2つのグラム陽性細菌株(黄色ブドウ球菌及び化膿レンサ球菌)にわたる、ミトリボシン化合物24/F9、24D4、及び23/G4のグラム陽性抗細菌活性をまとめたものである。列のラベルSは感受性を示し、Iは中間を示し、Rは耐性を示す。表1、2は、試験した5個の細菌株全てが、ミトリボシン化合物(24/F9、24/D4及び23/G4)に対してどの程度の感受性を示すかを示す。対照(DMSO)では成長の阻害は見られなかった。
【0048】
【0049】
表2は、公知の抗生物質と比較した、3つの異なるグラム陰性細菌株(大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ・ニューモニエ)にわたる、ミトリボシン化合物24/F9、24/D4及び23/G4の抗細菌活性をまとめたものである。列のラベルSは感受性を示し、Iは中間を示し、Rは耐性を示す。
【0050】
24/F9、24/D4及び23/G4に関する最小阻害濃度(MIC)を決定するために、ブロス希釈法を実施してよい。この方法を用いると、MICの決定結果は、ディスク拡散感受性試験との一致を示した。
【0051】
【0052】
表3は、試験した細菌株及びカンジダ・アルビカンスに対して、公知の抗生物質と比較して得られたMICの決定結果を示す。化合物23/G4は、化合物24/F9及び24/D4と比較して、最も広範な活性及び効力を示す。
【0053】
【0054】
表4は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もまた23/G4及び24/D4に対する感受性を有することを示している。予想通り、このMRSAの株は実際にアモキシシリンに対する耐性を有することが確認された。この結果は、ヒト癌細胞を使用したこの新規の創薬戦略を用いて、MRSA等の薬物耐性細菌を標的とすることができる新規の抗生物質を単離できることを示す。
【0055】
このデータは、本発明のアプローチによって同定されるミトリボシンが、抗癌、抗細菌特性を有し、医薬組成物に好適であることを実証している。
【0056】
本発明者らは、癌細胞において急激なATP枯渇を誘発する化合物が、放射線、紫外光、化学療法剤、天然物質、及び/又はカロリー制限に対してこれらの細胞を感作できることを示した。本明細書で議論されるように、ミトリボシンはATP枯渇効果を示した。これらの予備的な結果に基づいて、ミトリボシンを、放射線増感剤及び/又は光増感剤として使用することもできる。放射線増感剤及び/又は光増感剤としての使用は、当該技術分野で公知の他の癌治療方法、及び本明細書で開示されているようなミトコンドリアの阻害による癌治療を含むがこれらに限定されない、他の治療方針と併用してよい。同様に、ミトリボシンを用いて、化学療法剤、医薬品、並びに/又は栄養補助食品及びカロリー制限といった他の天然物質に対して、バルク癌細胞及び癌幹細胞を機能的に感作できる。
【0057】
抗癌及び抗生物質挙動に加えて、本発明のアプローチによって同定できるミトコンドリア阻害剤は、哺乳類の老化プロセスを遅延させる可能性を有する。ミトコンドリアタンパク質翻訳の遺伝的阻害は、モデル生物において、有益な副作用、特に老化プロセスの遅延及び寿命の増大という副作用を有することが示されている。Mrps5(ミトリボソームタンパク質)の定常レベルを低くすることは、マウスの寿命が長くなることと機能的に強く相関しており、~250日という有意な増大をもたらす。更に、カエノラブディティス・エレガンスにおけるMrps5の選択的ノックダウンによって、寿命は劇的に増大する。Mrps5ノックダウン線虫は、ミトコンドリア呼吸及びATP産生の有意な減少を示す。同様に、ミトコンドリア複合体I、III、IV、V及びいくつかのTCAサイクル酵素の線虫相同体のノックダウンは全て、寿命を大幅に延長し、機序としてはOXPHOSの活性の低下及びATPレベルの低下が更に関係している。最後に、(ドキシサイクリンのオフターゲット効果を用いた)ミトコンドリア生合成の薬理学的阻害もまた、カエノラブディティス・エレガンスの寿命を大幅に増大させる。従って、比較的低用量のミトリボシンを用いて、老化プロセスを治療の対象とし、寿命を延長させることができる。
【0058】
ミトリボシンは、癌細胞の薬物耐性を反転させるためにも使用できる。薬物耐性は、癌細胞におけるミトコンドリア機能の上昇に少なくとも部分的に基づいていると考えられる。特に、タモキシフェン等の内分泌療法に対する耐性を示す癌細胞は、ミトコンドリア機能が上昇していると予測される。ミトリボシンはミトコンドリア機能を阻害するため、癌細胞の薬物耐性を低減する、場合によっては反転させるにあたって、有用となり得る。
【0059】
ミトリボシンはまた、男性避妊薬及び/又は精子静止剤若しくは精子固定化剤としても使用できる。ヒトの精子細胞は、頭部及び鞭毛からなる。鞭毛は首部、中央部、及び尾部を含む。中央部は典型的には、細胞質中の軸フィラメントを取り囲む10~14個のミトコンドリアのらせんを有する。これらのミトコンドリアは、精子に運動性を提供するため、「精子の原動力(powerhouse of the sperm)」と呼ばれることも多い。ミトリボシンはミトコンドリア機能を阻害するため、受精を防止するために精子細胞を固定化するにあたって有用となり得る。
【0060】
本明細書中での本発明の説明に使用した用語法は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、本発明を限定することを意図したものではない。本発明の説明及び添付の請求項において使用される場合、「ある(a、an)」及び「上記、前記(the)」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形も同様に含むことを意図したものである。本発明は、前述の「発明を実施するための形態」の考察から明らかになるような多数の代替形態、修正形態及び均等物を含む。
【0061】
用語「第1の(first)」、「第2の(second)」、「第3の(third)」、「a)」、「b)」、及び「c)」等は、本明細書において、本発明の様々な要素がこれらの用語によって限定されるものではないことを記述するために使用され得ることを理解されたい。これらの用語は、本発明のある要素を別の要素と区別するためだけに使用されている。よって、前述の「第1の要素(first element)」は、本発明の教示から逸脱することなく、ある要素の態様と呼ぶこともでき、また同様に第3の要素と呼ぶこともできる。よって、用語「第1の」、「第2の」、「第3の」、「a)」、「b)」、及び「c)」等は、関連する要素にある順序又はその他の序列を与えることを必ずしも意図せず、単に識別を目的として使用される。動作(又はステップ)の順序は、請求項に提示されている順序に限定されない。
【0062】
そうでないと定義されていない限り、本明細書中で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。更に、一般に使用される辞書で定義されているような用語は、本出願及び関連分野の文脈における上記用語の意味と矛盾しない意味を有するものとして解釈されるものとし、本明細書中でそのように明らかに定義されていない限り、理想的な意味又は過度に形式的な意味で解釈してはならない。本明細書中での本発明の説明に使用した用語法は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、本発明を限定することを意図したものではない。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体が本出願に援用される。用語法の衝突が発生する場合、本明細書が支配的なものである。
【0063】
また、本明細書中で使用される場合、「及び/又は(and/or)」は、関連して列挙された項目のうちの1つ以上の、いずれのあらゆる可能な組み合わせ、及び二者択一(「又は(or)」)と解釈される場合には組み合わせの欠如を指し、またこれらを包含する。
【0064】
文脈がそうでないことを示していない限り、本明細書に記載の発明の様々な特徴をいずれの組み合わせで使用できることが、具体的に意図されている。更に、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載のいずれの特徴又は特徴の組み合わせを排除又は省略できることも考慮している。例示として、明細書に「ある複合体が成分A、B及びCを含む」と記載されている場合、A、B若しくはCのうちのいずれ、又はその組み合わせのうちのいずれを、省略して放棄できることが、具体的に意図されている。
【0065】
本明細書中で使用される場合、移行句「本質的に…からなる(consisting essentially of)」(及びその文法的変化型)は、記載されている材料又はステップと、請求対象の発明の「基本的な新規の1つ以上の特徴に実質的に影響しないもの(those that do not materially affect the basic and novel characteristic(s))」とを包含するものとして解釈されたい。従って、本明細書中で使用される場合、用語「本質的に…からなる」は、「…を含む、備える(comprising)」と同等として解釈してはならない。
【0066】
例えば量又は濃度等といった測定可能な数値に言及する際に本明細書中で使用される用語「約(about)」は、明記された量の、±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、又はわずか±0.1%の変動を包含することを意図したものである。測定可能な値に関して本明細書中で提供される範囲は、その範囲内の他のいずれの範囲及び/又は個々の値を含んでよい。
【0067】
このように、本発明の特定の実施形態を説明したが、以下で請求されるような本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本発明の多数の明らかな変形形態が可能であるため、添付の請求項によって定義される本発明は、以上の説明に記載された特定の詳細によって限定されることはないことを理解されたい。