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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】導体被覆用ポリアミック酸組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20220712BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08G73/10
H01B3/30 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020544726
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2018013641
(87)【国際公開番号】W WO2019093821
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】10-2017-0149918
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0135965
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウォン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・フン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キル・ナム・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン・ユル・バク
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084339(JP,A)
【文献】特開2005-089618(JP,A)
【文献】特開2010-215840(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069797(WO,A1)
【文献】特開2014-210894(JP,A)
【文献】特開平09-059379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
H01B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸組成物を導体の表面に塗布しイミド化して形成されたポリイミド被覆物であって、
導体被覆用の前記ポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸および有機溶媒を含み、前記ポリアミック酸は、二無水物単量体とジアミン単量体の反応により形成され、
前記ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を7.5重量%未満含み、
前記ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.960~0.990であり、
前記ポリアミック酸の分子量分散度が、1.65~1.75であり、
前記ポリアミック酸組成物粘度は、30~80poiseであり、
熱膨張係数(CTE)が、20~40ppm/℃である、ポリイミド被覆物。
【請求項2】
前記ポリアミック酸組成物が、前記ジアミン単量体全体に対して分子構造内にベンゼン環を2個以上含む軟性ジアミン単量体を80モル%以上含む、請求項1に記載のポリイミド被覆物
【請求項3】
前記軟性ジアミン単量体が、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline;ODA)および4,4’-メチレンジアニリン(4,4’-methylenedianiline;MDA)よりなるグループから選ばれる1種以上である、請求項2に記載のポリイミド被覆物
【請求項4】
前記二無水物単量体が、ピロメリト酸二無水物(pyromellitic dianhydride;PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(biphenyltetracarboxylic dianhydride;BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(benzophenonetetracarboxylic dianhydride;BTDA)およびオキシジフタル酸二無水物(oxydiphthalic anhydride;ODPA)よりなる群から選ばれる1種以上の単量体を含む、請求項1に記載のポリイミド被覆物
【請求項5】
前記ポリアミック酸組成物全体を基準として、前記ポリアミック酸組成物中のポリアミック酸の含量が10~40重量%である、請求項1に記載のポリイミド被覆物
【請求項6】
請求項1に記載のポリイミド被覆物を製造する方法であって、
有機溶媒を投入し、
前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを投入して溶解させ、
前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを2回以上分割投入し、
前記有機溶媒、二無水物単量体およびジアミン類単量体を含む組成物を撹拌して重合させポリアミック酸組成物の製造し、
前記ポリアミック酸組成物を導体の表面に塗布しイミド化することによる、方法。
【請求項7】
前記二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを少なくとも2回以上~10回以下で分割投入する、請求項6に記載のポリイミド被覆物の製造方法。
【請求項8】
前記導体が電線である、請求項1に記載のポリイミド被覆物を含む電線。
【請求項9】
請求項に記載の電線を含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体被覆用ポリアミック酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導体を被覆する絶縁層(絶縁被覆)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度などが要求されている。
【0003】
また、適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモーターなどでは、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加されて、その絶縁被覆の表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすい。
【0004】
コロナ放電の発生により局部的な温度上昇やオゾンまたはイオンの発生が引き起こされることがあり、その結果、絶縁電線の絶縁被覆に劣化が生じることによって、早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなることがある。
【0005】
高電圧で使用される絶縁電線には、前記の理由によってコロナ放電開始電圧の向上が要求されており、このためには、絶縁層の誘電率を低減することが有効であることが知られている。
【0006】
前記で絶縁層を形成する樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などがある。
【0007】
一般的に、ポリイミド樹脂というのは、芳香族ジアンヒドリドと芳香族ジアミンまたは芳香族ジイソシアネートを溶液重合してポリアミック酸誘導体を製造した後、高温で閉環脱水させてイミド化して製造される高耐熱樹脂を称する。
【0008】
ポリイミド樹脂は、耐熱性に優れ、また、誘電率も、比較的低い材料であって、導体の被覆用物質に使用するのに優れた性質を有している。
【0009】
しかしながら、一方で、ポリイミド樹脂は、堅い構造をしているので、引張破断伸度および柔軟性が低いため、導体用被覆に使用されるのに不利な性質を有していることも事実である。
【0010】
例えば、モーターに使用されるコイルでは、点滴率を高めるために、絶縁電線を巻いてコイルを形成した後、コイルをスロット中に挿入するなど、絶縁電線を大きく変形させる加工をする場合がある。この際、絶縁層の柔軟性が低ければ、加工時に絶縁被覆が損傷しやすくて、電気特性が不良になったり、絶縁被覆の亀裂が発生する恐れがある。
【0011】
一方、このような柔軟性を向上させるために、柔軟な構造を有するジアミン類および二無水物を反応させてポリイミド樹脂を製造する場合、柔軟な構造を有するジアミン類または二無水物を含まないポリイミド樹脂に比べて耐熱性が低下する問題がある。
【0012】
したがって、このような問題点を根本的に解決できる技術に対する必要性が高いのが現況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前述のような従来技術の問題点と過去から要請されてきた技術的課題を解決することを目的とする。
【0014】
本発明による導体被覆用ポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%未満で含み、前記ポリアミック酸に含まれるジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比を0.960~0.990または1.040~1.075に調節することによって、前記ポリアミック酸をイミド化して製造される絶縁被覆物の耐熱性を低下させることなく、被覆物の柔軟性を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するための本発明によるポリアミック酸組成物は、
ポリアミック酸および有機溶媒を含む導体被覆用絶縁性組成物であって、
前記ポリアミック酸は、二無水物単量体とジアミン単量体の反応により形成され、
前記ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%未満含み、
前記ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.960~0.990または1.040~1.075である。
【0016】
この際、前記ジアミン単量体全体に対して分子構造内にベンゼン環を2個以上含む軟性(フレキシブルな)ジアミン単量体を80モル%以上含むことができる。
【0017】
具体的に、前記軟性ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline;ODA)および4,4’-メチレンジアニリン(4,4’-methylenedianiline;MDA)よりなるグループから選ばれる1種以上でありうる。
【0018】
また、前記二無水物単量体は、ピロメリト酸二無水物(pyromellitic dianhydride;PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(biphenyltetracarboxylic dianhydride;BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(benzophenonetetracarboxylic dianhydride;BTDA)およびオキシジフタル酸二無水物(oxydiphthalic anhydride;ODPA)よりなる群から選ばれる1種以上の単量体を含むことができる。
【0019】
一方、前記ポリアミック酸の分子量分散度(Polydispersity Index)が1.57~1.82でありうる。
【0020】
前記ポリアミック酸組成物の粘度は、30~150poiseでありうる。
【0021】
また、前記ポリアミック酸の含量が10~40重量%でありうる。
【0022】
また、本発明は、前記ポリアミック酸組成物を製造する方法であって、
有機溶媒を投入し、
前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを投入して溶解させ、
前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを2回以上分割投入し、
前記有機溶媒、二無水物単量体およびジアミン類単量体を含む組成物を撹拌して重合させるポリアミック酸組成物の製造方法を提供する。
【0023】
具体的に、前記二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを少なくとも2回以上~10回以下で分割投入することができる。
【0024】
また、本発明は、前記ポリアミック酸組成物を導体の表面に塗布しイミド化して形成されたポリイミド被覆物を提供する。
【0025】
また、前記被覆物の熱膨張係数(CTE)が20~40ppm/℃でありうる。
【0026】
また、前記被覆物のtanδが280~420℃でありうる。
【0027】
また、本発明は、前記ポリアミック酸組成物を電線の表面に塗布しイミド化して製造されたポリイミド被覆物を含む電線を提供する。
【0028】
また、前記電線を含む電子装置を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
本発明によるポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸および有機溶媒を含む導体被覆用絶縁性組成物であって、前記ポリアミック酸は、二無水物単量体とジアミン単量体の反応により形成され、前記ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%未満含み、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.960~0.990または1.040~1.075である。
【0031】
前記ポリアミック酸組成物は、有機溶媒のうち二無水物単量体とジアミン単量体を重合して製造することができる。
【0032】
前記有機溶媒は、アミド系溶媒であってもよく、詳細には、非プロトン性極性溶媒 (aprotic polar solvent)でありうる。前記有機溶媒は、例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)およびジグリム(Diglyme)などよりなる群から選ばれる一つ以上でありうるが、これに制限されるものではなく、必要に応じて単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
また、前記二無水物単量体とジアミン単量体は、粉末(powder)、塊り(lump)および溶液の形態で投入されることができ、反応初期には粉末形態で投入して反応を進め、重合粘度の調節のために溶液形態で投入することが好ましい。
【0034】
例えば、二無水物単量体とジアミン単量体を粉末の形態で投入して反応を進めて、二無水物を溶液の形態で投入して、ポリアミック酸組成物の粘度が一定の範囲になるまで反応させることができる。
【0035】
一方、本発明では、ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%未満で含むために、二無水物単量体およびジアミン単量体のうち少なくとも一つを2回以上分けて分割投入する方法を使用することができる。
【0036】
具体的に、ポリアミック酸全体に対して6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%以上含む場合、ポリアミック酸組成物を導体の表面に塗布しイミド化して形成されたポリイミド被覆に突起またはピンホール(pin hole)など外観欠陥が発生し得るので、好ましくない。
【0037】
より詳細には、前記ポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸全体に対して6,000g/mole以下である低分子量高分子を8.1重量%以下、特に詳細には7.5重量%以下で含むことができる。
【0038】
一方、本発明は、ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子の含量を調節するために、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比を0.960~0.990または1.040~1.075の間に調節することができる。
【0039】
この際、前記ポリアミック酸の当量比が前記範囲を外れる場合、前記低分子量高分子の含量が増加したり、前記ポリアミック酸の分子量分散度が増加する可能性があるので、好ましくない。
【0040】
一つの具体的な例において、前記ポリアミック酸の分子量が10,000~40,000g/moleの範囲でありうる。
【0041】
また、前記ポリアミック酸の分子量分散度(Polydispersity Index)が1.57~1.82であり得、詳細には1.65~1.75でありうる。
【0042】
前記分子量分散度がこのような範囲を満たす場合、被覆物の物性のばらつきが減少し、導体に対するコーティング工程が安定的に進められる長所がある反面、前記ポリアミック酸の分子量分散度が前記範囲を上回るか、下回ると、引張率および耐熱性が低くなり、被覆の物性のばらつきが増加して、信頼性が低下し得る。
【0043】
本発明によるジアミン単量体は、例えば、4,4-オキシジアニリン、3,4-オキシジアニリン、4,4-メチレンジアニリン、パラフェニレンジアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジアミノフェニルスルフィド、3,4-ジアミノフェニルスルフィドよりなる群から選ばれる1種以上を含むことができる。
【0044】
この際、前記ポリアミック酸組成物は、ジアミン単量体全体に対して分子構造内にベンゼン環を2個以上含む軟性ジアミン単量体(フレキシブルなジアミン単量体)を80モル%以上含むことができる。
【0045】
詳細には、前記ポリアミック酸組成物は、ジアミン単量体全体に対して分子構造内にベンゼン環を2個以上含む軟性ジアミン単量体を85モル%以上含むことができる。
【0046】
より詳細には、前記ポリアミック酸組成物は、ジアミン単量体全体に対して分子構造内にベンゼン環を2個以上含む軟性ジアミン単量体を90モル%以上含むことができる。
【0047】
すなわち、本発明では、分子構造内に柔軟な構造を有する軟性ジアミン単量体を含むことによって、前記ポリアミック酸組成物を利用して製造したポリイミド絶縁被覆の柔軟性を向上させることができ、加工時に絶縁被覆の損傷、電気特性の不良または絶縁被覆の亀裂が発生する問題を解決することができる。
【0048】
一つの具体的な例において、前記軟性ジアミン単量体は、分子構造内にベンゼン環を2個以上含む構造であり得、例えば、前記軟性ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline;ODA)および4,4’-メチレンジアニリン(4,4’-methylenedianiline;MDA)よりなるグループから選ばれる1種以上であり得るが、これにのみ限定されるものではない。
【0049】
一方、前記二無水物単量体は、ピロメリト酸二無水物(pyromellitic dianhydride;PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(biphenyltetracarboxylic dianhydride;BPDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物 (benzophenonetetracarboxylic dianhydride;BTDA)およびオキシジフタル酸二無水物(oxydiphthalic anhydride;ODPA)よりなる群から選ばれる1種以上の単量体を含むことができる。
【0050】
また、前記ポリアミック酸組成物の粘度は、30~150poiseであり得、前記ポリアミック酸組成物全体を基準としてポリアミック酸の含量が10~40重量%でありうる。
【0051】
一方、本発明は、前記ポリアミック酸組成物を製造する方法であって、有機溶媒を投入し、前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを投入して溶解させ、前記有機溶媒に二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを2回以上分割投入し、前記有機溶媒、二無水物単量体およびジアミン類単量体を含む組成物を撹拌して重合させるポリアミック酸組成物の製造方法を提供する。
【0052】
先立って説明したように、二無水物単量体およびジアミン単量体を分割投入する過程を通じて、前記ポリアミック酸の分子量分散度を低く維持することができる。
【0053】
詳細には、前記二無水物単量体およびジアミン類単量体のうち少なくとも一つを少なくとも2回以上~10回以下で分割投入することができる。
【0054】
また、本発明は、前記ポリアミック酸組成物を導体の表面に塗布しイミド化して形成されたポリイミド被覆物を提供する。
【0055】
この際、前記被覆物の熱膨張係数(CTE)が20~40ppm/℃であり得、前記組成物を被覆した被覆物をDSE社TD9000 Tangent Delta Testerを使用して測定した被覆物のtanδが280℃以上であり得、詳細には280~420℃でありうる。
【0056】
一方、前記被覆物の伸度およびガラス転移温度を間接的に測定するために、被覆物と同じ組成を有する厚さ25μmのポリイミドフィルムを製造したとき、前記フィルムの伸度(Elongation)が20~100%であり得、前記フィルムのガラス転移温度が300℃以上であり得、このような機械的物性および耐熱性は、前記のような電線に被覆された被覆物においても類似に現れることができる。
【0057】
以下、本発明の実施例を参照して本発明をより詳述するが、本発明の範疇がそれによって限定されるものではない。
【0058】
ポリアミック酸組成物の製造
<実施例1>
1L反応器に窒素雰囲気下で溶媒としてジメチルホルムアミドを850g投入した。
【0059】
温度を25℃に設定した後、ジアミン単量体として4,4’-ODA 72.82g(0.36モル)を投入して溶解させ、二無水物単量体としてPMDA 77.18g(0.35モル)を同じ量で30分間隔で3回分割投入してポリアミック酸を重合した。この際、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比は、0.973であった。
【0060】
GPC(Agilent Technology社1260 infinity 2)により測定された重量平均分子量が16,000g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.73、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を6.7重量%含むポリアミック酸組成物を製造した。
【0061】
<実施例2>
ジアミン単量体として4,4’-ODA 52.56g(0.26モル)および4,4’-MDA 17.35g(0.09モル)を投入して、下記表1のように、ジアミン単量体全体に対して4,4’-ODAを75モル%、4,4’-MDAを25モル%含み、GPCにより測定された重量平均分子量が16,500g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.69、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を7.1重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0062】
<実施例3>
ジアミン単量体として4,4’-ODA 35.04g(0.175モル)および4,4’-MDA 34.7g(0.175モル)を投入して、下記表1のように、ジアミン単量体全体に対して4,4’-ODAを50モル%、4,4’-MDAを50モル%含み、GPCにより測定された重量平均分子量が17,000g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.71、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を6.3重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0063】
<実施例4>
ジアミン単量体として4,4’-MDA 69.4g(0.35モル)gを投入して、下記表1のように、4,4’-MDAを100モル%含み、GPCにより測定された重量平均分子量が17,300g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.62、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を6.2重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0064】
<実施例5>
下記表1のように、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.964になるように調節して、GPCにより測定された重量平均分子量が15,300g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.61、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を7.8重量%含むようにことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0065】
<実施例6>
下記表1のように、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.989になるように調節して、GPCにより測定された重量平均分子量が31,000g/mole
、分子量分散度(Mw/Mn)が1.82、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を7.9重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0066】
<実施例7>
ジアミン単量体として4,4’-ODA 54.56g(0.27モル)および4,4’-MDA 18.01g(0.09モル)を投入して、下記表1のように、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.977になるように調節し、ジアミン単量体全体に対して4,4’-ODAを75モル%、4,4’-MDAを25モル%含み、GPCにより測定された重量平均分子量が27,000g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.63、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を8.1重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0067】
<比較例1>
ジアミン単量体として4,4’-ODA 73.56g(0.37モル)を投入して、下記表1のように、4,4’-ODAを100モル%含み、二無水物単量体としてPMDA 76.83g(0.35モル)を投入してジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.954になるように調節し、GPCにより測定された重量平均分子量が9,600g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.56、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を5.6重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0068】
<比較例2>
ジアミン単量体として4,4’-ODA 72.06g(0.36モル)を投入して、下記表1のように、4,4’-ODAを100モル%含み、二無水物単量体としてPMDA 77.94g(0.355モル)を投入してジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.993になるように調節し、GPCにより測定された重量平均分子量が61,000g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が1.83、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を8.2重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0069】
<比較例3>
二無水物単量体を分割投入せずに1回投入し、下記表1のように、GPCにより測定された重量平均分子量が18,000g/mole、分子量分散度(Mw/Mn)が2.54、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を12.7重量%含むようにしたことを除いて、実施例1と同様にポリアミック酸組成物を製造した。
【0070】
【表1】
【0071】
実験例1:粘度評価
<実施例1>~<実施例7>で製造されたポリアミック酸組成物および<比較例1>~<比較例3>で製造されたポリアミック酸組成物に対して、それぞれ固形分の含量が15%になるようにして、ブルックフィールド粘度計を使用して粘度を測定し、30日常温保管後に粘度維持率を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
表2から明らかなように、当量比を本発明の範囲内に調節した実施例1~実施例7のポリアミック酸の場合、当量比が本発明の範囲の未満または超過のように本発明を外れた比較例1、2のポリアミック酸組成物および二無水物単量体またはジアミン単量体を分割投入しない比較例3のポリアミック酸組成物に比べて電線の被覆でコーティングするに適合した粘度の範囲である30~150poiseを有し、貯蔵安定性が80%以上と優れていることを確認することができる。
【0074】
ポリイミド被覆の製造
<実施例8>
前記実施例1で製造したポリアミック酸組成物を直径1mm銅線に8回コーティング、乾燥および硬化する過程を繰り返して、被覆の厚みが25μmのポリイミド被覆物を含む電線を製造した。
【0075】
<実施例9~実施例14、比較例4~6>
実施例8において実施例1のポリアミック酸組成物の代わりにそれぞれ実施例2~7、比較例1~3で製造したポリアミック酸組成物を使用したことを除いて、実施例8と同じ方法でポリイミド被覆物を含む電線を製造した。
【0076】
実験例2:欠陥の評価
<実施例8>~<実施例14>、<比較例4>~<比較例6>でそれぞれ製造した電線の被覆物に対して、欠点検出器が設置されたワインダーで電線の長さ10mを走行させて100μm以上のピンホール個数を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0077】
また、<実施例8>~<実施例14>、<比較例4>~<比較例6>でそれぞれ製造した電線被覆に対して、20%引張時のポリイミド被覆と銅線とのクラック発生の有無を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0078】
実験例3:耐熱性の評価-tanδ値
<実施例8>~<実施例14>、<比較例4>~<比較例6>でそれぞれ製造した電線の被覆に対して、TA Instruments社のDynamic Mechanical Analysis(DMA Q800)を使用して損失弾性率および貯蔵弾性率を測定し、これを通じてtanδ値を計算し、その結果を下記表3に示した。
【0079】
【表3】
【0080】
まず、実施例8~実施例14の電線の場合、比較例4~比較例6の電線に比べて被覆の表面に発生するピンホールの個数および欠陥の発生個数が顕著に少ないことを確認することができ、電線に対して20%引張時にクラックが発生していないことを確認することができる。
【0081】
一方、実施例8~実施例14の電線の場合、比較例4および比較例6の電線に比べてtanδ値が高いので、耐熱性に優れていることを確認することができる。
【0082】
また、ジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比が0.993になるように調節されたポリアミック酸組成物を使用した比較例5の場合、tanδ値が高いことを確認できるが、実施例8~14に比べて欠陥がさらに多く発生したことを確認することができる。
【0083】
また、二無水物単量体を分割投入せずに、分子量6,000g/mole以下の低分子量高分子を12.7%含み、分子量分散度が2.54になるように調節されたポリアミック酸組成物を使用した比較例6の場合、ピンホールが多数発生し、20%引張時にクラックが発生したことを確認することができる。
【0084】
ポリイミドフィルムの製造
<実施例15>
前記実施例1で製造したポリアミック酸組成物を1,500rpm以上の高速回転を通じて気泡を除去した。その後、スピンコーターを利用してガラス基板に脱泡されたポリアミック酸組成物を塗布した。その後、窒素雰囲気下および120℃の温度で30分間乾燥し、450℃まで2℃/分の速度で昇温して、450℃で60分間熱処理し、30℃まで2℃/分の速度で冷却して、ポリイミドフィルムを得た。その後、蒸留水にディッピング(dipping)して、ガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させた。製造されたポリイミド フィルムの厚みは、25μmであった。
【0085】
<実施例16~実施例21、比較例7~9>
実施例15において実施例1のポリアミック酸組成物の代わりにそれぞれ実施例2~7、比較例1~3で製造したポリアミック酸組成物を使用したことを除いて実施例15と同じ方法でポリイミドフィルムを製造した。
【0086】
実験例4:機械的物性の評価
<実施例15>~<実施例21>、<比較例7>~<比較例9>でそれぞれ製造したポリイミドフィルムに対して、ASTM D882規定に基づいて伸度を測定し、その結果を下記表4に示した。
【0087】
実験例5:耐熱性の評価-ガラス転移温度
<実施例15>~<実施例21>、<比較例7>~<比較例9>でそれぞれ製造したポリイミド フィルムに対して、ガラス転移温度(Tg)を測定するために、TA Instruments社のDynamic Mechanical Analysis(DMA Q800)で分析し、その結果を下記表4に示した。
【0088】
【表4】
【0089】
まず、表4から明らかなように、実施例15~実施例21のポリイミドフィルムの場合、比較例7~9のポリイミドフィルムに比べて伸度が高いことを確認することができる。
【0090】
また、実施例15~実施例21のポリイミドフィルムの場合、比較例7および比較例9のポリイミドフィルムに比べてガラス転移温度が高いので、耐熱性に優れていることを確認することができる。
【0091】
このような結果を通じて、本発明による被覆物の伸度およびガラス転移温度に優れており、ひいては、機械的物性および耐熱性に優れていることを確認することができる。
【0092】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明が属する分野における通常の知識を有する者なら、上記の内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能だろう。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上説明したように、本発明によるポリアミック酸組成物は、ポリアミック酸全体に対して分子量6,000g/mole以下である低分子量高分子を10重量%未満で含み、ポリアミック酸に含まれるジアミン単量体に対する二無水物単量体の当量比を0.960~0.990または1.040~1.075になるように調節することによって、前記ポリアミック酸をイミド化して製造される絶縁被覆物の耐熱性を低下させることなく、被覆物の柔軟性を向上させることができる。
【0094】
また、本発明は、優れた耐熱性を有すると共に、絶縁被覆物に欠陥がない、信頼性の高い絶縁電線を提供することができる。